(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】車両の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20250306BHJP
B60K 11/04 20060101ALI20250306BHJP
B60R 19/18 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
B62D25/08 D
B60K11/04 Z
B60R19/18 J
(21)【出願番号】P 2021087814
(22)【出願日】2021-05-25
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100128428
【氏名又は名称】田巻 文孝
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敏男
(72)【発明者】
【氏名】石井 和土
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄作
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-112159(JP,U)
【文献】特開平10-166969(JP,A)
【文献】特開2012-236504(JP,A)
【文献】特表2017-522224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B60K 11/04
B60R 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる左右一対のクラッシュカンと、これらの左右一対のクラッシュカンの車幅方向内側に設けられたラジエータと、上記左右一対のクラッシュカンの車幅方向内側において上記ラジエータの周囲を囲うダクト部材とを備えた車両の前部車体構造であって、
上記ダクト部材は、上記ラジエータの周囲を全面的に囲い、かつ、縦壁部および横壁部を含む部材であり、
上記ダクト部材の縦壁部および横壁部は、それらを互いに係合して接続する少なくとも1つの係合部を有し、
上記ダクト部材の横壁部には、少なくとも1つの後方に開口した切欠き部が形成され、
上記少なくとも1つの係合部は、上記横壁部の切欠き部に上記縦壁部の一部が係合して構成されており、
上記ダクト部材の縦壁部および横壁部は、前方衝突の
衝突初期、
車体のバンパ部材から上記ダクト部材の縦壁部に所定の衝突荷重が入力されるように配置され、車体のバンパ部材から上記ダクト部材
の縦壁部に対して
上記所定の衝突荷重が入力されたとき、上記少なくとも1つの係合部において
上記横壁部に対する上記縦壁部の係合が外れるよう接続されている、ことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記ダクト部材の縦壁部は、枠部と、この枠部よりも低強度の内側面部とを有し、上記少なくとも1つの係合部において上記縦壁部の枠部の一部が上記横壁部に対して係合が外れるように接続されている、請求項
1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記ダクト部材の縦壁部には、車幅方向外側に向かうような稜線が形成されるような窪み部が形成されている、請求項1
または請求項2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記車体のバンパ部材は、車両の前面で車幅方向に延びるバンパーレインフォースメントを含み、
上記ダクト部材の縦壁部の窪み部は、上記縦壁部の車両上下方向において、上記バンパーレインフォースメントとほぼ同じ高さ位置に形成されている、請求項
3に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記ダクト部材の横壁部の切欠き部は、上記横壁部の車幅方向両端部かつ車両前後方向前端部に形成されている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部車体構造に係わり、特に、左右一対のクラッシュカンと、これらのクラッシュカンの車幅方向内側に設けられたラジエータと、クラッシュカンの車幅方向内側においてラジエータの周囲を囲うダクト部材とを備えた車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のエンジンルーム内に設けられた熱交換器(ラジエータ等)に空気を導入して冷却能力を向上させるために、熱交換器の周囲を覆うと共に前方まで延びることにより、熱交換機の周囲を全面的に囲うダクト部材を設けた構造が知られている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1のように熱交換器の周囲を全面的に囲うダクト部材を設けると、フロントバンパ内に導入された空気を熱交換器に向けて直線的に流すことができ、これにより、熱交換機での冷却能力を向上できる。さらに、フロントバンパ内で空気が直線的に流れるため、車両の空気抵抗も向上させることができる。これらのような理由より、フロントバンパ内にダクト部材を設けて空気を整流することは有用である。
【0005】
このように、熱交換器に向かって直線的に空気を流すには、特許文献1のように熱交換器の周囲を全面的に囲うダクト構造にする方が良い。しなしながら、熱交換機の周囲を全面的に囲い且つ一体的な剛性の高い構造体としてのダクト部材を設けると、前方衝突時、そのダクト部材がクラッシュカンの変形を阻害する懸念がある。
【0006】
このような懸念があるため、フロントバンパ内の整流構造としては、そのような熱交換機の周囲を全面的に囲い且つ高剛性のダクト部材を採用せず、熱交換機の周囲の一部にのみ整流する為の面部材を設けて、衝突性能を確保することが一般的であった。
【0007】
一方、本発明者らは、熱交換器の冷却性能を向上させるために熱交換機の周囲を全面的に囲うダクト構造を採用した上で、衝突性能を満足できる車体構造を鋭意検討した。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、熱交換器による冷却性能向上と、車両の衝突性能とを両立することができる車両の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両前後方向に延びる左右一対のクラッシュカンと、これらの左右一対のクラッシュカンの車幅方向内側に設けられたラジエータと、左右一対のクラッシュカンの車幅方向内側においてラジエータの周囲を囲うダクト部材とを備えた車両の前部車体構造であって、ダクト部材は、ラジエータの周囲を全面的に囲い、かつ、縦壁部および横壁部を含む部材であり、ダクト部材の縦壁部および横壁部は、それらを互いに係合して接続する少なくとも1つの係合部を有し、ダクト部材の横壁部には、少なくとも1つの後方に開口した切欠き部が形成され、少なくとも1つの係合部は、横壁部の切欠き部に縦壁部の一部が係合して構成されており、ダクト部材の縦壁部および横壁部は、前方衝突の衝突初期、車体のバンパ部材からダクト部材の縦壁部に所定の衝突荷重が入力されるように配置され、車体のバンパ部材からダクト部材の縦壁部に対して所定の衝突荷重が入力されたとき、少なくとも1つの係合部において横壁部に対する縦壁部の係合が外れるよう接続されている、ことを特徴としている。
【0010】
このように構成された本発明によれば、ダクト部材はラジエータの周囲を全面的に囲うので、熱交換器に向けて確実に空気を流すようにすることができる。また、前方からの衝突荷重が入力されたとき、少なくとも1つの係合部においてダクト部材の縦壁部と横壁部との互いの係合が外れるので、ダクト部材の車両前方からの荷重に対する強度を低下させることができ、これにより、前方衝突時に、クラッシュカンの変形が阻害されることを抑制することができる。これらの結果、本発明によれば、熱交換器による冷却性能向上と、車両の衝突性能とを両立することができる。
また、このように構成された本発明によれば、少なくとも1つの係合部において、後方に開口した横壁部の切欠き部に縦壁部の一部が係合しているので、縦壁部に前方からの衝突荷重が入力されたとき、縦壁部が、横壁部に対して車両後方に変位すると共に横壁部の切欠き部との係合が外れる。これにより、より効果的に、ダクト部材の車両前方からの荷重に対する強度を低下させることができる。
【0012】
また、本発明において、好ましくは、ダクト部材の縦壁部は、枠部と、この枠部よりも低強度の内側面部とを有し、少なくとも1つの係合部において縦壁部の枠部の一部が横壁部に対して係合が外れるように接続されている。
このように構成された本発明によれば、縦壁部に前方からの衝突荷重が入力されたとき、ダクト部材の辺の一部である縦壁部の枠部を変形させることにより、効果的に、ダクト部材の車両前方からの荷重に対する強度を低下させることができる。特に、内側面部は枠部より低強度であるので、内側面が枠部の変形を阻害しないようにすることができる。
【0013】
また、本発明において、好ましくは、ダクト部材の縦壁部には、車幅方向外側に向かうような稜線が形成されるような窪み部が形成されている。
このように構成された本発明によれば、前方衝突時、縦壁部に前方からの衝突荷重が入力されたとき、その荷重が窪み部の稜線に沿って車幅方向外側に向かう方向に伝達される。これにより、縦壁部を車幅方向外方にV字形状に変形させることができ、そのような変形に伴って、より効果的に、少なくとも1つの係合部における縦壁部と横壁部との係合が外れるようにすることができる。
【0014】
また、本発明において、好ましくは、車体のバンパ部材は、車両の前面で車幅方向に延びるバンパーレインフォースメントを含み、ダクト部材の縦壁部の窪み部は、縦壁部の車両上下方向において、バンパーレインフォースメントとほぼ同じ高さ位置に形成されている。
このように構成された本発明によれば、バンパーレインフォースメントから入力される衝突荷重を有効に縦壁部の窪み部に伝達させることができ、これにより、より確実に、縦壁部を車幅方向外方にV字形状に変形させることができる。
また、本発明において、好ましくは、ダクト部材の横壁部の切欠き部は、横壁部の車幅方向両端部かつ車両前後方向前端部に形成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両の前部車体構造によれば、熱交換器による冷却性能向上と、車両の衝突性能とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態による車両の前部車体構造を備えた車両の前部を車両右側かつ斜め上方から見た斜視図である。
【
図2】本実施形態による車両の前部車体構造が備えるラジエータ、ラジエータダクトおよび車体の衝撃吸収部材を車両右側かつ斜め上方から見た斜視図である。
【
図3】
図2に示すラジエータおよびダクト部材を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示すラジエータおよびダクト部材を示す一部断面側面図である。
【
図5】
図3に示すダクト部材のサイドダクト部とアッパダクト部との連結部を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【
図6】
図3に示すダクト部材のサイドダクト部に形成された窪み部を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【
図7】
図6に示すサイドダクト部および窪み部を上方から見た、部分拡大平面図である。
【
図8】本実施形態による衝撃吸収部材へのラジエータダクトの係止部を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【
図9】本実施形態による車両の前部車体構造を備えた車両の衝突初期における車両前方からの荷重入力によるダクト部材の変形状態の一例を示す部分拡大斜視図である(
図9A、
図9B)。
【
図10】本実施形態によるダクト部材のサイドダクト部とアッパダクト部との互いの係合が外れるときのサイドダクトの変形状態を説明するための部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の前部車体構造を説明する。
【0018】
まず、
図1および
図2により、本発明の実施形態による車両の前部車体構造を説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両の前部車体構造を備えた車両の前部を車両右側かつ斜め上方から見た斜視図であり、
図2は、本実施形態による車両の前部車体構造を車両右側かつ斜め上方から見た斜視図である。
【0019】
まず、
図1に示すように、本発明の実施形態による車両の前部車体構造を備えた車両1は、その前部に、エンジンルーム2を覆うボンネットフード4と、その前方側で車幅方向に延びるグリルアッパーパネル6と、このグリルアッパーパネル6の下方かつ車両1の前面に設けられたバンパーフェイシア8と、グリルアッパーパネル6およびバンパーフェイシア8の間に設けられたフロントグリル10と、このフロントグリル10の左右両側かつバンパーフェイシア8の上方部分に配置されたヘッドランプユニット12と、ボンネットフード4の左右両側かつ車両側面に設けられたフロントフェンダ14と、を備えている。
【0020】
次に、
図2に示すように、車両1は、車体を構成するフレーム部材として、エンジンルーム2の車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム16と、これらのフロントサイドフレーム16の各前端部に設けられた衝撃吸収部材であるクラッシュカン18と、これらのクラッシュカンの前端部に取り付けられた車幅方向に延び、前方衝突時に荷重を受け止めるバンパーレインフォースメント20と、を備えている。
【0021】
また、車両1の前部には、エンジンルーム2の上方側かつ左右両側で車両前後方向に延びる左右一対のエプロンメンバ(図示せず)が設けられており、各エプロンメンバの車幅方向内方に湾曲した先端部がシュラウドアッパメンバ(図示せず)により互いに接続されている。
【0022】
シュラウドアッパメンバの下方には、フロントグリル10を経て導かれた空気によりエンジン(図示せず)を冷却するためのラジエータ22が設けられている。このラジエータ22には、その前面に設けられたグリルシャッター24や、後述する
図4に示すラジエータコア36やその冷却ファン38などの周囲を覆うように矩形状に延びるラジエータシュラウド26が設けられている。
【0023】
このラジエータシュラウド26の前縁部には、ラジエータ22の前方で矩形状に延びるダクト部材28が接続されている。ラジエータ22は、後述するように、ラジエータシュラウド26と共にダクト部材28により、その周囲が全面的に囲まれている。また、ラジエータ22、ラジエータシュラウド26およびダクト部材28は、左右のクラッシュカン18の車幅方向の内側に設けられている。なお、ラジエータシュラウド26とダクト部材28とを、後述するダクト部材28の変形を阻害しないような構成で一体的に成型するようにしてもよい。
【0024】
次に、車両1は、図示しない車体側の支持ブラケットなどに取付けられ、主に、バンパーフェイシア8およびフロントグリル10を支持すると共に補強するグリルレインフォースメント30(
図9、
図10に符号30で示す)を備えている。このグリルレインフォースメント30は、
図1に示すバンパーフェイシア8およびフロントグリル10の内側で、バンパーフェイシア8およびフロントグリル10に沿うように延びる部材である。本実施形態では、主に、このグリルレインフォースメント30およびバンパーレインフォースメント20が、車両前方からの障害物(他車両や歩行者の大腿部など)の衝撃を受け止めるバンパ部材として機能するようにしている。
【0025】
次に、グリルレインフォースメント30の後側、かつ、バンパーレインフォースメント20の前側には、ラジエータへの空気の流入を阻害しないように上下方向に延びる一対の荷重伝達部材32が設けられている。これらの荷重伝達部材32は、後述するように、衝突初期にダクト部材28に当接する当て部材として設けられており、グリルレインフォースメント30に衝突荷重が加わったとき、ダクト部材28に荷重を伝達する役割を有している。
【0026】
また、荷重伝達部材32には、グリルレインフォースメント30との間でシール機能を果たすシール部材34が取り付けられており、荷重伝達部材32は、これらのシール部材34を介してグリルレインフォースメント30に固定されている。このシール部材34も、後述するように、衝突初期に、ダクト部材28に荷重を伝達する役割を有している。このようなグリルレインフォースメント30に、シール部材34および荷重伝達部材32が取り付けられている。
【0027】
また、後述するように、バンパーレインフォースメント20も、衝突初期に、ダクト部材28に荷重を伝達する役割を有している。
【0028】
次に、
図3および
図4により、ラジエータ22およびダクト部材28の構成を説明する。
図3は、
図2に示すラジエータおよびダクト部材を示す斜視図であり、
図4は、
図3に示すラジエータおよびダクト部材を示す一部断面側面図である。この
図4は、
図3に示すラジエータおよびダクト部材の車幅方向中央の断面を示すと共に、ダクト部材の左サイドダクト部の内側面が見えた状態で示す図である。
【0029】
まず、
図4に示すように、ラジエータ22は、グリルシャッター24、ラジエータコア36、冷却ファン38などを備え、
図3および
図4に示すように、ラジエータシュラウド26はこのラジエータ22を収容している。
また、ダクト部材28は、ラジエータシュラウド26と共に、ラジエータ22の周囲を全面的に囲うように設けられている。本実施形態では、ダクト部材28は、ラジエータ22の少なくともグリルシャッター24の周囲を全面的に覆うようにして、ラジエータ22の周囲を全面的に囲うよう延びている。
【0030】
次に、
図3に示すように、ダクト部材28は、その上面のアッパダクト部(上方横壁部)40と、その下面のロアダクト部(下方横壁部)42と、アッパダクト部40およびロアダクト部42の車幅方向の両縁部(左右の両縁部)をそれぞれ車両上下方向に接続するように延びる、車幅方向両側面のサイドダクト部(縦壁部)44、46と、を有している。
【0031】
まず、アッパダクト部40は、ラジエータシュラウド26の上面の前縁部から連続して延びる樹脂製の部材として構成されている。また、ロアダクト部42は、ラジエータシュラウド26の下面の前縁部から連続して延びる樹脂製の部材として構成されている。このロアダクト部42を構成する部材は、その車幅方向の両縁部から、車両上方に延びるロアサイド部48を含んでおり、このロアサイド部48は、サイドダクト部(縦壁部)44、46の下縁部近傍の一部分を構成している。
【0032】
次に、
図3に示すように、サイドダクト部44、46は、上述したロアサイド部48と、その上方のアッパサイド部50とを有している。
まず、左右のロアサイド部48は、それぞれ、上述したロアダクト部42の左右両縁部から連続し、ロアサイド部48の外縁部に沿って延びる樹脂製の枠部48aを有している。これらの枠部48aの内側面部48bは、樹脂製の枠部48aより強度の低いゴム製の面部材で構成されている。このゴム製の面部材48bは、その周縁部が枠部48aにクリップ止めされることで、枠部48aに取り付けられている(
図6の拡大図も参照)。
【0033】
次に、
図3に示すように、左右のアッパサイド部50は、その外周縁に沿って延びる樹脂製の枠部50aを有している。これらの樹脂製の枠部50aは、アッパダクト部40の樹脂製の部材とは別体の部材で形成されている。なお、アッパダクト部40とアッパサイド部50の枠部50aとを一体成形した樹脂製部材で構成するようにしてもよい。また、これらの枠部50aの内側面50bは、樹脂製の枠部50aより強度の低いゴム製の面部材で構成されている。このゴム製の面部材50bは、その周縁部が枠部50aにクリップ止めされることで、枠部50aに取り付けられている(
図5の拡大図も参照)。
【0034】
ここで、
図2に示すように、上述した荷重伝達部材32およびシール部材34は、アッパダクト部40よりも下方、かつ、ロアダクト部42よりも上方で、サイドダクト部44、46の前縁部に相対する位置に設けられている。これにより、後述するように、衝突初期にグリルレインフォースメント30から荷重が伝達されたとき、荷重伝達部材32およびシール部材34が、サイドダクト部44、46に荷重を伝達し、ダクト部材28の変形を促進するようにしている。
【0035】
次に、
図3および
図5により、ダクト部材28における、サイドダクト部44、46とアッパダクト部40との連結構造(第1の変形促進構造)を説明する。
図5は、
図3に示すダクト部材のサイドダクト部とアッパダクト部との係合部を拡大して示す部分拡大斜視図である。
図3および
図5に示すように、アッパダクト部40の左右両縁部には、それぞれ、車両後方に開口した切欠き部52が形成されている。
これらの切欠き部52の前方部分52aは、アッパサイド部50の樹脂部材の一部である係合縦壁部分50cが嵌め込まれている。この前方部分52aは、所定以上の荷重がかかるまで、その位置でアッパサイド部50がアッパダクト部40に係合されているように、一定の幅で車両前後方向に延びている。
【0036】
一方、切欠き部52の後方部分52bは、後述するようにサイドダクト部44、46がアッパダクト部40に対して後退するように変形するとき、アッパサイド部50の後退および変形をガイドするように車幅方向の斜め外方に切り欠かれている。
【0037】
ここで、切欠き部52と、切欠き部52に係合するアッパサイド部50の一部である係合縦壁部分50cとにより、アッパダクト部(横壁部)40と、サイドダクト部(縦壁部)44、46との係合部54が構成される。より詳細には、アッパダクト部40とアッパサイド部50との係合部54である。
【0038】
本実施形態では、後述するように、衝突初期、このような係合部54における、アッパダクト部(横壁部)40と、サイドダクト部(縦壁部)44、46との係合が外れることで、ダクト部材28の変形を促進するようにしている。
なお、本実施形態では、係合部54をダクト部材28の上方の左右2箇所に設けているが、変形例として、どちらか一方を同様の係合部54とし、他方を、衝突時に荷重を伝達しにくいような固定構造としてもよい。また、係合部54をダクト部材28の下方に設けてもよい。
【0039】
次に、
図3、
図6および
図7により、サイドダクト部44、46のロアサイド部48の構造(第2の変形促進構造)を説明する。
図6は、
図3に示すダクト部材のサイドダクト部に形成された窪み部を拡大して示す部分拡大斜視図であり、
図7は、
図6に示すサイドダクト部および窪み部を上方から見た、部分拡大平面図である。
まず、
図3、
図6および
図7に示すように、各サイドダクト部44、46において、ロアサイド部48の樹脂製の枠部48aには、そのアッパサイド部50との境界位置に、車両下方および車幅方向外方に円弧状に延びる凹部である窪み部56が形成されている。
図6および
図7に示すように、これらの窪み部56は、車幅方向内側に開口している。また、枠部48aには、これらの窪み部56により、車幅方向外側に向かうような稜線56aが形成されている。
【0040】
ここで、
図6に示すように、窪み部56の車幅方向外方には、アッパサイド部50の枠部50aおよびその内面部のゴム部材50bが延びている。
また、
図7に示すように、このアッパサイド部50の枠部50aが、平面視で、窪み部56の車幅方向外方側かつ車両後方側で断面L字状に延び、枠部50aは、その車両後方側の部分で、ラジエータシュラウド26の前面にクリップ止めされている。一方、その内面部のゴム部材50bは、平面視で、窪み部56の車幅方向外方側かつ車両前方側でL字状に延び、その車幅方向外方側の部分が、枠部50aにクリップ止めされている。
【0041】
次に、
図7および
図8により、サイドダクト部44、46のバンパーレインフォースメント20への取付および配置を説明する。
図8は、本実施形態による衝撃吸収部材へのラジエータダクトの係止部を拡大して示す部分拡大斜視図である。
まず、
図8に示すように、サイドダクト部44、46のゴム部材50bの一部が、バンパーレインフォースメント20に係止されている。
また、
図8に示すように、ロアサイド部48の窪み部56(
図8では、窪み部56の車幅方向外方側の部分が示されている)は、サイドダクト部44、46の車両上下方向において、バンパーレインフォースメント20とほぼ同じ高さ位置に形成されており、衝突初期に、バンパーレインフォースメント20がサイドダクト部44、46に当接したとき、これらの窪み部56に荷重が伝達されやすいようにしている。
【0042】
この衝突初期、ロアサイド部48に伝達された荷重により、
図7に符号Aで示すように、窪み部56の稜線56aに沿う方向の荷重ベクトルが生じる。このような荷重ベクトルAによって、衝突初期、ロアサイド部48を、車幅方向外方にV字形状に変形させ、サイドダクト部44、46の変形を促進させるようにしている。
【0043】
次に、
図9および
図10により、本実施形態による衝突初期におけるダクト部材28の変形状態の例、および、この変形に関連した本実施形態の作用を説明する。
図9Aおよび
図9Bは、本実施形態による車両の前部車体構造を備えた車両の衝突初期における車両前方からの荷重入力によるダクト部材の変形状態の一例を示す部分拡大斜視図であり、
図10は、本実施形態によるダクト部材のサイドダクト部とアッパダクト部との互いの係合が外れるときのサイドダクトの変形状態を説明するための部分拡大斜視図である。
まず、
図9Aおよび
図9Bに示すように、衝突初期、バンパーフェイシア8およびフロントグリル10から、その内方のグリルレインフォースメント30が衝突荷重(
図9Aおよび
図9Bにおいて符号Lで示す)を受けると、その荷重は、荷重伝達部材32およびシール部材34を介して、ダクト部材28のサイドダクト部44、46に伝達される。
また、衝突初期、バンパーレインフォースメント20も衝突荷重(荷重L)を受けて、ダクト部材28のサイドダクト部44、46に伝達される。
【0044】
このような荷重を受けたサイドダクト部44、46には、アッパダクト部40に対して相対的に車両後方に変位しようとする力が働き、このような力によって、まず、
図9Aに示すように、係合部54において、サイドダクト部44、46のアッパサイド部50とアッパダクト部40との係合が外れる。このとき、アッパサイド部50は、その後端がラジエータシュラウド26で支持されているので、
図9Bに示すように、その後端を支点として、車幅方向に変形する。
【0045】
一方、図示しないが、衝突初期、ロアサイド部48は、上述した窪み部56の稜線54aの効果により、車幅方向外方にV字形状に折れるように変形し、このようなロアサイド部48の変形に伴い、その上方のアッパサイド部50には、下方へ変位しようとする力が加わる。
ここで、上述したように、衝突初期には、係合部54でのアッパサイド部50の係合が外れているので、アッパサイド部50の折れ曲がるような変形が促進される。
【0046】
本実施形態では、前方衝突時の衝突初期、上述したようなサイドダクト部44、46の変形が促進されるようにして、ダクト部材28自体の衝突荷重に対する強度を低下させている。
さらに、本実施形態では、このようなダクト部材28の強度の低下によって、ダクト部材28が衝突荷重を大きく受け止めてしまうことを抑制し、これにより、本来変形して衝撃を吸収すべき車体側の衝撃吸収部材であるクラッシュカンの変形が阻害されることを抑制するようにしている。
【0047】
さらに、本実施形態では、サイドダクト部44、46の各枠部48a、50aを樹脂製とし、各内側面部48b、50bをゴム製とすることで、内側面部48b、50bが枠部48a、50aの変形を阻害しないようにしている。
また、サイドダクト部44、46の各内側面部48b、50bをゴム製としているので、衝突初期の衝突荷重をダクト部材28で受け止めにくく、また、ラジエータ22およびラジエータシュラウド26に伝達されにくくして、クラッシュカンの変形が阻害されることを抑制するようにしている。
【0048】
次に、本発明の実施形態による車両1の前部車体構造の作用効果を説明する。
まず、本発明の実施形態による車両1の前部車体構造は、左右一対のクラッシュカン18の車幅方向内側においてラジエータ22の周囲を囲うダクト部材28を備え、ダクト部材28は、ラジエータ22の周囲を全面的に囲い、かつ、サイドダクト部(縦壁部)44、46およびアッパダクト部(横壁部)40を含む部材であり、ダクト部材28のサイドダクト部44、46およびアッパダクト部40は、それらを互いに係合して接続する少なくとも1つの係合部54を有し、ダクト部材28のサイドダクト部44、46およびアッパダクト部40は、前方衝突時、車体のバンパ部材(バンパーレインフォースメント20およびグリルレインフォースメント30)からダクト部材28に対して所定荷重が入力されたとき、少なくとも1つの係合部54においてサイドダクト部44、46とアッパダクト部40との互いの係合が外れるよう接続されている。
このような本実施形態によれば、ダクト部材28はラジエータ22の周囲を全面的に囲うので、熱交換器であるラジエータ22に向けて確実に空気を流すようにすることができる。また、前方からの衝突荷重が入力されたとき、左右2つの係合部54においてダクト部材28のサイドダクト部(縦壁部)44、46とアッパダクト部(横壁部)40との互いの係合が外れるので、ダクト部材28の車両前方からの荷重に対する強度を低下させることができ、これにより、前方衝突時に、クラッシュカン18の変形が阻害されることを抑制することができる。これらの結果、本実施形態によれば、熱交換器による冷却性能向上と、車両の衝突性能を両立することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、左右2つの係合部において、後方に開口したアッパダクト部40の切欠き部52にサイドダクト部44、46の一部である係合縦壁部50cが係合しているので、サイドダクト部44、46に前方からの衝突荷重が入力されたとき、サイドダクト部44、46が、アッパダクト部40に対して車両後方に変位すると共にアッパダクト部40の切欠き部52との係合が外れるようにすることができる。これにより、より効果的に、ダクト部材28の車両前方からの荷重に対する強度を低下させることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、ダクト部材28のサイドダクト部44、46は、枠部48a、50aと、この枠部48a、50aよりも低強度の内側面部48b、50bと、を有し、2つの係合部54においてサイドダクト部44、46の枠部50aの一部がアッパダクト部40に対して係合が外れるように接続されているので、サイドダクト部44、46に前方からの衝突荷重が入力されたとき、ダクト部材28の辺の一部である枠部48a、50aを変形させることにより、効果的に、ダクト部材28の車両前方からの荷重に対する強度を低下させることができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、車幅方向外側に向かうような稜線56aが形成されるような窪み部56が形成されているので、前方衝突時、サイドダクト部44、46に前方からの衝突荷重が入力されたとき、その荷重が窪み部56の稜線56aに沿って車幅方向外側に向かう方向に伝達される。これにより、サイドダクト部44、46を車幅方向外方にV字形状に変形させることができ、そのような変形に伴って、より効果的に、2つの係合部54におけるサイドダクト部44、46とアッパダクト部40との係合が外れるようにすることができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、ダクト部材28のサイドダクト部44、46の窪み部56は、サイドダクト部44、46の車両上下方向において、バンパーレインフォースメント20とほぼ同じ高さ位置に形成されているので、バンパーレインフォースメント20から入力される衝突荷重を有効にサイドダクト部44、46の窪み部56に伝達させることができ、これにより、より確実に、サイドダクト部44、46を車幅方向外方にV字形状に変形させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
8 バンパーフェイシア
10 フロントグリル
18 クラッシュカン
20 バンパーレインフォースメント
22 ラジエータ
26 ラジエータシュラウド
28 ダクト部材
30 グリルレインフォースメント
32 荷重伝達部材
34 シール部材
40 アッパダクト部
42 ロアダクト部
44 左サイドダクト部
46 右サイドダクト部
48 サイドダクト部のロアサイド部
48a 枠部
48b 内側面、ゴム製の面部材
50 サイドダクト部のアッパサイド部
50a 枠部
50b 内側面、ゴム製の面部材
50c 係合縦壁部分
52 切欠き部
54 係合部
56 窪み部
56a 窪み部の稜線