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  • 特許-非破壊検査装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】非破壊検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/22 20180101AFI20250306BHJP
【FI】
G01N23/22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021059665
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156127
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】永野 繁憲
(72)【発明者】
【氏名】弥延 聡
(72)【発明者】
【氏名】矢島 明
(72)【発明者】
【氏名】愛甲 華子
(72)【発明者】
【氏名】石黒 哲
(72)【発明者】
【氏名】大竹 淑恵
(72)【発明者】
【氏名】若林 泰生
(72)【発明者】
【氏名】高村 正人
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0130097(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0061842(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106770384(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01V 5/00-5/14
G01T 1/00-7/12
A61B 6/00-6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の照射方向に中性子線を照射可能な中性子照射部と、
前記照射方向と交差する所定の検出方向から入射する放射線を検出可能な放射線検出部と、
前記中性子照射部及び前記放射線検出部を覆い、前記照射方向上及び前記検出方向上に第1の開口部が形成された第1の筐体と、
前記第1の筐体の開口部を開閉する第1のシャッタと、
前記第1の筐体外の放射線量を検出する第1の線量検出部と、
前記第1の筐体内の放射線量を検出する第2の線量検出部と、
前記第1の線量検出部及び第2の線量検出部の少なくともいずれか一つにより検出された放射線量が所定の閾値を超えたときには前記第1のシャッタを開けることを禁止する制御部と、
を備える非破壊検査装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の線量検出部及び前記第2の線量検出部により検出された放射線量がいずれも所定の閾値を超えていないことを条件に、検査時に前記第1のシャッタを開けるよう制御する
請求項1に記載の非破壊検査装置。
【請求項3】
前記中性子照射部は、
中性子線を放射する中性子線源と、
前記中性子線源を覆い、前記照射方向上に第2の開口部が形成された第2の筐体と、
前記第2の開口部を開閉する第2のシャッタと、
前記第2の筐体内の放射線量を検出する第3の線量検出部と、を有し、
前記制御部は、前記第1の線量検出部、前記第2の線量検出部、及び前記第3の線量検出部の少なくともいずれか一つにより検出された放射線量が所定の閾値を超えたときには前記第1のシャッタ及び前記第2のシャッタを開けることを禁止する
請求項1又は2に記載の非破壊検査装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1の線量検出部、前記第2の線量検出部、及び前記第3の線量検出部により検出された放射線量がいずれも前記所定の閾値を超えていないことを条件に、検査時に前記第1のシャッタ及び前記第2のシャッタを開けるよう制御する
請求項3に記載の非破壊検査装置。
【請求項5】
前記制御部は、検査時において前記第1のシャッタを前記第2のシャッタよりも先に開け、前記放射線検出部により中性子線照射前の放射線状態を検出した後、前記第2のシャッタを開けるよう制御する請求項4に記載の非破壊検査装置。
【請求項6】
前記中性子照射部は、
加速された荷電粒子線を出射可能な線形加速器と、
前記荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生可能なターゲット部と、を有し、
前記制御部は、前記第1の線量検出部、前記第2の線量検出部の少なくともいずれか一つにより検出された放射線量が所定の閾値を超えたときには前記線形加速器からの荷電粒子の出射を禁止し、且つ前記第1のシャッタを開けることを禁止する
請求項1又は2に記載の非破壊検査装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1の線量検出部、及び前記第2の線量検出部により検出された放射線量がいずれも前記所定の閾値を超えていないことを条件に、検査時に前記第1のシャッタを開け、且つ前記線形加速器からの荷電粒子の出射を行うよう制御する
請求項6に記載の非破壊検査装置。
【請求項8】
前記制御部は、検査時において前記第1のシャッタを前記線形加速器からの荷電粒子の出射よりも先に開け、前記放射線検出部により中性子線照射前の放射線状態を検出した後、前記線形加速器からの荷電粒子の出射を行うよう制御する請求項7に記載の非破壊検査装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子線を用いた被検査物の非破壊検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、道路、橋梁、トンネル、建築物等のインフラストラクチャー(以下、インフラ構造物という)の老朽化に対して、適切な維持管理、補修、更新が望まれている。
【0003】
このようなインフラ構造物の検査においては、物体に対して透過性を有するX線等の放射線を用いることで、被検査物を破壊することなく内部構造を解析することが可能な非破壊検査が行われている。
【0004】
特に近年においては、X線よりも透過性の高い中性子線を用いた非破壊検査装置も検討されている。例えば、特許文献1及び非特許文献1には、中性子線とその中性子線との反応で発生するガンマ(γ)線を利用してコンクリート内部の塩分濃度分布を得ることができる非破壊検査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-85481号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】理化学研究所/若林泰生・吉村雄一・水田真紀・池田裕二郎・大竹淑恵、「コンクリート内の非破壊塩分測定法NPGA日本工業出版 検査技術 2019年2月号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
中性子線を用いる特許文献1及び非特許文献1のような技術においては、現場で検査を行う作業者やその他周囲の者に対する放射線被爆を抑えたり、被爆量を管理したり、他者による放射線源を含む装置の誤用や悪用を防いだり、等の安全対策が必要である。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、被検査物に対して中性子線を用いて行う非破壊検査において、周囲への安全性を確保して検査を行うことができる非破壊検査装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る非破壊検査装置は、所定の照射方向に中性子線を照射可能な中性子照射部と、前記照射方向と交差する所定の検出方向から入射する放射線を検出可能な放射線検出部と、前記中性子照射部及び前記放射線検出部を覆い、前記照射方向上及び前記検出方向上に第1の開口部が形成された第1の筐体と、前記第1の筐体の開口部を開閉する第1のシャッタと、前記第1の筐体外の放射線量を検出する第1の線量検出部と、前記第1の筐体内の放射線量を検出する第2の線量検出部と、前記第1の線量検出部及び第2の線量検出部の少なくともいずれか一つにより検出された放射線量が所定の閾値を超えたときには前記第1のシャッタを開けることを禁止する制御部と、を備える。
【0010】
また、上記非破壊検査装置として、前記制御部は、前記第1の線量検出部及び前記第2の線量検出部により検出された放射線量がいずれも所定の閾値を超えていないことを条件に、検査時に前記第1のシャッタを開けるよう制御してもよい。
【0011】
また、上記非破壊検査装置として、前記中性子照射部は、中性子線を放射する中性子線源と、前記中性子線源を覆い、前記照射方向上に第2の開口部が形成された第2の筐体と、
前記第2の開口部を開閉する第2のシャッタと、前記第2の筐体内の放射線量を検出する第3の線量検出部と、を有し、前記制御部は、前記第1の線量検出部、前記第2の線量検出部、及び前記第3の線量検出部の少なくともいずれか一つにより検出された放射線量が所定の閾値を超えたときには前記第1のシャッタ及び前記第2のシャッタを開けることを禁止してもよい。
【0012】
また、上記非破壊検査装置として、前記制御部は、前記第1の線量検出部、前記第2の線量検出部、及び前記第3の線量検出部により検出された放射線量がいずれも前記所定の閾値を超えていないことを条件に、検査時に前記第1のシャッタ及び前記第2のシャッタを開けるよう制御してもよい。
【0013】
また、上記非破壊検査装置として、前記制御部は、検査時において前記第1のシャッタを前記第2のシャッタよりも先に開け、前記放射線検出部により中性子線照射前の放射線状態を検出した後、前記第2のシャッタを開けるよう制御してもよい。
【0014】
また、上記非破壊検査装置として、前記中性子照射部は、加速された荷電粒子線を出射可能な線形加速器と、前記荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生可能なターゲット部と、を有し、前記制御部は、前記第1の線量検出部、前記第2の線量検出部の少なくともいずれか一つにより検出された放射線量が所定の閾値を超えたときには前記線形加速器からの荷電粒子の出射を禁止し、且つ前記第1のシャッタを開けることを禁止してもよい。
【0015】
また、上記非破壊検査装置として、前記制御部は、前記第1の線量検出部、及び前記第2の線量検出部により検出された放射線量がいずれも前記所定の閾値を超えていないことを条件に、検査時に前記線形加速器からの荷電粒子の出射を行い、且つ前記第1のシャッタを開けるよう制御してもよい。
【0016】
また、上記非破壊検査装置として、前記制御部は、検査時において前記第1のシャッタを前記線形加速器からの荷電粒子の出射よりも先に開け、前記放射線検出部により中性子線照射前の放射線状態を検出した後、前記線形加速器からの荷電粒子の出射を行うよう制御してもよい。
【発明の効果】
【0017】
上記手段を用いる本発明によれば、被検査物に対して中性子線を用いて行う非破壊検査において、周囲への安全性を確保して検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係る非破壊検査システムを示す概略構成図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る非破壊検査システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
【0020】
(第1実施形態)
まず本発明の第1実施形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態に係る非破壊検査装置1の概略構成図である。以下これらの図に基づき本実施形態の非破壊検査装置1の構成について説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の非破壊検査装置1は、中性子照射部10とガンマ線検出部(放射線検出部)20が装置筐体(第1の筐体)30内に設けられている。また、非破壊検査装置1は制御部40を有し、当該制御部40にはそれぞれの設置箇所において放射線量を検出する外部線量モニタ41(第1の線量検出部)、内部線量モニタ42(第2の線量検出部)、線源線量モニタ43(第3の線量検出部)や、警報を行う警報器44が接続されている。本実施形態では、非破壊検査装置1が被検査物であるコンクリートからなる橋B上に配置されている。
【0023】
中性子照射部10は、中性子線源11が線源筐体(第2の筐体)12内に設けられている。本実施形態の中性子線源11は自発的に放射状に中性子線を発生させる放射性同位体であり、例えば252Cf線源である。
【0024】
線源筐体12は、中空の略立方体形状をなしており、本実施形態では底面に中性子線の照射孔(第2の開口部)12aが形成されている。また線源筐体12には、照射孔12aを開閉する線源シャッタ(第2のシャッタ)13が設けられている。線源筐体12及び線源シャッタ13は例えば鉛、鉄等の中性子線を遮蔽可能な材料により形成されている。照射孔12aは例えば円孔であり、線源シャッタ13は図示しないアクチュエータにより照射孔12aを開閉するよう線源筐体12の底面上を摺動する開閉板部材である。
【0025】
このように構成された中性子照射部10は、中性子線源11から放射状に照射される中性子線のうち、照射孔12aが設けられている下方に向かう中性子線のみを外部に照射可能である。つまり、本実施形態では下方が中性子線の照射方向D1となる。そして、線源シャッタ13の開閉により中性子線の照射と停止(非照射)を制御可能である。
【0026】
ガンマ線検出部20は、ガンマ(γ)線を検出可能な検出器21と、コリメータ22と、可動軸23と、を有している。
【0027】
検出器21は、例えばゲルマニウム半導体検出器(Ge検出器)である。検出器21の先端にはコリメータ22が接続されており、検出器21はコリメータ22を介して入射されるガンマ線量を検出可能である。
【0028】
コリメータ22は、例えば鉛、鉄等のガンマ線を遮蔽する材料からなる筒体であり、外部から入射されてくるガンマ線のうち検出器21に向かう一方向のガンマ線に絞り込む機能を有する。つまり、本実施形態ではコリメータ22の軸線方向がガンマ線の検出方向D2である。図1に示すように検出方向D2は照射方向D1上の一点で交わり、この交点が被検査物の橋B内部における検査位置Pとなる。この検査位置Pの塩分濃度が高いと検出器21にて検出されるガンマ線量が通常よりも高くなる。
【0029】
検出器21の後端部分には水平方向に延びる可動軸23が設けられている。検出器21はコリメータ22と一体に、可動軸23を軸として鉛直方向に揺動可能である。このように可動軸23回りに検出器21が揺動することで、照射方向D1上で検査位置Pを移動させることが可能である。
【0030】
装置筐体30は、中性子照射部10及びガンマ線検出部20を覆っており、照射方向D1上及び検出方向D2上に開口部30a(第1の開口部)が形成されている。
【0031】
詳しくは、装置筐体30は、中空の略直方体形状をなしており、例えば鉛、鉄等の中性子線を遮蔽可能な材料により形成されている。装置筐体30は、内部にて水平方向一側に中性子照射部10が配置され、水平方向他側にガンマ線検出部20が配置されている。
【0032】
そして、装置筐体30の底面において、照射方向D1上及び検出方向D2上を開口内に含む開口部30aが形成されている。開口部30aは照射方向D1上及び検出方向D2上を開口内に含まれれば特に開口形状は限定されないが、例えば本実施形態では矩形孔とする。なお、当該開口部30aは、ガンマ線検出部20が可動軸23回りに揺動により検出方向D2が変化する範囲を含むように開口範囲が設計されている。
【0033】
また、装置筐体30の底面には、開口部30aを開閉する外シャッタ31(第1のシャッタ)が設けられている。外シャッタ31は例えば鉛、鉄等の中性子線を遮蔽可能な材料により形成されている。外シャッタ31は図示しないアクチュエータにより開口部30aを開閉するよう装置筐体30の底面上を摺動する板材である。
【0034】
また、装置筐体30の底面外側には、車輪32が設けられており、装置筐体30は橋B状を自由に移動可能である。なお、本実施形態では装置筐体30に直接車輪32が設けられているが、例えば車輪を有していない装置筐体30を台車や移動体に載せることで移動可能としてもよい。
【0035】
本実施形態では、装置筐体30の頂面外側に外部線量モニタ41が設けられおり、外部線量モニタ41は非破壊検査装置1の外部周辺の放射線量を検出する。また、装置筐体30の頂面内側に内部線量モニタ42が設けられており、内部線量モニタ42は非破壊検査装置1の内部の放射線量を検出する。さらに、線源筐体12の頂面内側に線源線量モニタ43が設けられており、線源線量モニタ43は線源筐体12内の放射線量を検出する。
【0036】
各線量モニタ41、42、43が検出可能な放射線には、例えばアルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線が含まれる。また、各線量モニタ41、42、43は放射線量として空間線量率(マイクロシーベルト毎時(μSv/h))を検出可能である。なお、検出可能な放射線の種類や放射線量はこれに限られるものではなく、人体の被爆量を検出できるものであればよい。
【0037】
警報器44は、装置筐体30の頂面外側に設けられており、非破壊検査装置1の周囲に対して警報を行う機能を有している。警報器44における警報は、例えば警報音を発したり、危険を知らせる音声を発したり、警告灯を点灯又は点滅させたり、メッセージを表示したりする。また、警報器44は、単に警報を発するのみではなく、警報後のアクションを指示したり、警報の理由を表示したり、してもよい。警報後のアクションとしては、例えば避難、周辺への避難勧告等、がある。
【0038】
制御部40は、専用のコンピュータや、ソフトウエアがインストールされた汎用のコンピュータ等であり、図示しないが、例えば、演算処理を行う演算部、ガンマ線検出部20により検出したガンマ線量や各線量モニタ41、42、43で検出した放射線量等の情報を記憶可能な記憶部、演算結果等を表示可能な表示部、外部からの操作等を受け付ける入力部、外部と情報の通信が可能な通信部、等を有している。
【0039】
制御部40は、各線量モニタ41、42、43、線源シャッタ13、外シャッタ31、警報器44と電気的に接続されている。制御部40は、少なくとも非破壊検査装置1における安全に関する制御(以下、安全制御という)と、検査に関する制御(以下、検査制御という)を実行可能である。
【0040】
制御部40は、安全制御において、各線量モニタ41、42、43により検出された放射線量に応じて線源シャッタ13、外シャッタ31、及び警報器44を制御する。
【0041】
具体的には、制御部40は、各線量モニタ41、42、43により検出された放射線量を取得し、いずれかの放射線量が所定の閾値を超えたときには、線源シャッタ13及び外シャッタ31を開けることを禁止し、警報器44による警報を発する。なお上述した通りこの際に、警報だけでなく、警報後のアクションを指示したり、警報の理由を表示したり、してもよい。
【0042】
この所定の閾値は、例えば各線量モニタ41、42、43のそれぞれに対応して設定されており、本実施形態では外部線量モニタ41に対応する閾値を第1の閾値T1、内部線量モニタ42に対応する閾値を第2の閾値T2、線源線量モニタ43に対応する閾値を第3の閾値T3とする。特に第1の閾値T1は人体へ被爆量に関係する値に設定されている。そして、通常、中性子線源11に近い線量モニタほど高い放射線量となることから、中性子線源11に近い線量モニタに対応する閾値ほど高い値に設定されている。つまり、第1の閾値T1、第2の閾値T2、第3の閾値T3の順に大きい値となる(T1<T2<T3)。
【0043】
非破壊検査装置1に異常が発生したり、長期間の利用により装置自体が放射化したりすることで放射線量は増加することから、制御部40は、各線量モニタ41、42、43により検出された放射線量を監視し、対応する閾値T1、T2、T3を超えたときには線源シャッタ13及び外シャッタ31を開けることを禁止(ロック)し、警報を行うことで、安全性を確保する。
【0044】
制御部40は、検査制御においては、主に線源シャッタ13、外シャッタ31、ガンマ線検出部20を制御する。具体的には制御部40は、各線量モニタにより検出された放射線量が所定の閾値を超えていないことを条件に、検査時に外シャッタ31及び線源シャッタ13を開ける。
【0045】
特に検査時において、制御部40は外シャッタ31を線源シャッタ13よりも先に開ける。より具体的には、制御部40は外シャッタ31を開けて、ガンマ線検出部20により中性子線照射前のガンマ線量を検出した後、線源シャッタ13を開けて検査のための中性子線の照射を行う。
【0046】
制御部40は、安全制御により安全性を確保した上で、検査制御による検査を行う。本実施形態の検査は、中性子照射部10から被検査物に照射した中性子線に対して発生するガンマ線をガンマ線検出部20により検出し、ガンマ線の検出量から検査位置Pの塩素の量(塩分濃度)を解析する。なお、具体的な被検査物における塩分濃度解析手法については、従来周知の手法を用いればよく、例えば上述の非特許文献1に記載のコリメート法やガンマ線強度比較法を用いる。
【0047】
以上のように本実施形態の非破壊検査装置1では、装置筐体30により中性子照射部10とガンマ線検出部20を覆っており、装置筐体30の内外及び線源筐体12内に各線量モニタ41、42、43を設けて、放射線量の監視を行っている。つまり、装置外への被爆量を監視したり、長期間の利用により装置自体の放射化を監視したりすることができる。
【0048】
そして、制御部40が各線量モニタ41、42、43の少なくともいずれか一つにより検出された放射線量が所定の閾値を超えたときには線源シャッタ13及び外シャッタ31を開けることを禁止することで、中性子照射部10から装置筐体30の外への中性子線の放出を防ぎ、周囲の被爆量の増加を抑えることができる。また、同時に警報器44による警報を発することで、作業者等の周囲の者に注意を喚起することができる。
【0049】
そして、制御部40は、検査時において、各線量モニタ41、42、43により検出された放射線量がいずれも所定の閾値を超えていないことを条件に、線源シャッタ13及び外シャッタ31を開けるよう制御することで、安全性を確保した検査を実行することができる。
【0050】
特に、制御部40は、検査時において、外シャッタ31を開けて、ガンマ線検出部20により中性子線照射前のガンマ線量を検出した後、線源シャッタ13を開けるよう制御する。ガンマ線検出部20は中性子照射部10とともに装置筐体30内に設けられていることから、検査時に中性子照射部10の線源シャッタ13を外シャッタ31と同時又は先に開けてしまうと、ガンマ線検出部20は装置筐体30内のガンマ線量をベースとして検査を行ってしまうおそれがある。そこで、検査時には外シャッタ31を線源シャッタ13よりも先に開けて、ガンマ線検出部20により装置筐体30外部のガンマ線量を検出した後に、線源シャッタ13を開けることで、より正確なガンマ線量を検出することができ、検査の精度を向上させることができる。また、外シャッタ31を開けてガンマ線検出部20により中性子線照射前のガンマ線量を正常に検出できなかった場合には、この時点で検査を中止すれば、余計な中性子線の照射による被爆を防ぐことができ、より安全性を確保することができる。
【0051】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態について説明する。
【0052】
図2は、本発明の第2実施形態に係る非破壊検査装置2の概略構成図である。以下これらの図に基づき第2実施形態の非破壊検査装置2の構成について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付して、詳しい説明を省略する。
【0053】
第1実施形態の中性子照射部10は中性子線源11を用いたものであったが、第2実施形態の中性子照射部50は線形加速器52を用いている点が異なる。また、第2実施形態の非破壊検査装置2は線源線量モニタを有していない。
【0054】
中性子照射部50は、電源部51、荷電粒子線である陽子ビーム(プロトンビーム)を出射する線形加速器52、偏向部53、ターゲット部54、照射コリメータ55を有している。
【0055】
詳しくは、電源部51は、各部に電力を供給する発電機である。電源部51の発電機は、少なくとも荷電粒子である陽子(プロトン)を発生可能な発電性能を備え、電圧変動が少なく、高調波電流に耐えられるものが好ましい。また、電源部51は、発電機が発電した電力を蓄電可能なバッテリを有していてもよい。
【0056】
線形加速器52は、陽子を出射するイオン源52aを有し、当該イオン源52aから円筒状の加速部52bを介して偏向部53に接続されている。加速部52bは、イオン源52aで発生した陽子を加速し、陽子ビームとして偏向部53に照射する。
【0057】
偏向部53は、線形加速器52から照射された陽子ビームを、磁力により陽子ビームの入射方向に対して、略垂直方向に偏向しターゲット部54に向けて出射する。偏向部53は、例えば2つの対向する磁石を有し、対向する磁石の間に磁場を有する。磁石は電磁石であり、電磁石に流す電流を制御することで、磁石間に所定の磁束密度の磁場を形成することができる。なお、磁石は磁束密度を確保できれば永久磁石を用いてもよい。
【0058】
ターゲット部54は、陽子と衝突して中性子線を生じるものであり、例えばベリリウムを含んで形成されている。ターゲット部54には、ターゲット部54から発生した中性子線のうち所定方向の中性子線を選択する照射コリメータ55が接続されている。照射コリメータ55によって、照射される中性子線の指向性を高めることができる。中性子線の照射方向D1は第1実施形態と同様に装置下方である。なお、線形加速器52からターゲット部54までは、荷電粒子の飛翔を妨げないようにその経路は高真空状態を維持可能な構造となっている。
【0059】
このように構成された中性子照射部50は、制御部60と電気的に接続されている。制御部60は、イオン源52aにおける陽子を出射させるタイミングを制御することで、任意のタイミングで中性子照射部50から中性子線を照射させることが可能である。
【0060】
第2実施形態の制御部60は、中性子照射部50の他に、外部線量モニタ41、内部線量モニタ42、外シャッタ31、警報器44と電気的に接続されている。制御部60は、非破壊検査装置2における安全に関する制御(以下、安全制御という)と、検査に関する制御(以下、検査制御という)を実行可能である。
【0061】
制御部60は、安全制御において、各線量モニタ41、42により検出された放射線量に応じてイオン源52a、外シャッタ31、及び警報器44を制御する。
【0062】
具体的には、制御部60は、各線量モニタ41、42により検出された放射線量を取得し、いずれかの放射線量が所定の閾値を超えたときには、イオン源52aによる陽子の出射を禁止し、且つ外シャッタ31を開けることを禁止し、警報器44による警報を発する。この所定の閾値に関しては第1実施形態と同様であり、説明を省略する。
【0063】
制御部60は、検査制御においては、主にイオン源52a、外シャッタ31、ガンマ線検出部20を制御する。具体的には制御部60は、各線量モニタ41、42により検出された放射線量が所定の閾値を超えていないことを条件に、検査時に外シャッタ31を開けてイオン源52aから陽子を出射させる。
【0064】
特に検査時において、制御部60は外シャッタ31をイオン源52aによる陽子の出射よりも先に開ける。より具体的には、制御部60は外シャッタ31を開けて、ガンマ線検出部20により中性子線照射前のガンマ線量を検出した後、イオン源52aによる陽子の出射を行う。その他の検査手法等は第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0065】
以上のように第2実施形態の非破壊検査装置2では、装置筐体30により中性子照射部50とガンマ線検出部20を覆っており、装置筐体30の内外に各線量モニタ41、42を設けて、放射線量の監視を行っている。つまり、装置外への被爆量を監視したり、長期間の利用により装置自体の放射化を監視したりすることができる。
【0066】
そして、制御部60が各線量モニタ41、42の少なくともいずれかにより検出された放射線量が所定の閾値を超えたときにはイオン源52aによる陽子の発生及び外シャッタ31を開けることを禁止することで、中性子照射部10から装置筐体30の外への中性子線の放出を防ぎ、周囲の被爆量の増加を抑えることができる。また、同時に警報器44による警報を発することで、作業者等の周囲の者に注意を喚起することができる。
【0067】
そして、制御部60は、検査時において、各線量モニタ41、42により検出された放射線量がいずれも所定の閾値を超えていないことを条件に、外シャッタ31を開け、イオン源52aによる陽子の出射を行うことで、安全性を確保した検査を実行することができる。
【0068】
特に、制御部60は、検査時において、外シャッタ31を開けて、ガンマ線検出部20により中性子線照射前のガンマ線量を検出した後、イオン源52aによる陽子の出射を行うよう制御する。ガンマ線検出部20は中性子照射部10とともに装置筐体30内に設けられていることから、検査時に中性子照射部10のイオン源52aによる陽子の発生を外シャッタ31と同時又は先に行ってしまうと、ガンマ線検出部20は装置筐体30内のガンマ線量をベースとして検査を行ってしまうおそれがある。そこで、検査時には外シャッタ31をイオン源52aによる陽子の出射よりも先に開けて、ガンマ線検出部20により装置筐体30外部のガンマ線量を検出した後に、イオン源52aによる陽子の出射を行うことで、より正確なガンマ線量を検出することができ、検査の精度を向上させることができる。また、外シャッタ31を開けてガンマ線検出部20により中性子線照射前のガンマ線量を正常に検出できなかった場合には、この時点で検査を中止すれば、余計な中性子線の照射による被爆を防ぐことができ、より安全性を確保することができる。
【0069】
以上で本発明の各実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0070】
上記実施形態では、橋Bを被検査物として説明しているが、被検査物はこれに限られるものではない。例えば、道路、建物やトンネルの壁や、柱等、その他のコンクリート構造物に適用可能である。
【0071】
また、上記実施形態では、中性子線の照射方向を装置下方としているが、中性子線の照射方向はこれに限られるものではない。例えば被検査物が壁や柱である場合には、中性子線の照射方向を水平方向とするのが好ましく、そのような場合は装置筐体の側面に開口部を有する構成とすればよい。
【0072】
また、中性子線の照射方向は1方向に限られず複数方向に中性子線を照射可能としてもよい。例えば装置筐体の底面と側面に開口部を形成し、被検査物に応じて中性子線の照射方向を下方と水平方向とに切替可能としてもよい。
【0073】
上記実施形態の非破壊検査装置は、ガンマ線検出部を1つのみ備えた構成であるが、ガンマ線検出部の数は1つに限られない。装置筐体内に収納可能であれば2つ以上のガンマ線検出部を備えてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、ガンマ線検出部によりガンマ線を検出して塩分濃度分布を解析しているが、検出する放射線はガンマ線に限られるものではない。例えば、中性子線を照射された被検査物から発生する熱中性子を検出して被検査物内の空隙や水分を検出する非破壊検査装置であってもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、所定の閾値を超えた場合に線源シャッタ13及び外シャッタ31を開けることを禁止し、警報器44による警報を発していたが、他の閾値を設定してもよい。例えば、上記第1実施形態の構成において、線源線量モニタ43により検出される放射線量は中性子線源11が放射する中性子線のエネルギーにも相関することから、制御部40は第4の閾値T4を設定し、線源線量モニタ43により検出される放射線量が第4の閾値を下回った場合にも、線源シャッタ13及び外シャッタ31を開けることを禁止し、警報器44による警報を発してもよい。これにより、中性子線源11のエネルギー不足による検査の精度低下や無駄な検査を防止できる。また、これにより中性子線源の交換時期を作業者等に知らせることができる。
【符号の説明】
【0076】
1、2 非破壊検査装置
10、50 中性子照射部
10a 照射孔(第2の開口部)
11 中性子線源
12 線源筐体(第2の筐体)
13 線源シャッタ(第2のシャッタ)
20 ガンマ線検出部(放射線検出部)
21 検出器
22 コリメータ
23 可動軸
30 装置筐体(第1の筐体)
30a 開口部(第1の開口部)
31 外シャッタ(第1のシャッタ)
32 車輪
40、60 制御部
41 外部線量モニタ(第1の線量検出部)
42 内部線量モニタ(第2の線量検出部)
43 線源線量モニタ(第3の線量検出部)
44 警報器
51 電源部
52 線形加速器
52a イオン源
52b 加速部
53 偏向部
54 ターゲット部
55 照射コリメータ
図1
図2