(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】フッ化物粒子の分散液、その製造方法及び光学膜
(51)【国際特許分類】
C01B 33/10 20060101AFI20250306BHJP
C01B 35/06 20060101ALI20250306BHJP
G02B 1/111 20150101ALI20250306BHJP
【FI】
C01B33/10
C01B35/06
G02B1/111
(21)【出願番号】P 2020186796
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2019239321
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162847
【氏名又は名称】ステラケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003764
【氏名又は名称】弁理士法人OMNI国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】裏家 正規
(72)【発明者】
【氏名】山本 紘也
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 類
(72)【発明者】
【氏名】富崎 恵
(72)【発明者】
【氏名】西田 哲郎
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特許第4986426(JP,B2)
【文献】特開平04-031342(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0095024(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/46
C01B 35/00-35/18
G02B 1/111
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式A
xCF
y(式中、前記Aはナトリウム又はカリウムを表し、前記Cはシリコン又はホウ素を表す。前記xは1又は2であり、前記yは4又は6である。)で表されるフッ化物の粒子が、比誘電率5~40の非プロトン性有機溶媒
(但し、N,N-ジメチルホルムアミドを除く。)中に分散してなる
フッ化物粒子の分散液であり、
前記フッ化物粒子の平均分散粒子径が1nm~100nmの範囲内であり、
前記フッ化物粒子の分散液100質量%に対する、当該フッ化物粒子の分散液中の水分濃度[a](質量%)と、前記非プロトン性有機溶媒の比誘電率[b]とが、以下の式(1)で表される関係を満たし、
前記フッ化物粒子の分散液の粘度が200mPa・s以下である光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液。
[a]≦0.06e
0.15[b]
(1)
【請求項2】
前記非プロトン性有機溶媒が、ケトン溶媒、アミン溶媒、エーテル溶媒及びエステル溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
1に記載の
光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液。
【請求項3】
前記ケトン溶媒が、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン及びアセチルアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
2に記載の
光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液。
【請求項4】
前記アミン溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン
、N,N-ジメチルアセトアミド及びテトラメチル尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
2に記載の
光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液。
【請求項5】
前記エーテル溶媒が、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
2に記載の
光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液。
【請求項6】
前記エステル溶媒が、メチルアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテート及びイソブチルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
2に記載の
光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液。
【請求項7】
前記フッ化物の粒子を前記非プロトン性有機溶媒中に分散させる分散剤を含む請求項1~
6の何れか1項に記載の
光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液。
【請求項8】
前記フッ化物の粒子の含有量が、前記フッ化物粒子の分散液100質量%に対して、1質量%~30質量%の範囲内である請求項1~
7の何れか1項に記載の
光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液。
【請求項9】
ナトリウム塩水溶液又はカリウム塩水溶液と、ケイフッ化物又はホウフッ化物とを反応させて、A
xCF
y(式中、前記Aはナトリウム又はカリウムを表し、前記Cはシリコン又はホウ素を表す。前記xは1又は2であり、前記yは4又は6である。)で表されるフッ化物粒子のスラリーを得る工程と、
前記フッ化物粒子のスラリーを固液分離し、得られたフッ化物粒子の固形分を洗浄する工程と、
洗浄後の前記フッ化物粒子の固形分を乾燥する工程と、
前記乾燥後のフッ化物粒子を、比誘電率5~40の非プロトン性有機溶媒
(但し、N,N-ジメチルホルムアミドを除く。)中に分散させて、
平均分散粒子径が1nm~100nmの範囲内のフッ化物粒子の分散液を作製する工程とを含
み、
前記フッ化物粒子の分散液の粘度は、200mPa・s以下であり、
前記フッ化物粒子の分散液を作製する工程は、
前記フッ化物粒子の分散液100質量%に対する、当該フッ化物粒子の分散液中の水分濃度[a](質量%)と、前記非プロトン性有機溶媒の比誘電率[b]とが、以下の式(1)で表される関係を満たす様に、当該分散液中の水分濃度[a]を調整して行う光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液の製造方法。
[a]≦0.06e
0.15[b]
(1)
【請求項10】
前記分散液中の水分濃度[a]の調整は、前記フッ化物粒子の分散液を不活性ガスの雰囲気中で作製することにより行う請求項
9に記載の
光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
8の何れか1項に記載の
光学膜形成用のフッ化物粒子の分散液を含む光学膜形成用組成物
を乾燥させた後、光硬化させてなる光学膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物粒子の分散液及び光学膜に関し、より詳細には、ディスプレイ、レンズ等の反射防止膜に好適なフッ化物粒子の分散液、その製造方法及び光学膜に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、及びカーナビゲーション等、現代の人々は種々のディスプレイに接する機会が非常に多い。屋内、屋外を問わずディスプレイに光が照射されると、光反射により視認性が低下し、目の疲労や頭痛の原因になる場合がある。また近年では、自動車内の装飾パネル等に高級感という価値を付加するため、光反射の防止が可能なコーティングも行われている。
【0003】
光反射防止のためのコーティングは、高屈折率層と低屈折率層とを含み構成される。そして、光反射防止のためのコーティングは、高屈折率層及び低屈折率層の各々の層表面で反射した光の位相差を利用することにより、ディスプレイ表面での光反射を防止し、視認性を向上させている。
【0004】
尚、低屈折率層の形成方法は、気相法とコーティング法とに大別される。これらのうちコーティング法は、原料の利用効率が良く、大量生産や設備コスト面で気相法より優れている。そのため、現在では、生産性が良好なコーティング法が、低屈折率層の形成に用いられている。
【0005】
特許文献1には、低屈折率層を形成するためのコーティング剤のフィラーとして、化学的に安定で、かつ屈折率が低いフッ化マグネシウムのゾルやフッ化マグネシウム微粉末が有効であることが記載されている。しかし、フッ化マグネシウムの屈折率は約1.38であり、低屈折率層の屈折率をそれより低くすることはできない。
【0006】
特許文献2には、中空球状のシリカ系微粒子の分散液が記載されている。また、特許文献3には、フッ化マグネシウムからなるシェルの内部に中空コアを有する中空粒子(コア・シェル粒子)が分散した分散液が記載されている。そして、これらの特許文献には、シリカ系微粒子や中空粒子をコーティング剤のフィラーとして用い、これにより屈折率が一層低い反射防止膜を形成することが記載されている。しかし、特許文献2のシリカ系微粒子や特許文献3の中空粒子は、それら自体が空隙を有している。そのため、これらをフィラーとして用いた反射防止膜では、その機械的強度や耐擦傷性が低下するという問題がある。
【0007】
特許文献4には、フッ化マグネシウムよりも屈折率の低いケイフッ化カリウム(屈折率1.34)を反射防止膜のフィラーに用いることが記載されている。しかし、大気圧環境下でケイフッ化カリウムを有機溶媒中に分散させると、分散液の粘度が著しく増大する。また、ケイフッ化カリウムの粒子が凝集して光透過性も損なわれるという問題がある。
【0008】
特許文献5には、フッ化マグネシウムの微粒子がカルボン酸中に分散したフッ化物微粒子分散液が記載されている。また、特許文献5には、フッ化物微粒子分散液中の水分を0.1重量%以下に抑制することも記載されている。しかし、特許文献5には、フッ化マグネシウム以外のフッ化物については開示がない。また、水分除去のために使用する無水酢酸等のカルボン酸無水物はフッ化物微粒子分散液中に約3重量%残存しており、フッ化マグネシウムの微粒子の含有量が約4~8重量%であることを考慮すると、フッ化物微粒子分散液には、カルボン酸無水物が多量に残存している。また、フッ化物微粒子分散液を低屈折率層の形成に用いた場合に、低屈折率層の光透過性に関する記載がなく検討がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4655614号
【文献】特許第4046921号
【文献】特許第5943754号
【文献】特開2011-195693号
【文献】特開2007-161509号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、低粘度で分散性に優れ、反射防止膜等の光学膜の製造に好適なフッ化物粒子の分散液、その製造方法及びそれを用いた光学膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のフッ化物粒子の分散液は、前記の課題を解決するために、化学式AxCFy(式中、前記Aはナトリウム又はカリウムを表し、前記Cはシリコン又はホウ素を表す。前記xは1又は2であり、前記yは4又は6である。)で表されるフッ化物の粒子が、比誘電率5~40の非プロトン性有機溶媒中に分散してなることを特徴とする。
【0012】
前記の構成に於いては、前記フッ化物粒子の分散液100質量%に対する、当該フッ化物粒子の分散液中の水分濃度[a](質量%)と、前記非プロトン性有機溶媒の比誘電率[b]とが、以下の式(1)で表される関係を満たすことが好ましい。
[a]≦0.06e0.15[b] (1)
【0013】
また、前記の構成に於いては、前記非プロトン性有機溶媒が、ケトン溶媒、アミン溶媒、エーテル溶媒及びエステル溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
さらに、前記ケトン溶媒は、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン及びアセチルアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
前記アミン溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びテトラメチル尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
前記エーテル溶媒は、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
前記エステル溶媒は、メチルアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテート及びイソブチルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
また、前記の構成に於いては、前記フッ化物の粒子を前記非プロトン性有機溶媒中に分散させる分散剤を含むことが好ましい。
【0019】
また、前記の構成に於いては、前記フッ化物の粒子の平均分散粒子径が1nm~100nmの範囲内であることが好ましい。
【0020】
前記の構成に於いては、前記フッ化物の粒子の含有量が、前記フッ化物粒子の分散液100質量%に対して、1質量%~30質量%の範囲内であることが好ましい。
【0021】
本発明のフッ化物粒子の分散液の製造方法は、前記の課題を解決するために、ナトリウム塩水溶液又はカリウム塩水溶液と、ケイフッ化物又はホウフッ化物とを反応させて、AxCFy(式中、前記Aはナトリウム又はカリウムを表し、前記Cはシリコン又はホウ素を表す。前記xは1又は2であり、前記yは4又は6である。)で表されるフッ化物粒子のスラリーを得る工程と、前記フッ化物粒子のスラリーを固液分離し、得られたフッ化物粒子の固形分を洗浄する工程と、洗浄後の前記フッ化物粒子の固形分を乾燥する工程と、前記乾燥後のフッ化物粒子を、比誘電率5~40の非プロトン性有機溶媒中に分散させて、フッ化物粒子の分散液を作製する工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
前記の構成に於いて、前記フッ化物粒子の分散液を作製する工程は、前記フッ化物粒子の分散液100質量%に対する、当該フッ化物粒子の分散液中の水分濃度[a](質量%)と、前記非プロトン性有機溶媒の比誘電率[b]とが、以下の式(1)で表される関係を満たす様に、当該分散液中の水分濃度[a]を調整して行うことが好ましい。
[a]≦0.06e0.15[b] (1)
【0023】
さらに、前記の構成に於いて、前記分散液中の水分濃度[a]の調整は、前記フッ化物粒子の分散液を不活性ガスの雰囲気中で作製することにより行うことが好ましい。
【0024】
また、本発明の光学膜は、前記の課題を解決するために、前記フッ化物粒子の分散液を含む光学膜形成用組成物の乾燥硬化膜からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、低粘度で分散性に優れ、例えば、フッ化マグネシウムよりも屈折率の小さいフッ化物粒子の分散液及びその製造方法を提供することができる。また、当該フッ化物の分散液を用いることにより、光透過率やヘイズ、及び光反射率等の光学特性が面内で均一かつ良好な反射防止膜等の光学膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(フッ化物粒子の分散液)
本実施の形態に係るフッ化物粒子の分散液(以下、「分散液」という場合がある。)について、以下に説明する。
本実施の形態の分散液は、フッ化物の粒子と、非プロトン性有機溶媒とを少なくとも含む。尚、本明細書に於いて、「分散液」とは、液体の分散媒に分散質が分散している状態のものをいう。従って、「分散液」には、固体の分散媒に分散質が分散し、流動性が失われた固体コロイド(オルガノゲル)のような分散体は含まない。
【0027】
前記フッ化物は、化学式AxCFy(式中、前記Aはナトリウム又はカリウムを表し、前記Cはシリコン又はホウ素を表す。前記xは1又は2であり、前記yは4又は6である。)で表される。
【0028】
前記化学式で表されるフッ化物は、具体的には、例えば、ケイフッ化ナトリウム(Na2SiF6、屈折率1.31)、ケイフッ化カリウム(K2SiF6、屈折率1.34)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF4、屈折率1.31)、ホウフッ化カリウム(KBF4、屈折率1.33)である。例示したフッ化物は、1種類を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、例示したフッ化物のうち、屈折率が1.33未満であり、かつ水に対する溶解度が小さいケイフッ化ナトリウム及びホウフッ化ナトリウムが特に好ましい。
【0029】
前記フッ化物の粒子の平均分散粒子径は1nm~100nmの範囲が好ましく、10nm~50nmの範囲がより好ましい。平均分散粒子径を1nm以上にすることにより、分子間力によるフッ化物粒子同士の凝集が顕著になるのを抑制することができる。その一方、平均分散粒子径を100nm以下にすることにより、例えば、フッ化物粒子を反射防止膜等の光学膜のフィラーとして使用する際、光学膜からフッ化物粒子が脱離したり、光透明性が損なわれるのを低減することができる。
【0030】
前記フッ化物粒子の含有量は、フッ化物粒子の分散液100質量%に対して、1質量%~30質量%の範囲内が好ましく、2質量%~15質量%の範囲内がより好ましく、5質量%~10質量%の範囲内がさらに好ましい。前記フッ化物粒子の含有量を1質量%以上にすることにより、例えば光学膜の構成材料である樹脂組成物との混合の際に、多量の分散液の使用を抑制することができる。これにより、光学膜の成膜過程で非プロトン性有機溶媒を除去する際にも、除去に要する時間の低減が図れる。その一方、前記フッ化物粒子の含有量を30質量%以下にすることにより、フッ化物粒子の分散時間が長くなるのを抑制し、フッ化物粒子同士が凝集する確率の低減が図れる。
【0031】
前記非プロトン性有機溶媒は、プロトン供与性を有していない有機溶媒であり、極性及び無極性のいずれでもよい。
【0032】
前記非プロトン性有機溶媒の比誘電率は5~40の範囲であり、好ましくは5~20の範囲内である。
【0033】
前記非プロトン性有機溶媒としては、例えば、ケトン溶媒、アミン溶媒、エーテル溶媒及びエステル溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0034】
前記ケトン溶媒としては特に限定されず、例えば、メチルイソブチルケトン(比誘電率13.1)、メチルエチルケトン(比誘電率18.5)、メチルブチルケトン(比誘電率14.5)、シクロヘキサノン(比誘電率16.1)、メチルシクロヘキサノン(比誘電率16.4)、アセチルアセトン(比誘電率27.2)等が挙げられる。
【0035】
前記アミン溶媒としては特に限定されず、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(比誘電率32.2)、N,N-ジメチルホルムアミド(比誘電率36.7)、N,N-ジメチルアセトアミド(比誘電率37.8)、テトラメチル尿素(比誘電率23.1)等が挙げられる。
【0036】
前記エーテル溶媒としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル(比誘電率7.2)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(比誘電率8.3)、テトラヒドロフラン(比誘電率7.6)等が挙げられる。
【0037】
前記エステル溶媒としては特に限定されず、例えば、メチルアセテート(比誘電率6.7)、エチルアセテート(比誘電率6.4)、ブチルアセテート(比誘電率5.0)、イソブチルアセテート(比誘電率5.3)等が挙げられる。
【0038】
これらの非プロトン性有機溶媒のうち、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンはアクリレート溶媒に対する溶解性に優れ、比較的揮発性も高いため、反射防止膜等の光学膜の作製に好適である。尚、例示した非プロトン性有機溶媒は、1種類を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
前記分散液中に含まれる水分濃度[a](分散液中に含まれる水の分散液100質量%に対する濃度(質量%))と、非プロトン性有機溶媒の比誘電率[b]とは、以下の式(1)で表される関係を満たすことが好ましい。
[a]≦0.06e0.15[b] (1)
【0040】
分散液の水分濃度[a]及び非プロトン性有機溶媒の比誘電率[b]が前記式(1)で表す関係を満たす様にすることで、本発明では、非プロトン性有機溶媒の比誘電率の値に応じて、すなわち、非プロトン性有機溶媒の種類に応じて、分散液中の水分濃度を適切な範囲に規定することが可能となる。この様に、本発明は、分散液の水分濃度を特定の値以下に一律に規定するのではなく、非プロトン性有機溶媒の種類に応じて規定することで、非プロトン性有機溶媒ごとに、フッ化物粒子の凝集を抑制し分散性に優れた分散液を得ることができる。
【0041】
分散液中の水分濃度[a]の値を0.06e0.15[b]の値と同じ、又はそれ以下にすることにより、分散液の粘度が過度に上昇するのを抑制し、かつフッ化物粒子の分散性も良好に維持することができる。また、光学膜の構成材料である樹脂組成物との相溶性が低下するのを防止し、フッ化物粒子の粗大化も防止することができる。その結果、光学膜の光透明性を良好に維持することができる。
【0042】
尚、分散液の分散性等の性能は製造直後から長期にわたり維持する必要がある。そのため、前記水分濃度[a]と非プロトン性有機溶媒の比誘電率[b]との関係は、以下の式(2)で表される関係を満たすことがより好ましく、式(3)で表される関係を満たすことがさらに好ましい。
[a]≦0.045e0.15[b] (2)
[a]≦0.03e0.15[b] (3)
【0043】
前記分散液には、フッ化物粒子を非プロトン性有機溶媒中に良好に分散させるため、分散剤を含有させることができる。分散剤の添加は、非プロトン性有機溶媒として極性が低い有機溶媒を用いる場合に特に効果的である。
【0044】
前記分散剤としては特に限定されず、一般的な界面活性剤を用いることができる。前記界面活性剤としては、例えば、非イオン性炭化水素界面活性剤、カチオン性炭化水素界面活性剤、アニオン性炭化水素界面活性剤、非イオン性炭化フッ素界面活性剤、カチオン性炭化フッ素界面活性剤、及びアニオン性炭化フッ素界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
例示した界面活性剤のうち、フッ化物粒子に対し良好な分散性を付与するものとしては、酸性官能基を備えた、アニオン性炭化水素界面活性剤やアニオン性炭化フッ素界面活性剤が挙げられる。前記酸性官能基の種類として、例えば、カルボキシル基、リン酸基、及びスルホン酸基等が挙げられる。
【0046】
また例示した界面活性剤のうち、フッ素原子を有する界面活性剤、すなわち、非イオン性炭化フッ素界面活性剤、カチオン性炭化フッ素界面活性剤、及びアニオン性炭化フッ素界面活性剤は屈折率が低いので、これらの界面活性剤を含む分散液は、光学膜の構成材料に好適である。
【0047】
前記フッ素原子を有する界面活性剤としては特に限定されず、例えば、炭素数1~20のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル(メタ)アクリレート類と、酸性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーと、必要に応じて他のエチレン性不飽和モノマーとを共重合してなるアクリル樹脂が挙げられる。尚、前記(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの両方を含む意味である。
【0048】
前記炭素数1~20のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル(メタ)アクリレート類としては特に限定されず、例えば、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、3-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロ-3-メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロ-5-メチルヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロ-7-メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H,オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H-ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H-1-(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0049】
また、前記分散剤としては、市販の界面活性剤を用いることができる。例えば、酸性官能基を有する分散剤として、ソルスパース(登録商標)3000、ソルスパース21000、ソルスパース26000、ソルスパース36600、ソルスパース41000(何れも商品名、日本ルーブリゾール(株)製);ディスパービック108、ディスパービック110、ディスパービック111、ディスパービック112、ディスパービック116、ディスパービック142、ディスパービック180、ディスパービック2000、ディスパービック2001(何れも商品名、ビックケミー(株)製);プライサーフ(登録商標)A208N、プライサーフA208F、プライサーフA208B、プライサーフA219B、プライサーフAL、プライサーフA212C、プライサーフA215C(何れも商品名、第一工業製薬(株)製);ディスパロン(登録商標)3600N、ディスパロン1850(何れも商品名、楠本化成(株)製);PA111(商品名、味の素ファインテクノ(株)製);EFKA4401、EFKA4550(何れも商品名、エフカ アディティブズ(株)製)等が挙げられる。但し、市販の界面活性剤については、例示したものに限定されない。
【0050】
前記分散剤の濃度は、分散液100質量%に対し、0.05質量%~5質量%の範囲内が好ましく、0.5質量%~1質量%の範囲内がより好ましい。分散剤の濃度が0.05質量%以上であると、フッ化物粒子の分散性を一層向上させることができる。その一方、分散剤の濃度が5質量%以下であると、分散剤自体がミセルを形成することにより、フッ化物粒子の分散性が低下するのを抑制することができる。
【0051】
前記分散液の粘度は、光学膜形成用組成物に含有させるバインダー成分(詳細については後述する。)との相溶性を良好にするとの観点からは、200mPa・s以下の範囲であることが好ましい。
【0052】
(フッ化物粒子の製造方法)
次に、本実施の形態に係るフッ化物粒子の製造方法について、以下に説明する。尚、以下に説明する製造方法は一例であり、本発明はこの製造方法に限定されるものではない。
【0053】
前記フッ化物粒子の製造方法は、ナトリウム塩水溶液又はカリウム塩水溶液(以下、「ナトリウム塩水溶液等」という。)と、ケイフッ化物又はホウフッ化物(以下、「ケイフッ化物等」という。)とを反応させて、前記AxCFyで表されるフッ化物の粒子のスラリーを得る工程と、得られたスラリーの固液分離及びスラリーの固形分の洗浄を行う工程と、洗浄後のフッ化物粒子の固形分(ペースト)を乾燥して水分を除去する工程とを含む。
【0054】
前記ナトリウム塩水溶液におけるナトリウム塩としては特に限定されず、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、及び水酸化ナトリウム等が挙げられる。これらのナトリウム塩は、1種類を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0055】
前記カリウム塩水溶液におけるカリウム塩としては特に限定されず、例えば、塩化カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、硝酸カリウム、及び水酸化カリウム等が挙げられる。これらのカリウム塩は、1種類を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0056】
前記ナトリウム塩水溶液及びカリウム塩水溶液は、それぞれナトリウム塩又はカリウム塩(以下、「ナトリウム塩等」という。)を水に溶解させることにより得られる。ナトリウム塩等を水に溶解させる際の溶解温度は、ナトリウム塩等の水に対する溶解度等に応じて適宜設定することができる。例えば、水に対し室温下でも十分な溶解性を示すナトリウム塩等を使用する場合は、室温下で行ってもよい。また、室温下での水に対する溶解性が低いナトリウム塩等を用いる場合には、加温してナトリウム塩等を水に溶解させ、溶解に要する時間の短縮化を図ってもよい。
【0057】
前記ケイフッ化物は、水に対し可溶性を示す塩であれば特に限定されない。ケイフッ化物としては、例えば、ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウム、ケイフッ化アンモニウム、及びケイフッ化水素酸等が挙げられる。これらのケイフッ化物は、1種類を単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0058】
前記ホウフッ化物は、水に対し可溶性を示す塩であれば特に限定されない。ホウフッ化物としては、例えば、ホウフッ化ナトリウム、ホウフッ化カリウム、ホウフッ化アンモニウム、及びホウフッ化水素酸等が挙げられる。これらのホウフッ化物は、1種類を単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0059】
ナトリウム塩水溶液等とケイフッ化物等との反応は、ナトリウム塩水溶液等に含まれる異物を除去する目的で、当該ナトリウム塩水溶液等の濾過後に行ってもよい。
【0060】
また、ナトリウム塩水溶液等とケイフッ化物等との反応は、固体のケイフッ化物等をナトリウム塩水溶液等に加えて反応させてもよく、あるいはナトリウム塩水溶液等と、ケイフッ化物等を水に溶解させたケイフッ化物等の水溶液とを混合して反応させてもよい。後者の場合、製造工程の簡便化及び反応の容易化を図ることができる。尚、前記ケイフッ化物等の水溶液を用いる場合、ケイフッ化物等の水溶液中の異物を除去するために、予め濾過を行ってもよい。
【0061】
ナトリウム塩水溶液等とケイフッ化物等との反応温度は特に限定されないが、反応温度が低すぎると反応の進行を遅くなる場合がある。その一方、反応温度が高すぎると、ナトリウム塩水溶液等及び/又はケイフッ化物等の水溶液から蒸気が発生し、これらの混合液(反応液)の濃度が変化する場合がある。これらの観点から、前記反応温度は20℃~50℃の範囲内であることが好ましい。
【0062】
得られたフッ化物粒子のスラリーを固液分離する方法としては特に限定されず、例えば、吸引濾過、遠心脱水等が挙げられる。また、フッ化物粒子の粒径が小さく微細な場合は、吸引濾過や遠心脱水では固液分離が困難な場合がある。そのような場合には、遠心分離機を用いて固液分離を行ってもよく、また、スラリー自体を蒸発乾固してもよい。
【0063】
固液分離により得られたフッ化物粒子のペーストの洗浄は、例えば、水洗で行うことができる。これにより、未反応のケイフッ化物等やその他アニオンを除去することができる。洗浄温度及び洗浄時間は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0064】
洗浄後のフッ化物粒子のペーストから水分を除去する方法としては、例えば、加熱処理が挙げられる。これにより、フッ化物粒子の乾燥粉末を得ることができる。加熱処理方法としては特に限定されず、例えばFRP製のバットにフッ化物粒子のペーストを入れ、乾燥機内で乾燥させる方法が挙げられる。
【0065】
加熱処理の際の加熱温度(乾燥温度)は100℃~300℃の範囲内が好ましく、100℃~200℃の範囲内がより好ましい。加熱温度を100℃以上にすることにより、フッ化物粒子のペースト中に含まれる水分を十分に除去し、又は低減させることができる。その一方、加熱温度を300℃以下にすることにより、フッ化物粒子同士の熱融着や、フッ化物粒子の熱分解を防止することができる。また、加熱処理の際の加熱時間(乾燥時間)は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0066】
加熱処理は大気下で行ってもよく、又は不活性ガス環境下で行ってもよい。不活性ガスとしては特に限定されず、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられる。また、フッ化物粒子のペーストの乾燥を促進するとの観点からは、減圧環境下で加熱処理を行ってもよい。
【0067】
(フッ化物粒子の分散液の製造方法)
次に、本実施の形態に係るフッ化物粒子の分散液の製造方法について以下に説明する。
本実施の形態の分散液は、前述の製造方法で得られたフッ化物粒子を非プロトン性有機溶媒に加え、フッ化物粒子を非プロトン性有機溶媒中に分散させることにより得ることができる。尚、本実施の形態に係るフッ化物粒子の分散液の製造方法には、前述のフッ化物粒子の製造方法も含まれ得る。
【0068】
フッ化物粒子の非プロトン性有機溶媒への分散方法としては特に限定されず、例えば、湿式ビーズミル、湿式ジェットミル、超音波を用いる方法等が挙げられる。分散方法は、目的とするフッ化物粒子の平均分散粒子径や、純度等の品質を考慮して、粉砕に用いる装置を選択すればよい。
【0069】
例えば、フッ化物粒子の分散性を良好にしたい場合は、湿式ビーズミルを用いる方法が好ましい。湿式ビーズミルではジルコニアビーズ等のメディアを利用して粒子を微細化するため、フッ化物粒子の分散力を良好にすることができる。但し、得られる分散液に対しては、メディアによるコンタミネーションの可能性がある。また、分散液の純度を良好にしたい場合は、湿式ジェットミルを用いる方法が好ましい。湿式ジェットミルはメディアを用いない湿式粉砕方法であり、湿式ビーズミルのようなメディアによるコンタミネーションの防止が図れる。但し、メディアを用いないので、フッ化物粒子の分散力が低下する場合がある。
【0070】
分散液の製造過程においては、分散液中の水分濃度[a]を管理するのが好ましい。具体的には、分散液中の水分濃度[a]が、前述の式(1)で表される関係を満たす様に行うのが好ましい。水分濃度[a]を管理する方法としては、例えば、ドライルーム等の露点管理された場所で湿式粉砕を行う方法や、フッ化物粒子、非プロトン性有機溶媒及びこれらを含む分散液が外気に晒されないように、密閉した空間内に於いて不活性ガス又はドライエアーの環境下で行う方法が挙げられる。不活性ガスとしては特に限定されず、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0071】
フッ化物粒子を非プロトン性有機溶媒中に加えて分散させる前に、予め、フッ化物粒子の表面吸着水を除去してもよい。表面吸着水を除去する方法としては、例えば、乾燥温度100℃~200℃、乾燥時間2時間~34時間、好ましくは5時間~20時間の範囲で乾燥する方法等が挙げられる。また、非プロトン性有機溶媒から水分を除去する方法としては、例えば、蒸留、遠心分離、脱水材(モレキュラーシーブス、ゼオライト、イオン交換樹脂、活性アルミナ等)の使用等が挙げられる。また、窒素等の不活性ガスを非プロトン性有機溶媒中にバブリングさせる方法等でもよい。
【0072】
(光学膜形成用組成物)
次に、本実施の形態に係る光学膜形成用組成物について、以下に説明する。
本実施の形態の光学膜形成用組成物は、フッ化物粒子の分散液と、バインダー成分とを少なくとも含む。
【0073】
分散液及びバインダー成分の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0074】
前記バインダー成分としては特に限定されず、例えば、樹脂、重合性モノマー等が挙げられる。
【0075】
前記樹脂としては特に限定されず、公知の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等を用いることができる。より具体的には、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種類を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、2種類以上の樹脂からなる共重合体や変性体として用いてもよい。例示した樹脂のうち、フッ素樹脂等のフッ素原子を含む樹脂は光学膜の屈折率を低減することが可能であるため好ましい。
【0076】
前記重合性モノマーとしては特に限定されず、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等により重合可能な公知のモノマーを用いることができる。より具体的には、例えば、非イオン性モノマー(スチレン、メチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート等)、アニオン性モノマー(メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、o-及びp-スチレンスルホネート、並びにこれらの塩等)、カチオン性モノマー(N-(3-アクリルアミドプロピル)アンモニウムメタクリレート、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)-N、1,2-ジメチル-5-ビニルピリジニウムメトスルフェート、及びこれらの塩等)、架橋モノマー(ジビニルベンゼン、エチレンジアクリレート、N,N-メチレンビスアクリルアミド等)等が挙げられる。これらの重合性モノマーは、1種類を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。例示した重合性モノマーのうち、フッ素原子を含む重合性モノマーは光学膜の屈折率を低減することが可能であるため好ましい。
【0077】
光学膜形成用組成物には、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、その他の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤としては、例えば、光重合開始剤、光硬化性化合物、重合禁止剤、光増感剤、レベリング剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、導電性ポリマー、導電性界面活性剤、無機充填剤、顔料、染料等が挙げられる。これらの添加剤の添加量は、必要に応じて適宜設定することができる。
【0078】
(光学膜及びその製造方法)
次に、本実施の形態に係る光学膜及びその製造方法について、以下に説明する。
本実施の形態の光学膜は、前述の光学膜形成用組成物の乾燥硬化膜からなる。この光学膜中には、フィラーとしてのフッ化物粒子が均一に含まれており、例えば、フッ化マグネシウムを用いた光学膜と比較して低屈折率である。また、光透過率が高く、ヘイズ及び光反射率が低減されるなど、面内に於いて均一かつ良好な光学特性を有する。
【0079】
本実施の形態の光学膜は、例えば、反射防止膜等として用いることができる。
【0080】
光学膜に含まれるフッ化物粒子の含有量は、光学膜100質量%に対して20質量%~90質量%の範囲内であることが好ましい。フッ化物粒子の含有量が前記範囲内であれば、光学膜の物理的・化学的強度の低下を抑制しつつ、光学膜の低屈折率化の効果を維持し得るため実用的である。
【0081】
尚、光学膜の厚さは特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0082】
光学膜は、例えば、以下の方法により形成可能である。すなわち、光学膜形成用組成物を基板等に塗布した後、当該光学膜形成用組成物の塗布膜を乾燥する。続いて、所定の光強度の紫外線を照射して乾燥後の塗布膜を光硬化させる。これにより、本実施の形態の光学膜が得られる。
【0083】
光学膜形成用組成物の塗布方法としては特に限定されず、例えば、ディップ法、スプレー法、スピナー(スピンコート)法、ロールコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法等が挙げられる。尚、低屈折率層を形成する場合は、塗工精度の観点からリバースコート法、特に小径グラビアロールを用いたリバースコート法が好ましい。
【0084】
前記基板としては特に限定されず、例えば、プラスチックシート、プラスチックフィルム、プラスチックパネル及びガラス等が挙げられる。また、プラスチックシート、プラスチックフィルム及びプラスチックパネルを構成する材料としては特に限定されず、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びトリアセチルセルロース(TAC)等が挙げられる。
【0085】
また、光学膜形成用組成物は、さらに溶媒に加えた状態で基板上に塗布してもよい。溶媒は、塗布(印刷を含む。)の作業性を改善する目的で配合される。溶媒は、光学膜形成用組成物を溶解し、又は光学膜形成用組成物が相溶性を示すものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0086】
溶媒の使用量は、光学膜の形成にとって好適な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常は、光学膜形成用組成物100質量%に対して、10質量%~95質量%の範囲内である。
【0087】
基板に塗布された光学膜形成用組成物の塗布膜の乾燥方法は特に限定されず、自然乾燥や熱風等を吹き付けることにより行うことができる。乾燥時間や乾燥温度は特に限定されず、塗布膜の厚さや構成材料等に応じて適宜設定することができる。
【0088】
また、乾燥後の塗布膜に対する紫外線の照射方法や照射条件は特に限定されない。照射条件としては、光学膜形成用組成物の構成成分の種類や配合量等に応じて適宜設定することができる。
【0089】
以上により、本実施の形態の光学膜を基板上に形成することができる。ここで、本実施の形態のフッ化物粒子の分散液に於いては、低粘度で、かつ、フッ化物粒子の分散性も良好なものとなっている。そのため、当該分散液を含む光学膜形成用組成物を用いて形成された光学膜は、屈折率が低く、光透過率やヘイズ、光反射率等の光学特性が面内で均一となっている。そのため、本実施の形態の光学膜は反射防止膜等に好適である。
【実施例】
【0090】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0091】
(平均粒子径測定方法)
粒度分布計(マイクロトラック・ベル(株)製、Microtrac, NanotracUPA, UPA-UZ152)を用いて分散液中のフッ化物粒子の平均分散粒子径を測定した。尚、平均分散粒子径(d50)は、サンプル粒子全体の50体積パーセントが平均分散粒子径以下の粒子からなることで定義される粒子径である。
測定原理:動的光散乱法周波数解析(FFT-ヘテロダイン法)
光源:3mW半導体レーザー780nm(2本)
設定範囲:10℃~80℃
測定粒度分布範囲:0.8nm~6.5406μm
測定対象:コロイド粒子
【0092】
特に説明がない限り、実施例及び比較例に於ける平均分散粒子径は、上述の動的光散乱法により測定された体積換算の平均粒子径を意味している。
【0093】
(水分測定方法)
カールフィッシャー法によってフッ化物粒子の分散液中の水分濃度を測定した。水分測定装置としては、平沼産業(株)製のTQV―2200S(商品名)を用いた。測定方法は、JIS K 0068(2001)に基づき容量滴定法で行った。
【0094】
(粘度測定方法)
B型粘度計にてフッ化物粒子の分散液の粘度を測定した。B型粘度計は、米国ブルックフィールド社製のDV-I PRIME(商品名)を用いた。測定はJIS K 5600-2-2(2004)に基づき実施した。
【0095】
(実施例1)
メチルエチルケトン(試薬)190g、ケイフッ化ナトリウム(ステラケミファ(株)製)10g及び分散剤としてのプライサーフA212C(商品名、第一工業製薬(株)製)2gを500ccのフッ素樹脂製容器で混合し、ケイフッ化ナトリウムが凝集した状態のスラリーを作製した。次に、露点―40℃以下の窒素環境下で前記スラリーをビーズミル((株)シンマルエンタープライゼス製)に投入し、分散処理を行った。ビーズはジルコニア製ビーズ((株)ニッカトー製)を用いた。分散処理中、一定時間ごとに分散液をサンプリングして粒度分布を測定した。ケイフッ化ナトリウム粒子の平均分散粒子径(体積換算、d50)が下げ止まるまで分散処理を行い、ケイフッ化ナトリウム粒子の分散液(粒子濃度:分散液の全質量に対し5質量%)を180g得た。本実施例1に係る分散液の物性を表1に示す。
【0096】
(実施例2)
本実施例に於いては、メチルエチルケトンの代わりにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で本実施例に係る分散液を得た。得られた分散液の物性を表1に示す。
【0097】
(比較例1)
本比較例に於いては、窒素環境下での分散処理を大気環境下(室温25℃、相対湿度60%)での分散処理に変更した。それ以外は、実施例1と同様の方法で本比較例に係るゲル状の分散体を得た。得られた分散体の物性を表1に示す。
【0098】
(比較例2)
本比較例に於いては、メチルエチルケトンの代わりにイソプロパノール(IPA、プロトン性有機溶媒)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて本比較例に係る分散液を得た。得られた分散液の物性を表1に示す。
【0099】
(比較例3)
本比較例に於いては、メチルエチルケトンの代わりに1-メトキシ-2-プロパノール(PGME、プロトン性有機溶媒)を用い、かつ分散剤を用いなかった。それら以外は、実施例1と同様の方法にて本比較例に係る分散液を得た。得られた分散液の物性を表1に示す。
【0100】
【0101】
(実施例3)
実施例1で作製した分散液7.3gと市販されているアクリレート塗料2.9gを混合した。さらに、混合した溶液に1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.37gを溶解させ、光学膜形成用組成物とした。次に、この光学膜形成用組成物0.1gをプロピレングリコールモノメチルエーテル99.9gで希釈し、低屈折率塗料を作製した。
【0102】
PETフィルム(東レ(株)製、ルミラー(登録商標)U34:厚み100μm)の片面に、希釈した低屈折率塗料500μlをスピンコーティングにより塗工した。塗工した塗布膜を130℃で乾燥後、紫外線400mJ/cm2を照射して光硬化させ、反射防止膜(低屈折率層、光学膜)を積層した。
【0103】
(実施例4)
市販されているアクリレート塗料0.18gに1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.01gを溶解させた。さらに、混合した溶液に実施例1で作製した分散液3.10gを混合させ、光学膜形成用組成物とした。次に、この光学膜形成用組成物3.3gをプロピレングリコールモノメチルエーテル6.72gで希釈し、低屈折率塗料を作製した。
【0104】
PETフィルム(東レ(株)製、ルミラー(登録商標)T60:100μm)の片面に、希釈した低屈折率塗料300μlをスピンコーティングにより塗工した。塗工した塗布膜を130℃で乾燥後、紫外線400mJ/cm2を照射して光硬化させ、反射防止膜(低屈折率層、光学膜)を積層した。
【0105】
(実施例5)
本実施例に於いては、実施例1で作製した分散液の代わりに実施例2で作製した分散液を用いた。それ以外は、実施例4と同様の方法にて本実施例に係る反射防止膜を積層した。
【0106】
(比較例4)
本比較例に於いては、実施例1で作製した分散液の代わりに比較例1で作製した分散体を用いた。それ以外は、実施例3と同様の方法にて本比較例に係る反射防止膜を積層した。
【0107】
(比較例5)
本比較例に於いては、実施例1で作製した分散液の代わりに比較例1で作製した分散体を用いた。それ以外は、実施例4と同様の方法にて本比較例に係る反射防止膜を積層した。
【0108】
(ヘイズ測定、全光線透過率測定及び最低光反射率測定)
反射防止膜(低屈折率層)のヘイズ値、低屈折率層の全光線透過率及び反射防止膜(低屈折率層)の最低光反射率をJIS K 7136に準拠して紫外可視近赤外分光光度計(商品名:V670、日本分光(株)製)を用いて測定した。
【0109】
実施例3~5及び比較例4、5に係る反射防止膜の物性を表2に示す。尚、表2における実施例3~5及び比較例5の数値は、比較例4の反射防止膜の光学特性を100(基準値)とし、その基準値に対する相対値を示している。表2中の全光線透過率については、数値が高い方が反射防止膜の光学特性として優れていることを示す。また、ヘイズ及び最低光反射率については、数値が小さい方が反射防止膜の光学特性として優れていることを示す。
【0110】