(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】焼鈍炉、焼鈍炉の施工方法、および、プレハブ構造
(51)【国際特許分類】
C21D 9/56 20060101AFI20250306BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20250306BHJP
C21D 1/26 20060101ALI20250306BHJP
F27B 9/02 20060101ALI20250306BHJP
F27B 9/28 20060101ALI20250306BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C21D9/56 101A
C21D1/00 112C
C21D1/26 G
F27B9/02
F27B9/28
F27D1/00 D
F27D1/00 U
(21)【出願番号】P 2021555961
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039285
(87)【国際公開番号】W WO2021095449
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019204281
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522123566
【氏名又は名称】マフテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】田口 昌邦
(72)【発明者】
【氏名】秦 雄作
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 光雄
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-133396(JP,U)
【文献】特開2015-203133(JP,A)
【文献】特開2002-194427(JP,A)
【文献】特開平09-324987(JP,A)
【文献】実開平06-056695(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52 - 9/66
C21D 1/26
C21D 1/00
F27B 9/00 - 9/40
F27D 1/00 - 1/18
F27D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体、および、該筐体内部の頂部と底部に鋼帯を搬送する複数列のロールを備えた焼鈍炉であって、
前記焼鈍炉が、水平方向で炉体を分割する水平分割面を有し、該水平分割面により分割された水平分割帯が、さらに、炉体の長手方向に垂直な方向で該水平分割帯を分割する垂直分割面を有
し、
前記水平分割面を複数有し、
少なくとも一つの前記垂直分割面の炉体長手方向位置が、隣り合う前記水平分割帯における前記垂直分割面の炉体長手方向位置と一致していない、
焼鈍炉。
【請求項2】
上下方向で隣り合う前記水平分割帯における前記垂直分割面の炉体長手方向位置が、1m以上長手方向に離れている、請求項
1に記載の焼鈍炉。
【請求項3】
前記水平分割面および垂直分割面によって分割された各プレハブ構造が、各プレハブ構造の垂直分割面同士を接続するための二次部材を備えており、接続する一方のプレハブ構造の二次部材の水平方向の幅と、接続する他方のプレハブ構造の二次部材の水平方向の幅とが、異なっている、請求項1
または2に記載の焼鈍炉。
【請求項4】
前記一方のプレハブ構造の二次部材が強度の高い二次部材であり、前記他方のプレハブ構造の二次部材が曲げ加工し易い二次部材である、請求項
3に記載の焼鈍炉。
【請求項5】
前記一方のプレハブ構造の二次部材と前記他方のプレハブ構造の二次部材とが、これら二次部材同士を締結するための締結穴を備え、該それぞれの締結穴の大きさが異なっている、請求項
3または
4に記載の焼鈍炉。
【請求項6】
前記各プレハブ構造における、水平分割面および垂直分割面の接合面に、パッキン材を備える、請求項
3~
5のいずれか1項に記載の焼鈍炉。
【請求項7】
前記垂直分割面の接合面が備えるパッキン材が、T字形状である、請求項
6に記載の焼鈍炉。
【請求項8】
前記パッキン材が、無機繊維ブランケットからなる請求項
6または
7に記載の焼鈍炉。
【請求項9】
前記各プレハブ構造を構成する筐体が、外側の鉄皮からなる炉殻と、該炉殻に内張された断熱材を備えてなる、請求項
3~
8のいずれか1項に記載の焼鈍炉。
【請求項10】
さらに搬送される鋼帯を加熱するヒーターを備える、請求項1~
9のいずれか1項に記載の焼鈍炉。
【請求項11】
縦型焼鈍炉である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の焼鈍炉。
【請求項12】
筐体、および、該筐体内部の頂部と底部に鋼帯を搬送する複数列のロールを備えた焼鈍炉の施工方法であって、
前記焼鈍炉が、水平方向で炉体を分割する水平分割面を有し、該水平分割面により分割された水平分割帯が、さらに、炉体の長手方向に垂直な方向で該各水平分割帯を分割する垂直分割面を有し、
前記水平分割面および垂直分割面を有するプレハブ構造を、前記垂直分割面を突き合わせるように設置する
プレハブ構造設置工程、
前記垂直分割面を接合して水平分割帯を形成する工程
を備
え、
前記焼鈍炉が、前記水平分割面を複数有し、
少なくとも一つの前記垂直分割面の炉体長手方向位置が、隣り合う前記水平分割帯における前記垂直分割面の炉体長手方向位置と一致していない、
焼鈍炉の施工方法。
【請求項13】
前記水平分割面を複数有する焼鈍炉の施工方法であって、
前記垂直分割面を接合して形成した水平分割帯または前記プレハブ構造の上に、水平分割面および垂直分割面を有するプレハブ構造を重ねて設置する
プレハブ構造設置工程、および、水平分割面を接合する工程をさらに備える、請求項
12に記載の焼鈍炉の施工方法。
【請求項14】
前記プレハブ構造が、垂直分割面となる面に、該垂直分割面を保護するための板状補強材を備え、上記
プレハブ構造設置工程の後、該板状補強材を除去する工程を備える、請求項
12または
13に記載の焼鈍炉の施工方法。
【請求項15】
前記水平分割面および垂直分割面によって分割された各プレハブ構造が、各プレハブ構造の垂直分割面同士を接続するための二次部材を備えており、
接続する一方のプレハブ構造の二次部材と他方のプレハブ構造の二次部材とが、これら二次部材同士を接続するための締結穴を備え、
前記水平分割帯を形成する工程において、前記二次部材同士を締結具によって締結してから、接合面を溶接し、前記締結具を除去してから、前記締結穴を溶接する、
請求項
12~
14のいずれか1項に記載の焼鈍炉の施工方法。
【請求項16】
前記水平分割帯を形成する工程において、前記垂直分割面同士の間、および、前記水平分割面の間に、パッキン材を挟む工程を備え、
垂直分割面同士の間に挟むパッキン材がT字形状である、
請求項
12~
15のいずれか1項に記載の焼鈍炉の施工方法。
【請求項17】
前記
プレハブ構造設置工程の前に、前記プレハブ構造が、外側の鉄皮からなる炉殻に内張された無機繊維からなる断熱材を、あらかじめ備えている、請求項
12~
16のいずれか1項に記載の焼鈍炉の施工方法。
【請求項18】
前記
プレハブ構造設置工程の前に、前記プレハブ構造が、鋼板を加熱するヒーターをあらかじめ備えている、請求項
12~
17のいずれか1項に記載の焼鈍炉の施工方法。
【請求項19】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の焼鈍炉を構成する、
炉体を分割する水平分割面および垂直分割面を備えた、プレハブ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍炉、焼鈍炉の施工方法、および、ブレハブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、焼鈍炉を備えた亜鉛メッキラインの一例の概念図を示す。図示した焼鈍炉100Aは、鋼帯91を所定の温度に加熱する加熱室92、加熱した鋼帯を一定温度に保つ均熱室94、および、均熱された鋼帯を所定の温度に冷却する冷却室96、96を備え、さらに、亜鉛メッキ槽98を備えている。
【0003】
鋼帯91は、焼鈍炉内部の上面付近に設けられたトップロール93aおよび下面付近に設けられたボトムロール93bの間を連続的に進み、加熱、均熱、さらには、冷却されながら、焼鈍炉内を搬送される。
【0004】
図1に示した形態では、加熱室92、均熱室94、および、冷却室96が別体となって焼鈍炉を形成しているが、施工場所の都合によって、これら各室は一体で形成される場合もある。加熱室92、均熱室94、および、冷却室96を備える焼鈍炉を含んだ設備全長は30~50mにおよぶが、加熱室92を備える焼鈍炉、または、加熱室92および均熱室94を備える焼鈍炉の全長は、10~25mとなる。これら種々の形態の焼鈍炉を施工する場合、従来はパネル工法が採用されていた。
【0005】
図2に加熱室92を備えた焼鈍炉100Bの斜視図を示す。パネル工法では、製作工場において、トップロール93aを配置するトップロールチャンバー95a、ボトムロール93bを配置するボトムロールチャンバー95b、および、妻側パネル97、炉殼パネル98をそれぞれ製作して、これらを施工現場に搬送し、組み立てを行っている。
具体的には、支柱99にボトムロールチャンバー95bを取り付け、妻側パネル97をボ卜ムロールチャンバー95bの上に取り付け、そして、トップロールチャンバー95aをこの妻側パネル97に載置する。このようにして炉体の骨格ができたら、炉殼パネル98を順次張り付けていく。その後、各接合部を溶接して炉殼が形成される。
次に、内部より断熱材を張設し、ボトムロール93b、トップロール93a、および、ヒーター93cを取り付ける。
【0006】
しかし、上記のパネル工法では、施工現場での据付工事に多くの労力と時間がかかっており、より簡易に、かつ、短時間で施工可能な方法が求められている。そのような方法として、特許文献1には、プレハブ工法(ブロック工法)が提案されている。
【0007】
特許文献1のプレハブ工法では、炉体を水平方向に輪切りにした各ブロックを工場にて作製し、これらを施工現場に搬送して、積み上げることで加熱炉が施工される。このため、施工現場での作業が大幅に減少して、工期の短縮を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1のプレハブ工法では、施工現場が内陸にある場合は、工場から施工現場まで、トレーラーによって各ブロックを搬送する必要がある。各ブロックの長さは、トレーラーによって搬送可能な長さに制限される。このため、上記特許文献1のプレハブ工法は、炉長の長い焼鈍炉には対応できないという問題があった。
特に加熱帯と均熱帯が一体になった焼鈍炉においては、その長さが20mを超えるものもある。また、ボトムロールチャンバーを残したまま、上部のみを更新し建替えたいという要望もあったが、従来のプレハブ工法では炉長の長い焼鈍炉には対応できないとう問題点があった。
そこで、本発明は、長い炉長の焼鈍炉であっても、プレハブ工法が適用可能な焼鈍炉、該焼鈍炉の施工方法、および、該焼鈍炉を構成するプレハブ構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の事項を見出した。
・焼鈍炉を水平に分割すると共に、縦にも分割することで、炉長の長い焼鈍炉に対してもプレハブ工法が適用可能となる。
・単純に焼鈍炉を縦に分割した場合、施工後の焼鈍炉は構造上弱く、焼鈍炉自身の重量を支えきれないおそれがある。または、支えられたとしても、耐震強度に乏しい可能性がある。
・焼鈍炉の内部は、水素・窒素雰囲気であり、外気と遮断する必要がある。単純に焼鈍炉を縦に分割した場合、十字状の接合部が生じることになるが、該十字状の接合部において、シール性を確保し難いという問題が生じる可能性がある。
・本発明の好ましい形態では、焼鈍炉を単に縦に分割するのではなく、各水平分割面を境にして、縦の分割位置を適宜調整することにより、上記したさらなる課題を解決可能である。
【0011】
以上の事項を基に、本発明者は以下の発明を完成させた。
第1の本発明は、筐体、および、該筐体内部の頂部と底部に鋼帯を搬送する複数列のロールを備えた焼鈍炉であって、
前記焼鈍炉が、水平方向で炉体を分割する水平分割面を有し、該水平分割面により分割された水平分割帯が、さらに、炉体の長手方向に垂直な方向で該各水平分割帯を分割する垂直分割面を有することを特徴とする焼鈍炉である。
【0012】
第1の本発明において、前記焼鈍炉は複数の水平分割面を有し、少なくとも一つの前記垂直分割面の炉体長手方向位置が、隣り合う前記水平分割帯における垂直分割面の炉体長手方向位置と一致していないことが好ましい。
【0013】
第1の本発明において、上下方向で隣り合う前記水平分割帯における前記垂直分割面の炉体長手方向位置が、1m以上長手方向に離れていることが好ましい。
【0014】
第1の本発明において、前記水平分割面および垂直分割面によって分割された各プレハブ構造が、各プレハブ構造の垂直分割面同士を接続するための二次部材を備えており、接続する一方のプレハブ構造の二次部材の水平方向の幅と、接続する他方のプレハブ構造の二次部材の水平方向の幅とが、異なっていることが好ましい。
【0015】
第1の本発明において、前記一方のプレハブ構造の二次部材が強度の高い二次部材であり、前記他方のプレハブ構造の二次部材が曲げ加工し易い二次部材であることが好ましい。
【0016】
第1の本発明において、前記一方のプレハブ構造の二次部材と前記他方のプレハブ構造の二次部材とが、これら二次部材同士を締結するための締結穴を備え、該それぞれの締結穴の大きさが異なっていることが好ましい。
【0017】
第1の本発明において、前記各プレハブ構造における、水平分割面および垂直分割面の接合面に、パッキン材を備えることが好ましい。
【0018】
第1の本発明において、前記垂直分割面の接合面が備えるパッキン材が、T字形状であることが好ましい。
【0019】
第1の本発明において、前記パッキン材が、無機繊維ブランケットからなることが好ましい。
【0020】
第1の本発明において、前記各プレハブ構造を構成する筐体が、外側の鉄皮からなる炉殻と、該炉殻に内張された断熱材を備えてなることが好ましい。
【0021】
第1の本発明の焼鈍炉は、さらに搬送される鋼帯を加熱するヒーターを備えることが好ましい。
【0022】
第1の本発明の焼鈍炉は、縦型焼鈍炉であることが好ましい。
【0023】
第2の本発明は、筐体、および、該筐体内部の頂部と底部に鋼帯を搬送する複数列のロールを備えた焼鈍炉の施工方法であって、前記焼鈍炉が、水平方向で炉体を分割する水平分割面を有し、該水平分割面により分割された水平分割帯が、さらに、炉体の長手方向に垂直な方向で該各水平分割帯を分割する垂直分割面を有し、
前記水平分割面および垂直分割面を有するプレハブ構造を、前記垂直分割面を突き合わせるように設置する工程、
前記垂直分割面を接合して水平分割帯を形成する工程、
を備えることを特徴とする、焼鈍炉の施工方法である。
【0024】
第2の本発明において、前記焼鈍炉が水平分割面を複数有し、前記垂直分割面を接合して形成した水平分割帯またはプレハブ構造の上に、水平分割面および垂直分割面を有するプレハブ構造を重ねて設置する工程、および、水平分割面を接合する工程をさらに備えることが好ましい。
【0025】
第2の本発明において、前記プレハブ構造が、垂直分割面となる面に、該垂直分割面を保護するための板状補強材を備え、上記設置工程の後、該板状補強材を除去する工程を備えることが好ましい。
【0026】
第2の本発明において、前記水平分割面および垂直分割面によって分割された各プレハブ構造が、各プレハブ構造の垂直分割面同士を接続するための二次部材を備えており、
接続する一方のプレハブ構造の二次部材と他方のプレハブ構造の二次部材とが、これら二次部材同士を接続するための締結穴を備え、
前記水平分割帯を形成する工程において、前記二次部材同士を締結具によって締結してから、接合面を溶接し、前記締結具を除去してから、前記締結穴を溶接することが好ましい。
【0027】
第2の本発明において、前記水平分割帯を形成する工程において、前記垂直分割面同士の間、および、前記水平分割面の間に、パッキン材を挟む工程を備え、垂直分割面同士の間に挟むパッキン材がT字形状であることが好ましい。
【0028】
第2の本発明において、前記設置工程の前に、前記プレハブ構造が、外側の鉄皮からなる炉殻に内張された無機繊維からなる断熱材を、あらかじめ備えていることが好ましい。
【0029】
第2の本発明において、前記設置工程の前に、前記プレハブ構造が、鋼板を加熱するヒーターをあらかじめ備えていることが好ましい。
【0030】
第3の本発明は、第1の本発明の焼鈍炉を構成する、炉体を分割する水平分割面および垂直分割面を備えた、プレハブ構造である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の焼鈍炉、該焼鈍炉の施工方法、および、プレハブ構造によれば、長い炉長の焼鈍炉であっても、プレハブ工法によって設置をすることが可能となる。プレハブ工法を採用しているので、短期間で施工することが可能である。また、垂直分割面の炉体長手方向位置を調整した本発明の好ましい形態の焼鈍炉は、良好な強度を有し、良好なシール性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、一般的な焼鈍炉の構成を示す概念図である。
【
図3】
図3は、本発明の焼鈍炉の外観斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の焼鈍炉における垂直分割面の接合方法を示す概念図である。
【
図5】
図5は、本発明の焼鈍炉の施工方法を示すフロー図である。
【
図6】
図6は、本発明の焼鈍炉を構成するプレハブ構造の斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の焼鈍炉の垂直分割面における二次部材を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の焼鈍炉の垂直分割面および水平分割面におけるパッキン材の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態の一例としての焼鈍炉、および、該焼鈍炉の施工方法について説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、数値範囲を示す「a~b」の記述は、特にことわらない限り「a以上b以下」を意味すると共に、「好ましくはaより大きい」及び「好ましくはbより小さい」の意を包含するものである。
また、本明細書における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0034】
<焼鈍炉>
本発明の焼鈍炉は、筐体、および、該筐体内部の頂部と底部に鋼帯を搬送する複数列のロールを備えた焼鈍炉であって、
前記焼鈍炉が、水平方向で炉体を分割する水平分割面を有し、該水平分割面により分割された水平分割帯が、さらに、炉体の長手方向に垂直な垂直方向で該各水平分割帯を分割する垂直分割面を有する、焼鈍炉である。
【0035】
本発明において、「焼鈍炉」とは、主として、冷間圧延した鋼板を、連続的に焼鈍するための冷延焼鈍炉をいい、例えば、連続焼鈍ライン(CAL)、または、亜鉛メッキライン(CGL)などにおいて使用される連続焼鈍炉をいうが、これに限定されるのではなく、鋼板を連続的に焼鈍することができる連続焼鈍炉全般を意味する。
また、焼鈍炉は、加熱炉および均熱炉の他、冷却炉も備えた焼鈍炉をも包含する意味である。加熱炉および均熱炉は、さらに、搬送される鋼帯を加熱するヒーターを備えていることが好ましい。また、焼鈍炉は縦型焼鈍炉であることが好ましい。
【0036】
図3に、本発明の好ましい形態の焼鈍炉100Cの斜視図を示す。図示した焼鈍炉100Cは、加熱帯と均熱帯とが一体になった焼鈍炉である。焼鈍炉100Cの入り口11から導入された鋼帯は、ボトムロール93bおよびトップロール93aを順に経由して、炉の出口19に向けて搬送されていく。ボトムロール93bとトップロール93aとの間には、鋼帯を加熱するヒーター93cが配置されている。
【0037】
ボトムロール93b、トップロール93aの数は、特に限定されず、焼鈍炉の長さによって、適式な数が採用される。ボトムロール93bおよびトップロール93aは、それぞれ、筐体の下部および上部、具体的には、ボトムロールチャンバー10およびトップロールチャンバー20に回動可能に固定されている。
【0038】
ヒーター93cは、トップロール93aとボトムロール93bとの間の、鋼帯の搬送経路に沿って、複数配置される。配置されるヒーターの数は、特に限定されず、鋼帯の加熱温度によって適宜調整される。また、当初は配置できる最大限のヒーターを配置しておいて、一部のヒーターを停止させることによって、鋼帯の加熱温度を調整してもよい。ヒーターの種類は特に限定されないが、ラジアントチューブ、チューブヒーター、高周波誘導加熱式ヒーターなどを使用することができる。
図3ではラジアントチューブ式ヒーターを備え付けている図を示している。
【0039】
図4に示すように、焼鈍炉の筐体は、鉄皮からなる炉殻50により構成されており、加熱炉92および均熱炉94の筐体は、外側の鉄皮50からなる炉殻と、該炉殻50に内張された断熱材40を備えている。断熱材40の種類は、焼鈍炉の内外を断熱する効果があれば、特に限定されないが、無機繊維からなる断熱材である、無機繊維ブランケット、無機繊維ブロックなどを使用することができる。
図4に示した形態では、断熱材40として、無機繊維ブランケット42とショットの少ない無機繊維ブランケット44とを組み合わせて使用している。このほかにも、無機繊維ブランケット42に代えて無機繊維ブロックを使用したり、無機繊維ブランケット44に代えて耐熱ステンレス板やアルミナクロス等を使用したりしてもよい。
【0040】
(水平分割帯)
図3に示すように、本発明の焼鈍炉100Cは、水平分割面32を有しており、該水平分割面32で分割された各部材を、水平分割帯34という。よって、本発明の焼鈍炉100Cは、複数の該水平分割帯34が順に積み上げられて形成されている。具体的には、ボトムロールチャンバーに対応する水平分割帯34aの上に、水平分割帯34b~34iが順に積層され、その上に、トップロールチャンバーに対応する水平分割帯34jが積層されている。
【0041】
(プレハブ構造)
水平分割面32で分割された各水平分割帯34は、さらに、垂直分割面36を有している(
図3において、下2段およびトップロールチャンバーに対応する水平分割帯の垂直分割面に番号を付し、他は省略している。)。垂直分割面36は、路体の長手方向(
図3中のX方向)に垂直な方向で各水平分割帯34を分割する面である。水平分割帯34を垂直分割面36で分割した各部材をプレハブ構造34A、34Bという(例えば、水平分割帯34aの各プレハブ構造を、図示左から、プレハブ構造34aA、34aBと言う。)。
このように、本発明の焼鈍炉100Cでは、水平分割帯34をさらにプレハブ構造36A、36Bに分割可能である。このため、トレーラーによって搬送可能な長さにプレハブ構造36A、36Bを調整することによって、炉長の長い焼鈍炉にも対応可能となる。
【0042】
水平分割帯34は、複数の垂直分割面36を有していてもよく、二以上のプレハブ構造に分割されるように構成されていてもよい。しかし、例えば、水平分割帯34が二つの垂直分割面36を備えている場合、長手方向端部側のフロック構造は妻側パネルを備えているので、強度が保持されるが、中央部のプレハブ構造は平側パネルのみから構成される。
【0043】
本発明では、少なくとも一つの垂直分割面の炉体長手方向位置が、隣り合う水平分割帯における垂直分割面の炉体長手方向位置と一致していないことが好ましい。本発明の好ましい形態である
図3で示した焼鈍炉では、上下方向で隣り合う水平分割帯34の垂直分割面36の炉体長手方向の位置は一致していない。このように構成することによって、焼鈍炉を構造上強くすることができる。つまり、焼鈍炉を単純に縦に分割した場合は、各垂直分割面36の炉体長手方向位置は、上下の各水平分割帯34において一致することになるが、そうすると、構造上弱い溶接個所が一直線上に並ぶため、焼鈍炉が構造上弱くなる。本発明ではこれを防止できる。
【0044】
また、上記のように各垂直分割面36の炉体長手方向位置が、各水平分割帯34で一致している場合は、水平方向および垂直方向共に溶接個所が一直線上に並び、十字状の接合部が生じることになる。焼鈍炉の内部は、水素、窒素雰囲気等であり、外気と遮断する必要があるが、該十字状の接合部がある場合は、シール性を確保するための溶接が非常に難しい。本発明ではこれを防止できる。
【0045】
上下方向で隣り合う水平分割帯34における垂直分割面36の炉体長手方向位置は、互いに1m以上炉体長手方向に離れていることが好ましく、2m以上離れていることがより好ましく、3m以上離れていることがさらに好ましい。垂直分割面36の炉体長手方向位置が1m以上離れていることで、焼鈍炉の構造をより強固なものとすることができる。
垂直分割面の水平分割面に対する角度は適宜選択できるが、80°~90°(垂直)が好ましく、88~90°(垂直)がより好ましい。垂直分割面は、一直線でもよいが、途中で折れ曲がっていてもよく、曲線であってもよい。
【0046】
(二次部材)
下記の焼鈍炉の施工方法において説明するように、各プレハブ構造を設置して分割面同士を接合するにあたって、分割面の接合強度を保つべく、プレハブ構造は、分割面を接合するための二次部材を備えていることが好ましい。
二次部材としては、
図4に示したコの字部材(チャンネル・溝形鋼)52とL字部材(アングル・山形鋼)54を挙げることができるが、これらに限定されず、分割面同士の密着性および接合強度を保つことができる種々の形態の二次部材を使用可能である。二次部材は、溶接などの通常の方法により、プレハブ構造を構成する炉殻50に接合されている。接合する一方のプレハブ構造に備えられた二次部材と、他方のプレハブ構造に備えられた二次部材とを溶接により接合することで、プレハブ構造同士を接続しかつシール性を確保することができる。
【0047】
本発明の焼鈍炉においては、分割面として、水平分割面32と垂直分割面36とがあるが、水平分割面32を接合する場合は、上側の水平分割帯34の重みにより、水平分割面32の密着性を出すことが可能であり、この点で、接合強度を保った溶接がし易い。これに対して、垂直分割面36を接合する場合は、プレハブ構造同士を密着させる工夫が別途必要となる。以下、分割面、特に垂直分割面36の密着性および接合強度を保つための種々の形態について説明する。
【0048】
・二次部材の幅
接続する一方のプレハブ構造の二次部材と、他方のプレハブ構造の二次部材とは、それらの水平方向の幅(
図4中の、W1およびW2)が異なっていることが好ましい。ここで、水平方向の幅とは、プレハブ構造が焼鈍炉として施工された姿勢における水平方向における幅を意味する。二次部材の幅が異なることによって、これら二次部材を付き合わせた際に、一方の二次部材の端部と他方の二次部材の端部とが面一とならずに、一方がはみ出た状態となる。このため、溶接時の施工性が向上する。
【0049】
・二次部材の形状
接続する一方のプレハブ構造の二次部材は強度の高い二次部材であり、他方のプレハブ構造の二次部材は曲げ加工し易い二次部材であることが好ましい。強度の高い二次部材としては、
図4の左側のプレハブ構造に接続されているコの字部材(チャンネル)52を挙げることができる。また、曲げ加工し易い二次部材としては、
図4の右側のプレハブ構造に接続されているL字部材(アングル)54を挙げることができる。
【0050】
一方の接続部材を強度の高いものとすることで、分割面の接合強度や構造体全体の強度を良好にすることができ、他方の接続部材を曲げ加工し易い二次部材とすることによって、プレハブ構造同士の密着性を出すことができる。よって、本形態は、密着性を出しにくい垂直分割面同士を接続する際に、好ましい形態であるといえる。
【0051】
・締結穴
接続する一方のプレハブ構造の二次部材と他方のプレハブ構造の二次部材とが、これら二次部材同士を締結するための締結穴52a、54aを備えていることが好ましい。締結穴52a、54aとは、ボルトおよびナットなどの締結具60a、60bを入れるための穴を意味する。プレハブ構造同士を接合する際には、上記締結穴52a、54aに締結具60a、60bを挿入して、締結させることにより、二次部材同士を密着させることができ、この状態で、二次部材の接合面を溶接することで、プレハブ構造同士の良好な密着性を図ることが可能となる。なお、締結具60a、60bは、二次部材を溶接した後は、取り除かれる。
【0052】
また、接続する一方の二次部材と他方の二次部材の締結穴52a、54aの大きさは、互に異なっていることが好ましい。プレハブ構造同士のシール性の確保を図る観点から、締結具60a、60bを取り除いた後、締結穴52a、54aの周囲は溶接されるが、締結穴52a、54aの大きさを互に異なるようにしておけば、締結穴52a、54aの端部が面一とならずに、一方がはみ出た状態となる。このため、溶接時の施工性が向上する。上記締結穴52a、54aを有する構造は、締結具60a、60bを使用することによって、プレハブ構造同士の密着性を出すことができる。よって、垂直分割面同士を接続する際に、好ましい形態であるといえる。締結穴の間隔は特に限定されないが、200~400mmピッチが好ましい。また締結穴の大きさは特に限定されないが、直径10mm以上が好ましく、直径16mm以上がより好ましい。また締結穴の大きさの違いは特に限定されないが、直径で6mm以上異なることが好ましく、直径で10mm以上異なることがより好ましい。
【0053】
(パッキン材)
図4に垂直分割面36の接合部分の一例において示したように、各プレハブ構造における、水平分割面32および垂直分割面36の接合面に、パッキン材46を備えることが好ましい。パッキン材46を備える接合面とは、一方のプレハブ構造が備える断熱材40と他方のプレハブ構造が備える断熱材40との接合面をいう。パッキン材46を備えることによって、断熱材40に隙間がなくなり、断熱性能の向上や、プレハブ構造の外壁部分(炉殻)への熱の侵入を防ぐことが可能となる。
【0054】
パッキン材46は、上記の隙間を無くす観点から、
図4に示したように折りたたんで使用することが好ましい。これより、折りたたんだパッキン材46の復元力により、断熱材40の隙間をより効果的に無くすことが可能となる。水平分割面32に付与するパッキン材の形状は特に限定されず、例えば、水平分割面32の接合面を覆う帯状のパッキン材を使用することができる。これに対して、垂直分割面36に付与するパッキン材の形状は、T字形状であることが好ましい。T字形状であることにより、垂直分割面36におけるパッキン材46の垂直方向の位置を固定することができ、パッキン材がずれ落ちて隙間が発生するリスクを軽減できる。
図4の形態では、垂直分割面の接合面に、折りたたんだ帯状のパッキン材と折りたたんだT字形状のパッキン材の両方を配置している。
【0055】
パッキン材46の材質は特に限定されず、耐熱性を有する材料により形成可能であるが、例えば、無機繊維ブランケットからなるパッキン材を好ましく使用することができる。無機繊維ブランケットとしては、具体的には、三菱ケミカル社製のMAFTECを使用することができる。T字形状のパッキン材の製造方法は特に限定されないが、2枚の無機繊維ブランケットそれぞれを折りたたみ、T字に重ね合わせて、重ね合わせ部をアルミナロープで固定する方法などがある。
【0056】
<焼鈍炉の施工方法>
上記した焼鈍炉、つまり、筐体、および、該筐体内部の頂部と底部に鋼帯を搬送する複数列のロールを備えた焼鈍炉であって、水平方向で炉体を分割する水平分割面32を有し、該水平分割面32により分割された水平分割帯34が、さらに、炉体の長手方向に垂直な方向で該各水平分割帯34を分割する垂直分割面36を有する焼鈍炉は、以下の方法により施工可能である。
本発明の焼鈍炉の施工方法は、水平分割面32および垂直分割面36を有するプレハブ構造を、垂直分割面36を突き合わせるように設置する工程、垂直分割面36を接合して水平分割帯34を形成する工程、を備える。
【0057】
また、好ましい形態の焼鈍炉の施工方法は、水平分割面32を複数有する焼鈍炉の施工方法であって、垂直分割面36を接合して形成した水平分割帯34またはプレハブ構造の上に、水平分割面32および垂直分割面36を有するプレハブ構造を重ねて設置する工程、および、水平分割面32を接合する工程をさらに備える。
【0058】
図5に、本発明の好ましい形態の焼鈍炉の施工方法のフロー図を示す。S1の「プレハブ構造設置工程」では、最下部のプレハブ構造が設置され、その後、S2の「水平分割帯形成工程」により、プレハブ構造同士の垂直分割面が接合されて、最下部の水平分割帯が形成される。
S3の「プレハブ構造設置工程」では、二段目のプレハブ構造が設置され、その後、S4の「水平分割帯形成工程」により、プレハブ構造同士の垂直分割面が接合されると共に、一段目の水平分割帯と、二段目の水平分割帯との水平分割面も接合されて、二段目の水平分割帯が形成される。なお、S4において、垂直分割面の接合および水平分割面の接合は、いずれを先に行ってもかまわない。
その後、S3およびS4を複数回に亘って繰り返すことによって、水平分割帯が順々に形成されて、最後に同様にS3およびS4によりトップロールチャンバーが形成されて、本発明の施工方法により焼鈍炉が施工される。
【0059】
図3に示した焼鈍炉100Cでは、S1において、プレハブ構造34aAおよびプレハブ構造34aBが設置され、S2において、これらのプレハブ構造の垂直分割面36が接合されて水平分割帯34a、つまり、最下部のボトムチャンバー34aが形成される。なお、炉体の更新工事で既存のボトムチャンバーを残した場合は、該ボトムチャンバーよりも上部の炉体を更新するために本発明の方法を用いてもよい。
S3において、プレハブ構造34bAおよびプレハブ構造34bBが設置され、S4において、これらのプレハブ構造の垂直分割面36が接合されて二段目の水平分割帯34bが形成され、先に形成された水平分割帯34aと水平分割帯34bとの水平分割面32が接合される。
その後、S3およびS4を繰り返すことによって、水平分割帯34c~34iが順々に形成されて、最後に同様にS3およびS4によりトップロールチャンバー34jが形成されて、本発明の施工方法により焼鈍炉100Cが施工される。
【0060】
なお、上記では、垂直分割面36を接合して形成した水平分割体34の上に、プレハブ構造を設置する方法について説明したが、プレハブ構造を設置し、その上にさらにプレハブ構造を設置して、まずはこれらの間の水平分割面32を接合し、その後、それぞれの垂直分割面36を接合してもよいし、あるいは、それぞれの垂直分割面36を先に接合し、その後、水平分割面32を接合してもよく、これらの形態も本発明の範囲に含まれる。
【0061】
以下、各工程について詳細に説明する。
(プレハブ構造設置工程)
図6にプレハブ構造34Bの斜視図を示す。プレハブ構造はあらかじめ工場にて作製され、その後、施工現場に搬送される。プレハブ構造設置工程では、搬送されたプレハブ構造が、例えばクレーンによって、焼鈍炉が施工される位置に設置される。工場にて作製されたプレハブ構造の垂直分割面36では、断熱材40が露出している。工場から施工現場への搬送時、施工現場での保管時、さらには、クレーンでの吊り下げ時等において、該露出した断熱材40を保護することが要望される。このため、プレハブ構造は、垂直分割面36に、これを保護するための板状補強材70を備えていることが好ましい。またプレハブ構造を工場から施工現場に搬送する際には、変形しないようにプレハブ構造の強度を上げる必要がある。そのためにもプレハブ構造は、板状補強材70を備えていることが望ましい。
【0062】
板状補強材70を備えるプレハブ構造を使用する場合は、垂直分割面36を接合する前に、該板状補強材70を取り外す工程を有する必要がある。板状補強材70は、プレハブ構造をクレーンで釣り上げる前に取り外してもよいが、クレーンで吊り上げた際のプレハブ構造の変形を防止すべく、施工位置近傍に設置した後に取り外すことが好ましい。ここで、施工位置近傍とは、施工位置から100mm程度ずれた位置であり、板状補強材70を取り外すスペースを確保するために、まずはずれた位置に設置され、その後、板状補強材70を取り外した後に、施工位置にずらして垂直分割面36が接合される。
【0063】
板状補強材70をプレハブ構造に取り付ける手段は特に限定されないが、例えば、プレハブ構造の垂直分割面36に形成した二次部材52、54に形成した締結穴52a、54aを利用して、固定することが可能である。
【0064】
プレハブ構造設置工程の前に、プレハブ構造は、外側の鉄皮からなる炉殻50に内張された無機繊維からなる断熱材40を、あらかじめ備えていることが好ましい。また、プレハブ構造設置工程の前に、プレハブ構造は、鋼板を加熱するヒーター93cをあらかじめ備えていることが好ましい。つまり、工場での製造段階において、あらかじめプレハブ構造に断熱材、ヒーター、または、これら両方を設置しておくことで、施工現場では、搬送されたプレハブ構造を順に設置および接合していくだけでよく、施工時間をさらに短縮させることが可能となる。
【0065】
(水平分割帯形成工程)
水平分割帯形成工程では、設置したプレハブ構造の垂直分割面36同士を接合して、水平分割帯34を形成する。垂直分割面36の接合は、垂直分割面36が備える二次部材を溶接により接合することにより行われることが好ましい。
上記したように、垂直分割面36は密着性を出し難い、よって、接続する一方のプレハブ構造の垂直分割面36の二次部材と他方のプレハブ構造の垂直分割面36の二次部材とは、これら二次部材同士を接続するための締結穴52a、54aを備えていることが好ましい。
【0066】
水平分割帯形成工程では、
図4に示すように、上記二次部材同士を締結具60a、60bによって締結することが好ましい。これにより、二次部材同士を密着させることができる。その後、接合面を溶接し、締結具を除去してから、前記締結穴を溶接することが好ましい。
図4の形態では、図示右側の二次部材の締結穴が左側の二次部材の締結穴に比べると大きい。よって、右側から溶接することが可能である。接合した二次部材を右側から見た斜視図を
図7に示す。このように、右側から締結穴の周囲を溶接することによりシール性を確保することができる。
【0067】
(パッキン材を挟む工程)
水平分割帯形成工程において、垂直分割面36同士の間、および、水平分割面32同士の間に、パッキン材46を挟む工程を備えていることが好ましい。垂直分割面36同士の間にパッキン材46A、および、水平分割面32同士の間にパッキン材46Bを挟んで、分割面同士を接合した状態を示す模式図を
図8に示す。
図8では、パッキン材46A、46Bの様子を示すべく、一部の構造を省略して示している。
水平分割面32同士の間に挟むパッキン材46Bは、プレハブ構造設置工程において、次のプレハブ構造を設置する前に、すでに形成した水平分割帯34の水平分割面32上に設置される。
【0068】
プレハブ構造を設置して垂直分割面36同士を突き合わせる前に、垂直分割面36同士の間に挟むパッキン材46Aは、垂直分割面36同士の間に設置される。垂直分割面36同士の間に挟むパッキン材46AはT字形状であることが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例として、
図3に示した加熱炉92からなる焼鈍炉100Cの施工例について、説明する。
工場において、焼鈍炉100Cを構成する各プレハブ構造を作製した。各プレハブ構造の幅は3m、プレハブ構造の垂直方向高さは、2.7mである。また、図示左側のプレハブ構造(ボトムロールチャンバー)34aAの長手方向の長さは11mであり、図示右側のプレハブ構造(ボトムロールチャンバー)34aBの長手方向の長さも11mである。プレハブ構造34bAの長手方向長さは12mであり、プレハブ構造34bBの長手方向長さは10mであり、プレハブ構造34cAの長手方向長さは10mであり、プレハブ構造34cBの長手方向長さは12mである。その上の各プレハブ構造の長さも同様である。また、左側のトップロールチャンバー34jAの長手方向長さは11.5mであり、右側のトップロールチャンバー34jBの長手方向長さは10.5mである。
【0070】
各プレハブ構造は、工場において、炉殻の内側に断熱材40を内張りした。また、各プレハブ構造の垂直分割面36および水平分割面32には、
図4に示した締結穴を有するチャンネル52とアングル54が接合されている。垂直分割面36においては、図示左側のプレハブ構造にチャンネル52が接合され、図示右側のプレハブ構造にアングルが接合されている。また、各プレハブ構造における、上側の水平分割面にはアングルが接合され、下側の水平分割面にはチャンネルが接合されている。また、垂直分割面36には、厚さ6mmの板状補強板70が、アングル54またはチャンネル52を介して取り付けられている。水平分割面32には、補強材であるブレスが取り付けられている。
【0071】
上記工場にて作製した各プレハブ構造を、施工現場に搬送した。各プレハブ構造の長さは、トレーラーに積載可能な範囲であり、現場への搬送が可能であった。搬送されたプレハブ構造のうち、まずは、ボトムロールチャンバーに対応するプレハブ構造34aAを場内クレーンを使用して施工場所に設置した。施工場所に設置後、プレハブ構造34aAから板状補強板70およびブレスを取り外した。
【0072】
プレハブ構造34aBを場内クレーンを使用して施工場所に設置した。施工場所に設置後、プレハブ構造34aBから板状補強板70およびブレスを取り外した。MAFTEC 6p12.5tを2枚を2つ折りし、重ね合わせ部をアルミナロープで縫製したT字状の無機繊維ブランケット(パッキン材46A)を垂直分割面36に設置した。またMAFTEC 6p12.5t(パッキン材46B)を、水平分割面32の断熱材40の端面を覆うようにして、二つ折りにして水平分割面32に隙間なく設置した。パッキンの固定に長さ100mのL字型のピンを用いて、300mmピッチで、焼鈍炉に取付けられた断熱材に固定した。
垂直分割面36に接合されたチャンネルとアングルを、チャンネル52側からワッシャーとM16のボルトで、アングル54側からカラー、ワッシャー、およびナットにより締結した。チャンネル52とアングル54との接合面を200mmピッチで点溶接した。
ボルト、ナット、ワッシャー、カラーを取り外し、締結穴の大きい側から(図示右側から)、ボルト穴の接合面を線溶接した。その後、チャンネル52とアングル54との接合面を線溶接した。
以上により、一段目の水平分割帯34aを施工した。
【0073】
その後、上記と同様の手順により、二段目のプレハブ構造34bAおよび34bBを場内クレーンにて設置、接合して、二段目の水平分割帯34bを施工した。その後、一段目の水平分割帯34aと二段目の水平分割帯34bとを、上側から(つまり、水平方向の幅の小さいアングル54側から)線溶接して、水平分割面32を接合させた。
【0074】
以上の工程を繰りかえることにより、水平分割帯34a~34jまでを形成して、焼鈍炉100Cを施工した。なお、ラジアントチューブは、各プレハブ構造をクレーンで所定位置に設置した後の段階で、プレハブ構造の所定位置に設置した。
【産業上の利用分野】
【0075】
本発明の焼鈍炉、および、該焼鈍炉の施工方法によれば、長い炉長の焼鈍炉であっても、プレハブ工法によって設置をすることが可能となる。よって、トレーラーでの搬送が必要な内陸において、炉長の長い焼鈍炉をプレハブ工法により施工することが可能となる。プレハブ工法を採用しているので、短期間での施工が可能であり、時間削減、人件費削減につながる。さらに、施工された焼鈍炉は、構造上の強度を有し、内部と外部とを遮断するシール性を有している。
【符号の説明】
【0076】
100C:焼鈍炉
11:入り口
19:出口
91:鋼帯
93a:トップロール
93b:ボトムロール
93c:ヒーター
32:水平分割面
36:垂直分割面
34:水平分割帯
34A、34B:プレハブ構造
52:チャンネル
54:アングル
40:断熱材
46:パッキン材
50:炉殻