(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】農作物又は植物の糸状菌防除剤組成物及び防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/12 20060101AFI20250306BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20250306BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
A01N59/12
A01P3/00
A01N25/04 102
(21)【出願番号】P 2024021719
(22)【出願日】2024-02-16
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000126609
【氏名又は名称】株式会社エーアンドエーマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 智大
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106417366(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0224220(US,A1)
【文献】特開2000-169315(JP,A)
【文献】特公昭44-012910(JP,B1)
【文献】国際公開第2021/059613(WO,A1)
【文献】特開2022-024524(JP,A)
【文献】特開2020-125560(JP,A)
【文献】特表2017-517484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/12
A01P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、
ヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸鉄(III)、ヨウ素酸銅(II)及び過ヨウ素酸カリウムから選ばれる1種又は2種以上のヨウ素系金属塩とを含み、水に溶解していない前記ヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩を含む水懸濁液、を含有する、農作物又は植物の糸状菌防除剤組成物。
【請求項2】
前記糸状菌感染病が、サツマイモ基腐病、うどんこ病、黒星病、褐班病、べと病、灰色かび病、白紋羽病、紫紋羽病、すす点病、炭そ病及びいもち病から選ばれる感染病である、請求項1記載の防除剤組成物。
【請求項3】
前記糸状菌感染病が、サツマイモ基腐病である、請求項1記載の防除剤組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の防除剤組成物を農作物又は植物の糸状菌に施用する工程を有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除方法。
【請求項5】
前記施用が、前記防除剤組成物を、対象農作物又は植物の茎、葉、種芋、種又は圃場に散布又は塗布する、請求項
4記載の防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物又は植物の糸状菌防除剤組成物及び防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サツマイモ基腐病、うどんこ病などの農作物や植物の感染病は糸状菌が原因である。特にサツマイモ基腐病は、2018年以降、感染が拡大し、良好な防除手段がなく、新たな防除手段の開発が望まれている。
これらの病害の防除手段としては、種々の殺菌剤が使用されているが、効果の高い有機化合物系の合成農薬は毒性が高く、散布作業時の安全性や圃場の土壌活性の低下、また食材として安全性に課題がある。
【0003】
ヨウ素及びヨウ素酸は、ウイルス、カビ(糸状菌)、細菌に対する消毒作用があることが知られているが、水に対する溶解度が高く、水に溶出して消毒作用が低下する課題がある。これに対し、ヨウ素酸塩を繊維、布地、衣服、紙類、合成樹脂類、プラスチック類、建築資材などの無機材料又は有機材料に担持させる技術が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記ヨウ素酸塩を担持した無機材料や有機材料は、農作物や圃場への液体散布による消毒用途として使用できない。
従って、本発明の課題は、液体散布が可能な、無機化合物系の農作物や植物糸状菌防除剤及び防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、ヨウ素酸又は過ヨウ素酸に加えて水に対する溶解度の低いヨウ素酸金属塩又は過ヨウ素酸金属塩を用いてこれらを含有する懸濁液とし、当該懸濁液を農作物又は圃場に散布すれば、不溶性のヨウ素酸金属塩又は過ヨウ素酸金属塩は、農作物の茎、葉、圃場表層を被覆する。また、土壌中には、天然の金属元素、肥料や消毒資材から分解・溶出した金属イオンが存在するため、土壌に入ったヨウ素酸又は過ヨウ素酸は、土壌中の金属元素や金属イオンと化学反応し、徐々に不溶性のヨウ素酸金属塩又は過ヨウ素酸金属塩となる。かくして、当該懸濁液は、農作物、植物や圃場に散布するだけで、地上の農作物、植物及び圃場の表層から土中まで、長期間消毒効果を発揮することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[8]を提供するものである。
[1]ヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、水に対する溶解度が10g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれるヨウ素系金属塩とを含む水懸濁液を含有する、農作物又は植物の糸状菌防除剤組成物。
[2]前記ヨウ素系金属塩が、水に対する溶解度が1g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれるヨウ素系金属塩である、[1]記載の防除剤組成物。
[3]前記ヨウ素系金属塩が、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸鉄(III)、ヨウ素酸銅(II)、過ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム及びヨウ素酸マグネシウムから選ばれる1種又は2種以上である、[1]又は[2]記載の防除剤組成物。
[4]前記ヨウ素系金属塩が、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸鉄(III)、ヨウ素酸銅(II)及び過ヨウ素酸カリウムから選ばれる1種又は2種以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の防除剤組成物。
[5]前記糸状菌感染病が、サツマイモ基腐病、うどんこ病、黒星病、褐班病、べと病、灰色かび病、白紋羽病、紫紋羽病、すす点病、炭そ病及びいもち病から選ばれる感染病である、[1]~[4]のいずれかに記載の防除剤組成物。
[6]前記糸状菌感染病が、サツマイモ基腐病である、[1]~[5]のいずれかに記載の防除剤組成物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の防除剤組成物を農作物又は植物の糸状菌に施用する工程を有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除方法。
[8]前記施用が、前記防除剤組成物を、対象農作物又は植物の茎、葉、種芋、種又は圃場に散布又は塗布する、[7]記載の防除方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の糸状菌防除剤を農作物又は圃場に散布すれば、不溶性のヨウ素酸金属塩又は過ヨウ素酸金属塩は、農作物の茎、葉、圃場表層を被覆する。土壌中には、天然の金属元素、肥料や消毒資材から分解・溶出した金属イオンが存在するため、土壌に入ったヨウ素酸又は過ヨウ素酸は、土壌中の金属元素や金属イオンと化学反応し、徐々に不溶性のヨウ素酸金属塩又は過ヨウ素酸金属塩となる。かくして、本発明の糸状菌防除剤は、農作物、植物や圃場に散布するだけで、地上の農作物、植物及び圃場の表層から土壌中まで、長期間糸状菌消毒効果を発揮する。
本発明の糸状菌防除剤は、サツマイモ基腐病の防除剤として特に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において使用される用語は、特に言及する場合を除いて、当該分野で通常用いられる意味で使用される。
【0010】
本明細書において糸状菌は、菌類のうち菌糸という管状の細胞から構成されている菌であり、空気中、水中、土壌中に生息している。本明細書では、農作物及び植物に感染して病害を引き起こす糸状菌を対象とする。
具体的な対象植物と病害の例としては、サツマイモに対するサツマイモ基腐病;イチゴ、リンゴ、モモ、ナシ、メロン、カボチャ、バラなどに対するうどんこ病;キュウリ、リンゴ、モモ、ナシ、ブドウ、ウメなどに対する黒星病;リンゴ、ブドウ、テンサイなどに対する褐斑病;ブドウ、キュウリ、白菜、ホウレンソウ、レタス、ダイコンなどに対するべと病;果実全般、イチゴ、レタス、トマト、シクラメンなどに対する灰色かび病;果実全般、アスパラガスなどに対する白紋羽病、紫紋羽病;果実全般に対するすす点病;イチゴ、リンゴ、キュウリなどに対する炭そ病;稲に対するいもち病などが挙げられる。
【0011】
本明細書において、防除とは、前記病害の発生を防止又は抑制することをいう。
本明細書において施用とは、本発明の防除剤を対象農作物又は植物の茎、葉、種芋、種、圃場などに散布、塗布などを施すことをいう。例えば、サツマイモの場合は、種芋処理、茎、葉、圃場への散布処理が挙げられる。
【0012】
本発明の一態様は、ヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、水に対する溶解度が10g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれるヨウ素系金属塩とを含む水懸濁液を含有する、農作物又は植物の糸状菌防除剤組成物である。
また、本発明の別の一態様は、本発明の防除剤組成物を農作物又は植物の糸状菌に施用する工程を有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除方法である。
【0013】
本発明に用いられる水懸濁液には、ヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、水に対する溶解度が10g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれるヨウ素系金属塩とを含む。すなわち、水中にヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、水に対する溶解度が10g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれるヨウ素系金属塩とが溶解しており、さらに水に溶解していないヨウ素酸金属塩又は過ヨウ素酸塩金属塩、及び他の不溶性成分を含んでいてもよい。
【0014】
ヨウ素酸又は過ヨウ素酸は、いずれも水に対する溶解性が高く、水中に溶解している。本発明の水懸濁液中のヨウ素酸及び過ヨウ素酸から選ばれる1種又は2種の含有量は、糸状菌消毒作用の速効性の観点から、0.002質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、0.005質量%以上30質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0015】
本発明に用いられるヨウ素系金属塩は、水に対する溶解度が10g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれる1種以上であればよいが、水に対する溶解度が5g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれる1種以上が好ましく、水に対する溶解度が1g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれる1種以上がより好ましく、水に対する溶解度が0.5g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれる1種以上がさらに好ましい。
このようなヨウ素系金属塩としては、ヨウ素酸マグネシウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸鉄(III)、ヨウ素酸銅(II)及び過ヨウ素酸カリウムから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。このうち、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸鉄(III)、ヨウ素酸銅(II)及び過ヨウ素酸カリウムから選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、長期間消毒効果が得られる観点、環境への負荷低減の観点から、ヨウ素酸カルシウムがさらに好ましい。なお、ヨウ素系金属塩は、水に対する溶解度に比して、ヨウ素酸又は過ヨウ素酸や他のヨウ素系金属塩が溶解した水溶液に対する溶解度が小さい。したがって、本発明の水懸濁液では、水に対する溶解度未満の含有量のヨウ素系金属塩が溶解せずに存在する場合がある。
【0016】
前記水懸濁液中の前記ヨウ素系金属塩の含有量は、長期間消毒効果が得られる観点から、0.0001質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、0.001質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.002質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
前記水懸濁液のpHは、優れた糸状菌防除効果を得る観点から、7以下が好ましく、2以上6.5以下がより好ましく、2以上6以下がさらに好ましく、2以上5以下がよりさらに好ましい。
【0018】
前記水懸濁液中には、前記ヨウ素酸又は過ヨウ素酸及び前記ヨウ素系金属塩以外に、水中に溶解していない前記ヨウ素系金属塩及び他の不溶性成分が含まれていてもよい。
ここで、他の不溶性成分としては、前記ヨウ素酸金属塩又は過ヨウ素酸金属塩の製造原料及び当該製造原料由来の金属化合物が挙げられる。具体的には、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、アルカリ金属化合物、鉄化合物、銅化合物などが挙げられる。中でも、糸状菌防除剤として茎葉や土に散布して環境負荷にならない、自然由来の成分が好ましく、ケイ酸カルシウム、シリカ、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化カリウム等が好ましい。
【0019】
前記水懸濁液を得るには、ヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、水に対する溶解度が10g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれるヨウ素系化合物とを水に懸濁すればよい。具体的には、ヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、過ヨウ素酸金属塩又はヨウ素酸金属塩とを水に懸濁すればよく、好ましくは、ヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、ヨウ素酸マグネシウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸鉄(III)、ヨウ素酸銅(II)及び過ヨウ素酸カリウムから選ばれる1種又は2種以上とを水に懸濁すればよく、より好ましくはヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸鉄(III)、ヨウ素酸銅(II)及び過ヨウ素酸カリウムから選ばれる1種又は2種以上とを水に懸濁すればよい。
また、ヨウ素酸水溶液又は過ヨウ素酸水溶液に、カルシウム化合物、鉄化合物、銅化合物、又はカリウム化合物などの金属化合物を反応させて、水溶液中にヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸鉄(III)、ヨウ素酸銅(II)又は過ヨウ素酸カリウムを生成させてもよい。
例えば、ヨウ素酸とヨウ素酸カルシウムとを含有する懸濁液を製造する具体例としては、ヨウ素酸水溶液にケイ酸カルシウム微粒子を反応させて、水中にヨウ素酸カルシウムを生成させるのが好ましい。反応は、常温常圧で撹拌するだけで進行する。得られる懸濁液中には、ヨウ素酸、ヨウ素酸カルシウム、シリカ、ケイ酸カルシウムが存在することになる。
この方法で得られるヨウ素酸とヨウ素酸カルシウムとを含有する水懸濁液においては、懸濁粒子は沈降しにくく、貯蔵時に結晶化が進行しないため、安定な懸濁液が得られる。本方法によれば、懸濁液中にシリカ及びケイ酸カルシウム微粒子が残存するが、シリカは植物の茎を丈夫にする成分として知られている。従って、この実施形態の水懸濁液は、ヨウ素酸による糸状菌消毒作用、ヨウ素酸カルシウムによる長期間にわたる糸状菌消毒作用、及びシリカによる植物成長作用を得ることができる。
【0020】
本発明の前記水懸濁液中の水不溶性成分の平均粒径は、長時間浮遊している点、散布のしやすさ等の点から、1~500μmが好ましく、1~200μmがより好ましく、1~100μmがさらに好ましい。なお、本明細書の平均粒径は、体積平均粒子径である。
【0021】
前記水懸濁液には、前記成分以外に、種々の成分を含有させることができる。具体的には、シリカ、殺虫活性成分、殺ダニ活性成分、殺線虫活性成分、殺菌活性成分、植物成長調整成分、薬害軽減成分、共力剤、忌避成分、殺軟体動物成分、昆虫フェロモン、除草活性成分、生物防除資材などを含有させることができる。
【0022】
前記水懸濁液には、前記不溶性のヨウ素系金属塩が含まれていることから、当該懸濁液を農作物又は圃場に散布すれば、不溶性のヨウ素酸金属塩又は過ヨウ素酸金属塩は、農作物の茎、葉、圃場表層を被覆する。土壌中には、天然の金属元素、肥料や消毒資材から分解・溶出した金属イオンが存在するため、土壌に入ったヨウ素酸又は過ヨウ素酸は、土壌中の元素や金属イオンと化学反応し、徐々に不溶性のヨウ素酸金属塩又は過ヨウ素酸金属塩となる。かくして、当該懸濁液は、農作物、植物や圃場に散布するだけで、地上の農作物、植物及び圃場の表層から土中まで、長期間消毒効果を発揮する。
【0023】
本発明の糸状菌防除剤の対象病害は、農作物又は植物の糸状菌による病害であり、具体的には、サツマイモに対するサツマイモ基腐病;イチゴ、リンゴ、モモ、ナシ、メロン、カボチャ、バラなどに対するうどんこ病;キュウリ、リンゴ、モモ、ナシ、ブドウ、ウメなどに対する黒星病;リンゴ、ブドウ、テンサイなどに対する褐斑病;ブドウ、キュウリ、白菜、ホウレンソウ、レタス、ダイコンなどに対するべと病;果実全般、イチゴ、レタス、トマト、シクラメンなどに対する灰色かび病;果実全般、アスパラガスなどに対する白紋羽病、紫紋羽病;果実全般に対するすす点病;イチゴ、リンゴ、キュウリなどに対する炭そ病;稲に対するいもち病などが挙げられる。このうち、サツマイモ基腐病に対する防除作用が特に優れている。
【0024】
農作物又は植物の糸状菌病を防除するには、本発明の防除剤組成物を農作物又は植物の糸状菌に施用する工程を行う。具体的には、本発明の防除剤組成物を対象農作物又は植物の茎、葉、種芋、種、圃場などに散布、塗布などを施すことをいう。
例えば、サツマイモの場合は、種芋処理、苗、茎、葉、圃場への散布処理が挙げられる。サツマイモの苗、茎、葉又は圃場への散布処理においては、本発明の防除剤組成物を、1回又は複数回、1haあたり1~10000g散布すればよい。またサツマイモの種イモ処理においては、0.01~10000ppm処理すればよい。
【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
製造例1
(1)ケイ酸カルシウム微粒子((株)エーアンドエーマテリアル製ゾノトライト乾燥粉末)1g及びヨウ素酸12重量%水溶液109gを20℃で1時間混合し、ヨウ素化合物懸濁液Aを製造した。この懸濁液の液中には、ヨウ素酸カルシウム約1重量%が含まれていた。また、理論上、未反応のケイ酸カルシウム微粒子及び反応後のシリカも含まれている。
【0027】
試験例1(ヨウ素化合物懸濁液の浮遊性評価試験)
ヨウ素化合物懸濁液A50mLを50mLメスシリンダーに投入した。これを背景が黒い箱にセットし、上から光をあてる。攪拌棒をメスシリンダーから引き抜くと同時に、経過時間ごとに浮遊性を確認する。ビデオ撮影し、その後、静止画で浮遊性を比較した。
まず、168日間静置したヨウ素化合物懸濁液Aには、容器への固着や凝集などの塊は見られなかった。
浮遊性の評価に関しては懸濁液をメスシリンダー内で攪拌した後、静置し目視にて透明度や沈殿物の状態を確認した。ヨウ素化合物懸濁液Aは1,190秒後でも浮遊している固形分が確認された。また、攪拌直後30秒では、ヨウ素化合物懸濁液Aは3mL程度の沈殿が生じたが、その後、1,190秒の間懸濁状態が安定していた。
【0028】
試験例2(ヨウ素化合物懸濁液の粒度分布測定)
マグネチックスターラーで液体を高速攪拌しながら混合を行い、懸濁液を調整した。懸濁液をろ過し、沈殿を回収した。沈殿を105℃で24時間乾燥した。乾燥後の沈殿は水に溶解するため、分散溶媒をエタノールとして懸濁液を調製した。SALD-2200(WingSALD II:Version 3.1.1)(島津製作所)により懸濁液に分散した沈殿の粒度分布を測定した。
ヨウ素化合物懸濁液A由来の沈殿の粒度分布は34.176μm(σ=0.276)であり、平均粒径が小さかった。また、粒子径分布も小さい側に寄っている結果であった。
浮遊性評価では、ヨウ素化合物懸濁液Aは沈殿に時間がかかる結果であったが、ヨウ素化合物懸濁液Aは平均粒径が小さかったことからその裏付けが取れた形となった。こうした特性を有するヨウ素化合物懸濁液Aは、平均粒径の範囲が20~45μm程度と考えられる。
【0029】
試験例3(ヨウ素化合物懸濁液のpH及び酸化還元電位(ORP)経時変化)
試験体をよく攪拌し、マイクロピペットにて1mLを分取した。精製水を用いて100倍、250倍、500倍と段階希釈を行った。pH及びORPを測定した。
その結果、表1に示すように、いずれの希釈倍率においても、調製60日後、168日後におけるpH及びORPはあまり低下していなかった。なお、調整60日後及び168日後は新たに購入した試験機で測定した。
【0030】
【0031】
試験例4(大腸菌を用いた抗菌性試験)
ヨウ素化合物懸濁液Aを精製水で100倍、250倍、500倍の3水準に希釈し、試験機関に提供した。液試料10mLをシャーレに入れ菌懸濁BGLB液0.1mLを添加し撹拌した。35℃で18時間培養後、10倍段階希釈を作り、希釈液1mLを標準寒天培地で混釈した。35℃で22時間培養し、菌量を測定した
その結果、表2に示すように、希釈倍率3水準共についても高い抗菌性能が確認された。なお、試験菌量は108CFU/mlであった。
【0032】
【0033】
試験例5(サツマイモ基腐病糸状菌を用いた圃場試験)
(1)試験期間
試験開始2023年7月6日~試験終了11月15日
サツマイモに適した生育時期は4月上旬から、9月下旬とされているが、基腐病は高温多湿で繁殖し易く、降雨によって感染部位から胞子流出し拡大することから、農家では早めに収穫する対策も取られている。
(2)基腐病菌とヨウ素化合物懸濁液Aを用いたサツマイモ苗の栽植
屋外の汚染圃場(黒ボク土壌)で行った。
1)サツマイモ苗は消毒済みのコガネセンガン
2)1区画5m2(1m×5m)あたり畝間100cm×株間30cmの距離で15株の苗を栽植
3)1水準当たりランダムに5区画を配置し合計75株を植栽
4)試験菌はサツマイモ基腐病菌保存株を所定の濃度に調整した液体
5)予め耕した畝の土壌表面中央に試験菌を20cm幅で所定量散布
6)農薬試作品は、ヨウ素化合物懸濁液A500倍希釈を使用
7)散布量は、1m2あたり1L
8)試験菌を散布した畝の土壌表面中央に農薬試作品を20cm幅で所定量散布
9)別途農薬を散布しない未処理区をランダム5区画配置した
試験開始以降、公的機関にて定期的に苗の観察が行われた。目視で確認した基腐病発生株、また、基腐病以外の原因による枯死株から被害指数が求められ、総合評価結果を防除価として示された。また、防除価を基に実用性が判定された。
防除価とは、病害虫に対する農薬の試験において、その農薬の効果の高さを評価する指数の一つであり、無処理区の被害に対してその被害をどの程度抑えたかを数値化したもので、次の計算式で求める。
防除価=100-(処理区の被害指数/無処理区の被害指数)×100
(3)試験結果
基腐病は定植47日後の8月23日に初発が確認された。その後の病勢進展は緩慢で、定植131日後の未処理区の発病が少ない圃場試験となった。
ヨウ素化合物懸濁液A500倍希釈の防除価は、9月22日で20.8、10月11日で29.8、10月24日で29.8、11月15日で33.9であり、枯死株はなく、防除価は低いが実用性ありと判断された。
【要約】
【課題】液体散布が可能な、無機化合物系の農作物や植物糸状菌防除剤及び防除方法を提供すること。
【解決手段】ヨウ素酸又は過ヨウ素酸と、水に対する溶解度が10g/100gH2O未満のヨウ素酸金属塩及び過ヨウ素酸金属塩から選ばれるヨウ素系金属塩とを含む水懸濁液を含有する、農作物又は植物の糸状菌防除剤組成物。
【選択図】なし