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特許7645013農作物又は植物の糸状菌感染病防除剤組成物及び防除方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】農作物又は植物の糸状菌感染病防除剤組成物及び防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/12 20060101AFI20250306BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20250306BHJP
   A01N 25/12 20060101ALI20250306BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
A01N59/12
A01P3/00
A01N25/12 101
A01G7/06 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024048632
(22)【出願日】2024-03-25
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000126609
【氏名又は名称】株式会社エーアンドエーマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 智大
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106417366(CN,A)
【文献】特開2000-169315(JP,A)
【文献】特開2022-024524(JP,A)
【文献】特開2020-125560(JP,A)
【文献】特表2017-517484(JP,A)
【文献】特公昭44-012910(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0224220(US,A1)
【文献】国際公開第2021/059613(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/12
A01P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径1mm以上6mm以下のシリカ系無機多孔質体に無機ヨウ素化合物を担持した粒子を含有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除剤組成物であって、
前記シリカ系無機多孔質体が、軽石、軽石粉砕物、軽石又は軽石粉砕物の成形体、及び軽石又は軽石粉砕物の充填体から選ばれるものであり、
前記無機ヨウ素化合物が、ヨウ素酸及びヨウ素酸塩から選ばれる1種又は2種以上である、防除剤組成物。
【請求項2】
前記無機ヨウ素化合物を担持した粒子が、pH3~7、酸化還元電位+200mV~+600mV、かさ密度0.35~2.2の粒子である、請求項1記載の防除剤組成物であって、
前記pHは、前記担持粒子を室温で50mlの水に対して10g混合し、60分振とう処理した後の溶液を用いてpHメーターにより測定した値である、除剤組成物。
【請求項3】
前記シリカ系無機多孔質体の粒子径が、1mm以上3mm以下である、請求項1記載の防除剤組成物。
【請求項4】
前記糸状菌感染病が、サツマイモ基腐病、うどんこ病、黒星病、褐班病、べと病、灰色かび病、白紋羽病、紫紋羽病、すす点病、炭そ病及びいもち病から選ばれる感染病である、請求項1記載の防除剤組成物。
【請求項5】
前記糸状菌感染病が、サツマイモ基腐病である、請求項1記載の防除剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の防除剤組成物を農作物又は植物の糸状菌に施用する工程を有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除方法。
【請求項7】
前記施用が、前記防除剤組成物を、対象農作物又は植物の茎、葉、種芋、種又は圃場に散布又は塗布する、請求項6記載の防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物又は植物の糸状菌感染病防除剤組成物及び防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サツマイモ基腐病、うどんこ病などの農作物や植物の感染病は糸状菌が原因である。特にサツマイモ基腐病は、2018年以降、感染が拡大し、良好な防除手段がなく、新たな防除手段の開発が望まれている。
これらの病害の防除手段としては、種々の殺菌剤が使用されているが、効果の高い有機化合物系の合成農薬は毒性が高く、散布作業時の安全性や圃場の土壌活性の低下、また食材として安全性に課題がある。
【0003】
ヨウ素およびヨウ素酸は、ウイルス、カビ(糸状菌)、細菌に対する消毒作用があることが知られているが、水に対する溶解度が高く、水に溶出して消毒作用が低下する課題がある。これに対し、ヨウ素が空気中又は水中に放出しないように活性炭や繊維など吸着性のある素材に担持させ、さらにヨウ素を担持させるときにヨウ素酸イオンが生成されないように酸性に調整したヨウ素担持素材(特許文献1)が報告されている。また、素材が活性炭の粉末であると空気中又は水中に分散してしまうので、ケイ酸カルシウム等の素材の表層にヨウ素酸塩を形成することで抗菌・消臭機構が付与された材料(特許文献2)も報告されている。しかし、ケイ酸カルシウム等を含む水硬性無機材料は、常温・常圧で水と反応して硬化する材料であるが、(弱)アルカリ性を示すものが多く、屋外散布後に酸性土壌、紫外線、気候変化などにより劣化が進行するなど耐久性が不十分であり、またヨウ素酸塩の形成に適した酸性の素材を常温・常圧で安価に作ることが難しかった。
そこで、本出願人は、無機ヨウ素化合物が火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に担持された抗菌消毒性担持体であって、前記抗菌消毒性担持体がpH2~5で、酸化還元電位が酸化状態にあり、かさ密度0.4~1.5であることを特徴とする抗菌消毒性担持体が、抗菌活性が向上し、使用性も良好であることを見出し、特許出願した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-125560号公報
【文献】特許第6644325号公報
【文献】特開2022-24524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1~3で試験されているのは、大腸菌やウイルスに対して直接作用するか否かだけであり、農作物や土壌に散布したときに長期間にわたって糸状菌感染病防除作用を示すか否かは確認されていない。
従って、本発明の課題は、農作物や土壌に散布して長期間にわたって農作物や植物糸状菌感染病防除作用を示す無機系防除剤及び防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、一定粒子径のシリカ系無機多孔質体に無機ヨウ素化合物を担持した粒子を得、当該粒子を農作物、植物体又は圃場に散布すれば、長期にわたって無機ヨウ素化合物が農作物又は植物に作用し、農作物又は植物の糸状菌感染病防除効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[9]を提供するものである。
[1]粒子径1mm以上6mm以下のシリカ系無機多孔質体に無機ヨウ素化合物を担持した粒子を含有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除剤組成物。
[2]前記無機ヨウ素化合物が、ヨウ素、三ヨウ化物、ヨウ素酸、過ヨウ素酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上である、[1]記載の防除剤組成物。
[3]前記無機ヨウ素化合物が、ヨウ素酸及びヨウ素酸塩から選ばれる1種又は2種以上である、[1]又は[2]記載の防除剤組成物。
[4]前記無機ヨウ素化合物を担持した粒子が、pH3~7、酸化還元電位+200mV~+600mV、かさ密度0.35~2.2の粒子である[1]~[3]のいずれかに記載の防除剤組成物。
[5]前記シリカ系無機多孔質体の粒子径が、1mm以上3mm以下である[1]~[4]のいずれかに記載の防除剤組成物。
[6]前記糸状菌感染病が、サツマイモ基腐病、うどんこ病、黒星病、褐班病、べと病、灰色かび病、白紋羽病、紫紋羽病、すす点病、炭そ病及びいもち病から選ばれる感染病である、[1]~[5]のいずれかに記載の防除剤組成物。
[7]前記糸状菌感染病が、サツマイモ基腐病である、[1]~[6]のいずれかに記載の防除剤組成物。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の防除剤組成物を農作物又は植物の糸状菌に施用する工程を有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除方法。
[9]前記施用が、前記防除剤組成物を、対象農作物又は植物の茎、葉、種芋、種又は圃場に散布又は塗布する、[8]記載の防除方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の糸状菌感染病防除剤を農作物又は圃場に散布すれば、粒子に担持された無機ヨウ素化合物塩が徐々放出され、長期間にわたって農作物の茎、葉、圃場表層に作用し、農作物、植物や圃場に散布するだけで、地上の農作物、植物及び圃場の表層から土壌中まで、長期間糸状菌消毒効果を発揮する。
本発明の糸状菌感染症防除剤は、サツマイモ基腐病の防除剤として特に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において使用される用語は、特に言及する場合を除いて、当該分野で通常用いられる意味で使用される。
【0010】
本明細書において糸状菌は、菌類のうち菌糸という管状の細胞から構成されている菌であり、空気中、水中、土壌中に生息している。本明細書では、農作物及び植物に感染して病害を引き起こす糸状菌を対象とする。
具体的な対象植物と病害の例としては、サツマイモに対するサツマイモ基腐病;イチゴ、リンゴ、モモ、ナシ、メロン、カボチャ、バラなどに対するうどんこ病;キュウリ、リンゴ、モモ、ナシ、ブドウ、ウメなどに対する黒星病;リンゴ、ブドウ、テンサイなどに対する褐斑病;ブドウ、キュウリ、白菜、ホウレンソウ、レタス、ダイコンなどに対するべと病;果実全般、イチゴ、レタス、トマト、シクラメンなどに対する灰色かび病;果実全般、アスパラガスなどに対する白紋羽病、紫紋羽病;果実全般に対するすす点病;イチゴ、リンゴ、キュウリなどに対する炭そ病;稲に対するいもち病などが挙げられる。
【0011】
本明細書において、防除とは、前記病害の発生を防止又は抑制することをいう。
本明細書において施用とは、本発明の防除剤を対象農作物又は植物の茎、葉、種芋、種、圃場などに散布、塗布などを施すことをいう。例えば、サツマイモの場合は、種芋処理、茎、葉、圃場への散布処理が挙げられる。
【0012】
本発明の一態様は、粒子径1mm以上6mm以下のシリカ系無機多孔質体に無機ヨウ素化合物を担持した粒子を含有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除剤組成物である。
また、本発明の別の一態様は、本発明の防除剤組成物を農作物又は植物の糸状菌に施用する工程を有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除方法である。
【0013】
本発明の農作物又は植物の糸状菌感染病防除剤組成物は、粒子径1mm以上6mm以下のシリカ系無機多孔質体に無機ヨウ素化合物を担持した粒子を含有する。
用いられるシリカ系無機多孔質体の粒子径は、施用性、有効成分の長期間にわたる徐放性などの観点から、1mm以上6mm以下が好ましく、1mm以上4mm以下がより好ましく、1mm以上3mm以下がさらに好ましい。
また、シリカ系無機多孔質体は、環境負荷の観点から、天然物由来が好ましく、軽石、軽石粉砕物、軽石又は軽石粉砕物の成形体、及び軽石又は軽石粉砕物の充填体から選ばれるものが挙げられる。
【0014】
軽石とは、発泡して多孔質で主に白っぽい色を呈する火山砕屑岩であり、パミスとも呼ばれる。
軽石に含まれる鉱物としては、パミス、デイサイト、流紋岩、斜長石、紫蘇輝石、普通輝石、角閃石、石英、クリストバル石、燐灰石、珪長質岩、玄武岩、安山岩、黒雲母、斜方輝石、単斜輝石、黒曜石、磁鉄鉱、シラス、カンラン石、火山ガラス、長石、スコリヤ、凝灰岩、含礫軽石凝灰岩、花崗岩、安山岩、石英安山岩、花崗閃緑岩、軽石火山礫凝灰岩、浮石、ハロイサイト、アロフェン、イモゴライト、ギプサイト、火山角礫岩、凝灰角礫岩、凝灰集塊岩、岩滓凝灰岩、はんれい岩、閃緑岩、斑岩、カリ長石、沸石、斧石、蛍石、ひん岩(ひんがん)、熔結凝灰岩、レティキュライト、酸性白土、珪石、珪華、蛇紋岩等が挙げられる。
このような軽石の具体例としては、鹿沼土、今市土、宮土、アワ土(アワ砂)、日向土、蝦夷砂、富士砂、赤玉土、桐生砂、霧島御池ボラ、桜島大正ボラ、ボラ、コラ、灰石、バラス、ウズラ、ザレ、アカホヤ、クロボク、クロニガなどが挙げられる。
【0015】
これらのシリカ系無機多孔質体のうち、pH4~8、酸化還元電位+100mV~+500mV、かさ密度0.3~2のシリカ系無機多孔質体であるのが、優れた農作物又は植物糸状菌感染症防除作用を得る点から、好ましい。
好ましいpHは4~8であり、より好ましくは4~7であり、さらに好ましくは4~6である。
ここで、pHは、シリカ系無機多孔質体を室温で50mlの水に対して10g混合し、60分振とう処理した後の溶液を用いてpHメーターにより測定することができる。
【0016】
用いられるシリカ系無機多孔質体の酸化還元電位は、前記無機ヨウ素化合物担持粒子(以下、単に担持粒子ともいう)の酸化還元電位を酸化状態にし、当該粒子中に担持された無機ヨウ素化合物による優れた農作物又は植物糸状菌感染症防除作用を得る点から、酸化側にあることが必要であり、好ましい酸化還元電位は、優れた農作物又は植物糸状菌感染症防除作用を得る観点から+100mV~+500mVであり、+200mV~+500mVがより好ましく、+300mV~+500mVがさらに好ましい。
ここで、酸化還元電位は、室温で50mlの水に対してシリカ系無機多孔質体を10g混合し、60分間振とうした後の溶液を用いて酸化還元電位計により測定することができる。
【0017】
シリカ系無機多孔質体のかさ密度は、担持粒子の農作物又は植物糸状菌感染症防除作用、強度、原料及び製品の搬送や混合処理などに要する設備損耗負荷の軽減、生産及び運搬に掛かるエネルギーコストの削減、原料からの発塵防止、粒状形態で人力または動力散布を行う時の作業容易性の点から、0.3~2.0であるのが好ましく、0.4~1.5であるのがより好ましく、0.6~1.2であるのがさらに好ましい。
ここで、無機多孔質体のかさ密度は、ゆるめかさ密度である。粒子におけるゆるめかさ密度は、500mlのメスシリンダーに当該多孔質体を圧縮したり、揺すったり振動させたりしないように自重で充填して体積を求め、充填に用いた当該多孔質体の重量を体積で除する方法により測定できる。
【0018】
前記シリカ系無機多孔質体に担持される無機ヨウ素化合物としては、ヨウ素、三ヨウ化物、ヨウ素酸、過ヨウ素酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、ヨウ素酸及びヨウ素酸塩から選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
本発明の担持粒子中において、これらの無機ヨウ素化合物は、ヨウ素、三ヨウ化物イオン、ヨウ素酸イオン及び過ヨウ素酸イオンから選ばれる1種又は2種以上の状態で存在するのが好ましい。
【0019】
これらの無機ヨウ素化合物の本発明の担持粒子への担持量は、農作物又は植物糸状菌感染症防除作用を示す量であればよく、特に制限されないが、担持粒子量に対して0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
前記担持粒子は、pH3~7、酸化還元電位+200mV~+600mV、かさ密度0.35~2.2であるのが、優れた農作物又は植物糸状菌感染症防除作用を得る点から、好ましい。
好ましいpHは3~7であり、より好ましくは3~6であり、さらに好ましくは3~5である。
好ましい酸化還元電位は、優れた農作物又は植物糸状菌感染症防除作用を得る観点から+200mV~+600mVであり、+300mV~+600mVがより好ましく、+400mV~+600mVがさらに好ましい。
かさ密度は、0.35~2.2であるのが好ましく、0.45~1.65であるのがより好ましく、0.7~1.3であるのがさらに好ましい。
ここで、pH、酸化還元電位及びかさ密度は、前記シリカ系無機多孔質体と同様にして測定できる。
【0021】
本発明の担持粒子は、粒子径1mm以上6mm以下のシリカ系無機多孔質体に無機ヨウ素化合物を担持させることにより製造できる。より具体的には、前記シリカ系無機多孔質体に、溶媒に溶解又は分散させた無機ヨウ素化合物を混合、塗布、噴霧又は含浸により反応させることにより製造できる。
用いられる無機ヨウ素化合物としては、ヨウ素、三ヨウ化物、ヨウ素酸、過ヨウ素酸及びこれらの塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、ヨウ素酸及びヨウ素酸塩から選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
溶媒としては、水又は極性溶媒が好ましく、水がより好ましい。混合、塗布、噴霧又は含浸の操作は、常温(通常5~35℃)で行うのが好ましく、乾燥が必要な場合は、常温~120℃程度で行うのが好ましい。
用いられる無機ヨウ素化合物量は、前記の担持させる量を考慮して決定される。
【0022】
前記のようにして得られる本発明の担持粒子の中には、原料として用いるシリカ系無機多孔質体の特性に応じて、硬度が高いものと低いものが存在する。本発明においては、担持粒子を、農作物又は圃場に散布し、粒子に担持された無機ヨウ素化合物が徐々放出され、長期間にわたって農作物の茎、葉、圃場表層に作用させる点から、乾燥状態での硬度が2N以上70N以下であるのが好ましく、10N以上60N以下であるのがより好ましく、20N以上50N以下であるのがさらに好ましい。
(粒子の硬度を測定する方法)
株式会社藤原製作所の木屋式デジタル硬度計KHT40Nを用いて、日向土、鹿沼土の粒子を60℃で24時間乾燥した乾燥状態と、飽水状態で測定した。硬度測定は、各原料の粒子1粒をランダムに選び、圧縮荷重を加えて圧砕されたときの荷重値を求めた。試験はn=20でおこなった。粒子が柔らかく、硬度計の荷重値が硬度計の下限値のままで初期の粒子の大きさから半分以下の厚みまで変形した場合は、測定不能とした
【0023】
得られた担持粒子には、前記無機ヨウ素化合物が担持されていることから、当該担持粒子を農作物又は圃場に散布すれば、粒子に担持された無機ヨウ素化合物塩が徐々放出され、長期間にわたって農作物の茎、葉、圃場表層に作用し、農作物、植物や圃場に散布するだけで、地上の農作物、植物及び圃場の表層から土壌中まで、長期間糸状菌消毒効果を発揮し、農作物又は植物の糸状菌感染症を防除することができる。
【0024】
本発明の糸状菌感染症防除剤の対象病害は、農作物又は植物の糸状菌による病害であり、具体的には、サツマイモに対するサツマイモ基腐病;イチゴ、リンゴ、モモ、ナシ、メロン、カボチャ、バラなどに対するうどんこ病;キュウリ、リンゴ、モモ、ナシ、ブドウ、ウメなどに対する黒星病;リンゴ、ブドウ、テンサイなどに対する褐斑病;ブドウ、キュウリ、白菜、ホウレンソウ、レタス、ダイコンなどに対するべと病;果実全般、イチゴ、レタス、トマト、シクラメンなどに対する灰色かび病;果実全般、アスパラガスなどに対する白紋羽病、紫紋羽病;果実全般に対するすす点病;イチゴ、リンゴ、キュウリなどに対する炭そ病;稲に対するいもち病などが挙げられる。このうち、サツマイモ基腐病に対する防除作用が特に優れている。
【0025】
農作物又は植物の糸状菌病を防除するには、本発明の防除剤組成物を農作物又は植物の糸状菌に施用する工程を行う。具体的には、本発明の防除剤組成物を対象農作物又は植物の茎、葉、種芋、種、圃場などに散布、塗布などを施すことをいう。
例えば、サツマイモの場合は、種芋処理、苗、茎、葉、圃場への散布処理が挙げられる。サツマイモの苗、茎、葉又は圃場への散布処理においては、本発明の防除剤組成物を、1回又は複数回、1haあたり1~10000L散布すればよい。またサツマイモの種イモ処理においては、0.01~10000ppm処理すればよい。
【実施例
【0026】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1(ボラ土へのヨウ素酸塩の担持)
粒子径4mm以下の乾燥状態のボラ土60gとヨウ素酸水溶液20ml(濃度3%)を用いて、ガラス容器内でボラ土を攪拌しながら、ヨウ素酸水溶液を徐々に滴下することで、ヨウ素酸水溶液が残ることなく均一に担持させた。得られた担持粒子は、担持前の粒状形態を保っていた。
【0028】
実施例2(赤玉土へのヨウ素酸塩の担持)
実施例1と同様の方法で粒子径6mm以下の赤玉土40gとヨウ素酸水溶液(濃度3%)20mlを混合した。混合した赤玉土は粒子とやや粘性のあるペースト状の混合物となった。この赤玉土へヨウ素酸塩を担持した担持粒子は、篩にかけることにより、粒子と粉を分けることができた。
【0029】
実施例1~2で用いたシリカ系無機多孔質体及び得られた担持体のpH、酸化還元電位及びかさ密度を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例3(大腸菌を用いた抗菌性試験)
実施例1で得た担持粒子Aを大腸菌に対する抗菌性試験を行った。
抗菌(大腸菌)試験方法
担持粒子Aを室温にて十分乾燥させ、1gを試験管に入れ大腸菌懸濁液(10CFU/ml)を0.6ml添加し良く撹拌した。35℃18時間培養後、生理食塩水5mlを添加し洗い出した。洗い出し液1mlと標準寒天培地を良く混合しシャーレに入れ35℃22時間培養し菌量を計測した。
その結果、表2に示すように、0.05質量%担持~1.0質量%担持まで、高い抗菌性能が確認された。なお、試験菌量は10CFU/mlであった。
【0032】
【表2】
【0033】
実施例4(サツマイモ基腐病糸状菌を用いた圃場試験)
(1)試験期間
試験開始2023年7月6日~試験終了11月15日
サツマイモに適した生育時期は4月上旬から、9月下旬とされているが、基腐病は高温多湿で繁殖し易く、降雨によって感染部位から胞子流出し拡大することから、農家では早めに収穫する対策も取られている。
(2)基腐病菌と担持粒子Aを用いたサツマイモ苗の栽植
屋外の汚染圃場(黒ボク土壌)で行った。
1)サツマイモ苗は消毒済みのコガネセンガン
2)1区画5m(1m×5m)あたり畝間100cm×株間30cmの距離で15株の苗を栽植
3)1水準当たりランダムに5区画を配置し合計75株を植栽
4)試験菌はサツマイモ基腐病菌保存株を所定の濃度に調整した液体
5)予め耕した畝の土壌表面中央に試験菌を20cm幅で所定量散布
6)農薬試作品は、担持粒子A1.0wt%担持及び0.5wt%担持を使用
7)散布量は、1mあたり1L
8)試験菌を散布した畝の土壌表面中央に農薬試作品を20cm幅で所定量散布
9)別途農薬を散布しない未処理区をランダム5区画配置した
試験開始以降、公的機関にて定期的に苗の観察が行われた。目視で確認した基腐病発生株、また、基腐病以外の原因による枯死株から被害指数が求められ、総合評価結果を防除価として示された。また、防除価を基に実用性が判定された。
防除価とは、病害虫に対する農薬の試験において、その農薬の効果の高さを評価する指数の一つであり、無処理区の被害に対してその被害をどの程度抑えたかを数値化したもので、次の計算式で求める。
防除価=100-(処理区の被害指数/無処理区の被害指数)×100
(3)試験結果
基腐病は定植47日後の8月23日に初発が確認された。その後の病勢進展は緩慢で、定植131日後の未処理区の発病が少ない圃場試験となった。
担持粒子Aは、1.0質量%担持、0.5質量%担持の防除価は、9月22日で100.0、62.5、10月11日で72.3、80.9、10月24日で53.2、61.7、11月15日で60.7、41.1であり、枯死株はなく、いずれでも、実用性ありと判断された。
担持粒子Aは、ボラ土の空隙から少しずつ土壌にヨウ素化合物が溶出することで、苗に薬害を発生させることなく、かつ、長期にわたって抗菌効果を持続する特長があり、薬害が生じることなく、基腐病を防疫する効果が確認された。
【要約】
【課題】農作物や土壌に散布して長期間にわたって農作物や植物糸状菌感染病防除作用を示す無機系防除剤及び防除方法を提供すること。
【解決手段】]粒子径1mm以上6mm以下のシリカ系無機多孔質体に無機ヨウ素化合物を担持した粒子を含有する、農作物又は植物の糸状菌感染病防除剤組成物。
【選択図】なし