(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】医用フォトメータ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20250306BHJP
【FI】
A61B5/1455
(21)【出願番号】P 2019123717
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2022-06-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 航太
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【合議体】
【審判長】南 宏輔
【審判官】萩田 裕介
【審判官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519556号公報(JP,A)
【文献】特開2003-265446号公報(JP,A)
【文献】特開2014-147473号公報(JP,A)
【文献】国際公開第15/137151号(WO,A1)
【文献】特表2011-510784号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/02 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の腹腔内出血の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さい第一赤外光と、ヘモグロビンよりも水による吸収度が大きい第二赤外光であり、
前記プロセッサは、当該第一赤外光の強度と当該第二赤外光の強度の第一相関値を取得し、前記特徴量として、前記圧迫動作が行なわれる前の当該第一相関値と前記圧迫動作が行なわれた後の当該第一相関値の相関に対応する第二相関値を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項2】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の毛細血管床の酸素化状態が低下する病態の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも大きい赤色光であり、
前記プロセッサは、前記特徴量として、前記圧迫動作が行なわれる前の当該赤色光の強度と前記圧迫動作が解除された後における当該赤色光の強度の相関値を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項3】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の浮腫の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、ヘモグロビンよりも水による吸収度が大きな赤外光であり、
前記プロセッサは、前記特徴量として、前記圧迫動作が解除された後における当該赤外光の強度の経時変化により得られる波形下面積を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項4】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の血管内皮機能が低下する病態の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さい赤外光であり、
前記プロセッサは、前記特徴量として、前記圧迫動作が行なわれる前の当該赤外光の強度と前記圧迫動作が行なわれた後の当該赤外光の強度の相関値を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項5】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の血管内皮機能が低下する病態の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さい赤外光であり、
前記プロセッサは、前記特徴量として、前記圧迫動作が解除された後における当該赤外光の強度の経時変化により得られる波形下面積を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項6】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の病態と前記生体組織の生理学的状態の少なくとも一方の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さい赤外光であり、
前記プロセッサは、前記特徴量として、前記圧迫動作が行なわれる前の当該赤外光の強度変化に重畳する脈波の形状因子と前記圧迫動作が行なわれた後の当該赤外光の強度変化に重畳する脈波の形状因子の相関値を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項7】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の血圧低下を呈するショックの兆候の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さい赤外光であり、
前記プロセッサは、前記特徴量として、前記圧迫動作が解除された後における所定時間あたりの当該赤外光の強度の変化量を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項8】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記生体組織における酸素代謝状態の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、ヘモグロビンによる吸収度が異なる赤色光と赤外光であり、
前記プロセッサは、当該赤色光の強度と当該赤外光の強度の相関値を取得し、前記特徴量として、前記圧迫動作が解除された後における所定時間あたりの当該相関値の変化量を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項9】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の病態と前記生体組織の生理学的状態の少なくとも一方の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さい第一赤外光と、ヘモグロビンよりも水による吸収度が大きい第二赤外光であり、
前記プロセッサは、前記特徴量として、当該第一赤外光の強度に対応する第一座標軸と当該第二赤外光の強度に対応する第二座標軸により形成される座標平面において当該第一赤外光の強度と当該第二赤外光の強度により定まる点の軌跡の形状因子を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項10】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の敗血症性ショック症状の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さい赤外光であり、
前記プロセッサは、前記特徴量として、前記圧迫動作が解除された後における所定時間あたりの当該赤外光の強度の変化量の経時変化を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項11】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の病態と前記生体組織の生理学的状態の少なくとも一方の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さい赤外光であり、
前記プロセッサは、前記特徴量として、前記圧迫動作が行なわれる前の当該赤外光の強度変化に重畳する脈波の形状因子と前記圧迫動作が行なわれた後の当該赤外光の強度変化に重畳する脈波の形状因子の相関値の経時変化を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項12】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者のコールドショック状態への移行の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記光は、ヘモグロビンによる吸収度が異なる赤色光と赤外光であり、
前記プロセッサは、当該赤色光の強度と当該赤外光の強度の第一相関値を取得し、前記特徴量として、
前記圧迫動作が行なわれる前の前記第一相関値と前記圧迫動作が行なわれた後の前記第一相関値の相関に対応する第二相関値と、
前記圧迫動作が解除された後における前記第一相関値の所定時間あたりの変化量と、を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項13】
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記生体組織における酸素利用障害の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量または前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、を備えており、
前記圧迫制御部は、圧迫により前記生体組織への血液の流入を遮断する血流遮断装置の血流遮断動作を制御可能であり、
前記光は、ヘモグロビンによる吸収度が異なる赤色光と赤外光であり、
前記プロセッサは、当該赤色光の強度と当該赤外光の強度の第一相関値を取得し、前記特徴量として、
前記圧迫動作が行なわれる前の前記第一相関値と前記圧迫動作が行なわれた後の前記第一相関値の相関に対応する第二相関値と、
前記圧迫動作が解除された後における前記第一相関値の所定時間あたりの変化量と、
前記血流遮断動作中における前記第一相関値の所定時間あたりの変化量と、
を取得する、
医用フォトメータ。
【請求項14】
前記プロセッサは、複数の被検者の各々から取得された前記信号における特徴量と、前記推定の対象との関係を教師データとして学習した識別器を用いて、前記推定を行なう、請求項1から
13のいずれか一項に記載の医用フォトメータ。
【請求項15】
前記教師データは、前記複数の被検者の各々の臨床情報を含んでおり、
前記プロセッサは、前記推定を行なう、
請求項
14に記載の医用フォトメータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の生体組織の生理学的状態と病態の少なくとも一方を推定するために使用される医用フォトメータに関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、医用フォトメータの一例であるパルスフォトメータを開示している。パルスフォトメータは、フォトメトリの一例として被検者の動脈血酸素飽和度を算出する装置である。具体的には、血液の吸光係数の比が異なる複数の波長の光が、当該被検者の生体組織に照射される。生体組織を透過または反射した各波長の光量は、検出に供される。各波長の光量は、当該被検者の血液の脈動に伴って変化する。したがって、脈動に起因する各波長の光量の経時変化が、脈波信号として取得される。各波長に係る脈波信号の振幅は、当該波長に係る減光度変化量に対応する。動脈血酸素飽和度は、各波長に係る減光度変化量の比に基づいて算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、フォトメトリの原理を用いて被検者の病態と生体組織の生理学的状態の少なくとも一方を推定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための一態様は、医用フォトメータであって、
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の病態と前記生体組織の生理学的状態の少なくとも一方の推定に用いられる特徴量を取得するプロセッサと、
前記特徴量に対応する信号を出力する出力インターフェースと、
を備えている。
【0006】
このような構成によれば、フォトメトリの原理を用いて得られた特徴量に対応する信号に基づいて、ユーザが被検者の病態と生体組織の生理学的状態の少なくとも一方を推定できる。
【0007】
上記の目的を達成するための一態様は、医用フォトメータであって、
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から特徴量を取得し、当該特徴量に基づいて前記被検者の病態と前記生体組織の生理学的状態の少なくとも一方の推定を行なうプロセッサと、
前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、
を備えている。
【0008】
このような構成によれば、フォトメトリの原理を用いて得られた特徴量に基づいて、被検者の病態と生体組織の生理学的状態の少なくとも一方を医用フォトメータに推定させることができる。
【0009】
上記の目的を達成するための一態様は、医用フォトメータであって、
被検者の生体組織を通過した光の強度に対応する信号を受け付ける入力インターフェースと、
前記被検者の身体に装着された圧迫装置による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させる圧迫制御部と、
複数の被検者の各々から取得された前記信号における特徴量と、当該複数の被検者の各々の病態および生体組織の生理学的状態の少なくとも一方との関係を教師データとして学習した識別器を用いて、前記圧迫動作に伴う前記信号の経時変化から前記被検者の病態および生体組織の生理学的状態の少なくとも一方の推定を行なうプロセッサと、
前記推定の結果に対応する信号を出力する出力インターフェースと、
を備えている。
【0010】
このような構成によれば、複数の被検者から過去に取得されたデータによる機械学習を通じて、被検者の病態と生体組織の生理学的状態の少なくとも一方の経験的な推定を、医用フォトメータに行なわせることができる。この場合、厳密なルールベースの推定と比較して、システムの柔軟性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る医用フォトメトリシステムの構成を例示している。
【
図2】一実施形態に係る医用フォトメータの動作の一例を示している。
【
図3】一実施形態に係る医用フォトメータの動作の別例を示している。
【
図4】一実施形態に係る医用フォトメータの動作の別例を示している。
【
図5】一実施形態に係る医用フォトメータの動作の別例を示している。
【
図6】一実施形態に係る医用フォトメータの動作の別例を示している。
【
図7】一実施形態に係る医用フォトメータの動作の別例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例を以下詳細に説明する。各図面においては、説明対象の各要素を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0013】
図1は、一実施形態に係る医用フォトメトリシステム1の機能構成を例示している。医用フォトメトリシステム1は、発光部10、受光部20、圧迫装置30、および医用フォトメータ40を備えている。
【0014】
発光部10は、例えば被検者の指先に装着されうる。発光部10は、少なくとも一つの光源を備えている。光源は、特定の波長を含む光を出射するように構成された半導体発光素子である。半導体発光素子の例としては、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード、有機EL素子などが挙げられる。
【0015】
受光部20は、例えば被検者の指先に装着されうる。受光部20は、発光部10から出射されて指先の生体組織を透過した光を受けることができる位置に配置される。図示の例においては、発光部10と受光部20は、指先の生体組織を挟んで互いに反対側に配置されている。この場合、受光部20は、発光部10から出射されて指先の生体組織を透過した光を受ける。生体組織の透過は、生体組織の通過の一例である。
【0016】
あるいは、発光部10と受光部20は、指先の生体組織に対して同じ側に配置されうる。この場合、受光部20は、発光部10から出射されて指先の生体組織に反射された光を受ける。生体組織による反射は、生体組織の通過の一例である。
【0017】
受光部20は、発光部10から出射された光の波長に感度を有する光センサである。光センサの例としては、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトレジスタなどが挙げられる。受光部20は、生体組織を通過した光の強度に応じた信号S1を出力するように構成されている。
【0018】
圧迫装置30は、例えば被検者の指先に装着される。圧迫装置30は、発光部10から出射された光が通過する当該指先の生体組織を圧迫可能に構成されている。圧迫装置30は、気圧により生体組織を圧迫するカフや、可動部材により生体組織を圧迫するアクチュエータなどを備えうる。
【0019】
圧迫強度は、当該生体組織における動脈血圧よりも十分に高い圧力として定められうる。カフが用いられる場合の空気圧は、例えば300mmHgとされうる。アクチュエータを用いられる場合の押圧力は、例えば500gfとされうる。これにより、圧迫された生体組織から血液と細胞間質液が排除されうる。
【0020】
医用フォトメータ40は、入力インターフェース41、出力インターフェース42、プロセッサ43、圧迫制御部44、および通信バス45を備えている。入力インターフェース41、出力インターフェース42、プロセッサ43、および圧迫制御部44は、通信バス45を介して相互に通信可能に接続されている。
【0021】
プロセッサ43は、発光部10の動作を制御するための制御信号S2を出力インターフェース42から出力する。出力インターフェース42は、必要に応じて適宜の信号変換回路を備えうる。当該信号変換回路は、プロセッサ43から出力される信号またはデータを、発光部10を動作させることが可能な態様の制御信号S2に変換する。
【0022】
入力インターフェース41は、受光部20から出力された信号S1を受け付ける。入力インターフェース41は、必要に応じて適宜の信号変換回路を備えうる。当該信号変換回路は、信号S1を、後述する処理をプロセッサ43が実行可能な態様の信号またはデータに変換する。
【0023】
圧迫制御部44は、被検者の身体に装着された圧迫装置30による圧迫動作を制御することにより、前記生体組織の厚み、前記生体組織に含まれる血液の量、前記生体組織に含まれる細胞間質液の量、前記生体組織に流入する血液の量、および前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させるように構成されている。
【0024】
圧迫装置30がカフを備えている場合、圧迫制御部44は、当該カフ内の空気圧を調節するためのポンプとバルブを備えうる。圧迫装置30がアクチュエータを備えている場合、圧迫制御部44は、当該アクチュエータの変位量を調節するための制御信号を出力する回路を備えうる。この場合、当該制御信号は、出力インターフェース42から出力されてもよい。圧迫制御部44の動作は、プロセッサ43によって制御されうる。
【0025】
プロセッサ43は、圧迫装置30による圧迫動作に伴う信号S1の経時変化から前記生体組織の生理学的状態と前記被検者の病態の少なくとも一方の推定に用いられる特徴量を取得するように構成されている。このようなプロセッサ43の動作について、幾つかの具体例を挙げつつ説明する。
【0026】
例1:毛細血管床の酸素化状態が低下する病態の推定
本例においては、発光部10は、赤色光を出射する第一光源と赤外光を出射する第二光源を備えている。赤色光の波長と赤外光の波長は、血液中のヘモグロビンによる吸収度が異なるように定められる。赤色光の波長の例としては、660nmが挙げられる。赤外光の波長の例としては940nmが挙げられる。
【0027】
プロセッサ43は、発光部10に赤色光と赤外光を交互に出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤色光の受光強度に対応する信号S11と、生体組織を通過した赤外光の受光強度に対応する信号S12を交互に出力する。入力インターフェース41は、信号S11と信号S12を交互に受け付ける。
【0028】
プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S11の強度の経時変化と信号S12の強度の経時変化を取得する。
図2の(A)は、このようにして取得された信号S11の強度の経時変化と信号S12の強度の経時変化を例示している。
【0029】
符号t1は、圧迫装置30による圧迫動作が開始された時点を表している。圧迫に伴って生体組織の厚みが減少するとともに血液が排除されるので、受光部20における赤色光の受光強度と赤外光の受光強度は増大する。したがって、信号S11の強度と信号S12もまた増大する。
【0030】
符号t2は、圧迫装置30による圧迫動作が解除された時点を表している。圧迫解除に伴って生体組織の厚みが回復するとともに排除された血液が戻るので、受光部20における赤色光の受光強度と赤外光の受光強度は減少する。したがって、信号S11の強度と信号S12もまた減少する。
【0031】
ヘモグロビンによる赤色光の吸収度と赤外光の吸収度は異なるので、信号S11の強度と信号S12の強度は相違している。プロセッサ43は、信号S11の強度と信号S12の強度の差分値を取得する。
図2の(B)は、このようにして取得された差分値の経時変化を例示している。当該差分値は、受光部20における赤色光の受光強度と赤外光の受光強度の差分に対応している。差分値の取得は、信号S11と信号S12を受け付ける度に行なわれてもよいし、特定の期間について信号S11と信号S12の取得が完了してから行なわれてもよい。信号S11の強度と信号S12の強度の差分値は、信号S11の強度と信号S12の強度の第一相関値の一例である。
【0032】
プロセッサ43は、時点t1における差分値d1と時点t2における差分値d2の差分値D21(=d2-d1)を、特徴量として取得する。差分値d1は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれる前における第一相関値の一例である。差分値d2は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれた後における第一相関値の一例である。差分値D21は、第二相関値の一例である。
【0033】
第一相関値の別例として、信号S11の強度と信号S12の強度の比が取得されうる。この場合、第二相関値の別例として、時点t1における比と時点t2における比の差分値が取得される。
【0034】
差分値D21は、圧迫により生体組織から排除された血液の酸素化状態を反映する。例えば敗血症の患者においては、毛細血管床を経由せずに動脈から静脈に流れるシャント血流が発生する。シャント血流が発生すると、当該毛細血管床を含む生体組織に供給される血液量および酸素量が減少するので、毛細血管床の血液酸素飽和度が低下する。この場合、信号S12の強度が増大するので、差分値D21は減少する。血液酸素飽和度の低下が著しい場合、差分値D21は、負の値をとりうる。
【0035】
プロセッサ43は、差分値D21に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。
図1に例示されるように、医用フォトメータ40は、報知部49を備えうる。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、差分値D21を示す指標が表示装置に表示されうる。あるいは、差分値D21が所定の閾値を下回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0036】
このような構成によれば、差分値D21に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者が毛細血管床の酸素化状態が低下する病態であることを推定できる。上述のように、そのような病態の一例として敗血症が挙げられる。
【0037】
差分値D21に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、毛細血管床の酸素化状態が低下する病態の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。この場合、プロセッサ43は、差分値D21が所定の閾値を下回った場合に、被検者が毛細血管床の酸素化状態が低下する病態にあると推定するように構成される。
【0038】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、敗血症が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0039】
例2:腹腔内出血の推定
本例においては、発光部10は、第一赤外光を出射する第一光源と第二赤外光を出射する第二光源を備えている。第一赤外光の波長は、血液中の酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さくなるように定められる。換言すると、吸収度が酸素化状態の変化に影響を受けにくい波長が選ばれる。そのような第一赤外光の波長の例としては805nmが挙げられる。第二赤外光の波長は、ヘモグロビンよりも水による吸収度が大きくなるように定められる。そのような第二赤外光の波長の例としては、1300nmが挙げられる。
【0040】
プロセッサ43は、発光部10に第一赤外光と第二赤外光を交互に出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した第一赤外光の受光強度に対応する信号S11と、生体組織を通過した第二赤外光の受光強度に対応する信号S12を交互に出力する。入力インターフェース41は、信号S11と信号S12を交互に受け付ける。プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S11の強度の経時変化と信号S12の強度の経時変化を取得する。
【0041】
例1と同様にして、プロセッサ43は、信号S11の強度と信号S12の強度の差分値を取得する。結果として、当該差分値の経時変化は、
図2の(B)に例示されるようになる。信号S11の強度と信号S12の強度の差分値は、相関値の一例である。相関値の別例としては、信号S11の強度と信号S12の強度の比が挙げられる。
【0042】
プロセッサ43は、時点t1における差分値d1と時点t2における差分値d2の差分値D21(=d2-d1)を、特徴量として取得する。差分値d1は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれる前における第一相関値の一例である。差分値d2は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれた後における第一相関値の一例である。差分値D21は、第二相関値の一例である。
【0043】
第一相関値の別例として、信号S11の強度と信号S12の強度の比が取得されうる。この場合、第二相関値の別例として、時点t1における比と時点t2における比の差分値が取得される。
【0044】
差分値D21は、被検者の貧血状態を反映する。例えば腹腔内出血が生じている患者においては、ヘモグロビン濃度の低下(貧血)が臨床症状として現れる。この場合、信号S11の強度が増大するので、差分値D21は減少する。貧血症状が著しい場合、差分値D21は、負の値をとりうる。
【0045】
プロセッサ43は、差分値D21に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、差分値D21を示す指標が表示装置に表示されうる。あるいは、差分値D21が所定の閾値を下回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0046】
このような構成によれば、差分値D21に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者の腹腔内出血を推定できる。腹腔内出血は、病態の一例である。
【0047】
差分値D21に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、腹腔内出血の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。この場合、プロセッサ43は、差分値D21が所定の閾値を下回った場合に被検者の腹腔内出血を推定するように構成される。
【0048】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、腹腔内出血が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0049】
例3:毛細血管床の酸素化状態が低下する病態の推定
本例においては、発光部10は、赤色光を出射する光源を備えている。赤色光の波長は、血液中の酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも大きくなるように定められる。換言すると、吸収度が酸素化状態の変化に影響を受けやすい波長が選ばれる。そのような赤色光の波長の例としては、660nmが挙げられる。
【0050】
プロセッサ43は、発光部10に赤色光を出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤色光の受光強度に対応する信号S1を出力する。入力インターフェース41は、信号S1を受け付ける。
【0051】
プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S1の強度の経時変化を取得する。
図3は、このようにして取得された信号S1の強度の経時変化を例示している。
【0052】
符号t1は、圧迫装置30による圧迫動作が開始された時点を表している。圧迫に伴って生体組織の厚みが減少するとともに血液が排除されるので、受光部20における赤色光の受光強度は増大する。したがって、信号S1の強度もまた増大する。
【0053】
符号t2は、圧迫装置30による圧迫動作が解除された時点を表している。圧迫解除に伴って生体組織の厚みが回復するとともに排除された血液が戻るので、受光部20における赤色光の受光強度は減少する。したがって、信号S1の強度もまた減少する。
【0054】
符号t3は、圧迫動作が解除された後に信号S1の強度の所定時間あたりの変化量が所定の閾値に達した時点を表している。
【0055】
時点t3の後の時点t4において、信号S1の強度は、その経時的変化が実質的になくなる定常状態に至る。符号i4は、当該定常状態における信号S1の強度を表している。プロセッサ43は、時点t1における信号S1の強度i1と時点t3における信号S1の強度i3の差分値I31(=i3-i1)を、特徴量として取得する。強度i1は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれる前における強度の一例である。強度i3は、圧迫装置30による圧迫動作が解除された後における強度の一例である。差分値I31は、相関値の一例である。相関値の別例としては、強度i1と強度i3の比が挙げられる。
【0056】
差分値I31は、圧迫により生体組織から排除された血液の酸素化状態を反映する。例えば敗血症の患者においては、毛細血管床を経由せずに動脈から静脈に流れるシャント血流が発生する。シャント血流が発生すると、当該毛細血管床を含む生体組織に供給される血液量および酸素量が減少するので、毛細血管床の血液酸素飽和度が低下する。この場合、赤色光の吸収が大きくなるので、強度i1が低下する。他方、圧迫動作が解除された後は酸素飽和度が高い動脈血液が毛細血管床に流入するので、圧迫解除直後の毛細血管床の酸素飽和度は、圧迫前の毛細血管床の酸素飽和度に比べて高くなる。このとき赤色光の吸収が小さくなるので、時点t3における強度i3は増大し、差分値I31が大きくなる。
【0057】
プロセッサ43は、差分値I31に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、差分値I31を示す指標が表示装置に表示されうる。あるいは、差分値I31が所定の閾値を下回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0058】
このような構成によれば、差分値I31に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者が毛細血管床の酸素化状態が低下する病態であることを推定できる。上述のように、そのような病態の一例として敗血症が挙げられる。
【0059】
差分値I31に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、毛細血管床の酸素化状態が低下する病態の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。この場合、プロセッサ43は、差分値I31が所定の閾値を下回った場合に、被検者が毛細血管床の酸素化状態が低下する病態にあると推定するように構成される。
【0060】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、敗血症が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0061】
なお、
図3に例示されるように、必要に応じて時点t5を定義してもよい。時点t5は、強度i2と強度i3の差分値I23(=i2-i3)に対して信号S1の強度が所定の割合まで回復した時点である。すなわち、時点t5における強度i5は、差分値I23に所定の割合を乗じた値を強度i3に加えた値として特定される。所定の割合は、例えば0.1である。この場合、強度i5と強度i1の差分値I51(=i5-i1)などが、必要に応じて新たな特徴量として定義されうる。
【0062】
例4:浮腫の推定
本例においては、発光部10は、赤外光を出射する光源を備えている。赤外光の波長は、ヘモグロビンよりも水による吸収度が大きくなるように定められる。赤外光の波長の例としては、1300nmが挙げられる。
【0063】
プロセッサ43は、発光部10に近赤外光を出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤色光の受光強度に対応する信号S1を出力する。入力インターフェース41は、信号S1を受け付ける。
【0064】
プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S1の強度の経時変化を取得する。圧迫に伴い生体組織の厚みが減少するとともに細胞間質液が排除されるので、受光部20における赤外光の受光強度は増大する。したがって、信号S1の強度もまた増大する。圧迫解除に伴って生体組織の厚みが回復すると、排除された細胞間質液が戻るので、受光部20における近赤外光の受光強度は減少する。したがって、信号S1の強度もまた減少する。結果として、信号S1の強度の経時変化は、
図3に例示されるようになる。
【0065】
プロセッサ43は、時点t1における信号S1の強度i1と時点t3における信号S1の強度i3の差分値I31(=i3-i1)を、特徴量として取得する。強度i1は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれる前における強度の一例である。強度i3は、圧迫装置30による圧迫動作が解除された後における強度の一例である。差分値I31は、相関値の一例である。相関値の別例としては、強度i1と強度i3の比が挙げられる。
【0066】
差分値I31は、浮腫の推定に用いられうる。浮腫の患者においては、細胞間質内に水分が過剰に貯留されている。圧迫動作により排除された水分は、細胞間質内に再充填されるまでに時間を要する。したがって、圧迫動作の解除後も生体組織の厚みが減少した状態が継続する。この場合、強度i3が増大するので、差分値I31が大きくなる。浮腫の度合いが著しい場合、すなわち圧迫動作によって排除される水分の量が著しく多い場合、
【0067】
プロセッサ43は、差分値I31に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、差分値I31を示す指標が表示装置に表示されうる。あるいは、差分値I31が所定の閾値を下回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0068】
このような構成によれば、差分値I31に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者が浮腫であることを推定できる。浮腫は、病態の一例である。
【0069】
差分値I31に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、浮腫の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。この場合、プロセッサ43は、差分値I31が所定の閾値を下回った場合に、被検者が浮腫であると推定するように構成される。
【0070】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、浮腫が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0071】
プロセッサ43は、差分値I31に加えてあるいは代えて、圧迫動作が解除される時点t2以降の信号S1の強度の経時変化における波形下面積Auを、特徴量として取得しうる。具体的には、波形下面積Auは、信号S1の強度の経時変化i(t)について次式1で表される。
【数1】
【0072】
例えば血流の増大に伴い、信号強度i3が信号強度i4を下回る場合がある。このとき波形下面積Auは、次式2で表される。
【数2】
【0073】
波形下面積Auもまた、浮腫の推定に用いられうる。浮腫の患者においては、細胞間質内に水分が過剰に貯留されている。圧迫動作により排除された水分は、細胞間質内に再充填されるまでに時間を要する。したがって、波形下面積Auが大きくなる。波形下面積がAu所定の閾値を上回った場合、被検者が浮腫であると推定されうる。
【0074】
例5:血管状態や血管反応性の推定
本例においては、発光部10は、赤外光を出射する光源を備えている。赤外光の波長は、血液中の酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さくなるように定められる。換言すると、吸収度が酸素化状態の変化に影響を受けにくい波長が選ばれる。そのような赤色光の波長の例としては、805nmや940nmが挙げられる。
【0075】
プロセッサ43は、発光部10に赤外光を出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤外光の受光強度に対応する信号S1を出力する。入力インターフェース41は、信号S1を受け付ける。
【0076】
プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S1の強度の経時変化を取得する。結果として、このようにして取得された信号S1の強度の経時変化は、
図3に例示されるようになる。
【0077】
プロセッサ43は、時点t1における信号S1の強度i1と時点t3における信号S1の強度i3の差分値I31(=i3-i1)を、特徴量として取得する。強度i1は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれる前における強度の一例である。強度i3は、圧迫装置30による圧迫動作が解除された後における強度の一例である。差分値I13は、相関値の一例である。相関値の別例としては、強度i1と強度i3の比が挙げられる。
【0078】
血流が一時的に停止された後で再開されると、血管内皮の反応により血管が拡張し、停止前よりも血流が増す現象は、反応性充血(reactive hyperemia)として知られている。この生理学的な刺激応答性を利用した血管内皮機能の診断方法として血流依存性血管拡張(FMD)検査が知られている。当該検査においては、血管径の増大量が正常範囲よりも小さい場合、血管内皮機能が低下している病態であることが示唆される。圧迫装置30による圧迫動作とその解除により、上記の現象が誘起されうる。圧迫解除により圧迫前よりも血流が増大すると、強度i3は低下するので、差分値I31は小さくなる。血流の増大が著しい場合、差分値I31は負の値をとりうる。
図3においては、差分値I31が負の値をとる場合の信号強度を、符号i3’で例示している。
【0079】
プロセッサ43は、差分値I31に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、差分値I31を示す指標が表示装置に表示されうる。あるいは、差分値I31が所定の閾値を下回った場合に、血管内皮機能の低下を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0080】
このような構成によれば、差分値I31に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者の血管内皮機能を推定できる。血管内皮機能は、生体組織の生理学的状態の一例である。
【0081】
差分値I31に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、血管内皮機能が低下する病態の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。この場合、プロセッサ43は、差分値I31が所定の閾値を下回った場合に、被検者は血管内皮機能が低下する病態にあると推定するように構成される。
【0082】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、血管内皮機能の低下が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0083】
例4と同様に、プロセッサ43は、差分値I31に加えてあるいは代えて、圧迫動作が解除される時点t2以降の信号S1の強度の経時変化における波形下面積Auを、特徴量として取得しうる。
【0084】
波形下面積Auもまた、血管状態や血管反応性の推定に用いられうる。前述のように、圧迫動作の解除後に前記反応性充血により血流が増大すると、強度i3が低下する。したがって、
図3に例示されるように、波形下面積が大きくなる。波形下面積が所定の閾値を上回った場合、被検者は血管内皮機能が低下する病態にあると推定されうる。
【0085】
図4の(A)に例示されるように、信号S1には被検者の脈波に対応する波形が重畳している。
図4の(B)は、当該波形を拡大して例示している。以降の説明においては、当該波形を便宜上「脈波」と称する。
図4の(B)に例示されるように、脈波について複数の波形因子が定義されうる。
Ap:振幅(信号強度の最大値と最小値の差分)
Tf:立下り時間(信号強度が最大値をとる時点から最小値をとる時点までの時間)
Gf:立下り勾配(=A/Tf)
Tr:立上り時間(信号強度が最小値をとる時点から最大値をとる時点までの時間)
Gr:立下り勾配(=A/Tr)
【0086】
振幅Aに対応する値としては、所定の期間における信号S1の強度値の平均二乗誤差平方根(RMSE)、ユークリッド距離、平均二乗誤差(MSE)、標準偏差(SD)などの統計量が用いられうる。
【0087】
差分値I31に加えてあるいは代えて、プロセッサ43は、圧迫動作が行なわれる前の信号S1に重畳する脈波の波形因子と当該圧迫動作が行なわれた後の信号S1に重畳する脈波の波形因子の相関値を、特徴量として取得しうる。相関値の例としては、差分値または比が挙げられる。
【0088】
図4の(A)において破線C1で囲まれた領域には、圧迫動作が行なわれる前の信号S1に重畳する脈波が重畳している。当該脈波における上記した複数の波形因子を、振幅Ap1、立下り時間Tf1、立下り勾配Gf1、立上り時間Tr1、および立上り勾配Gr1と表記する。
図4の(A)において破線C2で囲まれた領域には、圧迫動作が行なわれた後の信号S1に重畳する脈波が重畳している。当該脈波における上記した複数の波形因子を、振幅Ap2、立下り時間Tf2、立下り勾配Gf2、立上り時間Tr2、および立上り勾配Gr2と表記する。
【0089】
プロセッサ43は、同種の波形因子について相関値を取得する。例えば振幅Apに着目した場合、プロセッサ43は、差分値(Ap1-Ap2)または比(Ap1/Ap2)を、特徴量として取得する。同様にして、差分値(Tf1-Tf2)または比(Tf1/Tf2)、差分値(Gf1-Gf2)または比(Gf1/Gf2)、差分値(Tr1-Tr2)または比(Tr1/Tr2)、差分値(Gr1-Gr2)または比(Gr1/Gr2)が取得されうる。
【0090】
脈波の形状は、Windkesselモデルとして血圧、血流量、血管抵抗などによって変化することが知られている。したがって、脈波の波形因子に基づく特徴量は、被検者の血管状態や生理学的刺激に対する血管反応性を反映する。このような波形因子の別例としては、パーセンタイル、尖度、歪度などが挙げられる。したがって、相関値に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者の血管状態や生理学的刺激に対する血管反応性を推定できる。血管状態や生理学的刺激に対する血管反応性は、生体組織の生理学的状態の一例である。
【0091】
例6:血圧低下を呈するショックの兆候の推定
本例においては、発光部10は、赤外光を出射する光源を備えている。赤外光の波長は、血液中の酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さくなるように定められる。換言すると、吸収度が酸素化状態の変化に影響を受けにくい波長が選ばれる。そのような赤色光の波長の例としては、805nmや940nmが挙げられる。
【0092】
プロセッサ43は、発光部10に赤外光を出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤外光の受光強度に対応する信号S1を出力する。入力インターフェース41は、信号S1を受け付ける。
【0093】
プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S1の強度の経時変化を取得する。結果として、このようにして取得された信号S1の強度の経時変化は、
図5に例示されるようになる。この経時変化に対して、以下に列挙する五つの期間と五つの勾配が定義されうる。
【0094】
時点t1において圧迫動作が開始されると、信号S1の強度は急速に増大する。したがって、信号S1の強度の微分値もまた急速に増大する。その後、信号S1の強度の増大は、次第に緩やかになる。したがって、信号S1の強度の微分値は、減少に転ずる。圧迫動作が開始される時点t1から当該微分値が所定の閾値Th1を下回る時点までの期間が、第一期間T1として定義される。第一期間T1における信号S1の強度の変化量が、第一勾配G1として定義される。第一期間T1は、所定時間の一例である。
【0095】
第一期間T1の終了時点から圧迫動作が解除される時点t2までの期間が、第二期間T2として定義される。第二期間T2における信号S1の強度の変化量が、第二勾配G2として定義される。第二期間T2は、所定時間の一例である。
【0096】
換言すると、第一期間T1は、圧迫動作中において信号S1の強度の変化量が相対的に大きい期間である。第二期間T2は、圧迫動作中において信号S1の強度の変化量が相対的に小さい期間である。
【0097】
圧迫動作が解除されると、信号S1の強度は急速に減少する。したがって、信号S1の強度の微分値もまた急速に減少する。その後、信号S1の強度の減少は、次第に緩やかになる。したがって、信号S1の強度の微分値は、増大に転ずる。圧迫動作が解除される時点t2から当該微分値が所定の閾値Th3を上回る時点までの期間が、第三期間T3として定義される。第三期間T3における信号S1の強度の変化量が、第三勾配G3として定義される。第三期間T3は、所定時間の一例である。
【0098】
第三期間T3の終了時点から時点t3までの期間が、第四期間T4として定義される。前述のように、時点t3は、圧迫動作が解除された後に信号S1の強度の所定時間あたりの変化量が所定の閾値に達した時点である。第四期間T4における信号S1の強度の変化量が、第四勾配G4として定義される。第四期間T4は、所定時間の一例である。
【0099】
換言すると、第三期間T3は、圧迫動作の解除後において信号S1の強度の変化量が相対的に大きい期間である。第四期間T4は、圧迫動作の解除後において信号S1の強度の変化量が相対的に小さい期間である。
【0100】
時点t3から時点t4までの期間が、第五期間T5として定義される。第五期間T5における信号S1の強度の変化量が、第五勾配G5として定義される。第五期間T5は、所定時間の一例である。
【0101】
第一勾配G1、第二勾配G2、第三勾配G3、第四勾配G4、および第五勾配G5の各々は、最小二乗法などを用いた線形関数に対するフィッティング処理によって取得される。しかしながら、フィッティングの対象となる関数は、指数関数やべき乗関数であってもよい。指数関数に対してフィッティング処理がなされる場合、取得される特徴量は、時定数である。べき乗関数に対してフィッティング処理がなされる場合、取得される特徴量は、各項の係数である。
【0102】
プロセッサ43は、特徴量として第四勾配G4を取得する。第四勾配G4は、圧迫動作が解除された後における所定時間あたりの赤外光の強度の変化量の一例である。
【0103】
第四勾配G4は、血圧低下を呈するショックの兆候の推定に用いられうる。血圧の急激な低下が起こる前には、末梢血管を収縮させて末梢血管抵抗を上げることによって血圧を維持しようとする血行動態の自律調整がなされる。この自律調整機能が維持できなくなると、血圧が急低下してショック状態に陥る。末梢血管が収縮すると、圧迫動作の解除後における血液の戻りが遅くなるので、信号S1の強度の回復も遅れ、第四勾配G4の値が増大する(負の勾配が緩やかになる)。
【0104】
プロセッサ43は、第四勾配G4に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、第四勾配G4を示す指標が表示装置に表示されうる。あるいは、第四勾配G4が所定の閾値を上回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0105】
このような構成によれば、第四勾配G4に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者の血圧低下を呈するショックの兆候を推定できる。血圧低下を呈するショックの兆候は、病態の一例である。
【0106】
第四勾配G4に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、血圧低下を呈するショックの兆候の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。この場合、プロセッサ43は、第四勾配G4が所定の閾値を下回った場合に、被検者の血圧低下を呈するショックの兆候を推定するように構成される。
【0107】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、血圧低下を呈するショックの兆候が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0108】
例7:生体組織における酸素代謝状態の推定
本例においては、発光部10は、赤色光を出射する第一光源と赤外光を出射する第二光源を備えている。赤色光の波長と赤外光の波長は、血液中のヘモグロビンによる吸収度が異なるように定められる。赤色光の波長の例としては、660nmが挙げられる。赤外光の波長の例としては940nmが挙げられる。
【0109】
プロセッサ43は、発光部10に赤色光と赤外光を交互に出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤色光の受光強度に対応する信号S11と、生体組織を通過した赤外光の受光強度に対応する信号S12を交互に出力する。入力インターフェース41は、信号S11と信号S12を交互に受け付ける。プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S11の強度の経時変化と信号S12の強度の経時変化を取得する。
【0110】
例1と同様にして、プロセッサ43は、信号S11の強度と信号S12の強度の差分値を取得する。結果として、当該差分値の経時変化は、
図2の(B)に例示されるようになる。圧迫動作が解除された後、差分値は、その経時的変化が実質的になくなる定常状態に至る。符号d4は、当該定常状態における差分値を表している。信号S11の強度と信号S12の強度の差分値は、相関値の一例である。相関値の別例としては、信号S11の強度と信号S12の強度の比が挙げられる。
【0111】
同図において、符号t3は、圧迫動作が解除された後に信号S1の強度の所定時間あたりの変化量が所定の閾値に達した時点を表している。符号t4は、信号S1の経時変化が定常状態に至った時点を表している。
【0112】
プロセッサ43は、特徴量として、差分値の経時変化における第五勾配G5を取得する。第五勾配G5の定義は、
図5を参照して説明した第五勾配G5の定義に準ずる。すなわち、第五勾配G5は、時点t3と時点t4の間に生じる差分値の変化量として定義される。第五勾配G5は、圧迫動作が解除された後における所定時間あたりの差分値の変化量の一例である。
【0113】
第五勾配G5は、被検者の生体組織における酸素代謝状態の推定に用いられうる。
図2の(B)に示される差分値の経時変化が定常状態に達している状態は、酸素の供給と消費のバランスがとれている状態に対応している。すなわち、酸素の供給と消費のバランスがとれている生体組織は、定常状態に達するまでの時間が短いので、第五勾配G5の値が小さくなる(負の勾配が急峻になる)。例えば、正常な被検者の生体組織においては、圧迫動作が解除された生体組織に流入する血液中の酸素の消費が活発になされ、血液酸素飽和度を低下させる。他方、当該生体組織へは酸素飽和度の高い血液が円滑に流入するので、血液酸素飽和度を上昇させる。両者の平衡が早期に成立するので、第五勾配G5の値は小さくなる。
【0114】
プロセッサ43は、第五勾配G5に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、第五勾配G5を示す指標が表示装置に表示されうる。あるいは、第五勾配G5が所定の閾値を上回る(負の勾配が緩やかである)場合に、酸素代謝状態が良好でない(酸素供給と酸素消費のバランスがとれていない)ことを示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0115】
このような構成によれば、第五勾配G5に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者の毛細血管床における酸素代謝状態を推定できる。毛細血管床の酸素代謝状態は、生体組織の生理学的状態の一例である。
【0116】
第五勾配G5に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、毛細血管床の酸素代謝状態の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。この場合、プロセッサ43は、第五勾配G5が所定の閾値を上回る(負の勾配が緩やかである)場合に、被検者の毛細血管床における酸素代謝状態が良好でないと推定するように構成される。
【0117】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0118】
本例においては、発光部10は、赤色光のみを出射する光源を備えるように構成されうる。この場合、赤色光の波長は、血液中の酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも大きくなるように定められる。換言すると、吸収度が酸素化状態の変化に影響を受けやすい波長が選ばれる。そのような赤色光の波長の例としては、660nmが挙げられる。
【0119】
酸素代謝状態が良好でない一例として、敗血症の進行プロセスにおける一症状が挙げられる。患者が敗血症を発症した場合、まずウォームショックと呼ばれる症状が現れ、続いてコールドショックと呼ばれる症状が現れ、続いて嫌気性代謝と呼ばれる症状へ移行する。ウォームショック状態においては、動脈が拡張して末梢血管抵抗が減少していくことにより、心拍出量が増加するとともに四肢が暖かくなる。コールドショック状態においては、四肢の冷感と血圧の低下による循環不全が生じ、コールドショックと称される状態になる。この状態においては、末梢血管の拡張能が低下するとともに、心拍出量が減少する。通常状態における生体組織は、ミトコンドリアが酸素を消費してエネルギーと二酸化炭素を生成する好気性代謝により生命活動を維持している。しかしながら、末梢循環不全によって組織への酸素供給が十分に行なわれない場合、生命活動の維持のために、酸素を消費せずにエネルギーを生成する嫌気性代謝が一時的に行なわれる。
【0120】
上記の第五勾配G5に加え、
図2の(B)における第四勾配G4を特徴量として取得することにより、敗血症患者における好気性代謝状態と嫌気性代謝状態を推定可能となる。第四勾配G4の定義は、
図5を参照して説明した第四勾配G4の定義に準ずる。すなわち、第四勾配G4は、時点t2と時点t3の間に生じる差分値の変化量として定義される。第四勾配G4は、圧迫動作が解除された後における所定時間あたりの差分値の変化量の一例である。
【0121】
敗血症患者の場合、末梢血管が収縮しており、圧迫動作の解除後における血液の戻りが遅くなるので、差分値の強度の回復も遅れ、第四勾配G4の値が増大する(負の勾配が緩やかになる)。
【0122】
コールドショック状態においては、血流の不足により酸素の供給が比較的少ない一方で、好気性代謝により酸素の消費は比較的多い。したがって、圧迫動作の解除後における酸素の供給と消費の平衡の成立に時間を要する。換言すると、第五勾配G5の値が増大する(負の勾配が緩やかになる)。他方、嫌気性代謝状態においては、血流の不足により酸素の供給が比較的少ないものの、酸素消費も比較的少ないので、圧迫動作の解除後における酸素の供給と消費は比較的速く平衡する。換言すると、第五勾配G5の値が減少する(負の勾配が急峻になる)。
【0123】
したがって、第四勾配G4の値が所定の閾値よりも小さく、第五勾配G5の値も所定の閾値より小さければ、被検者は正常かつ毛細血管床の酸素代謝状態が良好であると推定されうる。第四勾配G4の値が所定の閾値以上であり、第五勾配G5の値が所定の閾値より小さければ、被検者は敗血症であり、毛細血管床が嫌気性代謝状態にあると推定されうる。第四勾配G4の値が所定の閾値以上であり、第五勾配G5の値も所定の閾値以上であれば、被検者は敗血症であり、毛細血管床が好気性代謝状態(すなわちコールドショック状態)にあると推定されうる。
【0124】
この場合、上記の報知信号S3は、第四勾配G4と第五勾配G5に対応するように構成されうる。また、上記の報知信号S4は、敗血症における好気性代謝状態と嫌気性代謝状態に係る推定結果に対応するように構成されうる。敗血症における好気性代謝状態と嫌気性代謝状態は、病態の一例である。
【0125】
例8:浮腫の推定
本例においては、発光部10は、第一赤外光を出射する第一光源と第二赤外光を出射する第二光源を備えている。第一赤外光の波長は、血液中の酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さくなるように定められる。換言すると、吸収度が酸素化状態の変化に影響を受けにくい波長が選ばれる。そのような赤外光の波長の例としては805nmが挙げられる。第二赤外光の波長は、ヘモグロビンよりも水による吸収度が大きくなるように定められる。そのような第二赤外光の波長の例としては、1300nmが挙げられる。
【0126】
プロセッサ43は、発光部10に第一赤外光と第二赤外光を交互に出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した第一赤外光の受光強度に対応する信号S11と、生体組織を通過した第二赤外光の受光強度に対応する信号S12を交互に出力する。入力インターフェース41は、信号S11と信号S12を交互に受け付ける。プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S11の強度の経時変化と信号S12の強度の経時変化を取得する。
【0127】
プロセッサ43は、
図6に例示されるように、信号S11の強度に対応する第一座標軸と信号S12の強度に対応する第二座標軸により形成される座標平面において信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点の軌跡(経時変化)に対応するデータを取得する。当該軌跡の形状因子として、第一勾配Φ1、第二勾配Φ2、第三勾配Φ3、第四勾配Φ4、第五勾配Φ5、第一面積A1、第二面積A2、および総面積A0が定義されうる。
【0128】
第一勾配Φ1は、
図5を参照して説明した第一期間T1の間に
図6の座標平面上に描かれる軌跡の勾配として定義される。第二勾配Φ2は、
図5を参照して説明した第二期間T2の間に
図6の座標平面上に描かれる軌跡の勾配として定義される。第三勾配Φ3は、
図5を参照して説明した第三期間T3の間に
図6の座標平面上に描かれる軌跡の勾配として定義される。第四勾配Φ4は、
図5を参照して説明した第四期間T4の間に
図6の座標平面上に描かれる軌跡の勾配として定義される。第五勾配Φ5は、
図5を参照して説明した第五期間T5の間に
図6の座標平面上に描かれる軌跡の勾配として定義される。
【0129】
第一勾配G1、第二勾配G2、第三勾配G3、第四勾配G4、および第五勾配G5の各々は、最小二乗法などを用いた線形関数に対するフィッティング処理によって取得される。しかしながら、フィッティングの対象となる関数は、指数関数やべき乗関数であってもよい。指数関数に対してフィッティング処理がなされる場合、取得される特徴量は、時定数である。べき乗関数に対してフィッティング処理がなされる場合、取得される特徴量は、各項の係数である。
【0130】
当該座標平面において、時点t1における信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点と、時点t2における信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点とを結ぶ直線をL1で表す場合、第一面積A1は、時点t1から時点t2までの間に信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点が描く軌跡と直線L1とによって囲まれる面積を表している。換言すると、圧迫動作が解除される前に信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点が描く軌跡と直線L1によって囲まれる面積を表している。
【0131】
同様に、時点t2における信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点と、時点t4における信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点とを結ぶ直線をL2で表す場合、第二面積A2は、時点t2から時点t4までの間に信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点が描く軌跡と直線L2とによって囲まれる面積を表している。換言すると、圧迫動作が解除された後に信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点が描く軌跡と直線L2によって囲まれる面積を表している。総面積A0は、第一面積A1と第二面積A2の和として定義される。
【0132】
プロセッサ43は、これらの形状因子の少なくとも一つを特徴量として取得する。当該特徴量は、例えば浮腫の推定に用いられる。
【0133】
浮腫の患者においては、細胞間質内に水分が過剰に貯留されている。圧迫動作により排除された水分は、細胞間質内に再充填されるまでに時間を要する。すなわち、圧迫動作が解除されると、圧迫動作により排除された血液がまず組織に戻り、ヘモグロビンによる吸光量を反映する信号S11の強度が先行して回復する。続いて水分が徐々に細胞間質内に戻ることにより、水による吸光量を反映する信号S12の強度が回復する。したがって、特に圧迫動作が解除される直前と解除された後の信号S11の強度変化と信号S12の強度変化を反映する第三勾配Φ3、第四勾配Φ4、第五勾配Φ5、第二面積A2、総面積A0について、浮腫ではない被検者との顕著な差異が生じる。したがって、第一面積A1に対する第二面積A2の比率(A2/A1)や、総面積A0に対する第二面積A2の比率(A2/A0)もまた、形状因子になりうる。
【0134】
プロセッサ43は、少なくとも一つの形状因子に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、第二面積A2を示す指標が表示装置に表示されうる。例えば、第二面積A2が所定の閾値を上回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0135】
少なくとも一つの形状因子に対応する報知信号S3に加えてあるいは代えて、プロセッサ43は、
図6に例示される座標平面および信号S11の強度と信号S12の強度により定まる点の軌跡を含む画像を表示するための信号を、出力インターフェース42から出力してもよい。当該信号に基づいて、医用フォトメータ40に設けられた不図示の表示装置や医用フォトメータ40から遠隔した表示装置において、当該画像が表示されうる。
【0136】
このような構成によれば、少なくとも一つの形状因子に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者が浮腫であることを推定できる。浮腫は、病態の一例である。
【0137】
少なくとも一つの形状因子に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、浮腫の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。例えば、プロセッサ43は、第二面積A2が所定の閾値を上回った場合に、被検者が浮腫であると推定するように構成される。
【0138】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、浮腫が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0139】
例9:敗血症性ショック症状の推定
本例においては、発光部10は、赤外光を出射する光源を備えている。赤外光の波長は、血液中の酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さくなるように定められる。換言すると、吸収度が酸素化状態の変化に影響を受けにくい波長が選ばれる。そのような赤色光の波長の例としては、805nmや940nmが挙げられる。
【0140】
プロセッサ43は、発光部10に赤外光を出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤外光の受光強度に対応する信号S1を出力する。入力インターフェース41は、信号S1を受け付ける。
【0141】
プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S1の強度の経時変化を取得する。結果として、このようにして取得された信号S1の強度の経時変化は、
図5に例示されるようになる。プロセッサ43は、第四勾配G4の値を取得する。プロセッサ43は、この動作を繰り返し行ない、複数個の第四勾配G4の値を取得する。プロセッサ43は、特徴量として、第四勾配G4の経時変化を取得する。
【0142】
患者が敗血症を発症した場合、抗菌薬の投与が1時間遅れると死亡率が7%増えることが知られている。したがって、敗血症の発症を早期に発見して治療介入することが重要である。しかしながら、敗血症の発症プロセスは複雑かつ速やかに進行するので、早期の発見が困難であることが知られている。
【0143】
第四勾配G4の経時変化は、敗血症性ショック症状の推定に用いられうる。被検者がウォームショック状態にある場合、圧迫動作の解除後における動脈血の再充填速度は相対的に上昇する。したがって、第四勾配G4の値は小さくなる(負の勾配が急峻になる)。他方、被検者がコールドショック状態にある場合、圧迫動作の解除後における動脈血の再充填速度は相対的に低下する。したがって、第四勾配G4の値は大きくなる(負の勾配が緩やかになる)。すなわち、複数回の圧迫動作を通じて取得された第四勾配G4の値の経時的な増減をモニタすることにより、敗血症性ショック症状の進行を推定できる。第四勾配G4の経時変化は、圧迫動作が解除された後における所定時間あたりの赤外光の強度の変化量の経時変化の一例である。
【0144】
プロセッサ43は、第四勾配G4の経時変化に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、第四勾配G4の経時変化を示すグラフが表示装置に表示されうる。あるいは、第四勾配G4の値が所定の閾値を上回った場合や下回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0145】
このような構成によれば、第四勾配G4の経時変化に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者の敗血症性ショック症状を推定できる。敗血症性ショック症状は、病態の一例である。
【0146】
第四勾配G4の経時変化に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、敗血症性ショック症状の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。例えば、プロセッサ43は、第四勾配G4が所定の閾値を下回った場合に被検者がウォームショック状態にあると推定し、第四勾配G4が所定の閾値を上回った場合に被検者がコールドショック状態にあると推定するように構成される。
【0147】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、敗血症性ショック症状が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0148】
例10:敗血症性ショック症状の推定
本例においては、発光部10は、赤外光を出射する光源を備えている。赤外光の波長は、血液中の酸素化ヘモグロビンによる吸収度と脱酸素化ヘモグロビンによる吸収度の差分が所定値よりも小さくなるように定められる。換言すると、吸収度が酸素化状態の変化に影響を受けにくい波長が選ばれる。そのような赤色光の波長の例としては、805nmや940nmが挙げられる。
【0149】
プロセッサ43は、発光部10に赤外光を出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤外光の受光強度に対応する信号S1を出力する。入力インターフェース41は、信号S1を受け付ける。
【0150】
プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S1の強度の経時変化を取得する。結果として、このようにして取得された信号S1の強度の経時変化は、
図4の(A)に例示されるようになる。
【0151】
プロセッサ43は、圧迫動作が行なわれる前の信号S1に重畳する脈波の波形因子と当該圧迫動作が行なわれた後の信号S1に重畳する脈波の波形因子の相関値を取得する。相関値の例としては、差分値または比が挙げられる。具体的には、プロセッサ43は、
図4の(B)を参照して説明した複数の波形因子のうち、同種の波形因子について相関値を取得する。例えば振幅Apに着目した場合、プロセッサ43は、差分値(Ap1-Ap2)または比(Ap1/Ap2)を、相関値として取得する。
【0152】
プロセッサ43は、上記の動作を繰り返し行ない、複数個の相関値を取得する。プロセッサ43は、特徴量として、当該相関値の経時変化を取得する。
【0153】
相関値の経時変化は、敗血症性ショック症状の推定に用いられうる。相関値の経時変化は、圧迫動作が行なわれる前の赤外光の強度変化に重畳する脈波の形状因子と圧迫動作が行なわれた後の赤外光の強度変化に重畳する脈波の形状因子の相関値の経時変化の一例である。
【0154】
ウォームショック状態においては、末梢血管の拡張能が亢進する。この場合、圧迫動作の解除後に血管拡張が起こり、Ap2の値が増大する。これにより、差分値(Ap1-Ap2)は減少する。他方、コールドショック状態においては、末梢血管の拡張能が低下する。この場合、圧迫動作の解除後に血管拡張が起こりにくくなるので、差分値(Ap1-Ap2)は増大する。すなわち、差分値(Ap1-Ap2)が増大するように経時変化している場合、敗血症性ショック症状の一例として、末梢血管の拡張能の低下やコールドショック状態への移行が推定されうる。
【0155】
プロセッサ43は、相関値の経時変化に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、相関値の経時変化を示すグラフが表示装置に表示されうる。あるいは、相関値が所定の閾値を上回った場合や下回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0156】
このような構成によれば、相関値の経時変化に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者の敗血症性ショック症状を推定できる。敗血症性ショック症状は、病態の一例である。
【0157】
相関値の経時変化に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、敗血症性ショック症状の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。例えば、プロセッサ43は、被検者がコールドショック状態へ移行していると推定するように構成される。
【0158】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、敗血症性ショック症状が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0159】
例11:コールドショック状態への移行の推定
本例においては、発光部10は、赤色光を出射する第一光源と赤外光を出射する第二光源を備えている。赤色光の波長と赤外光の波長は、血液中のヘモグロビンによる吸収度が異なるように定められる。赤色光の波長の例としては、660nmが挙げられる。赤外光の波長の例としては940nmが挙げられる。
【0160】
プロセッサ43は、発光部10に赤色光と赤外光を交互に出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤色光の受光強度に対応する信号S11と、生体組織を通過した赤外光の受光強度に対応する信号S12を交互に出力する。入力インターフェース41は、信号S11と信号S12を交互に受け付ける。プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S11の強度の経時変化と信号S12の強度の経時変化を取得する。
【0161】
例1と同様にして、プロセッサ43は、信号S11の強度と信号S12の強度の差分値を取得する。結果として、当該差分値の経時変化は、
図2の(B)に例示されるようになる。信号S11の強度と信号S12の強度の差分値は、第一相関値の一例である。第一相関値の別例としては、信号S11の強度と信号S12の強度の比が挙げられる。
【0162】
プロセッサ43は、時点t1における差分値d1と時点t2における差分値d2の差分値D21(=d2-d1)を、特徴量として取得する。差分値d1は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれる前における第一相関値の一例である。差分値d2は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれた後における第一相関値の一例である。差分値D21は、第二相関値の一例である。
【0163】
プロセッサ43は、特徴量として、第四勾配G4をさらに取得する。第四勾配G4の定義は、
図5を参照して説明した第四勾配G4の定義に準ずる。第四勾配G4は、圧迫動作が解除された後における第一相関値の所定時間あたりの変化量の一例である。
【0164】
第一相関値の別例として、信号S11の強度と信号S12の強度の比が取得されうる。この場合、第二相関値の別例として、時点t1における比と時点t2における比の差分値が取得される。
【0165】
ウォームショック状態からコールドショック状態への移行に伴い、末梢組織での血流が維持できず、末梢組織への酸素供給が不十分となる。これにより多臓器不全などが引き起こされうる。したがって、ショック状態の変化を早期に発見して治療介入することが重要である。しかしながら、ショック状態の移行プロセスは複雑かつ速やかに進行するので、早期の発見が困難であることが知られている。
【0166】
差分値D21と第四勾配G4は、コールドショック状態への移行の推定に用いられうる。コールドショック状態への移行に伴って末梢組織への酸素供給が不十分になるので、圧迫動作によって排除される動脈血の酸素飽和度が低下する。この場合、信号S12の強度が増大するので、差分値D21は減少する。他方、末梢組織へ供給される血流が減少するので、第四勾配G4の値は増大する(負の勾配が緩やかになる)。
【0167】
プロセッサ43は、差分値D21と第四勾配G4に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、差分値D21を示す指標と第四勾配G4を示す指標が表示装置に表示されうる。あるいは、差分値D21が所定の閾値を下回り、かつ第四勾配G4が所定の閾値を上回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0168】
このような構成によれば、差分値D21と第四勾配G4に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者がコールドショック状態へ移行しつつあることを推定できる。コールドショック状態への移行は、病態の一例である。
【0169】
差分値D21と第四勾配G4に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、コールドショック状態への移行の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。この場合、プロセッサ43は、差分値D21が所定の閾値を下回り、かつ第四勾配G4が所定の閾値を上回った場合に、被検者がコールドショック状態に移行しつつあると推定するように構成される。
【0170】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、コールドショック状態へ移行しつつある旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0171】
例12:生体組織における酸素利用障害の推定
本例においては、発光部10は、赤色光を出射する第一光源と赤外光を出射する第二光源を備えている。赤色光の波長と赤外光の波長は、血液中のヘモグロビンによる吸収度が異なるように定められる。赤色光の波長の例としては、660nmが挙げられる。赤外光の波長の例としては940nmが挙げられる。
【0172】
プロセッサ43は、発光部10に赤色光と赤外光を交互に出射させる制御信号S2を、出力インターフェース42から出力する。受光部20は、生体組織を通過した赤色光の受光強度に対応する信号S11と、生体組織を通過した赤外光の受光強度に対応する信号S12を交互に出力する。入力インターフェース41は、信号S11と信号S12を交互に受け付ける。プロセッサ43は、圧迫制御部44に圧迫装置30による圧迫動作を制御させつつ、信号S11の強度の経時変化と信号S12の強度の経時変化を取得する。
【0173】
例1と同様にして、プロセッサ43は、信号S11の強度と信号S12の強度の差分値を取得する。結果として、当該差分値の経時変化は、
図2の(B)に例示されるようになる。信号S11の強度と信号S12の強度の差分値は、第一相関値の一例である。第一相関値の別例としては、信号S11の強度と信号S12の強度の比が挙げられる。
【0174】
プロセッサ43は、時点t1における差分値d1と時点t2における差分値d2の差分値D21(=d2-d1)を、特徴量として取得する。差分値d1は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれる前における第一相関値の一例である。差分値d2は、圧迫装置30による圧迫動作が行なわれた後における第一相関値の一例である。差分値D21は、第二相関値の一例である。
【0175】
プロセッサ43は、特徴量として、第四勾配G4をさらに取得する。第四勾配G4の定義は、
図5を参照して説明した第四勾配G4の定義に準ずる。第四勾配G4は、圧迫動作が解除された後における第一相関値の所定時間あたりの変化量の一例である。
【0176】
第一相関値の別例として、信号S11の強度と信号S12の強度の比が取得されうる。この場合、第二相関値の別例として、時点t1における比と時点t2における比の差分値が取得される。
【0177】
本例においては、圧迫装置30に加えて、血流遮断装置50が被検者に装着される。血流遮断装置50は、例えば、圧迫装置30が装着された被検者の指の根元部に装着される。血流遮断装置50は、気圧により生体組織を圧迫するカフや、可動部材により生体組織を圧迫するアクチュエータなどを備えうる。
【0178】
圧迫強度は、当該生体組織における動脈血圧よりも十分に高い圧力として定められうる。カフが用いられる場合の空気圧は、例えば300mmHgとされうる。アクチュエータを用いられる場合の押圧力は、例えば500gfとされうる。これにより、圧迫装置30により圧迫される生体組織への血液の流入と流出が阻止される。
【0179】
圧迫制御部44は、被検者の身体に装着された血流遮断装置50による圧迫動作を制御することにより、生体組織に流入する血液の量と前記生体組織から流出する血液の量の少なくとも一つを変化させるように構成されている。以降の説明においては、血流遮断装置50による圧迫動作を、血流遮断動作と称する。
【0180】
血流遮断装置50がカフを備えている場合、圧迫制御部44は、当該カフ内の空気圧を調節するためのポンプとバルブを備えうる。血流遮断装置50がアクチュエータを備えている場合、圧迫制御部44は、当該アクチュエータの変位量を調節するための制御信号を出力する回路を備えうる。この場合、当該制御信号は、出力インターフェース42から出力されてもよい。圧迫制御部44の動作は、プロセッサ43によって制御されうる。
【0181】
プロセッサ43は、圧迫制御部44に血流遮断装置50による血流遮断動作を制御させつつ、信号S11の強度の経時変化と信号S12の強度の経時変化を取得する。
図7は、このようにして取得された信号S11の強度の経時変化と信号S12の強度の経時変化を例示している。
【0182】
符号t10は、血流遮断装置50による血流遮断動作が開始された時点を表している。圧迫に伴って生体組織への血液の流入および流出が阻止された状態で血液中の酸素が消費されるので、脱酸素化ヘモグロビンの濃度が増加し、酸素化ヘモグロビンの濃度は減少する。このとき、赤色光の吸収が大きくなるので信号S11の強度が低下し、赤外光の吸収が小さくなるので信号S12の強度が増大する。
【0183】
符号t20は、血流遮断装置50による血流遮断動作が解除された時点を表している。圧迫解除に伴って生体組織へ血液が流入するので、信号S11の強度と信号S12の強度は、それぞれ圧迫がなされる前の強度へ回復する。
【0184】
プロセッサ43は、血流遮断装置50による血流遮断動作中においても、信号S11の強度と信号S12の強度の差分値を取得する。プロセッサ43は、血流遮断動作中における当該差分値の所定時間あたりの変化量を、特徴量として取得する。
【0185】
敗血症の患者において嫌気性代謝が亢進すると、末梢循環が改善して酸素供給が十分に行なわれるようになっても好気性代謝が回復しない酸素利用障害に陥ることが知られている。酸素利用障害を治療するためには、循環状態の維持や酸素投与のみでは十分でなく、代謝機能の改善が必要と提唱されている。
【0186】
差分値D21、第四勾配G4、および血流遮断動作中における信号S11の強度と信号S12の強度の差分値の所定時間あたりの変化量は、生体組織における酸素利用障害の推定に用いられうる。血流遮断動作中に好気性代謝が正常に行なわれている場合、信号S11の強度変化と信号S12の強度変化は、
図7に例示された挙動を示す。他方、血流遮断動作中に好気性代謝が正常に行なわれていない場合、信号S11の強度変化と信号S12の強度変化は、ともに小さくなる。したがって、両者の差分値の所定時間あたりの変化量もまた減少する。圧迫装置30による圧迫動作を通じて取得された差分値D21と第四勾配G4が正常値でありながら、信号S11の強度と信号S12の強度の差分値の所定時間あたりの変化量が所定の閾値を下回る場合、生体組織の酸素利用障害が推定される。
【0187】
プロセッサ43は、これらの特徴量に対応する報知信号S3を、出力インターフェース42から出力する。報知部49は、報知信号S3に基づく報知を行ないうる。報知信号S3に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、各特徴量を示す指標が表示装置に表示されうる。あるいは、差分値D21と第四勾配G4が正常値でありながら信号S11の強度と信号S12の強度の差分値の所定時間あたりの変化量が所定の閾値を下回った場合に、適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S3に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S3は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0188】
このような構成によれば、これらの特徴量に基づく報知を通じて、ユーザは、被検者の生体組織における酸素利用障害を推定できる。酸素利用障害は、生体組織の生理学的状態または病態の一例である。
【0189】
これらの特徴量に対応する報知信号S3の出力に代えて、プロセッサ43は、生体組織における酸素利用障害の推定結果に対応する報知信号S4を出力しうる。この場合、プロセッサ43は、差分値D21と第四勾配G4が正常値でありながら信号S11の強度と信号S12の強度の差分値の所定時間あたりの変化量が所定の閾値を下回った場合に、被検者の生体組織における酸素利用障害を推定するように構成される。
【0190】
報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行ないうる。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、生体組織における酸素利用障害が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0191】
図1に例示されるように、プロセッサ43は、識別器431を用いて被検者の病態と生体組織の生理学的状態の少なくとも一方の推定を行なうように構成されうる。識別器431は、プロセッサ43により実行される処理アルゴリズムの呼称である。
【0192】
識別器431は、事前の機械学習を通じて構成されている。機械学習に使用される教師データは、入力と出力の関係を複数の被検者から取得することによって形成される。入力は、入力インターフェース41に入力される信号の各被検者に対して行なわれる圧迫装置30による圧迫動作に伴う経時変化である。出力は、当該入力において所定の特徴量に着目した結果として得られる各被検者の病態と生体組織の生理学的状態の少なくとも一方である。所定の特徴量としては、上記の例1から例12を参照して説明したものが使用されうる。したがって、病態と生体組織の生理学的状態の少なくとも一方もまた、上記の例1から例12を参照して説明したものが使用されうる。
【0193】
一例として、プロセッサ43が識別器を用いて上記の例4に係る推定を行なう場合について説明する。特徴量は、
図3に例示される差分値I31である。推定対象は、浮腫である。識別器431は、浮腫である被検者から取得された信号S1における差分値I31と浮腫でない被検者から取得された信号S1における差分値I31とを教師データとした機械学習を通じて、入力インターフェース41に今回入力された信号S1を提供している被検者が浮腫である可能性に対応する尤度を判断するように構成されている。識別器は、例えばサポートベクターマシン(SVM)でありうる。この場合、尤度はSVMスコアとして算出される。
【0194】
具体的には、プロセッサ43は、信号S1の差分値I31を取得し、識別器431に入力する。識別器431は、入力された差分値I31についてSVMスコアを算出する。算出されたSVMスコアが所定値以上である場合、プロセッサ43は、信号S1を提供した被検者が浮腫である可能性が高いと推定する。
【0195】
プロセッサ43は、浮腫の推定結果に対応する報知信号S4を出力する。報知部49は、報知信号S4に基づく報知を行なう。報知信号S4に基づく報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを用いて行なわれる。例えば、浮腫が推定される旨を示す適当な指標の表示やアラーム音声の出力がなされうる。報知信号S4に基づく報知は、医用フォトメータ40から遠隔した装置によって行なわれてもよい。この場合、報知信号S4は、出力インターフェース42を通じて当該遠隔装置へ送信される。
【0196】
このような構成によれば、複数の被検者から過去に取得されたデータによる機械学習を通じて、被検者の病態と生体組織の生理学的状態の少なくとも一方の経験的な推定を、プロセッサ43に行なわせることができる。この場合、厳密なルールベースの推定と比較して、システムの柔軟性を高めることができる。
【0197】
所望の推定結果の該当または非該当を識別する識別器の他の例としては、ロジスティック回帰が用いられうる。上記の例11や例12のように複数の特徴量を推定に使用する場合は、パーセプトロン、決定木、ランダムフォレストなどが識別器として使用されうる。
【0198】
識別器431の機械学習に用いる教師データは、各被検者の臨床データを含みうる。臨床データは、年齢、性別、身長、体重、既往症データ、バイタルデータ、生化学検査データ、血液検査データ、投与薬剤データ、人工呼吸器の設定、透析器の設定、体外循環器の設定、重症度スコアなどの少なくとも一つを含みうる。バイタルデータは、心拍数、呼吸数、血圧、動脈血酸素飽和度、呼気二酸化炭素濃度などの少なくとも一つを含みうる。重症度スコアは、SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア、qSOFA(quick SOFA)スコア、APACHE(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)スコア、SAPS(Simplified Acute Physiology Score)などの少なくとも一つを含みうる。上記の例の場合、浮腫である被検者から取得された信号S1における差分値I31に対し、当該被検者の臨床データが関連付けられる。同様に、浮腫でない被検者から取得された信号S1における差分値I31に対し、当該被検者の臨床データが関連づけられる。
【0199】
この場合、プロセッサ43は、識別器431を用いて被検者の病態と生体組織の生理学的状態の少なくとも一方を推定するにあたって、当該被検者の臨床情報を参照するように構成される。
図1に例示されるように、臨床情報Cの少なくとも一部は、外部のセンサや医療機器から入力インターフェース41に入力されうる。これに加えてあるいは代えて、臨床情報Cの少なくとも一部は、医用フォトメータ40に内蔵されたストレージ46に格納されうる。ストレージ46は、半導体メモリやハードディスク装置により実現される記憶装置である。
【0200】
すなわち、プロセッサ43は、臨床情報CをSVMスコアの算出に利用する。例えば、浮腫である複数の被検者から取得された教師データにおいて特定のバイタルデータが高い傾向を示しており、今回の被検者から取得された当該バイタルデータの値が高い場合、浮腫である可能性に対応するSVMスコアがより高く算出される。このような構成によれば、特徴量のみが識別器431に入力される場合と比較して、推定の確度をより高めることができる。
【0201】
これまで説明したような機能を有するプロセッサ43は、汎用メモリと共同して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されうる。汎用マイクロプロセッサとしては、CPU、MPU、GPUが例示されうる。汎用メモリとしてはRAMやROMが例示されうる。この場合、ROMには、上記の処理を実行するコンピュータプログラムが記憶されうる。プロセッサ43は、ROM上に記憶されたコンピュータプログラムの少なくとも一部を指定してRAM上に展開し、RAMと協働して上述の処理を実行する。ストレージ46の一部は、上記の汎用メモリとして使用されてもよい。プロセッサ43は、上述の処理を実現するコンピュータプログラムを実行可能なマイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの専用集積回路によって実現されてもよい。プロセッサ43は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによって実現されてもよい。
【0202】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の実施形態に係る構成は、本発明の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。
【0203】
図5を参照して第一勾配G1、第二勾配G2、第三勾配G3、第四勾配G4、および第五勾配G5の各々が特徴量になりうることを説明した。しかしながら、これらの勾配の定義に用いた第一期間T1、第二期間T2、第三期間T3、第四期間T4、および第五期間T5の各々もまた特徴量になりうる。例えば、第五勾配G5の値が小さくなる(負の勾配が急峻になる)ことは、第五期間T5が短くなることに対応している。
【0204】
圧迫装置30が装着される箇所は、被検者の指先に限られない。例えば、圧迫装置30は、被検者の前腕部に装着されうる。この場合、受光部20は、発光部10から出射されて生体組織によって反射された光を受けるように構成されうる。この場合、血流遮断装置50は、被検者の上腕部に装着されうる。
【符号の説明】
【0205】
30:圧迫装置、40:医用フォトメータ、41:入力インターフェース、42:出力インターフェース、43:プロセッサ、431:識別器、44:圧迫制御部、50:血流遮断装置、S1、S11、S12:生体組織を通過した光の強度に対応する信号、S3:報知信号、S4:報知信号、C:臨床情報