IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特許7645057補強用フィルム、光学部材および電子部材
<>
  • 特許-補強用フィルム、光学部材および電子部材 図1
  • 特許-補強用フィルム、光学部材および電子部材 図2
  • 特許-補強用フィルム、光学部材および電子部材 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】補強用フィルム、光学部材および電子部材
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20250306BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20250306BHJP
   C09J 143/04 20060101ALI20250306BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250306BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/04
C09J143/04
B32B27/30 A
B32B27/00 101
B32B27/00 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020134187
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2022030291
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】舟木 千尋
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔悟
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/021332(WO,A1)
【文献】特開2020-066642(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076066(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/116229(WO,A1)
【文献】特開2019-094476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00,27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層を備える補強用フィルムであって、
前記粘着剤層は、ポリマー(A)と、ポリマー(B)とを含み、
前記ポリマー(A)はアクリル系ポリマーであり、
前記アクリル系ポリマーは、水酸基含有モノマーに由来するモノマー単位を1重量%以上20重量%以下含み、
前記ポリマー(A)のガラス転移温度T は-80℃以上-35℃未満であり、
前記ポリマー(B)は、ポリオルガノシロキサン骨格を有するモノマー単位と、(メタ)アクリル系モノマー単位と、を含み、
前記粘着剤層中の前記ポリマー(B)の含有量は、前記ポリマー(A)100重量部に対して0.1~30重量部であり、
前記粘着剤層は、イソシアネート系架橋剤を前記ポリマー(A)100重量部に対して0.015重量部以上1.0重量部未満含み、
前記粘着剤層は、23℃での表面弾性率が1~20kPaである、補強用フィルム。
【請求項2】
前記粘着剤層は、23℃でのバルク弾性率G′23が10~200kPaであり、80℃でのバルク弾性率G′80が5~100kPaであり、かつ80℃でのtanδ80が0.10~0.60である、請求項1に記載の補強用フィルム。
【請求項3】
前記粘着剤層中の前記ポリマー(B)の含有量は、前記ポリマー(A)100重量部に対して0.5~5重量部である、請求項1または2に記載の補強用フィルム。
【請求項4】
前記粘着剤層に含まれるイソシアネート基と水酸基とのモル比([NCO]/[OH])は0.002~0.03である、請求項1~のいずれか一項に記載の補強用フィルム。
【請求項5】
前記粘着剤層は触媒を含み、
前記粘着剤層に含まれる前記触媒と水酸基とのモル比([触媒]/[OH])は1.0×10-6~5.0×10-2である、請求項1~のいずれか一項に記載の補強用フィルム。
【請求項6】
前記触媒は鉄系触媒であり、
前記粘着剤層に含まれる前記触媒と水酸基とのモル比([触媒]/[OH])は1.0×10-4~1.0×10-3である、請求項に記載の補強用フィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の補強用フィルムが貼着された光学部材。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の補強用フィルムが貼着された電子部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強用フィルム、ならびに該補強用フィルムが貼着された光学部材および電子部材に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤は、粘着シートの形態で、被着体同士の接着や、被着体への物品の固定等の目的で、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン等の携帯電子機器その他の電子機器等の各種用途に広く用いられている。例えば、上記機器を構成する光学部材や電子部材等に剛性や耐衝撃性を付与する補強材(補強用フィルム)として粘着シートは利用されている。この種の従来技術を開示する文献として特許文献1および2が挙げられる。
【0003】
また、近年、折り曲げたり丸めたりすることができる携帯電子機器が注目されており、そのような電子機器に内蔵されるフレキシブルデバイス(典型的には、有機ELや液晶表示装置等の画像表示装置)の固定等に用いることができる粘着シートの開発が進んでいる(特許文献3~6)。
【0004】
一方、粘着剤の性能に目を向けると、最近、被着体への貼付け初期には低い粘着力を示し、その後、粘着力を大きく上昇させることができる粘着シートが提案されている(特許文献7)。このような特性を有する粘着シートによると、粘着力の上昇前には粘着シートの貼り間違いや貼り損ねによる歩留り低下の抑制に有用な貼り直し性(リワーク性)を発揮し、かつ、粘着力の上昇後には粘着シートの本来の使用目的に適した強粘着性を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6366199号公報
【文献】特許第6366200号公報
【文献】特許第6376271号公報
【文献】特開2016-108555号公報
【文献】特開2017-095657号公報
【文献】特開2017-095659号公報
【文献】特許第6373458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
補強用フィルムは、上記フレキシブルデバイスにも用いられ得る。例えば、上記フレキシブルデバイスの製造では、当該デバイスを構成する部材が薄厚であることが多いため、粘着シートを補強用フィルムとして貼り付けて補強し、デバイスの変形を原因とする不具合を防止したり、取扱い性を高めることが望ましい。フレキシブルデバイスは、繰り返し折り曲げられたり、屈曲され得るため、フレキシブルデバイスに用いられる補強用フィルムには、繰り返し屈曲された場合でも、正常に形状を回復する特性(屈曲回復性)を有し、かつ剥がれ等の不具合が生じない特性(屈曲保持力)を有することが求められる。そのような屈曲回復性および屈曲保持力を有する補強用フィルムは、フレキシブルデバイスを含む各種用途に用いることができるので、適用範囲の制限が少なく有用である。
【0007】
例えば、特許文献7で提案されているような、貼付け初期には低粘着力を示し、その後、粘着力が大きく上昇するように構成された粘着剤についても、補強用フィルムとして用いる場合には、屈曲回復性および屈曲保持力を有することが望ましい。屈曲保持力を改善する一手法として、例えば、粘着剤の貯蔵弾性率を適切に設定する方法が考えられる。しかし、上記のように粘着力が上昇するよう設計された粘着剤において、貯蔵弾性率を変化させると、初期の低粘着力および上昇後粘着力の双方が影響を受ける。また、屈曲保持力に加えて、屈曲回復性を考慮すると、それらの特性をすべて満足することは容易ではない。貼付け初期には低粘着力を示し、その後、粘着力が大きく上昇する粘着剤について、屈曲回復性および屈曲保持力を改善することができれば、実用上有益である。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みて創出されたものであり、被着体に貼り付けた初期においては軽剥離性を示し、その後、粘着力を大きく上昇させることが可能であり、かつ屈曲回復性および屈曲保持力を有する補強用フィルムを提供することを目的とする。本発明はまた、上記補強用フィルムが貼着された光学部材および電子部材の提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書によると、粘着剤層を備える補強用フィルムが提供される。前記粘着剤層は、ポリマー(A)と、ポリマー(B)とを含む。前記ポリマー(B)は、ポリオルガノシロキサン骨格を有するモノマー単位と、(メタ)アクリル系モノマー単位と、を含む。また、前記粘着剤層は、23℃での表面弾性率が1~20kPaである。
【0010】
上記の構成によると、粘着剤層は、ポリマー(A)と、ポリオルガノシロキサン骨格を有するモノマー単位を含むポリマー(B)とを含むので、被着体に貼り付けた初期においては軽剥離性を示し、その後、粘着力を大きく上昇させることが可能である。また、上記補強用フィルムは、屈曲回復性および屈曲保持力を有する。具体的には、粘着剤層の23℃での表面弾性率(23℃表面弾性率)が1kPa以上である補強用フィルムは、上述の粘着特性を発揮しつつ、良好な屈曲回復性を有する。また、粘着剤層の23℃表面弾性率が20kPa以下であることにより、上記粘着特性を発揮しつつ、良好な屈曲保持力を有するので、繰り返し折り曲げられる態様で使用された場合であっても、剥がれ等の不具合が生じにくい。
【0011】
ここに開示される技術(補強用フィルム、光学部材および電子部材を包含する。以下同じ。)のいくつかの好ましい態様では、前記粘着剤層は、23℃でのバルク弾性率G′23が10~200kPaである。この範囲のバルク弾性率G′23を有する粘着剤によると、貼付け初期の粘着力が軽剥離性に優れた好適な範囲となりやすい。また、加工性に優れ、概して、常温域での歪緩和性と屈曲回復性とを両立しやすい傾向がある。
【0012】
いくつかの好ましい態様では、前記粘着剤層は、80℃でのバルク弾性率G′80が5~100kPaである。この範囲のバルク弾性率G′80を有する粘着剤は、概して、屈曲回復性と屈曲保持力とを両立しやすい。例えば、80℃前後の高温条件で使用された場合であっても、屈曲回復に適した弾性を有し、屈曲保持力を実現する接着保持力を有するものであり得る。
【0013】
いくつかの好ましい態様では、前記粘着剤層は、80℃でのtanδ80が0.10~0.60である。上記tanδ80(80℃での損失弾性率G″80/80℃での貯蔵弾性率G′80)が0.10以上である粘着剤は、屈曲保持に適した接着力を発揮しやすい。また、上記tanδ80が0.60以下であることにより、粘着剤の塑性変形が抑制され、良好な屈曲回復性が得られやすい。また、補強用フィルムを屈曲状態で長時間保持した場合にも、被着体から剥がれが生じない保持力(屈曲保持力)を発揮しやすい。
【0014】
前記ポリマー(A)は、好ましくはアクリル系ポリマーである。アクリル系ポリマーであるポリマー(A)と、ポリオルガノシロキサン骨格を有するモノマー単位を含むポリマー(B)とを含む粘着剤層によると、ここに開示される技術による効果が好ましく実現される。
【0015】
いくつかの好ましい態様では、前記粘着剤層中の前記ポリマー(B)の含有量は、前記ポリマー(A)100重量部に対して0.5~5重量部である。ポリマー(A)100重量部に対するポリマー(B)の量を0.5重量部以上とすることで、貼付け初期の軽剥離性が得られやすい。上記ポリマー(B)の量を5重量部以下とすることで、目的とする粘着力上昇を実現しやすい。また、ポリマー(B)の使用量を上記の範囲とすることで、良好な屈曲回復性および屈曲保持力を実現しやすい。
【0016】
いくつかの好ましい態様では、前記粘着剤層に含まれるイソシアネート基と水酸基とのモル比([NCO]/[OH])は0.002~0.03である。上記モル比([NCO]/[OH])が0.002以上である粘着剤層は、屈曲回復性に優れる傾向があり、加工性にも優れる傾向がある。また、上記モル比([NCO]/[OH])を0.03以下とすることにより、好適な粘着力上昇を実現しやすい傾向がある。なお、粘着剤層において、イソシアネート基と水酸基は、それらの少なくとも一部が化学的に結合(架橋)した状態で存在し得る。上記粘着剤層は、例えば架橋剤を含むものであり、かかる構成において、上記イソシアネート基は、例えば架橋剤の一部であり、上記水酸基は、例えばポリマー(A)の一部であり得る。
【0017】
いくつかの好ましい態様では、前記粘着剤層は触媒を含む。また、前記粘着剤層に含まれる前記触媒と水酸基とのモル比([触媒]/[OH])は1.0×10-6~5.0×10-2である。粘着剤層中の水酸基量に対して所定量以上の触媒を含ませることにより、粘着剤層からの気泡発生が抑制され、平滑な粘着面が得られやすい。また、触媒の使用量を、粘着剤層中の水酸基量に対して所定量以下とすることにより、好適な粘着力上昇を実現しやすい。前記触媒は鉄系触媒であることがより好ましく、前記粘着剤層に含まれる前記触媒と水酸基とのモル比([触媒]/[OH])は1.0×10-4~1.0×10-3であることがさらに好ましい。
【0018】
ここに開示される補強用フィルムは、例えば、偏光板、波長板等の光学部材の加工時や搬送時に、該光学部材に剛性や耐衝撃性を付与する補強用フィルムとして好適である。したがって、本明細書によると、ここに開示されるいずれかの補強用フィルムが貼着された光学部材が提供される。
【0019】
また、ここに開示される補強用フィルムは、例えば、携帯電子機器等の機器の電子部材の補強用フィルムとしても好適である。したがって、本明細書によると、ここに開示されるいずれかの補強用フィルムが貼着された電子部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係る補強用フィルムの構成を模式的に示す断面図である。
図2】他の一実施形態に係る補強用フィルムの構成を模式的に示す断面図である。
図3】他の一実施形態に係る補強用フィルムの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0022】
また、この明細書において「アクリル系ポリマー」とは、(メタ)アクリル系モノマーに由来するモノマー単位をポリマー構造中に含む重合物をいい、典型的には(メタ)アクリル系モノマーに由来するモノマー単位を50重量%を超える割合で含む重合物をいう。また、(メタ)アクリル系モノマーとは、1分子中に少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをいう。ここで、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基を包括的に指す意味である。したがって、ここでいう(メタ)アクリル系モノマーの概念には、アクリロイル基を有するモノマー(アクリル系モノマー)とメタクリロイル基を有するモノマー(メタクリル系モノマー)との両方が包含され得る。同様に、この明細書において「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸およびメタクリル酸を、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよびメタクリレートを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0023】
<補強用フィルムの構造例>
ここに開示される補強用フィルムは、粘着剤により形成された粘着面を有する粘着シートの形態を有する。補強用フィルムとして用いられる粘着シートは、粘着剤層を含んで構成されている。ここに開示される補強用フィルムは、上記粘着剤層が支持基材の片面または両面に積層された基材付き粘着シートの形態であってもよく、支持基材を有しない基材レス粘着シートの形態であってもよい。以下、支持基材を単に「基材」ということもある。
なお、本明細書において、「補強用フィルム」とは、後述するように被着体の補強に用いられる粘着シート(補強用粘着フィルム)をいう。補強用フィルムは、例えば基材レス粘着シートの形態で、一方の粘着面に支持材等を貼り付けた後、他方の粘着面を、補強対象である被着体に貼り付けて補強することができるので、基材付き粘着シートの形態に限定されるものではない。この点で、基材付き粘着シートの形態を有する後述の「補強フィルム」よりも広義の概念として把握される。
【0024】
一実施形態に係る補強用フィルムの構造を図1に模式的に示す。この補強用フィルム1は、第一面10Aおよび第二面10Bを有するシート状の支持基材10と、その第一面10A側に設けられた粘着剤層21とを備える基材付き片面粘着シートとして構成されている。粘着剤層21は、支持基材10の第一面10A側に固着している。補強用フィルム1は、粘着剤層21を被着体に貼り付けて用いられる。使用前(すなわち、被着体への貼付け前)の補強用フィルム1は、図1に示すように、粘着剤層21の表面(粘着面)21Aが、少なくとも粘着剤層21に対向する側が剥離性表面(剥離面)となっている剥離ライナー31に当接した形態の剥離ライナー付き補強用フィルム100の構成要素であり得る。剥離ライナー31としては、例えば、シート状の基材(ライナー基材)の片面に剥離処理剤による剥離層を設けることで該片面が剥離面となるように構成されたものを好ましく使用し得る。あるいは、剥離ライナー31を省略し、第二面10Bが剥離面となっている支持基材10を用い、補強用フィルム1を巻回することにより粘着面21Aを支持基材10の第二面10Bに当接させた形態(ロール形態)であってもよい。補強用フィルム1を被着体に貼り付ける際には、粘着面21Aから剥離ライナー31または支持基材10の第二面10Bを剥がし、露出した粘着面21Aを被着体に圧着する。
【0025】
他の一実施形態に係る補強用フィルムの構造を図2に模式的に示す。この補強用フィルム2は、第一面10Aおよび第二面10Bを有するシート状の支持基材10と、その第一面10A側に設けられた粘着剤層21と、第二面10B側に設けられた粘着剤層22と、を備える基材付き両面粘着シートとして構成されている。粘着剤層(第一粘着剤層)21は支持基材10の第一面10Aに、粘着剤層(第二粘着剤層)22は支持基材10の第二面10Bに、それぞれ固着している。補強用フィルム2は、粘着剤層21,22を、被着体の異なる箇所に貼り付けて用いられる。粘着剤層21,22が貼り付けられる箇所は、異なる部材のそれぞれの箇所であってもよく、単一の部材内の異なる箇所であってもよい。使用前の補強用フィルム2は、図2に示すように、粘着剤層21の表面(第一粘着面)21Aおよび粘着剤層22の表面(第二粘着面)22Aが、少なくとも粘着剤層21,22に対向する側がそれぞれ剥離面となっている剥離ライナー31,32に当接した形態の剥離ライナー付き補強用フィルム200の構成要素であり得る。剥離ライナー31,32としては、例えば、シート状の基材(ライナー基材)の片面に剥離処理剤による剥離層を設けることで該片面が剥離面となるように構成されたものを好ましく使用し得る。あるいは、剥離ライナー32を省略し、両面が剥離面となっている剥離ライナー31を用い、これと補強用フィルム2とを重ね合わせて渦巻き状に巻回することにより第二粘着面22Aが剥離ライナー31の背面に当接した形態(ロール形態)の剥離ライナー付き補強用フィルムを構成していてもよい。
【0026】
さらに他の一実施形態に係る補強用フィルムの構造を図3に模式的に示す。この補強用フィルム3は、粘着剤層21からなる基材レスの両面粘着シートとして構成されている。補強用フィルム3は、粘着剤層21の一方の表面(第一面)により構成された第一粘着面21Aと、粘着剤層21の他方の表面(第二面)により構成された第二粘着面21Bとを被着体の異なる箇所に貼り付けて用いられる。使用前の補強用フィルム3は、図3に示すように、第一粘着面21Aおよび第二粘着面)21Bが、少なくとも粘着剤層21に対向する側がそれぞれ剥離面となっている剥離ライナー31,32に当接した形態の剥離ライナー付き補強用フィルム300の構成要素であり得る。あるいは、剥離ライナー32を省略し、両面が剥離面となっている剥離ライナー31を用い、これと補強用フィルム3とを重ね合わせて渦巻き状に巻回することにより第二粘着面21Bが剥離ライナー31の背面に当接した形態(ロール形態)の剥離ライナー付き補強用フィルムを構成していてもよい。
【0027】
なお、補強用フィルムは、ロール形態であってもよく、枚葉形態であってもよく、用途や使用態様に応じて適宜な形状に切断、打ち抜き加工等されたものであってもよい。ここに開示される技術における粘着剤層は、典型的には連続的に形成されるが、これに限定されず、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されていてもよい。
【0028】
<粘着剤層>
ここに開示される補強用フィルムは、ポリマー(A)と、ポリマー(B)と、を含む粘着剤層を備える。このような粘着剤層は、モノマー原料Aの完全重合物または部分重合物であるポリマー(A)と、ポリマー(B)と、を含有する粘着剤組成物から形成されたものであり得る。粘着剤組成物の形態は特に制限されず、例えば溶剤型、水分散型、ホットメルト型、活性エネルギー線硬化型(例えば光硬化型)等の、各種の形態であり得る。
【0029】
(23℃表面弾性率)
ここに開示される粘着剤層は、その表面(粘着面)の23℃での表面弾性率(23℃表面弾性率)が1~20kPaの範囲内であることによって特徴づけられる。上記23℃表面弾性率が1kPa以上であることにより、ポリマー(A)とポリマー(B)との含有に基づく粘着特性を実現しつつ、良好な屈曲回復性を有することができる。また、上記表面弾性率が20kPa以下であることにより、上記粘着特性を実現しつつ、良好な屈曲保持力を発揮することができる。
【0030】
屈曲回復性向上の観点から、上記23℃表面弾性率は、好ましくは2kPa以上、より好ましくは3kPa以上、さらに好ましくは4kPa以上(例えば5kPa以上)であり、8kPa以上であってもよく、10kPa以上でもよく、12kPa以上(例えば14kPa以上)でもよい。上記表面弾性率が高くなるほど、初期の軽剥離性は優れる傾向がある。また、良好な屈曲回復性と屈曲保持力を両立しつつ、粘着力上昇を好ましく発現する観点から、上記23℃表面弾性率は、15kPa以下が適当であり、好ましくは12kPa以下、より好ましくは9kPa以下、さらに好ましくは7kPa以下(例えば6kPa以下)であり、4kPa以下であってもよい。
【0031】
粘着剤層の23℃表面弾性率は、ポリマー(A)の種類や特性(分子量やガラス転移温度、分子構造等)、ポリマー(B)の種類(化学構造等)や特性(分子量やガラス転移温度等)、使用量、架橋剤の種類や使用量等によって調節することができる。粘着剤層の23℃表面弾性率は後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0032】
(23℃バルク弾性率G′23
粘着剤層の23℃でのバルク弾性率G′23(23℃バルク弾性率G′23)は、上記23℃表面弾性率の範囲を満足する範囲内で適切に設定され、特定の範囲に限定されるものではない。いくつかの態様において、粘着剤層の23℃バルク弾性率G′23は、10kPa以上とすることが適当である。上記バルク弾性率G′23を所定値以上とすることにより、貼付け初期の粘着力が軽剥離性に優れた好適な範囲となりやすい。また、加工性に優れ、概して、常温域での屈曲回復性にも優れる傾向がある。上記バルク弾性率G′23は、好ましくは15kPa以上、より好ましくは20kPa以上、さらに好ましくは25kPa以上、特に好ましくは30kPa以上である。他のいくつかの態様において、上記バルク弾性率G′23は、50kPa以上であってもよく、80kPa以上でもよく、100kPa以上でもよい。
【0033】
いくつかの態様において、粘着剤層の23℃バルク弾性率G′23は、200kPa以下とすることが適当である。上記バルク弾性率G′23が所定値以下である粘着剤は、概して、常温域での歪緩和性に優れる傾向があり、また、粘着力上昇を発現しやすい。上記バルク弾性率G′23は、好ましくは150kPa以下、より好ましくは90kPa以下である。いくつかの好ましい態様において、上記バルク弾性率G′23は、60kPa以下であってもよく、40kPa以下(例えば35kPa以下)でもよい。
【0034】
(80℃バルク弾性率G′80
粘着剤層の80℃でのバルク弾性率G′80(80℃バルク弾性率G′80)は、上記23℃表面弾性率の範囲を満足する範囲内で適切に設定され、特定の範囲に限定されるものではない。いくつかの態様において、粘着剤層の80℃バルク弾性率G′80は、5kPa以上であることが好ましい。上記バルク弾性率G′80を所定値以上とすることにより、概して、屈曲回復性が向上しやすく、高温条件で使用された場合であっても、屈曲回復に適した弾性を有するものとなり得る。いくつかの好ましい態様において、上記バルク弾性率G′80は、7kPa以上であってもよく、9kPa以上でもよく、10kPa以上でもよい。他のいくつかの態様において、上記バルク弾性率G′80は、15kPa以上であってもよく、30kPa以上でもよく、50kPa以上でもよい。
【0035】
いくつかの態様において、粘着剤層の80℃バルク弾性率G′80は、100kPa以下とすることが適当である。上記バルク弾性率G′80を所定値以下に制限することにより、概して、良好な屈曲保持力を得やすく、屈曲回復性と屈曲保持力とを両立しやすい。例えば、高温条件を含む様々な環境において、屈曲回復に適した弾性を有し、屈曲保持力を実現する接着保持力を有するものとなり得る。上記バルク弾性率G′80は、好ましくは90kPa以下であり、より好ましくは60kPa以下である。いくつかの態様において、上記バルク弾性率G′80は、20kPa以下であってもよく、16kPa以下でもよく、14kPa以下(例えば12kPa以下)でもよい。
【0036】
(80℃tanδ80
粘着剤層の80℃でのtanδ80(80℃tanδ80)は、上記23℃表面弾性率の範囲を満足する範囲内で適切に設定され、特定の範囲に限定されるものではない。いくつかの態様において、粘着剤層の80℃tanδ80は0.10以上であることが適当である。上記tanδ80が高いほど、粘着剤は、屈曲保持に適した接着力を発揮しやすい。上記tanδ80は、好ましくは0.20以上である。いくつかの好ましい態様において、上記tanδ80は、0.30以上であってもよく、0.40以上でもよく、0.45以上でもよい。
【0037】
いくつかの態様において、粘着剤層の80℃tanδ80は、0.60以下であることが好ましい。上記tanδ80が0.60以下であることにより、粘着剤の塑性変形が抑制され、良好な屈曲回復性が得られやすい。また、補強用フィルムを屈曲状態で長時間保持した場合にも、被着体から剥がれが生じない保持力を発揮しやすい。さらに、粘着力上昇も好適な範囲となりやすい。上記80℃tanδ80は、0.55以下であってもよい。他のいくつかの態様において、上記80℃tanδ80は、0.50以下であってもよく、0.35以下でもよい。
【0038】
粘着剤層の23℃バルク弾性率G′23、80℃バルク弾性率G′80および80℃tanδ80は、ポリマー(A)の種類や特性(分子量やガラス転移温度、分子構造等)、ポリマー(B)の種類(化学構造等)や特性(分子量やガラス転移温度等)、使用量、架橋剤の種類や使用量等によって調節することができる。粘着剤層の23℃バルク弾性率G′23、80℃バルク弾性率G′80および80℃tanδ80は、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0039】
(ポリマー(A))
ポリマー(A)としては、粘着剤の分野において公知のアクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等の、室温域においてゴム弾性を示す各種のポリマーの一種または二種以上を用いることができる。ここに開示される補強用フィルムにおいて、ポリマー(A)は、典型的には粘着剤層に含まれるポリマー成分の主成分、すなわち50重量%超を占める成分であり、例えば上記ポリマー成分のうち75重量%以上を占める成分であり得る。いくつかの態様において、上記ポリマー(A)は、粘着剤層全体の50重量%超を占める成分であり、70重量%以上を占める成分であってもよく、80重量%以上を占める成分でもよく、90重量%以上を占める成分でもよく、95重量%以上(例えば97重量%以上)を占める成分でもよい。
【0040】
ポリマー(A)のガラス転移温度Tは、特に限定されず、ここに開示される補強用フィルムにおいて好ましい特性が得られるように選択することができる。いくつかの態様において、Tが0℃未満であるポリマー(A)を好ましく採用し得る。このようなポリマー(A)を含む粘着剤は、適度な流動性(例えば、該粘着剤に含まれるポリマー鎖の運動性)を示すことから、加熱によって粘着力が所定値以上に上昇する補強用フィルムの実現に適している。ここに開示される補強用フィルムは、Tが-10℃未満、-20℃未満、-30℃未満または-35℃未満のポリマー(A)を用いて好ましく実施され得る。いくつかの態様において、Tは、-40℃未満でもよく、-50℃未満でもよい。いくつかの好ましい態様では、Tは、-55℃以下であり、より好ましくは-58℃以下、さらに好ましくは-62℃以下であり、-65℃以下(例えば-66℃以下)でもよい。Tの下限は特に制限されない。材料の入手容易性や粘着剤層の凝集力向上の観点から、通常は、Tが-80℃以上、-70℃以上のポリマー(A)を好ましく採用し得る。いくつかの態様において、Tは、例えば-63℃以上であってよく、-55℃以上でもよく、-50℃以上でもよく、-45℃以上でもよい。
【0041】
ここで、この明細書において、ポリマー(A)および後述のポリマー(B)を含むポリマーのガラス転移温度(Tg)とは、文献やカタログ等に記載された公称値か、または該ポリマーの調製に用いられるモノマー原料の組成に基づいてFoxの式により求められるTgをいう。Foxの式とは、以下に示すように、共重合体のTgと、該共重合体を構成するモノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
上記Foxの式において、Tgは共重合体のガラス転移温度(単位:K)、Wiは該共重合体におけるモノマーiの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgiはモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)を表す。Tgの特定に係る対象のポリマーがホモポリマーである場合、該ホモポリマーのTgと対象のポリマーのTgとは一致する。
【0042】
Tgの算出に使用するホモポリマーのガラス転移温度としては、公知資料に記載の値を用いるものとする。具体的には、「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons, Inc., 1989年)に数値が挙げられている。上記Polymer Handbookに複数種類の値が記載されているモノマーについては、最も高い値を採用する。
【0043】
上記Polymer Handbookに記載のないモノマーのホモポリマーのガラス転移温度としては、以下の測定方法により得られる値を用いるものとする。
具体的には、温度計、攪拌機、窒素導入管および還流冷却管を備えた反応器に、モノマー100重量部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部および重合溶媒として酢酸エチル200重量部を投入し、窒素ガスを流通させながら1時間攪拌する。このようにして重合系内の酸素を除去した後、63℃に昇温し10時間反応させる。次いで、室温まで冷却し、固形分濃度33重量%のホモポリマー溶液を得る。次いで、このホモポリマー溶液を剥離ライナー上に流延塗布し、乾燥して厚さ約2mmの試験サンプル(シート状のホモポリマー)を作製する。この試験サンプルを直径7.9mmの円盤状に打ち抜き、パラレルプレートで挟み込み、粘弾性試験機(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、機種名「ARES」)を用いて周波数1Hzのせん断歪みを与えながら、温度領域-70℃~150℃、5℃/分の昇温速度でせん断モードにより粘弾性を測定し、tanδのピークトップ温度に相当する温度をホモポリマーのTgとする。
【0044】
特に限定するものではないが、ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は、通常、凡そ20×10以上であることが適当である。かかるMwのポリマー(A)によると、良好な凝集性を示す粘着剤が得られやすい。より高い凝集力を得る観点から、いくつかの好ましい態様において、ポリマー(A)のMwは、例えば30×10以上であってよく、40×10以上でもよく、50×10以上でもよく、60×10以上でもよく、80×10以上でもよい。また、ポリマー(A)のMwは、通常、凡そ500×10以下であることが適当である。かかるMwのポリマー(A)は、適度な流動性(ポリマー鎖の運動性)を示す粘着剤を形成しやすいことから、貼付け初期の粘着力が低く、かつ粘着力上昇の大きい補強用フィルムの実現に適している。ポリマー(A)のMwが高すぎないことは、ポリマー(B)との相溶性向上の観点からも好ましい。いくつかの好ましい態様において、ポリマー(A)のMwは、例えば250×10以下であってよく、200×10以下でもよく、150×10以下でもよく、100×10以下でもよく、70×10以下でもよい。
【0045】
なお、この明細書において、ポリマー(A)および後述のポリマー(B)のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算して求めることができる。より具体的には、後述する実施例において記載する方法および条件に準じてMwを測定することができる。
【0046】
ここに開示される補強用フィルムにおけるポリマー(A)としては、アクリル系ポリマーを好ましく採用することができる。ポリマー(A)としてアクリル系ポリマーを用いると、ポリマー(B)との良好な相溶性が得られやすくなる傾向にある。ポリマー(A)とポリマー(B)との相溶性が良いことは、粘着剤層内におけるポリマー(B)の移動性向上を通じて、初期粘着力の低減および加熱後粘着力の向上に寄与し得るので好ましい。また、分子設計の自由度が高いアクリル系ポリマーは、粘着特性、屈曲回復性および屈曲保持力をバランスよく改善し得る粘着剤材料として好適である。
【0047】
アクリル系ポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を50重量%以上含有するポリマー、すなわち該アクリル系ポリマーを調製するためのモノマー成分(モノマー原料A)の全量のうち50重量%以上が(メタ)アクリル酸アルキルエステルであるポリマーであり得る。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1~20の(すなわち、C1-20の)直鎖または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく用いられ得る。特性のバランスをとりやすいことから、モノマー原料Aのうち(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルの割合は、例えば50重量%以上であってよく、60重量%以上でもよい。いくつかの好ましい態様では、モノマー原料Aのうち(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルの割合は、70重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。かかるモノマー組成のアクリル系ポリマーを用いることで、粘着力上昇と、屈曲回復性および屈曲保持力とをバランスよく両立する粘着剤が得られやすい。また、モノマー原料Aのうち(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルの割合は、例えば99.9重量%以下であってよく、98重量%以下でもよく、95重量%以下でもよい。いくつかの態様において、モノマー原料Aのうち(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルの割合は、例えば90重量%以下であってよく、85重量%以下でもよく、80重量%以下でもよい。
【0048】
(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルの非限定的な具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等が挙げられる。
【0049】
これらのうち、少なくとも(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステルを用いることが好ましく、少なくとも(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステルを用いることがより好ましい。いくつかの態様において、アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(好ましくはアクリル酸C4-10アルキルエステル、例えばアクリル酸C6-10アルキルエステル)から選択される少なくとも一種を、モノマー単位として含有し得る。例えば、アクリル酸n-ブチル(BA)およびアクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)の一方または両方を含むアクリル系ポリマーが好ましく、少なくとも2EHAを含むアクリル系ポリマーが特に好ましい。
【0050】
いくつかの好ましい態様において、アクリル系ポリマーを調製するためのモノマー原料Aのうちアクリル酸C6-10アルキルエステル(好適にはアクリル酸C8-9アルキルエステル、典型的には2EHA)の割合は、70重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。かかるモノマー組成のアクリル系ポリマーは、ここに開示される技術による効果の実現に特に好適である。また、モノマー原料Aのうちアクリル酸C6-10アルキルエステル(好適にはアクリル酸C8-9アルキルエステル、典型的には2EHA)の割合は、例えば99.9重量%以下であってよく、初期の低粘着力、屈曲回復性等の観点から、98重量%以下でもよく、95重量%以下でもよい。
【0051】
また、いくつかの好ましい態様において、アクリル系ポリマーを調製するためのモノマー原料A中、(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(例えば(メタ)アクリル酸Cアルキルエステル、典型的にはメタクリル酸メチル(MMA))の割合が制限されていることが好ましい。(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(例えば(メタ)アクリル酸Cアルキルエステル、典型的にはMMA)は、Tgが相対的に高い傾向があり、上記モノマー成分を使用したアクリル系ポリマーを含む粘着剤は、凝集性が高くなりがちである。(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステルの使用量を制限することにより、粘着剤の凝集力を適度に低減して、屈曲保持力や粘着力上昇の両立に適した弾性率(典型的には表面弾性率)を好ましく実現することができる。そのような観点から、上記モノマー原料Aのうち(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(例えば(メタ)アクリル酸Cアルキルエステル、典型的にはMMA)の割合は、8重量%以下とすることが適当であり、好ましくは6重量%以下、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下(例えば0~0.3重量%)である。
【0052】
モノマー原料Aは、主成分としての(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともに、必要に応じて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他のモノマー(共重合性モノマー)を含んでいてもよい。共重合性モノマーとしては、極性基(例えば、カルボキシ基、水酸基、窒素原子含有環等)を有するモノマーを好適に使用することができる。極性基を有するモノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入したり、アクリル系ポリマーの凝集力を高めたりするために役立ち得る。共重合性モノマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
共重合性モノマーの非限定的な具体例としては、以下のものが挙げられる。
水酸基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等。
窒素原子含有環を有するモノマー:例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニルモルホリン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン、N-ビニルピラゾール、N-ビニルイソオキサゾール、N-ビニルチアゾール、N-ビニルイソチアゾール、N-ビニルピリダジン等;
例えば、N-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシヘキサメチレンスクシンイミド等の、スクシンイミド骨格を有するモノマー;
例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-フェニルマレイミド等の、マレイミド類;および、
例えば、N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルへキシルイタコンイミド、N-シクロへキシルイタコンイミド、N-ラウリルイタコンイミド等の、イタコンイミド類。
カルボキシ基含有モノマー:例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等。
酸無水物基含有モノマー:例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸。
エポキシ基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルや(メタ)アクリル酸-2-エチルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有アクリレート、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル等。
シアノ基含有モノマー:例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
イソシアネート基含有モノマー:例えば、2-イソシアナートエチル(メタ)アクリレート等。
アミド基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(t-ブチル)(メタ)アクリルアミド等の、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等の、N-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルカルボン酸アミド類;水酸基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(1-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド等の、N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;アルコキシ基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の、N-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;その他、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等。
(メタ)アクリル酸アミノアルキル類:例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル。
アルコキシ基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等の、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル類;(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール等の、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキレングリコール類。
スルホン酸基またはリン酸基を含有するモノマー:例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等。
脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル:例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等。
芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル:例えば、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等。
ビニルエーテル類:例えば、メチルビニルエーテルやエチルビニルエーテル等のビニルアルキルエーテル。
ビニルエステル類:例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等。
芳香族ビニル化合物:例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等。
オレフィン類:例えば、エチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等。
その他、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の複素環含有(メタ)アクリレート、塩化ビニルやフッ素原子含有(メタ)アクリレート等のハロゲン原子含有(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等のケイ素原子含有(メタ)アクリレート、テルペン化合物誘導体アルコールから得られる(メタ)アクリル酸エステル等。
【0054】
このような共重合性モノマーを使用する場合、その使用量は特に限定されないが、通常はモノマー原料Aの0.01重量%以上とすることが適当である。共重合性モノマーの使用による効果をよりよく発揮する観点から、共重合性モノマーの使用量をモノマー原料Aの0.1重量%以上としてもよく、1重量%以上としてもよい。いくつかの好ましい態様では、モノマー原料A中の共重合性モノマーの含有量は、3重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは7重量%以上(例えば8重量%以上)である。共重合性モノマーの使用量が多くなるほど、凝集性が高まり、屈曲回復性が向上する傾向がある。また、共重合性モノマーの使用量は、モノマー原料Aの50重量%以下とすることができ、30重量%以下とすることが好ましい。これにより、粘着剤の凝集力が高くなり過ぎることを防ぎ、常温(25℃)でのタック感を向上させ得る。いくつかの好ましい態様において、共重合性モノマーの使用量は、モノマー原料Aの20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下(例えば12重量%以下)であり、10重量%以下であってもよい。共重合性モノマーの使用量を制限することにより、粘着剤の凝集力が低下し、弾性率(典型的には表面弾性率)が好適な範囲となり、優れた屈曲保持力が得られやすく、粘着力上昇を実現しやすい。
【0055】
いくつかの態様において、モノマー原料Aは、窒素原子含有環を有するモノマーを含み得る。窒素原子含有環を有するモノマーの使用により、粘着剤の凝集力や極性を調整し、加熱後の粘着力を好適に向上させ得る。モノマー原料Aに窒素原子含有環を有するモノマーを含ませることによって、上記モノマー原料Aから形成されたポリマー(A)と、上記ポリマー(B)との相溶性が向上する傾向にある。これにより、加熱で粘着力を大きく上昇させることのできる補強用フィルムが得られやすくなる。
【0056】
窒素原子含有環を有するモノマーは、例えば上記例示のなかから適宜選択して、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。いくつかの態様において、モノマー原料Aは、窒素原子含有環を有するモノマーとして、N-ビニル環状アミド、および(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドからなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマーを含有することが好ましい。
【0057】
N-ビニル環状アミドの具体例としては、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。特に好ましくはN-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-カプロラクタムである。
(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの具体例としては、N-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。好適例としては、N-アクリロイルモルホリン(ACMO)が挙げられる。
【0058】
窒素原子含有環を有するモノマーの使用量は、特に制限されず、通常、モノマー原料Aの40重量%以下とすることが適当であり、30重量%以下としてもよく、20重量%以下としてもよく、10重量%以下としてもよい。いくつかの好ましい態様では、凝集力を下げて弾性率(典型的には表面弾性率)を低下する観点から、モノマー原料A中、窒素原子含有環を有するモノマーの含有量は、7重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下(例えば1.5重量%以下)である。また、窒素原子含有環を有するモノマーの使用量は、通常、モノマー原料Aの0.01重量%以上(好ましくは0.1重量%以上、例えば0.5重量%以上)とすることが適当である。適度な凝集力、弾性率を得る観点から、いくつかの態様において、窒素原子含有環を有するモノマーの使用量は、モノマー原料Aの0.8重量%以上としてもよく、1.0重量%以上としてもよい。
【0059】
いくつかの好ましい態様において、モノマー原料Aは、水酸基含有モノマーを含む。水酸基含有モノマーの使用により、粘着剤の凝集力や極性、ひいては弾性率(典型的には表面弾性率)を調整し、ここに開示される技術による効果を好ましく実現することができる。また、水酸基含有モノマーは、後述する架橋剤(例えば、イソシアネート系架橋剤)との反応点を提供し、架橋反応によって粘着剤の凝集力を高め得る。
【0060】
水酸基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等を好適に使用することができる。なかでも好ましい例として、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)が挙げられる。屈曲回復性および屈曲保持力に適した凝集力を得る観点から、4HBAが特に好ましい。
【0061】
水酸基含有モノマーの使用量は、特に制限されず、通常、モノマー原料Aの40重量%以下とすることが適当であり、30重量%以下としてもよく、20重量%以下としてもよい。いくつかの好ましい態様では、凝集力、ひいては弾性率(典型的には表面弾性率)を低下する観点から、モノマー原料A中、水酸基含有モノマーの含有量は、15重量%以下であり、より好ましくは12重量%以下(例えば10重量%以下)である。水酸基含有モノマーの使用量を制限することにより、ポリマー(B)の粘着剤層内での移動性が向上し、粘着力上昇を実現しやすい。他のいくつかの態様において、水酸基含有モノマーの含有量は、モノマー原料Aの5重量%以下としてもよい。また、水酸基含有モノマーの使用量は、モノマー原料Aの0.01重量%以上(好ましくは0.1重量%以上、例えば0.5重量%以上)とすることが適当である。適度な凝集力、弾性率を得る観点から、いくつかの好ましい態様において、水酸基含有モノマーの使用量は、モノマー原料Aの1重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上、特に好ましくは7重量%以上(例えば8重量%以上)である。
【0062】
いくつかの態様において、共重合性モノマーとして、窒素原子含有環を有するモノマーと水酸基含有モノマーとを併用することができる。この場合、窒素原子含有環を有するモノマーと水酸基含有モノマーとの合計量は、例えば、モノマー原料Aの0.1重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上、特に好ましくは7重量%以上(例えば9重量%以上)であり、10重量%以上としてもよく、15重量%以上としてもよく、20重量%以上としてもよく、25重量%以上としてもよい。また、窒素原子含有環を有するモノマーと水酸基含有モノマーとの合計量は、例えば、モノマー原料Aの50重量%以下とすることができ、30重量%以下とすることが好ましい。いくつかの好ましい態様では、窒素原子含有環を有するモノマーと水酸基含有モノマーとの合計量は、モノマー原料Aの20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下(例えば12重量%以下)である。
【0063】
モノマー原料Aが窒素原子含有環を有するモノマーと水酸基含有モノマーとを組み合わせて含む態様において、該モノマー原料Aにおける窒素原子含有環を有するモノマーの含有量(W)と水酸基含有モノマーの含有量(WOH)との関係(重量基準)は、特に限定されない。W/WOHは、例えば0.01以上であってよく、通常は0.05以上が適当であり、0.10以上でもよく、0.12以上でもよい。また、W/WOHは、例えば10以下であってよく、通常は1以下が適当であり、好ましくは0.50以下であり、0.30以下でもよく、0.20以下でもよく、0.15以下でもよい。
【0064】
いくつかの態様において、モノマー原料Aは、後述するモノマー原料Bの構成成分として好ましく用いられるようなポリオルガノシロキサン骨格を有するモノマー(モノマーS1)を含まないか、該モノマーの含有量がモノマー原料Aの10重量%未満(より好ましくは5重量%未満、例えば2重量%未満)であることが好ましい。このような組成のモノマー原料Aによると、初期のリワーク性と、粘着力上昇後の強粘着性とを好適に両立する補強用フィルムが好適に実現され得る。同様の理由から、他のいくつかの態様において、モノマー原料Aは、モノマーS1を含有しないか、モノマーS1を含有する場合はその含有量(重量基準)がモノマー原料BにおけるモノマーS1の含有量より低いことが好ましい。
【0065】
ポリマー(A)を得る方法は特に限定されず、例えば溶液重合法、エマルション重合法、バルク重合法、懸濁重合法、光重合法等の、各種の重合方法を適宜採用することができる。いくつかの態様において、溶液重合法を好ましく採用し得る。溶液重合を行う際の重合温度は、使用するモノマーおよび溶媒の種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃~170℃程度(典型的には40℃~140℃程度)とすることができる。
【0066】
重合に用いる開始剤は、重合方法に応じて、従来公知の熱重合開始剤や光重合開始剤等から適宜選択することができる。重合開始剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
熱重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤(例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4’-アゾビス-4-シアノバレリアン酸、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等);過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化物系重合開始剤(例えば、ジベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルマレエート、過酸化ラウロイル等);レドックス系重合開始剤等が挙げられる。熱重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、例えば、アクリル系ポリマーの調製に用いられるモノマー成分(モノマー原料A)100重量部に対して0.01重量部~5重量部、好ましくは0.05重量部~3重量部の範囲内の量とすることができる。
【0068】
光重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤等を用いることができる。光重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、例えば、モノマー原料A100重量部に対して0.01重量部~5重量部、好ましくは0.05重量部~3重量部の範囲内の量とすることができる。
【0069】
いくつかの態様において、ポリマー(A)は、上述のようなモノマー原料Aに重合開始剤を配合した混合物に紫外線(UV)を照射して該モノマー成分の一部を重合させた部分重合物(ポリマーシロップ)の形態で、粘着剤層を形成するための粘着剤組成物に含まれ得る。かかるポリマーシロップを含む粘着剤組成物を所定の被塗布体に塗布し、紫外線を照射させて重合を完結させることができる。すなわち、上記ポリマーシロップは、ポリマー(A)の前駆体として把握され得る。ここに開示される粘着剤層は、例えば、上記ポリマーシロップとポリマー(B)とを含む粘着剤組成物を用いて形成され得る。
【0070】
(ポリマー(B))
ここに開示される技術におけるポリマー(B)は、ポリオルガノシロキサン骨格を有するモノマー(以下、「モノマーS1」ともいう。)と(メタ)アクリル系モノマーとを含むモノマー成分(モノマー原料B)の重合物である。ポリマー(B)は、モノマーS1と(メタ)アクリル系モノマーとの共重合体ということができる。ポリマー(B)は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。ポリマー(B)は、モノマーS1に由来するポリオルガノシロキサン構造の低極性および運動性によって、被着体への貼付け初期の粘着力を抑制し、かつ、加熱によって被着体に対する粘着力を上昇させる粘着力上昇遅延剤として機能し得る。モノマーS1としては、特に限定されず、ポリオルガノシロキサン骨格を含有する任意のモノマーを用いることができる。モノマーS1は、その構造に由来する極性の低さにより、使用前(被着体への貼付け前)の補強用フィルムにおいてポリマー(B)の粘着剤層表面への偏在を促進し、貼り合わせ初期の軽剥離性(低粘着性)を発現する。モノマーS1としては、片末端に重合性反応基を有する構造のものを好ましく用いることができる。このようなモノマーS1単位と(メタ)アクリル系モノマー単位とを含む構成によると、側鎖にポリオルガノシロキサン骨格を有するポリマー(B)が形成される。かかる構造のポリマー(B)は、側鎖の運動性および移動容易性により、初期粘着力が低く、かつ加熱後粘着力の高いものとなりやすい。また、いくつかの態様において、モノマーS1としては、片末端に重合性反応基を有し、かつ他の末端にポリマー(A)と架橋反応を生じる官能基を有しないものを好ましく採用し得る。このような構造のモノマーS1が共重合されたポリマー(B)は、モノマーS1に由来するポリオルガノシロキサン構造の運動性により、初期粘着力が低く、かつ加熱後粘着力の高いものとなりやすい。
【0071】
モノマーS1としては、例えば、下記一般式(1)または(2)で表される化合物を用いることができる。より具体的には、信越化学工業社製の片末端反応性シリコーンオイルとして、X-22-174ASX、X-22-2426、X-22-2475、KF-2012などが挙げられる。モノマーS1は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【化1】
【化2】
ここで、上記一般式(1),(2)中のRは水素またはメチルであり、Rはメチル基または1価の有機基であり、mおよびnは0以上の整数である。
【0072】
モノマーS1の官能基当量は、該モノマーS1を用いて所望の効果が発揮される範囲で適切な値を採用することができ、特定の範囲に限定されない。初期粘着力を十分に抑制する観点から、上記官能基当量は、例えば100g/mol以上、または200g/mol以上であり、300g/mol以上(例えば500g/mol以上)であることが適当であり、800g/mol以上であることが好ましく、1500g/mol以上であることがより好ましい。特に好ましい態様では、貼付け初期における低粘着性と加熱後の粘着力上昇との両立の観点から、上記官能基当量は、2000g/mol以上であり、さらに特に好ましくは2500g/mol以上であり、3000g/mol以上でもよく、4000g/mol以上でもよく、5000g/mol以上でもよい。他のいくつかの態様では、上記官能基当量は、9000g/mol以上でもよく、12000g/mol以上でもよく、15000g/mol以上でもよい。
【0073】
粘着力を十分に上昇させる観点から、上記官能基当量は、例えば30000g/mol以下であることが適当であり、20000g/mol以下であってもよく、15000g/mol未満でもよく、10000g/mol未満でもよい。いくつかの好ましい態様において、モノマーS1の官能基当量は、7000g/mol以下であり、より好ましくは5500g/mol以下、さらに好ましくは4500g/mol以下であり、4200g/mol以下でもよく、3500g/mol以下でもよい。モノマーS1の官能基当量が上記範囲内であると、粘着剤層内における相溶性(例えば、ベースポリマーとの相溶性)が良好となりやすく、またポリマー(B)のポリオルガノシロキサン骨格(鎖)の運動性がよく、さらにポリマー(B)の移動性を適度な範囲に調節しやすく、初期の低粘着性と加熱後の粘着力上昇とを両立する粘着剤層を実現しやすくなる。
【0074】
ここで、「官能基当量」とは、官能基1個当たりに結合している主骨格(例えばポリジメチルシロキサン)の重量を意味する。標記単位g/molに関しては、官能基1molと換算している。モノマーS1の官能基当量は、例えば、核磁気共鳴(NMR)に基づくH-NMR(プロトンNMR)のスペクトル強度から算出することができる。H-NMRのスペクトル強度に基づくモノマーS1の官能基当量(g/mol)の算出は、H-NMRスペクトル解析に係る一般的な構造解析手法に基づいて、必要であれば特許第5951153号公報の記載を参照して行うことができる。モノマーS1の官能基当量において、上記官能基とは、重合性官能基(例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和基)を意味する。
【0075】
なお、モノマーS1として官能基当量が異なる二種類以上のモノマーを用いる場合、モノマーS1の官能基当量としては、算術平均値を用いることができる。すなわち、官能基当量が異なるn種類のモノマー(モノマーS1,モノマーS1・・・モノマーS1)からなるモノマーS1の官能基当量は、下記式により計算することができる。
モノマーS1の官能基当量(g/mol)=(モノマーS1の官能基当量×モノマーS1の配合量+モノマーS1の官能基当量×モノマーS1の配合量+・・・+モノマーS1の官能基当量×モノマーS1の配合量)/(モノマーS1の配合量+モノマーS1の配合量+・・・+モノマーS1の配合量)
【0076】
モノマーS1の含有量は、該モノマーS1を用いて所望の効果が発揮される範囲で適切な値を採用することができ、特定の範囲に限定されない。初期粘着力を十分に抑制する観点から、いくつかの態様において、ポリマー(B)を調製するためのモノマー成分(モノマー原料B)の全量のうち、モノマーS1の含有量は、例えば5重量%以上であってよく、粘着力上昇遅延剤としての効果をよりよく発揮する観点から10重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは12重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上、特に好ましくは18重量%以上であり、20重量%以上としてもよい。また、モノマー原料BにおけるモノマーS1の含有量は、重合反応性や相溶性の観点から、例えば80重量%以下であってよく、60重量%以下とすることが適当であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下としてもよい。モノマーS1の重合割合を適当な範囲とすることにより、粘着力の上昇が好適に発現し得る。
【0077】
モノマー原料Bは、モノマーS1に加えて、モノマーS1と共重合可能な(メタ)アクリル系モノマーを含む。一種または二種以上の(メタ)アクリル系モノマーを用いることにより、粘着剤層内におけるポリマー(B)の移動性を好適に調節し得る。また、ポリマー(B)とポリマー(A)との相溶性の改善にも役立ち得る。(メタ)アクリル系モノマー単位を含むポリマー(B)は、アクリル系ポリマーに良好に相溶し得るので、粘着剤層内におけるポリマー(B)の移動性向上を通じて、初期粘着力の低減および加熱後粘着力の向上を実現しやすい。
【0078】
ここに開示される技術で用いられるポリマー(B)において、モノマー原料Bに含まれる(メタ)アクリル系モノマーの組成は、該(メタ)アクリル系モノマーの組成に基づくガラス転移温度TB1が、ポリマー(A)のガラス転移温度Tよりも高くなるように設定されていることが好ましい。TB1は、例えば、0℃より高くなるように設定することができる。ここで、(メタ)アクリル系モノマーの組成に基づくガラス転移温度TB1とは、ポリマー(B)の調製に用いられるモノマー成分のうち(メタ)アクリル系モノマーのみの組成に基づいて、Foxの式により求められるTgをいう。TB1は、ポリマー(B)の調製に用いられるモノマー成分のうち(メタ)アクリル系モノマーのみを対象として、上述したFoxの式を適用し、各(メタ)アクリル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度と、該(メタ)アクリル系モノマーの合計量に占める各(メタ)アクリル系モノマー重量分率とから算出することができる。ガラス転移温度TB1が相対的に高い(典型的には0℃より高い)ポリマー(B)によると、初期粘着力が抑制されやすい。また、ガラス転移温度TB1が相対的に高い(典型的には0℃より高い)ポリマー(B)によると、粘着力上昇比の大きい補強用フィルムが得られやすい。
【0079】
いくつかの好ましい態様において、TB1は、10℃以上であり、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上であり、45℃以上でもよい。TB1が高くなると、貼付け初期の粘着力は、概して、よりよく抑制される傾向にある。これは、TB1が所定温度以上であるポリマー(B)によると、室温あるいは室温よりもある程度の高温領域までの温度上昇に伴うポリオルガノシロキサン構造部分の運動性や移動性の向上が、ポリマー(B)に含まれる(メタ)アクリル系モノマー由来のモノマー単位によって効果的に抑制され、上記ポリオルガノシロキサン構造部分の存在に起因する低粘着性をよりよく維持し得るためと考えられる。貼付け初期の低粘着性をより安定性よく維持する観点から、いくつかの態様において、TB1は、例えば50℃以上であってよく、55℃以上でもよく、60℃以上でもよい。また、TB1は、例えば120℃以下であってよく、100℃以下でもよい。TB1が低くなると、加熱による粘着力上昇が容易化する傾向にある。いくつかの好ましい態様において、TB1は、例えば90℃以下であり、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは60℃以下、特に好ましくは55℃以下(例えば50℃以下)である。
【0080】
B1を適切に設定することによる効果を発揮しやすくする観点から、ポリマー(B)を調製するための全モノマー成分に占めるモノマーS1と(メタ)アクリル系モノマーとの合計量は、例えば50重量%以上であってよく、70重量%以上でもよく、85重量%以上でもよく、90重量%以上でもよく、95重量%以上でもよく、実質的に100重量%でもよい。
【0081】
ポリマー(B)のガラス転移温度Tは、特に限定されず、ここに開示される補強用フィルムにおいて好ましい特性が得られるように選択することができる。ポリマー(B)のTは、例えば50℃未満であってよく、30℃以下でもよく、20℃以下でもよく、15℃以下でもよく、10℃以下でもよい。ポリマー(B)のTが低くなると、該ポリマー(B)の移動性(典型的には感温運動性)が向上し、粘着力を大きく上昇させることができる。いくつかの好ましい態様では、ポリマー(B)のTは、5℃以下であり、0℃未満であってもよく、-5℃以下でもよく、-10℃以下でもよい。また、いくつかの態様において、ポリマー(B)のTは、例えば-40℃以上であってよく、-30℃以上でもよい。Tが高いほど、被着体への貼り付け時に粘着剤層表面側に偏在するポリマー(B)が初期粘着力低下に寄与し、貼付け初期の軽剥離性に優れる傾向がある。いくつかの好ましい態様では、ポリマー(B)のTは、-20℃以上であり、-15℃以上であってもよい。Tを適当な範囲に設定することにより、貼付け初期の軽剥離性と加熱後の粘着力上昇を好ましい範囲に制御することができる。
【0082】
いくつかの態様において、ポリマー(B)を調製するためのモノマー成分の組成は、TB1がTより高くなるように、すなわちTB1-Tが0℃より大きくなるように設定することができる。このような組成によると、上記モノマー成分に含まれる(メタ)アクリル系モノマーの組成によってポリマー(B)の移動性を調節する効果が好適に発揮されやすい。TB1-Tは、例えば40℃~100℃程度であってよく、50℃~90℃程度でもよい。いくつかの好ましい態様では、TB1-Tは、45℃以上であり、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは55℃以上(例えば58℃以上)である。また、ポリマー(B)含有の効果を好適に発現させる観点から、TB1-Tは、80℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは65℃以下(例えば62℃以下)である。
【0083】
粘着剤層内におけるポリマー(B)の移動性を制御しやすくする観点から、いくつかの態様において、ポリマー(B)を調製するためのモノマー成分の組成は、ポリマー(A)のガラス転移温度Tとの関係で、TがTより20℃以上高くなるように、すなわちT-Tが20℃以上となるように設定することができる。いくつかの好ましい態様において、T-Tは、例えば30℃以上であり、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、60℃以上であってもよく、70℃以上でもよい。また、粘着力上昇の観点から、T-Tは、例えば130℃以下であってよく、120℃以下でもよく、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは65℃以下であり、55℃以下でもよく、45℃以下でもよい。
【0084】
モノマー原料Bに使用し得る(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。ここでいう「アルキル」は、鎖状(直鎖状、分岐鎖状を包含する。)のアルキル(基)をいい、後述の脂環式炭化水素基を含まない。例えば、ポリマー(A)に用いられ得る(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして上記で例示したモノマーの一種または二種以上を、モノマー原料Bの構成成分として用いることができる。いくつかの態様において、モノマー原料Bは、(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(好ましくは(メタ)アクリル酸C4-10アルキルエステル、例えば(メタ)アクリル酸C6-10アルキルエステル)の少なくとも一種を含有し得る。他のいくつかの態様において、モノマー原料Bは、メタクリル酸C1-18アルキルエステル(好ましくはメタクリル酸C1-14アルキルエステル、例えばメタクリル酸C1-10アルキルエステル)の少なくとも一種を含有し得る。モノマー原料Bは、(メタ)アクリル系モノマーとして、例えば、MMA、メタクリル酸n-ブチル(BMA)およびメタクリル酸2-エチルヘキシル(2EHMA)から選択される一種または二種以上を含み得る。
【0085】
上記(メタ)アクリル系モノマーの他の例として、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート等を用いることができる。いくつかの態様において、モノマー原料Bは、(メタ)アクリル系モノマーとして、ジシクロペンタニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレートおよびシクロヘキシルメタクリレートから選択される少なくとも一種を含有し得る。
【0086】
モノマー原料Bにおける上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび上記脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、例えば10重量%以上95重量%以下であってよく、20重量%以上95重量%以下であってもよく、30重量%以上90重量%以下であってもよく、40重量%以上90重量%以下であってもよく、50重量%以上85重量%以下であってもよい。加熱による粘着力の上昇容易性の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用が有利となり得る。いくつかの態様において、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、モノマー原料Bの50重量%未満であってよく、30重量%未満でもよく、15重量%未満でもよく、10重量%未満でもよく、5重量%未満でもよい。脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルを使用しなくてもよい。
【0087】
いくつかの好ましい態様において、モノマー原料Bの構成成分である上記(メタ)アクリル系モノマーは、ホモポリマーのTgが50℃以上のモノマーM2を含み得る。ポリマー(B)において、モノマーS1とモノマーM2とを共重合させることにより、温度上昇に伴うポリオルガノシロキサン構造部分の運動性や移動性が好適に制御され、初期軽剥離性(リワーク性)と加熱後の粘着力上昇との両立を実現しやすい。いくつかの態様において、モノマーM2のホモポリマーのTgは、60℃以上でもよく、70℃以上でもよく、80℃以上でもよく、90℃以上でもよい。また、モノマーM2のホモポリマーのTgの上限は特に制限されないが、ポリマー(B)の合成容易性等の観点から、通常は200℃以下であることが適当である。いくつかの態様において、モノマーM2のホモポリマーのTgは、例えば180℃以下であってよく、150℃以下でもよく、120℃以下でもよい。
【0088】
モノマーM2としては、例えば上記で例示した(メタ)アクリル系モノマーのなかから、ホモポリマーのTgが条件を満たすものを用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される一種または二種以上のモノマーを用いることができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素原子数が1~4の範囲にあるメタクリル酸アルキルエステルを好ましく採用し得る。
【0089】
モノマー原料BがモノマーM2を含む態様において、モノマーM2の含有量は、例えばモノマー原料Bの5重量%以上であってよく、10重量%以上でもよく、15重量%以上でもよく、20重量%以上でもよく、25重量%以上でもよく、30重量%以上でもよい。いくつかの態様において、上記モノマーM2の含有量は、モノマー原料Bの35重量%以上でもよく、40重量%以上でもよく、45重量%以上でもよく、50重量%以上でもよく、55重量%以上でもよい。また、上記モノマーM2の含有量は、例えば90重量%以下であってよく、通常は80重量%以下であることが適当であり、75重量%以下が好ましく、70重量%以下でもよく、65重量%以下でもよい。いくつかの好ましい態様において、モノマーM2の含有量は60重量%以下(例えば50重量%以下、典型的には42重量%以下)である。ポリマー(B)において、Tg50℃以上のモノマーM2の共重合割合が所定値以下に制限されていることで、50℃付近でのポリマー(B)の移動性に基づき、加熱後の粘着力上昇を好ましく実現することができる。同様の観点から、モノマー原料BにおけるモノマーM2の含有量は35重量%以下でもよく、25重量%以下でもよく、15重量%以下(例えば5重量%以下)でもよい。
【0090】
上記モノマーM2の含有量は、例えば、モノマーM2が(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび上記脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される一種または二種以上のモノマーからなる態様や、モノマーM2が(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、メタクリル酸アルキルエステル)から選択される一種または二種以上のモノマーからなる態様において好ましく適用され得る。かかる態様の一好適例として、上記モノマーM2がMMAからなる態様が挙げられる。
【0091】
いくつかの態様において、上記(メタ)アクリル系モノマーは、ホモポリマーのTgが50℃未満(典型的には-20℃以上50℃未満)であるモノマーM3を含んでいてもよい。モノマーM3の使用により、粘着力上昇後において粘着力と凝集力とをバランスよく両立する補強用フィルムが得られやすくなる。かかる効果を発揮しやすくする観点から、モノマーM3は、モノマーM2と組み合わせて用いることが好ましい。
【0092】
モノマーM3としては、例えば上記で例示した(メタ)アクリル系モノマーのなかから、ホモポリマーのTgが条件を満たすものを用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される一種または二種以上のモノマーを用いることができる。
【0093】
モノマー原料BがモノマーM3を含む態様において、モノマーM3の含有量は、例えばモノマー原料Bの5重量%以上であってよく、10重量%以上でもよく、15重量%以上でもよく、20重量%以上でもよく、25重量%以上でもよく、30重量%以上でもよく、35重量%以上でもよい。また、モノマーM3の含有量は、通常、モノマー原料Bの70重量%以下とすることが適当であり、60重量%以下でもよく、50重量%以下でもよい。上記モノマーM3の含有量は、例えば、モノマーM3が(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、メタクリル酸アルキルエステル)から選択される一種または二種以上のモノマーからなる態様において好ましく適用され得る。
【0094】
ここに開示される補強用フィルムのいくつかの態様において、モノマー原料Bは、ホモポリマーのTgが170℃より高いモノマーの含有量が30重量%以下であることが好ましい。ここで、本明細書においてモノマーの含有量がX重量%以下であるとは、特記しない場合、該モノマーの含有量が0重量%である態様、すなわち該モノマーを実質的に含まない態様を含む概念である。また、実質的に含まないとは、少なくとも意図的には上記モノマーが用いられていないことをいう。ホモポリマーのTgが170℃より高いモノマーの共重合割合が高くなると、ポリマー(B)の移動性が不足しがちとなって、50℃より高い温度域への加熱による粘着力の上昇が困難となることがあり得る。
【0095】
いくつかの態様において、モノマー原料Bは、(メタ)アクリル系モノマーとして、少なくともMMAを含むことが好ましい。MMAが共重合されたポリマー(B)によると、加熱後粘着力が大きい補強用フィルムが得られやすい。モノマー原料Bに含まれる(メタ)アクリル系モノマーの合計量に占めるMMAの割合は、例えば5重量%以上であってよく、10重量%以上でもよく、20重量%以上でもよく、30重量%以上でもよく、40重量%以上でもよい。また、モノマー原料Bの合計量に占めるMMAの割合は、通常、95重量%以下が適当であり、いくつかの好ましい態様において、モノマー原料Bの合計量に占めるMMAの割合は、加熱後の粘着力上昇の観点から、75重量%以下でもよく、65重量%以下でもよく、60重量%以下でもよく、55重量%以下(例えば50重量%以下)でもよい。
【0096】
ポリマー(B)を構成するモノマー単位としてモノマーS1とともに含まれ得るモノマーの他の例として、ポリマー(A)に用いられ得るモノマーとして上記で例示したカルボキシル基含有モノマー、酸無水物基含有モノマー、水酸基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、イソシアネート基含有モノマー、アミド基含有モノマー、窒素原子含有環を有するモノマー(N-ビニル環状アミド、(メタ)アクリロイル基を有する環状アミド、スクシンイミド骨格を有するモノマー、マレイミド類、イタコンイミド類等)、(メタ)アクリル酸アミノアルキル類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、オレフィン類、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、複素環含有(メタ)アクリレート、ハロゲン原子含有(メタ)アクリレート、テルペン化合物誘導体アルコールから得られる(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0097】
ポリマー(B)を構成するモノマー単位としてモノマーS1とともに含まれ得るモノマーのさらに他の例として、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のオキシアルキレンジ(メタ)アクリレート;ポリオキシアルキレン骨格を有するモノマー、例えばポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレン鎖の一方の末端に(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等の重合性官能基を有し、他方の末端にエーテル構造(アルキルエーテル、アリールエーテル、アリールアルキルエーテル等)を有する重合性ポリオキシアルキレンエーテル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル;(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩等の塩;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル等の多価(メタ)アクリレート:塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸-2-クロロエチル等のハロゲン化ビニル化合物;2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン基含有モノマー;(メタ)アクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸-2-アジリジニルエチル等のアジリジン基含有モノマー;(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、ラクトン類と(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチルとの付加物等の水酸基含有ビニルモノマー;フッ素置換(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の含フッ素ビニルモノマー;2-クロルエチルビニルエーテル、モノクロロ酢酸ビニル等の反応性ハロゲン含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルアリルアミン、2-メトキシエトキシトリメトキシシランのような有機ケイ素含有ビニルモノマー;その他、ビニル基を重合したモノマー末端にラジカル重合性ビニル基を有するマクロモノマー類;等を挙げることができる。これらは、一種を単独であるいは二種以上を組み合わせてモノマーS1と共重合させることができる。
【0098】
いくつかの態様において、ポリマー(B)としては、ポリマー(A)と架橋反応を生じる官能基を有しないものを好ましく採用し得る。言い換えると、ポリマー(B)は、ポリマー(A)と化学結合していない形態で粘着剤層に含まれていることが好ましい。このような形態でポリマー(B)を含む粘着剤層は、加熱時におけるポリマー(B)の移動性がよく、粘着力上昇比の向上に適している。ポリマー(A)と架橋反応を生じる官能基は、該ポリマー(A)の有する官能基の種類によって異なり得るが、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシ基、アルコキシシリル基、アミノ基等であり得る。
【0099】
ポリマー(B)のMwは特に限定されない。ポリマー(B)のMwは、例えば1000以上であってよく、5000以上でもよい。いくつかの好ましい態様において、ポリマー(B)のMwは、加熱後の粘着力上昇を好適に発現する観点から、10,000以上であり、より好ましくは12,000以上であり、15,000以上でもよく、20,000以上でもよく、22,000以上でもよく、25,000以上でもよい。他のいくつかの態様では、ポリマー(B)のMwは、30,000以上でもよく、50,000以上でもよく、70,000以上でもよい。ポリマー(B)のMwの上限は、例えば500,000以下であり、350,000以下でもよく、200,000以下でもよく、150,000以下でもよい。粘着剤層内における相溶性や移動性を適度な範囲に調節し、貼付け初期における低粘着性を好適に発現する観点から、いくつかの好ましい態様において、ポリマー(B)のMwは、100,000以下であり、より好ましくは80,000以下、さらに好ましくは60,000以下、特に好ましくは40,000以下(例えば30,000以下)であり、25,000以下であってもよく、さらには20,000以下でもよい。ポリマー(B)のMwを適当な範囲に設定することにより、貼付け初期の軽剥離性と粘着力上昇性の両立に優れた粘着剤が得られやすい。
【0100】
いくつかの好ましい態様において、ポリマー(B)のMwは、ポリマー(A)のMwより低いことが好ましい。これにより、貼付け初期の良好なリワーク性と加熱後の粘着力上昇とを両立する補強用フィルムを実現しやすくなる。いくつかの態様において、ポリマー(B)のMwは、例えば、ポリマー(A)のMwの0.8倍以下であってよく、0.75倍以下でもよく、0.5倍以下でもよく、0.3倍以下でもよい。いくつかの好ましい態様において、ポリマー(A)のMwに対するポリマー(B)のMwの比(Mw/Mw)は、0.3以下であり、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.1以下、特に好ましくは0.06以下(例えば0.05以下)である。また、比(Mw/Mw)は、例えば0.010以上が適当であり、好ましくは0.020以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.04以上である。ポリマー(A)のMwとポリマー(B)のMwとを適当な範囲に設定することにより、ここに開示される技術による効果がよりよく実現され得る。他のいくつかの態様において、ポリマー(B)のMwは、ポリマー(A)のMwの0.03倍以下(例えば0.02倍以下)でもよい。
【0101】
ポリマー(B)は、例えば、上述したモノマーを、溶液重合法、エマルション重合法、バルク重合法、懸濁重合法、光重合法等の公知の手法により重合させることで作製することができる。
【0102】
ポリマー(B)の分子量を調整するために、必要に応じて連鎖移動剤を用いることができる。使用する連鎖移動剤の例としては、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t-ノニルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、α-チオグリセロール等のメルカプト基を有する化合物;チオグリコール酸、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸エチル、チオグリコール酸プロピル、チオグリコール酸ブチル、チオグリコール酸t-ブチル、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸イソオクチル、チオグリコール酸デシル、チオグリコール酸ドデシル、エチレングリコールのチオグリコール酸エステル、ネオペンチルグリコールのチオグリコール酸エステル、ペンタエリスリトールのチオグリコール酸エステル等のチオグリコール酸エステル類;α-メチルスチレンダイマー;等が挙げられる。
【0103】
連鎖移動剤の使用量としては、特に制限されないが、通常、モノマー100重量部に対して、連鎖移動剤を0.05重量部~20重量部、好ましくは、0.1重量部~15重量部、さらに好ましくは0.2重量部~10重量部含有する。このように連鎖移動剤の添加量を調整することで、好適な分子量のポリマー(B)を得ることができる。連鎖移動剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0104】
ポリマー(B)の分子量を調整する手段としては、上記連鎖移動剤の使用を含む従来公知の各種の手段を、単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。ポリマー(A)の分子量についても同様である。そのような手段の非限定的な例には、重合方法の選択、重合開始剤の種類や使用量の選択、重合温度の選択、溶液重合法における重合溶媒の種類や使用量の選択、光重合法における光照射強度の選択、等が含まれる。当業者であれば、後述する具体例を含む本願明細書の記載および本願出願時の技術常識に基づいて、所望の分子量を有するポリマーをどのようにすれば得られるのかについて理解し得る。
【0105】
ここに開示される補強用フィルムにおいて、ポリマー(A)の使用量100重量部に対するポリマー(B)の使用量は、例えば0.1重量部以上とすることができ、より高い効果(好適には、貼付け初期の軽剥離性)を得る観点から0.5重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましく、1.5重量部以上がさらに好ましく、2重量部以上としてもよい。いくつかの態様において、リワーク性向上等の観点から、上記ポリマー(B)の使用量は、例えば3重量部以上とすることができ、4重量部以上としてもよく、5重量部以上としてもよい。また、ポリマー(A)の使用量100重量部に対するポリマー(B)の使用量は、例えば75重量部以下であってよく、30重量部以下でもよく、10重量部以下でもよく、8重量部以下でもよい。目的とする粘着力上昇を好適に実現する観点から、いくつかの好ましい態様において、ポリマー(A)100重量部に対するポリマー(B)の使用量は、5重量部以下であり、より好ましくは4重量部以下、さらに好ましくは3重量部以下、特に好ましくは2.5重量部以下である。他のいくつかの好ましい態様では、ポリマー(A)100重量部に対するポリマー(B)の使用量は、1.5重量部以下(例えば1.2重量部以下)である。ポリマー(B)の使用量を上記の範囲とすることで、良好な屈曲回復性および屈曲保持力を実現しやすい。また、貼付け初期の軽剥離性と粘着力上昇性とをよりよく両立することができる。
【0106】
粘着剤層は、ここに開示される補強用フィルムの性能を大きく損なわない範囲で、ポリマー(A)およびポリマー(B)以外のポリマー(任意ポリマー)を必要に応じて含有し得る。そのような任意ポリマーの使用量は、通常、粘着剤層に含まれるポリマー成分全体の20重量%以下とすることが適当であり、15重量%以下でもよく、10重量%以下でもよい。いくつかの態様において、上記任意ポリマーの使用量は、上記ポリマー成分全体の5重量%以下であってよく、3重量%以下でもよく、1重量%以下でもよい。ポリマー(A)およびポリマー(B)以外のポリマーを実質的に含有しない粘着剤層であってもよい。
【0107】
(架橋剤)
粘着剤層には、凝集力の調整等の目的で、必要に応じて架橋剤が用いられ得る。架橋剤としては、粘着剤の分野において公知の架橋剤を使用することができ、例えば、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、シリコーン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、シラン系架橋剤、アルキルエーテル化メラミン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等を挙げることができる。イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤を好適に使用することができる。屈曲回復性と屈曲保持力とを好適に両立する架橋剤として、イソシアネート系架橋剤を好ましく用いることができる。架橋剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0108】
イソシアネート系架橋剤としては、多官能イソシアネート(1分子当たり平均2個以上のイソシアネート基を有する化合物をいい、イソシアヌレート構造を有するものを包含する。)が好ましく使用され得る。イソシアネート系架橋剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0109】
多官能イソシアネートの例として、脂肪族ポリイソシアネート類、脂環族ポリイソシアネート類、芳香族ポリイソシアネート類等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート類の具体例としては、1,2-エチレンジイソシアネート;1,2-テトラメチレンジイソシアネート、1,3-テトラメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート等のテトラメチレンジイソシアネート;1,2-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,5-ヘキサメチレンジイソシアネート等のヘキサメチレンジイソシアネート;2-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0110】
脂環族ポリイソシアネート類の具体例としては、イソホロンジイソシアネート;1,2-シクロヘキシルジイソシアネート、1,3-シクロヘキシルジイソシアネート、1,4-シクロヘキシルジイソシアネート等のシクロヘキシルジイソシアネート;1,2-シクロペンチルジイソシアネート、1,3-シクロペンチルジイソシアネート等のシクロペンチルジイソシアネート;水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0111】
芳香族ポリイソシアネート類の具体例としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、2,2’-ジフェニルプロパン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ナフチレン-1,4-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、キシリレン-1,3-ジイソシアネート等が挙げられる。
【0112】
好ましい多官能イソシアネートとして、1分子当たり平均して3個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートが例示される。かかる3官能以上のイソシアネートは、2官能または3官能以上のイソシアネートの多量体(例えば、2量体または3量体)、誘導体(例えば、多価アルコールと2分子以上の多官能イソシアネートとの付加反応生成物)、重合物等であり得る。例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの2量体や3量体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(イソシアヌレート構造の3量体付加物)、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート、ならびにこれらと各種のポリオールとの付加物、イソシアヌレート結合、ビューレット結合、アロファネート結合等で多官能化したポリイソシアネート等の多官能イソシアネートが挙げられる。
【0113】
上記多官能イソシアネートの市販品としては、旭化成ケミカルズ社製の商品名「デュラネートTPA-100」、東ソー社製の商品名「コロネートL」、同「コロネートHL」、同「コロネートHK」、同「コロネートHX」、同「コロネート2096」、三井化学社製の商品名「タケネートD110N」、同「タケネートD120N」、同「タケネートD140N」、同「タケネートD160N」等、が挙げられる。
【0114】
エポキシ系架橋剤としては、ビスフェノールA、エピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンおよび1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。これらは一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0115】
金属キレート化合物としては、金属成分としてアルミニウム、鉄、錫、チタン、ニッケルなど、キレート成分としてアセチレン、アセト酢酸メチル、乳酸エチルなどが挙げられる。これらは一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0116】
架橋剤を使用する場合における使用量は、特に限定されず、例えばポリマー(A)100重量部に対して0重量部を超える量とすることができる。また、架橋剤の使用量は、ポリマー(A)100重量部に対して、例えば0.01重量部以上とすることができ、0.05重量部以上とすることが好ましい。架橋剤の使用量の増大により、貼付け初期の粘着力が抑制され、リワーク性が向上する傾向にある。屈曲回復性、加工性に優れる傾向がある。いくつかの態様において、ポリマー(A)100重量部に対する架橋剤の使用量は、0.1重量部以上であってもよく、0.5重量部以上であってもよく、0.8重量部以上であってもよい。一方、ポリマー(B)の移動性を適度に許容して加熱後の粘着力上昇を得る観点から、ポリマー(A)100重量部に対する架橋剤の使用量は、通常、15重量部以下とすることが適当であり、10重量部以下としてもよく、5重量部以下としてもよい。
【0117】
ここに開示される技術は、架橋剤として少なくともイソシアネート系架橋剤を用いる態様で好ましく実施され得る。貼付け初期の良好なリワーク性と加熱後の粘着力上昇とを両立する観点から、いくつかの態様において、ポリマー(A)100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、例えば0.01重量部以上とすることができ、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.07重量部以上であり、0.10重量部以上としてもよく、0.15重量部以上(例えば0.20重量部以上)としてもよい。イソシアネート系架橋剤の使用量の増大により、適度な凝集力、弾性率が得られ、屈曲回復性、加工性にも優れる傾向がある。また、ポリマー(A)100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、例えば5重量部以下とすることができ、好ましくは1.0重量部未満、より好ましくは0.5重量部未満、さらに好ましくは0.3重量部未満、特に好ましくは0.2重量部未満(例えば0.15重量部以下)である。これにより、粘着剤の凝集力、ひいては弾性率(典型的には表面弾性率)が適度に低下し、良好な屈曲保持力が得られ、また加熱後粘着力上昇も得られやすい。
【0118】
特に限定するものではないが、粘着剤層がモノマー単位として水酸基含有モノマーを含む構成においてイソシアネート系架橋剤を用いる場合、粘着剤層に含まれるイソシアネート基と水酸基とのモル比([NCO]/[OH])は、例えば0.001以上とすることができる。このように水酸基含有モノマーに対するイソシアネート系架橋剤の使用量を多くすることにより、粘着剤の弾性率(典型的には表面弾性率)が好適な範囲となり、屈曲回復性が向上する傾向がある。また、加工性にも優れる傾向がある。いくつかの好ましい態様において、上記モル比([NCO]/[OH])は、0.002以上であり、より好ましくは0.004以上、さらに好ましくは0.006以上(例えば0.007以上)であり、0.010以上であってもよく、0.020以上でもよく、0.030以上でもよい。また、上記モル比([NCO]/[OH])は、例えば1.0以下とすることができ、0.10以下であってもよい。上記モル比を所定値以下に制限することにより、貼付け初期の粘着力に対して加熱後粘着力を大きく上昇させるために適した架橋構造が好ましく形成され得る。いくつかの好ましい態様において、上記モル比([NCO]/[OH])は0.030以下であり、より好ましくは0.015以下、さらに好ましくは0.012以下(例えば0.009以下)であり、0.005以下でもよい。なお、粘着剤層において、イソシアネート基と水酸基は、それらの少なくとも一部が化学的に結合(架橋)した状態で存在し得る。より具体的には、上記イソシアネート基は上記水酸基と化学的に結合(架橋)した状態で存在し得る。一方、上記水酸基は、その一部がイソシアネート基と化学的に結合し、他の一部は上記イソシアネート基と化学的に結合(架橋)していない状態で存在し得る。
【0119】
いくつかの好ましい態様において、粘着剤層は触媒を含む。触媒は、粘着剤層形成時に粘着剤層の硬化を促進する目的、典型的には、上述したいずれかの架橋反応をより効果的に進行させる目的で添加され得る。したがって、上記触媒は、硬化触媒または架橋触媒ともいう。触媒を添加することにより、初期硬化が促進され、粘着剤層表面の気泡発生の原因となる副反応を抑制することができる。触媒としては、鉄系触媒、錫系触媒、チタン系触媒、ジルコニウム系触媒、鉛系触媒、コバルト系触媒、亜鉛系触媒等の有機金属系化合物、3級アミン化合物等が挙げられる。これらは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、反応速度とポットライフのバランスから、鉄系触媒、錫系触媒が好ましく、鉄系触媒が特に好ましい。
【0120】
鉄系触媒としては、例えば、鉄アセチルアセトネート、2-エチルヘキサン酸鉄等が挙げられる。鉄系触媒は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0121】
錫系触媒としては、例えば、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジブロマイド、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫スルフィド、トリブチル錫メトキシド、トリブチル錫アセテート、トリエチル錫エトキシド、トリブチル錫エトキシド、ジオクチル錫オキシド、ジオクチル錫ジラウレート、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫トリクロロアセテート、2-エチルヘキサン酸錫等が挙げられる。錫系触媒は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0122】
触媒の使用量は、特に制限されず、ポリマー(A)100重量部に対して、例えば0.0001重量部以上とすることができ、好ましくは0.001重量部以上、より好ましくは0.003重量部以上、さらに好ましくは0.006重量部以上、特に好ましくは0.008重量部以上である。触媒を適量用いることで、粘着剤層からの気泡発生が抑制され、平滑な粘着面が得られやすい。また、ポリマー(A)100重量部に対する触媒の使用量は、例えば1重量部以下とすることができ、0.1重量部以下であってもよい。いくつかの好ましい態様では、ポリマー(A)100重量部に対する触媒の使用量は、0.03重量部以下であり、より好ましくは0.02重量部以下、さらに好ましくは0.01重量部以下であり、0.005重量部以下であってもよい。ポリマー(A)100重量部に対する触媒の含有量を適度に制限することにより、好適な粘着力上昇を実現しやすい。
【0123】
特に限定するものではないが、粘着剤層がモノマー単位として水酸基含有モノマーを含む構成において触媒を用いる場合、触媒の使用量は、粘着剤層に含まれる触媒と水酸基とのモル比([触媒]/[OH])が、例えば1.0×10-6以上となる量とすることができ、好ましくは1.0×10-5以上、より好ましくは1.0×10-4以上、さらに好ましくは2.0×10-4以上、特に好ましくは3.0×10-4以上となる量である。触媒を適量用いることで、粘着剤層からの気泡発生が抑制され、平滑な粘着面が得られやすい。また、上記モル比([触媒]/[OH])は、例えば5.0×10-2以下とすることができ、5.0×10-3以下であってもよい。いくつかの好ましい態様では、上記モル比([触媒]/[OH])は、3.0×10-3以下であり、より好ましくは1.0×10-3以下、さらに好ましくは5.0×10-4以下であり、3.0×10-4以下であってもよい。触媒の含有量を適度に制限することにより、好適な粘着力上昇を実現しやすい。
【0124】
(粘着付与樹脂)
粘着剤層には、必要に応じて粘着付与樹脂を含ませることができる。粘着付与樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、フェノール系粘着付与樹脂、炭化水素系粘着付与樹脂、ケトン系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂等が挙げられる。粘着付与樹脂は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0125】
粘着付与樹脂の含有量は特に限定されず、目的や用途に応じて適切な粘着性能が発揮されるように設定することができる。ポリマー(A)100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量(二種以上の粘着付与樹脂を含む場合には、それらの合計量)は、例えば5~500重量部程度とすることができる。また、ここに開示される技術は、粘着付与樹脂の使用量が制限された態様で好ましく実施することができる。例えば、ポリマー(A)100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量は、20重量部未満とすることができ、10重量部未満であってもよく、3重量部未満でもよく、1重量部未満(0重量部~1重量部未満)でもよく、いくつかの態様においては、粘着剤層が粘着付与樹脂を実質的に含有しない。
【0126】
その他、ここに開示される技術における粘着剤層は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、レベリング剤、可塑剤、軟化剤、着色剤(染料、顔料等)、充填剤、帯電防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、防腐剤等の、粘着剤に使用され得る公知の添加剤を必要に応じて含んでいてもよい。
【0127】
ここに開示される補強用フィルムを構成する粘着剤層は、粘着剤組成物の硬化層であり得る。すなわち、該粘着剤層は、水分散型、溶剤型、光硬化型、ホットメルト型等の粘着剤組成物を適当な表面に付与(例えば塗布)した後、硬化処理を適宜施すことにより形成され得る。二種以上の硬化処理(乾燥、架橋、重合、冷却等)を行う場合、これらは、同時に、または多段階にわたって行うことができる。モノマー原料の部分重合物(ポリマーシロップ)を用いた粘着剤組成物では、典型的には、上記硬化処理として、最終的な共重合反応が行われる。すなわち、部分重合物をさらなる共重合反応に供して完全重合物を形成する。例えば、光硬化性の粘着剤組成物であれば、光照射が実施される。必要に応じて、架橋、乾燥等の硬化処理が実施されてもよい。例えば、光硬化性粘着剤組成物で乾燥させる必要がある場合は、乾燥後に光硬化を行うとよい。完全重合物を用いた粘着剤組成物では、典型的には、上記硬化処理として、必要に応じて乾燥(加熱乾燥)、架橋等の処理が実施される。
【0128】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて実施することができる。
【0129】
粘着剤層の厚さは特に限定されず、例えば6μm以上とすることができる。いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、8μm以上でもよく、10μm以上でもよく、15μm以上でもよく、20μm以上または20μm超でもよい。粘着剤層の厚さの増大により、加熱後粘着力が上昇する傾向にある。また、いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、例えば300μm以下であってよく、200μm以下でもよく、150μm以下でもよく、100μm以下でもよく、70μm以下でもよく、50μm以下でもよく、40μm以下でもよい。粘着剤層の厚さが大きすぎないことは、補強用フィルムの薄型化や粘着剤層の凝集破壊防止等の観点から有利となり得る。厚さが上述の範囲内である粘着剤層を有する補強用フィルムは、粘着力等の粘着特性や屈曲回復性、屈曲保持力のバランスのとれたものとなり得る。なお、基材の第一面および第二面に第一粘着剤層および第二粘着剤層を有する補強用フィルムの場合、上述した粘着剤層の厚さは、少なくとも第一粘着剤層の厚さに適用され得る。第二粘着剤層の厚さも同様の範囲から選択され得る。また、基材レスの補強用フィルムの場合、該補強用フィルムの厚さは粘着剤層の厚さと一致する。
【0130】
<支持基材>
いくつかの態様に係る補強用フィルムは、支持基材の片面または両面に粘着剤層を備える基材付き粘着シートの形態であり得る。支持基材の材質は特に限定されず、補強用フィルムの使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。使用し得る基材の非限定的な例としては、プラスチックフィルム等の樹脂フィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリクロロプレンフォーム等の発泡体からなる発泡体シート;各種の繊維状物質(麻、綿等の天然繊維、ポリエステル、ビニロン等の合成繊維、アセテート等の半合成繊維、等であり得る。)の単独または混紡等による織布および不織布;和紙、上質紙、クラフト紙、クレープ紙等の紙類;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;等が挙げられる。これらを複合した構成の基材であってもよい。このような複合基材の例として、例えば、金属箔と上記プラスチックフィルムとが積層した構造の基材、ガラスクロス等の無機繊維で強化されたプラスチック基材等が挙げられる。
【0131】
ここに開示される補強用フィルムの基材としては、各種のフィルム基材を好ましく用いることができる。上記フィルム基材は、発泡体フィルムや不織布シート等のように多孔質の基材であってもよく、非多孔質の基材であってもよく、多孔質の層と非多孔質の層とが積層した構造の基材であってもよい。いくつかの態様において、上記フィルム基材としては、独立して形状維持可能な(自立型の、あるいは非依存性の)樹脂フィルムをベースフィルムとして含むものを好ましく用いることができる。ここで「樹脂フィルム」とは、非多孔質の構造であって、典型的には実質的に気泡を含まない(ボイドレスの)樹脂フィルムを意味する。したがって、上記樹脂フィルムは、発泡体フィルムや不織布とは区別される概念である。上記樹脂フィルムとしては、独立して形状維持可能な(自立型の、あるいは非依存性の)ものが好ましく用いられ得る。上記樹脂フィルムは、単層構造であってもよく、二層以上の多層構造(例えば、三層構造)であってもよい。
【0132】
樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66、部分芳香族ポリアミド等のポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂を用いることができる。上記樹脂フィルムは、このような樹脂の一種を単独で含む樹脂材料を用いて形成されたものであってもよく、二種以上がブレンドされた樹脂材料を用いて形成されたものであってもよい。上記樹脂フィルムは、無延伸であってもよく、延伸(例えば一軸延伸または二軸延伸)されたものであってもよい。
【0133】
樹脂フィルムを構成する樹脂材料の好適例として、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、PPS樹脂およびポリオレフィン系樹脂が挙げられる。ここで、ポリイミド系樹脂とは、ポリイミドを50重量%を超える割合で含有する樹脂のことをいう。同様に、ポリエステル系樹脂とは、ポリエステルを50重量%を超える割合で含有する樹脂のことをいい、PPS樹脂とはPPSを50重量%を超える割合で含有する樹脂のことをいい、ポリオレフィン系樹脂とはポリオレフィンを50重量%を超える割合で含有する樹脂のことをいう。
【0134】
ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0135】
ポリオレフィン樹脂としては、一種のポリオレフィンを単独で、または二種以上のポリオレフィンを組み合わせて用いることができる。該ポリオレフィンは、例えばα-オレフィンのホモポリマー、二種以上のα-オレフィンの共重合体、一種または二種以上のα-オレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体等であり得る。具体例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、エチレンプロピレンゴム(EPR)等のエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体等が挙げられる。低密度(LD)ポリオレフィンおよび高密度(HD)ポリオレフィンのいずれも使用可能である。ポリオレフィン樹脂フィルムの例としては、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、中密度ポリエチレン(MDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム、二種以上のポリエチレン(PE)をブレンドしたポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)をブレンドしたPP/PEブレンドフィルム等が挙げられる。
【0136】
ここに開示される補強用フィルムのベースフィルムとして好ましく利用し得る樹脂フィルムの具体例として、PIフィルム、PETフィルム、PENフィルム、PPSフィルム、PEEKフィルム、CPPフィルムおよびOPPフィルムが挙げられる。
【0137】
樹脂フィルムには、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤(染料、顔料等)、充填材、スリップ剤、アンチブロッキング剤等の公知の添加剤を、必要に応じて配合することができる。添加剤の配合量は特に限定されず、目的等に応じて適宜設定することができる。
【0138】
樹脂フィルムの製造方法は特に限定されない。例えば、押出成形、インフレーション成形、Tダイキャスト成形、カレンダーロール成形等の、従来公知の一般的な樹脂フィルム成形方法を適宜採用することができる。
【0139】
上記基材は、このようなベースフィルムから実質的に構成されたものであり得る。あるいは、上記基材は、上記ベースフィルムの他に、補助的な層を含むものであってもよい。上記補助的な層の例としては、光学特性調整層(例えば着色層、反射防止層)、基材に所望の外観を付与するための印刷層やラミネート層、帯電防止層、下塗り層、剥離層等の表面処理層が挙げられる。
【0140】
基材の厚さは、特に限定されず、補強用フィルムの使用目的や使用態様等に応じて選択し得る。基材の厚さは、例えば1000μm以下であり得る。いくつかの態様において、補強用フィルムの取扱い性や加工性の観点から、基材の厚さは、例えば500μm以下であってよく、300μm以下であってもよく、250μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。補強用フィルムが適用される製品の小型化や軽量化の観点から、いくつかの態様において、基材の厚さは、例えば160μm以下であってよく、130μm以下であってもよく、100μm以下であってもよく、90μm以下でもよく、80μm以下でもよく、60μm以下でもよく、50μm以下でもよく、25μm以下でもよく、10μm以下でもよく、5μm以下でもよい。基材の厚さが小さくなると、補強用フィルムの柔軟性や被着体の表面形状への追従性が向上する傾向にある。また、取扱い性や加工性等の観点から、基材の厚さは、例えば2μm以上であってよく、5μm以上でもよく、10μm以上でもよく、20μm以上でもよく、25μm以上または25μm超でもよい。いくつかの態様において、基材の厚さは、例えば30μm以上であってよく、35μm以上でもよく、55μm以上でもよく、70μm以上でもよく、75μm以上でもよく、90μm以上でもよく、120μm以上でもよい。例えば、補強用フィルムにおいて、厚さ30μm以上の基材を好ましく採用し得る。
【0141】
基材の第一面には、必要に応じて、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、下塗り剤(プライマー)の塗布による下塗り層の形成等の、従来公知の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、粘着剤層の基材への投錨性を向上させるための処理であり得る。例えば、樹脂フィルムをベースフィルムとして含む基材を備えた補強用フィルムにおいて、かかる投錨性向上処理が施された基材を好ましく採用し得る。上記表面処理は、単独でまたは組み合わせて適用することができる。下塗り層の形成に用いるプライマーの組成は特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。下塗り層の厚さは特に制限されないが、通常、0.01μm~1μm程度が適当であり、0.1μm~1μm程度が好ましい。必要に応じて基材の第一面に施され得る他の処理として、帯電防止層形成処理、着色層形成処理、印刷処理等が挙げられる。
【0142】
ここに開示される補強用フィルムが基材の第一面にのみ粘着剤層を有する片面粘着シートの形態である場合、基材の第二面には、必要に応じて、剥離処理や帯電防止処理等の、従来公知の表面処理が施されていてもよい。例えば、基材の背面を剥離処理剤で表面処理することにより(典型的には、剥離処理剤による剥離層を設けることにより)、ロール状に巻回された形態の補強用フィルムの巻戻し力を軽くすることができる。剥離処理剤としては、シリコーン系剥離処理剤、長鎖アルキル系剥離処理剤、オレフィン系剥離処理剤、フッ素系剥離処理剤、脂肪酸アミド系剥離処理剤、硫化モリブデン、シリカ粉等を用いることができる。また、印字性の向上、光反射性の低減、重ね貼り性向上等の目的で、基材の第二面にコロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理等の処理が施されていてもよい。また、両面粘着シートの場合、基材の第二面には、必要に応じて、基材の第一面に施され得る表面処理として上記で例示したものと同様の表面処理が施されていてもよい。なお、基材の第一面に施される表面処理と第二面に施される表面処理とは、同一であってもよく異なってもよい。
【0143】
<補強用フィルムの特性>
ここに開示される補強用フィルムは、ステンレス鋼板に貼り合わせて23℃に30分間保持した後に測定される初期粘着力N23が所定値以下に制限されていることが好ましい。いくつかの態様において、粘着力N23は、例えば500gf/25mm未満であることが好ましく、より好ましくは400gf/25mm未満、さらに好ましくは300gf/25mm未満、特に好ましくは250gf/25mm以下(例えば200gf/25mm以下)であり、150gf/25mm以下であってもよい。粘着力N23が低いことは、リワーク性の観点から好ましい。粘着力N23の下限は特に制限されず、例えば.1gf/25mm以上であり得る。被着体への貼付け作業性や、粘着力上昇前における位置ズレ防止等の観点から、粘着力N23は、通常、10gf/25mm以上であることが適当である。加熱後粘着力の向上等の観点から、いくつかの態様において、粘着力N23は、例えば20gf/25mm以上であってよく、50gf/25mm以上でもよく、80gf/25mm以上でもよく、100gf/25mm以上(例えば150gf/25mm以上)でもよい。
【0144】
粘着力N23[gf/25mm]は、被着体としてのステンレス鋼(SUS)板に圧着して23℃、50%RHの環境で30分間放置した後、同環境において(すなわち、23℃において)、剥離角度180度、引張速度300mm/分の条件で180°引きはがし粘着力を測定することにより把握される。被着体としては、SUS304BA板が用いられる。測定にあたっては、必要に応じて、測定対象の補強用フィルムに適切な裏打ち材(例えば、厚さ25μm程度のPETフィルム)を貼り付けて補強することができる。粘着力N23は、より具体的には、後述する実施例に記載の初期粘着力の測定方法に準じて測定することができる。
【0145】
ここに開示される補強用フィルムは、加熱により粘着力が上昇するものであり、例えば粘着力N60、すなわちステンレス鋼板に貼り合わせて60℃に60分間保持した後に23℃において測定される粘着力が、300gf/25mm以上を示すものであり得る。いくつかの態様において、粘着力N60は400gf/25mm以上であり、500gf/25mm以上であることが適当である。この特性を満足する補強用フィルムは、被着体に貼り付けた後、加熱により粘着力が所定値以上に上昇する。ここに開示される技術によると、加熱で強粘着力を得ることが可能である。いくつかの好ましい態様において、粘着力N60は、600gf/25mm以上であり、より好ましくは700gf/25mm以上であり、800gf/25mm以上であってもよく、900gf/25mm以上でもよい。粘着力N60の上限は特に制限されない。補強用フィルムの製造容易性や経済性の観点から、いくつかの態様において、粘着力N60は、例えば3000gf/25mm以下であってよく、1500gf/25mm以下でもよく、1000gf/25mm以下でもよい。
【0146】
粘着力N60[gf/25mm]は、被着体としてのSUS板に圧着して60℃の環境に60分間保持し、次いで23℃、50%RHの環境に30分間放置した後に、同環境において、剥離角度180度、引張速度300mm/分の条件で180°引きはがし粘着力を測定することにより把握される。被着体としては、粘着力N23と同様、SUS304BA板が用いられる。測定にあたっては、必要に応じて、測定対象の補強用フィルムに適切な裏打ち材(例えば、厚さ25μm程度のPETフィルム)を貼り付けて補強することができる。粘着力N60は、より具体的には、後述する実施例に記載の加熱後粘着力の測定方法に準じて測定することができる。
【0147】
粘着力N23[gf/25mm]に対する粘着力N60[gf/25mm]の比、すなわち粘着力上昇比N60/N23は、特に限定されず、いくつかの態様において、N60/N23は1.5以上であることが適当であり、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは2.5以上であり、さらに好ましくは3.0以上(例えば3.5以上)であり、5.0超(例えば7.0超)であってもよい。N60/N23が大きい補強用フィルムによると、貼付け初期には良好なリワーク性を示し、かつその後の加熱等により粘着力を大きく上昇させることができる。N60/N23の上限は特に限定されず、通常は100以下であり、補強用フィルムの製造容易性や経済性の観点から、30以下でもよく、15以下でもよく、10以下でもよい。いくつかの態様において、N60/N23は、例えば5以下であってよく、3以下でもよく、2以下でもよい。
【0148】
なお、ここに開示される補強用フィルムの加熱後粘着力は、該補強用フィルムの一特性を表すものであって、この補強用フィルムの使用態様を限定するものではない。言い換えると、ここに開示される補強用フィルムの使用態様は、60℃で60分間の加熱を行う態様に限定されず、例えば室温域(通常は20℃~30℃、典型的には23℃~25℃)以上に加熱する処理を特に行わない態様でも使用することができる。かかる使用態様においても長期的に粘着力が上昇し、強固な接合を実現することができる。また、ここに開示される補強用フィルムは、貼付け後の任意のタイミングで30℃超(例えば50~70℃程度)または60℃より高い温度で加熱処理を行うことによって粘着力の上昇を促進することができる。かかる加熱処理における加熱温度は、特に限定されず、作業性、経済性、補強用フィルムの基材や被着体の耐熱性等を考慮して設定することができる。上記加熱温度は、例えば150℃未満であってよく、120℃以下であってもよく、100℃以下でもよく、80℃以下でもよく、70℃以下でもよい。また、上記加熱温度は、例えば40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上、または70℃以上とすることができ、80℃以上としてもよく、100℃以上としてもよい。加熱時間は特に限定されず、例えば3時間以下であってよく、1時間以下であってもよく、30分以下でもよく、10分以下でもよい。また、加熱時間は、例えば1分以上であってよく、15分以上でもよく、30分以上でもよく、1時間以上でもよい。あるいは、補強用フィルムや被着体に顕著な熱劣化が生じない限度で、より長期間の加熱処理を行ってもよい。なお、加熱処理は、一度に行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。
【0149】
<基材付き補強用フィルム>
ここに開示される補強用フィルムが基材付き粘着シートの形態である場合、該補強用フィルムの厚さは、例えば1000μm以下であってよく、600μm以下であってもよく、350μm以下でもよく、250μm以下でもよい。補強用フィルムが適用される製品の小型化、軽量化、薄型化等の観点から、いくつかの態様において、補強用フィルムの厚さは、例えば200μm以下であってよく、175μm以下であってもよく、140μm以下でもよく、120μm以下でもよく、100μm以下(例えば100μm未満)でもよい。また、補強用フィルムの厚さは、取扱い性等の観点から、例えば5μm以上であってよく、10μm以上でもよく、15μm以上でもよく、20μm以上でもよく、25μm以上でもよく、30μm以上でもよい。いくつかの態様において、補強用フィルムの厚さは、例えば50μm以上であってよく、60μm以上でもよく、80μm以上でもよく、100μm以上でもよく、120μm以上でもよい。補強用フィルムの厚さの上限は特に限定されない。
なお、補強用フィルムの厚さとは、被着体に貼り付けられる部分の厚さをいう。例えば図1に示す構成の補強用フィルム1では、補強用フィルム1の粘着面21Aから基材10の第二面10Bまでの厚さを指し、剥離ライナー31の厚さは含まない。
【0150】
ここに開示される補強用フィルムは、例えば、支持基材の厚さTsが粘着剤層の厚さTaより大きい態様、すなわちTs/Taが1より大きい態様で好適に実施され得る。特に限定するものではないが、Ts/Taは、例えば1.1以上であってよく、1.2以上であってもよく、1.5以上であってもよく、1.7以上であってもよい。例えば、Ts/Taの増大により、補強用フィルムを薄型化しても良好な効果が発揮されやすくなる傾向にある。いくつかの態様において、Ts/Taは、2以上(例えば2より大)であってよく、2.5以上でもよく、2.8以上でもよい。また、Ts/Taは、例えば50以下であってよく、20以下でもよい。補強用フィルムを薄型化しても高い加熱後粘着力を発揮しやすくする観点から、Ts/Taは、例えば10以下であってよく、8以下でもよく、5以下でもよい。
【0151】
上記粘着剤層は、支持基材に固着していることが好ましい。ここで固着とは、被着体への貼付け後に粘着力が上昇した補強用フィルムにおいて、該補強用フィルムの被着体からの剥離時に粘着剤層と支持基材との界面での剥離が生じない程度に、粘着剤層が支持基材に対して十分な投錨性を示すことをいう。粘着剤層が支持基材に固着している基材付き補強用フィルムによると、被着体と支持基材とを強固に一体化することができる。粘着剤層が基材に固着している補強用フィルムの一好適例として、上述した加熱後粘着力の測定時に、粘着剤層と支持基材との間での剥離(投錨破壊)が生じない補強用フィルムが挙げられる。加熱後粘着力の測定時に投錨破壊が生じない補強用フィルムは、粘着剤層が基材に固着している補強用フィルムに該当する一好適例である。
【0152】
ここに開示される補強用フィルムは、例えば、液状の粘着剤組成物を基材の第一面に接触させることと、該第一面上で上記粘着剤組成物を硬化させて粘着剤層を形成することと、をこの順に含む方法により好ましく製造され得る。上記粘着剤組成物の硬化は、該粘着剤組成物の乾燥、架橋、重合、冷却等の一または二以上を伴い得る。このように液状の粘着剤組成物を基材の第一面上で硬化させて粘着剤層を形成する方法によると、硬化後の粘着剤層を基材の第一面に貼り合わせることで該第一面上に粘着剤層を配置する方法に比べて、粘着剤層の基材への投錨性を高めることができる。このことを利用して、粘着剤層が基材に固着した補強用フィルムを好適に製造することができる。
【0153】
いくつかの態様において、基材の第一面に液状の粘着剤組成物を接触させる方法としては、上記粘着剤組成物を基材の第一面に直接塗布する方法を採用することができる。基材の第一面上で硬化させた粘着剤層の第一面(粘着面)を剥離面に当接させることにより、該粘着剤層の第二面が基材の第一面に固着し、かつ該粘着剤層の第一面が剥離面に当接した構成の補強用フィルムを得ることができる。上記剥離面としては、剥離ライナーの表面や、剥離処理された基材背面等を利用し得る。
【0154】
また、例えば、モノマー原料の部分重合物(ポリマーシロップ)を用いた光硬化型の粘着剤組成物の場合、例えば、該粘着剤組成物を剥離面に塗布した後、その塗布された粘着剤組成物に基材の第一面を被せることで未硬化の上記粘着剤組成物に基材の第一面に接触させ、その状態で、基材の第一面と剥離面との間に挟まれた粘着剤組成物に光照射を行って硬化させることで粘着剤層を形成してもよい。
【0155】
なお、上記で例示した方法は、ここに開示される補強用フィルムの製造方法を限定するものではない。ここに開示される補強用フィルムの製造にあたっては、基材の第一面に粘着剤層を固着させ得る適宜の方法を、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。そのような方法の例には、上述のように液状の粘着剤組成物を基材の第一面上で硬化させて粘着剤層を形成する方法や、基材の第一面に粘着剤層の投錨性を高める表面処理を施す方法等が挙げられる。例えば、基材の第一面に下塗り層を設ける等の手法により粘着剤層の基材への投錨性を十分に向上させ得る場合には、硬化後の粘着剤層を基材の第一面に貼り合わせる方法で補強用フィルムを製造してもよい。また、基材の材質の選択や、粘着剤の組成の選択によっても、粘着剤層の基材への投錨性を向上させ得る。また、基材の第一面上に粘着剤層を有する補強用フィルムに室温より高い温度を適用することにより、該粘着剤層の基材への投錨性を高めることができる。投錨性を高めるために適用する温度は、例えば35℃~80℃程度であってよく、40℃~70℃以上程度でもよく、45℃~60℃程度でもよい。
【0156】
ここに開示される補強用フィルムが、基材の第一面に設けられた第一粘着剤層と、該基材の第二面に設けられた第二粘着剤層を有する粘着シート(すなわち、両面接着性の基材付き粘着シート)の形態である場合、第一粘着剤層と第二粘着剤層とは、同一の構成であってもよく、異なる構成であってもよい。第一粘着剤層と第二粘着剤層との構成が異なる場合、その相違は、例えば、組成の違いや構造(厚さ、表面粗さ、形成範囲、形成パターン等)の違いであり得る。例えば、第二粘着剤層は、ポリマー(B)を含有しない粘着剤層であってもよい。また、第二粘着剤層の表面(第二粘着面)は、23℃での表面弾性率が1~20kPaの範囲外(例えば20kPa超)であってもよく、30kPa以上でもよい。
【0157】
<剥離ライナー付き補強用フィルム>
ここに開示される補強用フィルムは、粘着剤層の表面(粘着面)を剥離ライナーの剥離面に当接させた粘着製品の形態をとり得る。したがって、この明細書により、ここに開示されるいずれかの補強用フィルムと、該補強用フィルムの粘着面に当接する剥離面を有する剥離ライナーと、を含む剥離ライナー付き補強用フィルムが提供され得る。
【0158】
剥離ライナーの厚さは、特に限定されないが、通常は5μm~200μm程度が適当である。剥離ライナーの厚さが上記範囲内にあると、粘着剤層への貼り合わせ作業性と粘着剤層からの剥離作業性に優れるため、好ましい。いくつかの態様において、剥離ライナーの厚さは、例えば10μm以上であってよく、20μm以上でもよく、30μm以上でもよく、40μm以上でもよい。また、剥離ライナーの厚さは、粘着剤層からの剥離を容易化する観点から、例えば100μm以下であってよく、80μm以下でもよい。剥離ライナーには、必要に応じて、塗布型、練り込み型、蒸着型等の、公知の帯電防止処理が施されていてもよい。
【0159】
剥離ライナーとしては、特に限定されず、例えば、樹脂フィルムや紙(ポリエチレン等の樹脂がラミネートされた紙であり得る。)等のライナー基材の表面に剥離層を有する剥離ライナーや、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)のような低接着性材料により形成された樹脂フィルムからなる剥離ライナー等を用いることができる。表面平滑性に優れることから、ライナー基材としての樹脂フィルムの表面に剥離層を有する剥離ライナーや、低接着性材料により形成された樹脂フィルムからなる剥離ライナーを好ましく採用し得る。樹脂フィルムとしては、粘着剤層を保護し得るフィルムであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエステルフィルム(PETフィルム、PBTフィルム等)、ポリウレタンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムなどが挙げられる。上記剥離層の形成には、例えば、シリコーン系剥離処理剤、長鎖アルキル系剥離処理剤、オレフィン系剥離処理剤、フッ素系剥離処理剤、脂肪酸アミド系剥離処理剤、硫化モリブデン、シリカ粉等の、公知の剥離処理剤を用いることができる。シリコーン系剥離処理剤の使用が特に好ましい。
【0160】
剥離層の厚さは特に制限されないが、通常は0.01μm~1μm程度が適当であり、0.1μm~1μm程度が好ましい。剥離層の形成方法は特に限定されず、使用する剥離処理剤の種類等に応じた公知の方法を適宜採用することができる。
【0161】
<用途>
この明細書により提供される補強用フィルムは、例えば、被着体に貼り合わせた初期においては良好なリワーク性を発揮することが可能なので、歩留り低下の抑制や該補強用フィルムを含む製品の高品質化に貢献し得る。そして、上記補強用フィルムは、被着体に貼り付けた後、エージングや加熱により粘着力を大きく上昇させることができる。例えば、被着体への貼付け後の適当なタイミングで加熱することにより、補強用フィルムを被着体に強固に接着させることができる。このような特徴を活かして、ここに開示される補強用フィルムは、種々の分野において、各種製品に含まれる部材の補強目的で好ましく用いられ得る。
【0162】
ここに開示される補強用フィルムは、例えば、第一面および第二面を有するフィルム状基材の少なくとも第一面に粘着剤層が設けられた基材付き粘着シートの形態で、被着体に貼り付けられて該被着体を補強する補強フィルムとして好ましく用いられ得る。かかる補強フィルムにおいて、上記フィルム基材としては、樹脂フィルムをベースフィルムとして含むものを好ましく使用し得る。また、補強性能を高める観点から、上記粘着剤層はフィルム状基材の第一面に固着していることが好ましい。
例えば、光学製品に用いられる光学部材や、電子製品に用いられる電子部材では、高度な集積化、小型軽量化、薄型化が進行しており、線膨張係数や厚みの異なる複数の薄い光学部材/電子部材が積層され得る。このような部材に上記のような補強フィルムを貼り付けることにより、上記光学部材/電子部材に適度な剛性を付与することができる。これにより、製造プロセスおよび/または製造後の製品において、上記線膨張係数や厚みの異なる複数の部材間に発生し得る応力に起因するカールや湾曲を抑制することができる。
また、光学製品/電子製品の製造プロセスにおいて、上述のように薄い光学部材/電子部材に切断加工等の形状加工処理を行う局面において、該部材に補強フィルムを貼り付けて処理することにより、加工に伴う光学部材/電子部材への局所的な応力集中を緩和し、クラック、割れ、積層部材の剥がれなどのリスクを低減することができる。光学部材/電子部材に補強部材を貼り付けて取り扱うことは、該部材の搬送、積層、回転等の際における局所的な応力集中の緩和や、該部材の自重による折れや湾曲の抑制等にも役立ち得る。
さらに、上記補強フィルムを含む光学製品や電子製品等のデバイスは、市場において消費者に使用される段階において、該デバイスが落下した場合、重量物の下に置かれた場合、飛来物が衝突した場合等、非意図的な応力が付与された場合にも、該デバイスに補強フィルムが含まれていることにより、デバイスにかかるストレスを緩和することができる。したがって、上記デバイスに補強フィルムが含まれることにより、該デバイスの耐久性を向上させ得る。
【0163】
また、ここに開示される補強用フィルムは、例えば各種の携帯機器(ポータブル機器)を構成する部材に貼り付けられる態様で好ましく用いられ得る。ここで「携帯」とは、単に携帯することが可能であるだけでは充分ではなく、個人(標準的な成人)が相対的に容易に持ち運び可能なレベルの携帯性を有することを意味するものとする。また、ここでいう携帯機器の例には、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノート型パソコン、各種ウェアラブル機器、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、音響機器(携帯音楽プレーヤー、ICレコーダー等)、計算機(電卓等)、携帯ゲーム機器、電子辞書、電子手帳、電子書籍、車載用情報機器、携帯ラジオ、携帯テレビ、携帯プリンター、携帯スキャナ、携帯モデム等の携帯電子機器の他、機械式の腕時計や懐中時計、懐中電灯、手鏡等が含まれ得る。上記携帯電子機器を構成する部材の例には、液晶ディスプレイ等の薄層ディスプイやフィルム型ディスプレイ等のような画像表示装置に用いられる光学フィルムや表示パネル等が含まれ得る。ここに開示される補強用フィルムは、自動車、家電製品等における各種部材に貼り付けられる態様でも好ましく用いられ得る。
【0164】
また、ここに開示される補強用フィルムは、屈曲回復性および屈曲保持力を有するので、その特長を生かして、屈曲可能な要素(例えば、フレキシブルディスプレイ等のフレキシブルデバイス。ローラブルデバイスやフォルダブルデバイスとも称され得る。)を備えた機器を構成する部材に貼り付けられる態様で好ましく用いられ得る。そのような機器として、例えば上述の各種の携帯機器(ポータブル機器)が挙げられる。上記携帯電子機器を構成する部材の例には、液晶ディスプレイや有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ等の画像表示装置に用いられる光学フィルムや表示パネル等が含まれ得る。ここに開示される補強用フィルムは、このような携帯電子機器において、該機器を構成する部材(典型的には、フレキシブルデバイスまたはフォルダブルデバイスと称される画像表示装置等)の補強用途に好ましく用いられ得る。
【0165】
また、ここに開示される補強用フィルムは、例えば、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELディスプレイ等の構成要素として用いられる光学部材の製造時、搬送時等に該光学部材を補強する用途に好適である。液晶ディスプレイパネル用の偏光板(偏光フィルム)、波長板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、光拡散シート、反射シート等の光学部材に適用される補強用フィルムとして有用である。
【0166】
なお、ここに開示される補強用フィルムの用途としては、特に限定されず、剛性や耐衝撃性の付与等を目的とする各種用途に利用され得る。ここに開示される補強用フィルムは、上記のようにフレキシブルデバイス用途に好ましく用いることができるだけでなく、フレキシブルデバイスを含まない他の用途に用いることができる。補強用フィルムが屈曲回復性および屈曲保持力を有することは、当該補強用フィルムの適用範囲の制限が少ないことを意味し、このことの実用上の利点は大きい。
【実施例
【0167】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0168】
[ポリマー(A)の合成]
(合成例A1)
撹拌羽根、温度計、窒素ガス導入管および冷却器を備えた四つ口フラスコに、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)90.2部、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)8.6部、N-アクリロイルモルホリン(ACMO)1.2部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2 部、および重合溶媒として酢酸エチルを仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を65℃ 付近に保って6時間重合反応を行い、ポリマー濃度が35%のアクリル系ポリマーA1溶液を調製した。アクリル系ポリマーA1の重量平均分子量(Mw)は54万であった。
【0169】
(合成例A2)
モノマー組成を、2EHA/4HBA/ACMO/アクリル酸ブチル(BA)=86.1部/9.7部/1.8部/2.4部に変更した他は合成例A1と同様にして溶液重合を行うことにより、アクリル系ポリマーA2の溶液を得た。
【0170】
(合成例A3)
モノマー組成を、BA/4HBA=96部/4部に変更した他は合成例A1と同様にして溶液重合を行うことにより、アクリル系ポリマーA3の溶液を得た。
【0171】
(合成例A4)
モノマー組成を、2EHA/HEA/メタクリル酸メチル(MMA)/N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)=65部/15部/7部/13部に変更した他は合成例A1と同様にして溶液重合を行うことにより、アクリル系ポリマーA4の溶液を得た。
【0172】
[ポリマー(B)の合成]
酢酸エチル101.15部、MMA40部、n-ブチルメタクリレート(BMA)20部、2-エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)20部、官能基当量が900g/molのポリオルガノシロキサン骨格含有メタクリレートモノマー(商品名:X-22-174ASX、信越化学工業社製)8.7部、官能基当量が4600g/molのポリオルガノシロキサン骨格含有メタクリレートモノマー(商品名:KF-2012、信越化学工業社製)11.3部、および連鎖移動剤としてチオグリセロール0.8部を、撹拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器および滴下ロートを備えた4つ口フラスコに投入した。そして、70℃にて窒素雰囲気下で30分撹拌した後、熱重合開始剤としてAIBN0.2部を投入し、70℃で3時間反応させた。続いて80℃にて30分撹拌した後、AIBN0.1部をさらに投入し、80℃で2時間反応させた。その後、AIBN0.05部をさらに投入し、80℃で2時間反応させ、ポリマーBを得た。得られたポリマーBのMwは20000であった。
【0173】
なお、上述した各ポリマーのMwは、GPC装置(東ソー社製、HLC-8220GPC)を用いて下記の条件で測定を行い、ポリスチレン換算により求めた。
[GPC条件]
・サンプル濃度:0.2wt%(テトラヒドロフラン(THF)溶液)
・サンプル注入量:10μL
・溶離液:THF・流速:0.6mL/min
・測定温度:40℃
・カラム:
サンプルカラム;TSKguardcolumn SuperHZ-H(1本)+TSKgel SuperHZM-H(2本)
リファレンスカラム;TSKgel SuperH-RC(1本)
・検出器:示差屈折計(RI)
【0174】
[補強用フィルムの作製]
<実施例1>
アクリル系ポリマーA1を100部、ポリマーBを2.0部、架橋剤としてイソシアネート化合物C1(商品名「コロネートHX」、東ソー社製)を固形分換算で0.015部添加し、全体の固形分が30%となるように酢酸エチルで希釈し、本例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。
片面にシリコーン処理を施した厚さ75μmのポリエステル樹脂からなる剥離ライナー(商品名「ダイアホイルMRF75」、三菱ケミカル社製)を用意し、そのシリコーン処理面に、上記で得たアクリル系粘着剤溶液を塗布し、130℃で1分間の条件で乾燥させることにより、厚さ25μmの粘着剤層を形成した。
次いで、得られた粘着剤層の表面に、厚さ50μmのポリイミド基材(商品名「ユーピレックス50S」、宇部興産社製)を貼り合わせて本例に係る補強用フィルムを得た。この補強用フィルムは、基材の片面に粘着剤層を有し、その粘着面に剥離ライナーの剥離面が当接した剥離ライナー付き粘着シートの形態を有する。
なお、本例の補強用フィルムにつき、粘着剤層中のOH量(アクリル系ポリマーA1中の水酸基のモル数)とNCO量(イソシアネート化合物のイソシアネート基のモル数)から、モル比([NCO]/[OH])を算出したところ、0.001であった。
【0175】
<実施例2~5>
イソシアネート化合物C1の使用量を、表1に示すように、アクリル系ポリマーA1 100部に対して固形分換算で0.05部(実施例2)、0.10部(実施例3)、0.20部(実施例4)、0.60部(実施例5)に変更した他は実施例1と同様にして、各例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。これらのアクリル系粘着剤溶液をそれぞれ使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、各例に係る補強用フィルムを作製した。
【0176】
<実施例6~9>
ポリマーBの使用量を、表1に示すように、アクリル系ポリマーA1 100部に対して0.4部(実施例6)、1.0部(実施例7)、3.0部(実施例8)、6.0部(実施例9)に変更した他は実施例3と同様にして、各例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。これらのアクリル系粘着剤溶液をそれぞれ使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、各例に係る補強用フィルムを作製した。
【0177】
<実施例10>
アクリル系ポリマーA1に代えてアクリル系ポリマーA2を使用した他は実施例3と同様にして、本例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。得られたアクリル系粘着剤溶液を使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、本例に係る補強用フィルムを作製した。
【0178】
<実施例11>
アクリル系ポリマーA1に代えてアクリル系ポリマーA3を使用し、架橋剤として、イソシアネート化合物C2(商品名「タケネートD110N」、三井化学社製)を、アクリル系ポリマーA3 100部に対して固形分換算で0.07部使用した他は実施例1と同様にして、本例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。得られたアクリル系粘着剤溶液を使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、本例に係る補強用フィルムを作製した。
【0179】
<実施例12~13>
イソシアネート化合物C2の使用量を、表1に示すように、アクリル系ポリマーA3 100部に対して固形分換算で0.09部(実施例12)、0.395部(実施例13)に変更した他は実施例11と同様にして、各例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。これらのアクリル系粘着剤溶液をそれぞれ使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、各例に係る補強用フィルムを作製した。
【0180】
<実施例14~18>
実施例3に係るアクリル系粘着剤溶液の調製において、アクリル系ポリマーA1、ポリマーB、イソシアネート化合物C1に加えて、表1に示すように、アクリル系ポリマーA1 100部に対して鉄系触媒(ナーセム第二鉄、日本化学産業社製)を固形分換算で0.001部(実施例14)、0.005部(実施例15)、0.010部(実施例16)、0.020部(実施例17)、0.050部(実施例18)さらに添加し、全体の固形分が30%となるように酢酸エチル(溶剤成分の98%)、アセチルアセトン(溶剤成分の2%)で希釈して、各例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。これらのアクリル系粘着剤溶液をそれぞれ使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、各例に係る補強用フィルムを作製した。なお、表1には、粘着剤層に含まれる触媒と水酸基とのモル比([触媒]/[OH])も示した。上記モル比([触媒]/[OH])は、粘着剤層中のOH量(アクリル系ポリマーA1中の水酸基のモル数)と触媒量(触媒のモル数)から算出した値である。
【0181】
<実施例19~20>
ポリマーBの使用量を、表1に示すように、アクリル系ポリマーA1 100部に対して1.0部(実施例19)、3.0部(実施例20)に変更した他は実施例14と同様にして、各例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。これらのアクリル系粘着剤溶液をそれぞれ使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、各例に係る補強用フィルムを作製した。
【0182】
<比較例1>
アクリル系ポリマーA1を100部、架橋剤としてイソシアネート化合物C1(商品名「コロネートHX」、東ソー社製)を固形分換算で0.05部添加し、全体の固形分が30%となるように酢酸エチルで希釈し、本例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。得られたアクリル系粘着剤溶液を使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、本例に係る補強用フィルムを作製した。
【0183】
<比較例2~3>
イソシアネート化合物C1の使用量を、表1に示すように、アクリル系ポリマーA1 100部に対して固形分換算で0.10部(比較例2)、0.20部(比較例3)に変更した他は比較例1と同様にして、各例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。これらのアクリル系粘着剤溶液をそれぞれ使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、各例に係る補強用フィルムを作製した。
【0184】
<比較例4>
アクリル系ポリマーA1に代えてアクリル系ポリマーA4を使用し、架橋剤として、イソシアネート化合物C2(商品名「タケネートD110N」、三井化学社製)を、アクリル系ポリマーA4 100部に対して固形分換算で0.50部使用した他は比較例1と同様にして、本例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。得られたアクリル系粘着剤溶液を使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、本例に係る補強用フィルムを作製した。
【0185】
<比較例5~6>
イソシアネート化合物C2の使用量を、表1に示すように、アクリル系ポリマーA4 100部に対して固形分換算で1.10部(比較例5)、2.50部(比較例6)に変更した他は比較例4と同様にして、各例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。これらのアクリル系粘着剤溶液をそれぞれ使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、各例に係る補強用フィルムを作製した。
【0186】
<比較例7>
アクリル系粘着剤溶液の調製において、アクリル系ポリマーA4、イソシアネート化合物C2に加えて、表1に示すように、アクリル系ポリマーA4 100部に対してポリマーBを2.0部添加した他は比較例4と同様にして、本例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。得られたアクリル系粘着剤溶液を使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、本例に係る補強用フィルムを作製した。
【0187】
<比較例8~9>
イソシアネート化合物C2の使用量を、表1に示すように、アクリル系ポリマーA4 100部に対して固形分換算で1.10部(比較例8)、2.50部(比較例9)に変更した他は比較例7と同様にして、各例に係るアクリル系粘着剤溶液を得た。これらのアクリル系粘着剤溶液をそれぞれ使用した他は実施例1に係る補強用フィルムの作製と同様にして、各例に係る補強用フィルムを作製した。
【0188】
<評価>
[表面弾性率]
各例に係る補強用フィルムにつき、50℃で1日間エージングを行い、表面弾性率の測定を実施した。粘着面を保護する剥離ライナーを剥離し、ナノインデンター装置(Hysitron Inc.製 Triboindenter)を用いて、粘着剤層表面に、押込み深さ6μmまで圧子を押し込み、上記ナノインデンターによる測定により最大荷重(Pmax)[GPa/mm]を得た。これを、式:
表面硬さ[GPa]=Pmax/A
に代入し、表面硬さを算出し、[kPa]単位に換算して、23℃での表面弾性率(23℃表面弾性率)として記録した。測定条件は下記のとおりである。なお、上式中、Aは圧子の接触投影面積[mm]である。
(測定条件)
圧子アプローチ速度:5μm/s
最大変位 :6μm
押込み速度 :5μm/s
引抜き速度 :5μm/s
使用圧子 :Conical(球形圧子:曲率半径10μm)
測定方法 :単一押込み測定
測定温度 :室温(23℃)
【0189】
[バルク弾性率G′およびtanδ]
片面にシリコーン処理を施した厚さ75μmのポリエステル樹脂からなる剥離ライナーR1(商品名「ダイアホイルMRF75」、三菱ケミカル社製)を用意し、そのシリコーン処理面に、各例に係るアクリル系粘着剤溶液を塗布し、130℃で1分間の条件で乾燥させることにより、厚さ25μmの粘着剤層を形成した。次いで、得られた粘着剤層の表面に、片面にシリコーン処理を施した厚さ75μmのポリエステル樹脂からなる剥離ライナーR2(商品名「ダイアホイルMRE75」、三菱ケミカル社製)を、そのシリコーン処理面が粘着剤層側になるようにして被覆し、50℃で1日間エージングを行った。
得られた粘着剤層のみを取り出し、積層して約1mmの厚みとし、これをφ8mmに打ち抜き、円柱状のペレットを作製して測定用サンプルとした。
上記測定サンプルをφ8mmパラレルプレートの治具に固定し、動的粘弾性測定装置(ティー・エー・インスツルメント社製「ARES」)により、以下の条件で貯蔵弾性率G′、損失弾性率G″および損失正接tanδを測定し、23℃での貯蔵弾性率G’23[kPa]、80℃での貯蔵弾性率G’80[kPa]および80℃でのtanδ(80℃での損失弾性率G″80/80℃での貯蔵弾性率G′80)を求めた。
・測定モード:せん断モード
・温度範囲 :-70℃~200℃
・昇温速度 :5℃/min
・周波数 :1Hz
なお、貯蔵弾性率G′は、材料が変形する際に弾性エネルギーとして貯蔵される部分に相当し、硬さの程度を表す指標である。損失弾性率G″は、材料が変形する際に内部摩擦等により散逸される損失エネルギー部分に相当し、粘性の程度を表す。
【0190】
[初期粘着力]
各例に係る補強用フィルムにつき、50℃で1日間エージングを行い、剥離ライナーごと幅25mm×長さ140mmにカットしたものを測定サンプルとした。上記測定サンプルから剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させ、被着体としてのステンレス鋼板(SUS304BA板)に2kgハンドローラーを1往復させて圧着した。このようにして被着体に圧着した測定サンプルを、23℃の環境温度下に30分間放置した後、引張り試験機(島津製作所社製、商品名「オートグラフAG-Xplus HS 6000mm/min高速モデル(AG-50NX plus)」)を使用して、剥離角度180度、剥離速度(引張速度)300mm/分の条件で、上記被着体から補強用フィルムを剥離した時の荷重を測定し、測定時の平均荷重を初期粘着力[gf/25mm]として記録した。
【0191】
[加熱後粘着力]
各例に係る補強用フィルムにつき、上記初期粘着力測定と同様にして、測定サンプルを用意し、被着体に圧着した。そして、上記被着体に圧着した測定サンプルを60℃の環境温度下で60分間加熱した。その後、23℃の環境温度下に30分間放置し、引張り試験機(島津製作所社製、商品名「オートグラフAG-Xplus HS 6000mm/min高速モデル(AG-50NX plus)」)を使用して、剥離角度180度、剥離速度(引張速度)300mm/分の条件で、上記被着体から補強用フィルムを剥離した時の荷重を測定し、測定時の平均荷重を加熱後粘着力[gf/25mm]として記録した。
【0192】
[屈曲保持試験]
各例に係る補強用フィルムにつき、50℃で1日間エージングを行った後、剥離ライナーを剥離し、露出した粘着面に、厚さ25μmのポリイミド基材(商品名「ユーピレックス25S」、宇部興産社製)を貼り合わせ、60℃で60分間加熱し、密着させた。次いで、得られた測定サンプル(積層体)を、25μm基材側を内側としてφ6mmとなるように折り曲げた状態で固定し、80℃で15時間の加熱を行った。そして、室温(23℃)に放置し、十分に冷めたことを確認してから、上記測定サンプルの折り曲げ状態の固定を解除し、固定解除から10分以内に、分度器を用いて、折り曲げられた上記測定サンプルの屈曲角度[°]を測定し、屈曲回復性を評価した。なお、屈曲角度は、測定サンプルの開き角度(折り曲げられた状態から測定サンプルが開く側の角度)であり、180°に近いほど優れた屈曲回復性を有し、屈曲角度が0°に近いほど屈曲回復性は劣る。
続けて、屈曲保持力の評価として、測定サンプルの屈曲部における「剥がれ」の有無を目視で確認し、「剥がれ」が認められなかった場合を「G(Good)」と評価し、「剥がれ」が認められた場合を「P(Poor)」と評価した。
【0193】
[気泡発生確認]
各例に係る補強用フィルムにつき、50℃で1日間エージングを行った後、10cm×10cmのサイズにカットし、剥離ライナーを剥離して、10cm角あたりの気泡発生量を目視で確認し、以下の基準で評価した。
E(Excellent):気泡発生は認められなかった。
G(Good):気泡発生は認められたが、気泡発生面積は10cm角当たり50%以下であった。
A(Acceptable):10cm角当たり50%以上の面積で気泡発生が認められた。ただし、実用上の問題はないレベルであった。
【0194】
各例に係る補強用フィルムに対する評価結果を表1に示す。表1には、各例に係る粘着剤層の組成の概略もあわせて示す。
【0195】
【表1】
【0196】
表1に示されるように、実施例1~20に係る粘着剤は、ポリマー(A)とポリマー(B)とを含むものであり、上記ポリマー(B)を含まない比較例1~6と比べて、初期粘着力が低く抑制されていた。また、実施例1~20に係る粘着剤は、加熱後粘着力が大きく上昇した。さらに、実施例1~20に係る補強用フィルムは、粘着剤層の23℃表面弾性率が1~20kPaの範囲内であり、屈曲回復性および屈曲保持力も良好であった。一方、上記23℃表面弾性率が1~20kPaの範囲外であった比較例4~9では、屈曲保持試験において剥がれが認められた。
【0197】
より具体的には、実施例1~5の対比から、粘着剤層の23℃表面弾性率が1~20kPaの範囲で高いほど、屈曲回復性は改善する傾向が認められ、初期粘着力および加熱後粘着力は低くなる傾向であった。実施例2~5は、実施例1よりも屈曲回復性に優れており、23℃表面弾性率は2kPa以上であり、80℃でのtanδ80が0.10~0.60の範囲内であった。また、実施例5では、表面弾性率、バルク弾性率ともに高い値となり、加熱後粘着力上昇が実施例1~4と比べて相対的に低い結果となり、また上記他の実施例と比較して粘着剤層表面の気泡発生量が多くなる傾向であった。初期粘着力、加熱後粘着力、屈曲回復性および屈曲保持力がよりバランスよく改善された実施例2~4の粘着剤層におけるイソシアネート基と水酸基とのモル比([NCO]/[OH])は0.002~0.03の範囲内であった。また、実施例1~4において、粘着剤層の23℃バルク弾性率G′23の差は認められなかった。また、実施例2~3について、80℃バルク弾性率G′80に差は認められなかった。実施例1~5に関して、23℃表面弾性率は、バルク弾性率よりも屈曲回復性と高い相関関係であった。
【0198】
また、実施例6~9の対比から、ポリマー(B)の使用量が増加するほど、粘着力が低下する傾向が確認された。ポリマー(B)の使用量が、ポリマー(A)100部に対して0.5~5部の範囲内であった実施例7~8では、初期粘着力が500gf/25mm未満、かつ加熱後粘着力が500gf/25mm以上であり、貼り付け初期の軽剥離性と加熱後粘着力上昇をよりよく両立した。また、ポリマー(B)の使用量が多くなると、23℃表面弾性率が高くなり、屈曲回復性が低下する傾向であった。また、実施例10~13の結果から、粘着剤のポリマー(A)の種類や架橋剤種を変更しても、所望の効果が達成されることが確認された。実施例10~11は、実施例12~13と比較して加熱後の粘着力上昇量が大きかった。
【0199】
さらに、実施例14~20では、触媒を使用することにより、気泡の発生を防止することができた。なかでも、鉄系触媒の使用量が、粘着剤層に含まれる触媒と水酸基とのモル比([触媒]/[OH])が4.6E-5(4.6×10-5)~9.2E-4(9.2×10-4)となる量であった実施例14~17,19~20は、初期の低粘着力に対して加熱後粘着力がよく上昇した。特に、実施例19は、初期粘着力、加熱後粘着力、屈曲回復性、屈曲保持力および気泡発生防止を最もバランスよく改善した。
【0200】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0201】
1,2,3 補強用フィルム
10 支持基材
10A 第一面
10B 第二面
21 粘着剤層(第一粘着剤層)
21A 粘着面(第一粘着面)
21B 粘着面(第二粘着面)
22 粘着剤層(第二粘着剤層)
22A 粘着面(第二粘着面)
31,32 剥離ライナー
100,200,300 剥離ライナー付き補強用フィルム
図1
図2
図3