(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】微細線状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 1/12 20060101AFI20250306BHJP
C25C 1/06 20060101ALI20250306BHJP
C25C 1/08 20060101ALI20250306BHJP
C25C 1/14 20060101ALI20250306BHJP
C25C 1/16 20060101ALI20250306BHJP
C25C 1/18 20060101ALI20250306BHJP
C25C 1/20 20060101ALI20250306BHJP
C25C 1/22 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C25C1/12
C25C1/06
C25C1/08
C25C1/14
C25C1/16 A
C25C1/18
C25C1/20
C25C1/22
(21)【出願番号】P 2021032336
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2020035476
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薦田 康夫
(72)【発明者】
【氏名】柴田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】小澤 行弘
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/094361(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/151858(WO,A1)
【文献】特開2019-216524(JP,A)
【文献】特開2015-168867(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114540881(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104131317(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00
C25D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太さが30nm以上10μm以下、長さが0.3μm以上300μm以下、長さ/太さで定義されるアスペクト比が5以上2500以下であり、非分岐構造又は一の枝分かれ部を有し、金属を母材とする微細線状体の製造方法であって、
金属元素源を含む電解液を用い、電解還元によってカソードに金属を析出させる工程を有し、
前記カソードの表面に油性物質を存在させた状態下に電解還元を行い、
前記油性物質が炭素数10以上25以下の高級脂肪酸又はその塩を含む、微細線状体の製造方法。
【請求項2】
前記油性物質が水1Lに対し、100g以下の溶解量を示す、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記カソードの表面に存在させる前記油性物質の量が前記カソードの単位表面積当たり5g/m
2
以上100g/m
2
以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属元素が銅、亜鉛、スズ、鉄、ニッケル、コバルト、鉛、ビスマス、銀、金又は白金である、請求項
1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記カソードの表面に前記油性物質を存在させる方法が、
前記カソードの表面に前記油性物質を直接塗布する方法、
前記油性物質が入った容器の中に前記カソードを浸漬し付着させる方法、
前記電解液の上に前記油性物質を浮かせて上方から前記カソードを浸漬して前記油性物質を前記カソード表面に付着させる方法、又は
前記電解液中に前記油性物質を懸濁させ、その懸濁した電解液を撹拌することで、懸濁した前記油性物質を前記カソードの表面に付着させる方法、である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を母材とする微細線状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるナノワイヤーは、その微小なサイズや高いアスペクト比等により、従来の材料にない物理的、化学的性質(例えば、電気伝導性、熱伝導性、発光特性、触媒活性等)を発現することが期待される。このようなナノワイヤーに関する従来の技術として出願人は先に特許文献1に記載の超微細金属線状体を提案した。
【0003】
特許文献1においては、金属のイオンを含む非水電解液中で、該金属のイオンを電解還元して超微細金属線状体を製造している。金属のイオンは、非水電解液中で安定な錯体の状態で、該非水電解液中に存在している。具体的には、前記錯体と反対の電荷を有する対イオンで該錯体を水相中で電気的に中和して形成された電荷中和体を、水相から非水電解液中に連続的に抽出し、該非水電解液中に抽出された電荷中和体中の金属のイオンを電解還元している。電解還元においてはカソードとして線材を用い、該線材の先端部をアノードに対向させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法によれば非常に細くて長い超微細金属線状体の製造が可能である。しかし、この方法は水相及び非水電解液相の2つの相を用いることから製造が煩雑であり、工業的な生産性の点からは改良の余地があるものであった。
したがって本発明の課題は、生産性よく金属の微細線状体を製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属元素源を含む電解液を用い、電解還元によってカソードに金属を析出させる工程を有する、金属を母材とする微細線状体の製造方法であって、
前記カソードの表面に油性物質を存在させた状態下に電解還元を行う、微細線状体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、生産性よく金属の微細線状体を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた微細線状体の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は微細線状体の製造方法に係るものである。以下の説明において「微細線状体」という場合には、文脈に応じ、一つひとつの線状体を指す場合と、複数の線状体の集合体を指す場合とがある。本発明の製造方法(以下「本製造方法」ともいう。)に従い製造される微細線状体は、典型的には一方向に延びた線状体である。線状体が一方向に延びる状態は、該線状体の観察時の状態によって様々である。例えば、線状体は、直線状に延びているか、又は曲線状に蛇行しながら一方向に延びている。この線状体は、非常に細いにもかかわらず、その長さが長いことによって特徴づけられるものである。
【0010】
本発明においては微細線状体の製造に好適には電解法が用いられる。この理由は、電解法は電解液を繰り返し利用することができ、微細線状体を製造するにあたり必要となる液体が少なくて済み、同時に処理すべき廃液量を減少させることができるからである。金属粉の他の製造方法としてアトマイズ法があるが、微細線状体のような異方性のある形状のものを製造することはできない。また他の方法として湿式還元法があるが、同法では溶液を繰り返して使用することができず、また目的とする金属元素の濃度をある一定以上に高くすることが不可能であり、生産性よく微細線状体を製造できない。
【0011】
電解法によって微細線状体を製造する場合には、例えば金属元素源を含む硫酸酸性の電解液にアノードとカソードとを浸漬し、これに直流電流を流して電解還元を行い、カソードの表面に微細線状体を析出させ、析出した微細線状体を機械的又は電気的方法によって掻き落として回収し、回収した微細線状体を水で洗浄し、乾燥し、必要に応じて篩別する工程を例示できる。
【0012】
本製造方法で用いる金属元素としては、本製造方法によって微細線状体の製造が可能である限り、その種類に特に制限はない。導電性の高さと、工業的な利用のしやすさとのバンランスを考慮すると、銅、亜鉛、スズ、鉄、ニッケル、コバルト、鉛、ビスマス、銀、金又は白金が挙げられる。これらの金属元素は、水溶液から電解析出できる点で共通するため、どの金属元素を用いたとしても本製造方法に沿って同様に製造することができる。これらの中でも特に銅又は亜鉛を母材とすることが好ましい。なお、「銅又は亜鉛を母材とする」とは、微細線状体に占める銅又は亜鉛の割合が70質量%以上、好ましくは90質量%以上であることをいう。
本製造方法で得られる微細線状体は、例えば不可避不純物を除き、目的とする金属元素のみから構成されていてもよく、あるいは、不可避不純物を除き、目的とする金属元素の合金から構成されていてもよい。更には、不可避不純物を除き、上述した金属元素を2種以上組み合わせた構成としてもよい。
【0013】
上述の手順で微細線状体を製造するときには、カソードの表面に油性物質を付着させた状態下に電解還元を行うことが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。このような状態で金属元素のイオンを還元させることで、還元反応を制御できるという利点がある。詳細には次に述べるとおりである。
カソード表面に付着させる油性物質はその量を厚みで表すと、平均で数百nm以上、好ましくは数μmから数百μm程度となる。ただし、電解液の揺動等によりその厚みは局所的に変動している。油性物質にはほとんど金属イオンは共存しないが、油性物質に金属イオンを含む電解液が液滴で浮遊したり、又は電気を印加して形成される電場の力によって電解液の極少量が電極近傍まで断続的に吸い寄せられたりする。そういった状況下、カソードの表面で金属の還元反応が起こり、局所的に析出した金属の突起物が生じる。この突起物の直上は他の部分に比べて油性物質の厚みが薄くなるので、その部分での電気抵抗が下がり、そこに電流が集中するようになり更にその突起が線状となり成長する。こうして金属の微細線状体が電解で形成される。
【0014】
上述したカソードの表面に油性物質を付着させる方法としては、例えばカソードの表面に油性物質を直接塗布する方法、油性物質が入った容器の中にカソードを浸漬し付着させる方法、電解液の上に油性物質を浮かせて上方からカソードを浸漬して油性物質をカソード表面に付着させる方法等が挙げられる。更に、電解液中に油性物質を懸濁させ、その懸濁した電解液を撹拌することで、懸濁した油性物質がカソードの表面にあたり、そのままカソードの表面に付着するといった方法も挙げられる。また、油性物質が電解液に少量溶解する性質があれば、懸濁した油性物質が直接電極に触れなくとも、電解液に一度溶解した油性物質が電極表面に連続的に吸着して結果的に表面に付着するのと同じ効果を示す。
【0015】
カソードの表面に付着させる油性物質としては、水に対して難溶性ないし不溶性である上に、カソードの表面に付着されたのち、該表面に保持され得る程度の粘度を有する各種の有機化合物が挙げられる。なお、「水に対して難溶性ないし不溶性」とは、微細線状体を製造するときの温度において、水1Lに対し、100g以下の溶解量を示すことをいう。
油性物質としては液状又は固体状のものが挙げられる。油性物質に関しては、室温(20~30℃)で液状の溶媒に溶解して用いてもよい。
なお、析出する微細線状体の物性を制御しやすくする目的で、前記油性物質に、安息香酸、フマル酸、クエン酸、ベンゾトリアゾール類等の添加剤を更に用いてもよい。
【0016】
前記の有機化合物としては、水に対して難溶性ないし不溶性であることを条件として、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、脂肪族エーテル、芳香族エーテル、脂肪族ケトン、芳香族ケトン、脂肪族カルボン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、脂肪族カルボン酸のアミド、芳香族カルボン酸のアミド、脂肪族カルボン酸のエステル、芳香族カルボン酸のエステル、シリコーン(例えばジメチルシリコーン)、脂肪族アミン、芳香族アミン、含窒素複素環式化合物、リン酸トリブチル、チオール、フッ素系溶剤、イオン液体などが挙げられる。なお、本明細書でいう「脂肪族アルコール」とは、炭素原子数が5以上のアルコールのことである。
本発明者の検討の結果、油性物質として特に脂肪酸又はその塩、そのエステル若しくはそのアミド、芳香族カルボン酸、脂肪族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、シリコーン(例えばジメチルシリコーン)、又はこれらの混合物を用いると一層首尾よく微細線状体を製造できることが判明した。
【0017】
前記の脂肪酸としては、低級脂肪酸と高級脂肪酸が挙げられる。低級脂肪酸としては、炭素原子数が好ましくは9以下である飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸が挙げられる。高級脂肪酸としては、炭素原子数が好ましくは10以上25以下、更に好ましくは10以上22以下、一層好ましくは11以上20以下である飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸が挙げられる。
飽和脂肪族カルボン酸としては、例えばカプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸などが挙げられる。
【0018】
不飽和脂肪族カルボン酸としては、分子中に不飽和炭素結合を1個又は2個以上有するものが挙げられる。
分子中に不飽和炭素結合を1個有する不飽和脂肪族カルボン酸としては、例えばクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸などが挙げられる。
分子中に不飽和炭素結合を2個以上有する不飽和脂肪族カルボン酸としては、例えばリノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸、リノレン酸などが挙げられる。
【0019】
芳香族カルボン酸としては、例えば安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリト酸、メリト酸、ジフェン酸、トルイル酸、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ-イソジュリル酸 ジュリル酸、β-イソジュリル酸、メシト酸、α-イソジュリル酸、クミン酸、ウビト酸、α-トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、ケイ皮酸、サリチル酸、アニス酸、クレソチン酸、o-ホモサリチル酸、o-クレソチン酸、m-ホモサリチル酸、m-クレソチン酸、p-ホモサリチル酸、p-クレソチン酸、o-ピロカテク酸、β-レソルシル酸、ゲンチジン酸、γ-レソルシル酸、プロトカテク酸、α-レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム、o-ベラトルム酸 、オルセリン酸 、m-ヘミピン酸、没食子酸、シリング酸、アサロン酸、マンデル酸、バニルマンデル酸、ホモアニス酸、ホモゲンチジン酸、ホモプロトカテク酸、ホモバニリン酸、ホモイソバニリン酸、ホモベラトルム酸、o-ホモベラトルム酸、ホモフタル酸、ホモイソフタル酸、ホモテレフタル酸、フタロン酸、イソフタロン酸、テレフタロン酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、トロパ酸、メリロト酸、フロレト酸、ヒドロカフェー酸、ヒドロフェルラ酸、ヒドロイソフェルラ酸、p-クマル酸、ウンベル酸、カフェー酸、フェルラ酸、イソフェルラ酸、シナピン酸、ベンゾイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイル、トルオイル、キシロイル、クモイル、α-トルオイル、ヒドロアトロポイル、アトロポイル、ヒドロシンナモイル、シンナモイル、サリチロイル、アニソイル、クレソトイル、o-ピロカテクオイル、β-レソルシロイル、ゲンチソイル、γ-レソルシロイル、プロトカテクオイル、α-レソルシロイル、バニロイル、イソバニロイル、o-ベラトロイル、ベラトロイル、ガロイル、シリンゴイル、マンデロイル、バニルマンデロイル、ホモゲンチソイル、ホモバニロイル、ホモベラトロイル、ベンジロイル、トロポイル、カフェオイル、フェルロイル、過安息香酸、イブプロフェン、ケトプロフェン、フェルビナクが挙げられる。
【0020】
前記の脂肪酸のうち、飽和脂肪族カルボン酸や不飽和脂肪族カルボン酸を用いると、一層首尾よく微細線状体を製造できるので好ましい。
【0021】
前記の脂肪酸のエステルは、飽和脂肪族アルコール又は不飽和脂肪族アルコールとのエステルであることが好ましい。このアルコールの炭素数は1以上18以下であることが好ましい。前記の脂肪酸のエステルは、炭素数1以上18以下の飽和脂肪族アルコールとのエステルであることが一層好ましい。このようなものとして、例えば酢酸エチルが挙げられる。
【0022】
カソードの表面に付着させる油性物質の量は、カソードの単位表面積当たり0.1g/m2以上500g/m2以下とすることが好ましく、1g/m2以上500g/m2以下とすることがより好ましく、3g/m2以上200g/m2以下とすることが更に好ましく、5g/m2以上100g/m2以下とすることが一層好ましい。
【0023】
アノード及びカソードの材質としては、これまで知られているものを特に制限なく用いることができる。例えばチタンや銅からなるアノード及びカソードを用いることができる。アノードに関しては不溶性金属電極(DSE)を用いることもできる。
このことに関連して、還元時の電流密度は、5A/m2以上3000A/m2以下とすることが好ましく、10A/m2以上1000A/m2以下とすることが更に好ましく、50A/m2以上500A/m2以下とすることが一層好ましい。
【0024】
通常、電気分解による金属の析出では、電解液からの金属イオンの供給速度よりも遅い還元速度に相当する電気量を通電することで良好な表面形状を得ることができる(例えば、めっきであれば表面に金属光沢が得られる状態)。本発明における電解においても同様に電解液における金属元素のイオンの濃度が、金属イオンの還元の反応速度に過不足なく金属イオンを供給できる濃度であることが好ましく、その観点から、金属イオンの濃度は1g/L以上80g/L以下であることが好ましく、3g/L以上60g/L以下であることが好ましい。
同様の観点から、電解時には電解液を電解槽内で撹拌又は循環させることが好ましい。
電解液は、室温(25℃)等の非加熱状態で用いてもよく、あるいは加熱状態で用いてもよい。
更に同様の観点から、電解槽の大きさ、電極の枚数、電極の形状(板状、ドラム状)、電極間距離、及び電解液の循環量を調整し、電極付近の電解液の金属イオン濃度が常に高い状態を維持しておくように調整することが好ましい。
【0025】
このようにして製造された微細線状体は、その太さが好ましくは30nm以上10μm以下、より好ましくは30nm以上1000nm以下、更に好ましくは40nm以上500nm以下、一層好ましくは45nm以上300nm以下という非常に細いものである。このように非常に細いにもかかわらず、微細線状体は、その長さが好ましくは0.3μm以上300μm以下、より好ましくは0.5μm以上100μm以下、更に好ましくは2μm以上70μm以下、一層好ましくは2μm以上50μm以下という長いものである。このような太さや長さを兼ね備えることにより、微細線状体の取扱い性に優れるものとなり、例えば接合材料として用いる際の充填性に優れたものとすることができる。
また、アスペクト比(微細線状体の長さ[m]/微細線状体の太さ[m])が好ましくは5以上2500以下、より好ましくは10以上2500以下、更に好ましくは40以上2500以下、一層好ましくは40以上1500以下である。
前記微細線状体の太さは、電子顕微鏡による観察によって測定される。その長さは、電子顕微鏡写真をパノラマ的につなげることによって測定される。
【0026】
本製造方法によって得られた微細線状体は、太さがその全長にわたりほぼ一様である形態や、太さが一様ではなく数珠状である形態をとり得る。本製造方法によって得られた微細線状体は、その少なくとも一方の端部が先細形状になっている。「先細形状」とは、微細線状体の端部域を観察した場合、先端に向かうに連れて太さが漸減する形状のことである。
【0027】
本製造方法によって得られた微細線状体の形状は、典型的には一方向に延びた線状体であるところ、この微細線状体は、一方向に延びる主鎖部と該主鎖部の途中から枝分かれした枝分かれ構造を有していてもよく、あるいは有していなくてもよい。少ない量で対象物に十分な導電性を付与する観点、及び導電性を付与した該対象物を伸縮させたり屈曲させたりしたときに、該対象物の導電性を低下させづらくする観点からは、微細線状体は主鎖部のみを有する非分岐構造であることが好ましい。一方、微細線状体の集合体が嵩高い構造を呈する観点からは、微細線状体は、一又は二以上の枝分かれ部を有していることが好ましい。微細線状体が枝分かれ部を有している場合、枝分かれの前後の部位における太さは実質的に同一であることが線状体の集合体が綿状の嵩高い構造を一層呈しやすくなる観点から好ましい。
【0028】
本製造方法によって得られた微細線状体が、複数の微細線状体を含む集合体である場合、該集合体中に線状体以外の形状を有する粒子が含まれていることは妨げられない。尤も、屈曲や伸縮などの変形を受けても導電性を低下しづらくする観点からは、線状体以外の形状を有する粒子は前記集合体中にできる限り存在しないことが好ましい。
前記集合体における線状体以外の形状を有する粒子の割合を「異形率」と定義したとき、該異形率は50%以下であることが好ましく、30%以下であることが更に好ましく、20%以下であることが一層好ましい。本製造方法によって微細線状体を製造すれば異形率を容易に50%以下とすることが可能である。
異形率は、測定対象試料を走査型電子顕微鏡(以下「SEM」という。)で観察し、5000倍の視野において、〔異形状のものの面積/微細線状体の面積〕の百分率を算出することで求められる。「異形状」とは線状体以外の形状(例えば球状、塊状、シダ状葉等)のことをいう。
【0029】
本製造方法によって得られた微細線状体は、第1の金属元素又は該金属元素の合金からなる本体部と、該本体部の表面に配置された第1の金属元素以外の第2の金属元素の被覆層とを有する構造を有していてもよい。
第1の金属元素としては、例えば上述のとおり銅、亜鉛、スズ、鉄、ニッケル、コバルト、鉛、ビスマス、銀、金及び白金が挙げられる。第2の金属元素としては、第1の金属元素と異なることを条件として、例えば銀、コバルト、鉄、ニッケル、亜鉛、鉛、スズ、白金、金、パラジウム等及びこれらの金属を一種又は二種以上含む合金(例えば、ニッケル合金、鉄合金等)が挙げられる。特に第2の金属元素は、本体部を構成する第1の金属元素又は該金属元素の合金よりも導電性の高いものであることが、対象物へ付与する導電性を一層高くし得る観点から好ましい。この観点から、第1の金属元素が銅又は亜鉛である場合、第2の金属元素は銀であることが好ましい。
【0030】
本体部の表面に被覆層を形成する方法としては、例えば上述の方法で本体部を形成した後に、置換めっき法や無電解めっきを可能とする触媒を微細線状体上へ塗布した後に、目的とする金属をめっきする方法、又は乾式法による形成も可能である。
【0031】
本製造方法によって得られた微細線状体は、これを他の物質と複合化させて当該物質に導電性を付与することができる。例えば、本製造方法によって得られた微細線状体を他の金属元素と組み合わせて接合材料とすることができ、当該接合材料を焼結させた焼結体とすることもできる。これら接合材料及び焼結体は例えば半導体チップと基板とを接合する材料として用いられる。
また、本製造方法によって得られた微細線状体を樹脂に含有させて、該微細線状体及び該樹脂を含む樹脂組成物を得ることができる。この樹脂組成物は、微細線状体を含むことで導電性を発現する。
樹脂に導電性を付与するには、例えば微細線状体を樹脂中に分散させればよい。別法として、樹脂を含む基材の表面に、微細線状体を含む層を形成してもよい。いずれの態様であっても、樹脂組成物は様々な形状に成形することができる。例えば繊維状などの一次元形状、フィルム状、板状及び帯状などの二次元形状、及び各種立体形状に成形することができる。いずれの形状であっても、樹脂組成物は比較的少量の微細線状体の添加で十分な導電性を発現する。樹脂組成物は、その導電性が、樹脂組成物を伸縮させた前後や、屈曲させた前後での低下が低い点で、従来の銅粉をフィラーとする導電性樹脂組成物と異なるものである。この観点から、樹脂組成物を、伸縮可能であるか又は屈曲可能とした場合に、本発明の微細線状体の特性が有効に発揮される。従来の導電性樹脂組成物は、これを伸縮させたり屈曲させたりすると、導電性が低下しやすいものであった。
【0032】
本製造方法によって得られた微細線状体及び樹脂を含む樹脂組成物は、導電性が要求され且つ外力によって変形が生じる用途、例えば生体電極等のウエアラブルデバイス、フレキシブルディスプレイなどに好適に使用される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0034】
〔実施例1〕
本実施例では銅からなる微細線状体を製造した。
硫酸銅と硫酸から、銅イオンの濃度が4g/L、フリーの硫酸の濃度が5g/Lとなるように電解液を調製し、その800mLを10cm×8cm×12cmの大きさ(容量約1000mL)の電解槽内に入れて撹拌した。電解液の液温度は40℃とした。
カソードとして、8cm×8cmの銅板を用いた。カソードの表面に、オレイン酸を均一に塗布した。塗布量は7g/m
2とした。アノードとして、8cm×8cmの銅板を用いた。カソードとアノードとの間隔が8cmとなるように両極を電解槽に吊設した。
電流密度を160A/m
2に調整して30分電解を実施した。このようにして、カソードの表面に銅を電析させた。
カソードの表面に電析した銅を回収し、回収した銅をエタノールで洗浄した。得られた電析物を、SEMを用いて観察したところ、微細線状体が確認された。異形率は1%であった。線状体の太さは50nmであり、長さは2.6μmであり、その各端部は先細形状をしていた。微細線状体の太さは20000倍のSEM像より10本の太さを読み取り算術平均して得た。長さは10000倍のSEM像より20本の長さを読み取り算術平均して得た。
微細線状体の生産性は、1Lの電解液量に対して1時間当たり約1.5gであった。また、実施例1で得られた微細線状体のSEM像を
図1に示す。
【0035】
〔実施例2〕
本実施例では亜鉛からなる微細線状体を製造した。
硫酸亜鉛と硫酸から、亜鉛イオンの濃度が50g/L、フリーの硫酸の濃度が25g/Lとなるように電解液を調製し、その800mLを10cm×8cm×12cmの大きさ(容量約1000mL)の電解槽内に入れて撹拌した。電解液の液温度は40℃とした。
カソードとして、実施例1と同様の8cm×8cmの銅板を用いた。カソードの表面に、オレイン酸を均一に塗布した。塗布量は20g/m2とした。アノードとして、8cm×8cmの不溶性金属電極(DSE デノラ・ペルメレック社製)を用いた。カソードとアノードとの間隔が8cmとなるように両極を電解槽に吊設した。
電流密度を160A/m2に調整して30分電解を実施した。このようにして、カソードの表面に亜鉛を電析させた。
カソードの表面に電析した亜鉛を回収し、回収した亜鉛をアセトンで洗浄した。得られた電析物を、SEMを用いて観察したところ、微細線状体が確認された。異形率は20%であった。線状体の太さは5μmであり、長さは50μmであり、その各端部は先細形状をしていた。
微細線状体の生産性は、1Lの電解液量に対して1時間当たり約1.5gであった。
【0036】
〔比較例1〕
本比較例は、特許文献1の実施例1に対応するものである。
ビーカー中に、酸化銅(I)0.72g、64%硫酸7.5ml、アセトニトリル8.6ml、塩化ナトリウム1g及び純水を投入し十分に撹拌して、銅(I)アセトニトリル錯体〔MmLx〕と塩化物イオン〔Yn〕とからなる電荷中和体〔MmLx〕s〔Yn〕tを含む90mlの水相を得た。水相の液温は25℃であった。
前記水相とは別に、ビーカー中に、非水電解液としてMIBK90ml及び支持塩としてTBAP0.05gを投入し十分に撹拌して低導電性の非水電解液からなる有機相を得た。
ビーカーに、カソードとして白金電極、アノードとして銅電極、及び撹拌子をセットした。なお、アノードは絶縁性のスリーブを通してセットした。このビーカー中に、前記水相及び前記有機相を同体積で投入し、撹拌子で穏やかに撹拌しながら定電位電解により電解還元を行った。電解還元は、非水溶媒系参照電極(Ag/Ag+)に対して-1.5Vの電位で行った。電解還元により生成した複数本の線状体を、ゆっくりと有機相中から引き上げ乾燥することにより、それらが一方向に引きそろえられた集合体を得た。得られた集合体から線状体の一部を取り出し、SEMによって観察したところ、微細線状体が確認された。線状体の太さは50nmであり、長さは5cmであった。
微細線状体の生産性は、1Lの電解液量に対して1時間当たり約0.02gであった。