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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】減衰力調整式緩衝器及びソレノイド
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/46 20060101AFI20250306BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
F16F9/46
F16K31/06 385C
F16K31/06 305Z
F16K31/06 305G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021174666
(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公開番号】P2023064403
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2024-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】門司 健人
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-211062(JP,A)
【文献】特開2021-021437(JP,A)
【文献】特開2002-228037(JP,A)
【文献】特開2015-161408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0001217(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0219109(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0100488(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00- 9/58
F16K 31/06- 31/11
F16B 4/00
F16B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されるシリンダと、
前記シリンダ内に嵌装され、前記シリンダ内を2室に区画するピストンと、
一端部が前記ピストンに連結され、他側部が前記シリンダの開口から外部へ突出されるピストンロッドと、
前記ピストンロッドの伸縮に伴い作動流体の流れが生じる流路と、
前記流路に設けられ、ソレノイドが発生する推力により開弁圧が調整される減衰力調整機構と、を備える減衰力調整式緩衝器であって、
前記ソレノイドは、
通電により磁力を発生するコイルと、
前記コイルの内周側に配される有底筒状のキャップ部材と、
前記キャップ部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能な可動鉄心と、
前記可動鉄心と軸方向に対向して配され、前記可動鉄心を吸引する固定鉄心と、
前記キャップ部材の底部に嵌合される有底筒状のブッシュ支持部材と、
前記ブッシュ支持部材及び前記固定鉄心の内周側に配される一対のブッシュと、
前記一対のブッシュにより軸方向へ移動可能に支持される作動ロッドと、を備え、
前記作動ロッドの前記固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整機構の弁体が設けられ、
前記キャップ部材は、前記固定鉄心の、前記可動鉄心と対向する側の端部が嵌合される大内径部と、前記ブッシュ支持部材が圧入される小内径部と、を有し、
前記ブッシュ支持部材は、前記弁体側に形成される大外径部と、前記キャップ部材の底面側に形成される小外径部と、前記大外径部と前記小外径部とを接続するテーパ部と、を有し、
前記小外径部は、前記キャップ部材の底部側に形成された面取り部を有することを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項2】
請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器であって、
前記ブッシュ支持部材は、前記弁体側が開口し、前記ブッシュが圧入されるブッシュ圧入部と、前記圧入部の底部に開口し、前記作動ロッドが突出する凹部と、を有することを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の減衰力調整式緩衝器であって、
前記ブッシュ支持部材の前記大外径部と前記小外径部との間には、テーパ部が形成されることを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項4】
通電により磁力を発生するコイルと、
前記コイルの内周側に配される有底筒状のキャップ部材と、
前記キャップ部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能な可動鉄心と、
前記可動鉄心と軸方向に対向して配され、前記可動鉄心を吸引する固定鉄心と、
前記キャップ部材の底部に嵌合される有底筒状のブッシュ支持部材と、
前記ブッシュ支持部材及び前記固定鉄心の内周側に配される一対のブッシュと、
前記一対のブッシュにより軸方向へ移動可能に支持される作動ロッドと、を備え、
前記キャップ部材は、前記固定鉄心の、前記可動鉄心と対向する側の端部が嵌合される大内径部と、前記ブッシュ支持部材が圧入される小内径部と、を有し、
前記ブッシュ支持部材は、前記固定鉄心側に形成される大外径部と、前記キャップ部材の底面側に形成される小外径部と、前記大外径部と前記小外径部とを接続するテーパ部と、を有し、
前記小外径部は、前記キャップ部材の底部側に形成された面取り部を有することを特徴とするソレノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッドのストロークにより生じる作動流体の流れを制御して減衰力を調整する減衰力調整式緩衝器、及び減衰力調整式緩衝器における減衰弁の開弁圧力を調整するソレノイドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、可動鉄心38が一体的に固定された軸部43が、一対のブッシュ44,45により軸方向へ移動可能に支持されたソレノイド33、及びソレノイド33を備えた制御弁横付型の減衰力調整式緩衝器が記載されている。このソレノイド33は、軸部43の他端側を支持するブッシュ45が、背圧室形成部材46の内周側に形成されたブッシュ嵌合穴46Cに嵌合される。また、背圧室形成部材46は、ハット形状のキャップ部材48の小径部48Cに圧入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-211062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたソレノイドは、製造工程において、キャップ部材48の小径部48Cに背圧室形成部材46を圧入させる。このとき、背圧室形成部材46がキャップ部材48の軸線に対して傾いた場合、背圧室形成部材46のキャップ部材48に対する圧入深さが浅くなる。
【0005】
この場合、フェイルセーフ時における軸部43の軸方向への移動は、可動鉄心38が背圧室形成部材46に突き当たることで規制されることから、フェイルセーフ時における軸部43の移動が、弁体32のフランジ部32Aがディスクバルブ29(フェイルセーフディスク)に着座する手前で阻止される。その結果、弁体32とディスクバルブ29との隙間を介して作動流体が流通し、フェイルセーフ時における減衰力が低下する。
【0006】
本発明は、フェイルセーフ時における減衰力の低下を抑止した減衰力調整式緩衝器及び該減衰力調整式緩衝器に用いられるソレノイドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の減衰力調整式緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に嵌装され、前記シリンダ内を2室に区画するピストンと、一端部が前記ピストンに連結され、他側部が前記シリンダの開口から外部へ突出されるピストンロッドと、前記ピストンロッドの伸縮に伴い作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられ、ソレノイドが発生する推力により開弁圧が調整される減衰力調整機構と、を備える減衰力調整式緩衝器であって、前記ソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に配される有底筒状のキャップ部材と、前記キャップ部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能な可動鉄心と、前記可動鉄心と軸方向に対向して配され、前記可動鉄心を吸引する固定鉄心と、前記キャップ部材の底部に嵌合される有底筒状のブッシュ支持部材と、前記ブッシュ支持部材及び前記固定鉄心の内周側に配される一対のブッシュと、前記一対のブッシュにより軸方向へ移動可能に支持される作動ロッドと、を備え、前記作動ロッドの前記固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整機構の弁体が設けられ、前記キャップ部材は、前記固定鉄心の、前記可動鉄心と対向する側の端部が嵌合される大内径部と、前記ブッシュ支持部材が圧入される小内径部と、を有し、前記ブッシュ支持部材は、前記弁体側に形成される大外径部と、前記キャップ部材の底面側に形成される小外径部と、前記大外径部と前記小外径部とを接続するテーパ部と、を有し、前記小外径部は、前記キャップ部材の底部側に形成された面取り部を有することを特徴とする。
本発明のソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に配される有底筒状のキャップ部材と、前記キャップ部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能な可動鉄心と、前記可動鉄心と軸方向に対向して配され、前記可動鉄心を吸引する固定鉄心と、前記キャップ部材の底部に嵌合される有底筒状のブッシュ支持部材と、前記ブッシュ支持部材及び前記固定鉄心の内周側に配される一対のブッシュと、前記一対のブッシュにより軸方向へ移動可能に支持される作動ロッドと、を備え、前記キャップ部材は、前記固定鉄心の、前記可動鉄心と対向する側の端部が嵌合される大内径部と、前記ブッシュ支持部材が圧入される小内径部と、を有し、前記ブッシュ支持部材は、前記固定鉄心側に形成される大外径部と、前記キャップ部材の底面側に形成される小外径部と、前記大外径部と前記小外径部とを接続するテーパ部と、を有し、前記小外径部は、前記キャップ部材の底部側に形成された面取り部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る減衰力調整式緩衝器及びソレノイドによれば、フェイルセーフ時における減衰力の低下を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る減衰力調整式緩衝器の断面図である。
図2図1における減衰力調整機構の拡大図である。
図3図2におけるフェイルセーフバルブの拡大図である。
図4図2におけるキャップ部材単体の断面図である。
図5図2におけるブッシュ支持部材単体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を添付した図を参照して説明する。
図1は、減衰力調整機構31がアウタチューブ3の側部に横付けされた、所謂、制御弁横付型の減衰力調整式油圧緩衝器1(以下「減衰力調整式緩衝器1」と称する)の断面図である。便宜上、図1における上下方向を「上下方向」と称する。
【0011】
減衰力調整式緩衝器1は、アウタチューブ3の内側にシリンダ2が設けられた複筒構造をなし、シリンダ2とアウタチューブ3との間にはリザーバ4が形成される。シリンダ2内には、シリンダ2内をシリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bとの2室に区画するピストン5が摺動可能に嵌装される。減衰力調整式緩衝器1は、下端部(一端部)がピストン5に連結され、上端部(他端部)がシリンダ上室2Aを通過してアウタチューブ3の開口から外部へ突出されたピストンロッド6を備える。ピストンロッド6は、シリンダ2の上端部に嵌着されたロッドガイド7に挿通される。シリンダ上室2Aと外部とは、ワッシャ8に取り付けられたオイルシール9によりシールされる。なお、アウタチューブ3の外周側には、スプリングシート85が設けられる。
【0012】
ピストン5には、シリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bとを連通する伸び側通路11及び縮み側通路12が設けられる。伸び側通路11には、シリンダ上室2A側の圧力が設定圧力に達したときに開弁してシリンダ上室2A側の圧力をシリンダ下室2B側へ逃がすディスクバルブ13(リリーフ弁)が設けられる。縮み側通路12には、シリンダ下室2Bからシリンダ上室2Aへの作動流体の流通を許容するディスクバルブ14(逆止弁)が設けられる。
【0013】
シリンダ2の下端部には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを区画するベースバルブ10が設けられる。ベースバルブ10には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを連通する伸び側通路15及び縮み側通路16が設けられる。伸び側通路15には、リザーバ4側からシリンダ下室2B側への作動流体の流通を許容するディスクバルブ17(逆止弁)が設けられる。縮み側通路16には、シリンダ下室2B側の圧力が設定圧力に達したときに開弁してシリンダ下室2B側の圧力をリザーバ4側へ逃すディスクバルブ18(リリーフ弁)が設けられる。なお、作動流体として、シリンダ2内には油液が封入され、リザーバ4内には油液及びガスが封入される。
【0014】
シリンダ2の外周には、上下一対のシール部材19,19を介してセパレータチューブ20が取り付けられる。シリンダ2とセパレータチューブ20との間には、環状油路21が形成される。シリンダ2の上部側壁には、環状油路21とシリンダ上室2Aとを連通する通路22が設けられる。セパレータチューブ20の下部側壁には、図2における右側(シリンダ径方向外側)へ突出する円筒形の接続口23が設けられる。アウタチューブ3の側壁には、接続口23と同軸の取付孔24が設けられる。アウタチューブ3の側壁には、取付孔24を囲む円筒形のケース25が設けられる。
【0015】
図2に示されるように、ケース25には、減衰力調整機構31が収容される。減衰力調整機構31は、バルブ部品が一体化されたバルブ機構部33と、ソレノイド101と、を備える。バルブ機構部33は、背圧型のメインバルブ41と、メインバルブ41の開弁圧力を制御するパイロットバルブ61と、パイロットバルブ61の下流に設けられたフェイルセーフバルブ91と、を有する。
【0016】
アウタチューブ3の取付孔24には、ジョイント部材28が挿通される。ジョイント部材28は、図2における左側(シリンダ径方向内側)の端部が接続口23に挿入される円筒形の筒部29と、筒部29の図2における右側の開口周縁に設けられケース25内に収容されるフランジ部30と、を有する。筒部29及びフランジ部30は、シール材により被覆される。フランジ部30は、図2における左側の端面が、ケース25の内フランジ部26の図2における右側の端面に当接され、図2における右側の端面が、メインボディ42の図2における左側の環状の端面(符号省略)に当接される。なお、バルブ機構部33の外周の流路35とリザーバ4とは、ケース25の内フランジ部26に設けられた複数本の通路27(溝)により連通される。
【0017】
バルブ機構部33は、環状のメインボディ42と、環状のパイロットボディ62と、メインボディ42とパイロットボディ62とを結合させるパイロットピン63と、を備える。メインボディ42の図2における右側の端面の外周縁部には、環状のシート部43が形成される。シート部43には、メインディスク44の外周縁部が離着座可能に当接される。メインディスク44の内周部は、メインボディ42の内周部とパイロットピン63の大径部64との間でクランプされる。
【0018】
メインディスク44の図2における右側の端面の外周部には、環状のパッキン46が設けられる。メインボディ42の図2における右側の端面には、環状凹部47が設けられる。メインディスク44がシート部43に着座することで、メインボディ42とメインディスク44との間に環状通路48が形成される。環状通路48は、メインディスク44に形成されたオリフィス(符号省略)を介してメインボディ42の外周の流路35に連通される。メインボディ42の図2における左側の端面の中央には、凹部49が形成される。凹部49と図2における右側の端面の環状凹部47(環状通路48)とは、メインボディ42に形成された複数本(図2に「2本」のみ表示)の通路50により連通される。
【0019】
パイロットピン63は、図2における右側の端面に開口する有底円筒形に形成される。パイロットピン63の図2における左側の底部には、導入オリフィス65が形成される。パイロットピン63の図2における左側の端部は、メインボディ42の軸孔51に圧入される。パイロットピン63の図2における右側の端部は、パイロットボディ62の図2における左側の端面に形成された凹部66に圧入される。パイロットピン63の図2における右側の端部の外周面には、軸線方向(図2における「左右方向」)へ延びる複数本(図2に「1本」のみ表示)の通路67(溝)が形成される。
【0020】
パイロットボディ62は、図2における右側が開口した略有底円筒形に形成される。パイロットボディ62の図2における左側の端面には、パイロットボディ62の内周部とパイロットピン63の大径部64とによりクランプされる可撓性ディスク69が設けられる。パイロットボディ62の図2における左側の端部の外周部には、パイロットボディ62と同軸の円筒部70が形成される。円筒部70の内周面(符号省略)には、メインバルブ41のパッキン46が摺動可能に当接される。これにより、メインディスク44の図2における右側(背面)には、パイロット室71が形成される。パイロット室71の圧力は、メインディスク44に対して閉弁方向(シート部43に押し付ける方向)に作用する。
【0021】
パイロットボディ62の底部には、軸方向へ延びる複数本(図2に「2本」のみ表示)の通路72が周方向に等間隔で設けられる。パイロットボディ62の図2における左側の端面に設けられた環状のシート部73に可撓性ディスク69が着座することにより、シート部73の内側(内周)には、環状通路(符号省略)が形成される。この環状通路には、通路72の図2における左側の端が開口される。可撓性ディスク69は、パイロット室71の内圧を受けて撓むことにより、パイロット室71に体積弾性が付与される。
【0022】
可撓性ディスク69は、複数枚のディスクを積層して構成される。可撓性ディスク69の内周部には、通路67とパイロット室71とを連通する切欠き75が設けられる。これにより、環状油路21の油液は、ジョイント部材28の流路36(軸孔)を介して減衰力調整機構31に導入され、導入通路、即ち、導入オリフィス65、パイロットピン63の軸孔76、通路67、及び可撓性ディスク69の切欠き75を介してパイロット室71に導入される。
【0023】
パイロットボディ62の図2における右側の端面には、凹部77が開口する。凹部77の底部には、弁体78が離着座可能に当接される環状のシート部79(弁座)が設けられる。シート部79は、作動流体が通過するパイロットボディ62の凹部66の開口周縁に設けられる。弁体78は、略円筒形に形成され、図2における左側の端部がテーパ状に形成される。弁体78の図2における右側の端部には、外フランジ形のバネ受部80(図3参照)が設けられる。弁体78は、パイロットバネ68によりシート部79から離れる方向(図2における右方向)へ付勢される。
【0024】
パイロットボディ62の図2における右側の端部には、円筒部74が形成される。図3に示されるように、円筒部74には、図3における左側から順に、パイロットバネ68、スペーサ93、フェイルセーフディスク94、リテーナ95、スペーサ96、及びワッシャ97が積層される。図2に示されるように、積層された部品は、円筒部74の外周に嵌着されたキャップ98により固定される。キャップ98には、凹部77(弁室)とバルブ機構部33の外周の流路35とを連通する通路99(切欠き、図3参照)が形成される。
【0025】
減衰力調整機構31の減衰力可変アクチュエータとして機能するソレノイド101は、コイル102、可動鉄心103、固定鉄心104、オーバモールド105、作動ロッド106、一対のブッシュ107,108、背圧室形成部材131(ブッシュ支持部材)、背圧室109、キャップ部材141等により構成される。ソレノイド101は、例えば、比例ソレノイドである。
【0026】
ソレノイドケース110は、作動ロッド106の軸線(ソレノイド101の軸線、以下「軸線」と称する)と同軸の円筒形に形成される。ソレノイドケース110は、磁性体(磁性材料)により略円筒状のヨーク部材として形成され、通電時に磁路を形成する。ソレノイドケース110の図2における左側(シリンダ径方向内側)の端部の外周には、ケース25が嵌合される。ソレノイドケース110とケース25との間は、シールリング111により液密にシールされる。ソレノイド110とケース25とは、かしめ治具(図示省略)を用いて形成された複数個(図2に「2個」のみ表示)のかしめ部114により結合される。
【0027】
ソレノイドケース110の円筒部112には、オーバモールド105が装入される。円筒部112の開口部とオーバモールド105との間は、シールリング113により液密にシールされる。ソレノイドケース110の内フランジ部115には、キャップ部材141の大径部142が嵌合される。内フランジ部115とキャップ部材141との間は、シールリング116により液密にシールされる。
【0028】
コイル102を覆うボビン117は、キャップ部材141の外周側に設けられる。ボビン117は、熱硬化性樹脂等の樹脂部材により形成され、コイル102の内周側をモールド成形により被覆する。ボビン117の図2における右側の開口端部には、キャップ部材141の小径部144が嵌合される。ボビン117の内周側には、インサートコア118が埋設される。ここで、ボビン117の内径及びインサートコア118の内径は、略同一であり、かつキャップ部材141の中径部143の外径よりも僅かに大きく設定される。
【0029】
可動鉄心103は、キャップ部材141の内周側に配され、作動ロッド106に一体的に固定されて軸方向へ移動可能に設けられる。可動鉄心103は、所謂アーマチャであり、例えば、鉄系の磁性体により有底円筒形に形成される。可動鉄心38は、コイル102の通電により磁力を発生したとき、固定鉄心104に吸引されて推力を発生する。可動鉄心103の外径は、キャップ部材141内で軸方向へ移動できるように、キャップ部材141の中径部143(図5における「d2」)の内径よりも僅かに小さく形成される。
【0030】
固定鉄心104は、所謂アンカであり、キャップ部材141の内周側に配される。固定鉄心104は、内側に作動ロッド106が挿通されるボス部119と、該ボス部119の図2における左側の端部に形成されたフランジ部120と、を有する。固定鉄心104は、コイル102の通電により磁力を発生することで、可動鉄心103を図2における左方向へ吸引する。
【0031】
ボス部119の図2における右側端面には、固定鉄心104に吸引された可動鉄心103が入り込む凹部121が設けられる。また、固定鉄心104の内周側には、作動ロッド106を支持するブッシュ108が嵌着されるブッシュ嵌合部122が設けられる。なお、固定鉄心104の図2における右側の端部には、可動鉄心103側に向かって縮径されたテーパ面状のコニカル部123が形成される。コニカル部123は、固定鉄心104と可動鉄心103との間の磁気特性をリニア(直線的)にするように機能する。
【0032】
作動ロッド106は、可動鉄心103、固定鉄心104及び背圧室形成部材131の内周側に配される。作動ロッド106の図2における右側の端部は、背圧室形成部材131に圧入されたブッシュ107により軸方向へ移動可能に支持される。作動ロッド106の内周側には、作動ロッド106を軸方向に貫通し、弁体78と背圧室形成部材131とを連通する通路124が形成される。
【0033】
作動ロッド106の図2における左側の端部は、固定鉄心104から突出し、その突出端にバルブ機構部33の弁体78が固定される。即ち、弁体78は、作動ロッド106の固定鉄心104側の端部に設けられ、可動鉄心103及び作動ロッド106と一体的に移動(変位)する。換言すれば、弁体78の開度及び開弁圧は、コイル102への通電に基づく可動鉄心103の推力に対応する。即ち、バルブ機構部33のパイロットバルブ61の開閉は、可動鉄心103の軸方向への移動により行われる。
【0034】
背圧室形成部材131(ブッシュ支持部材)は、非磁性体(非磁性材料)により構成され、軸線に垂直な平面による断面が同心円により形成される。背圧室形成部材131は、作動ロッド106の通路124を介して流入した作動流体により背圧室109が満たされ状態で、弁体78に作用する圧力を相対的に低減させる。背圧室109は、背圧室形成部材131の後述する背圧室形成部140(凹部、図4参照)、作動ロッド106、及びブッシュ107により画定された空間により形成される。背圧室109の受圧面積は、弁体78が弁座79との間で油圧力を受けるときの受圧面積よりも小さく設定される。
【0035】
図4に示されるように、背圧室形成部材131の可動鉄心103側(図2における「左側」)の端面132には、ブッシュ107が圧入される凹形状のブッシュ圧入部133が開口する。ブッシュ圧入部133の環状の底部134には、作動ロッド106が突入する凹形状の背圧室形成部140が開口する。なお、ブッシュ圧入部133及び背圧室形成部140の内周面は円筒面(内径が一定)であり、背圧室形成部140の内径はブッシュ圧入部133の内径よりも小さい。
【0036】
背圧室形成部材131の、可動鉄心103側(図2図4における「左側」)には、円筒面からなる大外径部135が形成される。また、背圧室形成部材131の、可動鉄心103側とは反対側(図2図4における「右側」)には、円筒面からなる小外径部136が形成される。大外径部135と小外径部136とは、軸線に対して勾配が小さいテーパ部137を介してなだらかに連続する。小外径部136と、端面132とは反対側の突当面138との稜部には、外R部139が形成される。外R部139のR寸法は、キャップ部材141の小径部144(底部)の内R部145のR寸法よりも大きく設定される。これにより、背圧室形成部材131の外R部139が、キャップ部材141の底部の内R部145に干渉することが回避される。
【0037】
図2に示されるように、キャップ部材141は、可動鉄心103、固定鉄心104、背圧室形成部材131等を囲むように設けられる。図5を参照すると、キャップ部材141は、非磁性材からなる薄板により有底段付円筒形に成形される。キャップ部材141は、図5における左側から順に、大径部142、中径部143、小径部144(底部)が配される。大径部142は、固定鉄心104のボス部119と径方向で対向するように、ボス部119の外周側に配置される。中径部143は、可動鉄心103と径方向で対向するように、可動鉄心103の外周側に配置される。
【0038】
大径部142の開口周縁には、フランジ部152が形成される。フランジ部152は、固定鉄心104のフランジ部120とソレノイドケース110の内フランジ部115とによりクランプされる。大径部142と中径部143との間には、テーパ部146が形成される。テーパ部146は、固定鉄心104のコニカル部123と一定の隙間をあけて配置される。中径部143と小径部144(底部)とは、軸線に対して勾配が小さいテーパ部147を介してなだらかに連続する。
【0039】
大径部142の内周には、固定鉄心104のボス部119が嵌合される大内径部148が形成される。中径部143の内周には、可動鉄心103が摺動可能に嵌合される中内径部149が形成される。小径部144(底部)の内周には、背圧室形成部材131(ブッシュ支持部材)が圧入される小内径部150が形成される。また、小径部144の底部には、背圧室形成部材131(小外径部136)の突当面138が突き当てられる底面151が形成される。
【0040】
ここで、キャップ部材141の中内径部149の内径d2(図5参照)は、小内径部150の内径d1(図5参照)よりも僅かに大きく設定される(d2>d1)。他方、背圧室形成部材131の大外径部135の外径D1(図4参照)は、キャップ部材141の中内径部149の内径d2よりも僅かに小さく設定される(d2>D1)。これにより、背圧室形成部材131は、圧入時に、キャップ部材141の中内径部149に案内されてキャップ部材141に対して軸方向へ移動可能である。
【0041】
また、背圧室形成部材131の小外径部136の外径D2(図4参照)は、キャップ部材141の小内径部150の内径d1(図5参照)よりも僅かに小さく設定される(d1>D2)。これにより、背圧室形成部材131をキャップ部材141の小径部144(底部)に嵌合(圧入)させるときの、背圧室形成部材131の小外径部136とキャップ部材141の小内径部150との嵌め合いは、すきま嵌めである。他方、背圧室形成部材131の大外径部135とキャップ部材141の小内径部150との嵌め合いは、締まり嵌めである。
【0042】
そして、コイル102への非通電時には、弁体78がパイロットバネ68により図2における右方向(シリンダ径方向外方)へ付勢され、弁体78のバネ受部80がフェイルセーフディスク94に当接(着座)される。他方、コイル102への通電時には、可動鉄心103に図2における左方向への推力が発生する。これにより、作動ロッド59がパイロットバネ68の付勢力に抗して図2における左方向(シリンダ径方向内方)へ移動する。コイル102への通電の電流値が小さいソフトモードでは、パイロットバルブ61は、パイロットバネ68の付勢力と可動鉄心103の推力とが平衡することで、一定の開弁量(ソフト特性時開弁量)で開弁される。
【0043】
伸び行程時には、シリンダ上室2A内の圧力上昇によりピストン5のディスクバルブ14が閉弁し、ディスクバルブ13の開弁前には、シリンダ上室2A側の作動液が加圧される。加圧された作動液は、通路22、環状流路21、接続口23、及びジョイント部材28を経由して減衰力調整機構31へ導入される。このとき、ピストン5が移動した分の作動液は、ベースバルブ10のディスクバルブ17を開弁させることでリザーバ4からシリンダ下室2Bへ流れる。なお、シリンダ上室2Aの圧力がピストン5のディスクバルブ13の開弁圧力に達してディスクバルブ13が開弁されると、シリンダ上室2Aの圧力がシリンダ下室2Bへリリーフされる。これにより、シリンダ上室2Aの過度の圧力上昇が回避される。
【0044】
縮み行程時には、シリンダ下室2B内の圧力上昇によりピストン5のディスクバルブ14が開弁し、ベースバルブ10の伸び側通路15のディスクバルブ17が閉弁する。ディスクバルブ18の開弁前には、ピストン下室2Bの作動液がシリンダ上室2Aへ流入し、ピストンロッド6がシリンダ2内に侵入した体積分の作動液が、シリンダ上室2Aから、通路22、環状流路21、接続口23、及び流路36を経由して減衰力調整機構31へ導入される。なお、シリンダ下室2Bの圧力がベースバルブ10のディスクバルブ18の開弁圧力に達してディスクバルブ18が開弁されると、シリンダ下室2Bの圧力がリザーバ4へリリーフされる。これにより、シリンダ下室2Bの過度の圧力上昇が回避される。
【0045】
減衰力調整機構31に導入された作動液は、導入オリフィス65、軸孔76、凹部77、及び通路72を経由し、可撓性ディスク69を開弁させてパイロット室71に導入される。メインバルブ41の開弁前(ピストン速度が低速域のとき)には、凹部77に流入した作動液は、パイロットバネ68、フェイルセーフディスク94、ワッシャ97、通路99、バルブ機構部33の外周の流路35、及びケース25の内フランジ部26に形成された複数本の通路27を通ってリザーバ4へ流通する。
【0046】
ピストン速度の上昇により、環状油路21、流路36、及び通路50を経由して環状通路48に導入された作動液の圧力がメインバルブ41の開弁圧力に達してメインバルブ41が開弁されると、環状通路48に導入された作動液は、バルブ機構部33の外周の流路35、及びケース25の内フランジ部26に形成された複数本の通路27を経由してリザーバ4へ流通する。
【0047】
このように、減衰力調整機構31は、ピストンロッド6の伸び行程及び縮み行程の両行程において、メインバルブ41の開弁前(ピストン速度が低速域のとき)には、作動液が導入オリフィス65及びパイロットバルブ61を通過することによる減衰力を発生する。また、メインバルブ41の開弁後(ピストン速度が中速域のとき)には、メインバルブ41の開度に応じた減衰力を発生する。このとき、コイル102への通電を制御してパイロットバルブ61の開弁圧力を調整することにより、減衰力調整機構31が発生する減衰力を直接制御することができる。
【0048】
また、コイル102の断線や車載コントローラの故障等のフェイル発生時に可動鉄心103の推力が失われた場合、パイロットバネ68(フェイルセーフバネを兼ねる)の付勢力により弁体78を図2における右方向へ移動させ、パイロットバルブ61を開弁させる。また、弁体78のバネ受部80をフェイルセーフディスク94に当接させることで、バルブ機構部33の内側の流路(符号省略)とバルブ機構部33の外側の流路35との連通を遮断する。
【0049】
これにより、フェイルセーフバルブ91の開弁圧力を調整し、環状油路21から、ジョイント部材28の流路36、パイロットピン63の導入オリフィス65、軸孔76、パイロットボディ62の凹部77、ワッシャ97の軸孔、キャップ98に形成された通路99(切欠き)、バルブ機構部33の外周の流路35、及びケース25の内フランジ部26に形成された複数本の通路27を経由してリザーバ4へ流通する作動液の流れを制御することにより、フェイル発生時においても一定の減衰力を発生させることができる。同時に、パイロット室71の内圧、延いてはメインバルブ41の開弁圧力を調整することが可能であり、フェイル発生時においても一定の減衰力を得ることができる。
【0050】
従来の減衰力調整機構では、ソレノイドの製造工程において、キャップ部材の小径部(底部)に背圧室形成部材を圧入させるとき、背圧室形成部材の軸線がキャップ部材の軸線に対して傾いた場合、背圧室形成部材の突当面(可動鉄心側とは反対側の端面)をキャップ部材の底面に突き当てる(面接触させる)ことができず、背圧室形成部材の圧入深さが浅くなる。
この場合、フェイルセーフ時における作動ロッドの軸方向への移動は、可動鉄心が背圧室形成部材に突き当たることで規制されているので、フェイルセーフ時における作動ロッドの移動が、弁体のバネ受部がフェイルセーフディスクに着座する手前で阻止される。その結果、弁体とフェイルセーフディスクとの隙間を介して作動流体が流通し、フェイルセーフ時における減衰力が低下する。
【0051】
これに対し、本実施形態では、背圧室形成部材131(ブッシュ支持部材)の、弁体78側(可動鉄心103側)に大外径部135を形成し、背圧室形成部材131の、キャップ部材141の底面151側に小外径部136を形成し、大外径部135と小外径部136とをなだらかなテーパ部137により連続させた。
そして、背圧室形成部材131の大外径部135と、キャップ部材141の小径部144(底部)の小内径部150との嵌め合いを締まり嵌めとし、背圧室形成部材131の小外径部136と、キャップ部材141の小内径部150との嵌め合いをすきま嵌めとした。
よって、本実施形態では、ソレノイド101の製造工程において、キャップ部材141の小径部144(底部)に背圧室形成部材131(ブッシュ支持部材)を圧入させるとき、まず、背圧室形成部材131の小外径部136がキャップ部材141の小内径部150に挿入される。
このとき、背圧室形成部材131の小外径部136とキャップ部材141の小内径部150との嵌め合いはすきま嵌めであるので、小外径部136が小内径部150で抉られる等により、背圧室形成部材131がキャップ部材141(小径部144)に対して傾くことを抑止することができる。
その後、背圧室形成部材131がテーパ部137とキャップ部材141の小内径部150により案内されるので、背圧室形成部材131とキャップ部材141との同軸度を保ちながら、背圧室形成部材131の大外径部135がキャップ部材141の小内径部150に圧入される。これにより、背圧室形成部材131の突当面138がキャップ部材141の底面151に突き当たる(面接触する)まで、背圧室形成部材131をキャップ部材141に圧入することができる。
本実施形態によれば、フェイルセーフ時に、弁体78のバネ受部80をフェイルセーフディスク94に確実に着座させることが可能であり、フェイルセーフ時における減衰力の低下を抑止することができる。
また、本実施形態によれば、キャップ部材141と背圧室形成部材131に保持されたされたブッシュ107との同軸度が確保される、延いては、ブッシュ107と固定鉄心104に保持されたブッシュ108との同軸度が確保されるので、作動ロッド106とブッシュ107,108との摺動抵抗を低減することが可能であり、ソレノイド101のヒステリシス特性を改善することができる。
さらに、圧入時における背圧室形成部材131の軸線とキャップ部材141の軸線との傾きが抑止されるので、圧入時に背圧室形成部材131に齧りや変形が発生することを防止することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 減衰力調整式緩衝器、2 シリンダ、5 ピストン、6 ピストンロッド、31 減衰力調整機構、36 流路、78 弁体、101 ソレノイド、102 コイル、103 可動鉄心、104 固定鉄心、107,108 ブッシュ、131 背圧室形成部材(ブッシュ支持部材)、135 大外径部、136 小外径部、141 キャップ部材、144 小径部(底部)、148 大内径部、150 小内径部、151 底面
図1
図2
図3
図4
図5