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▶ ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】細胞培養培地をモニターする方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20250306BHJP
【FI】
G01N21/65
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2021569377
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-20
(86)【国際出願番号】 US2020034403
(87)【国際公開番号】W WO2020237221
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】62/852,230
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】アバディアン,ペガー
(72)【発明者】
【氏名】アロン,キャスリン
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/004322(WO,A2)
【文献】特開2019-030334(JP,A)
【文献】国際公開第2019/071076(WO,A1)
【文献】特表平11-502608(JP,A)
【文献】特表2013-531787(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0025633(US,A1)
【文献】SMITH et al.,Raman spectroscopy: an evolving technique for live cell studies,Analyst,2016年,Vol.141/No.12,PP.3590-3600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光法を用いて細胞培養培地のフィンガープリンティングを行い、および/または細胞培養培地にとって最適な貯蔵条件を識別するための方法であって、前記方法が、細胞培養培地のラマンスペクトルを収集することを含み、前記細胞培養培地が、1つまたは複数の成分の混合物を含有し、前記細胞培養培地の前記ラマンスペクトルが、前記1つまたは複数の成分のそれぞれに関連付けられた1つまたは複数の基準スペクトル、または基準培地成分に関連付けられた基準スペクトルと比較され、前記ラマンスペクトルが、少なくとも5データ点の平均であり、および各データ点が、15秒毎、20秒毎、25秒毎、30秒毎、35秒毎、40秒毎、45秒毎、50秒毎、55秒毎、または60秒毎に測定される、前記方法。
【請求項2】
ラマン分光法を使用して細胞培養培地中の特定の成分の変化率を識別するおよび/またはリアルタイムで細胞培養培地の変化をモニターするための方法であって、前記方法が、前記細胞培養培地のラマンスペクトルを収集すること(「収集されたスペクトル」)を含み、1つまたは複数の成分の混合物を含有する前記細胞培養培地の前記ラマンスペクトルが、前記1つまたは複数の成分のそれぞれに関連付けられた1つまたは複数の基準スペクトルと比較され、前記ラマンスペクトルが、少なくとも5データ点の平均であり、および各データ点が、15秒毎、20秒毎、25秒毎、30秒毎、35秒毎、40秒毎、45秒毎、50秒毎、55秒毎、または60秒毎に測定される、前記方法。
【請求項3】
前記基準スペクトルが劣化を含まない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞培養培地のラマンスペクトルの前記収集が、時間毎に、時間毎に、時間毎に、時間毎に、時間毎に、時間毎に、時間毎に、時間毎に、時間毎に、0時間毎に、1時間毎に、2時間毎に、3時間毎に、4時間毎に、5時間毎に、6時間毎に、7時間毎に、8時間毎に、9時間毎に、0時間毎に、1時間毎に、2時間毎に、3時間毎に、または4時間毎に実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ラマンスペクトルが、多変量解析によって解析される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多変量解析が、主成分分析(PCA)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記PCAが、前記ラマンスペクトルに対するPCスコアを生成する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記多変量解析が、部分最小二乗分析(PLS)であり、前記分析が、較正予測モデルを生じる、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞培養培地の前記収集されたスペクトルを比較することをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記比較が、前記基準スペクトルの基準PCスコアに対する前記収集されたスペクトルのPCスコアの比較を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記収集されたスペクトルの前記PCスコアが前記基準スペクトルの前記基準PCスコアと異なっている場合に、前記細胞培養培地が劣化していると判断することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記収集されたスペクトルの前記PCスコアが前記基準スペクトルの前記基準PCスコアより高い場合に、前記細胞培養培地が劣化していると判断することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記収集されたスペクトルの前記PCスコアが前記基準スペクトルの前記基準PCスコアより低い場合に、前記細胞培養培地が劣化していると判断することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞培養培地が劣化しており、且つ前記劣化した細胞培養培地が、劣化していない培地と比較した場合に、培養下の複数の細胞の生存率を%、%、%、%、%、%、%、%、%、または0%低下させる、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞培養培地が劣化しており、且つ前記劣化した細胞培養培地が、劣化していない培地と比較した場合に、培養下の前記細胞の生存細胞密度を×10細胞/mL、×10細胞/mL、×10細胞/mL、×10細胞/mL、×10細胞/mL、×10細胞/mL、×10細胞/mL、×10細胞/mL、×10細胞/mL、0×10細胞/mL、1×10細胞/mL、または2×10細胞/mL低下させる、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞培養培地が劣化しており、且つ前記劣化した細胞培養培地が、劣化していない培地と比較した場合に、培養下の前記細胞の抗体産生力価を.1g/L、.2g/L、.3g/L、.4g/L、.5g/L、.6g/L、.7g/L、.8g/L、.9g/L、.0g/L、.1g/L、.2g/L、.3g/L、.4g/L、.5g/L、.6g/L、.7g/L、.8g/L、.9g/L、.0g/L、.1g/L、.2g/L、.3g/L、.4g/L、.5g/L、.6g/L、.7g/L、.8g/L、.9g/L、または.0g/L低下させる、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記1つまたは複数の基準スペクトルに対するマーカーが、前記細胞培養培地に加えられる、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記マーカーがグルコースではない、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記マーカーが乳酸ではない、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記マーカーが、アミノ酸またはビタミンである、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記マーカーが、リジン(Lys)、アスパラギン(Asn)、アラニン(Ala)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、またはバリン(Val)を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記マーカーが、チロシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記マーカーが、シアノコバラミン(B12)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、ピリドキサールHCl(B6(AL))、またはピリドキシンHCl(B6(INE))を含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記ラマンスペクトルが、00cm-1から700cm-100cm-1から800cm-100cm-1から900cm-100cm-1から000cm-100cm-1から100cm-100cm-1から200cm-100cm-1から300cm-100cm-1から400cm-100cm-1から500cm-100cm-1から600cm-100cm-1から700cm-100cm-1から800cm-100cm-1から900cm-1、または00cm-1から000cm-1の範囲において測定される、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記ラマンスペクトルが、500cm-1から3000cm-1の範囲において測定される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記収集されたスペクトルの前記PCスコアが、前記基準スペクトルの前記基準PCスコアと同じかまたは、0以下、以下、以下、以下、以下、以下、以下、以下、以下、または以下で近似している場合に、前記細胞培養培地は安定であると判断することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞培養培地が、日間、日間、0日間、1日間、2日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、0日間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、0日間、ヶ月間、.5ヶ月間、0日間、0日間、0日間、ヶ月間、0日間、0日間、0日間、ヶ月間、00日間、10日間、20日間、ヶ月間、ヶ月間、またはヶ月間の貯蔵に対して判断される、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年5月23日に出願された米国特許仮出願第62/852,230号の優先権の利益を主張するものであり、当該仮出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
最適状態に及ばない培地が上流のバイオプロセスのために利用される場合、無駄骨や生産の遅延の観点から、何十万ドルものコストが費やされ得る。培地は、不適切に調製された場合、すなわち、特定の成分が、偶発的に排除されたり、または間違った量が加えられた場合、あるいはその最適な有効期間を過ぎて用いられる場合、最適状態に及ばないと考えられる。培地の品質は、重要な性能パラメータであり、典型的には、時間およびリソース集約的である毎日のサンプリングおよび供給を伴う14日間の生産バイオリアクタープロセスにおいて、HPLC機能試験、例えば、アミノ酸分析など、によって評価される。最適状態に及ばない培地の使用は、結果として、力価の低下および/または製品特性の変化を生じ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、培地の組成を適切に測定することができる分析方法を有して、重要な成分が物理的に存在することを確認すること、ならびに劣化に対する重要なマーカーの測定を介して有効期間をモニターすることは重要である。したがって、培養培地の状態を測定することができる、費用対効果に優れた正確な方法を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、任意の設定における細胞の増殖に対するその有効性に影響を及ぼし得る、細胞培養培地における変化をモニターする方法に関する。本開示の一態様は、細胞培養培地試料のラマンスペクトルを測定し、当該細胞培養培地の成分の既知のスペクトルと比較することを対象とする。本開示の方法は、ラマン分光法を用いて細胞培養培地のフィンガープリンティングを行い、および/または細胞培養培地にとって最適な貯蔵条件を識別するための方法であって、当該細胞培養培地のラマンスペクトルを収集することを含み、当該細胞培養培地が、1つまたは複数の成分の混合物を含有し、当該細胞培養培地のラマンスペクトルが、当該1つまたは複数の成分のそれぞれに関連付けられた1つまたは複数の基準スペクトル、または基準培地成分に関連付けられた1つまたは複数の基準スペクトルと比較される方法を対象とする。本開示の方法は、ラマン分光法を使用して細胞培養培地中の特定の成分の変化率を識別するおよび/またはリアルタイムで細胞培養培地の変化をモニターするための方法であって、細胞培養培地のラマンスペクトルを収集すること(「収集されたスペクトル」)を含み、当該細胞培養培地のラマンスペクトルが、1つまたは複数の成分のそれぞれに関連付けられた基準スペクトルと比較される方法も対象とする。
【0005】
いくつかの態様において、当該基準スペクトルは、劣化していないはずである。いくつかの態様において、細胞培養培地のラマンスペクトルの収集は、少なくとも1時間毎に、少なくとも約2時間毎に、少なくとも約3時間毎に、少なくとも約4時間毎に、少なくとも約5時間毎に、少なくとも6時間毎に、少なくとも7時間毎に、少なくとも約8時間毎に、少なくとも約9時間毎に、少なくとも約10時間毎に、少なくとも約11時間毎に、少なくとも約12時間毎に、少なくとも約13時間毎に、少なくとも約14時間毎に、少なくとも約15時間毎に、少なくとも約16時間毎に、少なくとも約17時間毎に、少なくとも約18時間毎に、少なくとも約19時間毎に、少なくとも約20時間毎に、少なくとも約21時間毎に、少なくとも約22時間毎に、少なくとも約23時間毎に、または少なくとも約24時間毎に実施される。
【0006】
いくつかの態様において、当該ラマンスペクトルは、少なくとも5データ点、少なくとも10データ点、少なくとも15データ点、少なくとも16データ点、少なくとも17データ点、少なくとも18データ点、少なくとも19データ点、少なくとも20データ点、少なくとも21データ点、少なくとも22データ点、少なくとも23データ点、少なくとも24データ点、少なくとも25データ点、少なくとも26データ点、少なくとも27データ点、少なくとも28データ点、少なくとも29データ点、少なくとも30データ点、少なくとも31データ点、少なくとも32データ点、少なくとも33データ点、少なくとも34データ点、少なくとも35データ点、少なくとも36データ点、少なくとも37データ点、少なくとも38データ点、少なくとも39データ点、少なくとも40データ点、少なくとも41データ点、少なくとも42データ点、少なくとも43データ点、少なくとも44データ点、少なくとも45データ点、少なくとも46データ点、少なくとも47データ点、少なくとも48データ点、少なくとも49データ点、または少なくとも50データ点の平均を有する。いくつかの態様において、各データ点は、10秒毎、15秒毎、20秒毎、25秒毎、30秒毎、35秒毎、40秒毎、45秒毎、50秒毎、55秒毎、または60秒毎に測定される。
【0007】
本開示の方法は、試料から収集された生のラマンスペクトルの解析をも含む。いくつかの態様において、当該ラマンスペクトルは、多変量解析によって解析される。いくつかの態様において、当該多変量解析は、主成分分析(PCA)である。いくつかの態様において、当該PCAは、当該ラマンスペクトルに対するPCスコアを生成する。いくつかの態様において、当該多変量解析は、部分最小二乗分析(PLS)であり、当該分析は、較正予測モデルを生じる。いくつかの態様において、当該方法は、細胞培養培地の当該収集されたスペクトルを比較することをさらに含む。いくつかの態様において、当該比較は、基準スペクトルの基準PCスコアに対する当該収集されたスペクトルのPCスコアの比較を含む。
【0008】
いくつかの態様において、当該方法は、収集されたスペクトルのPCスコアが基準スペクトルの基準PCスコアから、少なくとも約10、少なくとも約11、少なくとも約12、少なくとも約13、少なくとも約14、少なくとも約15、少なくとも約16、少なくとも約17、少なくとも約18、少なくとも約19、少なくとも約20、少なくとも約21、少なくとも約22、少なくとも約23、少なくとも約24、少なくとも約25、少なくとも約26、少なくとも約27、少なくとも約28、少なくとも約29、または少なくとも約30、異なっている場合に、当該細胞培養培地が劣化していると判断することをさらに含む。いくつかの態様において、当該方法は、収集されたスペクトルのPCスコアが基準スペクトルの基準PCスコアより高い場合に、当該細胞培養培地が劣化していると判断することをさらに含む。いくつかの態様において、当該方法はさらに、収集されたスペクトルのPCスコアが基準スペクトルの基準PCスコアより低い場合に、当該細胞培養培地が劣化していると判断することを含む。
【0009】
いくつかの態様において、細胞培養培地が劣化しており、且つ当該劣化した細胞培養培地が、劣化していない培地と比較した場合に、培養下の細胞の生存率を約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、または約10%低下させる。
【0010】
いくつかの態様において、細胞培養培地が劣化しており、且つ当該劣化した細胞培養培地が、劣化していない培地と比較した場合に、培養下の細胞の生存細胞密度を約1×10細胞/mL、約2×10細胞/mL、約3×10細胞/mL、約4×10細胞/mL、約5×10細胞/mL、約6×10細胞/mL、約7×10細胞/mL、約8×10細胞/mL、約9×10細胞/mL、約10×10細胞/mL、約11×10細胞/mL、または約12×10細胞/mL低下させる。
【0011】
いくつかの態様において、細胞培養培地が劣化しており、且つ当該劣化した細胞培養培地が、劣化していない培地と比較した場合に、培養下の細胞の抗体産生力価を約0.1g/L、約0.2g/L、約0.3g/L、約0.4g/L、約0.5g/L、約0.6g/L、約0.7g/L、約0.8g/L、約0.9g/L、約1.0g/L、約1.1g/L、約1.2g/L、約1.3g/L、約1.4g/L、約1.5g/L、約1.6g/L、約1.7g/L、約1.8g/L、約1.9g/L、約2.0g/L、約2.1g/L、約2.2g/L、約2.3g/L、約2.4g/L、約2.5g/L、約2.6g/L、約2.7g/L、約2.8g/L、約2.9g/L、または約3.0g/L低下させる。
【0012】
いくつかの態様において、マーカーが、当該細胞培養培地に加えられる。いくつかの態様において、当該マーカーは、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、アスパラギン(Asn)、およびアルギニン(Arg)からなる群から選択される。いくつかの態様において、当該マーカーはチロシンである。いくつかの態様において、当該マーカーはグルコースではない。いくつかの態様において、当該マーカーは乳酸ではない。いくつかの態様において、当該マーカーは、シアノコバラミン(B12)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、ピリドキサールHCl(B6(AL))、およびピリドキシンHCl(B6(INE))からなる群から選択される。
【0013】
いくつかの態様において、ラマンスペクトルは、約500cm-1から約1700cm-1、約500cm-1から約1800cm-1、約500cm-1から約1900cm-1、約500cm-1から約2000cm-1、約500cm-1から約2100cm-1、約500cm-1から約2200cm-1、約500cm-1から約2300cm-1、約500cm-1から約2400cm-1、約500cm-1から約2500cm-1、約500cm-1から約2600cm-1、約500cm-1から約2700cm-1、約500cm-1から約2800cm-1、約500cm-1から約2900cm-1、または約500cm-1から約3000cm-1の範囲において測定される。いくつかの態様において、当該ラマンスペクトルは、500cm-1から3000cm-1の範囲において測定される。
【0014】
いくつかの態様において、当該方法は、収集されたスペクトルのPCスコアが、基準スペクトルの基準PCと同じかまたは、約10以下、約9以下、約8以下、約7以下、約6以下、約5以下、約4以下、約3以下、約2以下、または約1以下に近似している場合に当該細胞培養培地が安定であると判断することをさらに含む。
【0015】
いくつかの態様において、当該細胞培養培地は、約8日間、約9日間、約10日間、約11日間、約12日間、約15日間、約16日間、約17日間、約18日間、約19日間、約20日間、約21日間、約22日間、約23日間、約24日間、約25日間、約26日間、約27日間、約28日間、約29日間、約30日間、約1ヶ月間、約1.5ヶ月間、約40日間、約50日間、約60日間、約2ヶ月間、約70日間、約80日間、約90日間、約3ヶ月間、約100日間、約110日間、約120日間、約4ヶ月間、約5ヶ月間、または約6ヶ月間の貯蔵に対して判断される。
【0016】
本開示は、細胞培養培地を分析することができる機器を使用してラマンスペクトルの測定を実施するための機器にも関する。いくつかの態様において、当該機器は、当該細胞培養培地における1つまたは複数の成分の混合物を含み、当該機器は、当該細胞培養培地試料を保持するための細胞培養培地試料ホルダーと;当該細胞培養培地試料ホルダーによって保持された当該細胞培養培地試料に光照射するためのレーザー光源と;当該細胞培養培地試料ホルダーによって保持された当該細胞培養培地試料において当該細胞培養培地中の1つまたは複数の成分の運動を検出するように配置された粒子運動検出器と;当該レーザー光源による光照射の結果として生じた当該細胞培養培地試料からのスペクトルを受け取るように配置されたスペクトル検出器とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、赤外線(IR)吸収、レイリー散乱、およびラマン散乱(ストークスおよび反ストークス)のプロセスに対応する振動エネルギー準位の間の移行のエネルギーダイアグラムを示す。E0およびE1(E0+hνm)は、電子基底状態および電子励起状態である。ν0およびνmは、振動基底状態および振動励起状態である。
図2図2A図2B、および図2C図2Aは、供給培地バッグに接続され、蠕動式ポンプを使用してラマンを突き通る、Tコネクタの概略図を示しており、図2Bは、Tコネクタのセットアップおよび取り付けられた配管の図を示す。図2Cは、オフライン測定のために使用されるガラスバイアル瓶および琥珀ビーカーを示す。光の干渉を排除するために、ガラスバイアル瓶は、アルミホイルで覆い、琥珀ビーカーは、黒色のポリプロピレンで覆った。Tコネクタは、12mmODプローブのための3/4インチの衛生的フランジ入口/出口を備える316Lステンレス製パイロットスケールフローセルである。
図3図3は、リアルタイム供給培地分析の測定回数に対するPC1スコアのプロットを示す図である。測定は、ラマン分光法を使用して3時間毎に行った。例えば、X軸において、5の測定は、最初のモニタリングから15時間の測定を示す。矢印は、最初のモニタリングのおよそ90時間後の、ラマンスペクトルが変化し始めた測定を表す。
図4図4Aおよび図4B図4Aは、培地において大きな変化が生じたときの波数を表す、リアルタイム供給培地分析のラマンシフトに対するPC1ローディングを示す図である。図4Bは、チロシン結晶のラマンスペクトルを示す(Freire, P., et al., Raman Spectroscopy of Amino Acid Crystals. Raman Spectroscopy and Applications, 2017)。
図5図5は、B9基本培地に加えられた異なるホスフェートレベルのPC1スコアプロットを示す図である。最初の点は、1.5g/Lのホスフェートレベルを示しており、最後の点は、3g/Lのホスフェートを伴う試料を表す。
図6図6は、供給培地/基本培地の強制的劣化のPC1-PC2平面スコアプロットを示す図である。
図7図7は、熱(H)または光(L)による強制的劣化ならびに4℃での正常なエイジングに起因する、ラマン試験によって基本培地において検出された変化を表すPC2スコアプロットを示す図である。貯蔵期間は、週(例えば、1W)または月(3M)で示される。3Mの時点は、実際のスケールで表されているわけではないことに留意されたい。
図8図8A、8B、および8Cは、様々にエイジングさせた基本培地および新鮮供給培地が使用された場合の生産VCD(図8A)、生存率(図8B)、および抗体価(図8C)を示す図である。
図9図9は、光(L)および熱(H)劣化による基本培地のアミノ酸レベルの変化を示す図である。破線は、光劣化による変化の傾向を示し、実線は、熱劣化による変化を表す。
図10図10は、経時(週の場合はW、または月の場合はM)での光(L)および熱(H)劣化による供給培地のPC1スコアプロットを示す図である。
図11図11A~11Cは、様々にエイジングさせた供給培地および新鮮基本培地が生産結果に影響を及ぼすことができることを示す図である。図11Aは、生存細胞密度(VCD)を示す。図11Bは、生存率を示す。図11Cは、抗体価(C)結果を示す。
図12図12Aは、アルギニンの予測モデルのための較正曲線を示す図である。図12Bは、モデルを構築するために使用した添加実験の第1の潜在的変異型を示す図である。図12Cは、アルギニン水溶液のラマンスペクトルを示す。破線は、LV1プロットにおける主要な変動がアルギニンのラマンシフトに関連していたことを確認する図である。
図13-1】図13A~13Hは、4つのアミノ酸および4つのビタミンの濃度についての予測モデルを示す図である。適合線は、円で示された、各化学物質の既知の濃度を使用して構築された較正曲線の近似線である。ひし形は、Arg(図13A)、Asn(図13B)、His(図13C)、Lys(図13D)、B6(AL)(図13E)、B6(INE)(図13F)、B9(図13G)、またはB12(図13H)の未知のレベルについての予測レベルを示す。1:1線は、測定値と予測値との間の1:1比を示しており、測定された値は、最終的な注入された濃度である。予測モデルが強力なほど、近似と1:1線はより良好に重なり合う。
図13-2】同上。
図14-1】図14A~14Hは、各化学物質に対する各濃度レベルにおける%回収率を示す図である。円は、較正曲線を構築するために使用された点を表し、ひし形は、Arg(図14A)、Asn(図14B)、Lys(図14C)、His(図14D)、B6(AL)(図14E)、B6(INE)(図14F)、B9(図14G)、B12(図14H)に対して当該較正曲線を使用して予測された濃度である。
図14-2】同上。
図15-1】図15Aは、アミノ酸であるアルギニン、アスパラギン、ヒスチジン、およびリジンの基準スペクトルを示す図である。図15Bおよび15Cは、ビタミンのシアノコバラミン(B12)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、ピリドキサールHCl(B6(AL))、ピリドキシンHCl(B6(INE))の基準スペクトルを示す図である。
図15-2】同上。
図15-3】同上。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示は、培地組成におけるリアルタイムの変化をモニターし、培地調製における特定のエラーを識別し、培地の安定性をモニターすることができる方法を対象とする。無標識フィンガープリンティング技術の一例であるラマン分光法は、この目的のために利用することができる。本開示は、ラマン基本モデルを構築することにより、培地中のアミノ酸およびビタミン成分を定量的にモデル化することができることも示している。本開示は、ラマン技術を分析試験として用いて、機能試験と置き換えることができ、失われたバッチによるリスクを最小化することができることを示している。
【0019】
ラマンは、通常はレーザー光源からの単色光の非弾性散乱に基づく分光光学的技術であり、光の光子の周波数は、化学結合との相互作用に応じてシフトする。「ラマンシフト」と呼ばれるこのシフトは、その結合の回転、振動、および他の低周波数の移行に関する有用な情報を提供する。全ての分子は、その構造を構成する独特な化学結合のセットを有するため、ラマンは、各分子に対して独特な署名パターンを形成する「フィンガープリンティング技術」として用いることができる。図1は、ラマン散乱の原理を例示しており、それを2つの代替の分光光学的技術(IRおよびレイリー)を比較している。
【0020】
ラマンの利点のいくつかは、試料標識または試料調製を必要とすることなく分子をフットプリントするその能力を含む。これは、リアルタイムで測定する手段を提供し、それが、ラマンをプロセス解析工学(PAT)用途のための有用な技術にしている。
【0021】
I.用語
本明細書において使用される用語「および/または」は、他方がある場合と無い場合の2つの指定された特徴または構成要素のそれぞれの特定の開示として理解される。したがって、用語「および/または」は、本明細書において「Aおよび/またはB」などの語句において使用される場合、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」(のみ)、および「B」(のみ)を包含することが意図される。同様に、用語「および/または」は、「A、B、および/またはC」などの語句において使用される場合、以下の態様:A、B、およびC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(のみ);B(のみ);ならびにC(のみ)、のそれぞれを包含することが意図される。
【0022】
態様が、言語「を含む(comprising)」によって本明細書において記述される場合はいつでも、「からなる(consisting of)」および/または「から実質的になる(consisting essentially of)」の用語において記述される別の類似する態様も提供されることは理解されよう。
【0023】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が関連する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。例えば、the Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology, Juo, Pei-Show, 2nd ed., 2002, CRC Press; The Dictionary of Cell and Molecular Biology, 3rd ed., 1999, Academic Press; and the Oxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology, Revised, 2000, Oxford University Pressは、本開示において使用される用語の多くの一般的な辞書を当業者に提供する。
【0024】
単位、接頭語、および記号は、それらの国際単位系(SI)に受け入れられた形態において指示される。数値範囲は、当該範囲を定義する数値を含む。本明細書において提供される見出しは、本開示の様々な態様の限定ではなく、それらは、全体として本明細書を参照することにより得ることができる。したがって、このすぐ後に定義される用語は、本明細書その全体を参照することによって、より完全に定義される。
【0025】
二者択一(例えば、「または(or)」)の使用は、当該二者択一の選択肢の一方、または両方、またはそれらの任意の組合せを意味するとして理解されるべきである。本明細書において使用される場合、不定冠詞「a」または「an」は、列挙または羅列された任意の構成要素の「1つまたは複数」を意味するとして理解されるべきである。
【0026】
用語「約(about)」または「実質的に~で構成される(comprising essentially of)」は、当業者によって決定される特定の値または組成に対する許容誤差範囲内の値または組成を意味し、それらは、いくらかは、当該値または組成がどのように測定または決定されるか、すなわち、測定システムの限界に依存するであろう。例えば、「約(about)」または「実質的に~で構成される(comprising essentially of)」は、当技術分野において1回の実施あたり1標準偏差以内または1標準偏差超を意味し得る。あるいは、「約(about)」または「実質的に~で構成される(comprising essentially of)」は、最高で10%までの範囲を意味し得る。その上、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、当該用語は、値の最高でも1桁までまたは最高でも5倍までを意味することができる。特定の値または組成が、本出願または特許請求の範囲において提供される場合、特に明記しない限り、「約(about)」または「実質的に~で構成される(comprising essentially of)」の意味は、その特定の値または組成に対する許容誤差範囲内であると仮定されるべきである。
【0027】
本明細書に記載される場合、任意の濃度範囲、百分率範囲、比率範囲、または整数範囲は、特に明記されない限り、記載された範囲内の任意の整数の値、ならびに、適切であれば、その分数(例えば、整数の1/10および1/100)を含むと理解されるべきである。
【0028】
用語「精製すること」、「分離すること」、または「単離すること」は、本明細書において相互互換的に使用される場合、関心対象のタンパク質と1つまたは複数の不純物とを含む組成物または試料から関心対象のタンパク質の純度を増加させることを意味する。典型的には、関心対象のタンパク質の純度は、当該組成物から少なくとも1つの不純物を(完全にまたは部分的に)除去することによって増大する。
【0029】
用語「緩衝剤」は、本明細書において使用される場合、溶液中のその存在によって、pHの単位変化を生じさせるために加えなければならない酸またはアルカリの量を増加させる物質を意味する。緩衝液は、その酸-塩基コンジュゲート成分の作用によって、pHの変化に抵抗する。生物学的試薬を伴う使用のための緩衝液は、概して、当該溶液のpHが生理学的範囲内となるように、水素イオンの濃度を一定に維持することができる。従来の緩衝成分としては、これらに限定されるわけではないが、有機および無機の塩、酸、および塩基が挙げられる。
【0030】
本明細書において使用される場合、用語「ラマン散乱」は、ある系における振動、回転、および他の低周波数のモードを観察するために使用される分光学的技術を意味する。それは、通常は可視、近赤外、または近紫外範囲のレーザーからの単色光の非弾性散乱、またはラマン散乱を頼りとする。当該レーザー光は、分子振動、フォノン、または当該系における他の励起と相互作用し、結果として、上または下にシフトされるレーザー光子のエネルギーを生じる。エネルギーの当該シフトは、当該系における振動モードについての情報を与える。様々な光学プロセス、光強度依存性における線形および非線形の両方は、基本的に、ラマン散乱に関連している。本明細書において使用される場合、用語「ラマン散乱」は、これらに限定されるわけではないが、「誘導ラマン散乱」(SRS)、「自発ラマン散乱」、「コヒーレント反ストークスラマン散乱」(CARS)、「表面増強ラマン散乱」(SERS)、「チップ増強ラマン散乱」(TERS)、または「振動光音響トモグラフィ」を包含する。
【0031】
用語「劣化」および/または「劣化した」は、本明細書において使用される場合、意図されるように有効に使用される組成物の能力の低下を意味する。例えば、細胞培養培地は、熱、光、湿気、または培地の成分の望ましくない効果を生じ得る他の環境条件への曝露によって劣化され得る。細胞培養の様々な成分の経時的な濃度変化も、結果として、細胞培養培地を劣化させ得る。培地の調製におけるエラーも、本開示の技術を使用して、劣化した細胞培養培地として検出され得る。全ての場合において、劣化した細胞培養培地は、劣化していない培地と比較した場合に、生存率および/または細胞培養の増殖の維持において効率的でないこともある。劣化した細胞培養物は、上流の細胞増殖および/またはタンパク質発現率、細胞数および/または細胞密度、または上流での製造の間の総細胞生存率に影響を及ぼし得るため、非劣化培地と比較した場合、上流のバイオマニュファクチャリングにおいて効率が下がり得る。
【0032】
用語「培養物」、「細胞培養物」、および「真核生物細胞培養物」は、本明細書において使用される場合、細胞集団の生存および/または増殖に好適な条件下、培地(下記の「培地」の定義を参照されたい)中で維持または増殖させた、表面付着したまたは懸濁した細胞集団を意味する。当業者にとって明確であるように、これらの用語は、本明細書において使用される場合、細胞集団と当該集団が懸濁された培地とを含む組合せ物を意味することができる。
【0033】
用語「培地(mediaまたはmedium)」、「細胞培養培地」、「培養培地」、「組織培養培地(tissue culture mediumまたはtissu culture media)」、および「増殖培地」は、本明細書において使用される場合、増殖する培養された宿主細胞に給養するために使用することができる栄養素を含有する溶液を意味する。典型的には、これらの溶液は、最小限の増殖および/または生存のために細胞によって必要とされる必須アミノ酸および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質、および微量元素を提供する。当該溶液は、ホルモンおよび成長因子を含む、最小率を超えて増殖および/または生存を増強する成分も含有することができる。当該溶液は、pHおよび塩濃度を細胞の生存および増殖にとって最適にするように配合される。当該培地は、「限定培地(defined medium)」または「合成培地(chemically defined medium)」(タンパク質、加水分解物、または未知の組成の成分を含有しない無血清培地)でもあってもよい。限定培地は、動物由来の成分を含有せず、且つ全ての成分は、既知の化学構造を有する。当業者は、限定培地が、組換え糖タンパク質またはタンパク質、例えば、これらに限定されるわけではないが、ホルモン、サイトカイン、インターロイキン、および他のシグナル伝達分子、を含むことができることを理解する。
【0034】
用語「細胞生存率」は、本明細書に使用される場合、所定の一連の条件下または実験変動下において生き残る、培養下の細胞の能力を意味する。当該用語は、本明細書において使用される場合、特定の時点における当該培養物中の生きている細胞および死んでいる細胞の総数に対するその時点において生きている細胞の一部も意味する。
【0035】
用語「上流プロセス」、「上流細胞培養プロセス」、または「上流製造プロセス」は、本明細書において使用される場合、概して、バイオリアクターなどの容器において、微生物または細胞、例えば、細菌細胞または哺乳動物細胞、が増殖する製造プロセスにおける第1の工程を意味する。上流での処理は、種菌発育、培地展開、タンパク質発現、遺伝子操作処理による種菌の改良、および成長動態の最適化に関連する全ての工程に関与する。
【0036】
用語「バッチ培養」または「バッチ反応器プロセス」は、本明細書に使用される場合、培地(下記の「培地」の定義を参照されたい)を含む、最終的に細胞の培養において使用されるであろう全ての成分、ならびに細胞それ自体が培養プロセスの開始時に提供される、細胞を培養する方法を意味する。バッチ培養は、典型的には、ある時点において停止され、当該培地中の細胞および/または成分が収穫され、適宜、精製されてもよい。
【0037】
用語「流加バッチ培養」または「流加バッチ反応器プロセス」は、本明細書に使用される場合、培養プロセスの開始後のある時点において当該培養物に追加の成分が提供される、細胞を培養する方法を意味する。流加バッチ培養は、基本培地を使用して開始することができる。培養プロセス開始後のある時点において当該培養物に追加の成分を提供する培養培地が、供給培地である。流加バッチ培養は、典型的には、ある時点において停止され、当該培地中の細胞および/または成分が収穫され、適宜、精製されてもよい。
【0038】
本明細書において使用される場合、「潅流」または「潅流培養」または「潅流反応器プロセス」は、細胞の集団の中またはその上を通る一定速度の生理学的栄養素溶液の連続フローを意味する。潅流システムは、概して、培養ユニット内の細胞の保持を伴うため、潅流培養は、特徴的に、比較的高い細胞密度を有するが、培養条件は、維持または制御するのが困難である。加えて、細胞は、高密度になるまで当該培養ユニット内で増殖され、保持されるため、増殖速度は、典型的には、時間経過と共に継続的に低下し、細胞増殖の後期対数期、または定常期さえ生じる。この連続培養戦略は、概して、哺乳動物細胞、例えば、足場非依存性細胞を培養すること、連続細胞培養システムにおいて生産期の際に関心対象のポリペプチドおよび/またはウイルスを発現させることを含む。「足場非依存性細胞」は、増殖の際に固体基板に付着または固定されるのとは逆に、細胞が培養物の大半において懸濁状態において自由に繁殖することを意味する。当該連続細胞培養システムは、潅流システムにおいて使用されるが、当該細胞のかなりの部分の連続除去を可能にし、それにより、潅流培養より小さい当該細胞の割合が保持される点において類似する細胞保持装置を含むことができる。「細胞保持装置」は、細胞培養の際に、特定の位置において細胞、特に足場非依存性細胞を保持することができる任意の構造を意味する。非限定的な例としては、バイオリアクター内に足場非依存性細胞を維持することができる、マイクロキャリア、ファインメッシュスピンフィルター、中空糸、平皿薄膜フィルター、沈降管(settling tube)、超音波細胞保持装置などが挙げられる。関心対象のポリペプチドおよび/またはウイルス(例えば、組換えポリペプチドおよび/または組換えウイルス)は、当該細胞培養システムから、例えば、当該細胞培養システムから除去した培地から回収することができる。
【0039】
用語「抗体」は、いくつかの態様において、ジスルフィド結合によって内部連結された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含むタンパク質を意味する。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVHと略される)と重鎖定常領域(本明細書においてCHと略される)とで構成される。いくつかの抗体、例えば、天然に存在するIgG抗体などにおいて、重鎖定常領域は、ヒンジと3つのドメインCH1、CH2、およびCH3とで構成される。いくつかの抗体、例えば、天然に存在するIgG抗体など、において、各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略される)と軽鎖定常領域とで構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(本明細書においてCLと略される)で構成される。VHおよびVL領域は、さらに、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域と、点在する、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存的な領域とに細別することができる。各VHおよびVLは、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4、においてアミノ末端からカルボキシ末端まで整列された3つのCDRおよび4つのFRで構成される。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合性ドメインを含む。重鎖は、C末端リジンを有し得るかまたは有し得ない。用語「抗体」は、二重特異性抗体または多重特異性抗体を包含する。
【0040】
「IgG抗体」、例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4抗体など、は、本明細書において使用される場合、いくつかの態様において、天然に存在するIgG抗体の構造を有し、すなわち、それは、同じサブクラスにおける天然に存在するIgG抗体と同じ数の重鎖および軽鎖およびジスルフィド結合を有する。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4抗体は、2つの重鎖(HC)と2つの軽鎖(LC)からなり得、その場合、当該2つのHCおよびLCは、それぞれ、天然に存在するIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4抗体において生じる、同じ数および位置のジスルフィド架橋によって連結される(抗体が、当該ジスルフィド架橋を修飾するために突然変異されていない限り)。
【0041】
免疫グロブリンは、一般的に知られているアイソタイプのうちのいずれかに由来し得、その例としては、これらに限定されるわけではないが、IgA、分泌IgA、IgG、およびIgMが挙げられる。IgGアイソタイプは、ある特定の種のサブクラス:ヒトにおけるIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、ならびにマウスにおけるIgG1、IgG2a、IgG2b、およびIgG3、に分けられる。免疫グロブリン、例えば、IgG1などは、いくつかのアロタイプにおいて存在し、それらは、せいぜいいくつかのアミノ酸しかお互いに異なっていない。「抗体」は、例えば、天然に存在する抗体と天然に存在しない抗体の両方;モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体;キメラ抗体およびヒト化抗体;ヒト抗体および非ヒト抗体、ならびに完全合成抗体を含む。
【0042】
抗体の「抗原結合性部分」なる用語は、本明細書において使用される場合、抗原に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つまたは複数の断片を意味する。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって実施することができることがわかっている。抗体の「抗原結合性部分」なる用語に包含される結合性断片の例としては、(i)Fab断片(パパイン切断に由来する断片)または、VL、VH、LC、およびCH1ドメインからなる同様の一価の断片;(ii)F(ab’)2断片(ペプシン切断に由来する断片)または、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む同様の二価の断片;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一のアームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片;(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546);(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、および(vii)適宜、合成リンカーによって連結することができる2つ以上の単離されたCDRの組合せ物が挙げられる。その上、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え方法を使用して、VLおよびVH領域が対を為して一価の分子を形成する単一のタンパク質鎖としてそれらを作製することを可能にする合成リンカーによって、連結することができる(単鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird et al. (1988) Science 242:423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照されたい)。そのような単鎖抗体も、抗体の「抗原結合性部分」なる用語内に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に既知の従来技術を使用して得られ、当該断片は、インタクトな抗体と同じ方式において有用性に対してスクリーニングされる。抗原結合性部分は、組換えDNA技術によって、またはインタクトな免疫グロブリンの酵素切断または化学切断によって作製することができる。
【0043】
用語「組換えヒト抗体」は、本明細書において使用される場合、組換え手段によって調製されるか、発現されるか、作製されるか、または単離される全てのヒト抗体、例えば、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックであるかもしくは導入染色体(Transchromosomal)である動物(例えば、マウス)またはそれらから調製されたハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するために形質転換された宿主細胞、例えばトランスフェクトーマなどから単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、および(d)他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作製、または単離された抗体など、を含む。
【0044】
本明細書において使用される場合、「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、およびIgE抗体)を意味する。
【0045】
アミノ酸は、本明細書において、それらの一般的に知られる3文字記号か、またはIUPAC-IUB生化学命名法委員会(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)によって推奨される1文字記号のどちらかによって参照される。同様に、ヌクレオチドは、それらの一般的に受けられる1文字コードによって参照される。
【0046】
本明細書において使用される場合、用語「ポリペプチド」は、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)によって直鎖状に連結されたモノマー(アミノ酸)で構成された分子を意味する。用語「ポリペプチド」、または「タンパク質」、または「産物(product)」、または「産物タンパク質」、または「アミノ酸残基配列」は、相互互換的に使用される。用語「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸による任意の鎖を意味し、ならびに特定の長さの産物を意味しない。本明細書において使用される場合、用語「タンパク質」は、1つまたは複数のポリペプチドで構成された分子であって、場合によりアミド結合以外の結合によって結合され得る分子を包含することが意図される。その一方で、タンパク質は、単一のポリペプチド鎖でもあり得る。この後者の場合、当該単一のペプチド鎖は、場合により、一緒に融合してタンパク質を形成する2つ以上のポリペプチドサブユニットを含むことができる。用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、発現後修飾、例えば、これらに限定されるわけではないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロック基による誘導体化、タンパク質切断、または非天然型アミノ酸による修飾などによる産物も意味する。ポリペプチドまたはタンパク質は、天然の生物源に由来してもよく、または組換え技術によって作製してもよいが、必ずしも、指定された核酸配列から翻訳される必要はない。それは、化学合成などの任意の方式において生成させることができる。
【0047】
用語「ポリヌクレオチド」または「ヌクレオチド」は、本明細書において使用される場合、単数の核酸ならびに複数の核酸を包含することが意図され、単離された核酸分子または構築物、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)、相補DNA(cDNA)、またはプラスミドDNA(pDNA)を意味する。ある特定の態様において、ポリヌクレオチドは、従来のホスホジエステル結合または従来にはない結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)において見出されるようなアミド結合)を含む。
【0048】
用語「核酸」は、ポリヌクレオチドに存在する任意の1つまたは複数の核酸セグメント、例えば、DNA、cDNA、またはRNA断片を意味する。核酸またはポリヌクレオチドに適用される場合、用語「単離された」は、その天然環境から除去された核酸分子、DNA、またはRNAを意味し、例えば、ベクターに含まれる抗原結合性タンパク質をコードする組換えポリヌクレオチドは、本開示の目的において、単離されていると見なされる。単離されたポリヌクレオチドのさらなる例としては、異種宿主細胞中に保持されるか、または溶液中の他のポリヌクレオチドから精製された(部分的に、または実質的に)組換えポリヌクレオチドが挙げられる。単離されたRNA分子は、本開示のポリヌクレオチドのインビボ(in vivo)またはインビトロ(in vitro)RNA転写物を含む。本開示による単離されたポリヌクレオチドまたは核酸は、さらに、合成によって作製されたそのような分子を含む。加えて、ポリヌクレオチドまたは核酸は、調節要素、例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合性部位、または転写終結シグナルなど、を含むことができる。
【0049】
II.培地をモニターする方法
本開示は、試験細胞培養培地から得られたラマンスペクトルを比較し、それを、劣化していない細胞培養培地の1つまたは複数の既知の成分のラマンスペクトルと比較することによる、ラマン分光法を使用して細胞培養培地の劣化を分析するための非常に効果的なアプローチを提供する。それぞれのラマンスペクトルは、培地自体から、あるいはその1つまたは複数の成分から取得することができる。例えば、当該細胞培養培地の単一の成分、例えば、チロシンまたは他のアミノ酸などに関して、1つまたは複数のラマンスペクトルを取得することができる。あるいは、またはさらに、1つまたは複数のラマンスペクトルを、劣化のために試験される細胞培養培地試料から取得することができる。この方式において、劣化による沈殿物または他の要素を、細胞培養培調製物において検出することができる。
【0050】
本開示の方法は、標的細胞培養培地のラマンスペクトルを収集するように、試料内の標的のボリュームのラマンスペクトルを収集するためにラマン分光計を制御することを含む。当該方法はさらに、当該細胞培養培地の既知の成分に一意に関連付けられる基準スペクトルを得ることを含む。当該基準スペクトルは、1つまたは複数の細胞培養培地成分の少なくとも1つのスペクトル測定を含む。その上、当該方法は、処理装置を使用して、基準スペクトルを当該収集したスペクトルと比較すること、および基準スペクトルと当該収集されたスペクトルとの比較に基づいて当該収集されたスペクトル内に少なくとも1つの望ましくない分子組成が存在するか否かを識別することも含む。これに関して、当該方法はさらに、収集されたスペクトル内において少なくとも1つの望ましくない分子組成を識別する、当該収集されたラマンスペクトルの分析に基づいて、細胞培養培地劣化が生じているか否かに関する指標を提供すること、ならびに収集されたラマンスペクトルにおいて劣化が検出された場合、製造プロセスでの使用の前に、製造プロセスを止めることおよび/または当該劣化した培地を破棄することを含む。収集されたスペクトルと、劣化していない細胞培養培地組成の基準スペクトルとの間において計算されたスペクトルの差の分析に基づいて、望ましくない分子または沈殿物を識別することによって、望ましくない分子組成を識別することができる。
【0051】
本開示のさらなる態様により、製造プロセスにおける劣化を検出するシステムは、光学イメージングシステムおよびプロセッサを含む。当該光学イメージングシステムは、細胞培養培地のラマンスペクトルを収集するように、試料エリア内の標的のボリュームへレーザーを向けるように制御するラマン分光計を実装する。プロセッサは、当該光学イメージングシステムに連結される。この方式において、当該プロセッサは、ラマンスペクトルを受け取るための、および既知の成分を記載する基準スペクトルにアクセスするためのプログラムコードを実行する。当該基準スペクトルは、1つまたは複数の細胞培養培地成分のスペクトル測定を含む。当該プロセッサは、さらに、基準スペクトルを当該収集したスペクトルと比較するための、ならびに、基準スペクトルと当該収集されたスペクトルとの比較に基づいて当該収集されたスペクトル内に少なくとも1つの望ましくない分子組成が存在するか否かを識別するための、プログラムコードを実行する。加えて、当該プロセッサは、当該収集されたスペクトル内において少なくとも1つの望ましくない分子組成が特定されるか否かに基づいて当該収集されたラマンスペクトルに劣化が存在するか否かに関する指標を提供するためのプログラムコードを実行し、ならびに収集されたラマンスペクトルにおいて劣化が検出された場合、製造プロセスでの使用の前に、製造プロセスを止めるか、および/または当該劣化した培地を破棄する。演算装置は、少なくとも1つの物質の投与前に取得されたラマンスペクトルおよび当該少なくとも1つの物質の投与後に取得されたラマンスペクトルの統計的評価によって当該少なくとも1つの物質に対する生体の反応を特定するように構成することができる。当該統計的評価は、主成分分析(PCA)、部分最小二乗分析(PLS)、クラスタ解析、および/または線形判別分析(LDA)を含むことができる。いくつかの態様において、当該統計的評価は、PCAを含むことができる。
【0052】
本開示の方法は、既知のラマンスペクトルを有する細胞培養培地に加えられたマーカーのモニタリングにとって有用でもある。いくつかの態様において、加えられるマーカーは、1つまたは複数のアミノ酸である。いくつかの態様において、加えられるマーカーは、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、アスパラギン(Asn)、アルギニン(Arg)、アラニン(Ala)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、およびバリン(Val)からなる群から選択される1つまたは複数のアミノ酸である。いくつかの態様において、加えられるマーカーは、リジン(Lys)、アスパラギン(Asn)、アラニン(Ala)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、およびバリン(Val)からなる群から選択される1つまたは複数のアミノ酸である。他の態様において、当該マーカーは、リジン、ヒスチジン、アスパラギン、またはアルギニンである。いくつかの態様において、当該マーカーは、リジン(Lys)およびアスパラギン(Asn)からなる群より選択される。他の態様において、当該マーカーは、チロシンである。いくつかの態様において、当該マーカーは、リジンである。いくつかの態様において、当該マーカーは、ヒスチジンである。他の態様において、当該マーカーは、アスパラギンである。他の態様において、当該マーカーは、アルギニンである。いくつかの態様において、アミノ酸マーカーは、蛍光活性ではない。いくつかの態様において、加えられるマーカーは、ビタミンである。いくつかの態様において、当該マーカーは、シアノコバラミン(B12)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、ピリドキサールHCl(B6(AL))、およびピリドキシンHCl(B6(INE))を含む群から選択される1つまたは複数のビタミンである。いくつかの態様において、当該マーカーは、B12である。いくつかの態様において、当該マーカーは、B9である。いくつかの態様において、当該マーカーは、B3である。いくつかの態様において、当該マーカーは、ピリドキサールHCl(B6(AL))である。いくつかの態様において、当該マーカーは、ピリドキシンHCl(B6(INE))である。
【0053】
細胞培養培地は、蛍光を示す物質を含むことができ、それらは、ラマン分光シグナルをマスクする傾向がある。当該蛍光は、典型的には、励起波長と無関係である。2つのわずかに異なる波長においてスペクトルが取得される場合、ラマンピークは、励起波長によってシフトするはずであるが、それぞれのスペクトルにおける蛍光は、概ね同じであるはずである。したがって、当該スペクトルを分解することにより(例えば、主成分分析によって)、蛍光を含まないスペクトルを生成することができる。
【0054】
本開示は、任意の設定における細胞の増殖に対するその有効性に影響を及ぼし得る、細胞培養培地における変化をモニターする方法にも関する。本開示の一態様は、細胞培養培地の成分の既知のスペクトルと比較するための、当該細胞培養培地試料のラマンスペクトルの測定を対象とする。本開示の方法は、ラマン分光法を用いて細胞培養培地のフィンガープリンティングを行い、および/または細胞培養培地にとって最適な貯蔵条件を識別するための方法であって、細胞培養培地のラマンスペクトルを収集することを含み、当該細胞培養培地は、1つまたは複数の成分の混合物を含有し、当該細胞培養培地のラマンスペクトルが、当該1つまたは複数の成分のそれぞれに関連付けられた1つまたは複数の基準スペクトル、または基準培地成分に関連付けられた基準スペクトルと比較される方法を対象とする。本開示の方法は、貯蔵された細胞培養培地の特定の成分の変化率を識別する、および/または貯蔵された細胞培養培地の変化をモニターするための方法であって、当該細胞培養培地のラマンスペクトルを収集すること(「収集されたスペクトル」)を含み、当該細胞培養培地のラマンスペクトルが、1つまたは複数の成分のそれぞれに関連付けられた基準スペクトルと比較される方法も対象とする。
【0055】
いくつかの態様において、当該基準スペクトルは、劣化していないはずである。いくつかの態様において、細胞培養培地のラマンスペクトルの収集は、少なくとも約1時間毎に、少なくとも約2時間毎に、少なくとも約3時間毎に、少なくとも約4時間毎に、少なくとも約5時間毎に、少なくとも6時間毎に、少なくとも7時間毎に、少なくとも約8時間毎に、少なくとも約9時間毎に、少なくとも約10時間毎に、少なくとも約11時間毎に、少なくとも約12時間毎に、少なくとも約13時間毎に、少なくとも約14時間毎に、少なくとも約15時間毎に、少なくとも約16時間毎に、少なくとも約17時間毎に、少なくとも約18時間毎に、少なくとも約19時間毎に、少なくとも約20時間毎に、少なくとも約21時間毎に、少なくとも約22時間毎に、少なくとも約23時間毎に、または少なくとも約24時間毎に実施される。いくつかの態様において、細胞培養培地のラマンスペクトルの収集は、少なくとも約25時間毎に、少なくとも約26時間毎に、少なくとも約27時間毎に、少なくとも約28時間毎に、少なくとも約29時間毎に、少なくとも約30時間毎に、少なくとも約31時間毎に、少なくとも約32時間毎に、少なくとも約33時間毎に、少なくとも約34時間毎に、少なくとも約35時間毎に、少なくとも約36時間毎に、少なくとも約37時間毎に、または少なくとも約38時間毎に、少なくとも約39時間毎に、少なくとも約40時間毎に、少なくとも約41時間毎に、少なくとも約42時間毎に、少なくとも約43時間毎に、少なくとも約44時間毎に、少なくとも約45時間毎に、少なくとも約46時間毎に、少なくとも約47時間毎に、少なくとも約48時間毎に、少なくとも約49時間毎に、または少なくとも約50時間毎に実施される。いくつかの態様において、細胞培養培地のラマンスペクトルの収集は、3時間毎に実施される。いくつかの態様において、細胞培養培地のラマンスペクトルの収集は、約2時間から約3時間の間、1時間から4時間の間、1時間から3時間の間、または2時間から4時間の間において実施される。いくつかの態様において、細胞培養培地のラマンスペクトルの収集は、3時間毎に実施される。
【0056】
いくつかの態様において、当該ラマンスペクトルは、少なくとも5データ点、少なくとも10データ点、少なくとも15データ点、少なくとも16データ点、少なくとも17データ点、少なくとも18データ点、少なくとも19データ点、少なくとも20データ点、少なくとも21データ点、少なくとも22データ点、少なくとも23データ点、少なくとも24データ点、少なくとも25データ点、少なくとも26データ点、少なくとも27データ点、少なくとも28データ点、少なくとも29データ点、少なくとも30データ点、少なくとも31データ点、少なくとも32データ点、少なくとも33データ点、少なくとも34データ点、少なくとも35データ点、少なくとも36データ点、少なくとも37データ点、少なくとも38データ点、少なくとも39データ点、少なくとも40データ点、少なくとも41データ点、少なくとも42データ点、少なくとも43データ点、少なくとも44データ点、少なくとも45データ点、少なくとも46データ点、少なくとも47データ点、少なくとも48データ点、少なくとも49データ点、または少なくとも50データ点の平均である。いくつかの態様において、当該ラマンスペクトルは、少なくとも51データ点、少なくとも52データ点、少なくとも53データ点、少なくとも54データ点、少なくとも55データ点、少なくとも56データ点、少なくとも57データ点、少なくとも58データ点、少なくとも59データ点、少なくとも60データ点、少なくとも61データ点、少なくとも62データ点、少なくとも63データ点、少なくとも64データ点、少なくとも65データ点、少なくとも66データ点、少なくとも67データ点、少なくとも68データ点、少なくとも69データ点、少なくとも70データ点、少なくとも71データ点、少なくとも72データ点、少なくとも73データ点、少なくとも74データ点、少なくとも75データ点、少なくとも76データ点、少なくとも77データ点、少なくとも78データ点、少なくとも79データ点、少なくとも80データ点、少なくとも81データ点、少なくとも82データ点、少なくとも83データ点、少なくとも84データ点、少なくとも85データ点、少なくとも86データ点、少なくとも87データ点、少なくとも88データ点、少なくとも89データ点、少なくとも90データ点、少なくとも91データ点、または少なくとも92データ点、少なくとも93データ点、少なくとも94データ点、少なくとも95データ点、少なくとも96データ点、少なくとも97データ点、少なくとも98データ点、少なくとも99データ点、または少なくとも100データ点の平均である。いくつかの態様において、細胞培養培地に対する当該ラマンスペクトルは、35データ点の平均である。
【0057】
いくつかの態様において、各データ点は、10秒毎、15秒毎、20秒毎、25秒毎、30秒毎、35秒毎、40秒毎、45秒毎、50秒毎、55秒毎、または60秒毎に測定される。いくつかの態様において、各データ点は、65秒毎、70秒毎、75秒毎、80秒毎、85秒毎、90秒毎、95秒毎、100秒毎、105秒毎、110秒毎、115秒毎、または120秒毎に測定される。
【0058】
本開示の方法は、試料から収集された生のラマンスペクトルの解析も伴う。いくつかの態様において、当該ラマンスペクトルは、多変量解析によって解析される。いくつかの態様において、当該多変量解析は、主成分分析(PCA)である。いくつかの態様において、当該PCAは、当該ラマンスペクトルに対するPCスコアを生成する。いくつかの態様において、当該多変量解析は、部分最小二乗分析(PLS)であり、この場合、当該分析は、較正予測モデルを生じる。いくつかの態様において、当該方法はさらに、細胞培養培地の当該収集されたスペクトルを比較することを含む。いくつかの態様において、当該比較は、基準スペクトルの基準PCスコアに対する当該収集されたスペクトルのPCスコアの比較を含む。
【0059】
いくつかの態様において、当該分析は、予想モデルに基づいている。モデルとして有用であるかまたは予測モデルを設計する際に有用である、確立された統計アルゴリズムおよび当技術分野において周知の方法は、これらに限定されるわけではないが、中でも特に、部分最小二乗(PLS)分析、標準正規変量(SNV)分析、分散分析(ANOVA);ベイジアンネットワーク;ブースティングおよびAdaブースティング;ブートストラップ・アグリゲーティング(bootstrap aggregating)(またはバギング)アルゴリズム;決定木による分類手法、例えば、分類と回帰木(CART)、ブーステッド(boosted)CART、ランダムフォレスト(RF)、再帰分割木(RPART)、および他のもの;カード・アンド・ホエー(CW);カード・アンド・ホエー-Lasso;次元縮小法、例えば、主成分分析(PCA)および因子回転または因子分析など;判別分析、例えば、線形判別分析(LDA)、Eigengene線形判別分析(ELDA)、および二次判別分析など;判別関数分析(DFA);因子回転または因子分析;遺伝的アルゴリズム;隠れマルコフモデル;カーネル(kernel)ベースのマシンアルゴリズム、例えば、カーネル密度推定、カーネル部分最小二乗アルゴリズム、カーネルマッチング追跡アルゴリズム、カーネルフィッシャー判別分析アルゴリズム、およびカーネル主成分分析アルゴリズムなど;線形回帰および一般化線形モデル例えば、前進線形ステップワイズ回帰、Lasso(またはLASSO)縮小選択法、およびElastic Net正則化および選択法など、またはそれを利用するもの:glmnet(LassoおよびElastic Net正則化一般化線形モデル);ロジスティック回帰(LogReg);メタ学習アルゴリズム;分類または回帰のための近傍法、例えば、K近傍法(KNN);非線形回帰または分類アルゴリズム;ニューラルネットワーク;部分最小二乗法;ルールベース分類;収縮重心法(shrunken centroid:SC);層別化逆回帰法;製品モデルデータ交換規格、アプリケーション翻案構成体(StepAIC);スーパー主成分(SPC)回帰;ならびにサポートベクトルマシン(SVM)および再帰的サポートベクトルマシン(RSVM)を含むことができる。さらに、当技術分野で知られているクラスタリングアルゴリズムは、対象サブグループを決定するのに有用であり得る。
【0060】
関心対象の分析物の固有ラマンスペクトルによる主成分分析(PCA)などの多変量統計的手法を用いてもよい。具体的には、スペクトルデータセットの線形多変数モデルは、主成分ベクトル(PC)を確立することによって構築され得、それは、当該データセットにおける統計的に最も重要な変動を提供するであろうし、当該試料マトリックスの次元数を減少させるであろう。このアプローチは、収集された各スペクトルのPCにスコアを割り当て、次いで、二次元プロットにおいて単一のデータ点として当該スペクトルをプロットすることを伴う。当該プロットは、同様のスペクトルのクラスタを明らかにするであろうし、結果として、個々の生物種(分析物および干渉分子)を分類することができ、密接に関連するものでも区別することができる。
【0061】
本開示の方法は、1つまたは複数の基準ラマンスペクトルについての知識を必要とする。当該1つまたは複数の基準スペクトルは、1つまたは複数の基準試料に基づいて生成され得る。各基準試料は、1つまたは複数の基本(生化学的)成分を含み得る。プロセッサは、当該1つまたは複数のラマンスペクトルに基づいて1つまたは複数の再構築されたラマン画像を生成するように構成され得る。当該プロセッサは、基準ラマンスペクトルに基づいて蛍光バックグラウンドを除去するように構成され得る。
【0062】
いくつかの態様において、当該方法はさらに、収集されたスペクトルのPCスコアが基準スペクトルの基準PCスコアから、少なくとも約10、少なくとも約11、少なくとも約12、少なくとも約13、少なくとも約14、少なくとも約15、少なくとも約16、少なくとも約17、少なくとも約18、少なくとも約19、少なくとも約20、少なくとも約21、少なくとも約22、少なくとも約23、少なくとも約24、少なくとも約25、少なくとも約26、少なくとも約27、少なくとも約28、少なくとも約29、または少なくとも約30異なっている場合に、当該細胞培養培地が劣化していると判断することを含む。いくつかの態様において、当該方法はさらに、収集されたスペクトルのPCスコアが基準スペクトルの基準PCスコアより高い場合に、当該細胞培養培地が劣化していると判断することを含む。いくつかの態様において、当該方法はさらに、収集されたスペクトルのPCスコアが基準スペクトルの基準PCスコアより低い場合に、当該細胞培養培地が劣化していると判断することを含む。
【0063】
いくつかの態様において、細胞培養培地は劣化しておらず、ならびに当該非劣化細胞培養培地は、劣化した培地と比較した場合に、培養下の細胞の生存率を約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%向上させる。
【0064】
いくつかの態様において、細胞培養培地は劣化しておらず、ならびに、当該非劣化細胞培養培地は、劣化した培地と比較した場合に、培養下の細胞の生存細胞密度を約1×10細胞/mL、約2×10細胞/mL、約3×10細胞/mL、約4×10細胞/mL、約5×10細胞/mL、約6×10細胞/mL、約7×10細胞/mL、約8×10細胞/mL、約9×10細胞/mL、約10×10細胞/mL、約11×10細胞/mL、約12×10細胞/mL、約13×10細胞/mL、約14×10細胞/mL、約15×10細胞/mL、約16×10細胞/mL、約17×10細胞/mL、約18×10細胞/mL、約19×10細胞/mL、約20×10細胞/mL、約21×10細胞/mL、約22×10細胞/mL、約23×10細胞/mL、約24×10細胞/mL、約25×10細胞/mL、約26×10細胞/mL、約27×10細胞/mL、約28×10細胞/mL、約29×10細胞/mL、または約30×10細胞/mL向上させる。
【0065】
いくつかの態様において、細胞培養培地は劣化しておらず、ならびに、当該非劣化細胞培養培地は、劣化した培地と比較した場合に、培養下の細胞の抗体産生力価を約0.1g/L、約0.2g/L、約0.3g/L、約0.4g/L、約0.5g/L、約0.6g/L、約0.7g/L、約0.8g/L、約0.9g/L、約1.0g/L、約1.1g/L、約1.2g/L、約1.3g/L、約1.4g/L、約1.5g/L、約1.6g/L、約1.7g/L、約1.8g/L、約1.9g/L、約2.0g/L、約2.1g/L、約2.2g/L、約2.3g/L、約2.4g/L、約2.5g/L、約2.6g/L、約2.7g/L、約2.8g/L、約2.9g/L、約3.0g/L、約3.1g/L、約3.2g/L、約3.3g/L、約3.4g/L、約3.5g/L、約3.6g/L、約3.7g/L、約3.8g/L、約3.9g/L、約4.0g/L、約4.1g/L、約4.2g/L、約4.3g/L、約4.4g/L、約4.5g/L、約4.6g/L、約4.7g/L、約4.8g/L、約4.9g/L、約5.0g/L、約5.1g/L、約5.2g/L、約5.3g/L、約5.4g/L、約5.5g/L、約5.6g/L、約5.7g/L、約5.8g/L、約5.9g/L、または約6.0g/L向上させる。
【0066】
いくつかの態様において、本開示の方法によって分析することができる既知の基準スペクトルを有するマーカーが、細胞培養組成物中に存在する。本開示の方法は、マーカーとしての既知の成分の追加によって組成物の劣化を検出するためにも有用であり得る。いくつかの態様において、マーカーが、当該細胞培養培地に加えられる。いくつかの態様において、当該マーカーは、リジン、ヒスチジン、アスパラギン、アラニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシンイソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、バリン、およびアルギニンからなる群より選択される。いくつかの態様において、当該マーカーは、チロシンである。他の態様において、マーカーは、糖である。いくつかの態様において、当該マーカーは、フルクトース、マルトース、ヘキソース、アラビノース、またはスクロースからなる群より選択される。いくつかの態様において、当該マーカーはグルコースではない。いくつかの態様において、当該マーカーは乳酸ではない。いくつかの態様において、マーカーは、ビタミンである。いくつかの態様において、当該ビタミンは、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、および葉酸からなる群より選択される。いくつかの態様において、当該マーカーは、シアノコバラミン(B12)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、ピリドキサールHCl(B6(AL))、およびピリドキシンHCl(B6(INE))からなる群より選択される。
【0067】
いくつかの態様において、当該ラマンスペクトルは、約500cm-1から約1700cm-1、約500cm-1から約1800cm-1、約500cm-1から約1900cm-1、約500cm-1から約2000cm-1、約500cm-1から約2100cm-1、約500cm-1から約2200cm-1、約500cm-1から約2300cm-1、約500cm-1から約2400cm-1、約500cm-1から約2500cm-1、約500cm-1から約2600cm-1、約500cm-1から約2700cm-1、約500cm-1から約2800cm-1、約500cm-1から約2900cm-1、または約500cm-1から約3000cm-1の範囲において測定される。いくつかの態様において、当該ラマンスペクトルは、500cm-1から3000cm-1の範囲において測定される。
【0068】
いくつかの態様において、当該ラマンスペクトルは、約500cm-1から約3000cm-1、約600cm-1から約3000cm-1、約600cm-1から約2900cm-1、約700cm-1から約2900cm-1、約700cm-1から約2800cm-1、約800cm-1から約2800cm-1、約800cm-1から約2700cm-1、約900cm-1から約2700cm-1、約900cm-1から約2600cm-1、約1000cm-1から約2600cm-1、約1000cm-1から約2500cm-1、約1100cm-1から約2500cm-1、約1100cm-1から約2400cm-1、または約1200cm-1から約2400cm-1、約1200cm-1から約2300cm-1、約1300cm-1から約2300cm-1、約1300cm-1から約2200cm-1、約1400cm-1から約2200cm-1、約1400cm-1から約2100cm-1、約1500cm-1から約2100cm-1、約1500cm-1から約2000cm-1、約1600cm-1から約2000cm-1、約1600cm-1から約1900cm-1、約1700cm-1から約1900cm-1、または約1800cm-1から約1900cm-1の範囲において測定される。
【0069】
いくつかの態様において、当該方法はさらに、収集されたスペクトルのPCスコアが、基準スペクトルの基準PCスコアと同じかまたは、約20以下、約19以下、約18以下、約17以下、約16以下、約15以下、約14以下、約13以下、約12以下、約11以下、約10以下、約9以下、約8以下、約7以下、約6以下、約5以下、約4以下、約3以下、約2以下、または約1以下で近似している場合に、当該細胞培養培地は安定であると判断することを含む。
【0070】
いくつかの態様において、当該細胞培養培地は、約8日間、約9日間、約10日間、約11日間、約12日間、約15日間、約16日間、約17日間、約18日間、約19日間、約20日間、約21日間、約22日間、約23日間、約24日間、約25日間、約26日間、約27日間、約28日間、約29日間、約30日間、約1ヶ月間、約1.5ヶ月間、約40日間、約50日間、約60日間、約2ヶ月間、約70日間、約80日間、約90日間、約3ヶ月間、約100日間、約110日間、約120日間、約4ヶ月間、約5ヶ月間、または約6ヶ月間の貯蔵に対して判断される。いくつかの態様において、当該細胞培養培地は、約12ヶ月間、約18ヶ月間、約24ヶ月間、約30ヶ月間、約36ヶ月間、約42ヶ月間、約48ヶ月間、約54ヶ月間、または約60ヶ月間の貯蔵に対して判断される。
【0071】
本開示の方法は、製造プロセスの間に細胞培養をモニターすることをさらに含む。いくつかの態様において、当該方法は、上流の細胞培養プロセスをモニターすることをさらに含む。いくつかの態様において、当該上流の細胞培養プロセスは、バッチ反応器プロセスを含む。いくつかの態様において、当該上流の細胞培養プロセスは、潅流反応器プロセスを含む。他の態様において、当該上流の細胞培養プロセスは、流加バッチ反応器プロセスを含む。
【0072】
哺乳動物細胞培養において、当該細胞培養培地は、最高で約100以上の化合物を含むことができる。例えば、炭水化物(例えば、異化作用によるエネルギーの生成のため、または補充反応によるビルディングブロックとして)、アミノ酸(例えば、細胞タンパク質のためのビルディングブロックおよび治療用タンパク質産生の場合の産物)、脂質および/または脂肪酸(例えば、細胞膜合成のため)、DNAおよびRNA(例えば、増殖ならびに細胞有糸分裂および減数分裂のため)、ビタミン(例えば、酵素反応のための補因子として)、微量元素、様々な塩、増殖因子、担体、輸送体など。これらの成分および化合物群は、技術的培養環境での哺乳動物細胞の複雑な栄養要求を満たすために必要である。いくつかの態様において、本開示のために使用される培養培地は、古典的細胞培養培地、例えば、全ての成分および全ての濃度が公開されているDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium))などを含む。そのような細胞培養培地の開発は、1950年代後半まで遡り、学術的文献において包括的に説明される。別の例は、1970年代に開発されたハムF12(ハム栄養混合物F12)、または、そのような古典的細胞培養物の混合物/改変、例えば、1970年代および1980年代に開発されたDMEM:F12(ダルベッコ改変イーグル培地/ハム栄養混合物F12)など、である。本開示にとって有用な別の培養培地は、RPMIを含む。RPMIは、1970年代に、ロズウェルパーク記念研究所(Roswell Park Memorial Institute)においてMooreらによって開発された(したがって、頭文字語RPMI)。例えば、RPMI-1640など、様々な改良型が、動物細胞培養物において使用される。これらの古典的培地の多くは、何十年も前に開発されたが、これらの配合物は、依然として、現在行われている細胞培養研究の多くの基礎を形成し、ならびに、各化合物に対する完全に既知の組成および完全に既知の濃度の培地に対する、動物細胞培養における現状技術水準を表している。これらの培地の全ては、市販されており、供給元から得ることができる(例えば、Sigma-Aldrichから)。
【0073】
他の態様において、本開示にとって有用な細胞培養培地としては、市販の細胞培養培地、例えば、基本培地(ActiCHO P)および供給培地(ActiCHO Feed A+B)からなる市販の培地ActiCHO(PAAによる)が挙げられ、それらは、供給元の定義に従って化学的に定義される(単一の化学物質のみであり、動物由来の物質、成長因子、ぺプチド、およびペプトンを含有しない)。当該2つの供給は、濃縮アミノ酸、ビタミン、塩、微量元素、および炭素源(供給A)と濃縮形態における選択されたアミノ酸(供給B)とからなる。いくつかの態様において、当該培養培地は、Ex-Cell CD CHO(SAFC Biosciences)を含む。この培地は、動物成分不含で、SAFCに従って化学的に定義され、血清不含であり、配合も特許で保護されている。他の態様において、当該培養培地は、CD CHO(Life technologies)を含む。この培地は、タンパク質不含、血清不含であり、Life technologiesに従って化学的に定義されている。それは、動物、植物、または合成由来のタンパク質/ペプチド、または未定義の溶解物/加水分解物を含有しない。このCD CHO基本培地は、Efficient Feed A、B、およびCと命名された供給培地と組み合わせることができる。当該供給は、動物起源不含であり、成分は、より高い濃度において含有される。当該供給物は、化学的に定義される。タンパク質、脂質、増殖因子、加水分解物、および未知の組成物の成分は使用されない。それは、炭素源、濃縮アミノ酸、ビタミン、および微量元素を含有する。市販されている別の供給物は、Cell Boost1~6の名前でThermo Fisherから入手することができる。それは、Thermo Fisherにより化学的に定義されており、タンパク質不含、および動物由来成分不含である。Cell Boost1および2は、アミノ酸、ビタミン、およびグルコースを含有する。Cell Boost3は、アミノ酸、ビタミン、グルコースおよび微量元素を含有する。Cell Boost4は、アミノ酸、ビタミン、グルコース、微量元素、および増殖因子を含有する。ならびに、Cell Boost5および6は、アミノ酸、ビタミン、グルコース、微量元素、増殖因子、脂質、およびコレステロールを含有する。
【0074】
アミノ酸
アミノ酸は、タンパク質合成のため、細胞タンパク質、および組換えタンパク質またはタンパク質由来物質の場合における産物の生成の両方に必須の役割を有する。例えば、タンパク質は、より大きいタンパク質またはタンパク質複合体を形成するために、単一のアミノ酸分子から細胞機構によって合成される。哺乳動物細胞培養において、哺乳動物細胞は、他の前駆体およびビルディングブロックから必須アミノ酸を合成することができないため、必須アミノ酸は、細胞培養培地によって提供される必要がある。アミノ酸は、生化学的にも重要であり、なぜなら、これらの分子は、当該分子が他の生物学的分子と相互作用するのを可能にする2つの官能基(アミノ基および酸性基)を有するからである。これらの理由から、アミノ酸を含有する細胞培養培地は、多くの場合、様々な(定義および未定義の)小分子ペプチド、加水分解物、タンパク質、および異なる起源由来のタンパク質混合物(動物由来、植物由来、または化学的に定義された)も補われる。したがって、1つまたは複数のアミノ酸は、本開示によるラマン分光法のためのマーカーとして使用することができる。
【0075】
本開示に有用な1つまたは複数のアミノ酸は、普遍的遺伝コードによってコードされる20の天然アミノ酸、典型的には、L体(すなわち、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、およびL-バリン)を含む。他の態様において、本開示のための当該1つまたは複数のアミノ酸は、天然に存在しないアミノ酸を含む。当該アミノ酸(例えば、グルタミンおよび/またはチロシン)は、例えば、L-アラニン延長(L-ala-x)またはL-グリシン延長(L-gly-x)、例えば、グリシル-グルタミンおよびアラニル-グルタミンなど、を含有する、増加した安定性および/または溶解性を有するジペプチドとして提供することができる。さらに、システインは、L-シスチンとして提供することができる。用語「アミノ酸」は、本明細書において使用される場合、異なる全てのその塩、例えば(これらに限定されるわけではないが)、L-アルギニン一塩酸塩、L-アスパラギン一水和物、L-システイン塩酸塩一水和物、L-シスチン二塩酸塩、L-ヒスチジン一塩酸二水和物、L-リジン一塩酸塩、およびヒドロキシルL-プロリン、L-チロシンジナトリウム二水和物など、を包含する。溶解性、オスモル濃度、安定性、純度などの特性が損なわれない限り、アミノ酸の正確な形態は、本開示にとって重要ではない。いくつかの態様において、L-アルギニンは、L-アルギニン×HClとして使用され、L-アスパラギンは、L-アスパラギン×HOとして使用され、L-システインは、L-システイン×HCI×HOとして使用され、L-シスチンは、L-シスチン×2HClとして使用され、L-ヒスチジンは、L-ヒスチジン×HCl×HOとして使用され、ならびにL-チロシンは、L-チロシン×2Na×2HOとして使用され、この場合、それぞれのアミノ酸の形態は、お互いに独立して、または一緒に、またはそれらの任意の組合せにおいて選択することができる。さらに、1つまたは2つの関連アミノ酸を含むジペプチドも包含される。例えば、L-グルタミンは、多くの場合、貯蔵中または長期培養の間における、安定性を向上させるため、およびアンモニウムの形成を減らすために、ジペプチドの形態、例えば、L-アラニル-L-グルタミンなど、において細胞培養培地に加えられる。
【0076】
いくつかの態様において、本方法は、1つまたは複数のポリペプチドを生成するために使用される。いくつかの態様において、当該ポリペプチドは、抗体またはその抗原結合性部分を含む。他の態様において、当該ポリペプチドは、免疫グロブリン成分(例えば、Fc成分)および増殖因子(例えば、インターロイキン)からなる融合タンパク質、抗体、または任意の抗体由来の分子フォーマットまたは抗体断片を含む。
【0077】
他の態様において、当該ポリペプチドは、天然に存在するタンパク質を含む。他の態様において、当該ポリペプチドは、タンパク質、ポリペプチド、その断片、ぺプチド、その全てが選択された宿主細胞において発現することができる融合タンパク質、例えば、組換えタンパク質、すなわち、分子クローニングから得られる組換えDNAによってコードされるタンパク質を含む。そのようなポリペプチドは、抗体、酵素、サイトカイン、リンホカイン、接着分子、受容体および誘導体またはその断片、ならびに、アゴニストまたはアンタゴニストとしてとして機能することができ、および/または、治療用途もしくは診断用途を有することができるかまたは研究用試薬として使用することができる、任意の他のポリペプチドであり得る。いくつかの態様において、当該ポリペプチドは、分泌タンパク質またはタンパク質断片、例えば、抗体または抗体断片またはFc融合タンパク質である。
【0078】
いくつかの態様において、当該ポリペプチドは、培養された細胞から産生される。いくつかの態様において、当該細胞は、原核生物細胞である。細菌系において、いくつかの発現ベクターは、発現されるタンパク質分子に対して意図される使用に応じて有利に選択することができる。例えば、多量のそのようなタンパク質が産生される場合、タンパク質分子の医薬組成物の生成のために、容易に精製されるタンパク質産物の高いレベルの発現を対象とするベクターは、望ましくあり得る。
【0079】
他の態様において、当該細胞は、真核生物細胞である。いくつかの態様において、当該細胞は、哺乳動物細胞である。いくつかの態様において、当該細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞、マウス骨髄腫(NS0)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、サル腎臓繊維芽細胞(COS-7)、マディン-ダービーウシ腎細胞(MDBK)、およびそれらの任意の組合せから選択される。一態様において、当該細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞である。いくつかの態様において、当該細胞は、昆虫細胞、例えば、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞である。
【0080】
他の態様において、当該細胞は、哺乳動物細胞である。そのような哺乳動物細胞としては、これらに限定されるわけではないが、CHO、VERO、BHK、Hela、MDCK、HEK293、NIH3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT2OおよびT47D、NS0、CRL7O3O、COS(例えば、COS1またはCOS)、PER.C6、VERO、HsS78Bst、HEK-293T、HepG2、SP210、R1.1、B-W、L-M、BSC1、BSC40、YB/20、BMT10、およびHsS78Bst細胞が挙げられる。
【0081】
いくつかの態様において、当該哺乳動物細胞は、CHO細胞である。いくつかの態様において、当該CHO細胞は、CHO-DG44、CHOZN、CHO/dhfr-、CHOK1SV GS-KO、またはCHO-Sである。いくつかの態様において、当該CHO細胞は、CHO-DG4である。いくつかの態様において、当該CHO細胞は、CHOZNである。
【0082】
本明細書において開示される他の好適なCHO細胞系としては、CHO-K(例えば、CHO K1)、CHO pro3-、CHO P12、CHO-K1/SF、DUXB11、CHO DUKX;PA-DUKX;CHO pro5;DUK-BII、またはその誘導体が挙げられる。
【0083】
いくつかの態様において、本開示による培養培地によって産生されるタンパク質は、融合タンパク質である。「融合物」または「融合」タンパク質は、本来は自然には連結しない第2のアミノ酸配列にインフレームに連結した第1のアミノ酸配列を含む。通常は別々のタンパク質に存在するアミノ酸配列を、融合ポリペプチドにおいて一緒にすることができ、または、通常は同じタンパク質に存在するアミノ酸配列を、融合ポリペプチドにおいて新たな配置に置くこともできる。融合タンパク質は、例えば、化学合成によって、またはペプチド領域が所望の関係性においてコードされるポリヌクレオチドを作製し翻訳することによって、作製される。融合タンパク質は、共有結合性の非ペプチド結合または非共有結合によって第1のアミノ酸配列に関連付けられた第2のアミノ酸配列をさらに含むことができる。転写/翻訳の際に、単一のタンパク質が作製される。この方法において、複数のタンパク質、またはその断片を、単一のポリペプチドに組み込むことができる。「作動可能に連結された(operably linked)」は、2つ以上の要素の間における機能的結合を意味することが意図される。例えば、2つのポリペプチドの間の作動可能な連結は、インフレームに両方のポリペプチドを一緒に融合させることにより、単一のポリペプチド融合タンパク質を生成する。特定の態様において、当該融合タンパク質は、第3のポリペプチドを含み、それは、下記においてより詳細に説明されるように、リンカー配列をさらに含むことができる。
【0084】
いくつかの態様において、本開示による培養培地によって産生されるタンパク質は、抗体である。抗体は、例えば、モノクローナル抗体、組換えによって作製された抗体、単一特異性抗体、多重特異性抗体、(例えば、二重特異性抗体など)、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、免疫グロブリン、合成抗体、2つの重鎖分子と2つの軽鎖分子とを含む四量体抗体、抗体軽鎖モノマー、抗体重鎖モノマー、抗体軽鎖ダイマー、抗体重鎖ダイマー、抗体軽鎖-抗体重鎖対、細胞内抗体(intrabody)、ヘテロコンジュゲート抗体、単一ドメイン抗体、一価抗体、一本鎖抗体または一本鎖Fvs(scFv)、ラクダ抗体、アフィボディ(affybody)、Fab断片、F(ab’)2断片、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、抗抗Id抗体など)、および上記のいずれかにおける抗原結合断片を含み得る。ある特定の態様において、本明細書において説明される抗体は、ポリクローナル抗体集団を意味する。抗体は、免疫グロブリン分子の、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、またはIgY)、任意のクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、またはIgA2)、または任意のサブクラス(例えば、IgG2aまたはIgG2b)のものであり得る。ある特定の態様において、本明細書において説明される抗体は、IgG抗体、またはそれらのクラス(例えば、ヒトIgG1またはIgG4)またはサブクラスである。特定の態様において、当該抗体は、ヒト化モノクローナル抗体である。別の特定の態様において、当該抗体は、ヒトモノクローナル抗体であり、好ましくは、それは、免疫グロブリンである。ある特定の態様において、本明細書において説明される抗体は、IgG1またはIgG4抗体である。
【0085】
いくつかの態様において、本明細書に記載されるタンパク質は、「抗原結合性ドメイン」、「抗原結合領域」、「抗原結合断片」、および同様の用語であり、それらは、抗体分子に抗原に対するその特異性を付与するアミノ酸残基を含む抗体分子の一部(例えば、相補性決定領域(CDR))を意味する。抗原結合領域は、任意の動物種、例えば、齧歯動物(例えば、マウス、ネズミ、またはハムスター)および人間などに由来し得る。
【0086】
いくつかの態様において、当該タンパク質は、抗LAG3抗体、抗CTLA-4抗体、抗TIM3抗体、抗NKG2a抗体、抗ICOS抗体、抗CD137抗体、抗KIR抗体、抗TGFβ抗体、抗IL-10抗体、抗B7-H4抗体、抗Fasリガンド抗体、抗メソテリン抗体、抗CD27抗体、抗GITR抗体、抗CXCR4抗体、抗CD73抗体、抗TIGIT抗体、抗OX40抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗IL8抗体、またはそれらの任意の組合せである。いくつかの態様において、当該タンパク質は、アバタセプトNGPである。他の態様において、当該タンパク質は、ベラタセプトNGPである。
【0087】
いくつかの態様において、当該タンパク質は、抗GITR(グルココルチコイド誘導腫瘍壊死因子受容体ファミリー関連遺伝子)抗体である。いくつかの態様において、当該抗GITR抗体は、6C8のCDR配列を有し、例えば、国際公開第2006/105021号に記載されるような、6C8のCDRを有するヒト化抗体;国際公開第2011/028683号に記載される抗GITR抗体のCDRを含む抗体;特開2008-278814に記載される抗GITR抗体のCDRを含む抗体、国際公開第2015/031667号、国際公開第2015/187835号、国際公開第2015/184099号、WO2016/054638、国際公開第2016/057841号、国際公開第2016/057846号、国際公開第2018/013818号に記載の抗GITR抗体のCDRを含む抗体、あるいは本明細書において記載または言及される他の抗GITR抗体であり、なお、当該文献の全ては、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0088】
他の態様において、当該タンパク質は、抗LAG3抗体である。LAG-3としても知られるリンパ球活性化遺伝子3は、ヒトにおいてLAG3遺伝子によってコードされるタンパク質である。LAG3は、1990年に発見され、T細胞機能に対する様々な生物学的効果を有する細胞表面分子である。それは、免疫チェックポイント受容体であり、そのため、癌および自己免疫異常のための新規の治療の開発に努める薬品会社による様々な薬物開発計画の標的である。それは、可溶性形態において、それ自体、制癌剤としても開発されている。抗LAG3抗体の例としては、これらに限定されるわけではないが、国際公開第2017/087901(A2)号、国際公開第2016/028672(A1)号、国際公開第2017/106129(A1)号、国際公開第2017/198741(A1)号、米国特許出願公開第2017/0097333(A1)号、米国特許出願公開第2017/0290914(A1)号、および米国特許出願公開第2017/0267759(A1)号における抗体が挙げられ、なお、当該文献の全ては、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0089】
いくつかの態様において、当該タンパク質は、抗CXCR4抗体である。CXCR4は、7回膜貫通タンパク質であり、G1と共役している。CXCR4は、造血性起源の細胞において広く発現され、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)に対してCD4+を伴う主要な共受容体である。Feng, Y., Broeder, C.C., Kennedy, P. E., and Berger, E. A. (1996) Science 272, 872-877を参照されたい。抗CXCR4抗体の例としては、これらに限定されるわけではないが、国際公開第2009/140124(A1)号、米国特許出願公開第2014/0286936(A1)号、国際公開第2010/125162(A1)号、国際公開第2012/047339(A2)号、国際公開第2013/013025(A2)号、国際公開第2015/069874(A1)号、国際公開第2008/142303(A2)号、国際公開第2011/121040(A1)号、国際公開第2011/154580(A1)号、国際公開第2013/071068(A2)号、および国際公開第2012/175576(A1)号における抗体が挙げられ、なお、当該文献の全ては、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0090】
いくつかの態様において、当該タンパク質は、抗CD73(エクト-5’-ヌクレオチターゼ)抗体である。いくつかの態様において、当該抗CD73抗体は、アデノシンの形成を阻害する。アデノシンへのAMPの分解は、結果として、癌の発症および進行を促進する、免疫抑制され血管新生誘導性の適所(niche)を腫瘍微小環境内に作り出す。抗CD73抗体の例としては、これらに限定されるわけではないが、国際公開第2017/100670(A1)号、国際公開第2018/013611(A1)号、国際公開第2017/152085(A1)号、および国際公開第2016/075176(A1)号における抗体が挙げられ、なお、当該文献の全ては、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0091】
いくつかの態様において、当該タンパク質は、抗TIGIT(IgおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)抗体である。TIGITは、免疫グロビンタンパク質のPVR(ポリオウイルス受容体)ファミリーのメンバーである。TIGITは、甲状腺濾胞腺癌BヘルパーT細胞(TFH)を含むいくつかのT細胞のクラスにおいて発現される。当該タンパク質は、高い親和性においてPVRに結合することが示されており、この結合は、TFHと樹状細胞との間の相互作用を支援することにより、T細胞依存性B細胞反応を調節すると考えられる。抗TIGIT抗体の例としては、これらに限定されるわけではないが、国際公開第2016/028656(A1)号、国際公開第2017/030823(A2)号、国際公開第2017/053748(A2)号、国際公開第2018/033798(A1)号、国際公開第2017/059095(A1)号、および国際公開第2016/011264(A1)号における抗体が挙げられ、なお、当該文献の全ては、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0092】
いくつかの態様において、当該タンパク質は、抗OX40(すなわち、CD134)抗体である。OX40は、腫瘍壊死因子(TNF)リガンドファミリーのサイトカインである。OX40は、T細胞と抗原提示細胞(APC)の相互作用において機能し、内皮細胞への活性化されたT細胞の付着を媒介する。抗OX40抗体の例としては、これらに限定されるわけではないが、国際公開第2018/031490(A2)号、国際公開第2015/153513(A1)号、国際公開第2017/021912(A1)号、国際公開第2017/050729(A1)号、国際公開第2017/096182(A1)号、国際公開第2017/134292(A1)号、国際公開第2013/038191(A2)号、国際公開第2017/096281(A1)号、国際公開第2013/028231(A1)号、国際公開第2016/057667(A1)号、国際公開第2014/148895(A1)号、国際公開第2016/200836(A1)号、国際公開第2016/100929(A1)号、国際公開第2015/153514(A1)号、国際公開第2016/002820(A1)号、および国際公開第2016/200835(A1)号が挙げられ、なお、当該文献の全ては、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0093】
いくつかの態様において、当該タンパク質は、抗IL8抗体である。IL-8は、好中球、好塩基球、およびT細胞を誘引するが単球は誘引しない走化性因子である。それは、好中球活性化にも関与する。それは、炎症刺激に反応して様々な細胞タイプから放出される。
【0094】
いくつかの態様において、当該タンパク質は、アバタセプトである(ORENCIA(登録商標)として市販される)。アバタセプト(本明細書においてAbaとも省略される)は、T細胞の免疫活性を妨げることによって慢性関節リウマチのような自己免疫疾患を治療するために使用される薬物である。アバタセプトは、CTLA-4の細胞外ドメインに融合した免疫グロブリンIgG1のFc領域で構成される融合タンパク質である。T細胞を活性化して免疫応答を生じさせるために、抗原提示細胞は、2つのシグナルをT細胞に対して提示しなければならない。これらのシグナルの一方は、抗原と組み合わされた主要組織適合複合体(MHC)であり、他方のシグナルは、CD80またはCD86分子(B7-1およびB7-2としても知られる)である。
【0095】
いくつかの態様において、当該タンパク質は、ベラタセプト(商標NULOJIX(登録商標))である。ベラタセプトは、CTLA-4の細胞外ドメインに連結したヒトIgG1免疫グロブリンのFc断片で構成される融合タンパク質であり、T細胞同時刺激の調節において重要な分子であり、T細胞活性化のプロセスを選択的にブロックする。標準的免疫抑制レジメン、例えば、カルシニューリン阻害剤などによって生成される毒性を限定しながら、拡張された移植組織および移植物の生存を提供することが意図される。それは、2つだけのアミノ酸によってアバタセプト(ORENCIA(登録商標))とは異なっている。
【0096】
本開示は、細胞培養培地を分析することができる機器を使用してラマンスペクトルの測定を実施するための機器にも関する。いくつかの態様において、当該機器は、細胞培養培地中の1つまたは複数の成分の混合物を含み、当該機器は、当該細胞培養培地試料を保持するための細胞培養培地試料ホルダーと;当該細胞培養培地試料ホルダーによって保持された当該細胞培養培地試料に光照射するためのレーザー光源と;当該細胞培養培地試料ホルダーによって保持された当該細胞培養培地試料において当該細胞培養培地中の1つまたは複数の成分の運動を検出するように配置された粒子運動検出器と;当該レーザー光源による光照射の結果として生じた当該細胞培養培地試料からのスペクトルを受け取るように配置されたスペクトル検出器とを含む。
【0097】
本開示の様々な態様が、以下のサブセクションにおいて、さらに詳細に説明される。本開示はさらに、下記の実施例によって例示されるが、当該実施例は、さらなる制限として解釈されるべきではない。本願全体を通して引用される全ての参考文献の内容は、明確に参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例
【0098】
培地組成およびそのような組成の変化率を「フィンガープリント」する特定のラマン技術の能力を、一連の研究において評価した。結果は、この技術が、培地調製に起因するエラーを検出することができ、培地のエイジングの時のその変化をモニターすることができ、ならびに、劣化における異なるモード(光対熱)に起因する変動を検出することができることを示している。ラマン検出された劣化の機能的確認を提供するため、劣化条件に晒された培地を、生産バイオリアクター実施においても試験した。培地内の特定のアミノ酸およびビタミンを定量的にモニターするために、ラマンモデルを構築し、当該モデルの正確性を、既知の濃度に対して評価した。下記の実施例に基づいて、ラマンは、培地の変化をモニターするための分析ツールとして利用することができ、そのラマンベースのモデルは、培地内の各成分のレベルを予測することができる。
[実施例1]
【0099】
機器のセットアップ
ラマンは、オンラインまたはオフラインで提供される試料からの測定を提供することができる。オンライン測定の場合、ステンレスTコネクタを使用した(図2Aおよび2B)。汚染を防ぐために、最初に、配管(底部)およびラマンプローブ(上端)を取り付けたTコネクタセットアップをオートクレーブ処理し、次いで、バッグに接続した後、無菌管接続手順を行った。培地を、蠕動式ポンプを使用して当該コネクタを通って流送し、調節可能な時間増分においてデータを収集した。オフライン測定の際は、20mLガラスバイアル瓶または200mLビーカーのどちらかを使用して培地を収集した。両方の容器は、ラマン散乱による光干渉を排除するためにカバーで覆った(図3)。供給培地および基本培地の両方を評価した。基本培地は、接種の時点での当該プロセスの培地である。供給培地は、より高い濃度の多くの成分を有し、生産プロセス全体を通して当該培養物に加えられる。
【0100】
曝露条件を最適化して、12分間にわたって収集した35データ点(20秒毎に1データ点)から、平均化したラマン結果を得た。当該平均化したデータは、妥当な時間内における、ならびにシグナルを飽和させない最適分解能を提供した。各測定のラマンスペクトルを、多変量解析によって解析した。
【0101】
多変量解析は、多くの変数を同時に解釈するために使用される技術である。主成分分析(PCA)は、多変量ベースの技術であり、大きな変数のセットを、必要な情報を含むより小さいセットへと絞り込むのに役立ち得る。PCAにおいて、主成分(PC)と呼ばれる直交する変数が、生のラマンスペクトルによって占められた同じデータ空間において生成され、元の変数(すなわち、波数)の線形結合を形成する。最初のPC値は、データにおけるできるだけ多くの変動を説明し、ならびに、続く各値は、できるだけ多くの残りの変動を説明する。PCスコアは、スペクトルが似ているかそれとも異なっているかを示すことができ、すなわち、2つの測定のラマンスペクトルが似ている場合には、PCスコアは一緒にグループ化するであろうし、似ていない場合は、測定は別々に分かれるであろう。PC負荷プロットは、特定のPCに対する各波数の貢献を明らかにし、主要な差が何に起因するのかを示す。全ての計算は、Matlab(v.8.6.2)によって補足されたPLS_Toolboxを使用して実施した。
【0102】
最初に、データにおける無関係な変動および体系的な変動を低下させるまたは排除するために、生のラマンデータを、PCAを行う前に前処理した。当該前処理は、主に、ベースラインをオフセットしてバックグラウンドノイズを除去するため、すなわち、潜在的スケーリングまたはゲイン効果を排除するためにデータを正規化するため、ならびに可変中央揃えのために必要である。この研究において、以下の前処理工程:ベースラインを除去するためにSavitzky-Golayアルゴリズムを使用してスペクトルの一次微分を取り、15のフィルター幅によって近似した二次多項式を使用すること;標準正規変量(SNV)を使用して当該スペクトルを正規化すること;ならびに当該差を元のデータマトリックス全体と比較するために当該データを平均化すること、を使用することにより、最適なPCA結果が得られた。
[実施例2]
【0103】
沈殿による培地の変化のリアルタイムモニタリング
概説したラマン技術を使用し、上記において説明され図2に示される機器を使用して、供給培地をリアルタイムでモニターした。セットアップは上記において説明した通りであった。上記において説明したアプローチを使用して、3時間毎にラマン測定を得て、4日間にわたる培地の変化を、上記において説明したような生のラマンスペクトルにPCAを適用することによってモニターした。
【0104】
この実験において、分析のために選択した領域は、500~3000cm-1であったが、それは、これが、供給培地成分の変化を評価するのに最も適切な範囲であるからである。ラマンデータのスペクトル特性における変化を調査するために、パーセント変動プロットから特定されるように、PCの試験を使用した。当該データは、全てのスペクトルの変動の>99%が、PC1によって説明できることを示した。99.15%の説明されるスペクトル変動を伴う第一主成分PC1が、各測定の際の変化が捉えられている図3に示される。当該PC1スコアは、約90時間(矢印で指されている)である30番目の測定までは近似しており、それは、当該試料が、最初の90時間は変化しておらず、その後、この時点で物理的に変化し始めた当該培地が、結果としてPC1スコアの偏差の原因となっていることを意味している。化学変化の原因をより良く理解するために、PC1負荷値をラマンシフトに対してプロットした(図4)。PC1負荷プロットは、PC1スコア(y軸)の急激な変化を伴うX切片が存在する、主要な変化が生じた波数を明らかにする。対応する波数が、図4Aおよび4Bにおいて標識されている。前の実験から、当該変化がL-チロシン沈殿に起因すると仮定した。図4Bは、825cm-1、984cm-1、1179cm-1、1200cm-1、1326cm-1、1613cm-1、2931cm-1、2967cm-1、および3062cm-1に生じるような、チロシン結晶に対する主要ラマンシフトを示しており、それらは、PC1負荷プロットにおいて観察されるラマンシフトと正確に一致した(図4A)。したがって、当該ラマン技術は、チロシンの正確で明確な識別によって培地の変化の原因を正確に識別することができる。培地から沈殿した任意のアミノ酸は、この技術によって同様の効率でモニターすることができることが期待できるであろう。このラマン技術の、培地調製のエラーを検出する能力を調べた。リン酸ナトリウムは、増殖培地の必須成分であるが、多すぎる量または少なすぎる量が加えられた場合、結果として得られる培地は、細胞増殖にとって有害であり得る。したがって、使用前にリン酸濃度を確認する能力を有することが重要である。この実施例において、培地中のリン酸ナトリウムの量を、1.5g/Lの標準レベルにおいて測定し、標準レベルの2倍(3g/L)と比較した。
【0105】
1.5g/Lのリン酸ナトリウムを含む培地、3g/Lのリン酸ナトリウムを含む培地、ならびに、1.5、2.25、2.6、および3g/Lの濃度を得るためのこれら2つの溶液の混合物を、このラマン技術によってモニターし、データを、PCA法を使用して評価した。リン酸ナトリウムは、約1000cm-1に主要なラマンシフトを有し、
そのため、分析のために選択された領域は、700~1200cm-1であった。データは、全てのスペクトル変動の>93%は、最初の2つのPCによって捕捉されることを示した。図5に示されるように、最初の主成分PC1は、2つの培地に加えられたリン酸の相対量を正確に測定することができた。詳細には、リン酸ナトリウムのレベルが、PC1スコアと間接的に関連することが示された。当該技術が再現可能であることを示すために、1.5g/Lおよび3.0g/Lの試料を、トリプリケートにおいて実施した。重要なことに、当該データは、この技術が、測定するための適切な標準を与える0.4g/L程度に低いリン酸ナトリウムのレベルの変化を区別することができることを示した。各ラマン測定がおよそ12分を必要とすることを考慮して、エラーを発見するのに必要な労力は、時間および費用の見込みから、バッチ不具合に関するエラーを発見するよりはるかに有利であろう。
[実施例3]
【0106】
培地の安定性のモニタリング
培地の有効期間は、最適増殖率に達するため、および予想された産物特性を実現するための重要なプロセスパラメータであり、典型的には時間およびリソースの徹底的な機能試験において決定される。基本培地および供給培地の貯蔵条件は、光から保護された状態で、それぞれ、2~8℃および室温である。安定性マーカーを識別する当該技術の能力を調べるため、標準条件下において貯蔵した基本培地および供給培地から収集したラマンデータを、2週間および4週間、光(10KLux)または熱(36℃)に曝露させた培地と比較した。このラマン技術が、あまり極端でない状況下において培地の差を識別できるか否かを確認するために、新たに調製した培地およびエイジングした(標準貯蔵条件で3ヶ月)培地も比較した。
【0107】
全ての培地試料を、ラマン分光法によってモニターし、前に説明したようにPCAを使用して評価した。この評価において、データは、最初に、基本培地を供給培地と区別するためにPCスコアによってグループ化し、次いで、より微妙な変化をさらに分析するためにPCAによって評価した。最初の2つのPCスコアは、変化の大部分を表している。図6は、PC1が、主要変化の約96%を捉え、PC2が約3%を捉えるPC1-PC2平面を示している。PC1は、基本培地を供給培地から分離し、その場合、基本培地は正のスコアを有し、供給培地は負のスコアを有する(図6)。各PC1クラスタ内において、試料を、PC2軸に沿って、それらの劣化モードおよび劣化の程度によって区別した。基本培地および供給培地からの試料を、さらに、PCAによって別々に処理した。基本培地の場合、当該データは、2つのPCスコアが、全てのスペクトル変化の>80%を占めることを示しており、したがって、これら2つのスコアを、その後に使用した。図7において、代表的変動の約19%を占めるPC2スコアを、様々な条件下(4、36℃、光曝露、など)での培地劣化時間に対してプロットした。この分析において、高温は、同じ時点での光より、基本培地に対してより大きな変化を生じさせた。データは、2~8℃で3ヶ月までの標準条件での貯蔵は、変化を生じさせないことも示唆している。
【0108】
ラマン分析をプロセス性能への影響に相関させるため、ラマンによって観察される当該PC傾向が、性能を予測することができるか否かを確認するために、新鮮な基本培地および劣化した基本培地を生産実施において使用した。
【0109】
生産セットアップは、以下の通りであった:15mLのAMBRミニバイオリアクターを使用して、14日間の生産実施において、モノクローナル抗体を産生するCHO細胞系を増殖させた。基本培地の効果を評価するために、様々に劣化させた基本培地を、細胞生産のために使用し、当該細胞に、1日1回、新鮮な供給培地を供給した。AMBRシステムをAMBR生産実施において細胞生存率および生存細胞密度(VCD)をモニターするBeckman Coulter製Vi-CELL Cell Viability Analyzerに接続した。Roche製のCEDEX HTによって、抗体価を測定した。%生存率、VCD、および抗体価は、細胞生産評価における3つの主要な特徴である。
【0110】
Ambr15基本培地劣化研究から結果として得られた細胞増殖パラメータを、図8A~8Cに提示する。新鮮な基本培地および2~8℃で貯蔵して3ヶ月エイジングした基本培地の両方における細胞生存率および密度は、非常に似ていたが、熱または光によって劣化させた基本培地を使用した場合、新鮮な培地コントロールとの大きな違いが観察された。抗体価を評価したときにも同様の結果が観察されたが、4週間の加熱は、2週間の光曝露より細胞増殖に対して悪化効果をもたらし、それは、ラマンデータを比較したときに本発明者らが予想したことと反対であった。この不一致は、光および熱が異なるメカニズムによって劣化を生じさせていることに注目することによって説明することができ、したがって、必ずしも同じ培地成分を劣化させる必要はないであろう。ラマンは、成分が何であるかにかかわらず、試料における変化を捉えるが、それに対して、生産結果は、細胞に対する劣化した成分の効果を示している。このデータは、細胞は、光よりも熱によって劣化された成分によってより影響を受けたことを示唆している。
【0111】
これらの変化をさらに理解するために、各劣化した培地のアミノ酸含有量を、逆相HPLC技術を使用して測定した。結果は、Cys、Met、Trp、およびHisは、劣化によって最も影響を受ける培地含有アミノ酸であり、Met、Trp、およびHisは、2週間の光劣化によってほとんど劣化したが、Cysは、光効果によって変化しなかった。その一方で、Cysは、熱によって劣化した唯一のアミノ酸であり、他のアミノ酸は、あまり影響されなかった。図8A~8Cは、それぞれ、2週間または4週間にわたる光または熱曝露の間の基本培地中のこれら4つのアミノ酸のレベルの変化を表している。システイン型は、培地のpHに影響を及ぼすことができ、必要な培地成分である。そのため、熱によるCys劣化は、図8A~8Cにおいて観察される細胞増殖および生産プロファイルに影響を与えたが、その一方で、Met、Trp、およびHisは、細胞増殖にあまり影響を及ぼさなかった。
【0112】
タンパク質品質に対する基本培地劣化の影響を、iCIEFによっても評価した。iCIEFの結果は、光劣化におけるMet、Trp、およびHisの劣化を伴う塩基性電荷が増加した変異型を示し、他の条件ではそうではなかった。ラマン分光法は、プロセス性能および製品品質の両方に対して重要な培地劣化を検出することができた。
【0113】
供給培地の変化は、同様に、PCAによって別々に処理した。供給データにおける全てのスペクトル変化の95%超は、2つのPCによって説明された。図10におけるPC1スコアプロットは、1週間の熱劣化、2週間の光劣化、および室温で3ヶ月エイジングした供給培地試料(供給培地の場合の典型的な貯蔵限界は約3週間)を提示する。結果は、供給培地が劣化するにつれ、スコアがPC1軸の負側に移動することを示した。新鮮な試料からのPC1スコアの変化の比較は、ストレス条件と比較して、室温での3ヶ月間においてよりいっそうの劣化が観察されることを示した。2週間の光曝露では、当該群の劣化は最小であった。
【0114】
14日間の生産実施のために、新鮮な基本培地ならびに新鮮な供給培地およびエイジングした供給培地を用いて、15mLのAMBRバイオリアクターを使用した生産実施のために、同じ試料を選択した。3つの主要な生産結果を図11A~11Cに示す。VCDおよびIgGの結果は、新鮮な供給培地を使用した場合、より高いピークVCDおよびより高いIgG濃度を示しており、光、室温、または熱の下で劣化した供給培地は、結果として同様のVCDをもたらすが、IgG力価に影響は及ぼさなかった。%生存率は、新鮮な供給培地を使用した場合、14日間の生産全体において96%より上を維持したが、しかしながら、劣化した供給培地を使用した場合、生存率は、10日目に低下し始めた。3ヶ月エイジングした供給培地に対する1週間の加熱は、約89%の最も低い生存率をもたらし、2週間光曝露した供給培地は、約92%の生存率を有した。これらの結果は、ラマンによって観察された変化およびその後のPCAベースのデータ評価と一致した。
[実施例4]
【0115】
培地成分の定量分析のためのモデルの開発
前のセクションにおいて、培地調製エラーまたは劣化のどちらかに起因する培地の変化をモニターするラマンの能力について説明した。以下の研究は、培地の特定の成分の変化率を識別するためのこのラマン技術の定量的応用を拡張するために行った。
【0116】
この研究のために、4つのアミノ酸のリジン(Lys)、ヒスチジン(His)、アスパラギン(Asn)、およびアルギニン(Arg)を選択したが、それは、それらが培地に容易に溶解するからである。Lys、Asn、およびArgは蛍光活性ではなく、したがって、励起発光分光法のような他の方法に対して、ラマンのような技術によってのみ直接検出することができることに留意されたい。評価したビタミンは、シアノコバラミン(B12)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、ピリドキサールHCl(B6(AL))、およびピリドキシンHCl(B6(INE))を含んだ。
【0117】
各測定のラマンスペクトルを、部分最小二乗(PLS)分析によって処理した。PLSは、因子、すなわち、予想の実施に関連する入力データの変動を説明する「潜在的変数」またはLVだけを識別する。これは、PCAとは対照的であり、PCは、それらが表す変動の相対量に基づいて単独で選択される。
【0118】
各実験において、上記の化学物質のそれぞれの異なる濃度を供給培地中へと添加し、次いで、ラマンによって評価した。次いで、較正予測モデルを構築するために、当該データをPLSによって処理した。例えば、図12Aは、PLS分析を使用したLV1に基づくアルギニンに対する予測較正モデルを示しており、図12Bは、波数が、予測モデルを作製するために関連する主要な変化に相関することを明らかにした。図12Cは、アルギニン溶液のラマンスペクトルを示しており、破線の矢印は、アルギニンに対して特異的な主要なラマンシフト(図12C)を、当該モデルが構築された波長(図12B)に対応させ、当該モデルが、アルギニンレベルにおける変化に基づいて構築されていることを確認する。各化学物質に対して、この方式において、一意のプロファイルを提供することができ、この研究において、4つのアミノ酸および4つのビタミンのそれぞれに対して予測モデルを構築するために、同じアプローチを用いた。
【0119】
各予測モデルの正確性を調べるために、最初に、当該モデルを使用して、関連する化学物質の既知の濃度を予測した。次いで、当該予測されたモデルを、理論的レベルと比較することで、試験した各培地成分に対する当該モデルの正確性を評価した。図13A~13Hは、試験した各培地成分に対する予測モデルを示しており、この場合、適合線は、各化学物質の既知の濃度を使用して構築された較正曲線の近似線である。ドットは、当該予測モデルを構築するために用いた濃度レベルを示している。1:1線は、測定値と予測値との間の1:1比を示しており、そのため、予測モデルが強力なほど、近似と1:1線はより良好に重なり合う。図13A~13Hにおけるひし形は、この研究におけるアミノ酸およびビタミンのそれぞれに対する未知の試料の予測レベルを示している。実験結果の正確性を表す別の方法が理論と比較される場合、図14A~14Hは、各化学物質に対する%回収率を示している。ここで、円は、較正曲線を構築するために使用された点を表し、ひし形は、当該較正曲線を使用して予測された濃度である。当該%回収率は、下記の式1を用いて算出した。
【0120】
【数1】
【0121】
破線は、80%回収率から120%回収率までの境界を示している。全体的に、実験値は、理論値に良く一致し、典型的な回収率は、理論値の90%~110%であった。
[実施例5]
【0122】
基準スペクトルの作製
ラマン分析によって有用なアミノ酸およびビタミンの基準スペクトルの作製を実施し、
それは、図15A~15Cにおいて見ることができる。ラマンスペクトル測定のための最適な曝露条件に影響を及ぼす3つの要因は、分解能、信号飽和、および適切なスペクトル収集時間である。分解能は、取得回数および1回の取得あたりの曝露長さを増加させることによって改良することができるが、しかしながら、これらの値を増加させることは、測定期間を増加させるであろうし、信号飽和の原因となり得る。最初に、3つの条件、すなわち、合計で約11分間になる20秒毎の35回のスペクトル取得の相互加算(co-addition)からなる第1の条件、合計で約22分間になる40秒毎の35回のスペクトル取得の相互加算からなる第2の条件、および、合計で約12分間になる75秒毎の10回のスペクトル取得の相互加算からなる第3の条件、を評価した。第3の条件は、結果として、いくつかの場合において過剰曝露を生じ、第2の条件は、結果として、第1の条件と比較して、信号分解能における改善をもたらさなかった。最終的に、ラマンスペクトル収集のための方法として、第1の条件を選択した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14-1】
図14-2】
図15-1】
図15-2】
図15-3】