(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】極性有機溶媒の精製方法、極性有機溶媒の精製装置、分析方法及び精製極性有機溶媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/76 20060101AFI20250306BHJP
C07C 31/10 20060101ALI20250306BHJP
C07C 41/36 20060101ALI20250306BHJP
C07C 43/13 20060101ALI20250306BHJP
C07C 67/56 20060101ALI20250306BHJP
C07C 69/28 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C07C29/76
C07C31/10
C07C41/36
C07C43/13 A
C07C67/56
C07C69/28
(21)【出願番号】P 2022541501
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2021028311
(87)【国際公開番号】W WO2022030380
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2020132320
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 智子
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-023440(JP,A)
【文献】特開2013-023441(JP,A)
【文献】特開2014-055120(JP,A)
【文献】特開2017-132700(JP,A)
【文献】特開2017-131810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、
水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、
イオン性金属不純物が低減された精製極性有機溶媒を得る精製工程と、
を有
し、
該極性有機溶媒が、アルコール類またはエーテル化合物、あるいは、アルコール類及びエーテル化合物のうちの1種以上を含む混合溶媒であり、
該極性有機溶媒が、イオン性金属不純物として、Na、K、Li、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb及びZnのうち少なくとも1つを含有し、
水を添加する前の該極性有機溶媒の水の含有量が200質量ppm以下であり、該水添加工程での該極性有機溶媒への水の添加量が、水を添加する前の該極性有機溶媒中の含水量に対する割合((極性有機溶媒に添加する水の量/水を添加する前の極性有機溶媒中の含水量)×100)で150質量%以上であること、
ことを特徴とする極性有機溶媒の精製方法。
【請求項2】
前記水添加工程において、前記水が添加された極性有機溶媒中の含水量が0.01~20.0質量%となる範囲で、前記極性有機溶媒に水を添加することを特徴とする請求項
1記載の極性有機溶媒の精製方法。
【請求項3】
前記イオン交換体が、カチオン交換体、アニオン交換体及びH形キレート交換体のうちの1種以上であることを特徴とする請求項1
又は2記載の極性有機溶媒の精製方法。
【請求項4】
前記極性有機溶媒が25℃で100.0g当たり1.0g以上の水を溶解できる溶媒であることを特徴とする請求項1~
3いずれか1項記載の極性有機溶媒の精製方法。
【請求項5】
前記精製極性有機溶媒が、ICP-MSを用いる金属濃度分析における希釈液として用いられる溶媒であることを特徴とする請求項1~
4いずれか1項記載の極性有機溶媒の精製方法。
【請求項6】
イオン交換体が充填されているイオン交換体の充填部と、
極性有機溶媒に水を添加するための水添加部と、
該水添加部により水が添加された該極性有機溶媒を、該イオン交換体の充填部に供給するための極性有機溶媒供給部と、
を有することを特徴とする
請求項1~5いずれか1項記載の極性有機溶媒の精製方法を実施するための極性有機溶媒の精製装置。
【請求項7】
接液部がフッ素系樹脂で形成又はコーティングされていることを特徴とする請求項
6記載の極性有機溶媒の精製装置。
【請求項8】
極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、
水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、精製極性有機溶媒を得る精製工程と、
希釈溶媒として、該精製極性有機溶媒を用いて、検量線を作成する検量線作成工程と、を有
し、
該極性有機溶媒が、アルコール類またはエーテル化合物、あるいは、アルコール類及びエーテル化合物のうちの1種以上を含む混合溶媒であり、
該極性有機溶媒が、イオン性金属不純物として、Na、K、Li、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb及びZnのうち少なくとも1つを含有すること
を特徴とする
ICP-MSを用いる金属濃度の分析方法。
【請求項9】
極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、
水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、
イオン性金属不純物が低減された精製極性有機溶媒を得る精製工程と、
を有
し、
該極性有機溶媒が、アルコール類またはエーテル化合物、あるいは、アルコール類及びエーテル化合物のうちの1種以上を含む混合溶媒であり、
該極性有機溶媒が、イオン性金属不純物として、Na、K、Li、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb及びZnのうち少なくとも1つを含有し、
水を添加する前の該極性有機溶媒の水の含有量が200質量ppm以下であり、該水添加工程での該極性有機溶媒への水の添加量が、水を添加する前の該極性有機溶媒中の含水量に対する割合((極性有機溶媒に添加する水の量/水を添加する前の極性有機溶媒中の含水量)×100)で150質量%以上であること、
を特徴とする精製極性有機溶媒の製造方法。
【請求項10】
前記精製極性有機溶媒が、ICP-MSを用いる金属濃度分析用の希釈液であることを特徴とする請求項
9記載の精製極性有機溶媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性不純物含有量が低減された高純度の極性有機溶媒を得るための極性有機溶媒の精製方法及びそれを実施するための極性有機溶媒の精製装置に関する。また、精製極性有機溶媒を用いる分析方法及び精製極性有機溶媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒中の微量金属分析には、ICP-MSが用いられる。ICP-MSで、測定対象の有機溶媒中の金属を分析する場合、既知濃度で添加された標準液を、測定対象と同種の有機溶媒のブランク液で数段階に希釈し、検量線を作成する。
【0003】
この検量線の作成においては、測定対象の有機溶媒中の金属濃度が、検量線濃度範囲に含まれるように設定する。このような方法は、絶対検量線法と呼ばれ、ブランク液中に測定対象の金属が含まれないことが重要である。ブランク液中の金属濃度が高いと、バックグラウンド濃度が高くなってしまい、定量下限値が上がってしまうためである。
【0004】
このようなことから、ICP-MSによる有機溶媒中の微量金属分析に用いられるブランク液中の金属不純物含有量は、1ppt以下であることが求められる。
【0005】
また、半導体製造工程では、洗浄に使用されるイソプロピルアルコール(IPA)に含まれている金属不純物は、ウェハー上で悪影響を及ぼす可能性が高いため、IPA中の不純物含有量をpptレベル又は1ppt以下まで低減する必要がある。
【0006】
有機溶媒を精製する方法としては、例えば、特許文献1に、加水分解性有機溶媒からイオン性汚染物質を除去するための方法であって、前記加水分解性有機溶媒を、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂の混床と接触させることを含み、前記陰イオン交換樹脂が、弱塩基性陰イオン交換樹脂から選択される方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、親水性有機溶媒からイオン性汚染物質を除去するための方法であって、前記方法が、前記親水性有機溶媒を、陽イオン性イオン交換樹脂及び陰イオン性イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂の混床と接触させることを含み、(a)前記陽イオン性イオン交換樹脂が、40~55重量%の保水力を有する水素(H)型強酸陽イオン性イオン交換樹脂であり、(b)前記陽イオン性イオン交換樹脂及び前記陰イオン性イオン交換樹脂の両方が、0.001~0.1cm3/gの多孔性、0.001~1.7nmの平均孔径、及び0.001~10m2/gのBET表面積を有する方法が開示されている。
【0008】
特許文献1及び特許文献2では、有機溶媒を、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂の混床と接触させることにより、有機溶媒の精製が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2019-509165号公報
【文献】特表2019-509882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1及び特許文献2に記載の方法では、有機溶媒中の金属不純物の除去が行えるものの、更なる高純度化が求められる場合がある。特に極性有機溶媒は、半導体製造工程におけるウェハーの洗浄剤や乾燥剤等に用いられることから、更なる高純度化が必要となってくる。そのため、更に、金属不純物の除去性に優れる極性有機溶媒の精製方法が求められている。
【0011】
また、有機溶媒中ではイオン性不純物の拡散速度が小さく、また、イオン交換樹脂とのイオン交換反応の反応速度も小さいため、有機溶媒中のイオン性金属不純物の除去を、イオン交換樹脂を用いて行う場合は、水中のイオン性不純物を除去する場合に比べ、除去性が低くなってしまう。
【0012】
あるいは、有機溶媒中ではイオン性不純物の拡散速度が小さく、また、イオン交換樹脂とのイオン交換反応の反応速度も小さいために、有機溶媒中のイオン性金属不純物を除去する場合は、水中のイオン性金属不純物を除去する場合に比べ、イオン交換樹脂に対する通液速度を小さく設定する必要がある。例えば、強酸性カチオン交換樹脂を用いた処理の場合、水中と同じ流速で同じ金属除去率を得ることは難しい。そのため、有機溶剤中のイオン性金属不純物を、イオン交換樹脂を用いて精製するために、イオン交換樹脂への通液速度を小さく設定しなければならないので、精製効率が低いという問題があった。
【0013】
従って、本発明の第一の目的は、極性有機溶媒中のイオン性不純物の除去性に優れる極性有機溶媒の精製方法及び精製極性有機溶媒の製造方法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、極性有機溶媒中のイオン性不純物の除去性に優れ、且つ、精製効率が高い極性有機溶媒の精製方法及び精製極性有機溶媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような技術背景のもと、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、極性有機溶媒に水を添加した後に、イオン交換樹脂に接触させることにより、水を添加しない場合に比べ、イオン性金属不純物の除去性が高まることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明(1)は、極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、
水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、イオン性金属不純物が低減された精製極性有機溶媒を得る精製工程と、
を有し、
該極性有機溶媒が、アルコール類またはエーテル化合物、あるいは、アルコール類及びエーテル化合物のうちの1種以上を含む混合溶媒であり、
該極性有機溶媒が、イオン性金属不純物として、Na、K、Li、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb及びZnのうち少なくとも1つを含有し、
水を添加する前の該極性有機溶媒の水の含有量が200質量ppm以下であり、該水添加工程での該極性有機溶媒への水の添加量が、水を添加する前の該極性有機溶媒中の含水量に対する割合((極性有機溶媒に添加する水の量/水を添加する前の極性有機溶媒中の含水量)×100)で150質量%以上であること、
ことを特徴とする極性有機溶媒の精製方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(2)は、前記水添加工程において、前記水が添加された極性有機溶媒中の含水量が0.01~20.0質量%となる範囲で、前記極性有機溶媒に水を添加することを特徴とする(1)の極性有機溶媒の精製方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(3)は、前記イオン交換体が、カチオン交換体、アニオン交換体及びH形キレート交換体のうちの1種以上であることを特徴とする(1)又は(2)の極性有機溶媒の精製方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(4)は、前記極性有機溶媒が25℃で100.0g当たり1.0g以上の水を溶解できる溶媒であることを特徴とする(1)~(3)いずれかの極性有機溶媒の精製方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明(5)は、前記精製極性有機溶媒が、ICP-MSを用いる金属濃度分析における希釈液として用いられる溶媒であることを特徴とする(1)~(4)いずれかの極性有機溶媒の精製方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明(6)は、イオン交換体が充填されているイオン交換体の充填部と、
極性有機溶媒に水を添加するための水添加部と、
該水添加部により水が添加された該極性有機溶媒を、該イオン交換体の充填部に供給するための極性有機溶媒供給部と、
を有することを特徴とする(1)~(5)いずれかの極性有機溶媒の精製方法を実施するための極性有機溶媒の精製装置を提供するものである。
【0023】
また、本発明(7)は、接液部がフッ素系樹脂で形成又はコーティングされていることを特徴とする(6)の極性有機溶媒の精製装置を提供するものである。
【0024】
また、本発明(8)は、極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、
水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、精製極性有機溶媒を得る精製工程と、
希釈溶媒として、該精製極性有機溶媒を用いて、検量線を作成する検量線作成工程と、を有し、
該極性有機溶媒が、アルコール類またはエーテル化合物、あるいは、アルコール類及びエーテル化合物のうちの1種以上を含む混合溶媒であり、
該極性有機溶媒が、イオン性金属不純物として、Na、K、Li、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb及びZnのうち少なくとも1つを含有すること
を特徴とするICP-MSを用いる金属濃度の分析方法を提供するものである。
【0025】
また、本発明(9)は、極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、
水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、イオン性金属不純物が低減された精製極性有機溶媒を得る精製工程と、
を有し、
該極性有機溶媒が、アルコール類またはエーテル化合物、あるいは、アルコール類及びエーテル化合物のうちの1種以上を含む混合溶媒であり、
該極性有機溶媒が、イオン性金属不純物として、Na、K、Li、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb及びZnのうち少なくとも1つを含有し、
水を添加する前の該極性有機溶媒の水の含有量が200質量ppm以下であり、該水添加工程での該極性有機溶媒への水の添加量が、水を添加する前の該極性有機溶媒中の含水量に対する割合((極性有機溶媒に添加する水の量/水を添加する前の極性有機溶媒中の含水量)×100)で150質量%以上であること、
を特徴とする精製極性有機溶媒の製造方法を提供するものである。
【0026】
また、本発明(10)は、前記精製極性有機溶媒が、ICP-MSを用いる金属濃度分析用の希釈液であることを特徴とする(9)の精製極性有機溶媒の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、極性有機溶媒中のイオン性不純物の除去性に優れる極性有機溶媒の精製方法及び精製極性有機溶媒の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、極性有機溶媒中の金属不純物の除去性に優れ、且つ、精製効率が高い極性有機溶媒の精製方法及び精製極性有機溶媒の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、測定精度が高い分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る極性有機溶媒の精製装置の形態例を示す図である。
【
図2】実施例7の各水含有量の場合のNa吸着量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の極性有機溶媒の精製方法は、極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、
水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、精製極性有機溶媒を得る精製工程と、
を有することを特徴とする極性有機溶媒の精製方法である。
【0030】
本発明の極性有機溶媒の精製方法に係る水添加工程は、極性有機溶媒に水を添加する工程である。
【0031】
水添加工程において、水が添加される極性有機溶媒は、本発明の極性有機溶媒の精製方法において精製される被処理液である。
【0032】
本発明の極性有機溶媒の精製方法に係る極性有機溶媒は、極性を有しており、水を溶解することができる溶媒であれば、特に制限されず、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のエステル化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等のエーテル化合物、ポリエーテル化合物及びこれらのうち1種以上の混合溶媒が挙げられる。なお、これらのうち1種以上の混合溶媒としては、例えば、2種以上のアルコール類の混合溶媒、2種以上のエステル化合物の混合溶媒、2種以上のエーテル化合物の混合溶媒のように、同じカテゴリーの溶媒のうちの2種以上の混合溶媒;例えば、1種以上のアルコール類及び1種以上のエステル化合物の混合溶媒とのように、異なるカテゴリーの溶媒が少なくとも2種混合されている混合溶媒が挙げられる。極性有機溶媒としては、プロトン性の極性有機溶媒であって、非プロトン性の有機溶媒であってもよい。
【0033】
極性有機溶媒は、金属不純物として、Na、K、Li等の1価のイオン性金属不純物、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Zn等の2価以上のイオン性金属不純物と、を含有する。
【0034】
極性有機溶媒中の各金属不純物の含有量は、特に制限されないが、通常、100質量ppb~20質量ppt程度である。
【0035】
本発明の極性有機溶媒の精製方法では、少量でも水を溶解することができる溶媒であれば、効果を奏するが、極性有機溶媒は、25℃で100.0g当たり1.0g以上の水を溶解できる溶媒であることが好ましい。
【0036】
本発明の極性有機溶媒の精製方法に係る水添加工程において、極性有機溶媒に添加する水としては、特に制限されないが、イオン性不純物の含有量が少ないほど、イオン交換体の負荷が少なくなるので好ましい。水添加工程において、極性有機溶媒に添加する水としては、金属不純物含有量が3ng/L以下の純水、金属不純物含有量が1ng/L以下の超純水が挙げられ、これらのうち、超純水が好ましい。
【0037】
本発明の極性有機溶媒の精製方法では、水添加工程において、水を添加する前の極性有機溶媒の含水量は、特に制限されない。本発明の極性有機溶媒の精製方法は、高純度が要求される溶媒の精製に好適に用いられるので、このような高純度が要求される溶媒の精製においては、処理対象である極性有機溶媒は、水の含有量が少ないものが多く、この場合、水を添加する前の極性有機溶媒の含水量は、好ましくは200質量ppm以下である。また、本発明の極性有機溶媒の精製方法は、水の含有量が多い極性有機溶媒の精製に対しても、効果を奏するので、このような溶媒の精製においては、処理対象である、水を添加する前の極性有機溶媒の含水量は、例えば、200質量ppm~1.0質量%である。
【0038】
本発明の極性有機溶媒の精製方法では、水添加工程において、処理対象である極性有機溶媒に水を添加することで、極性有機溶媒中で金属不純物がイオン化され易くなり、官能基が解離し易くなるため、イオン交換反応によって除去するイオン量が増すので、金属不純物のイオン交換体への吸着量が多くなる。そのため、水添加工程において、極性有機溶媒に水を添加すれば、効果を奏するので、極性有機溶媒に添加する水の量は、特に制限されないが、水添加工程において極性有機溶媒に添加する水の量については、水が添加された極性有機溶媒中の含水量が0.01~20.0質量%となる範囲で、極性有機溶媒に水を添加することが好ましく、水が添加された極性有機溶媒中の含水量が0.01~10.0質量%となる範囲で、極性有機溶媒に水を添加することがより好ましく、水が添加された極性有機溶媒中の含水量が0.10~5.0質量%となる範囲で、極性有機溶媒に水を添加することが特に好ましい。つまり、水添加工程では、水が添加された後の極性有機溶媒中の含水量が、0.01~20.0質量%であることが好ましく、0.01~10.0質量%であることがより好ましく、0.10~5.0質量%であることが特に好ましい。
【0039】
また、水添加工程において極性有機溶媒に添加する水の量は、水を添加する前の極性有機溶媒中の含水量に対する割合((極性有機溶媒に添加する水の量/水を添加する前の極性有機溶媒中の含水量)×100)で、好ましくは150質量%以上、より好ましくは200質量%以上、特に好ましくは200~500質量%である。例えば、水を添加する前の極性有機溶媒中の含水量が0.05質量%であり、水添加工程において、水を添加する前の極性有機溶媒に対する割合で0.05質量%に相当する量の水を添加した場合、水添加工程において、水を添加する前の極性有機溶媒中の含水量に対する極性有機溶媒に添加する水の量の割合は100質量%である。
【0040】
水添加工程において、極性有機溶媒に水を添加する方法は、特に制限されず、例えば、イオン交換体に供給される極性有機溶媒が貯蔵されている貯蔵容器に、所定量の水を添加し、必要に応じて、貯蔵容器内の溶媒を撹拌する方法、イオン交換体に極性有機溶媒を供給するための極性有機溶媒の供給管に、水の供給管を繋げ、水の供給管より水を供給することにより、極性有機溶媒の供給管内で、極性有機溶媒に水を添加する方法等が挙げられる。
【0041】
精製工程は、水添加工程で水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、精製極性有機溶媒を得る工程である。
【0042】
イオン交換体としては、カチオン交換体、アニオン交換体、H形キレート交換体、ホウ素選択形イオン交換樹体等が挙げられる。イオン交換体は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。イオン交換体は、カチオン交換体、アニオン交換体、H形キレート交換体、ホウ素選択形イオン交換樹体の単床で用いられてもよいし、上記イオン交換体のうちの2種以上の混床又は複床で用いられてもよい。
【0043】
カチオン交換体は、H形であることが、イオン性不純物の含有量を少なくできる点で好ましい。また、カチオン交換体は、金属元素を含まなければ、TMA形(テトラメチルアンモニウムイオン形)やTBA形(テトラブチルアンモニウムイオン形)のようなテトラアルキルアンモニウムイオン形でも良い。また、カチオン交換体は、強酸性カチオン交換基を有する強酸性カチオン交換体であっても、弱酸性カチオン交換基を有する弱酸性カチオン交換体であってもよい。
【0044】
カチオン交換体としては、粒状のカチオン交換樹脂が挙げられる。カチオン交換樹脂の基体は、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である。カチオン交換樹脂は、ゲル形構造、マクロポーラス形構造、ポーラス形構造のいずれの構造でもよい。カチオン交換樹脂の湿潤状態のイオン交換容量は、好ましくは0.5(eq/L-R)以上、特に好ましくは1.0(eq/L-R)以上である。また、カチオン交換樹脂の湿潤状態のイオン交換容量は、高いほど好ましく、適宜選択される。カチオン交換樹脂の調和平均径は、好ましくは200~900μm、特に好ましくは300~600μmである。
【0045】
強酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、ダウケミカル社製のアンバーライトIR120B、IR124、200CT252、アンバージェット1020、1024、1060、1220、三菱ケミカル社製のダイヤイオンSK104、SK1B、SK110、SK112、PK208、PK212L、PK216、PK218、PK220、PK228、UBK08、UBK10、UBK12、オルガノ製のDS-1、DS-4、ピュロライト社製のC100、C100E、C120E、C100x10、C100x12MB、C150、C160、SGC650、レバチット社製のモノプラスS108H、SP112、S1668等が挙げられる。また、弱酸性カチオン交換樹脂としては、オルガノ製のFPC3500、IRC76、三菱ケミカル社製のダイヤイオンWK10、WK11、WK100、WK40L、ピュロライト社製のC104、C106、C107E、C115E、SSTC104、レバチット社製のCNP80WS等が挙げられる。
【0046】
カチオン交換体としては、有機多孔質カチオン交換体が挙げられる。有機多孔質カチオン交換体は、カチオン交換基が導入されている有機多孔質体である。有機多孔質強酸性カチオン交換体中の交換容量は、好ましくは1~3mg当量/mL(乾燥状態)、特に好ましくは1.5~3mg当量/mL(乾燥状態)である。
【0047】
カチオン交換体は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0048】
アニオン交換体は、OH形であることが、イオン性不純物の含有量を少なくできる点で好ましい。アニオン交換体は、金属元素を含まないイオン形であれば良く、炭酸形、重炭酸形や有機酸形でも良い。アニオン交換体は、アニオン交換基として強塩基性アニオン交換基を有する強塩基性アニオン交換体であっても、アニオン交換基として弱塩基性アニオン交換基を有する弱塩基性アニオン交換体であってもよい。
【0049】
強塩基性アニオン交換体に係る強塩基性アニオン交換基としては、OH形の四級アンモニウム基等が挙げられる。また、弱塩基性アニオン交換体に係る弱塩基性アニオン交換基としては、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリアミン基等が挙げられる。他にも塩基度の高いOH形のアニオン交換体では、分解又は化学反応が起こるような溶媒には、塩基度が低い炭酸塩形又は重炭酸塩形のアニオン交換体を用いても良い。
【0050】
アニオン交換体としては、粒状のアニオン交換樹脂が挙げられる。アニオン交換樹脂の基体は、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である。アニオン交換樹脂は、ゲル形構造、マクロポーラス形構造、ポーラス形構造のいずれの構造でもよい。アニオン交換樹脂の湿潤状態のイオン交換容量は、好ましくは0.5~2(eq/L-R)、特に好ましくは0.9~2(eq/L-R)である。アニオン交換樹脂の調和平均径は、好ましくは200~900μm、特に好ましくは300~800μmである。
【0051】
アニオン交換樹脂としては、例えば、ダウケミカル社製のアンバーライトIRA900、402、96SB、98、アンバージェット4400、4002、4010、三菱ケミカル社製のダイヤイオンUBA120、PA306S、PA308、PA312、PA316、PA318L、WA21J、WA30、オルガノ社製のDS-2、DS-5、DS-6、ピュロライト社製のA400、A600、SGA550、A500、A501P、A502PS、A503、A100、A103S、A110、A111S、A133S、レバチット社製のモノプラスM500、M800、MP62WS、MP64等が挙げられる。
【0052】
また、アニオン交換体としては、有機多孔質アニオン交換体が挙げられる。有機多孔質アニオン交換体は、アニオン交換基、例えば、上記に挙げられている強塩基性アニオン交換基や弱塩基性アニオン交換基が導入されている有機多孔質体である。有機多孔質アニオン交換体中の交換容量は、好ましくは1~6mg当量/mL(乾燥状態)、特に好ましくは2~5mg当量/mL(乾燥状態)である。
【0053】
アニオン交換体は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0054】
キレート交換体は、H形であることが、イオン性不純物の含有量を少なくできる点で好ましい。また、キレート交換体は、金属元素を含まなければ、TMA形(テトラメチルアンモニウムイオン形)やTBA形(テトラブチルアンモニウムイオン形)のようなアンモニウム形でも良い。
【0055】
H形キレート交換体は、Na形、Ca形、Mg形等の金属イオン形のキレート交換体を、鉱酸と接触させることにより、酸処理されて、H形に変換されたものである。つまり、H形キレート交換体は、金属イオン形のキレート交換体の鉱酸接触処理物である。
【0056】
H形キレート交換体が有する官能基は、金属イオンに配位してキレートを形成することができるものであれば、特に制限されず、例えば、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基、イミノプロピオン酸基等のアミノ基を有する官能基、チオール基等が挙げられる。これらのうち、キレート交換体の官能基としては、多数の多価金属イオンの除去性が高くなる点で、アミノ基を有する官能基が好ましく、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基、イミノプロピオン酸基が特に好ましい。
【0057】
H形キレート交換体としては、粒状のH形キレート交換樹脂が挙げられる。H形キレート交換樹脂の基体としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体が挙げられる。H形キレート交換樹脂は、ゲル形構造、マクロポーラス形構造、ポーラス形構造のいずれの構造でもよい。H形キレート交換樹脂の交換容量は、好ましくは0.5~2.5eq/L-R、特に好ましくは1.0~2.5eq/L-Rである。H形キレート交換樹脂の平均粒径(調和平均径)は、特に制限されないが、好ましくは300~1000μm、特に好ましくは500~800μmである。なお、H形キレート交換樹脂の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定される値である。
【0058】
また、H形キレート交換体としては、H形の有機多孔質キレート交換体が挙げられる。H形の有機多孔質キレート交換体は、キレート能有する官能基、例えば、上記に挙げられているキレート能を有する官能基が導入されている有機多孔質体である。H形の有機多孔質キレート交換体中の交換容量は、好ましくは0.3~2mg当量/mL(水湿潤状態)、特に好ましくは1~2mg当量/mL(水湿潤状態)である。
【0059】
H形キレート交換体は、Na形、Ca形、Mg形等の金属イオン形のキレート交換体を鉱酸と接触させて酸処理することにより、得られる。金属イオン形のキレート交換体に接触させる鉱酸としては、塩酸、硫酸、硝酸が挙げられる。これらのうち、鉱酸としては、安全性の点で、塩酸、硫酸が好ましい。また、Ca形からの変換の場合は、硫酸カルシウムの析出の恐れがあるので塩酸が好ましい。鉱酸の濃度は、好ましくは0.1~6N、特に好ましくは1~4Nである。
【0060】
金属イオン形のキレート交換体に鉱酸を接触させる方法としては、特に制限されず、接触様式、接触温度、接触時間等は適宜選択される。
【0061】
金属イオン形のキレート交換体に鉱酸を接触させた後、H形に変換されたH形キレート交換体を水洗し、余分な鉱酸の除去を行うが、キレート交換体中の官能基が、鉱酸との水素結合等により結合しているため、水洗では余分な鉱酸を完全に除去することができない。そのため、H形キレート交換体中には、酸処理に用いた鉱酸が残留している。
【0062】
例えば、金属イオン形のキレート交換樹脂としては、三菱化学社製のCR-10、CR-11、住化ケムテックス社製のデュオライトC-467、住友化学社製のMC-700、ランクセス社製のレバチットTP207、レバチットTP208、レバチットTP260、ピュロライト社製のS930、S950、オルガノ製のDS-21、DS-22が挙げられる。
【0063】
キレート交換体は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0064】
有機多孔質カチオン交換体、有機多孔質アニオン交換体、有機多孔質キレート交換体等の有機多孔質イオン交換体としては、例えば、連続骨格相と連続空孔相からなり、連続骨格の厚みは1~100μm、連続空孔の平均直径は1~1000μm、全細孔容積は0.5~50mL/gであり、イオン交換基(キレート交換基、カチオン交換基又はアニオン交換基)が導入されており、乾燥状態での重量当たりのイオン交換容量が1~6mg当量/gであり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に均一に分布している有機多孔質イオン交換体(以下、第一の形態の有機多孔質イオン交換体とも記載する。)が挙げられる。
【0065】
第一の形態の有機多孔質イオン交換体としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径1~1000μmの開口となる連続気泡構造を有し、全細孔容積が1~50mL/gであり、イオン交換基が導入されており、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が1~6mg当量/gであり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に均一に分布している有機多孔質イオン交換体が挙げられる。
【0066】
また、第一の形態の有機多孔質イオン交換体としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30~300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、全細孔容積が0.5~10ml/g、カチオン交換基又はアニオン交換基が導入されており、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が1~6mg当量/gであり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に均一に分布しており、且つ、連続マクロポア構造体(乾燥体)の切断面のSEM画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中25~50%である有機多孔質イオン交換体が挙げられる。
【0067】
また、第一の形態の有機多孔質イオン交換体としては、前記有機多孔質イオン交換体が、イオン交換基(キレート交換基、カチオン交換基又はアニオン交換基)が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.1~5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが1~60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が10~200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であり、全細孔容積が0.5~10mL/gであり、カチオン交換基が導入されており、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が1~6mg当量/gであり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に均一に分布している有機多孔質イオン交換体が挙げられる。
【0068】
精製工程において、水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させる方法は、特に制限されず、例えば、イオン交換体を充填容器又は充填カラムに充填し、イオン交換体の充填容器又は充填カラムに、水が添加された極性有機溶媒を供給する方法が挙げられる。
【0069】
精製工程において、水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させるときの条件は、特に制限されないが、例えば、通液速度(SV)は、好ましくは1~30h-1、特に好ましくは2~10h-1である。
【0070】
そして、精製工程では、水が添加される極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させることにより、極性有機溶媒中のイオン性不純物を、イオン交換体に吸着させて、除去する。このようにして、精製工程を行うことにより、イオン性不純物が低減された精製極性有機溶媒を得ることができる。
【0071】
精製工程において、極性有機溶媒中の不純物を除去するために、イオン交換体に、微粒子除去フィルターを組み合わせても良い。本発明の極性有機溶媒の精製方法では、水添加工程前に、微粒子除去フィルターを用いて、被処理対象の極性有機溶媒を処理しても良いし、水添加工程後に、微粒子除去フィルターを用いて、被処理対象の極性有機溶媒を処理しても良い。微粒子除去フィルターは、イオン交換体の前段又は後段のいずれか、あるいは、イオン交換体の前段と後段の両方に配置しても良い。水中では微粒子は荷電を持つ場合があることが知られているため、微粒子除去フィルターを用いる極性有機溶媒の処理を、水添加前に行うか、あるいは、水添加後にイオン交換体の前段に配置することで、イオン交換体への不純物負荷量を減らす効果が期待できる。
【0072】
本発明の極性有機溶媒の精製方法を行い得られる精製極性有機溶媒は、処理前から含有していた水及び水添加工程で添加された水を含有しているものの、イオン性不純物が非常に低減されているので、1質量ppt以下の不純物レベルまでの精製が可能となる。そのため、本発明の極性有機溶媒の精製方法を行い得られる精製極性有機溶媒は、微量金属分析のためのICP-MSを用いる金属濃度分析における希釈用溶媒(検量線用ブランク液)用の溶媒、サンプルの希釈用溶媒、器具や分析装置の洗浄用溶媒として、好適である。つまり、本発明の極性有機溶媒の精製方法は、ICP-MSを用いる金属濃度分析に用いられる溶媒の製造方法として、好適である。
【0073】
本発明の極性有機溶媒の精製方法を行い得られる精製極性有機溶媒を、水と混合し難い低極性又は非極性の有機溶媒の希釈液として、ICP-MS分析に用いることができる。特にICP-MSの混合標準液は水溶液が一般的であるため、低極性又は非極性の有機溶媒に、ICP-MSの混合標準液(水溶液)を添加しても、十分に混合されず、分析精度が落ちることがある。そこで、本発明の極性有機溶媒の精製方法を行い得られる精製極性有機溶媒に、ICP-MSの混合標準液(水溶液)を添加し、混合標準液を含有する精製極性有機溶媒を、分析対象となる低極性又は非極性の有機溶媒に添加して、検量線を作成することができる。また、本発明の極性有機溶媒の精製方法を行い得られる精製極性有機溶媒を用いて、低極性又は非極性の有機溶媒を希釈することで、測定精度を上げることができる。よって、本発明の極性有機溶媒の精製方法を行い得られる精製極性有機溶媒により、極性、低極性及び非極性のいずれの有機溶媒も分析することが可能となる。
【0074】
また、本発明の極性有機溶媒の精製方法は、少量であれば水の含有が許容される極性有機溶媒を用いた電子部品や機械洗浄等の用途の溶媒の製造方法、回収方法としても用いられる。また、本発明の極性有機溶媒の精製方法は、溶媒中のイオン性不純物の量が非常に低減されていることが必要な用途において、後段の水除去方法と組み合わせることにより、イオン性不純物が非常に低く且つ含水量が少ないことが求められる半導体製造工程向けの電子部品や材料の洗浄や希釈液等の用途の溶媒の製造方法にも用いられる。
【0075】
本発明の精製極性有機溶媒の製造方法は、極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、
水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、精製極性有機溶媒を得る精製工程と、
を有することを特徴とする精製極性有機溶媒の製造方法である。
【0076】
本発明の精製極性有機溶媒の製造方法に係る水添加工程及び精製工程は、本発明の極性有機溶媒の精製方法に係る水添加工程及び精製工程と同様である。
【0077】
本発明の精製極性有機溶媒の製造方法を行い得られる精製極性有機溶媒の用途としては、ICP-MSを用いる金属濃度分析用の希釈液が挙げられる。つまり、本発明の精製極性有機溶媒の製造方法を行い得られる精製極性有機溶媒を、水と混合し難い低極性又は非極性の有機溶媒の希釈液として、ICP-MS分析に用いることができる。特にICP-MSの混合標準液は水溶液が一般的であるため、低極性又は非極性の有機溶媒に、ICP-MSの混合標準液(水溶液)を添加しても、十分に混合されず、分析精度が落ちることがある。そこで、本発明の精製極性有機溶媒の製造方法を行い得られる精製極性有機溶媒に、ICP-MSの混合標準液(水溶液)を添加し、混合標準液を含有する精製極性有機溶媒を、分析対象となる低極性又は非極性の有機溶媒に添加して、検量線を作成することができる。また、本発明の精製極性有機溶媒の製造方法を行い得られる精製極性有機溶媒を用いて、低極性又は非極性の有機溶媒を希釈することで、測定精度を上げることができる。よって、本発明の精製極性有機溶媒の製造方法を行い得られる精製極性有機溶媒により、極性、低極性及び非極性のいずれの有機溶媒も分析することが可能となる。
【0078】
言い換えると、本発明の精製極性有機溶媒の製造方法の形態例としては、ICP-MSを用いる金属濃度分析用の希釈液として用いられる精製極性有機溶媒の製造方法が挙げられる。つまり、本発明の希釈液の製造方法は、極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、ICP-MSを用いる金属濃度分析用の希釈液として用いられる精製極性有機溶媒を得る精製工程と、を有するICP-MSを用いる金属濃度分析用の希釈液の製造方法である。本発明の希釈液の製造方法に係る水添加工程及び精製工程は、本発明の極性有機溶媒の精製方法に係る水添加工程及び精製工程と同様である。
【0079】
本発明の極性有機溶媒の精製装置は、イオン交換体が充填されているイオン交換体の充填部と、
極性有機溶媒に水を添加するための水添加部と、
該水添加部により水が添加された該極性有機溶媒を、該イオン交換体の充填部に供給するための極性有機溶媒供給部と、
を有することを特徴とする極性有機溶媒の精製装置である。
【0080】
本発明の極性有機溶媒の精製装置について、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明に係る極性有機溶媒の精製装置の形態例を示す図である。
図1中、極性有機溶媒の精製装置1は、イオン交換体が充填されているイオン交換体充填カラム7と、処理対象である極性有機溶媒2を、イオン交換体充填カラム7に供給するための極性有機溶媒供給管4と、イオン交換体充填カラム7内のイオン交換体で処理された処理液、すなわち、精製極性有機溶媒9を排出するための精製極性有機溶媒排出管8と、を有する。極性有機溶媒供給管4には、極性有機溶媒供給管4に、超純水3を供給するための水添加管10が繋がっている。極性有機溶媒供給管4には、極性有機溶媒2の供給量を調節するためのポンプ5が設置されており、また、水添加管10には、超純水3の供給量を調節するためのポンプ6が設置されている。
【0081】
そして、極性有機溶媒の精製装置1では、ポンプ5で供給量を調節しながら、極性有機溶媒供給管4より、極性有機溶媒2をイオン交換体充填カラム7に向けて供給しつつ、ポンプ6で供給量を調節しながら、水添加管10より、超純水3を極性有機溶媒供給管4内に供給する。このとき、水添加管10が繋がっている位置11で、極性有機溶媒2に超純水3が添加され、位置11より後段の極性有機溶媒供給管4内で、極性有機溶媒2に超純水3が混合されて、極性有機溶媒に水が溶解する。次いで、水が添加された極性有機溶媒12が、イオン交換体充填カラム7内に供給されて、イオン交換体に、水が添加された極性有機溶媒12が接触する。そして、イオン交換体に接触することにより処理された処理液、すなわち、精製極性有機溶媒9が、精製極性有機溶媒排出管8より排出される。
【0082】
本発明の極性有機溶媒の精製装置は、上記本発明の極性有機溶媒の精製方法を実施するために好適である。
【0083】
本発明の極性有機溶媒の精製装置に係るイオン交換体の充填部は、イオン交換体が充填されている部位であり、水が添加された極性有機溶媒をイオン交換体に接触させるための部位である。イオン交換体の充填部に充填されているイオン交換体は、本発明の極性有機溶媒の精製方法に係るイオン交換体と同様である。イオン交換体の充填部の形態としては、特に制限されず、例えば、イオン交換体が充填されている充填容器、イオン交換体が充填されている充填カラム、カートリッジ状充填容器、樹脂塔等が挙げられる。
【0084】
本発明の極性有機溶媒の精製装置に係る水添加部は、極性有機溶媒に水を添加するための部位である。水添加部の形態としては、特に制限されず、例えば、
図1に示す形態例のような、極性有機溶媒をイオン交換体に供給するための極性有機溶媒の供給管に繋がっている水添加管と、極性有機溶媒の供給管への水の供給量を調節するためのポンプ、ポンプと連動したマスフローコントローラー、電動流量調整弁等の供給装置と、からなる水添加部が挙げられる。水添加部としては、他に、低流量添加するためのシリンジポンプ等が挙げられる。
【0085】
本発明の極性有機溶媒の精製装置に係る極性有機溶媒供給部は、水添加部により水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体の充填部に供給するための部位である。極性有機溶媒供給部としては、
図1に示す形態例のように、極性有機溶媒をイオン交換体の充填部に供給するための極性有機溶媒の供給管と、イオン交換体の充填部への極性有機溶媒の供給量を調節するためのポンプ、圧力制御のための逃し弁等の供給装置と、からなる極性有機溶媒供給部が挙げられる。極性有機溶媒供給部としては、他に、圧量送液用容器に入れた極性有機溶媒を不活性ガスによって圧力送液する供給装置と、圧力制御のための逃し弁を用いた供給部等が挙げられる。
【0086】
また、本発明の極性有機溶媒の精製装置では、イオン交換体の充填部に供給され精製された極性有機溶媒を、使用時直前、使用直後又は未使用時は、精製装置内部で循環通液してもよい。そこで、本発明の極性有機溶媒の精製装置は、イオン交換体の充填部に供給され精製された極性有機溶媒を、精製装置内部で循環させる循環管、例えば、一端がイオン交換体の充填部の排出側にある精製極性有機溶媒排出管のいずれかの位置に繋がり、且つ、他端がイオン交換体の充填部の供給側にある極性有機溶媒供給管のいずれかの位置に繋がる循環管を、有することができる。
【0087】
本発明の極性有機溶媒の精製装置では、各部材の接液部は、金属溶出がない点で、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂で形成又はコーティングされていることが好ましい。除去又は測定対象への金属溶出が無ければ、接液部の材質は石英等の鉱物で形成又はコーティングされても良い。
【0088】
本発明の極性有機溶媒の精製方法及び本発明の精製極性有機溶媒の製造方法は、水添加工程で、処理対象である極性有機溶媒に水を添加するので、水を添加しない場合に比べ、極性有機溶媒中で金属不純物がイオン化し易くなり、官能基が解離しやすくなるため、イオン交換反応によって除去するイオン量が増す。言い換えれば、本発明の極性有機溶媒の精製方法及び本発明の精製極性有機溶媒の製造方法では、水添加工程で、処理対象である極性有機溶媒に水を添加することにより、有効に使用出来る官能基量が増えるため、水添加前よりもイオン交換体のライフが長くなり、交換時期を遅らせることができる。なお、極性有機溶媒の含水割合が高ければ高いほどイオン交換し易くなるが、極性有機溶媒の濃度が低下すると極性有機溶媒を使う上での効果が低下するため、水添加工程で水を添加した後の極性有機溶媒の水含有量は、0.01~20.0質量%が好ましく、0.01~10.0質量%であることがより好ましく、0.10~5.0質量%であることが特に好ましい。
【0089】
本発明の分析方法は、極性有機溶媒に水を添加する水添加工程と、
水が添加された極性有機溶媒を、イオン交換体に接触させ、精製極性有機溶媒を得る精製工程と、
希釈溶媒として、該精製極性有機溶媒を用いて、検量線を作成する検量線作成工程と、を有することを特徴とする分析方法である。つまり、本発明の分析方法は、極性有機溶媒中の金属含有量の定量分析を行うための分析方法であり、少なくとも、水添加工程と、精製工程と、検量線作成工程と、を有する。
【0090】
本発明の分析方法に係る水添加工程及び精製工程は、本発明の極性有機溶媒の精製方法に係る水添加工程及び精製工程と同様である。
【0091】
本発明の分析方法に係る検量線作成工程は、希釈溶媒として、精製工程を行い得られる精製極性有機溶媒を用いて、検量線を作成する工程である
【0092】
検量線作成工程では、精製工程を行い得られる精製極性有機溶媒を、検量線作成用の希釈溶媒として用いる。そして、検量線作成工程において、希釈溶媒として、精製極性有機溶媒を用いて、検量線を作成するとは、標準液を精製極性有機溶媒で希釈して、金属の含有量が異なる複数の希釈試料を作成し、次いで、各金属の含有量の把握が必要な有機溶媒の定量分析を行う方法と同じ分析方法で、作成した各希釈試料を分析し、得られる分析結果に基づいて、検量線を作成する。例えば、X分析方法で、各金属の含有量の把握が必要な有機溶媒の定量分析を行う場合、先ず、精製極性有機溶媒に既知濃度の標準液を混合して、標準液を精製極性有機溶媒で、それぞれ、a1倍に希釈した試料1、a2倍に希釈した試料2、a3倍に希釈した試料3、a4倍に希釈した試料4、a5倍に希釈した試料5を作成する。次いで、試料1~試料5をそれぞれ、X分析方法で分析し、試料1~試料5の既知濃度と信号強度の関係式を求めることで検量線を作成する。信号強度は分析方法毎に異なるが、例えば、ICP-MSの場合は、各イオンの質量電荷比ごとの信号強度が一度の測定で得られる。各質量の金属イオンと既知濃度の試料と信号強度の関係式が検量線である。得られた検量線に、未知濃度サンプルの信号強度を当てはめることで、濃度を求めることができる。
【0093】
検量線作成工程に係る標準液は、分析対象の各金属を含有し、各金属の含有量が正確に知られている液であり、高純度の有機溶媒中の不純物の定量分析の検量線の作成において、標準液として用いられるものであれば、特に制限されない。
【0094】
本発明の分析方法では、検量線作成工程を行った後は、各金属の含有量の把握が必要な有機溶媒、例えば、精製後のレジスト、ポリマー、顔料などを含む低極性又は非極性の有機溶媒を希釈するための高純度の極性有機溶媒、精製後のウェハーなどの乾燥用の極性有機溶媒等の有機溶媒を分析し、作成した検量線を用いて、有機溶媒中の各金属の含有量を求める。
【0095】
有機溶媒の定量分析及び検量線の作成に用いる分析には、ガスクロマトグラフィー法、液体クロマトグラフィー法、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装法)、ICP発光分光分析法、原子吸収分光光度法が用いられる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0097】
<処理対象の極性有機溶媒1>
半導体グレードのイソプロピルアルコール(トクソーIPA SEグレード、トクヤマ社製)に、オイルベース標準液Conoatanを加え、各金属濃度1ppbの処理対象の極性有機溶媒1を調製した。極性有機溶媒1の含水量は53質量ppmであった。
【0098】
(実施例1)
極性有機溶媒1に超純水を添加して、95質量ppmの含水量の極性有機溶媒を調製した。
次いで、水を添加した極性有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換樹脂(オルライトDS-1)に、SV=5h-1で4時間通液し、通液4時間後の精製極性有機溶媒を得た。
次いで、精製極性有機溶媒の各金属濃度を、ICP-MS Agilent 8900で測定し、処理前後の分析値より各金属元素の除去率(除去率(%)=((精製前の金属元素濃度-精製後の金属元素濃度)/精製前の金属元素濃度)×100)を求めた。その結果を表1に示す。
・H形強酸性カチオン交換樹脂(DS-1):オルガノ社製、カチオン交換容量2.0eq/L-樹脂
【0099】
(実施例2)
極性有機溶媒1に超純水を添加して、193質量ppmの含水量の極性有機溶媒を調製すること以外は、実施例1と同様に行い、精製極性有機溶媒を得た。その結果を表1に示す。
【0100】
(比較例1)
処理対象の極性有機溶媒1に水を添加しないこと、すなわち、H形強酸性カチオン交換樹脂(オルライトDS-1)に通液する極性有機溶媒を、処理対象の極性有機溶媒1とすること以外は実施例1と同様に行い、精製極性有機溶媒を得た。その結果を表1に示す。
【0101】
【0102】
<処理対象の極性有機溶媒2>
半導体グレードのイソプロピルアルコール(トクソーIPA SEグレード、トクヤマ社製)を、処理対象の極性有機溶媒2として用意した。極性有機溶媒2の含水量は31質量ppmであった。
【0103】
(実施例3)
極性有機溶媒2に超純水を添加して、70質量ppmの含水量の極性有機溶媒を調製した。
次いで、水を添加した極性有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換樹脂とOH形アニオン交換樹脂の混床(オルライトDS-7)に、SV=4h-1で2時間通液し、通液2時間後の精製極性有機溶媒を得た。
次いで、精製極性有機溶媒の各金属濃度を、ICP-MS Agilent 8900で測定し、各金属元素の濃度を求めた。その結果を表2に示す。
・H形強酸性カチオン交換樹脂とOH形アニオン交換樹脂の混床(DS-7):オルガノ社製、カチオン交換樹脂の交換容量1.8eq/L-樹脂、アニオン交換樹脂の交換容量1.0eq/L-樹脂
【0104】
(実施例4)
極性有機溶媒2に超純水を添加して、170質量ppmの含水量の極性有機溶媒を調製し、SV=8h-1で1時間通液すること以外は、実施例3と同様に行い、精製極性有機溶媒を得た。その結果を表2に示す。
【0105】
【0106】
<処理対象の極性有機溶媒3>
各金属元素濃度が表3に示す通りである高濃度Naを含有するプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を、処理対象の極性有機溶媒3として用意した。極性有機溶媒3の含水量は154質量ppmであった。
【0107】
(実施例5)
極性有機溶媒3に超純水を添加して、320質量ppmの含水量の極性有機溶媒を調製した。
次いで、水を添加した極性有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換樹脂(オルライトDS-1)を上層に、H形強酸性カチオン交換樹脂とOH形強アニオン交換樹脂の混床(DS-3)を下層に積層した複床のイオン交換体に、SV=5h-1で4時間通液し、通液4時間後の精製極性有機溶媒を得た。
次いで、精製極性有機溶媒の各金属濃度を、ICP-MS Agilent 8900で測定し、各金属元素の濃度を求めた。その結果を表3に示す。
・H形強酸性カチオン交換樹脂とOH形アニオン交換樹脂の混床(DS-3):オルガノ社製、カチオン交換樹脂の交換容量2.0eq/L-樹脂、アニオン交換樹脂の交換容量1.0eq/L-樹脂
【0108】
<処理対象の極性有機溶媒4>
各金属元素濃度が表3に示す通りである高濃度Naを含有するプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を、処理対象の極性有機溶媒4として用意した。極性有機溶媒4の含水量は141質量ppmであった。
【0109】
(比較例2)
処理対象である極性有機溶媒4に水を添加せずに、極性有機溶媒4を、H形強酸性カチオン交換樹脂(オルライトDS-1)を上層に、H形強酸性カチオン交換樹脂とOH形強アニオン交換樹脂の混床(DS-3)を下層に積層した複床のイオン交換体に、SV=5h-1で4時間通液し、通液4時間後の精製極性有機溶媒を得た。
次いで、実施例5と同様にして、精製極性有機溶媒の各金属濃度を求めた。その結果を表3に示す。
【0110】
【0111】
<処理対象の極性有機溶媒5>
半導体グレードのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に、オイルベース標準液Conoatanを加え、各金属濃度が表4に示す通りである処理対象の極性有機溶媒5を調製した。極性有機溶媒5の含水量は51質量ppmであった。
【0112】
(実施例6)
極性有機溶媒5に超純水を添加して、92質量ppmの水含有量の極性有機溶媒を調製した。
次いで、水を添加した極性有機溶媒を、H形キレート交換樹脂(オルライトDS-21)に、SV=5h-1で4時間通液し、通液4時間後の精製極性有機溶媒を得た。
次いで、精製極性有機溶媒の各金属濃度を、ICP-MS Agilent 8900で測定し、各金属元素の濃度を求めた。その結果を表4に示す。
・H形キレート交換樹脂:H形のアミノリン酸形キレート樹脂(オルガノ社製、オルライトDS-21(カチオン交換容量1.8eq/L-樹脂、調和平均径500μm))
【0113】
(比較例3)
処理対象である極性有機溶媒5に水を添加しないこと、すなわち、H形キレート交換樹脂(オルライトDS-21)に通液する極性有機溶媒を、極性有機溶媒5とすること以外は実施例6と同様に行い、精製極性有機溶媒を得た。その結果を表4に示す。
【0114】
【0115】
(実施例7)
半導体グレードのイソプロピルアルコール(トクソーIPA SEグレード、トクヤマ社製)に、水を添加して、水含有量が、0.1質量%、1.0質量%、5.0質量%、10.0質量%のイソプロピルアルコールを調製し、次いで、各水含有量のイソプロピルアルコールに、金属不純物としてNaが1ppbとなるように金属標準液を添加した。金属標準液にはSPEX社製のXSTC-13(汎用混合標準液)を用いた。
次いで、H形強酸性カチオン交換樹脂(DS-1)と、各含水量のイソプロピルアルコールを、質量比で1:10となるように、PFA(テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体)製のビーカーに、入れ、各水含有量のイソプロピルアルコールに、H形強酸性カチオン交換樹脂を、1時間以上浸漬させて、金属吸着バッチ試験を行った。次いで、バッチ試験後の上澄み液中の金属濃度を測定した。
バッチ試験前のイソプロピルアルコール中のNa濃度と、バッチ試験後の上澄み液中のNa濃度から、H形強酸性カチオン交換樹脂へのNaの吸着量を算出した。なお、イソプロピルアルコールの水含有量の違いによる吸着量変化を示すため、水含有量が10.0質量%のときのNa吸着量を100とした場合の、それぞれの水含水量におけるNa吸着量を表5及び
図2に示す。
【0116】
【0117】
バッチ試験の結果により、水含有量が1.0質量%から5.0質量%に増加すると、急激にNa吸着量が増加することが確認できた。また、水含有量が5.0質量%の場合と10.0質量%の場合とを比べると、Na吸着量はやや増加したものの増加幅は少なかった。なお、極性有機溶媒中の水含有量が多いと、分析時の精度への影響が大きくなる可能性があるため、極性有機溶媒の濃度は、80.0質量%以上を保つことが好ましい。よって、水を添加した後の極性有機溶媒の水含有量は、20.0質量%までが好ましく、10.0質量%までがより好ましい。