(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】アルミニウム含有量の極めて少ない低コストの無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20250306BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250306BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20250306BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C21D8/12 A
C22C38/00 303U
C22C38/06
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2022571881
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 CN2021095717
(87)【国際公開番号】W WO2021238895
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】202010472318.5
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(72)【発明者】
【氏名】チャン、フェン
(72)【発明者】
【氏名】シェン、カンイ
(72)【発明者】
【氏名】ゾン、ヂェンユ
(72)【発明者】
【氏名】リ、グオバオ
(72)【発明者】
【氏名】ファン、シャンシ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-292829(JP,A)
【文献】特開2004-339537(JP,A)
【文献】特開2014-195818(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102925793(CN,A)
【文献】特開2001-181743(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104017949(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101306434(CN,A)
【文献】特開2017-128801(JP,A)
【文献】米国特許第04338143(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00ー38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム含有量が極めて少ない低コストの無方向性電磁鋼板の製造方法であって、該無方向性電磁鋼板は以下の化学元素を有し、該化学元素の質量%は:
Cが0.003%以下であり、Siが0.1%~1.2%であり、Mnが0.1%~0.4%であり、Pが0.01%~0.2%であり、Sが0.003%以下であり、Alが0.001%以下であり、Oが0.003%~0.01%であり、Nが0.003%以下であり、Snが0.005%~0.05%であり、かつ、残余がFeおよびその他の不可避な不純物であり、条件Si
2/P:0.89~26.04が満たされ、
当該製造方法は以下のステップを有することによって特徴付けられ、該ステップは:
(1)製錬ステップ;
(2)連続鋳造ステップ;
(3)熱間圧延ステップであり、熱間圧延板が、コイル巻き取り後に焼きならし処理またはカバー炉焼鈍に供されるのではなく、熱間圧延鋼コイルの余熱による均熱および保温に供される、前記熱間圧延ステップ;
(4)一次冷間圧延ステップ;ならびに、
(5)連続焼鈍ステップであり;
ステップ(1)において、RH精製の脱酸および合金化の最中に、フェロホスホル、フェロシリコンおよびフェロマンガンが順に追加され、かつ、前記フェ
ロシリコン中、Al≦0.1%であり、かつ/または、Ti≦0.03%である、
前記製造方法。
【請求項2】
ステップ(3)において、初期圧延温度が1050~1150℃であるように制御され、最終圧延温度が650~950℃であるように制御され、コイル巻き取り温度が650~850℃であるように制御され、均熱および保温温度が650~850℃であるように制御され、かつ、保温時間が少なくとも10sであるように制御されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(3)において、粗圧延および最終圧延が2~8パスで完了する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ(5)において、焼鈍が、H
2およびN
2の混合気体の焼鈍雰囲気下で650~950℃にて実行され、H
2の体積比率が20~60%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記無方向性電磁鋼板がAlを0.0005%以下有することによって特徴付けられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記無方向性電磁鋼板がOを0.0045~0.007%有することによって特徴付けられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記無方向性電磁鋼板がSnを0.005~0.02%有することによって特徴付けられる、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
Si
2/Pが0.89~16.67であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼板およびその製造方法に関し、とりわけ、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
無方向性電磁鋼板内部の粒の方向は唯一のものではなく、かつ、無方向性電磁鋼板は、優れた電磁特性を有する機能性材料である。長期間、無方向性電磁鋼板は二つの方向に発展してきた:第一に、製造コストが高く、かつ、生産工程が複雑ではあるが、電磁特性および機械特性に優れた高効率かつ高級である鋼;そして、第二に、製造コストが低く、生産工程が単純であり、かつ、電磁特性および機械特性に優れた中級ならびに低級である鋼。
【0003】
統計によれば、異なる応用の機会に起因して、中級および低級である無方向性電磁鋼板の数は、全無方向性電磁鋼板の70%以上を占める。したがって、いっそう経済的かつ便宜に中級および低級である無方向性電磁鋼板をどのように生産するかを研究すること、および、そのコストパフォーマンスをさらに改善することは、実用的意義が大きい。同時に、中級および低級である無方向性電磁鋼板がほぼ小型および中型のモーター、EI鉄心、小さい発電機などに用いられることを考慮すると、ユーザー市場は常に鋼板の鉄損を減少させることを要求しており、かつ、同時に、いっそう有効に鉄心の銅損を減少させるために鋼板の磁気誘導を改善することがいっそう急がれる。
【0004】
追加的に、研究は、無方向性電磁鋼板の電磁的性能インジケーターにおいては、鉄損および磁気誘導が相互に制限されること、ならびに、熱間圧延鋼板に対して焼きならし処理またはカバー炉焼鈍処理が実行されなければ低鉄損および高磁気誘導を同時に達成することが困難であるが、このことが完成した鋼板の製造コストを大きく増加させるであろうことを示した。
【0005】
近年、多数の科学者および技術者が、熱間圧延板に対する焼きならし処理またはカバー炉焼鈍処理を実行することなく無方向性電磁鋼板の製造コストを減少させながらその電磁特性をどのように有効に改善するかについて多くの有益な試みをなした。
【0006】
2011年3月30日付けで公開され、かつ、「冷間圧延無方向性ケイ素鋼のアルミニウムを含まない鋼種を生産するための方法」と題する中国特許公開第101992210号公報は、冷間圧延無方向性ケイ素鋼のアルミニウムを含まない鋼種を生産するための方法を開示し、かつ、Al≦0.0010%に制御し、かつ、窒化物を形成しやすい残留元素の含有量を制御すること、熱間圧延、一次冷間圧延または中間焼鈍を伴う二次冷間圧延のために低温加熱および温度制御圧延を採用すること、ならびに、湿式水素脱炭、再結晶化温度焼鈍などのような包括的性能制御手段を実装することにより、既存の設備条件下でいっそう低い生産コストにて高効率のアルミニウムを含まない冷間圧延無方向性ケイ素鋼の大量生産が達成されること、ならびに、その電磁特性が従来の工程により生産された同じ等級の冷間圧延無方向性ケイ素鋼のものより良好であること、鉄損が平均約0.4W/kg減少すること、ならびに、磁気誘導が平均0.2T増加することを指摘する。具体的な制御方法は、次の通りである:脱酸アルミニウム、材料、耐熱材料を含む合金化工程の最中に取り込まれる残留アルミニウムの含有量が制御され、Alが0.0010%以下であるように制御され、かつ、精製および脱酸工程にSi脱酸が用いられ;製錬の最中の窒素含有量および窒化物を形成しやすい残留元素の含有量が制御され、かつ、N、Ti、NbおよびVの含有量が各々0.0020%以下であるように制御され;熱間圧延が、温度制御圧延(すなわち、フェライト単相領域における圧延)を実装するために低温加熱および最終圧延を採用し、かつ、二相析出状態が制御され;熱間圧延鋼片加熱温度が1000~1150℃であり、初期圧延温度が950℃以上であり、最終圧延温度が840℃以上であり、かつ、コイル巻き取り温度が690℃以上であり;冷間圧延が、完成品の厚さへの圧延のために一次冷間圧延または中間焼鈍を伴う二次冷間圧延を採用し;かつ、焼鈍が湿式水素脱炭のためのカバー炉連続焼鈍および再結晶化温度焼鈍を採用する。無方向性電磁鋼板およびその製造方法が提供される。無方向性電磁鋼板は以下の成分を含み、該成分の重量%は:Cが0.03~0.15%であり、Siが0.15%以下であり、Mnが1.0~1.8%であり、Pが0.025%以下であり、Sが0.015%以下であり、Tiが0.08~0.18%であり、Nbが0.02~0.07%であり、Alが0.02~0.10%であり、Nが0.010%以下であり、かつ、残余が鉄および残留分である。
【0007】
2008年11月19日付けで公開され、かつ、「低炭素低シリコンであってアルミニウムを含まない半加工無方向性電磁鋼の調製方法」と題する中国特許出願公開第101306434号公報は、低炭素低シリコンであってアルミニウムを含まない半加工無方向性電磁鋼を生産するための調製方法を開示する。工程ステップは、以下の通りである:熱間圧延原材料組成設計は、鋳造スラブの化学組成が以下の通りであることを要求し:Cが0.005%以下であり、Siが0.1~1.0%であり、Mnが0.35%以下であり、Pが0.08%以下であり、Sが0.01%以下であり、Nが0.008%以下であり、Oが0.015%以下であり、かつ、残余がFeおよび不可避な不純物であり;かつ、熱間装入、熱間圧延、臨界変形冷間圧延およびユーザー応力除去焼鈍によって鋳造スラブから磁気特性に優れる半加工無方向性電磁鋼が得られる。半加工無方向性電磁鋼の特徴は、鋳造スラブ加熱温度が900~1150℃であり、最終圧延温度がAr3変態点より10~50℃低いことが要求され、かつ、熱間圧延板の厚さが2.0~2.5mmであること;中間焼鈍が、H2およびN2の混合気体の中間焼鈍雰囲気下で1~2分間600~850℃にて実行され、H2の比率が10~40%であり、かつ、加湿および脱炭が必要とされず、かつ、中間焼鈍後の再結晶化率が40%以上であることが保証されること;臨界変形冷間圧延が、中間焼鈍後の鋼帯が0.5~15%の減少にて0.5mmへの臨界変形冷間圧延に供されることを意味し、臨界変形冷間圧延後の鋼板の硬度が130~180HVであること;ならびに、ユーザー応力除去焼鈍が、臨界変形後の冷間圧延製品が打抜加工および積層に供され、その後で1~2hの間700~850℃の温度にてユーザー応力除去焼鈍に供されることを意味し、焼鈍雰囲気がH2およびN2の混合気体であることが要求され、H2の比率が10~40%であり、かつ、冷却モードが徐冷であり、10~100℃/hの冷却率にて450℃への冷却を必要とし、その後で炉冷が実行されて最終の望ましい製品が得られる。半加工無方向性電磁鋼は、最終製品が磁気特性に優れ、P15/50=3.35~5.05W/kgであり、かつ、B5000=1.69~1.76Tであるという利点を有する。鋳造スラブは、Al、Sn、Sb、Cu、Cr、Ni、B、希土類などのような合金化元素を含有せず、かつ、生産コストは大きく減少する。いっそう大きい臨界減少が用いられ、かつ、焼鈍工程が最適化され、生産される完成品がいっそう良好な磁気特性を有するようになっている。
【発明の概要】
【0008】
概要
本発明の目的の一つは、アルミニウム含有量の極めて少ない低コストの無方向性電磁鋼板を提供することである。鋼の化学組成を最適化することによって、当該無方向性電磁鋼板は、鋼中の極めて少ないアルミニウム含有量および鋼およびスラグ中に含まれる適切な酸化性という技術的特徴によってRH精製の脱酸および合金化のための特殊合金の質を低下させ、鋼の製造コストを大きく減少させ、かつ、合金コストを有効に制御する。同じ等級の従来製品と比べて、当該無方向性電磁鋼板の鉄損P15/50は平均0.2~0.8W/kg減少し、当該無方向性電磁鋼板の磁気誘導B50は平均0.01~0.04T増加する。すなわち、同じ等級の既存の従来製品と比べて、本発明の特定の等級の無方向性電磁鋼板は、鉄損P15/50が平均0.2~0.8W/kg減少し、かつ、磁気誘導B50が平均0.01~0.04T増加するという特徴を有し、かつ、当該無方向性電磁鋼板は、経済性に優れるだけでなく、高磁気誘導および低鉄損という特徴も有する。上記の電磁特性の基準値は、既存のユーザー市場における通常の無方向性電磁鋼板のものである。従来の等級B50A1300の電磁特性のうち、鉄損P15/50は概して5.5~6.5W/kgであり、かつ、磁気誘導B50は1.74~1.76Tであり;従来の等級B50A800の電磁特性のうち、鉄損P15/50は概して5.0~5.5W/kgであり、かつ、磁気誘導B50は1.71~1.73Tであり;かつ、従来の等級B50A600の電磁特性のうち、鉄損P15/50は概して3.9~4.5W/kgであり、かつ、磁気誘導B50は1.68~1.71Tである。
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、アルミニウム含有量の極めて少ない低コストの無方向性電磁鋼板を提供し、当該無方向性電磁鋼板は以下の化学元素を含み、該化学元素の質量%は:
Cが0.003%以下であり、Siが0.1%~1.2%であり、Mnが0.1%~0.4%であり、Pが0.01%~0.2%であり、Sが0.003%以下であり、Alが0.001%以下であり、Oが0.003%~0.01%であり、Nが0.003%以下であり、かつ、Snが0.005%~0.05%であり、条件Si2/P:0.89~26.04が満たされる。
【0010】
さらに、本発明による無方向性電磁鋼板は、以下の化学元素を含み、該化学元素の質量%は:
Cが0.003%以下であり、Siが0.1%~1.2%であり、Mnが0.1%~0.4%であり、Pが0.01%~0.2%であり、Sが0.003%以下であり、Alが0.001%以下であり、Oが0.003%~0.01%であり、Nが0.003%以下であり、Snが0.005%~0.05%であり、かつ、残余がFeおよびその他の不可避な不純物であり、条件Si2/P:0.89~26.04が満たされる。
【0011】
本発明の無方向性電磁鋼板では、化学元素の設計原理は以下の通りである:
【0012】
C:本発明による無方向性電磁鋼板では、炭素は強力なエージング形成元素の一つである。鋼中のC元素の含有量が0.003%より多いとき、C元素はNb、V、Tiなどと容易に結合して大量の微細包有物を形成し、完成した鋼板の減損の有意な増加をもたらす。したがって、本発明の無方向性電磁鋼板では、Cの質量%はC≦0.003%であるように制御される。本発明の無方向性電磁鋼板では、C元素含有量が少なく制御される程、いっそう良好であり、具体的にはCの質量%は0<C≦0.003%であるように制御される。
【0013】
Si:本発明による無方向性電磁鋼板では、Si元素は材料の抵抗力を有意に増加させ得る。しかしながら、鋼中のSi元素の含有量が0.1%より少なければ、完成した鋼板の鉄損は有効に減少し得ず;かつ、鋼中のSi元素の含有量が1.2%より多ければ、完成した鋼板の磁気誘導は有意に劣化するであろうことは注目されるべきである。したがって、本発明の無方向性電磁鋼板では、Siの質量%は0.1%~1.2%であるように制御される。
【0014】
Mn:本発明による無方向性電磁鋼板では、Mn元素はS元素と結合してMnSを形成し、そのことによって完成した鋼板の磁気特性を有効に改善し得る。Mn元素が有効に役割を果たし得ることを確実にするために、0.1%以上のMnが鋼に追加される必要があるが、Mn元素の含有量は多過ぎるべきではないことが注目されるべきである。鋼中のMn元素の含有量が0.4%より多ければ、完成した鋼板の再結晶化組織が有意に破壊されるであろう。したがって、本発明の無方向性電磁鋼板では、Mnの質量%は0.1%~0.4%であるように制御される。
【0015】
P:本発明による無方向性電磁鋼板では、P元素は材料の強度を有意に改善し得る。鋼中のP元素の含有量が0.01%より少ないとき、完成した鋼板の強度は有効に改善され得ず、鋼中のP元素の含有量が0.2%より多ければ、冷間圧延の圧延性が有意に減少するであろう。したがって、本発明の無方向性電磁鋼板では、Pの質量%は0.01%~0.2%であるように制御される。
【0016】
S:本発明による無方向性電磁鋼板では、S元素の含有量は多過ぎるべきではない。鋼中のS元素の含有量が0.003%より多いとき、MnSおよびCu2Sのような包有物の数が有意に増加し、このことは粒の成長を妨げ、かつ、完成した鋼板の磁気特性を劣化させるであろう。したがって、本発明の無方向性電磁鋼板では、Sの質量%は0<S≦0.003%であるように制御される。本発明の無方向性電磁鋼板では、S元素含有量が少なく制御される程、いっそう良好であり、具体的にはSの質量%は0<S≦0.003%であるように制御される。
【0017】
Al:本発明による無方向性電磁鋼板では、鋼中のAl元素の含有量は多過ぎるべきではない。鋼中のAlが0.001%より多いとき、大量のAlN有害包有物が形成され、このことは完成した鋼板の磁気特性を有意に劣化させるであろう。したがって、本発明による無方向性電磁鋼板では、Alの質量%はAl≦0.001%であるように制御される。本発明の無方向性電磁鋼板では、Al元素含有量が少なく制御される程、いっそう良好であり、具体的にはAlの質量%は0<Al≦0.001%であるように制御される。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態では、Alの質量%はAl≦0.0005%であるように制御され得る。
【0019】
О:本発明による無方向性電磁鋼板では、鋼中のО元素の含有量が0.003%より少ないときに、AlおよびTiの含有量の制御の助けとならず、かつ、鋼中のО元素の含有量が0.01%より多ければ、大量の酸素包有物が形成され、このことは完成した鋼板の磁気特性を劣化させるであろう。したがって、本発明の無方向性電磁鋼板では、Оの質量%は0.003%~0.01%であるように制御される。
【0020】
いくつかの好ましい実施形態では、Оの質量%は0.0045%~0.007%であるように制御され得る。
【0021】
N:本発明による無方向性電磁鋼板では、鋼中のN元素の含有量は多過ぎるべきではない。鋼中のN元素の含有量が0.003%を超えるとき、NのNb、V、TiおよびAl包有物が有意に増加し、このことは粒の成長を妨げ、かつ、完成した鋼板の磁気特性を劣化させる。したがって、本発明の無方向性電磁鋼板では、Nの質量%はN≦0.003%であるように制御される。本発明の無方向性電磁鋼板では、N元素含有量が少なく制御される程、いっそう良好であり、具体的にはNの質量%は0<C≦0.003%であるように制御される。
【0022】
Sn:本発明による無方向性電磁鋼板では、Snは粒界偏析元素である。鋼に追加される適量の有益な元素Snが、熱間圧延の最中の粒界偏析を改善し、かつ、微視的で有益な組織を改善し得る。鋼中のSn元素の含有量が0.005%より少ないとき、偏析効果は有効に得られ得ず、かつ、鋼中のSn元素の含有量が0.05%を超えれば、微粒化が引き起こされ、かつ、完成した鋼板の磁気特性は劣化するであろう。したがって、本発明の無方向性電磁鋼板では、Snの質量%は0.005%~0.05%であるように制御される。
【0023】
いくつかの好ましい実施形態では、Snの質量%は、0.005%~0.02%であるように制御され得る。
【0024】
追加的に、本発明による無方向性電磁鋼板では、単一の化学元素の含有量を制御しながら、Si元素およびP元素もまた、条件Si2/P:0.89~26.04を満たすように制御され、式中、SiおよびPは両方とも、対応する元素の質量%の%記号の前の数字を表す。Si元素およびP元素の特性は類似し、このことは、材料の抵抗力を有意に改善し、かつ、完成した鋼板の鉄損を減少させ得るが、同時に、完成した鋼板の磁気誘導を劣化されるであろうことが注目されるべきである。完成した鋼板の機械的強度を改善するという意味では、P元素は非常に良好で顕著な効果を有するが、それはSi含有量の多い条件下の冷間圧延の圧延性を劣化させるであろう。したがって、完成した鋼板の電磁特性および機械特性を考慮すると、Si2/Pは本発明の無方向性電磁鋼板において0.89~26.04であるように制御される。
【0025】
いくつかの好ましい実施形態では、いっそう良好な実装のために、Si2/Pが0.89~16.67であるように制御され得る。
【0026】
追加的に、本発明による無方向性電磁鋼板では、鋼中の不可避な不純物としてはNb、V、Ti、Ca、MgおよびREMが挙げられることが注目されるべきである。REMは希土類元素であり、単純にREといわれてもよい。
【0027】
さらに、本発明による無方向性電磁鋼板は、Alを0.0005%以下含む。
【0028】
さらに、本発明による無方向性電磁鋼板は、Oを0.0045~0.007%含む。
【0029】
さらに、本発明による無方向性電磁鋼板は、Snを0.005~0.02%含む。
【0030】
さらに、本発明による無方向性電磁鋼板では、Si2/Pが0.89~16.67である。
【0031】
さらに、本発明による無方向性電磁鋼板では、同じ等級の従来製品と比べて、無方向性電磁鋼板の鉄損P15/50は平均0.2~0.8W/kg減少し、かつ、無方向性電磁鋼板の磁気誘導B50は平均0.01~0.04T増加する。さらに、本発明の無方向性電磁鋼板は、0.5±0.1mmの厚さを有する。
【0032】
したがって、本発明の別の目的は、アルミニウム含有量の極めて少ない低コストの無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することであり、当該製造方法は、生産工程が単純であり、かつ、製造コストが低く、かつ、同じ等級の従来製品と比べると、当該製造方法によって製造される無方向性電磁鋼板は、鉄損P15/50が平均0.2~0.8W/kg減少し、かつ、磁気誘導B50が平均0.01~0.04T増加するという利点を有し、かつ、無方向性電磁鋼板は高磁気誘導および低鉄損という特徴を有する。
【0033】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下のステップを含む無方向性電磁鋼板の製造方法を提案し、該ステップは:
(1)製錬ステップ;
(2)連続鋳造ステップ;
(3)熱間圧延ステップであって、熱間圧延板が、コイル巻き取り後に焼きならし処理またはカバー炉焼鈍に供されるのではなく、熱間圧延鋼コイルの余熱による均熱および保温に供される、前記熱間圧延ステップ;
(4)一次冷間圧延ステップ;ならびに、
(5)連続焼鈍ステップ
である。
【0034】
本発明による製造方法では、熱間圧延工程は主に、スラブ加熱、粗圧延、最終圧延およびコイル巻き取り工程を含む。焼きならし処理またはカバー炉焼鈍とは、熱間圧延後および冷間圧延前に熱間圧延コイルに対して中間焼鈍を実行して完成品の電磁特性を改善する工程のことをいう。本発明では、ステップ(3)において、熱間圧延板は、コイル巻き取り後に焼きならし処理またはカバー炉焼鈍に供されるのではなく、熱間圧延鋼コイルの余熱による均熱および保温に供され、このことは微量元素Snの偏析を有効に促進し、熱間圧延鋼板の再結晶化構造を改善し、かつ、粒のサイズの成長を促進し、したがって、焼きならし焼鈍もしくはカバー炉焼鈍に代わる、または、焼きならし焼鈍もしくはカバー炉焼鈍を補充する効果を実現し得る。追加的に、このオペレーションはまた、工程を有効に簡略化し、生産負荷および製造難易度を減少させ、かつ、生産コストを減少させ得る。
【0035】
さらに、本発明の製造方法では、ステップ(1)において、RH精製の脱酸および合金化の最中に、フェロホスホル、フェロシリコンおよびフェロマンガンが順に追加される。
【0036】
本発明による無方向性電磁鋼板の製造方法では、ステップ(1)において、RH精製の脱酸および合金化の最中に、フェロホスホル、フェロシリコンおよびフェロマンガンが順に追加される。すなわち、RH精製の最後に、フェロホスホル、フェロシリコンおよびフェロマンガンが溶融鋼に追加されて鋼中の遊離酸素が除去され、かつ、本発明の要件にしたがって元素成分が追加される。この方式では、溶融鋼は好気状態にあり、かつ、フェロホスホルおよびフェロシリコン中のAl、Ti、Nb、V、Ca、Mg、REMなどは酸化および還元反応を急速に経験するであろうし、かつ、大きい粒子の酸化物が相次いで生じ、かつ、頂部スラグに浮遊し、鋼の清浄度が劣化しないようになっている。したがって、多数の実験的研究後、フェロホスホルおよびフェロシリコンのいくつかの有害元素の制御要件は有効に減少し、このことは製鋼の生産コストを大きく減少させ得る。フェロホスホル、フェロシリコンおよびフェロマンガンとはP、SiおよびMnを含有する合金のことをいい、それらの組成率は、追加後に形成される鋼板の組成が上記の含有量要件を満たす限り限定されない。
【0037】
追加的に、フェロシリコンの追加量は、2つの側面を考慮する必要があることが注目されるべきである:一方で、フェロシリコンは化学成分Pにしたがって追加されて、Si2/Pが0.89~26.04であるように制御されることを確実にし;かつ、他方で、フェロシリコンは化学成分Oにしたがって追加されて、アルミニウム含有量が極めて少ない条件下で鋼中のO含有量がSi脱酸によって調整されて、O含有量が少な過ぎること、または、多過ぎることを妨げることを確実にする。フェロシリコンの追加量が多過ぎるとき、脱酸能力が強く、鋼中のO含有量が少なく、かつ、発生した大量の脱酸生成物SiO2がスラグの中に入り、このことは再び鋼の中に入るためにAl、Ti、Nb、V、Ca、Mg、REMおよびその他の元素の還元をもたらすであろうし;フェロシリコンの追加量が少な過ぎるとき、脱酸能力が弱く、鋼中のO含有量が多過ぎ、かつ、最終連続鋳造の最中、溶融鋼の温度の連続的な低下を伴い、大量の小さいサイズの二次脱酸生成物SiO2が過飽和に起因して再び生じ、この時点では浮遊し得ず、かつ、除去され得ず、鋼中に残り、かつ、後に続く熱間圧延の最中にMnS包有物の析出のための核を提供する。したがって、化学成分Оにしたがってフェロシリコンを追加して、鋼中のО含有量が0.003%~0.01%であるように厳格に制御されることを確実にすることが必要である。上記の連続鋳造の略語はCCであり、かつ、鋳造とは、溶融鋼を連続鋳造片へと鋳造することをいう。
【0038】
さらに、本発明の製造方法では、フェロシリコンにおいてAl≦0.1%であり、かつ/または、Ti≦0.03%である。
【0039】
さらに、本発明による製造方法では、ステップ(3)において、初期圧延温度は1050~1150℃であるように制御され、最終圧延温度は650~950℃であるように制御され、コイル巻き取り温度は650~850℃であるように制御され、均熱および保温温度は650~850℃であるように制御され、かつ、保温時間は少なくとも10sであるように制御される。
【0040】
上記の解決策では、ステップ(3)において、均熱および保温温度を650~850℃であるように制御することは、微量元素Snの偏析を有効に促進し、熱間圧延鋼板の再結晶化構造を改善し、かつ、粒のサイズの成長を促進し得る。保温時間は少なくとも10sであるように制御され、温度条件が許容すれば改善効果を大きくするために適切に延長され得る。例えば、さらに、保温時間は10s~60hであり、かつ、まださらに、保温時間は24h以内(例えば、2h~24h)であるように制御されてもよい。
【0041】
さらに、本発明による製造方法では、ステップ(3)において、粗圧延および最終圧延は2~8パスで完了する。一パスは一回の圧延のことをいい、かつ、2~8パスは2~8回の圧延のことをいう。
【0042】
さらに、本発明による製造方法では、ステップ(5)において、焼鈍は、H2およびN2の混合気体の焼鈍雰囲気下で650~950℃にて実行され、H2の体積比率は20~60%である。窒素は少量の酸素を含有するであろうし、このことは、鋼板の表面の酸化および黒化を容易にもたらすであろう。水素は、主に帯鋼の表面の酸化を回避するために追加される。上記の体積比率の水素の効果はいっそう良好であり、かつ、コストは合理的な範囲内に制御され得る。
【0043】
先行技術と比べて、本発明によるアルミニウム含有量の極めて少ない低コストの無方向性電磁鋼板およびその製造方法は、以下の利点および有益な効果を有する:
【0044】
鋼の化学組成設計を最適化することによって、アルミニウム含有量の極めて少ない低コストの無方向性電磁鋼板は、鋼中の極めて少ないアルミニウム含有量および鋼およびスラグ中に含まれる適切な酸化性という技術的特徴によってRH精製の脱酸および合金化のための特殊合金の質を低下させ、鋼の製造コストを大きく減少させ、かつ、合金コストを有効に制御する。同じ等級の従来製品と比べて、無方向性電磁鋼板の鉄損P15/50は平均0.2~0.8W/kg減少し、無方向性電磁鋼板の磁気誘導B50は平均0.01~0.04T増加し、良好な経済性を有しながら高磁気誘導および低鉄損という特徴を達成する。
【0045】
追加的に、本発明の製造方法は、生産工程が単純であり、かつ、製造コストが低く、かつ、工程条件(とりわけ熱間圧延工程)を制御することによって、熱間圧延板は、コイル巻き取り後に焼きならし処理またはカバー炉焼鈍に供されるのではなく、熱間圧延鋼コイルの余熱による均熱および保温に供されるように制御され、鋼中の微量元素が偏析され得るようになっており、かつ、熱間圧延鋼板の再結晶化構造を改善し、かつ、粒のサイズの成長を促進するという効果が達成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は、本発明による無方向性電磁鋼板中の酸素含有量と完成した鋼板の鉄損P
15/50との間の関係を概略的に示している。
【
図2】
図2は、実施例2における熱間圧延鋼板の微細構造図である。
【
図3】
図3は、比較例2における熱間圧延鋼板の微細構造図である。
【
図4】
図4は、実施例3における完成した無方向性電磁鋼板の微細構造図である。
【
図5】
図5は、比較例3における完成した鋼板の微細構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
詳細な説明
本発明によるアルミニウム含有量の極めて少ない低コストの無方向性電磁鋼板およびその製造方法は、具体的な例および図面に関して以下でさらに説明および記載される。しかしながら、該説明および記載は、本発明の技術的解決策への不適切な限定を構成しない。
【0048】
実施例1~6および比較例1~6
表1は、実施例1~6における無方向性電磁鋼板中の化学元素の質量%を列挙する。鋼種中の不可避な不純物としては主に、Nb、V、Ti、Ca、MgおよびREMが挙げられることが注目されるべきである。
【0049】
【0050】
本発明による実施例1~6における無方向性電磁鋼板はすべて、以下のステップによって製造される:
(1)製錬:転換炉において溶鉱炉からの溶融鉄および適量の屑鋼が製錬され、RH精製の最中に脱炭、脱酸および合金化が順に完了し、その後で適したスラブが鋳造される。RH精製の脱酸および合金化の最中にフェロホスホル、フェロシリコンおよびフェロマンガンが順に追加され、フェロシリコンにおいてAl≦0.1%であり、かつ/または、Ti≦0.03%である。
(2)連続鋳造;
(3)熱間圧延:初期圧延温度は1050~1150℃であるように制御され、最終圧延温度は650~950℃であるように制御され、コイル巻き取り温度は650~850℃であるように制御され、均熱および保温温度は650~850℃であるように制御され、かつ、保温時間は少なくとも10sであるように制御され、粗圧延および最終圧延は2~8パスで完了し、熱間圧延の標的厚さは1.2~2.8mmであり;熱間圧延板は、コイル巻き取り後に焼きならし処理またはカバー炉焼鈍に供されるのではなく、熱間圧延鋼コイルの余熱による均熱および保温に供され;かつ、熱間圧延の完了後、熱間圧延鋼コイルは酸洗いされ;
(4)一次冷間圧延:一度で標的厚さへと圧延する;ならびに、
(5)連続焼鈍:H2およびN2の混合気体の焼鈍雰囲気下で180s以下の間650~950℃にて焼鈍が実行され、H2の体積比率は20%~60%である。
【0051】
表2-1および2-2は、実施例1~6における無方向性電磁鋼板の製造方法の具体的な工程パラメーターを列挙する。表2-2における粗圧延および最終圧延パスは各々、粗圧延および最終圧延の圧延時間を表し、例えば実施例1において、4+7は、粗圧延が4パスで完了し、かつ、最終圧延が7パスで完了することを意味する。
【0052】
【0053】
【0054】
表3は、比較例1~6における無方向性電磁鋼板中の化学元素の質量%を列挙する。
【0055】
【0056】
表4は、比較例1~6における無方向性電磁鋼板の製造方法の具体的な工程パラメーターを列挙する。
【0057】
【0058】
比較例1~6における鋼板は、本発明による製造工程ではなく、従来の工程条件のみを用いることによって製造され、かつ、比較例1~6における鋼板は各々実施例1~6におけるものに対応することが注目されるべきである。実施例1における無方向性電磁鋼板は比較例1における国内等級B50A1300の鋼に対応し、実施例2における無方向性電磁鋼板は比較例2における国内等級B50A800の鋼に対応し、実施例3における無方向性電磁鋼板は比較例3における国内等級B50A470の鋼に対応し、実施例4における無方向性電磁鋼板は比較例4における国内等級B50A1300の鋼に対応し、実施例5における無方向性電磁鋼板は比較例5における国内等級B50A800の鋼に対応し、かつ、実施例6における無方向性電磁鋼板は比較例6における国内等級B50A470の鋼に対応する。
【0059】
実施例1~6において冷間圧延によって得られた最終標的厚さが0.5±0.1mmである無方向性電磁鋼板および比較例1~6における鋼板が、種々の性能試験に供され、かつ、得られた試験結果が表5に列挙されている。
【0060】
表5は、実施例1~6における無方向性電磁鋼板および比較例1~6における鋼板の性能試験結果を列挙する。
【0061】
鉄損性能試験:定温20℃にて国内標準GB/T 3655-2008に基づいてエプスタインスクエアを用いることによって、鉄損性能試験が実行され、試料サイズが30mm×300mmであり、標的質量が0.5kgであり、かつ、試験パラメーターがP15/50である。
【0062】
磁気誘導性能試験:定温20℃にて国内標準GB/T 3655-2008に基づいてエプスタインスクエアを用いることによって、磁気誘導性能試験が実行され、試料サイズが30mm×300mmであり、標的質量が0.5kgであり、かつ、試験パラメーターがB50である。
【0063】
【0064】
表5から見られ得るように、比較例1~6における従来の工程条件を用いることによって製造された鋼板と実施例1~6における無方向性電磁鋼板との間には、鉄損P15/50および磁気誘導B50の明白な差が存在する。電磁性能試験密度が7.85g/cm3であるとき、比較例1におけるものと比べて、実施例1における鉄損P15/50は0.4W/kg減少し、かつ、実施例1における磁気誘導B50は0.04T増加し、この理由は主に、比較例1においてはAl含有量が0.01%程度の多さ(これは本発明の請求の範囲における上限0.001%を超える)であり、かつ、熱間圧延鋼コイルがたったの547℃(これは650~850℃の制御範囲を満たさない)にて均熱および保温に供されるからであり;電磁性能試験密度が7.80g/cm3であるとき、比較例2におけるものと比べて、実施例2における鉄損P15/50は0.6W/kg減少し、かつ、実施例2における磁気誘導B50は0.02T増加し、この理由は主に、比較例2においてはSiおよびPの含有量の設計が調和せず、Si2/Pが45.56程度の高さ(これは上限26.04を超える)であることをもたらし、かつ、熱間圧延鋼コイルが872℃程度の高さの温度(これは650~850℃の制御範囲を満たさない)にて均熱および保温に供されるからであり;電磁性能試験密度が7.70g/cm3であるとき、比較例3におけるものと比べて、実施例3における鉄損P15/50は0.8W/kg減少し、かつ、実施例3における磁気誘導B50は0.01T増加し、この理由は主に、比較例3においてはSi含有量が少な過ぎ、したがってSi2/Pはたったの0.05(これは制御下限0.89を満たし得ない)であり、かつ、熱間圧延鋼コイルがたったの349℃(これは650~850℃の制御範囲を満たさない)にて均熱および保温に供されるからであり;電磁性能試験密度が7.85g/cm3であるとき、比較例4におけるものと比べて、実施例4における鉄損P15/50は0.8W/kg減少し、かつ、実施例4における磁気誘導B50は0.04T増加し、この理由は主に、比較例4においてはAl含有鋼の組成設計が用いられ、かつ、0.4%程度の多さのAlが鋼に追加され、О含有量が本発明における制御下限0.003%より少なく、かつ、たったの0.0022%であることをもたらし、かつ、同時に、熱間圧延鋼コイルが583℃(これは650~850℃の制御範囲を満たさない)にて均熱および保温に供され、かつ、均熱および保温時間が0(本発明における設計要件10sより少ない)であるからであり;電磁性能試験密度が7.80g/cm3であるとき、比較例5におけるものと比べて、実施例5における鉄損P15/50は0.7W/kg減少し、かつ、実施例5における磁気誘導B50は0.03T増加し、この理由は主に、比較例5においてはAl含有量が0.0022%(これは本発明における制御上限0.001%を超える)であり、かつ、О含有量が0.0125%(これは本発明における設計上限0.001%を超える)程度の多さであるからであり;かつ、電磁性能試験密度が7.70g/cm3であるとき、比較例6におけるものと比べて、実施例6における鉄損P15/50は0.8W/kg減少し、かつ、実施例6における磁気誘導B50は0.04T増加し、この理由は主に、比較例6においてはО含有量がたったの0.0019%(これは本発明における設計下限0.003%より少ない)であり、かつ、熱間圧延鋼コイルが均熱および保温に供されるときには均熱および保温が900℃程度の高さの温度にて実行されるが、均熱および保温時間が0(これは本発明における設計要件の下限10sより少ない)であるからである。
【0065】
したがって、本発明の実施例における無方向性電磁鋼板は、合理的な化学組成設計および工程設計を通して優れた特性を有することが見られ得る。同じ等級の従来製品と比較すると、無方向性電磁鋼板の鉄損P15/50は平均0.2~0.8W/kg減少し、かつ、無方向性電磁鋼板の磁気誘導B50は平均0.01~0.04T増加し、良好な経済性を有しながら高磁気誘導および低鉄損という特徴を達成する。
【0066】
図1は、本発明による無方向性電磁鋼板中の酸素含有量と完成した鋼板の鉄損P
15/50との間の関係を概略的に示している。
【0067】
図1に示されているように、
図1は、酸素含有量と完成した鋼板の鉄損P
15/50との間の関係を概略的に示しており、
図1に示されている鋼板は、標準として国内標準等級B50A1300の鋼種で製造され、かつ、
図1における鋼板のその他の原料はすべて、本発明の原料の定義された範囲内であり、かつ、その製造方法もまた、本発明の範囲内である。すなわち、
図1における鋼板は、以下の化学元素を含み、該化学元素の重量%は:Cが0.003%以下であり、Siが0.1%~1.2%であり、Mnが0.1%~0.4%であり、Pが0.01%~0.2%であり、Sが0.003%以下であり、Alが0.001%以下であり、Nが0.003%以下であり、Snが0.005%~0.05%であり、かつ、残余がFeおよびその他の不可避な不純物であり、条件Si
2/P:0.89~26.04が満たされる。そして、鋼板の製造方法は以下のステップを含み、該ステップは:(1)製錬ステップ;(2)連続鋳造ステップ;(3)熱間圧延ステップであって、熱間圧延板が、コイル巻き取り後に焼きならし処理またはカバー炉焼鈍に供されるのではなく、熱間圧延鋼コイルの余熱による均熱および保温に供される、前記熱間圧延ステップ;(4)一次冷間圧延ステップ;ならびに、(5)連続焼鈍ステップである。
【0068】
図1から見られ得るように、完成した鋼板の鉄損は、鋼中の酸素含有量に密接に関連する。酸素含有量が30ppm未満であるとき、鋼板の鉄損は6.0W/kgを超えるであろし、かつ、酸素含有量が少ない程、鋼板の鉄損は多くなり;かつ、酸素含有量が30~100ppmであるとき、鋼板の鉄損は概していっそう少なく、かつ、制御効果は5.5W/kg以下にて安定化し得;酸素含有量が100ppmを越えた後、酸素含有量が継続的に増加するにつれて、鋼板の鉄損は単調かつ急速に増加し、かつ、酸素含有量が130ppmに達したとき、鋼板の鉄損は8.5W/kgにさえ達し得、それは少ない酸素含有量に対応する鋼板の鉄損よりかなり多い。
【0069】
図2は、実施例2における熱間圧延鋼板の微小構造図である。
【0070】
図3は、比較例2における熱間圧延鋼板の微小構造図である。
【0071】
図2および
図3に示されるように、実施例2に対応する熱間圧延鋼板は完全な再結晶化を達成し得、粒はサイズが均一であり、かつ、粗く、かつ、平均的な粒のサイズは80μmに達し得る一方で、比較例2に対応する熱間圧延鋼板は完全な再結晶化を達成せず、再結晶化は熱間圧延鋼板の上面および下面の約5%に近い位置にて達成されるのみであり、かつ、鋼板の中央は繊維状の不完全に再結晶化された構造である。再結晶化され得る粒のサイズは比較的小さく、平均50μm未満である。
【0072】
図4は、実施例3における完成した無方向性電磁鋼板の微細構造図である。
【0073】
図5は、比較例3における完成した鋼板の微細構造図である。
【0074】
図4および5に関して、実施例3については、完成した帯鋼の微細構造は粗い等軸の粒によって占められ、粒の間の長軸および短軸のサイズは近く、形状は均整がとれており、かつ、平均再結晶化サイズは75μmであることが見られ得る。同じ等級の比較例3では、粒が有効に成長し得ないという現象が存在し、微細な粒は局所的クラスターおよび偏析を示し、かつ、再結晶化を完了し得る等軸の粒の残りは通常、小さい粒のサイズおよび均一でない分布という現象を示す。
【0075】
上述の例は本発明の具体的な例に過ぎないことが、注目されるべきである。当然、本発明は上記の例に限定されず、かつ、それに伴う類似の変形および修正が、本発明において開示された内容から当業者により直接的に導出され得、または、容易に想到され得、すべては本発明の保護範囲に属する。
【0076】
追加的に、本発明における技術的特徴の組み合わせは、本発明の請求の範囲に記載の組み合わせ、または、特定の例に記載の組み合わせに限定されず、かつ、本発明に記載のすべての技術的特徴は、互いに矛盾しなければ自由に組み合わされ得、または、任意の方式で組み合わされ得る。
【0077】
上述の例が本発明の特定の例に過ぎないこともまた、注目されるべきである。当然、本発明は上記の例に限定されず、かつ、それに伴う類似の変形および修正が、本発明において開示された内容から当業者により直接的に導出され得、または、容易に想到され得、かつ、すべては本発明の保護範囲に属する。