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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】果樹用樹液流活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 61/00 20060101AFI20250306BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20250306BHJP
   A01G 17/00 20060101ALI20250306BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
A01N61/00 C
A01P21/00
A01G17/00
A01G7/06 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023552947
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2022037512
(87)【国際公開番号】W WO2023058730
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2024-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2021165530
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】飯野 藤樹
(72)【発明者】
【氏名】本田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】大川 峻
(72)【発明者】
【氏名】西岡 一洋
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-045519(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108046856(CN,A)
【文献】Matt Kelting, et.al.,"Humate-based Biostimulants Affect Early Post-transplant Root Growth and Sapflow of Balled and Burlapped Red Maple",HortScience,1998年,Vol.33, No.2,pp.342-344
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P,A01G,C05F
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐植酸を有効成分として含有し、
メラニックインデックスが2.0以上である、果樹用樹液流活性化剤。
【請求項2】
腐植酸を有効成分として含有し、
前記有効成分が腐植酸抽出液であり、
前記腐植酸抽出液の全有機炭素濃度が15,000mg/L以上である、果樹用樹液流活性化剤。
【請求項3】
前記腐植酸の質量平均分子量が100~6,000である、請求項1又は2に記載の果樹用樹液流活性化剤。
【請求項4】
前記腐植酸が褐炭由来である、請求項1又は2に記載の果樹用樹液流活性化剤。
【請求項5】
果樹の樹液流を活性化させる方法であって、
前記果樹に腐植酸を施用することを含み、
前記腐植酸のメラニックインデックスが2.0以上である、方法。
【請求項6】
果樹の樹液流を活性化させる方法であって、
前記果樹に腐植酸抽出液を施用することを含み、
前記腐植酸抽出液の全有機炭素濃度が15,000mg/L以上である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹用樹液流活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
樹液流は、植物内の液体(樹液)の流れをいう。樹液流を測定することによって、例えば、植物の水分蒸散速度を評価することができる。樹液流を測定する方法に関しては、従来から種々の提案がなされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6007042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹液流測定装置及び樹液流測定方法については種々の報告がなされているものの、樹液流を活性化する具体的な手段はこれまで知られていない。本発明の目的は、新規な果樹用樹液流活性化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の各発明に関する。
[1]腐植酸を有効成分として含有する、果樹用樹液流活性化剤。
[2]メラニックインデックスが2.0以上である、[1]に記載の果樹用樹液流活性化剤。
[3]腐植酸の質量平均分子量が100~6,000である、[1]又は[2]に記載の果樹用樹液流活性化剤。
[4]有効成分が腐植酸抽出液であり、腐植酸抽出液の全有機炭素濃度が15,000mg/L以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の果樹用樹液流活性化剤。
[5]腐植酸が褐炭由来である、[1]~[4]のいずれかに記載の果樹用樹液流活性化剤。
[6]果樹の樹液流を活性化させる方法であって、果樹に腐植酸を施用することを含む、方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新規な果樹用樹液流活性化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】腐植酸を施用した果樹の1本あたりの果実数(個)を測定した結果を示すグラフである。
図2】(A)は、腐植酸を施用した果樹から得られた果実の総収穫個数を測定した結果を示すグラフであり、(B)は、腐植酸を施用した果樹から得られた果実の総重量(kg)を測定した結果を示すグラフであり、(C)は、腐植酸を施用した果樹から得られた果実の1個当たりの重量(kg)を測定した結果を示すグラフであり、(D)は、腐植酸を施用した果樹から得られた果実の糖度Brixを測定した結果を示すグラフである。
図3】試験期間における太陽の放射照度を示すグラフである。
図4】試験期間における温度、湿度及び飽差を示すグラフである。
図5】試験期間における樹液流測定の結果を示すグラフである。
図6】試験期間における葉面積当たりの樹液流の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態では、質量を重量ということもある。
【0009】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0010】
本実施形態に係る果樹用樹液流活性化剤は、腐植酸を有効成分として含有する。樹液流活性化とは、果樹内の養水分の吸い上げを活発にすることを意味する。
【0011】
果樹は、草本植物及び木本植物であって、果実を食用とするものをいう。果樹は、落葉果樹又は常緑果樹であってもよい。果樹は、例えば、バラ科、カキノキ科、クワ科、ザクロ科、ツツジ科、バラ科、ブドウ科、ブナ科、マタタビ科又はミカン科の果樹であってよい。バラ科の果樹としては、サクラ属、スモモ属、ナシ属、ビワ属又はリンゴ属の果樹が挙げられる。具体的には、バラ科の果樹は、例えば、ナシ、又はブドウ等であってよい。ミカン科の果樹としては、カンキツ属、キンカン属又はカラタチ属の果樹が挙げられる。具体的には、ミカン科の果樹は、例えば、ミカン等であってよい。果樹の一例としては、例えば、バラ科ナシ属のセイヨウナシの一品種であるル・レクチェが挙げられる。
【0012】
本明細書における「腐植酸」には、フミン酸及びフルボ酸が含まれる。腐植酸は、腐植酸及び腐植酸塩からなる群より選択される1種以上を含む。
【0013】
腐植酸としては、泥炭及び風化炭等の天然に産出される天然腐植酸、褐炭の硝酸酸化等により人工的に製造される人工腐植酸、及び、天然腐植酸又は人工腐植酸をナトリウム、カリウム、アンモニア、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ物質で中和した腐植酸塩等が挙げられる。腐植酸としては、フルボ酸、フミン酸、ニトロフミン酸、フミン酸アンモニウム、フミン酸カルシウム、フミン酸マグネシウム、ニトロフミン酸アンモニウム、ニトロフミン酸カルシウム及びニトロフミン酸マグネシウム、フミン酸カリウム、ニトロフミン酸カリウム等が挙げられる。
【0014】
有効成分は、腐植酸抽出液であってよい。腐植酸抽出液は、若年炭の硝酸酸化物を、水と必要によりアルカリを含む抽出溶媒により抽出した抽出物であってよい。
【0015】
若年炭とは、瀝青炭等に比べ炭素含有量の少ない石炭であり、炭素含有率が83質量%以下であるものと定義される。若年炭としては、例えば、泥炭、亜炭、褐炭、亜瀝青炭等が挙げられる。若年炭は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。腐植酸は、樹液流活性化効果の点から、褐炭由来であってよい。
【0016】
若年炭の硝酸酸化物は、若年炭を硝酸で酸化分解させて得られる。硝酸としては濃硝酸が好ましい。安全性と反応性の点で、濃度40~60質量%の硝酸を用いることが好ましい。酸化分解の際の硝酸(HNO)の配合量は、若年炭20質量部に対して、10質量部以上、又は20質量部以上であってよく、300質量部以下、250質量部以下、200質量部以下、150質量部以下、100質量部以下、50質量部以下、36質量部以下、又は20質量部以下であってよい。硝酸(HNO)の配合量は、若年炭20質量部に対して、10~20質量部であってよく、20~36質量部であってよい。ここで、硝酸の配合量は100%硝酸(100%HNO)に換算した値である。
【0017】
酸化分解の際の温度は、例えば、70~95℃であってよい。酸化反応のスターターとして、湯浴等で70~95℃に加温すると酸化反応が速やかに進行しやすい。反応時間は、例えば、20分間以上、0.5時間以上、又は1時間以上であってよく、6時間以下、4時間以下、又は1時間以下であってよい。
【0018】
腐植酸抽出液は、例えば、若年炭の硝酸酸化物(以下、腐植酸粗製物という)と、水及びアルカリを含む抽出溶媒とを攪拌した後、固液分離工程を行うことにより、液状物として得られる。
【0019】
アルカリとしては、水酸化物、アンモニア等が挙げられる。水酸化物としては、アルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム等が挙げられる。水酸化物としては、アルカリ金属の水酸化物が好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化アンモニウム(アンモニア水)のうちの1種以上が好ましい。抽出溶媒のpHは、0.5~7.0、0.5~4.0又は1.0~3.0であってよい。
【0020】
腐植酸粗製物を抽出溶媒で抽出する際の温度(抽出温度)は、抽出液の凍結及び品質低下を更に抑制する観点から、例えば、40~90℃であってよい。腐植酸粗製物を抽出溶媒で抽出する時間(抽出時間)は、例えば、0.5時間以上であってよく、24時間以下であってよく、1時間以下であってもよい。
【0021】
腐植酸粗製物を調製するために用いた原料の若年炭の量に対する抽出溶媒の量を、固液比と定義する。例えば、若年炭20gから調製された粗製物に抽出溶媒(水)100g(100mL)を添加した場合、固液比(抽出溶媒/若年炭)は5となる。固液比は3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上又は10以上であってよく、15以下、13以下、11以下、9以下、7以下、又は6以下であってよい。固液比は、水の添加によって調整することができる。固液比は、pHを調整後に目的の固液比となるように調整されてよい。固液分離する方法は、遠心分離、フィルタープレス等であってよい。
【0022】
腐植酸抽出液の全有機炭素濃度(TOC)は15,000mg/L以上、15,300mg/L以上、15,500mg/L以上、16,000mg/L以上、16,500mg/L以上、17,000mg/L以上、17,500mg/L以上、18,000mg/L以上、18,500mg/L以上、19,000mg/L以上、19,500mg/L以上、20,000mg/L以上、又は20,500mg/L以上であってよい。腐植酸抽出液のTOCは、75,000mg/L以下、70,000mg/L以下、65,000mg/L以下、60,000mg/L以下、55,000mg/L以下、50,000mg/L以下、45,000mg/L以下、40,000mg/L以下、35,000mg/L以下、30,000mg/L以下、25,000mg/L以下、24,000mg/L以下、23,000mg/L以下、又は22,000mg/L以下であってよい。
【0023】
腐植酸抽出液のTOCの測定方法は、次のように定義される。腐植酸抽出液を、3,000×gで遠心分離した上澄み液を、全有機体炭素計(株式会社島津製作所製TOC-L)を用いて燃焼触媒酸化方式で測定した値である。肥料成分である尿素等の非腐植物質を含む場合は、国際腐植物質学会法(藤嶽、HumicSubstances Research Vol3、P1-9)に準じて分別したもの(フミン酸画分及びフルボ酸画分)を上記の手法にて定量し、腐植酸抽出液のTOCを測定する。
【0024】
腐植酸は、A型、B型、Rp型及びP型に分類することができる。腐植酸は、果樹により作用しやすくなる観点から、Rp型又はP型の腐植酸(Rp・P型腐植酸)であってよい。腐植酸の分類は、後述するメラニックインデックス(MI)によって簡易的に行うことができる。MIが2.0以上である腐植酸がRp・P型に分類される。
【0025】
腐植酸のメラニックインデックス(MI)は、果樹により作用しやすくなる観点から、例えば、1.5以上、2.0以上、2.2以上、2.5以上、3.0以上、又は3.5以上であってよく、6.5以下、6.0以下、5.5以下、5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、又は3.0以下であってよい。
【0026】
MIとは、腐植酸の分類に用いられている指標であり、水酸化ナトリウム抽出液の吸収スペクトルの波長450nmにおける吸光度(A450)と波長520nmにおける吸光度(A520)との比(A450/A520)である。(熊田恭一著、土壌有機物の化学第2版 学会出版センター(1981)、日本土壌肥料学雑誌 第71号 第1号 p.82~85(2000))。
【0027】
より具体的には、MIとは、次の方法によって算出されるものである。試料を乳鉢と250μm篩を用い250μm篩下品に粉砕する。その約10gを、質量が既知の秤量ビンに取り精秤する。この秤量ビンを温度105℃に保持した乾燥機で約12時間放置し、その後、デシケーター中で室温20℃に戻してから再度精秤する。その質量減少分を水分とみなして試料の含水率を求める。次に、50ml遠沈管に、上記250μm篩下品を乾燥質量相当量で0.10gと、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液45mlとを入れ、室温20℃で約1時間、250rpmの速度で振とうした後、3,000×g、約10分間の遠心分離を実施し、その上澄み液をアドバンテック社製No.5Cの濾紙で濾過する。濾液の450nmの吸光度と520nmの吸光度を、蒸留水をブランクとして測定する。この場合、450nmの吸光度が1.0以上を示したならば、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し吸光度が0.8以上1.0未満に調整してから、520nmの吸光度を測定する。520nmでの吸光度に対する450nmでの吸光度の比(450nmでの吸光度/520nmでの吸光度)を算出し、MIとする。
【0028】
腐植酸の質量平均分子量は、100~6,000であってよい。腐植酸の質量平均分子量の下限は、例えば、200以上、300以上、400以上、500以上、600以上、700以上、800以上、900以上、又は1,000以上であってよい。腐植酸の質量平均分子量の上限は、例えば、5,500以下、5,000以下、4,500以下、4,000以下、3,500以下、3,000以下、2,500以下、2,000以下、1,500以下、1,200以下、又は1,000以下であってよい。
【0029】
腐植酸の質量平均分子量は、Waters社製Alliance HPLC Systemを用い、HPSEC法(GPC法)により測定される。カラムは昭和電工株式会社製SB-803HQ、標準試料はポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用い、検出波長は260nmとする。移動相は25質量%アセトニトリル含有の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液とし、流速は0.8ml/分とし、カラムの温度は40℃(カラムオーブンの設定値)とする。
【0030】
腐植酸のΔlogK(log(A400/A600))は、果樹により作用しやすくなる観点から、例えば、0.7以上、又は0.8以上であってよく、2.0以下、又は1.8以下であってよい。ΔlogK(log(A400/A600))が高いほど炭素-炭素二重結合が少なく、炭化が進んでいない傾向がある。A400は波長400nmにおける吸光度を意味し、A600は波長600nmにおける吸光度を意味する。ΔlogKは、腐植物質分析ハンドブック第2版p.86-88及び環境中の腐植物質その特徴と研究法(三共出版)p.19に記載の方法によって測定することができる。具体的には、腐植酸のΔlogKは、株式会社島津製作所製 紫外可視分光光度計 UV-1850により測定することができる。
【0031】
MIが2.0以上であり、かつ、ΔlogKが0.7以上である腐植酸は、植物により一層作用しやすくなる傾向がある。
【0032】
果樹用樹液流活性化剤の剤型は、例えば、液剤又は粉剤であってよい。粉剤は、例えば、液剤である果樹用樹液流活性化剤を凍結乾燥等によってドライアップすることにより、再溶解可能な粉剤として得ることができる。
【0033】
果樹用樹液流活性化剤は、腐植酸のみからなっていてよく、腐植酸以外の他の成分を含んでいてよい。果樹用樹液流活性化剤中の腐植酸の含有量は、果樹用樹液流活性化剤の全質量を基準として、例えば、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよく、100質量%以下、99質量%以下、又は95質量%以下であってよい。
【0034】
他の成分としては、例えば、展着剤、肥料、植物活性剤が挙げられる。肥料としては、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、リン酸アンモニウムが挙げられる。植物活性剤としては例えば海藻抽出エキス、アミノ酸が挙げられる。アミノ酸としては、例えば、グリシン、プロリン、グルタミン酸が挙げられる。他の成分の総含有量は、果樹用樹液流活性化剤の全質量を基準として、例えば、80質量%以下、60質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は1質量%以下であってよく、0質量%超、1質量%以上、又は5質量%以上であってよい。
【0035】
本実施形態に係る果樹用樹液流活性化剤を施用すると、施用しない場合と比較して果樹の樹液流が活性化する。例えば、果樹用樹液流活性化剤を施用する場合、施用しない場合と比べて、葉面積当たりの平均樹液流量を、1%以上又は3~25%高めることができる。樹液流量は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0036】
果樹用樹液流活性化剤を施用することによって、例えば、品質を保ちながらの収量増加、健全な果樹及び果実の成長等が可能になる。
【0037】
本実施形態に係る果樹の樹液流を活性化する方法は、果樹に腐植酸を施用することを含む。果樹に腐植酸を施用する方法として、土壌潅注又は土壌混和、葉面からの施用等を行う方法が挙げられる。
【0038】
腐植酸の施用量及び施用期間は特に限られず、土壌施用の場合は果樹1本あたり、全有機炭素として7,000~20,000mgを1回若しくは全有機炭素濃度として0.1~1,000mg/Lを月に1~30回若しくは全有機炭素濃度として0.1~100mg/L程度を毎日とすることができ、葉面施用の場合は全有機炭素濃度として0.1~1,000mg/Lで月に1~12回とすることができる。
【0039】
上述した本発明は、果樹の樹液流を活性化するための腐植酸の使用と捉えることもできる。当該態様における具体的な実施形態としては、上述した果樹用樹液流活性化剤で説明した具体的な実施形態を適用することができる。
【0040】
上述した本発明は、果樹の樹液流活性化に使用するための腐植酸と捉えることもできる。当該態様における具体的な実施形態としては、上述した果樹用樹液流活性化剤で説明した具体的な実施形態を適用することができる。
【0041】
上述した本発明は、果樹用樹液流活性化剤の製造のための腐植酸の使用(応用)と捉えることもできる。当該態様における具体的な実施形態としては、上述した果樹用樹液流活性化剤で説明した具体的な実施形態を適用することができる。
【実施例
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0043】
<腐植酸資材の準備>
腐植酸資材として次に示す方法によって調製した腐植酸抽出液を含むものを用いた。
【0044】
ドラフト中で、炭素含有率が77質量%の褐炭500gを1,000mlのビーカーに入れて、濃度48質量%の硝酸625g(若年炭100質量部に対して100%硝酸60質量部)を添加した。80℃の水浴中で3時間酸化反応を行った。この操作で得た腐植酸を含む粗製物を以下の抽出操作に供した。
【0045】
この粗製物100gに0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH6.5とした。固液比1:10(固液比10)となるように水を加え、80℃で1時間抽出した。この抽出液を、3,000×gで遠心分離し、得られた上澄み液は適宜希釈し、質量平均分子量、全有機炭素濃度(TOC)、メラニックインデックス(MI)及びΔlogKを測定した。
【0046】
腐植酸抽出液中の腐植酸のMIは2.2であった。腐植酸抽出液の全有機炭素濃度(TOC)は、34,000mg/Lであった。腐植酸抽出液中の腐植酸の質量平均分子量は4,300であった。腐植酸のΔlogKは、0.9であった。
【0047】
[質量平均分子量]
腐植酸の質量平均分子量は、Waters社製Alliance HPLC Systemを用い、HPSEC法(GPC法)により測定した。カラムは昭和電工株式会社製SB-803HQ、標準試料はポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用い、検出波長は260nmとした。移動相は25質量%アセトニトリル含有の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液とし、流速は0.8ml/分とし、カラムの温度は40℃(カラムオーブンの設定値)とした。
【0048】
[全有機炭素濃度(TOC)]
腐植酸抽出液のTOCは、全有機体炭素計(島津製作所製TOC-L)を用い、燃焼触媒酸化方式で測定した。
【0049】
[メラニックインデックス(MI)]
試料を乳鉢と250μm篩を用い250μm篩下品に粉砕した。その約10gを、質量が既知の秤量ビンに取り精秤した。この秤量ビンを温度105℃に保持した乾燥機で約12時間放置し、その後、デシケーター中で室温に戻してから再度精秤した。その質量減少分を水分とみなして試料の含水率を求めた。次に、50ml遠沈管に、上記250μm篩下品を乾燥質量相当量で0.10gと、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液45mlとを入れ、室温20℃で約1時間、250rpmの速度で振とうした後、3,000×g、約10分間の遠心分離を実施し、その上澄み液をアドバンテック社製No.5Cの濾紙で濾過した。濾液の450nmの吸光度と520nmの吸光度を、蒸留水をブランクとして測定した。この場合、450nmの吸光度が1.0以上を示したならば、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し吸光度が0.8以上1.0未満に調整してから、520nmの吸光度を測定した。520nmでの吸光度に対する450nmでの吸光度の比(450nmでの吸光度/520nmでの吸光度)を算出し、MIとした。
【0050】
[ΔlogK]
試料を乳鉢と250μm篩を用い250μm篩下品に粉砕した。その約10gを、質量が既知の秤量ビンに取り精秤した。この秤量ビンを温度105℃に保持した乾燥機で約12時間放置し、その後、デシケーター中で室温に戻してから再度精秤した。その質量減少分を水分とみなして試料の含水率を求めた。次に、50ml遠沈管に、上記250μm篩下品を乾燥質量相当量で0.10gと、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液45mlとを入れ、室温20℃で約1時間、250rpmの速度で振とうした後、3,000×g、約10分間の遠心分離を実施し、その上澄み液をアドバンテック社製No.5Cの濾紙で濾過した。濾液の400nmの吸光度と600nmの吸光度を、蒸留水をブランクとして測定した。この場合、400nmの吸光度が1.0以上を示したならば、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し吸光度が0.8以上1.0未満に調整してから、600nmの吸光度を測定した。log(400nmでの吸光度/600nmでの吸光度)の比を算出し、ΔlogKとした。
【0051】
[試験例1:ル・レクチェの栽培試験]
ル・レクチェの栽培試験は、次に示す条件で実施した。
・2畝栽培
・1畝あたりのル・レクチェ果樹数:9本
・畝間距離:約3.5m
・樹間距離:約2m
【0052】
腐植酸を施用した畝を腐植酸区とした。土の染み込みから腐植酸資材の影響を強く受けないように腐植酸区から2つ目の畝を腐植酸非施用の対照区とした。腐植酸区では、2020年6月30日(試験開始日)に200倍希釈した農業資材を樹木1本あたり100L施用した。
【0053】
腐植酸の施用は、次に示すとおりに実施した。試験は新潟県の果樹園で実施して腐植酸の施用は腐植酸希釈液をタンクで調整して、樹木の外周に決められた量を散布した。
【0054】
果樹にはすでに長さ5cm程の果実が着いている。当該果樹は、この後も新しい果実ができていく状態である。腐植酸区及び対照区にそれぞれ9本の果樹で試験を実施した。
【0055】
腐植酸区及び対照区の樹液流は樹液流センサーを用いて測定した。各果樹の主枝から真上に伸び、太さが大体同じ枝を各株から選抜し、選抜した枝に樹液流センサーを取り付けた。樹液流の測定は、茎熱収支法(stem heat balance method)により実施した。センサーは雨風等による数値への影響を抑えるためにウレタンで覆った。
【0056】
図1は、収穫1週間前にあたる2020年10月12日時点における果樹1本あたりの果実数(個)の測定結果を示す。図1に示すとおり、腐植酸区の果樹1本あたりの果実数(個)は対照区に対して31%増加した。
【0057】
図2(A)~(D)はそれぞれ2020年10月20日時点における総収穫個数、総重量(kg)、1個当たりの重量(kg)及び糖度Brixを示す。糖度測定:N=3
【0058】
図2(A)及び(B)のとおり、腐植酸区では、対照区と比べて、総収穫個数及び重量が増加した。図2(C)及び(D)のとおり、果実1個当たりの重量及び糖度については大きな変化がないことが確認された。なお、2020年10月20時点の総収穫個数は、10月12日時点より少なくなっている。これは不良果実又は落果の影響であると考えられる。
【0059】
表1に試験結果のまとめを示す。最下分子高直径(cm)は、1番最初の枝分かれ場所すぐ下(1cm)にある幹の直径を意味する。最下分子高断面積(cm)は、1番最初の枝分かれ場所すぐ下(1cm)にある幹の面積を意味する。枝数(本)は、最終収穫1週前の果樹当たりの枝数を意味する。着果個数(個/樹)は、最終収穫1週前の各区9本の果樹1本あたりの着果個数を意味する。単位面積当たりの着果量(個/cm)は、最終収穫1週前の果樹における分子高断面積当たりの着果量を意味する。葉数/枝(毎)は、樹液流を測定した枝の葉の枚数を意味する。葉面積(cm)は、各区果樹から10枚以上採取して測定した(対照区100枚、腐植酸区90枚)。糖度Brix(%)は、N=3の結果を示す。糖度は、株式会社アタゴの糖酸度計PAL-BX|ACID F5により測定した。
【0060】
【表1】
【0061】
対照区及び腐植酸区のそれぞれの果樹個体には大きな違いがないことが確認された。表1のとおり、腐植酸の施用によって着果個数が増加することが示された。
【0062】
図3は2020年10月1日0時から2020年10月5日0時までの太陽の放射照度を示す。図4は2020年10月1日から2020年10月5日までの温度、湿度及び飽差を示す。
【0063】
図5(A)及び(B)は2020年10月1日0時から2020年10月5日0時までの樹液流測定結果を示す。図6(A)及び(B)は2020年10月1日0時から2020年10月5日0時までの葉面積当たりの樹液流測定結果を示す。葉面積当たりの樹液流量は、測定枝総葉面積当たりの樹液流量である。測定枝総葉面積は、「葉数/枝(枚)」×「葉面積」で算出される。測定枝総葉面積は、対照区では1515cmであり、腐植酸区では1480cmであった。
【0064】
図5(A)及び(B)並びに図6(A)及び(B)のとおり、腐植酸区は対照区と比べて樹液流量が大きい傾向がみられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6