IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小駒 益弘の特許一覧

<>
  • 特許-大気圧プラズマ処理装置 図1
  • 特許-大気圧プラズマ処理装置 図2
  • 特許-大気圧プラズマ処理装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】大気圧プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/30 20060101AFI20250306BHJP
   B29C 71/04 20060101ALI20250306BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
H05H1/30
B29C71/04
B01J19/08 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024093579
(22)【出願日】2024-06-10
【審査請求日】2024-11-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390035932
【氏名又は名称】小駒 益弘
(74)【代理人】
【識別番号】100073324
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100134898
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 克子
(72)【発明者】
【氏名】小駒 益弘
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-049470(JP,A)
【文献】国際公開第2023/034688(WO,A1)
【文献】特表2017-513195(JP,A)
【文献】特表2021-508352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01J 37/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応筒体内に加圧不活性ガスと高周波を供給して前記反応筒体内にプラズマを発生せしめ前記反応筒体から吹き出すプラズマ流により試料の表面処理を行う大気圧プラズマ処理装置であって、
前記反応筒体にガス導入部及びガス吐出部を設け、当該反応筒体の外周を囲繞するよう高周波共振キャビティを設け、前記ガス導入部から反応筒体内に加圧不活性ガスを回転させつつ供給し、前記高周波共振キャビティに高周波を供給して反応筒体内にプラズマを発生せしめ当該反応筒体のガス吐出部からプラズマ流を吹き出さしめるプラズマ発生装置と、
直線円筒状にガス導入口及びガス排出口が設けられ、これらとは直角方向に円筒形状の試料挿通口が設けられて略十字状の形状とし、前記反応筒体のガス吐出部に前記ガス導入口を接続してなる反応容器と、
前記反応容器の試料挿通口方向に配置可能とされて前記試料を着脱可能に設置でき、前記反応容器内で前記試料を前記ガス吐出部から吹き出すプラズマ流の吹き出し方向に対して相対的に移動可能にする試料移動機構と、
前記反応容器内の試料の表面温度を少なくとも検出しこれを基にプラズマ流の状態と前記試料の表面温度とが所定の状態に維持されるように高周波の電力量を調整可能とする制御手段とを備え、
前記試料を前記プラズマ流に晒してプラズマ流と反応させて前記試料の表面処理を行うことを特徴する大気圧プラズマ処理装置。
【請求項2】
加圧不活性ガスはアルゴンガス、またはアルゴンガスとヘリウムガスを所定量混合してなるガスとしたことを特徴とする請求項1記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項3】
反応筒体内にアルゴンガスまたはアルゴンガスとヘリウムガスを所定量混合してなるガスとマイクロ波とを供給して前記反応筒体内にプラズマを発生せしめ前記反応筒体から吹き出すプラズマ流により試料の表面処理を行う大気圧プラズマ処理装置であって、
前記反応筒体にガス導入部及びガス吐出部を設け、前記反応筒体の外周を囲繞するように冷却筒体を設け、前記冷却筒体の外周を囲繞するよう高周波共振キャビティを設け、前記ガス導入部から前記反応筒体内に加圧アルゴンガスを回転流にして供給するとともに、前記冷却筒体に冷却媒体を流して前記反応筒体を冷却し、前記高周波共振キャビティに所定電力量のマイクロ波を供給して前記高周波共振キャビティを共振状態にして前記反応筒体内にプラズマを発生せしめ当該反応筒体のガス吐出部からプラズマ流を吹き出さしめるプラズマ発生装置と、
直線状にガス導入口及びガス排出口が設けられ、これらとは直角方向に円筒形状の試料の挿通口が設けられて略十字状の形状となし、前記反応筒体のガス吐出部に前記ガス導入口を接続してなる反応容器と、
前記反応容器内で前記試料を前記ガス吐出部から吹き出すプラズマ流の吹き出し方向に対して相対的に移動可能にする試料移動機構と、
前記反応容器内の試料の表面温度を少なくとも検出しこれを基にプラズマ流の状態と前記試料の表面温度とが所定の状態に維持されるように前記マイクロ波の電力量を調整可能とする制御手段とを備え、
前記試料を前記プラズマ流に晒してプラズマ流と反応させて前記試料の表面処理を行うことを特徴する大気圧プラズマ処理装置。
【請求項4】
制御手段は、高周波共振キャビティに供給されるマイクロ波の電力量を、プラズマ流が試料の表面上に直接届く状態を確保できる電力量に調整することを特徴とする請求項3記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項5】
制御手段は、高周波共振キャビティに供給されるマイクロ波の電力量を、プラズマ流が届いている試料の表面温度を200[℃]前後の表面温度に保持できる電力量に調整することを特徴とする請求項3記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項6】
制御手段は、高周波共振キャビティに供給するマイクロ波の電力量を、プラズマ流が試料の表面上に直接届き、かつ試料の表面温度を200[℃]前後の表面温度に維持できる値で最大値に設定できることを特徴とする請求項3記載の大気圧プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ流を大気圧下にて試料に照射し前記試料の表面を処理できる大気圧プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;polytetrafluoroethylene)は、周知のとおり種々の点で究極の材料とも言える物質である。特に耐熱性のみならず、高周波損失係数の最も低い材料であることから、最近では回路基板材料として注目が高まっている。
しかしながら、PTFEは、硬度、強度が十分ではないことから、基板として用いるためにはエポキシ樹脂などによる補強が必要となる。ところが、PTFEが有する他物質表面への接着の困難さが、PTFEを回路基板に採用することを躊躇させている。
【0003】
そこで、従来、ヘリウム(He)を使用した低温の大気圧プラズマをPTFEに照射して、PTFEの接着性を改善する技術が提案された(非特許文献1)。この従来技術(非特許文献1)によって、ある程度の接着強度上昇の成果を得ることができたものの、いまだ機械的強度の点で弱いという欠点があった。
この欠点を解消するため、ボロン-水素系による処理方法が提案された。このボロン-水素系による処理方法によれば、エポキシ樹脂剤を使用した場合、Heによる処理方法(非特許文献1)に比べて接着強度上昇の成果を得ることができたものの、到達強度が工業上いまだ充分な値ではないという欠点があった。
【0004】
このような機械的強度が十分でないという欠点を解消する試みとして、試料を加熱(約200℃)し、低温大気圧Heプラズマを試料に照射するという熱アシストプラズマ法(非特許文献2)が提案された。この熱アシストプラズマ法(非特許文献2)によれば、試料に比較的大きな機械的強度上昇を持たせることができるとともに、試料の接着強度を増加させることができた。
【0005】
また、熱アシストプラズマ法について、非特許文献3によって、非特許文献2では明らかにされなかった、より詳細なプラズマ条件と処理時間、試料加熱温度と、加熱による接着力向上の化学的原因が明らかにされた。この装置によれば、直接加熱状態の試料をプラズマ処理をするため、温度上昇によって試料表面に残されるWBLと呼ばれる層が除去されることにより試料表面架橋構造の構築を促す効果があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「Journal of Photopolymer Science and Technology」2011年24巻4号 第441頁~第445頁
【文献】「表面技術」2016年67巻10号 第551頁~第556頁
【文献】「Journal of Photopolymer Science and Technology」2022年35巻4号 第299頁~第302頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の低温He大気プラズマを使った熱アシストプラズマ法によれば、PTFE表面を粗くできて接着強度を増すことができるものの、逆に表面が粗くなることによって次のような欠点を発生させることになった。すなわち、従来の熱アシストプラズマ法により処理したPTFEを電子基板に用いた場合、基板表面が粗さの増加に応じて信号遅延時間悪化の原因となるという欠点を生じさせた。このPTFE表面の粗さは、プラズマ処理時間に関連することから、長時間のプラズマ処理は好ましくないものであった。
【0008】
一方、この熱アシストプラズマ法による処理においては、PTFE(試料)温度に係わらず、最低処理時間は5分程度必要とされており、その時間以下では実用上の機械的強度に達しないため、処理時間を短縮することができなかった。
【0009】
このように従来のプラズマ処理技術では、試料表面の粗さを抑えるため処理時間を短縮したいという要求と、試料の機械的強度を高くしたいため処理時間を長くしたいという背反する要求を満足させることができないという欠点があった。
また、上記従来の熱アシストプラズマ法によれば、工業上要求されている性能の一つである、可能な限り短時間で試料処理を行いたいという要求を満足できないという不都合があった。
さらに、上記従来の技術によれば、試料を数百度予め加熱しておく必要があり、工業上要求されている性能の一つである、できうる限り、工程を少なくしたいという要求も満足できないという不都合もあった。
【0010】
本発明は、上記従来技術の不都合な点を解消し、短時間で試料処理を行うことができるとともに、余分な処理工程を省き処理工程を少なくできる大気圧プラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る大気圧プラズマ処理装置は以下の手段を採用する。
【0012】
請求項1に係る大気圧プラズマ処理装置は、反応筒体内に加圧不活性ガスと高周波を供給して前記反応筒体内にプラズマを発生せしめ前記反応筒体から吹き出すプラズマ流により試料の表面処理を行う大気圧プラズマ処理装置であって、
前記反応筒体にガス導入部及びガス吐出部を設け、当該反応筒体の外周を囲繞するよう高周波共振キャビティを設け、前記ガス導入部から反応筒体内に加圧不活性ガスを回転させつつ供給し、前記高周波共振キャビティに高周波を供給して反応筒体内にプラズマを発生せしめ当該反応筒体のガス吐出部からプラズマ流を吹き出さしめるプラズマ発生装置と、
直線円筒状にガス導入口及びガス排出口が設けられ、これらとは直角方向に円筒形状の試料挿通口が設けられて略十字状の形状とし、前記反応筒体のガス吐出部に前記ガス導入口を接続してなる反応容器と、
前記反応容器の試料挿通口方向に配置可能とされて前記試料を着脱可能に設置でき、前記反応容器内で前記試料を前記ガス吐出部から吹き出すプラズマ流の吹き出し方向に対して相対的に移動可能にする試料移動機構と、
前記反応容器内の試料の表面温度を少なくとも検出しこれを基にプラズマ流の状態と前記試料の表面温度とが所定の状態に維持されるように前記高周波の電力量を調整可能とする制御手段とを備え、
前記試料を前記プラズマ流に晒してプラズマ流と反応させて前記試料の表面処理を行うことを特徴するものである。
【0013】
請求項2に係る大気圧プラズマ処理装置では、請求項1において、加圧不活性ガスはアルゴンガス、またはアルゴンガスとヘリウムガスを所定量混合してなるガスとしたことを特徴とするものである。
【0014】
請求項3に係る大気圧プラズマ処理装置は、反応筒体内にアルゴンガスまたはアルゴンガスとヘリウムガスを所定量混合してなるガスとマイクロ波とを供給して前記反応筒体内にプラズマを発生せしめ前記反応筒体から吹き出すプラズマ流により試料の表面処理を行う大気圧プラズマ処理装置であって、
前記反応筒体にガス導入部及びガス吐出部を設け、前記反応筒体の外周を囲繞するように冷却筒体を設け、前記冷却筒体の外周を囲繞するよう高周波共振キャビティを設け、前記ガス導入部から前記反応筒体内に加圧アルゴンガスを回転流にして供給するとともに、前記冷却筒体に冷却媒体を流して前記反応筒体を冷却し、前記高周波共振キャビティに所定電力量のマイクロ波を供給して前記高周波共振キャビティを共振状態にして前記反応筒体内にプラズマを発生せしめ当該反応筒体のガス吐出部からプラズマ流を吹き出さしめるプラズマ発生装置と、
直線状にガス導入口及びガス排出口が設けられ、これらとは直角方向に円筒形状の試料の挿通口が設けられて略十字状の形状となし、前記反応筒体のガス吐出部に前記ガス導入口を接続してなる反応容器と、
前記反応容器内で前記試料を前記ガス吐出部から吹き出すプラズマ流の吹き出し方向に対して相対的に移動可能にする試料移動機構と、
前記反応容器内の試料の表面温度を少なくとも検出しこれを基にプラズマ流の状態と前記試料の表面温度とが所定の状態に維持されるように前記マイクロ波の電力量を調整可能とする制御手段とを備え、
前記試料を前記プラズマ流に晒してプラズマ流と反応させて前記試料の表面処理を行うことを特徴するものである。
【0015】
請求項4に係る大気圧プラズマ処理装置では、請求項3において、制御手段は、高周波共振キャビティに供給されるマイクロ波の電力量を、プラズマ流が試料の表面上に直接届く状態を確保できる電力量に調整することを特徴とするものである。
【0016】
請求項5に係る大気圧プラズマ処理装置では、請求項3において、制御手段は、高周波共振キャビティに供給されるマイクロ波の電力量を、プラズマ流が届いている試料の表面温度を200[℃]前後の表面温度に保持できる電力量に調整することを特徴とするものである。
【0017】
請求項6に係る大気圧プラズマ処理装置では、請求項3において、制御手段は、高周波共振キャビティに供給するマイクロ波の電力量を、プラズマ流が試料の表面上に直接届き、かつ試料の表面温度を200[℃]前後の表面温度に維持できる値で最大値に設定できることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プラズマ流を試料に確実に届くようにするとともに試料表面温度を所定の温度に保てるようにし、かつ試料とプラズマ流を相対的に移動可能にしたので、次のような効果がある。
(1)試料表面の粗さを抑えるため処理時間を短縮したいという要求と、試料の強度を高くしたいため処理時間を長くしたいという背反する要求を満足させることができる。
(2)工業上要求されている性能の一つである、可能な限り短時間で試料処理を行いたいという要求を満足できる。
(3)工業上要求されている性能の一つである、できうる限り工程を少なくしたいという要求も満足できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置の要部を示す説明図である。
図3】本発明の実施例に係る大気圧プラズマ処理装置により処理された試料の剥離強度対処理時間を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置について説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置を示す全体的ブロック図である。図2は同大気圧プラズマ処理装置の要部を示す説明図である。
図1及び図2において、本発明の実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置1は、大別すると、プラズマを発生させてプラズマを吹き出させるプラズマ発生装置3と、前記プラズマ発生装置3からのプラズマ流PfをPTFE試料SFに晒して反応させる反応場としての反応容器5と、試料SFを着脱可能に配置して前記反応容器5内において試料SFをプラズマ流Pfに対して相対的移動させ得る試料移動機構7と、前記プラズマ発生装置3で発生しているプラズマの状態及び試料SFの表面温度を検出してプラズマ発生装置3のプラズマ発生状態を制御する制御系9とを備えている。
【0022】
図1及び図2において、前記プラズマ発生装置3は、石英により長尺の円筒形状に造られた反応筒体31と、同じく石英で製造された前記反応体31の外周を囲繞するように反応筒体31の中心軸に同軸上に一体的に設けられた冷却筒体32と、前記冷却筒体32の外周を囲繞するよう反応筒体31の中心軸に同軸上に設けられた電磁シールド33と、前記冷却筒体32の外周を囲繞するよう反応筒体31の中心軸に同軸上に設けられた高周波共振キャビティ34とを備えている。この高周波共振キャビティ34には、サーキュレータ36a、パワーメーター36b、ウェーブガイド36c及びスリースタブチューナー36dを介してマイクロ波μWが供給されている。
【0023】
前記反応筒体31は、図1及び図2に示すように、石英により長尺の円筒形状に造られている。この反応筒体31には、図示上部側中央位置にガス導入部37が、図示上部側の円筒外周面位置にガス導入部38,38が、それぞれ設けられている。また、この反応筒体31の図示下部にはガス吐出部39が設けられている。
前記ガス導入部37には、炭酸ガス(COガス)がマスフローコントローラ(MFC)40cを介して、窒素ガス(Nガス)がMFC40nを介して、及びアルゴンガス(Arガス)がMFC40aを介して、各々所定量が混合されて供給できるよう構成されている。
【0024】
また、前記ガス導入部38,38には、Arガスがマスフローコントローラ(MFC)41を介して供給されるように構成されている。この前記ガス導入部38,38は、図示斜め上から下に向けるとともに反応筒体31の外周の接線方向にずらして配置してあり、前記ガス導入部38,38から導入されArガスが前記反応筒体31の内周面に沿って図示下向き回転しながら、かつ前記ガス導入部37から導入された不活性ガスにも回転力を与えながら下降してゆくことになる。前記反応筒体31で発生させられたプラズマは、プラズマ流Pfとなって前記ガス吐出部39から排出されることになる。
【0025】
前記冷却筒体32は、石英にて図1及び図2に示すように造られており、前記反応筒体31の中心軸に同軸状に前記反応筒体31の外周を囲繞するように配置されている。この冷却筒体32には、図下側に冷却媒体導入口32nが、図上側に冷却媒体排出口32tがそれぞれ設けられている。冷却媒体Rは、冷却媒体導入口32nから前記冷却筒体32内に入り、前記反応筒体31を冷却しながら図示上側に移動し、冷却媒体排出口32tから排出される。
【0026】
前記反応容器5は、石英でもって形成されていて、図1及び図2に示すように、垂直状筒体と水平状筒体によって略十字状の形状に構成されている。この垂直状筒体には、図1及び図2の上側にガス導入口51が、図1及び図2の下側にガス排出口52がそれぞれ設けられている。この水平状筒体の図1及び図2の左側と、図1及び図2の右側には、試料SFの挿通口53,53が設けられている。前記ガス導入口51は、図1及び図2の上側にゆくに従って細い径とされていて、最終的に反応筒体31のガス吐出部39の内径と同じにされ、前記ガス導入口51はガス吐出部39に接合状態で接続されている。
そして、この反応容器5において、前記プラズマ発生装置3からのプラズマ流Pfが試料SFに直接晒されて反応する反応場としての役割を果たすことになる。
【0027】
前記試料移動機構7は、アルミニューム(Al)の中空ドラム管70で構成されており、この中空ドラム管70の直径は前記反応容器5の挿通口53,53の内径よりやや小さく設定されている。この中空ドラム管70の長さ方向で中央付近の所定位置に試料SFを巻き付け、中空ドラム管70を挿通口53,53に通し、試料SFを図1に示す位置に配置して、プラズマ流Pfを吹き付けできるようにされている。また、中空ドラム管70の一方から冷却媒体rを供給し中空ドラム管70の他方から冷却媒体rを排出できるようにして中空ドラム管70を冷却できるようにしてある。
【0028】
前記中空ドラム管70は、上述したように配置されると、中空ドラム管70の一方端が回転可能に固定部71に固定されるとともに、中空ドラム管70の他方端がモータMの回転軸72に固定される。これによって、前記中空ドラム管70は、モータMによって所定の速度で回転し、試料SFをプラズマ流Pfに対して相対的に移動させることができる。
【0029】
前記制御系9は、プラズマ発生装置3の反応筒体31の所定位置に設けたセンサー部91と、このセンサー部91からの検出光を導く光ファイバー92と、試料SFの表面温度を測定するために反応容器5の所定の位置に配置した光センサー部93と、この光センサー部93からの検出光を導く光ファイバー94と、光ファイバー92,94からの各検出光をそれぞれ取り込み、それら検出光と前記パワーメーター36cからの出力とを基に所定のアルゴリズムにより制御指令CSを作成できる分光器を含むコントロール装置95とを少なくとも備えている。
【0030】
分光器を含むコントロール装置95からの制御指令CSは、マグネトロンジェネレータ35の出力電力調整に使用される。マグネトロンジェネレータ35は、制御指令CSに基づいて、発生するマイクロ波μWの電力量値を調整している。このように電力量値がコントロールされたマイクロ波μWは、サーキュレータ36a、パワーメーター36b、ウェーブガイド36c及びスリースタブチューナー36dを介して高周波共振キャビティ34に供給される。これにより、前記反応筒体31内で発生するプラズマは、制御指令CSに基づいてコントロールされることになる。
【0031】
このような構成の大気圧プラズマ処理装置1によれば、次のようにPTFE試料SFのプラズマ処理を実行する。
【0032】
COガスはマスフローコントローラ(MFC)40cを介して、NガスはMFC40nを介して、及びArガスはMFC40aを介して、各々所定量が混合されてガス導入部37から反応筒体31内に供給される。これらのガスの供給は、必要に応じて行なうようにすれば良く、必須のものではない。
【0033】
また、他のArガスはマスフローコントローラ(MFC)41を介して前記ガス導入部38,38から反応筒体31内に供給される。この前記ガス導入部38,38は、図示斜め上から下に向けるとともに反応筒体31の外周の接線方向にずらして配置してあるため、前記ガス導入部38,38から導入されたArガスは、前記反応筒体31の内周面に沿って回転しながら図示下向きに移動してゆくことになる。
【0034】
なお、前述のように回転しながら反応筒体31内周面を下降移動するArガスは、例えば前記ガス導入部37から不活性ガス(COガス,Nガス,Arガス)が反応筒体31内に供給される場合には、これら不活性ガス(COガス,Nガス,Arガス)にも回転力を伝えながら下降してゆくことになる。
【0035】
このような状態において高周波共振キャビティ34に導波管36を介してマグネトロンジェネレータ35からマイクロ波μWが供給される。
【0036】
これにより反応筒体31内には、気体温度3,000~4,000℃程度の高温プラズマが発生することになる。このプラズマは反応筒体31のガス吐出部39からプラズマ流Pfとなってガス導入口51から反応容器5内に吹き出すことになる。反応筒体31内で発生した高温のプラズマは、気体の流れに沿って流下してゆく間に反応筒体31の外周に設けられた冷却筒体32内を流れる冷却媒体Rによって漸次冷却されて、最終的にガス吐出部39からプラズマ流Pfとなって流出する。これにより反応筒体31のガス吐出部39からプラズマ流を吹き出さしめる工程が実現することになる。
【0037】
中空ドラム管70の所定位置には、図1に示すように試料SFが巻き付けられている。この中空ドラム管70を前記反応容器5の挿通口53,53に通し、試料SFを図1及び図2に示すように反応容器5の中央位置にセットする。
この状態で試料移動機構7の中空ドラム管70を所定の速度で回転させることにより、試料SFをプラズマ流Pfに対して相対的に移動させている。
これにより、前記プラズマ流Pfの吹き出し方向とは直角方向に試料SFを移動させつつ前記試料SFを前記プラズマ流Pfに暴露(晒す)工程が実現することになる。
なお、試料SFの表面上に直接プラズマ流Pfが接触することによる過大な表面温度の上昇を避けることと、試料SFの表面に届くプラズマ流Pfを晒す時間や空間的不均一性を避けるため、この実施の形態では試料SFの表面を比較的高速で移動させている。
【0038】
また、上記実施の形態では、中空ドラム管70を回転させることにより試料SFとプラズマ流Pfとを相対的に移動させているが、要は試料SFとプラズマ流Pfとが相対的に移動すればよいので、例えば挿通口53,53方向に、すなわち図示水平方向に試料SFを所定速度で移動させるようにしてもよいし、他の移動方法によって試料SFとプラズマ流Pfとが相対的に移動できるようにしてもよい。
【0039】
さらに、前記プラズマ発生装置3のプラズマ発生状態は、制御系9によってコントロールされる。具体的には次のようにしている。反応筒体31内を検出するセンサー部91からの検出光は光ファイバー92を介して、試料SFの表面温度を検出する光センサー部93からの検出光は光ファイバー94を介して分光器を含むコントロール装置95に供給される。コントロール装置95は、各検出光と前記パワーメーター36bからの出力値とを基に所定のアルゴリズムにより制御指令CSを形成できる。このコントロール装置95からの制御指令CSに基づいて、マグネトロンジェネレータ35は発生するマイクロ波μWの電力量をコントロールしている。
【0040】
この制御指令CSにより、マグネトロンジェネレータ35は発生するマイクロ波μWの電力量がコントロールされ、そのマイクロ波μWが高周波共振キャビティ34に供給されることにより次に示す状態が確保できる。
(a)反応筒体31からのプラズマ流Pfが試料SFの表面上に直接届く。
(b)プラズマ流Pfが直接届いている試料SFの表面温度を所定の温度に保持できる。
(c)高速でプラズマ処理をするのに必要な放電電力値(高周波共振キャビティ34に加える電力)を、前記(a)及び(b)が同時に成立するような値で最大値で供給できる。
【0041】
このように動作する本発明の実施の形態に係る大気圧プラズマ処理装置によれば次のような利点がある。
(1)試料表面の粗さを抑えるため処理時間を短縮したいという要求と、試料の接着強度を高くしたいため処理時間を長くしたいという背反する要求を満足させることができる。
(2)工業上要求されている性能の一つである、可能な限り短時間で試料処理を行いたいという要求を満足できる。
(3)さらに、工業上要求されている性能の一つである、できうる限り、工程を少なくしたいという要求も満足できる。
【実施例
【0042】
次に、本発明に係る大気圧プラズマ処理装置の実施例について主に図2を参照して説明する。なお、図2において、具体的寸法を入れて説明するが、これらの寸法に限定されるものではなく、同一作用効果を得られるならば、これら寸法以外の寸法であっても良いことはもちろんである。
【0043】
プラズマ発生装置3において、反応筒体31の外周に設けられた高周波共振キャビティ34には、マグネトロンジェネレータ35から2.45[GHz]のマイクロ波μWが供給されている。この高周波共振キャビティ34の下端側において、その下端側から長さLa=9.5[cm]下の位置に反応容器5を配置した。
この反応容器5は次のような寸法に造られている。反応容器5において、一方の挿通口53と他方の挿通口53を含む水平状筒体の内径DはD=24[mmφ]に、同水平状筒体の長さLbはLb=50[mm]に造られている。この挿通口53,53を含む水平状筒体と、ガス導入口51及びガス排出口52を含む垂直状筒体とで略十字状の形状の反応容器5としていることは既に説明した。
また、試料移動機構7において、アルミニューム(Al)製中空ドラム管70の全長LcをLc=160[mm]とし、その外径dをd=20[mmφ]とした。
【0044】
中空ドラム管70には、その中央部に試料SFを巻き付けた状態にされている。試料SFの厚みは0.5[mm]であるが、試料SFの厚みはこれに限られている訳ではない。この中空ドラム管70は、その一端側が反応容器5の水平状筒体の図2の左側(一方)の挿通口53から挿入される。そして、その中空ドラム管70の一端側が、図2の右側(他方)の挿通口53から外に出した状態にし、最終的に中空ドラム管70の中央部に巻き付けた試料SFが、図1及び図2に示すように反応容器5内の中央位置になるようにセットする。
このようにセットして、図1に示すように、中空ドラム管70の一端側は回転可能に固定部71に固定されるとともに、中空ドラム管70の他端側はモータMの回転軸72に固定されて、モータMによって中空ドラム管70が回転し中空ドラム管70の中央部に巻き付けた試料SFが移動できることになる。
【0045】
上述したような状態に試料SFがおかれた後、プラズマ発生装置3の反応筒体31でプラズマを発生させて高温フラズマ流PFとして反応容器5内の試料SFに照射させて試料SFをフラズマ流PFに暴露する(晒す)。この際に、制御系9の制御指令CSに基づいて、試料SFの表面上に直接プラズマ流Pf(マイクロ波アフターグロー)が届くように制御するとともに、プラズマ流Pfの届いている試料SFの表面温度を200[℃]前後の表面温度になるようにプラズマ発生装置3が制御される。
これら制御は、試料SFの表面上に直接プラズマ流Pfが届き、かつプラズマ流Pfの届いている試料SFの表面温度を200[℃]前後の表面温度になるように、つまり二つの要求を同時に満足させるように、高周波共振キャビティ34に加える電力を制御系9からの制御指令CSに基づいて行なわれる。
【0046】
ラズマ流PFは、反応容器5の挿通口53,53と中空ドラム管70との間隙から、あるいはガス排出口52から自由に大気中に流出されることになる。このため、試料SFの処理部分(処理空間)は、半自由空間吹き出し型となる。
【0047】
また、試料SFの表面上に直接プラズマ流Pfが接触することによる過大な表面温度の上昇を避ける必要があることと、試料SFの表面に届くプラズマ流Pfを試料表面に暴露する時間や、プラズマ流Pfの空間的不均一性を避けるため、試料SFの表面を比較的高速で移動させる必要がある。このため、この実施例では、中空ドラム管70の回転速度を6[rpm]で回転させた。これにより、所期の性能を得ることができた。このように中空ドラム管70上で試料SFを回転させながら、プラズマに暴露する理由は、大気圧Arプラズマ特有の発光分布の時間的変動による試料SFの表面への暴露強度の局部的時間的変動を抑えるためでもある。
【0048】
なお、中空ドラム管70の冷却については、水、空気又はその他の冷却媒体を強制流通させるようにすることが考えられるが、中空ドラム管70の中空内部を大気に開放することにより自然空冷とするようにしてもよい。
【0049】
図3は、本発明に係る大気圧プラズマ処理装置の実施例によって得られた特性図であって、最高剥離強度を示した条件下での剥離強度対処理時間の関係が示されている。
【0050】
上記実施例によってプラズマ処理して得た試料SFについて検討する。プラズマ処理して得た試料SFについて次のようにして試験をすることにした。
接着強度試験は、プラズマ処理して得た試料SFの被接着面を、エポキシ系接着剤を用いてステンレス板に接着し、24時間常温放置した後、引張強度試験機(ミネベア社88FDモデルLTS)を使用して、180度ピール試験にて測定した。測定試料SFの表面の化学的観察は主にアルバック社のPHI5000 Versa Probe,XPSを使用し、表面化学総合分析を行なった。
【0051】
上述した試験において、試験結果については、図3では測定値の最大値Maxを実線で、測定値の平均値Meanを点線で示した。
この強度剥離試験において、 図3に示すように、処理時間が短い場合では剥離強度は小さいが、処理時間が長くなればなるほど処理時間に応じて剥離強度が増してゆき、42[秒]処理では最高剥離強度として2[kN/m-1]を超え、従来装置(非特許文献3)で得られた最高値(1.2[kN/m-1])を大きく超えた値を得ることができた。そして、最高剥離強度を得た処理時間(42[秒]処理時点)を超えて、さらに処理時間を増加させてゆくと今度は徐々に剥離強度は低下してゆくような特性となった。この結果から、最高剥離強度を得るためには、処理時間の最適化が重要な要素になることが分かる。
【0052】
以上のことから本発明に係る大気圧プラズマ処理装置の実施例において、Arガスを用いたプラズマ流(マイクロ波アフターグロー)によるPTFE試料表面処理をして最適な強度を得るとともに高周波特性を悪化させないようにするためには、次のような条件が好適であることが分かる。
(条件1)試料SFの表面上に直接プラズマ流Pf(マイクロ波アフターグロー)が届くこと。
(条件2)プラズマ流Pfの届いている試料SFの表面温度を200[℃]前後の表面温度にコントロールすること。
(条件3)高速でプラズマ処理をするのに必要な放電電力値(高周波共振キャビティ34に加える電力)は、「条件1」及び「条件2」が同時に成立するような値で最大値になるように設定すること。
(条件4)試料SFの表面上に直接プラズマ流Pfが接触することによる過大な表面温度の上昇を避けることと、試料SFの表面に届くプラズマ流Pfを晒す時間や空間的不均一性を避けるため、試料SFの表面を比較的高速で移動させること。
【0053】
一般に剥離強度が低い場合、両剥離界面上には接着剤成分や空気中から取り込まれた酸素等が検出される。
しかし、このような条件を考慮して上記実施例にてプラズマ処理したPTFE試料SFによれば、最高剥離強度を示した接着剥離面には、PTFE側も接着剤側も共に空気中から取り込まれた酸素原子などは見当たらず、フッ化炭素(CF)の結合のみ観察されることから、PTFE内部のより深部に凝集破壊が起こっていると推察される。
【0054】
また、上記説明において、ガス導入部38から供給するArガス流に対して、ガス導入部37から異種分子気体(COガス,Nガスの内の一つ又は複数)を反応筒体31内に少量添加をできるような構成例を示したが、接着強度に悪影響を及ぼす可能性が高いことが判ったため、ガス導入部38からのArガス流のみとするほうが望ましい。
また、最高剥離強度条件での処理前後に行った表面粗さ計での測定では、粗さに大きな変化は無く、温度上昇による表面の融解やプラズマ流接触によるエッチピットの生成などの変化はみられない。
【0055】
本発明に係る大気圧プラズマ処理装置の実施例によれば、この装置で処理されたPTFE試料に2[kN/m-1]超えの剥離強度を得ることができたことと、処理速度も秒単位で処理できたことから、次のような効果がある。
(1)試料表面の粗さを抑えるため処理時間を短縮でき、しかも短い処理時間で試料の強度を高くできる。
(2)工業上要求されている性能の一つである、可能な限り短時間で試料処理を行いたいという要求を満足できる。
(3)さらに、試料の加熱と処理を同時にできるため、工業上要求されている性能の一つである、できうる限り工程を少なくしたいという要求も満足できる。
【符号の説明】
【0056】
1 大気圧プラズマ処理装置
3 プラズマ発生装置
5 反応容器
7 試料移動機構
9 制御系
31 反応筒体
32 冷却筒体
33 電磁シールド
34 高周波共振キャビティ
37 ガス導入部
38 ガス導入部
39 ガス吐出部
51 ガス導入口
52 ガス排出口
53、53 挿通口
70 中空ドラム管
91、93 センサー部
92、94 光ファイバー
95 コントロール装置
【要約】      (修正有)
【課題】短時間で試料処理を行い、処理工程を少なくした大気圧プラズマ処理方法及び大気圧プラズマ処理装置の提供。
【解決手段】ガス導入部38から反応筒体31の内周面に加圧不活性ガスを回転流にして供給し、高周波共振キャビティ34に所定の電力量に制御したマイクロ波を供給してプラズマを発生せしめるプラズマ発生装置3と、略十字状の形状をした反応容器5と、反応容器5内において試料SFをプラズマ流に対し相対的に移動可能にする試料移動機構7と、試料の状態に応じてプラズマ発生状態を制御する制御手段9を備え大気圧下で試料表面をプラズマ処理する。
【選択図】図2
図1
図2
図3