(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】癒着防止材
(51)【国際特許分類】
A61L 31/06 20060101AFI20250307BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20250307BHJP
A61K 31/12 20060101ALI20250307BHJP
A61K 31/14 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/04 120
A61K31/12
A61K31/14
(21)【出願番号】P 2024129920
(22)【出願日】2024-08-06
【審査請求日】2024-10-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】根本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 智一
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105688252(CN,A)
【文献】特開平03-000069(JP,A)
【文献】Journal of Gynecologic Surgery,2002年,Vol.18, No.2,p.65-68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00-31/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シート、及び繊維シートに付着されている油剤を含み、
前記油剤は、流動パラフィン及び界面活性剤を含
み、
前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、
前記繊維シートは、織物、編物、不織布、及びこれらの複合体からなる群から選ばれる1以上であり、
前記繊維シートを構成する繊維は、生体適合性高分子を主成分とする癒着防止材。
【請求項2】
前記油剤は、繊維シートの質量に対して0.1~20質量%付着されている、請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレンオレイルエーテルを含む、請求項
1に記載の癒着防止材。
【請求項4】
前記界面活性剤は、湿潤時に、示差走査熱量測定(DSC)における昇温過程において0℃以下で水の低温結晶化に基づく発熱ピークが観察される中間水を有する、請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項5】
前記繊維シートは、不織布である、請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項6】
前記繊維シートを構成する繊維は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、アルギン酸塩、セルロース及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される1以上の生体適合性高分子を主成分とする、請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項7】
41.5°カンチレバー法で測定した剛軟度が20~80mmである、請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項8】
目付が10~200g/m
2である、請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項9】
厚みが0.1~2.0mmである、請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項10】
フーリエ変換紫外分光法-全反射測定法による分析において、波数2860cm
-1付近に、油剤由来のピークを有する、請求項1~
9のいずれかに記載の癒着防止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着が生じる可能性がある組織の癒着防止に好適に用いることができる癒着防止材に関する。
【背景技術】
【0002】
癒着は、本来分離しているべき組織同士が連結されている状態をいい、手術を受けた患者の約90%に、癒着が起きるといわれている。具体的には、手術により、臓器表面が損傷されると、炎症反応が惹起され、フィブリンが析出し、フィブリンの吸収に伴い惹起される炎症性反応から線維性の癒着が形成され、血管新生や線維芽細胞の増殖が進み、癒着の器質化はさらに進行し、強固な癒着となっていく。癒着が起きると臓器機能障害の合併症が起きたり、再手術時の癒着剥離操作により出血や臓器損傷のリスクが生じたりする。そこで、癒着を防止するために、様々な癒着防止材が提案されている。例えば、特許文献1には、少なくとも一部が硬化剤で架橋された、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高い、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材が提案されている。特許文献2には、脱細胞化組織、及び生体適合性高分子を含む癒着防止材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開公報第2019/138583号
【文献】国際公開公報第2016/143746号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、臓器に損傷を与えた後の1週間後の癒着防止材による癒着防性を評価しており、特許文献2では、臓器に損傷を与えた後の1週間後、4週間後、及び1箇月後の癒着防止材による癒着防止性を評価している。
しかしながら、例えば、小児心臓疾患等では、3~12ヶ月毎に手術が必要な場合があり、癒着防止材により心臓手術後3ヶ月~12か月経過時の癒着を軽減し、癒着剥離操作等の外科的操作の改善と臓器損傷の防止、再手術時間の短縮、そして患者への負担を軽減することが求められており、癒着防止材のハンドリング性や長期の癒着防止性をさらに改善することが求められている。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、ハンドリング性が良好で、かつ長期の癒着防止性が向上した癒着防止材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維シート、及び繊維シートに付着されている油剤を含み、前記油剤は、流動パラフィン及び界面活性剤を含む、癒着防止材に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ハンドリング性が良好で、かつ長期の癒着防止性が向上した癒着防止材を提供することができる。特に好ましくは、本発明の癒着防止材を手術毎に心臓血管の表面に適用することで、心膜と心臓や心筋との重度の癒着を好適に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の不織布(癒着防止材)のFTIR―ATR法の分析結果を示すIRスペクトルである。
【
図2】比較例1の不織布のFTIR―ATR法の分析結果を示すIRスペクトルである。
【
図3】実施例1で用いた油剤のFTIR―ATR法の分析結果を示すIRスペクトルである。
【
図4】比較例1の不織布、及び実施例1で用いた界面活性剤の示差唆走査熱量(DSC)測定結果を示すDSC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者らは、上述した問題を解決するため、検討を重ねた。その結果、繊維シートに流動パラフィン及び界面活性剤を含む油剤を付着させた癒着防止材を用いることで、癒着防止材のハンドリング性が良好になるとともに、長期の癒着防止性が向上することを見出した。具体的には、基材として繊維シートを用いたことで、癒着防止材のハンドリング性が良好になり、油剤として流動パラフィン及び界面活性剤を併用したことにより長期の癒着防止性が向上したと推測される。特に、該癒着防止材を心臓の創傷部位の表面に適用した後の長期間(例えば、3ヶ月経過時)の重度の癒着が効果的に抑制され、出血なしで心膜と心臓や心筋を剥離することができることが確認され、小児心臓疾患等の3ヶ月毎に手術が必要な場合に好適に用いることができる。
【0010】
本明細書において、数値範囲が「~」で示されている場合、該数値範囲は両端値(上限及び下限)を含む。例えば、「A~B」という数値範囲は、A及びBという両端値を含む範囲であり、「A以上B以下」と同じ範囲である。また、その範囲内にある任意の数やその範囲内に含まれる任意の範囲が、具体的に開示される。また、本明細書において、数値範囲が複数記載されている場合、異なる数値範囲の上限及び下限を適宜組み合わせた数値範囲を含むものとする。
【0011】
癒着防止材は、繊維シートを含む。繊維シートを構成する繊維は、生体適合性高分子を主成分とすることが好ましい。本発明の1以上の実施形態において、「主成分」とは、80質量%以上含まれる成分を意味する。本発明の1以上の実施形態において、「生体適合性」とは、体内で分解、代謝されて消失する生分解性、または、分解せず体内に残るが生体機能に悪影響を及ぼさないことを意味する。生分解性高分子としては、特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、εーポリカプロラクトン(PCL)、アルギン酸塩、コラーゲン、及びゼラチン等が挙げられる。生体内に留置できる生体適合性高分子としては、特に限定されないが、例えば、PGA、アルギン酸塩、コラーゲン、セルロース、カルボキシメチルセルロース及びゼラチン等が挙げられる。
【0012】
前記繊維シートを構成する繊維は、前記生体適合性高分子を85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、実質的に100質量%からなるものでもよい。前記繊維シートを構成する繊維は、生体適合性高分子に加えて、必要に応じて、他の成分を20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下含んでもよい。他の成分は、架橋剤、可塑剤、及び他の添加剤等であってもよい。
【0013】
前記繊維シートを構成する繊維は、強度及び生体適合性の観点から、ポリグリコール酸を主成分とすることが好ましく、ポリグリコール酸を80質量%以上含むことが好ましく、85質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことがさらにより好ましく、実質的に100質量%からなるものでもよい。ポリグリコール酸を主成分とする繊維は、ポリグリコール酸に加えて、必要に応じて、他の成分を20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下含んでもよい。他の成分は、ポリグリコール酸以外の上述した生体適合性高分子でもよく、架橋剤、可塑剤、及び他の添加剤等であってもよい。
【0014】
前記繊維シートを構成する繊維は、長繊維でもよく、短繊維でもよい。長繊維は、上述した生体適合性高分子を溶融紡糸、乾式紡糸及び湿式紡糸等のいずれかの適切な紡糸方法により繊維化することで得ることができる。短繊維は、長繊維を所定の長さ、例えば、100mm以下、又は25~78mmに切断することで得ることができる。
【0015】
前記繊維シートを構成する繊維の単繊維繊度は、特に限定されないが、例えば、生分解性や繊維強度の観点から、1~50dtexであることが好ましく、より好ましくは2~10dtexであり、さらに好ましくは3~7dtexである。
【0016】
前記繊維シートの形状は特に限定されず、例えば、織物、編物、不織布、及びそれらの複合体等が挙げられる。織物は、前記生体適合性高分子を主成分とする短繊維を通常の方法で紡績糸にした後に、通常の方法で製織して得た短繊維織物でもよく、前記生体適合性高分子を主成分とする長繊維を通常の方法で製織して得た長繊維織物でもよい。編物は、前記生体適合性高分子を主成分とする短繊維を通常の方法で紡績糸にした後に、通常の方法で製編して得た短繊維編物でもよく、前記生体適合性高分子を主成分とする長繊維を通常の方法で製編して得た長繊維編物でもよい。
【0017】
不織布は、前記生体適合性高分子を主成分とする短繊維をカード機等によりシート状のウェブに形成した後、得られたウェブをニードルパンチや加熱成形により繊維を交絡や結合(接着)させて形態を固定して得たものでもよい。
【0018】
不織布は、また、前記生体適合性高分子を主成分とする繊維を紡糸直後に巻き取らず直接ネットやローラーの表面に捕集して得たスパンボンド式不織布でもよい。不織布は、また、前記生体適合性高分子を溶融させた後、得られた生体適合性高分子の溶融物又は溶液をノズルから吐出させながら、圧縮空気等で吹き飛ばして、ネットやローラーの表面に捕集する方法で得たメルトブロ―式不織布でもよく、前記生体適合性高分子を溶媒に溶解させた後、得られた生体適合性高分子の溶液をノズルから吐出させながら、圧縮空気等で吹き飛ばして、ネットやローラーの表面に捕集する方法で得たフラッシュ紡糸式不織布でもよい。特に、手術中及び手術後の体内で繊維片が脱落しにくい形状としては、長繊維(フィラメント)を編機で編地にした後に、ニードルパンチして繊維を交絡させた不織布が好ましい。
【0019】
前記癒着防止材は、前記繊維シートに付着されている油剤を含む。前記癒着防止材において、前記繊維シートの質量に対し、流動パラフィン及び界面活性剤からなる油剤が0.1~20質量%付着されていることが好ましく、0.2~15質量%付着されていることがより好ましく、0.3~10質量%付着されていることがさらに好ましい。油剤の付着量が0.1質量%以上であると、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織の表面に癒着防止材を適用した後の長期間経過時(例えば、3ヶ月後経過時)に、重度の癒着が発生することを効果的に抑制することができる。油剤の付着量が20質量%以下であると、シートをピンセット等で掴んだ際に滑り落ちたり、手術時にシートが貼付部位から滑り動いたりすることが抑制され、良好なハンドリング性を確保することができる。
【0020】
前記油剤における流動パラフィン及び界面活性剤の配合量は特に限定されないが、例えば、流動パラフィン及び界面活性剤の相乗効果を発揮しやすい観点から、流動パラフィン及び界面活性剤の合計を100質量%とした場合、流動パラフィンを30~90質量%、界面活性剤を10~70質量%含むことが好ましく、流動パラフィンを50~70質量%、界面活性剤を30~50質量%含むことがより好ましい。
【0021】
前記流動パラフィンは、石油原油から蒸留や精製等の工程を経て得られた炭化水素類の混合物であり、常温(5~40℃)常圧(101325Pa)で液状のものであればよく、特に限定されない。炭化水素の炭素原子数は特に制限はなく、例えば、15以上でもよく、20以上でもよく、20~45でもよい。炭化水素における二重結合の有無について特に制限はないが、飽和炭化水素を多く含むものが好適に用いられる。さらに、炭化水素の構造としては、直鎖、分岐鎖及び環状構造のいずれを含んでいてもよく、いずれの比重の流動パラフィンであっても用いることができる。特に、日本薬局方に収載された流動パラフィン及び軽質流動パラフィン等が好ましく、軽質流動パラフィンがより好ましい。なお、安定剤として適当な型のトコフェロールを含んでいてもよい。前記流動パラフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記界面活性剤は、流動パラフィンの分散性を高める観点から、ノニオン性界面活性剤であることが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることがより好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルにおけるエチレンオキシド基の平均重合度は5~50でもよい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、及びポリオキシエチレンステアリルエーテル等が挙げられる。前記界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
流動パラフィンとの相乗効果を高め、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織の表面に癒着防止材を適用した後の長期間経過時(例えば、3ヶ月経過時)の癒着防止性をより向上させる観点から、前記界面活性剤は、湿潤時に、示差走査熱量測定(DSC)における昇温過程において0℃以下で水の低温結晶化に基づく発熱ピークが観察される中間水(以下、単に中間水とも記す。)を有することが好ましく、湿潤時に中間水を有するノニオン性界面活性剤であることがより好ましく、湿潤時に中間水を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルであることがより好ましい。本明細書において、「湿潤時」とは、生体内の臓器表面に存在する程度の水分が付着した状態を意味し、例えば、界面活性剤を実施例に記載のとおりに湿潤させることができる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、湿潤時に中間水を有しやすい観点から、ポリオキシエチレンオレイルエーテルを含むことが好ましい。
【0024】
本明細書において、繊維シートにおける油剤の付着量は、JIS L 1013 化学繊維フィラメント糸試験方法(2018)の8.27溶剤抽出分に記載の方法で測定することができる。なお、製造段階での繊維シートへの付与した油剤の量が確認できる場合は、それを得られた製品の繊維シートにおける油剤の付着量としてもよい。
【0025】
前記繊維シートへの油剤(流動パラフィン及び界面活性剤)の付与方法は、繊維シートに油剤を付着できればよく、特に限定されない。例えば、繊維シートへの油剤の付与する際には、油剤及び水を含む油剤組成物を用いることができる。具体的には、例えば、紡糸工程において繊維に紡糸油剤として油剤及び水を含む油剤組成物を塗布し、乾燥した後に油剤が付着された繊維を用いて繊維シートを作製してもよく、製織や製編工程において、糸道の前後で紡績糸に油剤及び水を含む油剤組成物を塗布し、乾燥することで繊維シートに油剤を付着させてもよい。或いは、織物、編物及び不織布への後処理で油剤及び水を含む油剤組成物を塗布した後、乾燥することで、繊維シートに油剤を付着させてもよい。繊維、紡績糸、織物、編物及び不織布への油剤及び水を含む油剤組成物の塗布方法は、特に限定されず、ディッピング、コーティング、吹き付け等のいずれでもよい。油剤組成物を塗布した後の乾燥は、特に限定されず、例えば、風乾や乾燥機内での乾燥で行うことができる。油剤組成物において、流動パラフィンが界面活性剤によって水中に乳化分散している。そのため、繊維シートに流動パラフィン及び界面活性剤を均一に塗布することができる。繊維シートに流動パラフィン及び界面活性剤を均一に塗布し、流動パラフィン及び界面活性剤の相乗効果を発揮しやすい観点から、油剤組成物は、流動パラフィンを5~10質量%、界面活性剤を2~10質量%、及び水を80~93質量%含むことが好ましく、流動パラフィンを6~9質量%、界面活性剤を3~8質量%、及び水を83~91質量%含むことがより好ましい。
【0026】
以下、好ましい1例の繊維シートであるポリグリコール酸長繊維不織布に油剤を付与する方法について説明する。
【0027】
ポリグリコール酸長繊維不織布は、ポリグリコール酸を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましい。ポリグリコール酸長繊維不織布は、実質的にポリグリコール酸100質量%からなるものでもよい。ポリグリコール酸長繊維不織布は、ポリグリコール酸に加えて、必要に応じて、他の成分を10質量%以下含んでもよく、5質量%以下含んでもよい。他の成分は、ポリグリコール酸以外の上述した生体適合性高分子でもよく、架橋剤、可塑剤、及び他の添加剤等であってもよい。
【0028】
ポリグリコール酸長繊維不織布は、特に限定されないが、例えば、引張強度を高める観点から、ポリグリコール酸長繊維で構成された編織物をニードルパンチ処理した長繊維ニードルパンチ不織布であることが好ましく、ポリグリコール酸長繊維で構成された編物(編地とも称される。)をニードルパンチ処理した長繊維ニードルパンチ不織布であることがより好ましい。編地は、横編みでもよく、丸編みでもよい。
【0029】
具体的には、以下のとおりに、ポリグリコール酸長繊維不織布に油剤を付着させることができる。
(1)油剤組成物、具体的には流動パラフィン5~10質量%、界面活性剤2~10質量%、及び水80~97質量%を含む油剤組成物を用いてスプレーにてポリグリコール酸長繊維に吹き付けた後、風乾にて乾燥することでポリグリコール酸長繊維に油剤を付着させる。
(2)油剤が付着されたポリグリコール酸長繊維を製織編して編織物を作製する。
(3)編織物をニードルパンチ処理したポリグリコール酸長繊維ニードルパンチ不織布を作製する。なお、必要に応じて、所定の厚みになるように、複数枚の編織物を重ねた後に、ニードルパンチ処理してもよい。
【0030】
前記癒着防止材は、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織に適用した際の長期癒着防止性(例えば、3ヶ月経過時の癒着防止性)に優れる観点から、FTIR(フーリエ変換紫外分光法)-ATR法(全反射測定法)による分析において、波数2860cm-1付近に、油剤由来のピークを有することが好ましい。
【0031】
前記癒着防止材の剛軟度は特に限定されないが、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織に適用する際のハンドリング性を高める観点から、41.5°カンチレバー法で測定した剛軟度が20~80mmであることが好ましく、25~70mmであることがより好ましい。
【0032】
前記癒着防止材の目付は特に限定されないが、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織に適用する際のハンドリング性及び癒着防止性を高める観点から、10~200g/m2であることが好ましく、20~180g/m2であることがより好ましく、30~160g/m2であることがさらに好ましく、40~140g/m2であることが特に好ましい。
【0033】
前記癒着防止材の厚みは特に限定されないが、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織に適用する際のハンドリング性及び癒着防止性を高める観点から、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.2~1.8mmであることがより好ましく、0.3~1.6mmであることがさらに好ましく、0.4~1.4mmであることが特に好ましい。
【0034】
前記癒着防止材の引張強度は特に限定されないが、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織に適用する際のハンドリング性及び癒着防止性を高める観点から、2~50Nであることが好ましく、5~40Nであることがより好ましく、10~20Nであることがさらに好ましい。また、癒着防止材の引張強度が10N以上であると、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織の表面に適用した後の縫合性も良好になる。
【0035】
前記癒着防止材の破断伸度は特に限定されないが、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織に適用する際のハンドリング性及び癒着防止性を高める観点から、100~1000%であることが好ましく、200~700%であることがより好ましく、300~500%であることがさらに好ましい。
【0036】
前記癒着防止材は、癒着が生じる可能性がある組織に適用した際の長期癒着防止性が高く、例えば、心臓の創傷部に適用して3ヶ月経過時及び6ヶ月経過時のいずれにおいても、癒着スコアが2以下であることが好ましい。本明細書において、癒着スコアは、心膜の必要な剥離の程度、心臓表面及び/又は心筋の挫滅と出血の程度に基づいて判断されるものであり、癒着スコアが2以下であれば、剥離時に出血がない。なお、癒着スコアは、具体的には、実施例に記載のとおりに評価判断することができる。
【0037】
前記癒着防止材は、癒着防止が必要とされる対象、例えば癒着が生じる可能性がある組織に適用して使用することで、癒着を抑制し、重度の癒着を防止することができる。繊維シートを構成する繊維が生体適合性高分子を主成分とすることから、安全性に優れる。癒着防止材は創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織に適用して3ヶ月経過時及び6ヶ月経過時のいずれにおいても、重度の癒着を抑制し、長期癒着防止性に優れる。
【0038】
前記癒着が生じる可能性がある組織としては、例えば、外科手術において臓器表面に損傷を負った組織や、外科手術において表面が乾燥することにより炎症が生じたまたは炎症が生じる恐れのある組織等がある。癒着が生じる可能性がある組織として、具体的には、心膜、心臓、心外膜、胸膜、腹壁、腹膜、膀胱、羊膜、子宮、硬膜、横隔膜、小腸、大腸、胃、肛門、膵臓、脾臓、肝臓、腎臓、肺、皮膚、食道、靱帯、及び腱が挙げられ、好ましくは、心膜、及び腹壁が例示される。
【0039】
前記癒着防止材は、好ましくは、癒着が生じる可能性がある組織の表面の範囲、形状、凹凸などに応じて適当な大きさのものを準備し、癒着が生じる可能性がある組織の表面に適用する。癒着防止材を癒着が生じる可能性がある組織の表面に適用した後に、必要に応じて、癒着防止材と癒着が生じる可能性がある組織の表面を縫合してもよい。癒着防止材が繊維シートを含むことから、縫合強度が高い。
【0040】
前記癒着防止材は、ヒトに使用してもよく、或いはヒト以外の生物に使用してもよい。ヒト以外の生物は、例えば、トリでもよく、非ヒト哺乳動物でもよい。非ヒト哺乳動物としては、例えば、ウシ、サル、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、フェレット、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ及びウマ等が挙げられる。
【0041】
前記癒着防止材を癒着が生じる可能性がある組織に適用する前に、同時に、或いは後で、ストレプトマイシン、ペニシリン、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、及びアムホテリシンB等の抗生物質、アスピリン、非ステロイド性解熱鎮痛剤(NSAIDs)、アセトアミノフェン等の抗炎症薬等の併用薬を投与するようにしてもよい。これらの薬剤は癒着防止材に混入して用いてもよい。癒着防止材が繊維シートを含むことから、薬剤が含浸しやすい。
【0042】
前記癒着防止材に薬剤溶液を含浸させ、投与することで、腹腔、胸腔、心腔、くも膜下腔、漿膜腔(腹膜腔、胸膜腔、心膜腔)、関節腔等において、癒着防止と薬物の局所徐放が同時に達成できる。さらに溶解速度が異なる層に薬物を担持することにより、速い徐放速度と遅い徐放速度での薬物の徐放も可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法を説明する。
【0045】
(目付)
JIS L 1913:2018 6.2 単位面積当たり重量(ISO法)にて測定した。
【0046】
(厚み)
JIS L 1913:2018 6.1 厚さ(ISO法)B法にて測定した。
【0047】
(剛軟度)
不織布の剛軟度をJIS L 1913:2010 6.7の41.5°カンチレバー法(ISO法)にて測定した。
【0048】
(引張強度)
JIS L 1913:2018 6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法)にて測定した。
【0049】
(破断伸度)
JIS L 1913:2018 6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法)にて測定した。
【0050】
(示差走査熱量法)
示差走査熱量計DSC7000X(株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を用い、降温で30℃から-100℃まで毎分5℃の速度で冷却した後、5分間保持し、その後毎分5℃の速度で-100℃から50℃まで昇温した後、1分間保持した。界面活性剤の場合は、測定対象の界面活性剤に2倍量の純水を加え一週間おいて含水させた後に45℃の恒温槽内で12時間静置して湿潤させた後、湿潤状態の界面活性剤3~5mgをアルミパンに取り、オートシーラーにてシールしたものを測定に用いた。繊維シートの場合は、アルミパンに入る程度の繊維長(3mm程度)にシートを鋏で切断し、アルミパンに3~5mgの切断した繊維を入れた後、通気性の高い不織布で覆って12時間、室温25℃の室内にて風乾し、乾燥終了後にアルミパンをオートシーラーにてシールしたものを測定に用いた。
【0051】
(フーリエ変換紫外分光法-全反射測定法)
フーリエ変換紫外分光光度計FT/IR―4200(日本分光株式会社製)を用いて、ATR法にて波数4000cm-1から500cm-1の範囲での赤外線透過率を測定した。
【0052】
(実施例1)
ポリグリコール酸長繊維(マルチフィラメント糸、フィラメント本数10、単繊維繊度5.5dtex、総繊度55dtex)に、流動パラフィン8質量%、ポリオキシエチレンオレイルエーテル1(エチレンオキシド基の平均重合度16)2質量%、及びポリオキシエチレンオレイルエーテル2(エチレンオキシド基の平均重合度20)2質量%、及び水88質量%からなる油剤組成物をスプレーにて吹き付けた後、室温25℃の室内にて風乾して、ポリグリコール酸長繊維に流動パラフィン、ポリオキシエチレンオレイルエーテル1及びポリオキシエチレンオレイルエーテル2からなる油剤(質量比、流動パラフィン:ポリオキシエチレンオレイルエーテル1:ポリオキシエチレンオレイルエーテル2=8:2:2)を0.5質量%付着させた。その後、油剤が付着されたポリグリコール酸長繊維を用い、丸編機で編地(目付20g/m2、厚み0.25mm)を作製した。得られた編地を平らに置き、しわが出来ないように4枚重ねた後、ニードルパンチして厚さ0.61mm、目付81g/m2のニードルパンチ不織布を得た。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られたニードルパンチ不織布をエタノール中で超音波洗浄して油剤(流動パラフィンとポリオキシエチレンオレイルエーテル)を除去した後、乾燥して不織布を得た。
【0054】
(比較例2)
市販のPGAを材料とする組織代用人工繊維布(目付32g/m2、厚み0.15mm、グンゼメディカルジャパン株式会社製、品名「ネオベール(登録商標)」シート、015タイプ)を用いた。
【0055】
(比較例3)
市販の癒着防止吸収性バリアであるセプラフィルム(科研製薬株式会社製、ヒアルロン酸ナトリウム:カルボキシメチルセルロース=2:1(質量比)からなる生分解性フィルム)を用いた。
【0056】
実施例1及び比較例1の不織布、比較例2の組織代用人工繊維布並びに比較例3のセプラフィルムの剛軟度、引張強度、及び破断伸度を上述したとおりに測定し、その結果を下記表1に示した。
【0057】
【0058】
実施例1の不織布(癒着防止材)は、比較例3のセプラフィルムに比べて、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織の表面に適用しやすく、ハンドリング性が良好である。また、実施例1の不織布(癒着防止材)は、剛軟度が20~80mmの範囲内であり、ハンドリング性により優れる。実施例1の不織布(癒着防止材)は、引張強度が10N以上であり、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織の表面に適用した後の縫合性も良好である。
【0059】
実施例1及び比較例1の不織布、並びに実施例1で用いた油剤について、上述したとおりに、FTIR分析を行い、その結果を
図1~
図3に示した。
図1~
図3から分かるように、実施例1の不織布は、波数2860cm
-1付近に油剤由来のピーク(破線で囲んでいる)を有するが、比較例1の不織布は波数2860cm
-1付近にピークを有しない。
【0060】
実施例1及び比較例1の不織布、比較例2の組織代用人工繊維布並びに比較例3のセプラフィルムをサンプルとして用い、インビボ(in vivo)試験により、これらのサンプルの癒着防止性を評価した。その結果を下記表3に示した。
【0061】
(インビボ試験)
イヌ(ビーグル犬)を麻酔した後、心臓を包んでいる心膜を切開し、やすり状のスポンジで心臓表面を擦過し、傷をつけた心臓表面にサンプルを設置し、サンプルに血液を塗布した。その後、心膜を縫合するとともに、サンプルが動かないように数か所縫合糸で固定した。参考例1の場合は、サンプルを設置することなく、心膜の切開部を縫合した。3ヶ月の埋植期間経過後又は6ヶ月の埋植期間経過後に、心膜と心臓表面の擦過部との癒着の度合いを癒着スコアで判定し、癒着防止性を確認した。3ヶ月の埋植期間及び6ヶ月の埋植期間のいずれの場合も、実施例1及び比較例1の不織布は、2頭のイヌに対して行い、比較例2の組織代用人工繊維布並びに比較例3のセプラフィルムは、1頭のイヌに対して行い、参考例1は2頭のイヌに対して行った。癒着スコアの基準は、下記表2に示す通りである。
【0062】
【0063】
【0064】
実施例1の流動パラフィン及びポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる油剤が付着された不織布を用いた場合の3ヶ月の埋植期間後の癒着スコアは2であり、比較例1の流動パラフィン及びポリオキシエチレンオレイルエーテルが除去された不織布及び比較例2の組織代用人工繊維布を用いた場合の3ヶ月の埋植期間後の癒着スコアは3であり、実施例1の不織布は癒着防止性が高く、比較例3のセプラフィルムと同等の癒着防止性を有していた。癒着スコア2と3では、出血の有無の大きな差があり、癒着スコア3のように剥離時に出血があると、止血や輸血が必要となり、手術に時間がかかってしまう。また、比較例3のセプラフィルムは、癒着防止性は良好であるが、埋植操作の際に傷をつけた心臓表面に設置するのに時間がかかり、ハンドリング性が悪かったが、実施例1の不織布は、埋植操作の際に傷をつけた心臓表面への設置が簡単であり、ハンドリング性が良好であった。実施例の流動パラフィン及びポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる油剤が付着された不織布は、再手術が必要な心臓疾患、例えば、3ヶ月毎に手術が必要な小児心臓疾患等の手術において、癒着防止材として好適に用いることができる。
【0065】
実施例1及び比較例1の不織布を用いて下記のようにインビトロ試験を行い、ヒト皮膚繊維芽細胞の増殖に対する影響を確認した。その結果を下記表4に示した。
【0066】
(インビトロ試験)
(試験例1)
組織培養用ポリスチレンプレート(TCPS、24ウェル、コーニング製)を0.5%のPMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー)にてコーティングし、室温で一晩放置して乾燥した。PMPCコーティング後のTCPSの底面に実施例1の不織布を配置したものを培養容器として用いた。培地として10%FBS(ウシ胎児血清)を含むDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)/F12を用いた。正常ヒト皮膚線維芽(NHDF)細胞(継代数:5)を、培養容器の底面の面積に対して、接種密度が1.0×104cell/cm2となるように接種し、1時間、24時間、3日間、又は7日間培養した後、Cell Counting Kit-8にて細胞数を測定した。
【0067】
(試験例2)
PMPCコーティング後のTCPSの底面に比較例1の不織布を配置したものを培養容器として用いた以外は、試験例1と同様にして、1時間、24時間、3日間、又は7日間培養した後のNHDF細胞の細胞数を測定した。
【0068】
(対照試験例1)
TCPSを培養容器として用いた以外は、試験例1と同様にして、1時間、24時間、3日間、又は7日間培養した後のNHDF細胞の細胞数を測定した。
【0069】
【0070】
実施例1の流動パラフィン及びポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる油剤が付着された不織布を用いた試験例1では、24時間以上の培養、特に7日間の培養において、流動パラフィン及びポリオキシエチレンオレイルエーテルが除去された比較例1の不織布を用いた試験例1に比べて細胞の付着数が減少しており、流動パラフィン及びポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる油剤が付着された不織布がNHDF細胞の増殖を阻害することが確認された。心臓手術後の創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織において、流動パラフィン及びポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる油剤が付着された不織布が線維芽細胞の増殖を阻害することで、癒着防止効果を発揮し、長期(例えば3ヶ月経過時)癒着防止性に優れると推測される。
【0071】
比較例1の不織布、及び実施例1で用いたポリオキシエチレンオレイルエーテルに対し、上述したとおりに示差走査熱量法による分析を行い、その結果を
図4に示した。
図4において、aは比較例1の不織布のDSC曲線、bは実施例1で用いたポリオキシエチレンオレイルエーテル1のDSC曲線、cは実施例1で用いたポリオキシエチレンオレイルエーテル2のDSC曲線である。
図4から分かるように、実施例1で用いたポリオキシエチレンオレイルエーテル1及びポリオキシエチレンオレイルエーテル2は湿潤状態において、示差走査熱量測定(DSC)における昇温過程において0℃以下で水の低温結晶化に基づく発熱ピークが観察される中間水を有する。なお、比較例1の不織布の場合、0°に水(不織布に含まれている)の吸熱ピークのみを有する。推測の域を超えないが、創傷部等の癒着が生じる可能性がある組織において、実施例の不織布に付着した疎水性の流動パラフィンによる線維芽細胞の接着防止及び湿潤時に中間水を有するポリオキシエチレンオレイルエーテルによるフィブリンの沈着抑制効果(抗血栓効果)による相乗作用により、重度の癒着が抑制され、長期間、例えば、3ヶ月経過時及び又は6ヶ月経過時のいずれにおいても、癒着防止性が向上したと推測される。
【0072】
本発明は、特に限定されないが、例えば、下記の実施形態を含むことが望ましい。
[1]繊維シート、及び繊維シートに付着されている油剤を含み、
前記油剤は、流動パラフィン及び界面活性剤を含む、癒着防止材。
[2]前記油剤は、繊維シートの質量に対して0.1~20質量%付着されている、[1]に記載の癒着防止材。
[3]前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである、[1]又は[2]に記載の癒着防止材。
[4]前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレンオレイルエーテルを含む、[3]に記載の癒着防止材。
[5]前記界面活性剤は、湿潤時に、示差走査熱量測定(DSC)における昇温過程において0℃以下で水の低温結晶化に基づく発熱ピークが観察される中間水を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の癒着防止材。
[6]前記繊維シートは、不織布である、[1]~[5]のいずれかに記載の癒着防止材。
[7]前記繊維シートを構成する繊維は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、アルギン酸塩、セルロース及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される1以上の生体適合性高分子を主成分とする、[1]~[6]のいずれかに記載の癒着防止材。
[8]41.5°カンチレバー法で測定した剛軟度が20~80mmである、[1]~[7]のいずれかに記載の癒着防止材。
[9]目付が10~200g/m2である、[1]~[8]のいずれかに記載の癒着防止材。
[10]厚みが0.1~2.0mmである、[1]~[9]のいずれかに記載の癒着防止材。
[11]フーリエ変換紫外分光法-全反射測定法による分析において、波数2860cm-1付近に、油剤由来のピークを有する、[1]~[10]のいずれかに記載の癒着防止材。
【要約】
【課題】ハンドリング性が良好で、かつ長期の癒着防止性が向上した癒着防止材を提供する。
【解決手段】本発明は、繊維シート、及び繊維シートに付着されている油剤を含み、前記油剤は、流動パラフィン及び界面活性剤を含む、癒着防止材に関する。本発明において、癒着防止材は、フーリエ変換紫外分光法-全反射測定法による分析において、波数2860cm-1付近に、油剤由来のピークを有することが好ましい。本発明において、界面活性剤は、湿潤時に、示差走査熱量測定(DSC)における昇温過程において0℃以下で水の低温結晶化に基づく発熱ピークが観察される中間水を有することが好ましい。
【選択図】なし