(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】光スペクトル生成装置、光スペクトル生成方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/365 20060101AFI20250307BHJP
【FI】
G02F1/365
(21)【出願番号】P 2022530568
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2021021693
(87)【国際公開番号】W WO2021251365
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2024-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2020101543
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】西澤 典彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 真仁
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/003138(WO,A1)
【文献】特開2003-224319(JP,A)
【文献】特開2017-146217(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0245729(US,A1)
【文献】特開2004-062153(JP,A)
【文献】特開2004-193666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0048113(US,A1)
【文献】P. H. Pioger et al.,“High spectral power density supercontinuum generation in a nonlinear fiber amplifier”,Optics Express,2007年09月03日,Vol. 15, No. 18,pp. 11358-11363
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/21
G02F 1/35-1/39
H01S 3/067
H04B 10/25
G02B 6/02
JSTPlus/JST7580 (JDreamIII)
Science Direct
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピークを有したスペクトルのパルス光を生成する光スペクトル生成装置であって、
前記パルス光を発生させるパルス光源と、
前記パルス光源からの
前記パルス光の所定波長を強度変調または位相変調する光変調器と、
前記光変調器からの
前記パルス光を伝搬させ、前記パルス光に非線形効果を生じさせ
る光導波路と、を有し、
前記パルス光のスペクトル幅は、前記所定波長のスペクトル幅の2倍以上であ
り、
前記光導波路は、前記パルス光が、前記光導波路における前記パルス光の伝搬距離に応じて前記所定波長においてピークとディップを交互に周期的に繰り返すようにし、
前記光導波路の長さは、前記所定波長がピークとなったときに前記光導波路から前記パルス光が取り出されるように設定されている、
ことを特徴とする光スペクトル生成装置。
【請求項2】
ピークを有したスペクトルのパルス光を生成する光スペクトル生成装置であって、
前記パルス光を発生させるパルス光源と、
前記パルス光源からの
前記パルス光の所定波長を強度変調または位相変調する光変調器と、
前記光変調器からの
前記パルス光を伝搬させ、前記パルス光に非線形効果を生じさせ
る光導波路と、を有し、
前記パルス光のスペクトル幅は、前記所定波長のスペクトル幅の2倍以上であ
り、
前記光導波路は、前記パルス光が、前記光導波路における前記パルス光の伝搬距離に応じて前記所定波長においてピークとディップを交互に周期的に繰り返すようにし、
前記パルス光の光強度は、前記所定波長がピークとなったときに前記光導波路から前記パルス光が取り出されるように設定されている、
ことを特徴とする光スペクトル生成装置。
【請求項3】
前記光導波路の長さは、前記所定波長がピークとなる最小の距離に設定されている、請求項1に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項4】
前記パルス光のパルス形状は、sech
2型である、ことを特徴とする請求項1
から請求項3までのいずれか1項に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項5】
前記光変調器は、複数の波長に強度変調または位相変調を生じさせる、ことを特徴とする請求項1
から請求項4までのいずれか1項に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項6】
前記光変調器は、等間隔で離散的に並んだ複数の波長に強度変調または位相変調を生じさせる、ことを特徴とする請求項
5に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項7】
前記光変調器は、前記所定波長を強度変調してディップを生じさせる光強度変調器である、ことを特徴とする請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項8】
前記ディップのスペクトル形状は、ローレンツ型またはガウス型である、ことを特徴とする請求項
7に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項9】
前記光強度変調器は、ガスであることを特徴とする請求項
7または請求項
8に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項10】
前記ガスはメタンである、ことを特徴とする請求項
9に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項11】
前記光強度変調器は、
前記パルス光源からの
前記パルス光を波長分離する波長分離素子と、
前記波長分離素子からの光が波長ごとに異なる位置に入射し、その位置ごとに光を強度変調する空間光強度変調器と、
を有する、ことを特徴とする請求項
7または請求項
8に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項12】
前記光変調器は、前記所定波長を位相変調する光位相変調器である、ことを特徴とする請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項13】
前記光位相変調器は、
前記パルス光源からの
前記パルス光を波長分離する波長分離素子と、
前記波長分離素子からの光が波長ごとに異なる位置に入射し、その位置ごとに光を位相変調する空間光位相変調器と、
を有する、ことを特徴とする請求項
12に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項14】
前記パルス光源は、光周波数コムを出力する光周波数コム光源である、ことを特徴とする請求項1から請求項
13までのいずれか1項に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項15】
さらに、高非線形光ファイバーを有し、
高非線形光ファイバーは、前記光変調器からの前記パルス光を前記光導波路に入力する前に、または、前記光導波路から出力後に、前記パルス光を、スーパーコンティニューム光に変換する、ことを特徴とする請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項16】
前記光導波路は、異常分散のシングルモードファイバーと、前記異常分散のシングルモードファイバーの後段に接続された高非線形光ファイバーと、により構成さ
れ、
前記高非線形光ファイバーは、前記パルス光を、スーパーコンティニューム光に変換する、ことを特徴とする請求項1から請求項
14までのいずれか1項に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項17】
前記光導波路は、光ファイバーアンプである、ことを特徴とする請求項1から請求項
14までのいずれか1項に記載の光スペクトル生成装置。
【請求項18】
ピークを有したスペクトルのパルス光を生成する光スペクトル生成方法であって、
前記パルス光の所定波長に強度変調または位相変調を生じさせた後、光導波路に前記パルス光を伝搬させて前記パルス光に非線形効果を生じさせ、
前記光導波路は、前記パルス光が、前記光導波路における前記パルス光の伝搬距離に応じて前記所定波長においてピークとディップを交互に周期的に繰り返すようにし、
前記光導波路の長さは、前記所定波長がピークとなったときに前記光導波路から前記パルス光が取り出されるように設定する、
ことを特徴とする光スペクトル生成方法。
【請求項19】
ピークを有したスペクトルのパルス光を生成する光スペクトル生成方法であって、
前記パルス光の所定波長に強度変調または位相変調を生じさせた後、光導波路に前記パルス光を伝搬させて前記パルス光に非線形効果を生じさせ、
前記光導波路は、前記パルス光が、前記光導波路における前記パルス光の伝搬距離に応じて前記所定波長においてピークとディップを交互に周期的に繰り返すようにし、
前記光導波路の光強度は、前記所定波長がピークとなったときに前記光導波路から前記パルス光が取り出されるように設定する、
ことを特徴とする光スペクトル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、線状のピークを有した光スペクトルを生成する装置、およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
線幅の非常に狭いスペクトル線が離散的に等間隔で櫛歯状に並んだ光スペクトルは光周波数コムと呼ばれ、周波数の物差しとして利用されている。光周波数コムの生成方法としては、モードロックレーザーを用いる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、線状のピークを有した光スペクトルを生成する装置は高価であり、装置の低コスト化が求められていた。また、線状のピークが得られる波長も限られていた。
【0005】
そこで本開示は、線状のピークを有した光スペクトルを生成する光スペクトル生成装置および光スペクトル生成方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、スペクトルに線状のディップを有したパルス光を光導波路に通すと、その光導波路における伝搬距離に応じてディップの波長における光強度が周期的に変化しディップとピークとが交互に現れる現象を発見した。本開示はこの新規な現象に基づくものである。
【0007】
本開示は、ピークを有したスペクトルのパルス光を生成する光スペクトル生成装置であって、パルス光を発生させるパルス光源と、パルス光源からのパルス光の所定波長を強度変調または位相変調する光変調器と、光強度変調器からのパルス光を伝搬させ、パルス光に非線形効果を生じさせ、所定波長にピークを生じさせる光導波路とを有し、パルス光のスペクトル幅は、ディップのスペクトル幅の2倍以上であり、光導波路は、パルス光が、光導波路におけるパルス光の伝搬距離に応じて所定波長においてピークとディップを交互に周期的に繰り返すようにし、光導波路の長さは、所定波長がピークとなったときに光導波路からパルス光が取り出されるように設定されている、ことを特徴とする光スペクトル生成装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、線状のピークを有した光スペクトルを生成する装置を安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の光スペクトル生成装置の構成を示した図。
【
図3】パルス光のスペクトルと伝搬距離の関係を示したグラフ。
【
図4】光強度とファイバー長との関係を示したグラフ。
【
図5】ディップのスペクトル幅とピークのスペクトル幅の関係を示したグラフ。
【
図6】ディップの吸収率とピークの光強度との関係を示したグラフ。
【
図7】光強度とファイバー長との関係について、ディップのスペクトル幅の依存性を調べた結果を示したグラフ。
【
図8】光強度とファイバー長との関係について、パルス光のピーク出力の依存性を調べた結果を示したグラフ。
【
図9】パルス光のスペクトル形状をガウス型に替えた場合の光強度とファイバー長との関係について示したグラフ。
【
図10】パルス光のスペクトル形状をスーパーガウス型に替えた場合の光強度とファイバー長との関係について示したグラフ。
【
図11】ディップのスペクトル形状をガウス型に替えた場合の光強度とファイバー長との関係について示したグラフ。
【
図12】スペクトル形状とそれらに対応する時間波形と位相を示したグラフ。
【
図13】パルス光のスペクトルと伝搬距離の関係を示したグラフ。
【
図14】スペクトルの測定結果を示したグラフ、数値計算により求めたスペクトルを示したグラフ。
【
図15】スペクトル形状の測定結果を示したグラフ。
【
図17】スペクトル形状の測定結果を示したグラフ。
【
図19】入力光および出力光のスペクトルを示したグラフ。
【
図21】実施例2の光スペクトル生成装置の構成を示した図。
【
図22】入力光および出力光のスペクトルを示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本開示は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1の光スペクトル生成装置の構成を示した図である。
図1のように、実施例1の光スペクトル生成装置は、短パルス光源10と、光増幅器11と、波長シフトファイバー12と、光強度変調器13と、光導波路14と、を有している。実施例1の光スペクトル生成装置は、発明者らが発見した現象を利用するものである。その現象は、スペクトルに狭線幅のディップ(光強度の急激な落ち込み)を有したパルス光を光導波路14に通すと、その光導波路14における伝搬距離に応じて、ディップの波長における光強度が周期的に変化し、ディップとピークとが交互に現れるというものである。以下、この現象をスペクトラルピーキングと呼ぶことがある。実施例1の光スペクトル生成装置は、このスペクトラルピーキングを利用して、ディップをピークに変換するものである。
【0012】
短パルス光源10は、パルス幅(時間幅)の狭い光を放射する光源である。たとえばリング型共振器のファイバーレーザーなどを用いることができる。パルス光の時間幅(半値全幅)は、たとえば10fs~100psである。また、光周波数コムを出力する光周波数コム光源を用いることも可能である。
【0013】
パルス光のパルス形状は任意であり、たとえばsech2 型(ソリトン)、ガウス型、スーパーガウス型などである。特に、sech2 型が好ましい。より明瞭で綺麗な線状のピークを得ることができる。
【0014】
光増幅器11は、短パルス光源10からのパルス光の光強度を増幅する装置である。たとえば、エルビウムドープファイバーアンプなどの希土類ドープ光ファイバーアンプを用いることができる。後段の光導波路14における非線形効果は、一定の光強度以上で生ずるため、光増幅器11を用いて光強度の増幅を図っている。また、スペクトラルピーキングの周期は光強度にも依存する。そのため、光増幅器11における増幅率によってスペクトラルピーキングの周期を調整することができる。
【0015】
波長シフトファイバー12は、光増幅器11からのパルス光の波長をシフトするものである。これにより、パルス光のスペクトルに対する後段の光強度変調器13による吸収ピークの位置を調整する。たとえば、パルス光のピーク波長が吸収ピークの波長付近となるように調整する。波長シフトファイバー12における波長シフト量は光強度に依存するため、光増幅器11によって波長シフト量を制御できる。
【0016】
光強度変調器13は、波長シフトファイバー12からのパルス光に対して狭帯域の吸収を生じさせ、パルス光のスペクトルに線状のディップを生じさせるフィルタである。生じさせるディップは1つである必要はなく、複数生じさせてもよい。等間隔で並んだディップを生じさせれば、スペクトラルピーキングによって線状のピークが等間隔で並んだスペクトルの生成が可能である。ディップの波長は、パルス光の波長帯域内であれば任意の波長でよい。ただし、ピークの強度を十分に高めるためには中心波長付近が好ましい。
【0017】
光強度変調器13によるディップのスペクトル形状は任意であるが、ローレンツ型やガウス型、sech2 型などが好ましい。よりきれいで明確なピークを得ることができる。
【0018】
パルス光のスペクトル幅(半値全幅)がディップのスペクトル幅(半値全幅)の2倍以上となるようにする。このようにパルス光のスペクトル幅またはディップのスペクトル幅を設定することにより、スペクトラルピーキングを発生させることができる。これを満たす範囲であればディップのスペクトル幅は任意であるが、たとえば10nm以下、好ましくは1nm以下である。
【0019】
ディップにおける吸収率は任意であるが、ピークの光強度を十分に高めるためには50%以上の吸収率とすることが好ましい。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0020】
光強度変調器13は、狭帯域の吸収ピークを有したものであれば任意であり、ガスセル、回折格子、フォトニック結晶などを用いることができる。特に、回折格子としてファイバーブラッググレーティング(FBG)を用いると、実施例1の光スペクトル生成装置をオールファイバーで構成することができ、取り扱いが容易となる。また、回折格子やフォトニック結晶の場合、温度制御によって吸収ピークの波長を変化させることも可能である。
【0021】
図18のように、回折格子132と空間光変調器(SLM)131を用いることにより、任意の波長にディップを生じさせてもよい。つまり、回折格子132によってパルス光を波長分離し、波長によってSLM131への到達位置が異なるようにする。SLM131は、その光の到達位置ごとに光強度を変調することができるので、所望の波長の光強度を弱めてディップを生じさせることができる。光強度は、散乱により弱めてもよいし、吸収により弱めてもよい。たとえば、液晶による回折格子によって光を散乱させることにより光強度を弱める方式でもよいし、MEMSミラーにより反射角を変えることで光強度を弱める方式でもよい。なお、
図18では回折格子132とSLM131の両方を反射型としているが、一方または両方を透過型としてもよい。また、回折格子132に替えてプリズムなどの他の波長分離素子を用いて波長分離してもよい。
【0022】
回折格子132とSLM131を用いる方式では、周波数間隔が等しい複数のディップを生じさせることができるので、スペクトラルピーキングによりディップをピークに変換することで光周波数コムを生成することができる。
【0023】
たとえば、波長範囲が50nmの場合、SLM131のピクセル数が1250ではスペクトル分解能40pm、ピクセル数が4000であればスペクトル分解能12pmでディップを生成することができる。
【0024】
ガスセルを用いる場合、特に、メタン、エタン、二酸化炭素などのガスの吸収は、等間隔で多数の吸収ピークを有するので、線状のピークが等間隔で並んだスペクトルを生成することができる。
【0025】
なお、実施例1では、光強度変調器13により吸収、反射させることで、光強度変調器13の透過光にディップを生じさせているが、透過光でなく反射光にディップを生じさせるものであってもよい。
【0026】
光導波路14は、光強度変調器13からのパルス光を伝搬させ、パルス光に非線形効果を生じさせるものである。この非線形効果により、ディップの波長における光強度を変化させ、ディップをピークに変換している。
【0027】
光導波路14は、パルス光を伝搬させ、そのパルス光に非線形効果を生じさせるものであれば任意でよい。たとえば光ファイバーでもよいし、平面光導波路、矩形光導波路などであってもよい。また、フォトニック結晶構造でもよい。実施例1の光スペクトル生成装置をオールファイバーで構成できる点からは、光ファイバーであることが好ましい。
【0028】
光導波路14における伝搬距離は、ディップがピークに変換されたタイミングで光導波路14から出力されるように設定されている。ディップの波長における光強度は伝搬距離に応じて周期的に変動してディップとピークとを交互に繰り返すため、光導波路14における伝搬距離が適切に設定されていれば、ピークとなったタイミングで光導波路14から出力させることができる。ピークの光強度を十分に高めるために、ディップの波長における光強度が極大値付近となるタイミングに伝搬距離が設定されていることが好ましい。極大値付近とは、たとえば極大値の光強度に対して0.5倍以上となる範囲である。より好ましくは0.8倍以上、さらに好ましくは0.9倍以上である。特に、最初の極大値付近となるように伝搬距離が設定されていることが好ましい。つまり、極大値付近となる伝搬距離のうち、最小の伝搬距離に設定されていることが好ましい。伝搬距離が長くなるほど光強度はラマン散乱等に起因して減少していくためである。また、複数のディップをピークに変換する場合、伝搬距離が長くなるとそれらのディップ間でのスペクトラルピーキングの周期のずれが顕著となるためである。
【0029】
光導波路14を光ファイバーとする場合、異常分散のシングルモード光ファイバーを用いるとよい。異常分散のシングルモード光ファイバーでは、ソリトンへと波形を整形できるので、生成するピークの形状をより綺麗で明瞭とすることができる。
【0030】
また、光導波路14として小径コアファイバーも好適である。小径コアファイバーは、非線形効果が大きく、効率的にスペクトラルピーキングを生じさせることができる。また、SN比(バックグラウンドの光強度に対するピークの光強度の比)を向上させることができる。
【0031】
また、光導波路14として光ファイバーアンプも好適である。光ファイバーアンプを用いれば、効率的にスペクトラルピーキングを生じさせることができ、同時にピーク強度も高めることができる。光ファイバーアンプとして、たとえばエルビウムドープファイバーアンプ(EDFA)を用いることができる。
【0032】
また、光導波路14への入力前にパルス光をスーパーコンティニューム光に変換してもよいし、光導波路14から出力後にパルス光をスーパーコンティニューム光に変換してもよい。スーパーコンティニューム光への変換は、高非線形光ファイバーを用いることができる。スーパーコンティニューム光へ変換することでSN比向上を図ることができる。また、スペクトル幅が非常に大きくなるため、ピークの本数を増加させることができる。たとえば、異常分散のシングルモード光ファイバーと、その後段に接続された高非線形光ファイバーとによって光導波路14を構成してもよい。
【0033】
また、光導波路14は複数種類の光ファイバーや平面光導波路、矩形光導波路などを接続して構成されていてもよい。
【0034】
以上、実施例1の光スペクトル生成装置によれば、線状のピークを有したスペクトルのパルス光を生成することができる。特に、線状のピークが等間隔で櫛歯状に並んだ光スペクトルを生成することができる。また、光強度変調器13によりディップの波長を制御することで、線状のピークを所望の波長とすることができる。
【0035】
次に、実施例1の光スペクトル生成装置の動作について説明する。
【0036】
パルス光源10から放射されたパルス光は、光増幅器11によって光強度が増幅され、波長シフトファイバー12によって波長帯域が調整された後、光強度変調器13に通される。パルス光は光強度変調器13吸収ピークにおいて強い吸収を受ける。そのため、光強度変調器13を透過したパルス光のスペクトルは、ディップを有することになる(
図2(a)参照)。
【0037】
次に、光強度変調器13からのパルス光は、光導波路14に通される。ここで、ディップの波長における光強度は、光導波路14における伝搬距離に応じて周期的に変化し、ディップとピークとを交互に繰り返す。ここで、光導波路14における伝搬距離は、ディップがピークに変換されたタイミングで光導波路14から出力されるように設定されている。そのため、光導波路14から出力されるパルス光は、ディップであった波長に線状のピークを有したスペクトルとなる(
図2(b)参照)。ディップを複数有する場合も、それらを同時にピークに変換することができる。また、パルス光源10を光周波数コム光源とする場合、光周波数コムを切り出すことができ、特にディップを等間隔で複数とすることで、光周波数コムを等間隔で切り出すことができる。また、光強度変調器13によりディップの波長を制御することで、ピークを所望の波長とすることができる。
【0038】
なお、スペクトラルピーキングの周期は、光導波路14における伝搬距離以外に、パルス光の光強度にも依存する。そのため、光導波路14における伝搬距離の制御に替えて、パルス光の光強度の制御によって、ディップがピークに変換されたタイミングで光導波路14から出力されるように設定することも可能である。パルス光の光強度が強いほど光導波路14における非線形効果が大きくなり、位相変化量が大きくなるので、スペクトラルピーキングの周期は短くなる。もちろん、光強度と光導波路14における伝搬距離の両方を制御してもよい。
【0039】
以上、実施例1の光スペクトル生成装置によれば、スペクトルにおける線状のディップを線状のピークに変換することができ、所望の波長に線状のピークを有したスペクトルのパルス光を生成することができる。特に、複数の線状のピークが等間隔で櫛歯状に並んだ光スペクトルを生成することができる。
【0040】
次に、実施例1の光スペクトル生成装置に関する各種実験結果について説明する。
【0041】
実施例1の光スペクトル生成装置の光導波路14から放射されるパルス光のスペクトルを数値計算により求めた。この数値計算における各種条件は次の通りである。光導波路14に入力されるパルス光は、スペクトル幅6nm、パルス幅400fsのsech2 型(ソリトン)でピーク出力500W、中心波長1650nmとした。また、ディップは、中心波長が1650nm、スペクトル幅(半値全幅)が20pmのローレンツ型で、吸収率85%とした。また、光導波路14は異常分散シングルモードファイバーとし、パルス光の波長範囲において二次分散値β2 =-33ps2 /km、三次分散値β3 =0.18ps3 /km、MFD=11μmとし、ソリトン次数N=0.94とした。また、吸収による位相シフトの影響は無視した。
【0042】
図3は、光導波路14から出力されるパルス光のスペクトルと、光導波路14における伝搬距離の関係を数値計算により求めた結果を示したグラフである。
図3(a)はラマン散乱を考慮した場合、
図3(b)はラマン散乱を無視した場合である。また、
図4は、波長1650nmにおける光強度と光導波路14のファイバー長(伝搬距離)との関係を示したグラフである。
図3において実線はラマン散乱を考慮した場合、点線はラマン散乱を無視した場合である。
【0043】
図3、4のように、波長1650nmにおける光強度が伝搬距離に応じて周期的に変化し、ディップからピーク、ピークからディップと連続的に変化することがわかった。これにより光導波路14の伝搬距離を適切に設定すれば、ピークを有したスペクトルの光パルスを光導波路14から放射させることができるとわかった。また、
図3(a)、
図4のように、ラマン散乱を考慮するとスペクトル全体としては伝搬距離に応じて長波長側へとシフトし、光強度も全体的に低下していくが、ディップとピークが周期的に変化する波長は1650nmであり変化しなかった。
【0044】
図5(a)は、ディップのスペクトル幅とピークのスペクトル幅の関係を示したグラフであり、
図5(b)はディップとピークを拡大して示した図である。パルス光のパルス幅は200fs、400fsとし、他の数値計算の条件は
図3、4と同様である。
【0045】
図5のように、ピークのスペクトル幅は、ディップのスペクトル幅のおよそ0.8倍となることがわかった。
【0046】
図6(a)は、波長1650nmにおけるディップの吸収率とピークの光強度との関係を数値計算により求めた結果を示したグラフであり、
図6(b)は、ディップの吸収率を99%としたときのスペクトルを示したグラフである。伝搬距離を0m、11.2mとし、ラマン散乱を考慮した以外は
図3、4と同一の条件とした。光強度は吸収がない場合の波長1650nmの光強度で規格した値である。
【0047】
図6のように、吸収率が0~25%までは、ピークの光強度はおよそ線形に増加し、吸収量と同等であった。吸収率が50%以上では、ピークの光強度は指数関数的に増加し、吸収率99%ではピークの光強度はおよそ240%となった。この結果、ディップの吸収率は50%以上が好ましいことがわかった。
【0048】
図7は、波長1650nmにおける光強度と光導波路14のファイバー長(伝搬距離)との関係について、ディップのスペクトル幅の依存性を調べた結果を示したグラフである。ディップのスペクトル幅を変化させた以外は
図3、4と同じ条件とした。
【0049】
図7のように、ディップのスペクトル幅が3nmまでは周期的な光強度の変化が見られたが、3nmを超えると周期的な変化は見られなかった。このことから、ディップをピークへと変換するためには、パルス光のスペクトル幅をディップのスペクトル幅の2倍以上とする必要があることがわかった。
【0050】
図8は、波長1650nmにおける光強度と光導波路14のファイバー長(伝搬距離)との関係について、パルス光のピーク出力の依存性を調べた結果を示したグラフである。パルス光のピーク出力を400W、500Wと変化させた以外は
図3、4と同じ条件とした。
【0051】
図8のように、光強度は周期的に変化し、その周期は伝搬距離とピーク出力によって変化することがわかった。このことから、波長1650nmにおける光強度が極大となるタイミングで光導波路14から出力されるように制御するためには、光導波路14における伝搬距離またはパルス光のピーク出力を制御すればよいことがわかった。
【0052】
図9(a)は、パルス光のスペクトル形状をsech
2 型からガウス型に替えた場合の、波長1650nmにおける光強度と光導波路14のファイバー長(伝搬距離)との関係について示したグラフである。スペクトル形状をガウス型とし、ピーク出力を500W、700W、1000Wと変化させた以外は
図3、4と同じ条件とした。また、
図9(b)は、ピーク出力500W、ファイバー長16mとしたときのパルス光のスペクトル形状を示したグラフである。
【0053】
図9のように、スペクトル形状をガウス型とした場合にも、光強度は周期的に変化し、ディップからピークへと変換可能であることがわかった。また、sech
2 型に比べてピークの形状は若干崩れているが、細く線状で強いピークであった。
【0054】
図10(a)は、パルス光のスペクトル形状をsech
2 型からスーパーガウス型に替えた場合の、波長1650nmにおける光強度と光導波路14のファイバー長(伝搬距離)との関係について示したグラフである。スペクトル形状をスーパーガウス型とし、ピーク出力を500W、750W、1000Wと変化させた以外は
図3、4と同じ条件とした。また、
図10(b)は、ピーク出力500W、ファイバー長0m、26mとしたときのパルス光のスペクトル形状を示したグラフである。
【0055】
図10のように、スペクトル形状をスーパーガウス型とした場合にも、光強度は周期的に変化し、ディップからピークへと変換可能であることがわかった。また、sech
2 型に比べてピークの形状は若干崩れているが、細く線状で強いピークであった。また、全体のスペクトル形状がより狭くなることがわかった。
【0056】
図3、4、9、10を比較すると、パルス光のスペクトル形状はsech
2 型が最も好ましいことがわかった。sech
2 型のソリトンパルスは、定常状態では時間波形にわたって一様な位相シフトを受け、パルス波形も安定で維持されるため、ガウス型やスーパーガウス型に比べてピーク形状が綺麗に出ると考えられる。
【0057】
図11(a)は、ディップのスペクトル形状をローレンツ型からガウス型に替えた場合の、波長1650nmにおける光強度と光導波路14のファイバー長(伝搬距離)との関係について示したグラフである。ディップのスペクトル形状をガウス型とし、ピーク出力500Wとした以外は
図3、4と同じ条件とした。また、
図11(b)は、ファイバー長0m、26mとしたときのパルス光のスペクトル形状を示したグラフである。
【0058】
図11のように、ディップのスペクトル形状をガウス型とした場合も、ローレンツ型の場合と同様に、細く線状で強いピークとすることができた。
【0059】
図12(a)~(c)は、ファイバー長が0m、6m、12mのときのスペクトル形状を示し、
図12(d)~(f)は、それらに対応する時間波形と位相を示したグラフである。
【0060】
図12から、ディップとピークが周期的に現れる理由は次のように考えられる。
図12(d)~(f)のように、時間波形は、幅の狭いパルスと、幅の広いパルスの重ね合わせで表現される。幅の広いパルスは、スペクトル形状におけるディップやピークに対応し、幅の狭いパルスは、ディップやピーク以外の部分に対応している。ファイバー長が0mでは、
図12(d)のように、幅の狭いパルスと幅の広いパルスとで位相がπ異なっていて打ち消されるため、
図12(a)のようにスペクトル形状においてはディップとなる。パルス光が光導波路14を伝搬すると、幅の狭いパルスは強度が強いため非線形効果による位相シフトを連続的に受ける。一方、幅の広いパルスは強度が弱いため位相シフトは無視できるほど小さい。そのため、幅の狭いパルスと幅の広いパルスとの位相差が、ファイバー長に応じて周期的に変化し、
図12(f)のように位相差が0、またはπの偶数倍となったときに、幅の狭いパルスと幅の広いパルスとが強め合い、
図12(c)のようにスペクトル形状においては強い線状のピークとなる。また、
図12(d)のように位相差がπ、またはπの奇数倍となったときに、
図12(a)のようにスペクトル形状においては線状のディップとなる。このようにして、ファイバー長に応じて光強度が周期的に変化し、ディップとピークが交互に周期的に現れる。
【0061】
図13は、ディップをメタンの1650nm付近の複数の吸収線とした場合について、光導波路14から出力されるパルス光のスペクトルと、光導波路14における伝搬距離の関係を数値計算により求めた結果を示したグラフである。パルス光は、パルス幅400fsのsech
2 型でピーク出力2kW、中心波長1650nmとした。他の条件は
図3、4と同様とした。
【0062】
図13のように、複数のディップを有する場合であっても、伝搬距離に応じてそれらのディップの波長における光強度が周期的に変化し、複数の線状のピークに同時に変換可能であることがわかった。また、メタンの吸収線は等間隔で並んでいるため、変換された複数の線状のピークも等間隔であった。また、各ピークの強度はパルス光の中心波長付近で強く、中心波長から離れるほど弱くなることがわかった。また、伝搬距離が長くなると各ピークの周期性にずれが生じることもわかった。これは、位相シフト量に波長依存性があるためと考えられる。また、
図13から、290GHzの超高繰り返し率のパルス列を生成可能であることがわかった。
【0063】
次に、実施例1の光スペクトル生成装置を実際に作製し、その出力を光スペクトルアナライザーと光パワーにより測定し、各平均出力におけるスペクトル形状を測定した。具体的な装置構成は次の通りとした。短パルス光源10は、偏波保持Erドープファイバーと単層カーボンナノチューブを用いたリング型共振器のファイバーレーザーとし、繰り返し率28MHz、パルス幅300fs、中心波長1556nmのパルス光が出力されるものを用いた。光増幅器11には、全偏波保持型のErドープファイバー増幅器を用いた。波長シフトファイバー12には、異常分散シングルモード偏波保持ファイバーを用い、その出力はパルス幅200fsのsech2 型ソリトンパルスとした。また、中心波長が1650nmとなるように光増幅器11において出力を調整した。光強度変調器13はメタンガスを封入したガスセルとし、波長シフトファイバー12からの出力をロングパスフィルタに通した後、ガスセルに通した。光導波路14は20mのシングルモードファイバーとし、ガスセルを透過したパルス光をシングルモードファイバーに通した。
【0064】
図14(a)は、スペクトルの測定結果を示したグラフ、
図14(b)は、数値計算により求めたスペクトルを示したグラフである。
図14(a)のように、平均出力1.0mWではメタンガスによる等間隔の複数の吸収線が見られた。平均出力が大きくなると、ソリトン効果によりスペクトル幅が圧縮され、吸収線の波長における光強度が変化し、線状のディップを線状のピークに変換できることがわかった。また、
図14(a)と
図14(b)とを比較すると、測定結果は数値計算の結果とおおよそ一致していた。
【0065】
次に、光導波路14をファイバー長が5mでMFD=5.5μmの小径コアファイバーに替えて同様にスペクトル形状を測定した。
図15はそのスペクトル形状の測定結果を示したグラフである。
図15のように、吸収線の波長における光強度が変化し、線状のディップを線状のピークに変換できることがわかった。また、小径コアファイバーは
図14で用いたシングルモードファイバーに比べてソリトン次数が高いため、平均出力が大きいほどスペクトル幅が広がった。スペクトル幅が広がった結果、ディップやピークの数も増加した。また、平均出力が大きいほど自己位相変調とラマン散乱によるスペクトル形状の崩れが大きくなった。
【0066】
図16は、波長1650nm付近のスペクトル形状を拡大して示したグラフである。
図16のように、スペクトル幅20pmのディップがスペクトル幅18pmのピークに変換されており、数値計算の結果とおおよそ一致していた。また、パルス形状の崩れによってバックグラウンドの出力レベルが低く、高いSN比が得られた。
【0067】
次に、光導波路14をシングルモードファイバーと正常分散の高非線形光ファイバーを順に接続したものに替えて同様にスペクトル形状を測定した。前段のシングルモードファイバーは10cmとし、後段の高非線形光ファイバーは5mとした。高非線形光ファイバーの二次分散値β2 =6.4ps2 /km、三次分散値β3 =0.0057ps3 /kmとし、非線形係数は波長1.56μmで23W-1km-1とした。
【0068】
図17はスペクトル形状の測定結果を示したグラフである。
図17のように、吸収線の波長における光強度が変化し、平均出力が増加するにつれて線状のディップと線状のピークが周期的に変化することがわかった。また、高非線形光ファイバーによる強い自己位相変調のためスペクトル幅が大きく広がり、ピークの本数が増加し、SN比も増加することがわかった。
【0069】
次に、光強度変調器13として、
図18に示す回折格子132とSLM131の組み合わせを用いた。回折格子132には、900line/mmのものを用い、SLM131には20μmピッチで800ピクセルのものを用いた。
【0070】
図19は、
図18の光強度変調器13への入力光および出力光のスペクトルを示したグラフである。
図19のように、等間隔の複数のディップを所望の波長に生成することができた。
【0071】
図20は、
図18の光強度変調器13からの光を光ファイバーに通した後のスペクトルを示したグラフである。
図20のように、ディップをピークに変換することができた。この結果、
図18の光強度変調器13を用いれば、所望の波長にピークを生成できることがわかった。
【実施例2】
【0072】
図21は、実施例2の光スペクトル生成装置の構成を示した図である。実施例2の光スペクトル生成装置は、実施例1の光スペクトル生成装置の光強度変調器13を、光位相変調器23に替えたものであり、他の構成は同様である。
【0073】
光位相変調器23は、任意の波長の位相を変調する装置である。その構成は、
図18と同様に、回折格子132とSLM131を組み合わせた構成とすることができる。ただし、SLM131により強度変調させるのではなく、位相変調させる点で異なっている。光位相変調器23により所定の波長が位相変調されたパルス光を、光導波路14に通すと、実施例1と同様に位相変調された波長にスペクトルピーキングが発生する。つまり、位相変調された波長に光導波路14の伝送距離に応じてディップとピークが交互に繰り返し現れる。したがって、光導波路14の伝送距離を適切に設定することで、所定の波長に線状のピークを有したスペクトルのパルス光を生成することができる。位相変調量は0でなければ任意でよいが、πに近いほどピーク強度を大きくすることができる。たとえば、0.1~π(rad)、または-π~-0.1(rad)の位相変調量とする。
【0074】
このように、強度変調ではなく位相変調でもスペクトルピーキングが発生する理由は、
図12に示唆されている通りである。つまり、位相変調を受けた領域と、位相変調を受けた領域以外の部分とでは、非線形効果によって光導波路14中における位相シフト量に違いが生じる。そのため、位相変調を受けた領域と位相変調を受けた領域以外の部分との位相差が、伝送距離に応じて周期的に変化し、位相差が0、またはπの偶数倍となったときに強め合い、位相差がπ、またはπの奇数倍となったときに弱め合う。その結果、光導波路14における伝送距離に応じて光強度が周期的に変化し、ディップとピークが交互に周期的に現れる。
【0075】
なお、強度変調と位相変調の双方を行ってもよい。同様にスペクトルピーキングが発生し、ピークを生成することができる。
【0076】
図22は、実施例2の光スペクトル生成装置の光導波路14から放射されるパルス光のスペクトルを数値計算により求めた結果である。
図22(a)は、光導波路14に入力されるパルス光のパワースペクトルと位相スペクトルを示したグラフである。
図22(b)は、光導波路14から出力されるパルス光のパワースペクトルを示したグラフである。
図22(a)のように、入力させるパルス光は、所定の周波数間隔で位相変調を受けている。そして
図22(b)のように、位相変調を受けた波長にピークが生成されることがわかった。
【0077】
(各種変形例)
本開示の光スペクトル生成装置は、線状のピークを複数有したスペクトルを生成するのに好適である。そのようなスペクトルの光は、光多重通信などに利用することができる。
【0078】
また、本開示の光スペクトル生成装置は、光周波数コムを等間隔で切り出すのに好適である。従来の光周波数コム生成方法はコム間隔が狭く、実用上、コム間隔を広げたり、コム線を適度に間引くことが求められていたが、そのような制御は困難であった。しかし、本開示によれば、光強度変調器13の特性によって光周波数コムを所望の間隔で切り出すことができるので、実用性を向上させることができる。たとえば、従来の光周波数コムではコム間隔は数十MHzであったが、本開示によればこれを数百GHzの間隔で切り出すことができる。
【0079】
また、本開示の光スペクトル生成装置によれば、高繰り返し率のパルス光とすることができるので、光サンプリングにも好適である。
【0080】
本開示により生成するピークの波長は限定されず、任意の波長のピークを生成することができる。たとえば、中赤外線帯域や遠赤外線帯域などにおいてもピークを生成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示は、光周波数コムの生成、光波長多重通信、光サンプリングなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
10:パルス光源
11:光増幅器
12:波長シフトファイバー
13:光強度変調器
14:光導波路
23:光位相変調器