(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】ガラス製光学部品成形用金型
(51)【国際特許分類】
C03B 11/00 20060101AFI20250307BHJP
C03B 11/08 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
C03B11/00 C
C03B11/08
(21)【出願番号】P 2024178233
(22)【出願日】2024-10-10
【審査請求日】2024-10-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391007851
【氏名又は名称】岡本硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181009
【氏名又は名称】中井 日出海
(72)【発明者】
【氏名】丸 智久
(72)【発明者】
【氏名】小手川 祥司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慧
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/202816(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111574032(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 11/00 - 11/16
G02B 3/00 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密かつ複雑な立体形状を有するガラス製光学部品を成形するための金型であって、凹面部の外縁部に前記ガラス製光学部品を成形するための成形金型の下型が設けられた胴型と、前記胴型の凹面部に組み合わされる凸面部を有する矢型と、前記矢型の外周部に配置され、前記ガラス製光学部品を成形するための成形金型の上型が設けられたリング型とを備え、前記胴型の凹面部内に投入された溶融ガラスゴブが、前記凸面部を有する矢型により上方からプレスされることにより、前記成形金型の下型と前記成形金型の上型で囲まれた空間に前記溶融ガラスゴブが注入されるガラス製光学部品成形用金型において、前記プレスに伴って前記溶融ガラスゴブを前記成形金型に注入するために、前記胴型と前記リング型と前記成形金型とを繋ぐように、前記胴型の凹面部の周縁部に設けられた下型と前記リング型に設けられた上型とからなるガラス流路金型が形成されていて、A点、B点、SA及びSBを下記のように定義したときに、前記ガラス流路金型で囲まれたガラス流路空間のガラス流入側の断面積SAと該ガラス流路空間のガラス流出側の断面積SBの比(SA/SB)が1.7~19.7の範囲にあることを特徴とするガラス製光学部品成形用金型。
A点;ガラス流路金型の下型のガラス流路面における中心線の胴型側の端点。
B点;ガラス流路金型の下型のガラス流路面における中心線の成形金型側の端点。
SA;前記胴型を水平に置いた時に、ガラス流路金型の下型のガラス流路面における中心線を面内に含む鉛直断面に対して垂直であって、A点を通るガラス流路空間の鉛直断面(CA)の面積(ガラス流路空間のガラス流入側の断面積)。
SB;前記胴型を水平に置いた時に、ガラス流路金型の下型のガラス流路面における中心線を面内に含む鉛直断面に対して垂直であって、B点を通るガラス流路空間の鉛直断面(CB)の面積(ガラス流路空間のガラス流出側の断面積)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密かつ複雑な立体形状を有するガラス製光学部品、具体的にはガラス製の両面非球面レンズ、異形レンズなどの精密かつ複雑な立体形状を有するガラス製光学部品を効率よく製造するためのガラス製光学部品成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の各種光源のLED化やLD化に伴ってレンズ形状品や光学部品の小型化・高精度化・複雑形状化が進んでいて、これらに対応したガラス製光学部品成形用金型が求められている。
【0003】
従来、光学部品等の小さな立体形状を有するガラス成形品の成形金型とその成形金型を用いた成形方法としては、主にダイレクトプレス法、モールドプレス法、リヒートプレス法、射出成形法が試されてきた。
【0004】
ダイレクトプレス法とは、溶融されたガラスゴブを直接、金型内に投入し、プレス機にてプレス成形を行う最も典型的なプレス技術である。胴型、矢型及びリング型の間でガラスゴブを直接金型の形状に成形することから、ダイレクトプレス法と呼ばれる。大量生産方式としては、溶融炉から流出する溶融ガラス流から、製品重量に合わせてほぼ一定重量となるようシェアカット(刃で切断)された溶融ガラスゴブ(溶融したガラスの一塊)を、直接、胴型(一対の金型のうち、下方にある凹面状の型)内に投入し、矢型(一対の金型のうち、上方にある凸面状の型)でプレスして、金型の形状に成形を行うことが一般的である。
【0005】
この場合、矢型の外周部にはリング型が配置される。リング型は、矢型が下降してガラスゴブをプレスする際に、矢型よりも少し早めに下降して胴型に嵌合し、矢型をガイドしながら、プレスされるガラス製品の縁を形成する役割を担っている。
【0006】
従来のダイレクトプレス技術には次のような欠点があった。
(1)小型の精密ガラス部品の製造に際しては、溶融ガラスゴブの重量を一定に制御することが困難であり、ガラスゴブの重量のバラツキが大きくなってしまうことから、安定した精密成形ができないという問題があった。即ち、ガラスゴブの重量変動を、そのまま製品の肉厚等の変動で吸収せざるを得ない成形方法であるため、形状精度の高い製品の成形は困難となるのである。
(2)小型で薄肉のガラス製光学部品を得ようとすると、プレスの際に溶融ガラスゴブが狭い金型の隙間を延びていく間に、金型によって急速に熱を奪われ、溶融ガラスゴブが薄く延びきらないうちにガラスが固化してしまうという問題があった。さらに小さいサイズのガラス製光学部品の場合には、もともとの溶融ガラスゴブ自体の保有熱量も少ないため、プレスの際に溶融ガラスゴブがすぐに冷えてしまうことになり、プレス成形中にガラスにヒビが入ったり破損してしまったりして、薄肉部分や細い部分を有する複雑な形状のガラス製光学部品を成形することは極めて困難であった。
(3)1,000℃前後の温度の溶融ガラスゴブを500℃前後の温度にある金型で成形するため、ガラスと金型との融着は防止されるものの、金型に接した溶融ガラスゴブの表面付近は急激に冷却されて固化する一方、ガラス内部は遅れて収縮・固化するために「ヒケ」と呼ばれる体積収縮に起因する一種の成形不良(形状及び寸法の不良)が発生し、高い形状精度が得られなかった。
【0007】
このような、ダイレクトプレス法の欠点を克服するものとして、凹面部の外縁部にガラス製光学部品を成形するための、少なくとも一対の成形金型の下型が設けられた胴型と、該胴型の凹面部に組み合わされる凸面部を有する矢型と、該矢型の外周部に配置され、ガラス製光学部品を成形するための少なくとも一対の成形金型の上型が設けられたリング型とから構成され、前記胴型の凹面部内に投入された溶融ガラスゴブが、前記凸面部を有する矢型により上方からプレスされることにより、前記溶融ガラスゴブが、前記少なくとも一対の成形金型の下型と上型の間に形成される空間に注入されるようになっていることを特徴とするガラス製光学部品成形用金型が、開示されている(特許文献1)。
【0008】
一方、ダイレクトプレス法から離れた金型も提案されている。Angleらの開示した特許文献2は、モールドプレス法に射出成形法を組み合わせた技術と捉えることができ、カーボン製の型を使用して、加熱して非酸化性雰囲気下でプレスし、そのまま離型せずにカーボン型内にガラス成形品を留めたまま、十分な時間にわたってゆっくりと加熱・加圧を維持しながらガラス転移点以下になるまで降温することにより、三次元形状のガラス製光学部品を製造するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2019/202816号
【文献】米国特許3844755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載した従来の金型では、製造するガラス製光学部品の形状を変更する場合は、上下一対の成形金型を交換するのであるが、成形金型だけを交換したのでは、成形金型への溶融ガラスゴブの入り込み方が変わるため、形状精度が悪化し、製造歩留まりが低下するという問題点のあることが判明した。そのため、成形金型を交換する場合には、胴型やリング型全体を作り替える必要のある場合が、度々発生した。
【0011】
一方、特許文献2に開示された方法では、特殊なカーボン型を利用しなければならないという点と、単純なレンズのような小さな光学部品を成形することはできるものの、本発明が目的とするような複雑な立体形状を有するガラス製光学部品は成形できないという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本出願に係る発明の目的は、精密でかつ複雑な立体形状を有するガラス製光学部品を効率よく高い歩留まりで成形することができる新規なガラス製光学部品成形用金型を提供することにある。
【0013】
前記従来の課題を解決するために本発明は、精密かつ複雑な立体形状を有するガラス製光学部品を成形するための金型であって、凹面部の外縁部に前記ガラス製光学部品を成形するための成形金型の下型が設けられた胴型と、前記胴型の凹面部に組み合わされる凸面部を有する矢型と、前記矢型の外周部に配置され、前記ガラス製光学部品を成形するための成形金型の上型が設けられたリング型とを備え、前記胴型の凹面部内に投入された溶融ガラスゴブが、前記凸面部を有する矢型により上方からプレスされることにより、前記成形金型の下型と前記成形金型の上型で囲まれた空間に前記溶融ガラスゴブが注入されるガラス製光学部品成形用金型において、前記プレスに伴って前記溶融ガラスゴブを前記成形金型に注入するために、前記胴型と前記リング型と前記成形金型とを繋ぐように、前記胴型の凹面部の周縁部に設けられる下型と前記リング型に設けられる上型とからなるガラス流路金型が形成されていることを特徴とするガラス製光学部品成形用金型である。
【0014】
ここで、精密かつ複雑な立体形状を有するガラス製光学部品とは、両面非球面レンズ、異形レンズ、複雑な立体形状を有する光学部品などのことであって、本発明によれば、例えばほとんど平坦な面を持たず、両面にグリッド状の溝が形成されているなど、単純な凹レンズや凸レンズを成形するよりもはるかに困難度の高いガラス製光学部品を成形できる金型を提供できる。これら精密かつ複雑な立体形状を有するガラス製光学部品については、後にガラス製光学部品成形用金型の例とともに例示される。
【0015】
本発明のガラス製光学部品成形用金型の構造と機能を、
図1を用いて説明する。本発明のガラス製光学部品成形用金型1は、胴型2、成形金型4、リング型5、矢型6及びガラス流路金型12から構成される。胴型2の凹面部3には、ガラス製光学部品の材料である溶融ガラスの一塊(溶融ガラスゴブ)が投入される。一方、矢型6は凸面部を有し、前記溶融ガラスゴブを上方から加圧するためのものである。本発明は、従来のダイレクトプレス法とは異なり、胴型2と矢型6の金型の形状をそのまま転写して成形品を得るものではなく、胴型2に投入された溶融ガラスゴブが矢型6によってプレスされた際に、胴型の凹面部3に沿ってせりあがって周縁部に到達し、下型と上型とからなるガラス流路金型12を通じて、外縁部に設けられた成形金型4の下型4aとリング型5の下面に設けられた成形金型の上型4bの間の空間に、溶融ガラスが注入され満たされることによって、ガラス製光学部品が形成される。
【0016】
胴型2の主要部は凹面部3であるが、胴型の凹面部の周縁部にはガラス流路金型の下型12aが、胴型の凹面部の外縁部には成形金型の下型4aが設けられ、リング型5の下面側には、ガラス流路金型の上型12bと成形金型の上型4bが設けられている。従来のダイレクトプレス用金型は、胴型と矢型の間で、又は胴型と矢型とリング型の間で最終成形品をプレス成形するのに対して、本発明では、胴型2と矢型6によるプレスは、溶融ガラスゴブに流動を生じさせるものであって、これにより、胴型の凹面部の外縁部に設けられた成形金型の下型とリング型の下面に設けられた成形金型の上型とからなる成形金型4によって形成される空間9に、ガラス流路金型12を通って溶融ガラスゴブを注入して、成形金型間で最終製品を得るという点で、従来のダイレクトプレス用金型とは全く異なる。
【0017】
ここで、ガラス流路金型は、胴型の外縁部に設けられた成形金型の下型に繋がるように成形金型よりも内側に形成されるガラス流路金型の下型と、リング型の下面に設けられた成形金型の上型につながるように成形金型よりも内側に形成されるガラス流路金型の上型とからなる。成形金型は胴型の凹面部の外縁部に形成されるが、ガラス流路金型は成形金型よりも内側であって、胴型の凹面部にかかるところに形成されるので、この部分を周縁部と呼ぶ。
【0018】
ガラス流路金型12について、
図1を用いて説明する。ガラス製光学部品成形用金型1において、A点、B点を次のように定義する。
A点;ガラス流路金型の下型のガラス流路面における中心線の胴型側の端点
B点;ガラス流路金型の下型のガラス流路面における中心線の成形金型側の端点
そして、ガラス流路金型の端点における面積SA及びSBを次のように定義する。すなわち、胴型を水平に置いた時に、ガラス流路金型の下型のガラス流路面における中心線を面内に含む鉛直断面に対して垂直であって、
SA;A点を通るガラス流路空間の鉛直断面(CA)の面積(ガラス流路金型のガラス流入側の断面積)
SB;B点を通るガラス流路空間の鉛直断面(CB)の面積(ガラス流路金型のガラス流出側の断面積)
と定義する。
【0019】
本発明においては、ガラス流路空間のガラス流入側の断面積SAとガラス流路空間のガラス流出側の断面積SBの比(SA/SB)が1.7~19.7の範囲にあるとき、ガラス製光学部品の形状精度に優れることがわかった。
【0020】
なお、前記ガラス製光学部品を成形するための成形金型4の下型4aは、胴型2にはめ込まれることにより胴型と一体化でき、また前記成形金型4の上型4bは、リング型5にはめ込まれることによりリング型と一体化でき、かつ成形金型の下型4aは、胴型2から取り外し可能な構造であり、また前記成形金型の上型4bは、リング型5から取り外し可能な構造であり、前記ガラス製光学部品の形状に合わせて前記成形金型4の下型4a及び前記成形金型4の上型4bを交換できるようになっている。同一の胴型2、矢型6及びリング型5を用いながら、種々の光学部品を製造することが可能となるからである。同じ理由により、ガラス製光学部品を成形するためのガラス流路金型12の下型12aは、胴型2にはめ込まれることにより胴型と一体化でき、また前記ガラス流路金型12の上型12bは、リング型5にはめ込まれることによりリング型と一体化でき、かつガラス流路金型12の下型12aは、胴型2から取り外し可能な構造であり、また前記ガラス流路金型12の上型12bは、リング型5から取り外し可能な構造であり、前記ガラス製光学部品の形状に合わせて前記ガラス流路金型12の下型12a及び前記ガラス流路金型12の上型12bも交換できるようになっている。
【0021】
さらに、成形金型4とガラス流路金型12の形状が決定されたなら、
図2に示すように、成形金型4とガラス流路金型12を一体化してガラス流路金型一体化成形金型13とすることもできる。ガラス流路金型一体化成形金型13は、ガラス流路金型一体化成形金型の下型13aとガラス流路金型一体化成形金型の上型13bとからなる。
【0022】
なお、ガラス製光学部品を成形するための前記成形金型4の下型4aと上型4bの間に形成される空間9は、ガラス製光学部品となる形状に対応した空間であるが、それに加え、該空間の外側に、前記溶融ガラスゴブが流入できる付加的空間を有していると、溶融ガラスゴブの該空間9への注入が確実になることから望ましい。こうすることによって該空間9に空隙ができてガラス製光学部品の形状が不良になることを防止できるからである。
【0023】
また、前記ガラス製光学部品を成形するための前記成形金型4の下型4a及び上型4bの少なくとも一方に、プレス成形の際に、前記ガラス製光学部品となる形状に対応した空間から、前記溶融ガラスゴブによって押し出される空気を抜くための穿孔が設けられているのが望ましい。溶融ガラスゴブが溶融ガラス流入口を通じて該空間に注入される際に、該空間に存在していた空気が穿孔から抜けることにより、光学部品の寸法精度の向上が期待できるからである。この場合、前記穿孔の内径が0.1mm以上で0.5mm以下であることが望ましい。空気を抜くには十分な径であり、溶融ガラスが流入するには十分に小さいからである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、新規なガラス製光学部品成形用金型により、従来の金型では得られなかった精密でかつ複雑な立体形状を有するガラス製光学部品を歩留まりよくかつ高い生産性で成形することができる。また、基本的な実施形態においてモールドプレス法のような特殊な型材料及び非酸化性雰囲気を必要としないばかりか、大量生産あるいは少量多品種生産をすることが可能であり、産業の発展に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明のガラス製光学部品成形用金型の一例である。
【
図2】本発明のガラス製光学部品成形用金型において成形金型とガラス流路金型が一体化した例である。
【
図3】本発明のガラス製光学部品の成形用金型を用いて製造されるガラス製光学部品の一例とこの場合のガラス流路金型の流路空間のガラス流入側の断面積SAとガラス流出側の断面積SBを示す図である。
【
図4】ガラス流路金型の下型の一例の拡大図である。
【
図5】本発明のガラス製光学部品成形用金型を用いて得られるガラス製光学部品の一例である。
【
図6】本発明のガラス製光学部品成形用金型を用いて得られるガラス製光学部品の他の一例である。
【
図7】本発明のガラス製光学部品成形用金型を用いて得られるガラス製光学部品のさらに他の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明におけるガラス製光学部品成形用金型1は、ステンレス鋼を設計図面通りに切削・研削することにより製作することができる。成形金型4については、必要に応じて、より耐久性の高い耐熱合金を用いてもよい。本発明のガラス製光学部品成形用金型は、胴型2、成形金型4、リング型5、矢型6及びガラス流路金型12から構成される。胴型2には、ガラス製光学部品の材料からなる溶融ガラスの一塊(溶融ガラスゴブ)が投入される凹面部3が形成されており、凹面部3の外縁部にはガラス製光学部品を成形するための成形金型4の下型4aが設けられ、さらに胴型の凹面部の斜面と成形金型の下型4aをつなぐ周縁部にガラス流路金型の下型12aが設けられている。
【0027】
一方、リング型5の下面側には、成形金型4の上型4bが、胴型2の凹面部の外縁部に設けられた下型4aと相対するように設けられ、さらにガラス流路金型の下型12aに対向する位置にガラス流路金型の上型12bが設けられている。胴型2の凹面部3に溶融ガラスゴブが投入されると、まずはリング型5が降下して胴型2に密着し、胴型2の凹面部の周縁部のガラス流路金型の下型12aと成形金型4の下型4aとリング型5の下面部のガラス流路金型の上型12bと成形金型の上型4bとの間に挟まれた空間が形成される。リング型5の降下に続いて凸面部を有する矢型6が降下して、前記溶融ガラスゴブが上方から加圧される。溶融ガラスゴブは、十分な流動性を維持したまま、胴型2の凹面部3の内面に沿ってせりあがって周縁部に到達し、溶融ガラス流路金型の下型12aの端点Aに至り、断面積が小さくなりながら(したがって、溶融ガラスゴブの流入速度を増しながら)ガラス流路金型の下型12aの終点B(成形金型4の下型4aの入口と等しい)に至り、成形金型4の下型4aと上型4bとの間に挟まれた空間内に注入されることによって、ガラス製光学部品が形成される。
【0028】
ガラス流路金型の効果は、矢型6によってプレスされた溶融ガラスゴブが胴型の斜面をせりあがって最終的に成形金型を満たす過程において、溶融ガラスゴブの形状や成形金型に向かう進行速度を適切に整えること役立っているものと考えることができる。ガラス流路金型の入口(A点)においてはガラスゴブの流路経路における断面積は大きく、成形金型の方向に進むにつれて小さくなる。そして、質量保存の法則から、断面積が小さくなると進行速度が速くなると考えられる。したがって、ガラス流路金型の入口(A点)よりも出口(B点)の方が溶融ガラスゴブの流れが速くなり、成形金型内空間をむらなく満たすようになるものと考えられる。
【0029】
なお、成形金型4の上型4bは例えばボルト締めによってリング型5に固定することができ、着脱が可能である金型構造としている。同様に、胴型2においても成形金型4の下型4aはボルト締めなどの任意の方法によって着脱が可能な金型構造となっており(図示せず)、同一の胴型2、矢型6及びリング型5を用いながら、前記成形金型4の下型4a及び前記成形金型4の上型4bを交換することによって種々の形状の光学部品を成形することを可能としている。成形金型と同様にガラス流路金型の下型12a及び上型12bも、それぞれボルト締めによって胴型及びリング型に固定可能であり、当然、着脱も可能である。これらの特徴は、少量多品種生産に適していることを示すものである。
【0030】
図3-1は、本発明のガラス製光学部品成形用金型1を用いて製作されたガラス成形体14とその端部に形成されるガラス製光学部品15を表したものである。
図3-2は、ガラス流路金型の出口CBで切断したもので、CBの断面積はSBである。一方、
図3-3はガラス流路金型の入口CAで切断したもので、CAの断面積はSAである。CAからCBに至るところのガラス成形体がガラス流路金型の流路の形状に相当する部分である。
【0031】
図4は、ガラス流路金型の下型のみを取り出したものである。
図4-1が全体図であり、
図4-2がガラス流路面における中心線で切断した場合の断面図である。ガラス流路空間が成形金型に向かって狭まっていく様子がわかる。ガラス流路面における中心線を引いた場合に、ガラス流路金型の胴型側端部と交わる点がA点であり、成形金型側端部と交わる点がB点である。本発明においては、ガラス流路空間のガラス流入側の断面積SAとガラス流路空間のガラス流出側の断面積SBの比(SA/SB)が1.7~19.7の範囲にあるとき、ガラス製光学部品の形状精度に優れることがわかった。
【実施例】
【0032】
表1は、本発明のガラス製光学部品成形用金型を用いて製作した各種ガラス光学部品の製品サイズとガラス流路金型の入口側断面積SA及び出口側断面積SBを一覧表にまとめたものである。X、Y及びZはそれぞれその方向の製品の最大寸法である。
【0033】
【0034】
SA/SBが1.7未満であると、出不足と呼ばれる成形不良が多発するようになる。これは溶融ガラスゴブが成形金型内空間の隅々にまで行き渡らない現象である。これはガラス流路金型の入口(A点)と出口(B点)とで断面積が大きく変わらないことで、成形金型内空間への溶融ガラスゴブの流入速度が遅く、かつ流入圧力が低くなるため、溶融ガラスゴブが成形金型内空間を十分に満たすことができなくなることによるものと考えられる。
【0035】
一方、SA/SBが19.7を超えると、製品にクラックや割れが多発するようになる。これは溶融ガラスゴブの流路経路におけるA点の断面積に対して、B点における断面積が著しく小さくなるために、即ち、ガラス流路空間が成形金型に向かって急激に狭まるために、成形金型内空間への溶融ガラスゴブの流入速度が速くなり過ぎ、かつ流入圧力が高くなり過ぎ、成形金型空間内に流入したガラスに大きな圧力がかかって、クラックや割れの発生を引き起こすものと考えられる。
【0036】
図5は、片側がシリンドリカル面であって、その裏側が非球面である車載センシング系用レンズであり、
図6は、3面のうちの1面に3つの球面があって、残り2面がシリンドリカル面であり、3つの面でそれぞれ形状が異なるプロジェクター用レンズであり、
図7は、表面及びその裏面が自由曲面形状の車載前照灯用レンズである。いずれも従来法では成形することができず、特許文献1に示した方法でも成形が難しく、歩留まりよく成形することができなかったが、本発明によると成形精度や生産性にも優れていた。
【符号の説明】
【0037】
1・・・・・本発明のガラス製光学部品の成形用金型の一例である。
2・・・・・胴型
3・・・・・胴型の凹面部
4・・・・・成形金型
4a・・・・成形金型の下型
4b・・・・成形金型の上型
5・・・・・リング型
6・・・・・矢型
9・・・・・成形金型間に形成される空間
12・・・・ガラス流路金型
12a・・・ガラス流路金型の下型
12b・・・ガラス流路金型の上型
13・・・・成形金型とガラス流路金型が一体化した一体化金型
13a・・・一体化金型の下型
13b・・・一体化金型の上型
14・・・・ガラス成形体
15・・・・ガラス製光学部品
【要約】
【課題】プレスされた溶融ガラスゴブが胴型凹面部をせりあがって直接成形金型に注入されるという構造の金型では、成形金型の形状通りのガラス製光学部品が得られる歩留まりや生産性が低いという問題があった。また、成形金型を別の形状に変更した場合、胴型から新たに製作する必要があるなどコスト高となる問題もあった。
【解決手段】胴型とリング型と、溶融ガラスゴブが注入される下型と上型とからなる成形金型とを繋ぐように、胴型に設けられた下型とリング型に設けられた上型とからなるガラス流路金型を形成する。ガラス流路金型の下型は胴型と一体化可能であり、かつ取り外し可能であり、ガラス流路金型の上型はリング型と一体化可能であり、かつ取り外し可能である。またガラス流路金型は成形金型と一体化することもできる。これらにより歩留まりと生産性を格段に向上できる。
【選択図】
図1