(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】遠心ファン、金型、および送風装置
(51)【国際特許分類】
F04D 29/30 20060101AFI20250307BHJP
F04D 25/08 20060101ALI20250307BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20250307BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
F04D29/30 C
F04D29/30 101
F04D25/08 302E
B29C33/42
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2020193551
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】公文 ゆい
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0275922(US,A1)
【文献】国際公開第2015/087909(WO,A1)
【文献】特開2005-155579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16、
17/00-19/02、
21/00-25/16、
29/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気が流出する後縁部と、前記後縁部より回転軸側に位置し空気が流入する前縁部とを有し、前記回転軸の周方向である回転方向に互いに間隔を空けて配置された複数の羽根体を備え、
前記羽根体は
、
前記後縁部側の端部が、厚さが一定の第1板状部
である、第1羽根部と、
前記第1羽根部より前記後縁部側に位置し、前記前縁部側の端部で前記第1板状部に繋がり、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが大きくなる第2羽根部と、
前記第2羽根部より前記後縁部側に位置し、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが小さくなる第3羽根部と、
前記第3羽根部より前記後縁部側に位置し、厚さが一定の第2板状部を含む第4羽根部とを有し、
前記回転軸の軸方向から見た場合に前記回転方向における後側に向けて前記第2羽根部と前記第3羽根部との境界が凸状に湾曲し、
前記羽根体の、前記回転方向における前側に位置する面を第1面とし、前記回転方向における前記前側と反対方向である前記後側に位置する面を第2面としたとき、
前記第2羽根部の前記第1面は曲面であり、
前記第2羽根部における前記第1面及び前記第3羽根部における前記第1面は、前記第1板状部における第1面を延長した平面より前記回転方向における前記前側に位置し、
前記第2羽根部は、
前記第2羽根部の前記前縁部側
の端部に位置
し、前記第1板状部に繋がる第1部分と、
前記第2羽根部の前記後縁部側
の端部に位置
し、前記境界に繋がる第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とを繋ぐ第3部分と、を含み
、
前記第3部分の前記第2面は、前記第3部分の前記第1面よりも曲率の小さい曲面であり、
前記第2部分の前記第2面は、前記第2部分の前記第1面よりも曲率の大きい曲面である、遠心ファン。
【請求項2】
前記第1板状部における前記回転方向の反対側の面に平行な平面は、前記第2板状部における前記回転方向の反対側の面に平行な平面と交差し、
前記第1板状部の回転方向側の面に平行な平面と、前記第2板状部の回転方向側の面に平行な平面との交差部における回転方向側の角度は、80°~110°であり、
前記第1板状部の回転方向の反対側の面に平行な平面と、前記第2板状部の回転方向の反対側の面に平行な平面との交差部における回転方向側の角度は、80°~110°である、請求項1に記載の遠心ファン。
【請求項3】
前記第2羽根部および前記第3羽根部における最大厚さは、前記第1羽根部における最大厚さおよび前記第4羽根部における最大厚さよりも大きい、請求項1または2に記載の遠心ファン。
【請求項4】
前記第2羽根部は、前記第3羽根部に隣接している、請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心ファン。
【請求項5】
前記第1面の前記第2羽根部と前記第3羽根部との境界における曲率は、前記第2面の前記第2羽根部と前記第3羽根部との境界における曲率よりも小さい、請求項4に記載の遠心ファン。
【請求項6】
前記第2羽根部における前記第2面は、前記第1板状部における前記第2面を延長した平面より、前記回転方向における前側に位置する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の遠心ファン。
【請求項7】
前記第3羽根部における前記第2面は、前記第2板状部における前記第2面を延長した平面より、前記回転方向における前側に位置する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の遠心ファン。
【請求項8】
樹脂により形成されている、請求項1から
7のいずれか一項に記載の遠心ファン。
【請求項9】
請求項
8に記載の遠心ファンを成型するための金型。
【請求項10】
請求項1から
8のいずれか一項に記載の遠心ファンと、
前記遠心ファンを回転させる駆動モータとを備える、送風装置。
【請求項11】
空気が流出する後縁部と、前記後縁部より回転軸側に位置し空気が流入する前縁部とを有し、前記回転軸の周方向である回転方向に互いに間隔を空けて配置された複数の羽根体を備え、
前記羽根体は
、
前記後縁部側の端部が、厚さが一定の第1板状部
である、第1羽根部と、
前記第1羽根部より前記後縁部側に位置し、前記前縁部側の端部で前記第1板状部に繋がり、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが大きくなる第2羽根部と、
前記第2羽根部より前記後縁部側に位置し、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが小さくなる第3羽根部と、を有し、
前記回転軸の軸方向から見た場合に前記回転方向における後側に向けて前記第2羽根部と前記第3羽根部との境界が凸状に湾曲し、
前記羽根体の、前記回転方向における前側に位置する面を第1面とし、前記回転方向における前記前側と反対方向である前記後側に位置する面を第2面としたとき、
前記第2羽根部の前記第1面は曲面であり、
前記第2羽根部における前記第1面及び前記第3羽根部における前記第1面は、前記第1板状部における第1面を延長した平面より前記回転方向における前記前側に位置し、
前記第2羽根部は、
前記第2羽根部の前記前縁部側
の端部に位置
し、前記第1板状部に繋がる第1部分と、
前記第2羽根部の前記後縁部側
の端部に位置
し、前記境界に繋がる第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とを繋ぐ第3部分と、を含み
、
前記第3部分の前記第2面は、前記第3部分の前記第1面よりも曲率の小さい曲面であり、
前記第2部分の前記第2面は、前記第2部分の前記第1面よりも曲率の大きい曲面である、遠心ファン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心ファン、金型および送風装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生物のもつ多彩な機能を模倣して利用する技術、いわゆるバイオミメティクス(biomimetics)に注目が集まっている。そして、そのような生体模倣技術を電気製品等に採用するモノづくりの一例としてネイチャーテクノロジー(登録商標)が知られている。
【0003】
一般的な空気調和機では、送風機として、クロスフローファンと称される横断流ファンを用いている。しかしながら、十分な風量を得るためには、送風機として、シロッコファンと称される遠心ファンを用いることが好ましい。
【0004】
遠心ファンは、複数の羽根体が等間隔で円状に並んで設けられ、ファンの回転に伴い、回転中心の近傍から空気が流入し、ファンの外側から空気が流出する。遠心ファンにおいて、空気が流れる流路は、互いに隣り合う羽根体の正圧面と羽根体の負圧面とで形成されている。
【0005】
羽根体に作用している負圧(揚力)が、流路の空気の流れがもつ運動エネルギーに負けると、空気の流れが羽根体の負圧面から剥離し、羽根体としての性能が低下する。
【0006】
特許文献1には、羽根体の流入側の厚さを厚くすることで、揚力の低下を軽減する遠心ファンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来技術では、羽根体の空気流入側の厚さを厚くしているため、流路の入口が狭く、摩擦抵抗が増加し、風量の低下を招き、十分にファンの能力を高めることができないという問題が生じる。
【0009】
本発明の一態様は、ファンとしての能力を十分に発揮できる遠心ファンを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る遠心ファンは、空気が流出する後縁部と、前記後縁部より回転軸側に位置し空気が流入する前縁部とを有し、前記回転軸の周方向である回転方向に互いに間隔を空けて配置された複数の羽根体を備え、前記羽根体は、前記後縁部側の端部が、厚さが一定の第1板状部である、第1羽根部と、前記第1羽根部より前記後縁部側に位置し、前記前縁部側の端部で前記第1板状部に繋がり、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが大きくなる第2羽根部と、前記第2羽根部より前記後縁部側に位置し、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが小さくなる第3羽根部と、前記第3羽根部より前記後縁部側に位置し、厚さが一定の第2板状部を含む第4羽根部とを有し、前記回転軸の軸方向から見た場合に前記回転方向における後側に向けて前記第2羽根部と前記第3羽根部との境界が凸状に湾曲し、前記羽根体の、前記回転方向における前側に位置する面を第1面とし、前記回転方向における前記前側と反対方向である前記後側に位置する面を第2面としたとき、前記第2羽根部の前記第1面は曲面であり、前記第2羽根部における前記第1面及び前記第3羽根部における前記第1面は、前記第1板状部における第1面を延長した平面より前記回転方向における前記前側に位置し、前記第2羽根部は、前記第2羽根部の前記前縁部側の端部に位置し、前記第1板状部に繋がる第1部分と、前記第2羽根部の前記後縁部側の端部に位置し、前記境界に繋がる第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを繋ぐ第3部分と、を含み、前記第3部分の前記第2面は、前記第3部分の前記第1面よりも曲率の小さい曲面であり、前記第2部分の前記第2面は、前記第2部分の前記第1面よりも曲率の大きい曲面である。
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る遠心ファンは、空気が流出する後縁部と、前記後縁部より回転軸側に位置し空気が流入する前縁部とを有し、前記回転軸の周方向である回転方向に互いに間隔を空けて配置された複数の羽根体を備え、前記羽根体は、前記後縁部側の端部が、厚さが一定の第1板状部である、第1羽根部と、前記第1羽根部より前記後縁部側に位置し、前記前縁部側の端部で前記第1板状部に繋がり、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが大きくなる第2羽根部と、前記第2羽根部より前記後縁部側に位置し、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが小さくなる第3羽根部と、を有し、前記回転軸の軸方向から見た場合に前記回転方向における後側に向けて前記第2羽根部と前記第3羽根部との境界が凸状に湾曲し、前記羽根体の、前記回転方向における前側に位置する面を第1面とし、前記回転方向における前記前側と反対方向である前記後側に位置する面を第2面としたとき、前記第2羽根部の前記第1面は曲面であり、前記第2羽根部における前記第1面及び前記第3羽根部における前記第1面は、前記第1板状部における第1面を延長した平面より前記回転方向における前記前側に位置し、前記第2羽根部は、前記第2羽根部の前記前縁部側の端部に位置し、前記第1板状部に繋がる第1部分と、前記第2羽根部の前記後縁部側の端部に位置し、前記境界に繋がる第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを繋ぐ第3部分と、を含み、前記第3部分の前記第2面は、前記第3部分の前記第1面よりも曲率の小さい曲面であり、前記第2部分の前記第2面は、前記第2部分の前記第1面よりも曲率の大きい曲面である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、ファンとしての能力を十分に発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態1に係る遠心ファンの斜視図である。
【
図3】
図2に示す遠心ファンに設けられた一つの羽根体の正面図である。
【
図4】
図3に示す羽根体の形状を特定するための説明図である。
【
図5】
図3に示す羽根体の形状を特定するための説明図である。
【
図6】
図1に示す遠心ファンの空気の流れを示す概略図である。
【
図7】比較例の遠心ファンの空気の流れを示す概略図である。
【
図8】
図1に示す遠心ファンの製造に用いる成型金型の断面図である。
【
図9】
図1に示す遠心ファンを用いた送風機を示す断面図である。
【
図11】
図1に示す遠心ファンを用いた空気清浄機の断面図である。
【
図12】
図1に示す送風ファンを用いた空気調和機を側面方向から見たときの室内機の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0014】
(送風ファンの概要)
図1は、送風ファン10の斜視図、
図2は、送風ファン10の正面図である。
図1に示すように、送風ファン10は、回転軸101に沿って併設された2つの遠心ファン11を含む。なお、2つの遠心ファン11は、何れも同じ構成である。送風ファン10を2つの遠心ファン11で構成するのは、風量を多くするためである。つまり、風量に応じて、遠心ファン11を使用する数を調整すればよい。例えば、エアコンのような大型の空気調和機には2つ以上の遠心ファン11を組み合わせた送風ファンが好適に用いられる。また、エアコンのような大型の空気調和機でなく、小型の空気調和機として例えば空気清浄機であれば、1つの遠心ファン11を備える送風ファンが好適に用いられる。
【0015】
遠心ファン11は、全体として略円筒状の外形を有する。遠心ファン11は、回転方向に互いに間隔を空けて配置された複数の羽根体20を備えている。複数の羽根体20のそれぞれは、空気が流出する後縁部24bと、後縁部24bより回転軸101側に位置し空気が流入する前縁部21bとを有する。遠心ファン11は、樹脂によって一体に形成されている。
【0016】
遠心ファン11は、回転する複数の羽根体20によって、前縁部21bから取り込んだ空気を後縁部24bに送り出す。つまり、遠心ファン11は、遠心力を利用して、回転中心側である前縁部21bから径方向外側である後縁部24bに空気を送り出す。
【0017】
遠心ファン11は、外周枠12およびディスク体13をさらに有している。外周枠12は、回転軸101を中心とする環状に延在して形成されている。ディスク体13は、他方の遠心ファン11との接続部を形成している。従って、外周枠12とディスク体13は、回転軸101の軸方向において距離を隔てて配置されている。
【0018】
複数の羽根体20は、回転軸101を中心とする周方向に互いに間隔を隔てて設けられている。ここでは、複数の羽根体20は、回転軸101を中心とする周方向において等間隔に配置され、回転軸101の軸方向における両端において外周枠12およびディスク体13によって支持されている。羽根体20は、ディスク体13上に立設され、外周枠12に向けて回転軸101の軸方向に沿って延びるように形成されている。
【0019】
(羽根体の詳細)
図3は、遠心ファン11が備える羽根体20の正面図である。
図4は、
図3に示す羽根体20の形状を説明するための部分拡大図である。
図5は、羽根体20の正圧面と負圧面の角度を説明するための正面図である。
【0020】
羽根体20は、
図3に示すように、回転方向(矢印方向)における前側に位置する正圧面20a(第1面)と、回転方向(矢印方向)における後側に位置する負圧面20b(第2面)を有する。
【0021】
羽根体20は、
図4に示すように、流入部11b側端部に前縁部21b、流出部11a側端部に後縁部24bを有する。羽根体20は、第1羽根部21と、第2羽根部22と、第3羽根部23と、第4羽根部24とを有する。第1羽根部21は、前縁部21bおよび厚さが略一定の第1板状部21aを含む。第2羽根部22は、第1羽根部21より後縁部24b側に位置し、後縁部24b側に向かうにつれて厚さが大きくなる。第3羽根部23は、第2羽根部22より後縁部24b側に位置し、後縁部24b側に向かうにつれて厚さが小さくなる。第4羽根部24は、第3羽根部23より後縁部24b側に位置し、後縁部24bおよび厚さが略一定の第2板状部24aを含む。
【0022】
羽根体20を構成する第1羽根部21~第4羽根部24の厚さは、回転軸101に垂直な断面における厚さを示す。例えば、羽根体20の負圧面20b(第2面)のある点における厚さは、当該点から正圧面20a(第1面)までの最短距離である。
【0023】
第2羽根部22および第3羽根部23における最大厚さは、第1羽根部21における最大厚さおよび第4羽根部24における最大厚さよりも大きい。さらに、第2羽根部22および第3羽根部23は、隣接しているので、第2羽根部22と第3羽根部23との境界が羽根体20における最大厚さを有する箇所となる。
【0024】
羽根体20は、回転方向の反対方向に向けて凸状に湾曲している。例えば、正圧面20aは凹面を有し、負圧面20bは凸面を有する。具体的には、第1羽根部21の第1板状部21aおよび第4羽根部24の第2板状部24aは、径方向に対して傾斜している。第1羽根部21の第1板状部21aにおける回転方向の反対側の面に平行な平面X1は、第4羽根部24の第2板状部24aにおける回転方向の反対側の面に平行な平面X2と交差している。
【0025】
正圧面20a(第1面)の第2羽根部22と第3羽根部23との境界B1における曲率は、負圧面20b(第2面)の第2羽根部22と第3羽根部23との境界B2における曲率よりも小さい。例えば、正圧面20aを、第1板状部21a及び第2板状部24aの負圧面20bに重なるよう回転方向の反対方向にオフセットした面よりも、負圧面20bの境界B2は回転方向の反対側に位置する(
図3参照)。
【0026】
このように、羽根体20における、正圧面20aの第2羽根部22と第3羽根部23との境界B1における曲率が、負圧面20bの第2羽根部22と第3羽根部23との境界B2における曲率よりも小さいことで、第2羽根部22と第3羽根部23の厚さを厚くすることが可能となる。
【0027】
羽根体20が湾曲している箇所において、羽根体20の厚さが大きい部分(例えば
図3に示す断面が三角形状の斜線部分)が形成される。これにより、羽根体からの空気の流れの剥離を軽減することができる。
【0028】
例えば、
図5に示すように、正圧面20a(第1面)における、第1板状部21aの回転方向側の面に平行な面X3と、第2板状部24aの回転方向側の面に平行な面X4との交差部における当該正圧面20a側の角度をθ1とする。負圧面20b(第2面)における、第1板状部21aの回転方向と反対側の面に平行な面X1と、第2板状部24aの回転方向と反対側の面に平行な面X2との交差部における当該負圧面20b側の角度をθ2とする。角度θ1,θ2は同程度であってよい。例えば、θ1及びθ2は、80°~110°であってもよい。但し、角度θ1,θ2についてはこれらに限定するものではない。例えば、θ1はθ2より小さくてもよいし、θ1はθ2より大きくてもよい。
【0029】
ここで、羽根体20は、
図4に示すように、第2羽根部22の正圧面20a側は、第1羽根部21の第1板状部21aにおける正圧面20aを延長した平面X3に対して、回転方向逆向きに突出していないことが好ましい。これは、隣接する羽根体20との間に形成される流路において、負圧面20b側の揚力を高めて流れが羽根体20から剥離されるのを抑制するためである。つまり、隣接する羽根体20との間に形成される空気の流路において、第2羽根部22と第3羽根部23との境界の正圧面20aが平面X3に対して回転方向逆向きに突出しないことで、正圧面20a近くでの流速の低下を抑制できる。これにより、正圧面20a近くでの流速は、対向する羽根体20の負圧面20b近くでの流速に等しくなる。これにより、流路内での流速を速めた状態で略一定に保つことができるので、羽根体20に作用している負圧に対して、空気の流れのもつ運動エネルギーが負けるまでの時間的および距離的なマージンを大幅に長くすることが可能となる。よって、空気の流れが羽根体20の負圧面20bから剥離することも抑制され、結果として、羽根体20としての性能が低下することも抑制でき、剥離が抑制されることで騒音が発生することも大幅に抑制することが可能となる。
【0030】
このような効果を奏するために、例えば、第2羽根部22における正圧面20aは、第1板状部21aにおける正圧面20aを延長した平面X3より、回転方向における前側に位置するように、羽根体20は形成されている。
【0031】
また、第2羽根部22における負圧面20bは、第1板状部21aにおける負圧面20bを延長した平面X1より、回転方向における前側に位置するように、羽根体20は形成されている。
【0032】
さらに、第3羽根部23における正圧面20aは、第2板状部24aにおける正圧面20aを延長した平面X4より、回転方向における前側に位置するように、羽根体20は形成されている。
【0033】
また、第3羽根部23における負圧面20bは、第2板状部24aにおける負圧面20bを延長した平面X2より、回転方向における前側に位置するように、羽根体20は形成されている。
【0034】
ただし、羽根体20の構成は、これらに限られない。例えば、第2羽根部22または第3羽根部23における負圧面20bは、平面X1およびX2より回転方向における後側に位置してもよい。例えば、第2羽根部22または第3羽根部23における正圧面20aは、平面X3およびX4より回転方向における後側に位置してもよい。
【0035】
(効果)
図6は、
図1に示す遠心ファン11の空気の流れを示す概略図である。
図7は、比較例の遠心ファンの空気の流れを示す概略図である。
【0036】
図6および
図7に示す何れの流路においても、流路内での流速を、速めた状態で略均一に保つことができるので、羽根体20に作用している負圧に対して、流れのもつ運動エネルギーが負ける(渦が生じる)までの時間的および距離的なマージンを大幅に長くすることが可能となる。
【0037】
しかしながら、
図7に示す羽根体1020では、前縁部1021付近の厚さが厚い。そのため、互いに隣接する羽根体1020によって形成される流路(正圧面1020aと負圧面1020bとの間)の流入口側が狭く、空気が入りにくくなり、空気の摩擦抵抗が増えて、風量が減る。
【0038】
これに対して、
図6に示す羽根体20では、第1板状部21aが存在することにより、第1羽根部21の前縁部21b付近の厚さが小さい。そのため、隣接する羽根体20によって形成される流路(正圧面20aと負圧面20bとの間)の流入部11b側が広く、空気が入り易くなり、空気の摩擦抵抗が減り、風量が増える。
【0039】
したがって、羽根体20を用いた遠心ファン11によれば、空気の流れの剥離を軽減し、且つ、摩擦抵抗を低下させることで、ファンとしての能力を十分に発揮できるという効果を奏する。
【0040】
なお、第2羽根部22および第3羽根部23の間に別の羽根部が存在してもよい。例えば、厚さが略一定の別の羽根部が存在してもよい。また、後縁部24b側に向かうにつれて厚さが小さくなった後厚さが大きくなる別の羽根部が存在してもよい。例えば、別の羽根部の負圧面が平らに近い形状であってもよい。
【0041】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0042】
本実施形態では、前記実施形態1の遠心ファン11の製造時に用いられる成型用金型、遠心ファン11を用いた送風機および空気調和機について説明を行う。
【0043】
(成型用金型)
図8は、遠心ファン11の製造時に用いられる成型用金型110を示す断面図である。成型用金型110は、固定側金型114および可動側金型112を有する。固定側金型114および可動側金型112により、遠心ファン11と略同一形状であるキャビティ116が規定される。キャビティ116に流動性の樹脂が注入されることにより、遠心ファン11が成型される。
【0044】
成型用金型110には、キャビティ116に注入された樹脂の流動性を高めるための図示しないヒータが設けられてもよい。このようなヒータの設置は、たとえば、ガラス繊維入りAS樹脂のような強度を増加させた合成樹脂を用いる場合に特に有効である。
【0045】
以下に、遠心ファン11を用いた送風機、空気調和機について説明する。
【0046】
(送風機)
図9は、遠心ファン11を用いた送風機120を示す断面図である。
図10は、
図9中のA-A線上に沿った送風機120の断面形状を示す断面図である。送風機120(送風装置)は、外装ケーシング126内に、駆動モータ128(
図9)と、遠心ファン11と、ケーシング129とを有する。
【0047】
駆動モータ128の出力軸は、遠心ファン11のボス部16(
図10)に連結されている。ケーシング129は、誘導壁129aを有する。誘導壁129aは、遠心ファン11の外周上に配置される略3/4円弧によって形成されている。誘導壁129aは、羽根体20の回転により発生する気流を羽根体20の回転方向に誘導しつつ、気流の速度を増大させるように形成されている。
【0048】
ケーシング129には、吸い込み部130(
図10)および吹き出し部127が形成されている。吸い込み部130は、回転軸101の延長上に位置して形成されている。吹き出し部127は、誘導壁129aの一部から誘導壁129aの接線方向の一方に開放されて形成されている。吹き出し部127は、誘導壁129aの一部から誘導壁129aの接線方向の一方に突出する角筒形状をなしている。
【0049】
駆動モータ128(
図10)の駆動により、遠心ファン11が矢印103(
図9)に示す方向に回転する。このとき、空気が吸い込み部130からケーシング129内に取り込まれ、遠心ファン11の内周側空間131から外周側空間132へと送り出される。外周側空間132に送り出された空気は、矢印104に示す方向に沿って周方向に流れ、吹き出し部127を通じて外部に送風される。
【0050】
(空気清浄機)
図11は、遠心ファン11を用いた空気調和機としての空気清浄機140を示す断面図である。空気清浄機140(送風装置)は、ハウジング144と、送風機150と、ダクト145と、(HEPA:High Efficiency Particulate Air Filter)フィルタ141とを有する。
【0051】
送風機150は、遠心ファン11、および、回転軸101を中心に遠心ファン11を回転させる駆動モータ151を備える。
【0052】
ハウジング144は、後壁144aおよび天壁144bを有する。ハウジング144には、空気清浄機140が設置された室内の空気を吸い込むための吸い込み口142が形成されている。吸い込み口142は、後壁144aに形成されている。ハウジング144には、さらに、清浄空気を室内に向けて放出する吹き出し口143が形成されている。吹き出し口143は、天壁144bに形成されている。一般的に、空気清浄機140は、後壁144aを室内の壁に対向させるようにして壁際に設置される。
【0053】
フィルタ141は、ハウジング144の内部において、吸い込み口142と向い合って配置されている。吸い込み口142を通じてハウジング144内部に導入された空気は、フィルタ141を通過することによって、異物が除去され、清浄空気とされる。ハウジング144の内部には、吸い込み部153および吹き出し部154が形成される。駆動モータ151は、ハウジング144の内壁152に固定されている。
【0054】
(エアコンの室内機)
図12は、2つの遠心ファン11を有する送風ファン10を用いた空気調和機としてのエアコンの室内機201を示す断面図である。
【0055】
図12に示すように、空気調和機の室内機201(送風装置)は、室内機本体部202と、室内機本体部202の前面に設けられた導風板203と、を備えている。室内機本体部202は、キャビネット230と、送風機213と、熱交換器214と、ドレンパン221と、を備えている。送風機213は、送風ファン10、および、送風ファン10を回転させる駆動モータを備える。
【0056】
室内機本体部202の上部には、第1吸込み口211が設けられている。室内機本体部202の下部には、第2吸込み口212が設けられている。室内機本体部202の前部には、吹出し口217が設けられている。室内機本体部202は、第1吸込み口211の内側(下側)に、第1フィルタ215を有し、第2吸込み口212の内側(上側)に第2フィルタ216を有している。第1フィルタ215は、例えばプレフィルタに相当する機能を有するフィルタであり、第2フィルタ216よりも低性能であり、第2フィルタ216よりも通風抵抗が小さいフィルタである。第2フィルタ216は、例えばHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)であり、第1フィルタ215よりも高性能であり、第1フィルタ215よりも通風抵抗が大きいフィルタである。
【0057】
第1吸込み口211から室内機201に吸い込まれた空気は、第1フィルタ215を経た後、送風ファン10により熱交換器214へ吹き付けられ、吹出し口217から吹き出される。第2吸込み口212から室内機201に吸い込まれた空気は、第2フィルタ216を経た後、送風ファン10により熱交換器214へ吹き付けられ、吹出し口217から吹き出される。
【0058】
第1吸込み口211には、第1吸込み口211を開閉する開閉蓋218が設けられている。開閉蓋218は、キャビネット230の上部に取り付けられている。開閉蓋218は、空調モードで運転する場合に開状態となる。また、開閉蓋218は、空気調和機が停止状態である場合、もしくは、空気調和機を、空気清浄モードで運転する場合に閉状態となる。
【0059】
空調モードは空気清浄機能よりも空気調和機能を優先する場合の空気調和機の運転モードである。空気清浄モードは、空気調和機能よりも空気清浄機能を優先する場合の空気調和機の運転モードである。空調モードでは、空気は、主として第1吸込み口211から吸い込まれる。一方、空気清浄モードでは、空気は、第2吸込み口212のみから吸い込まれる。
【0060】
導風板203は、吹出し口217から吹き出された空気(気流)が、冷房運転では斜め上に向かい、暖房運転では斜め下に向かうように、配置される。
【0061】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る遠心ファンは、空気が流出する後縁部と、前記後縁部より回転軸側に位置し空気が流入する前縁部とを有し、回転方向に互いに間隔を空けて配置された複数の羽根体を備え、前記複数の羽根体のそれぞれは、厚さが略一定の第1板状部を含む第1羽根部と、前記第1羽根部より前記後縁部側に位置し、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが大きくなる第2羽根部と、前記第2羽根部より前記後縁部側に位置し、前記後縁部側に向かうにつれて厚さが小さくなる第3羽根部と、前記第3羽根部より前記後縁部側に位置し、厚さが略一定の第2板状部を含む第4羽根部とを有する。
【0062】
上記の構成によれば、遠心ファンは、第2羽根部及び第3羽根部を有することにより、空気の流れの剥離を軽減することができる。その上、遠心ファンは、第2羽根部に繋がる第1板状部を有することにより、互いに隣接する羽根体の間に形成される流路の流入口の面積を広くすることができる。これにより、空気の流れの剥離を軽減し、且つ、摩擦抵抗を低下させることができ、風量を多くすることができる。それゆえ、遠心ファンは、ファンとしての能力を十分に発揮することができる。
【0063】
本発明の態様2に係る遠心ファンは、上記態様1において、前記複数の羽根体のそれぞれは、前記回転方向の反対方向に向けて凸状に湾曲していてもよい。
【0064】
本発明の態様3に係る遠心ファンは、上記態様1または2において、前記第1板状部における前記回転方向の反対側の面に平行な平面は、前記第2板状部における前記回転方向の反対側の面に平行な平面と交差してもよい。
【0065】
本発明の態様4に係る遠心ファンは、上記態様1から3の何れか1態様において、前記第1板状部および前記第2板状部は、径方向に対して傾斜していてもよい。
【0066】
上記の構成によれば、遠心ファンは、効率よく送風することができる。
【0067】
本発明の態様5に係る遠心ファンは、上記態様1から4の何れか1態様において、前記第2羽根部および前記第3羽根部における最大厚さは、前記第1羽根部における最大厚さおよび前記第4羽根部における最大厚さよりも大きくてもよい。
【0068】
上記の構成によれば、空気の流れの剥離を軽減することができる。
【0069】
本発明の態様6に係る遠心ファンは、上記態様1から5の何れか1態様において、前記第2羽根部は、前記第3羽根部に隣接していてもよい。
【0070】
上記の構成によれば、羽根体が湾曲している箇所において、羽根体の厚さが大きい部分(例えば断面が三角形状の部分)が形成される。これにより、羽根体からの空気の流れの剥離を軽減することができる。
【0071】
本発明の態様7に係る遠心ファンは、上記態様6において、前記複数の羽根体のそれぞれは、前記回転方向における前側に位置する第1面と、前記回転方向における後側に位置する第2面とを有し、前記第1面の前記第2羽根部と前記第3羽根部との境界における曲率は、前記第2面の前記第2羽根部と前記第3羽根部との境界における曲率よりも小さくてもよい。
【0072】
上記の構成によれば、羽根体が湾曲している箇所において、羽根体の厚さが大きい部分(例えば断面が三角形状の部分)が形成される。これにより、羽根体からの空気の流れの剥離を軽減することができる。
【0073】
本発明の態様8に係る遠心ファンは、上記態様1から6の何れか1態様において、前記複数の羽根体のそれぞれは、前記回転方向における前側に位置する第1面を有し、前記第2羽根部における前記第1面は、前記第1板状部における前記第1面を延長した平面より、前記回転方向における前側に位置してもよい。
【0074】
上記の構成によれば、空気の流れに対する摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0075】
本発明の態様9に係る遠心ファンは、上記態様1から6、および8の何れか1態様において、前記複数の羽根体のそれぞれは、前記回転方向における後側に位置する第2面を有し、前記第2羽根部における前記第2面は、前記第1板状部における前記第2面を延長した平面より、前記回転方向における前側に位置してもよい。
【0076】
上記の構成によれば、空気の流れに対する摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0077】
本発明の態様10に係る遠心ファンは、上記態様1から6の何れか1態様において、前記複数の羽根体のそれぞれは、前記回転方向における前側に位置する第1面を有し、前記第3羽根部における前記第1面は、前記第2板状部における前記第1面を延長した平面より、前記回転方向における前側に位置してもよい。
【0078】
上記の構成によれば、空気の流れに対する摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0079】
本発明の態様11に係る遠心ファンは、上記態様1から6、8、および10のいずれか1態様において、前記複数の羽根体のそれぞれは、前記回転方向における後側に位置する第2面を有し、前記第3羽根部における前記第2面は、前記第2板状部における前記第2面を延長した平面より、前記回転方向における前側に位置してもよい。
【0080】
上記の構成によれば、空気の流れに対する摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0081】
本発明の態様12に係る遠心ファンは、上記態様1から11のいずれか1態様において、樹脂により形成されていてもよい。
【0082】
本発明の態様13に係る金型は、上記態様12に記載の遠心ファンを成型する金型である。
【0083】
本発明の態様14に係る送風装置は、上記態様1~12のいずれか1態様に記載の遠心ファンと、前記遠心ファンを回転させる駆動モータとを備える。
【0084】
上記の構成によれば、風量が多く且つ騒音が軽減された送風装置を実現することができる。
【0085】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0086】
なお、本開示は猛禽類の翼に揚力を発生させる翼断面構造に着目した技術的思想を含んでいる。つまり、この発明は、バイオミメティクスに関係するものである。
【符号の説明】
【0087】
10 送風ファン
11 遠心ファン
11a 流出部
11b 流入部
12 外周枠
13 ディスク体
20 羽根体
20a 正圧面(第1面)
20b 負圧面(第2面)
21 第1羽根部
21a 第1板状部
21b 前縁部
22 第2羽根部
23 第3羽根部
24 第4羽根部
24a 第2板状部
24b 後縁部
101 回転軸
110 成型用金型
112 可動側金型
114 固定側金型
116 キャビティ
120、150、213 送風機(送風装置)
126 外装ケーシング
128、151 駆動モータ
129 ケーシング
129a 誘導壁
140 空気清浄機(送風装置)
141 フィルタ
144 ハウジング
145 ダクト
201 室内機(送風装置)
202 室内機本体部
203 導風板
214 熱交換器
215 第1フィルタ
216 第2フィルタ
218 開閉蓋