(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10D 12/00 20250101AFI20250307BHJP
H10D 30/01 20250101ALI20250307BHJP
H10D 30/66 20250101ALI20250307BHJP
【FI】
H10D12/00 101P
H10D30/01 301A
H10D30/66 101T
(21)【出願番号】P 2021203341
(22)【出願日】2021-12-15
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 香次
(72)【発明者】
【氏名】西 康一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 翔瑠
【審査官】戸川 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-176892(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203545(WO,A1)
【文献】特開2001-358154(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135448(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/190579(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10D 12/00
H10D 30/01
H10D 30/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表側の第1主面と裏側の第2主面との間に第1導電型のドリフト層を有する半導体基板と、
前記半導体基板の前記第1主面側に形成された半導体素子構造と、
前記半導体基板の前記第2主面側の表層部に形成された第2導電型の裏面不純物層と、
前記ドリフト層と前記裏面不純物層との間に形成され、
第1導電型の不純物濃度のピークを有し、前記ドリフト層よりも不純物濃度のピークが高い第1導電型の第1バッファ層と、
前記第1バッファ層と前記裏面不純物層との間に形成され、
第1導電型の不純物濃度のピークを有し、前記ドリフト層よりも不純物濃度のピークが高い
第1導電型の第2バッファ層と、
を備え、
前記第2主面からの深さ方向に対する不純物濃度プロファイルにおいて、前記第2バッファ層の不純物濃度のピークの尖度は、前記第1バッファ層の不純物濃度のピークの尖度よりも低
く、
前記第2バッファ層の不純物濃度のピークは、前記第1バッファ層の不純物濃度のピークよりも低い、
半導体装置。
【請求項2】
前記第1バッファ層の不純物濃度のピークおよび前記第2バッファ層の不純物濃度のピークは、前記第2主面から1μm以内の深さにある、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2主面からの深さ方向に対する不純物濃度プロファイルにおいて、前記第2バッファ層の不純物濃度が最大値の95%以上となる領域が100nm以上の幅で存在する、
請求項1
または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ドリフト層と前記第1バッファ層との間に形成され、
第1導電型の不純物濃度のピークを有し、不純物濃度のピークが前記ドリフト層よりも高く前記第1バッファ層および前記第2バッファ層よりも低い第1導電型の第3バッファ層をさらに備える、
請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第3バッファ層は、前記第2主面からの深さが異なる複数の不純物濃度のピークを有する、
請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
表側の第1主面および裏側の第2主面を有する第1導電型の半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板の前記第1主面側に半導体素子構造を形成する工程と、
前記半導体基板の前記第2主面に第1導電型の不純物を注入することで第1バッファ層を形成する工程と、
前記半導体基板の前記第2主面に第1導電型の不純物を注入することで前記第1バッファ層よりも前記第2主面に近い位置に第2バッファ層を形成する工程と、
前記半導体基板の前記第2主面に第2導電型の不純物を注入することで前記半導体基板の前記第2主面側の表層部に第2導電型の裏面不純物層を形成する工程と、
を備え、
前記第1バッファ層の形成工程における不純物の注入は、第1注入量、第1注入角度および第1加速電圧の条件で行われ、
前記第2バッファ層の形成工程における不純物の注入は、第2注入量、第2注入角度および第2加速電圧の条件で行われ、
前記第1注入角度および前記第2注入角度は、前記半導体基板に垂直な方向に対する角度であり、
前記第2注入角度は前記第1注入角度よりも大き
く、
前記第2注入量は前記第1注入量よりも小さい、
半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記第2加速電圧は前記第1加速電圧と同等である、
請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1バッファ層の形成工程における不純物の注入は複数方向から行われる、
請求項6または請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第2バッファ層の形成工程における不純物の注入は複数方向から行われる、
請求項6から
請求項8のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1バッファ層、前記第2バッファ層および前記裏面不純物層の不純物をレーザーの熱で活性化させるレーザーアニールを行う工程をさらに備える
請求項6から
請求項9のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1バッファ層の形成工程および前記第2バッファ層の形成工程の後に行われ、前記第1バッファ層および前記第2バッファ層の不純物をレーザーの熱で活性化させる第1のレーザーアニールを行う工程と、
前記裏面不純物層の形成工程の後に行われ、前記裏面不純物層の不純物をレーザーの熱で活性化させる第2のレーザーアニールを行う工程と、
をさらに備える、
請求項6から
請求項9のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1バッファ層の不純物を活性化させるレーザーアニールは、前記半導体基板を溶融する程度の出力で行われる、
請求項10または
請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記半導体基板の前記第2主面に第1導電型の不純物を注入することで前記第1バッファ層よりも前記第2主面から離れた位置に第3バッファ層を形成する工程を更に備える、
請求項6または請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第3バッファ層の不純物を活性化させるファーネスアニールを行う工程をさらに備える
請求項13に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など電力制御用の半導体装置において、第1導電型のドリフト層と第2導電型のコレクタ層との間に、ドリフト層よりも不純物濃度の高い第1導電型のバッファ層を設けた構造が知られている。例えば、下記の特許文献1には、バッファ層を複数設けることで、コレクタ層側に破損が生じた場合でも、耐圧特性やリーク電流特性への悪影響を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、半導体基板にバッファ層を形成するための不純物を注入する工程を、ドーズ量や加速電圧を変更しながら複数回行うことにより、複数のバッファ層を形成している。この手法では、半導体基板の注入面に異物が存在した場合、その異物がマスクとなって不純物が注入されない未注入領域が発生し、耐圧特性やリーク電流特性への悪影響を十分に抑制できないことがある。
【0005】
本開示は上記のような課題を解決するためになされたものであり、バッファ層を形成するための不純物注入時に半導体基板の注入面に異物が存在した場合でも、不純物が注入されない未注入領域が発生することを抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る半導体装置は、表側の第1主面と裏側の第2主面との間に第1導電型のドリフト層を有する半導体基板と、前記半導体基板の前記第1主面側に形成された半導体素子構造と、前記半導体基板の前記第2主面側の表層部に形成された第2導電型の裏面不純物層と、前記ドリフト層と前記裏面不純物層との間に形成され、第1導電型の不純物濃度のピークを有し、前記ドリフト層よりも不純物濃度のピークが高い第1導電型の第1バッファ層と、前記第1バッファ層と前記裏面不純物層との間に形成され、第1導電型の不純物濃度のピークを有し、前記ドリフト層よりも不純物濃度のピークが高い第1導電型の第2バッファ層と、を備え、前記第2主面からの深さ方向に対する不純物濃度プロファイルにおいて、前記第2バッファ層の不純物濃度のピークの尖度は、前記第1バッファ層の不純物濃度のピークの尖度よりも低く、前記第2バッファ層の不純物濃度のピークは、前記第1バッファ層の不純物濃度のピークよりも低い。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、バッファ層を形成するための不純物注入時に半導体基板の注入面に異物が存在した場合でも、不純物が注入されない未注入領域が発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る半導体装置の構成、特に半導体基板の第2主面側の構成を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る半導体装置における半導体基板の第2主面近傍の不純物濃度プロファイルを示すグラフである。
【
図3】実施の形態1に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】第1バッファ層の形成工程を説明するための図である。
【
図5】第2バッファ層の形成工程を説明するための図である。
【
図6】実施の形態1に係る半導体装置の製造方法の変形例を説明するための図である。
【
図7】実施の形態1に係る半導体装置の製造方法の変形例を示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態2に係る半導体装置の構成、特に半導体基板の第2主面側の構成を示す図である。
【
図9】実施の形態2に係る半導体装置における半導体基板の第2主面近傍の不純物濃度プロファイルを示すグラフである。
【
図10】実施の形態2に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図11】実施の形態2に係る半導体装置の変形例における半導体基板の第2主面近傍の不純物濃度プロファイルを示すグラフである。
【
図12】実施の形態3に係る半導体装置における半導体基板の第2主面近傍の不純物濃度プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係る半導体装置の構成を示す図である。実施の形態1に係る半導体装置は、半導体基板100を用いて形成されている。半導体基板100は、表側の主面である第1主面101と、裏側の主面である第2主面102とを有しており、
図1は、特に半導体基板100の第2主面側の構成を示している。
【0010】
図1では省略されているが、半導体基板100の第1主面101側には、例えばIGBT、RC-IGBT(Reverse Conducting IGBT)、ダイオードなどの半導体素子構造が形成されている。以下の実施の形態では、半導体装置に形成された半導体素子はIGBTであるものと仮定するが、半導体装置はIGBT以外でもよい。また、以下の説明では、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした例を示すが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としてもよい。
【0011】
図1に示すように、半導体基板100の第1主面101と第2主面102との間には、第1導電型のドリフト層1が形成されている。半導体基板100の第2主面102側の表層部には、第2導電型の裏面不純物層であるコレクタ層2が形成されている。また、半導体基板100の第2主面102上には、コレクタ層2に接続する裏面電極であるコレクタ電極4が形成されている。
【0012】
ドリフト層1とコレクタ層2との間には、それぞれドリフト層1よりも不純物濃度のピークが高い第1バッファ層31および第2バッファ層32が形成されている。第2バッファ層32は、第1バッファ層31よりも第2主面102に近い位置に配置されている。すなわち、第2バッファ層32は、第1バッファ層31とコレクタ層2との間に形成されている。
【0013】
第1バッファ層31および第2バッファ層32は、第2主面102からの深さが浅いほど半導体装置の耐圧性能を高くできるため、できる限り浅く形成されることが好ましい。具体的には、第1バッファ層31の不純物濃度のピークおよび第2バッファ層32の不純物濃度のピークは、第2主面102から1μm以内の深さにあることが望ましい。
【0014】
図2は、実施の形態1に係る半導体装置における半導体基板100の第2主面102近傍の不純物濃度プロファイルを示すグラフである。
図2のグラフにおいて、横軸は第2主面102からの深さであり、縦軸は不純物濃度である。すなわち、
図2のグラフは、第2主面102からの深さ方向に対する不純物濃度プロファイルを示している。
【0015】
図2において、実線のグラフは、第1バッファ層31と第2バッファ層32とが重なりあった不純物濃度プロファイル、すなわち、第1バッファ層31の形成工程で注入された不純物と第2バッファ層32の形成工程で注入された不純物とを区別せずに統合した不純物濃度プロファイルである。一方、点線のグラフは、第1バッファ層31の形成工程で注入された不純物のみの不純物濃度プロファイルであり、破線のグラフは、第2バッファ層32の形成工程で注入された不純物のみの不純物濃度プロファイルである。
【0016】
以下、「第1バッファ層31の不純物濃度プロファイル」および「第2バッファ層32の不純物濃度プロファイル」は、第1バッファ層31の形成工程で注入された不純物と第2バッファ層32の形成工程で注入された不純物とを統合した不純物濃度プロファイル(実線のグラフ)を指すものとする。
【0017】
図2に示すように、第2バッファ層32の形成工程で注入された不純物のみの不純物濃度プロファイル(破線のグラフ)は、第1バッファ層31の形成工程で注入された不純物のみの不純物濃度プロファイル(点線のグラフ)よりも半値幅が広い。その結果、第1バッファ層31および第2バッファ層32の第2主面102からの深さ方向に対する不純物濃度プロファイル(実線のグラフ)において、第2バッファ層32の不純物濃度のピークの尖度は、第1バッファ層31の不純物濃度のピークの尖度よりも低くなっている。言い換えれば、第2バッファ層32の不純物濃度のピークの尖度よりも、第1バッファ層31の不純物濃度のピークの方が鋭く尖っている。
【0018】
図3は、実施の形態1に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。以下、
図3を参照しつつ、実施の形態1に係る半導体装置の製造方法を説明する。
【0019】
まず、表側の第1主面101および裏側の第2主面102を有する第1導電型の半導体基板100を準備する(ステップS101)。本実施の形態では、半導体基板100としてシリコン(Si)基板が用いられるものとする。ただし、半導体基板100の材料はシリコンに限られず、例えば炭化珪素(SiC)などのワイドバンドギャップ半導体でもよい。ワイドバンドギャップ半導体を用いた場合、シリコンを用いた従来の半導体装置と比較して、高電圧、大電流、高温での動作に優れた半導体装置が得られる。
【0020】
次に、半導体基板100の第1主面101側にIGBT等の半導体素子構造(不図示)を形成する(ステップS102)。その後、半導体基板100の第2主面102を研磨して、半導体基板100を所望の厚みにする(ステップS103)。
【0021】
次に、半導体基板100の第2主面102に第1導電型の不純物を注入することで第1バッファ層31を形成する(ステップS104)。さらに、半導体基板100の第2主面102に第1導電型の不純物を注入することで第1バッファ層31よりも第2主面102に近い位置に第2バッファ層32を形成する(ステップS105)。そして、第1バッファ層31および第2バッファ層32の不純物をレーザーの熱で活性化させる第1のレーザーアニールとしてのレーザーアニールを行う(ステップS106)。
【0022】
本実施の形態では、第1バッファ層31および第2バッファ層32を形成するための不純物としてリン(P)を用いるが、ヒ素(As)、セレン(Se)などでもよい。また、炭化珪素からなる半導体基板100が用いられる場合、第1バッファ層31および第2バッファ層32を形成するための不純物としては窒素(N)を用いるとよい。
【0023】
ここで、第1バッファ層31の形成工程における不純物の注入条件である注入量、注入角度および加速電圧を、それぞれ第1注入量、第1注入角度および第1加速電圧とする。また、第2バッファ層32の形成工程における不純物の注入条件である注入量、注入角度および加速電圧を、それぞれ第2注入量、第2注入角度および第2加速電圧とする。
【0024】
本実施の形態では、第2注入角度が第1注入角度よりも大きく設定される。例えば、第1注入角度が5°程度、第2注入角度が30°以上60°以下に設定される。これにより、
図2に示したように、第2バッファ層32の形成工程で注入された不純物のみの不純物濃度プロファイルの半値幅が、第1バッファ層31の形成工程で注入された不純物のみの不純物濃度プロファイルの半値幅よりも広くなる。その結果、第1バッファ層31および第2バッファ層32の不純物濃度プロファイルにおいて、第2バッファ層32の不純物濃度のピークの尖度は、第1バッファ層31の不純物濃度のピークの尖度よりも低くなる。
【0025】
次に、半導体基板100の第2主面102に第2導電型の不純物を注入することで、半導体基板100の第2主面102側の表層部に裏面不純物層であるコレクタ層2を形成する(ステップS107)。そして、コレクタ層2の不純物をレーザーの熱で活性化させる第2のレーザーアニールとしてのレーザーアニールを行う(ステップS108)。コレクタ層2を形成するための不純物としては、例えばボロン(B)などを用いることができる。
【0026】
最後に、半導体基板100の第2主面102上に裏面電極であるコレクタ電極4を形成する(ステップS109)。それにより、
図1に示した構造の半導体装置が得られる。
【0027】
ここで、第1バッファ層31および第2バッファ層32を形成するための不純物注入時に注入面である第2主面102上に異物が存在した場合を想定する。第1バッファ層31の形成工程では、
図4のように比較的小さい第1注入角度θ1で不純物が注入されるため、異物のほぼ真下の位置に未注入領域が発生する。一方、第2バッファ層32の形成工程では、
図5のように比較的大きい第2注入角度θ2で不純物が注入されるため、異物からずれた位置(第1バッファ層31の未注入領域からずれた位置)に未注入領域が発生する。このように、異物によって第1バッファ層31と第2バッファ層32との両方に未注入領域が形成されたとしても、第1バッファ層31の未注入領域と第2バッファ層32の未注入領域とは互いにずれた位置となるため、第1バッファ層31および第2バッファ層32を貫通するような未注入領域は発生しにくい。よって、耐圧特性やリーク電流特性を安定させることができる。
【0028】
第1バッファ層31の形成工程における不純物の注入量である第1注入量と、第2バッファ層32の形成工程における不純物の注入量である第2注入量とは同等でよい。つまり、第1バッファ層31の形成工程と第2バッファ層32の形成工程とは、不純物の注入量の設定を変えずに行ってもよい。その場合、比較的大きい第2注入角度で不純物が注入される第2バッファ層32では、注入深さのばらつきが大きくなるため、
図2のように、第2バッファ層32の不純物濃度のピークは、第1バッファ層31の不純物濃度のピークよりも低くなる。
【0029】
また、第2バッファ層32はコレクタ層2に接しており、条件によっては第2バッファ層32の不純物がコレクタ層2の不純物の濃度を実質的に下げるように働き、半導体装置のオン電圧の上昇や短絡時のホール注入量低下などの問題の原因となり得る。これを防止するために、第2注入量を第1注入量よりも小さくしてもよい。
【0030】
第1バッファ層31の形成工程における不純物注入の加速電圧である第1加速電圧と、第2バッファ層32の形成工程における不純物注入の加速電圧である第2加速電圧とは同等でよい。つまり、第1バッファ層31の形成工程と第2バッファ層32の形成工程とは、不純物注入の加速度電圧の設定を変えずに行ってもよい。その場合でも、比較的大きい第2注入角度で不純物が注入される第2バッファ層32は浅く形成されるため、
図2のように、第2バッファ層32の不純物濃度のピークは、第1バッファ層31の不純物濃度のピークよりも第2主面102に近い位置になる。不純物注入の加速電圧を変えることで第1バッファ層31と第2バッファ層32とを異なる深さに形成するのに比べ、高い生産性が得られる。
【0031】
第1バッファ層31の形成工程における不純物の注入は、複数方向から行われてもよい。同様に、第2バッファ層32の形成工程における不純物の注入は、複数方向から行われてもよい。具体的には、第1バッファ層31の形成工程または第2バッファ層32の形成工程において、
図6のように、半導体基板100のウエハの回転角θ3を変化させながら、不純物の注入を複数回行ってもよい。例えば、回転角θ3を0°、90°、180°、270°に設定して4回の不純物注入を行ってもよい。これにより、未注入領域の発生がさらに抑制される。
【0032】
また、
図3に示したフローチャートには、第1バッファ層31および第2バッファ層32を形成した後に、第1バッファ層31および第2バッファ層32の不純物を活性化させるレーザーアニールを行い(ステップS106)、コレクタ層2を形成した後に、コレクタ層2の不純物を活性化させるレーザーアニールを行う(ステップS108)例を示した。しかし、第1バッファ層31、第2バッファ層32およびコレクタ層2の全てが形成された後に、第1バッファ層31、第2バッファ層32およびコレクタ層2の不純物を活性化するレーザーアニールをまとめて行ってもよい。その場合のフローチャートを
図7に示す。
図7のフローチャートは、
図3のフローチャートに対し、ステップS106を省略するとともに、ステップS108をステップS110に置き換えたものである。ステップS110では、第1バッファ層31、第2バッファ層32およびコレクタ層2の不純物を活性化するレーザーアニールをまとめて行う。その他のステップは
図3と同一であるため、ここでの説明は省略する。
【0033】
<実施の形態2>
図8は、実施の形態2に係る半導体装置の構成を示す図であり、特に半導体基板100の第2主面側の構成を示している。実施の形態2に係る半導体装置は、実施の形態1の構成に対し、ドリフト層1と第1バッファ層31との間、つまり第1バッファ層31よりも第2主面102から離れた位置に、第1導電型の第3バッファ層33を追加したものである。その他の要素は、基本的に実施の形態1と同様である。
【0034】
図9は、実施の形態2に係る半導体装置における半導体基板100の第2主面102近傍の不純物濃度プロファイルを示すグラフであり、第2主面102からの深さ方向に対する不純物濃度プロファイルを示している。
図9に示すように、第3バッファ層33の不純物濃度のピークは、ドリフト層1の不純物濃度のピークよりも高く、第1バッファ層31および第2バッファ層32の不純物濃度のピークよりも低い。
【0035】
第3バッファ層33が設けられることで、ドリフト層1よりもコレクタ層2側の構造に生じた破損(未注入領域など)による耐圧特性やリーク電圧特性への悪影響を、実施の形態1の場合よりも抑制することができる。さらに、半導体装置のスイッチング動作時に空乏層の拡がりを緩やかに止めることができ、半導体装置に印加される電圧の跳ね上がりや発振を抑制することができる。
【0036】
図10は、実施の形態2に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
図10のフローチャートは、
図3のフローチャートに対し、ステップS105の後にステップS111を追加し、ステップS108の後にステップS112を追加したものである。
【0037】
ステップS111では、半導体基板100の第2主面102に第1導電型の不純物を注入することで第1バッファ層31よりも第2主面102から離れた位置に第3バッファ層33を形成する。ステップS112では、第3バッファ層33の不純物を活性化させるファーネスアニールを行う。本実施の形態では、第3バッファ層33を形成するための不純物としてプロトンを用い、それを活性化させるファーネスアニールの温度を400℃程度とする。その他のステップは
図3と同一であるため、ここでの説明は省略する。
【0038】
なお、本実施の形態においても、
図7のフローと同様に、第1バッファ層31、第2バッファ層32およびコレクタ層2の不純物を活性化するレーザーアニールを、第1バッファ層31、第2バッファ層32およびコレクタ層2の全てが形成された後にまとめて行ってもよい。
【0039】
図9には、第3バッファ層33の不純物濃度プロファイルが単一のピークを有する例を示したが、
図11のように、第3バッファ層33の不純物濃度プロファイルが第2主面102からの深さが異なる複数のピークを有してもよい。
【0040】
<実施の形態3>
図12は、実施の形態3に係る半導体装置における半導体基板の第2主面近傍の不純物濃度プロファイルを示すグラフであり、第2主面102からの深さ方向に対する不純物濃度プロファイルを示している。実施の形態3に係る半導体装置の構成、特に半導体基板の第2主面側の構成は、
図1と同様であり、ドリフト層1とコレクタ層2との間に、第1バッファ層31および第2バッファ層32が形成されている。
【0041】
図12に示すように、第2バッファ層32は、第1バッファ層31とコレクタ層2との間に位置し、第1バッファ層31および第2バッファ層32の第2主面102からの深さ方向に対する不純物濃度プロファイルにおいて、第2バッファ層32の不純物濃度のピークの尖度は、第1バッファ層31の不純物濃度のピークの尖度よりも低くなっている。また、第2バッファ層32は、第1バッファ層31よりも不純物濃度のピークが低く、第2バッファ層32の不純物濃度プロファイルには、ピーク近傍に、第2バッファ層32の不純物濃度が最大値の95%以上となる平坦な領域が100nm以上の幅で存在する。
【0042】
第2バッファ層32の不純物濃度プロファイルがピーク近傍に平坦な領域を有することで、半導体装置のスイッチング動作時に空乏層の拡がりがより止まりやすくなるため、安定した耐圧特性およびリーク電流特性が得られる。
【0043】
実施の形態3に係る半導体装置の製造方法は、基本的に実施の形態1で示した製造方法と同様でよく、第1バッファ層31の不純物を活性化させるレーザーアニールを、半導体基板100を溶融する程度の出力で行うことで、所望の不純物濃度プロファイルが得られる。
【0044】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 ドリフト層、2 コレクタ層、31 第1バッファ層、32 第2バッファ層、33 第3バッファ層、4 コレクタ電極、100 半導体基板、101 第1主面、102 第2主面。