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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】電動作業車
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20250307BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20250307BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20250307BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250307BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20250307BHJP
   B60L 58/24 20190101ALI20250307BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60K1/04 Z
B60L1/00 L
B60L50/60
B60L58/12
B60L58/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021213174
(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公開番号】P2023097046
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 竣也
(72)【発明者】
【氏名】山中 之史
(72)【発明者】
【氏名】丹波 大樹
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-087602(JP,A)
【文献】特開2013-133060(JP,A)
【文献】特開2015-091147(JP,A)
【文献】特開2013-001228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00-6/12
7/00-8/00
16/00
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に搭載されるバッテリと、
前記バッテリの出力に基づく直流電力を交流電力に変換するインバータと、
前記インバータにより変換された前記交流電力により駆動するモータと、
前記モータの回転数を示す回転数情報を取得する回転数情報取得部と、
前記モータにより駆動される走行装置と、
前記モータに要求する要求回転数を変更する操作具と、
前記回転数情報と前記要求回転数とに応じて前記インバータを駆動して、前記モータを流れる電流を制御する制御部と、
前記バッテリの出力電圧の電圧値を、前記制御部に対して電源として印加可能な電圧値に変換するDC/DCコンバータと、
前記インバータの温度を示すインバータ温度情報、前記モータの温度を示すモータ温度情報、及び前記DC/DCコンバータの温度を示すコンバータ温度情報を取得する温度情報取得部と、
前記バッテリの蓄電量を示す蓄電量情報及び前記バッテリの温度を示すバッテリ温度情報の少なくともいずれか一方を取得するバッテリ情報取得部と、
前記インバータの温度が予め設定された温度より高い場合に、前記モータを流れる電流を制限する電流制限部と、を備え、
前記制御部は、前記インバータの温度、前記モータの温度、及び前記DC/DCコンバータの温度のうち、少なくともいずれか一つが予め設定された温度より高い場合に、前記モータを流れる電流を制限し、
前記制御部は、前記バッテリの蓄電量が予め設定された蓄電量よりも少ない場合及び前記バッテリの温度が予め設定された温度よりも高い場合の少なくともいずれか一方の場合に、前記モータを流れる電流を制限し、
前記インバータは、前記バッテリ及び前記モータと隣り合う位置に配置されている電動作業車。
【請求項2】
前記インバータ温度情報、前記モータ温度情報、及び前記コンバータ温度情報に基づいて、前記インバータ、前記モータ、及び前記DC/DCコンバータの夫々の異常の度合いを算定する異常度算定部を備え、
前記モータを流れる電流は、前記異常の度合いが大きい程、大きく制限される請求項1に記載の電動作業車。
【請求項3】
前記インバータ、前記モータ、及び前記DC/DCコンバータを冷却する冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得する冷媒温度情報取得部を備え、
前記制御部は、前記冷媒の温度が予め設定された温度より高い場合に、前記モータを流れる電流を制限する請求項1又は2に記載の電動作業車。
【請求項4】
前記モータの電流が制限された場合に、当該モータの電流を制限することになった理由を報知する報知部を備える請求項1からのいずれか一項に記載の電動作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーで走行する電動作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気エネルギーを動力源として走行する電動作業車が利用されてきた。このような電動作業車として、例えば下記に出典を示す特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1には、バッテリと、当該バッテリから供給される電力により駆動するモータと、当該モータにより駆動される走行装置と、モータの駆動状態を制御するモータコントローラと、モータの目標速度を設定して、モータコントローラに制御信号を指令してモータの作動を制御する制御装置とを備えた電動作業車について記載されている。モータコントローラには、モータを流れる電流を制御するインバータが備えられる。制御装置にはバッテリの電圧をDC/DCコンバータにより降圧した電圧が電源として供給され、インバータを制御してモータを駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-1228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、モータを流れる電流が増大すればモータが発熱するが、モータを流れる電流の増大に伴ってインバータを流れる電流も増大し、インバータも発熱する。また、DC/DCコンバータも負荷電流に応じて発熱するが、インバータ、モータ、及びDC/DCコンバータの配置状況によっては、DC/DCコンバータがインバータやモータから熱を受け、DC/DCコンバータの温度が更に上昇する。インバータや、モータや、DC/DCコンバータにおける過度の発熱は、劣化の原因となることから、発熱の状況に応じてインバータや、モータや、DC/DCコンバータを駆動することが望ましい。
【0006】
そこで、インバータや、モータや、DC/DCコンバータの発熱状況に応じて、モータを流れる電流を抑制することが可能な電動作業車が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電動作業車の特徴構成は、機体に搭載されるバッテリと、前記バッテリの出力に基づく直流電力を交流電力に変換するインバータと、前記インバータにより変換された前記交流電力により駆動するモータと、前記モータの回転数を示す回転数情報を取得する回転数情報取得部と、前記モータにより駆動される走行装置と、前記モータに要求する要求回転数を変更する操作具と、前記回転数情報と前記要求回転数とに応じて前記インバータを駆動して、前記モータを流れる電流を制御する制御部と、前記バッテリの出力電圧の電圧値を、前記制御部に対して電源として印加可能な電圧値に変換するDC/DCコンバータと、前記インバータの温度を示すインバータ温度情報、前記モータの温度を示すモータ温度情報、及び前記DC/DCコンバータの温度を示すコンバータ温度情報を取得する温度情報取得部と、前記バッテリの蓄電量を示す蓄電量情報及び前記バッテリの温度を示すバッテリ温度情報の少なくともいずれか一方を取得するバッテリ情報取得部と、前記インバータの温度が予め設定された温度より高い場合に、前記モータを流れる電流を制限する電流制限部と、を備え、前記制御部は、前記インバータの温度、前記モータの温度、及び前記DC/DCコンバータの温度のうち、少なくともいずれか一つが予め設定された温度より高い場合に、前記モータを流れる電流を制限し、前記制御部は、前記バッテリの蓄電量が予め設定された蓄電量よりも少ない場合及び前記バッテリの温度が予め設定された温度よりも高い場合の少なくともいずれか一方の場合に、前記モータを流れる電流を制限し、前記インバータは、前記バッテリ及び前記モータと隣り合う位置に配置されている点にある。
【0008】
このような特徴構成とすれば、インバータの温度、モータの温度、及びDC/DCコンバータの温度のうち、少なくともいずれか一つが予め設定された温度より高い場合に、モータを流れる電流が制限されるので、インバータや、モータや、DC/DCコンバータの発熱状況に応じて、モータを流れる電流を抑制することが可能な電動作業車を実現できる。したがって、インバータや、モータや、DC/DCコンバータの劣化を抑制することが可能となる。
【0009】
【0010】
バッテリの蓄電量が少なくなるとバッテリの出力電圧が低下する。また、バッテリの温度が高くなるとバッテリの蓄電能力が低下し、この場合にもバッテリの出力電圧が低下する。バッテリの出力電圧の低下時に、モータから所期の出力トルクを得たい場合には、モータを流れる電流が増大する。このため、バッテリの蓄電量の低下やバッテリの温度上昇に伴ってインバータやモータの温度上昇が増大する。そこで、上記のように、バッテリの蓄電量が少ない場合やバッテリの温度が高くなった場合に、モータを流れる電流を制限することで、モータの出力トルクを規制して、インバータやモータの発熱を抑制することが可能となる。また、例えばモータの出力トルクを規制することでバッテリの電力使用量を低減できるので、バッテリの残りの電力で電動作業車が走行できる距離を延ばすことも可能となる。
【0011】
また、前記電動作業車は、前記インバータ温度情報、前記モータ温度情報、及び前記コンバータ温度情報に基づいて、前記インバータ、前記モータ、及び前記DC/DCコンバータの夫々の異常の度合いを算定する異常度算定部を備え、前記モータを流れる電流は、前記異常の度合いが大きい程、大きく制限されると好適である。
【0012】
このような構成とすれば、インバータの温度、モータの温度、及びDC/DCコンバータの温度のいずれかについて、異常の度合いが大きい場合にモータを流れる電流を大きく制限することができる。したがって、インバータ、モータ、及びDC/DCコンバータのうち、異常の度合いが大きいものの発熱をより低減することが可能となる。
【0013】
また、前記電動作業車は、前記インバータ、前記モータ、及び前記DC/DCコンバータを冷却する冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得する冷媒温度情報取得部を備え、前記制御部は、前記冷媒の温度が予め設定された温度より高い場合に、前記モータを流れる電流を制限すると好適である。
【0014】
電動作業車には、インバータやモータやDC/DCコンバータを冷却するために冷媒を循環させる冷却システムが備えられている場合がある。そこで、このような構成とすれば、インバータの温度、モータの温度、及びDC/DCコンバータの温度だけでなく、インバータ、モータ、及びDC/DCコンバータを冷却する冷媒の温度に基づいて、インバータ、モータ、及びDC/DCコンバータの発熱量を推定し、推定した発熱量に基づいてモータを流れる電流を制限することが可能となる。
【0015】
また、前記電動作業車は、前記モータの電流が制限された場合に、当該モータの電流を制限することになった理由を報知する報知部を備えると好適である。
【0016】
このような構成とすれば、モータの電流が制限された理由をオペレータに把握させることができる。これにより、オペレータに対して、例えばモータを流れる電流の増大を抑制させるような運転を促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】トラクタの左側面図である。
図2】インバータ等の配置を示す左側面図である。
図3】動力伝達の流れを示す図である。
図4】モータの駆動を行う機能部の説明図である。
図5】操作具の操作量とモータに対する要求回転数との関係を示す図である。
図6】異常の度合いと電流制限レベルとの関係を示す図である。
図7】制限部及び電流制限部による電流制限についての説明図である。
図8】モータのトルクカーブの一例である。
図9】報知部による報知例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る電動作業車は、インバータや、モータや、DC/DCコンバータの発熱状況に応じて、モータを流れる電流を抑制するように構成される。以下、本実施形態の電動作業車について説明する。尚、以下では、電動作業車がトラクタである場合の例を挙げて説明する。
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面に基づき説明する。尚、以下の説明においては、特に断りがない限り、図中の矢印Fの方向を「前」、矢印Bの方向を「後」とする。また、図中の矢印Uの方向を「上」、矢印Dの方向を「下」とする。
【0020】
〔トラクタの全体構成〕
以下では、本実施形態のトラクタについて説明する。図1に示すように、トラクタは、左右の前車輪10、左右の後車輪11、カバー部材12を備えている。
【0021】
また、トラクタは、機体フレーム2及び運転部3を備えている。機体フレーム2は、左右の前車輪10及び左右の後車輪11に支持されている。
【0022】
カバー部材12は、機体前部に配置されている。そして、運転部3は、カバー部材12の後方に設けられている。言い換えれば、カバー部材12は、運転部3の前方に配置されている。
【0023】
運転部3は、保護フレーム30、運転座席31、ステアリングホイール32を有している。オペレータは、運転座席31に着座可能である。これにより、オペレータは、運転部3に搭乗可能である。ステアリングホイール32の操作によって、左右の前車輪10は操向操作される。オペレータは、運転部3において、各種の運転操作を行うことができる。
【0024】
トラクタは、走行用バッテリ4を備えている。また、カバー部材12は、機体左右方向に沿う開閉軸芯Q周りに揺動可能に構成されている。これにより、カバー部材12は、開閉可能に構成されている。カバー部材12が閉状態であるとき、走行用バッテリ4は、カバー部材12に覆われている。
【0025】
図2に示すように、トラクタは、インバータ14及びモータMを備えている。走行用バッテリ4は、インバータ14へ電力を供給する。インバータ14は、走行用バッテリ4からの直流電力を交流電力に変換してモータMへ供給する。そして、モータMは、インバータ14から供給される交流電力により駆動する。
【0026】
図2及び図3に示すように、トラクタは、静油圧式無段変速機15及びトランスミッション16を備えている。図3に示すように、静油圧式無段変速機15は、油圧ポンプ15a及び油圧モータ15bを有している。
【0027】
油圧ポンプ15aは、モータMからの回転動力により駆動する。油圧ポンプ15aが駆動することにより、油圧モータ15bから回転動力が出力される。尚、静油圧式無段変速機15は、油圧ポンプ15aと油圧モータ15bとの間で回転動力が変速されるように構成されている。また、静油圧式無段変速機15は、変速比を無段階に変更可能に構成されている。
【0028】
油圧モータ15bから出力された回転動力は、トランスミッション16に伝達される。トランスミッション16に伝達された回転動力は、トランスミッション16の有するギヤ式変速機構によって変速され、左右の前車輪10及び左右の後車輪11へ分配される。これにより、左右の前車輪10及び左右の後車輪11が駆動する。
【0029】
また、図2及び図3に示すように、トラクタは、ミッドPTO軸17及びリヤPTO軸18を備えている。モータMから出力された回転動力は、油圧ポンプ15a、ミッドPTO軸17、リヤPTO軸18へ分配される。これにより、ミッドPTO軸17及びリヤPTO軸18が回転する。
【0030】
ミッドPTO軸17またはリヤPTO軸18に作業装置が接続されていれば、ミッドPTO軸17またはリヤPTO軸18の回転動力により、作業装置が駆動することとなる。例えば、図2に示すように、本実施形態では、ミッドPTO軸17に草刈装置19が接続されている。ミッドPTO軸17の回転動力により、草刈装置19が駆動する。
【0031】
〔モータの制御〕
図4は、モータMの駆動にかかる機能部を示すブロック図である。図4のブロック図には、バッテリ(走行用バッテリ)4、インバータ14、モータM、回転数情報取得部41、走行装置42、操作具43、制御部44、報知部57、DC/DCコンバータ71、温度情報取得部72、電流制限部73、バッテリ情報取得部74、異常度算定部75、冷媒温度情報取得部76、ポンプ81、ラジエータ82、ファン83、ファン制御部84が示される。各機能部は、モータMの駆動を行うために、CPUを中核部材としてハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0032】
バッテリ4は、上述したようにカバー部材12に覆われた状態で、機体に搭載される。また、バッテリ4に蓄えられた電気エネルギーは、モータMの駆動に利用される。
【0033】
インバータ14は、バッテリ4の出力に基づく直流電力を交流電力に変換する。バッテリ4の出力とは、バッテリ4から出力される直流電圧及び直流電流である。したがって、バッテリ4の出力に基づく直流電力とは、バッテリ4から出力される直流電圧及び直流電流からなる直流電力が相当する。
【0034】
本実施形態では、インバータ14は、第1の電源ラインL1と第2の電源ラインL2との間に設けられた、第1のスイッチング素子Q1と第2のスイッチング素子Q2とが直列に接続された3本のアーム部Aを有して構成される。第1の電源ラインL1とは、バッテリ4の2つの出力端子のうちの正端子に接続される電源ラインであって、第2の電源ラインL2とは、バッテリ4の2つの出力端子のうちの負端子に接続される電源ラインである。インバータ14は、この第1の電源ラインL1と第2の電源ラインL2との間に、3本のアーム部Aを設けている。以下では、3本のアーム部Aの夫々を区別する場合には、夫々、アーム部A1、アーム部A2、アーム部A3として示す。本実施形態では、第1のスイッチング素子Q1及び第2のスイッチング素子Q2は、共に、P型のIGBTが用いられる。第1のスイッチング素子Q1のコレクタ端子が第1の電源ラインL1に接続され、第1のスイッチング素子Q1のエミッタ端子と第2のスイッチング素子Q2のコレクタ端子とが接続される。また、第2のスイッチング素子Q2のエミッタ端子は、第2の電源ラインL2に接続される。第1のスイッチング素子Q1のエミッタ端子とコレクタ端子との間には、アノード端子がエミッタ端子に接続され、カソード端子がコレクタ端子に接続されたダイオードD1が設けられる。また、第2のスイッチング素子Q2のエミッタ端子とコレクタ端子との間には、アノード端子がエミッタ端子に接続され、カソード端子がコレクタ端子に接続されたダイオードD2が設けられる。第1のスイッチング素子Q1及び第2のスイッチング素子Q2の夫々のゲート端子は、後述する制御部44に接続される。インバータ14は、制御部44により、3つのアーム部Aにおける1つのアーム部Aの第1のスイッチング素子Q1と、他の2つのアーム部Aのうちの一方のアーム部Aの第2のスイッチング素子Q2とがPWM制御により通電される。これにより、バッテリ4の直流電力は、PWM制御信号の周波数に応じた交流電力に変換される。
【0035】
モータMは、インバータ14により変換された交流電力により駆動する。モータMの3つの端子は、夫々、アーム部A1における第1のスイッチング素子Q1と第2のスイッチング素子Q2とが接続される第1のノードn1と、アーム部A2における第1のスイッチング素子Q1と第2のスイッチング素子Q2とが接続される第2のノードn2と、アーム部A3における第1のスイッチング素子Q1と第2のスイッチング素子Q2とが接続される第3のノードn3とに接続される。アーム部A1における第1のスイッチング素子Q1と第2のスイッチング素子Q2とが接続される第1のノードn1とは、アーム部A1を構成する第1のスイッチング素子Q1のエミッタ端子と第2のスイッチング素子Q2のコレクタ端子とが接続される部分である。アーム部A2における第1のスイッチング素子Q1と第2のスイッチング素子Q2とが接続される第2のノードn2とは、アーム部A2を構成する第1のスイッチング素子Q1のエミッタ端子と第2のスイッチング素子Q2のコレクタ端子とが接続される部分である。アーム部A3における第1のスイッチング素子Q1と第2のスイッチング素子Q2とが接続される第3のノードn3とは、アーム部A3を構成する第1のスイッチング素子Q1のエミッタ端子と第2のスイッチング素子Q2のコレクタ端子とが接続される部分である。図4では、モータMのコイルはデルタ結線で構成されている場合の例を挙げているが、モータMのコイルはスター結線で構成されていても良い。
【0036】
回転数情報取得部41は、モータMの回転数を示す回転数情報を取得する。モータMの回転数とは、モータMが有するロータの回転数である。このような回転数は、例えばホール素子を有する回転センサ41Aを用いて検出することが可能である。また、回転センサ41Aに代えて、モータMを流れる電流の大きさに基づき、モータMの回転数を算定することも可能である。この場合には、電流センサ(図示しない)の検出結果に基づき算定すると良い。回転センサ41AによるモータMの回転数の検出結果は、回転数情報として回転数情報取得部41に伝達される。
【0037】
走行装置42は、モータMにより駆動される。本実施形態では、走行装置42とは、上述した静油圧式無段変速機15、トランスミッション16、左右の前車輪10、及び左右の後車輪11の総称である。上述したように、モータMの回転動力が、静油圧式無段変速機15を介して、トランスミッション16に伝達される。トランスミッション16に伝達された回転動力は、トランスミッション16が有するギヤ式変速機構によって変速され、左右の前車輪10及び左右の後車輪11へ分配される。これにより、上述したように、左右の前車輪10及び左右の後車輪11が駆動され、トラクタが走行可能となる。
【0038】
操作具43は、モータMに要求する要求回転数を変更する。モータMに要求する要求回転数とは、オペレータがモータMから出力してほしい回転動力の回転数の指令値、所謂、指令回転数にあたる。本実施形態では、操作具43は、運転座席31の側部において、前後方向に揺動可能に構成されたレバーが相当する。操作具43を、前方側へ傾倒するように操作される程、要求回転数が増大して、モータMが高速で回転するように構成されており、操作された位置で安定的に位置保持されるように構成されている。図5には、操作具43の操作量とモータMに対する要求回転数との関係が示される。図5では、縦軸がモータMに要求される要求回転数であり、横軸が操作具43の操作量である。図5の例では、操作量が10〔%〕の時の要求回転数がN1〔rpm〕であり、操作量が90〔%〕の時の要求回転数がN2〔rpm〕である。操作量が10〔%〕から90〔%〕までの間は、要求回転数は操作量に比例するように設定されている。なお、操作量は%で示されているが、これは、操作具43が最も手前側にある状態が0〔%〕であり、最も前方側へ傾倒した状態が100〔%〕である。また、詳細は後述するが、本例では、操作量が10〔%〕未満では、要求回転数が0〔rpm〕となり、操作量が90〔%〕以上では、要求回転数がN2〔rpm〕となるように構成されている。本例では、このような関係に基づき、操作具43の操作量に応じて、モータMの要求回転数を設定することが可能となる。
【0039】
図4に戻り、本実施形態では、操作具43の操作量、すなわち上記前後方向における位置は、位置検出部43Aにより検出される。したがって、位置検出部43Aにより検出された操作具43の位置により、モータMに要求された要求回転数を特定することが可能となる。
【0040】
制御部44は、回転数情報と要求回転数とに応じてインバータ14を駆動して、モータMを流れる電流を制御する。回転数情報は、回転数情報取得部41から制御部44に伝達される。要求回転数は、位置検出部43Aから操作具43の位置の検出結果が伝達され、この検出結果に基づき特定可能である。モータMを流れる電流とは、インバータ14から出力された電流であって、モータMのコイルに流れる電流である。したがって、制御部44は、回転数情報により示される現在のモータMの回転数が、位置検出部43Aの検出結果により特定された要求回転数となるように、インバータ14を制御してモータMのコイルに流れる電流を制御する。これにより、操作具43の操作に応じて、モータMから出力される回転動力を制御することが可能となる。
【0041】
DC/DCコンバータ71は、バッテリ4の出力電圧の電圧値を、制御部44に対して電源として印加可能な電圧値に変換する。バッテリ4の出力電圧とは、バッテリ4から出力される直流電圧である。制御部44に対して電源として印加可能とは、制御部44が駆動するのに必要な電圧であって、絶対最大定格で規定された電圧値未満の電圧である。具体的には、バッテリ4の出力電圧の電圧値は、数十ボルトの電圧値であって、制御部44に対して電源として印加可能な電圧値とは、数ボルト~十数ボルトの電圧値である。したがって、DC/DCコンバータ71は、バッテリ4から出力される数十ボルトの直流電圧の電圧値を、制御部44に対して電源として印加可能な数ボルト~十数ボルトの電圧値に変換する。このため、DC/DCコンバータ71は降圧型のものが利用される。このようなDC/DCコンバータ71は、効率を良くするために同期整流型のものを用いると好適である。もちろん、スイッチング式でないレギュレータを用いてもよい。本実施形態では、図4に示されるように、DC/DCコンバータ71の出力電圧は、制御部44以外に、ファン制御部84にも印加される。もちろん、他の機能部にも、夫々の定格電圧に応じてDC/DCコンバータ71の出力電圧を印加するように構成することも可能である。
【0042】
温度情報取得部72は、インバータ14の温度を示すインバータ温度情報、モータMの温度を示すモータ温度情報、及びDC/DCコンバータ71の温度を示すコンバータ温度情報を取得する。インバータ14の温度とは、インバータ14を構成する素子のうち、最も温度が高くなると想定される第1のスイッチング素子Q1、及び、第2のスイッチング素子Q2の温度とすると好適である。インバータ14の温度は、第1のスイッチング素子Q1、及び、第2のスイッチング素子Q2の温度を測定したものであってもよいし、第1のスイッチング素子Q1、及び、第2のスイッチング素子Q2が実装された基板の温度であってもよい。また、図示されていないがインバータ14はコンデンサも有しており、コンデンサの温度を測定するようにしてもよい。モータMの温度とは、モータMを構成する部品のうち、最も温度が高くなると想定されるコイル、及び、永久磁石の温度とすると好適である。コイル、及び、永久磁石の温度が、直接測定できないため、これらの近傍の温度であってもよい。DC/DCコンバータ71の温度とは、例えばDC/DCコンバータ71が同期整流型のスイッチングレギュレータで構成されている場合に、DC/DCコンバータ71を構成する部品のうち、最も温度が高いと想定されるコイル、及び、LOWサイドのスイッチング素子(電源ラインと接地電位との間に設けられるスイッチング素子)の温度を測定したものであってもよいし、コイル、及び、LOWサイドのスイッチング素子が実装された基板の温度であってもよい。また、DC/DCコンバータ71が非同期整流型のスイッチングレギュレータで構成されている場合には、DC/DCコンバータ71を構成する部品のうち、最も温度が高いと想定されるコイル、及び、ダイオードの温度を測定したものであってもよいし、コイル、及び、ダイオードが実装された基板の温度であってもよい。もちろん、DC/DCコンバータ71における降圧比によっては、スイッチング素子の温度を測定するように構成することも可能である。また、DC/DCコンバータ71を、例えばスイッチングレギュレータでないレギュレータ(例えば三端子レギュレータ)等を用いて構成する場合には、当該三端子レギュレータの温度を測定してもよいし、三端子レギュレータが実装された基板の温度を測定してもよい。これらの温度は、例えばサーミスタ等の温度検出素子(図示せず)を用い、温度検出素子を流れる電流、あるいは、温度検出素子の一対の端子の端子間電圧に基づき検出することが可能である。温度情報取得部72は、このような温度検出素子の検出結果を、インバータ温度情報、モータ温度情報、コンバータ温度情報として取得する。
【0043】
電流制限部73は、インバータ14の温度が予め設定された温度より高い場合に、モータMを流れる電流を制限する。インバータ14の温度は、インバータ温度情報として温度情報取得部72により取得され、電流制限部73に伝達される。モータMを流れる電流とは、モータMを構成するコイルに流れる電流である。このコイルを流れる電流は、インバータ14から出力される電流に、略一致する。したがって、電流制限部73は、温度情報取得部72により取得されたインバータ温度情報により示されるインバータ14の温度が、予め設定された温度より高い場合に、インバータ14から出力される電流を規制する。具体的には、第1のスイッチング素子Q1、及び、第2のスイッチング素子Q2が閉状態となる時間、すなわち、PWM制御におけるオンDUTY比を所定の値より大きくならないように制限する。これにより、第1のスイッチング素子Q1、及び、第2のスイッチング素子Q2が閉状態となる時間が、ある一定の時間以上とならないようにしてインバータ14から出力される電流を制限し、モータMのコイルを流れる電流を制限することが可能となる。したがって、インバータ14を流れる電流を低減してインバータ14の発熱を抑えることができるので、インバータ14の劣化を抑制することが可能となる。
【0044】
ここで、本例では、制御部44は、インバータ14の温度、モータMの温度、及びDC/DCコンバータ71の温度のうち、少なくともいずれか一つが予め設定された温度より高い場合に、モータMを流れる電流を制限するように構成されている。インバータ14の温度は、インバータ温度情報として温度情報取得部72により取得され、制御部44に伝達される。モータMの温度は、モータ温度情報として温度情報取得部72により取得され、制御部44に伝達される。DC/DCコンバータ71の温度は、コンバータ温度情報として温度情報取得部72により取得され、制御部44に伝達される。夫々の温度情報には、個別に、予め閾値が設定されており、温度情報により示される温度が閾値を上回った場合に、制御部44は、インバータ14から出力される電流を制限し、モータMのコイルを流れる電流を制限することが可能となる。これにより、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71を流れる電流を低減して発熱を抑えることができるので、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71の劣化を抑制することが可能となる。
【0045】
また、上述したように、インバータ14は、当該インバータ14の温度を示すインバータ温度情報が電流制限部73及び制御部44の双方に伝達され、電流制限部73及び制御部44の双方の制御により保護される。したがって、インバータ14をより確実に保護することが可能となる。
【0046】
バッテリ情報取得部74は、バッテリ4の蓄電量を示す蓄電量情報及びバッテリ4の温度を示すバッテリ温度情報の少なくともいずれか一方を取得する。バッテリ4の蓄電量は、直接、検出することが難しい。しかしながら、バッテリ4の蓄電量はバッテリ4の出力電圧と相関があるため、本例ではバッテリ情報取得部74は、バッテリ4の蓄電量として、バッテリ4の出力電圧を検出する。このバッテリ4の出力電圧の検出結果は、蓄電量情報に相当する。バッテリ4の温度は、例えばサーミスタ等の温度検出素子(図示せず)をバッテリ4に近接して設け、この温度検出素子を流れる電流、あるいは、温度検出素子の一対の端子の端子間電圧に基づき検出することが可能である。バッテリ情報取得部74は、このような蓄電量情報及びバッテリ温度情報をバッテリ情報として取得する。
【0047】
制御部44は、バッテリ4の蓄電量が予め設定された蓄電量よりも少ない場合及びバッテリ4の温度が予め設定された温度よりも高い場合の少なくともいずれか一方の場合に、モータMを流れる電流を制限する。本例では、バッテリ4の蓄電量とは、バッテリ4の出力電圧が相当する。このため、予め設定された蓄電量とは、予め設定された電圧が相当する。したがって、制御部44は、バッテリ4の出力電圧が、予め設定された電圧値より低い場合に、インバータ14から出力される電流を制限して、モータMのコイルを流れる電流を制限する。また、制御部44は、バッテリ4の温度が予め設定された温度よりも高い場合にも、インバータ14から出力される電流を制限して、モータMのコイルを流れる電流を制限する。
【0048】
異常度算定部75は、インバータ温度情報、モータ温度情報、コンバータ温度情報、及びバッテリ情報に基づいて、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71、及びバッテリ4の夫々の異常の度合いを算定する。インバータ温度情報は、インバータ14の温度を示す情報であり、モータ温度情報は、モータMの温度を示す情報であり、コンバータ温度情報は、DC/DCコンバータ71の温度を示す情報である。これらの温度情報は、温度情報取得部72により取得され、異常度算定部75に伝達される。バッテリ情報は、バッテリ4の蓄電量を示す情報及びバッテリ4の温度を示す情報であり、バッテリ情報取得部74から異常度算定部75に伝達される。インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71、バッテリ4の夫々に対して、予め基準となる基準値が設定され、夫々の基準値と温度情報に示される温度、あるいは、バッテリ情報に示される蓄電量やバッテリの温度が比較され、夫々の異常の度合いが算定される。すなわち、異常度算定部75は、予め設定されたインバータ14の基準値とインバータ温度情報で示されるインバータ14の温度との差を求め、当該差を予め設定されたインバータ14の基準値で除して、インバータ14の異常の度合いを算定し、予め設定されたモータMの基準値とモータ温度情報で示されるモータMの温度との差を求め、当該差を予め設定されたモータMの基準値で除して、モータMの異常の度合いを算定し、予め設定されたDC/DCコンバータ71の基準値とコンバータ温度情報で示されるDC/DCコンバータ71の温度との差を求め、当該差を予め設定されたDC/DCコンバータ71の基準値で除して、DC/DCコンバータ71の異常の度合いを算定する。また、異常度算定部75は、予め設定されたバッテリ4の蓄電量に関する基準値と蓄電量情報で示されるバッテリ4の蓄電量との差を求め、当該差を予め設定されたバッテリ4の蓄電量に関する基準値で除して、バッテリ4の異常の度合いを算定する。更には、異常度算定部75は、予め設定されたバッテリ4の温度に関する基準値とバッテリ温度情報で示されるバッテリ4の温度との差を求め、当該差を予め設定されたバッテリ4の温度に関する基準値で除して、バッテリ4の異常の度合いを算定する。このように算定された異常の度合いは、制御部44に伝達される。
【0049】
制御部44は、異常度算定部75から伝達される異常の度合いが大きい程、モータMを流れる電流を大きく制限する。図6には、各部の異常の度合いと、モータMを流れる電流を制限するレベル(電流制限レベル)との関係の一例が示される。図6の例では、インバータ14の温度上昇、モータMの温度上昇、及びDC/DCコンバータ71の温度上昇の夫々について、「大」、「中」、「小」で区分けされ、区分けした区分毎に異常の度合いが星印の数で示される。区分は、夫々の項目毎に範囲を設定するとよい。
【0050】
例えば、インバータ14の温度上昇が「大」の場合には、異常の度合いが「2」であることから、電流制限を行うレベル(以下「電流制限レベル」)として「レベル2」が設定される。また、インバータ14の温度上昇が「中」の場合には、異常の度合いが「1」であることから、電流制限レベルとして「レベル1」が設定され、インバータ14の温度上昇が「小」の場合には、異常の度合いが「0」であることから、電流制限レベルとして「レベル0」が設定される。
【0051】
また、モータMの温度上昇が「大」の場合には、異常の度合いが「2」であることから、電流制限レベルとして「レベル2」が設定される。また、モータMの温度上昇が「中」の場合には、異常の度合いが「1」であることから、電流制限レベルとして「レベル1」が設定され、モータMの温度上昇が「小」の場合には、異常の度合いが「0」であることから、電流制限レベルとして「レベル0」が設定される。
【0052】
ここで、本例では、DC/DCコンバータ71の温度上昇は、インバータ14の温度上昇やモータMの温度上昇よりも深刻なものではでない。このため、異常の度合いの判断基準が、インバータ14の温度上昇やモータMの温度上昇の異常の度合いの判断基準よりも緩いものとなっている。すなわち、DC/DCコンバータ71の温度上昇が「大」の場合には、異常の度合いが「1」とされ、電流制限レベルとして「レベル1」が設定される。また、DC/DCコンバータ71の温度上昇が「中」または「小」の場合には、異常の度合いが「0」とされ、電流制限レベルとして「レベル0」が設定されている。
【0053】
一方、バッテリ4の蓄電量の低下及びバッテリ4の温度の上昇は、インバータ14の温度上昇、モータMの温度上昇、DC/DCコンバータ71の温度上昇よりも深刻なものである。これは、バッテリ4の残量がなくなった場合には、電動作業車が走行できなくなるためである。また、バッテリ4は温度上昇に伴ってバッテリ4の蓄電能力が低下し、この場合にも電動作業車が走行できなくなるためである。このため、異常の度合いの判断基準が、インバータ14の温度上昇やモータMの温度上昇やDC/DCコンバータ71の温度上昇の異常の度合いの判断基準よりも厳しいものとなっている。すなわち、バッテリ4の蓄電量が「少」の場合には、異常の度合いが「3」とされ、電流制限レベルとして「レベル3」が設定される。また、バッテリ4の蓄電量が「中」の場合には、異常の度合いが「2」とされ、電流制限レベルとして「レベル2」が設定されている。更に、バッテリ4の蓄電量が「多」の場合には、異常の度合いが「1」とされ、電流制限レベルとして「レベル1」が設定されている。また、バッテリ4の温度上昇が「大」の場合には、異常の度合いが「3」とされ、電流制限レベルとして「レベル3」が設定される。また、バッテリ4の温度上昇が「中」の場合には、異常の度合いが「2」とされ、電流制限レベルとして「レベル2」が設定されている。更に、バッテリ4の温度上昇が「小」の場合には、異常の度合いが「1」とされ、電流制限レベルとして「レベル1」が設定されている。
【0054】
また、図示はしないが、バッテリ4とは異なる低圧用バッテリ(例えば12V出力)の出力電圧も監視し、この出力電圧の監視結果(検出結果)に応じてモータMのコイルを流れる電流を制限するように構成することも可能である。例えば低圧用バッテリがDC/DCコンバータ71の出力に応じて蓄電されるように構成されている場合において、DC/DCコンバータ71が異常であるときには、低圧用バッテリが充電されず出力電圧が12Vよりも低下する。この状態での使用が継続すると、更に低圧用バッテリの出力電圧が低下し、更には、低圧用バッテリの出力電圧で駆動する機器(デバイス)が停止したり誤動作したりする可能性がある。このため、オペレータに対して、電動作業車を停止するように警告すると好適である。
【0055】
制御部44は、このような電流制限レベルに基づいて、モータMを流れる電流を制限すると良い。なお、電流制限は、複数の区分における、その時点の最も大きい数の電流制限レベルで電流制限を行うように構成しても良いし、複数の区分における、その時点の夫々の電流制限レベルの平均の値で電流制限を行うように構成しても良い。このように構成することで、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71、バッテリ4のうち、異常の度合いが大きいものを厚く保護して、劣化を抑制し、走行できなくなるといった状況を回避することが可能となる。
【0056】
図4に戻り、本例では、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71は冷媒を循環させて冷却される。このため、トラクタは冷却システム100が設けられている。本例の冷却システム100では、図4に示されるように、冷媒がインバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71、ラジエータ82の順に、ポンプ81により流通される。具体的には、ラジエータ82の冷媒吐出口82Oとポンプ81の冷媒吸入口81Iとの間に、ラジエータ82からポンプ81に向かって冷媒が流通する第1流路91が設けられる。ポンプ81の冷媒吐出口81Oとインバータ14の冷媒流入口14Iとの間に、ポンプ81からインバータ14に向かって冷媒が流通する第2流路92が設けられる。インバータ14の冷媒流出口14OとモータMの冷媒流入口MIとの間に、インバータ14からモータMに向かって冷媒が流通する第3流路93が設けられる。モータMの冷媒流出口MOとDC/DCコンバータ71の冷媒流入口71Iとの間に、モータMからDC/DCコンバータ71に向かって冷媒が流通する第4流路94が設けられる。DC/DCコンバータ71の冷媒流出口71Oとラジエータ82の冷媒流入口82Iとの間に、DC/DCコンバータ71からラジエータ82に向かって冷媒が流通する第5流路95が設けられる。
【0057】
ラジエータ82には、ラジエータ82を冷却するファン83が設けられる。ファン83は、冷媒の温度が所定の値より大きくなった場合にファン制御部84により駆動される。ファン制御部84には、DC/DCコンバータ71の出力電圧が印加される。
【0058】
冷媒温度情報取得部76は、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71を冷却する冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得する。本例では、冷媒の温度は、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71を流通して、ラジエータ82に戻ってきた第5流路95において測定される。冷媒温度情報取得部76により取得された冷媒の温度は、冷媒温度情報として、制御部44及びファン制御部84に伝達される。これにより、ファン制御部84が、冷媒の温度に応じてファン83を駆動することが可能となる。
【0059】
制御部44は、冷媒の温度が予め設定された温度より高い場合に、モータMを流れる電流を制限する。冷媒の温度は、上述したように冷媒温度情報取得部76から冷媒温度情報として伝達される。冷媒の温度が高い場合には、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71の何れかの温度が高くなっていることから、制御部44がモータMを流れる電流を制限することで、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71のうち、温度が高くなっている何れかの温度上昇を抑制することが可能となる。
【0060】
図7には、本例における電流制限が行われる要因についてまとめられている。本例では、制御部44は、「インバータの温度」、「モータの温度」、「DC/DCコンバータの温度」、「バッテリの蓄電量」、「バッテリの温度」、「冷媒の温度」に基づいて電流制御を行うように構成され、電流制限部73は、「インバータの温度」のみに基づいて電流制御を行うように構成されている。このように、本例では「インバータの温度」は、制御部44及び電流制限部73の双方により保護される。
【0061】
図8には、モータMが出力可能な出力トルクと回転数との関係を規定したトルクカーブが示される。これは、モータMが所定の回転数で回転するときに、出力することが可能な出力トルクの関係を示したものである。何ら電流制限がない場合には、制御部44は特性Iに基づきモータMを制御する。例えば、モータMを流れる電流が制限されると、所定の回転数で出力可能な出力トルクが減少することから、制御部44は特性IIに基づきモータMを制御することになる。更に、モータMを流れる電流が制限されると(例えば、上述した「異常の度合い」が大きくなった場合)、制御部44は特性IIIに基づきモータMを制御することになる。モータMを流れる電流の制限に応じたトルクカーブを予め設定(記憶)しておき、制御部44はこのようなトルクカーブに基づいてモータMを制御するとよい。
【0062】
本例では、モータMの電流が制限された場合に、報知部57が当該モータMの電流を制限することになった理由を報知する。モータMの電流が制限された場合とは、上述した電流制限部73や制御部44によりインバータ14を流れる電流が制限された場合である。したがって、報知部57には、電流制限部73や制御部44がモータMを流れる電流を制限した場合に、制限したことを示す情報が伝達される。
【0063】
例えばインバータ14の温度に基づきモータMを流れる電流が制限されている場合には、図9に示されるように、トラクタの運転部3に設けられる表示装置58の表示画面に、「インバータの温度上昇によりモータの駆動が制限されています。」というようなメッセージを表示したり、スピーカ59から「インバータの温度上昇によりモータの駆動が制限されています。」というような音声を出力するように構成すると良い。これにより、オペレータが、操作具43を操作しているにもかかわらず、モータMの出力が増大しない原因を把握することが可能となる。なお、図示はしないが、モータMの温度上昇や、DC/DCコンバータ71の温度上昇や、バッテリ4の蓄電量の低下や、バッテリ4の温度上昇や、冷媒の温度上昇についても、これらが原因となってモータMを流れる電流が制限されている場合には、表示装置58の表示画面にメッセージを表示したり、スピーカ59から音声を出力して、モータMを流れる電流が制限されている原因を報知するとよい。
【0064】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、電動作業車がトラクタである場合の例を挙げて説明したが、電動作業車はトラクタ以外の作業車、すなわち田植機、コンバイン、建設機械、芝刈り機などであっても良い。
【0065】
上記実施形態では、モータMが三相モータであって、インバータ14が3本のアーム部Aを備えているとして説明したが、モータMは三相モータでなくても良く、この場合、インバータ14のアーム部Aの本数はモータMの相数に応じて設けると良い。
【0066】
上記実施形態では、バッテリ4の蓄電量を示す蓄電量情報及びバッテリ4の温度を示すバッテリ温度情報の少なくともいずれか一方を取得するバッテリ情報取得部74を備え、制御部44は、バッテリ4の蓄電量が予め設定された蓄電量よりも少ない場合及びバッテリの温度が予め設定された温度よりも高い場合の少なくともいずれか一方の場合に、モータMを流れる電流を制限するとして説明したが、バッテリ情報取得部74を備えずに構成することも可能である。この場合、制御部44はバッテリ4の蓄電量やバッテリ4の温度上昇に基づいてモータMを流れる電流を制限しなくてもよい。また、制御部44は、バッテリ4の蓄電量が予め設定された蓄電量よりも少ない場合で、且つ、バッテリの温度が予め設定された温度よりも高い場合に、モータMを流れる電流を制限するように構成しても良い。
【0067】
上記実施形態では、インバータ温度情報、モータ温度情報、コンバータ温度情報、及びバッテリ情報に基づいて、インバータ14、モータM、DC/DCコンバータ71、及びバッテリ4の夫々の異常の度合いを算定する異常度算定部75を備え、モータMを流れる電流は、異常の度合いが大きい程、大きく制限されるとして説明したが、異常度算定部75は、インバータ温度情報、モータ温度情報、及びコンバータ温度情報に基づいて、インバータ14、モータM、及びDC/DCコンバータ71の夫々の異常の度合いを算定するように構成することも可能である。また、異常度算定部75を備えずに構成することも可能である。この場合、制御部44は、異常の度合いに応じてモータMを流れる電流を制限しなくてもよい。
【0068】
上記実施形態では、制御部44は、異常度算定部75から伝達される異常の度合いが大きい程、モータMを流れる電流を大きく制限し、電流を制限するもととなる異常の度合いの項目として、図6において「インバータの温度上昇」、「モータの温度上昇」、「DC/DCコンバータの温度上昇」、「バッテリの蓄電量」、及び「バッテリの温度上昇」を挙げて説明した。例えば、異常の度合いとして、「デバイスの異常」や、「サーミスタの断線」を項目として用いることも可能である。「デバイスの異常」においては、CAN(Controller Area Network)で通信ができなくなったときに「レベル2」として、モータMを流れる電流を制限し、「デバイスの異常」や、「サーミスタの断線」を項目として用いることも可能である。「サーミスタの断線」においては、サーミスタの断線があった場合には「レベル0」として、電動作業車を停車させることなく走行させるように構成することも可能である。もちろん、サーミスタの断線があった場合に、モータMを流れる電流を制限することも可能である。
【0069】
上記実施形態では、インバータ14、モータM、及びDC/DCコンバータ71を冷却する冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得する冷媒温度情報取得部76を備え、制御部44は、冷媒の温度が予め設定された温度より高い場合に、モータMを流れる電流を制限するとして説明したが、冷媒温度情報取得部76を備えずに構成することも可能である。この場合、制御部44は、冷媒の温度に基づいてモータMを流れる電流を制限しなくてもよい。
【0070】
上記実施形態では、モータMの電流が制限された場合に、当該モータMの電流を制限することになった理由を報知する報知部57を備えているとして説明したが、報知部57を備えずに構成することも可能である。また、報知部57が、メッセージを表示装置58の表示画面に表示したり、スピーカ59から音声を出力して報知するとして説明したが、例えば運転部3からオペレータが見える位置に、モータMの電流を制限することになった理由を示す表示灯を設けて報知するように構成することも可能である。また、報知部57が、機体に設けられるブザーやランプを用いてモータMの電流を制限することになった理由を報知するように構成することも可能である。この場合、モータMの電流を制限することになった理由毎に、ブザーやランプを使い分けるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、電気エネルギーで走行する電動作業車に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
4:バッテリ
14:インバータ
41:回転数情報取得部
42:走行装置
43:操作具
44:制御部
57:報知部
71:DC/DCコンバータ
72:温度情報取得部
73:電流制限部
74:バッテリ情報取得部
75:異常度算定部
76:冷媒温度情報取得部
M:モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9