(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】圧粉体の製造方法及び、焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/02 20060101AFI20250307BHJP
B22F 3/04 20060101ALI20250307BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20250307BHJP
B22F 3/15 20060101ALI20250307BHJP
B30B 11/00 20060101ALI20250307BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20250307BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20250307BHJP
C22C 14/00 20060101ALN20250307BHJP
【FI】
B22F3/02 T
B22F3/04 B
B22F3/10 E
B22F3/10 F
B22F3/15 M
B30B11/00 U
C22C1/04 E
C22C33/02 A
C22C33/02 B
C22C14/00 Z
(21)【出願番号】P 2021548977
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020035996
(87)【国際公開番号】W WO2021060363
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019177836
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森田 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】早川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-300195(JP,A)
【文献】特開2003-305593(JP,A)
【文献】特開平09-323308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B30B 11/00-11/34
C22C 1/04- 1/059
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する金属製の圧粉体を製造する方法であって、
樹脂製のモールドの、前記凹部に対応する箇所に、該凹部に対応する形状を有する樹脂製の芯材を位置させた状態で、前記モールド内に充填した原料粉末に対して冷間等方圧加圧を行う工程を含
み、
前記芯材として、一軸圧縮試験で歪が20%であるときの応力が0.3MPa~3.5MPaになる樹脂材料からなる芯材を用い、
前記モールドとは別個の部材としての前記芯材が、前記モールドの、前記凹部に対応する箇所に、前記原料粉末との間で該モールドの壁部を挟んで配置された状態で、前記冷間等方圧加圧を行い、
前記圧粉体として、チタン又はチタン合金製のチタン系圧粉体を製造する、圧粉体の製造方法。
【請求項2】
前記芯材が、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項
1に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項3】
前記モールドとして、ショアD硬さが30~120の範囲内である熱可塑性樹脂からなるモールドを用いる、請求項1
又は2に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項4】
前記凹部が、非貫通の窪み状をなす、請求項1~
3のいずれか一項に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項5】
前記冷間等方圧加圧で前記原料粉末に作用させる加圧力が200MPa以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項6】
焼結体を製造する方法であって、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の圧粉体の製造方法により製造された圧粉体に対し、焼結及び/又は熱間等方圧加圧を行う工程を含む、焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧粉体の製造方法及び、焼結体の製造方法に関する技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえばチタンやチタン合金は、耐疲労性、耐食性、軽量かつ高い比強度といった所定の優れた特性の故に、種々の部品に用いることが検討されている。
しかるに、チタン又はチタン合金からなる部品を製造するには一般に、電子ビーム溶解や真空アーク溶解等による溶解、鋳造、場合によってはさらに熱間圧延、熱処理及び機械加工、溶接等の多数の工程を行う必要があり、それに伴って製造コストが嵩む。このような高コストに起因して、チタン含有材料の適用範囲が十分に広がっているとは言い難い。
【0003】
かかる状況の下、近年は、いわゆるニアネットシェイプとして、チタンを含む原料粉末を樹脂製のモールド内に充填して、当該原料粉末に対して冷間等方圧加圧を施し、所定の形状のチタン系圧粉体を得る粉末冶金法が注目されている。なお、この粉末冶金法では、冷間等方圧加圧の後、必要に応じて焼結及び/又は熱間等方圧加圧を施し、密度を高めることが行われる場合がある。
【0004】
これに関する技術として、特許文献1には、「原料粉末を充填したゴム型を金型内で一軸方向に加圧することにより該原料粉末の圧密成形体を成形する圧密成形体の製造方法において、前記加圧方向と略直角方向にある前記圧密成形体の外表面の一部が前記ゴム型に配設された高剛性型部材により形成されることを特徴とする圧密成形体の製造方法」が記載されている。
また、特許文献2には、「素粉末混合法によって焼結チタン合金を製造する方法において、チタン粉末の代わりに、チタン粉末及び(Ti-H)合金粉末及び水素化チタン粉末を水素:チタンが質量比で0.002以上で0.030未満となるように配合した粉末を原料粉末として使用することを特徴とする焼結チタン合金の製造方法」が提案されている。
なお、上述した粉末冶金法は、チタンやチタン合金に限らず、種々の純金属や合金の材料で用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-131605号公報
【文献】特開平6-33165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、貫通孔又は非貫通の窪み等の凹部を有する圧粉体を、粉末冶金法により製造するには、その凹部に対応する樹脂製のモールドの箇所に中子等の芯材を配置し、モールド内に充填した原料粉末に対して冷間等方圧加圧を行うことがある。そのような中子等の芯材として、特許文献1では、スチール製の円筒状部材である高剛性中子を用いている(段落0035参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなスチール製等の金属製の高剛性中子を用いた場合、冷間等方圧加圧後に得られる圧粉体の、高剛性中子の近傍に位置していた表面が隆起し、圧粉体が所期した形状に形成されないという問題があった。
【0008】
この発明の目的は、凹部を有する圧粉体を冷間等方圧加圧で形成するに当り、芯材の近傍の圧粉体表面への隆起の発生を抑制することができる圧粉体の製造方法及び、焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は鋭意検討の結果、冷間等方圧加圧で樹脂製のモールドとともに用いる芯材を樹脂製のものとすることにより、圧粉体表面への隆起の発生が抑制されることを見出した。この理由は次のように考えられる。樹脂製の芯材を用いた場合、加圧時に樹脂製の芯材が弾性変形して原料粉末に圧力が適切に伝達され、芯材の周囲も含め原料粉末の全体が十分に締め固められる。また、除荷後は樹脂製の芯材が凹部から抜け出るように復元して、圧粉体に悪影響を及ぼさない。それにより、圧粉体の表面に部分的な隆起部が形成されにくくなると推測される。但し、この発明は、このような理論に限定されるものではない。
【0010】
上記の知見の下、この発明の圧粉体の製造方法は、凹部を有する金属製の圧粉体を製造する方法であって、樹脂製のモールドの、前記凹部に対応する箇所に、該凹部に対応する形状を有する樹脂製の芯材を位置させた状態で、前記モールド内に充填した原料粉末に対して冷間等方圧加圧を行う工程を含むものである。
【0011】
この発明の圧粉体の製造方法では、前記芯材として、一軸圧縮試験で歪が20%であるときの応力が0.3MPa~3.5MPaになる樹脂材料からなる芯材を用いることが好ましい。
【0012】
また、この発明の圧粉体の製造方法では、前記芯材が、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0013】
そしてまた、この発明の圧粉体の製造方法では、前記モールドとして、ショアD硬さが30~120の範囲内である熱可塑性樹脂からなるモールドを用いることが好ましい。
【0014】
この発明の圧粉体の製造方法では、前記モールドとは別個の部材としての前記芯材が、前記モールドの、前記凹部に対応する箇所に、原料粉末との間で該モールドの壁部を挟んで配置された状態で、冷間等方圧加圧を行うことができる。
【0015】
あるいは、この発明の圧粉体の製造方法では、前記芯材が一体に形成された前記モールドを用いることができる。
【0016】
なお、前記凹部は、非貫通の窪み状をなすものとすることがある。
上記の圧粉体としては、たとえばチタン又はチタン合金製のチタン系圧粉体を製造する。あるいは、上記の圧粉体としては、たとえば鉄又は鉄合金製の鉄系圧粉体を製造することができる。
【0017】
この発明の焼結体の製造方法は、焼結体を製造する方法であって、上記のいずれかの圧粉体の製造方法により製造された圧粉体に対し、焼結及び/又は熱間等方圧加圧を行う工程を含むものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明の圧粉体の製造方法によれば、凹部を有する圧粉体を冷間等方圧加圧で形成するに当り、芯材の近傍の圧粉体表面への隆起の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一の実施形態に係る圧粉体の製造方法に用いることができる樹脂製のモールドの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1のモールドを芯材とともに示す、モールドの中心軸線に沿う縦断面図である。
【
図3】
図2のモールド及び芯材を用いて製造されるチタン系圧粉体を示す縦断面図である。
【
図4】
図2のモールド及び芯材を用いて冷間等方圧加圧を行う状態を模式的に示す縦断面図である。
【
図5】
図4の冷間等方圧加圧により得られたチタン系圧粉体を、芯材及びモールドの一部を取り除く前の状態で示す縦断面図である。
【
図6】金属製の芯材を用いた圧粉体の製造方法での冷間等方圧加圧を行う状態を模式的に示す縦断面図である。
【
図7】
図7(a)及び(b)はそれぞれ樹脂製のモールド及び芯材の他の例を示す縦断面図である。
【
図8】他の実施形態に係る圧粉体の製造方法を用いて製造することができるチタン系圧粉体を示す縦断面図である。
【
図9】実施例の試験例1で用いた3Dプリンタの造形データを示す図である。
【
図10】実施例の試験例2で製造したチタン系圧粉体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る圧粉体の製造方法は、たとえば、
図1及び2に示すようなモールド1及び芯材11を用いて、モールド1内の原料粉末に対して冷間等方圧加圧を行う工程を含み、たとえば
図3に示すようなチタン又はチタン合金製のチタン系圧粉体61その他の金属製の圧粉体を製造するというものである。ここでいう金属製には、純金属製だけでなく合金製も含まれるものとする。以下では、金属製の圧粉体及び焼結体の一例として主にチタン系圧粉体及びチタン系焼結体について詳細に述べるが、ここで述べる構成の各々又はその組合せは他の金属製の圧粉体及び焼結体の製造にも適用することができる。
【0021】
図3に示すチタン系圧粉体61は、全体としてほぼ円柱状の形状を有するとともに、その軸線方向の一端面(
図3では下端面)に、該一端面から中空円柱状に窪む非貫通の窪み状をなす凹部62が形成されている。このような凹部62を有するチタン系圧粉体61を製造するため、冷間等方圧加圧で用いるモールド1は、当該チタン系圧粉体61の形状に対応する形状の成形空間2を有する。
【0022】
より具体的には、モールド1は、チタン系圧粉体61の外周面に整合する内周面を有する円筒状の外筒壁部3と、外筒壁部3の一端部(
図2では下端部)に設けられた円環状の環状壁部4及び、その中央の底付き円筒状の内筒壁部5とを備えるものである。内筒壁部5が底の無い側の端部で、環状壁部4の中央の孔部に取り付けられており、それらの環状壁部4及び内筒壁部5により外筒壁部3の一端部が密閉されている。
【0023】
ここで、チタン系圧粉体61に設ける凹部62を形成するモールド1の内筒壁部5は、冷間等方圧加圧時に成形空間2の原料粉末から受ける圧力に抗するため、
図2に矢印で示すように、円柱状の芯材11が挿入して配置される。
【0024】
そして、モールド1の成形空間2に原料粉末を充填するとともに、
図4に示すように、モールド1の外筒壁部3の他端部(
図4では上端部)を円盤状部材6で密閉し、図示しない冷間等方圧加圧装置の内部で、モールド1の外側からモールド1を介して間接的に原料粉末を加圧する冷間等方圧加圧(CIP)を行う。なおここでは、円盤状部材6はモールド1の一部を構成するものとする。冷間等方圧加圧により、モールド1内の原料粉末は加圧されて締め固められ、チタン系圧粉体61になる。
【0025】
冷間等方圧加圧で原料粉末に作用させる加圧力は、たとえば200MPa以上、典型的には400MPa以上である。なお加圧力は、たとえば600MPa以下、典型的には500MPa以下とすることがある。また、そのような加圧力での保持時間は、たとえば0.5分~30分とする場合がある。
【0026】
なお冷間等方圧加圧で加圧した後は、冷間等方圧加圧装置からチタン系圧粉体61をモールド1及び芯材11とともに取り出し、チタン系圧粉体61の周囲の外筒壁部3、環状壁部4及び円盤状部材6を除去する。その後、
図5に示すように、チタン系圧粉体61の凹部62内の芯材11及び内筒壁部5を取り出す。外筒壁部3等を除去する前に芯材11を取り出してもよい。これにより、チタン系圧粉体61を製造することができる。
【0027】
このような冷間等方圧加圧を行うに当り、仮に
図6に示すように、モールド1の内筒壁部5内にスチール製等の金属製の芯材71を挿入して配置した場合、以下のような不具合が生じていると本発明者は推測している。
図6に示すモールド1では、加圧力によってモールド1内の原料粉末が徐々に体積減少するに際し、金属製で高剛性の芯材71は実質的に弾性変形しない。このことから、高剛性の芯材71を使用すると、芯材71を介した原料粉末への加圧力の伝達が生じにくくなり、芯材71の近傍の部位と芯材71から離れた部位で加圧力の伝わり方が異なり得る。特に、加圧力が芯材71の径方向に伝わらず、芯材71の周囲に位置する原料粉末まで加圧力が十分に伝達されない。これにより、芯材71の周囲に位置する原料粉末は、その外周側の原料粉末に比して締固めが不十分になる。その結果として得られるチタン系圧粉体81では、
図6に誇張して示すように、モールド1の環状壁部4側の表面が、芯材71の周囲にて芯材71の近傍に位置していた表面部分で隆起し、そこに隆起部83が形成される。
【0028】
これに対処するため、この実施形態では、金属製の芯材71ではなく樹脂製の芯材11を用いることとする。樹脂製の芯材11は、冷間等方圧加圧の際に、モールド1の軸線方向に作用する加圧力により芯材11が軸線方向に圧縮されると、
図4に示すように、当該芯材11が径方向にも加圧力を伝達する。それにより、芯材11の周囲の原料粉末も十分に締め固められるので、チタン系圧粉体61で芯材11の周囲の表面部分の隆起が抑制される。なお、芯材11は、除荷後は凹部62からはみ出るようにして復元されうる。したがって、樹脂製の芯材11を用いれば、寸法精度に優れたチタン系圧粉体61を製造することができる。このことは、チタン系圧粉体61以外の金属製の圧粉体を製造するべく、チタンやチタン合金以外の金属製の原料粉末を用いた場合でも同様であり、寸法精度に優れた金属製の圧粉体が得られる。
【0029】
樹脂製の芯材11は、一軸圧縮試験で歪が20%であるときの応力が0.3MPa~3.5MPaになる樹脂材料からなるものとすることが好ましい。20%歪時の応力が0.3MPa~3.5MPaの樹脂材料からなる芯材11は、冷間等方圧加圧の際により一層適切に圧縮され、原料粉体への圧力の伝達がさらに適切に行われる。この観点から、芯材11は、20%歪時の応力が0.3~2.0MPaであることが好ましく、0.4MPa~0.8MPaの樹脂材料からなることがより一層好ましい。
芯材11の20%歪時の応力を測定するには、直径10mm×高さ10mmの樹脂サンプルに対し、その高さ方向に一軸方向の圧力を1mm/minの速度で作用させ、樹脂サンプルの歪(樹脂サンプルの高さの減分)が20%になったときの応力を測ることにより行う。一軸圧縮試験には、インストロン社製の5565型材料試験機を用いることができる。
【0030】
芯材11は具体的には、シリコーン樹脂、クロロプレン樹脂及び、フッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好適であり、なかでも、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含むことがより好適である。これらの樹脂の少なくとも一種を含む芯材11を用いた場合は、特に優れた寸法精度のチタン系圧粉体61が得られる。
シリコーン樹脂又はフッ素樹脂を含む芯材11は、冷間等方圧加圧後にモールド1の内筒壁部5から簡単に取り出すことができるので、チタン系圧粉体61の容易かつ効率的な製造を実現する上で特に好ましい。シリコーン樹脂としてシリコーンシーラントを用いたときは、モールド1の内筒壁部5内への充填時にゲル状等で流動性を示すことの故に、複雑な形状の凹部62であっても高い精度で形成しやすくなるという利点もある。シリコーンシーラントを用いる場合、ゲル状でモールド1の内筒壁部5内に充填し、一定期間にわたって放置して固化させた後に、冷間等方圧加圧を行うことが好適である。
なお、樹脂製の芯材11は、内筒壁部5内に挿入ないし充填されて冷間等方圧加圧時に適切に圧縮されるとともに、除荷時にチタン系圧粉体61に影響を及ぼさずに凹部62から抜け出る向きに変形できるものであればよい。
【0031】
なお、樹脂製のモールド1は、好ましくは熱可塑性樹脂製とし、特にアクリル樹脂、エラストマーを含有するアクリル樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂等で形成されたものとすることが好適である。樹脂製のモールド1は、所要の強度を確保して原料粉末の充填時にもその形状を維持するため、ショアD硬さが30~120の範囲内である熱可塑性樹脂からなることが好ましく、30~85の範囲内である熱可塑性樹脂としてもよい。ショアD硬さは、JIS K7215(1986)に準拠する試験方法によって測定することができる。また同様の観点から、樹脂製のモールド1の厚みは、0.5mm~2.0mmであるものとすることが好ましい。
樹脂製のモールド1は種々の方法により作製することが可能であるが、3Dプリンタを用いることが様々な形状のモールド1を容易に作製できる点で好ましい。
【0032】
チタン又はチタン合金製のチタン系焼結体を製造する場合、冷間等方圧加圧の後に、チタン系圧粉体61に対し、焼結及び/又は熱間等方圧加圧(HIP)を行う工程が含まれる。焼結では、チタン系圧粉体61の材質に応じて、たとえば1200℃~1300℃の温度にて1時間~3時間にわたって、チタン系圧粉体61を加熱することができる。熱間等方圧加圧では、たとえば、800℃~1000℃の温度にて、チタン系圧粉体61に対し、アルゴンガス等の圧力媒体により100MPa~200MPa程度の等方圧を30分~90分にわたって作用させることができる。これにより、チタン系焼結体を製造することができる。なお、熱間等方圧加圧では一般に、高温で処理することから焼結が進行する。それ故に、ここでは、チタン系圧粉体61に対して熱間等方圧加圧のみを行って得られたものについても、チタン系焼結体という。焼結及び熱間等方圧加圧の両方を行う場合は、その順序は特に問わないが、たとえば焼結の後に熱間等方圧加圧を行うことができる。
【0033】
上述したところでは、モールド1と別個の部材としての芯材11を、モールド1の、凹部62に対応する内筒壁部5内の箇所に配置し、芯材11と原料粉末との間にモールド1の壁部である内筒壁部5が挟み込まれて位置した状態で、冷間等方圧加圧を行う場合について説明した。
【0034】
一方、
図7(a)に示すように、モールド21と一体に形成された芯材31とすることも可能である。より詳細には、このモールド21は、外筒壁部23の一端部(
図7では下端部)に設けた環状壁部24の中央に、円柱状の芯材31が一体に取り付けられて設けられている。この例では、
図1、2のモールド1でいう内筒壁部5に相当する部分も、環状壁部24と一体の芯材31で形成されている。このような場合でも、芯材31を樹脂製のものとすることにより、先述したように、チタン系圧粉体への隆起部の形成を抑制することができる。但し、除荷後における芯材の復元の自由度は、
図1、2で示したようにモールド1の内筒壁部5内に芯材11を挿入する形式のほうが優れている。
【0035】
あるいは、
図7(b)に示すように、
図1、2のモールド1でいう内筒壁部5に相当する部分が存在せず、環状壁部44の中央に孔部44aが形成されたモールド41で、その孔部44aに別個の部材としての円柱状の芯材51を挿入して、冷間等方圧加圧に供してもよい。この場合、モールド41の成形空間42に充填する原料粉末は、芯材51に直接的に接することになる。
図7(b)に示すようなものでも、樹脂製の芯材51とすれば、先述のチタン系圧粉体の隆起を抑制する効果が得られる。
【0036】
ところで、この発明の実施形態の製造方法は、
図8に例示するような貫通孔状の凹部92を有するチタン系圧粉体91等の金属製の圧粉体も製造することができる。このチタン系圧粉体91は、凹部92が端面間を軸線方向に貫通する貫通孔状であることを除いて、
図3に示すチタン系圧粉体61と同様のものである。
上記のとおり、凹部は貫通孔状であってもよく、底を有する窪み状であってもよい。また、凹部の形状は図示のような円柱形だけではなく、種々の複雑な形状であってよい。また、製造される圧粉体の凹部の数は1つでもよいし、2つ以上の複数であってもよい。圧粉体の該凹部が2つ以上の複数である場合、その1つ以上を上述の方法で形成し隆起を抑制したものとすることが好ましい。
【0037】
以上に述べた方法でチタン系圧粉体もしくはチタン系焼結体を製造する場合、原料粉末として、純チタン粉末、合金元素粉末、母合金粉末等の様々な粉末を、必要に応じて組み合わせて用いることができる。ここでいう純チタン粉末は実質的にチタンのみからなる粉末、合金元素粉末はチタン合金等の合金元素を単独で含む粉末、母合金粉末は複数の合金元素を含む粉末をそれぞれ意味する。原料粉末は、たとえば、純チタン粉末のみとすることができる他、純チタン粉末に、鉄、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、錫、モリブデン、銅及びニッケルからなる群から選択される一種の合金元素粉末及び/又は、それらの二種以上の母合金粉末を混合させたものとしてもよい。あるいは、チタンと合金元素を含む粉末を原料粉末とすることも可能である。なお、純チタンとは、チタン含有量が99質量%以上であるチタンを意味する。原料粉末における金属の質量比はチタン:合金元素=100:0~75:25とすることができ、チタン:合金元素=90:10とすることができる。
チタンやチタン合金以外の金属製の圧粉体を製造する場合、その金属に応じた材質の原料粉末を用いる。
たとえば、純鉄又は鉄合金製の鉄系圧粉体を製造する場合、原料粉末としては純鉄粉末、さらに必要に応じて合金元素粉末、母合金粉末等の粉末を用いることができる。ここで、合金元素粉末や母合金粉末に含まれ得る合金元素としては、銅、ニッケル、炭素、クロム、モリブデン、硫黄、マンガン、窒素、チタン、ジルコニウム、ニオブ及びリンからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。鉄合金製の圧粉体もしくは焼結体を製造する場合、原料粉末における金属の質量比は、鉄:合金元素=100:0~50:50、さらには100:0~70:30とすることができる。
あるいは、純モリブデン又はモリブデン合金製の鉄系圧粉体を製造する場合、原料粉末としては純モリブデン粉末、さらに必要に応じて合金元素粉末、母合金粉末等の粉末を用いることができる。ここで、合金元素粉末や母合金粉末に含まれ得る合金元素としては、チタン、ジルコニウム、タングステン及び銅からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。モリブデン合金製の圧粉体もしくは焼結体を製造する場合、原料粉末における金属の質量比は、モリブデン:合金元素=100:0~50:50、さらには100:0~70:30とすることができる。
【0038】
原料粉末の平均粒径は、10μm~150μmとすることが好ましい。このように比較的微細な粒子を使用することにより、冷間等方圧加圧後の圧粉体、さらには焼結又は熱間等方圧加圧後の焼結体の圧縮密度を向上させることができる。平均粒径は、レーザー回折散乱法によって得られた粒度分布(体積基準)の粒子径D50(メジアン径)を意味する。
原料粉末には、粉砕粉末やアトマイズ粉末等の公知の粉末を使用可能である。
【0039】
このような原料粉末を用いることにより、純チタンからなるチタン製、又は、Ti-5Al-1Fe、Ti-5Al-2Fe、Ti-6Al-4V、Ti-6Al-6V-2Sn、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Moもしくは、Ti-10V-2Fe-3Al等からなるチタン合金製のチタン系圧粉体、チタン系焼結体が製造され得る。なお、上記において、各合金金属の前に付されている数字は、含有量(質量%)を指す。例えば、「Ti-6Al-4V」とは、合金金属としては、6質量%のAlと4質量%のVとを含有するチタン合金を指す。
【実施例】
【0040】
次に、この発明の圧粉体の製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0041】
(試験例1)
図9に示すような造形データをもとに、樹脂用3Dプリンタで、ポリ乳酸(PLA)製のモールド(ショアD硬さ:83)及び、エラストマー入りアクリル樹脂製のモールド(ショアD硬さ:34)を造形した。モールドは各部の厚みを1.0mmとし、外筒壁部の内径が80mmで内側の高さが70mmであり、内筒壁部の内側の高さが40mmである。それらの寸法は一定で、内筒壁部の外径が10mm~50mmの範囲内で異なる複数のモールドを作製し、試験に供した。
【0042】
モールドの内筒壁部内に設ける芯材として、実施例1では、円柱状のシリコーンゴム(シリコーン樹脂)製の芯材を用いた。実施例2では、円柱状のフッ素ゴム(フッ素樹脂)製の芯材を用いた。実施例3では、円柱状のクロロプレンゴム(クロロプレン樹脂)製の芯材を用いた。実施例4では、内筒壁部内にシリコーンシーラント(シリコーン樹脂)を注入し、これを硬化させて内筒壁部内で円柱状に形成した。実施例5では、芯材をモールドと同じポリ乳酸製とし、該芯材をモールドの内筒壁部と一体に形成した。
実施例1~5では、ポリ乳酸(PLA)製のモールドを用いた。実施例6は、エラストマー入りアクリル樹脂製のモールドを用いたことを除いて、実施例4と同様にした。
芯材の各樹脂材料のサンプルに対し、先述したように一軸圧縮試験を行ったところ、20%歪時の応力は、実施例1のシリコーンゴムで0.6MPaであり、実施例2のフッ素ゴムで1.6MPaであり、実施例3のクロロプレンゴムで1.1MPaであった。実施例4及び6のシリコーンシーラントは、その硬化後に一軸圧縮試験を行った結果、20%歪時の応力は実施例1のシリコーンゴムと同程度であった。
【0043】
比較例1では、アルミナ製の芯材を用いた。比較例2では、タングステンカーバイド製の芯材を用いた。比較例3では、炭素鋼(S45C)製の芯材を用いた。いずれの比較例1~3でも、ポリ乳酸(PLA)製のモールドを用いた。なお、比較例1~3で使用した芯材はいずれも高硬度のものであるため、上記一軸圧縮試験は実施しなかった。
【0044】
上記の実施例1~6及び比較例1~3のそれぞれについて、原料粉末として、平均粒径が80μmの純チタンのHDH粉(チタン含有量99.9質量%、トーホーテック株式会社製TC-150)をモールド内に充填し、これに対して490MPaで1minにわたる冷間等方圧加圧を行った。冷間等方圧加圧の後、モールド及び芯材を内部の原料粉末とともに電気炉で100℃まで加熱し、ペンチなどでモールドを剥離させて、チタン系圧粉体を得た。
【0045】
実施例1~6及び比較例1~3のいずれについても、冷間等方圧加圧で原料粉末は固まり、チタン系圧粉体を製造することができた。
【0046】
また、冷間等方圧加圧で得られたチタン系圧粉体で、モールドの環状壁部側に位置していた表面を目視にて確認した。その結果、当該表面のうち、芯材側である内周側の付近の表面部分が、その外周側の表面部分に比して隆起していたか否かについて表1に示す。
【0047】
【0048】
表1から解かるように、実施例1~6では隆起が生じていなかったのに対し、比較例1~3では隆起が生じていることが確認された。
【0049】
また、冷間等方圧加圧を経た後、電気炉で加熱する前に、チタン系圧粉体の凹部から芯材を容易に取り出すことができるか否かについても確認した。その結果を表2に示す。表2では、チタン系圧粉体の製造を2回又は3回行ったうちの、芯材を容易に取り出すことができた回数を、分数で示している。
【0050】
【0051】
表2に示すように、実施例1のシリコーンゴム、実施例2のフッ素ゴム及び、実施例4、6のシリコーンシーラントについては当該芯材を容易に取り出すことが可能であった。これは、それらの樹脂製の芯材では、取出し時に当該芯材が引っ張られた際に変形し、それによりモールドと芯材の密着性が低下して摩擦力が小さくなったことによるものと考えられる。
一方、実施例3のクロロプレンゴム、実施例5のモールドと一体のポリ乳酸、比較例1~3の金属を含む材料はいずれも、チタン系圧粉体の凹部からの芯材の取出しが困難であった。比較例1~3は、芯材が硬質であることから、取出し時に変形せずに摩擦が大きくなったことにより、取出しが困難になったと考えられる。実施例3や実施例5では、取出し時に芯材が引きちぎれて、取出しが困難になった。
【0052】
(試験例2)
図10に示すような複雑な形状のチタン系圧粉体101を製造した。このチタン系圧粉体101は、中心軸線に対し垂直方向に沿う断面の外輪郭形状がほぼ正八角形をなす全体として環状の形状を有し、中央の凹部102の同様の断面が、円形の周囲に外周側への半円状の窪み箇所103を等間隔に六つ形成した形状になるものである。なお、上記の外輪郭形状の正八角形の一辺に相当する外周面には、その外周面から外周側に延びる直方体状の突出部104が形成されている。なお、突出部104が形成される部位から原料粉末として、平均粒径が80μmの純チタンのHDH粉(チタン含有量99.9質量%、トーホーテック株式会社製TC-150)をモールド内に充填した。
【0053】
上記のチタン系圧粉体101の製造に用いたモールドは、樹脂用3Dプリンタで作製したポリ乳酸(PLA)製のものであり、そのショアD硬さは83であった。上記のチタン系圧粉体101の形状に対応する当該モールドは、外筒壁部の断面の上記正八角形の一辺の長さが55mmであり、外筒壁部の中心軸線に沿う方向の高さが30.5mmであり、突出部104に相当する部分の寸法が縦25mmで横25mmである。
【0054】
また、上記のモールドの内筒壁部は、外径が31.7mmの円筒の外面に、上記の窪み箇所103に対応する直径4.6mmのほぼ半円状断面の凹部が、周方向に等間隔に六つ形成されたものである。内筒壁部内に配置されて凹部102を形成する芯材は、シリコーンシーラント製のものとした。
【0055】
このようなモールド及び芯材により、
図10に示すチタン系圧粉体101を製造することも可能であったことから、この発明によれば、複雑な形状のチタン系圧粉体であっても良好に製造できることが解かった。
【0056】
(試験例3)
原料粉末の材質を変更し、実施例7ではTi-6Al-4V(チタン64合金)製圧粉体を、実施例8では純鉄(Fe)製圧粉体を、実施例9では純モリブデン(Mo)製圧粉体をそれぞれ製造したことを除いて、いずれの実施例7~9も先述した試験例1の実施例4と同様の条件とした。実施例7~9では、内筒壁部の外径が10mmであるモールドを用いた。
【0057】
その結果、実施例7~9のいずれの圧粉体でも、モールドの環状壁部側に位置していた表面における内周側(芯材側)の付近の表面部分は隆起していなかった。このことから、純チタン以外の他の材質の圧粉体であっても、芯材の近傍の圧粉体表面への隆起の発生を抑制できることが解かった。
【符号の説明】
【0058】
1、21、41 モールド
2、22、42 成形空間
3、23、43 外筒壁部
4、24、44 環状壁部
44a 孔部
5 内筒壁部
6 円盤状部材
11、31、51、71 芯材
61、81、91、101 チタン系圧粉体
62、82、92、102 凹部
83 隆起部
103 窪み箇所
104 突出部