(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】窒化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/587 20060101AFI20250307BHJP
【FI】
C04B35/587
(21)【出願番号】P 2021561497
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2020044044
(87)【国際公開番号】W WO2021107021
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019215103
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】真淵 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】若松 智
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/167879(WO,A1)
【文献】特開平03-177307(JP,A)
【文献】特開2015-086125(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146713(WO,A1)
【文献】特開2002-128569(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203695(WO,A1)
【文献】LI Yinsheng et al.,Enhanced thermal conductivity in Si3N4 ceramic with the addition of Y2Si4N6C,Journal of the American Ceramic Society,2018年,Vol.101 No.9,Page.4128-4136,DOI:10.1111/JACE.15544
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C01B 21/068
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β化率が80%以上、固溶酸素量が
0.1質量%以下、
全酸素量が1質量%以上10質量%以下、比表面積が5~20m
2/gの窒化ケイ素粉末と、酸素結合を持たない化合物
として希土類元素又はマグネシウム元素を含む炭窒化物系の化合物を含む焼結助剤とを含有し、総酸素量が1~15質量%、アルミニウム元素の総含有量が800ppm以下に調整された成形体を、不活性ガス雰囲気及び0MPa・G以上0.1MPa・G未満の圧力下、1200~1800℃の温度に加熱して窒化ケイ素を焼結することを特徴とする、窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記成形体が、窒化ケイ素粉末、焼結助剤、及び水を含む成形用組成物を成形したものである、請求項
1に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記窒化ケイ素粉末は、その平均粒径D
50が0.5~3μmであり、粒径0.5μm以下の粒子の占める割合が20~50質量%であり、かつ粒径1.0μm以上の粒子の占める割合が20~50質量%である、請求項1
又は2に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記焼結助剤が金属酸化物を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体の密度が1.95g/cm
3以上である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項6】
得られる窒化ケイ素焼結体のレーザーフラッシュ法により測定された熱伝導率が80W/mK以上である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項7】
得られる窒化ケイ素焼結体の絶縁破壊電圧が11kV以上である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項8】
得られる窒化ケイ素焼結体のRaが0.6μm以下である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素粉末に各種の焼結助剤を添加し、高温で焼結させた窒化ケイ素焼結体は、各種セラミックス焼結体の中でも、軽い、機械的強度が強い、耐薬品性が高い、電気絶縁性が高い、等の特徴があり、ボールベアリング等の耐摩耗用部材、高温構造用部材として用いられている。また助剤の種類や焼結条件を工夫することにより、熱伝導性も高めることが可能であるため、薄くて強度の高い放熱用基板材料としても使用されるようになってきた。
【0003】
窒化ケイ素粉末の合成法としては、シリカ粉末を原料として、炭素粉末存在下において、窒素ガスを流通させて窒化ケイ素を生成させる還元窒化法(例えば特許文献1)、金属ケイ素(シリコン粉末)と窒素とを高温で反応させる直接窒化法(例えば特許文献2)、ハロゲン化ケイ素とアンモニアとを反応させるイミド分解法等が知られている。
さらに、自己燃焼法(Self-Propagating High Temperature Synthesis, SHS法)を利用する直接窒化法により金属窒化物を合成する方法も知られている。自己燃焼法は、燃焼合成法とも呼ばれ、シリコン粉末を含む原料粉末を反応容器内に導入し、窒素雰囲気下で原料粉末の一部を強熱着火して窒化反応を生じさせて、該窒化反応による発生する窒化燃焼熱を周囲に伝播させることで、全体を反応させる合成法であり、比較的安価な合成法として知られている。
【0004】
窒化ケイ素粉末の結晶形態としては、α型とβ型とが存在することが知られている。例えば非特許文献1に示すように、α型窒化ケイ素粉末は、焼結過程で焼結助剤に溶解してβ型として再析出し、この結果として、緻密で熱伝導率の高い焼結体を得ることができるため、現在広く使用されている。
【0005】
しかしながら、α型窒化ケイ素粉末を製造する場合は、その製造プロセスが複雑となりやすい。例えば直接窒化法では、β型が生成しないように、低温で長時間かけて窒化する必要があるため、製造コストが高くなる(非特許文献2)。
【0006】
このような背景から、比較的低コストで製造されるβ型窒化ケイ素粉末を用いて、緻密で熱伝導率の高い焼結体を製造する技術が望まれている。
特許文献3には、高熱伝導窒化ケイ素セラミックス並びにその製造方法に関する発明が記載されており、その実施例では、平均粒径0.5μmのβ型窒化ケイ素粉末と、酸化イッテリビウム及び窒化ケイ素マグネシウム粉末からなる焼結助剤とを含む成形体を、10気圧の加圧窒素中、1900℃で2~24時間焼結を行うことで、緻密で熱伝導率の高い焼結体が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-161376号公報
【文献】特開平10-218612号公報
【文献】特開2002-128569号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本舶用機関学会誌、1993年9月、第28巻、第9号、p548-556
【文献】Journal of the Ceramic Society of Japan 100[11]1366-1370(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に開示されているβ型窒化ケイ素粉末の焼結体は、上記したように10気圧の加圧窒素中で製造している。一般に、加圧下で焼成する場合は、原料の窒化ケイ素の分解を抑制しやすくなり、そのため1800℃超の高温で焼成することが可能となる。このような高温高圧下において焼成する場合は、生成する焼結体が緻密化されやすく、また熱伝導率を低下させる要因の一つである窒化ケイ素粒子内部に固溶している不純物酸素量を低減することが可能であり、熱伝導率の高い焼結体が得やすいことが知られている。
しかしながら、特許文献3のように加圧下で焼成を行う場合は、製造時に耐圧容器を用いる必要がある。そのため、製造に設備的な制約があり、かつ製造コストが高くなる問題がある。また、特許文献3では、β型窒化ケイ素粉末を使用し、かつ耐圧容器を用いる必要のない常圧(大気圧)又は略常圧(大気圧近傍の圧力)の条件下で、熱伝導率の高い焼結体を得る方法について何ら記載も示唆もされていない。
【0010】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、β化率の高い窒化ケイ素粉末を原料として用い、しかもこれを常圧又は略常圧で焼結させるという、一般的には高熱伝導率の焼結体を得難いと認識されている条件下において、高熱伝導率の焼結体を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた。その結果、β化率、固溶酸素量、及び比表面積が特定の範囲にある窒化ケイ素粉末と、酸素結合を持たない化合物を含む焼結助剤とを含有し、かつ総酸素量とアルミニウム元素の総含有量を特定範囲とした成形体を用い、これを常圧又は略常圧下において特定温度範囲で焼成することで、熱伝導率の高い焼結体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の要旨は、以下の[1]~[10]である。
[1]β化率が80%以上、固溶酸素量が0.2質量%以下、比表面積が5~20m2/gの窒化ケイ素粉末と、酸素結合を持たない化合物を含む焼結助剤とを含有し、総酸素量が1~15質量%、アルミニウム元素の総含有量が800ppm以下に調整された成形体を、不活性ガス雰囲気及び0MPa・G以上0.1MPa・G未満の圧力下、1200~1800℃の温度に加熱して窒化ケイ素を焼結することを特徴とする、窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[2]前記窒化ケイ素粉末の全酸素量が1質量%以上である、上記[1]に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[3]前記成形体が、窒化ケイ素粉末、焼結助剤、及び水を含む成形用組成物を成形したものである、上記[1]又は[2]に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[4]前記窒化ケイ素粉末は、その平均粒径D50が0.5~1.2μmであり、粒径0.5μm以下の粒子の占める割合が20~50質量%であり、かつ粒径1.0μm以上の粒子の占める割合が20~50質量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[5]前記焼結助剤が金属酸化物を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[6]前記焼結助剤に含まれる酸素結合を持たない化合物が、希土類元素又はマグネシウム元素を含む炭窒化物系の化合物である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[7]前記成形体の密度が1.95g/cm3以上である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[8]得られる窒化ケイ素焼結体のレーザーフラッシュ法により測定された熱伝導率が80W/mK以上である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[9]得られる窒化ケイ素焼結体の絶縁破壊電圧が11kV以上である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[10]得られる窒化ケイ素焼結体のRaが0.6μm以下である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、β化率の高い窒化ケイ素粉末を用い、かつ常圧又は略常圧で焼成させる場合であっても、熱伝導率の高い窒化ケイ素焼結体を得ることができる窒化ケイ素焼結体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[窒化ケイ素焼結体の製造方法]
本発明の窒化ケイ素焼結体の製造方法は、β化率が80%以上、固溶酸素量が0.2質量%以下、比表面積が5~20m2/gの窒化ケイ素粉末と、酸素結合を持たない化合物を含む焼結助剤とを含有し、総酸素量が1~15質量%、アルミニウム元素の総含有量が800ppm以下に調整された成形体を、不活性ガス雰囲気及び0.1MPa・G以上0.5MPa・G未満の圧力下、1200~1800℃の温度に加熱して窒化ケイ素を焼結することを特徴とする。
【0015】
〔成形体〕
本発明の窒化ケイ素焼結体の製造方法において使用する成形体について説明する。該成形体は、以下に説明する特定の窒化ケイ素粉末及び焼結助剤を含有する。
【0016】
<窒化ケイ素粉末>
(β化率)
成形体に含まれる窒化ケイ素粉末のβ化率は80%以上である。β化率が80%以上の窒化ケイ素粉末は、厳密な製造条件を設定しなくても得ることができるため、比較的低コストで製造することができる。したがって、β化率の高い窒化ケイ素粉末を使用することで、窒化ケイ素焼結体の全体の製造コストを抑制することができる。また、β化率を高く設定することで、α窒化ケイ素粒子が焼成時にβ窒化ケイ素粒子に変態を起こす際に取り込む酸素量をさらに少なく抑えることが出来る。ここで窒化ケイ素粉末のβ化率は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。
【0017】
なお、窒化ケイ素粉末のβ化率とは、窒化ケイ素粉末におけるα相とβ相の合計に対するβ相のピーク強度割合[100×(β相のピーク強度)/(α相のピーク強度+β相のピーク強度)]を意味し、CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD)測定により求められる。より詳細には、C.P.Gazzara and D.R.Messier:Ceram.Bull.,56(1977),777-780に記載された方法により、窒化ケイ素粉末のα相とβ相の重量割合を算出することで求められる。
【0018】
(固溶酸素量)
窒化ケイ素粉末の固溶酸素量は、0.2質量%以下である。固溶酸素量が0.2質量%を超えると、本発明の特徴である焼成条件で焼成して得られる窒化ケイ素焼結体の熱伝導率が低くなる。高熱伝導率の窒化ケイ素焼結体を得る観点から、窒化ケイ素粉末の固溶酸素量は、好ましくは0.1質量%以下である。
ここで、固溶酸素量とは、窒化ケイ素粉末の粒子内部に固溶された酸素(以下、内部酸素ともいう)のことを意味し、粒子表面に不可避的に存在するSiO2などの酸化物由来の酸素(以下、外部酸素ともいう)は含まない。
なお、固溶酸素量は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
窒化ケイ素粉末の固溶酸素量の調整方法は、特に限定されないが、例えば、窒化ケイ素粉末を製造する際に、高純度の原料を用いるとよい。例えば、直接窒化法で窒化ケイ素粉末を製造する場合は、使用する原料として、内部に酸素が固溶する要因が無いシリコン粉末を使用することが好ましく、具体的には、半導体グレードのシリコン由来、例えば、上記シリコンを切断等の加工する際に発生する切削粉を代表とするシリコン粉末を使用することが好ましい。上記半導体グレードのシリコンは、ベルジャー式反応容器内で、高純度のトリクロロシランと水素とを反応させる、いわゆる「ジーメンス法」により得られる多結晶シリコンが代表的である。
【0020】
(比表面積)
窒化ケイ素粉末の比表面積は5~20m2/gである。窒化ケイ素粉末の比表面積が20m2/gを超えると、固溶酸素量を低くすることが難しくなり、比表面積が5m2/g未満であると、高密度で強度が高い窒化ケイ素焼結体が得にくくなる。窒化ケイ素粉末の比表面積は、好ましくは7~20m2/gであり、より好ましくは12~15m2/gである。
なお、本発明において比表面積は、窒素ガス吸着によるBET1点法を用いて測定したBET比表面積を意味する。
【0021】
(平均粒径)
窒化ケイ素粉末の平均粒径D50は、0.5~3μmであることが好ましく、0.7~1.7μmであることがより好ましい。このような平均粒径の窒化ケイ素粉末を用いると、焼結が一層進行し易くなる。平均粒径D50は、レーザ回折散乱法により測定した50%体積基準での値である。
窒化ケイ素粉末における粒径0.5μm以下の粒子の割合は、好ましくは20~50質量%であり、より好ましくは20~40質量%である。また、窒化ケイ素粉末における粒径1.0μm以上の粒子の割合は、好ましくは20~50質量%であり、より好ましくは20~40質量%である。このような粒度分布を有する窒化ケイ素粉末を用いると、緻密で熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体を得やすくなる。
この理由は、定かではないが、β窒化ケイ素粒子は、α窒化ケイ素粒子とは異なり焼成中の溶解再析出は起こりにくく焼成初期の段階で微細粒子と粗大粒子を一定のバランスに整えておくことでより緻密な焼結体を得ることが可能となるものと考えられる。
【0022】
(全酸素量)
窒化ケイ素粉末の全酸素量は、特に限定されないが1質量%以上であることが好ましい。全酸素量とは、上記した固溶酸素(内部酸素)量と、外部酸素量との合計である。全酸素量がこれら下限値以上であると、例えば、粒子表面の酸化ケイ素などにより焼結が促進されやすくなるという効果が発揮される。また、窒化ケイ素粉末の全酸素量は、10質量%以下であることが好ましい。
なお、窒化ケイ素粉末の全酸素量が1質量%以上であったとしても、固溶酸素量が上記したように一定値以下である限りは、焼結体の熱伝導性を高くすることができる。
窒化ケイ素粉末の全酸素量は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0023】
成形体中の窒化ケイ素粉末の量は、成形体全量基準で、好ましくは80質量%以上、好ましくは、90質量%以上である。
【0024】
<窒化ケイ素粉末の製造>
窒化ケイ素粉末の製造方法は、上述した特性を有する窒化ケイ素粉末を得られる方法であれば特に限定されない。窒化ケイ素粉末の製造方法としては、例えば、シリカ粉末を原料として、炭素粉末存在下において、窒素ガスを流通させて窒化ケイ素を生成させる還元窒化法、シリコン粉末と窒素とを高温で反応させる直接窒化法、ハロゲン化ケイ素とアンモニアとを反応させるイミド分解法などを適用できるが、上述した特性を有する窒化ケイ素粉末を製造しやすい観点から、直接窒化法が好ましく、中でも自己燃焼法を利用する直接窒化法(燃焼合成法)がより好ましい。
燃焼合成法は、シリコン粉末を原料として使用し、窒素雰囲気下で原料粉末の一部を強制着火し、原料化合物の自己発熱により窒化ケイ素を合成する方法である。燃焼合成法は、公知の方法であり、例えば、特開2000-264608号公報、国際公開第2019/167879号などを参照することができる。
【0025】
<焼結助剤>
本発明における成形体は、酸素結合を持たない化合物を含む焼結助剤を含有する。このような焼結助剤を用いることにより、得られる窒化ケイ素焼結体の熱伝導率の低下を防止することができる。
上記酸素結合を持たない化合物としては、希土類元素又はマグネシウム元素を含む炭窒化物系の化合物(以下、特定の炭窒化物系の化合物ともいう)が好ましい。このような、特定の炭窒化物系の化合物を用いることで、より効果的に熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体を得やすくなる。この理由は定かではないが、上記特定の炭窒化物系の化合物が、窒化ケイ素粉末に含まれる酸素を吸着するゲッター剤として機能し、結果として熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体が得られるものと推定される。
【0026】
希土類元素を含む炭窒化物系の化合物において、希土類元素としては、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Sm(サマリウム)、Ce(セリウム)などが好ましい。
【0027】
希土類元素を含む炭窒化物系の化合物としては、例えば、Y2Si4N6C、Yb2Si4N6C、Ce2Si4N6C、などが挙げられ、これらの中でも、熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体を得やすくする観点から、Y2Si4N6C、Yb2Si4N6Cが好ましい。
マグネシウム元素を含む炭窒化物系の化合物としては、例えば、MgSi4N6Cなどが挙げられる。
これら特定の炭窒化物系の化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記した希土類元素又はマグネシウム元素を含む炭窒化物系の化合物の中でも、特に好ましい化合物は、Y2Si4N6C、MgSi4N6Cである。
【0029】
また、焼結助剤は、上記酸素結合を持たない化合物に加えて、さらに金属酸化物を含むことができる。焼結助剤が、金属酸化物を含有することで、窒化ケイ素粉末の焼結が進行しやすくなり、より緻密で強度が高い焼結体を得やすくなる。
金属酸化物としては、例えば、イットリア(Y2O3)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO)などが挙げられる。これらの中でも、イットリアが好ましい。金属酸化物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
焼結助剤に含まれる、前記特定の炭窒化物系の化合物を代表とする酸素を持たない化合物と金属酸化物との質量比(酸素を持たない化合物/金属酸化物)は、好ましくは0.2~4であり、より好ましくは0.6~2である。このような範囲であると、緻密で、熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体を得やすくなる。
【0031】
また、成形体における焼結助剤の含有量は、窒化ケイ素粉末100質量部に対して、好ましくは5~20質量部であり、より好ましくは7~10質量部である。
【0032】
<バインダー>
成形体は、バインダーを使用して成形することができる。この場合、成形体は後述する成形用組成物を成形し、これを必要に応じて乾燥し、脱脂を行うことによりバインダーを除去して得ることができる。
バインダーとしては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メチルセルロース、アルギン酸、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0033】
成形体の製造に用いる成形用組成物中のバインダーの含有量は、窒化ケイ素粉末100質量部に対して、好ましくは1~30質量部であり、成形方法に応じて適宜その割合を決定すればよい。
【0034】
<総酸素量>
本発明において、成形体の総酸素量は、1~15質量%である。ここで、上記成形体は、前記説明からも理解されるように、焼結に供する状態のものをいい、成形体の製造に使用したバインダー、溶媒等、焼結に供する前に乾燥や脱脂等の処理により除去されるものは含まない状態のものをいう。総酸素量が15質量%を超えると、酸素の影響により、得られる窒化ケイ素焼結体の熱伝導率が低下する。また、総酸素量が1質量%未満であると、焼結が進行し難く、緻密な窒化ケイ素焼結体が得られず、熱伝導率及び強度が低下してしまう。成形体の総酸素量は、好ましくは2~10質量%であり、より好ましくは3~5質量%である。総酸素量は、使用する窒化ケイ素の全酸素量、及び焼結助剤の種類、並びに成形方法などを適宜調節することにより所望の範囲とすることができる。
【0035】
<アルミニウム元素の総含有量>
成形体のアルミニウム元素の総含有量(質量)は800ppm以下である。すなわち、本発明において使用する成形体は、アルミニウム元素の量が非常に少ないものであり、これにより高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を得ることが可能となる。成形体のアルミニウム元素の総含有量は、好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは200ppm以下である。
【0036】
<成形体密度>
成形体の密度は、特に限定されないが、好ましくは1.95g/cm3以上であり、より好ましくは1.98g/cm3以上である。成形体の密度がこれら下限値以上であると、熱伝導率に優れる窒化ケイ素焼結体を得やすくなる。
【0037】
〔成形体の製造〕
本発明において使用する成形体の製造方法は特に限定されず、例えば、窒化ケイ素粉末、及び焼結助剤を少なくとも含有する成形用組成物を、公知の成形手段によって成形する方法が挙げられる。公知の成形手段としては、例えば、プレス成形法、押出し成形法、射出成形法、シート成形法(ドクターブレード法)などが挙げられる。
【0038】
成形しやすさの観点から、成形用組成物にさらに、バインダーを配合してもよい。なお、バインダーの種類は前記したとおりである。
なお、成形用組成物中における窒化ケイ素粉末100質量部に対する焼結助剤の量やバインダーの量については、成形体において説明した量と同様である。
【0039】
また、成形用組成物には、取り扱い易さや、成形のし易さなどの観点から、溶剤を含有させてもよい。溶剤としては、特に限定されず、アルコール類、炭化水素類などの有機溶剤、水などを挙げることができるが、本発明においては、水を用いることが好ましい。すなわち、窒化ケイ素粉末、焼結助剤、及び水を含む成形用組成物を成形して、成形体を得ることが好ましい。溶剤として水を用いる場合は、有機溶剤を用いる場合と比較して、環境負荷が低減され好ましい。
【0040】
一般には、成形用組成物に含まれる溶剤として水を用いると、成形体を焼成して得られる窒化ケイ素焼結体の内部に水由来の酸素が残存しやすく、そのため、熱伝導率が低下しやすい。これに対して、本発明では、前記固溶酸素量が一定値以下の窒化ケイ素粉末を用いることなどにより溶剤として水を用いて総酸素量が増加したとしても、前記総酸素量を制御することで熱伝導率の高い焼結体を得ることができる。
【0041】
〔焼結方法〕
本発明の窒化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記した成形体を一定の条件下で焼成し、窒化ケイ素を焼結させる。以下、焼成する際の条件について説明する。
焼成は、不活性ガス雰囲気下において行う。不活性ガス雰囲気下とは、例えば、窒素雰囲気下、又はアルゴン雰囲気下などを意味する。
【0042】
また、このような不活性ガス雰囲気下において、0MPa・G以上0.1MPa・G未満の圧力下で焼成を行う。圧力は、好ましくは0MPa・G以上0.05MPa・G以下であり、より好ましくは0MPa・G(すなわち常圧(大気圧))である。ここで、圧力単位のMPa・Gの末尾のGはゲージ圧力を意味する。
一般に、このような常圧又は略常圧領域の圧力であると、窒化ケイ素が分解し易いため、温度を例えば1800℃超に調整できず、そのため、緻密化され、熱伝導率の高い窒化ケイ素焼結体を得ることが難しかった。これに対して、本発明の製造方法では、上記のように特定の成形体を用いているため、上記圧力範囲においても、熱伝導率の高い窒化ケイ素焼結体を得ることができる。
【0043】
また、常圧又は略常圧の条件で、窒化ケイ素を焼結できるため、圧力容器(耐圧容器)内で製造する必要がなくなる。そのため、製造設備を簡略化することができ、製造コストを低下させることが可能となる。具体的は、焼成を、マッフル炉、管状炉などのバッチ炉で行うこともできるし、プッシャー炉などの連続炉で行うことも可能となるため、多様な製造方法が適用でき、生産性が向上する。
【0044】
成形体は、1200~1800℃の温度に加熱して焼成させる。温度が1200℃未満であると窒化ケイ素の焼結が進行し難くなり、1800℃を超えると窒化ケイ素が分解しやすくなる。このような観点から、焼成させる際の加熱温度は、1600~1800℃が好ましい。
また、焼成時間は、特に限定されないが、3~20時間程度とすることが好ましい。
【0045】
なお、前記成形体の形成にバインダーを使用する場合、バインダーなどの有機成分の除去は、脱脂工程を設けて行うことが好ましい。上記脱脂条件は、特に限定されないが、例えば、成形体を空気中又は窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で450~650℃に加熱することにより行えばよい。
【0046】
[窒化ケイ素焼結体の物性]
本発明の製造方法で得られる窒化ケイ素焼結体は、高い熱伝導率を示す。得られる窒化ケイ素焼結体の熱伝導率は、好ましくは80W/mK以上であり、より好ましくは100W/mK以上である。
熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定することができる。
【0047】
本発明の製造方法で得られる窒化ケイ素焼結体の絶縁破壊電圧は、好ましくは11kV以上であり、より好ましくは13kV以上である。このような絶縁破壊電圧を備える窒化ケイ素焼結体は、絶縁破壊が生じ難く、製品としての信頼性に優れる。
【0048】
本発明の製造方法により得られる窒化ケイ素焼結体は、マイルドな条件(常圧又は略常圧下で、かつ通常よりも温度が低い条件)で焼成されているため、表面の凹凸が少ない。具体的には、得られる窒化ケイ素焼結体のRa(算術平均粗さ)は、好ましくは0.6μm以下であり、より好ましくは0.55μm以下である。このようなRaを有する窒化ケイ素焼結体は、例えば金属などの使用対象物に対する貼付性が良好となる。さらに、窒化ケイ素焼結体を必要に応じて鏡面研磨する際の、作業時間を短くすることができる。
Raは、表面粗さ計により測定することができる。
また、前記熱伝導率、絶縁破壊電圧、Raの測定は、窒化ケイ素焼結体の表面をブラスト処理して、焼結時に焼結体に付着した離型剤等の付着物を除去した後に行う。
【実施例】
【0049】
以下、本発明をさらに具体的に説明するため実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、各種物性の測定は以下の方法によって行ったものである。
【0050】
(1)窒化ケイ素粉末のβ化率
窒化ケイ素粉末のβ化率は、CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD)測定により求めた。具体的には、C.P.Gazzara and D.R.Messier:Ceram.Bull.,56(1977),777-780に記載された方法により、窒化ケイ素粉末のα相とβ相の重量割合を算出し、β化率を求めた。
【0051】
(2)窒化ケイ素粉末の比表面積
窒化ケイ素粉末の比表面積は、(株)マウンテック製のBET法比表面積測定装置(Macsorb HM model-1201)を用いて、窒素ガス吸着によるBET1点法を用いて測定した。
なお、上述した比表面積測定を行う前に、測定する窒化ケイ素粉末は事前に空気中で600℃、30分熱処理を行い、粉末表面に吸着している有機物を除去した。
【0052】
(3)窒化ケイ素粉末の固溶酸素量及び全酸素量
窒化ケイ素粉末の固溶酸素量は、不活性ガス融解-赤外線吸収法により測定した。測定は、酸素・窒素分析装置(HORIBA社製「EMGA-920」)により行った。
試料として各実施例、比較例で使用した窒化ケイ素粉末25mgをスズカプセルに封入(スズカプセルはLECO製のTin Cupsuleを使用)しグラファイト坩堝に導入し、5.5kWで20秒間加熱し、吸着ガスの脱ガスを行った後、0.8kWで10秒、0.8kWから4kWまで350秒かけて昇温しその間に発生した二酸化炭素の量を測定し、酸素含有量に換算した。350秒の昇温中、初期に発生する酸素が、窒化ケイ素粒子の表面に存在する酸化物由来の酸素(外部酸素)であり、遅れて発生する酸素が窒化ケイ素の結晶に固溶する固溶酸素(内部酸素)に相当することから、予め測定したバックグランドを差し引いたこれら2つの測定ピークの谷に相当する部分から垂線を引き、2つのピークを分離した。それぞれのピーク面積を比例配分することより、固溶酸素(内部酸素)量と、外部酸素量とを算出した。
【0053】
(4)窒化ケイ素粉末の粒子径
(i)試料の前処理
試料の窒化ケイ素粉末の前処理として、窒化ケイ素粉末を空気中で約500℃の温度で2時間焼成処理を行った。上記焼成処理は、粒子径測定において、窒化ケイ素粉末の表面酸素量が少ないか、粉砕時の粉砕助剤等によって粒子表面が疎水性物質で覆われ、粒子そのものが疎水性を呈している場合があり、このような場合、水への分散が不十分となって再現性のある粒子径測定が困難となることがある。そのため、試料の窒化ケイ素粉末を空気中で200℃~500℃程度の温度で数時間焼成処理することによって窒化ケイ素粉末に親水性を付与し、水溶媒に分散しやすくなって再現性の高い粒子径測定が可能となる。この際、空気中で焼成しても測定される粒子径にはほとんど影響がないことを確認している。
【0054】
(ii)粒子径の測定
最大100mlの標線を持つビーカー(内径60mmφ、高さ70mm)に、90mlの水と濃度5質量%のピロリン酸ナトリウム5mlを入れてよく撹拌した後、耳かき一杯程度の試料の窒化ケイ素粉末を投入し、超音波ホモイナイザー((株)日本精機製作所製US-300E、チップ径26mm)によってAMPLITUDE(振幅)50%(約2アンペア)で2分間、窒化ケイ素粉末を分散させた。
なお、上記チップは、その先端がビーカーの20mlの標線の位置まで挿入して分散を行った。
次いで、得られた窒化ケイ素粉末の分散液について、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製マイクロトラックMT3300EXII)を用いて粒度分布を測定した。測定条件は、溶媒は水(屈折率1.33)を選択し、粒子特性は屈折率2.01、粒子透過性は透過、粒子形状は非球形を選択した。上記の粒子径分布測定で測定された粒子径分布の累積カーブが50%になる粒子径を平均粒子径(平均粒径D50)とする。
【0055】
(5)成形体の総酸素量
成形体の総酸素量は、不活性ガス融解-赤外線吸収法により測定した。測定は、酸素・窒素分析装置(HORIBA社製「EMGA-920」)により行った。
試料として成形体15mgをスズカプセルに封入(スズカプセルはLECO製のTin Cupsuleを使用)しグラファイト坩堝に導入し、5.5kWで20秒間加熱し、さらに5.0kWで20秒間加熱し吸着ガスの脱ガスを行った後、5.0kWで75秒加熱しその間に発生した二酸化炭素の量を測定し、酸素含有量に換算した。
【0056】
(6)成形体の密度
自動比重計(新光電子(株)製:DMA-220H型)を使用してそれぞれの成形体について密度を測定し、15ピースの平均値を成形体の密度とした。
【0057】
(7)成形体のアルミニウム元素の総含有量
成形体中のアルミニウム元素の総含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフック社製「iCAP 6500 DUO」)を用いて測定した。
【0058】
(8)窒化ケイ素焼結体の熱伝導率
窒化ケイ素焼結体の熱伝導率は、京都電子工業製LFA-502を用いてレーザーフラッシュ法により測定した。熱伝導率は、熱拡散率と焼結体密度と焼結体比熱の掛け算によって求められる。尚、窒化ケイ素焼結体の比熱は0.68(J/g・K)の値を採用した。焼結体密度は、自動比重計(新光電子(株)製:DMA-220H型)を用いて測定した。
なお、熱伝導率の測定は、窒化ケイ素焼結体の表面をブラスト処理した後、表面にAuコート及びカーボンコートをした後に行った。
【0059】
(9)窒化ケイ素焼結体の絶縁破壊電圧
JIS C2110に準じて、絶縁破壊電圧を測定した。具体的には、絶縁耐圧測定装置装置(計測技術研究所社製「TK-O-20K」)を用いて、窒化ケイ素焼結体に電圧を加え、絶縁破壊が生じたときの電圧を測定した。
【0060】
(10)窒化ケイ素焼結体のRa(算術平均粗さ)
窒化ケイ素焼結体のRaは、表面粗さ測定器(東京精密株式会社製、「サーフコム480A」)を用いて、評価長さ2.5mm、測定速度0.3mm/sで針を走査させて、Raを測定した。
なお、窒化ケイ素焼結体は、表面をブラスト処理して離型剤等を除去したものを用いた。
【0061】
各実施例、及び比較例においては、次の各原料を使用した。
<窒化ケイ素粉末>
表1に示す窒化ケイ素粉末A、B、Cを準備した。これらは、以下の方法により製造した。
【0062】
(窒化ケイ素粉末Aの製造)
シリコン粉末(半導体グレード、平均粒径5μm)と、希釈剤である窒化ケイ素粉末(平均粒径1.5μm)とを混合し、原料粉末(Si:80質量%、Si3N4:20質量%)を得た。該原料粉末を反応容器に充填し、原料粉末層を形成させた。次いで、該反応容器を着火装置とガスの給排機構を有する耐圧性の密閉式反応器内に設置し、反応器内を減圧して脱気後、窒素ガスを供給して窒素置換した。その後、窒素ガスを除々に供給し、0.7MPaまで上昇せしめた。所定の圧力に達した時点(着火時)での原料粉末の嵩密度は0.5g/cm3であった。
その後、反応容器内の原料粉末の端部に着火し、燃焼合成反応を行い、窒化ケイ素よりなる塊状生成物を得た。得られた塊状生成物を、お互いに擦り合わせることで解砕した後、振動ミルに適量を投入して6時間の微粉砕を行った。なお、微粉砕機及び微粉砕方法は、常法の装置及び方法を用いているが、重金属汚染防止対策として粉砕機の内部はウレタンライニングを施し、粉砕メディアには窒化ケイ素を主剤としたボールを使用した。また微粉砕開始直前に粉砕助剤としてエタノールを1質量%添加し、粉砕機を密閉状態として微粉砕を行い、次いで、空気中で加熱して酸化処理を行い、全酸素濃度を調整して、窒化ケイ素粉末Aを得た。得られた窒化ケイ素粉末Aの測定結果を表1に示した。
【0063】
(窒化ケイ素粉末Bの製造)
窒化ケイ素粉末Bとして、市販の窒化ケイ素粉末を窒素雰囲気中で加熱して表1に示す窒化ケイ素粉末を準備した。
【0064】
(窒化ケイ素粉末Cの製造)
前記窒化ケイ素粉末Aの製造方法において、酸化処理を行わなかった以外は、同様にして窒化ケイ素粉末Cを得た。得られた窒化ケイ素粉末Cの測定結果を表1に示した。
【表1】
【0065】
<焼結助剤>
1.酸素結合を持たない化合物
Y2Si4N6C粉末については、イットリア(信越化学工業株式会社製)、窒化ケイ素粉末(上記記載の自社製粉末)および炭素粉末(三菱化学製)を、下記反応式を用い加熱合成を行い作製した。
8Si3N4+6Y2O3+15C+2N2→6Y2Si4N6C+9CO2
MgSi4N6C粉末についても同様に、下記反応式を用いて加熱合成を行い作製した。
Si3N4+MgSiN2+C→MgSi4N6C
2.金属酸化物
イットリア(Y2O3)・・信越化学工業株式会社製
【0066】
<バインダー>
バインダーとして、水系樹脂バインダーであるポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビ・ポバール株式会社)を用いた。
【0067】
[実施例1]
窒化ケイ素粉末A 100質量部、酸素結合を含まない化合物Y2Si4N6C 2質量部、MgSi4N6C 5質量部、イットリア3質量部、秤量し、水を分散媒として樹脂ポットと窒化ケイ素ボールを用いて、24時間ボールミルで粉砕混合を行った。なお、水はスラリーの濃度が60wt%となるように予め秤量し、樹脂ポット内に投入した。粉砕混合後、水系樹脂バインダーを22質量部添加し、さらに12時間混合を行いスラリー状の成形用組成物を得た。次いで、該成形用組成物を真空脱泡機(サヤマ理研製)を用いて粘度調整を行い、塗工用スラリーを作製した。その後、この粘度調整した成形用組成物をドクターブレード法によりシート成形を行い、幅75cm、厚さ0.42mmtのシート成形体を得た。
上記の通り得られたシート成形体を、乾燥空気中550℃の温度で脱脂処理し、脱脂された成形体を得た。得られた成形体の物性を表2に示した。
その後、該脱脂後の成形体を焼成容器に入れて、窒素雰囲気及び0.02MPa・Gの圧力下において、1780℃で9時間焼成を行い、窒化ケイ素焼結体を得た。焼結体の物性を表2に示した。
【0068】
[比較例1]
実施例1で用いた窒化ケイ素粉末Aを窒化ケイ素粉末Bに変更した以外は、実施例1と同様にして、窒化ケイ素焼結体を得た。焼結体の物性を表2に示した。
【0069】
[実施例2]
前記実施例1において、焼結助剤の量を表2に示すように変更して、表2に示す総酸素量、成形体密度とし、また、焼成温度を1740℃とした以外は、同様にして窒化ケイ素焼結体を得た。焼結体の物性を表2に示した。
【0070】
[実施例3]
前記実施例1において、窒化ケイ素粉末として、窒化ケイ素粉末Cを使用し、焼結助剤の量を調整して総酸素量と成形体密度を表2に示すように変えた以外は、同様にして窒化ケイ素焼結体を得た。焼結体の物性を表2に示した。
【0071】
【0072】
各実施例の結果から明らかなように、特定の成形体を用いた場合には、原料として用いた窒化ケイ素粉末のβ化率が高く、かつ焼成時の圧力が低い場合であっても、熱伝導率の高い焼結体を得られることが分かった。
これに対して、本発明の要件を満足しない成形体を用いた場合には、焼成時の圧力が低い場合において、熱伝導率の高い焼結体を得ることができなかった。