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特許7645834追尾装置、追尾方法、及び追尾プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】追尾装置、追尾方法、及び追尾プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/66 20060101AFI20250307BHJP
   F41G 7/20 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
G01S13/66
F41G7/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022031501
(22)【出願日】2022-03-02
(65)【公開番号】P2023127671
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 里穂
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-144092(JP,A)
【文献】特開2009-128298(JP,A)
【文献】特開2021-004737(JP,A)
【文献】特開2003-161778(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0128138(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動している目標の位置と経路との少なくともいずれかを推定する追尾装置であって、
複数の運動モデルを有するフィルタが有する各運動モデルが有する各パラメータを対象パラメータとしたとき、今回の対象時刻における前記目標の観測値を用いて次回の対象時刻における前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを予測する際に、
前記今回の対象時刻における前記目標の観測値に対応する値であって、前記対象パラメータに対応する値である今回値と、前回の対象時刻において前記今回の対象時刻における前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを予測した結果に対応する値であって、前記対象パラメータに対応する値である前回値との差に基づいて、前記対象パラメータを選定パラメータとするか否かを決定するモデル選別部と、
前記対象パラメータが前記選定パラメータとされた場合に前記対象パラメータを前記対象パラメータに対応する運動モデルのパラメータとし、前記対象パラメータが前記選定パラメータとされていない場合に、前記今回値を、前記フィルタが推定する状態量とする平滑部と
を備える追尾装置。
【請求項2】
前記モデル選別部は、前記対象パラメータに対応する今回値と、前記対象パラメータに対応する前回値との間の距離が閾値未満である場合に、前記対象パラメータを前記選定パラメータとすることを決定する請求項1に記載の追尾装置。
【請求項3】
前記モデル選別部は、前記対象パラメータに対応する今回値と、前記対象パラメータに対応する前回値とに対応する変動率の大きさの順位が、前記対象パラメータに対応する運動モデルが有する全てのパラメータの各々に対応する変動率の大きさの中において、閾値よりも下である場合に前記対象パラメータを前記選定パラメータとすることを決定する請求項1に記載の追尾装置。
【請求項4】
前記追尾装置は、さらに、
前記前回の対象時刻において前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを推定した際に算出した各運動モデルに対応する平滑値を、各運動モデルに対応する信頼度に基づいて統合することによって統合平滑値を算出し、前記前回の対象時刻において前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを推定した際に算出した各運動モデルに対応する平滑誤差共分散行列を、各運動モデルに対応する信頼度に基づいて統合することによって統合平滑誤差共分散行列を算出する統合部と、
算出された統合平滑値と、算出された統合平滑誤差共分散行列とに基づいて、前記次回の対象時刻における前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを予測する際に用いられるフィルタが有する運動モデルを選定するモデル切り替え部と
を備える請求項1から3のいずれか1項に記載の追尾装置。
【請求項5】
前記フィルタは、インタラクティング多重モデルのフィルタである請求項1から4のいずれか1項に記載の追尾装置。
【請求項6】
移動している目標の位置と経路との少なくともいずれかをコンピュータが推定する追尾方法であって、複数の運動モデルを有するフィルタが有する各運動モデルが有する各パラメータを対象パラメータとしたとき、今回の対象時刻における前記目標の観測値を用いて次回の対象時刻における前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを予測する際に、
前記コンピュータが、前記今回の対象時刻における前記目標の観測値に対応する値であって、前記対象パラメータに対応する値である今回値と、前回の対象時刻において前記今回の対象時刻における前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを予測した結果に対応する値であって、前記対象パラメータに対応する値である前回値との差に基づいて、前記対象パラメータを選定パラメータとするか否かを決定し、
前記コンピュータが、前記対象パラメータが前記選定パラメータとされた場合に前記対象パラメータを前記対象パラメータに対応する運動モデルのパラメータとし、前記対象パラメータが前記選定パラメータとされていない場合に、前記今回値を、前記フィルタが推定する状態量とする追尾方法。
【請求項7】
移動している目標の位置と経路との少なくともいずれかを推定するコンピュータである追尾装置が実行する追尾プログラムであって、複数の運動モデルを有するフィルタが有する各運動モデルが有する各パラメータを対象パラメータとしたとき、今回の対象時刻における前記目標の観測値を用いて次回の対象時刻における前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを予測する際に、
前記今回の対象時刻における前記目標の観測値に対応する値であって、前記対象パラメータに対応する値である今回値と、前回の対象時刻において前記今回の対象時刻における前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを予測した結果に対応する値であって、前記対象パラメータに対応する値である前回値との差に基づいて、前記対象パラメータを選定パラメータとするか否かを決定するモデル選別処理と、
前記対象パラメータが前記選定パラメータとされた場合に前記対象パラメータを前記対象パラメータに対応する運動モデルのパラメータとし、前記対象パラメータが前記選定パラメータとされていない場合に、前記今回値を、前記フィルタが推定する状態量とする平滑処理と
を前記追尾装置に実行させる追尾プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、追尾装置、追尾方法、及び追尾プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
追尾装置においては、センサ情報を基にして、目標の運動諸元を推定しつつ、観測時刻ごとに当該運動諸元を更新し、目標の位置又は経路を推定する処理を実施する。運動諸元には、位置、速度、及び加速度等が含まれる。また、センサ情報には、目標の運動諸元に関する観測値と、目標を観測した時刻である観測時刻とが含まれる。従来技術では、特許文献1に示されるように、複数のモデルを用いて運動諸元を推定するフィルタとして、インタラクティング多重モデル(IMM:Interacting Multiple Model)フィルタ、又はマルチインタラクティング多重モデル(M-IMM:Multi-Interacting Multiple Model)フィルタが用いられる。
【0003】
IMM方式では、単一の平滑計算内に複数の運動モデルを搭載することによって未来における目標航跡の位置を予測し、また、予測精度を向上するためには運動モデル数の追加が必要である。また、運動モデルごとの線形性の確保が必要であるため、蛇行運動のために周期モデルを搭載し、旋回運動のために加速度モデルを搭載するというように、パラメータが互いに異なる複数のモデルを搭載することが困難である。
一方、M-IMM方式は、IMM方式を並列化した方式であり、非線形性のある複数の運動モデルを並列に処理することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-144092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IMMフィルタでは、考慮すべきパラメータの全てのパターンに対して、全ての組み合わせの各々に対応する運動モデルを作成する。そのため、目標の運動が複雑になるほど、また、パターンの刻み幅を細かくするほど、並列計算数が増え、処理負荷が高くなる。
ここで、運動モデルの数を限定すれば処理負荷が抑制されるが、運動モデルの数を単純に限定した場合、目標の運動を、加速度モデル等の簡易な運動に近似して扱うことになる。従って、IMMフィルタが有する運動モデルの数を単純に限定した場合、目標の経路の予測精度が低下する、即ち、目標の追尾精度が低下する。
【0006】
また、IMMフィルタの派生として、可変構造化IMM(VS-IMM:Variable Structure-Interacting Multiple Model)フィルタが提案されている。可変構造化IMM方式では、環境の制約条件に基づいて目標の運動諸元を推定する際に用いる運動モデルを動的に切り替える。そのため、加速度変化を伴う運動に対して比較的高い追尾精度が実現される。しかし、可変構造化IMM方式では、運動モデルを先見情報又は期待値等に基づいて適宜切り替えるものの、運動モデルの切り替えによって追加された運動モデルの平滑誤差共分散及び期待値がリセットされる。そのため、運動モデルを切り替えた後に収束性が悪化する懸念がある。
【0007】
本開示は、追尾装置において、複数の運動モデルを有するフィルタが有する運動モデルの数を限定した場合であっても目標の追尾精度を比較的高くすること、及び運動モデルの切り替えを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る追尾装置は、
移動している目標の位置と経路との少なくともいずれかを推定する追尾装置であって、
複数の運動モデルを有するフィルタが有する各運動モデルが有する各パラメータを対象パラメータとしたとき、今回の対象時刻における前記目標の観測値を用いて次回の対象時刻における前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを予測する際に、
前記今回の対象時刻における前記目標の観測値に対応する値であって、前記対象パラメータに対応する値である今回値と、前回の対象時刻において前記今回の対象時刻における前記目標の位置と経路との少なくともいずれかを予測した結果に対応する値であって、前記対象パラメータに対応する値である前回値との差に基づいて、前記対象パラメータを選定パラメータとするか否かを決定するモデル選別部と、
前記対象パラメータが前記選定パラメータとされた場合に前記対象パラメータを前記対象パラメータに対応する運動モデルのパラメータとし、前記対象パラメータが前記選定パラメータとされていない場合に、前記今回値を、前記フィルタが推定する状態量とする平滑部と
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、今回値と前回値との差に基づいて、運動モデルが有するパラメータに対して観測値に対応する値が用いられる。そのため、運動モデルの数が限定されるものの目標の追尾精度の低下は軽微であり、また、運動モデルの切り替えが抑制される。従って、本開示によれば、追尾装置において、複数の運動モデルを有するフィルタが有する運動モデルの数を限定した場合であっても目標の追尾精度を比較的高くすることができ、また、運動モデルの切り替えを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る追尾装置10の構成例を示す図。
図2】実施の形態1に係る追尾装置10のハードウェア構成例を示す図。
図3】実施の形態1に係る追尾システム9を説明する図。
図4】実施の形態1に係る追尾システム9を説明する図。
図5】従来手法におけるモデル数を説明する図。
図6】実施の形態1に係る手法におけるモデル数を説明する図。
図7】実施の形態1の変形例に係る追尾装置10のハードウェア構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態の説明及び図面において、同じ要素及び対応する要素には同じ符号を付している。同じ符号が付された要素の説明は、適宜に省略又は簡略化する。図中の矢印はデータの流れ又は処理の流れを主に示している。また、「部」を、「回路」、「工程」、「手順」、「処理」又は「サーキットリー」に適宜読み替えてもよい。
【0012】
実施の形態1.
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
***構成の説明***
図1は、実施の形態1に係る追尾装置10の構成例を示している。追尾装置10は、混合部11と、平滑部12と、統合部13と、モデル切り替え部14と、モデル選別部15とから成る。追尾装置10は、移動している目標60の位置と経路との少なくともいずれかを推定し、また、IMMフィルタの派生に当たる技術を用いてモデルのパラメータを分割する。なお、モデルは典型的には運動モデルである。
【0014】
以下の説明において、記号又は表記の意味は下記の通りとする。
μ:モデル確率
k:サンプリング時刻tを表すインデックス
k-1:前回のサンプリング時刻tk-1を表すインデックス
πij:モデルiからモデルjへの遷移確率
i,j:モデルを識別するインデックス
(i):モデルiにおける計算結果
(j):モデルjにおける計算結果
j|i:iに基づき算出されたjの値
x:目標状態量(位置、速度等)
P:誤差共分散行列
Σ:インデックスjによる総和
^:予測値
 ̄:平滑値(混合処理結果)
~(文字の上のチルダ):残差ベクトル
′:転置
Q:システム雑音行列
H:観測行列
R:観測雑音行列
F:状態遷移行列
S:残差共分散行列
K:カルマンゲイン行列
L:モデル尤度
N(z,a,A):平均がaであり、共分散行列がAである3変量正規分布のzにおける確率密度関数
k-m|k-n:時刻k-nまでのデータに基づいて求めた時刻k-mの値
dx:状態量の変動量
th:ユーザが指定する閾値
【0015】
混合部11は、平滑部12からの入力を受け付け、受け付けた入力を用いて、各モデル確率の予測値と、混合後の各種値とを算出する。
具体的には、混合部11は、[数1]に示すモデル確率の予測値と、[数2]に示す混合モデル確率と、[数3]に示す混合平滑値と、[数4]に示す混合平滑誤差共分散行列との各々を算出する。
【0016】
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0017】
平滑部12は、センサ情報を入力とし、モデル及びフィルタを用いて次時刻以降における目標の状態量を推定し、混合部11及び統合部13の各々に推定した状態量を示す情報を出力する。この際、複数の運動モデルを有するフィルタが有する各運動モデルが有する各パラメータを対象パラメータとしたとき、今回の対象時刻における目標60の観測値を用いて次回の対象時刻における目標60の位置と経路との少なくともいずれかを予測する際に、平滑部12は、対象パラメータが選定パラメータとされた場合に対象パラメータを対象パラメータに対応する運動モデルのパラメータとし、対象パラメータが選定パラメータとされていない場合に、今回値を、フィルタが推定する状態量とする。複数の運動モデルを有するフィルタは、具体例としてインタラクティング多重モデルのフィルタである。インタラクティング多重モデルのフィルタには、インタラクティング多重モデルの派生手法のフィルタが含まれる。インタラクティング多重モデルの派生手法は、具体例として、M-IMM(Multi-Interacting Multiple Model)及びVS-IMM(Variable Structure-IMM)である。今回の対象時刻は、具体例として今回のサンプリング時刻である。次回の対象時刻は、具体例として次回のサンプリング時刻である。対象パラメータが選定パラメータであるか否かはモデル選別部15によって決定される。観測値はセンサ装置70によって観測された値である。今回値は、今回の対象時刻における目標60の観測値に対応する値であって、対象パラメータに対応する値である。観測値に対応する値は、観測値自体であってもよく、観測値に基づいて算出された値であってもよい。
具体的には、平滑部12は、モデル及びフィルタを用いて、[数5]に示すように目標の状態量の予測をするとともに、[数6]に示す予測誤差共分散行列と、[数7]に示す観測ベクトルの誤差ベクトルと、[数8]に示す残差共分散行列と、[数9]に示すカルマンゲイン行列と、[数10]に示す目標の状態量の平滑値と、[数11]に示す目標の状態量の平滑誤差共分散行列との各々を算出する。
【0018】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【0019】
また、平滑部12は、更新処理として、[数12]に示すモデル尤度と、[数13]に示すモデル確率との各々を算出する。更新処理の演算結果は、平滑部12の遅延処理により混合部11にフィードバックされる。
【0020】
【数12】
【数13】
【0021】
統合部13は、平滑部12からの入力を受け付け、受け付けた入力を用いて、各モデルの平滑値を各モデルに対応する信頼度に基づいて統合することにより統合平滑値を算出し、各モデルの共分散行列を各モデルに対応する信頼度に基づいて統合することにより統合平滑共分散行列を算出し、算出した統合平滑値及び統合平滑共分散行列の各々を示す情報をモデル切り替え部14に出力する。この際、統合部13は、前回の対象時刻において目標60の位置と経路との少なくともいずれかを推定した際に算出した各運動モデルに対応する平滑値を、各運動モデルに対応する信頼度に基づいて統合することによって統合平滑値を算出する。ここで、信頼度は、観測値の行列と、1時刻前における観測値、及び運動モデルを使用して予測した推定値(予測値)の行列との差分について観測誤差共分散で正規化した値である。なお、信頼度は運動モデルごとに定められる。また、統合部13は、前回の対象時刻において目標60の位置と経路との少なくともいずれかを推定した際に算出した各運動モデルに対応する平滑誤差共分散行列を、各運動モデルに対応する信頼度に基づいて統合することによって統合平滑誤差共分散行列を算出する。前回の対象時刻は、具体例として前回のサンプリング時刻である。
具体的には、統合部13は、[数14]に示す統合平滑値と、[数15]に示す統合平滑誤差共分散行列との各々を算出する。
【0022】
【数14】
【数15】
【0023】
モデル切り替え部14は、統合部13からの入力を受け付け、受け付けた入力を用いてモデル選定情報を算出し、算出したモデル選定情報の各々を示す情報をモデル選別部15に出力する。モデル選定情報は、具体例として、高度と、加速度変化の方向等の観測値である。この際、モデル切り替え部14は、算出された統合平滑値と、算出された統合平滑誤差共分散行列とに基づいて、次回の対象時刻における目標60の位置と経路との少なくともいずれかを予測する際に用いられるフィルタが有する運動モデルを選定する。モデル切り替え部14は運動モデル切り替え部とも呼ばれる。
具体的には、モデル切り替え部14には統合平滑値及び統合平滑誤差共分散行列が入力され、モデル切り替え部14は、入力された統合平滑値及び統合平滑誤差共分散行列に基づいてモデル選定情報を算出する。
【0024】
モデル選別部15は、モデル切り替え部14からの入力と、センサ情報とに基づいて変動量を算出し、算出した変動量に基づいて使用するモデル及びパラメータを決定する。この際、モデル選別部15は、今回値と、前回値との差に基づいて、対象パラメータを選定パラメータとするか否かを決定する。前回値は、前回の対象時刻において今回の対象時刻における目標60の位置と経路との少なくともいずれかを予測した結果に対応する値であって、対象パラメータに対応する値である。モデル選別部15は運動モデル選別部とも呼ばれる。
モデル選別部15は、比較的大きな変動量に対応する観測値に対応する値をフィルタが推定する状態量とすることにより、モデルを用いて状態量を推定する際に、値域の制約により生じるモデルの切り替え処理を省略することができる。
モデル選別部15がパラメータを切り替える方法として、以下の2つの方法がある。
【0025】
(第1切り替え方式:閾値による切り替え)
モデル選別部15は、モデルのパラメータ毎に、あらかじめ閾値を定め、対象時刻において、定めた閾値とパラメータに対応する変動量とを比較する。[数16]は変動量を示している。モデル選別部15は、[数17]に示すように、変動量が閾値未満である場合に変動量に対応するパラメータをモデルのパラメータとし、変動量が閾値以上である場合に変動量に対応するパラメータに対応する観測値に対応する値をフィルタが推定する状態量とする。即ち、モデル選別部15は、対象パラメータに対応する今回値と、対象パラメータに対応する前回値との間の距離が閾値未満である場合に、対象パラメータを選定パラメータとすることを決定する。当該距離は、具体例として今回値と前回値との差の絶対値である。
【0026】
【数16】
【数17】
【0027】
(第2切り替え方式:状態量の個数による切り替え)
モデル選別部15は、各パラメータに対応する値について対象時刻における単位時間当たりの変動率を算出し、算出した変動率に基づいて各パラメータを比較する。モデル選別部15は、あらかじめフィルタが推定する状態量として扱うパラメータの数を定めておき、変動率が大きい順に変動率に対応するパラメータを定めた数だけ抽出し、抽出したパラメータに対応する観測値に対応する値をフィルタが推定する状態量とする。即ち、モデル選別部15は、対象パラメータに対応する今回値と、対象パラメータに対応する前回値とに対応する変動率の大きさの順位が、対象パラメータに対応する運動モデルが有する全てのパラメータの各々に対応する変動率の大きさの中において、閾値よりも下である場合に対象パラメータを選定パラメータとすることを決定する。
【0028】
図2は、本実施の形態に係る追尾装置10のハードウェア構成例を示している。追尾装置10はコンピュータから成る。追尾装置10は複数のコンピュータから成ってもよい。
【0029】
追尾装置10は、本図に示すように、プロセッサ21と、メモリ22と、補助記憶装置23と、入出力IF(Interface)24と、通信装置25等のハードウェアを備えるコンピュータである。これらのハードウェアは、信号線29を介して適宜接続されている。
【0030】
プロセッサ21は、演算処理を行うIC(Integrated Circuit)であり、かつ、コンピュータが備えるハードウェアを制御する。プロセッサ21は、具体例として、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、又はGPU(Graphics Processing Unit)である。
追尾装置10は、プロセッサ21を代替する複数のプロセッサを備えてもよい。複数のプロセッサはプロセッサ21の役割を分担する。
【0031】
メモリ22は、典型的には揮発性の記憶装置であり、具体例としてRAM(Random Access Memory)である。メモリ22は、主記憶装置又はメインメモリとも呼ばれる。メモリ22に記憶されたデータは、必要に応じて補助記憶装置23に保存される。
【0032】
補助記憶装置23は、典型的には不揮発性の記憶装置であり、具体例として、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、又はフラッシュメモリである。補助記憶装置23に記憶されたデータは、必要に応じてメモリ22にロードされる。
メモリ22及び補助記憶装置23は一体的に構成されていてもよい。
【0033】
入出力IF24は、入力装置及び出力装置が接続されるポートである。入出力IF24は、具体例として、USB(Universal Serial Bus)端子である。入力装置は、具体例として、キーボード及びマウスである。出力装置は、具体例として、ディスプレイである。
【0034】
通信装置25は、レシーバ及びトランスミッタである。通信装置25は、具体例として、通信チップ又はNIC(Network Interface Card)である。
【0035】
追尾装置10の各部は、他の装置等と通信する際に、入出力IF24及び通信装置25を適宜用いてもよい。
【0036】
補助記憶装置23は追尾プログラムを記憶している。追尾プログラムは、追尾装置10が備える各部の機能をコンピュータに実現させるプログラムである。追尾プログラムは、メモリ22にロードされて、プロセッサ21によって実行される。追尾装置10が備える各部の機能は、ソフトウェアにより実現される。
【0037】
追尾プログラムを実行する際に用いられるデータと、追尾プログラムを実行することによって得られるデータ等は、記憶装置に適宜記憶される。追尾装置10の各部は記憶装置を適宜利用する。記憶装置は、具体例として、メモリ22と、補助記憶装置23と、プロセッサ21内のレジスタと、プロセッサ21内のキャッシュメモリとの少なくとも1つから成る。なお、データと情報とは同等の意味を有することもある。記憶装置は、コンピュータと独立したものであってもよい。
メモリ22及び補助記憶装置23の機能は、他の記憶装置によって実現されてもよい。
【0038】
追尾プログラムは、コンピュータが読み取り可能な不揮発性の記録媒体に記録されていてもよい。不揮発性の記録媒体は、具体例として、光ディスク又はフラッシュメモリである。追尾プログラムは、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
本実施の形態に係る他の装置のハードウェア構成は、追尾装置10のハードウェア構成と同様であってもよい。
【0039】
***動作の説明***
追尾装置10の動作手順は追尾方法に相当する。また、追尾装置10の動作を実現するプログラムは追尾プログラムに相当する。
【0040】
図3は、追尾システム9の概念図を示している。追尾システム9は、図3に示すように、目標60と、センサ装置70と、射撃管制装置80と、発射装置90と、飛しょう体100とから成る。
目標60は、追尾装置10の追尾対象である移動体である。
センサ装置70は、目標60の位置及び速度等を検出する機能を備えており、検出した結果を示す情報を射撃管制装置80に出力する。センサ装置70は、飛しょう体100の位置及び速度等を検出する機能を備えていてもよい。
射撃管制装置80は、センサ装置70が取得したセンサ情報に基づいて飛しょう体100を誘導するための情報を飛しょう体100に出力する。
発射装置90は、飛しょう体100を発射する装置である。
飛しょう体100は、発射装置90によって発射され、射撃管制装置80からの出力に基づいて飛しょうする。
【0041】
図4は、追尾システム9の機能概念図を示している。
センサ装置70は、目標60を捕捉し、目標60を追尾し、ある時刻tにおいて検出した目標60の位置及び速度等の観測値を示す情報を追尾装置10に出力する。
追尾装置10は、センサ装置70から受け取った観測値を示す情報に基づいて目標60の位置及び速度を予測する。
射撃管制装置80は、追尾装置10及び要撃誘導計算部81から成る。
要撃誘導計算部81は、追尾装置10の出力と飛しょう体センサ103の出力とを用いて飛しょう体100の誘導諸元を算出し、算出した誘導諸元を示す情報を誘導制御部101に出力する。
飛しょう体100は、誘導制御部101と、飛しょう部102と、飛しょう体センサ103とを有する。
誘導制御部101は、要撃誘導計算部81が出力した誘導諸元を示す情報に基づいて、飛しょう体100を飛しょうさせるための旋回指令を計算し、計算した結果を飛しょう部102に出力する。
飛しょう部102は、誘導制御部101が出力した旋回指令を示す情報に基づいて、飛しょう体100に対する物理的な加速度を発生する。
飛しょう体センサ103は、飛しょう体100の位置及び速度の推定値を要撃誘導計算部81に出力する。
【0042】
追尾装置10が推定するパラメータとして、位置と、速度と、加速度と、加加速度と、空力係数等の各々を示すパラメータが挙げられる。従来技術によれば、フィルタが有するモデルとしてこれらのパラメータが有するパターンの全ての組み合わせの各組み合わせに対応するモデルが作成される。そのため、モデルの数は、各パラメータが有するパターンの数の積である。ここで、当該モデルの数はIMMにおける並列計算数に該当する。
【0043】
具体例として、モデルが有するパラメータの数が5個であり、各パラメータが有するパターンの数が5個であると仮定した場合、IMM方式におけるモデルの数は、図5に示す通り5個である。
一方、具体例として、モデル選別部15が、第2切り替え方式を用い、変動率が相対的に大きな3つのパラメータの各々に対応する値を状態量として推定する場合を考える。この場合において、モデルが有するパラメータの数は2つであり、本方式におけるモデルの数は図6に示す通り5個である。
処理負荷はモデルの数についての関数により表現される。そのため、前述の具体例に係る処理負荷は、従来のIMM方式においては5×(M3フィルタ)であり、第2切り替え方式においては5×(M3フィルタ)である。ここで、M3はMultiple Maneuver Modelの略記である。また、相対的に大きな変動量に対応するパラメータに対応する値をフィルタが推定する状態量とすることにより、モデルの切り替えが抑制される。
【0044】
***実施の形態1の効果の説明***
以上のように、本実施の形態によれば、変動量を基準として推定するパラメータを分割し、モデルとフィルタに分けて処理することにより、同時に処理するモデルの数を削減することができる。従って、本実施の形態によれば、追尾精度を担保しつつ計算負荷を減らすことができる。また、本実施の形態によれば、目標60の運動を簡易な運動に近似することなくより多くのパラメータを扱うことができるため、より精緻に目標60の運動を表現することができ、より精緻に目標60の運動を推定することができる。また、本実施の形態によれば、モデルの数を減らすことにより並列処理数を減らすことができるため、処理負荷が低減される。
また、従来のIMMフィルタにおいて、各運動モデルが扱うパラメータに関しては、各運動モデルにおいて取り得る値域が決まっている。そのため、パラメータ値の変動量が大きい場合、運動モデルを切り替える必要がある。従って、従来のIMMフィルタは目標60の追従性に劣る。一方、本実施の形態によれば、相対的に大きな変動量に対応するパラメータに対応する観測値に対応する値をフィルタが推定する状態量とすることにより、当該パラメータは値域の制約を受けない。従って、値域の制約に応じてモデルを切り替えることなくフィルタ処理を実施することができるため、本実施の形態によれば目標60の追従性が比較的高い。
なお、本実施の形態は、IMM、M-IMM、及びVS-IMMにおいて適用することができる。
【0045】
***他の構成***
<変形例1>
図7は、本変形例に係る追尾装置10のハードウェア構成例を示している。
追尾装置10は、プロセッサ21、プロセッサ21とメモリ22、プロセッサ21と補助記憶装置23、あるいはプロセッサ21とメモリ22と補助記憶装置23とに代えて、処理回路28を備える。
処理回路28は、追尾装置10が備える各部の少なくとも一部を実現するハードウェアである。
処理回路28は、専用のハードウェアであってもよく、また、メモリ22に格納されるプログラムを実行するプロセッサであってもよい。
【0046】
処理回路28が専用のハードウェアである場合、処理回路28は、具体例として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はこれらの組み合わせである。
追尾装置10は、処理回路28を代替する複数の処理回路を備えてもよい。複数の処理回路は、処理回路28の役割を分担する。
【0047】
追尾装置10において、一部の機能が専用のハードウェアによって実現されて、残りの機能がソフトウェア又はファームウェアによって実現されてもよい。
【0048】
処理回路28は、具体例として、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせにより実現される。
プロセッサ21とメモリ22と補助記憶装置23と処理回路28とを、総称して「プロセッシングサーキットリー」という。つまり、追尾装置10の各機能構成要素の機能は、プロセッシングサーキットリーにより実現される。
【0049】
***他の実施の形態***
実施の形態1について説明したが、本実施の形態のうち、複数の部分を組み合わせて実施しても構わない。あるいは、本実施の形態を部分的に実施しても構わない。その他、本実施の形態は、必要に応じて種々の変更がなされても構わず、全体としてあるいは部分的に、どのように組み合わせて実施されても構わない。
なお、前述した実施の形態は、本質的に好ましい例示であって、本開示と、その適用物と、用途の範囲とを制限することを意図するものではない。説明した手順は、適宜変更されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
9 追尾システム、10 追尾装置、11 混合部、12 平滑部、13 統合部、14 モデル切り替え部、15 モデル選別部、21 プロセッサ、22 メモリ、23 補助記憶装置、24 入出力IF、25 通信装置、28 処理回路、29 信号線、60 目標、70 センサ装置、80 射撃管制装置、81 要撃誘導計算部、90 発射装置、100 飛しょう体、101 誘導制御部、102 飛しょう部、103 飛しょう体センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7