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7645984芯鞘複合繊維およびその製造方法ならびに繊維構造体
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  • -芯鞘複合繊維およびその製造方法ならびに繊維構造体 図1A
  • -芯鞘複合繊維およびその製造方法ならびに繊維構造体 図1B
  • -芯鞘複合繊維およびその製造方法ならびに繊維構造体 図2
  • -芯鞘複合繊維およびその製造方法ならびに繊維構造体 図3
  • -芯鞘複合繊維およびその製造方法ならびに繊維構造体 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】芯鞘複合繊維およびその製造方法ならびに繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20250307BHJP
【FI】
D01F8/14 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023503834
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008341
(87)【国際公開番号】W WO2022186150
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021034707
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】研井 孝太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 俊一
(72)【発明者】
【氏名】荻野 祐二
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-077540(JP,A)
【文献】特開2007-126760(JP,A)
【文献】特開平11-081031(JP,A)
【文献】特開2005-133250(JP,A)
【文献】特開平07-126916(JP,A)
【文献】特開2009-179908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00- 8/18
D01D 1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分が溶融異方性芳香族ポリエステル(Aポリマー)を含み、鞘成分が屈曲性熱可塑性ポリマー(Bポリマー)および溶融異方性芳香族ポリエステル(Cポリマー)を含み、前記Bポリマーが海成分を形成し、前記Cポリマーが島成分を形成し、前記海成分からなる海部中に前記島成分からなる複数の島部が分散する海島構造を有する芯鞘複合繊維であって、
前記鞘成分における島成分の割合は、10重量%を超えており、かつ、
この芯鞘複合繊維を繊維長手方向に切断した断面で、島部の最大幅Wが0.65μm以下であり、
前記最大幅Wを有する島部において、繊維長手方向一端から他端に向かうに従って、前記繊維長手方向に対し定められた角度10°で延びる前記鞘成分中における斜線に接する島部のうち、前記斜線と重なる長さの斜め長の最大長さL1と、前記島部の最大幅Wとの比L1/Wが5.0以上である、芯鞘複合繊維。
【請求項2】
請求項1に記載の芯鞘複合繊維であって、前記斜め長の最大長さL1が1.0μm以上である、芯鞘複合繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載の芯鞘複合繊維であって、前記芯鞘複合繊維を繊維長手方向に切断した断面で、前記鞘成分中における前記島部の繊維長手方向の長さL2が450~1000μmである芯鞘複合繊維。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の芯鞘複合繊維であって、前記鞘成分の厚みが0.8~5.0μmである芯鞘複合繊維。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の芯鞘複合繊維であって、前記Aポリマーおよび前記Cポリマーが、主たる構成単位が同一の溶融異方性芳香族ポリエステルで構成される芯鞘複合繊維。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の芯鞘複合繊維であって、前記芯成分と前記鞘成分の重量比である芯成分/鞘成分が20/80~97/3である芯鞘複合繊維。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の芯鞘複合繊維であって、この芯鞘複合繊維の単糸繊度が1~120dtexである芯鞘複合繊維。
【請求項8】
芯成分が溶融異方性芳香族ポリエステル(Aポリマー)を含み、鞘成分が屈曲性熱可塑性ポリマー(Bポリマー)および溶融異方性芳香族ポリエステル(Cポリマー)を含み、前記Bポリマーが海成分を形成し、前記Cポリマーが島成分を形成し、前記海成分からなる海部中に前記島成分からなる複数の島部が分散する海島構造を有する芯鞘複合繊維の製造方法であって、
前記鞘成分に用いるBポリマーおよびCポリマーを、Bポリマーの融点(Mb)に対して(Mb)℃以上であって、Cポリマーの融点(Mc)℃に対して(Mc-20)℃以上、(Mc)℃未満で二軸押出機を用いて混練すると共に、前記芯成分に用いるAポリマーを、前記鞘成分に用いる前記二軸押出機とは異なる押出機を用いて溶融し混練する混練工程と、この混練工程でそれぞれ混練させた鞘成分および芯成分を複合して吐出して放流糸を得る吐出工程と、
吐出された放流糸を、吐出速度に対する巻取速度の比であるドラフト値として13~50で引取る工程と、
を少なくとも備える芯鞘複合繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の芯鞘複合繊維の製造方法であって、前記吐出工程で得られた繊維に熱処理を施す熱処理工程を有する芯鞘複合繊維の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の芯鞘複合繊維を少なくとも一部に含む、繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2021年3月4日に出願した特願2021-34707の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、芯成分として溶融異方性芳香族ポリエステルを有し、耐フィブリル性を向上させ耐摩耗性に優れる芯鞘複合繊維およびその製造方法、ならびに繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0003】
溶融異方性芳香族ポリエステル繊維は高強力高弾性率となることが知られているが、これらの繊維は、分子鎖が繊維軸方向に高度に配向しているため摩耗により容易にフィブリル化するという問題があった。そこで、溶融異方性芳香族ポリエステルを芯成分とする一方で、周囲を鞘成分で被覆することによりフィブリル化を抑制した複合繊維が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2002-20932号公報)には、芯成分が溶融異方性芳香族ポリエステル(A)、鞘成分がポリマー(A)を0~10%含有する屈曲性ポリエステル(B)からなり、ポリエステル(B)の固有粘度[η]が、0.65dl/g以上であることを特徴とする複合繊維が開示されている。
【0005】
特許文献1には、鞘成分に芯成分と同じポリマーをブレンドすることで、鞘成分の強力を高めると同時に芯成分との接着性を高めることが記載されている。
【0006】
特許文献2(特開2008-255535号公報)には、芯成分が溶融異方性芳香族ポリエステル(Aポリマー)からなり、鞘成分が海島構造を有し、かつ鞘成分比が0.2~0.7であること、および該鞘成分を構成する海成分は屈曲性熱可塑性ポリマー(Bポリマー)からなり、島成分は溶融異方性芳香族ポリエステル(Cポリマー)からなり、鞘成分における島成分比が0~0.25であることを満足する芯鞘複合繊維において、繊維表面にケイ酸塩化合物を主成分とする無機微粒子を0.03~2.5質量%付着させてなる複合繊維が開示されている。
【0007】
特許文献2では、溶融異方性を有しないポリマーは溶融異方性ポリエステルとの接着性が低く、剥離しやすいため、鞘成分を溶融異方性ポリエステルと溶融異方性を有しないポリマーからなるブレンドで形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-20932号公報
【文献】特開2008-255535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、鞘成分中における溶融異方性芳香族ポリエステルの割合が10%を超える場合、繊維表面に凹凸が発生し、紡糸性が悪化するため、鞘成分中における溶融異方性芳香族ポリエステルの割合を高めることを否定している。
【0010】
また、特許文献2に記載の複合繊維は、繊維表面にケイ酸塩化合物を主成分とする無機微粒子を0.03~2.5質量%付着させることにより、繊維間の膠着を抑制し、解舒性を向上できることは記載されているものの、繊維のフィブリル化抑制については、屈曲性熱可塑性ポリマーを海成分として用いることにより、耐フィブリル性、耐摩耗性は大きく改善されることしか言及されていない。
【0011】
溶融異方性芳香族ポリエステルを芯成分とし、周囲を鞘成分で被覆した芯鞘複合繊維の鞘成分中に、紡糸性を損なわずに溶融異方性芳香族ポリエステルを多く混和することができれば、芯と鞘の接着性をより強固にでき鞘剥がれを抑制し、従来以上に高い摩耗性を実現することができる。また、同様の理由により鞘を薄くすることもでき、その結果、芯側の溶融異方性芳香族ポリエステルに由来して強度を高めることができて好ましい。
【0012】
したがって、本発明の目的は、芯鞘複合繊維の鞘成分中における溶融異方性芳香族ポリエステルの割合を高めつつ、一方でフィブリル化や紡糸性悪化を抑制し、耐摩耗性に優れた芯鞘複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、芯成分として溶融異方性芳香族ポリエステルを有する芯鞘複合繊維において、(I)鞘成分を、溶融異方性芳香族ポリエステルからなる島部を有する海島構造とし、海島構造中の溶融異方性芳香族ポリエステルの割合を高めると、芯と鞘の接着性の改善により鞘剥がれを防止し、摩耗性をより高めつつ、鞘を薄くすることができ芯成分の溶融異方性芳香族ポリエステルに由来して強度を高めることができるが、(II)その一方で、溶融異方性芳香族ポリエステルの高い割合に由来して紡糸調子が著しく悪くなること、鞘成分がフィブリル化することに気づき、紡糸調子の改善と鞘成分のフィブリル化を抑制することを新たな課題とした。そして、(III)鞘成分中の溶融異方性芳香族ポリエステルの割合を高めつつ、特定の温度において鞘成分の混練を行って吐出された放流糸を、特定のドラフト値で引取ることにより、海部に対して、溶融異方性芳香族ポリエステルからなる島部を微分散させて島部の形状を制御することができ、その結果、鞘成分中の溶融異方性芳香族ポリエステルの割合が高い場合であっても、良好な紡糸調子を保ちつつ芯鞘複合繊維のフィブリル化を抑制し、かつ鞘を薄くした場合でも耐摩耗性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
芯成分が溶融異方性芳香族ポリエステル(Aポリマー)を含み、鞘成分が屈曲性熱可塑性ポリマー(Bポリマー)および溶融異方性芳香族ポリエステル(Cポリマー)を含み、前記Bポリマーが海成分を形成し、前記Cポリマーが島成分を形成し、前記海成分からなる海部中に前記島成分からなる複数の島部が分散する海島構造を有する芯鞘複合繊維であって、
前記鞘成分における島成分の割合は、10重量%を超えており、かつ、
この芯鞘複合繊維を繊維長手方向に切断した断面で、繊維垂直方向に最も大きな幅を有する島部の最大幅Wが0.65μm以下(好ましくは0.60μm以下、より好ましくは0.55μm以下、さらに好ましくは0.50μm以下)であり、
前記最大幅Wを有する島部において、繊維長手方向一端から他端に向かうに従って、前記繊維長手方向に対し定められた角度10°で延びる前記鞘成分中における斜線に接する島部のうち、前記斜線と重なる長さの斜め長の最大長さL1と、前記島部の最大幅Wとの比L1/Wが5.0以上(好ましくは5.1以上、より好ましくは5.2以上、さらに好ましくは5.3以上、さらにより好ましくは5.5以上)である、芯鞘複合繊維。
〔態様2〕
態様1に記載の芯鞘複合繊維であって、前記斜め長の最大長さL1が1.0μm以上(好ましくは1.3μm以上、より好ましくは1.5μm以上、さらに好ましくは1.7μm以上)である、芯鞘複合繊維。
〔態様3〕
態様1または2に記載の芯鞘複合繊維であって、前記芯鞘複合繊維を繊維長手方向に切断した断面で、前記鞘成分中における前記島部の繊維長手方向の長さL2が450~1000μm(好ましくは500~800μm、より好ましくは550~650μm)である芯鞘複合繊維。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の芯鞘複合繊維であって、前記鞘成分の厚みが0.8~5.0μm(好ましくは0.9~4.0μm、より好ましくは0.9~3.8μm)である芯鞘複合繊維。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の芯鞘複合繊維であって、前記Aポリマーと前記Cポリマーが同種の溶融異方性芳香族ポリエステルである芯鞘複合繊維。
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載の芯鞘複合繊維であって、前記芯成分と前記鞘成分の重量比である芯成分/鞘成分が20/80~97/3(好ましくは50/50~96/4、より好ましくは60/40~95/5、さらに好ましくは70/30~94/6、さらにより好ましくは75/25~93/7、特に好ましくは80/20~92/8、最も好ましくは82.5/17.5~90/10)である芯鞘複合繊維。
〔態様7〕
態様1~6のいずれか一態様に記載の芯鞘複合繊維であって、この芯鞘複合繊維の単糸繊度が1~120dtex(好ましくは2~60dtex、より好ましくは2.5~30dtex、さらに好ましくは3~15dtex)である芯鞘複合繊維。
〔態様8〕
芯成分が溶融異方性芳香族ポリエステル(Aポリマー)を含み、鞘成分が屈曲性熱可塑性ポリマー(Bポリマー)および溶融異方性芳香族ポリエステル(Cポリマー)を含み、前記Bポリマーが海成分を形成し、前記Cポリマーが島成分を形成し、前記海成分からなる海部中に前記島成分からなる複数の島部が分散する海島構造を有する芯鞘複合繊維の製造方法であって、
前記鞘成分に用いるBポリマーおよびCポリマーを、Bポリマーの融点(Mb)に対して(Mb)℃以上であって、Cポリマーの融点(Mc)℃に対して(Mc-20)℃以上、(Mc)℃未満で二軸押出機を用いて混練すると共に、前記芯成分に用いるAポリマーを、前記鞘成分に用いる前記二軸押出機とは異なる押出機を用いて溶融し混練する混練工程と、この混練工程でそれぞれ混練させた鞘成分および芯成分を複合して吐出して放流糸を得る吐出工程と、
吐出された放流糸を、吐出速度に対する巻取速度の比であるドラフト値として13~50(好ましくは15~45、より好ましくは16~40、さらに好ましくは19~38、特に好ましくは20~35)で引取る工程と、
を少なくとも備える芯鞘複合繊維の製造方法。
〔態様9〕
態様8に記載の芯鞘複合繊維の製造方法であって、前記吐出工程で得られた繊維に熱処理を施す熱処理工程を有する芯鞘複合繊維の製造方法。
〔態様11〕
様態1~7のいずれか一様態に記載の芯鞘複合繊維を少なくとも一部に含む、繊維構造体。
【0015】
本明細書中、「芯鞘複合繊維を繊維長手方向に切断した断面」とは、芯鞘複合繊維をこの繊維長手方向を含む平面で切断して見た断面と同義であり、以下、「繊維縦断面」と称す場合がある。また、繊維垂直方向とは、繊維縦断面において、繊維長手方向に対して直交する方向(または繊維長手方向に垂直な方向)を意味する。
【0016】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の芯鞘複合繊維によれば、芯成分として溶融異方性芳香族ポリエステルを有し、鞘成分が海島構造である芯鞘複合繊維において、鞘成分の島部を溶融異方性芳香族ポリエステルとしてその割合を高めた場合であっても、島部を微分散させることにより紡糸中の島成分の凝集が抑制され、芯鞘複合繊維の耐フィブリル性を向上することができ、耐摩耗性に優れた繊維が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一部分を示す。
図1A】本発明の一実施形態に係る芯鞘複合繊維の概略斜視図である。
図1B】同芯鞘複合繊維を繊維長手方向に切断して見た概略断面図である。
図2】同芯鞘複合繊維の鞘成分を部分的に拡大して示す拡大概略断面図である。
図3】同芯鞘複合繊維を繊維長手方向に垂直な平面で切断して見た概略断面図である。
図4】同芯鞘複合繊維の紡糸に用いられる口金の構造を概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を例示に基づいて詳細に説明する。本発明の一態様は、芯成分と、この芯成分を覆う鞘成分とを備える芯鞘複合繊維であり、鞘成分が海成分および島成分を含む海島構造を有する。芯成分は溶融異方性芳香族ポリエステル(Aポリマー)を含み、鞘成分は屈曲性熱可塑性ポリマー(Bポリマー)および溶融異方性芳香族ポリエステル(Cポリマー)を含み、Bポリマーが海成分を形成し、Cポリマーが島成分を形成する。
【0020】
(芯成分)
芯成分に用いられる溶融異方性芳香族ポリエステル(Aポリマー)とは、溶融相において光学異方性(液晶性)を示すポリマーである。例えば試料をホットステージに載せ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより溶融異方性芳香族ポリエステルであるか否かを認定し得る。本発明の溶融異方性芳香族ポリエステルとしては、例えば芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸などに由来する反復構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位は、その化学的構成については特に限定されるものではない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、溶融異方性芳香族ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含んでいてもよい。例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
【0021】
【表1】
【0022】
表1の構成単位において、mは0~2の整数であり、式中のYは、1~置換可能な最大数の範囲において、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などが挙げられる。
【0023】
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3および表4に示す例(1)~(18)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示しうる構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
表2、表3および表4の構成単位において、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、YおよびYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などであってもよい。これらのうち、水素原子、塩素原子、臭素原子、またはメチル基が好ましい。
【0028】
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
【0029】
【化1】
【0030】
溶融異方性芳香族ポリエステルは、好ましくは、ナフタレン骨格を構成単位として有する組み合わせであってもよい。なお、ヒドロキシ安息香酸(略称:HBA)由来の構成単位(A)と、ヒドロキシナフトエ酸(略称:HNA)由来の構成単位(B)の両方を含むことが、特に好ましい。例えば、構成単位(A)としては下記式(A)が挙げられ、構成単位(B)としては下記式(B)が挙げられ、溶融成形性を向上する観点から、構成単位(A)と構成単位(B)の比率は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、さらに好ましくは5/1~1/1の範囲であってもよい。
【0031】
【化2】
【0032】
【化3】
【0033】
また、(A)の構成単位と(B)の構成単位の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってもよく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であってもよい。ポリマー中、特に(B)の構成単位が4~45モル%である溶融異方性芳香族ポリエステルが好ましい。
【0034】
本発明で好適に用いられる溶融異方性芳香族ポリエステルの融点は250~360℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは260~320℃である。ここでいう融点とは、JIS K 7121に準拠した試験方法により測定されるものであり、示差走査熱量計(例えば(株)島津製作所DSC:Differential scanning calorimetry)で観察される主吸熱ピークのピーク温度である。
【0035】
なお、上記溶融異方性芳香族ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などの熱可塑性ポリマーを添加してもよい。また酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウムなどの無機物、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
(鞘成分)
鞘成分は海島構造を有しており、屈曲性熱可塑性ポリマー(Bポリマー)が海成分を形成し、溶融異方性芳香族ポリエステル(Cポリマー)が島成分を形成している。
海成分を形成する屈曲性熱可塑性ポリマー(Bポリマー)としては、主鎖上に芳香環を有さないポリマー、あるいは主鎖上に芳香環を有し、かつ芳香環間の主鎖上に原子が4個以上存在するポリマーが挙げられ、具体的には、例えば、ポリオレフィン;ポリアミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンサルファイド(略称:PPS);ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、非晶性ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート(略称:PEN)などのポリエステル;ポリエーテルエーテルケトン;フッ素樹脂などが挙げられる。これらの屈曲性熱可塑性ポリマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよく、一方を主たる(例えば、80重量%以上を占める)熱可塑性ポリマーとし、それ以外を添加する熱可塑性ポリマーとしてもよい。この中でもPPS、PENが主たる熱可塑性ポリマーであるのが好ましい。
また屈曲性熱可塑性ポリマーは、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機物、カーボンブラック、染料または顔料などの着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、造核剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
島成分を形成する溶融異方性芳香族ポリエステル(Cポリマー)は、前記Aポリマーにおいて記載した溶融異方性芳香族ポリエステルを挙げることができ、Aポリマーと同一であっても異なっていてもよいが、親和性の観点から、主たる構成単位が同一の溶融異方性芳香族ポリエステルであるのが好ましい。また、AポリマーとCポリマーとは、主たる構成単位が同一で、かつ、例えば添加する熱可塑性ポリマーまたは添加剤のみが異なる同種類のポリマーであってもよい。
【0038】
またCポリマーの融点(Mc)は、CポリマーをBポリマーに対して微分散することができる範囲で適宜選択することができ、例えば、Cポリマーの融点(Mc)は、Bポリマーの融点(Mb)に対して、(Mb-10)~(Mb+80)℃の範囲であってもよく、Mb~(Mb+70)℃の範囲であってもよい。
【0039】
さらにCポリマーの溶融粘度ηは、紡糸性の観点から、例えば、10~60Pa・sであってもよく、好ましくは20~50Pa・s、より好ましくは25~45Pa・sであってもよい。
なお、本発明にいう溶融粘度ηとは、温度T(Cポリマーの融点(Mc)が290℃以上の場合T=(Mc+10)℃、融点Mcが290℃未満の場合T=300℃)、せん断速度1000sec-1で測定した溶融粘度である。
【0040】
(芯鞘複合繊維の製造方法)
本発明の芯鞘複合繊維は、混練工程と、吐出工程と、を少なくとも備える製造方法により製造することができる。製造工程は、さらに熱処理工程を備えていてもよい。
【0041】
混練工程では、鞘成分に用いる前記Bポリマーおよび前記Cポリマーを、二軸押出機を用いて溶融し混練すると共に、芯成分に用いるAポリマーを、前記鞘成分に用いる前記二軸押出機とは別の押出機を用いて溶融し混練する。
【0042】
特に、BポリマーおよびCポリマーの混練に用いる二軸押出機において、この二軸押出機中の混練部の設定温度を、Bポリマーの融点(Mb)に対して(Mb)℃以上であって、Cポリマーの融点(Mc)に対して(Mc-20)℃以上、(Mc)℃未満に設定すると共に、混練部で回転自在に支持された平行二軸のスクリュの回転により、鞘成分中における複数の島部の微分散化を図ることが可能となる。
なお、芯成分に用いる前記Aポリマーを溶融し混練する押出機は、単軸押出機でもよく二軸押出機であってもよい。また、事前にBポリマーとCポリマーを上記の条件でコンパウンド化した原料を使用する場合には、すでに鞘成分中における複数の島部の微分散化を図ることができているため、鞘成分の溶融混練に使用する押出機は、単軸押出機でもよく二軸押出機であってもよい。
【0043】
混練工程において、芯成分と鞘成分の割合は、耐フィブリル化の向上を図ると共に芯成分の露出を抑制する観点から、芯成分/鞘成分の重量比(以下、単に芯鞘比と称する場合がある)として、例えば、20/80~97/3であってもよく、好ましくは50/50~96/4、より好ましくは60/40~95/5、さらに好ましくは70/30~94/6、さらにより好ましくは75/25~93/7、特に好ましくは80/20~92/8、最も好ましくは82.5/17.5~90/10であってもよい。特に、芯成分が50%以上の場合、複合繊維の強度を向上することができて好ましい。芯成分と鞘成分の重量比は、例えば、製造時において後述する各押出機にそれぞれ投入される芯成分と鞘成分の重量比などにより求め得る。
【0044】
鞘成分における島成分の割合は、10重量%を超えており、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上であってもよい。島成分の割合を高めることにより、島成分による芯成分と鞘成分のアンカー効果を強固にすることができる。一方、島成分の割合が高すぎると、島成分が凝集する可能性が高まるため、島成分は、40重量%以下であってもよく、好ましくは35重量%以下であってもよい。
【0045】
吐出工程では、前記混練工程でそれぞれ混練させた鞘成分および芯成分を、例えば、図4に示される構造の口金から複合して吐出することで断面(繊維横断面)円形状の芯鞘複合繊維を紡糸することができる。
【0046】
吐出の際の口金温度(紡糸温度)は、例えば、Aポリマーの融点(Ma)に対して、(Ma+10)~(Ma+60)℃であってもよく、好ましくは(Ma+15)~(Ma+40)℃、より好ましくは(Ma+20)~(Ma+35)℃であってもよい。
微分散された島部の形状は、ドラフト値により制御され、吐出された放流糸は、ドラフト値13~50で引取られ、好ましくは15~45、より好ましくは16~40、さらに好ましくは19~38、特に好ましくは20~35で引き取られてもよい。なお、放流糸とは、ノズル孔から吐出され延伸がかかっていない糸、すなわちノズル孔径と略同等の繊維径を有する糸を意味し、また、ドラフト値とは、紡糸の際の吐出速度に対する巻取速度の比を意味している。
【0047】
さらに紡糸された繊維に対して熱処理を行ってもよい。熱処理により、鞘成分中のBポリマーの配向結晶化度を高めるだけでなく、溶融異方性芳香族ポリエステルを固相重合することができ、芯鞘複合繊維の強度を向上することができる。
【0048】
熱処理では、紡糸された繊維を、窒素などの不活性ガス雰囲気下、または酸素含有の活性ガス(例えば、空気)雰囲気下において、常圧または減圧下で熱処理を行ってもよい。
熱処理を行う場合、熱処理雰囲気は露点が-50℃以下、好ましくは-60℃以下、より好ましくは-70℃以下の低湿気体が好ましい。熱処理条件としては、Aポリマーの融点(Ma)に対して、(Ma-20)℃以下、好ましくは(Ma-30)℃以下、より好ましくは(Ma-40)℃以下から鞘成分の融点以下まで順次昇温していく温度パターンが挙げられる。
熱の供給方法としては、気体の媒体を用いる方法、加熱板、赤外線ヒーターなどにより輻射を利用する方法、高周波などを利用した内部加熱方法などがある。処理形状は、ロールトゥロールの連続生産であってもよく、カセ状、トウ状、熱処理用ボビンに紡糸原糸を巻き返すことによるバッチ生産であってもよい。
【0049】
熱処理後の糸の膠着による鞘剥がれなどを防止する観点から、必要に応じて、繊維の紡糸中または紡糸後、熱処理前に繊維の表面に無機微粒子を塗布してもよい。前記無機微粒子としては、タルク、雲母を始めとするケイ酸塩化合物を主成分とするものが好ましい。
【0050】
特許文献2と異なり、本発明では、無機微粒子を付着させなくても良好な解舒性を有するが、解舒性をさらに向上させる観点から、無機微粒子の付着を行ってもよい。
繊維の紡糸中または紡糸後、熱処理前に繊維の表面に無機微粒子を均一に付着させることで、糸同士が直接接触することを防止し、糸の膠着を回避することができる。なお、ケイ酸塩化合物を主成分とする無機微粒子はその多くが不活性であり、繊維に付着させても繊維の物性低下は見られない。
【0051】
前記無機微粒子の繊維の表面への付着方法は、均一に繊維に付着させられる方法であれば何ら限定されるものではない。例えば、紡糸油剤に無機微粒子を攪拌分散させたものをオイリングローラーまたはカラス口を用いて付着させる方法が簡便であり好ましい。
【0052】
芯鞘複合繊維の表面に付着させる無機微粒子の平均粒径は繊維表面に均一に付着する観点から、例えば、0.01~10μm、好ましくは0.02~5μmの範囲であってもよい。芯鞘複合繊維の表面に付着させる無機微粒子の付着量は、0.03~2.5質量%、好ましくは0.1~2.3質量%の範囲であってもよい。
【0053】
(芯鞘複合繊維)
図1Aは、本発明の一実施形態に係る芯鞘複合繊維の概略斜視図であり、図1Bは、同芯鞘複合繊維を繊維長手方向に切断して見た概略断面図である。芯鞘複合繊維10は、芯成分で形成された芯部12と鞘成分で形成された鞘部14とを有している。
【0054】
図2は、図1BのII部を部分的に拡大して示す拡大断面図である。図1Bおよび図2に示すように、芯鞘複合繊維をその繊維中心軸を含むように繊維長手方向に切断した断面(繊維縦断面)で、鞘部14は海島構造を形成し、海部16中に複数の島部18を形成している。島部は海部中で微分散し、島部の形状が制御されている。
本発明の芯鞘複合繊維では、海成分中の島成分の割合を高めつつ、島部を微分散させているため、多数の島部により芯部に対する鞘部のアンカー性を強固にして、鞘剥がれを抑制することができるだけでなく、鞘部のフィブリル化を抑制することができる。
【0055】
島部は、微分散する中で、基本的に略楕円形状で繊維長手方向に延びている。島部の径が大きいと繊維表面への島成分由来の凹凸がより大きくなる。フィブリルが発生するのはこの繊維表面の凹凸の大きさに由来するため、島部の最大径は小さいことが好ましい。また、島部が繊維長手方向に長く延びる形状であるとアンカー効果を発揮できて好ましい。すなわち、一つの繊維横断面での島部の径を単に測定するだけでは、島部の長さによって発生するアンカー効果による寄与を加味できないが、鞘部の顕微鏡写真において、長手方向に島部の形状を観察し、最も大きな幅を有する島部について、当該島部の幅のみならず、その長さも加味して島部の形状を評価することにより、島部のアンカー効果による貢献度を加味しつつ、フィブリル性を評価することができる。そのためには、最大幅Wを有する島部を選択した後、この島部について、図2に示すように、繊維長手方向一端から他端に向かって、前記繊維長手方向に対し定められた角度α(10°)で延びる斜線と重なる長さの斜め長の最大長さL1を測定し、L1/Wを算出することにより、繊維長手方向の延びを加味した島部の形状を評価することが可能となる。
【0056】
まず、前記最大幅Wを有する島部は、繊維縦断面の拡大画像から選択し得る。具体的には、後述する走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)にて、繊維縦断面を繊維長手方向に100μm以上1000μm以下で観察し、その観察範囲のうち、島部の繊維長手方向に垂直な方向(繊維垂直方向)の長さが最大となる箇所の数値を測定値としたものである。ただし、観察範囲は連続である必要は無く、ランダムに抽出された複数視野分の合計でよい。例えば、繊維縦断面の観察範囲において、繊維長手方向に延びる多数の島部のうち、繊維垂直方向の長さが相対的に大きい島部を複数個抽出し、抽出した島部の繊維垂直方向長さを島部の幅として比較することで最大幅を有する島部を決定することができる。この例では、繊維縦断面において、鞘成分の上側および下側部分のいずれか一方のみ(例えば図1Bの下側部分)を観察範囲とすればよい。またこの例では、繊維縦断面を走査型プローブ顕微鏡にて観察し島部の最大幅を求めているが、島部の最大幅を求め得るものであれば、走査型プローブ顕微鏡以外の手段を用いてもよい。なお、繊維切断時には、応力による影響を最小限にするため、樹脂包埋して繊維を固定した上で切断することが好ましい。
【0057】
島部の最大幅Wは、0.65μm以下であり、好ましくは0.60μm以下、より好ましくは0.55μm、さらに好ましくは0.50μm以下であってもよい。島部の最大幅が上記上限値を超えると、耐フィブリル性が不十分となるおそれがある。また、島部の最大幅Wは、0.07μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよい。
【0058】
最大幅Wを有する島部を選択した後、この島部について連続的に長手方向に観察し、図2に示すように、繊維長手方向一端から他端に向かって、前記繊維長手方向に対し定められた角度α(10°)で延びる斜線と重なる長さの斜め長の最大長さL1を測定する。前記斜め長の最大長さL1と最大幅Wの比L1/Wが5.0以上である場合、芯鞘複合繊維は、フィブリル化を抑制しつつ、島部によるアンカー効果を向上させることが可能である。前記L1/Wは、好ましくは5.1以上であり、より好ましくは5.2以上、さらに好ましくは5.3以上、さらにより好ましくは5.5以上であってもよい。L1/Wの上限値に特に制限はないが、10以下であってもよい。
【0059】
前記斜め長の最大長さL1は、最大幅Wの値に応じて変化する値であるが、例えば、1.0μm以上であってもよく、好ましくは1.3μm以上、より好ましくは1.5μm以上、さらに好ましくは1.7μm以上であってもよい。斜め長の最大長さL1が上記下限値以上である場合、芯成分に対するアンカー効果が高まる傾向にある。また、前記斜め長の最大長さL1は、3.3μm以下であってもよく、好ましくは3.1μm以下、より好ましくは2.9μm以下であってもよい。斜め長の最大長さL1が上記上限値以下である場合、フィブリル化が抑制される傾向にある。
【0060】
前記繊維縦断面で、鞘成分中における最も大きな幅を有する島部の繊維長手方向の長さL2は、例えば、450~1000μmであってもよく、好ましくは500~800μm、より好ましくは550~650μmであってもよい。L2が長いほど、芯成分に対するアンカー効果を高めることができる。この島部の繊維長手方向の長さは、繊維縦断面の拡大画像から求め得る。また、放流糸にて島部の繊維長手方向の長さを求め、その値にドラフト値を掛けた計算値として算出してもよい。
【0061】
鞘成分の厚みは、芯成分の露出を防止し繊維の強度を確保する観点から、例えば、0.8~5.0μmであってもよく、好ましくは0.9~4.0μm、より好ましくは0.9~3.8μmであってもよい。
【0062】
図3に示すように、鞘成分の厚みは、例えば、芯鞘複合繊維を繊維長手方向に垂直な平面で切断して見た断面(以下、「繊維横断面」と称す場合がある)において、その繊維横断面の拡大画像などから求め得る。具体的には、走査型顕微鏡等で繊維横断面を撮像し、繊維外周を3等分する任意の3点にて、芯成分の外周面から鞘成分の外周面までの径方向距離を測定し、その平均値から鞘成分の厚みを求めることが可能である。なお、繊維切断時には、応力による影響を最小限にするため、樹脂包埋して繊維を固定した上で切断することが好ましい。
【0063】
芯鞘複合繊維の単糸繊度は、例えば1~120dtexであってもよく、好ましくは2~60dtex、より好ましくは2.5~30dtex、さらに好ましくは3~15dtexである。この単糸繊度は、例えば、JIS L 1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」に準じて測定し得る。また芯鞘複合繊維は、モノフィラメントであってもよく、2本以上のモノフィラメントを含むマルチフィラメントであってもよい。
【0064】
芯鞘複合繊維は、25℃雰囲気下における引張強度が、例えば、10cN/dtex以上であってもよく、好ましくは13cN/dtex以上、より好ましくは15cN/dtex以上、さらに好ましくは18cN/dtex以上、さらにより好ましくは20cN/dtex以上であってもよい。引張強度の上限値に特に制限はないが、30cN/dtex以下であってもよい。ここで引張強度は、JIS L 1013試験法を参考にして測定される値である。なお、芯鞘複合繊維がマルチフィラメントの場合、繊維の引き揃えによる強度の変化を考慮し、マルチフィラメントから1本取り出して単糸引張強度として測定してもよい。
【0065】
芯鞘複合繊維は耐フィブリル性に優れており、この芯鞘複合繊維に対して、120°の角度で互違いに配置された3本の櫛ガイドに試験対象の繊維をそれぞれ通し、各繊維に1g/dtexの荷重をかけ、ストローク長3cm、速度95回/分で30000回の往復運動を与えた場合に、繊維の長さ3cm当たりに発生した、平均毛羽数(5回平均)が、例えば1以下であってもよく、好ましくは0.5以下であってもよい。ここで、毛羽は、芯鞘複合繊維をカメラにて20倍に拡大した際に、1mm以下の小さな毛羽(フィブリル)や、1mmより大きい毛羽や鞘剥がれとして観察することができる。
【0066】
本発明の芯鞘複合繊維は、通常の方法で製織、編成することができ、また、屈曲性熱可塑性ポリマーの種類に応じて、通常の方法により染色することができる。例えば屈曲性高分子がポリエステル系ポリマーである場合、分散染料を用いた従来のポリエステル繊維の染色方法で染色することができる。
【0067】
本発明の芯鞘複合繊維は、各種繊維構造体として好適に用いることができ、本発明の繊維構造体は、本発明の芯鞘複合繊維を少なくとも一部に含んでいる。繊維構造体としては、ロープ、混繊糸等の一次元構造体、織物、編物、不織布等の二次元構造体等の高次加工品が挙げられる。繊維構造体は、芯鞘複合繊維単独で構成されていてもよいし、他の構成部材を本発明の効果が阻害されない範囲で含んでいてもよい。繊維構造体を一旦形成した後に、上述の染色方法で繊維構造体を染色してもよい。
【0068】
繊維構造体が織物である場合、織組織としては特に限定されず、例えば平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織などが挙げられる。また、繊維構造体が編物である場合、編組織としては特に限定されず、例えば丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などが挙げられる。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0070】
[繊度]
JIS L 1013:2010 8.3.1 A法に基づき、大栄科学精器製作所製検尺器を用いて芯鞘複合繊維を100mカセ取りし、その重量(g)を100倍して1水準当たり3回の測定を行い、前記3回の測定値の平均値を得られた繊度(dtex)とした。
【0071】
[引張強度]
JIS L 1013に準じ、USTER社製強伸度測定機「TENSORAPID5」を用いて、試験長20cm、引張速度10cm/分、初荷重を0.33g/dtexとした条件で、1サンプルにつき5回の測定を行い、前記5回の測定値の平均値を強度(cN/dtex)とした。なお、芯鞘複合繊維がマルチフィラメントの場合、マルチフィラメントから1本取り出して単糸引張強度を測定した。
【0072】
[鞘成分の厚み]
芯鞘複合繊維をエポキシ樹脂に包埋し、この包埋したものを繊維長手方向に垂直な平面で切断することで繊維横断面の断面出しを行った。この繊維横断面において、マイクロスコープにて、繊維外周を3等分する任意の3点において、芯部の外周面から鞘部の外周面までの径方向距離を測定し、その平均値を算出し、鞘成分の厚みとした。
【0073】
[島部長さ、島部最大幅]
芯鞘複合繊維をエポキシ樹脂に包埋し、この包埋したものをクロスセクションポリッシャ(CP)にて繊維長手方向に切断することで繊維縦断面の断面出しを行った。この繊維縦断面において、走査型プローブ顕微鏡(SPM)にて、繊維長手方向に100μm以上1000μm以下で観察した。観察範囲にて、繊維長手方向に延びる多数の島部のうち、繊維垂直方向の長さが相対的に大きい島部を複数個抽出し、抽出した島部の繊維垂直方向の長さを島部の幅として比較し、最も大きな幅を有する島部について、島部の最大幅Wを決定した。また、最大幅Wを有する島部について、繊維長手方向の長さL2を測定した。
【0074】
[島部斜め長の最大長さ]
次に、最大幅Wを有する島部について、繊維長手方向一端から他端に向かって、前記繊維長手方向に対し定められた角度α(10°)で延びる斜線と重なる長さの中で、最も長い線分を島部の斜め長の最大長さL1として測定した。
【0075】
[耐摩耗性]
大栄科学精器製作所製のTM型抱合力試験機(型式 TM-200)を用い、120°の角度で互違いに配置された3本の櫛ガイドに試験対象の繊維をそれぞれ通し、各繊維に1g/dtexの荷重をかけ、ストローク長3cm、速度95回/分で30000回の往復運動を与え、カメラにて20倍に拡大して毛羽の状態を確認した。上記試験を5回行い、繊維の長さ3cm当たりについて、それぞれ毛羽の発生の有無を観察した。なお、発生した毛羽については、長さ1mm以下の微小な毛羽と、長さ1mmより大きい毛羽を区別し、以下の基準で評価した。
(毛羽の発生有無)
◎:5回の試験で1回も毛羽が観察されなかった
○:5回の試験で1回以上毛羽が観察されたが、長さ1mmより大きい毛羽は1回も観察されなかった
×:5回の試験で1回以上毛羽が観察され、長さ1mmより大きい毛羽が1回以上観察された
さらに、5回の試験で1回以上毛羽の発生が見られたものについては、発生した毛羽の個数を測定し、上記試験を5回行った平均値として算出した。
【0076】
[実施例1]
以下の方法に従い、芯鞘複合繊維を製造した。
芯成分では、ポリマーAとして構成単位(P:HBA)と(Q:HNA)のモル比が73/27である溶融異方性芳香族ポリエステル[融点(Ma):278℃、溶融粘度(MVa):32.1Pa・s]を用いた。また、鞘成分では、海成分を形成するBポリマーとしてPEN[融点(Mb):266.3℃、溶融粘度(MVb):100Pa・s]を用い、島成分を形成するCポリマーとして上記ポリマーAと同様の溶融異方性芳香族ポリエステル[融点(Mc):278℃、溶融粘度(MVc):32.1Pa・s]を用いた。
【0077】
混練工程では、芯成分と鞘成分を別々の押出機により溶融混練させた。鞘成分の混練工程では、BポリマーおよびCポリマーを鞘成分中の島成分の割合が30重量%となるように混合し、混練押出スタート後に二軸押出機の混練部の設定温度を266℃((Mc-12)℃)に設定して十分混練した後(低温混練工程)、吐出工程において、鞘成分比が0.35(芯鞘比(重量比)として65/35)となるように制御した図4の構造を有する口金より、紡糸温度310℃、ドラフト値22.3倍で紡糸し、10.3dtexのモノフィラメントの芯鞘複合繊維を得た。紡糸性は良好であり、断糸することなく採取が可能であった。
【0078】
ついで、熱処理工程として、得られた繊維を熱処理ボビンに巻き返し、段階的に処理温度を上げ、最高温度260℃として窒素ガス雰囲気中で18時間行った。熱処理ボビンからの解舒性には問題なく、得られた熱処理糸は表5に示す性能を有していた。
【0079】
[実施例2~8]
芯鞘比、鞘成分中の島成分の割合、フィラメント数、単糸繊度、ドラフト値を表5に示すごとく変更したこと以外は、実施例1と同様に芯鞘複合繊維を製造した。結果を表5に示す。いずれも紡糸性は良好であり、断糸することなく採取が可能であった。
【0080】
[比較例1]
鞘成分のBポリマーとCポリマーのチップを手混ぜによりブレンドしたチップブレンドを用い、BポリマーおよびCポリマーを、鞘成分中の島成分の割合が30重量%となるように混合して、低温混練工程において単軸押出機を用いて310℃で溶融混練し、鞘成分比が0.35(芯鞘比(重量比)として65/35)となるように制御した図4の構造を有する口金より、紡糸温度310℃、ドラフト値9.9倍で紡糸した以外は実施例1と同様に紡糸、熱処理を実施し、芯鞘複合繊維を製造した。紡糸性は劣っており、断糸する場合があった。結果を表5に示す。
【0081】
[比較例2]
鞘成分中の島成分の割合を20重量%となるように混合した以外は、比較例1と同様に芯鞘複合繊維を製造した。紡糸性は劣っており、断糸する場合があった。結果を表5に示す。
【0082】
[比較例3]
鞘成分中の島成分の割合を5重量%となるように混合した以外は、比較例1と同様に紡糸、熱処理を実施し、芯鞘複合繊維を製造した。特許文献1に記載されているように、鞘成分中の島成分の割合が10重量%以下であるため、紡糸性は良好であり、断糸することなく採取が可能であった。結果を表5に示す。
【0083】
[比較例4]
鞘成分比が0.15(芯鞘比(重量比)として85/15)、ドラフト値15.5で紡糸した以外は、比較例1と同様に芯鞘複合繊維を製造した。紡糸性は劣っており、断糸する場合があった。結果を表5に示す。
【0084】
[比較例5]
鞘成分の混練工程において、実施例1と同様の低温混練工程を行った以外は、比較例1と同様に紡糸、熱処理を実施し、芯鞘複合繊維を製造した。紡糸性は良好であり、断糸することなく採取が可能であった。結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
表5に示すように、実施例1~8では、いずれも、鞘成分中の溶融異方性芳香族ポリエステルの割合を高くしても、鞘成分の海島構造の島部の形状を制御することにより、高い耐摩耗性と紡糸性を両立することができている。
【0087】
実施例1~8はいずれも、30000回の往復運動による摩耗試験において1mmより大きい毛羽の発生が見られなかったことから、鞘剥がれも発生せず、耐摩耗性に優れている。特に実施例2~3では、島部の最大幅が小さいためか、1mm以下の微小なフィブリルすらも観察されていない。さらに、実施例1および4~5では、島部の最大幅は実施例2~3より大きいものの、島部の幅を小さく、島部の長さを長くすることにより島部の斜め長の最大長さL1/最大幅Wを大きくすることができるためか、1mm以下の微小なフィブリルすらも観察されていないか、または、5回の測定のうちわずか1回観察されたにすぎない。
【0088】
特に、実施例4~5では、鞘成分中の島部形状を制御することにより、鞘を薄くしても耐摩耗性を維持しており、また、芯成分比が高いことに由来して強度も高くなっている。
【0089】
また、単糸繊度が小さい実施例6であっても、単糸繊度が大きい実施例7~8であっても、鞘成分中の島部形状を制御することにより、比較例1~3より良好な耐摩耗性を示している。
【0090】
一方、比較例1は、鞘成分について特定の溶融混練工程を行わないため、紡糸性が不良であり、紡糸中に断糸が発生した。また、比較例1では、実施例1と同様の芯鞘比および鞘成分における島成分の割合を有しているが、得られた芯鞘複合繊維の鞘部では、島部の最大幅が実施例1より大きく、大きな島部を有することが示されている。さらに、島部の斜め長の最大長さ/最大幅が小さいためか、鞘成分のアンカー効果が発揮できず、耐摩耗試験での毛羽の評価に際して、1mm以下の小さな毛羽(フィブリル)が発生するだけでなく、毛羽数も実施例1より多く発生し、さらに1mmより大きい毛羽、鞘剥がれも発生している。また、繊維強度についても、実施例1より低い値を示している。
【0091】
比較例2では、実施例2と同様の芯鞘比および鞘成分における島成分の割合を有しているが、鞘成分について特定の溶融混練工程を行わないため、実施例2と比べて島部の最大幅が大きく、大きな島部を有することが示されている。耐摩耗試験での毛羽の評価に際して、毛羽数も実施例2より多く発生し、さらに1mmより大きい毛羽、鞘剥がれも発生している。また、繊維強度についても、実施例2より低い値を示している。
【0092】
比較例3では、鞘成分中の溶融異方性芳香族ポリエステルの割合が実施例1および2より低いにもかかわらず、実施例1および2と比べて島部最大幅が大きく、大きな島部を有することが示されている。耐摩耗試験での毛羽の評価に際して、毛羽数も実施例1および2より多く発生し、さらに1mmより大きい毛羽、鞘剥がれが発生している。また、繊維強度についても、実施例1および2より低い値を示している。
【0093】
比較例4では、実施例5と同様の芯鞘比および鞘成分における島成分の割合を有しているが、鞘成分について特定の溶融混練工程を行わないため、島部の斜め長の最大長さ/最大幅が小さく、1mmより大きい毛羽、鞘剥がれが発生している。
【0094】
比較例5では、実施例1と同様の芯鞘比および鞘成分における島成分の割合を有しており、鞘成分について特定の溶融混練工程を行っているため、島成分の最大幅は小さいが、紡糸時のドラフト値が小さいため、島部の斜め長の最大長さ/最大幅が小さく、1mmより大きい毛羽、鞘剥がれが発生している。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の芯鞘複合繊維は、鞘成分中の溶融異方性芳香族ポリエステルの割合を高めることで高強度・高弾性率を維持しつつフィブリル化を抑制できるため、テンションメンバー(電線、光ファイバー、アンビリカルケーブル、ヒーター線芯糸、イヤホンコード等の各種電気製品のコード等)、セールクロス、ロープ(海洋、登山、クレーン、ヨット、タグ等)、ザイル、陸上ネット、スリング、命綱、釣糸、縫い糸、網戸コード、漁網、延縄、ジオグリッド、防護手袋、防護衣・アウトドア衣料のリップストップ、ライダースーツ、スポーツ用ラケット、ガット、医療用カテーテル補強材、縫合糸、スクリーン紗、フィルター、プリント基板用基布、メッシュ状搬送ベルト、抄紙用ベルト、ドライヤーカンバス、飛行船、気球、エアーバッグ、スピーカーコーン、各種ホース・パイプ用の補強材、タイヤ・コンベアベルト等のゴム・プラスチック等の補強材等の高次加工製品等に活用される。また、一般的な手法で染色可能であるため、特にセールクロス、ザイル、陸上ネット、釣糸、漁網、延縄、防護衣・アウトドア衣料のリップストップ、ゴム・プラスチック等の補強材、一般衣料等の高次加工製品などにおいて、良好に活用される。
【0096】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
図1A
図1B
図2
図3
図4