IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電源開発株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-溶接部の寿命評価方法 図1
  • 特許-溶接部の寿命評価方法 図2
  • 特許-溶接部の寿命評価方法 図3
  • 特許-溶接部の寿命評価方法 図4
  • 特許-溶接部の寿命評価方法 図5
  • 特許-溶接部の寿命評価方法 図6
  • 特許-溶接部の寿命評価方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】溶接部の寿命評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20250307BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
G01N29/11
G01N29/48
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024060894
(22)【出願日】2024-04-04
【審査請求日】2024-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000217686
【氏名又は名称】電源開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村井(古澤) 友紀子
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-045218(JP,A)
【文献】特開2011-128055(JP,A)
【文献】特開2017-191115(JP,A)
【文献】特開2013-011521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/11
G01N 29/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム鋼からなる部材同士を溶接した溶接部の寿命評価方法であって、
所定の第一欠陥を有する第一試験片を複数準備する第一工程と、
超音波振動子を用いて前記第一試験片に超音波を照射し、前記超音波が前記第一欠陥で反射して発生するエコー値Aを測定し、前記エコー値Aと前記第一欠陥の大きさとの第一相関関係を分析する第二工程と、
評価対象の溶接部と同等の組成で、加速試験の途中過程で第二欠陥を生じる第二試験片を準備する第三工程と、
前記第二試験片に対し、前記加速試験の実行と中途止めを交互に複数回繰り返し、前記加速試験の中途止め時に、前記第二試験片と前記超音波振動子の位置関係を、前記第一試験片と前記超音波振動子の位置関係と揃えた上で、前記超音波振動子を用いて前記第二試験片に超音波を照射し、前記超音波が前記第二欠陥で反射して発生するエコー値Bを測定する第四工程と、
前記第一相関関係を参照して、前記エコー値Bに対応する前記第二欠陥の大きさを求める第五工程と、
前記第二試験片において巨視き裂が発生するまでの試験時間に対する、前記加速試験の中途止め時までの試験時間の比を寿命消費率とし、前記寿命消費率と前記第二欠陥の大きさとの第二相関関係を分析する第六工程と、
第三欠陥を有する前記評価対象の溶接部と前記超音波振動子の位置関係を、前記第一試験片と前記超音波振動子の位置関係と揃えた上で、前記超音波振動子を用いて前記溶接部に超音波を照射し、前記第三欠陥で発生するエコー値Cを測定し、前記第一相関関係を参照して、前記エコー値Cに対応する前記第三欠陥の大きさを求める第七工程と、
前記第二相関関係を参照して、前記第三欠陥の大きさに対応する寿命消費率を求める第八工程と、を有する、ことを特徴とする溶接部の寿命評価方法。
【請求項2】
前記第五工程、前記第七工程で参照する前記第一相関関係を、前記第二欠陥、前記第三欠陥に最も近い位置と対応する位置で分析したものとする、ことを特徴とする請求項1に記載の溶接部の寿命評価方法。
【請求項3】
前記第一工程において、前記第一欠陥が複数の位置に存在する前記第一試験片を準備し、前記第二工程において、前記第一欠陥の位置ごとに前記第一相関関係を分析する、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の溶接部の寿命評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部の寿命評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高温使用中の金属材料では、クリープ損傷が生じる。特に、火力発電用超々臨界圧ボイラの大径管に使用されている高クロム鋼では、溶接部の熱影響部(HAZ部)においてクリープ損傷が進行する。金属結晶粒界におけるボイドの発生、密集、連結から微視き裂、巨視き裂に至るタイプIV損傷が重要視されている。
【0003】
この高クロム鋼の溶接部におけるクリープ損傷は、溶接部内の応力集中部より生じることが知られている。外表面の検査(浸透探傷検査、磁粉探傷検査、レプリカ採取など)では、損傷進行具合を評価することが困難であることから、フェイズドアレイ法超音波検査により、いち早くその損傷兆候をとらえるとともに、余寿命評価を行えるようになることが期待されている。
【0004】
フェイズドアレイ法超音波検査は、複数の振動素子を備え、それらを電子的に制御することで超音波ビームのコントロールを可能とする超音波検査法である(特許文献1)。探傷データの画像化により、材料内部の欠陥を視覚的に把握できる一方、JIS規格などが整備されておらず、現状はUT規格に準じて各社で判定基準を作成しており、評価もき裂の有無にとどまっている状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7013796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、クロム鋼の溶接部内に存在する欠陥の情報から、溶接部の寿命を予測することを可能とする溶接部の寿命評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0008】
(1)本発明の一態様に係る溶接部の寿命評価方法は、クロム鋼からなる部材同士を溶接した溶接部の寿命評価方法であって、所定の第一欠陥を有する第一試験片を複数準備する第一工程と、超音波振動子を用いて前記第一試験片に超音波を照射し、前記超音波が前記第一欠陥で反射して発生するエコー値Aを測定し、前記エコー値Aと前記第一欠陥の大きさとの第一相関関係を分析する第二工程と、評価対象の溶接部と同等の組成で、加速試験の途中過程で第二欠陥を生じる第二試験片を準備する第三工程と、前記第二試験片に対し、前記加速試験の実行と中途止めを交互に複数回繰り返し、前記加速試験の中途止め時に、前記第二試験片と前記超音波振動子の位置関係を、前記第一試験片と前記超音波振動子の位置関係と揃えた上で、前記超音波振動子を用いて前記第二試験片に超音波を照射し、前記超音波が前記第二欠陥で反射して発生するエコー値Bを測定する第四工程と、前記第一相関関係を参照して、前記エコー値Bに対応する前記第二欠陥の大きさを求める第五工程と、前記第二試験片において巨視き裂が発生するまでの試験時間に対する、前記加速試験の中途止め時までの試験時間の比を寿命消費率とし、前記寿命消費率と前記第二欠陥の大きさとの第二相関関係を分析する第六工程と、第三欠陥を有する前記評価対象の溶接部と前記超音波振動子の位置関係を、前記第一試験片と前記超音波振動子の位置関係と揃えた上で、前記超音波振動子を用いて前記溶接部に超音波を照射し、前記第三欠陥で発生するエコー値Cを測定し、前記第一相関関係を参照して、前記エコー値Cに対応する前記第三欠陥の大きさを求める第七工程と、前記第二相関関係を参照して、前記第三欠陥の大きさに対応する寿命消費率を求める第八工程と、を有する。
【0009】
(2)上記(1)に記載の溶接部の寿命評価方法において、前記第五工程、前記第七工程で参照する前記第一相関関係を、前記第二欠陥、前記第三欠陥に最も近い位置と対応する位置で分析したものとすることが好ましい。
【0010】
(3)上記(1)または(2)のいずれかに記載の溶接部の寿命評価方法において、前記第一工程において、前記第一欠陥が複数の位置に存在する前記第一試験片を準備し、前記第二工程において、前記第一欠陥の位置ごとに前記第一相関関係を分析してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の溶接部の寿命評価方法によれば、クロム鋼の溶接部内に存在する欠陥の情報から、溶接部の寿命を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態において、第一試験片を用いて行うフェイズドアレイ法超音波検査について、説明する図である。
図2】同実施形態において、第一試験片でのフェイズドアレイ法超音波検査から得られる、エコー値と欠陥の大きさの関係を示すグラフについて、説明する図である。
図3】加速試験により得られた欠陥の大きさと寿命消費率の関係を示すグラフについて、説明する図である。
図4】同実施形態において、フェイズドアレイ法超音波検査を行っている溶接部の断面図である。
図5】(a)第一相関関係を参照して、欠陥の大きさを求める手順について説明する図である。(b)第二相関関係を参照して、寿命消費率を求める手順について説明する図である。
図6】実施例1で得られた第一相関関係を示すグラフである。
図7】実施例1で得られた第二相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した実施形態に係る溶接部の寿命評価方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0014】
本発明の一実施形態に係る溶接部の寿命評価方法は、クロム鋼からなる部材同士を溶接した溶接部において、溶接部の内部のクリープ損傷の状態によって決まる寿命を評価する方法である。溶接部は、高温で使用する構造物(配管等)の一部を構成する。クロム鋼としては、クロムを添加した合金鋼であればよく、特に限定されないが、例えば、クロムの含有率を8%以上とする高クロム鋼(9Cr鋼等)が挙げられる。
【0015】
ここでの寿命は、溶接部の破断の原因となる巨視き裂が発生するまでの時間を意味している。巨視き裂は、複数のボイドが連結した微子き裂が成長して大きくなったき裂であり、「火力用発電設備の技術基準の解釈」においては、溶接部の厚さの区分により判定基準が定められている。ここでの巨視き裂は、例えば約6mm以上の長さに成長したき裂を意味している。
【0016】
本実施形態の溶接部の寿命評価方法は、主に次の工程を有する。
【0017】
(第一工程)
評価対象と同等の音速を持つ材料からなる参照用の第一試験片を、複数準備する。第一試験片は、クリープ損傷に対応する第一欠陥(空隙等)を有する。第一欠陥の大きさは、第一試験片ごとに異なる。第一欠陥の大きさの定義は、特に限定されることがなく、例えば、第一試験片の所定の断面における第一欠陥の最大径、平均径(最大径と最小径の平均)、あるいは面積等としてもよい。本実施形態では、第一欠陥の大きさを、第一欠陥の最大径として定義する場合を例示する。第一試験片の構成材料は、特に限定されないが、評価対象の溶接部(以下では、単に溶接部と呼ぶことがある)と同じであることが好ましい。
【0018】
(第二工程)
フェイズドアレイ法超音波検査等による超音波の照射によって、測定されるエコー値Aと、第一試験片の内部の第一欠陥の大きさとの第一相関関係を分析する。なお、第一工程において、第一欠陥が複数の位置に存在する第一試験片を準備した場合には、第二工程において、第一欠陥の位置ごとに第一相関関係を分析してもよい。
【0019】
図1は、フェイズドアレイ法超音波検査を行い、エコー値Aを測定する場合について説明する図である。第一試験片101として、ここでは一方向に貫通する第一欠陥102を有する横穴試験片が用いられる。第一試験片の一面101aに、探触子(プローブ、超音波振動子)103が配置される。第一欠陥102は、一面101aから深さ方向に、所定の間隔をおいて複数(ここでは四つ)並んでおり、それぞれ一面101aと略平行な方向に第一試験片101を貫通している。
【0020】
具体的には、図1に示すように、探触子103に備えた超音波振動子を用いて、第一試験片101に超音波103Aを照射し、超音波103Aが第一欠陥102で反射して発生するエコー値Aを測定する。エコー値Aは、測定で得られる反射波の最大値(最大エコー値)であるとする。
【0021】
測定されるエコー値は、第一欠陥102と探触子103との位置関係によって異なるため、例えば溶接部の厚さの中央部に位置する第一欠陥102(例えば図中の上から三番目の第一欠陥)を基準穴として基準感度を調整し、固定した基準感度に対して、探触子103と第一欠陥102との距離が第二試験片、評価対象における探触子と溶接部の位置関係と同じになるように、第一試験片101の配置を調整することが好ましい。
【0022】
同じ測定を、準備した全ての第一試験片101に対して行う。異なる大きさの第一欠陥102を有する他の第一試験片に対しても、同じ測定を行う。それぞれの第一試験片において、測定されるエコー値Aと、第一欠陥102の大きさとの第一相関関係を分析する。具体的には、次のように行う。
【0023】
図2は、この測定によって得られるグラフを説明する図である。探触子103と第一欠陥102が同じ位置関係にあるとき、同じ深さにおける第一欠陥の大きさ(縦軸)とエコー値A(横軸)の測定結果をプロットすると、図2に示すような第一相関関係を示す一つの曲線(検量線)が得られる。したがって、エコー値を測定することにより、溶接部の内部にある欠陥の大きさを、溶接部を破壊せずに、検量線を用いて推定することができる。なお、探触子と第一欠陥の位置関係または対象とする第一欠陥が変わると、別の曲線が得られることになる。後の工程で、第二試験片における第二欠陥の大きさ、評価対象の溶接部における第三欠陥の大きさを推定するために参照することを想定し、多くの位置でこの曲線を得ておくことが好ましい。
【0024】
図1は、溶接部の溶金中心部(溶接金属からなる部分の中心部)に対応する位置102Aで、エコー値Aを測定する場合について例示している。同じ測定を熱影響部(HAZ部)に対応する位置102B、102Cで行う場合には、第一試験片101を水平に移動させ、第一欠陥の位置を熱影響部に対応する位置に重ねる。
【0025】
分析結果を、後の工程で参照できるように記録する。この記録は、パソコン等を用いて行ってもよい。
【0026】
(第三工程)
評価対象の溶接部と同等の組成(9Cr鋼等の高クロム鋼の組成)の第二試験片を準備する。尚、第二試験片は、後述する加速試験の実行により、その途中過程で第二欠陥を生じる。この第二欠陥は、加速試験の進行とともに成長し、最終的に巨視き裂に至る。
【0027】
(第四工程)
第二試験片に対し、高温・高応力下でクリープ損傷を加速させる加速試験の実行と中途止めを交互に複数回繰り返す。例えば、各回の加速試験の実行を、予測される寿命から算出される寿命消費率が、10%進行するまでの時間続けるものとする。すなわち、予測される寿命の寿命消費率が0~10%になる間に一回目の加速試験を実行し、その加速試験を一旦中途止めした後に、予測される寿命の寿命消費率が10~20%になる間に二回目の加速試験を実行し、その加速試験を一旦中途止めした後に、寿命消費率が20~30%になる間に三回目の加速実験を実行する。同様にして、加速試験の実行と中途止めが交互に繰り返される。なお、加速試験の実行時間については、寿命消費率の何%の時間に設定してもよい。また、加速試験の実行と中途止めの繰り返しの回数は、任意に設定できる。
【0028】
加速試験の中途止め時に、超音波振動子を用いて第二試験片に超音波を照射し、超音波が第二欠陥で反射して発生するエコー値Bを測定する。ここでのエコー値Bも、上記エコー値Aと同様に、測定で得られる反射波の最大値(最大エコー値)であるとする。なお、超音波の照射は、第二試験片と探触子(超音波振動子)の位置関係を、第一試験片と探触子の位置関係と揃えた上で行う。
【0029】
(第五工程)
第二工程で求めた第一相関関係(図2)を参照して、エコー値Bに対応する第二欠陥の大きさを求める。ここで参照する第一相関関係は、第二欠陥に最も近い位置と対応する位置で分析したものとすることが好ましい。
【0030】
(第六工程)
第二試験片において巨視き裂が発生し、寿命消費率100%となったときの試験時間を第二試験片の実寿命とし、第四工程で予測した寿命の寿命消費率を、実寿命と整合するように修正する。例えば、寿命を5,000時間と予測した場合、寿命消費率が10%進行する時間は500時間と算出される。ところが実寿命が4,000時間であった場合、算出された500時間の寿命消費率は、実際には12.5%となる。この場合には、寿命消費率を10%から12.5%に修正する。
【0031】
修正後の寿命消費率と、第二欠陥の大きさとの第二相関関係を分析する。図3は、この分析によって得られるグラフの一例を示す図である。第二欠陥の大きさ(縦軸)と寿命消費率(横軸)の測定結果をプロットすると、図3に示すような一つの曲線(マスターカーブ)が得られる。この曲線を用いることにより、第二欠陥の大きさから、溶接部の寿命消費率を推定することができる。第二相関関係の分析結果については、後の工程で参照できるように記録する。この記録は、パソコン等を用いて行ってもよい。
【0032】
(第七工程)
第三欠陥(クリープ損傷)を有する評価対象の溶接部に対し、フェイズドアレイ法超音波検査等を用いて、第三欠陥に対して超音波を照射する。図4は、超音波103Aを照射された溶接部104の断面図である。図4中の「〇」位置は、第二工程で得られる第一相関関係の作成位置を示している。本実施形態では、第三欠陥105が、左側の熱影響部104B近傍に存在する場合を想定し、超音波103Aを照射された第三欠陥105で発生するエコー値Cを測定する。なお、超音波103Aの照射は、溶接部104と探触子(超音波振動子)103の位置関係を、第一試験片101と探触子103の位置関係と揃えた上で行う。
【0033】
第二工程で得られる第一相関関係を参照して、測定したエコー値Cに対応する第三欠陥105の大きさを求める。第三欠陥105の大きさの定義は、上述した第一欠陥の定義と同様であるとする。ここで参照する第一相関関係は、第三欠陥に最も近い位置と対応する位置で分析したものとすることが好ましい。図5(a)は、得られた複数の第一相関関係のうち、第三欠陥が存在する深さに対応する第一相関関係の曲線を示すグラフである。三つの曲線は、それぞれ、図4に示す溶金中心部(WM=0)104A、左側の熱影響部(HAZ(L))104B、右側の熱影響部(HAZ(R))104Cでの第一相関関係を示している。ここでは、第三欠陥105に最も近い位置と対応する、左側の熱影響部(HAZ(L))104B3で得られた中央の曲線を選択する。この曲線から、測定したエコー値Cに対応する第三欠陥105の大きさを求めることができる。
【0034】
(第八工程)
第六工程で得られる第二相関関係を参照して、第七工程で求めた第三欠陥105の大きさに対応する寿命消費率を求める。図5(b)は、第二相関関係の曲線を示すグラフである。この曲線から、求めた第三欠陥105の大きさに対応する寿命消費率を求めることができる。
【0035】
第一相関関係は同じ構成の溶接部に共通するものであるため、同じ構成で二つ目以降の溶接部の寿命評価においては、第一工程、第二工程を省略することができる。また、第二相関関係は、同等の組成(高クロム鋼(9Cr鋼等))の溶接部に共通するものであるため、同等の組成で二つ目以降の溶接部の寿命評価においては、第三工程、第四工程、第五工程、および第六工程を省略することができる。
【0036】
溶接部の内部に発生する欠陥には、時間経過とともに成長する成長欠陥(クリープ損傷)だけでなく、成長しない非成長欠陥(初期欠陥等)も含まれることがある。非成長欠陥は、破断の原因になる欠陥ではないため、その寿命評価は不要と考えられる。成長欠陥の多くは熱影響部に存在し、非成長欠陥の多くは溶金部に存在する。そのため、熱影響部の近傍に存在する第三欠陥に対して、優先的に寿命評価を行ってもよい。
【0037】
予め、成長欠陥と非成長欠陥とを識別した上で、成長欠陥のみについて寿命評価を行ってもよい。具体的には、第七工程において、成長欠陥と非成長欠陥とを識別する工程をさらに有し、第八工程で評価する対象を、成長欠陥のみとする。
【0038】
成長欠陥と非成長欠陥との識別は、例えば、前記評価対象となる溶接部において、過去に取得したフェイズドアレイ法超音波検査のエコー値との対比により行う。
【0039】
以上のように、本実施形態の溶接部の寿命評価方法は、欠陥の成長に依存するクロム鋼の溶接部のクリープ寿命を、任意のタイミングで推定し、寿命消費率の評価を可能とするものである。本実施形態の寿命評価方法は、欠陥への超音波照射によって得られるエコー値と、エコー値に対応する欠陥の大きさと、欠陥の成長による寿命消費率との間に、固有の相関関係があるという本発明者の知見に基づいて得られたものである。
【0040】
本実施形態の溶接部の寿命評価方法によれば、評価対象の参照となる試験片を用いて、欠陥の大きさと寿命消費率との相関関係を分析(把握)しておくことにより、評価対象の溶接部で観察されるクリープ損傷(欠陥)の大きさから、その溶接部の寿命消費率を容易かつ正確に評価することができる。したがって、クリープ損傷の進行具合を早期に知ることができ、溶接部の補修、交換等を検討するなどして、最善の対策を講じることが可能になる。
【実施例
【0041】
以下、実施例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0042】
(実施例1)
上記実施形態に沿って、クロム鋼(火技解釈材料:火STPA28)の溶接部の寿命評価を行った。具体的には、溶接部の内部に存在する欠陥のうち、熱影響部の近傍において、探触子を配置した表面から深さ30mmの位置にある欠陥を選択し、この欠陥によって決まる溶接部の寿命を、次の手順で評価した。
【0043】
溶接部の参照となる第一試験片を用いて、フェイズドアレイ法超音波検査を行い、第一相関関係の分析を行った。図6は、溶金中心部と、溶金中心部を挟む両側(左側、右側)の熱影響部で、探触子を配置した表面から深さ30mmの位置の第一欠陥に対して、得られた第一相関関係の曲線を示すグラフである。グラフの横軸の数値については、非表示としている。
【0044】
溶接部と同じ組成の第二試験片を用いて加速試験を行い、第二相関関係の分析を行った。図7は、得られた第二相関関係の曲線を示すグラフである。グラフの縦軸の数値については、非表示としている。
【0045】
溶接部内の選択した第三欠陥に対し、測定されたエコー値(最大エコー値)は、B%であった。図6の第一相関関係の曲線のうち、選択した第三欠陥に対応する第一相関関係の曲線(中央の曲線)から、測定したエコー値に対応する第三欠陥の大きさ(最大径)は、αmmであることが分かった。
【0046】
図7の第二相関関係の曲線から、この第三欠陥の大きさ(αmm)に対応する寿命消費率は、72%であることが分かった。本発明の溶接部の寿命評価方法によれば、同様の手順により、任意の欠陥に対してエコー値を測定することにより、その欠陥による溶接部の寿命消費率を評価することができる。
【符号の説明】
【0047】
101・・・第一試験片
101a・・・第一試験片の一面
102・・・第一欠陥
103・・・探触子(超音波振動子)
103A・・・超音波
104・・・溶接部
104A・・・溶金中心部
104B・・・熱影響部(左側)
104C・・・熱影響部(右側)
105・・・第三欠陥
【要約】
【課題】クロム鋼の溶接部において、欠陥の情報から寿命を予測する方法を提供する。
【解決手段】本発明の溶接部の寿命評価方法は、第一欠陥を有する第一試験片を準備する工程、第一欠陥で発生する超音波エコー値Aを測定し、第一欠陥の大きさとの第一相関関係を得る工程、加速試験の途中過程で第二欠陥を生じる第二試験片を準備する工程、第二試験片に対し、加速試験の実行と中途止めを繰り返し、中途止め時に第二欠陥で発生する超音波エコー値Bを測定する工程、第一相関関係を参照してエコー値Bに対応する第二欠陥の大きさを求める工程、第二試験片の実際の寿命を測定し、寿命消費率を修正し、第二欠陥の大きさとの第二相関関係を得る工程、評価対象の溶接部の超音波エコー値Cを測定し、第一相関関係からエコー値Cに対応する第三欠陥の大きさを求める工程、第二相関関係から第三欠陥の大きさに対応する寿命消費率を求める工程を有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7