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特許7646084航法軌道演算装置、航法軌道演算方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】航法軌道演算装置、航法軌道演算方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B64G 3/00 20060101AFI20250307BHJP
   B64G 1/66 20060101ALI20250307BHJP
   B64G 1/10 20060101ALI20250307BHJP
   B64G 1/24 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
B64G3/00
B64G1/66 Z
B64G1/10
B64G1/24 200
B64G1/66 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024527924
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2022023680
(87)【国際公開番号】W WO2023242922
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2024-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】浅野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】西山 岳宏
(72)【発明者】
【氏名】本田 瑛彦
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-008220(JP,A)
【文献】特開2012-144137(JP,A)
【文献】特開2009-019984(JP,A)
【文献】特開2005-219619(JP,A)
【文献】特開2017-047881(JP,A)
【文献】特開2021-059190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 3/00
B64G 1/66
B64G 1/10
B64G 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙機に搭載されたセンサで観測可能な観測可能範囲を算出する観測可能領域演算部と、
前記観測可能領域演算部が算出した前記観測可能範囲に含まれる観測開始点と、前記観測可能範囲に含まれる観測終了点と、を含む航法軌道を算出する航法軌道演算部と、を備え、
前記観測開始点と前記センサが観測する接近対象との距離が、前記観測終了点と前記接近対象との距離よりも大きい、
航法軌道演算装置。
【請求項2】
前記航法軌道演算部は、前記観測開始点と前記接近対象との距離を前記観測可能範囲の中で最大とし、前記観測終了点と前記接近対象との距離を前記観測可能範囲の中で最小とする前記航法軌道を算出する、
請求項1に記載の航法軌道演算装置。
【請求項3】
前記航法軌道演算部は、前記接近対象の位置を通り観測開始時刻における前記接近対象の位置の誤差共分散行列の最小固有値に対応する固有ベクトルに平行な直線上に前記観測開始点を含む前記航法軌道を算出する、
請求項1又は2に記載の航法軌道演算装置。
【請求項4】
前記航法軌道演算部は、前記観測終了点における宇宙機の速度方向が前記終了点と前記接近対象とを通る直線に垂直な向きである前記航法軌道を算出する、
請求項1又は2に記載の航法軌道演算装置。
【請求項5】
前記航法軌道演算部は、前記宇宙機がマヌーバを行う位置を示すマヌーバ点を1個以上含む航法軌道を算出する、
請求項1又は2に記載の航法軌道演算装置。
【請求項6】
接近対象を観測するセンサで観測可能な観測可能範囲を算出し、
算出した前記観測可能範囲に含まれる観測開始点と、前記観測可能範囲に含まれる観測終了点と、を含む航法軌道を算出し、
前記観測開始点と前記接近対象との距離は、前記観測終了点と前記接近対象との距離よりも大きい、
航法軌道演算方法。
【請求項7】
コンピュータに、
接近対象を観測するセンサで観測可能な観測可能範囲を算出させ、
算出した前記観測可能範囲に含まれる観測開始点と、前記観測可能範囲に含まれる観測終了点と、を含む航法軌道を算出させ、
前記観測開始点と前記接近対象との距離は、前記観測終了点と前記接近対象との距離よりも大きい、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、航法軌道演算装置、航法軌道演算方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、時系列に連続して画像を撮影する宇宙機に設けられた光学センサと、制御部と、を備える位置推定システムが記載されている。制御部は、境界面方向取得部と、第1時刻取得部と、第1時刻における宇宙機からターゲットに向かう視線角を取得する視線角取得部と、第2時刻取得部と、第1時刻と第2時刻との間の宇宙機移動距離取得部と、第1時刻における宇宙機に対するターゲットの相対的な位置を推定する第1ターゲット相対位置推定部と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-59190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
移動体が光学センサを用いて空間上の物体との相対航法を行う際に、物体との距離が遠い場合は移動体と物体との相対方向に関する情報しか得ることができない。この航法はAngles-Only Navigation (AON)と呼ばれ、物体との相対運動が線形ダイナミクスに従う場合には可観測にならない。可観測性がない場合、最終的な誤差は初期推定誤差及び初期条件に依存し、長時間の観測を行っても相対位置及び速度の推定誤差を一定以上小さくすることができない。
【0005】
特許文献1に記載の装置は、日陰領域と日照領域との境界面近傍の観測を行い、境界に到達した時刻から接近対象の相対位置及び速度を推定している。この方法では境界面近傍の観測が必要になり、軌道高度によっては短時間での推定ができないという課題があった。
【0006】
本開示はかかる課題に鑑みてなされたものであって、観測開始点と接近対象との距離を観測終了点と接近対象との距離よりも大きくすることで、日陰領域と日照領域との境界面近傍の観測をせずとも、相対位置及び速度の推定誤差を小さくすることが可能な航法軌道演算装置、航法軌道演算方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る航法軌道演算装置は観測可能領域演算部と、航法軌道演算部と、を備える。観測可能領域演算部は、宇宙機に搭載されたセンサで観測可能な観測可能範囲を算出する。航法軌道演算部は、観測可能領域演算部が算出した観測可能範囲に含まれる観測開始点と、観測可能範囲に含まれる観測終了点と、を含む航法軌道を算出する。観測開始点とセンサが観測する接近対象との距離が、観測終了点と接近対象との距離よりも大きい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、観測開始点と接近対象との距離を観測終了点と接近対象との距離よりも大きくすることで、日陰領域と日照領域との境界面近傍の観測をせずとも、相対位置及び速度の推定誤差を小さくすることが可能な航法軌道演算装置、航法軌道演算方法及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る航法軌道演算装置の構成を示すブロック図
図2】実施の形態1の観測可能領域演算部が算出する観測可能領域を示す図
図3】実施の形態1の航法軌道演算部が算出する航法軌道を示す図
図4】実施の形態1の初期推定誤差と観測終了時刻における推定誤差との例を示す図
図5】実施の形態1の初期推定誤差と観測終了時刻における推定誤差との別の例を示す図
図6】実施の形態1の遷移開始点、観測開始点、及び遷移軌道を示す図
図7】実施の形態1に係る航法軌道演算装置が実行する航法軌道演算処理を示すフローチャート
図8】実施の形態3の初期推定誤差、観測開始後の誤差、及び観測終了後の誤差の例を示す図
図9】実施の形態3の初期推定誤差、観測開始後の誤差、及び観測終了後の誤差の別の例を示す図
図10】実施の形態5の観測開始点、マヌーバ点、及び観測終了点を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係る航法軌道演算装置1について、図1図7を参照して説明する。図中同一又は相当する部分には同一符号を付す。実施の形態に係る航法軌道演算装置1は、宇宙機に搭載され、宇宙機の航法軌道Oを演算して宇宙機を制御する装置である。
【0011】
図1は、実施の形態1に係る航法軌道演算装置1の構成を示すブロック図である。図1に示すように、航法軌道演算装置1は、接近対象3を観測するセンサ100と、センサ100の観測可能領域Rに基づいて宇宙機の航法軌道Oを決定する航法軌道決定部200と、航法軌道決定部200が決定した航法軌道Oに宇宙機を投入する軌道投入部300と、を備える。
【0012】
センサ100は、宇宙機に搭載され、接近対象3を観測して宇宙機と接近対象3との相対位置を測定する装置である。センサ100は光学カメラを含み得るが、これに限られるものではない。
【0013】
航法軌道決定部200は、センサ100の観測可能領域Rに基づいて宇宙機の航法軌道Oを決定する。航法軌道決定部200は、接近対象3を観測可能な領域である観測可能領域Rを算出する観測可能領域演算部201と、宇宙機の航法軌道Oを算出する航法軌道演算部202と、を含む。
【0014】
観測可能領域演算部201は、接近対象3の最小観測距離Lmin、最大観測距離Lmax及び接近対象3と太陽Sとの位置関係に基づいて、接近対象3を観測可能な領域である観測可能領域Rを算出する。具体的には、観測可能領域演算部201は、接近対象3を中心とし、接近対象3との距離が最小観測距離Lmin以上最大観測距離以下Lmaxであって、逆光領域Bでない領域を観測可能領域Rとして算出する。
【0015】
接近対象3は、航法軌道演算装置1を搭載した宇宙機が接近する対象であり、人工衛星を含む宇宙機、小惑星、スペースデブリを含み得るが、これに限られるものではない。
【0016】
図2は、実施の形態1に係る航法軌道演算装置1の観測可能領域演算部201が算出する測可能領域を示す図である。図2では、観測可能領域R、最小観測距離Lmin、及び最大観測可能距離Lmaxの境界面を球面としその断面で表現しているが、これらの境界面の形状は球面に限られず任意の形状であってよい。
【0017】
観測可能領域演算部201は、接近対象3との衝突を避ける接近可能距離と、初期推定位置誤差と、安全率とから最小観測距離Lminを決定する。観測可能領域演算部201は、接近対象3が協力物体である場合は、接近対象3のGPS測位情報をダウンリンクすることで初期推定位置誤差を決定する。観測可能領域演算部201は、接近対象3が非協力物体である場合は、地上の望遠鏡又はレーダによる観測結果から初期推定位置誤差を決定する。
【0018】
観測可能領域演算部201は、センサ100の性能及び太陽Sとの相対位置関係から最大観測可能距離を決定する。具体的には、観測可能領域演算部201は、センサ100で接近対象3を輝点として抽出できる十分な光量が得られる距離として最大観測可能距離を決定する。
【0019】
センサ100で太陽Sを直接観測するとセンサ100が含む撮像素子が故障する恐れがあるため、故障を防ぐために、観測可能領域演算部201は、逆光となる領域、即ち逆光領域Bを観測可能領域Rから除外する。逆光領域Bの範囲はセンサ100の視野角に依存する。
【0020】
航法軌道演算部202は、観測可能領域演算部201が算出した観測可能領域Rの情報を用いて宇宙機の航法軌道Oを算出する。
【0021】
図3は、航法軌道演算部202が算出する航法軌道Oを示す図である。観測開始時刻における宇宙機の位置は観測開始点Pであり、観測終了時刻における宇宙機の位置は観測終了点Pである。図3に示すように、航法軌道演算部202は、少なくとも観測開始時刻と観測終了時刻における宇宙機の位置を観測可能領域に含み、観測終了時刻における接近対象3と宇宙機との距離を、観測開始時刻における接近対象3と宇宙機との距離よりも小さくする航法軌道Oを算出する。
【0022】
図4は、初期推定誤差と観測終了時刻における推定誤差との例を示す図である。図4に示すように、宇宙機の観測開始時刻における位置は、初期推定誤差楕円で表される初期推定誤差を有する。同様に、宇宙機の観測終了時刻における位置は、観測開始時刻の推定誤差楕円で表される推定誤差を有する。航法軌道演算部202は、接近対象3と宇宙機との距離を縮めるよう航法軌道Oを算出することで、観測終了時刻における推定誤差を小さくすることができる。
【0023】
図5は、初期推定誤差と観測終了時刻における推定誤差との別の例を示す図である。図5の例において、航法軌道演算部202は、観測終了時刻における接近対象3と宇宙機との距離を、観測開始時刻における接近対象3と宇宙機との距離よりも大きくする航法軌道Oを算出していたとする。図5に示すように、航法軌道演算部202は、接近対象3と宇宙機との距離が遠ざかるよう航法軌道Oを算出すると、観測終了時刻の相対方向の推定誤差が悪化してしまう。図4及び図5に示すように、相対方向の推定誤差は観測時間よりも接近対象3と宇宙機との相対距離に強く依存する。
【0024】
航法軌道演算部202が航法軌道Oを算出する具体的な方法について説明する。航法軌道演算部202は、観測開始点Pを観測可能領域内でありかつ接近対象3からの距離が一定である球面内とし、観測終了点Pを観測可能領域R内でありかつ接近対象3からの距離が一定である別の球面内とする。このとき、観測終了時刻における接近対象3と宇宙機との距離は、観測開始時刻における接近対象3と宇宙機との距離よりも小さくする。
【0025】
航法軌道演算部202は、センサ100が太陽Sを背に向けて観測ができるよう、接近対象3と太陽Sとを結ぶ線分と観測開始時刻の球面との交点及び線分と観測終了時刻の球面との交点を、それぞれ観測開始点P及び観測終了点Pとする。
【0026】
航法軌道演算部202は、2点境界値問題を解いて観測開始点Pにおける宇宙機の速度と観測終了点Pにおける宇宙機の速度とを計算し、それらを結ぶ軌道を航法軌道Oとして算出する。
【0027】
軌道投入部300は、宇宙機を制御して航法軌道決定部200が決定した航法軌道Oに宇宙機を投入する。軌道投入部300は、宇宙機を航法軌道Oへ投入するマヌーバ量を算出するマヌーバ量演算部301と、マヌーバ量を実現し、宇宙機の軌道制御を行う軌道制御部302と、を含む。
【0028】
マヌーバ量演算部301は、宇宙機を航法軌道Oへ投入するマヌーバ量を算出する。例として宇宙機が2インパルスで軌道遷移する場合にマヌーバ量演算部301がマヌーバ量を算出する方法について示す。
【0029】
図6は、遷移開始点P、観測開始点P、及び遷移軌道Oを示す図である。図6に示すように、遷移開始点Pと観測開始点Pとを結ぶ遷移軌道Oは自然なダイナミクスに従うとし、マヌーバ量演算部301は、2点境界値問題を解いて遷移開始点Pにおける宇宙機の速度と観測開始点Pにおける宇宙機の速度とを計算し、それらを結ぶ軌道を遷移軌道Oとして算出する。マヌーバ量演算部301は、遷移開始前の速度と遷移開始直後の速度との差を1回目のマヌーバ量として算出し、遷移終了時の速度と観測開始時の速度との差を2回目のマヌーバ量として算出する。
【0030】
軌道制御部302は、マヌーバ量演算部301が算出したマヌーバ量を実現し、宇宙機の軌道制御を行う。軌道制御部302は、宇宙機の姿勢、及び宇宙機が備えるスラスタの配置からそれぞれのスラスタの噴出量を計算し、スラスタを制御して算出した噴出量をスラスタに噴出させ、マヌーバ量演算部301が算出したマヌーバ量を実現し、宇宙機の軌道制御を実施する。マヌーバ量演算部301がスラスタの噴出量を計算する具体的な方法として線形計画問題を解いて噴出量を算出する方法があり得るが、これに限られるものではない。
【0031】
図7は、実施の形態1に係る航法軌道演算装置1が実行する航法軌道演算処理を示すフローチャートである。航法軌道演算処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
航法軌道演算処理が開始されると、航法軌道演算装置1の観測可能領域演算部201が、接近対象3の最小観測距離Lmin、最大観測距離Lmax及び接近対象3と太陽Sとの位置関係に基づいて観測可能領域Rを算出する(ステップS101)。
【0033】
観測可能領域演算部201が観測可能領域Rを算出すると、航法軌道演算部202が、観測可能領域演算部201が算出した観測可能領域Rの情報を用いて航法軌道Oを算出する(ステップS102)。
【0034】
航法軌道演算部202が航法軌道Oを算出すると、マヌーバ量演算部301が、航法軌道演算部202が算出した航法軌道Oに基づいてマヌーバ量を算出する(ステップS103)。
【0035】
マヌーバ量演算部301がマヌーバ量を算出すると、軌道制御部302は、マヌーバ量演算部301が算出したマヌーバ量を実現し、宇宙機の軌道制御を行い(ステップS104)、航法軌道演算処理を終了する。
【0036】
上記の構成を備え、航法軌道演算処理を実行することで、実施の形態1に係る航法軌道演算装置1は、観測開始点Pと接近対象3との距離を観測終了点Pと接近対象3との距離よりも大きくし、日陰領域と日照領域との境界面近傍の観測、すなわち接近対象3が日陰領域と日照領域との境界面を通過する時刻を含む観測、をせずとも相対位置及び速度の推定誤差を小さくすることができる。
【0037】
(実施の形態2)
本開示の実施の形態2に係る航法軌道演算装置1について説明する。実施の形態2に係る航法軌道演算装置1は、観測開始点P及び観測終了地点を観測可能領域Rの境界面上に決定する。
【0038】
実施の形態2に係る航法軌道演算装置1の航法軌道演算部202は、観測開始点Pを観測可能領域Rの外側の境界面内であって、接近対象3との距離が最大である点とする。航法軌道演算部202は、観測終了点Pを観測可能領域Rの内側の球面内であって、接近対象3との距離が最小である点とする。
【0039】
上記の構成を備え、航法軌道演算処理を実行することで、実施の形態2に係る航法軌道演算装置1は、実施の形態1に係る航法軌道演算装置1と同様の効果を奏する。
【0040】
実施の形態2に係る航法軌道演算装置1によれば、観測開始点Pを接近対象3との距離が最大である点とし観測終了点Pを接近対象3との距離が最小である点とすることで、観測開始時刻と観測終了時刻とにおける相対距離の比を大きくすることができる。よって、観測終了時点での相対位置及び速度の誤差を小さくすることができる。
【0041】
(実施の形態3)
本開示の実施の形態3に係る航法軌道演算装置1について、図8を参照して説明する。実施の形態3に係る航法軌道演算装置1は、観測開始点Pを観測開始時刻における初期推定誤差楕円の短軸に対応する固有ベクトル方向から決定する。
【0042】
実施の形態3に係る航法軌道演算装置1の航法軌道演算部202は、観測開始点Pを、観測開始時刻における初期推定誤差楕円の短軸に対応する固有ベクトルの方向から決定する。初期推定誤差楕円の短軸は、誤差共分散行列の最小固有値の固有ベクトルで表される。航法軌道演算部202は、観測開始時刻における接近対象3の位置を通り、初期推定誤差楕円の短軸に対応する固有ベクトルに平行な直線上に観測開始点Pを決定する。
【0043】
図8は、初期推定誤差、観測開始後の誤差、及び観測終了後の誤差の例を示す図である。図8に示す例は、観測開始点Pを、観測開始時刻における初期推定誤差楕円の長軸に対応する固有ベクトルの方向から決定した場合の例である。相対方向は、宇宙機と接近対象3とを結ぶ直線の方向を示す。図8に示すように、誤差楕円の観測開示時刻における相対方向と垂直な成分は、観測を開始すると小さくなる。一方、相対方向と平行な成分は観測を開始した直後は縮まらない。観測終了時刻に宇宙機と接近対象3との距離が小さくなることで誤差楕円も小さくなるが、観測開始後の誤差楕円の相対方向と平行な方向の径が大きいため、最終的な誤差楕円も他の向きから観測を開始した場合に比べて大きくなる。
【0044】
図9は、初期推定誤差、観測開始後の誤差、及び観測終了後の誤差の別の例を示す図である。図9示す例は、観測開始点Pを、観測開始時刻における初期推定誤差楕円の最小固有値に対応する固有ベクトルの方向から決定した場合の例である。図9に示すように、誤差楕円の観測開示時刻における相対方向と垂直な成分、即ち誤差楕円の長軸成分は、観測を開始すると小さくなる。観測終了時刻に宇宙機と接近対象3との距離が小さくなることで、誤差楕円の短軸成分も小さくすることができる。
【0045】
上記の構成を備え、航法軌道演算処理を実行することで、実施の形態3に係る航法軌道演算装置1は、実施の形態1に係る航法軌道演算装置1と同様の効果を奏する。
【0046】
実施の形態3に係る航法軌道演算装置1によれば、観測開始点Pを観測開始時刻における初期推定誤差楕円の最小固有値に対応する固有ベクトル方向から決定することで、観測開始後に推定誤差楕円の長軸成分を小さくすることができる。よって、観測終了時点での相対位置及び速度の誤差を小さくすることができる。
【0047】
(実施の形態4)
本開示の実施の形態4に係る航法軌道演算装置1について説明する。実施の形態4に係る航法軌道演算装置1は、観測終了点Pにおける宇宙機の速度が宇宙機と接近対象3とを結ぶ直線、即ち相対方向を向く直線と垂直になるよう航法軌道Oを算出する。
【0048】
実施の形態4に係る航法軌道演算装置1の航法軌道演算部202は、観測終了点Pを観測可能領域R内でありかつ接近対象3からの距離が一定である球面内とし、観測終了P点における宇宙機の速度が相対方向と垂直になる条件で2点境界値問題を解いて観測終了点Pにおける宇宙機の速度を計算する。
【0049】
上記の構成を備え、航法軌道演算処理を実行することで、実施の形態4に係る航法軌道演算装置1は、実施の形態1に係る航法軌道演算装置1と同様の効果を奏する。
【0050】
観測終了点Pで宇宙機が相対方向と平行な速度を有している場合、観測終了後に更に接近対象3に接近して衝突する危険がある。衝突を避けるために観測終了点Pと接近対象3との距離を離すと、推定精度が劣化してしまう。衝突を避けるために観測終了後にマヌーバを行うと、宇宙機の寿命を縮めてしまう可能性がある。
【0051】
実施の形態4に係る航法軌道演算装置1によれば、観測終了点Pにおける宇宙機の速度が相対方向と垂直になるよう航法軌道Oを算出することで、宇宙機の寿命を縮めることなく宇宙機と接近対象3との衝突を避けることができる。
【0052】
(実施の形態5)
本開示の実施の形態5に係る航法軌道演算装置1について、図10を参照して説明する。実施の形態5に係る航法軌道演算装置1は、観測開始点Pと観測終了点Pとの間に1回以上のマヌーバを含む航法軌道Oを算出する。
【0053】
図10は、観測開始点P、マヌーバ点P、及び観測終了点Pを示す図である。図10に示すように、実施の形態5に係る航法軌道演算装置1は、観測開始点Pと観測終了点Pとの間に1回以上のマヌーバを含む航法軌道Oを算出する。航法軌道演算装置1は、マヌーバを行うマヌーバ点を含む航法軌道Oを算出する。
【0054】
航法軌道演算部202は、1個以上のマヌーバ点を含む航法軌道Oを算出する。マヌーバ量演算部301は、マヌーバ点におけるマヌーバ量を算出する。
【0055】
上記の構成を備え、航法軌道演算処理を実行することで、実施の形態5に係る航法軌道演算装置1は、実施の形態1に係る航法軌道演算装置1と同様の効果を奏する。
【0056】
接近対象3に近い向きに接近対象3以外の輝点が存在する場合、又は太陽光の反射がある場合は、航法中に接近対象3を見失う、又は接近対象3と別の輝点との区別ができなくなる可能性がある。これを避けるための一つの方法として、接近対象3と別の輝点とが重ならない航法軌道Oを選択する、又は太陽Sに背を向けて観測を行う軌道を選択する方法がある。しかし、接近対象3、別の輝点及び太陽Sとの位置関係は時々刻々変化するため、自然なダイナミクスだけでは航法軌道Oの設計が困難な場合がある。
【0057】
実施の形態5に係る航法軌道演算装置1によれば、観測開始点Pと観測終了点Pとの間に1回以上のマヌーバを含む航法軌道Oを算出することで、自然なダイナミクスだけでは航法軌道Oの設計が困難な場合であっても接近対象3を見失う、又は接近対象3と別の輝点との区別ができなくなることを回避することができる。
【0058】
実施の形態5に係る航法軌道演算装置1によれば、マヌーバを行うことによって、AONでも可観測性を生じさせることができ、相対位置及び速度の推定精度を向上させることができる。
【0059】
(変形例)
航法軌道演算装置1は宇宙機に搭載されるとしたが、これに限られるものではない。航法軌道演算装置1は宇宙機の外部に配置され、宇宙機と通信を行って航法軌道を算出し、宇宙機を遠隔制御して航法軌道に投入してもよい。
【0060】
図6において、遷移軌道Oの終点と観測開始点Pとが一致しているものとしたが、これに限られるものではない。遷移軌道Oの終点と観測開始点Pとが異なっていてもよい。
【0061】
観測可能領域演算部201は、接近対象3と太陽Sとの位置関係に基づいて観測可能領域Rを算出するとしたが、これに限られるものではない。太陽Sとして説明したものは太陽以外の任意の恒星又は惑星を含む発光体であってもよい。
【0062】
複数の実施の形態を組み合わせてもよい。例えば、実施の形態2と実施の形態3とを組み合わせ、航法軌道演算装置1が、観測開始点P及び観測終了地点を観測可能領域Rの境界面上に決定し、観測開始点Pを観測開始時刻における初期推定誤差楕円の短軸に対応する固有ベクトル方向から決定してもよい。他の任意の実施の形態の組み合わせについても同様である。
【0063】
実施の形態1-5に係る航法軌道演算装置における各種処理を行う手段及び方法は、専用のハードウェア回路、又はプログラムされたコンピュータのいずれかによっても実現することが可能である。上記プログラムは、フレキシブルディスク又はCD-ROMを含むコンピュータ読み取り可能な記録媒体によって提供されても良いし、インターネットを含むネットワークを介してオンラインで提供されても良い。この場合、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスクを含む記憶部に伝送されて記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されても良いし、装置の一機能としてその装置のソフトウェアに組み込まれても良い。
【0064】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。すなわち、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、この開示の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示は、航法軌道演算装置、航法軌道演算方法及びプログラムに利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 航法軌道演算装置、3 接近対象、100 センサ、200 航法軌道決定部、201 観測可能領域演算部、202 航法軌道演算部、300 軌道投入部、301 マヌーバ量演算部、302 軌道制御部、B 逆光領域、Lmax 最大観測距離、Lmin 最小観測距離、O 航法軌道、O 遷移軌道、P 遷移開始点、P 観測終了点、P マヌーバ点、P 観測開始点、R 観測可能領域、S 太陽。
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