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特許7646093制御信号監視装置、制御信号監視方法及び制御信号監視プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】制御信号監視装置、制御信号監視方法及び制御信号監視プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20250307BHJP
【FI】
G05B23/02 302N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024542919
(86)(22)【出願日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2024008804
【審査請求日】2024-07-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内海 力郎
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-226006(JP,A)
【文献】特開2005-128721(JP,A)
【文献】特開平06-314117(JP,A)
【文献】特開2016-148963(JP,A)
【文献】特開2009-063779(JP,A)
【文献】特開2001-209415(JP,A)
【文献】特開2022-158226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0244195(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLCから出力される開始信号であって、装置の動作開始時に状態が変化する開始信号の信号名と変化トリガと1回の動作サイクルの中の何回目の変化であるかを示す補足情報と、装置の動作完了時に状態が変化する完了信号であって、前記PLCに入力される完了信号の信号名と変化トリガと1回の動作サイクルの中の何回目の変化であるかを示す補足情報を含む複数の信号セット情報それぞれを対象として、対象の信号セット情報における開始信号の信号名と変化トリガと補足情報が示す回数とに対応する時刻と、対象の信号セット情報における完了信号の信号名変化トリガと補足情報が示す回数とに対応する時刻との間隔である変化間隔を表し、発生順序をもつ時系列データである変化間隔データを、過去に前記PLCから出力された開始信号と、過去に前記PLCに入力された完了信号とからなる制御信号から生成する変化間隔演算部と、
前記複数の信号セット情報それぞれを対象として、前記変化間隔演算部によって対象の信号セット情報について生成された前記変化間隔データを入力として、変化間隔の変動を考慮して、過去の変化間隔を基に未来の変化間隔の期待値を算出する変化間隔モデルを生成するモデル生成部と、
前記複数の信号セット情報それぞれを対象として、前記装置から得られた対象の信号セット情報の前記開始信号と前記完了信号との間隔である実測値と、前記モデル生成部によって前記対象の信号セット情報について生成された前記変化間隔モデルを用いて過去に得られた実測値を基に算出された期待値である予測値とを比較することにより、前記装置の動作の異常度を算出する異常度算出部と
を備える制御信号監視装置。
【請求項2】
前記制御信号監視装置は、さらに、
前記開始信号を取得して前記開始信号のログデータとしてログデータ記憶部に記憶するとともに、前記完了信号を取得して前記完了信号のログデータとして前記ログデータ記憶部に記憶する取得部
を備え、
前記モデル生成部は、前記取得部によって前記ログデータ記憶部に記憶された前記ログデータに基づき、前記変化間隔モデルを生成する
請求項1に記載の制御信号監視装置。
【請求項3】
前記開始信号と前記完了信号とはそれぞれ2値の信号であり、
前記取得部は、前記開始信号を、前記開始信号の値が変化した時刻に置き換えて、前記開始信号のログデータとして記憶し、前記完了信号を、前記完了信号の値が変化した時刻に置き換えて、前記完了信号のログデータとして記憶する
請求項2に記載の制御信号監視装置。
【請求項4】
前記変化間隔演算部は、前記ログデータから信号セット情報で指定された前記開始信号及び前記完了信号を特定して、前記変化間隔データを生成する請求項2に記載の制御信号監視装置。
【請求項5】
前記ログデータ記憶部には、1つ以上の前記開始信号と1つ以上の前記完了信号とのそれぞれについてログデータが記憶され、
前記信号セット情報は、前記開始信号を識別可能な信号名と、前記完了信号を識別可能な信号名とを含む
請求項4に記載の制御信号監視装置。
【請求項6】
前記異常度算出部は、前記変化間隔モデルを用いて予測された間隔である予測値と、前記装置の動作に異常があるか否かを判定する際に使用する閾値とを用いて、異常が発生するタイミングを予測する
請求項1に記載の制御信号監視装置。
【請求項7】
コンピュータが、PLCから出力される開始信号であって、装置の動作開始時に状態が変化する開始信号の信号名と変化トリガと1回の動作サイクルの中の何回目の変化であるかを示す補足情報と、装置の動作完了時に状態が変化する完了信号であって、前記PLCに入力される完了信号の信号名と変化トリガと1回の動作サイクルの中の何回目の変化であるかを示す補足情報を含む複数の信号セット情報それぞれを対象として、対象の信号セット情報における開始信号の信号名と変化トリガと補足情報が示す回数とに対応する時刻と、対象の信号セット情報における完了信号の信号名変化トリガと補足情報が示す回数とに対応する時刻との間隔である変化間隔を表し、発生順序をもつ時系列データである変化間隔データを、過去に前記PLCから出力された開始信号と、過去に前記PLCに入力された完了信号とからなる制御信号から生成し、
コンピュータが、前記複数の信号セット情報それぞれを対象として、対象の信号セット情報について生成された前記変化間隔データを入力として、変化間隔の変動を考慮して、過去の変化間隔を基に未来の変化間隔の期待値を算出する変化間隔モデルを生成し、
コンピュータが、前記複数の信号セット情報それぞれを対象として、前記装置から得られた対象の信号セット情報の前記開始信号と前記完了信号との間隔である実測値と、前記対象の信号セット情報について生成された前記変化間隔モデルを用いて過去に得られた実測値を基に算出された期待値である予測値とを比較することにより、前記装置の動作の異常度を算出する制御信号監視方法。
【請求項8】
PLCから出力される開始信号であって、装置の動作開始時に状態が変化する開始信号の信号名と変化トリガと1回の動作サイクルの中の何回目の変化であるかを示す補足情報と、装置の動作完了時に状態が変化する完了信号であって、前記PLCに入力される完了信号の信号名と変化トリガと1回の動作サイクルの中の何回目の変化であるかを示す補足情報を含む複数の信号セット情報それぞれを対象として、対象の信号セット情報における開始信号の信号名と変化トリガと補足情報が示す回数とに対応する時刻と、対象の信号セット情報における完了信号の信号名変化トリガと補足情報が示す回数とに対応する時刻との間隔である変化間隔を表し、発生順序をもつ時系列データである変化間隔データを、過去に前記PLCから出力された開始信号と、過去に前記PLCに入力された完了信号とからなる制御信号から生成する変化間隔演算処理と、
前記複数の信号セット情報それぞれを対象として、前記変化間隔演算処理によって対象の信号セット情報について生成された前記変化間隔データを入力として、変化間隔の変動を考慮して、過去の変化間隔を基に未来の変化間隔の期待値を算出する変化間隔モデルを生成するモデル生成処理と、
前記複数の信号セット情報それぞれを対象として、前記装置から得られた対象の信号セット情報の前記開始信号と前記完了信号との間隔である実測値と、前記モデル生成処理によって前記対象の信号セット情報について生成された前記変化間隔モデルを用いて過去に得られた実測値を基に算出された期待値である予測値とを比較することにより、前記装置の動作の異常度を算出する異常度算出処理と
を行う制御信号監視装置としてコンピュータを機能させる制御信号監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、装置の動作を制御する制御信号を監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
PLCは製造設備に含まれる様々な装置と制御信号のやり取りを行っている。PLCは、Programmable Logic Controllerの略である。装置は、具体例としては、ロボット、コンベア又はシリンダである。
制御信号は、主にON及びOFFの状態を持つ2値のディジタル信号で構成されることが特徴としてある。PLCに入出力される制御信号には各装置の動作開始時に状態が変化する信号(以降、開始信号と表記)と、装置の動作完了時に状態が変化する信号(以降、完了信号と表記)とが含まれている。開始信号及び完了信号を適切に監視することで装置の動作監視が可能である。
【0003】
特許文献1には、PLCのある信号の立ち上がりと別の信号の立下りのタイミングとの時間差を監視することで装置の異常動作を検出する方法が記載されている。特許文献1では、基準動作パターンには許容時間幅が設けられており、正常範囲内のタイミングのズレを異常動作として検出しない工夫がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平09-22308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、信号同士の変化の時間差と許容値とを比較して装置動作の異常判定を行う。そのため、気温等の温度変化で長期的に発生する正常な動作変動を異常として検出してしまう場合がある。また、異なる2つの動作パターンを持つ装置において、片方の動作の異常を見逃してしまう許容値を設定せざるを得ない場合がある。
本開示は、開始信号と完了信号とを用いて適切に装置の異常を判定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る制御信号監視装置は、
装置の動作を引き起こす開始信号と、装置の動作の結果として現れる完了信号との間隔を表す変化間隔データをモデル化した変化間隔モデルを生成するモデル生成部と、
前記モデル生成部によって生成された前記変化間隔モデルを用いて、前記装置の動作の異常度を算出する異常度算出部と
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示では、開始信号と完了信号との間隔を表す変化間隔データをモデル化した変化間隔モデルを用いて、装置の異常を監視する。変化間隔モデルを用いることにより、開始信号と完了信号とから装置の異常を適切に判定可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る制御信号監視システム100の構成図。
図2】実施の形態1に係る制御信号監視装置10の機能構成図。
図3】実施の形態1に係る制御信号監視装置10のハードウェア構成図。
図4】実施の形態1に係る制御信号監視装置10の処理の流れを示すフローチャート。
図5】実施の形態1に係る記憶されるデータサイズの削減の説明図。
図6】実施の形態1に係る変化間隔データの生成方法の説明図。
図7】実施の形態1に係る変化間隔データをモデル化した変化間隔モデルを生成する際の学習方法の説明図。
図8】実施の形態1に係る異常度の表示例を示す図。
図9】実施の形態1に係る2つの動作パターンを持つ装置の異常の説明図。
図10】実施の形態2に係る制御信号監視装置10の処理の流れを示すフローチャート。
図11】実施の形態2に係る異常が発生するタイミングの予測方法の説明図。
図12】実施の形態2に係る異常が発生するタイミングの表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
***構成の説明***
【0010】
図1を参照して、実施の形態1に係る制御信号監視システム100の構成を説明する。
制御信号監視システム100は、制御信号監視装置10と、PLC20と、製造設備30とを備える。製造設備30は、1つ以上の装置31を備える。制御信号監視装置10とPLC20とは、伝送路41を介して接続されている。また、PLC20と製造設備30が備える1つ以上の装置31それぞれとは、伝送路42を介して接続されている。
PLC20は、各装置31と、伝送路42を介して制御信号をやり取りしている。制御信号監視装置10は、PLC20から、伝送路41を介して制御信号又は制御信号のログを取得する。
【0011】
図2を参照して、実施の形態1に係る制御信号監視装置10の機能構成を説明する。
制御信号監視装置10は、機能構成要素として、取得部11と、ログデータ記憶部12と、入力部13と、信号セット記憶部14と、変化間隔演算部15と、変化間隔記憶部16と、モデル生成部17と、異常度算出部18と、表示制御部19とを備える。
【0012】
図3を参照して、実施の形態1に係る制御信号監視装置10のハードウェア構成を説明する。
制御信号監視装置10は、コンピュータである。
制御信号監視装置10は、プロセッサ101と、メモリ102と、ストレージ103と、通信インタフェース104とのハードウェアを備える。プロセッサ101は、信号線を介して他のハードウェアと接続され、これら他のハードウェアを制御する。
【0013】
プロセッサ101は、プロセッシングを行うICである。ICはIntegrated Circuitの略である。プロセッサ101は、具体例としては、CPU、DSP、GPUである。CPUは、Central Processing Unitの略である。DSPは、Digital Signal Processorの略である。GPUは、Graphics Processing Unitの略である。
【0014】
メモリ102は、データを一時的に記憶する記憶装置である。メモリ102は、具体例としては、SRAM、DRAMである。SRAMは、Static Random Access Memoryの略である。DRAMは、Dynamic Random Access Memoryの略である。
【0015】
ストレージ103は、データを保管する記憶装置である。ストレージ103は、具体例としては、SSDである。SSDは、Solid State Driveの略である。また、ストレージ103は、SD(登録商標)メモリカード、CompactFlash(登録商標)、NANDフラッシュ、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、Blu-ray(登録商標)ディスク、DVDといった可搬記録媒体であってもよい。SDは、Secure Digitalの略である。DVDは、Digital Versatile Diskの略である。
【0016】
通信インタフェース104は、外部の装置と通信するためのインタフェースである。通信インタフェース104は、具体例としては、Ethernet(登録商標)、USB、HDMI(登録商標)のポートである。USBは、Universal Serial Busの略である。HDMIは、High-Definition Multimedia Interfaceの略である。
【0017】
制御信号監視装置10の取得部11と入力部13と変化間隔演算部15とモデル生成部17と異常度算出部18と表示制御部19との機能はソフトウェアにより実現される。ストレージ103には、これらの機能を実現するプログラムが格納されている。このプログラムは、プロセッサ101によりメモリ102に読み込まれ、プロセッサ101によって実行される。これにより、制御信号監視装置10の各機能構成要素の機能が実現される。
【0018】
制御信号監視装置10のログデータ記憶部12と信号セット記憶部14と変化間隔記憶部16との機能は、メモリ102又はストレージ103等の記憶装置によって実現される。なお、これらの機能は、制御信号監視装置10の外部の記憶装置によって実現されてもよい。
【0019】
***動作の説明***
図4から図8を参照して、実施の形態1に係る制御信号監視装置10の動作を説明する。
実施の形態1に係る制御信号監視装置10の動作手順は、実施の形態1に係る制御信号監視方法に相当する。また、実施の形態1に係る制御信号監視装置10の動作を実現するプログラムは、実施の形態1に係る制御信号監視プログラムに相当する。
【0020】
図4を参照して、実施の形態1に係る制御信号監視装置10の処理の流れを説明する。
(ステップS101:制御信号収集処理)
PLC20は、製造設備30が備える各装置31と複数の制御信号の通信を行っている。取得部11は、PLC20から各装置31と通信している複数の制御信号を取得する。ここでは、取得部11は、複数の制御信号そのものを取得するものとして説明するが、複数の制御信号のログを取得してもよい。この際、取得部11は、少なくとも各装置の一連動作が2回以上発生する時間分の複数の制御信号を取得する。
複数の制御信号には、開始信号と完了信号とが含まれる。開始信号は、装置の動作を引き起こす信号であり、装置の動作開始時に状態が変化する信号である。完了信号は、装置の動作の結果として現れる信号であり、装置の動作完了時に状態が変化する信号である。複数の制御信号は、いずれもONとOFFとを表す2値のディジタル信号である。
【0021】
取得部11は、取得された制御信号をログデータとしてログデータ記憶部12に記憶する。この際、取得部11は、制御信号を2値の信号値のままログデータとして記憶するのではなく、ONとOFFとの値が変化した時刻を示す変化時刻データに置き換えてログデータとして記憶する。これにより、記憶されるデータサイズの削減が見込まれる。
【0022】
図5を参照して、記憶されるデータサイズの削減について説明する。
制御信号は2値のディジタル信号であり、時刻とともに状態が変化する。信号列d100は、ある信号1つについて定周期で観測した信号の状態を示す。信号列d100をそのままのログデータとして記憶した場合、時刻毎の2値の値(d101~d10n)を記憶することになる。
しかし、個々の制御信号は数秒に一回程度しか変化しない。そのため、信号の立ち上がり時刻d201と、立下り時刻d202とのように時刻情報としてログデータを記憶する方が結果的に使用する記録容量が少なくなることが多い。また、信号同士の変化の時間差を計算する上で、時刻情報として保存されていることで計算時間が短くなる効果も見込める。
【0023】
(ステップS102:信号セット情報入力処理)
入力部13は、監視対象となる装置についての信号セット情報を入力する。監視対象となる装置が複数存在する場合には、入力部13は、監視対象となる複数の装置それぞれについての信号セット情報を入力する。なお、入力部13は、1つの装置について複数の信号セット情報を入力してもよい。入力部13は、入力された信号セット情報を信号セット記憶部14に記憶する。
信号セット情報は、監視対象毎に少なくとも開始信号の信号名と、開始信号の変化トリガと、完了信号の信号名と、完了信号の変化トリガとを含む。信号名は、制御信号を識別可能な名称である。変化トリガは、信号の立ち上がりと立下りとのどちらを見るかを示す情報である。信号セット情報は、信号が1回の動作サイクルの中で複数回変化する場合等には、厳密に信号の対応関係を定義するための補足情報も含む。補足情報は、サイクル内での何回目の変化を見るか等を示す。
信号セット情報の作成方法は、人が手動で設定する、装置の設計情報から抽出する、データから自動で抽出するといった様々な手法が考えられる。ここでは、どの手法が使用されてもよい。
【0024】
(ステップS103:変化間隔演算処理)
変化間隔演算部15は、ステップS101で記憶された信号ログデータとステップS102で記憶された信号セット情報とから変化間隔データを生成する。変化間隔演算部15は、変化間隔データを変化間隔記憶部16に記憶する。
【0025】
図6を参照して、変化間隔データの生成方法を説明する。変化間隔演算部15は、信号ログデータd300に含まれる信号のうち、信号セット情報d400で指定された開始信号d311及び完了信号d321を特定する。変化間隔演算部15は、特定された開始信号における変化トリガで指定された変化d312の時刻を特定する。また、変化間隔演算部15は、変化d312の直後に発生した、特定された完了信号における変化トリガで指定された変化d322の時刻を特定する。そして、変化間隔演算部15は、変化d312の時刻と変化d322の時刻との差を変化間隔データd301,d302として生成する。
このとき、変化間隔演算部15は、信号セット情報における補足情報により、回数指定d423等がある場合には、回数指定d423等に従って計算対象を調整する。ここでは、完了信号の回数指定が2になっているため、サイクル内での2回目の変化を見るように調整されている(d323参照)。
【0026】
(ステップS104:モデル生成処理)
モデル生成部17は、回帰モデルを使用して、ステップS103で記憶された変化間隔データをモデル化した変化間隔モデルを生成する。使用する回帰モデルとしては、自己回帰モデル、又は、ニューラルネットワークモデル等が考えられる。
【0027】
図7を参照して、変化間隔データをモデル化した変化間隔モデルを生成する際の学習方法を説明する。
変化間隔データd500は、発生順序をもつ時系列データである。変化間隔モデルは、過去のデータを入力データd511として入力データd511の先のデータ512を予測する。この時、1つのデータではなく、複数のデータd501を入力としてもよい。
モデル生成部17は、変化間隔モデルによって予測された先のデータd512と実際のデータとの差d513を最小化するように学習を行う。これにより、変化間隔モデルは、過去の変化間隔を基に未来の変化間隔の期待値を算出することができるようになる。
【0028】
(ステップS105:異常度算出処理)
異常度算出部18は、ステップS104で生成された変化間隔モデルを用いて、監視対象となる装置の動作の異常度を算出する。
具体的には、異常度算出部18は、装置から得られた開始信号と完了信号との間隔である実測値と、変化間隔モデルを用いて予測された間隔である予測値とを比較して、装置の異常度を算出する。異常度の算出方法としては、実測値Lと期待値Pとを用いて、異常度=(|P-L|)/Pとする方法等がある。
ここでの実測値は、ステップS102で入力された信号セット情報で指定された開始信号と完了信号との最新の間隔である。
【0029】
(ステップS106:表示制御処理)
表示制御部19は、ステップS105で計算された異常度等を、通信インタフェース104を介して接続された表示装置に表示する。具体的には、表示制御部19は、監視結果として、監視対象の装置について、異常度と、期待値と、実測値とを表示することが考えられる。
【0030】
図8を参照して、異常度の表示例を説明する。
表示制御部19は、各装置についての異常度を示す異常度表示画面d610を表示する。これにより、各装置の異常度を利用者が監視可能になる。この際、表示制御部19は、異常度が閾値を超えている装置については色を変える等して強調して表示してもよい。
特定の装置について異常度を詳しく確認したい場合には、利用者によって確認したい装置が選択される。すると、表示制御部19は、変化間隔の推移グラフd600を表示する。変化間隔の推移グラフd600には、変化間隔モデルにより計算された変化間隔の期待値d601と、変化間隔の実測値d602と、これらの比較により算出された異常度d603との推移が示されている。変化間隔の推移グラフd600を参照することにより、選択された装置の動作が本来の予定よりも遅れている、不規則に変動しているといった異常の内容を視覚的に確認できる。
【0031】
図4の処理は、周期的に実行される。
2度目以降に図4の処理が実行される場合には、ステップS102からステップS104の処理はスキップされてもよい。ステップS102の処理は、監視対象とする制御信号が変更される場合にだけ実行されればよい。また、ステップS103及びステップS104の処理は、変化間隔モデルを再生成する場合にだけ実行されればよい。
【0032】
***実施の形態1の効果***
以上のように、実施の形態1に係る制御信号監視装置10は、開始信号と完了信号との間隔を表す変化間隔データをモデル化した変化間隔モデルを用いて、装置の異常を監視する。変化間隔モデルを用いることにより、装置の異常を適切に判定可能にできる。
【0033】
変化間隔モデルを用いることにより、特許文献1に記載された技術のように、気温等の温度変化で長期的に発生する正常な動作変動を異常として検出してしまうということを防止可能である。また、変化間隔モデルを用いることにより、特許文献1に記載された技術のように、異なる2つの動作パターンを持つ装置において、片方の動作の異常を見逃してしまう許容値を設定せざるを得ないということもない。
【0034】
図9を参照して、2つの動作パターンを持つ装置の異常に関して具体的に説明する。
ロボット50は、地点Aから地点Cに物を移動する動作パターンと、地点Bから地点Cに物を移動するという動作パターンとの2つの動作パターンを持つとする。A地点からの動作時の動作時間がB地点からの動作時の動作時間よりも長くなる時、特許文献1の手法を使用すると、許容時間幅はA地点からの動作時間幅より長く設定する必要がある。その結果、B地点からの移動時に異常が発生して動作が遅くなってしまった場合でも許容時間幅に収まってしまい、異常を見逃してしまう可能性がある。
しかし、実施の形態1に係る制御信号監視装置10では、変化間隔モデルを用いて指定された信号の変化間隔の異常度を算出する。そのため、A地点からの動作時とB地点からの動作時とのそれぞれについて別の変化間隔モデルにより異常度を算出可能である。これにより、2つの動作パターンを持つ装置の異常についても適切に判定可能である。
【0035】
また、実施の形態1に係る制御信号監視装置10は、信号セット情報で指定された開始信号と完了信号との間隔を用いて異常度を計算する。そのため、不要な信号間の間隔を用いた演算等を行う必要がない。
特許文献1に記載された技術では、PLCに接続されている信号のうちの監視対象とするものを絞り込む方法がない。そのため、監視対象となるデータが非常に多くなる場合がある。PLCに接続されている信号数をnとした場合、各信号のON及びOFFそれぞれの順番付き組み合わせとして最大P2n,2=2n×(2n-1)個の監視対象が考えられる。これに対して、実施の形態1に係る制御信号監視装置10では、必要な分だけ監視対象となるため、処理負荷を抑えることができる。
【0036】
***他の構成***
<変形例1>
実施の形態1では、各機能構成要素がソフトウェアで実現された。しかし、変形例1として、各機能構成要素はハードウェアで実現されてもよい。この変形例1について、実施の形態1と異なる点を説明する。
【0037】
各機能構成要素がハードウェアで実現される場合には、制御信号監視装置10は、プロセッサ101とメモリ102とストレージ103とに代えて、電子回路を備える。電子回路は、各機能構成要素と、メモリ102と、ストレージ103との機能とを実現する専用の回路である。
【0038】
電子回路としては、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ロジックIC、GA、ASIC、FPGAが想定される。GAは、Gate Arrayの略である。ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略である。FPGAは、Field-Programmable Gate Arrayの略である。
各機能構成要素を1つの電子回路で実現してもよいし、各機能構成要素を複数の電子回路に分散させて実現してもよい。
【0039】
<変形例2>
変形例2として、一部の各機能構成要素がハードウェアで実現され、他の各機能構成要素がソフトウェアで実現されてもよい。
【0040】
プロセッサ101とメモリ102とストレージ103と電子回路とを処理回路という。つまり、各機能構成要素の機能は、処理回路により実現される。
【0041】
また、以上の説明における「部」を、「回路」、「工程」、「手順」、「処理」又は「処理回路」に読み替えてもよい。
【0042】
実施の形態2.
実施の形態2は、異常が発生するタイミングを予測する点が実施の形態1と異なる。実施の形態2では、この異なる点を説明し、同一の点については説明を省略する。
【0043】
***動作の説明***
図10を参照して、実施の形態2に係る制御信号監視装置10の処理の流れを説明する。
ステップS201からステップS203の処理は、図4のステップS101からステップS103の処理と同じである。
【0044】
(ステップS204:モデル生成処理)
モデル生成部17は、回帰モデルを使用して、ステップS203で記憶された変化間隔データをモデル化した変化間隔モデルを生成する。実施の形態2で使用する回帰モデルは、自己回帰モデルのように傾向分析を行えるものである。回帰モデルは、変化間隔データの傾向変動と、季節変動と、不規則変動と等の変動要素を分解し、データの再現及び予測が可能なパラメータとして記憶する。
【0045】
(ステップS205:異常度予測処理)
異常度算出部18は、ステップS204で生成された変化間隔モデルを用いて、異常が発生するタイミングを予測する。
具体的には、異常度算出部18は、変化間隔モデルを用いて予測された間隔である予測値が、装置の動作に異常があるか否かを判定する際に使用する閾値に達するタイミングを、異常が発生するタイミングとして予測する。閾値の設定は、手動で設定してもよいし、過去の一定期間の平均値に係数をかけたものが設定されるようにしてもよい。
【0046】
図11を参照して、異常が発生するタイミングの予測方法について説明する。
装置の変化間隔d701から得られた変化間隔モデルを用いて時刻毎の予測値d702が得られる。予測値d702と、超えたときに異常であると判定される閾値d703との交点を特定する。特定された交点の時刻が、異常が発生する予測時刻d704になる。また、交点が存在しない場合、又は、閾値が存在しない場合には、異常が発生する予測なしとなる。
【0047】
(ステップS206:表示制御処理)
表示制御部19は、ステップS205で予測された異常が発生するタイミング等を、通信インタフェース104を介して接続された表示装置に表示する。具体的には、図12に示すように、表示制御部19は、各装置についての異常が発生すると予測された時刻を表示する。
【0048】
***実施の形態2の効果***
以上のように、実施の形態2に係る制御信号監視装置10は、変化間隔モデルを用いて予測された予測値が閾値に達するタイミングを、異常が発生するタイミングとして特定する。これにより、利用者は、装置の修理部品又は保全計画を前もって行うことができ、設備の稼働率向上を図ることができる。
【0049】
以上、本開示の実施の形態及び変形例について説明した。これらの実施の形態及び変形例のうち、いくつかを組み合わせて実施してもよい。また、いずれか1つ又はいくつかを部分的に実施してもよい。なお、本開示は、以上の実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
100 制御信号監視システム、10 制御信号監視装置、20 PLC、30 製造設備、31 装置、41 伝送路、42 伝送路、11 取得部、12 ログデータ記憶部、13 入力部、14 信号セット記憶部、15 変化間隔演算部、16 変化間隔記憶部、17 モデル生成部、18 異常度算出部、19 表示制御部、101 プロセッサ、102 メモリ、103 ストレージ、104 通信インタフェース。
【要約】
モデル生成部(17)は、ログデータ記憶部(12)に記憶されたログデータから得られた変化間隔データに基づき、装置の動作を引き起こす開始信号と、装置の動作の結果として現れる完了信号との間隔を表す変化間隔データをモデル化した変化間隔モデルを生成する。異常度算出部(18)は、装置から得られた開始信号と完了信号との間隔である実測値と、モデル生成部(17)によって生成された変化間隔モデルを用いて予測された間隔である予測値とから、装置の動作の異常度を算出する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12