(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】短下肢装具
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
A61H3/00 B
(21)【出願番号】P 2024001531
(22)【出願日】2024-01-09
【審査請求日】2024-01-13
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】723016258
【氏名又は名称】高塚 博
(72)【発明者】
【氏名】高塚 博
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-078962(JP,A)
【文献】特開平11-019143(JP,A)
【文献】特開昭55-016613(JP,A)
【文献】特表2023-505825(JP,A)
【文献】特表2020-532353(JP,A)
【文献】登録実用新案第3137872(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側金属支柱付き短下肢装具の両側支柱の足継手近位部に撓み部分を設けることで、足継手が自由可動範囲の調整機能を担い、撓み部分は底屈制動、背屈制動、推進機能を担うことで、両側金属支柱付き短下肢装具の剛性を損なうことなく、双方の機能を有する短下肢装具。
【請求項2】
両側に設けた支柱本体部分
(20’、21’)、前記支柱本体部分(
20’、21’)の上端部で前記支柱本体部分
(20’、21’)を連結している下腿カフ
(10)、下腿カフベルト
(70)、前記支柱本体部分
(20’、21’)の下端部に設けた足継手
(30’、31)、前記足継手
(30’、31)に上端部で連結したアブミ
(40)、前記アブミ
(40)の下端部と一体化した足部60とより構成された短下肢装具において、前記支柱本体部分
(20’、21’)の一部に撓み部分
(23、23’、23”)を設けたことを特徴とする請求項1記載の短下肢装具。
【請求項3】
前記撓み部分
(23、23’、23”)は、前記支柱本体部分
(20’、21’)の一部に滑らかに形状を変化させ、前後方向に撓む形状部分を設けたことを特徴とする請求項
1記載の短下肢装具。
【請求項4】
前記撓み部分
(23、23’、23”)が、前記足継手
(30’、31)に近接して配置されていることを特徴とする請求項
1記載の短下肢装具。
【請求項5】
前記支柱本体部分
(20’、21’)を鋼材で作製する場合、撓み部分
(23、23’)のみに焼き入れを行い、他の部分は装具製作時に加工し易いよう焼き入れを行わない状態を特徴とする請求項1~
4に記載の短下肢装具。
【請求項6】
前記支柱本体部分
(20’、21’)と前記撓み部分
(23,23’)とを分割し、
前記撓み部分(23、23’)に1枚ないし複数枚の板バネ
(23”)を用い、平易に交換可能にすることで、弾性力を容易に調整出来ることを特徴とする請求項
1記載の短下肢装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脳卒中、脳性麻痺、脊髄損傷などにより、下肢に麻痺を生じ、裸足では歩行困難な場合、回復期には膝上部までの長下肢装具や膝下までの短下肢装具が使用され、生活期では短下肢装具が多く使用される。
【0002】
麻痺のタイプには、痙性麻痺と弛緩性麻痺があり、痙性麻痺の場合は足部の内反尖足を生じ易く、立脚時は足部の前外側部接地、反張膝となり、立位保持や歩行が不安定になる。
【0003】
痙性麻痺者の短下肢装具は、1.尖足の矯正、2.内反の矯正、3.立脚期の足関節の底屈制限または底屈制動機能、4.足関節底屈位から背屈位への素早い回復による推進機能、5.遊脚期の足関節背屈保持機能を有する装具が使用される。
【0004】
弛緩性麻痺の場合は、筋出力低下により、膝折れ、下垂足など支持性や運動性が低下する為、6.足関節背屈の補助、7.足関節の背屈制限による膝折れ防止、8.足関節の背屈制動による足関節の可動域の拡大および足部荷重中心の移動機能を有する装具が使用される。
【0005】
強度の内反尖足がある場合は、強い矯正力がないと歩行困難な為、両側金属支柱付き短下肢装具が使用される。
【0006】
両側金属支柱付き短下肢装具は、
図1、
図2のように、下腿カフ10、支柱20、足継手30、31(
図1はシングルクレンザック足継手、
図2はダブルクレンザック足継手を示す)、アブミ40、足部60、カフベルト70で構成され、剛性が高く、内反尖足の強い痙性麻痺者に使用される。
【0007】
足継手には、箱型、シングルクレンザック、ダブルクレンザック足継手などが用いられ、足関節の底屈・背屈可動範囲は調整ネジ50、51、52またはアブミ40と足継手間隙の調整により設定する。
【0008】
可動範囲は、膝折れのリスクのない痙性麻痺では、足関節背屈制限角度は自由にする方が、椅子からの立ち座り動作が行い易く、歩幅も拡大し易い。
【0009】
足関節底屈制限角度は、遊脚期に前足部が床に接しないように軽度背屈位から0度に設定される。
【0010】
膝折れのリスクの高い弛緩性麻痺では、足関節背屈制限角度は、軽度背屈位に設定し、膝折れを防止する。
【0011】
足関節底屈制限角度は、痙性麻痺と同様に軽度背屈位から0度に設定される。
【0012】
本発明は、両側金属支柱付き短下肢装具の箱型、シングルクレンザック、ダブルクレンザック足継手による底屈および背屈の自由可動範囲を制限する機能に加えて、足継手の近位部に設けた撓み部分23、23’、23”により、制限角度を超えて適度に撓む機能を有する。
【0013】
本機能は痙性麻痺の場合、歩行周期の踵接地期に底屈制限角度から支柱が底屈へ撓むことで、足関節の底屈制動運動を可能にし、アンクルロッカー機能として作用する。
【0014】
本機能は弛緩性麻痺では、背屈制限角度から支柱が背屈へ撓むことで、足部荷重中心が前方へ移動し、歩幅が拡大し、足底の一部への荷重集中を避けることが出来る。
【0015】
本発明は、痙性の程度、弛緩性麻痺者の体重、歩容などに応じ、撓み部分23、23’、23”の形状、素材の選定・交換することで、適度の弾力性に調整することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
特許文献1は、足継手部に、油圧を用いてコンパクトで強力な底屈制動機能を持たせたものである。
【0017】
油圧を用いることで小型化されているが、油圧は足関節底屈制動機能として作用するが底屈位から戻る機能はなく、背屈補助ばねを用いている為、痙性の強い尖足の場合は底屈位から背屈位へ十分戻らないので、使用が困難である。
【0018】
特許文献2は、1本の後方支柱に弾力性を持たせることで、底屈制動、推進機能および背屈制動も可能となるが、側方安定性が十分でなく、強い内反には不適である。
【文献】特開2004-166811
【文献】特開2004-344297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
強度の内反尖足の痙性麻痺者に使用されている両側金属支柱付き短下肢装具の足関節底背屈制限角度の調整機能を保持しつつ、足関節底屈制動機能および足関節底屈位から背屈位への素早い回復による推進機能を持たせること。
【0020】
弛緩性麻痺の膝折れ防止と足部荷重中心の前方移動により、部分的荷重集中を避けることを目的とした背屈制動機能を持たせること。
【0021】
足関節底屈制動機能および背屈制動機能を痙性の程度、弛緩性麻痺者の体重や歩容に応じ、制動力を最適な状態に調整可能であること。
【課題を解決するための手段】
【0022】
両側金属支柱付き短下肢装具の支柱は、前後方向の幅が広く前後方向には撓み難い形状であるので、部分的に前後方向に撓みやすい形状にすることで、支柱に底屈制動機能および背屈制動機能を設ける。
【発明の効果】
【0023】
強度な内反・尖足の痙性麻痺者に使用可能な底屈制動を有する装具の選定は困難であったが、剛性の高い両側金属支柱付き短下肢装具の支柱に強い弾力性の板バネ機能を設けることにより、踵接地時に足関節が適度に底屈し、底屈制動機能が得られる。
【0024】
強度な板バネの弾性力により、足関節が底屈した後、速やかな回復力により、下腿カフ部に、下腿を前方に押す力が作用し、歩行の推進力が得られる。
【0025】
二分脊椎など両下肢の弛緩性完全麻痺の場合、足関節の底背屈双方の運動機能を喪失するため、足関節の可動性を制限する装具が使用されるが、荷重中心が踵部に集中し、感覚も脱失しているため褥瘡を生じ易く、歩行時のアンクルロッカー機能も利用困難である。
【0026】
荷重中心を足部の前方へ移動させるには、足関節背屈を強い力で制動する必要があり、従来の装具では困難であった。強い板バネの弾性力を利用する本発明により強い背屈制動が可能となり、アンクルロッカー機能が得られ、足部荷重中心の前方移動により部分的荷重集中を避け、褥瘡予防効果が得られる。
【0027】
個別の身体状況や使用状況に応じて製作される補装具である短下肢装具は、足底部の形状、踵補高の必要性の有無、補高の程度を定め、装具の機種、各部品を選定し作製する。
【0028】
短下肢装具完成後においても身体状況、使用状況の変化があり、様々な修正、調整が必要である。
【0029】
本発明の短下肢装具は、撓み部分を有する支柱の選定、交換による弾性力の調整に加え、足継手の底屈制限角度、背屈制限角度の調整により、調整したい底屈および背屈角度における曲げモーメント力を調整することが可能であり、完成後の調整に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】従来の両側金属支柱付き短下肢装具で、足継手30はシングルクレンザック足継手を使用し、背屈はほぼ自由に可動し、足関節の底屈角度は調整ネジ50で調整し、調整した角度で底屈への動きが制限される。
【
図2】従来の両側金属支柱付き短下肢装具で、足継手31はダブルクレンザック足継手を使用し、背屈角度は調整ネジ51および底屈角度を調整ネジ52で調整し、背屈および底屈への動きが制限される。
【
図3】従来のシングルクレンザック足継手を使用した短下肢装具の支柱部分20を本発明の20’に変更したもの。
【
図4】従来のダブルクレンザック足継手を使用した短下肢装具の支柱部分21を本発明の21’に変更したもの。
【
図5】シングルクレンザック足継手に使用する支柱20’
【
図6】ダブルクレンザック足継手に使用する支柱21’
【
図7】支柱21’を22”、23”、25’に分割可能にしたもの。
【
図8】支柱20’、21’の撓み部分23、23’を示す。
【
図11】痙性の強い片麻痺者の歩行時の足関節底屈モーメント計測図
【発明を実施するための形態】
【0031】
従来の両側金属支柱付き短下肢装具の支柱を
図5、
図6または
図7の支柱に交換することで、底屈制動機能、足関節底屈位から背屈位への素早い回復による推進機能、背屈制動機能が得られる短下肢装具。
【実施例1】
【0032】
図11に痙性の強い片麻痺者の歩行時の足関節底屈モーメント計測図を示す。
【0033】
最大底屈曲げモーメントは約48Nmである。
【0034】
図9にシングルクレンザック足継手に本発明の支柱20’を使用した短下肢装具の側面図を示す。
【0035】
足関節の背屈方向はほぼ自由に可動し、椅子からの立ち座りがし易い。
【0036】
図9の矢印Aは痙性片麻痺者の歩行時に生じる足関節底屈モーメントを表わし、矢印Bは支柱20’の撓み部分23により生じる背屈モーメントを示す。
【0037】
痙性麻痺により生じる底屈モーメントAと支柱の撓み部分23の弾性力により生じる背屈モーメントが釣り合うところまで撓み部分23は変形する。
【0038】
痙性麻痺により生じる歩行時の最大足関節底屈モーメントと足関節底屈角度を何度まで許すかに応じて、撓み部分23の曲げモーメント特性を選択することで、適切な底屈制動機能が得られる。
【0039】
図11の最大底屈モーメントは48Nmで、底屈制動により5°底屈を許す場合、片側の支柱は5°底屈に撓んだ時に24Nmの曲げモーメント特性が必要になる。
【0040】
底屈5°で約24Nmの曲げモーメントが得られる撓み部分の形状を曲げモーメントと曲率半径から算出すると、鋼材を使用する場合は、
図8のL=50mm、W=10mm、T=4.3mmとなる。
【0041】
図11で分かるように、痙性麻痺者の底屈モーメントは最大値以降減少するので、撓み部分23の弾性の回復力により、矢印Cの推進力得られる。
【0042】
撓み部分の使用材料は、鋼材、チタン合金、炭素繊維などヤング率の高い素材である。
【0043】
本発明により、強度の痙性麻痺者に対しても、底屈制動機能の有する短下肢装具の作製が可能である。
【実施例2】
【0044】
下肢弛緩性麻痺者は、足関節の背屈筋力が低下ないし喪失することによる下垂足、足関節の底屈筋力が低下ないし喪失し、足関節の背屈を制動出来ないことにより膝折れを生じる。
【0045】
これらを抑制する目的で、足関節を固定に近い状態にする短下肢装具や靴型装具が用いられている。
【0046】
足関節の動きを制限すると荷重中心は、足底部の踵付近に集中し、感覚も脱失しているので褥瘡を生じ易い。
【0047】
踵付近への荷重集中を避けるには、足関節を背屈へ可動させても、膝折れを生じさせない装具が必要となる。
【0048】
その為には、低下した足関節底屈筋を補う機能が必要となるが、足関節底屈筋の主働筋は下腿三頭筋であり、痙性片麻痺者に強い足関節底屈力を生じさせる筋でもある。
【0049】
したがって、下肢弛緩性麻痺者に足関節を背屈へ可動させ、膝折れを生じさせない装具には、強度の痙性麻痺者に底屈制動力と同等の背屈制動力が必要である。
【0050】
図10に下肢弛緩性麻痺者に本発明のダブルクレンザック足継手短下肢装具使用例を示す。
【0051】
ダブルクレンザック足継手の底屈調整ネジ52で底屈0°から軽度背屈位に制限し、下垂足を抑制する。
【0052】
背屈調整ネジ51で軽度背屈位に調整し、立脚初期から中期で足関節を背屈し易く調整する。
【0053】
図10で立脚初期には荷重中心は矢印Fに位置しているが、立脚中期から後期には、足関節が背屈位になるに従い、荷重中心は矢印Gへ移動する。
【0054】
足関節背屈は、背屈調整ネジ51での制限角度までは自由に可動するが、それ以後は、撓み部分23’により背屈制動され、下腿前傾で体重を支持する為に生じる足関節背屈モーメント(矢印D)と撓み部分23’の弾力性により生じる底屈モーメント(矢印E)が釣り合った角度で制動され、膝折れは生じない。
【0055】
立脚期後期から両脚支持期では、体重による足関節背屈モーメント力が低下し、撓み部分23’の弾力性により、矢印Hの蹴り出し力が得られる。
【符号の説明】
【0056】
10下腿カフ
20従来のシングルクレンザック足継手用支柱
20’本発明のシングルクレンザック足継手用支柱
21従来のダブルクレンザック足継手用支柱
21’本発明のダブルクレンザック足継手用支柱
22本発明のシングルクレンザック足継手用支柱本体
22’本発明のダブルクレンザック足継手用支柱本体
22”
図7の分割可能な支柱の支柱本体
23本発明のシングルクレンザック足継手用支柱撓み部分
23’ 本発明のダブルクレンザック足継手用支柱撓み部分
23”
図7の分割可能な支柱の撓み部分
24本発明のシングルクレンザック足継手用支柱足継手部
25従来のダブルクレンザック足継手用支柱足継手固定部
25’本発明のダブルクレンザック足継手用支柱足継手固定部
25”
図7の分割可能な支柱の足継手固定部
30シングルクレンザック足継手
31ダブルクレンザック足継手
40アブミ
50シングルクレンザック足継手底屈調整ネジ
51ダブルクレンザック足継手背屈調整ネジ
52ダブルクレンザック足継手底屈調整ネジ
60足部
70下腿カフベルト
【要約】
【課題】
内反・尖足の強い痙性下肢麻痺者に多く使用されている両側金属支柱付き短下肢装具に、足継手の可動範囲の調整機能に加えて、調整可能な足関節底屈制動機能と足関節底屈位から背屈位へ素早く回復し、下腿部を前方へ押し出すことによる推進機能を持たせること。弛緩性麻痺の膝折れ防止と足部荷重中心の前方移動による部分的荷重集中を避けることを目的とした調整可能な背屈制動機能を持たせること。
【解決手段】
両側金属支柱付き短下肢装具の剛性を損なわない形状で、足継手の直上部23、23’、23”に底背屈方向に弾力性を有する撓み部分を設け、部品の選定・交換と足継手の自由可動範囲の調整機能により、弾性強度の調整を可能とした短下肢装具。
【選択図】
図3