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特許7646137精神神経疾患を予防または改善するための鰹由来抽出物を含む機能性食品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】精神神経疾患を予防または改善するための鰹由来抽出物を含む機能性食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20250310BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20250310BHJP
   A23L 33/13 20160101ALI20250310BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/175
A23L33/13
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023572498
(86)(22)【出願日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2023000272
(87)【国際公開番号】W WO2023132372
(87)【国際公開日】2023-07-13
【審査請求日】2024-06-17
(31)【優先権主張番号】63/266,531
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591040513
【氏名又は名称】株式会社マルハチ村松
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】保苅 義則
(72)【発明者】
【氏名】関根 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 由彦
【審査官】田畑 利幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1994/000132(WO,A1)
【文献】特表2004-525136(JP,A)
【文献】特開2018-080135(JP,A)
【文献】特開2018-118914(JP,A)
【文献】国際公開第2017/068805(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒスチジンおよびイノシン酸を有効成分として有することを特徴とする血液脳関門バリア性を改善する機能性食品。
【請求項2】
請求項1記載の機能性食品において、
ヒスチジン濃度は0.836mg/mL、イノシン酸濃度は0.0537mg/mLであることを特徴とする機能性食品。
【請求項3】
請求項1記載の機能性食品において、
前記ヒスチジンおよびイノシン酸は、鰹由来抽出物であることを特徴とする機能性食品。
【請求項4】
請求項3記載の機能性食品において、前記鰹由来抽出物の濃度は0.1mg/mLであることを特徴とする機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神神経疾患を予防または改善するための鰹由来抽出物を含む機能性食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢者人口の増加に伴い、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、統合失調症といった精神神経疾患に罹患する患者は増加傾向にあるものの、いずれも根治療法は未だ確立されておらず、予防または発症遅延のための方法を見出だすことが重要な課題となっている。
【0003】
このような社会的背景を踏まえ、近年、食品成分が脳機能に影響を及ぼすことが徐々に明らかとなり、機能性食品の日常的な摂取による予防効果について関心が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-008104
【文献】特開2015-093845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、精神神経疾患を合理的に予防または改善する用途を有する機能性食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、精神神経疾患の予防もしくは改善する機能性食品について以下のような知見を得、鋭意実験等を行い、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、近年、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、統合失調症といった精神神経疾患において、血液脳関門(BBB)の機能異常が関わっていることが報告されている。血液脳関門は、血液を介して脳実質に流入してくる物質から脳を隔離して脳内外の物質循環を制御して脳内環境を一定に保つ重要な役割を担っているが、その機能が破綻すると、脳にとって有害な物質等と神経細胞との直接的接触が起き、脳内炎症をともなう神経細胞死や神経活動低下を引き起こすといわれている。
【0008】
ここで、本発明者らは、心臓の心筋細胞自らがアセチルコリン(ACh)を産生するシステム(NNCCS)を有することを見出したものである。そして、心筋細胞に備わるNNCCSの生理学的機能は、循環器系に加え、迷走神経を介し中枢神経系機能を修飾することが明らかとなり、一例として血液脳関門(BBB)維持にこのNNCCSが関与し、本システムによる臓器間クロストークの担い手となるという新規機能に関する知見を得たものである。BBB機能を、神経を介して間接的に亢進させるシステムの報告はこれまでにはなく特異的な様式であり、非常に新規性が高いと考えられる。また本システムの活性化は循環器機能の亢進と疾患予防へつながる可能性も示唆され、現在NNCCS機能亢進候補物質の一種が確認されている。
【0009】
本発明者らは鰹由来抽出物に着目し、この鰹由来抽出物の新たな健康機能として、抗炎症作用、血液脳関門バリア性の改善、非神経性非中枢性心臓アセチルコリン産生系の活性化を見いだし、上記知見の観点から、その機能性食品としての有効性について鋭意実験等を行い、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本願発明によれば、以下が提供される。
【0011】
(1) 鰹由来抽出物を含むことを特徴とする、精神神経疾患予防または改善用の機能性食品。
【0012】
(2) 上記(1)記載の食品において、前記精神神経疾患は、脳内炎症を要因とするものであることを特徴とする、機能性食品。
【0013】
(3) 上記(2)記載の食品であって、抗炎症作用を有する、機能性食品。
【0014】
(4) 上記(3)記載の食品であって、前記抗炎症作用は、脳内における炎症性サイトカイン産生抑制および/またはミクログリア活性化抑制である、機能性食品。
【0015】
(5) 上記(3)記載の食品において、前記鰹由来抽出物は、前記鰹由来抽出物が有する量のDHA、EPA、並びに、DHAおよびEPAの同等濃度組成物と比較して、炎症性サイトカインの産生を減少させるものである、機能性食品。
【0016】
(6) 上記(3)記載の食品において、前記鰹由来抽出物は、前記鰹由来抽出物が有する量のヒスチジン、アンセリン、クレアチン、クレアチニン、ベタイン、カルノシン、イノシン酸、並びに、ヒスチジン、アンセリン、クレアチン、クレアチニン、ベタインおよびカルノシンの同等濃度組成物と比較して、炎症性サイトカインの産生を減少させるものである、機能性食品。
【0017】
(7) 上記(1)記載の食品において、前記精神神経疾患は、血液脳関門破綻を要因とするものであることを特徴とする、機能性食品。
【0018】
(8) 上記(7)記載の食品であって、血液脳関門バリア性の改善作用を有する、機能性食品。
【0019】
(9) 上記(8)記載の食品において、前記血液脳関門バリア性の改善作用における有効成分は、ヒスチジンおよびイノシン酸である、機能性食品。
【0020】
(10) 上記(7)記載の食品であって、心臓アセチルコリン産生系の活性化作用を有する、機能性食品。
【0021】
(11) 上記(1)記載の食品において、前記鰹由来抽出物の濃度は0.1mg/mLである、機能性食品。
【0022】
(12) 上記(9)記載の食品において、前記鰹由来抽出物の濃度は0.1mg/mL、あるいは、ヒスチジン濃度は0.836mg/mL、イノシン酸濃度は0.0537mg/mLである、機能性食品。
【0023】
(13) 上記(10)記載の食品において、前記鰹由来抽出物の濃度は10mg/mLである、機能性食品。
【0024】
上記のような構成により、本発明に係る鰹由来抽出物を含むことを特徴とする機能性食品は、抗炎症作用、血液脳関門バリア性の改善、非神経性非中枢性心臓アセチルコリン産生系の活性化の効果を奏することができる。
【0025】
なお、上記以外の本発明の特徴については、以下で説明する本発明の実施形態の説明中で明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、MG6細胞を用いた鰹抽出物等の抗炎症作用を評価する実験の概略図を示す。
図2図2は、鰹荒節(熱水抽出物および水抽出物)の抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図3図3は、鰹本枯節(熱水抽出物および水抽出物)の抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図4図4は、なまり節(熱水抽出物)の抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図5図5は、うるめ節、サバ節(熱水抽出物および水抽出物)の抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図6図6は、宗田節、まぐろ節(熱水抽出物および水抽出物)の抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図7A図7Aは、拘束ストレス負荷による炎症誘発マウスを用いたin vivo試験(鰹荒節熱水抽出物)における脳内での炎症性サイトカインの遺伝子発現、血中コルチコステロン濃度に関する結果を示す。
図7B図7Bは、拘束ストレス負荷による炎症誘発マウスを用いたin vivo試験(鰹荒節熱水抽出物)における視床下部でのミクログリア活性に関する結果を示す。
図8A図8Aは、LPS投与による炎症誘発マウスを用いたin vivo試験(鰹荒節熱水抽出物)における肝臓の炎症性サイトカインの遺伝子発現に関する結果を示す。
図8B図8Bは、LPS投与による炎症誘発マウスを用いたin vivo試験(鰹荒節熱水抽出物)における肝臓のα7ニコチン受容体タンパク発現に関する結果を示す。
図8C図8Cは、LPS投与による炎症誘発マウスを用いたin vivo試験(鰹荒節熱水抽出物)における血中の炎症性サイトカイン濃度に関する結果を示す。
図9図9は、鰹荒節熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィーにより分離精製して得られたフラクションについて、MG6細胞を用いて抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図10図10は、ゲルろ過活性画分Iをさらに逆相HPLCにより分離精製して得られたフラクションについて、MG6細胞を用いて抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図11図11は、ゲルろ過活性画分IIをさらに逆相HPLCにより分離精製して得られたフラクションについて、MG6細胞を用いて抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図12図12は、ゲルろ過活性画分IIのフラクション7から量的に多く検出された成分(クレアチニン(Creatinine)、グリコール酸(Glycolic acid)、乳酸(Lactic acid))について、抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図13図13は、ゲルろ過活性画分IIのフラクション17から量的に多く検出された成分(イノシン酸(Inosinic acid)、AMP(Adenosine 5’-monophosphate)、コハク酸(Succinic acid)、リボース-5-リン酸(Ribose 5-phosphate)、ヒポキサンチン(Hypoxanthine))について、抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図14図14は、ゲルろ過活性画分IIIをさらに逆相HPLCにより分離精製して得られたフラクションについて、MG6細胞を用いて抗炎症作用を評価した実験結果を示す。
図15図15は、ラット脳毛細血管内皮細胞を用いた鰹荒節熱水抽出物のタイトジャンクション(Tight junction)関連分子のタンパク質発現に対する影響を評価した実験結果を示す。
図16図16は、マウス脳を用いた鰹荒節熱水抽出物のアセチルコリン合成酵素のタンパク質発現に対する影響を評価した実験結果を示す。
図17図17は、鰹荒節熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィー及び逆相HPLCを順次用いて分離精製して得た抗炎症高活性フラクションについて、ラット脳毛細血管内皮細胞を用いてタイトジャンクション関連分子のタンパク質発現に対する影響を評価した実験結果を示す。
図18図18は、抗炎症高活性フラクションに含まれることが予想された成分(イノシン酸、ヒスチジン(Histidine))及びDashi-presso(マルハチ村松社の鰹だし製品)について、ラット脳毛細血管内皮細胞を用いてタイトジャンクション関連分子のタンパク質発現に対する影響を評価した実験結果を示す。
図19図19は、凍結損傷マウスを用いたin vivo試験(鰹荒節熱水抽出物)における血液脳関門の機能改善に関する結果を示す。
図20A図20Aは、マウスにおける鰹荒節熱水抽出物の心臓におけるアセチルコリン産生能に対する影響を、組織中アセチルコリン濃度で評価した実験結果を示す。
図20B図20Bは、マウスにおける鰹荒節熱水抽出物の血行動態変化に対する影響を評価した実験結果を示す。
図21図21は、鰹荒節熱水抽出物を経口投与したマウスを用いた強制水泳試験の実験結果を示す。
図22図22は、鰹荒節熱水抽出物を経口投与したマウスを用いた尾懸垂試験の実験結果を示す。
図23図23は、マウスの視覚的認知記憶を評価する新奇物質探索試験の概略図を示す。
図24図24は、鰹荒節熱水抽出物を経口投与したマウスを用いた新奇物質探索試験の実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の一実施形態を、図面等を参照しながら説明する。
【0028】
(本発明の実施形態)
まず、以下、鰹由来抽出物が抗炎症作用、血液脳関門バリア性の改善、非神経性非中枢性心臓アセチルコリン産生系の活性化の効果を有するという結論に至った経緯について説明する。
【0029】
(抗炎症作用)
日本の伝統的な発酵食品である鰹節(荒節、本枯節、なまり節)、その他、様々な魚種(うるめ、サバ、宗田鰹、まぐろ)の節抽出物について、マウス脳ミクログリア由来の培養細胞株を用いてin vitroの実験系で抗炎症作用のスクリーニングを行った。その結果、ほとんどの節抽出物に抗炎症作用が認められたが、すでに魚特有のω-3系多価不飽和脂肪酸であるDHAやEPAの抗炎症作用は知られており、各種節抽出物の抗炎症作用がこれら脂肪酸によるものである可能性も考えられた。
【0030】
そこで、GCMS分析により各種節抽出物中のDHAとEPA含有濃度を算出、その濃度を参考にして試薬のDHA、EPAを用いて各抽出物と同等濃度の組成物を調製して抗炎症作用を調べたところ、鰹節抽出物に含有されるDHAとEPA量は抗炎症効果を認めるには極めて濃度が低いこと、鰹荒節抽出物はDHA+EPAの同等濃度組成物よりも抗炎症効果が高いことが明らかとなり、鰹節抽出物においてはDHAやEPAとは異なる、抗炎症効果の高い成分の存在が推察された。これに対し、他の節抽出物では鰹節抽出物と比較してDHAとEPA含量が多いものがほとんどで、各抽出物とDHA+EPAの同等濃度組成物の抗炎症効果が同程度であったことから、その責任物質はDHAとEPAである可能性が高いと考えられた。このような経緯を経て、研究材料を鰹荒節とすることにした。
【0031】
また、鰹節に特徴的な既知成分(ヒスチジン、アンセリン(Anserine)、クレアチン(Creatine)、クレアチニン、ベタイン(Betaine)、カルノシン(Carnosine)、イノシン酸)について同じ評価系で抗炎症作用を調べたが、いずれも単体では鰹節抽出物に匹敵するような抗炎症作用を示す物質はなく、これらを混合(イノシン酸を除く)しても顕著な抗炎症作用は認められなかった。このことから、鰹節抽出物には強力な抗炎症作用を示す未知物質の存在が考えられた。
【0032】
(血液脳関門バリア性の改善作用)
マウス脳ミクログリア由来の培養細胞の抗炎症作用を指標として、鰹荒節熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィー、逆相HPLCにより順次分離精製して活性成分を同定する過程で得られた活性フラクションや活性フラクションからLCMS分析により推定された化合物(ヒスチジン、イノシン酸)について、ラット脳血管内皮細胞におけるタイトジャンクション関連分子(クローディン5(Claudin-5)、オクルディン(Occludin))の発現を調べたところ、遺伝子レベルならびにタンパク質レベルでの発現亢進が認められた。マウスに鰹荒節熱水抽出物や活性フラクションを経口投与してもその効果が確認された。さらに、BBB破綻モデルである凍結損傷においても、鰹荒節熱水抽出物を経口投与したマウスではBBB破綻が有意差をもって抑制された。
【0033】
(非神経性非中枢性心臓アセチルコリン産生系の活性化)
マウスに鰹荒節熱水抽出物を経口投与した結果、心臓ではアセチルコリン濃度が上昇し、アセチルコリン合成酵素(ChAT)のタンパク質レベルでの発現亢進が心臓や脳でも確認されたことから、心臓アセチルコリン産生系が活性化していることが確認できた。さらに、鰹荒節熱水抽出物を経口投与したマウスの心拍数が有意差をもって低下したことから、全身の副交感神経をも同時に亢進させることが確認された。
【0034】
以下、鰹由来抽出物が抗炎症作用、血液脳関門バリア性の改善、非神経性非中枢性心臓アセチルコリン産生系の活性化の効果を有するか検討するために行った実験及びその実験結果を説明する。
【0035】
[実験1]
マウス脳ミクログリア由来MG6細胞を理研バイオリソース研究センター(BRC)より購入し、鰹節をはじめとする様々な抽出物の抗炎症作用を検証した(図1参照)。まず、96well plateにMG6細胞を播種(5×10cells/well・90μL)し、COインキュベーター内で培養を開始する(37℃、CO濃度5%)。次に、0.5時間後に各種抽出物を各wellに添加、さらに1時間後にリポポリサッカライド(LPS)を添加してMG6細胞を活性化させ炎症状態を惹起させる。6時間後、各wellの培地上清を10μL回収してから各wellに生細胞数計測試薬(WST-8)を10μL添加して、1時間後と2時間後にプレートリーダーにて450nmの吸光度(参照波長630nm)を測定した。
【0036】
先に回収していた培養上清はBufferで25倍に希釈してELISA法により培地上清中に産生された炎症性サイトカインの一種であるTNF-α産生量を測定した(Bio Legend社のKitであるELISA MAX(商標)Deluxe Set Mouse TNF-αを使用)。LPS添加試験区に対し、各種抽出物の事前添加によりTNF-α産生量が減少しているほど抗炎症作用が高く、減少していないほど抗炎症作用が低いと判断できる。
【0037】
[実験2]
鰹荒節の熱水抽出物、水抽出物(0.01mg,0.03mg,0.1mg,0.3mg,1mg/mL)について、LPS刺激に対する抗炎症作用を評価した(図2参照)。鰹荒節の部位(表面、内部)や抽出方法にかかわらず、濃度依存的にTNF-α産生量が低下したことから、抗炎症作用を有することが明らかとなった。WST-8アッセイでは、コントロール試験区(LPS±)と比較しても各種抽出物の試験区に吸光値の減少が見られないことから、細胞生存率に影響を与えず抗炎症作用を示すことが確認できた。
【0038】
さらに、GCMS分析により各抽出物中のDHAとEPA含有濃度を算出、その濃度を参考にして試薬のDHA、EPAを用いて各抽出物と同等濃度の組成物を調製して抗炎症作用を調べたところ、鰹荒節抽出物に含有されるDHAとEPA量では抗炎症効果を認めるには極めて濃度が低く、抗炎症効果もDHA+EPAの同等濃度組成物より鰹荒節抽出物の方が高かったことから、DHAやEPAとは異なる、高い抗炎症を示す成分の存在が推察された。
【0039】
[実験3]
鰹本枯節の熱水抽出物、水抽出物(0.01mg,0.03mg,0.1mg,0.3mg,1mg/mL)について、LPS刺激に対する抗炎症作用を評価した(図3参照)。鰹本枯節の部位(表面、内部)や抽出方法にかかわらず、濃度依存的にTNF-α産生量が低下したことから、抗炎症作用を有することが明らかとなった。WST-8アッセイでは、コントロール試験区(LPS±)と比較しても各種抽出物の試験区に吸光値の減少が見られないことから、細胞生存率に影響を与えず抗炎症作用を示すことが確認できた。
【0040】
さらに、GCMS分析により各抽出物中のDHAとEPA含有濃度を算出したところ、鰹本枯節抽出物に含有されるDHAとEPA量では抗炎症効果を認めるには極めて濃度が低かったことから、DHAやEPAとは異なる高い抗炎症を示す成分の存在が推察された。
【0041】
[実験4]
なまり節の熱水抽出物(0.01mg,0.03mg,0.1mg,0.3mg,1mg/mL)について、LPS刺激に対する抗炎症作用を評価した(図4参照)。なまり節の部位(雄節、雌節/表面、内部)にかかわらず、濃度依存的にTNF-α産生量が低下したことから、抗炎症作用を有することが明らかとなった。WST-8アッセイでは、コントロール試験区(LPS±)と比較しても各種抽出物の試験区に吸光値の減少が見られないことから、細胞生存率に影響を与えず抗炎症作用を示すことが確認できた。
【0042】
さらに、GCMS分析により各なまり節抽出物中のDHAとEPA含有濃度を算出したところ、なまり節抽出物に含有されるDHAとEPA量では抗炎症効果を認めるには極めて濃度が低かったことから、DHAやEPAとは異なる高い抗炎症を示す成分の存在が推察された。
【0043】
[実験5]
うるめ節、サバ節の熱水抽出物、水抽出物(0.01mg,0.03mg,0.1mg,0.3mg,1mg/mL)について、LPS刺激に対する抗炎症作用を評価した(図5参照)。うるめ節、サバ節の抽出方法にかかわらず、濃度依存的にTNF-α産生量が低下したことから、抗炎症作用を有することが明らかとなった。WST-8アッセイでは、コントロール試験区(LPS±)と比較しても各種抽出物の試験区に吸光値の減少が見られないことから、細胞生存率に影響を与えず抗炎症作用を示すことが確認できた。
【0044】
しかしながら、GCMS分析により各抽出物中のDHAとEPA含有濃度を算出、その濃度を参考にして試薬のDHA、EPAを用いて各抽出物と同等濃度の組成物を調製して抗炎症作用を調べたところ、各抽出物とそれぞれのDHA+EPAの同等濃度組成物の抗炎症効果が同程度であったことから、各抽出物で認められた抗炎症作用の責任物質はDHAとEPAである可能性が高いと考えられた。
【0045】
[実験6]
宗田節、まぐろ節の熱水抽出物、水抽出物(0.01mg,0.03mg,0.1mg,0.3mg,1mg/mL)について、LPS刺激に対する抗炎症作用を評価した(図6参照)。宗田節、まぐろ節の抽出方法にかかわらず、濃度依存的にTNF-α産生量が低下したことから、抗炎症作用を有することが明らかとなった。WST-8アッセイでは、コントロール試験区(LPS±)と比較しても各種抽出物の試験区に吸光値の減少が見られないことから、細胞生存率に影響を与えず抗炎症作用を示すことが確認できた。
【0046】
さらに、GCMS分析により各抽出物中のDHAとEPA含有濃度を算出、その濃度を参考にして試薬のDHA、EPAを用いて各抽出物と同等濃度の組成物を調製して抗炎症作用を調べたところ、DHA、EPA含有量は高い抗炎症効果を認める濃度ではなかったが、各抽出物とそれぞれのDHA+EPAの同等濃度組成物の抗炎症効果が同程度であったことから、各抽出物で認められた抗炎症効果の責任物質はDHAとEPAである可能性が高いと考えられた。
【0047】
[実験7]
各種節抽出物の抗炎症作用をマウス脳ミクログリア由来MG6細胞を用いたin vitro実験で明らかにできたことから、次のステップとして、in vivoでも効果を示すのかを検証すべく、マウス経口投与による動物実験をおこなった。
【0048】
鰹荒節熱水抽出物を蒸留水で11mg/mLの濃度に溶解して給水瓶に入れ、飼育ゲージに設置して4日間、自由飲水させた。その後、拘束ストレス(2時間)を負荷してから、脳内における炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)の遺伝子発現および血中コルチコステロン(Blood Corticosterone)濃度を測定した。さらに、視床下部におけるミクログリアの活性化を免疫組織学的手法により観察した。
【0049】
その結果、脳内のIL-1β、TNF-αについては、鰹荒節熱水抽出物(E)の投与群において有意な減少が認められた(図7A参照)。また、拘束ストレス条件下で認められるミクログリアの活性化(黒三角でマークされた部分)も鰹荒節熱水抽出物(E)の投与群は顕著に抑制されており、拘束ストレス負荷前と同様な状態を観察することが出来た(図7B参照)。
【0050】
これらの結果から、in vivo実験においても鰹荒節熱水抽出物の抗炎症作用(脳内における炎症性サイトカイン産生抑制、ミクログリア活性化抑制)を示すことが明らかとなった。
【0051】
[実験8]
LPSで炎症を惹起させたマウスにおける鰹荒節熱水抽出物の抗炎症作用について検討を行った。
【0052】
鰹荒節熱水抽出物を水で10mg/mLの濃度に溶解して給水瓶に入れ、飼育ゲージに設置して3日間、自由飲水させた。その後、LPS(10mg/kg)を腹腔内注射して4時間後に肝臓における炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6)の遺伝子発現および血中炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β)を測定した。
【0053】
その結果、肝臓におけるTNF-α、IL-1β、IL-6については、鰹荒節熱水抽出物(E)の投与群において有意な減少が認められた(図8A参照)。このとき肝臓内でのα7ニコチン受容体(α7 AChR)タンパク発現が低下し、炎症応答の鰹荒節熱水抽出物(E)による抑制効果が示唆された(図8B参照)。また、血中におけるTNF-α、IL-6については、鰹荒節熱水抽出物(E)の投与群において有意な減少が認められた(図8C参照)。
【0054】
これらの結果から、in vivo実験においても鰹荒節熱水抽出物の抗炎症作用(肝臓、血中における炎症性サイトカイン産生抑制)を示すことが明らかとなった。
【0055】
[実験9]
鰹荒節の熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィーにより分離精製し、得られたフラクションについてMG6細胞を用いて抗炎症作用を検証した。
【0056】
まず鰹荒節熱水抽出物(Lot:200729)1851.6mgを移動相(0.1M酢酸)12.3mLに再溶解し[225mg/1.5mL]、これをゲルろ過クロマトグラフィーにより分離精製した。ゲルろ過の条件としては、カラムXK16/70(GE Health Care社)にSephadex G-25(GE Health Care社、P/N:17-0033-02 Lot:10034186)をゲルろ過担体として充填し、0.1M酢酸で流速0.3mL/min.で試料を溶出し、UV検出器で吸光度(214nm)を測定した。分離された溶出液はフラクションコレクターを用いて、1フラクション10分(3mL/フラクション)となるように分取した。次に、得られた各フラクションを減圧乾固して超純水に再溶解し、回収固形分重量が5mg以上のフラクションは100mg/mLに、5mg未満のフラクションについては一律50μLの超純水に再溶解した後、0.2μmメンブレンフィルターを用いてろ過滅菌した。このようにして調製した各フラクションについて、MG6細胞を用いて抗炎症作用を評価した。
【0057】
その結果、図9に示すフラクション26~28(ゲルろ過活性画分I)に極めて高い抗炎症活性が認められ、フラクション34~36(ゲルろ過活性画分II)、フラクション39~41(ゲルろ過活性画分III)、フラクション48~51(ゲルろ過活性画分IV)にも抗炎症活性が認められた。しかし、ゲルろ過活性画分IVは吸光値が殆どなく検出が難しいことが予想されたため、それ以外の抗炎症活性画分について、さらに分離精製を進め、活性成分の単離同定を試みることにした。
【0058】
まず、鰹荒節の熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィーにより分離精製して得られたゲルろ過活性フラクションIについて、さらに逆相HPLCを用いて分離精製を行い、得られたフラクションについてMG6細胞を用いて抗炎症作用を検証した。
【0059】
分離条件としては、分取用逆相カラムにInertsil ODS-3、5μm、10×250mm(GL Science社、C/N5020-06812、S/N0BI41240)、移動相A;0.1%TFA、移動相B;80%アセトニトリル-0.1%TFAを用いてアセトニトリルの直線的濃度勾配をかけて、流速3mL/min.で試料を溶出し、UV検出器で吸光度(214nm)を測定した。分離された溶出液は、1フラクション1分(3mL/フラクション)となるように分取した。次に、得られた各フラクションを減圧乾固して超純水に再溶解し、回収固形分重量が5mg以上のフラクションは100mg/mLに、5mg未満のフラクションについては一律50μLの超純水に再溶解した後、0.2μmメンブレンフィルターを用いてろ過滅菌した。このようにして調製した各フラクションについて、MG6細胞を用いて抗炎症作用を評価した。
【0060】
その結果、図10に示すフラクション5~7に極めて高い抗炎症活性が認められた。また、LCMS分析により得られた精密質量をもとに化合物を推定したところ、フラクション5に尿素(Urea)、ギ酸(Formate)、5-ヒドロキシオロチン酸(5-hydroxyorotic acid)、フラクション6に5-メチルシチジン(5-Methylcytidine)、2-メチルシチジン(2-Methylcytidine)、ベンセラジド(Benserazide)、フラクション7にリシン-リシン(Lys-Lys)、リシン無水物(Lysine anhydride)、リシン-ヒスチジン(Lys-His)(もしくはヒスチジン-リシン(His-Lys))、カドララジン(Cadralazine)が含まれている可能性が示唆された。
【0061】
次に、鰹荒節の熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィーにより分離精製して得られたゲルろ過活性画分IIについて、さらに逆相HPLCを用いて分離精製を行い、得られたフラクションについてMG6細胞を用いて抗炎症作用を検証した。
【0062】
分離条件としては、分取用逆相カラムにInertsil ODS-3、5μm、10×250mm(GL Science社、C/N5020-06812、S/N0BI41240)、移動相A;0.1%TFA、移動相B;80%アセトニトリル-0.1%TFAを用いてアセトニトリルの直線的濃度勾配をかけて、流速3mL/min.で試料を溶出し、UV検出器で吸光度(214nm)を測定した。分離された溶出液は、1フラクション1分(3mL/フラクション)となるように分取した。次に、得られた各フラクションを減圧乾固して超純水に再溶解し、回収固形分重量が5mg以上のフラクションは100mg/mLに、5mg未満のフラクションについては一律50μLの超純水に再溶解した後、0.2μmメンブレンフィルターを用いてろ過滅菌した。このようにして調製した各フラクションについて、MG6細胞を用いて抗炎症作用を評価した。
【0063】
その結果、図11に示すフラクション7とフラクション17に抗炎症活性が認められた。また、LCMS分析により得られた精密質量をもとに化合物を推定したところ、フラクション7にクレアチン、クレアチニン、グリコール酸、乳酸、フラクション17にイノシン酸、AMP、コハク酸、リボース-5-リン酸、ヒポキサンチンが含まれている可能性が示唆された。
【0064】
抗炎症作用を示す物質の単離同定を試みるため、フラクション7から量的に多く検出された4成分(クレアチン、クレアチニン、グリコール酸、乳酸)について、各成分単体で抗炎症作用を評価した。
【0065】
フラクション7に多く含まれた4成分(クレアチン、クレアチニン、グリコール酸、乳酸)のうち、3成分(クレアチニン、グリコール酸、乳酸)で抗炎症活性が認められた(図12参照)。このうち乳酸については抗炎症活性を有することが既に報告されているが(Liang et al.L-lactate inhibits lipopolysaccharide-induced inflammation of microglia in the hippocampus,International Journal of Neuroscience,2022 Jul 26;1-8)、他の2成分(クレアチニン、グリコール酸)については新規の抗炎症成分であった。
【0066】
次に、フラクション17から量的に多く検出された5成分(イノシン酸、AMP、コハク酸、リボース-5-リン酸、ヒポキサンチン)について、各成分単体で抗炎症作用を評価した。
【0067】
その結果、イノシン酸、AMP、コハク酸、リボース-5-リン酸、ヒポキサンチンのそれぞれの成分について、抗炎症活性が認められた(図13参照)。
【0068】
すなわち、クレアチニン、グリコール酸、イノシン酸、AMP、コハク酸、リボース-5-リン酸、ヒポキサンチンの7成分が、鰹節熱水抽出物に含まれる新規な抗炎症成分である可能性が示唆された。
【0069】
最後に、鰹荒節の熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィーにより分離精製して得られたゲルろ過活性画分IIIについて、さらに逆相HPLCを用いて分離精製を行い、得られたフラクションについてMG6細胞を用いて抗炎症作用を検証した。
【0070】
分離条件としては、分取用逆相カラムにInertsil ODS-3、5μm、10×250mm(GL Science社、C/N5020-06812、S/N0BI41240)、移動相A;0.1%TFA、移動相B;80%アセトニトリル-0.1%TFAを用いてアセトニトリルの直線的濃度勾配をかけて、流速3mL/min.で試料を溶出し、UV検出器で吸光度(214nm)を測定した。分離された溶出液は、1フラクション1分(3mL/フラクション)となるように分取した。次に、得られた各フラクションを減圧乾固して超純水に再溶解し、回収固形分重量が5mg以上のフラクションは100mg/mLに、5mg未満のフラクションについては一律50μLの超純水に再溶解した後、0.2μmメンブレンフィルターを用いてろ過滅菌した。このようにして調製した各フラクションについて、MG6細胞を用いて抗炎症作用を評価した。
【0071】
その結果、図14に示すフラクション20に極めて高い抗炎症活性が認められた。また、LCMS分析により得られた精密質量をもとに化合物を推定したところ、フラクション20にイノシン(Inosine)、アラビノシルヒポキサンチン(Arabinosylhypoxanthine)が含まれている可能性が示唆された。
【0072】
[実験10]
鰹荒節熱水抽出物のBBB機能への影響を調べるために、ラット脳毛細血管内皮細胞におけるタイトジャンクション関連タンパク質であるクローディン5およびオクルディンのタンパク発現を指標として、in vitro実験にて検証した。血管内皮細胞間隙のバリアであるタイトジャンクションを構成するクローディン5及びオクルディンは、BBB機能を評価するマーカーとしてよく用いられるものである(脳循環代謝 24:111-115, 2013参照)。
【0073】
・ラット脳毛細血管内皮細胞(RBECs、初代細胞)におけるタイトジャンクション関連分子のタンパク質発現(図15参照)
ラット脳毛細血管内皮細胞(RBECs、初代細胞)、培地等をファーマコセル社より購入し、鰹荒節熱水抽出物のタイトジャンクション関連分子(クローディン5、オクルディン)のタンパク質発現への影響を検証した。
【0074】
まず、48well plateにRBECsを播種(2×10cells/well・440μL)し、CO2インキュベーター内で培養を開始する(37℃、CO2濃度5%)。次に、72時間後に各種抽出物を添加して調製した評価培地に各wellの培地を置換、その時点からさらに24時間後、72時間後にNucleospin RNA/Protein kit(タカラバイオ社)を用いて、そのプロトコルにしたがってRNAとProteinを培養していた細胞から回収した。抽出ProteinはWestern Blotにより評価を行い、抽出RNAは逆転写して得たDNAをreal-time PCRにより評価した。
【0075】
その結果、クローディン5は24時間および72時間後に無血清培地試験区(serum free)と比較してタンパク質発現が亢進しており、オクルディンもクローディン5と相互作用するかのように特に24時間後にその発現が亢進していた[EXP 1]。また、さらに継代を2回行ったRBECs(総継代数5)についても同様に検証したところ、クローディン5は無血清培地試験区と比較してタンパク発現が亢進しているのを確認できた[EXP 2]。
【0076】
・マウス脳におけるアセチルコリン合成酵素(図16参照)
マウスに10mg/mLの鰹荒節熱水抽出物を経口投与し、その後、脳全体を調製した試料から、アセチルコリン合成酵素(ChAT)のタンパク質レベルの発現を検証した(コントロール群;3匹、鰹荒節熱水抽出物投与群;5匹)。
【0077】
その結果、脳全体より抽出した調製物において、ChATタンパク質発現亢進が認められたことから、脳内における神経細胞でのアセチルコリン産生が亢進していることが示唆された。
【0078】
これらの結果から、鰹荒節熱水抽出物はin vitro実験において脳毛細血管内皮細胞のタイトジャンクション関連分子(クローディン5、オクルディン)のタンパク質発現を亢進することが明らかとなった。
【0079】
[実験11]
鰹荒節熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィー及び逆相HPLCを順次用いて分離精製して得た抗炎症高活性フラクションについて、ラット脳毛細血管内皮細胞(RBECs、初代細胞)におけるタイトジャンクション関連分子(クローディン5、オクルディン)のタンパク質発現の影響を検証した(図17参照)。
【0080】
ラット脳毛細血管内皮細胞(RBECs、初代細胞)、培地等をファーマコセル社より購入し、鰹荒節熱水抽出物のタイトジャンクション関連分子(クローディン5、オクルディン)のタンパク質発現への影響を検証した。まず、48well plateにRBECsを播種(2×10cells/well・440μL)し、CO2インキュベーター内で培養を開始する(37℃、CO2濃度5%)。次に、72時間後に各種抽出物を添加して調製した評価培地に各wellの培地を置換、さらに24時間後、72時間後にNucleospin RNA/Protein kit(タカラバイオ社)を用いて、そのプロトコルにしたがってRNAとProteinを培養していた細胞から回収した。抽出ProteinはWestern Blotにより評価を行い、抽出RNAは逆転写して得たDNAをreal-time PCRにより評価した(real-time PCRデータはここには示していない)。
【0081】
その結果、活性フラクション添加濃度が0.1mg/mLの場合、24時間後ではサンプル4、5、6(それぞれ図14のフラクション20、図10のフラクション5、6に該当)、さらに72時間後ではサンプル7、8(それぞれ図10のフラクション7、図11のフラクション7に該当)で無血清培地試験区に比較してクローディン5のタンパク発現が亢進していた。また、活性フラクション添加濃度が1.0mg/mLの場合、24時間後ではサンプル5(図10のフラクション5に該当)とサンプル8(図11のフラクション7に該当)、72時間後ではサンプル8(図11のフラクション7に該当)で無血清培地試験区に比較してクローディン5のタンパク発現が亢進していた。
【0082】
これらの結果から、鰹荒節熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィー及び逆相HPLCを順次用いて分離精製して得た抗炎症高活性フラクションについて、ラット脳毛細血管内皮細胞(RBECs、初代細胞)におけるタイトジャンクション関連分子(クローディン5、オクルディン)のタンパク質発現を亢進することが明らかになった。
【0083】
[実験12]
鰹荒節熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィー及び逆相HPLCを順次用いて分離精製して得た抗炎症高活性フラクションに含まれる成分をLCMS分析により得られた精密質量数から推定された化合物(イノシン酸、ヒスチジン)、Dashi-presso(マルハチ村松社の鰹だし製品)について、ラット脳毛細血管内皮細胞(RBECs、初代細胞)におけるタイトジャンクション関連分子(クローディン5、オクルディン)のタンパク質発現の影響を検証した(図18参照)。
【0084】
ラット脳毛細血管内皮細胞(RBECs、初代細胞)、培地等をファーマコセル社より購入し、鰹荒節熱水抽出物のタイトジャンクション関連分子(クローディン5、オクルディン)のタンパク質発現への影響を検証した。まず、48well plateにRBECsを播種(2×10cells/well・440μL)し、CO2インキュベーター内で培養を開始する(37℃、CO2濃度5%)。次に、72時間後に各成分および抽出物を添加して調製した評価培地に各wellの培地を置換、さらに24時間後、72時間後にNucleospin RNA/Protein kit(タカラバイオ社)を用いて、そのプロトコルにしたがってRNAとProteinを培養していた細胞から回収した。抽出ProteinはWestern Blotにより評価を行い、抽出RNAは逆転写して得たDNAをreal-time PCRにより評価した(real-time PCRデータはここには示していない)。
【0085】
その結果、24時間後において、イノシン酸(添加濃度が0.0537mg/mL)、ヒスチジン(添加濃度が0.836mg/mL)が無血清培地試験区に比較してクローディン5のタンパク発現が亢進していた。また、Dashi-presso(添加濃度が0.1mg/mL)では72時間後、無血清培地試験区に比較してクローディン5のタンパク発現が亢進していた。
【0086】
これらの結果から、鰹荒節熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィー及び逆相HPLCを順次用いて分離精製して得た抗炎症高活性フラクションに含まれることが予想された成分(イノシン酸、ヒスチジン)について、ラット脳毛細血管内皮細胞(RBECs、初代細胞)におけるタイトジャンクション関連分子(クローディン5、オクルディン)のタンパク質発現の亢進することが明らかになった。
【0087】
[実験13]
血液脳関門を物理的に損傷させ、その前後に鰹荒節熱水抽出物を経口投与させた場合の脳血管透過性をエバンスブルー法(Evans blue;EB)により評価した(図19参照)。
【0088】
具体的には、まずマウスに10mg/mLの鰹荒節熱水抽出物を3日間経口投与し、4日目も経口投与をしながら冷却した金属棒(直径3mm)を5秒間、右頭頂頭蓋骨に接触させることで血液脳関門に直接ダメージを与えた。凍結損傷を与えてから24時間後に、3%EBを投与、3~4時間後に脳右半球を厚さ3mm切片にして3日間、50℃、800μLのホルムアルデヒドに浸漬した。その後、634nmの吸光度を測定した。
【0089】
その結果、鰹荒節熱水抽出物の投与群は、非投与群と比較して明らかに脳内へ漏出したEB量が少なかったことから、鰹荒節熱水抽出物の血液脳関門の機能を維持し、改善する効果が高いということが明らかとなった。
【0090】
[実験14]
心臓におけるアセチルコリン産生能および血行動態変化に対する影響を検討した。
【0091】
マウスに10mg/mLの鰹荒節熱水抽出物を2週間経口投与すると水投与群と比較して明らかに心臓でのアセチルコリン濃度が上昇(図20A参照)、心臓に加えて脳でのアセチルコリン合成酵素(ChAT)のタンパク質レベルでの発現が亢進していることが分かった(図16参照)。
【0092】
マウスに鰹荒節熱水抽出物を1週間、2週間経口投与した時の、血圧、心拍数に対する影響を検討した。1週目よりも2週目では水投与群と比較して明らかに心拍数(HR)が顕著に低下し、収縮期血圧(SBP)および張期血圧(DBP)に関しても2週間目ではやや低下傾向にあることが分かった。すなわち、鰹荒節熱水抽出物は、マウスの副交感神経系を亢進させ、心臓アセチルコリン産生能も亢進させることが示唆された(図20B参照)。
【0093】
[実験15]
10mg/mLの鰹荒節熱水抽出物を経口投与したマウスを用いた強制水泳試験(forced swimming test;FST)を行い、うつ病様行動に対する抑制作用を検討した(図21参照)。
【0094】
具体的には、1日ないし5日間、鰹荒節熱水抽出物を経口投与したマウスを用いて水を張った水槽に入れて強制的に水泳を行わせ、10分間観察したうち、最後の4分間、マウスが無動状態の時間の長さを測定した。無動時間が長いとうつ状態が強く、無動時間が短いと抗うつ作用があると考えられている。
【0095】
その結果、鰹荒節熱水抽出物の経口投与期間の異なる2つの実験において、抗うつ作用にかかわる役割を果たしていることが明らかとなった。
【0096】
[実験16]
10mg/mLの鰹荒節熱水抽出物を経口投与したマウスを用いた尾懸垂試験(Tail suspension test;TST)を行い、うつ病様行動に対する抑制作用を検討した(図22参照)。
【0097】
具体的には、1日ないし2日間、鰹荒節熱水抽出物を経口投与したマウスの尾を固定し逆さの状態で吊るし、10分間観察したうち、マウスが無動状態の時間の長さを測定した。無動時間が長いとうつ状態が強く、無動時間が短いと抗うつ作用があると考えられている。
【0098】
その結果、鰹荒節熱水抽出物の経口投与期間の異なる2つの実験において、抗うつ作用にかかわる役割を果たしていることが明らかとなった。
【0099】
[実験17]
マウスが新奇性を好むという性質を利用して、図23に示す視覚的認知記憶を評価する手法である新奇物質探索試験を行い、鰹荒節熱水抽出物非投与群と投与群の2群間で新奇物質の認識記憶に対する影響を比較した。
【0100】
まずオブジェクト(対象となる物体)を設置しない実験装置(直径約50cmの円筒形の筒)にマウスを入れて10分間環境に慣らした後(Habituation)、2つの同じオブジェクトを置いた実験装置の中で10分間自由に探索をさせた(Training;訓練試行)。その後、一方のオブジェクトを新奇オブジェクトに置き換えて10分間自由に探索させた(Retention;保持試行)。マウスの動きは、設置したカメラで上から記録した。訓練試行および保持試行では,2つのオブジェクトに対するそれぞれの探索時間ならびに総探索時間を測定した。訓練試行時においては、総探索時間に対するいずれかのオブジェクトへの探索時間の割合(%)を、保持試行においては総探索時間に対する新奇オブジェクトに対する探索時間の割合(%)を探索嗜好性として算出し、後者を視覚的認知記憶の指標とした。
【0101】
その結果、10mg/mLの鰹荒節熱水抽出物非投与群と投与群で3日目の総移動距離に関してはほとんど差が認められなかったが、中央部分として定めた実験装置内のエリアにマウスが侵入した時間、滞在時間、中央部分においての移動距離においては、鰹荒節熱水抽出物投与群で有意な増加が認められた。さらに、鰹荒節熱水抽出物非投与群(コントロール;水)では新奇オブジェクトのほうが既知オブジェクトよりも探索行動を行うまでの時間(探索潜時)が長かったのに対して、鰹荒節熱水抽出物投与群では新奇オブジェクトと既知オブジェクトに対する探索潜時にほとんど差が無かった(図24参照)。
【0102】
これらのことから、鰹荒節熱水抽出物を摂取することにより、恐怖心が軽減されたためか、新奇と既知のオブジェクトに対して区別なく、探索する傾向にあることが明らかとなった。すなわち、鰹荒節熱水抽出物には新奇な物体に対する恐怖心を緩和するような作用があるのではないかと考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21
図22
図23
図24