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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】ロッカアームの支持機構
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/18 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
F01L1/18 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021170113
(22)【出願日】2021-10-18
(65)【公開番号】P2023060480
(43)【公開日】2023-04-28
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜野 貴司
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-112013(JP,A)
【文献】実開平02-063003(JP,U)
【文献】特開平05-288019(JP,A)
【文献】特開昭49-080443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00- 1/32
1/36- 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシリンダヘッドに組み付けられてロッカアームの揺動支点部を支持するロッカアームの支持機構であって、
筒状をなし第1貫通孔が形成された基部と、前記基部の一端を塞ぐように配されて前記揺動支点部を支持するとともに第2貫通孔が形成されたアーム支持部と、を有する支持機構本体と、
前記基部の内側に配されるOリングと、
前記基部の内側に圧入されて前記第1貫通孔よりも前記アーム支持部の反対側において前記基部の内周全体に亘って密着した状態で保持されるとともに前記Oリングを前記アーム支持部の反対側から支持するOリング支持部材と、を備え、
前記Oリングは、前記基部および前記Oリング支持部材に当接して前記第1貫通孔と前記基部の内部との間を塞いだ状態とする閉塞状態と、前記第1貫通孔から前記支持機構本体に向けて供給される潤滑油の油圧によりリング径方向の内側に変形して前記第1貫通孔と前記基部の内部とを連通した状態とする連通状態と、の間で変形可能とされているロッカアームの支持機構。
【請求項2】
前記Oリング支持部材は、前記基部の内周全体に亘って密着した状態で保持される被保持部と、前記被保持部のうち前記アーム支持部側に配される塞ぎ面の外周縁に沿って前記アーム支持部側に向けて環状に突出する突出部と、を備えており、
前記Oリングは、前記閉塞状態において、そのリング径方向における外周側が、前記突出部のうち当該突出部の環径方向における内周側に支持されている請求項1に記載のロッカアームの支持機構。
【請求項3】
前記基部は、その内側に、前記Oリング支持部材を周方向の全体に亘って密着した状態で保持する保持部と、前記保持部から前記アーム支持部側に向けて縮径する内側縮径部と、を備えており、
前記Oリングは、前記閉塞状態において、前記内側縮径部に当接している請求項1または請求項2に記載のロッカアームの支持機構。
【請求項4】
前記第1貫通孔は、前記アーム支持部側に配される孔縁部が前記内側縮径部に配されており、
前記Oリングは、前記閉塞状態において、前記第1貫通孔の前記アーム支持部側に配される孔縁部に当接している請求項3に記載のロッカアームの支持機構。
【請求項5】
前記基部は、その内側に、前記内側縮径部から前記アーム支持部側に向けて前記保持部より小さい内径で延びる内側小径部をさらに備えており、
前記第1貫通孔は、前記アーム支持部側に配される孔縁部が、前記内側縮径部と前記内側小径部との境界部に配されている請求項4に記載のロッカアームの支持機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、内燃機関の動弁装置における、ロッカアームの支持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の動弁装置は、カムの回転に伴って、ロッカアームを揺動させることでバルブを往復駆動する装置である。このような動弁装置として、シリンダヘッドに備えられるピボットによって、ロッカアームの揺動支点部が支持された装置が知られている。
【0003】
ピボットは、筒状の基部と、基部の一端から連なり、揺動支点部を支持する半球状の支承部とを備えており、シリンダヘッドに設けられたピボット取付穴の内部に、支承部を外部に突出させた状態で収容されている。シリンダヘッド内にはオイル供給路(オイルギャラリ)が設けられており、ピボットは、基部に設けられた横開口穴と、支承部に設けられた頂部開口穴とを有している。オイルギャラリからピボット取付穴の内部に供給された潤滑油は、横開口穴からピボットの内部に流入し、頂部開口穴から流出して、支承部における揺動支点部との摺接面に供給される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-32914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関の作動時は、オイルポンプの働きにより、オイルギャラリ内の潤滑油に圧力が加えられているため、潤滑油がピボットに安定して供給される。これに対し、内燃機関の停止時は、オイルポンプが停止し、ピボット内に新たな潤滑油が供給されない状態となる。このとき、ピボット取付穴やピボットの穴から潤滑油が流れ出し、オイルギャラリやピボット内の油量が低下することがある。また潤滑油の油温が下がり、オイル粘度が高くなる。このような状態で内燃機関を始動させた際には、充分な油圧がかかるまである程度の時間を要するため、ピボットにおけるロッカアームとの摺接面に潤滑油が到達するのに時間がかかり、焼き付き等の不具合が発生するおそれがあった。
【0006】
本明細書に開示する技術は上記事情に鑑みて完成されたものであって、内燃機関の停止時にロッカアームの揺動支点部を支持する支持機構内の潤滑油が流れ出すことを抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書によって開示される技術は、車両のシリンダヘッドに組み付けられてロッカアームの揺動支点部を支持するロッカアームの支持機構であって、筒状をなし第1貫通孔が形成された基部と、前記基部の一端を塞ぐように配されて前記揺動支点部を支持するとともに第2貫通孔が形成されたアーム支持部と、を有する支持機構本体と、前記基部の内側に配されるOリングと、前記基部の内側において前記第1貫通孔よりも前記アーム支持部の反対側に保持されるとともに前記Oリングを前記アーム支持部の反対側から支持するOリング支持部材と、を備え、前記Oリングは、前記基部および前記Oリング支持部材に当接して前記第1貫通孔と前記基部の内部との間を塞いだ状態とする閉塞状態と、前記第1貫通孔から前記支持機構本体に向けて供給される潤滑油の油圧によりリング径方向の内側に変形して前記第1貫通孔と前記基部の内部とを連通した状態とする連通状態と、の間で変形可能とされている。
【0008】
上記構成によれば、内燃機関が作動している際には、第1貫通孔から支持機構本体内に供給される潤滑油の油圧によりOリングがリング径方向の内側に変形し、第1貫通孔と基部の内部とを連通状態とするから、潤滑油を滞りなく支持機構本体内に供給可能であり、もって、潤滑油を第2貫通孔からアーム支持部と揺動支点部との間に供給することができる。一方、内燃機関の停止によりオイルポンプが停止し、第1貫通孔から支持機構本体内に新たな潤滑油が供給されない場合には、Oリングは弾性復帰してリング周方向の全体に亘って基部およびOリング支持部材に当接し、第1貫通孔と基部の内部との間を閉塞状態とするから、支持機構本体内の潤滑油が第1貫通孔から流れ出ることを抑制できる。したがって、内燃機関を始動させた際に、油圧がかかるまで時間を要したり、第2貫通孔まで潤滑油が到達するのに時間を要することが回避されるとともに、焼き付き等の不具合が発生することも抑制できる。
【0009】
前記Oリング支持部材は、前記基部の内周全体に亘って密着した状態で保持される被保持部と、前記被保持部のうち前記アーム支持部側に配される塞ぎ面の外周縁に沿って前記アーム支持部側に向けて環状に突出する突出部と、を備えており、前記Oリングは、前記閉塞状態において、そのリング径方向における外周側が、前記突出部のうち当該突出部の環径方向における内周側に支持されていてもよい。
【0010】
上記構成によれば、OリングはOリング支持部材に対して突出部の内側に位置決めされるから、Oリングを支持機構本体内に正規の姿勢で挿入し易くなる。
【0011】
前記基部は、その内側に、前記Oリング支持部材を周方向の全体に亘って密着した状態で保持する保持部と、前記保持部から前記アーム支持部側に向けて縮径する内側縮径部と、をえており、前記Oリングは、前記閉塞状態において、前記内側縮径部に当接していてもよい。
【0012】
上記構成によれば、Oリングは、リング径方向における外周面が内側縮径部に当接することにより、アーム支持部側への位置ずれが規制される。
【0013】
前記第1貫通孔は、前記アーム支持部側に配される孔縁部が前記内側縮径部に配されており、前記Oリングは、前記閉塞状態において、前記第1貫通孔の前記アーム支持部側に配される孔縁部に当接していてもよい。
【0014】
上記構成によれば、Oリングは閉塞状態において内側縮径部と第1貫通孔との境界部に形成されて基部の内側に向けて突出する角部に当接するから、Oリングが内側縮径部の湾曲状の内周面に当接する構成と比較して、第1貫通孔と基部の内部との間をOリングによってより確実に閉塞することができる。つまり、潤滑油漏れが起き難い。
【0015】
前記基部は、その内側に、前記内側縮径部から前記アーム支持部側に向けて前記保持部より小さい内径で延びる内側小径部をさらに備えており、前記第1貫通孔は、前記アーム支持部側に配される孔縁部が、前記内側縮径部と前記内側小径部との境界部に配されていてもよい。
【0016】
上記構成によれば、基部の内周面(内側小径部)と第1貫通孔との境界部に形成されて基部の内側に向けて突出する角部の角度が、内側小径部が設けられない構成と比較してより小さくなるから、角部がよりOリングに食い込み易く、潤滑油漏れが起き難い。
【発明の効果】
【0017】
本明細書によって開示されるロッカアームの支持機構によれば、内燃機関の停止時に支持機構内の潤滑油が流れ出すことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態の動弁装置の全体概略図
図2】ピボットの分解断面図
図3】ピボットの断面図
図4図3の一部拡大断面図(Oリングが閉塞状態)
図5図4の要部拡大断面図
図6】ピボットの一部拡大断面図(Oリングが連通状態)
図7】他の実施形態のピボットの要部拡大断面図
図8】他の実施形態のピボットの要部拡大断面図
図9】他の実施形態のピボットの要部拡大断面図
図10】他の実施形態のピボットの要部拡大断面図
図11】他の実施形態のピボットの要部拡大断面図
図12】他の実施形態のピボットの要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
一実施形態を、図1から図6を参照しつつ説明する。本実施形態のロッカアームの支持機構は、車両のエンジン(内燃機関の一例)の動弁装置20に備えられるピボット50である。なお、以下の説明においては、図1における上側を上方とし、下側を下方とする。
【0020】
シリンダヘッド1は、図1に示すように、吸気ポート3を開閉する吸気バルブ10と、排気ポートを開閉する排気バルブ(図示せず)とを備えている。以下、吸気バルブ10及びこの吸気バルブ10を開閉する吸気側の動弁装置20について、詳細に説明する。排気バルブ及び排気バルブ側の動弁装置は、吸気側と同様の構成を備えているため、説明を省略する。
【0021】
吸気バルブ10は、円板状の弁部材11と、この弁部材11の上面から上方に延びる丸棒状のバルブステム12とを備えている。弁部材11は、シリンダヘッド1に設けられているシリンダ(図示せず)の内部空間と連通する吸気通路2に配され、シリンダと吸気通路2とを連通する吸気ポート3の開閉を行う。
【0022】
バルブステム12は、吸気通路2の外壁を貫通しており、弁部材11側とは反対側の端部が外側(図1の上側)に突出している。バルブステム12の上端よりもやや下方(弁部材11寄りの位置)には、円板状のばね押さえ部13が配置されている。シリンダヘッド1の外面とばね押さえ部13との間には、バルブスプリング14が圧縮状態で組み込まれている。このバルブスプリング14の弾性力によって、吸気バルブ10は、常にはバルブステム12に向かって(図1の上方に向かって、すなわち、弁部材11が吸気ポート3を閉塞するように)付勢されている。
【0023】
動弁装置20は、シリンダヘッド1に組み付けられて、吸気バルブ10の開閉を行う機構である。動弁装置20は、カムシャフト30に組み付けられたカム31と、カム31の回転に従って揺動し、カム31の回転運動を上下運動に変換して吸気バルブ10に伝達するロッカアーム40と、ロッカアーム40の揺動支点を支持するピボット50とを備えている。
【0024】
カムシャフト30は、中空の丸棒であって、バルブステム12の先端からやや離れた位置に、バルブステム12に対して垂直に配置され、支持部材(図示せず)によってシリンダヘッド1に固定されている。
【0025】
カム31は、略卵型の輪郭を有する板カムであって、カムシャフト30を挿通するためのシャフト孔32を有している。カム31は、シャフト孔32にカムシャフト30が挿通されることにより、カムシャフト30に固定され、カムシャフト30とともに回転される。カム31は、回転中心(シャフト孔32の中心)から外周面までの距離が一定である円形のベース円部33と、回転中心から外周面までの距離がベース円部33よりも大きなカムノーズ部34とを有している。
【0026】
ロッカアーム40は、全体として細長い部材であり、カムシャフト30とバルブステム12との間に、カムシャフト30と垂直に配されている。ロッカアーム40は、ローラ47と、ローラ47を回転可能に保持するアーム本体41とを備えている。アーム本体41の一端部は、ピボット50に揺動可能に支持される揺動支点部42であり、アーム本体41の他端部は、シム15を介して吸気バルブ10に当接するバルブ当接部44である。シム15は、略円板状であり、バルブステム12の上端とバルブ当接部44との間に配置されている。シム15は、カムクリアランスを調整するためのものであり、厚さの異なる複数のシムのなかから適切なものを選び、取り付けることで、カムクリアランスを調整することができる。
【0027】
揺動支点部42は、球状凹部43を有している。球状凹部43は、揺動支点部42の表面(図1の下面)から半球状に凹む凹部である。
【0028】
アーム本体41は、揺動支点部42とバルブ当接部44とを繋ぐ2つの側壁部45を有している(図1は断面図であるため、一方の側壁部45のみが図示されている)。各側壁部45は、カムシャフト30に対して垂直な向きで配される壁である。2つの側壁部45は、互いに間隔を空けて、平行に配置されている。2つの側壁部45の間には、支持軸46が渡されている。支持軸46には、ニードルベアリングなどの軸受48を介してローラ47が回転自在に装着されている。ローラ47は、その一部が、側壁部45から上側に突出している。この突出部分の外周面は、カム31の外周面に当接している。
【0029】
ピボット50は、ピボット本体(支持機構本体の一例)51と、Oリング70と、Oリング支持部材71と、を備えている。
【0030】
ピボット本体51は金属製であって、例えばSCM415などのクロムモリブデン鋼や、S15Cなどの炭素鋼により構成されている。このピボット本体51は、全体として、下端が開口する開口部51Aとされ、上端(一端の一例)が閉塞された略円筒状をなしている。具体的には、ピボット本体51は、図2に示すように、円筒状の基部52と、この基部52から連なり基部52の上端を閉塞するアーム支持部56とを備えている。
【0031】
円筒状の基部52の外形は、下方(開口部51A側)から順に、外側大径部53と、この外側大径部53の上端に連なり、外側大径部53から離れるにつれて外径が縮小する短い外側縮径部54と、外側縮径部54の上端に連なり、外側大径部53よりも外径が小さな短い外側小径部55とを備えている。外側大径部53、外側縮径部54、および外側小径部55は、同軸に配置されている。アーム支持部56は、外側小径部55の上端(開口部51Aとは反対側の端部)を塞ぐように配され、球状凹部43の内部に嵌まり込んで揺動支点部42を支える半球状の部分である。
【0032】
外側大径部53には、その延び方向(上下方向)における略中央部の外周を周回するように、潤滑油を流通させるための環状のオイル溝57が形成されている。このオイル溝57の底部には、ピボット本体51の内部空間と外部空間とを連通する第1貫通孔58が設けられている。また、アーム支持部56の中央部には、同じくピボット本体51の内部空間と外部空間とを連通する第2貫通孔59が上下方向に貫通して設けられている。
【0033】
本実施形態において、円筒状とされた外側大径部53の内部空間は、その延び方向(上下方向)において内径が異なっている。具体的には、外側大径部53の内側は、図2に示すように、下方から順に、内側大径部61と、この内側大径部61の上端から段差状とされた段差部62を介して連なり、内側大径部61より内径が小さい保持部63と、この保持部63の上端に連なり、保持部63から離れるにつれて内径が縮小する短い内側縮径部64と、この内側縮径部64の上端に連なり、保持部63より内径が小さい内側小径部65と、を備えている。内側大径部61、段差部62、保持部63、内側縮径部64、内側小径部65は、同軸に配置されている。
【0034】
上述したオイル溝57は、内側小径部65から保持部63に跨る領域の外周面に形成されている。また、上述した第1貫通孔58は、その孔縁部の上端が、内側縮径部64と内側小径部65との境界部に位置している。すなわち、第1貫通孔58の上端は、内側縮径部64および内側小径部65の面同士が交差して基部52の内周側に向けて突出する角部(以下境界角部66とする)と一致している。また、第1貫通孔58の下端は、保持部63に位置している。
【0035】
ピボット本体51の内部には、Oリング70およびOリング支持部材71が収容されている。Oリング支持部材71は、円柱状の圧入部(被保持部の一例)72と、圧入部72の上面(塞ぎ面の一例)73の外周縁に沿って上方に向けて突出する環状の突出部74と、を備えている。圧入部72は、その外径がピボット本体51の保持部63の内径と同等あるいは僅かに小さい寸法とされており、保持部63内に圧入可能とされている。Oリング支持部材71は、ピボット本体51の基部52(保持部63)に圧入された状態において、圧入部72の外周面のうち上方部分が保持部63の内周面全体に亘って密着し、基部52を開口部51A側から塞いだ状態とする(図3参照)。
【0036】
突出部74は、その線幅方向の断面が略台形状とされている。具体的には、突出部74は、図5に示すように、圧入部72の上面73の外周縁から内側に向けて斜めに立ち上がる外側傾斜部75と、上面73のうち外周縁に隣接した位置から外周側に向けて斜めに立ち上がる内側傾斜部76と、外側傾斜部75および内側傾斜部76を繋ぐ平坦な平坦部77と、を備えた断面略台形状とされている。内側傾斜部76と平坦部77との境界は、それぞれの面同士が交差して基部52の内周側に向けて突出する角部(以下内側角部78とする)とされている。外側傾斜部75と平坦部77との境界は、面取りされた湾曲状をなしている。
【0037】
Oリング70は、ゴム、樹脂等の弾性材料が環状に形成されたものからなり、平面視した際、全体的には正円状をなしている。Oリング70は、その線幅方向の断面が円形状(正円状)をなしている。自然状態のOリング70のリング外径は、圧入部72の上面73の直径とほぼ同等とされている。Oリング70がOリング支持部材71の上に載置された自然状態において、Oリング70は、そのリング径方向における外周の一部が突出部74の内側角部78により斜め下方から支持されて、突出部74の環径方向における内周側に位置決めされている。換言すると、突出部74は、Oリング70がOリング支持部材71の上に載置された状態において、Oリング70の外周面を斜め下方から支持可能な位置および角度に設定されている。なお、Oリング70は、突出部74によりOリング支持部材71上に位置決めされた状態において、その下端が圧入部72の上面73からやや離れて配されている(図5参照)。
【0038】
Oリング70およびOリング支持部材71は、ピボット本体51の開口部51Aから基部52の内部に挿入され、ピボット本体51の所定位置に配置される。本実施形態において、Oリング支持部材71の延び方向(上下方向)の寸法、すなわち、突出部74の平坦部77から圧入部72の下端までの寸法は、ピボット本体51の第1貫通孔58の下端から基部52の下端までの寸法と同等とされている。つまり、Oリング支持部材71がピボット本体51の所定位置に配置された状態において、突出部74の平坦部77と第1貫通孔58の孔縁部の下端とはほぼ同じ高さに配置され、基部52の下端と圧入部72の下端は同一高さに配置される(図3参照)。
【0039】
またOリング支持部材71がピボット本体51の所定位置に配置された状態において、Oリング支持部材71上に位置決めされているOリング70は、その外周面の一部が第1貫通孔58の孔縁部の上端、すなわち、上述した境界角部66に当接する径(線幅)に設定されている(図3から図5参照)。
【0040】
つまり、Oリング支持部材71がピボット本体51の所定位置に配置された状態において、Oリング70は、その外周面がリング周方向の全体に亘って境界角部66と内側角部78とに当接しており、これにより、第1貫通孔58とピボット本体51の内部空間との間を塞ぐ閉塞状態としている。なお、本実施形態における閉塞とは、第1貫通孔58の孔縁部全体がOリング70の外周面と接触している状態に限らず、Oリング70が、第1貫通孔58と基部52の内部空間との間での潤滑油の流出入を防ぐ状態(シールする状態)を含むこととする。
【0041】
図1に示すように、シリンダヘッド1は、ピボット50を収容するピボット装着穴4を有している。ピボット50は、外側大径部53がピボット装着穴4の内部に収容され、残りの部分がピボット装着穴4の外に突出している。また、シリンダヘッド1は、潤滑油が流れるオイル供給路(オイルギャラリ5)を有している。
【0042】
内燃機関の作動時には、カム31の回転に従って、ロッカアーム40が、揺動支点部42を支点として揺動する。この揺動にともなってバルブステム12が往復運動することにより、吸気バルブ10が開閉される。
【0043】
このとき、内燃機関が備えるオイルポンプが作動し、オイルギャラリ5内に潤滑油が圧送される。オイルギャラリ5内を流れる潤滑油の一部は、第1貫通孔58を通って、その油圧によりOリング70の一部をリング径方向の内側に変形させる(連通状態、図6参照)。この時、Oリング70は自然状態のおいてその下端がOリング支持部材71の圧入部72の上面73から離れて配されているから、上下方向に撓みつつ変形可能である。そして、潤滑油はOリング70の変形により第1貫通孔58とOリング70との間に生じた隙間からピボット本体51の内部に流れ込み、基部52およびアーム支持部56の内部空間を通って第2貫通孔59から溢れ出て、アーム支持部56の外周面(揺動支点部42との摺接面)に供給される。内燃機関の作動時には、オイルポンプの働きにより、オイルギャラリ5内の潤滑油に圧力が加えられているため、潤滑油が、ピボット50の内部に安定して供給され、アーム支持部56における揺動支点部42との摺接面にも安定して供給される。なお、Oリング70の硬さや寸法をチューニングすることで、油圧に対するOリング70の変形量(潤滑油の流量)をコントロールすることが可能である。
【0044】
一方、内燃機関の停止時は、オイルポンプが停止し、Oリング70が弾性復帰して第1貫通孔58を塞ぎ(閉塞状態、図4参照)、ピボット50内に新たな潤滑油が供給されないシールされた状態となる。また、第1貫通孔58が閉塞状態とされることにより、ピボット本体51内に充填されている潤滑油は流れ出さずに、ピボット本体51内に留まる。したがって、内燃機関を始動させた際に、油圧がかかるまで時間を要したり、第2貫通孔59(揺動支点部42)まで潤滑油が到達するのに時間を要することが回避されるとともに、焼き付き等の不具合が発生することも抑制できる。
【0045】
本実施形態のロッカアームの支持機構は上述した通りであって、次に、作用効果について説明する。本実施形態のロッカアームの支持機構は、車両のシリンダヘッド1に組み付けられてロッカアーム40の揺動支点部42を支持する機構であって、筒状をなし第1貫通孔58が形成された基部52と、基部52の一端を塞ぐように配されて揺動支点部42を支持するとともに第2貫通孔59が形成されたアーム支持部56と、を有するピボット本体51と、基部52の内側に配されるOリング70と、基部52の内側において第1貫通孔58よりもアーム支持部56の反対側に保持されるとともにOリング70をアーム支持部56の反対側から支持するOリング支持部材71と、を備え、Oリング70は、基部52およびOリング支持部材71に当接して第1貫通孔58と基部52の内部との間を塞いだ状態とする閉塞状態と、第1貫通孔58からピボット本体51に向けて供給される潤滑油の油圧によりリング径方向の内側に変形して第1貫通孔58と基部52の内部とを連通した状態とする連通状態と、の間で変形可能とされている。
【0046】
上記構成によれば、内燃機関が作動している際には、第1貫通孔58からピボット本体51内に供給される潤滑油の油圧によりOリング70がリング径方向の内側に変形し、第1貫通孔58と基部52の内部とを連通状態とするから、潤滑油を滞りなくピボット本体51内に供給可能であり、もって、潤滑油を第2貫通孔59からアーム支持部56と揺動支点部42との間に供給することができる。一方、内燃機関の停止によりオイルポンプが停止し、第1貫通孔58からピボット本体51内に新たな潤滑油が供給されない場合には、Oリング70は弾性復帰してリング周方向の全体に亘って基部52およびOリング支持部材71に当接し、第1貫通孔58と基部52の内部との間を閉塞状態とするから、ピボット本体51内の潤滑油が第1貫通孔58から流れ出ることを抑制できる。したがって、内燃機関を始動させた際に、油圧がかかるまで時間を要したり、第2貫通孔59まで潤滑油が到達するのに時間を要することが回避されるとともに、焼き付き等の不具合が発生することも抑制できる。
【0047】
Oリング支持部材71は、基部52の内周全体に亘って密着した状態で保持される圧入部72と、圧入部72のうちアーム支持部56側に配される上面73の外周縁に沿ってアーム支持部56側に向けて環状に突出する突出部74と、を備えており、Oリング70は、閉塞状態において、そのリング径方向における外周側が、突出部74のうち当該突出部74の環径方向における内周側の内側傾斜部76に支持されている。
【0048】
上記構成によれば、Oリング70はOリング支持部材71に対して突出部74の内側に位置決めされるから、Oリング70をピボット本体51内に正規の姿勢で挿入し易くなる。
【0049】
基部52は、その内側に、Oリング支持部材71を周方向の全体に亘って密着した状態で保持する保持部63と、保持部63からアーム支持部56側に向けて縮径する内側縮径部64と、をえており、Oリング70は、閉塞状態において、内側縮径部64に当接している。
【0050】
上記構成によれば、Oリング70は、リング径方向における外周面が内側縮径部64に当接することにより、アーム支持部56側への位置ずれが規制される。
【0051】
第1貫通孔58は、アーム支持部56側に配される孔縁部が内側縮径部64に配されており、Oリング70は、閉塞状態において、第1貫通孔58のアーム支持部56側に配される孔縁部に当接している。
【0052】
上記構成によれば、Oリング70は閉塞状態において基部52の内周面(内側縮径部64)と第1貫通孔58との境界部に形成されて基部52の内側に向けて突出する境界角部66に当接するから、Oリング70が内側縮径部64の湾曲状の内周面に当接する構成と比較して、第1貫通孔58と基部52の内部との間をOリング70によってより確実に閉塞することができる。つまり、潤滑油漏れが起き難い。
【0053】
基部52は、その内側に、内側縮径部64からアーム支持部56側に向けて保持部63より小さい内径で延びる内側小径部65をさらに備えており、第1貫通孔58は、アーム支持部56側に配される孔縁部が、内側縮径部64と内側小径部65との境界部に配されている。
【0054】
上記構成によれば、基部52の内周面(内側小径部65)と第1貫通孔58との境界部に形成されて基部52の内側に向けて突出する境界角部66の角度が、内側小径部65が設けられない構成と比較してより小さくなるから、境界角部66がよりOリング70に食い込み易く、潤滑油漏れが起き難い。
【0055】
<他の実施形態>
本明細書によって開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。
【0056】
(1)上記実施形態では、Oリング支持部材71の圧入部72の上面73に環状の突出部74を設ける構成を示したが、例えば図7および図8に示すように、突出部は省略することもできる。この場合、第1貫通孔58,158の下端は、Oリング70の下端とOリング支持部材171の圧入部172の上面173との当接部分により閉塞することができる。
【0057】
(2)図10および図11に示すように、突出部274,374は、圧入部272,372の上面273,373の外周縁から内周側に離れた位置から立ち上がる構成としてもよい。
【0058】
(3)上記実施形態では、第1貫通孔58の上端は、内側縮径部64と内側小径部65との境界部に位置する構成とし、境界角部66がOリング70の外周と当接することにより第1貫通孔58の上端が閉塞される構成としたが、例えば図8から図10に示すように、第1貫通孔158,258の上端が内側縮径部164,264に位置する構成としてもよい。またこの場合、Oリング70の外周は、図8および図9に示すように、第1貫通孔158,258と内側縮径部164,264との間の角部に当接する構成としてもよく、図10に示すように、内側縮径部264の湾曲面に当接する構成としてもよい。
【0059】
(4)上記実施形態では、第1貫通孔58の上端が内側縮径部64と内側小径部65との境界部に位置し、下端が保持部63に位置する構成としたが、第1貫通孔258,358は、図9から図11に示すように、全体が内側縮径部264,364に位置する構成としたり、図12に示すように、全体が保持部463に位置する構成としてもよい。
【0060】
(5)また、第1貫通孔358全体が内側縮径部に位置する構成とした場合には、図11に示すように、第1貫通孔358の孔縁部の上端および下端の双方がOリング90により塞がれる構成としてもよい。
【0061】
(6)上記実施形態では、Oリング70のリング径方向における外径がOリング支持部材71の上面73の外径と同等とされた構成を示したが、Oリング80,90は、図10および図11に示すように、Oリング支持部材271,371の圧入部272,372の上面273,373の外径より小さい径とされてもよい。
【0062】
(7)上記実施形態では、Oリング70が突出部74により支持され、Oリング70の下面はOリング支持部材71の圧入部72の上面73から離れて配される構成を示したが、Oリング70は、図9に示すように、突出部74により支持された状態でその下面がOリング支持部材71の圧入部72の上面73に当接する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1:シリンダヘッド、20:動弁装置、40:ロッカアーム、42:揺動支点部、50:ピボット(支持機構)、51:ピボット本体(支持機構本体)、52:基部、56:アーム支持部、58,158,258,358,458:第1貫通孔、59:第2貫通孔、63,163,263,363,463:保持部、64,164,264,364、464:内側縮径部、65:内側小径部、66:境界角部、70,80,90:Oリング、71,171,271,371:Oリング支持部材、72,172,272,372:圧入部(被保持部)、73,173、273,373:上面(塞ぎ面)、74,274,374:突出部
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
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図10
図11
図12