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  • -エリスロポエチン産生促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】エリスロポエチン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20250310BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P7/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024095347
(22)【出願日】2024-06-12
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】524223965
【氏名又は名称】サジーベリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】楊 建標
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 守恒
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第116850223(CN,A)
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry,2011年,59,p.1697-1704
【文献】Chemico-Biological Interactions,2023年,382,110609
【文献】Light Cissus Diet Supplement ,ID 10634676,Mintel GNPD[online],2023年3月,[検索日2024.08.07],https://www.portal.mintel.com
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/40- 5/49
A23L31/00-33/29
A61K31/352
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDremIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を有効成分として含有するエリスロポエチン産生促進剤であり、経口用組成物であるエリスロポエチン産生促進剤(ただし、オウギを含む組成物および/またはオウギ水抽出物を含む組成物を除く)。
【請求項2】
成人ヒト1人の1日当たりの摂取量として、前記イソラムネチンの量と前記イソラムネチン配糖体をイソラムネチンアグリコンに換算した量との合計が、1μg~10000μgとなるようにイソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を含有する、請求項1に記載のエリスロポエチン産生促進剤。
【請求項3】
前記イソラムネチン配糖体が、イソラムネチン-3-O-ルチノシド、イソラムネチン-3-O-グルコシド-7-O-ラムノシド、イソラムネチン-3-O-グルコシド、イソラムネチン-3-O-ルチノシド-7-O-グルコシド、およびイソラムネチン-3-O-ルチノシド-4’-O-グルコシドからなる群から選択される1以上である、請求項1または2に記載のエリスロポエチン産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスロポエチン産生促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エリスロポエチン(EPO)は、赤血球系幹細胞(前駆細胞)に対して分化誘導を刺激し、赤血球産生を促進する糖蛋白ホルモンである。その産生は主として腎臓で行なわれ、動脈血中の酸素分圧に応じて調節されている。エリスロポエチンの投与は、腎性貧血の治療や、疲労感の改善、運動持久力の向上などが期待でき、遺伝子組み換え型の人工エリスロポエチンやエリスロポエチン類似化合物などのエリスロポエチン製剤が知られている。また、体内でエリスロポエチンの産生を促進する化合物や菌体も提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-132561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新たなエリスロポエチン産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を有効成分として含有するエリスロポエチン産生促進剤。
<2> 経口用組成物である、前記<1>に記載のエリスロポエチン産生促進剤。
<3> 成人ヒト1人の1日当たりの摂取量として、前記イソラムネチンの量と前記イソラムネチン配糖体をイソラムネチンアグリコンに換算した量との合計が、0.01μg~10000μgとなるようにイソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を含有する、前記<1>または<2>に記載のエリスロポエチン産生促進剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新たなエリスロポエチン産生促進剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】イソラムネチン添加による細胞あたりのEPO産生量(%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0009】
<エリスロポエチン産生促進剤>
本発明は、イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を有効成分として含有するエリスロポエチン産生促進剤(以下、「本発明のEPO産生促進剤」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0010】
イソラムネチンは、O-メチル化フラボノールに分類される化合物である。イソラムネチン配糖体は、グルコースやラムノース等の糖がイソラムネチンに結合した化合物であり、代謝によってイソラムネチンアグリコン(イソラムネチン)に変換される化合物である。イソラムネチン配糖体としては、具体的には、ナルシシン(イソラムネチン-3-O-ルチノシド)、イソラムネチン-3-O-グルコシド-7-O-ラムノシド、イソラムネチン-3-O-グルコシド、イソラムネチン-3-O-ルチノシド-7-O-グルコシド、イソラムネチン-3-O-ルチノシド-4’-O-グルコシドなどが挙げられる。イソラムネチン配糖体は、1種が配合されていても、2種以上が配合されていてもよい。
【0011】
本発明のEPO産生促進剤がイソラムネチンを含有する場合、含まれるイソラムネチンによってエリスロポエチンの産生を促進することができる。また、本発明のEPO産生促進剤がイソラムネチン配糖体を含有する場合、含まれるイソラムネチン配糖体が生体内で代謝されてイソラムネチンアグリコン(イソラムネチン)が生成し、生成したイソラムネチンアグリコンによってエリスロポエチンの産生を促進することができる。イソラムネチンアグリコンは、イソラムネチン配糖体から糖が脱離したものであり、その構造は、イソラムネチンと同じである。よって、本発明のEPO産生促進剤は、イソラムネチン、および/または、イソラムネチン配糖体から生成されたイソラムネチンアグリコン(イソラムネチン)によってエリスロポエチンの産生を促進するために用いられる。
【0012】
(経口組成物)
本発明のEPO産生促進剤は、食品組成物や医薬組成物として使用することができ、経口組成物の態様とすることが好ましい。すなわち、本発明のEPO産生促進剤は、イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を有効成分として含有するエリスロポエチンの産生を促進するための食品組成物や、イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を有効成分として含有するエリスロポエチンの産生を促進するための経口医薬組成物とすることが好ましい。
【0013】
(食品組成物)
本発明のEPO産生促進剤は、食品組成物とすることが好ましい。食品組成物とすることで、日常的に長期的に摂取することが容易である。食品組成物とする場合、その態様としては、イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体そのものを食品組成物に配合した組成物や、イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を含有する植物(全体または器官)を加工した加工物(例えば、粉砕物、破砕物、搾汁、ピューレ、エキス(抽出物)、乾燥物など)、これらの加工物を食品組成物に配合した組成物等が挙げられる。この食品組成物は、一般の食品だけでなく、特別用途食品、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等、健康の維持・増進の目的で摂取する食品および/または飲料も含む。この中でも保健機能食品である特定保健用食品や機能性表示食品、栄養機能食品が好ましい態様である。
【0014】
食品組成物の形状は特に限定されず、固体状、液体状、半固体状、ゲル状、ゾル状等のいずれの形状であってもよい。食品、飲料は特に限定されるものではなく、例えば、食品としては、ソーセージ、ハム、魚介加工品、ゼリー、キャンディー、チューインガムなどの食品類が挙げられる。飲料としては、各種の果汁飲料、茶類、清涼飲料水、酒類、栄養ドリンクなどが挙げられる。また、食品組成物には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、香料、甘味料などの添加剤を配合してもよい。
【0015】
(医薬組成物)
本発明のEPO産生促進剤は、医薬組成物とすることができる。この医薬組成物は、医薬品または医薬部外品のいずれも含むものである。医薬組成物とするとき、本発明のEPO産生促進剤は、基本的に、イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体やこれらを含む材料と、薬学的に許容される担体とを含有する。その態様としては、イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体そのものを医薬組成物に配合した組成物や、イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を含有する植物(全体または器官)を加工した加工物(例えば、粉砕物、破砕物、搾汁、ピューレ、エキス(抽出物)、乾燥物など)、これらの加工物を医薬組成物に配合した組成物等が挙げられる。
【0016】
医薬組成物の剤形は、特に限定されず、固体製剤であっても液体製剤であってもよい。具体的には、例えば、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。薬学的に許容される担体としては、例えば、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝材、増粘剤、着色剤、分散剤、乳化剤、懸濁化剤、防腐剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤等が挙げられる。
【0017】
本発明のEPO産生促進剤における、イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体の含有量は、イソラムネチンの量とイソラムネチン配糖体をイソラムネチンアグリコンに換算した量との合計が、成人ヒト1人の1日当たりの目的の摂取量となるように、摂取方法等に応じて設計される。例えば、本発明のEPO産生促進剤は、成人ヒト1人の1日当たりの摂取量として、イソラムネチンの量とイソラムネチン配糖体をイソラムネチンアグリコンに換算した量との合計が、0.01μg~10000μgや、0.1μg~9500μg、1μg~9000μg、10μg~8000μg、100μg~7000μg、1000μg~6000μg、1500μg~5000μgとなるようにイソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を含有することが好ましい。なお、本発明のEPO産生促進剤がイソラムネチンのみを含む場合は、「イソラムネチンの量とイソラムネチン配糖体をイソラムネチンアグリコンに換算した量との合計」は、イソラムネチンの量と同じであり、本発明のEPO産生促進剤がイソラムネチン配糖体のみを含む場合は、「イソラムネチンの量とイソラムネチン配糖体をイソラムネチンアグリコンに換算した量との合計」は、イソラムネチン配糖体をイソラムネチンアグリコンに換算した量と同じである。上記の通り、イソラムネチンアグリコンは、イソラムネチン配糖体から糖が脱離した形態であるため、イソラムネチン配糖体をイソラムネチンアグリコンに換算した量は、イソラムネチン配糖体の量およびその構造から算出することができる。2種以上のイソラムネチン配糖体を含有する場合、イソラムネチンアグリコンの量は、各イソラムネチン配糖体をイソラムネチンアグリコンに換算した量の合計である。
【0018】
本発明のEPO産生促進剤は、前記摂取量となるように、1日1回で摂取してもよいし、1日複数回(例えば、2~4回)に分けて摂取してもよい。1日当たりの摂取量とは、1日で摂取または投与される量の総量を意味し、1日複数回にわけて摂取する場合、これらの合計量となる。また、本発明のEPO産生促進剤は、継続的に摂取するものとでき、数日~数週間、数か月間にわたり継続して摂取することができる。
【0019】
本発明のEPO産生促進剤の使用対象は、ヒトに限定されず、イヌやネコなどヒト以外の動物を対象としてもよい。そのため、本発明のEPO産生促進剤は、ペットフード等の動物用食品組成物や動物用医薬組成物としてもよい。具体的には、イソラムネチンやイソラムネチン配糖体そのものを動物用食品組成物や動物用医薬組成物に配合したものや、イソラムネチンやイソラムネチン配糖体を含有する植物(全体または器官)を加工した加工物(例えば、粉砕物、破砕物、圧搾物、抽出物など)、これらの加工物を動物用食品組成物や動物用医薬組成物に配合したもの等の態様とすることができる。
【実施例
【0020】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
EPO濃度の測定は、生体内での赤血球造血の状態を把握するうえで有用な検査である。イソラムネチンを添加し、培養上清中のEPO濃度を測定することで、イソラムネチンが造血作用を有するか評価した。
【0022】
<実験方法>
・細胞培養
ヒト肝癌由来細胞株(HepG2細胞)は、Eagle’s minimal essential Medium(EMEM)(含1%ペニシリン-ストレプトマイシンおよび10%ウシ胎児血清(FBS))を用いて、コンフルエントになるまでφ10cmディッシュにて前培養した。その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、培地に再懸濁後、96穴プレートに0.5×105cells/wellの濃度で播種しCO2インキュベーター(37℃,5%CO2)でオーバーナイト培養した。
【0023】
・評価サンプル添加
イソラムネチン(Isorhamnetin,EXTRASYNTHESE,1120 S)をDMSO(Dimethyl Sulfoxide,富士フイルム和光純薬株式会社,043-07216))に溶解し、これを無血清のEMEM(含1%ペニシリン-ストレプトマイシン)に添加し、イソラムネチンをそれぞれ図1に記載の濃度で含む無血清のEMEMを調製した。
HepG2細胞播種から24時間後、調製したイソラムネチンを含む無血清のEMEM(含1%ペニシリン-ストレプトマイシン)を、それぞれ、各ウェルに100μLずつ加え、CO2インキュベーター(37℃,5%CO2)で24時間培養した。
コントロールには、DMSOを無血清のEMEM(含1%ペニシリン-ストレプトマイシン)に添加したものを用いた。
【0024】
・ELISA法によるEPO産生量の評価
評価サンプル(イソラムネチンまたはDMSO)添加24時間後のHepG2細胞培養上清を回収した。Enzyme Linked Immunosorbent Assay(ELISA) kit for Erythropoietin(EPO)(Cloud Clone Crop.)のプロトコルにしたがってHepG2細胞の培養上清におけるEPO産生量を算出した。
【0025】
・MTT法による細胞生存率の測定
評価サンプル添加24時間後に培養上清を回収した後、96穴プレートの各ウェルにサンプルを含まないEMEM(含1%ペニシリン-ストレプトマイシン)を100μL加えた。次いで、各ウェルにMTT染色液(5mg/mL in PBS)を20μL添加し、CO2インキュベーターにて4時間静置培養した。培地を除去し、各ウェルに塩酸-イソプロパノール溶液を100μLずつ加え、ピペッティングにてホルマザンを完全に溶解させた。マイクロプレートリーダーで570nmにおける吸光度を測定し、細胞生存率を算出した。
【0026】
イソラムネチンをHepG2細胞へ添加し、細胞上清におけるエリスロポエチン(EPO)産生量を測定した結果を解析した。図1にイソラムネチン添加による細胞あたりのEPO産生量(%)を示す。図1に示すように、イソラムネチン添加による細胞あたりのEPO産出量(%)はコントロール(DMSO)より増加した。さらに、イソラムネチン(0.1および1μg/mL処理区)添加により、コントロール(DMSO)と比較して有意なEPO産生促進が認められた。
【要約】
【課題】新たなエリスロポエチン産生促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】イソラムネチンおよび/またはイソラムネチン配糖体を有効成分として含有するエリスロポエチン産生促進剤。
【選択図】 図1
図1