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7646260携帯型空調装置、携帯型空調装置の性能評価方法、防護服
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】携帯型空調装置、携帯型空調装置の性能評価方法、防護服
(51)【国際特許分類】
   F25B 21/02 20060101AFI20250310BHJP
   A41D 13/005 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
F25B21/02 L
A41D13/005 103
F25B21/02 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024116582
(22)【出願日】2024-07-19
【審査請求日】2024-07-26
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】524275218
【氏名又は名称】王 子洋
(74)【代理人】
【識別番号】100211719
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 和真
(72)【発明者】
【氏名】王 子洋
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-057131(JP,U)
【文献】国際公開第2016/111359(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/047382(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00-49/04
F24F 1/00-13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給電力に応じて温度差を生じさせる熱電素子による冷却において水の蒸発潜熱を利用する携帯型空調装置であって、
前記熱電素子に当接して配置される伝熱部材と、
前記伝熱部材に空気を送る送風手段と、
前記伝熱部材に水を供給する水供給手段と、
を備え、
前記伝熱部材は、前記熱電素子において供給される電力に応じて温度差が生じる一対の面について、低温側の面に当接して配置される吸熱ヒートシンク、及び高温側の面に当接して配置される放熱ヒートシンクを含んで構成され、
前記送風手段は、前記吸熱ヒートシンクに空気を圧送する冷却風ポンプ、及び前記放熱ヒートシンクに空気を送る放熱ファンを含んで構成され、
前記水供給手段は、前記放熱ヒートシンクに供給される水を貯留する水槽、及び該水槽から水を吸い上げ前記放熱ヒートシンクに導くための吸水部を含んで構成され、
前記冷却風ポンプの吐出部から延在する空気流路を、更に備え、
前記水槽は、前記放熱ヒートシンクの下方に配置された第1水槽、及び前記吸熱ヒートシンクの下方に配置された第2水槽を含んで構成されるとともに、該第1水槽と該第2水槽とが隔壁によって隔てられ、
前記隔壁には、前記第1水槽と前記第2水槽とを接続する流路であって、該第1水槽及び該第2水槽に貯留される水の水面よりも低い位置に設けられる貫通路が形成され、
前記空気流路が前記吸熱ヒートシンクを包含することで、該吸熱ヒートシンクによって冷却された冷却風が該空気流路の出口部から送風されるとともに、前記空気流路と前記第2水槽とが連通することで、前記吸熱ヒートシンクによって生じた結露水が、該第2水槽に回収され前記貫通路を介して前記第1水槽に供給される、
携帯型空調装置。
【請求項2】
前記吸水部は、毛細管材料によって構成される、
請求項1に記載の携帯型空調装置。
【請求項3】
前記吸水部は、綿糸によって構成され、該綿糸が、前記放熱ヒートシンクが有する複数のフィンに挟み込まれるように当接して配置される、
請求項2に記載の携帯型空調装置。
【請求項4】
前記水槽は、袋体によって構成される、
請求項1に記載の携帯型空調装置。
【請求項5】
請求項1に記載の携帯型空調装置を備えた防護服であって、
着用可能な衣服部を、備え、
前記衣服部は、着用者の身体を包み込んで密閉されることで、外部環境の影響から該着用者を防護するように構成され、該衣服部によって密閉される密閉空間に前記空気流路が配置され、該密閉空間の外側に前記放熱ヒートシンクが配置される、
携帯型空調装置を備えた防護服。
【請求項6】
前記空気流路に包含される前記吸熱ヒートシンクによって生じた結露水が前記水槽に供給され、且つ該結露水が前記放熱ヒートシンクにおいて気化せしめられることで、前記衣服部によって密閉される密閉空間が除湿される、
請求項5に記載の携帯型空調装置を備えた防護服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給電力に応じて温度差を生じさせる熱電素子による冷却において水の蒸発潜熱を利用する携帯型空調装置、及びそれを備えた防護服、携帯型空調装置の性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各人に合った空調を実現できる空調装置として、ウェアラブルエアコンが注目されている。そして、ウェアラブルエアコンでは、ペルチェ素子を、例えば、被服地に埋設して用いられることが知られている。
【0003】
更に、ペルチェ素子を用いたウェアラブルエアコンに対して、身体全体あるいは特定の部位を中心に穏やかな温度勾配で冷却あるいは加温するための技術が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ペルチェ素子と熱媒体収容袋とを備えた電子冷暖房服が開示されている。この技術では、熱媒体を循環させる流路が設けられた熱媒体収容袋にペルチェ素子が装着されることで、ペルチェ素子により冷却又は加熱された熱媒体が流路を自然対流により循環しつつ、熱媒体収容袋を介して身体に熱が伝達される。これにより、ペルチェ素子が配置された部分とそうでない部分との温度差が少なくなり、身体を比較的広範囲に亘って穏やかな温度勾配で冷却あるいは加温することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-025052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、ウェアラブルエアコンとして、小型で携帯可能なファンを用いてユーザに風を送る送風装置が広く用いられている。しかしながら、このような送風装置は、周囲環境の空気を取り込んでユーザに風を送るものであるため、夏季においては、ユーザに送られる風が暖かくなってしまう傾向にある。そうすると、冷却風を望むユーザにとっては、十分な快適性が得られない事態が生じ得る。
【0007】
一方で、ウェアラブルエアコンにおいてペルチェ素子を用いることで、供給電力に応じた冷却環境を得ることができる。そして、特許文献1に記載の技術によれば、電子冷暖房服において、ペルチェ素子が装着された熱媒体収容袋を介して身体に熱が伝達されることで、例えば、被服地に埋設されたペルチェ素子による局所的な熱の伝達と比較して、身体に接触する部分の温度差を少なくできるようにも思われる。しかしながら、ペルチェ素子は、供給電力に応じて温度差を生じさせる熱電素子であるため、人が携帯可能な電源からの電力供給のみでは、十分な冷却性能を得られない可能性がある。また、特許文献1に記載の技術では、熱媒体収容袋の大きさによっては、やはり冷却環境を提供できる範囲が限定されてしまうことがある。そして、このような皮膚接触式のウェアラブルエアコンは、ユーザの皮膚に直接触れて熱を伝達するため、ユーザが不快に感じることもある。
【0008】
本開示の目的は、熱電素子による冷却のエネルギー源に水と電気を利用して優れた冷却能力を発揮させることと、熱電素子により得られた冷却環境を広範囲に亘って提供することと、を簡易な構造で実現可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の携帯型空調装置は、供給電力に応じて温度差を生じさせる熱電素子による冷却において水の蒸発潜熱を利用する装置である。この携帯型空調装置は、前記熱電素子に当接して配置される伝熱部材と、前記伝熱部材に空気を送る送風手段と、前記伝熱部材に水を供給する水供給手段と、を備える。そして、前記伝熱部材は、前記熱電素子において供給される電力に応じて温度差が生じる一対の面について、低温側の面に当接して配置される吸熱ヒートシンク、及び高温側の面に当接して配置される放熱ヒートシンクを含んで構成され、前記送風手段は、前記吸熱ヒートシンクに空気を圧送する冷却風ポンプ、及び前記放熱ヒートシンクに空気を送る放熱ファンを含んで構成され得る。
【0010】
上記の携帯型空調装置では、水供給手段からの水が放熱ヒートシンクに供給されることで、熱電素子の高温側の熱放散能力が増強され、以て、熱電素子の冷却性能が大きく向上することになる。なお、放熱ファンを用いて放熱ヒートシンクに空気を送ると、通常は、該放熱ヒートシンクを通過した暖かい排気が生じることで、ユーザの快適性が損なわれる事態が生じ得る。これに対して、上記の構成によれば、水供給手段からの水が放熱ヒートシンクに供給されることで、熱電素子とともに排気も冷却されることになり、放熱ヒートシンクを通過した排気の温度を大幅に下げることができ、以て、ユーザの快適性が損なわれることを抑制できる。また、前記冷却風ポンプの吐出部から延在する空気流路を、更に備え、前記空気流路が前記吸熱ヒートシンクを包含することで、該吸熱ヒートシンクによって冷却された冷却風が該空気流路の出口部から送風されてもよい。この場合、熱電素子の高温側の熱放散能力の増強により作り出された優れた冷却環境が吸熱ヒートシンクに伝えられ、入口から出口までの経路が閉じられた空気流路の中に該吸熱ヒートシンクが配置され且つ冷却風ポンプから圧送された空気が該空気流路を流通することで、空気流路の出口部から送風される冷却風によって、上記の優れた冷却環境を広範囲に亘ってユーザに供給することができる。このように、本開示によれば、熱電素子によって迅速に冷却環境を作り出すことができるだけでなく、人が携帯可能な電源からの電力供給のみでは達せられない冷却環境を提供することができる。
【0011】
また、本開示の携帯型空調装置において、前記水供給手段は、前記放熱ヒートシンクに供給される水を貯留する水槽、及び該水槽から水を吸い上げ前記放熱ヒートシンクに導くための吸水部を含んで構成されてもよい。この場合、前記吸水部は、毛細管材料によって構成され得る。更に、前記吸水部は、綿糸によって構成され、該綿糸が、前記放熱ヒートシンクが有する複数のフィンに挟み込まれるように当接して配置されてもよい。これによれば、吸水力を維持しながらも製造コストを可及的に抑制することができる。更に、綿糸という簡易な構成であるにもかかわらず、水槽から吸い上げた水を、放熱ヒートシンクにおける放熱面に対して広範囲に亘って容易に供給することが可能になる。また、前記水槽は、袋体によって構成されてもよい。これによれば、ユーザが携帯型空調装置を利用するときに、水槽が該ユーザの身体に接触したとしても柔らかい当たりとなるため、ユーザの快適性が損なわれることがない。
【0012】
そして、このような携帯型空調装置は、前記冷却風ポンプの吐出部から延在する空気流路を、更に備え、前記水槽は、前記放熱ヒートシンクの下方に配置された第1水槽、及び前記吸熱ヒートシンクの下方に配置された第2水槽を含んで構成されるとともに、該第1水槽と該第2水槽とが隔壁によって隔てられ、前記隔壁には、前記第1水槽と前記第2水槽とを接続する流路であって、該第1水槽及び該第2水槽に貯留される水の水面よりも低い位置に設けられる貫通路が形成され、前記空気流路が前記吸熱ヒートシンクを包含することで、該吸熱ヒートシンクによって冷却された冷却風が該空気流路の出口部から送風されるとともに、前記空気流路と前記第2水槽とが連通することで、前記吸熱ヒートシンクによって生じた結露水が、該第2水槽に回収され前記貫通路を介して前記第1水槽に供給されてもよい。これによれば、冷却風ポンプから圧送された空気に含まれる水分を第1水槽に供給できることで、該水分を放熱ヒートシンクの放熱促進に利用することが可能になる。
【0013】
また、本開示は、携帯型空調装置を備えた防護服であって、着用可能な衣服部を、備える。そして、前記衣服部は、着用者の身体を包み込んで密閉されることで、外部環境の影響から該着用者を防護するように構成され、該衣服部によって密閉される密閉空間に前記空気流路が配置され、該密閉空間の外側に前記放熱ヒートシンクが配置される。これにより、防護服内には冷たく乾いた空気が供給されることになるため、防護服内の温熱環境を改善することが可能になる。このとき、前記水供給手段は、前記放熱ヒートシンクに供給される水を貯留する水槽、及び該水槽から水を吸い上げ前記放熱ヒートシンクに導くための吸水部を含んで構成され、前記空気流路に包含される前記吸熱ヒートシンクによって生じた結露水が前記水槽に供給され、且つ該結露水が前記放熱ヒートシンクにおいて気化せしめられることで、前記衣服部によって密閉される密閉空間が除湿されてもよい。この場合、防護服内の湿った空気が吸熱ヒートシンクによって冷やされて生じた結露水を循環させて放熱ヒートシンクにおいて気化させることができ、防護服内を好適に除湿できるだけでなく、外部からの水の供給なしで携帯型空調装置を作動させることができる。
【0014】
また、本開示は、携帯型空調装置の性能評価方法であって、コンピュータが、前記携帯型空調装置の前記熱電素子において、水の蒸発潜熱を利用せずに冷却するときに、供給電力に応じて変化する温度差における低温側の温度が最低温度となる場合の必要電力として定義される第1電力を取得するとともに、該熱電素子への供給電力が該第1電力である場合の該低温側の温度を第1温度として記憶するステップと、前記携帯型空調装置の前記熱電素子において、前記伝熱部材への水の供給が飽和している状態で水の蒸発潜熱を利用して冷却するときに、供給電力に応じて変化する温度差における低温側の温度が前記第1温度となる場合の必要電力として定義される第2電力を取得するステップと、前記第1電力を前記第2電力で除することで、前記携帯型空調装置の性能指標を算出するステップと、を実行する。これによれば、水の蒸発潜熱を利用する携帯型空調装置の性能を好適に評価することができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、熱電素子による冷却のエネルギー源に水と電気を利用して優れた冷却能力を発揮させることと、熱電素子により得られた冷却環境を広範囲に亘って提供することと、を簡易な構造で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態における携帯型空調装置の概略構成を示す図である。
図2】第1実施形態における携帯型空調装置の各構成要素の詳細を説明するための図である。
図3】第1実施形態における携帯型空調装置の性能評価方法のフローを示すフローチャートである。
図4】供給電力に応じて変化するペルチェ素子の低温側の温度の推移について、水の蒸発潜熱を利用する場合と利用しない場合との比較を示す図である。
図5】第2実施形態における携帯型空調装置を備えた防護服を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本開示の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本開示は実施形態の構成に限定されない。
【0018】
<第1実施形態>
第1実施形態における携帯型空調装置の概要について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態における携帯型空調装置の概略構成を示す図である。本実施形態に係る携帯型空調装置1は、供給電力に応じて温度差を生じさせるペルチェ素子2による冷却において水の蒸発潜熱を利用する装置である。
【0019】
図1に示すように、携帯型空調装置1は、ペルチェ素子2に当接して配置される伝熱部材3と、伝熱部材3に空気を送る送風手段4と、伝熱部材3に水を供給する水供給手段5と、を備える。
【0020】
そして、このように構成される携帯型空調装置1について、各構成要素の詳細を図2に基づいて説明する。図2は、本実施形態における携帯型空調装置1の各構成要素の詳細を説明するための図である。
【0021】
伝熱部材3は、ペルチェ素子2において供給される電力に応じて温度差が生じる一対の面について、低温側の面に当接して配置される吸熱ヒートシンク31、及び高温側の面に当接して配置される放熱ヒートシンク32を含んで構成される。なお、これらヒートシンクは、例えば、Al(アルミニウム)、Al合金等の材料を用いて、多数のフィンが設けられるように形成される。また、これらヒートシンクとペルチェ素子2との当接面には、熱伝導グリスが塗布され得る。
【0022】
送風手段4は、吸熱ヒートシンク31に空気を圧送する冷却風ポンプ41、及び放熱ヒートシンク32に空気を送る放熱ファン42を含んで構成される。
【0023】
そして、冷却風ポンプ41の吐出部には、空気流路6が形成される。この空気流路6は、携帯型空調装置1のユーザに対して、吸熱ヒートシンク31によって冷却された冷却風を送風するための構成であって、該空気流路6が該吸熱ヒートシンク31を包含することで、吸熱ヒートシンク31によって冷却された冷却風が空気流路6の出口部6aから送風されることになる。
【0024】
水供給手段5は、放熱ヒートシンク32に供給される水を貯留する水槽50、及び該水槽50から水を吸い上げ放熱ヒートシンク32に導くための吸水部500を含んで構成される。
【0025】
そして、吸水部500は、毛細管材料によって構成される。ここで、毛細管材料とは、水槽50から水を吸い上げていく毛細管現象を生じさせる材料であって、例えば、多孔質材料やナノ材料等である。これにより、毛細管材料を介して、水槽50の水が放熱ヒートシンク32に供給されることになる。また、吸水部500は、放熱ヒートシンク32と一体に形成されてもよい。この場合、例えば、酸化アルミをナノ粒子化させた金属ナノパウダーを用いて、焼結によって粒子同士を接合させることで、毛細管現象を生じさせることが可能なヒートシンクとして、放熱ヒートシンク32と吸水部500とが一体形成され得る。
【0026】
なお、本実施形態に係る携帯型空調装置1では、吸水部500が綿糸によって構成される。これにより、吸水力を維持しながらも製造コストを可及的に抑制することができる。そして、吸水部500である綿糸は、放熱ヒートシンク32が有する複数のフィンに挟み込まれるように当接して配置される。そうすると、綿糸という簡易な構成であるにもかかわらず、水槽50から吸い上げた水を、放熱ヒートシンク32における放熱面に対して広範囲に亘って容易に供給することが可能になる。
【0027】
そして、水槽50は、放熱ヒートシンク32の下方に配置された第1水槽51、及び吸熱ヒートシンク31の下方に配置された第2水槽52を含んで構成される。ここで、水槽50は、袋体によって構成されてもよい。なお、上記の袋体には、例えば、ポロプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル等の素材によって形成され得るソフトバッグや、アルミニウムによって形成され得るアルミパウチを適用することができる。そうすると、ユーザが携帯型空調装置1を利用するときに、水槽50が該ユーザの身体に接触したとしても柔らかい当たりとなるため、ユーザの快適性が損なわれることがない。
【0028】
ここで、上記の水槽50において、第1水槽51と第2水槽52とは、隔壁53によって隔てられる。そして、隔壁53には、第1水槽51と第2水槽52とを接続する流路であって、該第1水槽51及び該第2水槽52に貯留される水の水面よりも低い位置に設けられる貫通路530が形成される。
【0029】
以上に述べた携帯型空調装置1では、上述したように、ペルチェ素子2の低温側の面に当接して配置される吸熱ヒートシンク31によって冷却された冷却風が空気流路6の出口部6aから送風される。
【0030】
ここで、ペルチェ素子を用いた従来までのウェアラブルエアコンでは、人が携帯可能な電源からの電力供給のみでは、十分な冷却性能を得られないことがあった。ペルチェ素子は、供給電力に応じて温度差を生じさせる熱電素子であって、例えば、5Vの電圧で、ペルチェ素子の両側には約20℃の温度差が生じる。そうすると、ペルチェ素子の高温側の温度が30℃である場合には、ペルチェ素子の低温側の温度は10℃となる。一方で、ペルチェ素子の高温側の温度を25℃まで下げることができれば、ペルチェ素子の低温側の温度は5℃となり、ペルチェ素子によってより優れた冷却環境を作り出すことが可能になる。
【0031】
そこで、本実施形態に係る携帯型空調装置1では、ペルチェ素子2による冷却において水の蒸発潜熱が利用される。詳しくは、水槽50の水が放熱ヒートシンク32に供給されることで、ペルチェ素子2の高温側の熱放散能力が増強され、以て、ペルチェ素子2の冷却性能が大きく向上することになる。そして、このようにして作り出された優れた冷却環境が吸熱ヒートシンク31に伝えられ、入口から出口までの経路が閉じられた空気流路6の中に該吸熱ヒートシンク31が配置され且つ冷却風ポンプ41から圧送された空気が該空気流路6を流通することで、空気流路6の出口部6aから送風される冷却風によって、上記の優れた冷却環境を広範囲に亘ってユーザに供給することができる。このように、ペルチェ素子2によって迅速に冷却環境を作り出すことができるだけでなく、人が携帯可能な電源からの電力供給のみでは達せられない冷却環境を提供することができる。
【0032】
次に、携帯型空調装置1における空気の流れと水の流れについて、図2に基づいて説明する。
【0033】
図2に示すように、冷却風ポンプ41の吐出部が吸熱ヒートシンク31の上下方向における下方に、空気流路6の出口部6aが吸熱ヒートシンク31の上下方向における上方に設けられることで、冷却風ポンプ41から圧送された空気は、空気流路6において吸熱ヒートシンク31の下方から上方に流通することになる。これにより、吸熱ヒートシンク31の全範囲に亘って、空気を冷却することが可能になる。
【0034】
また、このとき、冷却風ポンプ41から圧送された空気が吸熱ヒートシンク31によって冷却されることで、該空気が含んでいた水分が結露水として吸熱ヒートシンク31に付着する。そして、図2に示すように、空気流路6と第2水槽52とは、連通されている。そうすると、吸熱ヒートシンク31によって生じた結露水が、第2水槽52に回収されることになる。詳しくは、吸熱ヒートシンク31に付着した結露水が重力によって落下することで、該吸熱ヒートシンク31の下方に配置された第2水槽52に結露水が回収される。そして、このように空気と結露水との流れが逆方向になるように構成されることで、空気流路6の出口部6aから乾いた冷却風を送風することが可能になる。
【0035】
更に、上述したように、第1水槽51と第2水槽52とを隔てる隔壁53には、これら水槽に貯留される水の水面よりも低い位置に貫通路530が形成されている。なお、貫通路530は、例えば、隔壁53の一番底の位置に形成され得る。そうすると、上記の如く第2水槽52に回収された結露水が、貫通路530を介して第1水槽51に供給されることになる。詳しくは、冷却風ポンプ41から圧送された空気によって空気流路6の内圧が高められるため、第2水槽52の水面が押圧される。そして、このとき、貫通路530は、水密状態にされている。そうすると、第2水槽52の水の一部が、貫通路530を介して第1水槽51に移動することになる。これにより、冷却風ポンプ41から圧送された空気に含まれる水分を第1水槽51に供給できることで、該水分を放熱ヒートシンク32の放熱促進に利用することが可能になる。なお、携帯型空調装置1の使用前には、第1水槽51および第2水槽52に、注射器等を用いて予め水が注入されている。
【0036】
なお、放熱ヒートシンク32では、吸水部500によって第1水槽51から吸い上げられた水が、放熱ファン42からの風によって迅速に蒸発せしめられることで、該放熱ヒートシンク32の熱放散能力が大幅に向上することになる。また、放熱ファンを用いて放熱ヒートシンクに空気を送ると、通常は、該放熱ヒートシンクを通過した暖かい排気が生じることで、ユーザの快適性が損なわれる事態が生じ得る。これに対して、本実施形態によれば、吸水部500によって第1水槽51から吸い上げられた水が放熱ヒートシンク32に供給されることで、ペルチェ素子2とともに排気も冷却されることになる。そうすると、放熱ヒートシンク32を通過した排気の温度が大幅に低下し、以て、ユーザの快適性が損なわれる事態が可及的に抑制される。
【0037】
そして、以上に述べた携帯型空調装置1には、除湿モードや強冷却モード等の運転モードを切り替えるモード切替機能が備えられてもよい。このようなモード切替機能は、冷却風ポンプ41への供給電力を変化させ、該冷却風ポンプ41から圧送される空気の流量を制御することで実現され得る。
【0038】
詳しくは、冷却風ポンプ41から圧送される空気の流量が所定の低流量未満になるように制御されることで、除湿モードが実現され得る。ここで、上記の所定の低流量とは、例えば、1.0L/minであって、このとき、冷却風ポンプ41への供給電圧は、例えば、0.2~0.3Vとされる。このような除湿モードでは、吸熱ヒートシンク31を通過する空気の流速が比較的遅い。そのため、冷却風ポンプ41から圧送された空気が含んでいた水分が結露して吸熱ヒートシンク31に付着した結露水の多くが、気化することなく液体のままとどまることになり、空気流路6の出口部6aから送風される冷却風の相対湿度を低下させることが可能になる。
【0039】
一方で、冷却風ポンプ41から圧送される空気の流量が所定の高流量以上になるように制御されることで、強冷却モードが実現され得る。ここで、上記の所定の高流量とは、例えば、4.0L/minであって、このとき、冷却風ポンプ41への供給電圧は、例えば、3.7Vとされる。このような強冷却モードでは、吸熱ヒートシンク31を通過する空気の流速が比較的速い。そのため、冷却風ポンプ41から圧送された空気が含んでいた水分が結露することなく、その結果、結露によって余分な熱を発生させることなく、空気流路6の出口部6aから送風される冷却風の温度を低下させることが可能になる。
【0040】
このようなモード切替機能によれば、個々のユーザに対してパーソナライズし易いという携帯型空調装置1の特徴を更に強化することができる。
【0041】
次に、携帯型空調装置1の性能評価について、説明する。図3は、本実施形態における携帯型空調装置1の性能評価方法のフローを示すフローチャートであって、所定のコンピュータによって実行され得る。
【0042】
図3に例示するフローでは、先ず、第1電力の取得ステップが実行される(S101)。ここで、第1電力は、携帯型空調装置1のペルチェ素子2において、水の蒸発潜熱を利用せずに冷却するときに、供給電力に応じて変化する温度差における低温側の温度が最低温度となる場合の必要電力として定義される。
【0043】
ここで、図4は、供給電力に応じて変化するペルチェ素子の低温側の温度の推移について、水の蒸発潜熱を利用する場合と利用しない場合との比較を示す図である。なお、水の蒸発潜熱を利用する場合とは、上記の説明で述べた携帯型空調装置1の構造において放熱ヒートシンク32への水の供給が飽和している状態、つまり、吸水部500が飽和状態にまで吸水している状態で放熱ヒートシンク32に水が供給される場合であって、水の蒸発潜熱を利用しない場合とは、放熱ヒートシンク32に水が供給されない場合である。図4に示すように、水の蒸発潜熱を利用する場合は、水の蒸発潜熱を利用しない場合よりも、冷却性能が約5℃向上することがわかる。
【0044】
そして、図4に基づいて取得され得る上記の第1電力は、約5.8Wとなる。そして、ペルチェ素子2への供給電力が第1電力である場合の該ペルチェ素子2の低温側の温度として定義される第1温度は、約10℃となる。
【0045】
そして、図3に戻って、次に、第2電力の取得ステップが実行される(S102)。ここで、第2電力は、携帯型空調装置1のペルチェ素子2において、水の蒸発潜熱を利用して冷却するときに、供給電力に応じて変化する温度差における低温側の温度が上記の第1温度となる場合の必要電力として定義される。
【0046】
そうすると、図4に基づいて取得され得る上記の第2電力は、約1.1Wとなる。なお、このようにして取得される第1電力や第2電力は、コンピュータに入力されてもよいし、上記の図4に示すような温度の推移に基づいて算出されてもよい。
【0047】
そして、図3に戻って、次に、性能指標の算出ステップが実行される(S103)。S103の処理では、第1電力を第2電力で除することで、携帯型空調装置1の性能指標が算出される。そうすると、上記の図4に示す例では、携帯型空調装置1の性能指標が約5.3と算出される。
【0048】
この性能指標は、その数値が高いほど、より少ない電力で冷却環境を作り出すことができることを意味しており、水の蒸発潜熱を利用する携帯型空調装置の性能を好適に評価することができる。
【0049】
以上に述べた携帯型空調装置1によれば、ペルチェ素子2による冷却のエネルギー源に水と電気を利用して優れた冷却能力を発揮させることと、ペルチェ素子2により得られた冷却環境を広範囲に亘って提供することと、を簡易な構造で実現することができる。
【0050】
<第2実施形態>
第2実施形態における携帯型空調装置を備えた防護服について、図5に基づいて説明する。図5は、本実施形態における携帯型空調装置1を備えた防護服10を説明するための図である。
【0051】
図5(a)に示すように、本実施形態における防護服10は、着用可能な衣服部100を備え、該衣服部100に上記の第1実施形態の説明で述べた携帯型空調装置1が配置される。
【0052】
また、図5(b)に示すように、衣服部100によって密閉される密閉空間に空気流路6が配置され、該密閉空間の外側に放熱ヒートシンク32が配置される。これにより、防護服10内には冷たく乾いた空気が供給されることになるため、防護服10内の温熱環境を改善することが可能になる。
【0053】
このとき、空気流路6に包含される吸熱ヒートシンク31によって生じた結露水が水槽50に供給され、且つ該結露水が放熱ヒートシンク32において気化せしめられることで、衣服部100によって密閉される密閉空間が効果的に除湿されることになる。この場合、防護服10内の湿った空気が吸熱ヒートシンク31によって冷やされて生じた結露水を循環させて放熱ヒートシンク32において気化させることができ、防護服10内を好適に除湿できるだけでなく、外部からの水の供給なしで携帯型空調装置1を作動させることができる。詳しくは、防護服10の中では、ユーザによる発汗およびその汗の蒸発が著しいため通常の外部環境の空気よりも湿度が遥かに高くなり、防護服10内の湿った空気が吸熱ヒートシンク31によって冷やされると多くの結露水が生じることで、外部からの水の供給なしで携帯型空調装置1を作動させることが可能になる。
【0054】
以上に述べた防護服10によっても、ペルチェ素子2による冷却のエネルギー源に水と電気を利用して優れた冷却能力を発揮させることと、ペルチェ素子2により得られた冷却環境を広範囲に亘って提供することと、を簡易な構造で実現することができる。
【符号の説明】
【0055】
1・・・・・携帯型空調装置
2・・・・・ペルチェ素子
3・・・・・伝熱部材
31・・・・吸熱ヒートシンク
32・・・・放熱ヒートシンク
4・・・・・送風手段
41・・・・冷却風ポンプ
42・・・・放熱ファン
5・・・・・水供給手段
50・・・・水槽
51・・・・第1水槽
52・・・・第2水槽
53・・・・隔壁
530・・・貫通路
500・・・吸水部
6・・・・・空気流路
【要約】
【課題】熱電素子による冷却のエネルギー源に水と電気を利用して優れた冷却能力を発揮させることと、熱電素子により得られた冷却環境を広範囲に亘って提供することと、を簡易な構造で実現する。
【解決手段】本開示の携帯型空調装置1は、供給電力に応じて温度差を生じさせるペルチェ素子2による冷却において水の蒸発潜熱を利用する装置である。この携帯型空調装置1は、ペルチェ素子2に当接して配置される伝熱部材3と、伝熱部材3に空気を送る送風手段4と、伝熱部材3に水を供給する水供給手段5と、を備える。そして、伝熱部材3は、ペルチェ素子2において供給される電力に応じて温度差が生じる一対の面について、低温側の面に当接して配置される吸熱ヒートシンク31、及び高温側の面に当接して配置される放熱ヒートシンク32を含んで構成され得る。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5