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  • -車両用アンダーカバーおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】車両用アンダーカバーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20250310BHJP
   B62D 29/04 20060101ALI20250310BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250310BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20250310BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
B62D25/20 N
B62D29/04 A
B32B27/00 B
B32B27/12
B32B5/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021006700
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110945
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【弁理士】
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】中村 光児
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 拓哉
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032554(JP,A)
【文献】特開2013-086599(JP,A)
【文献】特開2004-142675(JP,A)
【文献】特開2009-149117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B62D 29/04
B32B 27/00
B32B 27/12
B32B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部と、
前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように設けられ、通気性を有する吸音部と、を備え、
前記吸音部の下面が、該吸音部における他の部分よりも通気性が低い溶融層で構成されており、
前記溶融層は、通気性を有し、
前記吸音部は、発泡体のみで構成され、
前記溶融層は、前記発泡体の表面が溶融固化した層である
ことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項2】
樹脂部と、
前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように設けられ、通気性を有する吸音部と、を備え、
前記吸音部の下面が、該吸音部における他の部分よりも通気性が低い溶融層で構成されており、
前記溶融層は、通気性を有し、
前記吸音部は、単一繊維のみで構成される不織布であり、
前記溶融層は、前記不織布の表面が溶融固化した層である
ことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項3】
樹脂部と、
前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように設けられ、通気性を有する吸音部と、を備え、
前記吸音部の下面が、該吸音部における他の部分よりも通気性が低い溶融層で構成されており、
前記溶融層は、通気性を有し、
前記吸音部の上面が、前記溶融層よりも通気性が高い第2の溶融層で構成されている
ことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項4】
通気性を有する吸音シートの一面を加熱して溶融させることで、前記吸音シートの一面に通気性を有する溶融層を形成すると共に、前記吸音シートの他面を加熱溶融して前記溶融層よりも通気性が高い第2の溶融層を形成し、
前記吸音シートを成形型にセットした後に樹脂部を成形すると共に、前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐ吸音部を前記吸音シートから形成する
ことを特徴とする車両用アンダーカバーの製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンアンダーカバーなどの車両用アンダーカバーおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両におけるエンジンの下側には、エンジン音を低減するために、エンジンアンダーカバーが設置されている(例えば、特許文献1参照)。このようなエンジンアンダーカバーは、繊維を圧縮成形して構成することで、エンジン音などの吸音を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-86599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の静粛性を確保するため、エンジンアンダーカバーに対して、より幅広い周波数帯で吸音性能を発揮することが求められている。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、吸音性能がよい車両用アンダーカバーおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る車両用アンダーカバーは、
樹脂部と、
前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように設けられ、通気性を有する吸音部と、を備え、
前記吸音部の下面が、該吸音部における他の部分よりも通気性が低い溶融層で構成されていることを要旨とする。
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る車両用アンダーカバーの製造方法は、
通気性を有する吸音シートの一面を加熱して溶融させることで、前記吸音シートの一面に溶融層を形成し、
前記吸音シートを成形型にセットした後に樹脂部を成形すると共に、前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐ吸音部を前記吸音シートから形成することを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両用アンダーカバーによれば、吸音性能に優れている。
本発明に係る車両用アンダーカバーの製造方法によれば、吸音性能に優れた車両用アンダーカバーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係る車両用アンダーカバーを斜め上側から見た概略斜視図である。
図2】実施例の車両用アンダーカバーを斜め下側から見た概略斜視図である。
図3】実施例の車両用アンダーカバーを示す平面図である。
図4図3のA-A線で切断した端面図である。
図5図3のB-B線で切断した端面図である。
図6】実施例の車両用アンダーカバーの製造工程を示す説明図である。
図7】実施例の車両用アンダーカバーの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係る車両用アンダーカバーおよび車両用アンダーカバーの製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、実施例では、車両用アンダーカバーとして、エンジンアンダーカバーを例示している。
【実施例
【0011】
図1図3に示すように、実施例に係る車両用アンダーカバー10(以下、単にアンダーカバーという。)は、樹脂部12と、樹脂部12で区画される開口部分14を塞ぐように開口部分14毎に設けられた吸音部16とを備えている。アンダーカバー10は、樹脂部12と吸音部16とが、樹脂部12の成形時に一体化したり、接着剤で接着したり、熱等により溶着したりするなどによって互いに接続されている。アンダーカバー10では、吸音部16よりも硬質な樹脂部12によって、剛性が主に担保されている。アンダーカバー10は、樹脂部12に設けられた取付部分を用いて、自動車等の車両の車体に取り付けられる。
【0012】
樹脂部12は、合成樹脂の射出成形等による成形品である。合成樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン (ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)などを用いることができる。
【0013】
図1図3に示すように、実施例の樹脂部12は、車体への取付部分が形成された外周部18と、この外周部18の内側において前後左右方向へ延びる格子状に形成された枠部20,22とを備えている。樹脂部12には、開口部分14が、4本の枠部20,22、あるいは外周部18および枠部20,22に囲まれて形成されている。実施例では、複数の開口部分14が、樹脂部12において前後左右に並ぶように配置されている。
【0014】
吸音部16は、通気性を有する不織布や発泡体などの多孔質体で構成することができる。アンダーカバー10は、多数の空隙を有する吸音部16によって、エンジン音や走行音などの車外騒音を抑えている。吸音部16を構成する不織布としては、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維などからなるものを用いることができる。また、吸音部16を構成する発泡体としては、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系などの発泡体を用いることができる。吸音部16は、その厚みが、例えば7.5mm~32mm程度に設定される。
【0015】
図4および図5に示すように、吸音部16の下面には、吸音部16の他の部分よりも通気性が低い溶融層24を有している。溶融層24は、吸音部16を構成する多孔質体の表面(一面)を溶融固化した層である。溶融層24は、吸音部16の厚み方向(上下方向)の通気性を有しているが、吸音部16における溶融層24より上側部分と比べて通気性が低くなっている。また、溶融層24は、吸音部16における溶融層24より上側部分と比べて密度が高くなっている。更に、溶融層24は、吸音部16における溶融層24より上側部分と比べて硬くなっている。溶融層24の下面(吸音部16の下面)は、その表面粗さが、溶融層24が形成されていない吸音部16の上面よりも小さく、平滑になっている。例えば、溶融層24における下面の表面粗さは、50μm以下程度とする。
【0016】
実施例の吸音部16は、不織布等の繊維体によって構成されている。図4および図5に示すように、吸音部16は、吸音部16の上側を構成する第1繊維層26と、吸音部16の下側を構成する第2繊維層28とを備えている。そして、溶融層24は、第2繊維層28の下部を構成している。実施例の溶融層24は、第2繊維層28の下部を溶融して形成されて、第2繊維層28の下側を覆っている。実施例では、吸音部16において、第1繊維層26が最も厚く、溶融層24が最も薄くなっている。なお、溶融層24は、その厚みが、0.1mm~0.9mm程度である。吸音部16は、その通気性が、第1繊維層26、第2繊維層28、溶融層24の順に低くなっている。
【0017】
第1繊維層26は、その厚みが、例えば7mm~30mm程度に設定される。また、第1繊維層26は、その目付量が、例えば600g/m~1800g/m程度のものを用いることができる。更に、第1繊維層26は、その密度が、例えば0.02g/cm~0.25g/cm程度のものを用いることができる。
【0018】
第2繊維層28は、その厚みが、例えば0.5mm~2mm程度に設定される。また、第2繊維層28は、その目付量が、例えば200g/m~600g/m程度のものを用いることができる。更に、第2繊維層28は、その密度が、例えば0.1g/cm~1.2g/cm程度のものを用いることができる。
【0019】
第2繊維層28は、第1繊維層26よりも撥水性が高くなっている。撥水性を確保する方法としては、例えばシリコーン樹脂やフッ素樹脂などの撥水材料を第2繊維層28に付与したり、撥水性を有する繊維等の素材で第2繊維層28を構成したりすることなどが挙げられる。また、第2繊維層28を、第1繊維層26よりも密度(目付量)を高くすることによっても、撥水性を向上させることができる。
【0020】
次に、前述したアンダーカバー10の製造方法について説明する。アンダーカバー10は、吸音部16となる吸音シートSをセットした成形型36において樹脂部12を成形するインサート成形によって得ることができる。まず、図6に示すように、第1繊維層26および第2繊維層28を有する吸音シートSを用意する。吸音シートSを一対のロール30,32の間に通す。ここで、一対のロール30,32のうち、第2繊維層28に接触する第2ロール32は加熱されている。これにより、吸音シートSの一面に、第2繊維層28における厚み方向の一部を溶融させることで、溶融層24を形成する。なお、吸音シートSの他面は、第1繊維層26のままである。
【0021】
次に、溶融層24を形成した吸音シートSを、トムソン刃などによって切断加工することで、枠部20,22の形成予定位置に合わせてスリット34(図7(a)参照)を形成する。このとき、吸音シートSにおける縦枠部20と横枠部22との交差予定部位などを切断しないようにして連結部を設けておくことで、吸音シートSが1枚に繋がった状態を保つ。
【0022】
溶融層24およびスリット34を形成した吸音シートSを成形型36にセットする(図7(a)参照)。成形型36を型閉じすることで、樹脂部12を成形するキャビティ38に、吸音シートSにおけるスリット34の開口縁等の一部が臨む(図7(b)参照)。成形型36の型閉じ時に、成形型36の型面の凹凸によって、吸音シートSを繋いでいる連結部を破断させてもよい。そして、吸音シートSの一部を、樹脂部12をなすキャビティ38に臨ませた状態で、樹脂部12を射出成形する(図7(c)参照)。このとき、高温の溶融樹脂によって、吸音シートSを繋いでいる連結部を溶かして破断してもよい。これにより、吸音シートSから分割して得られる吸音部16の端部(一部)が、樹脂部12の内側に入り込んだ状態で溶着し、吸音部16の端部と樹脂部12とが一体化される。そして、成形型36から取り外すことで、樹脂部12で区画される開口部分14毎に分割された吸音部16によって該開口部分14が塞がれたアンダーカバー10が得られる(図7(d)参照)。
【0023】
アンダーカバー10は、吸音部16に溶融層24を有していることで、低周波数帯から高周波数帯までの幅広い周波数帯において吸音することができ、吸音性能を向上することができる。アンダーカバー10は、吸音部16に溶融層24を有していることで、特に1000Hz~1250Hzの周波数帯にあるロードノイズを好適に吸音することができる。吸音部16は、例えば繊維径が細くなるほど、吸音性能が向上するが、吸音部16にかかるコストが高くなってしまう。実施例のアンダーカバー10によれば、溶融層24を形成することで、繊維径が太くてコストが安い繊維体を用いても、所望の吸音性能を確保することができる。
【0024】
アンダーカバー10は、吸音部16に溶融層24を有していることで、吸音部16の他の部分よりも密度の高い溶融層24によって、吸音部16の剛性を向上させることができる。従って、アンダーカバー10は、吸音部16を広く設定することが可能となり、吸音性能を向上させることができる。アンダーカバー10は、吸音部16に溶融層24を有していることで、吸音部16の他の部分よりも密度の高い溶融層24によって、吸音部16の下面における耐チッピング性や耐摩耗性を向上させることができる。従って、アンダーカバー10は、飛び石等が当たっても、吸音部16が破損し難くなり、耐久性に優れている。アンダーカバー10は、吸音部16に溶融層24を有していることで、吸音部16の下面が平滑になり、吸音部16の下面の濡れ性を低くでき、例えば吸音部16への着氷や浸水を防止できる。従って、アンダーカバー10は、吸音部16に侵入した水によって吸音性能が悪化したり、着氷によって吸音部16が破損したりすることなどを防止できる。
【0025】
溶融層24が、吸音部16を構成する多孔質体の表面が溶融固化した層であるので、溶融層24を吸音部16に貼り合わせたりするなどの手間がかからず、吸音部16の吸音性能を簡単に向上することができる。
【0026】
吸音部16は、該吸音部16の上側を構成する第1繊維層26と、吸音部16の下側を構成し、第1繊維層26よりも撥水性がよい第2繊維層28とを備えている。このように撥水性がよい第2繊維層28を備えていることで、吸音部16の下側の濡れ性を低くでき、例えば吸音部16への着氷や浸水を防止できる。従って、アンダーカバー10は、吸音部16に侵入した水によって吸音性能が悪化したり、着氷によって吸音部16が破損したりすることなどを防止できる。
【0027】
前述した製造方法は、成形型36での樹脂部12の成形時に、吸音シートSを分割して、樹脂部12の開口部分14に対応する吸音部16を形成している。このため、樹脂部12における複数の開口部分14に合わせた数や形状の吸音部16を用意する必要がなく、1枚の吸音シートSを用意するだけでよい。また、1枚の吸音シートSを成形型36にセットするだけでよく、樹脂部12における複数の開口部分14に合わせた複数枚の吸音部16を成形型36にセットするような手間がかからない。このように前述した製造方法によれば、吸音シートSの一面に溶融層24を予め形成しておくだけで、樹脂部12の開口部分14毎に区分された吸音部16と、樹脂部12とが接続されたアンダーカバー10を簡単に得ることができる。
【0028】
(変更例)
前述した事項に限らず、例えば以下のように変更してもよい。なお、本発明は、実施例および以下の変更例の具体的な記載のみに限定されるものではない。
(1)本発明の車両用アンダーカバーは、例えば、エンジンアンダーカバー、フロアアンダーカバー、フェンダーライナーなどの車両外装部材に適用可能である。
(2)吸音部の上面を、下面の溶融層よりも通気性が高い第2の溶融層で構成してもよい。例えば、実施例の層構成であれば、第1繊維層の上部を溶融して第2の溶融層を形成すればよい。このように、吸音部の上面に第2の溶融層を設けることで、アンダーカバー上にのった水を吸音部に浸透し難くすることができる。
(3)吸音部は、3層構造に限らず、溶融層と他の層との2層構造であっても、4層以上の層構造であってもよい。
(4)アンダーカバーは、樹脂部を成形した後、吸音部を樹脂部に接着剤で接着したり、吸音部を樹脂部に超音波等により溶着したりすることなどによっても得ることができる。
(5)溶融層の形成は、熱ロールに限らず、例えば、一方の型を高温にした熱プレス等によって、溶融層を形成してもよい。
(6)繊維層は、単一の繊維で構成することに限らず、複数種類の繊維で構成しても、繊維にガラス等の繊維以外の他の素材が混ざっていてもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 アンダーカバー(車両用アンダーカバー),12 樹脂部,14 開口部分,
16 吸音部,24 溶融層,26 第1繊維層,28 第2繊維層,36 成形型,
S 吸音シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7