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特許7646421血管モデル、及び、血管シミュレーション装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】血管モデル、及び、血管シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
G09B23/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021060873
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156929
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】竹本 博賢
(72)【発明者】
【氏名】西尾 佳奈子
【審査官】前地 純一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-344988(JP,A)
【文献】特開2005-152178(JP,A)
【文献】特開2010-178809(JP,A)
【文献】特開平08-332218(JP,A)
【文献】特開2017-053897(JP,A)
【文献】特開2006-334278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管モデルであって、
中空管形状の内層部と、
前記内層部よりも外側に配置された外層部と、
前記内層部と前記外層部との間に配置された中間部と、
を備え、
前記内層部と、前記外層部と、前記中間部とは、それぞれ異なる硬度を有し、
前記中間部は、C字状の横断面を有している、血管モデル。
【請求項2】
血管モデルであって、
中空管形状の内層部と、
前記内層部よりも外側に配置された外層部と、
前記内層部と前記外層部との間に配置された中間部と、
を備え、
前記内層部と、前記外層部と、前記中間部とは、それぞれ異なる硬度を有し、
前記外層部は、略C字状の横断面を有している、血管モデル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の血管モデルであって、
前記外層部は、高分子材料(但し、多孔体を除く。)により形成されている、血管モデル。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の血管モデルであって、
前記内層部は、高分子材料(但し、多孔体を除く。)により形成されている、血管モデル。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の血管モデルであって、
真腔と偽腔とを模擬する用途に用いられる、血管モデル。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の血管モデルであって、
前記外層部と前記内層部とは、同じ材料により形成されている、血管モデル。
【請求項7】
血管シミュレーション装置であって、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の血管モデルと、
前記内層部としての中空管内に配置された病変モデルと、
を備える、血管シミュレーション装置。
【請求項8】
請求項に記載の血管シミュレーション装置であって、さらに、
前記血管モデルの外周面のうちの少なくとも一部分を取り囲む外側組織モデルを備える、血管シミュレーション装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管内への低侵襲な治療または検査のために、ガイドワイヤやカテーテル等の医療デバイスが使用されている。例えば、特許文献1,2には、医師等の術者が、これらの医療デバイスを用いた手技を模擬することが可能な血管病変モデルや狭窄モデルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-189909号公報
【文献】特開2012-220728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、血管壁は一般に、内側から外側に向かって、内膜、中膜、外膜の3層構造を有している。内膜が何らかの原因で裂けた場合に、血液が内膜と中膜との間に流れ込むことによって中膜が膨らみ、血液の通り道が形成される場合がある。このように、内膜と中膜との間に形成された血液の通り道は、本来の血液の通り道である「真腔」と区別して、「偽腔」と呼ばれる。実際のヒトの血管の場合、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際に、術者の手元には感触が伝わる。このため術者は、手元に伝わる感触によって医療デバイスの先端部のおおまかな位置、換言すれば、医療デバイスの先端部が真腔内にあるか、偽腔内にあるかを把握できる。
【0005】
これに対して、特許文献1に記載の血管病変モデルでは、模擬血管内に硬さが異なる複数の小病変部を設けることが開示されているものの、模擬血管そのものは単一層から構成されているため、真腔と偽腔とを有する血管を模擬できていないという課題があった。また、特許文献1に記載の血管病変モデルでは、模擬血管の硬さが一様であるため、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を再現できないという課題があった。さらに、特許文献2に記載の狭窄モデルでは、硬さが異なる第2部材が埋め込まれているものの、第2部材は狭窄内腔の頂点部分に限って配置されているため、医療デバイスが真腔と偽腔との境界部を通過する際の感触を再現できないという課題があった。
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、真腔と偽腔とを模擬すると共に、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を模擬することが可能な血管モデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、血管モデルが提供される。この血管モデルは、中空管形状の内層部と、前記内層部よりも外側に配置された外層部と、前記内層部と前記外層部との間に配置された中間部と、を備え、前記内層部と、前記外層部と、前記中間部とは、それぞれ異なる硬度を有している。
【0009】
この構成によれば、中空管形状の内層部によって血管の真腔を模擬できると共に、内層部よりも外側に配置された外層部によって血管に生じた偽腔を模擬できる。また、内層部と外層部との間には中間部が配置されており、内層部、外層部、及び中間部は、それぞれ異なる硬度を有している。このため、ガイドワイヤ等の医療デバイスが、真腔を構成する血管壁を模擬した内層部と、偽腔を構成する血管壁を模擬した外層部との境界部を通過する際に、内層部と外層部との間に設けられた中間部を通過することで、実際のヒトの血管において、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を再現することができる。この結果、本構成によれば、真腔と偽腔とを模擬すると共に、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を模擬することが可能な血管モデルを提供できる。
【0010】
(2)上記形態の血管モデルにおいて、前記外層部は、中空管形状を有し、前記中間部は、前記内層部と前記外層部を隔てる肉厚部と、前記肉厚部の端部によって構成され、前記内層部と前記外層部との間に空間を形成する空間形成部と、を有していてもよい。
この構成によれば、中間部は、内層部と外層部を隔てる肉厚部の端部によって構成され、内層部と外層部との間に空間を形成する空間形成部を有している。このため、空間形成部によって形成された空間から、真腔を構成する血管壁を模擬した内層部の様子を目視で確認することができるため、血管モデルの使い勝手を向上できる。
【0011】
(3)上記形態の血管モデルにおいて、前記肉厚部は、前記血管モデルの長手方向に延びる螺旋形状を有していてもよい。
この構成によれば、肉厚部は螺旋形状であるため、中間部を容易に形成できる。
【0012】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、血管モデル、当該血管モデルを備えており心臓、肝臓、脳等の臓器を模した臓器モデル、これらの血管モデルや臓器モデル含む人体シミュレーション装置、人体シミュレーション装置の制御方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】血管シミュレーション装置の概略構成を例示した説明図である。
図2】血管モデルの断面構成を例示した説明図である。
図3図2のA-A線における横断面構成を例示した説明図である。
図4】外層部及び中間部の展開図である。
図5】血管モデルの製造方法について説明する図である。
図6】第2実施形態の血管モデルの断面構成を例示した説明図である。
図7図6のC-C線における横断面構成を例示した説明図である。
図8】外層部及び中間部の展開図である。
図9】第3実施形態の血管モデルの断面構成を例示した説明図である。
図10】外層部及び中間部の展開図である。
図11】第4実施形態の血管モデルの断面構成を例示した説明図である。
図12】第5実施形態の血管モデルの横断面構成を例示した説明図である。
図13】第6実施形態の血管モデルの断面構成を例示した説明図である。
図14】第7実施形態の血管モデルの横断面構成を例示した説明図である。
図15】第8実施形態の血管モデルの断面構成を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
図1は、血管シミュレーション装置100の概略構成を例示した説明図である。本実施形態の血管シミュレーション装置100は、血管に対する、医療デバイスを用いた治療または検査の手技を模擬するために使用される装置である。医療デバイスには、デリバリ用ガイドワイヤ、貫通用ガイドワイヤ、カテーテル等の低侵襲な治療または検査のためのデバイス全般が用いられ得る。血管シミュレーション装置100は、血管モデル1と、病変モデル2と、外側組織モデル3と、循環ポンプ9とを備えている。
【0015】
本実施形態の血管モデル1は、後述の構成を有することにより、真腔と偽腔とを模擬すると共に、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を模擬できる。ここで、ヒトの血管壁は一般に、内側から外側に向かって、内膜、中膜、外膜の3層構造を有している。内膜が何らかの原因で裂けた場合に、血液が内膜と中膜との間に流れ込むことによって中膜が膨らみ、血液の通り道が形成される場合がある。このように、内膜と中膜との間に形成された血液の通り道は、本来の血液の通り道である「真腔」と区別して、「偽腔」と呼ばれる。
【0016】
図1では、血管モデル1、病変モデル2、及び外側組織モデル3の中心に通る軸を軸線O(一点鎖線)で表す。以降の例では、血管モデル1の中心を通る軸と、病変モデル2の中心を通る軸と、外側組織モデル3の中心を通る軸とは、いずれも軸線Oと一致する。しかし、各中心を通る軸はそれぞれ軸線Oとは相違していてもよい。また、図1及び以降の図では、説明の便宜上、各構成部材の大きさの相対比を実際とは異なるように記載している部分を含んでいる。また、各構成部材の一部を誇張して記載している部分を含んでいる。
【0017】
血管モデル1は、ヒトの血管を模擬したモデルである。血管モデル1は、両端に開口1a,1bを有する、長尺の略円筒形状であって、内側にはヒトの病変部を模擬した病変モデル2が配置されている。血管モデル1の外側には、血管モデル1の外周面のうちの少なくとも一部分(図示の例では、血管モデル1の両端を除く中央部分)を取り囲むようにして、ヒトの筋肉、脂肪、皮膚等を模擬した外側組織モデル3が配置されている。外側組織モデル3は、軟性素材の合成樹脂(例えば、ポリビニルアルコール:PVA、シリコン等)により形成されている。循環ポンプ9は、例えば、非容積式の遠心ポンプである。循環ポンプ9は、血管モデル1の開口1aと開口1bとを繋ぐ流路の途中に設けられており、開口1bから排出された流体を循環させて、開口1aへと供給する。
【0018】
開口1a,1bは、中心部分を軸方向に窪ませたり尖らせたり、斜めにカットしたりといった任意の形状を採用することができる。また、これらの形状は、開口1a,1bのいずれか一方に採用してもよい。さらには、開口1a,1bの形状をそれぞれ異ならせることも可能である。
【0019】
図2は、血管モデル1の断面構成を例示した説明図である。図3は、図2のA-A線における横断面構成を例示した説明図である。図4は、外層部10及び中間部20の展開図である。図2及び図3には、相互に直交するXYZ軸を図示する。X軸は血管モデル1の長手方向に対応し、Y軸は血管モデル1の高さ方向に対応し、Z軸は血管モデル1の幅方向に対応する。図2の左側(-X軸方向)を血管モデル1の「先端側」と呼ぶ。先端側は、順行性アプローチを採用した場合に、医療用デバイスの挿入部位から遠い側(distal、遠位側)となる。また、図2の右側(+X軸方向)を血管モデル1の「基端側」と呼ぶ。基端側は、順行性アプローチを採用した場合に、医療用デバイスの挿入部位から近い側(proximal、近位側)となる。これらの点は、図2以降においても共通する。
【0020】
図2及び図3に示すように、血管モデル1は、外層部10と、中間部20と、内層部30とを備えている。
【0021】
外層部10は、偽腔が生じたヒトの血管のうち、偽腔を構成する血管壁(例えば、中膜と外膜)を模擬している。外層部10は、血管モデル1の最も外側、換言すれば、中間部20及び内層部30よりも外側に配置されている。外層部10は、中空管形状、具体的には略円筒形状である。外層部10の外周面11は、血管モデル1の外周面を構成している。図示の例では、外層部10の内周面12は、中間部20の外周面21と接触しているが、内周面12と外周面21とは、離間していてもよい。
【0022】
中間部20は、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を模擬するための部材である。中間部20は、血管モデル1のうち、外層部10よりも内側かつ内層部30よりも外側(換言すれば、外層部10と内層部30との間)に配置されている。図3に示すように、中間部20は、C字状の横断面を有する略中空管形状である。血管モデル1の周方向(図3:YZ軸方向)において、中間部20が設けられている範囲θ1は、360度よりも小さい限りにおいて、任意に定めることができる。図2に示すように、中間部20の先端は、外層部10及び内層部30の先端と同じ位置にあり、中間部20の基端は、外層部10及び内層部30の基端と同じ位置にある。本実施形態において「同じ」とは、概ね同一であることを含み、製造誤差等に起因した差異を許容する意味である。中間部20のうち、内層部30と外層部10とを隔てる部分を「肉厚部」とも呼び、中間部20の肉厚部の端部201を「空間形成部201」とも呼ぶ。図3に示すように、空間形成部201によって、内層部30と外層部10との間には空間SPが形成される。空間SPは、外層部10及び内層部30の先端から、外層部10及び内層部30の基端まで、血管モデル1の長手方向(X軸方向)に直線状に延びている。
【0023】
内層部30は、偽腔が生じたヒトの血管のうち、真腔を構成する血管壁(例えば、内膜)を模擬している。内層部30は、血管モデル1の最も内側、換言すれば、外層部10及び中間部20よりも内側に配置されている。内層部30は、中空管形状、具体的には略円筒形状である。内層部30の内周面32は、血管モデル1の内周面を構成している。図示の例では、内層部30の外周面31は、中間部20の内周面22と接触しているが、外周面31と内周面22とは、離間していてもよい。
【0024】
外層部10及び内層部30は、任意の高分子材料、例えば、アガロース、アルギン酸ナトリウム、セルロース、デンプン、グリコーゲン等の多糖類や、シリコン、ラテックス、ポリウレタン等により形成されている。外層部10と内層部30とは、同じ材料により形成されてもよく、異なる材料により形成されてもよい。中間部20は、炭化水素化合物(有機化合物)の一種であるパラフィンにより形成されている。中間部20は、そのほか、周知の材料により形成されてよい。
【0025】
本実施形態の外層部10、中間部20、及び内層部30は、それぞれ異なる硬度を有している。外層部10の硬度10H、中間部20の硬度20H、及び内層部30の硬度30Hの大小関係は、それぞれ異なる限りにおいて、任意に規定できる。しかし、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を模擬するという観点からは、中間部20の硬度20Hを最も大きくすることが好ましい。また、ヒトの内膜、中膜、外膜の硬さの大小関係から、外層部10の硬度10Hは、内層部30の硬度30Hよりも大きくすることが好ましい。ここで、「硬度」は、単位gf/cm2で規定され、試験片が破損するのに要する荷重の大きさを意味する。また、図3に示すように、外層部10の厚さL10、中間部20の厚さL20、及び内層部30の厚さL30は、任意に決定できる。図示の例では、外層部10の厚さL10、中間部20の厚さL20、及び内層部30の厚さL30の大小関係が、L10=L30>L20である場合を例示しているが、これに限られない。
【0026】
病変モデル2は、ヒトの病変部を模擬している。病変モデル2は、血管モデル1の内側において、内層部30の内周面32に接して配置されている。図2に示すように、病変モデル2は、血管モデル1の長手方向において、血管モデル1の中央部近傍に配置されている。図3に示すように、病変モデル2は、血管モデル1の内腔を塞ぐようにして、内層部30の内周面32の全周にわたって配置されている。しかし、病変モデル2の配置位置や、配置範囲は任意に変更可能である。例えば、病変モデル2は、血管モデル1の内腔を塞いでいなくてもよい。病変モデル2の外径Φ2は、任意に決定できる。病変モデル2は、任意の高分子材料、例えば、PVA、アルギン酸ナトリウム、セルロース、デンプン、グリコーゲン等の多糖類や、シリコン、ラテックス、ポリウレタン等により形成されている。
【0027】
図5は、血管モデル1の製造方法について説明する図である。図5(A)は、外層部10及び内層部30を準備する様子を表し、図5(B)は、中間部20を形成する様子を表す。図5(A)右側の吹き出し内には、B方向から見た外層部10及び内層部30の様子を図示する。
【0028】
図1図4で説明した血管モデル1は、例えば、以下の手順a1~a6により作製できる。
(a1)図5(A)に示すように、内側に内層部30を挿入した状態の外層部10を準備する。上述の通り、内層部30及び外層部10は、共に略円筒形状の部材である。
(a2)図5(A)吹き出し内に示すように、外層部10と内層部30との間の隙間SPaに対して、円弧板状の封止部材82を挿入する。
(a3)図5(A)に示すように、隙間SPaのうち、封止部材82が挿入されていない残余の部分に対して、C字状の横断面を有する略中空管形状の型81を挿入する。
(a4)図5(B)に示すように、容器83内に、流体状にされたパラフィン(中間部20の材料)を準備する。
(a5)図5(B)に示すように、型81及び封止部材82が挿入された状態の外層部10及び内層部30の下端部を、容器83内に浸す。この状態で、型81を鉛直上方向(白抜き矢印の方向)に、外層部10の上端部まで引っ張る。すると、外層部10と内層部30との間の隙間SPaのうち、型81が収容されていた部分に対して陰圧が掛かり、当該部分に流体状のパラフィン84aが充填される。
(a6)外層部10と内層部30との間の隙間SPaに充填されたパラフィン84aを、冷やして固化させる。このようにすれば、真空成型の手法によって、中間部20を短時間で、容易に形成できる。また、流体状にされたパラフィンを使用するため、複雑な形状を有する中間部20であっても容易に形成できる。
【0029】
以上のように、第1実施形態の血管モデル1によれば、中空管形状の内層部30によって血管の真腔を模擬できると共に、内層部30よりも外側に配置された外層部10によって血管に生じた偽腔を模擬できる。また、内層部30と外層部10との間には中間部20が配置されており、内層部30、外層部10、及び中間部20は、それぞれ異なる硬度を有している。このため、ガイドワイヤ等の医療デバイスが、真腔を構成する血管壁を模擬した内層部30と、偽腔を構成する血管壁を模擬した外層部10との境界部を通過する際に、内層部30と外層部10との間に設けられた中間部20を通過することで、実際のヒトの血管において、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を再現することができる。特に、本実施形態の血管モデル1では、長手方向の全体、及び、空間SPを除く周方向の全体に中間部20が設けられている。このため、空間SPがある場所を除く血管モデル1の全体において、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を再現できる。この結果、第1実施形態の血管モデル1によれば、真腔と偽腔とを模擬すると共に、医療デバイスが真腔と偽腔の境界部を通過する際の感触を模擬することが可能な血管モデル1を提供できる。
【0030】
また、第1実施形態の血管モデル1によれば、中間部20は、内層部30と外層部10を隔てる肉厚部の端部によって構成され、内層部30と外層部10との間に空間SPを形成する空間形成部201を有している。このため、空間形成部201によって形成された空間SPから、真腔を構成する血管壁を模擬した内層部30の様子を目視で確認することができるため、血管モデル1の使い勝手を向上できる。
【0031】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態の血管モデル1Aの断面構成を例示した説明図である。図7は、図6のC-C線における横断面構成を例示した説明図である。図8は、外層部10及び中間部20Aの展開図である。第2実施形態では、中間部20Aの構成が第1実施形態とは異なる例について説明する。第2実施形態の血管シミュレーション装置100は、血管モデル1に代えて血管モデル1Aを備える。血管モデル1Aは、第1実施形態の構成において、中間部20に代えて中間部20Aを有している。
【0032】
図7に示すように、中間部20Aは、第1中間部23と、第2中間部24とを含んでいる。第1中間部23は、外層部10と内層部30との間であって、+Y軸方向に配置された円弧板状の部材である。血管モデル1Aの周方向において、第1中間部23が設けられている範囲θ21は、任意に決定できる。図6に示すように、第1中間部23の先端は、外層部10及び内層部30の先端と同じ位置にあり、第1中間部23の基端は、外層部10及び内層部30の基端と同じ位置にある。「同じ」とは、製造誤差等に起因した差異を許容する。第2中間部24は、外層部10と内層部30との間であって、-Y軸方向(すなわち、第1中間部23とは逆方向)に配置された円弧板状の部材である。血管モデル1Aの周方向において、第2中間部24が設けられている範囲θ22は、任意に決定できる。図6に示すように、第2中間部24の先端は、外層部10及び内層部30の先端と同じ位置にあり、第2中間部24の基端は、外層部10及び内層部30の基端と同じ位置にある。第1中間部23及び第2中間部24について、各肉厚部の端部201は、空間SP1及び空間SP2を形成する「空間形成部201」である。空間SP1及び空間SP2は、それぞれ、外層部10及び内層部30の先端から、外層部10及び内層部30の基端まで、血管モデル1Aの長手方向に直線状に延びている。なお、第2実施形態の血管モデル1Aは、図5で説明した型81とは異なる形状(円弧板状)の2枚の型を用いて、上述した手順a1~a6と同様の方法で作製できる。
【0033】
このように、中間部20Aの構成は種々の変更が可能であり、中間部20Aは、互いに離間して配置された複数の中間部(図7の例では、第1中間部23及び第2中間部24)を有していてもよい。このような第2実施形態の血管モデル1Aによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0034】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態の血管モデル1Bの断面構成を例示した説明図である。図10は、外層部10及び中間部20Bの展開図である。第3実施形態では、中間部20Bの構成が第1実施形態とは異なる例について説明する。第3実施形態の血管シミュレーション装置100は、血管モデル1に代えて血管モデル1Bを備える。血管モデル1Bは、第1実施形態の構成において、中間部20に代えて中間部20Bを有している。
【0035】
中間部20Bは、外層部10と内層部30との間に配置された略円筒形状の部材である。図10に示すように、中間部20Bを図9のX軸方向に沿って展開した場合、中間部20Bには、複数(図示の例では7つ)の穴が設けられている。中間部20Aの肉厚部のうち、各穴に面した端部201を「空間形成部201」とも呼ぶ。図9に示すように、空間形成部201によって、内層部30と外層部10との間には、図示しない空間SP1及びSP2と、空間SP3~SP7とが形成される。空間SP1~SP7は、それぞれ、矩形形状の外縁を持つ空間である。なお、第3実施形態の血管モデル1Bは、図5で説明した型81とは異なる形状(穴を形成するための矩形形状の突起を有する略円筒形状)の型を用いて、上述した手順a1~a6と同様の方法で作製できる。
【0036】
このように、中間部20Bの構成は種々の変更が可能であり、中間部20Bには穴が形成されており、穴に面した端部201が空間形成部201として機能してもよい。図示の例では、中間部20Bには7つの穴が設けられているとしたが、中間部20Bには1つ以上の任意の数の穴が設けられてよい。また、中間部20Bに設けられる穴の大きさは任意に定めてよく、中間部20Bに設けられる穴の形状は、矩形形状のほか、円形状、多角形状など、種々の形状としてよい。このような第3実施形態の血管モデル1Bによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0037】
<第4実施形態>
図11は、第4実施形態の血管モデル1Cの断面構成を例示した説明図である。図11では、説明の便宜上、本来では断面に表れない中間部20Cの一部分を破線で図示している。第4実施形態では、中間部20Cの構成が第1実施形態とは異なる例について説明する。第4実施形態の血管シミュレーション装置100は、血管モデル1に代えて血管モデル1Cを備える。血管モデル1Cは、第1実施形態の構成において、中間部20に代えて中間部20Cを有している。
【0038】
中間部20Cは、外層部10と内層部30との間に配置されたコイル状の部材である。換言すれば、中間部20Cの肉厚部は、略円形状の横断面を有しており、内層部30の外周面31に沿って、血管モデル1Cの長手方向(X軸方向)に螺旋状に延びている。中間部20Cの肉厚部の表面は、空間SPを形成する「空間形成部201」である。空間SPは、外層部10及び内層部30の先端から、外層部10及び内層部30の基端まで、血管モデル1Cの長手方向に螺旋状に延びている。なお、第4実施形態の血管モデル1Cは、図5で説明した型81とは異なる形状(螺旋形状)の型を用いて、上述した手順a1~a6と同様の方法で作製できる。
【0039】
このように、中間部20Cの構成は種々の変更が可能であり、中間部20Cは、螺旋形状の肉厚部を有する構成とされてもよい。中間部20Cの横断面形状は、略円形状のほか、略楕円形状、略矩形形状等の任意の形状とできる。このような第4実施形態の血管モデル1Cによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第4実施形態の血管モデル1Cによれば、中間部20Cの肉厚部は螺旋形状であるため、中間部20Cを容易に形成できる。
【0040】
<第5実施形態>
図12は、第5実施形態の血管モデル1Dの横断面構成を例示した説明図である。第5実施形態では、外層部10D及び中間部20Dの構成が第1実施形態とは異なる例について説明する。第5実施形態の血管シミュレーション装置100は、血管モデル1に代えて血管モデル1Dを備える。血管モデル1Dは、第1実施形態の構成において、外層部10に代えて外層部10Dを有し、中間部20に代えて中間部20Dを有している。
【0041】
外層部10Dは、第1実施形態と同様に、偽腔を構成する血管壁を模擬し、血管モデル1Dの最も外側に配置されている。外層部10Dは、略C字状の横断面を有する略中空管形状である。図示する血管モデル1Dの横断面において、外層部10Dの両端部は、内層部30の外周面31に接合されている。接合には、エポキシ系接着剤などの任意の接合剤や、溶着等の手段を用いることができる。このように、本実施形態では、外層部10Dは内層部30の外周面31の少なくとも一部を覆っておらず、内層部30の外周面31の一部分は、外部に露出して血管モデル1Dの外周面を構成している。
【0042】
中間部20Dは、外層部10Dと内層部30との間に配置された円弧板状の部材である。中間部20Dの肉厚部の端部201(空間形成部201)は、外層部10D及び内層部30の先端から、外層部10D及び内層部30の基端まで、血管モデル1Dの長手方向に直線状に延びる空間SPを形成している。なお、第5実施形態の血管モデル1Dは、図12で説明した形状を有する外層部10D及び内層部30を用い、図5で説明した型81とは異なる形状(円弧板状)の型を用いて、上述した手順a1~a6と同様の方法で作製できる。
【0043】
このように、外層部10D及び中間部20Dの構成は種々の変更が可能であり、外層部10Dは、内層部30よりも外側に配置されていれば足り、内層部30の外周面の全体を覆っていなくてもよい。このような第5実施形態の血管モデル1Dによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0044】
<第6実施形態>
図13は、第6実施形態の血管モデル1Eの断面構成を例示した説明図である。第6実施形態では、外層部10E及び中間部20Eの構成が第1実施形態とは異なる例について説明する。第6実施形態の血管シミュレーション装置100は、血管モデル1に代えて血管モデル1Eを備える。血管モデル1Eは、第1実施形態の構成において、外層部10に代えて外層部10Eを有し、中間部20に代えて中間部20Eを有している。図13に示すように、外層部10E及び中間部20Eは、内層部30Eと比較して、長手方向(X軸方向)の長さが短い。このため、外層部10Eは内層部30の外周面31の少なくとも一部を覆っておらず、内層部30の外周面31の一部分は、外部に露出して血管モデル1Eの外周面を構成している。このように、外層部10E及び中間部20Eの構成は種々の変更が可能であり、外層部10Eは、内層部30よりも外側に配置されていれば足り、内層部30の外周面の全体を覆っていなくてもよい。このような第6実施形態の血管モデル1Eによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0045】
<第7実施形態>
図14は、第7実施形態の血管モデル1Fの横断面構成を例示した説明図である。第7実施形態では、中間部20Fの構成が第1実施形態とは異なる例について説明する。第7実施形態の血管シミュレーション装置100は、血管モデル1に代えて血管モデル1Fを備える。血管モデル1Fは、中間部20に代えて中間部20Fを有している。中間部20Fは、外層部10及び内層部30と同様の中空管形状であり、第1実施形態で説明した空間形成部201を有していない。このため、血管モデル1Fは、第1実施形態で説明した空間SP(内層部30と外層部10との間の空間)を有していない。このように、中間部20Fの構成は種々の変更が可能であり、空間形成部201を有さない中間部20Fを採用してもよい。このような第7実施形態の血管モデル1Fによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0046】
<第8実施形態>
図15は、第8実施形態の血管モデル1の断面構成を例示した説明図である。第8実施形態では、病変モデル2を含まない血管モデル1について説明する。第8実施形態の血管シミュレーション装置100Gは、第1実施形態で説明した病変モデル2を備えていない。従って、図15に示すように、血管モデル1の内層部30の内周面32には、何も配置されていない状態となる。このように、血管シミュレーション装置100Gの構成は種々の変更が可能であり、第1実施形態で説明した病変モデル2を備えない構成とされてもよい。同様に、血管シミュレーション装置100Gは、第1実施形態で説明した外側組織モデル3を備えない構成とされてもよい。このような第8実施形態の血管シミュレーション装置100G及び血管モデル1によっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0047】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0048】
[変形例1]
上記第1~8実施形態では、血管シミュレーション装置100,100Gの構成の一例を示した。しかし、血管シミュレーション装置100の構成は種々の変更が可能である。例えば、上述した病変モデル2、外側組織モデル3、及び循環ポンプ9の少なくともいずれか1つ以上は省略されてもよい。例えば、血管シミュレーション装置100は、心臓、肝臓、脳等の臓器を模した臓器モデルを有していてもよい。この場合、血管モデル1は、臓器モデルの外側や、内側に設けられていてもよい。例えば、血管シミュレーション装置100は、循環ポンプ9により循環される流体に、脈動を模擬した動きを加えるための脈動ポンプを備えていてもよい。脈動ポンプには、例えば、容積式の往復ポンプや、低速回転された回転ポンプを使用できる。
【0049】
[変形例2]
上記第1~8実施形態では、血管モデル1,1A~1Fの構成の一例を示した。しかし、血管モデル1の構成は種々の変更が可能である。例えば、血管モデル1は、直線状のほか、湾曲形状や、蛇行形状等の任意の形状としてよい。例えば、血管モデル1のうち、外層部10の外周面11や、内層部30の内周面32は、親水性または疎水性を有する樹脂によりコーティングされていてもよい。例えば、血管モデル1は、内層部30の内周面32側において、内皮を模擬した部材をさらに備えていてもよい。
【0050】
[変形例3]
第1~8実施形態の血管シミュレーション装置100,100Gまたは血管モデル1,1A~1Fの構成、及び上記変形例1,2の血管シミュレーション装置100,100Gまたは血管モデル1,1A~1Fの構成は、適宜組み合わせてもよい。例えば、第2~第4実施形態のいずれかで説明した構成を有する中間部20と、第5,6実施形態のいずれかで説明した構成を有する外層部10とを組み合わせてもよい。
【0051】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0052】
1,1A~1F…血管モデル
1a…開口
1b…開口
2…病変モデル
3…外側組織モデル
9…循環ポンプ
10,10D,10E,10H…外層部
11…外周面
12…内周面
20,20A~20F…中間部
21…外周面
22…内周面
23…第1中間部
24…第2中間部
30,30E…内層部
31…外周面
32…内周面
81…型
82…封止部材
84,84a…パラフィン
100,100G…血管シミュレーション装置
201…空間形成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図14
図15