(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/09 20060101AFI20250310BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
G03G9/09
G03G9/097 365
(21)【出願番号】P 2021096043
(22)【出願日】2021-06-08
【審査請求日】2024-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久島 浩史
(72)【発明者】
【氏名】豊田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】磯野 直也
(72)【発明者】
【氏名】長岡 朋弥
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正郎
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-119521(JP,A)
【文献】特開2011-257446(JP,A)
【文献】国際公開第2007/111346(WO,A1)
【文献】特開2009-134259(JP,A)
【文献】特開2010-039291(JP,A)
【文献】特開2015-030813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/09
G03G 9/087
G03G 9/097
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該トナー粒子は、
下記式(1)で表される化合物、及び
キナクリドン構造を有する顔料
を含有することを特徴とするトナー。
[式(1)中、Rは炭素数4~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、nは1~4の整数である。]
【請求項2】
前記トナー中の前記式(1)で表される化合物の含有量が、質量基準で5ppm以上500ppm以下である請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記結着樹脂のSP値(cal/cm
3)
0.5が、9.50以上11.50以下である請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】
前記トナー中の、前記キナクリドン構造を有する顔料の含有量の前記式(1)で表される化合物の含有量に対する質量基準の比(顔料/式(1)の化合物)が、100以上10000以下である請求項1~3のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項5】
前記キナクリドン構造を含有する顔料が、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも一である請求項1~4のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項6】
前記式(1)において、nが1である請求項1~5のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項7】
前記式(1)において、Rが炭素数8~14の直鎖状アルキル基である請求項1~6のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項8】
前記結着樹脂のSP値(cal/cm
3)
0.5が、9.60以上10.60以下である請求項1~7のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項9】
前記トナーの粘弾性測定において、100℃での前記トナーの貯蔵弾性率が、5000Pa以上25000Pa以下である請求項1~8のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項10】
前記トナー粒子が、エステルワックスを含む請求項1~9のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項11】
前記エステルワックスの含有量が、前記結着樹脂100.0質量部に対して、6.0質量部以上14.0質量部以下である請求項10に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真法、静電記録法、トナージェット方式記録法のような方法によって形成される静電潜像を現像してトナー画像を形成するために用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター、ファクシミリの受信装置などに用いられる電子写真技術は装置の発展とともに利用者からの要求も年々厳しくなっている。近年の動向では、広告やデザイン用途が拡大し、出力画像には高い色再現性が必要とされる。そのため、画像形成に用いられるトナーには色域の拡大や着色力の向上が強く求められている。
【0003】
トナーの着色力を向上させる手段としては、トナーに含有される着色剤の分散性を向上させる方法が挙げられる。電子写真技術において、トナーは定着器により熱や圧力を受けることで紙などのメディアに定着される。トナーに含有される着色剤の分散性が向上することで、着色剤によるメディア表面の隠蔽率が向上し、着色力が向上する。着色剤の分散性を向上させる手段として、分散剤を用いることが多い。例えば、特許文献1では、高分子分散剤を混合して着色剤の分散性を向上させたトナーが開示されている。また、特許文献2では、分散剤として、ビニルピリジン単量体単位ブロックを有するブロック共重合体を用いたトナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-084774号公報
【文献】特開2013-205593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの技術により、着色剤の分散性が向上していることが認められる。しかしながら、分子量の高い分散剤を用いた場合、1つの高分子が2つの着色剤の間で橋かけをし、凝集することで十分な分散性を得ることができないことがわかってきた。また、着色剤間での橋かけにより、トナー内部での架橋密度が上昇し、トナーが溶けにくくなるため、紙への定着性が低下する。
【0006】
また、トナーの着色剤として、耐候性と鮮やかな色を具えるキナクリドン構造を有する顔料を用いることが多い。キナクリドン構造はカルボニル基とイミノ基による分子間水素結合を形成し、強固な結晶をもつため、耐候性に優れていると考えられる。しかしながら、キナクリドン構造を有する顔料を着色剤として用いた場合、水素結合による凝集が発生しやすく、着色力が低下することがわかってきた。
本開示は、キナクリドン構造を有する顔料を用いた場合においても、紙への定着性を低下させることなく、顔料の分散性を良化し、着色力が向上したトナーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、結着樹脂を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該トナー粒子は、
下記式(1)で表される化合物及び
キナクリドン構造を有する顔料を含有するトナーに関する。
式(1)中、Rは炭素数4~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、nは1~4の整数である。
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本開示により、キナクリドン構造を有する顔料を用いた場合においても、紙への定着性を低下させることなく、顔料の分散性を良化し、着色力が向上したトナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0011】
以下に、実施態様を具体的に説明する。本開示は、結着樹脂を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該トナー粒子は、
下記式(1)で表される化合物及び
キナクリドン構造を有する顔料を含有するトナーに関する。
式(1)中、Rは炭素数4~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、nは1~4の整数である。
【0012】
【0013】
本発明者らは、少なくとも式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)ともいう)とキナクリドン構造を含有する顔料(以下、キナクリドン顔料ともいう)を含有することで、紙への定着性を低下させることなく、着色力の高いトナーとなることを見出した。詳細なメカニズムについて、本発明者らは以下のように考える。
【0014】
トナーは定着器により熱や圧力を受けることで溶融、変形し、紙に定着するが、トナーが溶融、変形する際に、内部に分散しているキナクリドン顔料は強い外力を受けることになる。キナクリドン顔料が外力を受けた際に、キナクリドン構造のカルボニル基とイミノ基による分子間水素結合が働き、凝集が発生していると考えられる。つまり、紙への定着後の顔料分散性が低下し、着色力の低下が発生している。
【0015】
しかしながら、キナクリドン顔料に加え化合物(1)を含有させることで、顔料の凝集を抑制し、分散性を向上させることができると考えられる。具体的には、定着時にキナクリドン顔料が外力を受けた際に、同時に化合物(1)も外力を受けるが、化合物(1)は分子として存在するために、結着樹脂内部で移動しやすい。化合物(1)のエーテル部位とヒドロキシ基が、イミノ基とカルボニル基に特異的に配位し、キナクリドン顔料の凝集
を抑制すると推定している。
【0016】
式(1)中、Rは炭素数4~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、nは1~4の整数である。化合物(1)において、Rの炭素数が4未満であると、配位した化合物(1)による立体障害が起こりにくく、キナクリドン顔料の凝集抑制が不十分であるため定着後の顔料分散性が低下し、着色力の低下が発生する。また、Rの炭素数が22を超えると、分子量が大きく結着樹脂内部で移動が制限されるため、顔料の凝集抑制効果が得られず定着後の顔料分散性が低下し、着色力の低下が発生する。
【0017】
また、化合物(1)において、nが4を超えると、帯電リークが起こりやすくなるためカブリが発生する。さらに、キナクリドン顔料のイミノ基及びカルボニル基との配位が起こりにくくなるため定着後の顔料分散性が低下し、着色力の低下が発生する。
【0018】
以下にトナーの好ましい形態について説明する。トナー中の式(1)で表される化合物の含有量が、質量基準で5ppm以上500ppm以下であることが好ましい。化合物(1)の含有量が5ppm以上であることで、顔料の分散性が向上しやすい。一方、該含有量が500ppm以下であることで、化合物(1)の親水部位によるトナーの吸湿を適度に保ち、高湿環境での帯電低下を抑制する。より好ましくは10ppm以上250ppm以下である。化合物(1)の含有量は添加量により制御することができる。
【0019】
また、結着樹脂のSP値(cal/cm3)0.5が9.50以上11.50以下であることが好ましい。SP値が上記範囲にあることで、化合物(1)が移動しやすく、キナクリドン顔料の凝集抑制効果が高い。SP値は、より好ましくは、9.60以上10.60以下である。結着樹脂のSP値は樹脂を構成するモノマーの種類、比率によって制御することができる。
【0020】
また、トナー中の、キナクリドン構造を有する顔料の含有量の式(1)で表される化合物の含有量に対する質量基準の比(顔料/式(1)の化合物)が100以上10000以下であることが好ましい。顔料の凝集抑制効果を発現しつつも、高湿環境での帯電低下を抑制できるからである。より好ましくは、200以上5000以下である。
【0021】
また、キナクリドン構造を有する顔料が、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも一であることが好ましく、C.I.ピグメントレッド122、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも一であることがより好ましい。イミノ基とカルボニル基以外に強い水素結合部位が存在しないため、化合物(1)が特異的に配位しやすいためである。
【0022】
また、式(1)で表される化合物のnが、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。nが1であることで親水性が低くなり、結着樹脂内部で動きやすくなり、キナクリドン顔料への特異的な配位を発現しやすくなる。
【0023】
また、式(1)で表される化合物のRは、直鎖状であることが好ましく、炭素数8~14の直鎖状アルキル基であることがより好ましい。顔料の凝集抑制効果を発現しつつも、結着樹脂内部で化合物(1)が動きやすくなるためである。さらに好ましくは炭素数10~12である。
【0024】
また、トナーの粘弾性測定において、100℃でのトナーの貯蔵弾性率が5000Pa以上25000Pa以下であることが好ましい。定着時の紙と定着器との分離性や紙への定着性を維持しつつも、結着樹脂内部で化合物(1)が移動しやすくなるためである。よ
り好ましくは、該貯蔵弾性率は7000Pa以上20000Pa以下である。貯蔵弾性率はワックスや結晶性ポリエステルなどの結晶性材料の種類、添加量、又は結着樹脂のTg、分子量調整により制御できる。
【0025】
トナー粒子の製造方法は特に限定されず、公知の方法を採用しうる。結着樹脂内部に効率よく化合物(1)を取り込む観点から、懸濁重合法、乳化凝集法、溶解懸濁法などの水系媒体中でトナー粒子を製造する方法が好ましい。
【0026】
[結着樹脂]
結着樹脂は特に限定されることはなく、従来トナーに用いられる樹脂を使用することができる。例えば、ポリエステル樹脂;ビニル系樹脂;ポリアミド樹脂;フラン樹脂;エポキシ樹脂;キシレン樹脂;シリコーン樹脂などが挙げられる。SP値の観点から、好ましくは、結着樹脂はビニル系樹脂及びポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも一を含む。結着樹脂はビニル系樹脂であることがより好ましい。トナー粒子は、コア粒子及び該コア粒子表面のシェルを有するコアシェル構造を有することも好ましい態様である。コア粒子に含まれる結着樹脂がビニル系樹脂であり、シェルがポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0027】
ビニル系樹脂を形成し得る重合性単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼンのようなスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシルのような不飽和カルボン酸エステル(例えば、アルキル基の炭素数1~24の(メタ)アクリル酸アルキルエステル);アクリル酸、メタクリル酸のような不飽和カルボン酸;マレイン酸のような不飽和ジカルボン酸;マレイン酸無水物のような不飽和ジカルボン酸無水物;アクリロニトリルのようなニトリル系ビニル単量体;塩化ビニルのような含ハロゲン系ビニル単量体;ニトロスチレンのようなニトロ系ビニル単量体;などが挙げられる。
【0028】
これらは単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。ビニル系樹脂は、スチレン及び不飽和カルボン酸エステルを含むモノマーの共重合体が好ましい。
【0029】
トナー粒子の構成分子の分子量を制御するために、トナー粒子に架橋剤を用いることもできる。架橋剤としては、2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物を用いることができる。具体的には、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンのような芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレートのような二重結合を2個有するカルボン酸エステル;ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン等のジビニル化合物;及び3個以上のビニル基を有する化合物が挙げられる。これらの架橋剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。
これらの架橋剤は、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上10質量部以下の範囲、より好ましくは0.10質量部以上5質量部以下の範囲で用いる。
【0030】
ポリエステル樹脂を用いる場合は、公知のポリエステル樹脂を用いることができる。具体例として、二塩基酸やその誘導体(カルボン酸ハロゲン化物、エステル、酸無水物)及び二価のアルコールの縮重合物が挙げられる。必要に応じて三価以上の多塩基酸及びその誘導体(カルボン酸ハロゲン化物、エステル、酸無水物)、一塩基酸、三価以上のアルコール、一価のアルコールなどを用いてもよい。
【0031】
二塩基酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、蓚酸、マロン酸、コ
ハク酸、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン-1,10-ジカルボン酸などの脂肪族二塩基酸;フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸、ヘット酸、ハイミック酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族の二塩基酸;などが挙げられる。
また、二塩基酸の誘導体としては、上記脂肪族二塩基酸及び芳香族二塩基酸のカルボン酸ハロゲン化物、エステル化物及び酸無水物などが挙げられる。
【0032】
一方、二価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの非環式の脂肪族ジオール類;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類;ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などのビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物;キシリレンジグリコールなどのアラルキレングリコール類;イソソルビド;などが挙げられる。
三価以上の多塩基酸やその無水物としては、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸などが挙げられる。
【0033】
[着色剤]
キナクリドン顔料としては特に制限されず、公知のキナクリドン構造を有する顔料を採用しうる。キナクリドン構造とは、例えば、下記式(A)で示されるキナクリドン骨格をいう。キナクリドン構造を有する顔料は、例えば、式(A)で示されるキナクリドン骨格を有する顔料である。キナクリドン構造を有する顔料は、好ましくは、無置換の式(A)で示される顔料及び式(A)のうち任意の水素原子が任意の置換基で置換された顔料からなる群から選択される少なくとも一である。任意の置換基は、炭素数1~4(好ましくは1又は2、より好ましくは1)のアルキル基、ハロゲン原子(好ましくはCl)、オキソ基(=O)などからなる群から選択される少なくとも一である。
【化3】
【0034】
キナクリドン顔料は、例えば、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントレッド207、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントオレンジ48,C.I.ピグメントオレンジ49からなる群から選択される少なくとも一を使用しうる。キナクリドン顔料は、好ましくはマゼンタ着色剤又はバイオレット着色剤である。
【0035】
着色剤の含有量は、結着樹脂100.0質量部に対して、0.1質量部以上30.0質量部以下が好ましく、1.0質量部以上15.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以上8.0質量部以下がさらに好ましい。
【0036】
[ワックス]
トナー粒子はワックスを含むことが好ましい。ワックスとしては、例えば以下のものが挙げられる。低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、アルキレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスなどの炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合物;カルナバワックスなどの脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスなどの脂肪酸エステル類を一部又は全部を脱酸化したもの。
【0037】
さらに、以下のものが挙げられる。パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸などの飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸などの不飽和脂肪酸類;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの飽和アルコール類;ソルビトールなどの多価アルコール類;パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などの脂肪酸類と、ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどのアルコール類とのエステル類;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどの飽和脂肪酸ビスアミド類;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’ジオレイルセバシン酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド類;m-キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’ジステアリルイソフタル酸アミドなどの芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸などのビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;ベヘニン酸モノグリセリドなどの脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂の水素添加によって得られるヒドロキシ基を有するメチルエステル化合物。
【0038】
これらのワックスの中でも、低温定着性、耐定着巻きつき性を向上させるという観点で、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの炭化水素系ワックス;パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などの脂肪酸類と、ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどのアルコール類とのエステルワックスが好ましい。
【0039】
より好ましくは、トナー粒子はエステルワックスを含む。ワックス(好ましくはエステルワックス)の含有量は、結着樹脂100.0質量部に対して、0.5質量部以上25.0質量部以下が好ましく、3.0質量部以上20.0質量部以下がより好ましく、4.0質量部以上17.0質量部以下がさらに好ましく、6.0質量部以上14.0質量部以下がさらにより好ましく、8.0質量部以上12.0質量部以下が特に好ましい。
【0040】
また、トナーの保存性と耐高温オフセット性の両立の観点から、示差走査熱量分析装置(DSC)で測定される昇温時の吸熱曲線において、温度30℃以上200℃以下の範囲に存在する、ワックスの最大吸熱ピークのピーク温度が50℃以上110℃以下であることが好ましい。
【0041】
[荷電制御剤]
トナーには、必要に応じて荷電制御剤を含有させることもできる。荷電制御剤としては、公知のものが利用できる。荷電制御剤はトナー粒子に対して内添してもよいし外添してもよい。荷電制御剤の添加量は、結着樹脂100.0質量部に対して、0.2質量部以上
10.0質量部以下が好ましい。
【0042】
[キャリア]
トナーは、長期にわたり安定した画像が得られるという点で、磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として用いてもよい。磁性キャリアとしては、下記のような公知のものを使用できる。表面を酸化した鉄粉、或いは、未酸化の鉄粉や、鉄、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、クロム、希土類などの金属粒子、それらの合金粒子、酸化物粒子、フェライト等の磁性体や、磁性体と、この磁性体を分散した状態で保持する結着樹脂とを含有する磁性体分散樹脂キャリア(いわゆる樹脂キャリア)。
【0043】
[無機微粒子]
トナー粒子は、そのままトナーとして用いてもよいし、必要に応じて、トナー粒子に各種無機微粒子を外添して、トナーとしてもよい。無機微粒子としては、例えば、以下のようなものが用いられる。シリカ、金属酸化物(例えばチタン酸ストロンチウム、酸化セリウム、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化クロム)、窒化物(例えば窒化ケイ素)、金属塩(例えば硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム)。
【0044】
無機微粒子は、トナーの流動性の改良及びトナー粒子の帯電均一化のために疎水化処理することもできる。無機微粒子の疎水化処理の処理剤としては、未変性のシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、未変性のシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機ケイ素化合物、有機チタン化合物が挙げられる。これらの処理剤は単独で使用してもよいし、併用してもよい。
【0045】
トナー粒子の製造方法は、どのような製造方法であっても構わないが、懸濁重合法によって製造されることが好ましい。例えば、結着樹脂を生成する重合性単量体、式(1)で表される化合物、キナクリドン構造を含有する顔料及び必要に応じてワックスなどその他の添加剤を混合して重合性単量体組成物を得る。その後、この重合性単量体組成物を連続相(例えば、水系媒体(必要に応じて、分散安定剤を含有させてもよい。))中に加える。そして、連続相中(水系媒体中)で重合性単量体組成物の粒子を形成し、該粒子に含有される重合性単量体を重合させる。こうすることによって、トナー粒子を得ることができる。
以下、各種物性の測定方法について説明する。
【0046】
<結着樹脂、着色剤の同定と定量>
トナーに含有される樹脂や着色剤などの構成化合物の組成と比率の同定は、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析計(以下、「熱分解GC/MS」とも称する)及びNMRを用いる。なお、トナーに含有される樹脂を単独で入手できる場合は単独で測定することもできる。
【0047】
サンプルが樹脂の場合、樹脂の構成化合物の種類の分析には熱分解GC/MSが用いられる。樹脂を550℃~700℃で熱分解させた際に生じる、樹脂の分解物の成分のマススペクトルを分析する事で構成化合物の種類を同定する。具体的な測定条件は以下の通りである。
[熱分解GC/MSの測定条件]
熱分解装置:JPS-700(日本分析工業)
分解温度:590℃
GC/MS装置:Focus GC/ISQ (Thermo Fisher)
カラム:HP-5MS 長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
注入口温度:200℃
フロー圧:100kPa
スプリット:50mL/min
MSイオン化:EI
イオン源温度:200℃ Mass Range 45-650
【0048】
続いて同定した樹脂の構成化合物の存在量比を、固体1H-NMRで測定・算出する。構造決定は、核磁気共鳴分光分析(1H-NMR)[400MHz、CDCl3、室温(25℃)]を用いて行う。
測定装置:FT NMR装置 JNM-EX400(日本電子社製)
測定周波数:400MHz
パルス条件:5.0μs
周波数範囲:10500Hz
積算回数:1024回
【0049】
得られたスペクトルの積分値から各モノマー成分のmol比を求め、これを基に組成比(質量%)を算出する。
【0050】
<式(1)で表される化合物の含有量>
[抽出サンプルの作製]
トナーを2g、エタノールを18g加え、手振りで均一化した後、5min間超音波照射する。その後、60℃の恒温槽内で一昼夜静置し、さらに室温で3日間静置した。静置後のサンプルの上澄みを採取してPTFE製のシリンジフィルター(孔径250nm)で濾過し、濾液を抽出サンプルとする。
【0051】
[GC/MS分析]
GC/MS装置は、GC TRACE―1310(Thermo Scientific社製)、検出器は、シングル四重極分析計MS ISQ LT(Thermo Scientific社製)、オートサンプラーは、TRIPLUS RSH(Thermo Scientific社製)を使用する。測定は、下記に示す条件で行う。
サンプル量:1μL(液打ち)
カラム:HP5―MS(Agilent Technologies社製)
長さ:30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
スプリット比:10
スプリットフロ―:15mL/min
注入口温度:250℃
カラム内のヘリウムガスの流速:1.5mL/min
MSイオン化:EI
カラム温度条件:40℃で3min保持し、続いて10℃/minで300℃まで上昇させ、10min間保持する。
イオン源ソース温度:250℃
Mass Range:m/z45-1000
搬送ライン温度:250℃
【0052】
[検量線の作成]
エタノール溶液中における化合物(1)の濃度が、10ppm、50ppm、100ppm、250ppmとなるように検量線作成用サンプルを調製する。これらのサンプルを前記条件にて測定し、脂肪族アルコールに由来するピークの面積値から検量線を作成した。化合物の構造は、上記の抽出物をFT NMR装置 JNM-EX400(日本電子社製)[1H-NMR 400MHz、CDCl3、室温(25℃)](13C-NMR等も
併用する)を用いて分析し、構造決定した。上記方法で得られた情報をもとに化合物のトナーに対する含有量(質量基準)を算出する。
【0053】
<SP値の算出方法>
SP値は、Fedorsによって提案された算出方法に従い、以下のようにして求める。それぞれの重合性単量体について、分子構造中の原子又は原子団に対して、「Polym.Eng.Sci.,14(2),147-154(1974)」に記載の表から蒸発エネルギー(Δei)(cal/mol)及びモル体積(Δvi)(cm3/mol)を求め、(ΣΔei/ΣΔvi)0.5をSP値(cal/cm3)0.5とする。
【0054】
結着樹脂のSP値は結着樹脂を構成する重合性単量体に由来するモノマーユニットの蒸発エネルギー(Δei)及びモル体積(Δvi)をモノマーユニット毎に求め、各モノマーユニットの結着樹脂におけるモル比(j)との積をそれぞれ算出し、各モノマーユニットの蒸発エネルギーの総和をモル体積の総和で割ることによって求め、{(Σj×ΣΔei)/(Σj×ΣΔvi)}0.5をSP値(cal/cm3)0.5とする。
【0055】
<トナーの貯蔵弾性率>
測定装置としては、回転平板型レオメーター「ARES」(TA INSTRUMENTS社製)を用いる。測定試料としては、25℃の環境下で、錠剤成型器を用いて、トナー(0.1g)を直径7.9mm、厚さ2.0±0.3mmの円板状に加圧成型した試料を用いる。加圧成型の条件は、15MPa、60秒で実施する。
【0056】
該試料をパラレルプレートに装着し、室温(25℃)から120℃に15分間で昇温して、試料の形を整えた後、粘弾性の測定開始温度まで冷却し、測定を開始する。この際、初期のノーマルフォースが0になるようにサンプルをセットする。また、以下に述べるように、その後の測定においては、自動テンション調整(Auto Tension Adjustment ON)にすることで、ノーマルフォースの影響をキャンセルできる。
【0057】
測定は、以下の条件で行う。
(1) 直径7.9mmのパラレルプレートを用いる。
(2) 周波数(Frequency)は1.0Hzとする。
(3) 印加歪初期値(Strain)を0.1%に設定する。
(4) 30~200℃の間を、昇温速度(Ramp Rate)2.0℃/minで測定を行う。なお、測定においては、以下の自動調整モードの設定条件で行う。自動歪み調整モード(Auto Strain)で測定を行う。
(5) 最大歪(Max Applied Strain)を20.0%に設定する。
(6) 最大トルク(Max Allowed Torque)200.0g・cmとし、最低トルク(Min Allowed Torque)0.2g・cmと設定する。
(7) 歪み調整(Strain Adjustment)を 20.0% of Current Strain と設定する。測定においては、自動テンション調整モード(Auto Tension)を採用する。
(8) 自動テンションディレクション(Auto Tension Direction)をコンプレッション(Compression)と設定する。
(9) 初期スタティックフォース(Initial Static Force)を10.0g、自動テンションセンシティビティ(Auto Tension Sensitivity)を40.0gと設定する。
(10) 自動テンション(Auto Tension)の作動条件は、サンプルモデュラス(Sample Modulus)が1.0×103(Pa)以上である。
上記測定により、100℃での貯蔵弾性率を求める。
【0058】
<トナー粒子の重量平均粒径(D4)の測定方法>
トナー粒子の重量平均粒径(D4)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター(株)製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター(株)製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター(株)製)が使用できる。
【0059】
なお、測定、解析を行う前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行う。前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50,000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター(株)製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1,600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μm以上60μm以下に設定する。具体的な測定法は以下のとおりである。
【0060】
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに前記電解水溶液約30mLを入れ、この中に分散剤として下記の希釈液を約0.3mL加える。
・希釈液:「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業(株)製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力が120Wである下記の超音波分散器の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2mL添加する。
・超音波分散器:「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス(株)製)
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が15℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50,000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。なお、実施例及び比較例の部数は特に断りが無い場合、すべて質量基準である。
【0062】
<結着樹脂用ポリエステル樹脂1の製造>
窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、表1に示す使用量のモノマーを入れた後、触媒としてジブチル錫オキサイドをモノマー総量100部に対して1.5部添加した。次いで、窒素雰囲気下にて常圧で180℃まで素早く昇温した後、180℃から210℃まで10℃/時間の速度で加熱しながら水を留去して重縮合を行った。210℃に到達してから反応槽内を5kPa以下まで減圧し、210℃、5kPa以下の条件下にて重縮合を行い、ポリエステル樹脂1を得た。
【0063】
<結着樹脂用ポリエステル樹脂2の製造>
表1に示すような原料に変更すること以外はポリエステル1と同様の製造方法でポリエステル樹脂2を作製した。
【表1】
BPA-PO:ビスフェノールAのプロピレンオキサイド2mol付加物
【0064】
<式(1)で表される化合物の構造>
式(1)で表される化合物の構造について表2に示す。
【表2】
【0065】
<トナー1の製造>
(シェル用ポリエステル樹脂Aの製造)
減圧装置、水分離装置、窒素ガス導入装置、温度測定装置、撹拌装置を備えたオートクレーブ中に以下の材料を添加した。
・テレフタル酸 32.3部(50.0モル%)・ビスフェノールA-プロピレンオキサイド2モル付加物67.7部(50.0モル%)・シュウ酸チタンカリウム(触媒) 0.02部
続いて、窒素雰囲気下、常圧下220℃で所望の分子量に到達するまで反応を行った。降温後粉砕し、ポリエステル樹脂Aを得た。
【0066】
(分散液の調製)
造粒タンクに、イオン交換水100.0部、リン酸ナトリウム2.0部、及び10質量
%塩酸0.9部を添加し、リン酸ナトリウム水溶液を作製し、50℃に加温した。この造粒タンクに、イオン交換水8.2部に塩化カルシウム6水和物1.2部を溶解し作製した塩化カルシウム水溶液を添加し、TK式ホモミキサー(商品名、特殊機化工業製)を用いて周速25m/sにて30分撹拌した。これにより、難水溶性無機微粒子として、リン酸カルシウム(の微粒子)を含有する分散液(水分散液)を得た。
【0067】
(顔料分散組成物の調製)
重合性単量体(スチレン) 39.0部
着色剤(C.I.ピグメントレッド122) 5.0部
化合物a 0.0028部
上記材料を、アトライター(日本コークス社製)に導入し、半径1.25mmのジルコニアビーズを用いて200rpmにて25℃で180分間撹拌を行い、顔料分散組成物を調製した。
【0068】
(着色剤含有組成物の調製)
下記材料を同一容器内に投入し、TK式ホモミキサー(商品名、特殊機化工業製)を用いて、周速20m/sにて混合及び分散した。
・上記顔料分散組成物 44.0028部
・重合性単量体:スチレン 31.0部
・重合性単量体:n-ブチルアクリレート 30.0部
・ポリエステル樹脂A 2.0部
・架橋剤:ジビニルベンゼン 0.5部
さらに、60℃に加温した後、ワックス:ベヘン酸ベヘニル 10.0部を投入し、30分間分散及び混合を行い、着色剤含有組成物を調製した。
【0069】
(重合性単量体組成物粒子の作製)
リン酸カルシウム微粒子を含有する分散液中に、上記着色剤含有組成物を投入し、温度60℃、窒素雰囲気下において、TK式ホモミキサー(商品名、特殊機化工業製)にて周速30m/sで撹拌した。これに、重合開始剤t-ブチルパーオキシピバレート(日本油脂社製、商品名「パーブチルPV」、分子量:174.2、10時間半減期温度:58℃)9.0部を添加し、重合性単量体組成物粒子を含む分散液を調製した。
【0070】
次に、上記重合性単量体組成物粒子の分散液を別のタンクに移し、パドル撹拌翼で撹拌しつつ温度70℃に昇温し、70℃で5時間反応させた後、液温85℃とし、さらに2時間反応させた。その後、撹拌を保持したままpHが1.5になるまで希塩酸を加えて分散安定剤を溶解させた。固形分をろ別し、イオン交換水で充分に洗浄した後、40℃で24時間真空乾燥して、重量平均粒径(D4)6.8μmのトナー粒子1を得た。
【0071】
(外添工程)
上記より得たトナー粒子1の100部に対して、疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製、RY50)1.5部を加え、三井ヘンシェルミキサ(三井三池化工機社製)を用いて混合した。その後、目開き45μmの振動篩いで篩分してトナー1を得た。
【0072】
<トナー2~13の製造>
トナー1の顔料分散組成物の調製において、着色剤の種類、添加した化合物の種類、添加量を表3の通り変更した。また、着色剤含有組成物の調製において、ワックス:ベヘン酸ベヘニルの添加量を変更すること以外は同様にして、トナー2~13を得た。
【0073】
【表3】
表中、略称は以下の通り。
PR122:C.I.ピグメントレッド122
PV19:C.I.ピグメントバイオレット19
PV202:C.I.ピグメントレッド202
PV238:C.I.ピグメントレッド238
【0074】
<トナー14の製造>
トナー1の顔料分散組成物の調製において、着色剤の種類を表3の通り変更した。また、トナー1の着色剤含有組成物の調製において、重合性単量体を以下のように変更した以外は同様にしてトナー14を得た。
・重合性単量体:スチレン 16.0部
・重合性単量体:ベヘニルアクリレート 35.0部
・重合性単量体:メチルメタクリレート 10.0部
【0075】
<トナー15の製造>
トナー1の顔料分散組成物の調製において、着色剤の種類を表3の通り変更した。また、トナー1の着色剤含有組成物の調製において、重合性単量体を以下のように変更した以外は同様にしてトナー15を得た。
・重合性単量体:スチレン 26.0部
・重合性単量体:ベヘニルアクリレート 30.0部
・重合性単量体:メチルメタクリレート 5.0部
【0076】
<トナー16の製造>
(ポリエステル樹脂粒子分散液の調製)
・ポリエステル樹脂1 200.0部
・イオン交換水 500.0部
上記材料をステンレス製の容器に入れ、温浴下95℃まで加熱溶融し、ホモジナイザー(IKA社製:ウルトラタラックスT50)を用いて7800rpmで十分撹拌しながら、0.1mol/L炭酸水素ナトリウムを加えpHを7.0よりも大きくした。その後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部とイオン交換水297部の混合溶液を徐々に滴下し乳化分散することでポリエステル樹脂粒子分散液を得た。このポリエステル樹脂粒子分散液の粒度分布を、粒度測定装置(堀場製作所製、LA-950)を用いて測定したところ、含まれるポリエステル樹脂粒子分散液の個数平均粒径は、0.25μmであり、また1μmを超える粗大粒子は観察されなかった。
【0077】
(ワックス粒子分散液の調製)
・イオン交換水 500.0部
・ベヘン酸ベヘニル 250.0部
上記材料をステンレス製の容器に入れ、温浴下95℃まで加熱溶融し、ホモジナイザー(IKA社製:ウルトラタラックスT50)を用いて7800rpmで十分撹拌しながら、0.1mol/L炭酸水素ナトリウムを加えpHを7.0よりも大きくした。その後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部とイオン交換水245部の混合溶液を徐々に滴下し乳化分散を行った。このワックス粒子分散液に含まれるワックス粒子の粒度分布を、粒度測定装置(堀場製作所製、LA-920)を用いて測定したところ、含まれるワックス粒子の個数平均粒径は、0.35μmであり、また1μmを超える粗大粒子は観察されなかった。
【0078】
(着色剤粒子分散液の調製)
・着色剤(C.I.ピグメントレッド122) 100.0部
・ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 5.0部
・化合物a 0.85部
・イオン交換水 400.0部
以上を混合し、サンドグラインダーミルを用いて分散した。この着色剤粒子分散液に含まれる着色剤粒子の粒度分布を、粒度測定装置(堀場製作所製、LA-920)を用いて測定したところ、含まれる着色剤粒子の個数平均粒径は、0.2μmであり、また1μmを超える粗大粒子は観察されなかった。
【0079】
(トナー粒子16の製造)
・ポリエステル樹脂粒子分散液 500.0部
・着色剤粒子分散液 25.5部
・ワックス粒子分散液 40.0部
・ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 5.0部
反応器(容積1リットルフラスコ、バッフル付きアンカー翼)にポリエステル樹脂粒子分散液、ワックス粒子分散液及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを仕込み、均一に混合する。一方、500mLビーカーに着色剤粒子分散液を均一に混合しておき、これを撹拌しながら反応器に徐々に添加し混合分散液を得る。得られた混合分散液を撹拌しながら硫酸アルミニウム水溶液を固形分として1部、滴下し凝集粒子を形成させた。
滴下終了後、窒素を用いて系内を置換し、50℃にて1時間、さらに55℃にて1時間保持した。その後昇温して90℃にて30分保持した。その後、63℃まで降温したのち
3時間保持させ、融合粒子を形成させた。所定時間終了後、毎分0.5℃の降温速度にて常温(約25℃)まで冷却し、洗浄・ろ過・固液分離した後、真空乾燥機を用いて乾燥することでトナー粒子16を得た。
【0080】
(外添工程)
上記トナー粒子16を用いた以外はトナー粒子1の外添工程と同様にしてトナー16を得た。
【0081】
<トナー17の製造>
トナー16のポリエステル樹脂粒子分散液の調製において、ポリエステル樹脂1をポリエステル樹脂2に変更した。また、着色剤粒子分散液の調製において、化合物aを0.95部に変更した以外は同様にしてトナー17を得た。
【0082】
<トナー18の製造>
トナー16の着色剤粒子分散液の調製において、化合物aを1.10部に変更した以外は同様にしてトナー18を得た
【0083】
<トナー19の製造>
(分散液の調製)
造粒タンクに、イオン交換水250.0部、塩化マグネシウム10.2部を溶解し、塩化マグネシウム水溶液を作製した。この造粒タンクに、イオン交換水50.0部に水酸化ナトリウム6.2部を溶解した水溶液を、TK式ホモミキサー(商品名、特殊機化工業製)を用いて周速25m/sにて撹拌しながら、徐々に添加し、水酸化マグネシウム(の微粒子)を含有する分散液を得た。
【0084】
(顔料分散組成物の調整)
重合性単量体(スチレン) 39.0部
着色剤(C.I.ピグメントレッド122) 5.0部
化合物a 0.003部
上記材料を、アトライター(日本コークス社製)に導入し、半径1.25mmのジルコニアビーズを用いて200rpmにて25℃で180分間撹拌を行い、顔料分散組成物を調製した。
【0085】
(着色剤含有組成物の調製)
下記材料を同一容器内に投入し、TK式ホモミキサー(商品名、特殊機化工業製)を用いて、周速20m/sにて混合及び分散した。
・上記顔料分散組成物 44.003部
・重合性単量体:スチレン 31.0部
・重合性単量体:n-ブチルアクリレート 30.0部
・帯電制御剤:FCA-5(商品名、藤倉化成製) 1.2部
・架橋剤:ジビニルベンゼン 0.5部
さらに、60℃に加温した後、ワックス:ベヘン酸ベヘニル 10.0部を投入し、30分間分散及び混合を行い、着色剤含有組成物を調製した。
【0086】
(重合性単量体組成物粒子の作製)
水酸化マグネシウム微粒子を含有する分散液中に上記着色剤含有組成物を投入し、温度60℃、窒素雰囲気下において、TK式ホモミキサー(商品名、特殊機化工業製)にて周速30m/sで撹拌した。これに、重合開始剤t-ブチルパーオキシピバレート(日本油脂社製、商品名「パーブチルPV」、分子量:174.2、10時間半減期温度:58℃)9.0部を添加し、重合性単量体組成物粒子を含む分散液を調製した。
【0087】
次に、上記重合性単量体組成物粒子の分散液を別のタンクに移し、パドル撹拌翼で撹拌しつつ温度70℃に昇温し、重合反応させた。重合性単量体の転化率が95%に達したときに、90℃へ昇温し、シェル用重合性単量体としてメチルメタクリレート2.0部、及び水溶性開始剤としてイオン交換水10部に2,2'-アゾビス(N-ブチル-2-メチ
ルプロピオンアミド)0.2部を溶解した水溶液を添加した。90℃で3時間重合反応させ、トナー粒子19を含む重合反応液(重合スラリー)を得た。
【0088】
冷却後、硫酸を加えpHを6.5以下にし、2時間撹拌し、トナー粒子表面の難水溶性無機微粒子を溶解した。トナー粒子の分散液を濾別し、水洗後、温度40℃にて48時間乾燥し重量平均粒径(D4)6.8μmのコアシェル構造を有するトナー粒子19を得た。
【0089】
(外添工程)
トナー粒子19:100.0部、乾式シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA90」:正帯電性疎水化処理されたシリカ粒子)1.5部を、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて3分間混合し、トナー粒子19にシリカ粒子を付着させた。その後、300メッシュ(目開き48μm)で篩い、トナー19を得た。
【0090】
<トナー20~24の製造>
トナー1の顔料分散組成物の調製において、着色剤の種類、添加した化合物の種類、添加量を表3の通り変更した。また、トナー1の着色剤含有組成物の調製において、重合性単量体をトナー14のように変更した以外は同様にして、トナー20~24を得た。なお、表3中「無」と記載のトナー21は化合物(1)を添加していない。
【0091】
<トナー1~24の物性>
トナー1~24を用いて上述した各種物性の測定を実施し、得られた物性を表4に示す。
【表4】
【0092】
<画像評価>
画像形成装置として、ヒューレットパッカード製のカラーレーザービームプリンター(HP LaserJet Enterprise Color M652n)を用い、プロセススピードが300mm/secとなるように改造を施した。カートリッジとして、HP 656X純正LaserJetトナーカートリッジ(マゼンタ)を用いた。カートリッジ内部から製品トナーを抜き取り、エアブローによって清掃した後、評価するトナーを300g充填した。上記カートリッジを用い、下記の試験を行うことによりトナーを評価した。上記カートリッジを、マゼンタステーションに装着し、その他にはダミーカートリッジを装着することで評価を実施した。なお、トナー19のみ正帯電性トナーであるため、正帯電性トナーの現像が可能になるよう、各種電位設定を変更した。
【0093】
〔カブリ評価〕
トナー300gを40℃95%RHで30日間恒温槽に放置し、苛酷放置後のトナーを評価した。評価条件は、高温高湿環境下(温度32℃/湿度85%RH)において、非画像部の反射率(%)をREFLECTOMETER MODEL TC-6DS」(東京電色社製)で測定した。得られた反射率を、同様にして測定した未使用のプリントアウト用紙(標準紙)の反射率(%)から差し引いた数値(%)を用いて評価した。数値が小さい程、画像カブリが抑制されていることになる。評価は、グロス紙モードで、普通紙(H
P Brochure Paper 200g, Glossy、HP社製、200g/m2)を用いて行った。
(評価基準)
A:反射率の差0.5%未満
B:反射率の差0.5%以上1.5%未満
C:反射率の差1.5%以上3.0%未満
D:反射率の差3.0%以上
【0094】
〔画像濃度〕
トナーの着色力はベタ画像(トナーの載り量:0.8mg/cm2)の画像濃度により評価した。なお、画像濃度の測定には「マクベス反射濃度計RD918」(マクベス社製)を用いて、原稿濃度が0.00の白下地部分のプリントアウト画像に対する相対濃度を測定した。記録媒体としては、LETTERサイズの普通紙(XEROX 4200、XEROX社製、75g/m2)を使用した。
(評価基準)
A:画像濃度1.45以上
B:画像濃度1.30以上1.45未満
C:画像濃度1.15以上1.30未満
D:画像濃度1.15未満
【0095】
〔低温定着性〕
記録媒体としては、LETTERサイズの普通紙(XEROX 4200、XEROX社製、75g/m2)を使用した。次いで、充填したトナーを用いて、トナー載り量0.20mg/cm2となるように縦2.0cm、横15.0cmの未定着画像を、通紙方向に対し上端部から1.0cmの部分に形成した。次いで、取り外した定着ユニットを定着温度とプロセススピードを調節できるように改造し、これを用いて未定着画像の定着試験を行った。
【0096】
まず、常温常湿環境下(23℃、60%RH)、プロセススピードを300mm/s、定着線圧27.4kgfに設定し、各温度で上記未定着画像の定着を行った。低温定着性の評価基準は以下の通りである。低温側定着開始点とは、画像の表面を4.9kPa(50g/cm2)の荷重をかけたシルボン紙(ダスパー K-3)で0.2m/秒の速度で5回摺擦したときに、摺擦前後の画像濃度の濃度低下率が10.0%以下になる最低温度(低温側定着開始点)のことである。定着がしっかり行われない場合には、上記画像濃度の低下率は増える傾向にある。
(評価基準)
A:低温側定着開始点が120℃未満
B:低温側定着開始点が120℃以上135℃未満
C:低温側定着開始点が135℃以上150℃未満
D:低温側定着開始点が150℃以上
【0097】
〔分離性〕
トナーの分離性は、定着時に巻き付きが起こるかを目視で観測し、評価した。高温高湿環境下(温度32℃/湿度85%RH)において、普通紙(XEROX 4200、XEROX社製、75g/m2)の長手方向に先端余白3mm開けてベタ画像(トナーの載り量:0.8mg/cm2)を出力し、設定温度を5℃ずつ順次昇温させながら、各定着温度で定着を行う。巻き付きが起こらない上限の温度を定着分離可能温度とした。定着分離可能温度を下記評価基準に従って評価した。
(評価基準)
A:定着分離可能温度160℃以上
B:定着分離可能温度150℃以上160℃未満
C:定着分離可能温度140℃以上150℃未満
D:定着分離可能温度140℃未満
【0098】
〔実施例1~19〕
実施例1~19では、トナーとして、トナー1~19をそれぞれ用いて上記評価を行った。その評価結果を表5に示す。
【0099】
〔比較例1~5〕
比較例1~5では、トナーとしてトナー20~24をそれぞれ用いて上記評価を行った。その評価結果を表5に示す。
【0100】