(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】センサ素子及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20250310BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20250310BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/419 327J
G01N27/409 100
(21)【出願番号】P 2021173915
(22)【出願日】2021-10-25
【審査請求日】2024-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】辻野 大
(72)【発明者】
【氏名】岩井 志帆
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/155865(WO,A1)
【文献】特開2007-285961(JP,A)
【文献】特開2013-104706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0061767(US,A1)
【文献】中国実用新案第209148594(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 - 27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子本体と、
前記素子本体の長手方向の一方の端部に備えられたコネクタ電極と、
前記素子本体のうちの前記一方の端部を除く部位に備えられたガス導入口と、
前記素子本体の少なくとも一方の主面を被覆する素子保護層と、
を備え、
前記素子保護層は、遮断領域によって第1部分層と第2部分層とに前記長手方向に分離されており、
前記遮断領域には、前記素子本体の前記主面を被覆するとともに前記素子保護層よりも気孔率が低い緻密層が備えられ、
前記緻密層と前記第1部分層との間の部位と、前記緻密層と前記第2部分層との間の部位とのうちの少なくともいずれかに、前記長手方向における寸法が4μm以上の隙間が存在して
おり、
前記隙間の少なくとも一部に被さるとともにジルコニアを主成分とする材料から成るキャップ層を更に備える、センサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ素子において、
前記長手方向における前記隙間の寸法は、10μm以上である、センサ素子。
【請求項3】
請求項
1に記載のセンサ素子において、
前記キャップ層は、前記素子本体に含まれる固体電解質層に用いられている材料と同じ材料であるジルコニアシートを用いて構成されている、センサ素子。
【請求項4】
請求項
1に記載のセンサ素子において、
前記キャップ層は、ジルコニアペーストを用いて形成されている、センサ素子。
【請求項5】
請求項
1~
4のいずれか1項に記載のセンサ素子において、
前記キャップ層と前記隙間とが平面視において重なり合っている部分の前記長手方向における寸法を前記隙間の前記長手方向における寸法から減算することにより得られる値は10μm以下である、センサ素子。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載のセンサ素子において、
前記素子本体の前記主面は、ジルコニアシートから成る固体電解質層の表面である、センサ素子。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のセンサ素子において、
前記素子保護層は、多孔質アルミナ層から成る、センサ素子。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のセンサ素子において、
前記緻密層は、前記素子保護層よりも気孔率が低いアルミナ層から成る、センサ素子。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載のセンサ素子において、
前記素子本体は、複数の前記主面を備え、
前記コネクタ電極は、複数の前記主面のうちの第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とにそれぞれ配され、
前記素子保護層は、前記第1主面と前記第2主面とをそれぞれ被覆しており、
前記遮断領域は、前記第1主面と前記第2主面とにそれぞれ配されている、センサ素子。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のセンサ素子を備えるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)等の濃度を測定し得るセンサ素子が開示されている。かかるセンサ素子の前端部には、被測定ガスが導入される被測定ガス導入口が備えられている。かかるセンサ素子の後端部には、コネクタ電極が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被測定ガスに含まれる水分(水)が毛細管現象によってセンサ素子の長手方向に沿って移動する場合がある。かかる水がコネクタ電極に達すると、当該コネクタ電極が腐食し、正常な動作を確保できなくなる場合がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によるセンサ素子は、素子本体と、前記素子本体の長手方向の一方の端部に備えられたコネクタ電極と、前記素子本体のうちの前記一方の端部を除く部位に備えられたガス導入口と、前記素子本体の少なくとも一方の主面を被覆する素子保護層と、を備え、前記素子保護層は、遮断領域によって第1部分層と第2部分層とに前記長手方向に分離されており、前記遮断領域には、前記素子本体の前記主面を被覆するとともに前記素子保護層よりも気孔率が低い緻密層が備えられ、前記緻密層と前記第1部分層との間の部位と、前記緻密層と前記第2部分層との間の部位とのうちの少なくともいずれかに、前記長手方向における寸法が4μm以上の隙間が存在している。
【0007】
本発明の他の態様によるガスセンサは、上記のようなセンサ素子を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コネクタ電極に水が達するのを良好に抑制し得るセンサ素子及びガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態によるガスセンサの例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態によるセンサ素子を示す断面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態によるセンサ素子を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、一実施形態によるセンサ素子を示す上面図である。
【
図5】
図5は、一実施形態によるセンサ素子を示す下面図である。
【
図6】
図6は、隙間の一部にキャップ層が被さっている場合の例を示す上面図である。
【
図7】
図7は、隙間の一部にキャップ層が被さっている場合の例を示す下面図である。
【
図8】
図8は、隙間の一部にキャップ層が被さっている場合の他の例を示す上面図である。
【
図9】
図9は、隙間の一部にキャップ層が被さっている場合の他の例を示す下面図である。
【
図12】
図12は、変形実施形態によるセンサ素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[一実施形態]
一実施形態によるセンサ素子及びガスセンサについて
図1~
図11を用いて説明する。
図1は、本実施形態によるガスセンサの例を示す断面図である。
図2は、本実施形態によるセンサ素子を示す断面図である。
図3は、本実施形態によるセンサ素子を示す斜視図である。
図4は、本実施形態によるセンサ素子を示す上面図である。
図5は、本実施形態によるセンサ素子を示す下面図である。
【0011】
図1に示すように、ガスセンサ10には、センサ素子12が備えられている。センサ素子12の形状は、例えば長尺な直方体形状である。センサ素子12の長手方向を前後方向とする。即ち、
図2の紙面左右方向を前後方向とする。換言すれば、後述する素子本体15(
図2参照)の長手方向を前後方向とする。センサ素子12の厚み方向を上下方向とする。即ち、
図2の紙面上下方向を上下方向とする。センサ素子12の幅方向を左右方向とする。即ち、前後方向及び上下方向に垂直な方向を左右方向とする。
【0012】
ガスセンサ10には、保護カバー14が更に備えられている。保護カバー14は、センサ素子12の長手方向の一方の端部である前端部を保護する。ガスセンサ10には、セラミックハウジング16を含むセンサ組立体20が更に備えられている。セラミックハウジング16には、金属端子18が装着されている。金属端子18は、センサ素子12の長手方向の他方の端部である後端部を保持するとともにセンサ素子12に電気的に接続される。セラミックハウジング16に金属端子18が装着されることによって、コネクタ24が構成されている。
【0013】
ガスセンサ10は、例えば、配管26に取り付けられ得る。配管26としては、例えば、車両の排ガス管等が挙げられる。ガスセンサ10は、被測定ガスである排気ガス等に含まれる特定ガスの濃度を測定するために用いられ得る。特定ガスとしては、例えば、窒素酸化物、酸素(O2)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0014】
保護カバー14には、内側保護カバー141と、外側保護カバー142とが備えられている。内側保護カバー141は、センサ素子12の前端部を覆う有底筒状の保護カバーである。外側保護カバー142は、内側保護カバー141を覆う有底筒状の保護カバーである。内側保護カバー141及び外側保護カバー142には、被測定ガスを保護カバー14内に流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー141で囲まれた空間内に、センサ素子12の前端部が位置している。即ち、センサ素子室28内に、センサ素子12の前端部が位置している。
【0015】
センサ組立体20には、センサ素子12を封入固定する素子封止体30が備えられている。また、センサ組立体20には、素子封止体30に取り付けられたナット32が更に備えられている。センサ組立体20には、外筒34と、コネクタ24とが更に備えられている。コネクタ24に備えられた複数の金属端子18は、センサ素子12の後端部に備えられたコネクタ電極161、162(
図2参照)に接続されている。即ち、コネクタ24に備えられた金属端子18は、素子本体15(
図2参照)の後端部に備えられたコネクタ電極161、162に接続されている。
【0016】
素子封止体30には、筒状の主体金具40と、筒状の内筒42とが備えられている。主体金具40の中心軸線と内筒42の中心軸線とは一致している。主体金具40と内筒42とは、溶接固定されている。主体金具40及び内筒42の内側の貫通孔内には、セラミックスサポータ441~443と、圧粉体461、462と、メタルリング48とが封入されている。センサ素子12は、素子封止体30の中心軸線上に位置している。センサ素子12は、素子封止体30を前後方向に貫通している。内筒42には、縮径部421、422が形成されている。縮径部421は、内筒42の中心軸線に向かう方向に圧粉体462を押圧する。縮径部422は、メタルリング48を介してセラミックスサポータ441~443及び圧粉体461、462を前方に押圧する。縮径部421、422からの押圧力によって、主体金具40とセンサ素子12との間、及び、内筒42とセンサ素子12との間で、圧粉体461、462が圧縮される。これにより、保護カバー14内のセンサ素子室28と外筒34内の空間50との間が圧粉体461、462によって封止されるとともに、センサ素子12が固定される。
【0017】
ナット32は、主体金具40に固定されている。ナット32の中心軸線と主体金具40の中心軸線とは一致している。ナット32の外周面には、雄ネジ部が形成されている。配管26に溶接された固定用部材52の内周面には、雌ネジ部が形成されている。ナット32の外周面に形成された雄ネジ部は、内周面に雌ネジ部が形成された固定用部材52内に挿入されている。これにより、保護カバー14によって保護されたセンサ素子12の前端部が配管26内に突出している状態で、ガスセンサ10が配管26に固定されている。
【0018】
外筒34は、内筒42、センサ素子12、及び、コネクタ24の周囲を覆っている。コネクタ24に接続された複数のリード線54が、外筒34の後端から外部に引き出されている。リード線54は、コネクタ24を介してセンサ素子12の各電極に導通している。外筒34とリード線54との隙間は、グロメット等によって形成された弾性絶縁部材56によって封止されている。外筒34内の空間50は基準ガス(大気)によって満たされている。センサ素子12の後端部は、空間50内に位置している。
【0019】
図2に示すように、センサ素子12は、素子本体15を有する。素子本体15は、複数の層60、62、64、66、68、70から成る積層体13を有する。第1基板層60上には、第2基板層62が積層されている。第2基板層62上には、固体電解質層64が積層されている。固体電解質層64上には、固体電解質層66が積層されている。固体電解質層66上には、スペーサ層68が積層されている。スペーサ層68上には、固体電解質層70が積層されている。これらの層60、62、64、66、68、70の材料として、例えば固体電解質が用いられている。より具体的には、これらの層60、62、64、66、68、70の材料として、酸素イオン伝導性の固体電解質が用いられている。酸素イオン伝導性の固体電解質としては、例えばジルコニア(ZrO
2)等が挙げられ得る。固体電解質層60、62、64、66、68、70には、例えば、ジルコニアシートが用いられている。素子本体15の後述する主面151、152は、ジルコニアシートから成る固体電解質層60、70の表面である。これらの層60、62、64、66、68、70は、気密性が高い。
【0020】
センサ素子12は、以下のように製造され得る。即ち、各層に対応するセラミックスグリーンシート(ジルコニアシート)に対して所定の加工及び所定のパターンの印刷等を行う。この後、これらのセラミックスグリーンシートを積層する。この後、焼成によってこれらのセラミックスグリーンシートを一体化する。こうして、センサ素子12が製造され得る。なお、これらの層60、62、64、66、68、70の材料は、固体電解質に限定されない。例えば、これらの層60、62、64、66、68、70のうちのいずれかが絶縁体によって構成されていてもよい。かかる絶縁体としては、例えば、絶縁セラミックス等が用いられ得る。かかる絶縁セラミックスとしては、例えばアルミナ等が挙げられ得る。
【0021】
センサ素子12の内部には、被測定ガスが流通する被測定ガス流路(被測定ガス流通部)79が形成されている。被測定ガス流路79における被測定ガスの流通方向は、被測定ガス流路79の長手方向である。被測定ガス流路79は、スペーサ層68に形成されている。即ち、被測定ガス流路79は、スペーサ層68の一部をくり抜いた態様によって構成されている。被測定ガス流路79の側面は、スペーサ層68によって区画されている。被測定ガス流路79の底面(下面)は、固体電解質層66の上面によって区画されている。被測定ガス流路79の天面(上面)は、固体電解質層70の下面によって区画されている。被測定ガス流路79の一端は、被測定ガスが導入される導入口であるガス導入口80である。即ち、
図2の左側の部分は、ガス導入口80である。ガス導入口80は、素子本体15の後端部を除く部位に備えられている。より具体的には、ガス導入口80は、素子本体15の前端部に備えられている。
【0022】
被測定ガス流路79においては、ガス導入口80の後段に、第1拡散律速部82が備えられている。第1拡散律速部82には、例えば2本のスリットが備えられている。当該スリットの長手方向は、例えば、
図2における紙面垂直方向である。第1拡散律速部82の後段には、緩衝空間84が備えられている。緩衝空間84の後段には、第2拡散律速部86が備えられている。第2拡散律速部86には、例えば2本のスリットが備えられている。当該スリットの長手方向は、例えば、
図2における紙面垂直方向である。第2拡散律速部86の後段には、第1内部空所88が備えられている。第1内部空所88は、第2拡散律速部86を介して緩衝空間84に連通している。第1内部空所88の後段には、第3拡散律速部90が備えられている。第3拡散律速部90には、例えば2本のスリットが備えられている。当該スリットの長手方向は、例えば、
図2における紙面垂直方向である。第3拡散律速部90の後段には、第2内部空所92が備えられている。第2内部空所92は、第3拡散律速部90を介して第1内部空所88に連通している。第2内部空所92の後段には、第4拡散律速部94が備えられている。第4拡散律速部94には、例えば1本のスリットが備えられている。当該スリットの長手方向は、例えば、
図2における紙面垂直方向である。第4拡散律速部94の後段には、第3内部空所96が備えられている。第3内部空所96は、第4拡散律速部94を介して第2内部空所92に連通している。なお、第1拡散律速部82、第2拡散律速部86、第3拡散律速部90、及び、第4拡散律速部94のうちの少なくともいずれかを、多孔質体によって構成してもよい。
【0023】
センサ素子12の内部には、基準ガス導入空間98が形成されている。上述した被測定ガス流路79は、センサ素子12の前端部に位置している。一方、基準ガス導入空間98は、センサ素子12の後端部に位置している。基準ガス導入空間98は、固体電解質層66の一部をくり抜いた態様によって構成されている。基準ガス導入空間98の側面は、固体電解質層66によって区画されている。基準ガス導入空間98の下面は、固体電解質層64の上面によって区画されている。基準ガス導入空間98の上面は、スペーサ層68の下面によって区画されている。基準ガス導入空間98には、基準ガスが導入され得る。空間50(
図1参照)内の雰囲気が、基準ガスとなり得る。窒素酸化物の濃度を測定する際の基準ガスは、例えば大気である。
【0024】
センサ素子12の内部には、大気導入層100が備えられている。大気導入層100は、例えば、固体電解質層64と固体電解質層66との間に備えられている。大気導入層100の材料としては、多孔質材料が用いられている。より具体的には、例えば、多孔質アルミナ等の多孔質セラミックスが大気導入層100の材料として用いられ得る。大気導入層100の一部は、基準ガス導入空間98内に露出している。大気導入層100には、基準ガス導入空間98を介して基準ガスが導入され得る。大気導入層100は、後述する基準電極102を被覆するように形成されている。大気導入層100は、基準ガス導入空間98内の基準ガスに対して所定の拡散抵抗を付与しつつ、当該基準ガスを基準電極102に到達させる。大気導入層100のうちの後端部は、基準ガス導入空間98内に露出している。大気導入層100のうちの基準電極102を被覆している部分は、基準ガス導入空間98内に露出していない。
【0025】
固体電解質層64の上面には、基準電極102が形成されている。基準電極102の平面形状は、例えば矩形である。基準電極102は、固体電解質層64上に直接形成されている。基準電極102の一部は、基準ガスが存する基準ガス室182内に露出している。基準ガス室182内には、大気導入層100が存在している。なお、ここでは、基準ガス室182内に大気導入層100が存在している場合を例に説明するが、基準ガス室182内に大気導入層100が存在していなくてもよい。即ち、基準ガス室182内が空室であってもよい。大気導入層100は、基準ガス導入空間98に達するように形成されている。基準ガス室182は、大気導入層100を介して導入される基準ガスが存し得る。基準電極102のうちの固体電解質層64、66に接している部分以外の部分は、基準ガス室182内に露出している。後述するように、第1内部空所88内の酸素濃度(酸素分圧)、第2内部空所92内の酸素濃度、及び、第3内部空所96内の酸素濃度は、基準電極102を用いて測定され得る。基準電極102の材料としては、例えば、多孔質のサーメット(Cermet)が用いられ得る。サーメットは、セラミックスと金属とを複合させた材料である。例えば、白金(Pt)とジルコニアとのサーメットが基準電極102の材料として用いられ得る。
【0026】
ガス導入口80は、外部空間に対して開口している。ガス導入口80を介して外部空間からセンサ素子12内に被測定ガスが取り込まれ得る。第1拡散律速部82は、ガス導入口80から取り込まれる被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する。緩衝空間84は、第1拡散律速部82より導入された被測定ガスを第2拡散律速部86へと導く。第2拡散律速部86は、緩衝空間84から第1内部空所88に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する。ガス導入口80を介してセンサ素子12の内部に取り込まれる被測定ガスは、第1拡散律速部82、緩衝空間84、及び、第2拡散律速部86を介して、第1内部空所88に導入される。
【0027】
被測定ガス流路79内には、ポンプ電極112が配されている。ポンプ電極112は、被測定ガス流路79における被測定ガスの流通方向に沿うように被測定ガス流路79内に配されている。外側ポンプ電極114は、固体電解質層70の上面に形成されている。即ち、外側ポンプ電極114は、素子本体15の主面151に配されている。外側ポンプ電極114は、リード線115を介してコネクタ電極161に接続されている。ポンプ電極112は、第1内部空所88の内面に形成されている。外側ポンプ電極114は、ポンプ電極112が形成された領域に対応する領域に形成されている。
【0028】
ポンプ電極112の平面形状は、例えば矩形である。ポンプ電極112は、第1内部空所88の底面と第1内部空所88の天面とにそれぞれ形成された複数の電極によって構成され得る。即ち、ポンプ電極112は、天面側ポンプ電極1121と、底面側ポンプ電極1122とによって構成され得る。天面側ポンプ電極1121と、底面側ポンプ電極1122とは、不図示のパターン等によって電気的に接続されている。
【0029】
ポンプ電極112及び外側ポンプ電極114の材料としては、例えば、多孔質のサーメットが用いられ得る。
【0030】
ポンプ電極112と外側ポンプ電極114との間に所望の電圧が印加されることにより、ポンプ電極112と外側ポンプ電極114との間に正方向又は負方向に電流が流れる。これに伴い、第1内部空所88内の酸素が外部空間に汲み出され、又は、外部空間の酸素が第1内部空所88内に汲み入れられ得る。これにより、第1内部空所88内の酸素濃度が所定の一定値に保持され得る。
【0031】
第3拡散律速部90は、第1内部空所88から第2内部空所92に導入される被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与するとともに、当該被測定ガスを第2内部空所92に導く。即ち、第3拡散律速部90は、酸素濃度が制御された被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する。
【0032】
第2内部空所92は、第1内部空所88において酸素濃度が予め調整された被測定ガスに対して酸素濃度の更なる調整を行うための空間である。即ち、第3拡散律速部90を介して第2内部空所92に導入される被測定ガスに対して、更なる酸素濃度の調整が行われる。第2内部空所92内の酸素濃度が高精度に一定に保たれ得るため、ガスセンサ10は、窒素酸化物の濃度を高精度に測定し得る。
【0033】
第2内部空所92の内面には、補助ポンプ電極126が形成されている。補助ポンプ電極126は、筒状に形成されている。補助ポンプ電極126は、天面側電極部1261と、底面側電極部1262と、不図示の側面側電極部とが一体的に形成されていてもよい。天面側電極部1261は、第2内部空所92の天面に形成されている。底面側電極部1262は、第2内部空所92の底面に形成されている。側面側電極部は、第2内部空所92の両側の側壁部に形成されている。
【0034】
補助ポンプ電極126と外側ポンプ電極114との間に電圧が印加されることにより、補助ポンプ電極126と外側ポンプ電極114との間に正方向又は負方向にポンプ電流が流れる。これに伴い、第2内部空所92内の酸素が外部空間に汲み出され、又は、外部空間の酸素が第2内部空所92内に汲み入れられ得る。こうして、酸素のポンピングが行われ得る。第2内部空所92内の雰囲気中の酸素分圧は、窒素酸化物の濃度の測定に実質的に影響がない程度にまで低く制御され得る。
【0035】
第4拡散律速部94は、第2内部空所92から第3内部空所96に導入される被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与するとともに、当該被測定ガスを第3内部空所96に導く。即ち、第4拡散律速部94は、酸素濃度が制御された被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する。第4拡散律速部94は、第3内部空所96に流入する窒素酸化物の量を制限する役割をも担う。
【0036】
第3内部空所96には、第2内部空所92において酸素濃度が予め調整された被測定ガスが、第4拡散律速部94を介して導入される。第3内部空所96は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度を検出するための空間である。即ち、第3内部空所96は、窒素酸化物の濃度を検出するための空間である。
【0037】
固体電解質層66の上面には、測定電極134が形成されている。測定電極134の材料としては、例えば多孔質のサーメットが用いられ得る。測定電極134は、第3内部空所96内の雰囲気中に存在する窒素酸化物を還元する触媒として機能する。
【0038】
第2内部空所92内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で、第4拡散律速部94を通じて第3内部空所96の測定電極134に到達する。測定電極134の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物が測定電極134によって還元され(2NO→N2+O2)、測定電極134の周囲において酸素が発生する。測定電極134の周囲において発生した酸素に対して、ポンピングが行われる。測定電極134の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例する。このため、かかるポンピングによって汲み出される酸素量に応じたポンプ電流に基づいて、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度が算出され得る。また、外側ポンプ電極114と基準電極102との間に生ずる起電力に基づいて、センサ素子12の外部における被測定ガス中の酸素分圧が検出され得る。
【0039】
このようなガスセンサ10においては、酸素分圧が一定の低い値に保たれた被測定ガスが得られる。即ち、窒素酸化物の濃度の測定に実質的に影響がない値に酸素分圧が保たれた被測定ガスが得られる。そして、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度にほぼ比例する量の酸素が、窒素酸化物の還元によって発生する。こうして発生する酸素は、ポンピングにより汲み出される。ポンピングによって汲み出された酸素の量に応じてポンプ電流が流れるため、当該ポンプ電流に基づいて被測定ガス中の窒素酸化物の濃度を検出することが可能である。
【0040】
センサ素子12には、センサ素子12を加熱して保温するヒータ部160が更に備えられている。ヒータ部160は、センサ素子12の温度調整の役割を担う。センサ素子12に備えられた固体電解質を加熱することにより、当該固体電解質における酸素イオン伝導性を高め得る。ヒータ部160には、ヒータ164と、スルーホール166と、ヒータ絶縁層168と、圧力放散孔170と、リード線172とが備えられている。ヒータ164は、リード線172及びスルーホール166を介して、コネクタ電極162に接続されている。
【0041】
コネクタ電極162は、第1基板層60の下面に配されている。即ち、コネクタ電極162は、後述する第2主面152に配されている。コネクタ電極162を外部電源に電気的に接続することによって、外部電源からヒータ部160に対して給電が行われ得る。
【0042】
ヒータ164は、第2基板層62と固体電解質層64とによって上下から挟み込まれている。ヒータ164は、例えば電気抵抗体によって形成されている。ヒータ164は、リード線172及びスルーホール166を介してコネクタ電極162に接続されている。ヒータ164は、コネクタ電極162を介して外部から給電されることにより発熱する。ヒータ164は、センサ素子12を形成する固体電解質に対して加熱及び保温を行い得る。
【0043】
ヒータ絶縁層168は、ヒータ164の上面、下面及び側面を覆うように形成されている。ヒータ絶縁層168の材料としては、例えば絶縁体が用いられ得る。より具体的には、ヒータ絶縁層168の材料として、例えば多孔質アルミナ等が用いられ得る。
【0044】
圧力放散孔170は、固体電解質層64及び大気導入層100を貫通し、基準ガス導入空間98に連通している。圧力放散孔170は、ヒータ絶縁層168の温度上昇に伴う内圧の上昇を緩和する目的で形成されている。
【0045】
なお、センサ素子12に備えられた複数の電極の各々は、リード線115、コネクタ電極161、162、コネクタ24(
図1参照)、リード線54(
図1参照)等を介して、不図示の可変電源等に接続される。
【0046】
素子本体15は、複数の主面151、152を備える。即ち、素子本体15は、第1主面151と、第1主面151の反対側に位置する第2主面152とを備える。素子本体15の第1主面151は、当該素子本体15の一部を構成する固体電解質層70の表面(上面)である。素子本体15の第2主面152は、当該素子本体15の一部を構成する固体電解質層60の表面(下面)である。
【0047】
第1主面151には、複数のコネクタ電極161が形成されている。また、第2主面152には、複数のコネクタ電極162が形成されている。コネクタ電極161、162は、素子本体15の後端部に備えられている。
【0048】
センサ素子12には、素子本体15の第1主面151を被覆する素子保護層72が備えられている。また、センサ素子12には、素子本体15の第2主面152を被覆する素子保護層74が備えられている。素子保護層72、74は、素子本体15の反りを防止するとともに素子本体15を保護する。素子保護層72、74は、例えば、多孔質体から成る。より具体的には、素子保護層72、74は、例えば、多孔質アルミナ層から成る。素子保護層72、74における気孔率は、例えば10%以上である。素子保護層72、74は、例えば、気孔率が比較的高いアルミナペーストである多孔質アルミナペーストを用いて形成されている。
【0049】
素子本体15の第1主面151には、毛細管現象による水の移動を遮断するための遮断領域(水移動抑制領域)36が配されている。素子本体15の第2主面152には、毛細管現象による水の移動を遮断するための遮断領域38が配されている。遮断領域36、38は、センサ素子12の前端部とセンサ素子12の後端部との間に位置している。遮断領域36には、素子保護層72が存在していない。遮断領域38には、素子保護層74が存在していない。素子保護層72は、遮断領域36によって部分層721と部分層722とに分離されている。部分層721と部分層722とは、素子本体15の長手方向に分離されている。素子保護層74は、遮断領域38によって部分層741と部分層742とに分離されている。部分層741と部分層742とは、素子本体15の長手方向に分離されている。
【0050】
遮断領域36には、素子本体15の第1主面151を被覆する緻密層44が形成されている。遮断領域38には、素子本体15の第2主面152を被覆する緻密層46が形成されている。緻密層44、46の気孔率は、素子保護層72、74の気孔率より低い。緻密層44、46における気孔率は、例えば10%未満である。より具体的には、緻密層44、46は、例えば、素子保護層72、74よりも気孔率が低いアルミナ層から成る。緻密層44、46は、例えば、気孔率が比較的低いアルミナペーストである緻密アルミナペーストを用いて形成されている。緻密層44、46として、このような材料を用いているのは、水の移動を良好に抑制するためである。
【0051】
緻密層44と部分層721との間の部位には、隙間GAが存在している。緻密層44と部分層722との間の部位には、隙間GBが存在している。緻密層46と部分層741との間の部位には、隙間GCが存在している。緻密層46と部分層742との間の部位には、隙間GDが存在している。個々の隙間を区別して説明する場合には、符号GA~GDを用い、個々の隙間を区別せずに説明する場合には、符号Gを用いる。
【0052】
センサ素子12の長手方向における隙間GAの寸法は、4μm以上である。センサ素子12の長手方向における隙間GBの寸法は、4μm以上である。センサ素子12の長手方向における隙間GCの寸法は、4μm以上である。センサ素子12の長手方向における隙間GDの寸法は、4μm以上である。センサ素子12の長手方向における隙間Gの寸法を4μm以上とするのは、センサ素子12の長手方向における隙間Gの寸法を4μm以上とすれば、水の移動を良好に抑制し得るためである。
【0053】
なお、隙間GAと隙間GBとのうちの一方の寸法が4μm以上であり、隙間GAと隙間GBとのうちの他方の寸法が4μm未満であってもよい。即ち、隙間GAと隙間GBとのうちの少なくともいずれかの寸法が4μm以上であればよい。また、隙間GCと隙間GDとのうちの一方の寸法が4μm以上であり、隙間GCと隙間GDとのうちの他方の寸法が4μm未満であってもよい。即ち、隙間GCと隙間GDとのうちの少なくともいずれかの寸法が4μm以上であればよい。
【0054】
本実施形態では、緻密層44と部分層721との間の部位と、緻密層44と部分層721との間の部位とのうちの少なくともいずれかに、4μm以上の隙間Gが存在している。このため、水の移動が遮断領域36によって良好に遮断される。また、本実施形態では、緻密層46と部分層741との間の部位と、緻密層46と部分層741との間の部位とのうちの少なくともいずれかに、4μm以上の隙間Gが存在している。このため、水の移動が遮断領域36によって良好に遮断される。
【0055】
センサ素子12の長手方向における隙間Gの寸法を10μm以上とすることがより好ましい。センサ素子12の長手方向における隙間Gの寸法を10μm以上とすれば、水の移動をより確実に抑制し得る。
【0056】
センサ素子12は、隙間Gに被さるキャップ層76、78を更に備える。キャップ層76は、隙間GAと隙間GBとに被さっている。キャップ層78は、隙間GCと隙間GDとに被さっている。キャップ層76は、緻密層44の表面(上面)と部分層721の表面(上面)と部分層722の表面(上面)とに接している。キャップ層78は、緻密層46の表面(下面)と部分層741の表面(下面)と部分層742の表面(下面)とに接している。キャップ層76、78を隙間Gに被せているのは、主面151、152のうちの隙間Gに露出する部位に異物が付着するのを防止し、ひいては、水の移動を防止するためである。
【0057】
キャップ層76、78は、ジルコニアを主成分とする材料から成る。より具体的には、キャップ層76、78には、素子本体15に含まれる固体電解質層に用いられている材料と同じ材料であるジルコニアシートが用いられている。なお、キャップ層76、78が、例えば、ジルコニアペースト等を用いて形成されていてもよい。キャップ層76、78の気孔率は、素子保護層72、74の気孔率より低くてもよい。
【0058】
図2~
図5に示す例においては、キャップ層76、78が隙間Gの全体に被さっているが、キャップ層76、78は隙間Gの全体に被さっていなくてもよい。隙間Gの一部にキャップ層76、78が被さっていてもよい。
図6は、隙間Gの一部にキャップ層76、78が被さっている場合の例を示す上面図である。
図7は、隙間Gの一部にキャップ層76、78が被さっている場合の例を示す下面図である。
図6及び
図7に示すように、隙間Gの一部にキャップ層76、78が被さっていてもよい。キャップ層76と隙間GAとが平面視において重なり合っている部分の寸法LA(素子本体15の長手方向における寸法)を隙間GAの寸法から減算することにより得られる値(GA-LA)は10μm以下とすることが好ましい。即ち、隙間GAのうちのキャップ層76が被さっていない部分の寸法(GA-LA)は10μm以下とすることが好ましい。また、キャップ層76と隙間GBとが平面視において重なり合っている部分の寸法LB(素子本体15の長手方向における寸法)を隙間GBの寸法から減算することにより得られる値(GB-LB)は10μm以下とすることが好ましい。即ち、隙間GBのうちのキャップ層76が被さっていない部分の寸法(GB-LB)は10μm以下とすることが好ましい。また、キャップ層78と隙間GCとが平面視において重なり合っている部分の寸法LC(素子本体15の長手方向における寸法)を隙間GCの寸法から減算することにより得られる値(GC-LC)は10μm以下とすることが好ましい。即ち、隙間GCのうちのキャップ層78が被さっていない部分の寸法(GC-LC)は10μm以下とすることが好ましい。また、キャップ層78と隙間GDとが平面視において重なり合っている部分の寸法LD(素子本体15の長手方向における寸法)を隙間GDの寸法から減算することにより得られる値(GD-LD)は10μm以下とすることが好ましい。即ち、隙間GDのうちのキャップ層78が被さっていない部分の寸法(GD-LD)は10μm以下とすることが好ましい。個々の寸法を区別して説明する場合には、符号LA~LDを用い、個々の寸法を区別せずに説明する場合には、符号Lを用いる。寸法(G-L)を10μm以下とするのは、主面151、152のうちの隙間Gに露出する部位に異物が付着するのを効果的に防止し、ひいては、水の移動を良好に抑制するためである。
【0059】
図8は、隙間Gの一部にキャップ層76、78が被さっている場合の他の例を示す上面図である。
図9は、隙間Gの一部にキャップ層76、78が被さっている場合の他の例を示す下面図である。
図8及び
図9に示すように、素子本体15の左右方向におけるキャップ層76、78の寸法が、素子本体15の左右方向の寸法より小さくてもよい。
【0060】
図2に示すように、素子本体15の前端部は、保護層75によって覆われている。保護層75は、素子保護層72、74と相俟って素子本体15を保護する。保護層75は、素子本体15の前端部において、当該素子本体15の各々の表面を覆っている。保護層75は、素子保護層72、74と同様に、例えば、多孔質層から成る。より具体的には、保護層75は、例えば、多孔質アルミナ層から成る。保護層75における気孔率は、例えば10%以上である。
【0061】
上述したように、素子本体15の前端部には、ガス導入口80が備えられている。ガス導入口80は保護層75によって覆われているが、上述したように、保護層75は多孔質体によって構成されている。このため、被測定ガスは、保護層75の内部を流通してガス導入口80に到達し得る。
【実施例】
【0062】
実施例1~2及び比較例1~8について、センサ素子12に対する浸漬試験を行った。試験結果を
図10A~
図10Fに示す。
図10A~
図10Fは、浸漬試験を行った際の遮断領域の構成を示す図である。浸漬試験においては、第2主面152にのみ遮断領域38を配し、第1主面151に遮断領域36を配さなかった。
【0063】
図10Aは、比較例1及び比較例2の構成を示す側面図である。比較例1及び比較例2では、素子保護層74と緻密層46とを形成した後に、異物991の付着を行った。比較例1及び比較例2では、部分層741の後端から緻密層46の前端にかけて隙間GCを跨ぐように異物991を付着させた。比較例1及び比較例2では、隙間GC内に異物991が入り込んでいない。比較例1では、異物991の材料として、多孔質アルミナペーストを用いた。比較例2では、異物991の材料として、緻密アルミナペーストを用いた。
【0064】
図10Bは、比較例3及び比較例4の構成を示す側面図である。比較例3及び比較例4では、素子保護層74と緻密層46とを形成した後に、異物991の付着を行った。比較例3及び比較例4では、異物991の一部を隙間GC内に入り込ませた。比較例3では、異物991の材料として、多孔質アルミナペーストを用いた。比較例4では、異物991の材料として、緻密アルミナペーストを用いた。
【0065】
図10Cは、比較例5及び比較例6の構成を示す側面図である。比較例5及び比較例6では、素子保護層74と緻密層46とを形成する前に、異物991の付着を行った。比較例5及び比較例6では、部分層741の後端が位置する予定の部位から緻密層46の前端が位置する予定の部位にかけて異物991を付着させた。比較例5では、異物991の材料として、多孔質アルミナペーストを用いた。比較例6では、異物991の材料として、緻密アルミナペーストを用いた。
【0066】
図10Dは、実施例1の構成を示す側面図である。実施例1では、素子保護層74と緻密層46とを形成する前に、異物992の付着を行った。実施例1では、部分層741の後端が位置する予定の部位から緻密層46の前端が位置する予定の部位にかけて異物992を付着させた。実施例1では、異物992として、有機物ペーストを用いた。異物992が存在していた部分は、浸漬試験が行われる前に行われた焼成処理によって空洞となった。
【0067】
図10Eは、比較例7及び比較例8の構成を示す側面図である。比較例7及び比較例8では、素子保護層74と緻密層46とを形成した後に、異物991の付着を行った。比較例7及び比較例8では、部分層741の後端から緻密層46の前端にかけて隙間GCを跨ぐように異物991を付着させた。また、比較例7及び比較例8では、緻密層46の後端から部分層742の前端にかけて隙間GDを跨ぐように異物991を付着させた。比較例7及び比較例8では、隙間GC、GD内に異物991が入り込んでいない。比較例7では、異物991の材料として、多孔質アルミナペーストを用いた。比較例8では、異物991の材料として、緻密アルミナペーストを用いた。
【0068】
図10Fは、実施例2の構成を示す側面図である。実施例2では、素子保護層74と緻密層46とを形成した後に、キャップ層78の形成を行った。実施例2では、部分層741の後端から緻密層46の前端にかけて隙間GCを跨ぐようにキャップ層78を形成した。実施例2では、隙間GC内にキャップ層78が入り込んでいない。実施例2では、気孔率が比較的低いジルコニアペーストである緻密ジルコニアペーストを、キャップ層78の材料として用いた。
【0069】
浸漬試験においては、センサ素子12の前端部をスタンプインクに浸漬した。スタンプインクに浸漬した部位の寸法(センサ素子12の長手方向の寸法)は、25mmとした。浸漬時間は、5時間とした。浸漬試験を行った際の温度は、35±5℃とした。浸漬試験を行った際の湿度は、80±5%とした。スタンプインクが隙間GCを超えて移動しなかった場合には、OKと判定した。スタンプインクが隙間GCを超えて移動した場合には、NGと判定した。
【0070】
比較例1~比較例8は、いずれもNGであった。これらのことから、異物991の材料が多孔質アルミナであっても緻密アルミナであっても同様にNGであることが分かる。また、これらのことから、異物991が隙間GCに入り込んでいるか否かにかかわらず、NGであることが分かる。
【0071】
実施例1は、OKであった。実施例1がOKとなったのは、空洞は水の移動を促進しないためである。
【0072】
実施例2は、OKであった。このことから、ジルコニアから成る材料は、毛細管現象による水の移動を良好に抑制することが分かる。
【0073】
図11は、試験結果を示すグラフである。
図11に示す折れ線グラフは、遮断領域36によって水が遮断される確率を示している。
図11に示す棒グラフは、試験に用いられたサンプルの数である。
図11における横軸は、隙間Gの寸法を示している。
図11における左側の縦軸は、水が遮断される確率を示している。
図11における右側の縦軸は、サンプル数を示している。
図11に示す「0≦G<4」は、隙間Gが0μm以上、4μm未満である場合を示している。
図11に示す「4≦G<10」は、隙間Gが4μm以上、10μm未満である場合を示している。
図11に示す「10≦G<20」は、隙間Gが10μm以上、20μm未満である場合を示している。
図11に示す「110≦G」は、隙間Gが110μm以上である場合を示している。
【0074】
図11から分かるように、センサ素子12の長手方向における隙間Gの寸法が0μmである場合には、遮断領域36によって水が遮断される確率は0%である。また、
図11から分かるように、センサ素子12の長手方向における隙間Gの寸法が4μm以上である場合には、遮断領域36によって水が遮断される確率は100%である。このように、センサ素子12の長手方向における隙間Gの寸法を4μm以上とすることが、毛細管現象による水の移動を遮断する上で有効である。
【0075】
このように、本実施形態によれば、センサ素子12の長手方向における寸法が4μm以上の隙間Gが遮断領域36に配されている。このため、本実施形態によれば、毛細管現象による水の移動を良好に抑制することができ、ひいては、コネクタ電極161、162に水が達するのを良好に抑制することができる。しかも、本実施形態によれば、キャップ層78が隙間Gの少なくとも一部に被さっているため、異物が隙間Gに入り込むのを抑制することができる。このため、本実施形態によれば、異物を介して水が移動するのを抑制することができる。しかも、キャップ層78がジルコニアを主成分とする材料から成るため、当該キャップ層78を介しての水の移動も良好に抑制される。
【0076】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得る。
【0077】
例えば、上記実施形態では、素子本体15の第1主面151が素子保護層72によって被覆されており、素子本体15の第2主面152が素子保護層74によって被覆されている場合を例に説明した。即ち、上記実施形態では、素子本体15の両方の主面151、152が素子保護層72、74によって被覆されている場合を例に説明した。しかし、このような構成に限定されない。例えば、素子本体15の第1主面151が素子保護層72によって被覆されており、素子本体15の第2主面152が素子保護層74によって被覆されていなくてもよい。この場合、第1主面151にのみ遮断領域36が配される。また、素子本体15の第1主面151が素子保護層72によって被覆されておらず、素子本体15の第2主面152が素子保護層74によって被覆されていてもよい。この場合、第2主面152にのみ遮断領域38が配される。
【0078】
また、上記実施形態では、素子本体15の両方の主面151、152に遮断領域36、38がそれぞれ配されている場合を例に説明したが、これに限定されない。例えば、素子本体15の両方の主面151、152が素子保護層72、74によって被覆されており、第1主面151に遮断領域36が配されており、第2主面152に遮断領域38が配されていなくてもよい。また、素子本体15の両方の主面151、152が素子保護層72、74によって被覆されており、第1主面151に遮断領域36が配されておらず、第2主面152に遮断領域38が配されていてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、遮断領域36に1つの緻密層44が備えられている場合を例に説明したが、遮断領域36に複数の緻密層44が備えられていてもよい。また、上記実施形態では、遮断領域38に1つの緻密層46が備えられている場合を例に説明したが、遮断領域38に複数の緻密層46が備えられていてもよい。
図12は、変形実施形態によるセンサ素子を示す断面図である。
図12に示すように、遮断領域36に複数の緻密層44が備えられていてもよい。
図12に示す例においては、互いに隣接する複数の緻密層44の間の部位に隙間GAが存在している。素子本体15の長手方向における隙間GAの寸法は、上記実施形態と同様に、4μm以上に設定されている。
図12においては、隙間GAと第1部分層721との間に位置する緻密層44に、符号44-Fが付されている。また、
図12においては、隙間GAと第2部分層722との間に位置する緻密層44に、符号44-Rが付されている。
図12に示す例は、緻密層44-Rと第1部分層721との間の部位に隙間GAが存在していると把握され得る。また、
図12に示す例は、緻密層44-Fと第2部分層722との間の部位に隙間GAが存在しているとも把握され得る。
図12に示すように、遮断領域38に複数の緻密層46が備えられていてもよい。
図12に示す例においては、互いに隣接する複数の緻密層46の間の部位に隙間GCが存在している。素子本体15の長手方向における隙間GCの寸法は、上記実施形態と同様に、4μm以上に設定されている。
図12においては、隙間GCと第1部分層741との間に位置する緻密層46に、符号46-Fが付されている。また、
図12においては、隙間GCと第2部分層742との間に位置する緻密層46に、符号46-Rが付されている。
図12に示す例は、緻密層46-Rと第1部分層741との間の部位に隙間GCが存在していると把握され得る。また、
図12に示す例は、緻密層46-Fと第2部分層742との間の部位に隙間GCが存在しているとも把握され得る。
【0080】
上記の実施形態から把握し得る発明について、以下に記載する。
【0081】
センサ素子(12)は、素子本体(15)と、前記素子本体の長手方向の一方の端部に備えられたコネクタ電極(161、162)と、前記素子本体のうちの前記一方の端部を除く部位に備えられたガス導入口(80)と、前記素子本体の少なくとも一方の主面(151、152)を被覆する素子保護層(72、74)と、を備え、前記素子保護層は、遮断領域(36、38)によって第1部分層(721、741)と第2部分層(722、742)とに前記長手方向に分離されており、前記遮断領域には、前記素子本体の前記主面を被覆するとともに前記素子保護層よりも気孔率が低い緻密層(44、46)が備えられ、前記緻密層と前記第1部分層との間の部位と、前記緻密層と前記第2部分層との間の部位とのうちの少なくともいずれかに、前記長手方向における寸法が4μm以上の隙間(GA、GB、GC、GD)が存在している。このような構成によれば、素子本体の長手方向における寸法が4μm以上の隙間が存在しているため、毛細管現象による水の移動を良好に抑制することができ、ひいては、コネクタ電極に水が到達するのを良好に抑制することができる。
【0082】
前記長手方向における前記隙間の寸法は、10μm以上であってもよい。このような構成によれば、毛細管現象による水の移動をより確実に抑制することができ、ひいては、コネクタ電極に水が到達するのをより確実に抑制することができる。
【0083】
前記隙間の少なくとも一部に被さるとともにジルコニアを主成分とする材料から成るキャップ層(76、78)を更に備えてもよい。このような構成によれば、キャップ層が隙間の少なくとも一部に被さっているため、異物が隙間に入り込むのを抑制することができる。このため、このような構成によれば、異物を介して水が移動するのを抑制することができる。しかも、キャップ層がジルコニアを主成分とする材料から成るため、当該キャップ層を介しての水の移動も良好に抑制される。
【0084】
前記キャップ層は、前記素子本体に含まれる固体電解質層(60、62、64、66、68、70)に用いられている材料と同じ材料であるジルコニアシートを用いて構成されていてもよい。
【0085】
前記キャップ層は、ジルコニアペーストを用いて形成されていてもよい。
【0086】
前記キャップ層と前記隙間とが平面視において重なり合っている部分の前記長手方向における寸法(LA、LB、LC、LD)を前記隙間の前記長手方向における寸法から減算することにより得られる値(GA-LA、GB-LB、GC-LC、GD-LD)は10μm以下であってもよい。このような構成によれば、隙間に異物が入り込むのを良好に抑制することができる。
【0087】
前記素子本体の前記主面は、ジルコニアシートから成る固体電解質層の表面であってもよい。
【0088】
前記素子保護層は、多孔質アルミナ層から成ってもよい。
【0089】
前記緻密層は、前記素子保護層よりも気孔率が低いアルミナ層から成ってもよい。
【0090】
前記素子本体は、複数の前記主面を備え、前記コネクタ電極は、複数の前記主面のうちの第1主面(151)と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面(152)とにそれぞれ配され、前記素子保護層は、前記第1主面と前記第2主面とをそれぞれ被覆しており、前記遮断領域は、前記第1主面と前記第2主面とにそれぞれ配されていてもよい。
【0091】
ガスセンサ(10)は、上記のようなセンサ素子を備える。
【符号の説明】
【0092】
10:ガスセンサ 12:センサ素子
13:積層体 14:保護カバー
15:素子本体 16:セラミックハウジング
18:金属端子 20:センサ組立体
24:コネクタ 26:配管
28:センサ素子室 30:素子封止体
32:ナット 34:外筒
36、38:遮断領域 40:主体金具
42:内筒 44、46:緻密層
48:メタルリング 50:空間
52:固定用部材 54、115、172:リード線
56:弾性絶縁部材 60:固体電解質層、第1基板層
62:固体電解質層、第2基板層 64、66、70:固体電解質層
68:固体電解質層、スペーサ層 72、74:素子保護層
75:保護層 76、78:キャップ層
79:被測定ガス流路 80:ガス導入口
82:第1拡散律速部 84:緩衝空間
86:第2拡散律速部 88:第1内部空所
90:第3拡散律速部 92:第2内部空所
94:第4拡散律速部 96:第3内部空所
98:基準ガス導入空間 100:大気導入層
102:基準電極 112:ポンプ電極
114:外側ポンプ電極 126:補助ポンプ電極
134:測定電極 141:内側保護カバー
142:外側保護カバー 151:主面、第1主面
152:主面、第2主面 160:ヒータ部
161、162:コネクタ電極 164:ヒータ
166:スルーホール 168:ヒータ絶縁層
170:圧力放散孔 182:基準ガス室
421、422:縮径部
441~443:セラミックスサポータ 461、462:圧粉体
721、722、741、742:部分層
991、992:異物 1121:天面側ポンプ電極
1122:底面側ポンプ電極 1261:天面側電極部
1262:底面側電極部 G、GA~GD:隙間
L、LA~LD:寸法