(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】プラントの内部状態を可視化する方法、システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
G05B23/02 301Q
G05B23/02 G
(21)【出願番号】P 2021204738
(22)【出願日】2021-12-17
【審査請求日】2024-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メドラノ カテレヤ
(72)【発明者】
【氏名】矢敷 達朗
(72)【発明者】
【氏名】岡部 淳
(72)【発明者】
【氏名】相川 竜一
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-041452(JP,A)
【文献】特開2020-051385(JP,A)
【文献】特開2016-128971(JP,A)
【文献】特開2020-204543(JP,A)
【文献】特開2005-050283(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0067323(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112464567(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの内部状態を可視化する方法であって、
前記方法は、
物理モデルを用いて、センサデータに基づき、時刻ごとのプラントの機器の内部状態パラメータの推定範囲を算出するステップであって、前記推定範囲は、前記内部状態パラメータがとり得る値の上側基準および下側基準によって表される、ステップと、
データ同化により、時刻ごとの前記推定範囲を修正するステップと、
前記推定範囲の経時変化である第1経時変化の上側基準および下側基準を表すプロット図を出力するステップと、
前記第1経時変化を、概略経時変化である第2経時変化で近似するステップと、
前記第2経時変化の上側基準および下側基準を表すプロット図を出力するステップであって、前記第2経時変化の上側基準および下側基準は、前記第1経時変化の上側基準および下側基準を、それぞれ近似することによって取得される、ステップと、
を備える、方法。
【請求項2】
前記機器は制御機器である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、さらに、
前記物理モデルによる算出の終了時刻以前の時間に係る第2経時変化に基づき、前記終了時刻よりも未来の第2経時変化を取得するステップと、
前記未来の第2経時変化の上側基準および下側基準に基づき、前記プラントのメンテナンス時期を表す情報を出力するステップと、
を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1経時変化に係るプロット図は、さらに前記第1経時変化の上側基準および下側基準の平均値を示し、
前記第2経時変化に係るプロット図は、さらに前記第2経時変化の上側基準および下側基準の平均値を示す、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記メンテナンス時期は、前記未来の第2経時変化の上側基準および下側基準がそれぞれ所定値に達する時刻を両端とする区間によって表される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記第2経時変化の上側基準および下側基準は指数関数で表される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1経時変化の上側基準および下側基準は、それぞれ前記内部状態パラメータがとり得る値の最大値および最小値である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法を実行するシステム。
【請求項9】
請求項1に記載の方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの内部状態を可視化する方法、システムおよびプログラムに関する。具体例として、プラントの動作、制御およびメンテナンスを支援するためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
プラント(たとえば工業プラント。具体例として火力発電所、化学製品プラント、等)は、その内部状態の変動によって影響を受ける。内部状態とは、たとえば、材料の劣化状況、熱伝達率の劣化状況、部品の摩擦の増大状況、耐腐食係数、等である。プラントの動作、制御およびメンテナンスを適切に行うためには、内部状態を精度良くモニタリングすることが重要である。
【0003】
しかしながら、内部状態を正確に可視化することが困難な場合がある。たとえば、内部状態を直接的に視認または測定できない場合があり、また、測定できる場合であっても、測定値に誤差を含む場合がある。
【0004】
特許文献1は、物理モデル(たとえば熱交換器モデル)を用いて、機器の内部状態(たとえば劣化状況)を測定する方法を開示する。
【0005】
特許文献2では、測定データを組み合わせてパラメータ算出の精度を向上させている。
【0006】
また、非特許文献1および2には、物理モデルの具体例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-150233号公報
【文献】国際公開第17/170086号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】Y. Oka and M. Ohno, "Parameter estimation for heat transfer analysis during casting processes based on ensemble Kalman filter", International Journal of Heat and Mass Transfer, Vol. 149 119232, 2020年
【文献】Y. A. Yazdi and B. Samadi, "Modelling and quantification of valve stiction by unknown input estimation", 19th Iranian Conference on Electrical Engineering 2011、1~6ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術では、内部状態を正確に可視化することが困難な場合があるという課題があった。
【0010】
たとえば特許文献1の方法では、内部状態の算出精度は物理モデルの精度に強く依存するので、物理モデルの精度が低い場合には正確な可視化が困難となる。
【0011】
また、特許文献2の方法では可視化ができない。たとえば、内部状態の経時変化をプロット図として出力することができない。また、たとえば、推定範囲をプロット図として出力することもできない。このため、内部状態を正確に可視化することが困難である。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、プラントの内部状態を可視化する方法、システムおよびプログラムにおいて、より正確な可視化が可能なものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る方法の一例は、
プラントの内部状態を可視化する方法であって、
前記方法は、
物理モデルを用いて、センサデータに基づき、時刻ごとのプラントの機器の内部状態パラメータの推定範囲を算出するステップであって、前記推定範囲は、前記内部状態パラメータがとり得る値の上側基準および下側基準によって表される、ステップと、
データ同化により、時刻ごとの前記推定範囲を修正するステップと、
前記推定範囲の経時変化である第1経時変化の上側基準および下側基準を表すプロット図を出力するステップと、
前記第1経時変化を、概略経時変化である第2経時変化で近似するステップと、
前記第2経時変化の上側基準および下側基準を表すプロット図を出力するステップであって、前記第2経時変化の上側基準および下側基準は、前記第1経時変化の上側基準および下側基準を、それぞれ近似することによって取得される、ステップと、
を備える。
【0014】
本発明に係るシステムの一例は、上述の方法を実行する。
【0015】
本発明に係るプログラムの一例は、上述の方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る方法、システムおよびプログラムによれば、プラントの内部状態をより正確に可視化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例1に係るシステムを含む構成例を示す図。
【
図2】
図1のシステムの処理の流れの例を表すフローチャート。
【
図3】内部状態パラメータの推定範囲の経時変化(第1経時変化)のプロット図の例。
【
図4】
図3のプロット図に、概略経時変化(第2経時変化)のプロット図を加えた例。
【
図5】本発明の実施例2に係るシステムを含む構成例を示す図。
【
図6】本発明の実施例3に係るシステムの処理の流れの例を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
実施例1は、プラントの機器(熱交換器等)の内部状態を可視化する。
実施例2は、プラントの制御機器(制御バルブ等)等の内部状態を可視化する。
実施例3は、プラントの内部状態の概略変化を用いてメンテナンスウィンドウを予測する。
【0019】
[実施例1]
図1に、実施例1に係るシステムを含む構成例を示す。システム1は、プラント2の内部状態を可視化するシステムである。「プラント」とはたとえば工業プラントを意味し、具体例として火力発電所、化学製品プラント、等を含む。プラント2は機器を備える。機器とは、たとえば、熱交換器、タービン、ポンプ、等を含む。システム1は、本明細書に記載される、プラントの内部状態を可視化する方法を実行する。
【0020】
システム1は、シミュレータ3と、パラメータ算出器4と、入力手段5と、出力手段6とを備える。プラント2は複数のセンサを備えており、センサによって測定されたデータ(センサデータ)をシミュレータ3およびパラメータ算出器4に送信する。これらのセンサデータのうち、シミュレータ3に送信されるものをプロセス値データ21と呼び、パラメータ算出器4に送信されるものを対象状態測定データ20と呼ぶ。
【0021】
システム1は、公知のコンピュータを用いて構成することができ、たとえば演算手段および記憶手段を備える。演算手段はたとえばプロセッサを含み、記憶手段はたとえば半導体メモリ装置および磁気ディスク装置等の記憶媒体を含む。記憶媒体の一部または全部が、過渡的でない(non-transitory)記憶媒体であってもよい。記憶手段および記憶手段が協働することにより、シミュレータ3およびパラメータ算出器4が構成される。
【0022】
システム1の記憶手段はプログラムを記憶してもよい。プロセッサがこのプログラムを実行することにより、コンピュータはシステム1として機能し、本実施例において説明される機能を実行してもよい。すなわち、このプログラムは、本明細書に記載される方法をコンピュータに実行させるものであってもよい。
【0023】
入力手段5は、ユーザが情報をシステム1に入力するための手段であり、たとえばキーボードまたはマウス等の入力装置を含む。また、入力手段5は、ネットワークインタフェース等の通信装置を含んでもよい。
【0024】
出力手段6は、システム1が情報(たとえばプロット図)をユーザに出力するための手段であり、たとえば液晶ディスプレイまたはプリンタ等の出力装置を含む。また、出力手段6は、ネットワークインタフェース等の通信装置を含んでもよい。
【0025】
(シミュレータ3)
シミュレータ3は、物理モデル30を用いて計算を行い、プラント2の状態値を算出する。状態値とは、たとえば、熱、圧力、質量流量、等を表す。状態値のうち、シミュレータ3の算出対象となるものを、以下では対象状態値と呼ぶ。プラント2の対象状態値は、時刻ごとに算出され、たとえば開始時刻t0と終了時刻tendとの間で、所定の間隔で算出される。
【0026】
(物理モデル30)
物理モデル30は、静的物理モデルであってもよく、動的物理モデルであってもよい。物理モデル30は、対象状態値を、所定のパラメータの関数として算出する。パラメータは、物理モデル30の内部状態パラメータを含む。また、パラメータは、境界条件を含んでもよく、他の因子を含んでもよい。
【0027】
内部状態パラメータは、たとえばプラント2の機器の内部状態パラメータに対応する物理モデル30のパラメータである。内部状態パラメータは、たとえば、材料の劣化状況、熱伝達率の悪化状況、部品の摩擦の増大状況、等を表す。
【0028】
境界条件は、たとえば、物理モデル30の状態値のうち、対象状態値以外のものを用いることができる。
【0029】
本実施例では、物理モデル30は熱交換器を表す動的物理モデルである。物理モデル30は以下の式(1)によるモデルMで表される。
Tg,t= M(Tg, h, [Ts, Gs, Gg], [Cp, ρ, …, A])t-1 … (1)
【0030】
式(1)において、左辺の添字tは時刻tにおける値を表し、右辺の添字t-1はそれより1ステップだけ前の時刻t-1における値を表す。
【0031】
式(1)において、
‐Tg(すなわちTg,tおよびTg,t-1)は、対象状態値としてのプラント2の温度を表す。
‐hは熱伝達率を表し、内部状態パラメータである。
‐Tsは温度を表し、GsおよびGgは質量流量を表す。これらTs、Gs、Ggはプラント2の状態値であり、境界条件を表す。これらはたとえばプロセス値データ21として取得される。
‐Cpは熱容量を表し、ρは密度を表し、Aは面積を表す。
なお、式(1)の右辺は、これら以外の変数をさらに含んでもよい。
【0032】
内部状態パラメータであるhの値により、熱交換器の熱伝達率の変動を評価することができ、たとえばhが減少することは熱伝達率が悪化することに対応する。
【0033】
物理モデル30は、式(1)の左辺の対象状態値(この例ではTg,t)を、単一の値でなく区間として与える。この区間は、対象状態値が取り得る可能性が高い範囲、すなわち推定範囲を表すということができる。推定範囲は、下側基準(たとえば最小値または下限値)と上側基準(たとえば最大値または上限値)との間の区間として表すことができる。
【0034】
同様に、式(1)の右辺についても、一部の変数は単一の値でなく推定範囲を表すことができる。たとえば、Tgおよびhは推定範囲によって表される。また、Cp,ρ,Aの一部または全部が推定範囲によって表されてもよい。
【0035】
(プロセス値データ21)
プロセス値データ21は、センサデータのうち、物理モデル30において境界条件として用いられるものに対応する。式(1)の熱交換器のモデルでは、Ts、Gs、Ggがプロセス値データ21に対応する。
【0036】
(対象状態測定データ20)
対象状態測定データ20は、センサデータのうち、物理モデル30の対象状態値として用いられるものに対応する。式(1)の熱交換器のモデルでは、プラント2の温度Tgが対象状態測定データ20に対応する。
【0037】
(パラメータ算出器4)
パラメータ算出器4は、データ同化により、物理モデル30の内部状態パラメータを修正する。たとえば、プラント2からの対象状態測定データ20と、シミュレータ3によって算出された対象状態値とに基づき、データ同化を実行して、より精度の高い内部状態パラメータを算出する。
【0038】
データ同化の手法の具体例は、公知技術等に基づいて当業者が適宜設計可能であるが、たとえば非特許文献1に記載される例を用いることができる。
【0039】
データ同化の具体的な演算内容もまた、公知技術等に基づいて当業者が適宜設計可能であるが、たとえば非特許文献1に記載される下記の式(2)を用いることができる。
[xa, ka] = [xg, k] + [Ks, Kp] * ( xm+ ns- H[xg]) + w … (2)
【0040】
式(2)の両辺はベクトルを表す。左辺は、データ同化によって修正された値を表し、とくに、
‐xaは修正された対象状態値を表し、式(1)のTgの修正後の値を示す。
‐kaは修正された内部状態パラメータを表し、式(1)のhの修正後の値を示す。
【0041】
式(2)の右辺において、
‐xgは物理モデル30が算出した対象状態値を表し、式(1)のTg,tに対応する。
‐kは物理モデル30が用いた対象状態値を表し、式(1)のhに対応する。
‐KsおよびKpはカルマン利得値であり、たとえばいずれも定数である。
‐xmは対象状態測定データ20を表し、たとえば式(1)のTs、Gs、Ggに対応する。
‐nsは対象状態測定データ20のノイズを表し、たとえば定数である。
‐Hは変換行列を表し、xgの次元をxmの次元に一致させる。
‐wは物理モデル30のノイズを表し、たとえば定数である。
【0042】
非特許文献1に説明されるように、シミュレータ3が算出した値が、データ同化における再計算によって修正され、精度が高まる。
【0043】
パラメータ算出器4は、後述するように、修正された値をプロット図として出力する。なお、パラメータ算出器4も、式(2)の左辺の修正された値を、単一の値でなく推定範囲として与える。
【0044】
(入力手段5)
入力手段5は、シミュレータ3およびパラメータ算出器4を初期化するためのデータの入力を受け付ける。このデータは、たとえばユーザによって決定され、入力される。
【0045】
シミュレータ3を初期化するためのデータは、たとえば、シミュレーションの開始時刻t0と、シミュレーションの終了時刻tendと、シミュレーションの時間ステップ幅dtと、対象状態値の初期値と、内部状態パラメータの初期値とを含む。
【0046】
パラメータ算出器4を初期化するためのデータは、たとえばデータ同化条件を含み、具体例として、式(2)のノイズnsおよびwの値を含む。
【0047】
(出力手段6)
出力手段6は、パラメータ算出器4が提供するデータを出力する。パラメータ算出器4は、たとえば修正された内部状態パラメータの経時変化を示すプロット図を表すデータを提供し、出力手段6はこれをプロット図として出力する。プロット図は、たとえば
図3および
図4に示すようなものであるが、各図に関連して後に詳述する。
【0048】
これらのプロット図によって、プラント2の内部状態がより正確に可視化される。
【0049】
(システム1の処理)
図2は、システム1の処理の流れの例を表すフローチャートである。
図2に示す処理は、プラントの内部状態を可視化する方法の例であり、たとえばシステム1の演算手段がプログラムを実行することにより実施される。
【0050】
ステップS100において、システム1はシミュレータ3を初期化する。初期化は、たとえば、プロセス値データ21を用いて物理モデル30の境界条件を設定し、入力手段5から入力されるデータを用いて他のシミュレータ条件(t0およびtend等)を設定することによって行われる。また、シミュレーション時刻tが設定される(たとえばt0に等しくされる)。
【0051】
次に、ステップS101において、システム1はパラメータ算出器4を初期化する。初期化は、たとえば、データ同化条件(ノイズデータ等)を設定することによって行われる。
【0052】
次に、ステップS102において、シミュレータ3は、プロセス値データ21に基づき、時刻tにおける物理モデル30を評価することにより、対象状態値を算出する。たとえば熱交換器の場合には、式(1)を用いることができる。
【0053】
また、このステップS102において、シミュレータ3は、プロセス値データ21に基づき、プラント2の機器の内部状態パラメータの推定範囲を算出する。内部状態パラメータの推定範囲の算出方法は当業者が適宜設計可能であるが、たとえば、プロセス値データ21に基づいて内部状態パラメータの推定範囲の上限および下限を与える関数を事前に定義しておき、この関数に基づいて推定範囲を算出することができる。
【0054】
このように、システム1は、物理モデル30を用いて、プロセス値データ21に基づき、時刻ごとのプラント2の機器の内部状態パラメータの推定範囲を算出する。ここで、上述のように、推定範囲は、内部状態パラメータがとり得る値の上側基準および下側基準によって表される。
【0055】
次に、ステップS103において、パラメータ算出器4が、対象状態値および内部状態パラメータを修正する。これはたとえば、時刻tにおいて取得された対象状態測定データ20を用い、データ同化を実行することによって行われる。たとえば式(2)を用いる場合には、修正された値としてxaおよびkaが取得される。
【0056】
このように、システム1は、データ同化により、時刻ごとの内部状態パラメータの推定範囲を修正する。
【0057】
次に、ステップS104において、システム1は、時刻tが終了時刻tendより大きいか否かを判定する。時刻tが終了時刻tendより大きい場合には、処理はステップS106に進み、そうでない場合には、処理はステップS105に進む。
【0058】
ステップS105において、システム1は、シミュレータ3の状態を調整する。ここでは、シミュレータ3が記憶している内部状態パラメータの値を、パラメータ算出器4によって修正された内部状態パラメータの値に等しくなるよう変更する。また、時刻tを時間ステップ幅dtだけ増加させる。その後、処理はステップS102に戻る。
【0059】
ステップS106において、パラメータ算出器4は、内部状態パラメータの推定範囲の経時変化(第1経時変化)を表すデータを出力手段6に提供し、出力手段6はこれをプロット図として出力(たとえば表示、印刷または送信)する。
【0060】
プロット図(
図3を参照して後に詳述する)は、第1経時変化の上側基準および下側基準を表す。上側基準はたとえば内部状態パラメータがとり得る値の最大値であり、下側基準はたとえば内部状態パラメータがとり得る値の最小値である。プロット図は、さらに第1経時変化の上側基準および下側基準の平均値を示してもよい。
【0061】
次に、ステップS107において、パラメータ算出器4は、内部状態パラメータの推定範囲の経時変化(第1経時変化)を、概略経時変化(第2経時変化)で近似する。第2経時変化の具体例は、
図4を参照して後に詳述する。近似は、たとえば上側基準および下側基準のそれぞれについて行われる。
【0062】
近似は、関数を用いて表すことができる。具体例として、第2経時変化の上側基準および下側基準は指数関数で表され、たとえばM’=Ae-ctによって表される。ただしM’は内部状態パラメータの概略値を表し、tは時間を表す。Aおよびcは定数であり、たとえば最小二乗法を用いて決定することができる。
【0063】
また、このステップS107において、パラメータ算出器4は、第2経時変化の上側基準および下側基準を表すデータを出力手段6に提供し、出力手段6はこれをプロット図として出力(たとえば表示、印刷または送信)する。第2経時変化の上側基準および下側基準は、上述のように、第1経時変化の上側基準および下側基準を、それぞれ近似することによって取得される。プロット図は、さらに第2経時変化の上側基準および下側基準の平均値を示してもよい。
【0064】
【0065】
図3は、内部状態パラメータの推定範囲の経時変化(第1経時変化)のプロット図の例である。この例では、時刻t
Aから時刻t
Bまでの区間(ただしt
0≦t
A<t
B≦t
end)についてプロットが示される。
【0066】
プロット60は平均値の経時変化を表し、プロット61は下側基準の経時変化を表し、プロット62は上側基準の経時変化を表す。プロット61およびプロット62により、推定範囲63が示される。
【0067】
このようなプロット図により、内部状態パラメータの可視化が行われる。
図3の例では、プラント2の熱伝達率が、悪化と回復を繰り返しているということが理解できる。また、推定範囲63の表示により、予想範囲の幅を知ることができる。
【0068】
表示される経時変化は、パラメータ算出器4によってデータ同化に基づき修正されているので、内部状態がより正確に可視化される。このように、実施例1によれば、プラント2の内部状態をより正確に可視化することができる。
【0069】
図4は、
図3のプロット図に、概略経時変化(第2経時変化)のプロット図を加えた例である。プロット61aはプロット61の概略経時変化を表し、プロット62aはプロット62の概略経時変化を表し、推定範囲63aは推定範囲63の概略経時変化を表す。プロット60aは、プロット61aおよびプロット62aの平均値を表す。
【0070】
このようなプロット図により、内部状態パラメータの概略経時変化の可視化が行われる。
図4の例では、プラント2の熱伝達率が、短期的には悪化と回復を繰り返しながらも、長期的には悪化してゆくということが理解できる。
【0071】
このように、実施例1によれば、プラント2の内部状態の概略的な変化をより正確に可視化することができる。とくに、実施例1では指数関数による近似を用いているので、変化の状況を明確に把握することができる。
【0072】
また、概略経時変化は、上側基準および下側基準を有する推定範囲として示されるので、ユーザは単一の値でなく可能性の高い範囲を知ることができ、幅広い状況により容易に対応することができる。また、概略経時変化は平均値を含むので、推定範囲のうちでもとくに可能性の高い値を知ることができる。
【0073】
なお、実施例1において、物理モデル30のシミュレーションおよびパラメータ算出器4のデータ同化は、それぞれ例示したものに限らず、任意に設計可能である。たとえば、プラント2の機器の種類、評価すべき物理量、等に応じて、適切な変数を定義することができる。
【0074】
[実施例2]
実施例2では、プラント2の機器として、とくに制御機器の内部状態を扱う。以下、実施例1と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0075】
実施例2では、制御機器の例として、プラント2の制御バルブを対象とする。制御バルブの摩擦が増大すると、プラント2の性能が悪化するので、制御バルブの摩擦を可視化することが重要である。
【0076】
図5に、実施例2に係るシステムを含む構成例を示す。プラント2は制御バルブ40を備える。プラント2に関連して制御装置7が設けられる。
【0077】
(制御装置7)
制御装置7は、制御バルブ40に制御信号22を送信することにより、制御バルブ40の要求開口量VOreqを制御する。要求開口量VOreqは、開口率(%)またはアンペア等によって表される。制御装置7は、プラント2からプラント状態値23を受信し、プラント状態値23に基づいて制御バルブ40を制御する。制御装置7は、たとえば、所定の制御モデル(たとえばPID制御またはPI制御)に従って動作する。
【0078】
(シミュレータ3)
シミュレータ3は、制御バルブモデル31を評価することにより、時刻ごとの制御バルブ40の対象状態値(たとえば開口量)を算出する。
【0079】
(制御バルブモデル31)
制御バルブモデル31は物理モデルであり、制御バルブ40の対象状態値を、内部状態パラメータ、境界条件、等の関数として表す。制御バルブモデル31の具体例として、バルブ摩擦モデルを用いることができ、たとえば、特許文献2に記載される下記の式(3)によって表される静的物理モデルを用いることができる。
VO = N(CV,S,J) … (3)
【0080】
式(3)において、
‐VOは制御バルブ40の対象状態値としての開口量を表す。
‐CVは制御バルブ40の制御値(たとえば制御信号22)を表し、境界条件として用いられる。
‐Sは制御バルブ40の静止摩擦パラメータを表し、内部状態パラメータである。
‐Jは制御バルブ40のスリップジャンプパラメータを表す。
【0081】
Sの値によって、制御信号22に対する制御バルブ40の応答が影響を受ける。たとえばSが大きくなると制御バルブ40の静止摩擦が増大し、プラント2の動作に悪影響を与える。
【0082】
(対象状態測定データ20a)
制御バルブ40には、制御バルブ40の対象状態値(たとえば開口量)をセンサデータとして測定するためのセンサが設けられる。このセンサは、測定したセンサデータを、対象状態測定データ20aとしてパラメータ算出器4に送信する。
【0083】
(パラメータ算出器4)
パラメータ算出器4は、データ同化により、制御バルブモデル31の内部状態パラメータを修正する。たとえば、パラメータ算出器4は対象状態測定データ20aを受信し、対象状態測定データ20aと、シミュレータ3によって算出された対象状態値とに基づき、データ同化を実行して、より精度の高い内部状態パラメータを算出する。
【0084】
実施例2に係るシステム1の処理は、たとえば
図2と同様に実行することができる。このように、実施例2によれば、実施例1によれば、プラント2の制御機器の内部状態の概略的な変化をより正確に可視化することができる。
【0085】
[実施例3]
実施例3では、プラント2の内部状態パラメータの概略変化を用いてメンテナンスウィンドウを予測する。実施例1および2では、内部状態パラメータの可視化はシミュレーションの終了時刻tend(たとえば現在時刻)までに限られていたが、未来の経時変化を予測できれば、プラント2のメンテナンスウィンドウを計画することができる。以下、実施例1または2と共通する部分については、説明を省略する場合がある。
【0086】
図6は、実施例3に係るシステム1の処理の流れの例を表すフローチャートである。ステップS100~S107は実施例1および2と同様である。
【0087】
ステップS107の後、ステップS108において、パラメータ算出器4は、内部状態パラメータの未来値を予測する。たとえば、概略経時変化を表す関数において、時間を表す変数に未来の時刻(たとえばシミュレーションの終了時刻tendより未来の時刻)を代入することにより、未来の概略経時変化を算出する。
【0088】
ここで、未来値の予測には、プロセス値データ21等に基づいて算出される経時変化(第1経時変化)ではなく、これを別の関数で近似した概略経時変化(第2経時変化)を用いるので、未来のプロセス値データ21等は不要である。
【0089】
このように、パラメータ算出器4は、物理モデルによる算出の終了時刻tend以前の時間に係る概略経時変化(第2経時変化)に基づき、終了時刻tendよりも未来の概略経時変化を取得する。
【0090】
次に、ステップS109において、パラメータ算出器4は、メンテナンスウィンドウを予測する。メンテナンスウィンドウは、未来の概略経時変化において、内部状態パラメータが所定値に達する時刻に基づいて予測可能である。
【0091】
図7は、未来の概略経時変化のプロット図の例である。概略経時変化が、シミュレーションの終了時刻t
endより後の時間範囲66において、時刻t
cまで予測されている。
【0092】
メンテナンス基準値64は、プラント2がメンテナンスを要する値の基準を表す。たとえば、内部状態パラメータがメンテナンス基準値64まで減少すると、メンテナンスが必要となる。具体例として、内部状態パラメータが熱伝達率である場合には、熱交換器の最小熱伝達率設計値をメンテナンス基準値64とすることができる。
【0093】
内部状態パラメータの推定範囲について、上側基準の概略経時変化のプロット62aがメンテナンス基準値64と交わる時刻tmaxが、メンテナンス時期の最も遅い時刻を表す。同様に、下側基準の概略経時変化のプロット61aがメンテナンス基準値64と交わる時刻tminが、メンテナンス時期の最も早い時刻を表し、概略経時変化の平均値のプロット60aがメンテナンス基準値64と交わる時刻taveが、メンテナンス時期の平均的な時刻の例を表す。時刻tminおよび時刻tmaxとの間の期間が、メンテナンスウィンドウ65となる。
【0094】
このようにして、システム1は、未来の概略経時変化の上側基準および下側基準に基づき、プラントのメンテナンス時期を表す情報を出力する。メンテナンス時期は、未来の概略経時変化の上側基準および下側基準がそれぞれ所定値に達する時刻を両端とする区間によって表される。
【0095】
上述のステップS108およびS109において、パラメータ算出器4は、未来の概略経時変化を表すデータと、プラント2のメンテナンス時期を表す情報とを出力手段6に提供し、出力手段6はこれを出力(たとえば表示、印刷または送信)する。
【0096】
このようなプロット図により、ユーザは状況に応じたメンテナンス時期を決定することができる。たとえば、いかなる動作不全の可能性をも回避したい場合には時刻tminにメンテナンス作業を計画することができ、コスト等を考慮してバランスよくメンテナンスを行いたい場合には時刻tmaxにメンテナンス作業を計画することができる。
【符号の説明】
【0097】
1…システム
2…プラント
3…シミュレータ
4…パラメータ算出器
5…入力手段
6…出力手段
7…制御装置
20,20a…対象状態測定データ
21…プロセス値データ
22…制御信号
23…プラント状態値
30…物理モデル
31…制御バルブモデル
40…制御バルブ
60,60a,61,61a,61b,62,62a…プロット
63,63a…推定範囲
64…メンテナンス基準値
65…メンテナンスウィンドウ
66…時間範囲