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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】ガス化炉の操業方法及びガス化炉
(51)【国際特許分類】
   C10J 3/46 20060101AFI20250310BHJP
   F23G 5/00 20060101ALI20250310BHJP
   F23G 5/027 20060101ALI20250310BHJP
   F23G 5/24 20060101ALI20250310BHJP
   F23G 5/50 20060101ALI20250310BHJP
   C02F 11/10 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
C10J3/46 Z
F23G5/00 115Z
F23G5/027 B
F23G5/027 A
F23G5/24 B
F23G5/24 C
F23G5/50 F
C02F11/10 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021565654
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2020047249
(87)【国際公開番号】W WO2021125289
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019229389
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】308024395
【氏名又は名称】荏原環境プラント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】福井 友亮
(72)【発明者】
【氏名】秋山 淳一
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-226237(JP,A)
【文献】特開2003-212615(JP,A)
【文献】特開2003-074822(JP,A)
【文献】特開2004-183921(JP,A)
【文献】特開2009-281694(JP,A)
【文献】特開平10-089651(JP,A)
【文献】特開2010-075897(JP,A)
【文献】特開2006-160575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/46
F23G 5/00
F23G 5/027
F23G 5/24
F23G 5/50
C02F 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性原料が投入されてガス及びスラグを生成するガス化炉において、前記ガス化炉に直接又は間接にアルカリ金属含有化合物を投入して前記スラグを低粘度化することを含む、ガス化炉の操業方法であって、
前記スラグのナトリウム及びケイ素の含有量を分析すること、及び
前記スラグ中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)が2.5以下のときに、前記アルカリ金属含有化合物を投入することを更に含み、前記アルカリ金属含有化合物がケイ酸ナトリウムである、ガス化炉の操業方法
【請求項2】
前記ケイ酸ナトリウムが水溶液の形態で投入される、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記ケイ酸ナトリウム中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)が、0.4以上4.5以下である、請求項又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガス化炉に直接又は間接にケイ素含有化合物を投入することを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ケイ素含有化合物が流動媒体である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
低粘度化した前記スラグ中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)が1.0以上15.0以下である、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
低粘度化した前記スラグがアルカリ金属を酸化物換算で1.5質量%~20.0質量%含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属含有化合物を前記有機性原料と混合して前記ガス化炉に投入することを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
低温ガス化炉内で有機性廃棄物を一次ガス化して有機性原料を生成することと、前記有機性原料を高温ガス化炉に投入することと、前記高温ガス化炉内で前記有機性原料を二次ガス化してガス及びスラグを生成することとを含む、有機性廃棄物の二段ガス化方法であって、前記高温ガス化炉に直接又は間接にアルカリ金属含有化合物を投入して前記スラグを低粘度化することを含み、
前記スラグのナトリウム及びケイ素の含有量を分析すること、及び
前記スラグ中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)が2.5以下のときに、前記アルカリ金属含有化合物を投入することを更に含み、前記アルカリ金属含有化合物がケイ酸ナトリウムである、有機性廃棄物の二段ガス化方法。
【請求項10】
前記高温ガス化炉が有機性原料からガス及びスラグを生成するガス化炉であって、前記有機性原料をガス化又は燃焼させる燃焼室と、生成したスラグを冷却及び回収する不燃性物質分離室と、前記燃焼室に設けられたアルカリ金属含有化合物の導入口とを備える、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記導入口が外管及び内管を有する二重管を備え、前記アルカリ金属含有化合物が内管に供給され、不活性ガスが外管に供給される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記導入口が前記燃焼室の側面に配置されている、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記高温ガス化炉が旋回式溶融炉である、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記低温ガス化炉が流動床ガス化炉である、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、廃プラスチック等の有機性廃棄物のガス化処理に好適に用いることができる、ガス化炉の操業方法、ガス化炉、二段ガス化装置、有機性原料のガス化方法、及び有機性廃棄物の二段ガス化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチック、都市ごみ、下水汚泥、廃FRP、バイオマス廃棄物、自動車廃棄物、廃油等の有機性廃棄物のガス化処理に使用される従来のガス化炉には、水素ガス、一酸化炭素ガスなどを含むガスと、灰分を含むスラグとを分離するために、ガス化炉の燃焼室の下方に不燃性物質分離室が設けられている。ガス化炉中でのダイオキシンのデノボ合成を抑制するために、冷却されるガスの滞留時間が短くなる、すなわちガスの線速度が大きくなるように、燃焼室と不燃性物質分離室との間には、燃焼室の断面積より小さい断面積を有するスロート部が設けられている。
【0003】
燃焼室で生成したスラグは、そのほとんどが溶融した状態(以下、溶融状態のスラグを「溶融スラグ」という。)で円筒状燃焼室の側面壁を伝って流下して、残りはガスに巻き込まれた状態で、いずれもスロート部を通って不燃性物質分離室に到達する。溶融スラグは、不燃性物質分離室の冷却水により急冷されることで粗粒化して、粗粒スラグとしてガス化炉底部のスラグ排出口から抜き出される。
【0004】
ガス化炉に供給される有機性原料の組成、供給量の変動などが生じると、燃焼室内の温度が変化する、あるいは生成するスラグの融点又は粘性が変わる場合がある。このような場合、一度に大量の溶融スラグが燃焼室底部の開口部からスロート部に流れ込み、一時的にスロート部、又はスロート部から下方に延びるようにスロート部に接続された円筒状下降管が閉塞される、あるいはスロート部又は円筒状下降管が狭窄状態になることがある。燃焼室内の温度が急激に上昇すると、燃焼室の側面壁に固着していたスラグが溶融スラグとなって側面壁から流下して、一度に大量の溶融スラグがスロート部に流れ込むことで、スロート部又は円筒状下降管の閉塞を引き起こす場合がある。
【0005】
スロート部と不燃性物質分離室との接続部の側壁に、ガスに巻き込まれた微細なスラグ滴(スラグミスト)が固着して、大きなスラグ塊を形成する場合もある。スラグ塊が不燃性物質分離室に落下すると、不燃性物質分離室のスラグ排出口が閉塞する場合がある。
【0006】
スロート部、円筒状下降管若しくはスラグ排出口が一時的にでも閉塞する、又はスロート部若しくは円筒状下降管が狭窄状態になると、ガス化炉の内圧が高くなるため、安全性の観点からガス化炉の操業を停止するか、あるいは有機性原料の供給量を減少させる必要が生じる場合がある。スラグ排出口がスラグ塊によって閉塞した場合、ガス化炉の操業を停止して不燃性物質分離室の内部を清掃しなければならないため、操業効率が低下する。
【0007】
特許文献1には、廃棄物をガス化溶融・改質炉でガス化溶融し、発生したガスを1000~1300℃の温度の改質炉でガス改質するガス化溶融・改質炉の操業方法において、灰分の塩基度(CaO/SiO)が1.0以上である場合に、溶融促進剤としてSiOリッチの粉粒剤を、ガス化溶融炉の炉前で廃棄物に添加するか、改質炉の炉前でガス化溶融炉の発生ガスに添加することを特徴とする廃棄物のガス化溶融・改質炉の操業方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-226237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、カルシウムとケイ素の比率(灰分の塩基度)に着目したもので、カルシウム含有量の低い有機性廃棄物には適用できないなど、適用できる廃棄物組成が限られていた。
【0010】
ガス化炉の運転温度(燃焼温度)を低下させることで、生成するガスに含まれる有用な成分、例えば水素ガス及び一酸化炭素ガスを増加させることができる場合がある。しかし、ガス化炉の運転温度を低下させると、溶融スラグの流動性が低下して、スロート部又は円筒状下降管の閉塞又は狭窄がより生じやすくなる。流動性の低下した溶融スラグは、より大きな液滴となって落下して、不燃性物質分離室の冷却水により急冷されることで、大径化した粗粒スラグとなる。大径化したスラグによりスラグ排出口が閉塞しやすくなる場合がある。
【0011】
本発明は、ガス化炉を長期間にわたって安定的に操業することを可能にする、ガス化炉の操業方法、ガス化炉、二段ガス化装置、有機性原料のガス化方法、及び有機性廃棄物の二段ガス化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討した結果、ガス化炉に直接又は間接にアルカリ金属含有化合物を投入することによりスラグを低粘度化して、スロート部若しくは円筒状下降管の閉塞若しくは狭窄、又はガス化炉底部の閉塞を抑制又は防止できることを見出して、本発明を完成した。
【0013】
本開示は、以下の態様を包含する。
[1]
有機性原料が投入されてガス及びスラグを生成するガス化炉において、前記ガス化炉に直接又は間接にアルカリ金属含有化合物を投入して前記スラグを低粘度化することを含む、ガス化炉の操業方法。
[2]
前記アルカリ金属含有化合物がケイ酸ナトリウムである、[1]に記載の方法。
[3]
前記ケイ酸ナトリウムが水溶液の形態で投入される、[2]に記載の方法。
[4]
前記ケイ酸ナトリウム中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)が、0.4以上4.5以下である、[2]又は[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記ガス化炉に直接又は間接にケイ素含有化合物を投入することを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記ケイ素含有化合物が流動媒体である、[5]に記載の方法。
[7]
低粘度化した前記スラグ中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)が1.0以上15.0以下である、[2]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
低粘度化した前記スラグがアルカリ金属を酸化物換算で1.5質量%~20.0質量%含む、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
前記スラグのナトリウム及びケイ素の含有量を分析すること、
前記スラグ中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)が2.5以下のときに、前記アルカリ金属含有化合物を投入することを含む、[2]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
前記アルカリ金属含有化合物を前記有機性原料と混合して前記ガス化炉に投入することを含む、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
有機性原料からガス及びスラグを生成するガス化炉であって、前記有機性原料をガス化又は燃焼させる燃焼室と、生成したスラグを冷却及び回収する不燃性物質分離室と、前記燃焼室に設けられたアルカリ金属含有化合物の導入口とを備える、ガス化炉。
[12]
前記導入口が外管及び内管を有する二重管を備え、前記アルカリ金属含有化合物が内管に供給され、不活性ガスが外管に供給される、[11]に記載のガス化炉。
[13]
前記導入口が前記燃焼室の側面に配置されている、[11]又は[12]のいずれかに記載のガス化炉。
[14]
前記ガス化炉が旋回式溶融炉である、[11]~[13]のいずれかに記載のガス化炉。
[15]
有機性廃棄物を一次ガス化して有機性原料を生成する低温ガス化炉と、前記低温ガス化炉で生成した前記有機性原料を二次ガス化してガス及びスラグを生成する高温ガス化炉とを備える有機性廃棄物の二段ガス化装置であって、前記高温ガス化炉が[11]~[14]のいずれかに記載のガス化炉である、二段ガス化装置。
[16]
前記低温ガス化炉が流動床ガス化炉である、[15]に記載の二段ガス化装置。
[17]
低温ガス化炉内で有機性廃棄物を一次ガス化して有機性原料を生成することと、前記有機性原料を高温ガス化炉に投入することと、前記高温ガス化炉内で前記有機性原料を二次ガス化してガス及びスラグを生成することとを含む、有機性廃棄物の二段ガス化方法であって、前記高温ガス化炉に直接又は間接にアルカリ金属含有化合物を投入して前記スラグを低粘度化することを含む、方法。
[18]
前記高温ガス化炉が[11]~[14]のいずれかに記載のガス化炉である、[17]に記載の方法。
[19]
前記低温ガス化炉が流動床ガス化炉である、[17]又は[18]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示の発明によれば、ガス化炉に直接又は間接にアルカリ金属含有化合物を投入することによりスラグを低粘度化して、スロート部若しくは円筒状下降管の閉塞若しくは狭窄、又はガス化炉底部の閉塞を抑制又は防止することで、ガス化炉を長期間にわたって安定的に操業することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施態様のガス化炉の概略断面図である。
図2】一実施態様のガス化炉を備える有機性廃棄物の二段ガス化装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な応用が可能である。
【0017】
一実施態様のガス化炉の操業方法は、有機性原料が投入されてガス及びスラグを生成するガス化炉において、ガス化炉に直接又は間接にアルカリ金属含有化合物を投入してスラグを低粘度化することを含む。
【0018】
ガス化炉は、有機性原料からガス及びスラグを生成するものであれば特に限定されない。ガス化炉としては、例えば、焼却炉で廃棄物を焼却した後の灰等の残渣を溶融する灰溶融炉(電気式、バーナー式、副資材溶融式など)、及びガス化溶融炉(廃棄物のガス化と溶融を同時に行う直接溶融炉、廃棄物をガス化した後に溶融する流動床式ガス化溶融炉、キルン式ガス化溶融炉、プッシャー式ガス化溶融炉など)が挙げられる。ガス化炉の熱源による分類としては、例えば、電気式溶融炉(交流アーク式溶融炉、交流電気抵抗式溶融炉、直流電気抵抗式溶融炉、プラズマ式溶融炉、誘導式溶融炉など)、燃料燃焼式溶融炉(回転式表面溶融炉、反射式表面溶融炉、輻射式表面溶融炉、旋回流式溶融炉、ロータリーキルン式溶融炉、コークスヘッド式灰溶融炉など)、及び直接燃焼式溶融炉(コークスヘッド式ごみ溶融炉、熱分解・旋回流式溶融炉、内部式溶融炉など)が挙げられる。ガス化炉は、有機性廃棄物から有価ガス(水素ガス、一酸化炭素ガスなど)を発生させるガス化プラント(ガス化改質プラントなど)の高温ガス化炉であってもよい。
【0019】
一実施態様では、ガス化炉は、有機性原料をガス化又は燃焼させる燃焼室と、生成したスラグを冷却及び回収する不燃性物質分離室と、燃焼室に設けられたアルカリ金属含有化合物の導入口とを備える。ガス化炉は旋回式溶融炉であることが好ましい。
【0020】
一実施態様では、ガス化炉は、廃棄物として廃プラスチック、都市ごみ、下水汚泥、廃FRP、バイオマス廃棄物、自動車廃棄物、廃油等の有機性廃棄物をガス化処理する二段ガス化装置における高温ガス化炉である。高温ガス化炉では、有機性原料から水素ガス、一酸化炭素ガスなどの合成ガス(燃料ガスともいう。)と、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、鉄などの酸化物を灰分として含むスラグが生成する。有機性原料は、前記有機性廃棄物又は炭化水素ガスの他に、水素ガス、一酸化炭素ガス、タール、可燃性炭素質粒子(チャー)、及び不燃性物質(灰分)を含む粒子等の有機性原料以外のものを同伴して高温ガス化炉に投入されてもよい。有機性原料は、可燃性炭素質粒子及び不燃性物質を含む粒子を同伴する可燃性気体の形態であってもよい。
【0021】
以下、例示的なガス化炉として、有機性廃棄物の二段ガス化装置の高温ガス化炉について詳細に説明する。
【0022】
二段ガス化装置は、有機性廃棄物を一次ガス化して有機性原料を生成する低温ガス化炉と、低温ガス化炉で生成した有機性原料を二次ガス化してガス及びスラグを生成する高温ガス化炉とを備える。
【0023】
図1に、一実施態様のガス化炉(高温ガス化炉)の概略断面図を示す。ガス化炉は、旋回式溶融炉であり、一般に円筒状の形状を有する燃焼室1、スロート部11、及び不燃性物質分離室12を備える。燃焼室1には、側面壁2に有機性原料導入口3と有機性原料を燃焼させるためのガス化剤(通常は酸素ガスと水蒸気の混合ガス)を供給するガス化剤導入口4とを備え、燃焼室1の頂部には、燃焼室1の上部にて不足する場合がある酸素又は水蒸気を供給するための頂部ガス化剤導入口5が設けられている。図1では、2つのガス化剤導入口4が示されているが、ガス化剤導入口4の数は特に限定されない。
【0024】
有機性原料導入口3とガス化剤導入口4は、燃焼室1に供給された有機性原料が燃焼室1の鉛直方向に延びる軸の周りを旋回しながら下降するように側面壁2に配置されている。燃焼室1に供給された有機性原料は、粒子状の可燃分を多く含有する外周側の旋回流と、ガス状の可燃分を多く含有する内周側の旋回流とを形成する。粒子状の可燃分を多く含有する外周側の旋回流に向けて、側面壁2のガス化剤導入口4から酸素ガスなどのガス化剤が供給されることで、粒子状の可燃分のガス化が促進される。
【0025】
図1では、燃焼室1の側面壁2の周囲が鋼皮6で覆われ、さらにその外側が、冷却媒体を内部に通す冷却ジャケット7で覆われている。側面壁2は、耐火物(通常はキャスタブル耐火物)で形成されるが、溶融スラグの浸食作用などによって表面が削られることがある。この場合、冷却媒体により側面壁2の温度を溶融スラグの融点前後まで冷却させて、溶融スラグを固着させることにより、側面壁2の浸食を抑制することができる(スラグによるセルフコーティング)。冷却媒体は特に限定されないが、通常は、ボイラ用水が用いられ、冷却ジャケット7内ではボイラ用水の一部が水蒸気となって存在する。
【0026】
燃焼室1の底部8は、側面壁2と同様に耐火物(通常はキャスタブル耐火物)で形成され、ガス化炉の燃焼室1と不燃性物質分離室12との境界にスロート部11が配置されている。図1では、燃焼室1の開口部9は、燃焼室1の軸位置に設けられているが、開口部9は燃焼室1の軸位置から偏心して(燃焼室1の軸位置の周囲に開口部の中心が位置するように)設けられていてもよい。
【0027】
耐火物の厚さが減少しやすいガス化炉の側面壁2の上部は、10~80質量%Cr-Al系のキャスタブルで内張りされていることが好ましい。ガス化炉の側面壁2の下部及び燃焼室1の底部8は、10~30質量%Cr-Al系のキャスタブルで内張りすることができる。
【0028】
不燃性物質分離室12では、スロート部11から下方に延びるようにスロート部11に接続された円筒状下降管14の下方先端が、水槽部16の冷却水に水没するように延びている。スロート部11を通過するガス及び溶融スラグが水槽部16の冷却水に吹き込まれる。円筒状下降管14の周囲には、円筒状下降管14の外径よりも内径が大きい円筒状上昇管15が、円筒状下降管14と同心状に設置されている。水槽部16の冷却水に吹き込まれたガスは、円筒状下降管14と円筒状上昇管15の間を通って、不燃性物質分離室12の側面に設けられているガス取出し口17から回収される。
【0029】
水槽部16の冷却水は、冷却水導入管13から供給される。冷却水導入管13から供給された冷却水は、円筒状下降管14の内壁表面を流れ落ちて、水槽部16に溜まる。水槽部16に溜まった冷却水は、水槽部16の側面に設けられている冷却水取出し口19から外部に排出される。水槽部16の冷却水に吹き込まれた溶融スラグは、水槽部16の冷却水により急冷されてスラグ粒(粗粒スラグ)となり、水槽部16の底部に設けられているスラグ排出口18から取り出される。冷却水の温度は150℃~160℃であることが好ましい。これにより、高温のガス及び溶融スラグは200℃以下まで急冷される。
【0030】
図1では、円筒状下降管14は下方で内径が小さくなっており、その下方先端は鋸歯形状を有するように示されているが、円筒状下降管14の形状は特に限定されない。円筒状下降管14の内壁表面は、冷却水が旋回しながら流れ落ちるような形状であることが好ましい。これにより、高温のガスが効果的に円筒状下降管14の内側表面の冷却水と接触して、ガスを効率的に冷却することができる。
【0031】
図1に示す不燃性物質分離室12は例示的であり、ガスを冷却水で冷却しなくてもよい。例えば、ガスの熱を輻射ボイラで回収して発電などに利用してもよい。
【0032】
ガス化炉の燃焼室1内の温度は1200℃以上1600℃以下であることが好ましく、1250℃以上1550℃以下であることがより好ましく、1350℃以上1450℃以下であることが更に好ましい。
【0033】
ガス化炉の炉内圧力は、0.5MPaG(ゲージ圧)以上9.0MPaG以下であることが好ましく、0.8MPaG以上2.0MPaG以下であることがより好ましい。ガス化炉の炉内圧力が9.0MPaG以下であれば、適正な燃焼温度を確保することができ、耐圧及び耐熱の観点から設備費用を過度に増加させずに経済的にガス化処理を行うことができる。ガス化炉の炉内圧力が0.5MPaG以上であれば、常圧でガス化処理を行う場合と比べて設備を小型化することができる。
【0034】
アルカリ金属含有化合物は、ガス化炉に直接投入してもよく、ガス化炉に投入する有機性原料と混合することによりガス化炉に間接的に投入してもよい。アルカリ金属含有化合物をガス化炉に直接投入することが、ガス化炉にアルカリ金属含有化合物を効率よく到達させることができ、アルカリ金属含有化合物の搬送等に係るエネルギーの有効活用の観点から好ましい。
【0035】
図1では、ガス化炉の燃焼室1の側面にアルカリ金属含有化合物導入口10が配置されている。アルカリ金属含有化合物導入口10は、頂部ガス化剤導入口5の代わりに、又はそれに加えて、ガス化炉の燃焼室1の上部に配置されてもよい。アルカリ金属含有化合物導入口10は、複数であってもよい。アルカリ金属含有化合物は、アルカリ金属含有化合物導入口10から直接ガス化炉に投入することができる。燃焼室1の側面又は上部に配置されたアルカリ金属含有化合物導入口からアルカリ金属含有化合物を投入することにより、高温状態で有機性原料又は溶融スラグにアルカリ金属含有化合物を効果的に混合することができる。
【0036】
アルカリ金属含有化合物導入口10は外管及び内管を有する二重管を備えてもよい。二重管の内管にアルカリ金属含有化合物を供給し、二重管の外管に不活性ガスを供給することにより、アルカリ金属含有化合物を分散して、あるいはアルカリ金属含有化合物が水溶液の形態である場合は霧化して、より均一にガス化炉に投入することができる。
【0037】
アルカリ金属含有化合物導入口10を二重管として、二重管の内管にアルカリ金属含有化合物を供給し、二重管の外管にガス化剤又は水蒸気を供給してもよい。これにより、アルカリ金属含有化合物導入口10と、ガス化剤導入口4又は頂部ガス化剤導入口5とをガス化炉の同じ位置に設けることができる。
【0038】
アルカリ金属含有化合物をガス化炉に投入する有機性原料と混合する場合、例えば、有機性原料導入口3の上流側にアルカリ金属含有化合物導入口を設け、そこからアルカリ金属含有化合物を有機性原料に添加して混合することができる。
【0039】
アルカリ金属含有化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩、及びケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどのアルカリ金属ケイ酸塩が挙げられる。アルカリ金属含有化合物は、安価であることからナトリウム含有化合物であることが好ましく、保管時に安定であることから水酸化ナトリウム及びケイ酸ナトリウムがより好ましく、燃焼室1の側面壁2を形成する耐火物への影響が少ないことから、ケイ酸ナトリウムが更に好ましい。
【0040】
アルカリ金属含有化合物は、ガス化炉への直接投入が容易であること、あるいは有機性原料とより均一に混合させることができることから、水溶液の形態で投入されることが好ましい。例えば、水酸化ナトリウムは、5質量%~50質量%の水溶液とすることができる。ケイ酸ナトリウムは、水溶液の形態、すなわち水ガラスとして投入することができる。
【0041】
ケイ酸ナトリウム中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)は、酸化ナトリウムを1としたときに、二酸化ケイ素が0.4以上4.5以下であることが好ましく、1.2以上3.5以下であることがより好ましく、2.3以上3.3以下であることが更に好ましい。ケイ酸ナトリウム中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比が上記範囲であれば、スラグの流動性を効果的に高めることができる。二酸化ケイ素及び酸化ナトリウムの質量は、JIS K 1408:1966に規定の方法に準拠して測定される。
【0042】
ケイ酸ナトリウム中の二酸化ケイ素の質量は、好ましくは19.0質量%以上40.0質量%以下であり、より好ましくは21.0質量%以上35.0質量%以下であり、更に好ましくは23.0質量%以上30.0質量%以下である。
【0043】
ケイ酸ナトリウム中の酸化ナトリウムの質量は、好ましくは5.0質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは7.0質量%以上25.0質量%以下、更に好ましくは9.0質量%以上15.0質量%以下である。
【0044】
ケイ酸ナトリウムの15℃における比重は、好ましくは30以上であり、より好ましくは35以上、更に好ましくは38以上である。ケイ酸ナトリウムの比重は、JIS Z 8804:2012に規定の重ボーメ度うきばかりを用いて測定される。
【0045】
アルカリ金属含有化合物の使用量は、アルカリ金属含有化合物を投入する前の溶融スラグ100質量部を基準として、0.5質量部以上20.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上15.0質量部以下であることがより好ましく、3.0質量部以上12.0質量部以下であることが更に好ましい。
【0046】
スロート部の温度がスラグの溶流点より高くなるように、アルカリ金属含有化合物を投入することが好ましい。これにより、スロート部におけるスラグの固化を防止して、固化したスラグの掻き取りなどのメンテナンス作業を不要に又は軽減することができる。
【0047】
スロート部における差圧及び粗粒スラグの排出量に基づいて、アルカリ金属含有化合物の投入量を制御することもできる。
【0048】
更に、ケイ素含有化合物(但し、前述のアルカリ金属含有化合物に該当するケイ素含有化合物、例えば、ケイ酸ナトリウム等は除く)を、ガス化炉に直接投入してもよく、ガス化炉に投入する有機性原料と混合することによりガス化炉に間接的に投入してもよい。ケイ素含有化合物として、例えば、硅砂、アルカリ金属ケイ酸塩以外のケイ酸塩、及びシロキサン化合物が挙げられる。ケイ素含有化合物は、流動媒体であってもよい。後述のように一実施態様の二段ガス化装置は、ガス化炉(高温ガス化炉)の前工程として低温ガス化炉を有する。低温ガス化炉が流動床ガス化炉である場合、硅砂、オリビン砂、アルミナなどの流動媒体を用いることがある。前工程で使用される流動媒体は、有機性原料に同伴して前工程から移動することで、ガス化炉に投入されてもよい。
【0049】
低粘度化したスラグ中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)は、好ましくは1.0以上15.0以下であり、より好ましくは2.0以上10.0以下であり、更に好ましくは2.5以上8.0以下である。
【0050】
一実施態様では、スラグのナトリウム及びケイ素の含有量を分析し、スラグ中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(二酸化ケイ素のモル数/酸化ナトリウムのモル数)が2.5以下のときに、アルカリ金属含有化合物を投入する。これにより、低粘度化したスラグ中の二酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比を上記好適範囲に維持して、ガス化炉を長期間にわたって安定的に操業することができる。スラグの採取はガス化炉底部から行うことができる。有機性廃棄物又は有機性原料の代表サンプルの成分及びガス化炉の操業実績から、スラグの成分を推定することもできる。
【0051】
低粘度化したスラグは、アルカリ金属を酸化物換算で好ましくは1.5質量%以上20.0質量%以下含み、より好ましくは3.0質量%以上15.0質量%以下含み、更に好ましくは5.0質量%以上10.0質量%以下含む。
【0052】
低粘度化したスラグの鉄の含有量は、酸化物(Fe)換算で好ましくは6.0質量%未満、より好ましくは5.5質量%未満、更に好ましくは5.0質量%未満である。低粘度化したスラグの鉄の含有量を上記範囲とすることにより、粗粒スラグを資源として有効利用することができ、産業廃棄物として処理する場合でも、粗粒スラグの比重を処理に適した範囲とすることができる。
【0053】
一実施態様では、スラグの主成分は、酸化アルミニウム(Al)及び二酸化ケイ素(SiO)である。酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素を主成分として含むスラグにアルカリ金属、及び必要に応じてケイ素を添加してスラグの成分比を変更することにより、スラグの軟化点、融点、及び溶流点をより効果的に低下させることができる。これにより、スロート部の閉塞若しくは狭窄、又はガス化炉底部の閉塞を抑制又は防止することができる。
【0054】
一実施態様では、溶融スラグの成分変化による溶流点の変化は、酸化アルミニウム/二酸化ケイ素/酸化ナトリウムの三成分系に類似する挙動を示す。この実施態様では、酸化アルミニウム/二酸化ケイ素/酸化ナトリウムの三成分系の成分比と溶流点の関係を示す三角線図を用いて、スラグの低粘度化に必要なアルカリ金属含有化合物の組成及び添加量を決定することができる。
【0055】
一実施態様では、アルカリ金属含有化合物を投入する前の溶融スラグの成分及び組成は以下のとおりである。
Al:10質量%~50質量%
SiO:20質量%~60質量%
NaO:0.1質量%~20質量%
CaO:1質量%~20質量%
TiO:1質量%~15質量%
Fe:1質量%~10質量%
残部(MgOなど)
【0056】
一実施態様では、ガス化処理中にスラグのNaO濃度が10質量%未満、好ましくは5.0質量%未満、より好ましくは3.0質量%未満、更に好ましくは1.5質量%未満となった時点で、アルカリ金属含有化合物を投入する。スラグの採取はガス化炉底部から行うことができる。
【0057】
一実施態様では、有機性廃棄物の二段ガス化方法は、低温ガス化炉内で有機性廃棄物を一次ガス化して有機性原料を生成することと、有機性原料を高温ガス化炉に投入することと、高温ガス化炉内で有機性原料を二次ガス化してガス及びスラグを生成することとを含み、高温ガス化炉に直接又は間接にアルカリ金属含有化合物を投入してスラグを低粘度化することを含む。
【0058】
図2に、一実施態様のガス化炉を備える有機性廃棄物の二段ガス化装置の構成図を示す。二段ガス化装置は、低温ガス化炉23及び高温ガス化炉27を備えている。高温ガス化炉27は本開示の対象とするガス化炉であり、既に説明したとおりである。低温ガス化炉の種類は、特に限定されず、ストーカ炉又は流動床ガス化炉であることが好ましく、流動床ガス化炉であることがより好ましく、加圧型の流動床ガス化炉であることが更に好ましい。図2では低温ガス化炉23は流動層24を有する流動床ガス化炉として示されている。
【0059】
有機性廃棄物は、特に限定されないが、廃プラスチック、都市ごみ、下水汚泥、バイオマス廃棄物、廃繊維強化プラスチック(FRP)、自動車廃棄物、産業廃棄物、鉄鋼スラグ及び固形化燃料からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。運搬効率の点から、有機性廃棄物は、都市ごみを固形化燃料としたRefuse Derived Fuel(以下「RDF」ともいう。)又は廃プラスチックを固形化燃料としたRefuse Paper & Plastic Fuel(以下「RPF」ともいう。)であることがより好ましく、組成のばらつきの少なさ、高発熱量及び低水分含有量の観点からRPFであることが更に好ましい。有機性廃棄物は、複数を組み合わせてもよい。
【0060】
有機性廃棄物の補助燃料として、石炭、石油系燃料等を用いることもできる。
【0061】
有機性廃棄物は、5mm~30mm程度の大きさに粗破砕及び必要に応じて圧縮されたペレットとして、低温ガス化炉23に供給してもよい。液状の有機性廃棄物はそのまま低温ガス化炉23に供給することができる。
【0062】
低温ガス化炉23の内部では、炉の下方から供給された流動化ガスbによって流動化した流動媒体(例えば、硅砂、オリビン砂などの砂、アルミナ、鉄粉、石灰石、ドロマイト等)が流動層24を形成している。流動化ガスbとしては、一般に、酸素ガス、空気、若しくは水蒸気又はこれらの混合ガスが用いられる。流動化ガスbとして供給される酸素ガス又は空気は、有機性廃棄物のガス化剤としても作用する。低温ガス化炉23に供給される有機性廃棄物aは、450~850℃(例えば600℃)の温度に保持された流動層24内で、炉内に供給された酸素ガス又は空気により、速やかに部分燃焼(不完全燃焼)されて、例えば、有機性原料の一部(炭化水素ガスなど)、及び水素ガス、一酸化炭素ガス、タール、可燃性炭素質粒子などが生成する。この部分燃焼により生じた熱は、低温ガス化炉内の温度を維持する熱として利用される。
【0063】
低温ガス化炉23に供給される空気又は酸素の量は、有機性廃棄物を完全燃焼させるのに必要な理論酸素量の5%以上30%以下であることが好ましく、10%以上20%以下であることがより好ましい。
【0064】
低温ガス化炉23の炉内温度は、450℃以上850℃以下であることが好ましく、600℃以上800℃以下であることがより好ましい。低温ガス化炉23の炉内温度が850℃以下であれば、有機性廃棄物に含まれる金属のうち融点が流動層温度より高いものは、未酸化状態の有価金属として低温ガス化炉底部より流動媒体と共に排出することができる。低温ガス化炉23の炉内温度が450℃以上であれば、タールとチャーの生成が抑制される一方で、ガス化を効率的に進行させることができる。
【0065】
低温ガス化炉23の炉内圧力は、0.5MPaG(ゲージ圧)以上9.0MPaG以下であることが好ましく、1.0MPaG以上2.0MPaG以下であることがより好ましい。低温ガス化炉23の炉内圧力が9.0MPaG以下であれば、耐圧及び耐熱の観点から設備費用を過度に増加させずに経済的にガス化処理を行うことができる。低温ガス化炉23の炉内圧力が0.5MPaG以上であれば、常圧でガス化処理を行う場合と比べて設備を小型化することができる。
【0066】
低温ガス化炉23の炉底からは、流動媒体が不燃物と共にロックホッパ25を介して排出され、スクリーン26により粗大な不燃物dが除去される。不燃物が除去された流動媒体cは、低温ガス化炉23の内部に戻される。分離された粗大な不燃物dに含まれている金属(例えば、鉄、銅、アルミニウムなど)は、流動層24が比較的低温度で、しかも酸素が不足した状態となっているので、ほとんどが未酸化の状態である。
【0067】
有機性廃棄物の部分燃焼により生成した可燃性炭素質(固形カーボン)は、流動層24の撹拌運動により微粉砕されて、粒子(チャー)となって有機性原料の流れに同伴する。不燃性物質(灰分)の一部も流動層24の撹拌運動により微粉砕されて、粒子となって有機性原料の流れに同伴する。
【0068】
不燃性物質を含む粒子と可燃性炭素質粒子とを浮遊状態で伴う有機性原料eは、高温ガス化炉27の有機性原料導入口3から燃焼室1に供給されて旋回しながら下降する。有機性原料と可燃性炭素質粒子はガス化剤導入口4及び頂部ガス化剤導入口5から供給されたガス化剤(酸素ガスと水蒸気との混合ガス)fによって燃焼する。有機性原料と可燃性炭素質粒子の燃焼熱により燃焼室1内の温度は1300~1500℃に維持される。可燃性炭素質粒子の燃焼により、一酸化炭素ガス、及び二酸化炭素ガスが生成する。ガス化剤に含まれている水蒸気と可燃性炭素質粒子との水性ガス化反応により、一酸化炭素ガス及び水素ガスも生成する。
【0069】
有機性原料eに同伴する不燃性物質を含む粒子は、燃焼室1にて溶融スラグとなる。合成ガス(水素ガス、一酸化炭素ガス、及び二酸化炭素ガス)、及び溶融スラグは不燃性物質分離室12で急冷され、合成ガスはガス取出し口17から、スラグ粒(粗粒スラグ)はスラグ排出口18から取り出される。
【0070】
有機性原料eが、固形物(可燃性炭素質粒子、又は不燃性物質)を多く伴う場合には、高温ガス化炉27に供給する前に、予めサイクロン等を用いて気体と固形物とを分離し、気体を有機性原料導入口3から、固形物はガス化剤fと共に頂部ガス化剤導入口5から高温ガス化炉27の燃焼室1に導入することが好ましい。サイクロンにより分離された固形物をガス化剤fと共に高温ガス化炉27の燃焼室1に導入することにより、固形物中の可燃性炭素質粒子が優先的にガス化剤と接触するので、未燃焼カーボンの発生量を減らすことができる。
【0071】
高温ガス化炉27のガス取出し口17から取り出された合成ガスhは、スクラバ31にて洗浄され、合成ガスhに同伴してきた微量の残存するスラグ(スラグミスト)が除去される。スクラバ31にて洗浄された合成ガスh’に含まれる一酸化炭素ガス及び水素ガスは、各種の化学工業原料として利用することができる。有機性廃棄物を二段ガス化装置でガス化処理して得られた水素ガスをアンモニア合成用の水素源として用いることもできる。スクラバ31にて回収されたスラグは貯留槽32にて沈降濃縮されて微粒スラグgとして、外部に排出される。微粒スラグgには、可燃性炭素質粒子が多く含まれているため、高温ガス化炉に再供給することが好ましい。
【0072】
一方、高温ガス化炉27のスラグ排出口18から取り出されたスラグ粒gは、ロックホッパ28により適宜貯留槽29へ排出される。ここで回収された粗粒スラグは、スクリーン30により水と分離される。粗粒スラグgは、セメントや土木建築用の資材として利用することができる。
【0073】
アルカリ金属含有化合物mは、高温ガス化炉27に設けられたアルカリ金属含有化合物導入口10から高温ガス化炉27に直接投入することができる。低温ガス化炉23と高温ガス化炉27をつなぐラインの途中でアルカリ金属含有化合物mを導入して、有機性原料にアルカリ金属含有化合物を投入してもよい。
【0074】
高温ガス化炉のガス取出し口17から取り出された合成ガスに含まれる一酸化炭素ガス及び水素ガスは、各種の化学工業原料として利用することができる。例えば合成ガスを出発原料として、CO転化反応により水素ガスを得て、アンモニアガスを製造することもできる。
【実施例
【0075】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0076】
<使用試薬>
アルカリ金属含有化合物として以下の試薬を使用した。
ケイ酸ナトリウム(東洋珪酸曹達株式会社製、SiO:23.7~26%、NaO:10.3~11.3%)
水酸化ナトリウム(純正化学株式会社製、特級)
【0077】
<スラグの軟化点、融点、及び溶流点>
スラグの軟化点、融点、及び溶流点は、JIS M 8801:2004に準拠して、ミルを用いてスラグを微粉状に粉砕して得られたサンプルを800℃で5時間灰化処理した後に、ライツ高温加熱顕微鏡を用いて、水素:二酸化炭素の体積比が1:1の混合ガス雰囲気下にて測定した。
【0078】
<Cr溶出量>
耐火材キャスタブルをケイ酸ナトリウム又は水酸化ナトリウムを含む浸漬液に浸漬したときのCr溶出量を以下の手順で測定した。
【0079】
(1)酸分解
耐火材キャスタブルを浸漬した後の浸漬液0.1g、リン酸(純正化学株式会社製、特級)6mL、塩酸(純正化学株式会社製、特級)4mL、フッ酸(純正化学株式会社製、特級46%~48%)2.5mL、及び硝酸(関東化学株式会社製、電子工業用硝酸1.42EL)2mLをマイクロウェーブ分解容器(株式会社アクタック製、MWS3+)に入れた。
【0080】
(2)マイクロウェーブ加熱分解
マイクロウェーブ分解容器に入った溶液のマイクロウェーブ加熱分解を以下の(i)から(iv)の一連の操作を2回繰り返して酸分解液を得た。
(i)5分間で190℃まで上昇させ、5分間190℃維持する
(ii)2分間で210℃まで上昇させ、5分間210℃維持する
(iii)2分間で230℃まで上昇させ、25分間230℃維持する
(iv)1分間で100℃まで下げる
【0081】
(3)ICP-AES分析
マイクロウェーブ加熱分解により得られた酸分解液を250mLのメスフラスコに全量移し、超純水(メルク社製、Direct-Q UV)で250mLまでメスアップし、メスアップしたものから10mL採取し、更に100mLにメスアップしたものを分析サンプルとした。JIS K 0116:2014に準拠して、ICP-AES(株式会社島津製作所製、ICPS-8100)を用いて分析サンプルを測定し、Cr溶出量を定量した。
【0082】
1.アルカリ金属含有化合物添加によるスラグの軟化点、融点、及び溶流点の降下
図2に示す二段ガス化装置の高温ガス化炉底部より採取したスラグ(実機スラグ1~3、アルカリ金属含有化合物は非投入)、及び実機スラグ1又は3に表1に記載のアルカリ金属含有化合物を添加したものを用いて、軟化点、融点、及び溶流点を測定した。スラグの組成及び測定結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
実施例1~5では、軟化点、融点、及び溶流点がいずれも、参考例1~3よりも低かった。
【0085】
2.耐火材材質試験
耐火材キャスタブル(10cm×10cm×10cm)を電気炉にて110℃で3時間、1000℃で3時間焼成し、300gの浸漬液に浸漬した後、浸漬液中のCr濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
浸漬液としてケイ酸ナトリウムを用いた場合、耐火材キャスタブルのCr成分の溶出は確認されなかったが、水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、Cr成分の溶出が確認された。
【0088】
3.耐火材実機試験
図2に示す二段ガス化装置を、有機性廃棄物の処理量を5t/hとし、高温ガス化炉の燃焼室出口のガス温度を1450℃、炉内圧力を0.9MPaGとして運転しながら、高温ガス化炉の側管(アルカリ金属含有化合物導入口)から直接高温ガス化炉にケイ酸ナトリウムを100L/hの供給量で投入し、二段ガス化装置を6か月間運転した。停止後に高温ガス化炉を開けたところ、耐火材への影響は見られなかった。
【0089】
図2に示す二段ガス化装置を、有機性廃棄物の処理量を5t/hとし、高温ガス化炉の燃焼室出口のガス温度を1450℃、炉内圧力を0.9MPaGとして運転しながら、高温ガス化炉の側管(アルカリ金属含有化合物導入口)から直接高温ガス化炉に水酸化ナトリウム水溶液を150L/hの供給量で投入し、二段ガス化装置を0.5か月間運転した。停止後に高温ガス化炉を開けたところ、耐火材の厚さが減少していた。
【符号の説明】
【0090】
1 燃焼室
2 側面壁
3 有機性原料導入口
4 ガス化剤導入口
5 頂部ガス化剤導入口
6 鋼皮
7 冷却ジャケット
8 底部
9 開口部
10 アルカリ金属含有化合物導入口
11 スロート部
12 不燃性物質分離室
13 冷却水導入管
14 円筒状下降管
15 円筒状上昇管
16 水槽部
17 ガス取出し口
18 スラグ排出口
19 冷却水取出し口
23 低温ガス化炉
24 流動層
25 ロックホッパ
26 スクリーン
27 高温ガス化炉
28 ロックホッパ
29 貯留槽
30 スクリーン
31 スクラバ
32 貯留槽
図1
図2