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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】状態監視装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
G05B23/02 302Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022040230
(22)【出願日】2022-03-15
(65)【公開番号】P2023135163
(43)【公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】鹿仁島 康裕
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 宏行
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-197181(JP,A)
【文献】特開2020-200177(JP,A)
【文献】特開2021-178530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00-23/02
B66B 3/00- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が移動する機械装置の状態を監視するセンサから出力されたセンサ信号を収集する収集部と、
前記センサ信号に基づいて、前記機械装置の異常の有無を診断する診断部と、
を備え、
前記診断部は、
前記機械装置の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅で前記センサ信号を切り出す切出部と、
前記切り出したセンサ信号に基づいて前記異常の有無を判定する判定部と
を含んでおり、
前記切出部は、
前記機械装置が一定の速度で移動している場合には第1の時間幅で前記センサ信号を切り出し、
前記機械装置が加速又は減速している場合には当該加速又は減速が生じた時点から第2の時間幅で前記センサ信号を切り出す、
態監視装置。
【請求項2】
少なくとも一部が移動する機械装置の状態を監視するセンサから出力されたセンサ信号を収集する収集部と、
前記センサ信号に基づいて、前記機械装置の異常の有無を診断する診断部と、
を備え、
前記診断部は、
前記機械装置の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅で前記センサ信号を切り出す切出部と、
前記切り出したセンサ信号に基づいて前記異常の有無を判定する判定部と
を含んでおり、
前記機械装置は、開閉可能なドアを有し、
前記切出部は、前記機械装置が停止して前記ドアの開又は閉動作を開始した場合には、前記開始した時点から第3の時間幅で前記センサ信号を切り出す、
態監視装置。
【請求項3】
前記開又は閉動作を開始させるトリガ信号を検出し、当該検出結果に基づいて前記切出部を制御する切出制御部、を更に備えた請求項に記載の状態監視装置。
【請求項4】
少なくとも一部が移動する機械装置の状態を監視するセンサから出力されたセンサ信号を収集する収集部と、
前記センサ信号に基づいて、前記機械装置の異常の有無を診断する診断部と、
切出制御部と、
を備え、
前記診断部は、
前記機械装置の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅で前記センサ信号を切り出す切出部と、
前記切り出したセンサ信号に基づいて前記異常の有無を判定する判定部と
を含んでおり、
前記切出制御部は、前記機械装置の駆動を促進又は抑圧させるトリガ信号に基づいて、当該機械装置の速度が一定状態、加速状態又は減速状態にあることを判定し、当該判定結果に基づいて前記切出部を制御する、
態監視装置。
【請求項5】
前記センサ信号は、加速度信号又は音信号である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項6】
少なくとも一部が移動する機械装置の状態を監視するセンサから出力されたセンサ信号を収集する収集部と、
前記センサ信号に基づいて、前記機械装置の異常の有無を診断する診断部と、
を備え、
前記診断部は、
前記機械装置の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅で前記センサ信号を切り出す切出部と、
前記切り出したセンサ信号に基づいて前記異常の有無を判定する判定部と
を含んでおり、
前記センサ信号は、音信号であり、
前記診断部は、
前記切り出されたセンサ信号である前記音信号から雑音を低減するフィルタを有し、前記雑音が低減された音信号を前記判定部に出力する音源分離部と、
前記機械装置における搭乗の有無に応じて、前記フィルタの係数の更新回数を設定する設定部と、
を更に備えた状態監視装置。
【請求項7】
前記設定部は、前記搭乗の有りの場合には前記更新回数を第1設定値に設定し、前記搭乗の無しの場合には前記更新回数を前記第1設定値よりも大きい第2設定値に設定する、請求項に記載の状態監視装置。
【請求項8】
前記音信号に基づいて前記搭乗の有無を検知し、当該検知結果を前記設定部に送出する搭乗検知部、を更に備えた請求項又はに記載の状態監視装置。
【請求項9】
前記機械装置に設けられた人感センサ、重量センサ又は画像センサから出力された出力信号に基づいて前記搭乗の有無を検知し、当該検知結果を前記設定部に送出する搭乗検知部、を更に備えた請求項又はに記載の状態監視装置。
【請求項10】
前記判定部は、前記切り出したセンサ信号に基づいて異常度を算出し、前記異常度が閾値よりも大きい場合に異常と判定する、請求項1乃至のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項11】
前記判定部は、前記切り出したセンサ信号を教師なし学習済みの機械学習モデルに入力し、前記機械学習モデルから出力された前記異常度と前記閾値とを比較することにより、前記異常の有無を判定する、請求項10記載の状態監視装置。
【請求項12】
少なくとも一部が移動する機械装置の状態を監視するセンサから出力されたセンサ信号を収集する収集部と、
前記センサ信号に基づいて、前記機械装置の異常の有無を診断する診断部と、
を備え、
前記診断部は、
前記機械装置の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅で前記センサ信号を切り出す切出部と、
前記切り出したセンサ信号に基づいて前記異常の有無を判定する判定部と
を含んでおり、
前記センサ信号は、音信号であり、
前記判定部は、
前記機械装置が一定の速度で移動している場合には前記切り出したセンサ信号である前記音信号のパワーを算出し、前記パワーと閾値とに基づいて前記異常の有無を判定し、
前記機械装置が加速又は減速している場合には前記切り出したセンサ信号である前記音信号の異常度を算出し、前記異常度と閾値とに基づいて前記異常の有無を判定する、
態監視装置。
【請求項13】
少なくとも一部が移動する機械装置の状態を監視するセンサから出力されたセンサ信号を収集することと、
前記センサ信号に基づいて、前記機械装置の異常の有無を診断することと、
を備え、
前記診断することは、
前記機械装置の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅で前記センサ信号を切り出すことと、
前記切り出したセンサ信号に基づいて前記異常の有無を判定することと
を含んでおり、
前記切り出すことは、
前記機械装置が一定の速度で移動している場合には第1の時間幅で前記センサ信号を切り出すことと、
前記機械装置が加速又は減速している場合には当該加速又は減速が生じた時点から第2の時間幅で前記センサ信号を切り出すことと、
を含んでいる状態監視方法。
【請求項14】
少なくとも一部が移動する機械装置の状態を監視するセンサから出力されたセンサ信号を収集する機能、
前記センサ信号に基づいて、前記機械装置の異常の有無を診断する機能、
をコンピュータに実現させ、
前記診断する機能は、
前記機械装置の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅で前記センサ信号を切り出す機能と、
前記切り出したセンサ信号に基づいて前記異常の有無を判定する機能と
を含んでおり、
前記切り出す機能は、
前記機械装置が一定の速度で移動している場合には第1の時間幅で前記センサ信号を切り出す機能と、
前記機械装置が加速又は減速している場合には当該加速又は減速が生じた時点から第2の時間幅で前記センサ信号を切り出す機能と、
を含んでいるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、状態監視装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のIoT(Internet of Things)の進展に伴って、各種センサから出力されるセンサ信号(データ)により、人が搭乗する移動体などの機械装置の状態を監視する状態監視装置が開発されている。例えば、状態監視装置は、移動体に設置したセンサから収集したセンサ信号に基づいて、常時、移動体の動作状態を監視し、突発的な故障や経年変化による劣化などの異常検出を行う。一方、移動体は、加速のための推進機構や、減速のための抑止機構を備えている。これに伴い、状態監視装置は、各種センサからのセンサ信号により、移動体の加速時・減速時などの様々な動作状態を監視している。
【0003】
このような状態監視装置は、センサ信号の処理量を低減しつつ、異常検出の精度を維持することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3872252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、センサ信号の処理量を低減しつつ、異常検出の精度を維持し得る状態監視装置、方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る状態監視装置は、収集部と、診断部とを備えている。前記収集部は、少なくとも一部が移動する機械装置の状態を監視するセンサから出力されたセンサ信号を収集する。前記診断部は、前記センサ信号に基づいて、前記機械装置の異常の有無を診断する。前記診断部は、切出部と、判定部とを備えている。前記切出部は、前記機械装置の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅で前記センサ信号を切り出す。前記判定部は、前記切り出したセンサ信号に基づいて前記異常の有無を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る状態監視装置及びその周辺構成の一例を示す図。
図2】第1実施形態に係る速度、加速度、区間検知及び解析長の関係を例示する図。
図3】第1実施形態における動作の一例を説明するためのフローチャート。
図4】第1実施形態における動作の一例を説明するためのタイムチャート。
図5】第1実施形態の第1変形例に係る状態監視装置及びその周辺構成の一例を示す図。
図6】第1実施形態の第1変形例に係る速度、加速度、ドア開閉、区間検知及び解析長の関係を例示する図。
図7】第1実施形態の第1変形例における動作の一例を説明するためのフローチャート。
図8】第1実施形態の第2変形例に係る状態監視装置及びその周辺構成の一例を示す図。
図9】第1実施形態の第2変形例における動作の一例を説明するためのフローチャート。
図10】第2実施形態に係る状態監視装置及びその周辺構成の一例を示す図。
図11】第2実施形態に係る速度、加速度、ドア開閉、区間検知、解析長及び判定の関係を例示する図。
図12】第2実施形態における動作の一例を説明するためのフローチャート。
図13】第3実施形態に係る状態監視装置のハードウェア構成を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、機械装置の状態を監視する状態監視装置の実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、機械装置を、少なくとも一部が移動する装置として述べる。また、機械装置のうち、人を移動させる装置を移動体と呼ぶ。以下の実施形態では、移動体のうち、ドアを開閉して人が乗降するエレベータを例に挙げて述べるが、これに限定されない。例えば、ドアを介して人が乗降する移動体として、自動車、鉄道などが挙げられる。また、移動体は、人を移動させる装置であればよいので、必ずしもドアを有する必要はない。例えば、ドアがない移動体として、エスカレータなどが挙げられる。また、移動体としては、必ずしも直接的に人を移動させる必要はなく、間接的に人を移動させてもよい。例えば、間接的に人を移動させる移動体として、人が乗車した自動車を移動させる機械式駐車場などが挙げられる。但し、機械装置は、人を移動させる移動体に限定されない。例えば、機械装置は、無人の自動車を載せたパレットを移動させる機械式駐車場のように、人の移動を伴わずに、少なくとも一部(例、パレット)が移動する構成としてもよい。係る一部が移動する構成は、アームが移動する産業用ロボットのように、移動する一部(例、アーム)が人の移動と無関係でもよい。また、機械装置は、稼働時に設置位置及び外観形状が一定の装置でもよい。例えば、ベルトコンベア装置のベルトの一部にセンサを取り付けた場合のように、取り付けたセンサが移動する装置であれば、機械装置に該当する。また、機械装置としては、自律型ロボットのように、人の移動とは無関係に、装置全体が移動する構成としてもよい。すなわち、機械装置は、少なくとも一部が移動する装置であればよく、人の移動の有無には限定されない。
【0009】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る状態監視装置及びその周辺構成の一例を示す図である。この状態監視装置10は、移動体2に設けられ、収集部11、切出制御部12及び診断部13を備えている。また、切出制御部12は、速度・加速度判断部12a及び切出条件決定部12bを備えている。診断部13は、切出部13a及び判定部13bを備えている。また図1中、センサ1は、移動体2に設けられ且つ収集部11に接続されている。移動体2は、少なくとも一部が移動する機械装置の一例である。
【0010】
ここで、収集部11は、例えばエレベータ等の移動体2の状態を監視するセンサ1から出力された時系列信号であるセンサ信号を収集する。また、収集部11は、収集したセンサ信号を切出制御部12及び診断部13に送出する。例えば、収集部11は、加速度センサとしての振動センサから出力されたセンサ信号を切出制御部12及び診断部13に送出する。なお、これに限らず、収集部11は、加速度センサとしての振動センサから出力されたセンサ信号を切出制御部12に送出し、音響センサとしてのマイクから出力されたセンサ信号を診断部13に送出してもよい。すなわち、センサ1及びセンサ信号としては、加速度センサ及び加速度信号を用いてもよく、音響センサ及び音信号を用いてもよい。
【0011】
切出制御部12は、速度・加速度判断部12a及び切出条件決定部12bを備えている。
【0012】
速度・加速度判断部12aは、収集部11から送出されたセンサ信号に基づいて、移動体2の速度が一定状態、加速状態、減速状態、又は停止状態にあることを判断し、判断結果を切出条件決定部12bに送出する。但し、これに限らず、速度・加速度判断部12aは、移動体2の駆動を促進又は抑圧させるトリガ信号に基づいて、移動体2の速度が一定状態、加速状態、減速状態、又は停止状態にあることを判断し、判断結果を切出条件決定部12bに送出してもよい。
【0013】
切出条件決定部12bは、速度・加速度判断部12aから送出された判断結果に基づいて、センサ信号を切り出す切出条件としての、区間検知の有無と、解析長(時間幅、フレーム長のこと)と、を決定する。なお、切出条件決定部12bは、オーバーラップ率と、シフト量も併せて決定しても良い。オーバーラップ率は、切り出された区間のうち、他の切り出された区間と重なる区間の比率を意味する。例えば、時刻0~10で切り出された第1区間のうち、時刻5~15で切り出された他の第2区間と重なる区間は、時刻5~10の第3区間である。この場合、オーバーラップ率は、第3区間の長さ“5”/第1区間の長さ“10”から、50%(=5/10)と得られる。シフト量は、切り出す区間の始点と、次に切り出す区間の始点との時間差を意味する。例えば、時刻0~10で切り出す第1区間と、時刻5~15で切り出す他の第2区間との場合、シフト量は、第1区間の始点“0”と第2区間の始点“5”との時間差“5”(=5-0)として得られる。なお、シフト量は、解析長からオーバーラップした区間の長さを除いた量に相当する。すなわち、シフト量は、(1-オーバーラップ率)×解析長、の式から得られる量に相当する。また、切出条件決定部12bは、具体的には例えば、図2に示すように、移動体2の速度が一定状態(加速度はゼロ)のとき、区間検知の有無を「区間検知なし」、解析長を「第1固定長」と判断する。また例えば、移動体2の速度が加速状態(正の加速度)のとき、区間検知の有無を「区間検知あり」、解析長を「第2固定長」と判断する。同様に、移動体2の速度が減速状態(負の加速度)のとき、区間検知の有無を「区間検知あり」、解析長を「第3固定長」と判断する。また例えば、移動体2の速度が停止状態(速度も加速度もゼロ)のとき、区間検知の有無を「区間検知なし」、解析長を「第1固定長」と判断する。ここで、第1固定長は、第2固定長及び第3固定長の各々よりも長い時間幅である。第2固定長及び第3固定長は、互いに等しい時間幅でもよく、互いに異なる時間幅でもよい。なお、図2は、ドアを考慮しない場合であるが、ドアの開閉を考慮してもよい。例えば、移動体2の速度が停止状態(速度も加速度もゼロ)のときでドアの開動作中、区間検知の有無を「区間検知あり」、解析長を「第4固定長」と判断する。同様に例えば、移動体2の速度が停止状態(速度も加速度もゼロ)のときでドアの閉動作中、区間検知の有無を「区間検知あり」、解析長を「第5固定長」と判断する。ここで、第4固定長及び第5固定長は、第1固定長よりも短い時間幅である。第4固定長及び第5固定長は、互いに等しい時間幅でもよく、互いに異なる時間幅でもよい。また、区間検知は、センサ信号から切り出す区間を検知する処理である。区間検知としては、予め準備したテンプレート信号との類似度が高いセンサ信号を含む解析長の区間を検知して切り出しする方法、又は移動体2の動作開始タイミングである切り出し開始時点から解析長だけ経過した区間を検知する方法など等が適宜、使用可能となっている。移動体2の動作開始タイミングから解析長だけ切り出す方法は、簡単であるが、ハードウェアからトリガ信号を検出する場合、ハードウェアによっては区間検知の精度が低くなることがある。テンプレート信号を用いる方法は、区間検知の精度が高いので好ましいが、必須ではない。動作開始タイミングとしては、加速度と加加速度(躍度、単位時間あたりの加速度の変化率)を用いて、例えば、加速度ゼロあるいは加速度が0から増加開始した、且つ正の加加速度の場合に、加速の動作開始タイミングが推定される。そして例えば、加速度ゼロあるいは加速度が0から減少開始した、且つ負の加加速度の場合に、減速の動作開始タイミングが推定される。また、ドアの開動作又は閉動作を開始させるトリガ信号を検出したとき、ドアの開動作又は閉動作の動作開始タイミングが推定される。さらに移動体2が垂直方向に動作する場合では上昇と下降を移動体2の外部に設置されたセンサから収集部11でセンサ信号として収集して判定する。その上で重力加速度を加味して、上昇時には、例えば、加速度ゼロあるいは加速度が0から増加開始した、且つ正の加加速度の場合に、加速の動作開始タイミングが推定される。そして上昇時には例えば、加速度ゼロあるいは加速度が0から減少開始した、且つ負の加加速度の場合に、減速の動作開始タイミングが推定される。また下降時には例えば、加速度が減少開始した(加加速度が0から負になった)場合に加速の動作タイミングが推定され、加速度が増加開始した(加加速度が0から正になった)場合に減速の動作タイミングが推定される。
【0014】
また、切出条件決定部12bは、決定した切出条件を診断部13に送出する。
【0015】
診断部13は、収集部11により収集されたセンサ信号に基づいて、移動体2の異常の有無を判定する。例えば、診断部13は、収集部11により収集されたセンサ信号と、切出条件決定部12bにより決定された切出条件に基づいて、移動体2の異常の有無を判定してもよい。例えば、診断部13は、切出部13a及び判定部13bを備えている。
【0016】
切出部13aは、移動体2の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅でセンサ信号を切り出す。例えば、切出部13aは、切出条件決定部12bにより決定された切出条件に基づいて、センサ信号を切り出してもよい。具体的には例えば、切出部13aは、移動体2が一定の速度で移動している場合には第1固定長(第1の時間幅)でセンサ信号を切り出してもよい。また、切出部13aは、移動体2が加速又は減速している場合には当該加速又は減速が生じた時点から第2固定長又は第3固定長(第2の時間幅)でセンサ信号を切り出してもよい。なお、切出部13aは、区間検知なしの場合、バッファを持たせることにより、動作開始タイミングよりも少し前のタイミングから第1固定長の時間が経過するまでのセンサ信号(時系列信号)を切り出してもよい。また、切出部13aは、異常判定処理を行う判定部13bの入力とする特徴量も速度一定・加速・減速・停止に応じて、時間波形やパワースペクトルあるいはその詳細パラメータを異ならせてもよい。
【0017】
判定部13bは、当該切り出したセンサ信号に基づいて移動体2の異常の有無を判定する。異常としては、例えば、突発的な故障や経年変化による劣化などがある。また、判定部13bは、正常(異常なし)又は異常(異常あり)を示す判定結果を出力する。具体的には例えば、判定部13bは、切り出したセンサ信号に基づいて異常度を算出し、異常度が閾値よりも大きい場合に異常と判定してもよい。また、判定部13bは、切り出したセンサ信号を教師なし学習済みの機械学習モデルに入力し、機械学習モデルから出力された異常度と閾値とを比較することにより、異常の有無を判定してもよい。ここで、学習済みの機械学習モデルとしては、事前に教師なし学習されたニューラルネットワーク(例、オートエンコーダ、畳み込みオートエンコーダ、変分オートエンコーダなど)が適宜、使用可能となっている。
【0018】
次に、以上のように構成された状態監視装置の動作について図3のフローチャートを用いて説明する。
【0019】
始めに、収集部11は、移動体2の状態を監視するセンサ1から出力された時系列信号であるセンサ信号を収集する(ステップST1)。また、収集部11は、収集したセンサ信号を切出制御部12及び診断部13に送出する。例えば、収集部11は、加速度センサとしての振動センサから出力されたセンサ信号を切出制御部12に送出し、音響センサとしてのマイクから出力されたセンサ信号を診断部13に送出する。
【0020】
ステップST1の後、切出制御部12内の速度・加速度判断部12aは、送出されたセンサ信号に基づいて、移動体2の速度が一定状態、加速状態、減速状態、又は停止状態にあることを判断する(ステップST2)。このとき、速度・加速度判断部12aは、センサ信号に基づく加加速度により、加速状態の開始や、減速状態の開始を判断してもよい。例えば、速度・加速度判断部12aは、加速度ゼロと、正の加加速度により、加速状態の動作開始タイミングを判断してもよい。同様に、速度・加速度判断部12aは、加速度ゼロと、負の加加速度により、減速状態の動作開始タイミングを判断してもよい。しかる後、速度・加速度判断部12aは、判断結果を切出条件決定部12bに送出する。
【0021】
ステップST2の後、切出条件決定部12bは、送出された判断結果に基づいて、センサ信号を切り出す切出条件としての、区間検知の有無を決定すると共に、解析長(時間幅)を決定する(ステップST3、ST4)。切出条件決定部12bは、決定した切出条件を診断部13に送出する。
【0022】
ここで、切出条件の決定について詳細に説明する。一定速度走行時には、一定時間間隔・一定時間幅でセンサ信号を切り出す。加速又は減速時には、その動作開始タイミングから別の時間幅でセンサ信号を切り出す。これは、一定走行時には稼働音が定常音であり、加速又は減速時では稼働音が非定常音であることによる。定常音の場合、ある程度の時間幅でセンサ信号が変化しないため、一定時間間隔(間欠的)で一定の時間幅のセンサ信号を用いて状態監視をすればよい。非定常音(特に一定間隔に発生しない音)の場合、加速度の符号変化、動作開始と連動したハードウェアからのトリガ信号、又はテンプレート信号を使った相互相関マッチングによる区間検知処理を用いて、稼働1回分のセンサ信号を過不足なく抽出する。このように、非定常音を検出したセンサ信号を過不足なく抽出することが状態監視の精度と低処理量を両立することにつながる。非定常音に対して、一定時間間隔(間欠的)に一定の時間幅のセンサ信号を切り出すと、断片的なセンサ信号や,センサ信号の振幅が無い信号が切り出されてしまう。このように切り出されたセンサ信号を用いると、状態監視・異常検知の推定精度が低下する。精度低下を防ぐために、時間幅を長くすると遅延が大きくなり、時間間隔を細かくしてオーバーラップさせてシフトごとに状態監視・異常検知をすると処理量が増加する。
【0023】
そのため、非定常音に対する解析長は、定常音とは異なって決定されることが望ましい。例えば、図2に示したように、速度・加速度判断部12aで速度と加速度を把握し、切出条件決定部12bによってセンサ信号を切り出す長さ(解析長)と区間検知の有無を決定する。切出条件決定部12bは、一定速度走行時および停止時には第1固定長で区間検知なし、加速時には第2の固定長で区間検知あり、減速時には第3固定長で区間検知ありと決定する。
【0024】
ステップST4の後、診断部13は、収集部11により収集されたセンサ信号に基づいて、移動体2の異常の有無を判定する(ステップST5~ST7)。詳しくは、診断部13内の切出部13aは、移動体2の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅でセンサ信号を切り出す。例えば、切出部13aは、切出条件決定部12bにより決定された切出条件に基づいて、センサ信号を切り出す(ステップST5、ST6)。具体的には例えば、切出部13aは、移動体2が一定の速度で移動している場合には区間検知を行わずに第1固定長でセンサ信号を切り出す。また、切出部13aは、移動体2が加速又は減速している場合には区間検知を用い、当該加速又は減速が生じた時点から第2固定長又は第3固定長でセンサ信号を切り出す。なお、切出部13aは、区間検知なしの場合、バッファを持たせることにより、動作開始タイミングよりも少し前のタイミングから第1固定長の時間が経過するまでのセンサ信号(時系列信号)を切り出してもよい。
【0025】
ステップST6の後、判定部13bは、当該切り出したセンサ信号に基づいて移動体2の異常の有無を判定する(ステップST7)。例えば、判定部13bは、切り出したセンサ信号に基づいて異常度を算出し、異常度が閾値よりも大きい場合に異常と判定する。このとき、判定部13bは、切り出したセンサ信号を教師なし学習済みの機械学習モデルに入力し、機械学習モデルから出力された異常度と閾値とを比較することにより、異常の有無を判定してもよい。
【0026】
ステップST7の後、判定部13bは、正常又は異常を示す判定結果を出力する(ステップST8)。
【0027】
図4は、このような動作の一例を説明するためのタイムチャートである。但し、図4は、ドアがある移動体2であるエレベータを例に挙げて述べる。図4の中段に「音の振幅」として示すように、移動体2の停止時にはドア開閉の非定常なアタック音が発生する。移動体2の走行時は定常音が発生する。従って、状態監視装置10は、走行時・加速・減速(ブレーキ)・ドア開・ドア閉・最上階近傍を検知して、センサ信号を切り出す区間を変更する。移動体2の走行時には、定常音を第1固定長で解析する。加速・減速・ドア開・ドア閉の非定常音については、振動センサからのセンサ信号、ハードウェアからのトリガ信号、あるいはテンプレートマッチングを用いた区間検知処理を併せて実施し、第2第3・第4・第5の固定長でセンサ信号を切り出してもよい。
【0028】
具体的には例えば、移動体2は、1階から2階へ移動する場合、時刻t1で停止状態から加速状態に移行する。状態監視装置10は、時刻t1の動作開始タイミングtg1から第2固定長L2だけセンサ信号を切り出して異常判定を行う。
【0029】
また、移動体2は、時刻t2で加速状態から速度一定状態に移行する。状態監視装置10は、時刻t2の動作開始タイミングから第1固定長L1だけセンサ信号を切り出して異常判定を行う。また、状態監視装置10は、速度一定状態のとき、時刻t2から所定時間後の時刻t3から第1固定長L1だけセンサ信号を切り出して異常判定を行う。このとき、オーバーラップ率は50%として、シフト量は第1固定長L1の半分としている。同様に、状態監視装置10は、速度一定状態のとき、時刻t3から所定時間後の時刻t4から第1固定長L1だけセンサ信号を切り出して異常判定を行う。この例では、第1固定長L1で連続的にセンサ信号を切り出すが、これに限定されない。すなわち、第1固定長L1で間欠的にセンサ信号を切り出してもよい。
【0030】
また、移動体2は、時刻t5で速度一定状態から減速状態に移行する。状態監視装置10は、時刻t5の動作開始タイミングから第3固定長L3だけセンサ信号を切り出して異常判定を行う。
【0031】
また、移動体2は、時刻t6で減速状態から2階に到着して停止状態に移行する。このとき、状態監視装置10は、移動体2のドアの開動作が開始されなければ、時刻t6から第1固定長だけセンサ信号を切り出して異常判定を行う。この例では、移動体2のドアの開動作が開始されたとする。状態監視装置10は、時刻t6の動作開始タイミングから第4固定長L4だけセンサ信号を切り出して異常判定を行う。
【0032】
しかる後、時刻t10で移動体2のドアの閉動作が開始されたとする。状態監視装置10は、時刻t10の動作開始タイミングから第5固定長L5だけセンサ信号を切り出して異常判定を行う。以下、移動体2が2階から3階に移動する場合、前述した説明において、時刻の十の位を「1」にして読み替えればよい。同様に、移動体2が3階から4階に移動する場合、前述した説明において、時刻の十の位を「2」にして読み替えればよい。また、移動体2が4階から3階に移動する場合、時刻の十の位を「3」にして読み替えればよい。
【0033】
なお、以上の例では、速度・加速度に基づいて切出条件を決定したが、これに限らず、データの質が変化するため、別モードにしたい要因を捉えて切出条件を決定してもよい。当該要因としては、次の(a)~(h)に示すものが挙げられる。(a)速度・加速度:一定、加速、減速、停止、(b)加加速度、(c)上昇/下降(重力方向の加速度)、(d)重量センサで検知した負荷、(e)ドアの開閉、(f)つり合い重りとのすれ違い、(g)隣りのカゴとのすれ違い、(h)最上階近傍(巻上機や電動機)。すなわち、上記(a)~(h)に示す如き、要因に基づいて、センサ信号の切出条件を決定してもよい。
【0034】
上述したように第1実施形態によれば、状態監視装置10は、収集部11と、診断部13とを備えている。収集部11は、機械装置の一例である移動体2の状態を監視するセンサ1から出力されたセンサ信号を収集する。診断部13は、センサ信号に基づいて、移動体2の異常の有無を診断する。診断部13は、切出部13aと、判定部13bとを備えている。切出部13aは、移動体2の速度、加速度、加加速度のいずれか1つ以上に応じた時間幅でセンサ信号を切り出す。判定部13bは、切り出したセンサ信号に基づいて異常の有無を判定する。
【0035】
従って、第1実施形態によれば、移動体2の速度、加速度、加加速度の1つ以上に応じた時間幅でセンサ信号を切り出すことにより、常時センサ信号を異常判定する場合に比べ、センサ信号の処理量を低減しつつ、異常検出の精度を維持することができる。補足すると、移動体2の走行状態に応じて、センサ信号を解析する時間幅(解析長)を調整することで、走行状態に応じた特徴を含むセンサ信号を過不足無く抽出している。例えば、センサ信号の解析長は、長いと特徴以外の無駄なデータを含んでしまい、短いと特徴を除外してしまうので、適切なサイズとすることが好ましい。なお、走行状態に応じた特徴は、例えば、稼働音のセンサ信号の周波数分布として検知可能である。
【0036】
また、第1実施形態によれば、切出部13aは、移動体2が一定の速度で移動している場合には第1の時間幅でセンサ信号を切り出し、移動体2が加速又は減速している場合には当該加速又は減速が生じた時点から第2の時間幅でセンサ信号を切り出す。これにより、上述した効果に加え、特に、加速時又は減速時におけるセンサ信号の処理量を低減しつつ、異常検出の精度を維持することができる。補足すると、移動体2の定速走行時には駆動状態が安定しているので、センサ信号の切り出しは、任意のタイミングから一定区間(第1の時間幅)で構わない。これに対し、移動体の加速時又は減速時には、動作開始タイミングの直後から駆動状態が大きく促進又は抑止されるので、センサ信号の切り出しは、加速又は減速の動作開始タイミングから一定区間(第2の時間幅)とすることが好ましい。これにより、加速時又は減速時の非定常音を過不足無く切り出すことができる。なお、加速時にセンサ信号を切り出す時間幅と、減速時にセンサ信号を切り出す時間幅とは第2固定長、第3固定長のように異なる方が好ましいが、同一でも構わない。
【0037】
また、第1実施形態によれば、移動体2は、開閉可能なドアを有している。切出部13aは、移動体2が停止してドアの開又は閉動作を開始した場合には、当該開始した時点から第3の時間幅でセンサ信号を切り出す。これにより、上述した効果に加え、特に、ドアの開動作時又は閉動作時におけるセンサ信号の処理量を低減しつつ、異常検出の精度を維持することができる。補足すると、移動体2のドア開閉時には、動作開始タイミングの直後からドアの開動作又は閉動作が行われるので、センサ信号の切り出しは、ドアの開動作又は閉動作の動作開始タイミングから一定区間とすることが好ましい。これにより、ドアの開閉時の非定常音を過不足無く切り出すことができる。なお、ドアの開動作時にセンサ信号を切り出す時間幅と、ドアの閉動作時にセンサ信号を切り出す時間幅とは第4固定長、第5固定長のように異なる方が好ましいが、同一でも構わない。
【0038】
また、第1実施形態によれば、センサ信号は、加速度信号又は音信号である。これにより、上述した効果に加え、特に、加速度信号又は音信号の処理量を低減しつつ、異常検出の精度を維持することができる。
【0039】
また、第1実施形態によれば、判定部13bは、切り出したセンサ信号に基づいて異常度を算出し、異常度が閾値よりも大きい場合に異常と判定する。これにより、上述した効果に加え、所望の閾値を用いて異常判定を行うことができる。
【0040】
また、第1実施形態によれば、判定部13bは、切り出したセンサ信号を教師なし学習済みの機械学習モデルに入力し、機械学習モデルから出力された異常度と閾値とを比較することにより、異常の有無を判定する。これにより、上述した効果に加え、教師なし学習済みの機械学習モデルを用いて異常判定を行うことができる。
【0041】
<第1実施形態の第1変形例>
第1実施形態は、収集部11で収集したセンサ信号に基づいて速度・加速度などを判断し、解析長や区間検知有無を決定する。
【0042】
これに対し、第1変形例では、図5に示すように、移動体2の各部から収集した情報(トリガ信号)に基づいて解析長や区間検知有無を決定する。なお、図5において、図1に対応する部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。以下の各実施形態及び各変形例も同様にして、重複した説明を省略する。
【0043】
ここで、移動体2は、例えばエレベータであり、操作部2a、制御部2b、ドア開閉部2c、推進部2d、抑止部2e及び駆動部2fといったハードウェア資源を備えている。
【0044】
操作部2aは、例えば、かご内に設けられ、人の操作に応じて、入力信号を制御部に送出する。
【0045】
制御部2bは、例えば、機械室に配置された制御盤に設けられ、入力信号に応じて、ドア開閉部2c、推進部2d及び抑止部2eを制御する。
【0046】
ドア開閉部2cは、制御部2bに制御され、ドアの開動作又は閉動作を行う。
【0047】
推進部2dは、例えば、原動機(モータ)等のアクセル機能であり、制御部2bに制御され、駆動部2fの駆動を推進する。
【0048】
抑止部2eは、例えば、電磁ブレーキ等のブレーキ機能であり、制御部2bに制御され、駆動部2fの駆動を抑止する。
【0049】
駆動部2fは、例えば、タイヤ又は滑車であり、制御部2bに制御されて駆動する。
【0050】
一方、切出制御部12は、ドアの開又は閉動作を開始させるトリガ信号を検出し、当該検出結果に基づいて切出部13aを制御する。また、切出制御部12は、移動体2の駆動を促進又は抑圧させるトリガ信号に基づいて、当該移動体2の速度が一定状態、加速状態又は減速状態にあることを判定し、当該判定結果に基づいて切出部13aを制御する。例えば、切出制御部12は、前述した速度・加速度判断部12a及び切出条件決定部12bに代えて、トリガ検出部12c及び切出条件決定部12dを備えている。
【0051】
トリガ検出部12cは、ドア開閉部2cからドアの開又は閉動作を開始させるトリガ信号を検出し、検出結果を切出条件決定部12dに送出する。また、トリガ検出部12cは、推進部2dから移動体2の駆動部2fの駆動を促進させるトリガ信号を検出し、検出結果を切出条件決定部12dに送出する。また、トリガ検出部12cは、抑止部2eから移動体2の駆動部2fの駆動を抑止させるトリガ信号を検出し、検出結果を切出条件決定部12dに送出する。なお、ドアの開閉に関するトリガ信号は、ハードウェアトリガ情報、開閉トリガ情報、又はトリガ情報、などと読み替えてもよい。同様に、駆動の促進又は抑圧に関するトリガ信号は、ハードウェアトリガ情報、アクセルトリガ情報、ブレーキトリガ情報、又はトリガ情報、などと読み替えてもよい。
【0052】
切出条件決定部12dは、トリガ検出部12cから送出された検出結果に基づいて、センサ信号を切り出す切出条件としての、区間検知の有無と、解析長(時間幅)と、を決定する。具体的には例えば、図6に示すように、駆動部2fの速度が一定状態(加速度ゼロ)のとき、区間検知の有無を「区間検知なし」、解析長を「第1固定長」と判断する。また例えば、推進部2dの速度が加速状態(正の加速度)のとき、区間検知の有無を「区間検知あり」、解析長を「第2固定長」と判断する。同様に、抑止部2eの速度が減速状態(負の加速度)のとき、区間検知の有無を「区間検知あり」、解析長を「第3固定長」と判断する。また、移動体2の速度が停止状態(加速度ゼロ)のときでドアの開動作中、区間検知の有無を「区間検知あり」、解析長を「第4固定長」と判断する。同様に例えば、移動体2の速度が停止状態(加速度ゼロ)のときでドアの閉動作中、区間検知の有無を「区間検知あり」、解析長を「第5固定長」と判断する。ここで、第1固定長は、第2固定長、第3固定長、第4固定長及び第5固定長の各々よりも長い時間幅である。第2固定長及び第3固定長は、互いに等しい時間幅でもよく、互いに異なる時間幅でもよい。第4固定長及び第5固定長は、互いに等しい時間幅でもよく、互いに異なる時間幅でもよい。また、区間検知は、センサ信号から切り出す区間を検知する処理である。区間検知としては、予め準備したテンプレート信号との類似度が高いセンサ信号を含む解析長の区間を検知する方法、又は動作開始タイミングである切り出し開始時点から解析長だけ経過した区間を検知する方法など等が適宜、使用可能となっている。動作開始タイミングとしては、例えば、推進部2dから駆動促進に関するトリガ信号を検出したとき、加速状態の動作開始タイミングが推定される。同様に、抑止部2eから駆動抑止に関するトリガ信号を検出したとき、減速状態の動作開始タイミングが推定される。また、ドアの開動作又は閉動作に関するトリガ信号を検出したとき、ドアの開動作又は閉動作の動作開始タイミングが推定される。
【0053】
また、切出条件決定部12dは、決定した切出条件を切出部13aに送出することにより、切出部13aを制御する。なお、切出部13aで切り出されるセンサ信号は、マイク1aから出力されて収集部11に収集された音信号である。
【0054】
他の構成は、第1実施形態と同様である。なお、状態監視装置10は、ドア開閉部2c、推進部2d及び抑止部2eからトリガ信号を検出し易くする観点から、移動体2の制御部2bと同様に、制御盤に設けられることが好ましい。
【0055】
次に、以上のように構成された第1変形例の動作について図7のフローチャートを用いて説明する。
【0056】
始めに、収集部11は、移動体2の状態を監視するマイク1aから出力された時系列信号である音信号を収集する(ステップST1A)。また、収集部11は、収集した音信号を診断部13に送出する。
【0057】
ステップST1Aの後、切出制御部12内のトリガ検出部12cは、移動体2のドア開閉部2c、推進部2d又は抑止部2eからトリガ信号を検出する(ステップST2A)。しかる後、トリガ検出部12cは、検出結果を切出条件決定部12dに送出する。
【0058】
ステップST2Aの後、切出条件決定部12dは、送出された検出結果に基づいて、音信号を切り出す切出条件としての、区間検知の有無を決定すると共に、解析長(時間幅)を決定する(ステップST3A、ST4A)。このとき、切出条件決定部12dは、駆動部2fで定常的に駆動している場合には第1固定長で区間検知なし、推進部2dで加速されている場合には第2固定長で区間検知あり、抑止部2eで減速されている場合には第3固定長で区間検知ありと決定する。また、切出条件決定部12dは、ドア開閉部2cでドアが開から閉になる場合には第4固定長で区間検知ありと決定し、ドア開閉部2cでドアが閉から開になる場合には第5固定長で区間検知ありと決定する。しかる後、切出条件決定部12dは、決定した切出条件を診断部13に送出する。
【0059】
ステップST4Aの後、診断部13は、収集部11により収集された音信号に基づいて、移動体2の異常の有無を判定する(ステップST5A~ST7A-2)。詳しくは、診断部13内の切出部13aは、切出条件決定部12bにより決定された切出条件に基づいて、音信号を切り出す(ステップST5A、ST6A)。具体的には例えば、切出部13aは、移動体2が一定の速度で移動している場合には区間検知を行わずに第1固定長で音信号を切り出す。また、切出部13aは、移動体2が加速又は減速している場合には区間検知を用い、当該加速又は減速が生じた時点から第2固定長又は第3固定長で音信号を切り出す。なお、切出部13aは、区間検知なしの場合、バッファを持たせることにより、動作開始タイミングよりも少し前のタイミングから第1固定長の時間が経過するまでの音信号(時系列信号)を切り出してもよい。
【0060】
ステップST6Aの後、判定部13bは、当該切り出した音信号に基づいて移動体2の異常の有無を判定する(ステップST7A-1、ST7A-2)。例えば、判定部13bは、切り出したセンサ信号に基づいて異常度を算出し、異常度が閾値よりも大きい場合に異常と判定する。このとき、判定部13bは、切り出したセンサ信号を教師なし学習済みの機械学習モデルに入力し、機械学習モデルから出力された異常度と閾値とを比較することにより、異常の有無を判定してもよい。
【0061】
ステップST7A-2の後、判定部13bは、正常又は異常を示す判定結果を出力する(ステップST8)。
【0062】
上述したように第1変形例によれば、切出制御部12は、開又は閉動作を開始させるトリガ信号を検出し、当該検出結果に基づいて切出部13aを制御する。これにより、第1変形例によれば、第1実施形態の効果に加え、特に、ドアの開又は閉動作時における音信号の処理量を低減しつつ、異常検出の精度を維持することができる。
【0063】
また、第1変形例によれば、切出制御部12は、移動体2の駆動を促進又は抑圧させるトリガ信号に基づいて、当該移動体2の速度が一定状態、加速状態又は減速状態にあることを判定し、当該判定結果に基づいて切出部13aを制御する。従って、第1変形例によれば、第1実施形態の効果に加え、移動体を動作させるトリガ信号を用いることにより、移動体の速度の状態を容易に判定することができる。
【0064】
また、推進部2d、抑止部2e、ドア開閉部2cなどの制御系は、1つの装置(制御盤)に信号が集まるので、システムをコンパクトに実現することができる。
【0065】
<第1実施形態の第2変形例>
第1変形例は、切出部13aで切り出した音信号を異常判定する。
【0066】
これに対し、第2変形例では、図8に示すように、異常判定の前処理として、音源分離処理を行い、音源分離処理におけるフィルタ係数の1フレーム当たりの更新回数を動的に制御する。
【0067】
例えば、エレベータ内の稼働音に対する状態監視では、カゴ内での利用者の音声(話し声)を避けて稼働音を抽出する必要があるため、前処理として音源分離を導入する。但し、リアルタイムに状態監視結果を得るために、音源分離処理の処理量を減らす必要がある。そこで、第2変形例では、人の搭乗の有無に応じて、音源分離処理のフィルタ更新回数を動的に制御する。これに伴い、人が搭乗している場合には処理量を削減し、異音の苦情が入る前(ほぼ同時)に異常判定結果を出力可能とする。また、人が搭乗していない場合には処理量を戻し、高い精度の異常判定結果を出力可能とする。
【0068】
これに伴い、具体的には、診断部13は、搭乗検知部131、更新回数設定部132及び音源分離部133を備えている。
【0069】
ここで、搭乗検知部131は、切出部13aにより切り出された音信号に基づいて、人の音声の有無に応じて、人の搭乗の有無を検知する。これに限らず、搭乗検知部131は、音源分離部133による音源分離後の音信号に基づいて、人の音声の有無に応じて、人の搭乗の有無を検知してもよい。あるいは、搭乗検知部131は、移動体2に設けられた人感センサ、重量センサ又は画像センサから出力された出力信号に基づいて搭乗の有無を検知してもよい。いずれにしても、搭乗検知部131は、検知結果を更新回数設定部132に送出する。
【0070】
更新回数設定部132は、搭乗検知部131から送出された検知結果に応じて、音源分離部133のフィルタの係数の更新回数を設定する。例えば、更新回数設定部132は、検知結果により、搭乗の有りの場合には更新回数を第1設定値に設定し、搭乗の無しの場合には更新回数を第1設定値よりも大きい第2設定値に設定する。更新回数設定部は、設定部の一例である。
【0071】
音源分離部133は、切出部13aにより切り出されたセンサ信号である音信号から雑音を低減するフィルタを有し、当該雑音が低減された音信号を判定部13bに出力する。フィルタは、更新回数設定部132により設定された更新回数に応じて係数が更新される。また、当該フィルタは、音信号から人の音声を分離し、移動体2の稼働音を抽出する音源分離処理を行う。音源分離処理後の音信号は、判定部13bに送出される。
【0072】
また、状態監視装置10は、通信部14を備えている。
【0073】
通信部14は、判定部13bの判定結果を、図示しない遠隔監視装置に送信する。
【0074】
一方、移動体2は、発報部2g及び帰着運転制御部2hを備えている。
【0075】
発報部2gは、判定部13bによる判定の結果、移動体2が異常の場合、例えばエレベータのカゴ内や各階のエレベータ乗り場に警報を出力する。
【0076】
帰着運転制御部2hは、判定部13bによる判定の結果、移動体2が異常の場合、最寄り階に移動し、停止状態でドアを開ける。
【0077】
他の構成は、第1変形例と同様である。
【0078】
次に、以上のように構成された第2変形例の動作について図9のフローチャートを用いて説明する。
【0079】
いま、前述同様に、ステップST1A~ST6Aが実行されたとする。
【0080】
ステップST6Aの後、搭乗検知部131は、切出部13aにより切り出された音信号に基づいて、人の搭乗の有無を検知する(ステップST7B-1)。また、搭乗検知部131は、検知結果を更新回数設定部132に送出する。
【0081】
ステップST7B-1の後、更新回数設定部132は、搭乗検知部131から送出された検知結果に応じて、音源分離部133のフィルタの係数の更新回数を設定する(ステップST7B-2)。例えば、更新回数設定部132は、検知結果により、搭乗の有りの場合には更新回数を第1設定値に設定し、搭乗の無しの場合には更新回数を第1設定値よりも大きい第2設定値に設定する。
【0082】
ステップST7B-2の後、音源分離部133は、フィルタにより、切出部13aにより切り出された音信号から雑音を低減する音源分離処理を実行し(ステップST7B-3)、当該雑音が低減された音信号を判定部13bに出力する。音源分離処理において、フィルタは、設定された更新回数に応じて係数が更新される。なお、更新回数が少ない場合には高速に音源分離処理を実行でき、更新回数が多い場合には高精度に音源分離処理を実行できる。
【0083】
ステップST7B-3の後、判定部13bは、音源分離後の音信号に基づいて移動体2の異常の有無を判定する(ステップST7B-4、ST7B-5)。例えば、判定部13bは、音源分離後の音信号に基づいて異常度を算出し、異常度が閾値よりも大きい場合に異常と判定する。このとき、判定部13bは、音源分離後の音信号を教師なし学習済みの機械学習モデルに入力し、機械学習モデルから出力された異常度と閾値とを比較することにより、異常の有無を判定してもよい。
【0084】
ステップST7B-5の後、判定部13bは、正常又は異常を示す判定結果を通信部14、発報部2g及び帰着運転制御部2hに出力する。通信部14は、判定部13bの判定結果を、図示しない遠隔監視装置に送信する。発報部2gは、判定部13bによる判定の結果、移動体2が異常の場合、例えばエレベータのカゴ内や各階のエレベータ乗り場に警報を出力する(ステップST8B)。
【0085】
ステップST8Bの後、帰着運転制御部2hは、判定部13bによる判定の結果、移動体2が異常の場合、最寄り階に移動し、停止状態でドアを開ける(ステップST9)。
【0086】
以上のような第2変形例によれば、センサ信号は、音信号である。診断部13は、音源分離部133、更新回数設定部132を更に備えている。音源分離部133は、切り出されたセンサ信号である当該音信号から雑音を低減するフィルタを有し、当該雑音が低減された音信号を判定部13bに出力する。更新回数設定部132は、移動体2における搭乗の有無に応じて、フィルタの係数の更新回数を設定する。従って、上述した効果に加え、フィルタにより音信号から雑音を低減すると共に、搭乗の有無に応じて、当該フィルタの係数の更新回数を設定することができる。
【0087】
また、第2変形例によれば、更新回数設定部132は、搭乗の有りの場合には更新回数を第1設定値に設定し、搭乗の無しの場合には更新回数を第1設定値よりも大きい第2設定値に設定する。従って、上述した効果に加え、人が搭乗した場合には更新回数を少なくし、搭乗者が異音の苦情を入れるよりも前に異常検出できるように、急いで音源分離処理を実行することができる。また、人が搭乗していない場合には、更新回数を多くし、ゆっくりと精度よく音源分離処理を実行することができる。補足すると、音源分離処理は、時間がかかる高負荷の処理であるが、フィルタ係数の更新回数を少なくすると、負荷が軽減される。このため、搭乗の有無に応じて、更新回数を切り替えることにより、音源分離処理にかかる時間と負荷を適切に調整することができる。
【0088】
また、第2変形例によれば、搭乗検知部131は、音信号に基づいて搭乗の有無を検知し、当該検知結果を更新回数設定部132に送出する。これにより、上述した効果に加え、搭乗の有無を検出するための新たなセンサを設けることなく、搭乗の有無を検知することができる。
【0089】
また、第2変形例によれば、搭乗検知部131は、移動体2に設けられた人感センサ、重量センサ又は画像センサから出力された出力信号に基づいて搭乗の有無を検知し、当該検知結果を更新回数設定部132に送出してもよい。この場合、前述した効果に加え、搭乗した人の音声が小さい場合や、人の音声を採取しにくい場所にマイク1aが設置された場合でも、人の搭乗の有無を検知することができる。
【0090】
<第2実施形態>
第1実施形態、第1変形例及び第2変形例は、同じ異常判定処理を用いている。
【0091】
これに対し、第2実施形態では、ドア開閉・加速・減速時には、前述したニューラルネットワークベースの異常判定処理を実行し、定速走行時には、パワー判定のみの簡易的な異常判定処理を実行する。
【0092】
図10は、第2実施形態に係る状態監視装置及びその周辺構成の一例を示す図である。この状態監視装置20は、収集部11、切出制御部12、搭乗検知部131、更新回数設定部132、音源分離部133、雑音抑圧部134、切出部13a1、判定部13b、パワー判定部13c、通信部14、統合部15及び蓄積部16を備えている。詳しくは、収集部11の後段に搭乗検知部131、更新回数設定部132、音源分離部133及び雑音抑圧部134を介して、切出部13a1及び統合部15が接続されている。音源分離部133及び雑音抑圧部134は、デノイズ部135を構成している。また、切出部13a1の後段には、判定部13b及びパワー判定部13cを並列に介して統合部15が接続されている。統合部15の後段には、通信部14及び蓄積部16が並列に接続されている。また、複数のマイク1aが音源分離部133と統合部15との各々に接続されている。また、トリガ検出部12cの後段には、切出条件決定部12eを介して切出部13a1が接続されている。判定部13b及びパワー判定部13cは、判定部の一例である。切出部13a1、判定部13b及びパワー判定部13cは、診断部の一例である。
【0093】
ここで、複数のマイク1aの各々は、エレベータのカゴ内とカゴ外とに設置され、収集した音信号を音源分離部133及び統合部15に送出する。
【0094】
センサ1は、移動体2に設けられた人感センサ、重量センサ又は画像センサであり、センサ信号を収集部11に出力する。
【0095】
収集部11は、移動体2に設けられたセンサ1から出力されたセンサ信号を収集し、当該センサ信号を搭乗検知部131に送出する。
【0096】
搭乗検知部131は、収集部11から送出されたセンサ信号に基づいて搭乗の有無を検知し、検知結果を更新回数設定部132に送出する。
【0097】
更新回数設定部132は、前述同様のものである。
【0098】
音源分離部133は、複数のマイク1aから出力された音信号から雑音を低減するフィルタを有し、当該雑音が低減された音信号を雑音抑圧部134に出力する。フィルタは、更新回数設定部132により設定された更新回数に応じて係数が更新される。また、当該フィルタは、音信号から人の音声を分離し、移動体2の稼働音を抽出する音源分離処理を行う。音源分離処理後の音信号は、雑音抑圧部134に送出される。
【0099】
雑音抑圧部134は、音源分離部133から送出された音信号からエアコン音などの定常音(定常雑音)を抑圧し、当該抑圧後の音信号を切出部13a1及び統合部15に送出する。なお、音源分離部133及び雑音抑圧部134により雑音が低減及び抑圧された後の音信号を、デノイズ後の音信号と呼んでもよい。
【0100】
トリガ検出部12cは、前述同様に、ドア開閉部2c、推進部2d又は抑止部2eからドア開閉、駆動推進又は駆動抑止に関するトリガ信号を検出し、検出結果を切出条件決定部12eに送出する。
【0101】
切出条件決定部12eは、前述した切出条件決定部12dの判断に加え、図11に示すように、トリガ検出部12cの検出結果に基づいて、判定処理を「パワー判定処理」又は「異常判定処理」と判断する。詳しくは、切出条件決定部12eは、前述した切出条件決定部12dの判断に加え、駆動部2fの速度が一定状態(加速度ゼロ)の場合には、判定処理を「パワー判定処理」と判断し、他の場合には、判定処理を「異常判定処理」と判断する。なお、パワー判定処理はパワー判定部13cに対応し、異常判定処理は判定部13bに対応する。
【0102】
判定部13bは、移動体2が加速又は減速している場合には、切り出したセンサ信号である音信号の異常度を算出し、異常度と閾値とに基づいて異常の有無を判定する。判定部13bは、前述同様に、音信号を教師なし学習済みの機械学習モデルに入力し、機械学習モデルから出力された異常度と閾値とを比較することにより、異常の有無を判定してもよい。
【0103】
パワー判定部13cは、移動体2が一定の速度で移動している場合には、切り出したセンサ信号である音信号のパワーを算出し、パワーと閾値とに基づいて異常の有無を判定する。
【0104】
統合部15は、デノイズ部135によるデノイズ前の音信号と、デノイズ後の音信号と、パワー判定部13c又は判定部13bによる判定結果とをそれぞれの所定のメモリ領域に格納して結合することで1つのデータ群として統合する。
【0105】
蓄積部16は、統合部15により統合された結果であるデータ群(統合結果)を蓄積するように記憶装置に保存する。
【0106】
通信部14は、蓄積部16により保存された統合結果を遠隔監視装置に送信する。
【0107】
他の構成は、第1実施形態の第2変形例と同様である。
【0108】
次に、以上のように構成された第2実施形態の動作について図12のフローチャートを用いて説明する。
【0109】
始めに、収集部11は、移動体2に設けられたセンサ1から出力されたセンサ信号(出力信号)を収集する(ステップST11)。また、収集部11は、センサ信号に基づいて搭乗の有無を検知し(ステップST12)、検知結果を更新回数設定部132に送出する。
【0110】
ステップST12の後、更新回数設定部132は、搭乗検知部131から送出された検知結果に応じて、音源分離部133のフィルタの係数の更新回数を設定する(ステップST13)。例えば、更新回数設定部132は、検知結果により、搭乗の有りの場合には更新回数を第1設定値に設定し、搭乗の無しの場合には更新回数を第1設定値よりも大きい第2設定値に設定する。
【0111】
ステップST13の後、音源分離部133は、フィルタにより、複数のマイク1aから出力された音信号から雑音を低減する音源分離処理を実行し(ステップST14)、当該雑音が低減された音信号を雑音抑圧部134に出力する。音源分離処理において、フィルタは、係数の更新回数が少ない場合には高速に音源分離処理を実行でき、係数の更新回数が多い場合には高精度に音源分離処理を実行できる。
【0112】
ステップST14の後、雑音抑圧部134は、音源分離後の音信号からエアコン音などの定常音(定常雑音)を抑圧し(ステップST15)、当該抑圧後の音信号を切出部13a1及び統合部15に送出する。
【0113】
一方、トリガ検出部12cは、移動体2のドア開閉部2c、推進部2d又は抑止部2eからドア開閉、駆動推進又は駆動抑止に関するトリガ信号を検出し(ステップST16)、検出結果を切出条件決定部12eに送出する。
【0114】
ステップST16の後、切出条件決定部12eは、トリガ信号の検出結果に基づいて、音信号を切り出す切出条件としての、区間検知の有無、解析長(時間幅)を決定すると共に、切り出した音信号に施す判定処理(パワー判定/異常判定)を決定する。しかる後、このとき、切出条件決定部12eは、区間検知の有無、解析長(固定長)及び判定処理を含む決定結果を切出部13a1に送出することにより、切出部13a1を制御する(ステップST17)。
【0115】
ステップST17の後、切出部13a1は、決定結果の判定処理が異常判定であるか否かに応じて移動体2がドア開閉時、加速時又は減速時であるか否かを判定する(ステップST18)。ステップST18の判定結果が肯定的の場合には(ST18:Yes)、移動体2がドア開閉時、加速時又は減速時であり、ステップST19に移行する。また、切出部13a1は、ステップST18の判定結果が否定的の場合(ステップST18:No)には、移動体2が定速走行時又は停止時であり、ステップST21に移行する。
【0116】
ステップST19において、切出部13a1は、切出条件決定部12eから受けた決定結果に基づき、区間検知を実施し、決定結果の固定長で音信号を切り出し、当該切り出した音信号を判定部13bに送出する。
【0117】
ステップST19の後、判定部13bは、切り出された音信号に基づいて異常度を算出し、異常度と閾値とを比較することにより、異常の有無を判定する(ステップST20)。また、判定部13bは、判定結果を統合部15に送出する。
【0118】
一方、ステップST18の後、ステップST21においては、切出部13a1は、切出条件決定部12eから受けた決定結果に基づき、間欠的に第1固定長で音信号を切り出し、当該切り出した音信号をパワー判定部13cに送出する。
【0119】
ステップST21の後、パワー判定部13cは、切り出された音信号のパワーを算出し、パワーと閾値とに基づいて異常の有無を判定する(ステップST22)。また、パワー判定部13cは、判定結果を統合部15に送出する。
【0120】
ステップST20又はST22の後、統合部15は、複数のマイク1aから受けたデノイズ前の音信号と、雑音抑圧部134から受けたデノイズ後の音信号と、パワー判定部13c又は判定部13bによる判定結果とを統合する。しかる後、統合部15は、統合結果を蓄積部16により保存する(ステップST23)。また、統合部15は、通信部14を起動する。
【0121】
ステップST23の後、通信部14は、蓄積部16により保存された統合結果を遠隔監視装置に送信する(ステップST24)。
【0122】
上述したように第2実施形態によれば、センサ信号は、音信号である。パワー判定部13cは、移動体2が一定の速度で移動している場合には、切り出したセンサ信号である音信号のパワーを算出し、パワーと閾値とに基づいて異常の有無を判定する。判定部13bは、移動体2が加速又は減速している場合には、切り出したセンサ信号である音信号の異常度を算出し、異常度と閾値とに基づいて異常の有無を判定する。これにより、上述した効果に加え、特に、移動体2の定速走行時に、異常判定をパワー判定だけ行う簡易な処理にすることで、全体の処理量を低減することができる。
【0123】
<第3実施形態>
第3実施形態は、第1及び第2実施形態並びに各変形例の具体例であり、前述した状態監視装置10、20をコンピュータにより実現した形態となっている。
【0124】
図13は、第3実施形態に係る状態監視装置のハードウェア構成を例示するブロック図である。この状態監視装置30は、ハードウェアとして、CPU(Central Processing Unit)31、RAM(Random Access Memory)32、プログラムメモリ33、補助記憶装置34及び入出力インタフェース35を備える。CPU31は、バスを介して、RAM32、プログラムメモリ33、補助記憶装置34、および入出力インタフェース35と通信する。
【0125】
CPU31は、汎用プロセッサの一例である。RAM32は、ワーキングメモリとしてCPU31に使用される。RAM32は、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリを含む。プログラムメモリ33は、各実施形態に応じた各部を実現するためのプログラムを記憶する。このプログラムは、例えば、前述した状態監視装置10、20の各機能をコンピュータに実現させるためのプログラムとしてもよい。また、プログラムメモリ33として、例えば、ROM(Read-Only Memory)、補助記憶装置34の一部、またはその組み合わせが使用される。補助記憶装置34は、データを非一時的に記憶する。補助記憶装置34は、HDD(hard disc drive)またはSSD(solid state drive)などの不揮発性メモリを含む。
【0126】
入出力インタフェース35は、他のデバイスと接続するためのインタフェースである。入出力インタフェース35は、例えば、キーボード、マウス及びディスプレイとの接続に使用される。
【0127】
プログラムメモリ33に記憶されているプログラムはコンピュータ実行可能命令を含む。プログラム(コンピュータ実行可能命令)は、処理回路であるCPU31により実行されると、CPU31に所定の処理を実行させる。例えば、プログラムは、CPU31により実行されると、CPU31に図1図5図8及び図10の各部に関して説明された一連の処理を実行させる。例えば、プログラムに含まれるコンピュータ実行可能命令は、CPU31により実行されると、CPU31に状態監視方法を実行させる。状態監視方法は、前述した状態監視装置10、20の各機能に対応する各ステップを含んでもよい。また、状態監視方法は、図3図7図9及び図12に示した各ステップを適宜、含んでもよい。
【0128】
プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で状態監視装置30に提供されてよい。この場合、例えば、状態監視装置30は、記憶媒体からデータを読み出すドライブ(図示せず)をさらに備え、記憶媒体からプログラムを取得する。記憶媒体としては、例えば、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD-ROM、DVD-Rなど)、光磁気ディスク(MOなど)、半導体メモリなどが適宜、使用可能である。記憶媒体は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体(non-transitory computer readable storage medium)と呼んでもよい。また、プログラムを通信ネットワーク上のサーバに格納し、状態監視装置30が入出力インタフェース35を使用してサーバからプログラムをダウンロードするようにしてもよい。
【0129】
プログラムを実行する処理回路は、CPU31などの汎用ハードウェアプロセッサに限らず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用ハードウェアプロセッサを用いてもよい。処理回路(処理部)という語は、少なくとも1つの汎用ハードウェアプロセッサ、少なくとも1つの専用ハードウェアプロセッサ、または少なくとも1つの汎用ハードウェアプロセッサと少なくとも1つの専用ハードウェアプロセッサとの組み合わせを含む。図13に示す例では、CPU31、RAM32、およびプログラムメモリ33が処理回路に相当する。
【0130】
[各実施形態の変形例]
各実施形態及び各変形例では、移動体2の速度が一定の場合、移動体2の上昇時又は下降時にかかわらず、センサ信号を切り出す時間幅として第1固定長を用いたが、これに限定されない。すなわち、移動体2の定速上昇時にセンサ信号を切り出す時間幅と、移動体2の定速下降時にセンサ信号を切り出す時間幅とを別々の固定長としてもよい。この場合、より一層、過不足無くセンサ信号を切り出すことを期待することができる。
【0131】
また、各実施形態及び各変形例では、移動体2の速度が一定の場合を用いたが、これに限定されない。すなわち、エレベータの理想運転のように加減速の変化部分が正弦波曲線となり、移動体2の定速走行がない場合でも、移動体2の動作を加速又は減速に区別することにより、上述した効果を得ることができる。この場合、加加速度を用いることが、加速の動作開始タイミングと、減速の動作開始タイミングとを容易に推定できる観点から好ましい。
【0132】
また、実施形態の前に、移動体2の例として、エレベータ、自動車、鉄道、エスカレータ、機械式駐車場などを挙げたが、これらについて補足的に述べる。すなわち、移動体2がエレベータ、自動車、鉄道、エスカレータ又は機械式駐車場である場合、推進部2d、抑止部2e、音源分離部133で分離される外乱、雑音抑圧部134で抑圧される外乱としては、以下のものが該当する。
【0133】
移動体2がエレベータの場合、推進部2dは、原動機(モータ)等のアクセル機能や、巻上機であり、抑止部2eは、電磁ブレーキ等のブレーキ機能や重りである。音源分離部133で分離される外乱は、カゴ内の人の音声であり、雑音抑圧部134で抑圧される外乱は、カゴ内のエアコン音や周囲雑音である。
【0134】
移動体2が自動車の場合、推進部2dは、エンジンやトランスミッションであり、抑止部2eは、ブレーキである。音源分離部133で分離される外乱は、ロードノイズ、風切音、車室内の人の音声であり、雑音抑圧部134で抑圧される外乱は、周囲雑音である。
【0135】
移動体2が鉄道の場合、推進部2dは、モータであり、抑止部2eは、車両側のブレーキや線路側のブレーキである。音源分離部133で分離される外乱は、走行ノイズ、風切音であり、雑音抑圧部134で抑圧される外乱は、周囲雑音である。
【0136】
移動体2がエスカレータの場合、推進部2dは、巻上機(定速)であり、抑止部2eは、ブレーキである。音源分離部133で分離される外乱は、人の音声であり、雑音抑圧部134で抑圧される外乱は、周囲雑音である。なお、エスカレータは、常時運転のものに限らず、人感センサを用いた自動動作機を有する不定期運転のものでもよい。後者の場合、エスカレータの自動動作機は、搭乗検知部131としても機能する。
【0137】
移動体2が機械式駐車場の場合、推進部2dは、巻上機(定速)であり、抑止部2eは、重りである。音源分離部133で分離される外乱は、人の音声であり、雑音抑圧部134で抑圧される外乱は、周囲雑音である。なお、機械式駐車場は、多段昇降式のものであり、機械式立体駐車場と呼んでもよい。
【0138】
従って、各実施形態及び各変形例に係る状態監視装置10、20、30をエレベータ、自動車、鉄道、エスカレータ又は機械式駐車場に実装する場合、上述した推進部2d、抑止部2eに関するトリガ信号やセンサ信号を収集することが可能である。また、上述した外乱を音源分離部133及び雑音抑圧部134で分離又は抑圧することが可能である。このように、各実施形態及び各変形例に係る状態監視装置10、20、30は、エレベータ、自動車、鉄道、エスカレータ及び機械式駐車場などの任意の移動体2に適用することができる。
【0139】
また、各実施形態及び各変形例に係る状態監視装置10、20、30は、以上に例示した移動体2に限らず、例えば、船、ロープウェイ、ジェットコースターなどのように、機械の駆動により人を運ぶ装置であれば、適宜、実装可能となっている。あるいは、状態監視装置10、20、30は、例えば、無人用の機械式駐車場、産業用ロボット、ベルトコンベア、自律型ロボットなどのように、人を運ばない機械装置についても、適宜、実装可能となっている。
【0140】
また、各実施形態及び各変形例は、状態監視装置10、20、30を備えた、機械装置又は移動体2として表現してもよい。同様に、各実施形態及び各変形例は、上述した状態監視方法の各ステップを含む移動方法やプログラムとして表現してもよい。
【0141】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、センサ信号の処理量を低減しつつ、異常検出の精度を維持することができる。このことは、上述した少なくとも一つの変形例でも同様である。
【0142】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0143】
1…センサ、1a…マイク、2…移動体、2a…操作部、2b…制御部、2c…ドア開閉部、2d…推進部、2e…抑止部、2f…駆動部、2g…発報部、2h…帰着運転制御部、10,20,30…状態監視装置、11…収集部、12…切出制御部、12a…速度・加速度判断部、12b…切出条件決定部、12c…トリガ検出部、12d,12e…切出条件決定部、13…診断部、13a,13a1…切出部、13b…判定部、13c…パワー判定部、14…通信部、15…統合部、16…蓄積部、31…CPU、32…RAM、33…プログラムメモリ、34…補助記憶装置、35…入出力インタフェース、131…搭乗検知部、132…更新回数設定部、133…音源分離部、134…雑音抑圧部、135…デノイズ部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13