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特許7646691動脈圧推定装置、動脈圧推定システム、及び動脈圧推定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】動脈圧推定装置、動脈圧推定システム、及び動脈圧推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
A61B5/022 400Z
A61B5/022 400B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022550555
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2021033604
(87)【国際公開番号】W WO2022059653
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2024-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2020154967
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100176728
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】櫨田 知樹
(72)【発明者】
【氏名】八田 知紀
(72)【発明者】
【氏名】江指 慶春
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-174029(JP,A)
【文献】特開2000-333910(JP,A)
【文献】特開2012-205822(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0120420(US,A1)
【文献】米国特許第4858616(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大動脈の下流において血管の少なくとも2箇所が下流の箇所ほど高い圧力で圧迫されているときに1回の心拍に対して前記少なくとも2箇所のそれぞれに生じた血流が検知されたタイミングを示すセンサデータを取得し、取得したセンサデータを参照して、動脈圧の経時変化を推定する制御部を備える動脈圧推定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記少なくとも2箇所の間の距離に応じて、前記センサデータで示されるタイミングを補正し、補正後のタイミングと、前記少なくとも2箇所のそれぞれが圧迫された圧力とに応じて、前記動脈圧の経時変化を推定する請求項1に記載の動脈圧推定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記センサデータで示されるタイミングから、前記距離に対応する遅延時間を差し引くことで、当該タイミングを補正する請求項2に記載の動脈圧推定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記動脈圧の経時変化の推定結果に基づいて、LVEDPを推定する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の動脈圧推定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記動脈圧の経時変化として、動脈圧波形を推定し、推定した動脈圧波形に応じて、左室圧波形を推定し、推定した左室圧波形から、前記LVEDPの推定値を取得する請求項4に記載の動脈圧推定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記動脈圧の経時変化の推定結果を学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルから、前記LVEDPの推定値を取得する請求項4に記載の動脈圧推定装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記LVEDPの推定値を出力する請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の動脈圧推定装置。
【請求項8】
前記制御部は、複数回の心拍について前記センサデータを取得し、前記センサデータに対する統計処理を実行し、前記統計処理の結果に基づいて、前記動脈圧の経時変化を推定する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の動脈圧推定装置。
【請求項9】
前記少なくとも2箇所は、3箇所である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の動脈圧推定装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の動脈圧推定装置と、
前記少なくとも2箇所に1対1で対応し、それぞれ対応する箇所に生じた血流を検知する少なくとも2つのセンサと
を備える動脈圧推定システム。
【請求項11】
前記少なくとも2箇所に1対1で対応し、それぞれ対応する箇所を圧迫する少なくとも2つの膨張部を更に備える請求項10に記載の動脈圧推定システム。
【請求項12】
前記少なくとも2つの膨張部は、それぞれカフである請求項11に記載の動脈圧推定システム。
【請求項13】
前記少なくとも2つの膨張部は、それぞれエアバッグであり、共通のカフに組み込まれている請求項11に記載の動脈圧推定システム。
【請求項14】
少なくとも2つの膨張部が、大動脈の下流において血管の少なくとも2箇所を下流の箇所ほど高い圧力で圧迫し、
少なくとも2つのセンサが、1回の心拍に対して前記少なくとも2箇所のそれぞれに生じた血流を検知し、
制御部が、前記少なくとも2箇所が圧迫されているときに前記血流が検知されたタイミングを示すセンサデータを取得し、
前記制御部が、取得したセンサデータを参照して、動脈圧の経時変化を推定する動脈圧推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動脈圧推定装置、動脈圧推定システム、及び動脈圧推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、心音、上腕カフ圧、及びK音から左心内圧を推定する技術が開示されている。「K」は、Korotkoffの略語である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2015/0265163号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
心不全診療において、心臓の左心内圧は重要な観察項目である。しかし、左心内圧を直接計測しようとすると、心臓の中にセンサなどのデバイスを入れることになり、侵襲性が高くなる。
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、複数の動脈圧波形にわたってデータ収集を行うため、正解値としての動脈圧波形が変動してしまう。具体的には、カフの締付け圧を緩めていく過程で、複数の心拍に対応した波形を特定し、それぞれの波形から収集した情報を統合して、動脈圧波形を推定するため、推定精度が低くなってしまう。
【0006】
本開示の目的は、動脈圧の経時変化を非侵襲かつ高精度に推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様としての動脈圧推定装置は、大動脈の下流において血管の少なくとも2箇所が下流の箇所ほど高い圧力で圧迫されているときに1回の心拍に対して前記少なくとも2箇所のそれぞれに生じた血流が検知されたタイミングを示すセンサデータを取得し、取得したセンサデータを参照して、動脈圧の経時変化を推定する制御部を備える。
【0008】
一実施形態として、前記制御部は、前記少なくとも2箇所の間の距離に応じて、前記センサデータで示されるタイミングを補正し、補正後のタイミングと、前記少なくとも2箇所のそれぞれが圧迫された圧力とに応じて、前記動脈圧の経時変化を推定する。
【0009】
一実施形態として、前記制御部は、前記センサデータで示されるタイミングから、前記距離に対応する遅延時間を差し引くことで、当該タイミングを補正する。
【0010】
一実施形態として、前記制御部は、前記動脈圧の経時変化の推定結果に基づいて、LVEDPを推定する。
【0011】
一実施形態として、前記制御部は、前記動脈圧の経時変化として、動脈圧波形を推定し、推定した動脈圧波形に応じて、左室圧波形を推定し、推定した左室圧波形から、前記LVEDPの推定値を取得する。
【0012】
一実施形態として、前記制御部は、前記動脈圧の経時変化の推定結果を学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルから、前記LVEDPの推定値を取得する。
【0013】
一実施形態として、前記制御部は、前記LVEDPの推定値を出力する。
【0014】
一実施形態として、前記制御部は、複数回の心拍について前記センサデータを取得し、前記センサデータに対する統計処理を実行し、前記統計処理の結果に基づいて、前記動脈圧の経時変化を推定する。
【0015】
一実施形態として、前記少なくとも2箇所は、3箇所である。
【0016】
本開示の一態様としての動脈圧推定システムは、前記動脈圧推定装置と、前記少なくとも2箇所に1対1で対応し、それぞれ対応する箇所に生じた血流を検知する少なくとも2つのセンサとを備える。
【0017】
一実施形態として、前記少なくとも2箇所に1対1で対応し、それぞれ対応する箇所を圧迫する少なくとも2つの膨張部を更に備える。
【0018】
一実施形態として、前記少なくとも2つの膨張部は、それぞれカフである。
【0019】
一実施形態として、前記少なくとも2つの膨張部は、それぞれエアバッグであり、共通のカフに組み込まれている。
【0020】
本開示の一態様としての動脈圧推定方法は、少なくとも2つの膨張部が、大動脈の下流において血管の少なくとも2箇所を下流の箇所ほど高い圧力で圧迫し、少なくとも2つのセンサが、1回の心拍に対して前記少なくとも2箇所のそれぞれに生じた血流を検知し、制御部が、前記少なくとも2箇所が圧迫されているときに前記血流が検知されたタイミングを示すセンサデータを取得し、前記制御部が、取得したセンサデータを参照して、動脈圧の経時変化を推定する、というものである。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、動脈圧の経時変化を非侵襲かつ高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の実施形態に係る動脈圧推定システムの構成を示すブロック図である。
図2】本開示の実施形態に係る動脈圧推定装置の構成を示すブロック図である。
図3】本開示の実施形態に係る動脈圧推定システムの動作を示すフローチャートである。
図4A】本開示の実施形態に係る心電波形の例を示すグラフである。
図4B】本開示の実施形態に係る第1K音波形の例を示すグラフである。
図4C】本開示の実施形態に係る第2K音波形の例を示すグラフである。
図4D】本開示の実施形態に係る第3K音波形の例を示すグラフである。
図5】本開示の実施形態においてプロットされた点の例を示すグラフである。
図6】本開示の実施形態において推定された曲線の例を示すグラフである。
図7】本開示の実施形態において抽出された曲線の例を示すグラフである。
図8】本開示の実施形態において平均化された曲線の例を示すグラフである。
図9】本開示の実施形態において推定されたLVEDPの例を示すグラフである。
図10A】比較例に係る大動脈弁近傍の動脈圧、左室圧、及び心音の波形を示す図である。
図10B図10Aに対応する血液の流れを示す図である。
図11A】比較例に係る大動脈弁近傍の動脈圧波形、左室圧波形、心音波形、及び上腕の動脈圧波形を示す図である。
図11B図11Aに対応する血液の流れを示す図である。
図12A】比較例に係る大動脈弁近傍の動脈圧波形、左室圧波形、心音波形、及び上腕の動脈圧波形を示す図である。
図12B図12Aに対応する血液の流れを示す図である。
図13A】比較例に係る大動脈弁近傍の動脈圧波形、左室圧波形、心音波形、上腕の動脈圧波形、心電波形、及び上腕の第1K音波形を示す図である。
図13B図13Aに対応する血液の流れを示す図である。
図14】比較例に係る大動脈弁近傍の動脈圧波形、左室圧波形、心音波形、上腕の動脈圧波形、心電波形、及び上腕の第1K音波形を示す図である。
図15】比較例に係る大動脈弁近傍の動脈圧波形、左室圧波形、心音波形、上腕の動脈圧波形、心電波形、上腕の第1K音波形、推定された動脈圧波形、及びフィットさせたカーブを示す図である。
図16】比較例に係る大動脈弁近傍の動脈圧波形、左室圧波形、心音波形、上腕の動脈圧波形、心電波形、上腕の第1K音波形、推定された動脈圧波形、フィットさせたカーブ、及び推定LVEDPを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、比較例として、特許文献1に開示されている技術と同様に、動脈圧波形から左心内圧を推定する方法について、図を参照して説明する。
【0024】
図10A及び図10Bに示すように、左室16内の圧が上がっていくと、大動脈弁17が開き、大動脈18に血液が流れ込む。図11A及び図11Bに示すように、大動脈弁17を通過した血流が、上腕である腕13に遅れて到達する。腕13の動脈圧波形は、大動脈弁17近傍の動脈圧波形を遅延分シフトした曲線となる。
【0025】
図12A及び図12Bに示すように、カフ圧が高いと、腕13に血液が流れない。カフ圧は、腕13に取り付けられたカフ90の圧力である。カフ90には、第1K音マイク91、第2K音マイク92、及び圧センサ93が内蔵されている。図13A及び図13Bに示すように、心電波形をとりつつ、K音を待ち構えながら、カフ圧を下げていくと、腕13に血液が流れ始める。血液が流れることで生じたK音が第1K音マイク91によって捉えられると、Q波からK音までの時間間隔と、圧センサ93によって計測されたカフ圧とが記録される。Q波からK音までの時間間隔の代わりに、心音からK音までの時間間隔が記録されてもよい。第1K音マイク91及び第2K音マイク92の間の距離は既知であり、例えば3cm以上5cm以下程度である。第1K音マイク91及び第2K音マイク92に信号が入るタイミングのずれと、大動脈弁17及び第1K音マイク91の間の距離とに応じて、大動脈弁17及び第1K音マイク91の間の遅延が算出される。
【0026】
図14に示すように、カフ圧を更に下げると、次以降の心拍におけるK音の開始タイミングが早くなる。心拍ごとに、K音が第1K音マイク91によって捉えられると、Q波からK音までの時間間隔と、圧センサ93によって計測されたカフ圧とが記録される。Q波からK音までの時間間隔の代わりに、心音からK音までの時間間隔が記録されてもよい。図15に示すように、時間間隔とカフ圧との記録に、多項式曲線又はコサイン曲線など、何らかのカーブがフィットさせられる。このカーブが左室圧波形と同じ波形になることが理想であるが、現実的には難しい。図16に示すように、Q波のタイミングから遅延分だけ経過した時点の圧力値が、推定LVEDPとなる。「LVEDP」は、left ventricular end-diastolic pressureの略語である。
【0027】
比較例では、心拍ごとにカフ圧を徐々に下げていって、複数拍で動脈圧に関する情報の取得が完結するため、心拍間での動脈圧の変動に起因するK音の開始タイミングの誤差が情報に反映されてしまう。これに対し、本開示では、1拍で動脈圧に関する情報の取得が完結するため、比較例のような誤差を考慮する必要がなくなる。
【0028】
以下、本開示の実施形態について、図を参照して説明する。
【0029】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0030】
図1及び図2を参照して、本実施形態の概要を説明する。
【0031】
本実施形態に係る動脈圧推定システム10では、少なくとも2つの膨張部が、大動脈18の下流において血管12の「少なくとも2箇所」を下流の箇所ほど高い圧力で圧迫する。少なくとも2つのセンサが、1回の心拍に対して「少なくとも2箇所」のそれぞれに生じた血流を検知する。制御部21が、「少なくとも2箇所」が圧迫されているときに血流が検知されたタイミングを示すセンサデータ44を取得する。制御部21が、取得したセンサデータ44を参照して、動脈圧の経時変化を推定する。
【0032】
本実施形態によれば、1回の心拍に対応する動脈圧の経時変化を推定することができる。よって、動脈圧の経時変化を非侵襲かつ高精度に推定することができる。
【0033】
本実施形態では、制御部21は、動脈圧の経時変化として、動脈圧波形を推定する。したがって、1拍の動脈圧波形を非侵襲かつ高精度に推定することができる。
【0034】
本実施形態では、「少なくとも2箇所」は、「3箇所」である。したがって、「2箇所」のみを圧迫して、「2箇所」のみで血流を検知する場合よりも、動脈圧の経時変化を高精度に推定することができる。また、「4箇所以上」を圧迫して、「4箇所以上」で血流を検知する場合よりも、各膨張部及び各センサを腕13などの身体部位に取り付けやすくなる。本実施形態では、「3箇所」のそれぞれは、中にセンサ及びカフがある止血突破圧計測部に相当する。
【0035】
図1を参照して、本実施形態に係る動脈圧推定システム10の構成を説明する。
【0036】
動脈圧推定システム10は、動脈圧推定装置20と、カフ制御装置30と、第1カフ31と、第2カフ32と、第3カフ33と、拍出センサ40と、第1センサ41と、第2センサ42と、第3センサ43とを備える。
【0037】
動脈圧推定装置20は、コンピュータである。動脈圧推定装置20は、例えば、専用機器、PCなどの汎用機器、又はクラウドコンピューティングシステム若しくはその他のコンピューティングシステムに属するサーバ機器である。「PC」は、personal computerの略語である。
【0038】
カフ制御装置30は、第1カフ31、第2カフ32、及び第3カフ33を制御する機器である。カフ制御装置30は、上流側、すなわち、心臓11に近い側から、カフ圧が段階的に高くなっていくように第1カフ31、第2カフ32、及び第3カフ33を制御する。カフ圧は、任意の方法で設定されてよいが、本実施形態では、血圧計で実際に計測された最低血圧と最高血圧との範囲内で、第1カフ31、第2カフ32、及び第3カフ33の順に高くなるように設定される。例えば、第1カフ31の圧力P1は、最低血圧よりも5mmHgなど、少し高い値に設定される。第3カフ33の圧力P3は、最高血圧よりも5mmHgなど、少し低い値に設定される。第2カフ32の圧力P2は、圧力P1と圧力P3との中間値に設定される。カフ制御装置30は、直接、又はLAN若しくはインターネットなどのネットワークを介して動脈圧推定装置20と通信可能である。「LAN」は、local area networkの略語である。
【0039】
第1カフ31、第2カフ32、及び第3カフ33の3つの膨張部は、「3箇所」に1対1で対応し、それぞれ対応する箇所を圧迫する。本実施形態では、第1カフ31は腕13の最上流側、第3カフ33は腕13の最下流側、第2カフ32は第1カフ31及び第3カフ33の間に取り付けられる。本実施形態では、血液伝搬時間が既知となるようにカフ間の距離が固定されているが、血液伝搬時間は毎回計測されてもよい。例えば、第1カフ31、第2カフ32、及び第3カフ33の間の距離をいずれも50mmとし、血液の伝搬速度を1000mm/sと仮定すると、既知の血液伝搬時間は50msとなるが、個人の特性値を全カフでの締付け圧力を等しくして測ってその特性値を利用してもよい。その場合、全カフで締付けがないか、又は同じ圧力で加圧する血液伝搬時間計測モードから、本実施形態に係るカフごとの個別の圧力で加圧する動脈圧波形計測モードに移行できるようにしてもよい。本実施形態の一変形例として、3つの膨張部は、それぞれカフの代わりにエアバッグであってもよい。3つの膨張部としての3つのエアバッグは、共通のカフに組み込まれていてもよい。
【0040】
拍出センサ40は、心臓11の拍出を検知するセンサである。拍出センサ40は、本実施形態ではECGセンサであるが、僧帽弁の閉塞音を検知する音センサであってもよい。「ECG」は、electrocardiogramの略語である。拍出センサ40は、直接、又はLAN若しくはインターネットなどのネットワークを介して動脈圧推定装置20と通信可能である。
【0041】
第1センサ41、第2センサ42、及び第3センサ43の3つのセンサは、「3箇所」に1対1で対応し、それぞれ対応する箇所に生じた血流を検知する。第1センサ41は、第1カフ31の下流側かつ第2カフ32の上流側に配置され、第1カフ31の下流側に生じた血流を検知する。第2センサ42は、第2カフ32の下流側かつ第3カフ33の上流側に配置され、第2カフ32の下流側に生じた血流を検知する。第3センサ43は、第3カフ33の下流側に配置され、第3カフ33の下流側に生じた血流を検知する。各センサは、本実施形態では、血液が流れることで生じる音を検知する音センサであるが、PPGセンサ、又は血流を超音波ドップラ法で計測する超音波センサであってもよい。「PPG」は、photoplethysmogramの略語である。第1センサ41、第2センサ42、及び第3センサ43は、直接、又はLAN若しくはインターネットなどのネットワークを介して動脈圧推定装置20と通信可能である。本実施形態の一変形例として、3つのセンサは、それぞれ対応するカフと一体化されていてもよい。
【0042】
動脈圧推定装置20は、拍出センサ40、第1センサ41、第2センサ42、及び第3センサ43から出力される信号をセンサデータ44として取得する。センサデータ44は、拍出タイミングT0、第1検知タイミングT1、第2検知タイミングT2、及び第3検知タイミングT3を示すデータである。拍出タイミングT0とは、拍出センサ40により拍出が検知されたタイミングのことである。拍出タイミングT0は、心臓11の基準タイミングとして扱われる。基準タイミングとは、心拍ごとに特定可能なタイミングのことである。第1検知タイミングT1とは、第1センサ41により血流が検知されたタイミングのことである。第2検知タイミングT2とは、第2センサ42により血流が検知されたタイミングのことである。第3検知タイミングT3とは、第3センサ43により血流が検知されたタイミングのことである。
【0043】
動脈圧推定装置20は、センサデータ44を参照して、拍出タイミングT0から第1検知タイミングT1までの時間差D1を算出する。動脈圧推定装置20は、センサデータ44を参照して、拍出タイミングT0から第2検知タイミングT2までの時間差から、第1カフ31及び第2カフ32の間の血液伝搬時間を引いた時間差D2を算出する。動脈圧推定装置20は、センサデータ44を参照して、拍出タイミングT0から第3検知タイミングT3までの時間差から、第1カフ31及び第3カフ33の間の血液伝搬時間を引いた時間差D3を算出する。
【0044】
動脈圧推定装置20は、時間差D1、時間差D2、及び時間差D3と、対応する第1カフ31の圧力P1、第2カフ32の圧力P2、及び第3カフ33の圧力P3とから、1拍の動脈圧波形15を推定する。この動脈圧波形15は、大動脈18の動脈圧波形14に対応する。そのため、動脈圧推定装置20は、推定した動脈圧波形14から、LVEDPを推定する。
【0045】
本実施形態によれば、動脈圧推定装置20により推定されたLVEDP値を活用して、心不全診療における重要な判断指標を提供することができる。この指標に基づいて、利尿薬などの処方変更、入院の判断、又は退院の判断が可能となる。
【0046】
図2を参照して、本実施形態に係る動脈圧推定装置20の構成を説明する。
【0047】
動脈圧推定装置20は、制御部21と、記憶部22と、通信部23と、入力部24と、出力部25とを備える。
【0048】
制御部21は、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つのプログラマブル回路、少なくとも1つの専用回路、又はこれらの任意の組合せを含む。プロセッサは、CPU若しくはGPUなどの汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。「CPU」は、central processing unitの略語である。「GPU」は、graphics processing unitの略語である。プログラマブル回路は、例えば、FPGAである。「FPGA」は、field-programmable gate arrayの略語である。専用回路は、例えば、ASICである。「ASIC」は、application specific integrated circuitの略語である。制御部21は、動脈圧推定装置20の各部を制御しながら、動脈圧推定装置20の動作に関わる処理を実行する。
【0049】
記憶部22は、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ、又はこれらの任意の組合せを含む。半導体メモリは、例えば、RAM又はROMである。「RAM」は、random access memoryの略語である。「ROM」は、read only memoryの略語である。RAMは、例えば、SRAM又はDRAMである。「SRAM」は、static random access memoryの略語である。「DRAM」は、dynamic random access memoryの略語である。ROMは、例えば、EEPROMである。「EEPROM」は、electrically erasable programmable read only memoryの略語である。記憶部22は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部22には、動脈圧推定装置20の動作に用いられるデータと、動脈圧推定装置20の動作によって得られたデータとが記憶される。
【0050】
通信部23は、少なくとも1つの通信用インタフェースを含む。通信用インタフェースは、例えば、LANインタフェース、LTE、4G規格、若しくは5G規格などの移動通信規格に対応したインタフェース、又はBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信に対応したインタフェースである。「LTE」は、Long Term Evolutionの略語である。「4G」は、4th generationの略語である。「5G」は、5th generationの略語である。通信部23は、動脈圧推定装置20の動作に用いられるデータを受信し、また動脈圧推定装置20の動作によって得られるデータを送信する。
【0051】
入力部24は、少なくとも1つの入力用インタフェースを含む。入力用インタフェースは、例えば、物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン、カメラなどの撮影装置、又はマイクである。入力部24は、動脈圧推定装置20の動作に用いられるデータを入力する操作を受け付ける。入力部24は、動脈圧推定装置20に備えられる代わりに、外部の入力機器として動脈圧推定装置20に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB、HDMI(登録商標)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。「USB」は、Universal Serial Busの略語である。「HDMI(登録商標)」は、High-Definition Multimedia Interfaceの略語である。
【0052】
出力部25は、少なくとも1つの出力用インタフェースを含む。出力用インタフェースは、例えば、ディスプレイ又はスピーカである。ディスプレイは、例えば、LCD又は有機ELディスプレイである。「LCD」は、liquid crystal displayの略語である。「EL」は、electro luminescenceの略語である。出力部25は、動脈圧推定装置20の動作によって得られるデータを出力する。出力部25は、動脈圧推定装置20に備えられる代わりに、外部の出力機器として動脈圧推定装置20に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB、HDMI(登録商標)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0053】
動脈圧推定装置20の機能は、本実施形態に係るプログラムを、制御部21としてのプロセッサで実行することにより実現される。すなわち、動脈圧推定装置20の機能は、ソフトウェアにより実現される。プログラムは、動脈圧推定装置20の動作をコンピュータに実行させることで、コンピュータを動脈圧推定装置20として機能させる。すなわち、コンピュータは、プログラムに従って動脈圧推定装置20の動作を実行することにより動脈圧推定装置20として機能する。
【0054】
プログラムは、非一時的なコンピュータ読取り可能な媒体に記憶しておくことができる。非一時的なコンピュータ読取り可能な媒体は、例えば、フラッシュメモリ、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、又はROMである。プログラムの流通は、例えば、プログラムを記憶したSDカード、DVD、又はCD-ROMなどの可搬型媒体を販売、譲渡、又は貸与することによって行う。「SD」は、Secure Digitalの略語である。「DVD」は、digital versatile discの略語である。「CD-ROM」は、compact disc read only memoryの略語である。プログラムをサーバのストレージに格納しておき、サーバから他のコンピュータにプログラムを転送することにより、プログラムを流通させてもよい。プログラムをプログラムプロダクトとして提供してもよい。
【0055】
コンピュータは、例えば、可搬型媒体に記憶されたプログラム又はサーバから転送されたプログラムを、一旦、主記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、主記憶装置に格納されたプログラムをプロセッサで読み取り、読み取ったプログラムに従った処理をプロセッサで実行する。コンピュータは、可搬型媒体から直接プログラムを読み取り、プログラムに従った処理を実行してもよい。コンピュータは、コンピュータにサーバからプログラムが転送される度に、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行してもよい。サーバからコンピュータへのプログラムの転送は行わず、実行指示及び結果取得のみによって機能を実現する、いわゆるASP型のサービスによって処理を実行してもよい。「ASP」は、application service providerの略語である。プログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるものが含まれる。例えば、コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータは、「プログラムに準ずるもの」に該当する。
【0056】
動脈圧推定装置20の一部又は全ての機能が、制御部21としてのプログラマブル回路又は専用回路により実現されてもよい。すなわち、動脈圧推定装置20の一部又は全ての機能が、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0057】
図3を参照して、本実施形態に係る動脈圧推定システム10の動作を説明する。この動作は、本実施形態に係る動脈圧推定方法に相当する。
【0058】
ステップS1において、拍出センサ40は、心臓11の拍出を検知する。具体的には、拍出センサ40は、心電波形を計測する。拍出センサ40は、計測した心電波形を示す信号を出力する。
【0059】
ステップS2において、第1センサ41、第2センサ42、及び第3センサ43は、大動脈18の下流において血管12の「3箇所」が下流の箇所ほど高い圧力で圧迫されているときに1回の心拍に対して「3箇所」のそれぞれに生じた血流を検知する。具体的には、第1センサ41は、血流が第1カフ31を突破して生じたK音を検知する。第1センサ41は、K音の波形を示す信号を出力する。第2センサ42は、血流が第2カフ32を突破して生じたK音を検知する。第2センサ42は、K音の波形を示す信号を出力する。第3センサ43は、血流が第3カフ33を突破して生じたK音を検知する。第3センサ43は、K音の波形を示す信号を出力する。
【0060】
ステップS3において、動脈圧推定装置20の制御部21は、センサデータ44を取得する。センサデータ44は、ステップS1で拍出が検知されたタイミングを示すデータを含む。具体的には、センサデータ44は、そのようなデータとして、拍出センサ40により計測された心電波形を示すデータを含む。制御部21は、図4Aに示すように、拍出センサ40により計測された心電波形から、拍出タイミングT0を特定する。センサデータ44は、ステップS2で1回の心拍に対して「3箇所」のそれぞれに生じた血流が検知されたタイミングを示すデータを更に含む。具体的には、センサデータ44は、そのようなデータとして、第1センサ41、第2センサ42、及び第3センサ43のそれぞれにより検知されたK音の波形を示すデータを含む。制御部21は、図4Bに示すように、第1センサ41により検知されたK音の波形から、第1検知タイミングT1として、血液が第1カフ31を突破したタイミングを特定する。制御部21は、図4Cに示すように、第2センサ42により検知されたK音の波形から、第2検知タイミングT2として、血液が第2カフ32を突破したタイミングを特定する。制御部21は、図4Dに示すように、第3センサ43により検知されたK音の波形から、第3検知タイミングT3として、血液が第3カフ33を突破したタイミングを特定する。第1検知タイミングT1と第2検知タイミングT2との間には、下流側の圧力が高くなることによる突破の遅れ、及び第2カフ32が下流にあることによる遅れに起因する時間差が生じている。第2検知タイミングT2と第3検知タイミングT3との間にも、下流側の圧力が高くなることによる突破の遅れ、及び第3カフ33が下流にあることによる遅れに起因する時間差が生じている。
【0061】
動脈圧推定装置20の制御部21は、「3箇所」の間の距離に応じて、取得したセンサデータ44で示されるタイミングを補正する。具体的には、制御部21は、センサデータ44で示されるタイミングから、「3箇所」の間の距離に対応する遅延時間を差し引くことで、当該タイミングを補正する。より具体的には、制御部21は、時間差D1として、拍出タイミングT0から第1検知タイミングT1までの時間差を算出する。制御部21は、拍出タイミングT0から第2検知タイミングT2までの時間差から、第1カフ31及び第2カフ32の間の距離に対応する遅延時間を差し引くことで、時間差D2を算出する。制御部21は、拍出タイミングT0から第3検知タイミングT3までの時間差から、第1カフ31及び第3カフ33の間の距離に対応する遅延時間を差し引くことで、時間差D3を算出する。
【0062】
拍出タイミングT0は、心電波形の代わりに心音から特定されてもよい。その場合、ステップS1において、拍出センサ40は、僧帽弁の閉塞音を含む心音を検知する。拍出センサ40は、検知した心音を示す信号を出力する。ステップS3において、センサデータ44は、拍出センサ40により検知された心音を示すデータを含む。動脈圧推定装置20の制御部21は、拍出センサ40により検知された心音から、拍出タイミングT0を特定する。
【0063】
ステップS4において、動脈圧推定装置20の制御部21は、ステップS3で取得したセンサデータ44を参照して、動脈圧の経時変化を推定する。具体的には、制御部21は、ステップS3における補正後のタイミングと、「3箇所」のそれぞれが圧迫された圧力とに応じて、動脈圧の経時変化を推定する。より具体的には、制御部21は、図5に示すように、ステップS3で算出した時間差D1、時間差D2、及び時間差D3と、対応する第1カフ31の圧力P1、第2カフ32の圧力P2、及び第3カフ33の圧力P3とをプロットする。制御部21は、図6に示すように、プロットした3点に対するスプライン補間を行って、動脈圧波形の曲線を推定する。
【0064】
ステップS5において、動脈圧推定装置20の制御部21は、10回以上の心拍に対する動脈圧波形の推定結果が得られたかどうかを判定する。10回以上の心拍に対する動脈圧波形の推定結果が得られていなければ、ステップS1からステップS4の処理が再び行われる。10回以上の心拍に対する動脈圧波形の推定結果が得られていれば、ステップS6の処理が行われる。
【0065】
ステップS6において、動脈圧推定装置20の制御部21は、10回以上の心拍に対して取得したセンサデータ44に対する統計処理を実行する。具体的には、制御部21は、図7に示すように、10回以上の心拍に対して推定した複数の動脈圧波形の曲線を重ね合わせる。制御部21は、複数の動脈圧波形の曲線の平均を算出し、平均から一定距離以内にない曲線を外れ値として除去する。除去されずに残った曲線は、良質波形の曲線となる。
【0066】
ステップS7において、動脈圧推定装置20の制御部21は、10回以上の心拍に対する良質波形の曲線が得られたかどうかを判定する。10回以上の心拍に対する良質波形の曲線が得られていなければ、ステップS1からステップS6の処理が再び行われる。10回以上の心拍に対する良質波形の曲線が得られていれば、ステップS8の処理が行われる。
【0067】
ステップS8において、動脈圧推定装置20の制御部21は、動脈圧の経時変化の推定結果に基づいて、LVEDPを推定する。具体的には、制御部21は、推定した動脈圧波形に応じて、左室圧波形を推定する。制御部21は、推定した左室圧波形から、LVEDPの推定値を取得する。本実施形態では、制御部21は、ステップS6で実行した統計処理の結果に基づいて、動脈圧の経時変化を推定する。より具体的には、制御部21は、図8に示すように、ステップS6で得られた良質波形の曲線を平均化する。制御部21は、平均化した曲線の変曲点を特定する。制御部21は、図9に示すように、平均化した曲線を180度回転させた線を外挿することで、変曲点の先の曲線を追加する。その結果、左室圧波形の曲線が得られる。制御部21は、心拍ごとに特定される基準のタイミングから、大動脈弁17と、「3箇所」のうち最上流の箇所との間の距離に対応する遅延時間が経過した時点における圧力値をLVEDPの推定値として取得する。具体的には、制御部21は、図9に示すように、拍出タイミングT0から、大動脈弁17と第1カフ31との間の距離に対応する血液伝搬時間分の時間差に対応するカフ圧を推定LVEDP値として特定する。大動脈弁17と第1カフ31との間の距離は、固定値として予め定められていてもよいし、CT若しくはMRIを用いて計測されてもよいし、又は診療時のカテーテルの経路長に応じて算出されてもよい。「CT」は、computed tomographyの略語である。「MRI」は、magnetic resonance imagingの略語である。大動脈弁17と第1カフ31との間の血液伝搬時間は、第1カフ31、第2カフ32、及び第3カフ33の間の血液伝搬時間から算出されてもよい。例えば、大動脈弁17と第1カフ31との間の距離を150mm、第1カフ31及び第2カフ32の間の距離を50mmとすると、第1カフ31及び第2カフ32の間の血液伝搬時間が50msであれば、大動脈弁17と第1カフ31との間の血液伝搬時間は150msとなる。血液伝搬時間については、各カフを各センサに読み替えて考えてもよい。
【0068】
ステップS9において、動脈圧推定装置20の制御部21は、ステップS8で取得されたLVEDPの推定値を出力する。例えば、制御部21は、LVEDPの推定値を出力部25としてのディスプレイに表示する。あるいは、制御部21は、LVEDPの推定値を出力部25としてのスピーカから音声で出力する。あるいは、制御部21は、LVEDPの推定値を通信部23に送信させる。通信部23は、LVEDPの推定値を、直接、又はLAN若しくはインターネットなどのネットワークを介して他の装置に送信する。
【0069】
上述のように、本実施形態では、動脈圧推定装置20の制御部21は、大動脈18の下流において血管12の「3箇所」が下流の箇所ほど高い圧力で圧迫されているときに1回の心拍に対して「3箇所」のそれぞれに生じた血流が検知されたタイミングを示すセンサデータ44を取得する。制御部21は、取得したセンサデータ44を参照して、動脈圧の経時変化を推定する。
【0070】
本実施形態によれば、1回の心拍に対応する動脈圧の経時変化を推定することができる。よって、動脈圧の経時変化を非侵襲かつ高精度に推定することができる。
【0071】
本実施形態の一変形例として、ステップS8において、動脈圧推定装置20の制御部21は、平均化した曲線を180度回転させた線を外挿する代わりに、比較例と同様の多項式曲線又はコサイン曲線など、何らかのカーブを、平均化した曲線にフィットさせてもよい。あるいは、制御部21は、予め計測された被験者の動脈圧波形をフィットさせてもよい。被験者に適した曲線をフィットさせることで、左室圧波形の曲線が得られる。
【0072】
本実施形態の一変形例として、動脈圧推定装置20の制御部21は、10回とは異なる任意の複数回の心拍についてセンサデータ44を取得し、取得したセンサデータ44を参照して、動脈圧の経時変化を推定してもよい。あるいは、制御部21は、1回の心拍のみについてセンサデータ44を取得し、取得したセンサデータ44を参照して、動脈圧の経時変化を推定してもよい。その場合、制御部21は、動脈圧波形の曲線を推定せず、図5に示した3点に相当するデータを学習済みモデルに入力し、学習済みモデルを用いてLVEDPを推定してもよい。すなわち、制御部21は、動脈圧の経時変化の推定結果を学習済みモデルに入力し、学習済みモデルから、LVEDPの推定値を取得してもよい。
【0073】
本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、ブロック図に記載の2つ以上のブロックを統合してもよいし、又は1つのブロックを分割してもよい。フローチャートに記載の2つ以上のステップを記述に従って時系列に実行する代わりに、各ステップを実行する装置の処理能力に応じて、又は必要に応じて、並列的に又は異なる順序で実行してもよい。その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
10 動脈圧推定システム
11 心臓
12 血管
13 腕
14 動脈圧波形
15 動脈圧波形
16 左室
17 大動脈弁
18 大動脈
20 動脈圧推定装置
21 制御部
22 記憶部
23 通信部
24 入力部
25 出力部
30 カフ制御装置
31 第1カフ
32 第2カフ
33 第3カフ
40 拍出センサ
41 第1センサ
42 第2センサ
43 第3センサ
44 センサデータ
90 カフ
91 第1K音マイク
92 第2K音マイク
93 圧センサ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15
図16