(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】炭酸含有ジアミノアルカン溶液の分離膜分離工程
(51)【国際特許分類】
B01D 61/00 20060101AFI20250310BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20250310BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20250310BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
B01D61/00
B01D71/68
B01D71/34
B01D71/26
(21)【出願番号】P 2022556462
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 KR2021002949
(87)【国際公開番号】W WO2021187796
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0033955
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,ホ ポム
(72)【発明者】
【氏名】リ,テ フン
(72)【発明者】
【氏名】リ,チェフン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ヨン ヨル
(72)【発明者】
【氏名】オ,チャンヨプ
(72)【発明者】
【氏名】リ,チュン ミン
(72)【発明者】
【氏名】シン,チヒョン
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500797(JP,A)
【文献】特表2018-500911(JP,A)
【文献】特開2012-188407(JP,A)
【文献】特表2018-515606(JP,A)
【文献】特表2016-522681(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0002272(US,A1)
【文献】国際公開第2013/180218(WO,A1)
【文献】WANG Zhen(Zhejiang Univ., CHN) ほか,“組合せ吸収‐脱着解析によるCO2膜真空再生技術のためのアミンベース吸収剤選択”,Chemical Engineering Science|B0254A,2013年,Vol.93,p.238-249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
C02F1/44
C07B31/00-61/00
C07B63/00-63/04
C07C1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸含有ジアミノアルカン溶液から二酸化炭素を除去する方法であって、
炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を、微生物の発酵、酵素転換反応または二つの工程の両方を通じて準備する段階と、
前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階を含
み、
前記ジアミノアルカンは、1、4-ジアミノブタンまたは1、5-ジアミノペンタンであって、
前記分離膜モジュールは、ポリスルホン(polysulfone;PSf)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidene fluoride;PVDF)またはポリプロピレン(polypropylene;PP)素材の中空糸膜を備えたものである、方法。
【請求項2】
前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は、前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を10~60cm/sの流速で注入して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は、1~3barの圧力差で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は、分離膜モジュールの下部に1×10
3~1×10
2torrの真空を加えて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は、80~110℃で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は、30分~10時間行う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階以降、前記ジアミノアルカン溶液中の二酸化炭素が除去されるにつれて、前記ジアミノアルカン溶液のpHは10以上に増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は、これを行う途中に前記
ジアミノアルカン溶液に水を追加する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記分離膜モジュールは、互いに平行に連結された2以上の分離膜を備えたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記炭酸塩の形態のジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階以降、前記溶液を蒸留して残余炭酸塩を除去する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法により二酸化炭素を除去した溶液から
前記ジアミノアルカンを分離する段階を含む、ジアミノアルカンを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、炭酸含有ジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階を含む、炭酸含有ジアミノアルカン溶液から二酸化炭素を除去する方法、及びこれを含むジアミノアルカンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飽和炭化水素骨格の両末端にアミン基を含むジアミノアルカン化合物中、いわゆるカダベリン(cadaverine)と呼ばれる化合物である、1、5-ジアミノペンタンは、本来、動物組織の腐敗(putrefaction)過程で発生する悪臭のあるジアミン系化合物であるが、アミノ酸の一種であるリシン(lysine)の脱炭酸反応(decarboxylation)生成物であり、ナイロン56、ナイロン510及びポリウレタン・尿素などの原材料となる物質として注目されている。他の例として、別名プトレシン(putrescine)と呼ばれる化合物である、1、4-ジアミノブタンもアミノ酸の分解過程で生成される悪臭のある有機化合物であり、ポリアミンなどの高分子の製造のための単量体として使用される。また他の例として、ヘキサメチレンジアミン(hexamethylenediamine;HMDまたはHMDA)と称される1、6-ジアミノヘキサンは、強いアミンの香りを有する有機化合物であり、ポリアミド、ポリウレアまたはポリウレタン及びこれらの物質の共重合体の製造に用いられる化学産業において重要な原料物質である。一方、これらのジアミノアルカンは製造方法によって硫酸塩、炭酸塩などの塩の形態で得られる。例えば、1、5-ジアミノペンタンの硫酸塩にアジピン酸(adipic acid)を添加し、1、5-ジアミノペンテンアジペートを結晶として回収することができる。または、1、5-ジアミノペンタンの炭酸塩をそのまま結晶として回収することができる。しかし、前記の製造方法は、収率が低く、反応副産物である炭酸塩の存在によりこれを除去しない場合、塩(salt)の形態で得られるため、塩を除去し、純粋なジアミノアルカンを得るためには、追加の分離/精製工程が求められ、これにより追加の費用が発生する。したがって、生産費用を節減するため、反応液から簡単かつ効率的に炭酸イオンを除去し、ジアミノアルカンを直接効果的に精製できる方法が求められる。
【0003】
しかし、既存のジアミノアルカンの精製工程は、pH調節などのための追加の添加剤を必須で要求してきており、これにより、添加剤を分離するための追加の工程を必要としたり、添加剤による不純物の形成及び/又は反応器の内部におけるスケールの発生などの問題が発生し得る。
【0004】
一方、膜分離工程は、エネルギー消耗が少なく、工程が簡単ながら、添加剤を必要とせず、スケールアップの容易な長所があり、既存の分離工程の代替及び反応器の効率の改善に対する多くの研究及び実証化が進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、既存の蒸留分離工程を基盤とし、ジアミノアルカンの反応液から炭酸塩を効率よく除去できる工程を発掘するために、鋭意努力研究した結果、蒸留による脱炭酸段階に先立ち、高分子分離膜を用いる膜接触器の分離工程を結合することにより相対的に低温で、より効率よく炭酸塩を除去できることを確認し、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の一つの目的は、炭酸含有ジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階を含む、炭酸含有ジアミノアルカン溶液から二酸化炭素を除去する方法を提供することにある。
【0007】
本出願の他の目的は、前記方法により二酸化炭素を除去した溶液からジアミノアルカンを分離する段階を含む、ジアミノアルカンを製造する方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0008】
本出願の方法は、蒸留を通じて二酸化炭素を除去する二次脱炭酸工程に先立ち、分離膜モジュールを用いた一次脱炭酸工程を組み合わせることにより、一次脱炭酸工程を通じて相対的に低温でエネルギー効率のよい方式で効率のよい脱炭酸工程が可能であるため、二次脱炭酸工程における負担を顕著に低めることができる。したがって、単純蒸留による二酸化炭素除去工程で発生する低い気-液の接触面積による劣悪な物質伝達性能及びこれによる装置の大規模化、装備の腐食、溶媒損失、氾濫、泡、偏流、飛沫同伴などの問題を発生させず、ひいては、分離膜モジュールを用いる前記工程は添加剤などを使わないため、これを分離するための追加工程を必要とせず、工程の経済性及び効率性の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例による分離膜分離工程のための反応器構成を概略的に示した図である。
【
図2】本発明の一実施例による分離膜モジュールの素材及び駆動時間による1、5-ジアミノペンタン含有反応液のpH変化を示した図である。
【
図3】本発明の一実施例によるPSf素材の分離膜モジュール駆動時、温度による1,5-ジアミノペンタン含有反応液のpH変化を示した図である。
【
図4】本発明の一実施例による分離膜分離工程の進行時間による1、4-ジアミノブタン含有反応液のpH変化を示した図である。
【
図5】本発明の一実施例による分離膜モジュール駆動中、粘度調節による効果を示した図である。
【
図6】本発明の一実施例による駆動時間による反応液のpH変化に対する多重分離膜モジュール構成の影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
これを具体的に説明すると次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用できる。すなわち、本出願で開示された多様な要素のすべての組み合わせが本出願の範疇に属する。また、下記具体的な記述により、本出願の範疇が制限されるとは見られない。
【0011】
前記目的を達成するための、本出願の一つの態様は、炭酸含有ジアミノアルカン溶液を分離膜モジュールに通過させる段階を含む、炭酸含有ジアミノアルカン溶液から二酸化炭素を除去する方法を提供する。
【0012】
本出願の方法では、前記工程を通じて1当量以上の二酸化炭素を除去することにより、炭酸塩の形態ではなく、純粋な遊離ジアミノアルカンを提供することができる。
【0013】
このために、前記工程は、追加のジアミノアルカン精製工程と組み合わせて行われるが、これに制限されない。例えば、前記工程から得られた反応液を蒸留する段階をさらに行い、反応液中に存在する余分の二酸化炭素を除去し、より高純度のジアミノアルカンを提供することができるが、これに制限されず、当業者に公知となった他のジアミノアルカンの精製方法と組み合わせて行うことができる。
【0014】
また、本出願の方法は、分離膜モジュールを用いた二酸化炭素除去工程を行うのに先立ち、これに原料物質となる炭酸含有ジアミノアルカン溶液を準備する段階をさらに含むことができるが、これに制限されない。
【0015】
例えば、前記炭酸含有ジアミノアルカン溶液を準備する段階は、微生物の発酵、生物学的転換または二つの工程の両方を通じて行うことができるが、これに制限されない。
【0016】
本出願の方法において、前記ジアミノアルカンは1、4-ジアミノブタン、1、5-ジアミノペンタンまたは1、6-ジアミノヘキサンであってもよいが、これに制限されない。
【0017】
例えば、前記1,5-ジアミノペンタンは、リシンのジカルボキシル化反応により生成されることができ、具体的には、微生物を培養してリシンを生産した後、前記培養物にジカルボキシル化酵素または前記酵素が導入された微生物を用いた酵素転換反応により1,5-ジアミノペンタン溶液を得ることができる。または、リシン生産微生物にジカルボキシル化酵素を導入して1、5-ジアミノペンタン生産微生物を製造し、前記微生物を培養して1、5-ジアミノペンタン溶液を得ることができる。それ以外にも公知となった多様な方法を利用して1、5-ジアミノペンタン溶液を得ることができる。これと同様に、1、4-ジアミノブタンまたは1、6-ジアミノヘキサン溶液も1、4-ジアミノブタン生産微生物または1、6-ジアミノヘキサン生産微生物を培養して準備することができ、それ以外に公知となった多様な方法を用いることができる。以上のように、微生物発酵または酵素転換反応により準備されたジアミノアルカン溶液は炭酸塩を含有することができる。
【0018】
一例として、前記ジアミノアルカン中の代表的な物質であるカダベリン、すなわち、1、5-ジアミノペンタンに対して本出願の方法を適用し、単純加熱により脱炭酸反応を行うことに比べ、低温の条件で優れた効率での脱炭酸反応が可能であり、ひいては、1、4-ジアミノペンタンに対しても類似したパターンの脱炭酸反応が可能であることが確認できた。したがって、前記1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン及び1,6-ジアミノヘキサンは、全て類似の二酸化炭素の吸脱着特性を有することが知られているところ、本出願の方法はこれらの物質のすべてに適用することができる。
【0019】
本出願の用語、「分離膜モジュール(membrane module)」は、分離膜、ハウジング、原料注入口(feed inlet)、濃縮排出口(concentrate outlet)及び透過排出口(permeate outlet)で構成された完全なユニットを指す。分離膜モジュールは、中空糸型(hollow Fiber)、平板型(flat sheet)または管状膜型(tubular membrane)を含む多様な分離膜形態(configations)を含むことができるが、これに制限されない。
【0020】
本出願の方法に使用可能な分離膜モジュールは、分離膜として多孔性及び疎水性の高分子膜を備えることが望ましい。このような分離膜としては、ポリスルホン(polysulfone;PSf)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidene fluoride;PVDF)またはポリプロピレン(polypropylene;PP)素材の中空糸膜を備えることができるが、これに制限されない。
【0021】
一例として、前記3種の高分子からなる互いに異なる仕様(specification)の中空糸膜を備えた分離膜モジュールを利用して同様な駆動条件で脱炭酸反応を行うことができる。また、その結果を比較して分離膜の素材に関係なく類似したパターン及び性能の脱炭酸反応を行うことができる。これは、前記脱炭酸反応で速度決定段階が分離膜の物質伝達抵抗よりは、ジアミノアルカンと二酸化炭素との間の結合が切れる遅い反応速度が支配的であることを示すことであり、したがって、前記分離膜モジュールを構成するにおいて、高分子の種類は脱炭酸性能にそれほど影響を及ぼさないため、素材の特性に制限されず、駆動条件における安定性を考慮して広い範囲で選択できることを示唆する。
【0022】
本出願の方法において、前記溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は、反応液を10~60cm/sの流速で注入して行うことができる。例えば、15~55cm/s、より具体的には20~55cm/s、30~55cm/sまたは32~53cm/sの流速で反応液を注入して行うことができるが、これに制限されない。例えば、Feed流速が10cm/s未満の場合、遅延した反応で希望する時間内に希望する水準の脱炭酸効率を達成し難いことがあり、流速が60cm/sを超過する場合には分離膜に過負荷され、むしろ脱炭酸効率が低下したり分離膜の耐久性を阻害する可能性がある。
【0023】
本出願の方法において、前記溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は1~3barの圧力差で行うことができるが、これに制限されない。前記圧力差は、分離膜モジュールの上部からFeed反応液に圧力を加えることにより達成できる。例えば、前記圧力差は1.2~3bar、より具体的には1~2.5bar、1.2~2.5barまたは2~2.5barの圧力差で行うことができるが、これに制限されない。例えば、圧力差が低すぎる場合には駆動力が不足して物質伝達速度が遅くなるため、反応効率が低下することがある。反面、圧力差が高いほど、より高い脱炭酸効率を期待できるが、高圧力差により分離膜に無理が生じるため、膜の耐久性が低下し、長期間安定性が阻害されることがあり、圧力差を付加するためにポンプなど追加の装備を備えなければならないため、経済的な負担が発生することがある。
【0024】
または分離膜モジュールの下部に1×103~1×102torrの真空を加えることにより脱炭酸を誘導することもできるが、これに制限されない。
【0025】
本出願の方法において、前記溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は80~110℃で行うことができる。例えば、前記分離膜モジュールに通過させる段階は85~110℃、具体的に85~100℃、より具体的に87~95℃で行うことができるが、これに制限されない。駆動温度が80℃未満の場合、脱炭酸反応が不完全で十分な二酸化炭素除去ができないことがあり、110℃を超過する高温で駆動時には過度なエネルギー消耗を引き起こすだけでなく、膜濡れ現象及び/または高分子分離膜自体に損傷させて欠陥を誘発することがある。
【0026】
本出願の方法において、前記溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は30分~10時間行うことができる。例えば、前記分離膜モジュールに通過させる段階は60分~8時間、具体的には1~5時間、より具体的には2~5時間、または3~5時間の間行うことができるが、これに制限されない。例えば、反応時間が30分以内で短い場合、十分な反応が行われないため、希望する水準まで二酸化炭素を除去することができず、反応時間が10時間を超過する場合、一定時間以降にはこれ以上の脱炭酸反応は起きないため、不必要な時間及び/またはエネルギー消耗を伴う。
【0027】
本出願の方法は、前記二酸化炭素除去工程以降の反応液のpHが10以上であり、具体的には10.5以上まで増加したことが特徴である。反応液のpHの上昇は反応液から二酸化炭素が除去されたことを示すことであり、分離膜モジュールを用いる前記分離膜モジュールに通過させる段階を通じて1当量に相応する二酸化炭素を除去することができ、これにより反応液は10以上のpH値を有することがある。
【0028】
本出願の方法において、前記溶液を分離膜モジュールに通過させる段階は、これを行う途中に水を追加する段階をさらに含むことができる。前記第1段階は、80℃以上の増加した温度で行われるところ、反応液中に含まれた水が蒸発して形成された気体である水蒸気が二酸化炭素と共に除去され、経時によって反応液の粘度が高くなり、これにより物質伝達が低下して反応率が低下することがある。したがって、これを解消するために、反応液の粘度を低めて物質伝達を円滑にするように反応を進行する途中に反応液にさらに水を供給することができる。この時に供給する水は、反応液から気化して除去された水蒸気を凝縮させて反応液に再び注入できるが、これに制限されない。
【0029】
一例として、駆動時間が経過するにつれてpHの増加率が減少しながら一定水準に収束したことが駆動開始後4時間で水を再供給した時、再び急激なpHの上昇を示すことはもちろん、7時間以降まで時間が経過しても持続的なpHの上昇を示すことがある。
【0030】
本出願の方法において、前記分離膜モジュールは、膜接触面を増加させるために、互いに平行に連結された2以上の分離膜を備えることができる。前記膜接触面は、脱炭酸効率を決定する一つの因子であり得る。
【0031】
一例として、2個の分離膜を単純並列連結して構成したモジュールを使用することにより、同様の条件ではるかに優れた脱炭酸性能を達成することができる。これは、性能の向上だけでなく、分離膜を並列連結する単純な方法に反応スケールを拡張して大規模な生産に適用できることを示す。
【0032】
本出願の方法において、前記溶液を分離膜モジュールに通過させる段階以降、前記溶液を蒸留して残りの炭酸塩を除去する段階、前記溶液内の不純物を除去する段階または両方をさらに実行することができる。前記追加の工程を通じてより高純度のジアミノアルカンを提供することができる。この時、前記の不純物除去工程も蒸留法を利用して行うことができるが、これに制限されず、当業界において公知となった方法を制限なく使用して行うことができる。
【0033】
本出願の他の一つの形態は、前述の方法により二酸化炭素を除去した溶液からジアミノアルカンを分離する段階を含む、ジアミノアルカンを製造する方法を提供する。
【0034】
本出願によるジアミノアルカンを製造する方法において、前記ジアミノアルカンを分離する段階は、当業界において公知となったジアミノアルカンの分離及び/又は精製方法を制限なく使用して行うことができる。
【0035】
以下、下記実施例により本出願を更に詳しく説明する。ただし、下記実施例は、本出願を例示するためのものに過ぎず、本出願の範囲がこれらのみに限定されるものではない。
【0036】
製造例1:微生物発酵及び酵素転換反応による炭酸含有1、5-ジアミノペンタン溶液の製造
L-リシンを生産する微生物を培養してL-リシンを含む発酵液を準備した。前記発酵液から菌体を除去し、酵素転換反応を通じて1、5-ジアミノペンタンを含有する溶液を製造した。この時、前記溶液は炭酸塩を40~60%含有することを確認した。
【0037】
実施例1:分離膜素材及びモジュールの選定
1、5-ジアミノペンタン反応液からの効率的な脱炭酸のための分離膜素材としては、高い多孔性や疎水性、そして熱的・化学的安定性が要求されるところ、そのための候補群としてポリスルホン(polysulfone;PSf)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidene fluoride;PVDF)及びポリプロピレン(polypropylene;PP)基盤の中空糸膜(hollow fiber)モジュールを準備した。前記各分離膜モジュールの主要特性を下記表1に整理した。
【0038】
【0039】
【0040】
実施例2:分離膜素材及び駆動条件による脱炭酸性能
反応液のpHは溶液内に残存する炭酸イオンの量を決定できる間接的な指標であり、反応による溶液のpH増加は溶液中の炭酸イオンの減少、すなわち、反応により炭酸イオンが除去されたことを示し、したがって、脱炭酸工程後の反応液のpHが高いほど、より優れた脱炭酸性能を有することを意味する。リシン発酵液から準備された1,5-ジアミノペンタン反応液1,000g(反応液の初期pH=8.30)をフラスコに入れ、それぞれの分離膜モジュールを連結してFeed流速、圧力差、及び駆動温度を変化させて各条件で一定時間反応させた後、pHを測定し、各駆動条件及び測定された結果を下記表2に示す。この時に用いられた反応装置の構造を
図1に概略的に示した。
【0041】
【0042】
前記の表2に示すように、各素材の分離膜モジュールを用いた場合、Feed流速、圧力差及び駆動温度が増加することにより脱炭酸以降の反応液のpHはより高くなった。これは、Feed流速、圧力差及び駆動温度が増加するにつれて液相-気相間の物質移動が増加することを示すことである。一方、同一な駆動条件(Feed流速53 cm/s、圧力差2.4bar、駆動時間5時間及び駆動温度90℃)の下では分離膜の素材に関係なく類似した脱炭酸効果、すなわち、類似したpH値を示すが(PSf、PVDF及びPPに対してそれぞれ10.96、11.01及び10.94)、これは、前記脱炭酸反応で速度決定段階が、分離膜の物質伝達抵抗よりは1、5-ジアミノペンタンと二酸化炭素との間の結合が切れる遅い反応速度が支配的であることを示すことである。これは、経時によっても同一な傾向を示した。
図3に示すように、反応時間が経過するにつれて反応液のpHは増加し、駆動時間及び条件が同一の場合、分離膜モジュールの素材に関係なく類似した値を示した。
【0043】
実施例3:PSf素材、分離膜モジュール駆動時における駆動温度による脱炭酸性能
前記実施例2に示すように、テストしたすべての分離膜モジュールは、素材の影響なしに同一の条件ではすべて類似した脱炭酸性能を示した。これに、これら素材のうち、ガラス転移温度(glass transition temperature、Tg)が最も高く、熱的安定性に優れたPSf素材の分離膜モジュールを温度による脱炭酸性能評価に使用した。具体的な実験は、異なる温度でFeed流速53cm/s及び圧力差2.4barの駆動条件で5時間まで反応を行いながら、1時間毎にpHを測定し、その結果を
図3に示した。
【0044】
図3に示すように、すべての温度条件で駆動時間が増加するにつれてpHが増加し、駆動温度が高いほど、同一の反応時間に、より高いpHを示し、これは、より優れた脱炭酸性能を示すことを意味する。しかし、過度な高温で長期間駆動する場合、膜濡れ現象及び/又は分離膜モジュールの欠陥の生成など付随的な問題が発生し得るため、適切な温度で駆動時間を調節して目的とする脱炭酸性能を達成することが必要である。例えば、
図3を参照すると、90℃で4時間反応させた反応液は110℃で2時間反応させた反応液と類似したpHを示したところ、これは、駆動温度と時間を適切に調節して希望するレベルの脱炭酸性能を達成することが可能であることを確認した。
【0045】
実施例4:反応液中のジアミノアルカンの種類による脱炭酸性能
1、5-ジアミノペンタンの代わりに1、4-ジアミノブタンを含有する二酸化炭素が溶解された反応液についてPSf素材の分離膜モジュールを適用して温度による脱炭酸の性能を評価した。具体的には、90℃でFeed流速53cm/s及び圧力差1.2barの駆動条件で5時間まで反応を行いながら、1時間毎にpHを測定し、その結果を
図4に示した。
【0046】
図4に示すように、反応液のpHは反応開始後1時間以内に10以上に速く増加した。これは、
図3に示された1、5-ジアミノペンタンに対する結果と比較して類似の水準の脱炭酸性能を示すことで、本出願の分離膜モジュールを用いた炭酸塩除去工程をジアミンアルカンの種類に関係なく適用できることを示すことである。
【0047】
実施例5:駆動中の粘度調節による効果
分離膜モジュールを用いた脱炭酸駆動の際、100℃に近い高温で反応を行うところ、駆動時間が増加するにつれて二酸化炭素だけでなく、一部の水が蒸発して水蒸気の形態で共に除去されることにより、反応液の粘度が増加し、これにより脱炭酸効率が減少することが観察された。これを解決するために、所定の時間が経過した後、反応液に水を補充する段階をさらに行い、連続的に反応を進行しながらpHの変化を観察し、その結果を
図5に示した。
【0048】
図5に示すように、同一の条件(Feed流速53cm/s、圧力差2.4bar、駆動温度90℃)で駆動時、経時につれて低くなったpHの増加率が反応4時間経過後、水の補充時に急激に回復されることが示され、7時間まで駆動時間を延長しても継続的なpHの上昇を示した。これは、水の補充により反応液の粘度が低くなり、これにより物質の伝達が容易になるためであると判断される。この時、補充のための水は、反応液から蒸発して排出された水蒸気を冷却して再供給することができる。
【0049】
実施例6:2段並列設計されたPSf素材分離膜の構成による脱炭酸性能
同一の2つのPSf素材分離膜モジュールを2段並列連結して使用することにより、脱炭酸性能に対する接触面増加効果を評価した。Feed流速53cm/s、圧力差2.4bar、駆動温度90℃の条件で5時間行い、1時間毎にpHを測定し、その結果を
図6に示した。
【0050】
図6に示すように、1段分離膜モジュールを使用した場合に比べて平行に連結された2段分離膜モジュールを使用する場合、より速い時間内に反応液のpHを増加させられることを確認した。これは、単純並列連結する簡単な方法により前記分離工程をスケールアップしたり、効率を向上させることを示すことである。
【0051】
比較例1:単純な温度上昇を用いた脱炭酸工程
単純バッチ(batch)式システムと分離膜工程の脱炭酸性能を比較するために、フラスコに1、5-ジアミノペンタン反応液1,000gを入れ、膜接触器との連結なしに単に90℃まで加熱した。24時間まで維持しながら、5時間及び24時間の時点で反応液のpHを測定した結果、それぞれ9.90及び10.15のpH値を示した。これは、単純なバッチ式脱炭酸システムに比べて分離膜モジュールを用いる本出願の脱炭酸工程を用いる場合、同一の駆動温度及び駆動時間に、より優れた脱炭酸性能を発揮するため(PSf、PVDF及びPP分離膜を使用して同一条件で5時間駆動時、反応液のpHはそれぞれ10.96、11.01及び10.94)、より低いFeed流速、より低い圧力差、より低い駆動温度及び/又は短い駆動時間で同等以上の脱炭酸効果を達成できるため、エネルギーの経済的な工程遂行が可能であることを示す。
【0052】
脱炭酸工程中のpH変化だけでなく、より詳細な脱炭酸率及び物質収支(mass balance)を計算するために、脱炭酸後の反応液を液体クロマトグラフィーで定量分析し、その結果を下記表3に示した。表3では、前記比較例1のバッチ式脱炭酸工程を24時間行った結果を、前記実施例によりPPモジュールを使用して脱炭酸工程を行うが、Feed流速、圧力差及び/または駆動温度を変化させながら5時間反応させたCase1~3の結果と比較して示した。下記表3に示すように、バッチ式システムに比べて分離膜モジュールを用いる場合、1/5程度の短い駆動時間及び同等またはより低い駆動温度で行っても、1、5-ジアミノペンタンの損失及び/または炭酸塩残存量が減少することはもちろん、2.8~3.7倍の顕著に高い脱炭酸率を示した。
【0053】
【0054】
Case 1:PPモジュール、Feed 4cm/s、圧力差1.2bar、駆動時間5h、駆動温度80℃,
Case 2:PPモジュール、Feed 16cm/s、圧力差1.2bar、駆動時間5h、駆動温度80℃,
Case 3:PPモジュール、Feed 53cm/s、圧力差2.4bar、駆動時間5h、駆動温度90℃,
比較例1:バッチ式脱炭酸、駆動時間24h、駆動温度90℃。
【0055】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は前記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。