(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル系樹脂組成物、該組成物を用いた液晶ポリエステル系フィルム、該フィルムの製造方法、該フィルムを用いた金属ラミネートフィルム、回路基板
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20250310BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20250310BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20250310BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20250310BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250310BHJP
H05K 1/05 20060101ALI20250310BHJP
B29C 48/32 20190101ALI20250310BHJP
【FI】
C08L67/04
B32B15/09 Z
B32B27/36
C08L79/08 B
H05K1/03 610M
H05K1/05 A
B29C48/32
(21)【出願番号】P 2023503934
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2022008999
(87)【国際公開番号】W WO2022186310
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2021035077
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】多田 修悟
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 工也
(72)【発明者】
【氏名】安部 隆志
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110191908(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102352259(CN,A)
【文献】特開2012-097382(JP,A)
【文献】特開昭64-001758(JP,A)
【文献】特開2021-004330(JP,A)
【文献】特開2004-175995(JP,A)
【文献】特開2007-197714(JP,A)
【文献】特開昭63-215769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08L 79/08
B32B 15/09
B32B 27/36
H05K 1/03-1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性液晶ポリエステル(A)と、非晶性ポリマー(B)と、を含む液晶ポリエステル系樹脂組成物であって、
前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)が、
全構成単位に対してp-ヒドロキシ安息香酸
が35~85モル%と、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
が2~25モル%と、
テレフタル酸が0~40モル%と、を構成単位として含む融点が300℃以上の樹脂であり、
前記非晶性ポリマー(B)がポリエーテルイミドを主成分とし、
前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)と前記非晶性ポリマー(B)との配合割合が、(A):(B)=90.0~99.5重量%:0.5~10.0重量%であ
り、前記樹脂組成物がインフレーション押出成形用であることを特徴とする液晶ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする
インフレーション押出製膜の液晶ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
フィルムの流れ方向の引張強度をF(MD)、フィルム幅方向の引張強度F(TD)とするとき、0.75≦F(TD)/F(MD)≦1.25であることを特徴とする請求項
2記載の
インフレーション押出製膜の液晶ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂組成物をインフレーション押出成形法により製膜することを特徴とする請求項
1記載の液晶ポリエステル系フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項
2又は
3記載の液晶ポリエステル系フィルムの片面又は両面に金属層がラミネートされていることを特徴とする金属ラミネートフィルム。
【請求項6】
少なくとも1つの導体層と、請求項
2又は
3記載の熱可塑性液晶ポリエステル系フィルムとを備える回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性液晶ポリエステル(以下、熱可塑性液晶ポリエスエル、或いは液晶ポリエステルと称する)を主成分とする液晶ポリエステル系樹脂組成物に関する。また該樹脂組成物を用いた液晶ポリエステル系フィルム、及び該フィルムの製造方法、該フィルムを用いた金属ラミネートフィルム、回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの無線通信分野の発展は目覚ましい。大容量の通信を遅滞なく行うためにミリ波の利用が進んでいるが、ミリ波領域では誘電損失による信号劣化の影響が大きい為、回路基板の絶縁材料として誘電損失の少ないものを選定する必要がある。
伝送損失が少ない樹脂の代表としてフッ素系樹脂があり、ポリテトラフルオロエチレン等が利用されている。しかしながら当該樹脂は、耐熱性、耐湿性、耐薬品性に優れているものの、硬すぎて回路基板製造時の加工性が悪いという問題があった。またフッ素樹脂そのものは優れた高周波特性、耐湿性をもつが、寸法安定性を高めるために用いられるガラスクロス等の影響により、基板全体の高周波特性および耐湿性は低い。
【0003】
伝送損失が少ない材料として、p-ヒドロキシ安息香酸等を基本構造とし、これに各種成分を直線状にエステル結合させた熱可塑性液晶ポリエステルも知られている。液晶ポリエステルの持つ優れた電気絶縁性と誘電特性が利点となり、液晶ポリエステルフィルムは回路基板用途に採用が進んでいる。特に、p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とテレフタル酸とを構成単位として含む液晶ポリエステルは、融点が300℃を超え、鉛フリーはんだのリフローも可能であることから、プリント回路基板用途に適する。
しかしながら液晶ポリエステルは、分子鎖が流れ方向に非常に配向しやすい性質の為、単純にフィルム化するだけでは使用できるレベルには達しない。
【0004】
特許文献1は、全芳香族コポリエステル(液晶ポリエステル)およびポリエーテルイミドからなることを特徴とする芳香族系樹脂組成物に関する発明(特許文献1[請求項1])である。全芳香族ポリエステルの機械的特性、電気的特性を、ポリエーテルイミドにより向上させることを特徴とする。また特許文献1では全芳香族ポリエステルとして、p-ヒドロキシ安息香酸とテレフタル酸と4、4’-ジヒドロキシビフェニルとを構成単位として含む液晶ポリエステルが提案されている(特許文献1[請求項2])。しかしながら特許文献1の実施例では、該樹脂組成物をプレス成形により試験片とすることが開示されているだけで、連続的にフィルム状に成形することについては何ら開示されていない。
【0005】
特許文献2は、面方向の熱線膨張係数に異方性がなく、かつ厚さ方向の熱線膨張係数の小さい液晶ポリマー(液晶ポリエステル)フィルムの提供を課題とする。特許文献2では、液晶ポリマーと、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート及びポリフェニレンスルファイドの中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂とのブレンド体から形成されたフィルムであって、該ブレンド体における熱可塑性樹脂の割合が25~55重量%であり、該フィルムのMDとTDの両方向の熱線膨張係数が5~25ppmであり、且つ、フィルムの厚さ方向の熱線膨張係数が270ppmを超えないことを特徴とする液晶ポリマーブレンドフィルムが提供される(特許文献2[請求項1])。
【0006】
特許文献3は、光学異方性の溶融層を形成し得る熱可塑性液晶ポリマー(液晶ポリエステル)の優れた特性を損なうことなく、端裂強度の向上を図ることを目的とした発明である。特許文献3には、光学的異方性の溶融層を形成し得る熱可塑性ポリマー(液晶ポリエステル)と、非晶性ポリマーとから成るポリマーアロイ(特許文献3[請求項1])、並びに該ポリマーアロイから成るフィルム(特許文献3[請求項2])が開示されている。
そして非晶性ポリマーとしては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリカーボネート、ポリエチレンイソフタレート、ポリアリレートが例示されている(特許文献3[0026])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭64-1758号公報
【文献】特開2004-175995号公報
【文献】特開2000-290512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱可塑性樹脂からフィルムを製膜する方法として、Tダイ押出成形法やインフレーション押出成形法が広く用いられている。特許文献2は、実施例においてTダイ押出成形法によりフィルムを製膜しているが、上述したように、液晶ポリエステルは分子鎖が流れ方向に非常に配向しやすい性質の為、Tダイ押出成形法にてフィルムを製膜すると、得られる液晶ポリエステル系フィルムの物性が流れ方向(フィルムの長さ方向)と、それと垂直な方向(フィルムの幅方向)とで大きく異なるという問題があった。特許文献2ではブレンド樹脂により熱線膨張係数(CTE)の異方性は改善されているが、引張強度などの物性は十分に改善されてはいない。
【0009】
特許文献3では、実施例においてインフレーション押出成形法によりフィルムを製膜している。インフレーション押出成形法の場合は、ブローアップ比を調製することにより分子鎖の配向をある程度制御することができる。しかしながら融点が300℃を超える液晶ポリエステルは、融点付近まで加熱すると溶融張力が急激に低下する為、インフレーション押出形成法を用いると、バブルが不安定になったり、穴あきが発生したりする。
本発明者らは、インフレーション押出成形法における製膜性を改善する為に、液晶ポリエステルにポリアリレート等の非晶性ポリマーを添加したところ、ダイスの出口部分に「目ヤニ」と呼ばれる溶融樹脂のカスが付着するという問題が発生した。目ヤニの付着は、フィルム表面の平滑性を低下させたり、フィルムに穴を開けたりする原因となる。
【0010】
本発明は、インフレーション押出成形法により製膜可能な樹脂組成物であって、製膜時にダイスの出口部分に目ヤニが発生し難い液晶ポリエステル系樹脂組成物の提供を課題とする。更に該樹脂組成物を用いて、物性の異方性が小さく、外観欠点もない液晶ポリエステル系フィルムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、以下の液晶ポリエステル系樹脂組成物が提供される。
[1] 熱可塑性液晶ポリエステル(A)と、非晶性ポリマー(B)と、を含む液晶ポリエステル系樹脂組成物であって、前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)が、p-ヒドロキシ安息香酸と、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸と、を構成単位として含む融点が300℃以上の樹脂であり、前記非晶性ポリマー(B)がポリエーテルイミドを主成分とし、前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)と前記非晶性ポリマー(B)との配合割合が、(A):(B)=90.0~99.5重量%:0.5~10.0重量%であることを特徴とする液晶ポリエステル系樹脂組成物。
[2] 前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)が、更にテレフタル酸を構成単位として含むことを特徴とする[1]記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物。
[3] 前記樹脂組成物がインフレーション押出成形用であることを特徴とする[1]又は[2]のいずれかに記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物。
【0012】
更に、以下の液晶ポリエステル系フィルムが提供される。
[4] [1]乃至[3]のいずれかに記載の樹脂組成物からなることを特徴とする液晶ポリエステル系フィルム。
[5] フィルムの流れ方向の引張強度をF(MD)、フィルム幅方向の引張強度F(TD)とするとき、0.75≦F(TD)/F(MD)≦1.25であることを特徴とする[4]記載の液晶ポリエステル系フィルム。
【0013】
更に、以下の液晶ポリエステル系フィルムの製造方法、金属ラミネートフィルム、回路基板が提供される。
[6] インフレーション押出成形法により製膜することを特徴とする[4]又は[5]記載の液晶ポリエステル系フィルムの製造方法。
[7] [4]又は[5]記載の液晶ポリエステル系フィルムの片面又は両面に金属層がラミネートされていることを特徴とする金属ラミネートフィルム。
[8] 少なくとも1つの導体層と、[4]又は[5]記載の熱可塑性液晶ポリエステル系フィルムとを備える回路基板。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物は、主成分である液晶ポリエステル(A)の融点が300℃を超える為、はんだリフロー性を備える。また非晶性ポリマー(B)を含むためインフレーション押出成形法により、安定して製膜することができる。更に非晶性ポリマーの主成分がポリエーテルイミドである為、押出成形しても目ヤニが発生することがない。よって、本発明の樹脂組成物はインフレーション押出成形の用途に適する。
本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、目ヤニが発生し難い樹脂組成物からなる為、表面平滑性に優れる。特にインフレーション押出成形法により製膜されたフィルムは、物性の異方性も改善されている。よって、本発明の液晶ポリエステル系フィルムと金属層とを貼り合わせて得られる金属ラミネートフィルムは、高速通信用途に適した回路基板用の積層板等の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0016】
<熱可塑性液晶ポリエステル(A)>
本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物は、熱可塑性液晶ポリエステル(A)と、非晶性ポリマー(B)とを含む樹脂組成物から成る。
熱可塑性液晶ポリエステルとは、溶融異方性を示す液晶ポリエステル(光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリエステル)である。溶融異方性の性質は直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。具体的には、溶融異方性は、偏光顕微鏡(オリンパス(株)製等)を使用し、ホットステージ(リンカム社製等)にのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察することにより確認できる。溶融時に光学的異方性を示す液晶性の樹脂は、光学的に異方性であり、直交偏光子間に挿入したとき光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、例えば溶融静止液状態であっても偏光が透過する。
【0017】
本発明の樹脂組成物に用いられる熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、熱可塑性液晶ポリエスエルの中でも、融点が300℃を超える樹脂である。融点が300℃を下回るとはんだリフロー性に劣る為、プリント回路基板などの用途に用いると、加工方法が制限されることとなる。詳しくは、p-ヒドロキシ安息香酸と、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とを主たる構成単位とする液晶性芳香族ポリエステルである。好ましくは更に、テレフタル酸を構成単位とする。これら構成単位の重合割合は特に限定されるものではないが、例えば、全構成単位に対してp-ヒドロキシ安息香酸が35~85モル%(好ましくは40~70モル%)、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が2~25モル%(好ましくは3~10モル%)、テレフタル酸が0~40モル%(好ましくは13~30モル%)であるとよい。
【0018】
熱可塑性液晶ポリエステル(A)の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いてサンプルを10℃/分の速度で昇温して完全に溶融させた後、溶融物を10℃/分の速度で30℃まで冷却し、再び10℃/分の速度で昇温した時に現れる吸熱ピークの位置を融点とする。
【0019】
また本発明の液晶ポリエステル(A)は、その融点が300℃を下回らない限りにおいて、芳香族又は脂肪族ジカルボン酸、芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸などの成分を含んでいてもよい。具体的には、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、エチレンテレフタレート等が挙げられ、これらの1種或いは2種以上を構成単位とすることができる。
【0020】
また上記の構成単位の重合においては、上記の構成単位に加えて、上記の構成単位に対するアシル化剤や、酸塩化物誘導体として末端を活性化したモノマーを併用できる。アシル化剤としては、無水酢酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0021】
<非晶性ポリマー(B)>
非晶性ポリマーとは、分子が規則正しく並んだ部分(結晶部分)を持たない樹脂で、融点を持たない。本発明の樹脂組成物に用いられる非晶性ポリマー(B)は、ポリエーテルイミドを主成分とする。ポリエーテルイミドは、エーテル結合とイミド結合とを有する樹脂で、一般式(1)記載のポリエーテルイミドが広く知られている。
【0022】
【0023】
ポリエーテルイミドは、広範囲の周波数、温度帯で安定した電気絶縁性を示す。また広い温度領域で機械的性質が安定する。更に一般的な非晶性ポリマーは薬品に弱いが、ポリエーテルイミドは酸やアルカリに触れても強度を維持することができる。本発明ではポリエーテルイミドのこのような性質に着目し、融点の高い液晶ポリエステル(A)の加工性を改善する成分として利用する。
尚、非晶性ポリマー(B)の主成分はポリエーテルイミドであるが、本発明の効果を奏する範囲において他の非晶性ポリマーを含んでいてもよい。非晶性ポリマー(B)におけるポリエーテルイミドの配合割合は、70重量%以上であることが望ましく、更には80重量%以上であることが好ましく、特に90重量%以上であることが好ましい。非晶性ポリマー(B)におけるポリエーテルイミドの配合割合が、上記範囲よりも少ないと、インフレーション押出成形法により製膜する際に、ダイスの出口部分に目ヤニが発生する。
【0024】
<液晶ポリエステル系樹脂組成物>
本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物は、上述した液晶ポリエステル(A)と非晶性ポリマー(B)とを、(A):(B)=90.0~99.5重量%:0.5~10.0重量%の割合で含む。好ましくは(A):(B)=92.0~99.0重量%:1.0~8.0重量%の割合で含む。非晶性ポリマー(B)の配合割合が、上記範囲より多くても少なくても、液晶ポリエステル(A)のインフレーション押出成形法を改善することができず、安定した製膜を行うことができない。
【0025】
<液晶ポリエステル系フィルムの製造方法>
本発明では、上記樹脂組成物から成るフィルム、及び該フィルムの製造方法も提案する。本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、上述した液晶ポリエステル(A)と非晶性ポリマー(B)とを、公知の方法によりブレンドして製膜することにより得られる。
尚、本発明の樹脂組成物は非晶性ポリマー(B)の量が少ないので、安定した混練状態を提供する為に、製膜に先立ち、二軸式スクリュー混練設備を使用したり、混練部に逆流機構を備えたスクリューや、混練部の圧力、温度を高める工夫をしたスクリューを備えた混練設備を使用したりして、混練・造粒しておくことが望ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物はダイスの出口部分に目ヤニが発生することを抑制できるので、Tダイ押出成形法、インフレーション押出成形法等の押出成形法により製膜することが望ましい。これらの方法によると、工業的に連続して製膜できる。
しかしながら、フィルムの機械強度のバランスを考慮するとインフレーション押出成形法が特に有利である。Tダイ押出成形法の場合、延伸比を下げることにより、得られるフィルムの引張弾性率や引張強度の異方性(長さ方向と幅方向の差)をある程度解消することはできるが、安定した成形が行える延伸比においては十分に解消することが難しい。一方インフレーション成形法では、ブローアップ比(最終チューブ径と初期径の比)等を高めることにより、異方性が大きく解消される。
【0027】
インフレーション押出成形法によると、上述した樹脂組成物を環状スリットのダイを備えた溶融混練押出機に供給し、シリンダー設定温度を、通常280~400℃、好ましくは320~380℃に保持して溶融混練を行って、押出機の環状スリットから筒状の液晶ポリエステルフィルムを上方又は下方へ押し出す。環状スリットの間隔は、通常0.1~5mm、好ましくは0.2~2mmであり、環状スリットの直径は、通常20~1000mm、好ましくは25~600mmである。
溶融押出しされた筒状の溶融樹脂フィルムに、フィルムの流れ方向(MD)にドラフトをかけるとともに、この筒状溶融樹脂フィルムの内側から空気又は不活性ガス、例えば、窒素ガスを吹き込むにより、流れ方向と直角な方向(幅方向)(TD)にフィルムを膨張延伸させる。ここで、ブローアップ比(最終チューブ径と初期径の比)は、通常1.5~10.0である。流れ方向(MD)の延伸倍率(ドラフト比)は、通常1.5~40.0であり、この範囲内であると厚さが均一でしわのない高強度の液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。膨張延伸させたフィルムは、空冷又は水冷させた後、ニップロールを通過させて引き取る。
【0028】
尚、目ヤニの発生を抑制しながら、機械的強度の異方性を改善するためには、ブローアップ比は2.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましく、4.5以上であることが特に好ましい。ブロー比の上限は特に制限するものではないが、例えば、ブロー比は10.0以下である。また流れ方向(MD)の延伸倍率は1.5以上20以下が好ましく、1.5以上10以下がより好ましい。ブロー比と流れ方向の延伸倍率(ドラフト比)が、上述した範囲内であれば、分子配向の異方性が改善され、液晶ポリエステルフィルムに電気的な異方性が発生し難く、回路基板などの用途に好適に使用することができる。
【0029】
<液晶ポリエステル系フィル>
本発明の液晶ポリエステル系フィルムの厚みは、製膜性や機械特性の観点から、通常0.5~500μmであり、取扱い性の観点から1~300μmであることが好ましい。本発明の液晶ポリエステル系フィルムは表面平滑性に優れる為、後述する金属板との貼り合わせにおいて、精度の高い貼合を行うことができる。
また本発明の液晶ポリエステル系フィルムはフィルムの流れ方向(MD)と幅方向(TD)の異方性が低いものであることが好ましい。詳しくはフィルム流れ方向の引張強度F(MD)に対するフィルム幅方向の引張強度F(TD)(即ち、F(TD)/F(MD))が0.5以上1.5以下であることが好ましく、更に0.70~1.25、特に0.75以上1.20以下であることが好ましく、特に0.80以上1.10以下であることが好ましい。F(TD)/F(MD)が上述した範囲から外れると、フィルムの強度の異方性が大きく、ハンドリング性が悪化する。
【0030】
<金属ラミネートフィルム>
本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、これに金属層を積層して、金属ラミネートフィルムとして用いてもよい。金属層を積層するにあたって、液晶ポリエステル系フィルムの金属層を積層する面には、接着力を高めるため、コロナ放電処理、紫外線照射処理又はプラズマ処理を実施してもよい。
【0031】
本発明の液晶ポリエステル系フィルムに金属層を積層する方法としては、例えば、(1)液晶ポリエステル系フィルムを加熱圧着により金属箔に貼付する方法、(2)液晶ポリエステル系フィルムと金属箔とを接着剤により貼付する方法、(3)液晶ポリエステル系フィルムに金属層を蒸着により形成する方法が挙げられる。中でも、(1)の積層方法は、プレス機又は加熱ロールを用いて液晶ポリエステルフィルムの流動開始温度付近で金属箔と圧着する方法であり、容易に実施できることから推奨される。(2)の積層方法において使用される接着剤としては、例えば、ホットメルト接着剤、ポリウレタン接着剤が挙げられる。中でもエポキシ基含有エチレン共重合体が接着剤として好ましく使用される。
(3)の積層方法としては、例えば、イオンビームスパッタリング法、高周波スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、グロー放電法が挙げられる。中でも高周波スパッタリング法が好ましく使用される。
【0032】
金属層に使用される金属としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウムが挙げられる。タブテープ、回路基板用途では銅が好ましく、コンデンサー用途ではアルミニウムが好ましい。このようにして得られる金属ラミネートフィルムの構造としては、例えば、液晶ポリエステル系フィルムと金属層との二層構造、液晶ポリエステル系フィルム両面に金属層を積層させた三層構造、液晶ポリエステル系フィルムと金属層を交互に積層させた五層構造が挙げられる。なお、積層体には、高強度発現の目的で、必要に応じて、熱処理を行ってもよい。金属層の厚さは、特に制限するものではないが、例えば、1.5~1000μmが好ましく、2~500μmがより好ましく、5~150μmがさらに好ましく、7~100μmが特に好ましい。当該範囲よりも薄いと機械的強度に劣り、上記範囲より厚いとハンドリング性や加工性に劣る。
【0033】
<回路基板>
本発明の回路基板は、少なくとも1つの導体層と、少なくとも1つの絶縁体(または誘電体)層とを含んでおり、本発明の液晶ポリエステル系フィルムを絶縁体(または誘電体)として用いる限り、その形態は特に限定されず、公知または慣用の手段により、各種高周波回路基板として用いることが可能である。また、回路基板は、半導体素子(例えば、ICチップ)を搭載している回路基板(または半導体素子実装基板)であってもよい。
【0034】
本発明の回路基板に用いられる導体層は、例えば、少なくとも導電性を有する金属から形成され、この導体層に公知の回路加工方法を用いて回路パターンが形成される。導体層を形成する導体としては、導電性を有する各種金属、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウムまたはこれらの合金金属などであってもよい。また、前述した金属ラミネートフィルムの金属層部分に回路パターンを形成してもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の効果について実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。また、実施例における評価は以下の方法により行った。
[目ヤニの有無]
フィルムを製膜する際に、目視にて、ダイス出口に目ヤニが付着しているか確認する。目ヤニが付着していたものは有、付着していなかったものは無と評す。
[表面平滑性]
得られたフィルムの表面状態を目視にて確認する。表面が平滑であったものは〇、表面が僅かに荒れていたものは△、表面が非常に荒れていたものは×と評す。
[穴あき]
製膜時に、バブルの外観を目視にて確認する。バブルに穴あきが見られなかったものは〇、バブルに小さな穴が見られたが、製膜を引き続き行うことができたものは△、バブルに穴が発生し、製膜を連続できなかったものは×と評す。
[引張強度]
ASTM D882に準拠し、190mm×15mmの大きさに切断したサンプルを、オートグラフAGS-500NX(島津製作所製)を用いて引張速度12.5mm/分、チャック間距離を125mmとして測定した。測定温度は23℃である。尚、フィルムの流れ方向(長さ方向)(MD)と幅方向(TD)の双方を測定する。
【0036】
また、以下の実施例、比較例において用いた樹脂は以下のとおりである。
LCP:p-ヒドロキシ安息香酸と、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸と、テレフタル酸と、を構成単位として含む、融点が320℃の液晶ポリエステル(ポリプラスチックス社製 LAPEROS(登録商標)C950RX)
PEI:ポリエーテルイミド(SHPPジャパン合同会社製 SILTEM STM-1700)
PAR:ポリアリレート(ユニチカ社製 Uポリマー(登録商標) U-100)
PSU:ポリサルフォン(BASFジャパン社製 Ultrason(登録商標) S2010)
PPSU:ポリフェニレンサルフォン(BASFジャパン社製 Ultrason(登録商標) P3010)
PES:ポリエーテルサルフォン(BASFジャパン社製 Ultrason(登録商標) E2010)
【0037】
[実施例1]
LCP99重量%とPEI1重量%とをドライブレンドし、インフレーション押出成形法にて50μmの液晶ポリエステル系フィルムを製膜する。尚、ブローアップ比は5倍、フィルムの流れ方向(MD)の延伸倍率は2倍とした。得られたフィルムの製膜性、引張強度を表1に記す。
【0038】
[実施例2~4、比較例1~7]
液晶ポリエステル系樹脂組成物を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~4、比較例1~7の液晶ポリエステル系フィルムを得た。得られたフィルムの製膜性、引張強度を表1に記す。
【0039】
【0040】
実施例1~実施例4の液晶ポリエステル系フィルムは、製膜時に目ヤニの発生がなく、表面平滑性に優れていた。また穴あきも見られなかった。特に、ポリエーテルイミドの配合割合が1~5重量%である実施例1~3のフィルムは、引張強度比F(TD)/F(MD)が0.75を超えており、バランスが取れたものであった。特に実施例1、2のフィルムは引裂き強度の値も高く、機械物性に優れたフィルムであった。
一方、比較例4、5のフィルムはダイスの出口付近に目ヤニの発生が見られ、得られたフィルムは表面が大きく荒れたものであった。また比較例1、3、5、6、7のフィルムは、僅かであるが穴の空いている部分が見られた。比較例2のフィルムは大きな穴が発生し、製膜することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により得られる液晶ポリエステル系フィルムは、その優れた電気特性、寸法安定性や耐熱性等を活かし、モーター・トランスの電気絶縁用途、フレキシブル太陽電池の素子形成膜用途等にも利用されている。また表面保護フィルムや、音響分野における振動板においても利用できる。
本発明の金属ラミネートフィルムは、回路基板やコンデンサー、電磁波シールド材等に用いることもできる。本発明の回路基板は、各種伝送線路やアンテナ(例えば、マイクロ波またはミリ波用アンテナ)に用いられてもよく、また、アンテナと伝送線路が一体化したアンテナ装置に用いられてもよい。