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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20250310BHJP
   C08J 3/21 20060101ALI20250310BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20250310BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20250310BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20250310BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20250310BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20250310BHJP
   C08L 59/00 20060101ALI20250310BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
C08L101/00
C08J3/21 CEP
C08K7/02
C08L1/02
C08L9/00
C08L9/06
C08L23/00
C08L59/00
C08L77/00
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2023527950
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2022023510
(87)【国際公開番号】W WO2022260175
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2021097448
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022069690
(32)【優先日】2022-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】上野 功一
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-119081(JP,A)
【文献】特開2019-119868(JP,A)
【文献】特開2017-025338(JP,A)
【文献】特開2020-041076(JP,A)
【文献】特開2021-066789(JP,A)
【文献】特開2022-014203(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202909(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバー(但し、酸化処理パルプが解繊されて形成されたセルロース微細繊維、及びアニオン性基を含むセルロース繊維を除く。)と、樹脂と、熱分解開始温度が200℃超である液状ポリマーとを含む、樹脂組成物であって、
前記樹脂が、熱可塑性樹脂であり、
前記液状ポリマーが、液状ゴム(但し、前記セルロースナノファイバーと共有結合しているものを除く。)を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記液状ポリマーが、前記液状ゴムである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記液状ポリマーが、ジエン系ゴムを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記液状ポリマーが、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリイソプレン、及びポリクロロプレンからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記液状ポリマーの数平均分子量が、1,000~80,000である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記液状ポリマーの25℃での粘度が、100mPa・s~1,000,000mPa・sである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記液状ポリマーが、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体であり、共役ジエン単量体と結合した芳香族ビニル単量体の量が、5モル%~70モル%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記液状ポリマーのガラス転移温度が、-150℃~25℃である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記セルロースナノファイバーが、化学修飾セルロースナノファイバーである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記化学修飾セルロースナノファイバーが、アシル置換度0.1~2.0のアシル化セルロースナノファイバーである、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が、2nm~1000nmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記セルロースナノファイバーの熱分解開始温度が、250℃以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記液状ポリマーが、少なくとも、前記セルロースナノファイバーと前記樹脂との界面の一部に浸入した形態で存在している、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記樹脂組成物の250℃重量減少率が、1.5%以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記液状ポリマーの熱分解開始温度T1、及び前記セルロースナノファイバーの熱分解開始温度T2が、以下の関係:
(T1)≧(T2)
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
前記T1と前記T2との差T1-T2が、5℃以上である、請求項15に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びポリアセタール系樹脂からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項18】
前記液状ポリマーの熱分解開始温度T1、及び、前記熱可塑性樹脂の融点であるか又はガラス転移温度+70℃である温度T3が、以下の関係:
(T1)>(T3)
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項19】
前記熱可塑性樹脂が結晶性を有する熱可塑性樹脂であり、前記温度T3が前記熱可塑性樹脂の融点である、請求項18に記載の樹脂組成物。
【請求項20】
前記液状ポリマーの熱分解開始温度T1、及び、前記熱可塑性樹脂の融点であるか又はガラス転移温度+100℃である温度T4が、以下の関係:
(T1)>(T4)
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項21】
前記液状ポリマーの50℃における粘度η50と、前記熱可塑性樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmと、前記熱可塑性樹脂の融点+20℃における前記熱可塑性樹脂の溶融粘度ηrとが、以下の関係:
η50/ηTm≧20、且つ
1≦ηr/η50≦1000
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項22】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であり、
前記液状ポリマーの50℃における粘度η50と、前記ポリオレフィン系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
η50/ηTm≧20
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項23】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であり、
前記ポリオレフィン系樹脂の融点+20℃における前記ポリオレフィン系樹脂の溶融粘度ηrと、前記ポリオレフィン系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
ηr/ηTm≦50000
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項24】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアセタール系樹脂であり、
前記液状ポリマーの50℃における粘度η50と、前記ポリアセタール系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
η50/ηTm≧20
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項25】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアセタール系樹脂であり、
前記ポリアセタール系樹脂の融点+20℃における前記ポリアセタール系樹脂の溶融粘度ηrと、前記ポリアセタール系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
ηr/ηTm≦100000
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項26】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂であり、
前記液状ポリマーの50℃における粘度η50と、前記ポリアミド系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
η50/ηTm≧80
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項27】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂であり、
前記ポリアミド系樹脂の融点+20℃における前記ポリアミド系樹脂の溶融粘度ηrと、前記ポリアミド系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
ηr/ηTm≦50000
を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項28】
界面活性剤不含有である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項29】
前記液状ポリマー100質量部に対して分散助剤を0.1~50質量部含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
セルロースナノファイバーと、樹脂と、液状ポリマーとを含む混合物を加熱混練することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されているが、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多いことから、樹脂と各種フィラーとをコンポジットしたものが一般的に用いられている。近年、このようなフィラーとして、天然物由来材料であるセルロースナノファイバー(CNF)を使用することが検討されている。CNFは、優れた機械特性を有しながら環境への負荷が小さいという利点を有するが、その微細構造に起因して、乾燥状態では凝集し易いという性質があるため、安定分散が可能な分散液として製造される。例えば、セルロースナノファイバーを各種用途に適用する際には、上記分散液を樹脂と直接混合する場合と、当該分散液を一旦乾燥させた後、分散媒中に分散させ又は乾燥体のままで樹脂と混合する場合とがある。しかしセルロースナノファイバーにおいて、セルロース分子間の水素結合による凝集は極めて強固であることから、従来、セルロースナノファイバーの凝集を抑制するための手法が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、セルロースナノファイバーを凝集させること無く分散可能なセルロースナノファイバー用分散液として、(A)親水性セグメント及び疎水性セグメントを有し、数平均分子量が200~30000の水溶性ポリマーである表面処理剤、(B)ポリウレタン、及び水を含む分散液を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-063408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物に要求される特性は年々高度になっており、特に、樹脂組成物を成形してなる成形体には、近年、優れた機械特性のみならず、高い表面平滑性による加飾性及び美麗な外観も求められている。特許文献1に記載される技術は、特定の水溶性ポリマーとポリウレタンとを含む分散液によってセルロースナノファイバーの分散性を高めようとするものであるが、機械特性と、加飾性及び美観とが高度に両立された樹脂組成物の提供においては未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、機械特性と、加飾性及び美観とが高度に両立された樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の項目を包含する。
[1] セルロースナノファイバーと、樹脂と、熱分解開始温度が200℃超である液状ポリマーとを含む、樹脂組成物。
[2] 前記液状ポリマーが、液状ゴムである、上記項目1に記載の樹脂組成物。
[3] 前記液状ポリマーが、ジエン系ゴムを含む、上記項目1又は2に記載の樹脂組成物。
[4] 前記液状ポリマーが、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリイソプレン、及びポリクロロプレンからなる群から選択される1種以上である、上記項目1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記液状ポリマーの数平均分子量が、1,000~80,000である、上記項目1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 前記液状ポリマーの25℃での粘度が、100mPa・s~1,000,000mPa・sである、上記項目1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7] 前記液状ポリマーが、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体であり、共役ジエン単量体と結合した芳香族ビニル単量体の量が、5モル%~70モル%である、上記項目1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8] 前記液状ポリマーのガラス転移温度が、-150℃~25℃である、上記項目1~7のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9] 前記セルロースナノファイバーが、化学修飾セルロースナノファイバーである、上記項目1~8のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10] 前記化学修飾セルロースナノファイバーが、アシル置換度0.1~2.0のアシル化セルロースナノファイバーである、上記項目9に記載の樹脂組成物。
[11] 前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が、2nm~1000nmである、上記項目1~10のいずれかに記載の樹脂組成物。
[12] 前記セルロースナノファイバーの熱分解開始温度が、250℃以上である、上記項目1~11のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13] 前記液状ポリマーが、少なくとも、前記セルロースナノファイバーと前記樹脂との界面の一部に浸入した形態で存在している、上記項目1~12のいずれかに記載の樹脂組成物。
[14] 前記樹脂組成物の250℃重量減少率が、1.5%以下である、上記項目1~13のいずれかに記載の樹脂組成物。
[15] 前記液状ポリマーの熱分解開始温度T1、及び前記セルロースナノファイバーの熱分解開始温度T2が、以下の関係:
(T1)≧(T2)
を満たす、上記項目1~14のいずれかに記載の樹脂組成物。
[16] 前記T1と前記T2との差T1-T2が、5℃以上である、上記項目15に記載の樹脂組成物。
[17] 前記樹脂が熱可塑性樹脂である、上記項目1~16のいずれかに記載の樹脂組成物。
[18] 前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びポリアセタール系樹脂からなる群から選択される1種以上である、上記項目17に記載の樹脂組成物。
[19] 前記液状ポリマーの熱分解開始温度T1、及び、前記熱可塑性樹脂の融点であるか又はガラス転移温度+70℃である温度T3が、以下の関係:
(T1)>(T3)
を満たす、上記項目17又は18に記載の樹脂組成物。
[20] 前記熱可塑性樹脂が結晶性を有する熱可塑性樹脂であり、前記温度T3が前記熱可塑性樹脂の融点である、上記項目19に記載の樹脂組成物。
[21] 前記液状ポリマーの熱分解開始温度T1、及び、前記熱可塑性樹脂の融点であるか又はガラス転移温度+100℃である温度T4が、以下の関係:
(T1)>(T4)
を満たす、上記項目17~19のいずれかに記載の樹脂組成物。
[22] 前記液状ポリマーの50℃における粘度η50と、前記熱可塑性樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmと、前記熱可塑性樹脂の融点+20℃における前記熱可塑性樹脂の溶融粘度ηrとが、以下の関係:
η50/ηTm≧20、且つ
1≦ηr/η50≦1000
を満たす、上記項目17~21のいずれかに記載の樹脂組成物。
[23] 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であり、
前記液状ポリマーの50℃における粘度η50と、前記ポリオレフィン系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
η50/ηTm≧20
を満たす、上記項目17~22のいずれかに記載の樹脂組成物。
[24] 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であり、
前記ポリオレフィン系樹脂の融点+20℃における前記ポリオレフィン系樹脂の溶融粘度ηrと、前記ポリオレフィン系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
ηr/ηTm≦50000
を満たす、上記項目17~23のいずれかに記載の樹脂組成物。
[25] 前記熱可塑性樹脂が、ポリアセタール系樹脂であり、
前記液状ポリマーの50℃における粘度η50と、前記ポリアセタール系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
η50/ηTm≧20
を満たす、上記項目17~22のいずれかに記載の樹脂組成物。
[26] 前記熱可塑性樹脂が、ポリアセタール系樹脂であり、
前記ポリアセタール系樹脂の融点+20℃における前記ポリアセタール系樹脂の溶融粘度ηrと、前記ポリアセタール系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
ηr/ηTm≦100000
を満たす、上記項目17~22及び25のいずれかに記載の樹脂組成物。
[27] 前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂であり、
前記液状ポリマーの50℃における粘度η50と、前記ポリアミド系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
η50/ηTm≧80
を満たす、上記項目17~22のいずれかに記載の樹脂組成物。
[28] 前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂であり、
前記ポリアミド系樹脂の融点+20℃における前記ポリアミド系樹脂の溶融粘度ηrと、前記ポリアミド系樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmとが、以下の関係:
ηr/ηTm≦50000
を満たす、上記項目17~22及び28のいずれかに記載の樹脂組成物。
[29] 界面活性剤不含有である、上記項目1~28のいずれかに記載の樹脂組成物。
[30] 前記液状ポリマー100質量部に対して分散助剤を0.1~50質量部含む、上記項目1~29のいずれかに記載の樹脂組成物。
[31] 上記項目1~30のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、
セルロースナノファイバーと、樹脂と、液状ポリマーとを含む混合物を加熱混練することを含む、方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、機械特性と、加飾性及び美観とが高度に両立された樹脂組成物及びその製造方法が提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の例示の態様(以下、本実施形態ともいう。)について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。なお本開示の特性値は、特記がない限り、本開示の[実施例]の項に記載される方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される値である。
【0010】
≪樹脂組成物≫
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、セルロースナノファイバーと、樹脂と、液状ポリマーとを含む。液状ポリマーは、一態様において熱分解開始温度200℃超を有する。液状ポリマーは、液状であることから非液状材料と比べてセルロースナノファイバー凝集抑制能が良好である傾向があるとともに、ポリマーであることから非ポリマー材料と比べて耐熱性が良好である傾向がある。セルロースナノファイバーと樹脂とを含む樹脂組成物に液状ポリマーを含有させることは、当該液状ポリマーによる高いセルロースナノファイバー凝集抑制能と、高い耐熱性の寄与により、樹脂組成物の加工工程における分解ガス等の発生を抑制する点で有利である。このような分解ガス等の発生抑制は、樹脂組成物の表面粗さ低減による、加飾性及び美観の向上に有利である。
【0011】
液状ポリマーによる上記のような高いセルロースナノファイバー凝集抑制能及び高い耐熱性は、液状ポリマーが、例えば液状の非ポリマー材料(例えば、非ポリマーである界面活性剤)とは異なり、耐熱性の低い構造を有さないことと、セルロースナノファイバーの樹脂中分散に寄与する疎水性構造を有することによってもたらされる。
【0012】
セルロースナノファイバーは、その水酸基に起因して本質的に親水性である一方、当該セルロースナノファイバーと組合されて樹脂組成物を構成する樹脂の性質は、選択される樹脂の種類に応じて様々である。セルロースナノファイバーを広範な種類の樹脂に良好に分散させることは容易でなく、界面活性剤を組合せる方法等が用いられている。しかし、界面活性剤は、樹脂組成物を製造する際(典型的にはセルロースナノファイバーと樹脂とを加熱混練する際)の加熱、及び樹脂組成物を加工して各種成形体を形成する際の加熱によって熱劣化し易く、そのような熱劣化により生じた生成物は樹脂組成物中又は成形体中に残存して、機械特性、可飾性及び/又は外観を低下させる場合がある。本発明者らは、樹脂組成物の製造時及び加工時に熱劣化し易い成分の使用を極力排除しつつ広範な樹脂へのセルロースナノファイバーの良好な分散を実現する方法を種々検討した。その結果、所定温度で流動性を有する特定のポリマー、すなわち液状ポリマーをセルロースナノファイバーと組合せることで、界面活性剤の使用を実質的に必要とすることなく、セルロースナノファイバーの所望の分散が可能になることを見出した。液状ポリマーは、非ポリマーである界面活性剤等と比べて熱安定性に優れる傾向があることから、樹脂組成物の製造時及び加工時の加熱を被っても、樹脂組成物及び成形体の機械特性、可飾性及び外観に不利に影響しない点で有利である。
【0013】
好ましい態様において、液状ポリマーは、少なくとも、セルロースナノファイバーと樹脂との界面の一部に浸入した形態で(すなわち、入り込んだ形態で)存在する。本開示で、液状ポリマーが、少なくとも、セルロースナノファイバーと樹脂との界面の一部に浸入した形態とは、走査電子顕微鏡及び/又は透過電子顕微鏡による形態観察において、セルロースナノファイバーと樹脂と液状ポリマーとを染色等の手段により区別した際に、セルロースナノファイバーと樹脂との界面に液状ポリマーが観察されることを意味する。このような液状ポリマーは、セルロースナノファイバーと樹脂との間に介在することで当該セルロースナノファイバーの樹脂中への良好な分散に寄与する。液状ポリマーは、セルロースナノファイバーの表面全体を覆っていなくてもよいが、好ましくは当該表面全体を覆っていてよい。
以下、樹脂組成物の各成分の好適例について説明する。
【0014】
<セルロースナノファイバー>
セルロースナノファイバーは、天然セルロース及び再生セルロースから選ばれる各種セルロース繊維原料から得られるものであってよい。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、が産生するセルロース繊維集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。これらの原料は、必要に応じて、グラインダー、リファイナー等の機械力による叩解、フィブリル化、微細化等によって、繊維径、繊維長、フィブリル化度等を調整したり、薬品を用いて漂白、精製し、セルロース以外の成分(リグニン等の酸不溶成分、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、等)の含有率を調整したりすることができる。
【0015】
セルロースナノファイバーは、セルロース原料を機械的に乾式、又は湿式で微細化することで得られる。この微細化処理は単独の装置を1回以上用いても良いし、複数の装置をそれぞれ1回以上用いても良い。
微細化に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、振動ミル、ビーズミル、コニカルリファイナー、ディスク型リファイナー、1軸、2軸または多軸の混錬機・押出機高速回転下でのホモミキサー、精製装置(refiner)、デフィブレーター(defibrator)、叩解機、摩擦グラインダー、高せん断フィブリレーター(fibrilator)(例えば、キャビトロンローター/スターター装置)、ディスパージャー(disperger)、ホモゲナイザー(例えば、微細流動化機(microfluidizer))など回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。
【0016】
一態様において、セルロースナノファイバーはスラリーとして得ることができる。スラリーは、セルロース繊維原料を水並びに/又は他の媒体(例えば、有機溶媒、無機酸、塩基及び/若しくはイオン液体)中に分散させて微細化することによって調製できる。
【0017】
前記微細化処理に用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~4のアルコール;メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~6のグリコールエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~8のエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~20、好ましくは炭素数3~6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1~20、好ましくは1~8の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;ギ酸、酢酸、乳酸等の炭素数1~20のカルボン酸;酢酸エチル、酢酸ビニル等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~6のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素溶媒、ジメチルスルホキシド等の含硫黄溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、微細化処理の操作性の観点から、炭素数1~6のアルコール、炭素数2~6のグリコールエーテル、炭素数2~8のエーテル、炭素数3~6のケトン、炭素数2~5の低級アルキルエーテル、炭素数1~8のカルボン酸、炭素数2~6のエステル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が好ましい。
【0018】
無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、ホウ酸等を例示できるが、解繊性の効率及び取り扱い性の観点から、好ましくは、塩酸、硫酸、リン酸からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0019】
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン等を例示できるが、解繊性の効率及び取り扱い性の観点から、好ましくは、水酸化物、炭酸塩及び有機アミンからなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0020】
本開示におけるイオン液体とは、カチオン部とアニオン部の少なくとも一方に有機イオンを含みイオンのみの融点が100℃以下の液体の塩を指す。イオン液体は、そのカチオン部がイミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、モルフォリニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、及びホスホニウムカチオンからなる群から選ばれる少なくとも1つのカチオンを有することが好ましい。
【0021】
中でも、イミダゾリウム骨格を有するイオン液体、例えば下記式(1):
【化1】
(式中、R1及びR2は各々独立に、炭素数1~8の、アルキル基、又はアリル基を表し、Xはアニオンを表す。)
で示されるイミダゾリウム系イオン液体は、他のイオン液体よりも比較的融点が低いことから、液体で存在する温度領域が広く、低温でも流動性を有し、熱安定性に優れる点でより好ましい。R1及びR2の炭素数は、それぞれ、解繊性の観点から、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2以下が最も好ましい。
【0022】
アニオン成分としては、ハロゲン化物イオン(Cl-、Br-、I-等)、カルボン酸アニオン(例えば総炭素数1~3のカルボン酸アニオン、例えばC25CO2 -、CH3CO2 -、HCO2 -等)、擬ハロゲン化物イオン(すなわち、一価でありハロゲン化物イオンに類似した特性を有するイオン、例えば、CN-、SCN-、OCN-、ONC-、N3 -等)、スルホン酸アニオン、有機スルホン酸アニオン(メタンスルホン酸アニオン等)、リン酸アニオン(エチルリン酸アニオン、メチルリン酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン等)、ホウ酸アニオン(テトラフルオロホウ酸アニオン等)、過塩素酸アニオン等が挙げられ、解繊性の観点から、ハロゲン化物イオン、及びカルボン酸アニオンが好ましい。
【0023】
イミダゾリウム系イオン液体としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムホルメイト、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジメチルホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート、1,3-ジメチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネート、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムブロミド等を挙げることができる。
【0024】
イオン液体のみでセルロース繊維原料を解繊処理することも出来るが、セルロースに対する溶解力が高すぎてセルロースナノファイバーを溶解してしまう恐れがある場合、イオン液体に水並びに/又は有機溶媒を添加して使用することが好ましい。添加する有機溶媒種はイオン液体との相溶性、セルロースとの親和性、混合溶媒のセルロース繊維原料に対する溶解性、粘度などを考慮し適宜選択すればよいが、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0025】
微細化処理における水並びに/又は他の媒体の合計使用量は、セルロース繊維原料を分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、セルロース繊維原料に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは10質量倍以上、さらに好ましくは50質量倍以上であり、好ましくは10000質量倍以下、より好ましくは5000質量倍以下、さらに好ましくは2000質量倍以下、特に好ましくは1000質量倍以下である。
【0026】
セルロース繊維原料は、アルカリ可溶分、及び硫酸不溶成分(リグニン等)を含有するため、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶分及び硫酸不溶成分を減らしても良い。他方、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロースの分子鎖を切断し、重量平均分子量、及び数平均分子量を変化させてしまうため、セルロース繊維原料の精製工程及び漂白工程は、セルロースナノファイバーの重量平均分子量、及び重量平均分子量と数平均分子量との比が適切な範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
【0027】
また、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程によってセルロースナノファイバーが低分子量化すること、及びセルロース繊維原料が変質してアルカリ可溶分の存在比率が増加することが懸念される。アルカリ可溶分は耐熱性に劣るため、セルロース繊維原料の精製工程及び漂白工程は、セルロース繊維原料に含有されるアルカリ可溶分の量が一定の値以下の範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
【0028】
一態様において、セルロース繊維原料は化学修飾されてよく、硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、ホウ酸エステル等の無機エステル化物、アセチル化、プロピオニル化等の有機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化物等をセルロース繊維原料として使用できる。
【0029】
[数平均繊維径及びL/D比]
一態様において、セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、セルロースナノファイバーによる物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは2~1000nmである。セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、より好ましくは4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上であり、より好ましくは900nm以下、又は800nm以下、又は700nm以下、又は600nm以下、又は500nm以下、又は400nm以下、又は300nm以下、又は200nm以下である。
【0030】
セルロースナノファイバーの数平均繊維長(L)/数平均繊維径(D)比は、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物の機械的特性を少量のセルロースナノファイバーで良好に向上させる観点から、好ましくは、30以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上、又は120以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下、又は3000以下、又は2000以下、又は1000以下である。
【0031】
一態様において、本開示のセルロースナノファイバーの数平均繊維径(D)、数平均繊維長(L)、及びL/D比は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて以下の手順で測定される値である。セルロース繊維の水分散液をtert-ブタノールで置換し、0.001~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロース繊維について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
【0032】
[BET比表面積]
一態様において、セルロースナノファイバーのBET比表面積は、セルロースナノファイバーの樹脂組成物中の分散性向上の観点から、好ましくは、1m2/g以上、又は3m2/g以上、又は5m2/g以上、又は8m2/g以上、又は10m2/g以上、又は12m2/g以上であり、乾燥体の製造容易性の観点から、好ましくは50m2/g以下、又は40m2/g以下、又は30m2/g以下、又は25m2/g以下、又は20m2/g以下である。比表面積は、比表面積・細孔分布測定装置(例えば、Nova-4200e,カンタクローム・インスツルメンツ社製)にて、セルロースナノファイバー約0.2gを真空下で120℃、5時間乾燥を行った後、液体窒素の沸点における窒素ガスの吸着量を相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて5点測定した後(多点法)、同装置プログラムによりBET比表面積(m2/g)を算出することで得られる値である。
【0033】
[結晶化度]
セルロースナノファイバーの結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、セルロースナノファイバーを樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースナノファイバーの結晶化度について上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0034】
ここでいう結晶化度は、セルロースがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
【0035】
また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
【0036】
[結晶多形]
セルロースの結晶多形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロースナノファイバーとしては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロースナノファイバーを樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂組成物が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロースナノファイバーが好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロースナノファイバーがより好ましい。
【0037】
[重合度]
また、セルロースナノファイバーの重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上であり、より好ましくは200以上、より好ましくは300以上、より好ましくは400以上、より好ましくは450以上であり、好ましくは3500以下、より好ましくは3300以下、より好ましくは3200以下、より好ましくは3100以下、より好ましくは3000以下である。
【0038】
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロースナノファイバーの重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0039】
セルロースナノファイバーの重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
なお、化学修飾されたセルロースナノファイバーの重合度に関しては、化学修飾基の存在により正確な算出ができない場合がある。この場合においては化学修飾セルロースナノファイバーの原料である化学修飾する直前のセルロースナノファイバー、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料の重合度を化学修飾されたセルロースナノファイバーの重合度とみなしてよい。
【0040】
[Mw,Mn,Mw/Mn]
一態様において、セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は、100000以上、又は200000以上である。一態様において、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、6以下、又は5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロースナノファイバーのセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロースナノファイバーが得られる。セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は、セルロース繊維原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)はセルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース繊維原料を選択すること、セルロース繊維原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース繊維原料を選択すること、セルロース繊維原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。セルロース繊維原料のMw及びMw/Mnの各々は一態様において上記範囲内であってもよい。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の、乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、剪断、ずり、摩擦等の、機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、酵素処理、再生セルロース化等を例示できる。
なお、化学修飾されたセルロースナノファイバーのMw,Mn,Mw/Mnに関しては、化学修飾基の存在により正確な算出ができない場合がある。この場合においては化学修飾セルロースナノファイバーの原料である化学修飾する直前のセルロースナノファイバー、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のMw,Mn,Mw/Mnを化学修飾されたセルロースナノファイバーのMw,Mn,Mw/Mnとみなしてよい。
【0041】
ここでいうセルロースナノファイバーの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースナノファイバーを塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0042】
[重合度及び分子量の制御]
セルロースナノファイバーの重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロースナノファイバー内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。
【0043】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースをセルロース繊維原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調製されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースナノファイバーを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロースナノファイバー内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース繊維原料の分散液は、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
【0044】
[アルカリ可溶多糖類及び酸不溶性成分]
セルロースナノファイバーのミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。
【0045】
セルロースナノファイバーが含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロースナノファイバーの強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
【0046】
一態様において、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、溶融混練時のセルロースナノファイバーの機械強度保持、及び黄変抑制の観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
【0047】
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。なお、化学修飾されたセルロースナノファイバーのアルカリ可溶多糖類含有率に関しては、化学修飾基の存在により正確に算出することができない場合がある。この場合、化学修飾されたセルロースナノファイバーの原料である化学修飾する直前のセルロースナノファイバー、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のアルカリ可溶多糖類平均含有率を、化学修飾されたセルロースナノファイバーのアルカリ可溶多糖類平均含有率とみなしてよい。
【0048】
セルロースナノファイバーが含み得る酸不溶成分は、植物(例えば木材)を溶媒抽出した脱脂試料を硫酸処理した後に残存する不溶成分として当業者に理解される。酸不溶成分は具体的には芳香族由来のリグニンであるが、それに限定されない。酸不溶成分はそれ自体が着色している場合が多く、樹脂組成物の外観を損なう、又、熱エージング時に黄変を引き起こすこと等の不都合を招来し得ることから、セルロースナノファイバー中の酸不溶成分平均含有率は少ない方が好ましい。
【0049】
一態様において、セルロースナノファイバー中の酸不溶成分平均含有率は、セルロースナノファイバーの耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0050】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。なお、化学修飾されたセルロースナノファイバーの酸不溶成分平均含有率に関しては、化学修飾基の存在により正確に算出することができない場合がある。この場合、化学修飾されたセルロースナノファイバーの原料である化学修飾する直前のセルロースナノファイバー、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のアルカリ可溶多糖類平均含有率を、化学修飾されたセルロースナノファイバーのアルカリ可溶多糖類平均含有率とみなしてよい。
【0051】
[熱分解開始温度(TD)]
セルロースナノファイバーの熱分解開始温度(TD)は、溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、250℃以上、又は260℃以上、又は270℃以上、又は275℃以上、又は280℃以上、又は285℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は310℃以下、又は300℃以下であってもよい。
【0052】
[1%重量減少時温度(T1%),250℃重量減少率(T250℃)]
セルロースナノファイバーの1wt%重量減少時の温度(T1%)は、溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、260℃以上、又は270℃以上、又は275℃以上、又は280℃以上、又は285℃以上、又は290℃以上である。T1%は高いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、330℃以下、又は320℃以下、又は310℃以下であってもよい。
【0053】
セルロースナノファイバーの250℃重量減少率(T250℃)は溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、15%以下、又は12%以下、又は10%以下、又は8%以下、又は6%以下、又は5%以下、又は4%以下、又は3%以下である。T250℃は低いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、0.1%以上、又は0.5%以上、又は0.7%以上、又は1.0%以上であってもよい。
【0054】
本開示で、TDとは、窒素フロー下の熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である。セルロースナノファイバーを窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、つづいて、そのまま450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温する。150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点として、1wt%重量減少時の温度(T1%)と2wt%重量減少時の温度(T2%)とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度をTDと定義する。
【0055】
1%重量減少温度(T1%)は、上記TDの手法で昇温を続けた際の、150℃の重量を起点とした1重量%重量減少時の温度である。
【0056】
セルロースナノファイバーの250℃重量減少率(T250℃)は、TG分析において、セルロースナノファイバーを250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。セルロースナノファイバーを窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持する。250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求める。
250℃重量変化率(%):(W1-W0)/W0×100
【0057】
[多孔質シート]
セルロースナノファイバーの各特性(結晶化度、結晶多形、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃等)の測定は測定サンプルの形態によって数値が大きく変動することがある。安定した再現性のある測定をするために、測定サンプルは歪みのない多孔質シートを用いる。多孔質シートの作製方法は以下のとおりである。
【0058】
まず、固形分率が10質量%以上のセルロースナノファイバーの濃縮ケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行う。セルロースナノファイバー固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整する。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過する。濾過物はろ紙から剥離させずに、ろ紙と共により大きなろ紙2枚の間に挟み、かつ、そのより大きなろ紙の縁をおもりで押さえつけながら、150℃のオーブンにて5分間乾燥させる。その後、ろ紙を剥離して歪みの少ない多孔質シートを得る。このシートの透気抵抗度Rがシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用する。
【0059】
透気抵抗度Rの測定は、23℃、50%RHの環境で1日静置した多孔質シートサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(例えば、旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定することで行う。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出する。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0060】
[樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの物性]
樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの各種物性(数平均繊維長、数平均繊維径、L/D比、結晶化度、結晶多形、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃、及び後述するDS、DSs、DS不均一比、DS不均一比の変動係数等)は以下の方法で分析する。樹脂組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に樹脂組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースナノファイバーを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒をtert-ブタノールに置換する。その後、セルロースナノファイバーtert-ブタノールスラリーを前記手法と同様の測定法を用いて分析し、樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの各種物性を算出する。
【0061】
[化学修飾]
セルロースナノファイバーは、化学修飾されたセルロースナノファイバー(化学修飾セルロースナノファイバーともいう)であってよい。セルロースナノファイバーは、例えばセルロース繊維原料の段階、解繊処理中、又は解繊処理後に予め化学修飾されたものであっても良いし、分散体としてのスラリーの調製中又はその後、或いは乾燥・造粒工程中又はその後に化学修飾されてもよい。
【0062】
セルロースナノファイバーの修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、例えば、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤等が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化であり、特に好ましくはアセチル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、カルボン酸ビニルエステル、及びカルボン酸が好ましい。
【0063】
酸ハロゲン化物は、下記式で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
1-C(=O)-X
(式中、R1は炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~24のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
【0064】
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、
酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;
安息香酸、4-メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;
二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;
3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。
尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0065】
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式:
R-COO-CH=CH2
{式中、Rは、炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
【0066】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。 アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
【0067】
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0068】
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0069】
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0070】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0071】
カルボン酸としては、下記式で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R-COOH
(式中、Rは、炭素数1~16のアルキル基、炭素数2~16のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を表す。)
【0072】
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0073】
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
尚、カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0074】
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニル、酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
【0075】
[アシル置換度(DS)]
セルロースナノファイバーが化学修飾(例えばアシル化等の疎水化によって)されている場合、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性は良好である傾向があるが、本開示のセルロースナノファイバーは、液状ポリマーと組合されることで、非置換又は低置換度であっても樹脂中で良好な分散性を示すことができる。セルロースナノファイバーがエステル化セルロースナノファイバーである場合、アシル置換度(DS)は、熱分解開始温度が高いエステル化セルロースナノファイバーを得る点で、好ましくは、0.1以上、又は0.2以上、又は0.25以上、又は0.3以上、又は0.5以上であり、エステル化セルロースナノファイバー中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えたエステル化セルロースナノファイバーを得ることができる点で、好ましくは、2.0以下、又は1.8以下、又は1.5以下、又は1.2以下、又は1.0以下、又は0.8以下、又は0.7以下、又は0.6以下、又は0.5以下である。
【0076】
化学修飾セルロースナノファイバーの修飾基がアシル基の場合のアシル置換度(DS)は、エステル化セルロースナノファイバーの反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する。エステル化セルロースナノファイバーのDSは、後述するエステル化セルロースナノファイバーの固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
【0077】
固体NMRによるエステル化セルロースナノファイバーのDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロースナノファイバーについて13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0078】
化学修飾セルロースナノファイバーの繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は、好ましくは1.05以上である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、樹脂との複合化時の樹脂との親和性の向上、及び樹脂組成物の寸法安定性の向上が可能である。DS不均一比は、より好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.3以上、又は1.5以上、又は2以上であり、化学修飾セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下、又は6以下、又は4以下、又は3以下である。
DSsの値は、エステル化セルロースナノファイバーの修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
【0079】
化学修飾セルロースナノファイバーのDS不均一比の変動係数(CV)は、小さいほど、樹脂組成物の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは、50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下である。上記変動係数は、例えば、セルロース繊維原料を解繊した後に化学修飾を行って化学修飾セルロースナノファイバーを得る方法(すなわち逐次法)ではより低減され得る一方、セルロース繊維原料の解繊と化学修飾とを同時に行う方法(すなわち同時法)では増大され得る。この作用機序は明確になっていないが、同時法では、解繊の初期に生成した細い繊維において化学修飾がより進行しやすく、そして、化学修飾によってセルロースミクロフィブリル間の水素結合が減少すると解繊がさらに進行する結果、DS不均一比の変動係数が増大すると考えられる。
【0080】
DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾セルロースナノファイバーの水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)から、下記式で算出できる。
DS不均一比=DSs/DSt
変動係数(%)=標準偏差σ/算術平均μ×100
【0081】
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化セルロースナノファイバーを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
【0082】
<樹脂>
本開示の樹脂組成物が含む樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等であってよい。典型的な態様において、樹脂は熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂は、例えば、100℃~350℃の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、100~250℃の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂等であってよい。本開示で、融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を指し、吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。また本開示で、ガラス転移温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも30秒に1回以上の測定とすることが望ましい。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成形品の切り出し片を用いることが望ましく、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が熱伝導の観点より望ましい。
【0083】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらの2種以上の混合物を例示でき、取り扱い性及びコストの観点から、好ましくはポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられ、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリアセタール系樹脂はより好ましく、ポリアミド系樹脂及びポリアセタール系樹脂は特に好ましい。熱可塑性樹脂(特に結晶性樹脂)の融点は、樹脂組成物の耐熱性を高める観点から、好ましくは、140℃以上、又は150℃以上、又は160℃以上、又は170℃以上、又は180℃以上、又は190℃以上、又は200℃以上、又は210℃以上、220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上である。
【0084】
熱可塑性樹脂の融点としては、例えば比較的低融点の樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂)について、150℃~190℃、又は160℃~180℃、また例えば比較的高融点の樹脂(例えばポリアミド系樹脂)について、220℃~350℃、又は230℃~320℃、を例示できる。
【0085】
熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0086】
熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)及び/又はアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等に例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等に例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等に代表されるエチレンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0087】
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、樹脂組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、樹脂組成物の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
【0088】
また、セルロースナノファイバーとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸変性に用いる酸としては、モノ又はポリカルボン酸を使用でき、例えば、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、並びにクエン酸等を例示できる。変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物が特に好ましい。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下又は非存在下でポリオレフィン系樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂をすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが特に好適である。酸変性されたポリプロピレン系樹脂は、単独で用いても構わないが、樹脂全体としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレン系樹脂と混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレン系樹脂に対する酸変性されたポリプロピレン系樹脂の割合は、好ましくは0.5質量%~50質量%である。より好ましい下限は、1質量%、又は2質量%、又は3質量%、又は4質量%、又は5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%、又は40質量%、又は35質量%、又は30質量%、又は20質量%である。樹脂とセルロースナノファイバーとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
【0089】
酸変性されたポリプロピレン系樹脂の、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されるメルトマスフローレイト(MFR)は、樹脂とセルロースナノファイバーとの界面における親和性を高める観点から、好ましくは、50g/10分以上、又は100g/10分以上、又は150g/10分以上、又は200g/10分以上である。上限は特に限定されないが、機械的強度の維持から、好ましくは500g/10分である。
【0090】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては:ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド(例えばポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等);ジアミン類(例えば1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミン等)とジカルボン酸類(例えばブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等)との共重合体として得られるポリアミド(例えばポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等);及びこれらがそれぞれ共重合された共重合体(例えばポリアミド6,T/6,I等)、が挙げられる。
【0091】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12等の脂肪族ポリアミド、及び、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等の脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0092】
樹脂組成物の耐熱性を良好にする観点から、ポリアミド系樹脂の融点は、好ましくは220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上であり、樹脂組成物の製造容易性の観点から、上記融点は、好ましくは、350℃以下、又は320℃以下、又は300℃以下である。
【0093】
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度に特に制限はないが、好ましくは、20μモル/g以上、又は30μモル/g以上であり、好ましくは、150μモル/g以下、又は100μモル/g以下、又は80μモル/g以下である。
【0094】
ポリアミド系樹脂において、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、セルロースナノファイバーの樹脂組成物中での分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上、又は0.45以上であり、樹脂組成物の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
【0095】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度は、公知の方法で調整できる。調整方法としては、ポリアミドの重合時に、所定の末端基濃度となるように末端基と反応する末端調整剤(例えば、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコール等)を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0096】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0097】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0098】
ポリアミド系樹脂のアミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めることができる。この方法は、精度及び簡便さの点で好ましい。より具体的には、特開平7-228775号公報に記載された方法を用い、測定溶媒として重トリフルオロ酢酸を用い、積算回数を300スキャン以上とすることが推奨される。
【0099】
ポリアミド系樹脂の、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]は、樹脂組成物を例えば射出成形する際に、金型内流動性が良好で成形片の外観が良好であるという観点から、好ましくは、0.6~2.0dL/g、又は0.7~1.4dL/g、又は0.7~1.2dL/g、又は0.7~1.0dL/gである。本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。固有粘度は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法で求められる。このゼロに外挿された値が固有粘度である。上記方法の詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc 1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。上記の濃度の異なるいくつかの測定溶媒における濃度は、少なくとも4点(例えば、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dL)とすることが精度の観点から望ましい。
【0100】
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアリレート(PAR)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、PET、PBS、PBSA、PBT及びPENがより好ましく、PBS、PBSA、及びPBTが特に好ましい。
【0101】
ポリエステル系樹脂の末端基は、重合時のモノマー比率、末端安定化剤の添加の有無及び量、等によって任意に変えることができる。ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上、又は0.45以上であり、樹脂組成物の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
【0102】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂としては、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3-ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましい。コモノマー成分(例えば1,3-ジオキソラン)由来構造の量は、押出加工及び成形加工時の熱安定性の観点から、好ましくは、0.01モル%以上、又は0.05モル%以上、又は0.1モル%以上、又は0.2モル%以上であり、機械的強度の観点から、好ましくは、4.0モル%以下、又は3.5モル%以下、又は3.0モル%以下、又は2.5モル%以下、又は2.3モル%以下である。
【0103】
<液状ポリマー>
本開示の樹脂組成物が含む液状ポリマーとは、23℃において流動性を有しているポリマーを意味する。一態様において、液状ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)を有する。一態様において、液状ポリマーは、共役ジエン系重合体又は非共役ジエン系重合体であってよい。液状ポリマーは、一態様において液状ゴムである。本開示で、液状ゴムとは、23℃において流動性を有しており、且つ架橋(より具体的には加硫)及び/又は鎖延長によってゴム弾性体を形成する物質を意味する。すなわち液状ゴムは一態様において未硬化物である。
【0104】
また流動性を有しているとは、一態様において、シクロヘキサンに溶解させた液状ポリマーを23℃にて胴径21mm×全長50mmのバイアル瓶に入れた後乾燥させることによって、液状ポリマーを当該バイアル瓶内に高さ1mmまで充填して密閉し、当該バイアル瓶を上下逆にした状態で24時間静置したときに高さ方向に0.1mm以上の物質の移動が確認できることを意味する。
【0105】
液状ポリマーは、一般的なポリマーの単量体組成を有してよく、取り扱いの容易性、及びセルロースナノファイバーの良好な分散性が得られる観点から、比較的低分子量であることが好ましい。液状ポリマーは、一態様において、数平均分子量(Mn)が80,000以下であることによって液体形状を呈する。なお、本開示の各種ポリマーの数平均分子量及び重量平均分子量は、特記がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、クロロホルムを溶媒とし、40℃の測定温度にて標準ポリスチレン換算で求められる値である。
【0106】
一態様において、液状ポリマーはセルロースナノファイバーと組合されてマスターバッチを形成してよく、このようなマスターバッチを樹脂と組合せて本開示の樹脂組成物を形成してよい。
【0107】
液状ポリマーの数平均分子量(Mn)は、熱安定性、及び樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果の観点から、好ましくは、1,000以上、又は1,500以上、又は2,000以上であり、セルロースナノファイバーを液状ポリマー中に分散させる場合の良分散に適した高い流動性を有する点で、好ましくは、80,000以下、又は50,000以下、又は40,000以下、又は30,000以下、又は10,000以下である。
【0108】
液状ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、熱安定性、及び樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果の観点から、好ましくは、1,000以上、又は2,000以上、又は4,000以上であり、セルロースナノファイバーを液状ポリマー中に分散させる場合の良分散に適した高い流動性を有する点で、好ましくは、240,000以下、又は150,000以下、又は30,000以下である。
【0109】
液状ポリマーの数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)は、分子量がある程度ばらついていることによって、複数の特性の高度な両立(一態様において、セルロースナノファイバーの樹脂中での良分散と樹脂組成物の良好な曲げ弾性率との高度の両立)が可能である点で、好ましくは、1.5以上、又は1.8以上、又は2以上であり、分子量のばらつきが過度に大きくなく樹脂組成物の所望の物性が安定して得られる点、例えば流動性と耐衝撃性との両立の点で、好ましくは、10以下、又は8以下、又は5以下、又は3以下、又は2.7以下である。
【0110】
液状ポリマーは、良好な熱安定性を有することができる。液状ポリマーの熱分解開始温度(TD)は、良好な熱安定性の点で、一態様において、200℃超、又は210℃以上、又は230℃以上、又は250℃以上、又は300℃以上である。熱分解開始温度は高い方が好ましいが、液状ポリマーの入手容易性の観点から、一態様において、500℃以下、又は450℃以下、又は400℃以下であってよい。
【0111】
液状ポリマーのガラス転移温度は、良好な熱安定性の点で、好ましくは、-150℃以上、又は-120℃以上、又は-100℃以上であり、良好な流動性の点で、好ましくは、25℃以下、又は10℃以下、又は0℃以下である。
【0112】
液状ポリマーは、一態様において、ジエン系ポリマーを含み、一態様において、共役ジエン系重合体若しくは非共役ジエン系重合体又はこれらの水素添加物を含む。上記の重合体又はその水素添加物はオリゴマーであってもよい。液状ポリマーを構成する単量体は、非変性物又は変性物(例えば酸変性物、水酸基変性物等)であってよい。一態様において、液状ポリマーは、両末端に反応性基(例えば、水酸基、カルボキシ基、イソシアナト基、チオ基、アミノ基及びハロ基からなる群から選択される1種以上)を有してよく、したがって2官能性であってよい。これら反応性基は液状ポリマーの架橋及び/又は鎖延長に寄与する。
【0113】
[共役ジエン系重合体]
共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の共役ジエン単量体の共重合体若しくは共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。
【0114】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘプタジエン、及び1,3-ヘキサジエンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。
【0115】
一態様において、共役ジエン系重合体は、上記の共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体である。
芳香族ビニル単量体としては、共役ジエン単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、スチレン、m又はp-メチルスチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン、及びジビニルベンゼンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。樹脂組成物の成形加工性、及び成形体の耐衝撃性の観点からは、スチレンが好ましい。
【0116】
ランダム共重合体としては、ブタジエン-イソプレンランダム共重合体、ブタジエン-スチレンランダム共重合体、イソプレン-スチレンランダム共重合体、及びブタジエン-イソプレン-スチレンランダム共重合体が挙げられる。共重合体鎖中の各単量体の組成分布としては、統計的ランダムな組成に近い完全ランダム共重合体、及び組成分布に勾配があるテーパー(勾配)ランダム共重合体が挙げられる。共役ジエン系重合体の結合様式、すなわち1,4-結合、1,2-結合等の組成は、分子間で均一又は異なっていてよい。
【0117】
ブロック共重合体は、2つ以上のブロックからなる共重合体であってよい。例えば、芳香族ビニル単量体のブロックAと、共役ジエン単量体のブロック及び/又は芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体のブロックであるブロックBとが、A-B、A-B-A、A-B-A-B等の構造を構成しているブロック共重合体であってよい。なお各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はなく、例えば、ブロックBが芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体である場合、ブロックB中の芳香族ビニル単量体は均一又はテーパー状に分布してよい。また、ブロックBに、芳香族ビニル単量体が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数存在してもよい。さらに、ブロックBに、芳香族ビニル単量体含有量が異なるセグメントが複数存在してもよい。共重合体中にブロックA、ブロックBがそれぞれ複数存在する場合、それらの分子量及び組成は同一でも異なってもよい。
【0118】
ブロック共重合体は、結合形式、分子量、芳香族ビニル化合物種、共役ジエン化合物種、1,2-ビニル含量又は1,2-ビニル含量と3,4-ビニル含量との合計量、芳香族ビニル化合物成分含有量、水素添加率等のうち1つ以上が互いに異なる2種以上の混合物でもよい。
【0119】
共役ジエン系重合体における共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-又は3,4-結合)は、好ましくは、10モル%以上75モル%以下、又は13モル%以上65モル%以下である。
共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-結合量)は、13C-NMR法(定量モード)によって求めることができる。すなわち、13C-NMRにおいて下記に現れるピーク面積を積分すれば、各構造単位のカーボン量に比例する値を得ることができ、結果として各構造単位の質量%に換算することができる。
スチレン 145~147ppm
ビニル 110~116ppm
ジエン(シス) 24~28ppm
ジエン(トランス) 29~33ppm
【0120】
共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体において、共役ジエン単量体と結合した芳香族ビニル単量体の量(本開示で、芳香族ビニル結合量ともいう。)は、共役ジエン系重合体の総モル100%に対して、好ましくは、5モル%以上70モル%以下、又は10モル%以上50モル%以下であってよい。
【0121】
共役ジエン系重合体の水素添加物としては、上記で例示した共役ジエン系重合体の水素添加物が挙げられ、例えば、ブタジエン単独重合体、イソプレン単独重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の水素添加物であってよい。
【0122】
好ましい態様において、液状ポリマーは、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリイソプレン、及びポリクロロプレンからなる群から選択される1種以上である。これらは誘導体(例えば無水マレイン酸変性物や、メタクリル酸変性物、末端水酸基変性物、水添化物、およびこれらの組み合わせなど)であってもよい。
【0123】
[非共役ジエン系重合体]
非共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の非共役ジエン単量体の共重合体若しくは非共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。非共役ジエン系重合体としては、オレフィン系重合体(例えば流動パラフィン)、シリコーンポリマー、アクリルポリマー等が挙げられる。例えば、液状ポリマーが液状ゴムである場合の非共役ジエン系重合体としては、
エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム、エチレン-αオレフィン共重合体等のオレフィン系重合体、
ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α,β-不飽和ニトリル-アクリル酸エステル-共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
【0124】
エチレン-α-オレフィン共重合体において、エチレン単位と共重合できるモノマーとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、又はエイコセン-1、イソブチレンなどの脂肪族置換ビニルモノマー、及び、スチレン、置換スチレンなどの芳香族系ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、グリシジルアクリル酸エステル、グリシジルメタアクリル酸エステル、ヒドロキシエチルメタアクリル酸エステルなどのエステル系ビニルモノマー、アクリルアミド、アリルアミン、ビニル-p-アミノベンゼン、アクリロニトリルなどの窒素含有ビニルモノマー、ブタジエン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、イソプレンなどのジエンなどを挙げることができる。
【0125】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、好ましくはエチレンと炭素数3~20のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、更に好ましくはエチレンと炭素数3~16のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、最も好ましくはエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン1種以上とのコポリマーである。
【0126】
エチレン-α-オレフィン共重合体の分子量は、耐衝撃性発現の観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定装置で、1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒とし、140℃、ポリスチレンスタンダードで測定した数平均分子量(Mn)として、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは10,000~100,000であり、より好ましくは10,000~80,000であり、更に好ましくは20,000~60,000である。
【0127】
また、エチレン-α-オレフィン共重合体のエチレン単位の含有率は、加工時の取り扱い性の観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体全量に対し、好ましくは30~95質量%である。
【0128】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、例えば、特公平4-12283号公報、特開昭60-35006号公報、特開昭60-35007号公報、特開昭60-35008号公報、特開平5-155930号公報、特開平3-163088号公報、米国特許第5272236号明細書等に記載されるような従来公知の製造方法で製造可能である。
【0129】
一態様において、液状ポリマーは、ジエン系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、及び多硫化ゴム並びにこれらの水素添加物からなる群から選択される1種以上を含む。
【0130】
液状ポリマーの25℃での粘度は、セルロースナノファイバーを液状ポリマーに良好に分散させる観点から、好ましくは、1,000,000mPa・s以下、又は500,000mPa・s以下、又は200,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、100mPa・s以上、又は300mPa・s以上、又は500mPa・s以上である。
【0131】
液状ポリマーの50℃での粘度は、セルロースナノファイバーを液状ポリマーに良好に分散させる観点、及び加熱混練によってセルロースナノファイバーを樹脂中に良好に分散させる観点から、好ましくは、1,000,000mPa・s以下、又は500,000mPa・s以下、又は200,000mPa・s以下、又は100,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、50mPa・s以上、又は100mPa・s以上、又は500mPa・s以上である。
【0132】
液状ポリマーの80℃での粘度は、セルロースナノファイバーを液状ポリマーに良好に分散させる観点、及び加熱混練によってセルロースナノファイバーを樹脂中に良好に分散させる観点から、好ましくは、1,000,000mPa・s以下、又は500,000mPa・s以下、又は250,000mPa・s以下、又は100,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、50mPa・s以上、又は100mPa・s以上、又は300mPa・s以上である。
【0133】
液状ポリマーの0℃での粘度は、セルロースナノファイバーを液状ポリマーに良好に分散させる点から、好ましくは、2,000,000mPa・s以下、又は1,000,000mPa・s以下、又は400,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、200mPa・s以上、又は600mPa・s以上、又は1,000mPa・s以上である。
【0134】
液状ポリマーの80℃、50℃、25℃及び0℃の粘度がいずれも上記範囲内であることは、広範な混合温度範囲で、セルロースナノファイバーを液状ポリマー中に良好に分散させることができる点で好ましい。
【0135】
液状ポリマーの粘度は、B型粘度計を用いて、回転数10rpmで測定される値である。
【0136】
液状ポリマーの50℃における粘度η50と、「熱可塑性樹脂の融点+20℃」における液状ポリマーの粘度ηTmとの比、η50/ηTmは、セルロースナノファイバーを液状ポリマーで良好に被覆する観点で、好ましくは20以上、又は30以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上、又は150以上であり、所望の粘度に応じた材料設計が容易である点で、好ましくは10000以下、又は5000以下である。
【0137】
「熱可塑性樹脂の融点+20℃」における液状ポリマーの粘度ηTmと、「熱可塑性樹脂の融点+20℃」における熱可塑性樹脂の溶融粘度ηrとの比、ηr/ηTmは、溶融樹脂中でセルロースナノファイバーを良好に分散させる観点で、好ましくは100000以下、又は75000以下、又は50000以下、又は25000以下であり、所望の粘度に応じた材料設計が容易である点で、好ましくは100以上である。
【0138】
好ましい態様においては、液状ポリマーの50℃における粘度η50と、熱可塑性樹脂の融点+20℃における液状ポリマーの粘度ηTmと、熱可塑性樹脂の融点+20℃における熱可塑性樹脂の溶融粘度ηrとが、以下の関係:
η50/ηTm≧20
1≦ηr/η50≦1000
を満たす。液状ポリマーの粘度を制御することは、液状ポリマーをセルロースナノファイバーの周囲に存在させることによる分散性向上効果を良好に得る観点で有利である。η50/ηTm比は、セルロースナノファイバー、樹脂及び液状ポリマーの溶融混合において、液状ポリマーが加熱される際の粘度変化の指標である。ηr/η50比は、当該溶融混合において、液状ポリマーが樹脂とのバランスにおいてどの程度流動性に富むかの指標である。η50/ηTm比及びηr/η50比の両方が上記関係を満たす場合、液状ポリマーは、溶融混合時に、流動性が良好でありつつ過度に粘稠でないことによって、セルロースナノファイバーの周囲に留まって当該セルロースナノファイバーの樹脂中での分散を向上させる効果を良好に発揮できる。
【0139】
ηr/η50比は、セルロースナノファイバーの乾燥時にセルロースナノファイバー表面へ液状ポリマーが浸透し凝集を抑制する点で、好ましくは、1以上、又は2以上、又は3以上であり、液状ポリマーの流動性が過度に高くなることなく当該液状ポリマーがセルロースナノファイバーの周囲に良好に留まる点で、好ましくは、1000以下、又は500以下、又は300以下である。
【0140】
η50/ηTm比、ηr/η50比、及びηr/ηTmの各々のより好適な範囲は、熱可塑性樹脂の種類によって異なり得る。
例えば、η50/ηTm比は、融点が比較的低い熱可塑性樹脂については比較的小さく、融点が比較的高い熱可塑性樹脂について比較的大きくすることが、所望の粘度に応じた材料設計を容易にする観点で有利である。
また、ηr/η50比は、ポリアミド系樹脂のような高融点である樹脂では、比較的大きい値にすることが、所望の粘度に応じた材料設計を容易にする観点で有利である。
また、ηr/ηTm比は、ポリアセタール系樹脂のような結晶性が極めて高く、溶融粘度の高い樹脂では、比較的大きい値にすることが可能である。
【0141】
一態様においては、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂であり、η50と、ポリオレフィン系樹脂の融点+20℃におけるηTmとが、以下の関係:
η50/ηTm≧20
を満たす。ポリオレフィン系樹脂におけるη50/ηTm比は、前述の観点から、好ましくは、20以上、又は30以上、又は100以上であり、前述の観点から、好ましくは、1000以下、又は500以下、又は300以下である。
【0142】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、ポリオレフィン系樹脂の融点+20℃におけるηrと、ポリオレフィン系樹脂の融点+20℃におけるηTmとが、好ましくは、以下の関係:
ηr/ηTm≦50000
を満たす。ポリオレフィン系樹脂におけるηr/ηTm比は、前述の観点から、好ましくは、50000以下、又は30000以下、又は20000以下であり、前述の観点から、好ましくは、100以上である。
【0143】
一態様においては、熱可塑性樹脂がポリアセタール系樹脂であり、η50と、ポリアセタール系樹脂の融点+20℃におけるηTmとが、以下の関係:
η50/ηTm≧20
を満たす。ポリアセタール系樹脂におけるη50/ηTm比は、前述の観点から、好ましくは、20以上、又は30以上、又は45以上、又は100以上であり、前述の観点から、好ましくは、2000以下、又は1500以下、又は1000以下である。
【0144】
熱可塑性樹脂がポリアセタール系樹脂である場合、ポリアセタール系樹脂の融点+20℃におけるηrと、ポリアセタール系樹脂の融点+20℃におけるηTmとが、以下の関係:
ηr/ηTm≦100000
を満たす。ポリアセタール系樹脂におけるηTm/ηr比は、前述の観点から、好ましくは、100000以下、又は50000以下、又は40000以下であり、前述の観点から、好ましくは、100以上である。
【0145】
一態様においては、熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂であり、η50と、ポリアミド系樹脂の融点+20℃におけるηTmとが、以下の関係:
η50/ηTm≧80
を満たす。ポリアミド系樹脂におけるη50/ηTm比は、前述の観点から、好ましくは、80以上、又は100以上、又は150以上、又は500以上であり、前述の観点から、好ましくは、10000以下、又は5000以下、又は1000以下である。
【0146】
熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂である場合、ポリアミド系樹脂の融点+20℃におけるηrと、ポリアミド系樹脂の融点+20℃におけるηTmとが、以下の関係:
ηr/ηTm≦50000
を満たす。ポリアミド系樹脂におけるηTm/ηr比は、前述の観点から、好ましくは、50000以下、又は40000以下、又は30000以下であり、前述の観点から、好ましくは、100以上である。
【0147】
<分散助剤>
一態様において、本実施形態の樹脂組成物は界面活性剤不含有である。液状ポリマーは、非ポリマーである界面活性剤等と比べて熱安定性に優れる傾向があることから、樹脂組成物の製造時及び加工時の加熱を被っても、樹脂組成物及び成形体の機械特性、可飾性及び外観に不利に影響しない点で有利である。一態様に係る樹脂組成物は、液状ポリマーの寄与によって、界面活性剤不含有であってもセルロースナノファイバーの良好な分散が実現され得ることから界面活性剤不含有であってよい。本開示で、界面活性剤不含有とは、樹脂組成物中の界面活性剤の量が、液状ポリマー100質量部に対して、0.1質量部未満であることを意味する。一方、セルロースナノファイバーの表面を相互作用により修飾し、液状ポリマーによるセルロースナノファイバーの分散をより向上させる観点で、一態様においては、分散助剤を少量含んでいてもよい。分散助剤は、液状ポリマー100質量部に対して、セルロースナノファイバーの分散性を向上させる観点から、好ましくは、0.1質量部以上、又は1質量部以上、又は5質量部以上含んでいてよく、分散助剤に起因する性能低下の観点から、好ましくは50質量部以下、又は30質量部以下、又は10質量部以下含んでいてよい。
【0148】
一態様において、分散助剤は親水性セグメント及び疎水性セグメントを同一分子内に有する(すなわち両親媒性分子である)ことが、樹脂中に微細セルロース繊維をより均一に分散させる観点で更に好ましい。
【0149】
親水性セグメントは、親水性構造を含むことによって、微細セルロース繊維との良好な親和性を示す部分である。親水性構造としては、水酸基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸基、ボロン酸基、シラノール基、ソルビタン及びショ糖等の糖類に由来する基、グリセリンに由来する基、-OM、-COOM、-SO3M、-OSO3M、-HMPO4、及び-M2PO4(但し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。)で表される基、並びに、1~3級アミン及び4級アンモニウム塩等を有する。上記4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、並びに、硝酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェート、及びテトラフルオロボレート等からなる群から選ばれる1つ以上の親水性基が挙げられる。
【0150】
親水性セグメントとしては、4級アンモニウム塩構造を含む繰り返し単位が含まれるセグメント、ポリビニルアルコールのセグメント、ポリビニルピロリドンのセグメント、ポリアクリル酸のセグメント、カルボキシビニルポリマーのセグメント、カチオン化グアガムのセグメント、ヒドロキシエチルセルロースのセグメント、メチルセルロースのセグメント、カルボキシメチルセルロースのセグメント、ポリウレタンのソフトセグメント(具体的にはジオールセグメント)等を例示できる。
【0151】
疎水性セグメントとしては、炭化水素を有するセグメント、ポリマー構造を含むセグメント等を例示できる:
炭化水素を有するセグメントとしては、アルキル型、アルケニル型、アルキルエーテル型、アルケニルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、アルケニルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型等が好ましい。疎水基のアルキル鎖、又はアルケニル鎖の炭素数(アルキルフェニル、又はアルケニルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上である。
ポリマー構造を含むセグメントとしては、アクリル系ポリマー、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ポリビス(4‐アミノシクロヘキシル)メタンドデカン等の、炭素数4~12の有機ジカルボン酸と炭素数2~13の有機ジアミンとの重縮合物、ω-アミノ酸(例えばω-アミノウンデカン酸)の重縮合物(例えば、ポリウンデカンアミド(11ナイロン)等)、ε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド(6ナイロン)、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物であるポリラウリックラクタム(12ナイロン)等の、ラクタムの開環重合物を含むアミノ酸ラクタム、ジアミンとジカルボン酸とから構成されるポリマー、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等が好ましい。
【0152】
一態様として、両親媒性分子として、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれも使用可能である。分散助剤は、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等であってもよい。微細セルロース繊維との親和性の点で、カチオン性界面活性剤、及びノニオン系イオン系界面活性剤が好ましく、耐熱性の観点でノニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0153】
界面活性剤の親水基としては、セルロースナノファイバーとの親和性の点で、ソルビタン及びショ糖等の糖類に由来する基、グリセリンに由来する基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、-OM、-COOM、-SO3M、-OSO3M、-HMPO4、及び-M2PO4(但し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。)、並びに1~3級アミン及び4級アンモニウム塩等が挙げられる。上記4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、並びに、硝酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びテトラフルオロボレートイオン等からなる群から選ばれる1つ以上のイオンが好ましい。
【0154】
界面活性剤の疎水基の構造としては、樹脂との親和性が高い点で、アルキル型、アルケニル型、アルキルエーテル型、アルケニルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、アルケニルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型等が好ましい。疎水基のアルキル鎖、又はアルケニル鎖の炭素数(アルキルフェニル、又はアルケニルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上である。例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合、界面活性剤の炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まる。上記炭素数は、例えば30以下、又は25以下であってよい。
【0155】
疎水基としては、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものがより好ましい。環状構造を有する疎水基としては、アルキルフェニルエーテル型、アルケニルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、及びスチレン化フェニル型の基が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型(例えば硬化ひまし油エーテル)の基が好ましい。ロジンエステル型、及び硬化ひまし油型は特に好ましい。
【0156】
界面活性剤のより具体的な例としては、脂肪酸エステル(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等)を例示できる。
【0157】
界面活性剤以外の分散助剤としては、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エイコセン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸等の長鎖脂肪酸、パルミトイルアミン、オレイルアミン、エイコシルアミン、ミリスチルアミン、ペンタデシルアミン、パルミチルアミン、マルガリルアミン、ステアリルアミン、アラキジルアミン等の長鎖アミン等を例示できる。なお上記の長鎖とは炭素数13以上の鎖長を意味し、一態様において炭素数13以上21以下であってよい。
【0158】
<追加の成分>
樹脂組成物は、その性能を向上させるために、必要に応じて追加の成分をさらに含んでも良い。追加の成分としては、セルロースナノファイバー以外のフィラー成分;相溶化剤;可塑剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;ゼオライト、セラミックス、タルク、シリカ、金属酸化物、金属粉末等の無機化合物;着色剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;熱安定剤;酸化防止剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等が挙げられる。任意の追加の成分の樹脂組成物中の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択されるが、例えば0.01~50質量%、又は0.1~30質量%であってよい。
【0159】
液状ポリマーは、セルロースナノファイバーと組合されてマスターバッチを形成してよい。マスターバッチ中、セルロースナノファイバー/液状ポリマーの質量比率は、0.1/99.9~99.9/0.1、又は1/99~99/1、又は5/95~95/5、又は10/90~90/10、又は20/80~80/20、又は30/70~70/30、又は40/60~60/40であってよい。
【0160】
マスターバッチは、セルロースナノファイバー及び液状ポリマーに加えて、追加の成分を含み又は含まないことができる。追加の成分としては、本実施形態の樹脂組成物が含み得る樹脂として本開示で例示する樹脂の1種以上等を例示できる。マスターバッチ中の追加の成分の含有率は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択されるが、例えば0.01~50質量%、又は0.1~30質量%であってよい。
【0161】
樹脂組成物において、樹脂100質量部に対するセルロースナノファイバーの量は、加工性と機械特性のバランスの観点から、好ましくは、0.001質量部以上、又は0.01質量部以上、又は0.1質量部以上、又は1質量部以上、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下、又は30質量%以下であってよい。
【0162】
樹脂組成物において、樹脂100質量部に対する液状ポリマーの量は、加工性と機械特性のバランスの観点から、好ましくは、0.001質量部以上、又は0.01質量部以上、又は0.1質量部以上、又は1質量部以上、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下、又は30質量%以下、又は10質量%以下、又は8質量部以下であってよい。
【0163】
樹脂組成物100質量%に対するセルロースナノファイバーの量は、加工性と機械特性のバランスの観点から、好ましくは、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上、又は0.1質量%以上、又は1質量%以上、好ましくは、50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下、又20質量%以下であってよい。
【0164】
樹脂組成物中、セルロースナノファイバーと液状ポリマーとの合計100質量%に対するセルロースナノファイバーの含有率は、セルロースナノファイバーによる良好な補強効果を得る観点から、好ましくは0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は3質量%以上であり、液状ポリマーの使用による利点を良好に得る観点から、好ましくは、80質量%以下、又は60質量%以下、又は33質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下、又は10質量%以下である。
【0165】
液状ポリマーの熱分解開始温度T1、及びセルロースナノファイバーの熱分解開始温度T2は、樹脂組成物及び成形体の機械特性、可飾性及び外観が良好である点で、好ましくは、以下の関係:
(T1)≧(T2)
を満たす。
【0166】
液状ポリマーの熱分解開始温度T1、及び、樹脂の融点であるか又はガラス転移温度+70℃である温度T3は、樹脂組成物及び成形体の機械特性、可飾性及び外観が良好である点で、好ましくは、以下の関係:
(T1)>(T3)
を満たす。
T3は、樹脂が結晶性樹脂である場合には融点であり、非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度+70℃である。
特に好ましい態様においては、熱可塑性樹脂が結晶性を有する(すなわち融点を有する)熱可塑性樹脂であり、温度T3が熱可塑性樹脂の融点である。
【0167】
液状ポリマーの熱分解開始温度T1、及び、樹脂の融点であるか又はガラス転移温度+100℃である温度T4は、樹脂組成物及び成形体の機械特性、可飾性及び外観が良好である点で、好ましくは、以下の関係:
(T1)>(T4)
を満たす。
T4は、樹脂が結晶性樹脂である場合には融点であり、非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度+100℃である。
【0168】
特に好ましい態様において、液状ポリマーの熱分解開始温度T1、セルロースナノファイバーの熱分解開始温度T2、及び、樹脂の融点であるか又はガラス転移温度+70℃である温度T3は、樹脂組成物及び成形体の機械特性、可飾性及び外観が良好である点で、以下の関係:
(T1)≧(T2)>(T3)
を満たす。
【0169】
一態様において、上記T1と上記T2との差T1-T2は、液状ポリマーがセルロースナノファイバーよりも熱劣化し難いことによって液状ポリマーの使用に起因するプロセス上の制約を回避する観点から、好ましくは、5℃以上、又は10℃以上、又は30℃以上であり、液状ポリマーの入手容易性の観点から、好ましくは、200℃以下、又は150℃以下、又は100℃以下である。
【0170】
一態様において、上記T1と上記T3との差T1-T3は、樹脂組成物の製造時及び加工時の加熱による液状ポリマーの熱劣化を回避して樹脂組成物及びこれを成形してなる成形体の機械特性、可飾性及び外観を良好にする観点から、好ましくは、30℃以上、又は50℃以上、又は70℃以上であり、樹脂組成物及び成形体に良好な機械特性が付与されるような樹脂を容易に選択する観点から、好ましくは、200℃以下、又は150℃以下、又は100℃以下である。
【0171】
一態様において、上記T2と上記T3との差T2-T3は、樹脂組成物の製造時及び加工時の加熱によるセルロースナノファイバーの熱劣化を回避して樹脂組成物及びこれを成形してなる成形体の機械特性、可飾性及び外観を良好にする観点から、好ましくは、30℃以上、又は50℃以上、又は70℃以上であり、樹脂組成物及び成形体に良好な機械特性が付与されるような樹脂を容易に選択する観点から、好ましくは、200℃以下、又は150℃以下、又は100℃以下である。
【0172】
一態様において、上記T1と上記T4との差T1-T4は、樹脂組成物の製造時及び加工時の加熱による液状ポリマーの熱劣化を回避して樹脂組成物及びこれを成形してなる成形体の機械特性、可飾性及び外観を良好にする観点から、好ましくは、0℃超、又は20℃以上、又は40℃以上であり、樹脂組成物及び成形体に良好な機械特性が付与されるような樹脂を容易に選択する観点から、好ましくは、170℃以下、又は120℃以下、又は70℃以下である。
【0173】
一態様において、上記T2と上記T4との差T2-T4は、樹脂組成物の製造時及び加工時の加熱によるセルロースナノファイバーの熱劣化を回避して樹脂組成物及びこれを成形してなる成形体の機械特性、可飾性及び外観を良好にする観点から、好ましくは、0℃超、又は20℃以上、又は40℃以上であり、樹脂組成物及び成形体に良好な機械特性が付与されるような樹脂を容易に選択する観点から、好ましくは、170℃以下、又は120℃以下、又は70℃以下である。
【0174】
≪樹脂組成物の製造方法≫
本発明の一態様はまた、セルロースナノファイバー、樹脂及び液状ポリマーを含む樹脂組成物の製造方法を提供する。一態様において、当該方法は、セルロースナノファイバー、樹脂及び液状ポリマーを含む混合物を加熱混練することを含む。液状ポリマーは、セルロースナノファイバーを樹脂中に良好に分散させるための分散剤として機能し得るところ、例えば液状の非ポリマー材料等と比べてセルロースナノファイバー凝集抑制能と耐熱性とに優れる傾向がある。このような液状ポリマーを用いることで、本実施形態の樹脂組成物の製造時には、各成分の熱劣化の懸念なく加熱混練を十分に実施できるため、セルロースナノファイバーを樹脂中に良好に分散させることができる。このようにして製造される樹脂組成物は、機械特性に優れるとともに高い表面平滑性によって可飾性及び美観にも優れる成形体の形成に有利である。
【0175】
加熱混練方法としては、セルロースナノファイバーと液状ポリマーとを含むマスターバッチを予め製造し、これを樹脂と混練する方法、セルロースナノファイバー、樹脂及び液状ポリマーを混練機に同時又は逐次に投入して混練する方法、等を例示できる。
【0176】
加熱混練方法としては、
-セルロースナノファイバーと液状ポリマーと任意に追加の成分とを混合してマスターバッチを製造し、これを樹脂モノマーと混合して樹脂の重合反応を行い、得られた樹脂組成物をストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と上記のマスターバッチとの混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と上記のマスターバッチとの混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と上記のマスターバッチとの混合物を溶融混練し、Tダイより押出しシート、又はフィルム状の成形体を得る方法、
等が挙げられる。好ましい態様においては、単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂とマスターバッチとの混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る。
例えば、樹脂と所望の比率となるように搬送されたマスターバッチを樹脂中に投入して混合した後、溶融混練してよい。
【0177】
マスターバッチは、マスターバッチを構成する成分を、例えば、自転・公転式ミキサー、プラネタリミキサー、ホモジナイザー、プロペラ式攪拌装置、ロータリー攪拌装置、電磁攪拌装置、オープンロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機等の撹拌手段で混合することで製造できる。また、剪断を効率的に行うために加熱下で撹拌してもよい。高い剪断力と圧力とをかけて分散を促進できる点で、ホモジナイザーによる混合が好ましい。混合時の成分の添加順は限定されないが、例えば、
(1)セルロースナノファイバーと、液状ポリマーと、任意に追加の成分とを同時に添加して混合する方法、
(2)液状ポリマー以外の成分を予め混合して予備混合物を得た後、当該予備混合物と液状ポリマーとを混合する方法、
等が挙げられる。
【0178】
樹脂組成物を得るための溶融混練には、上記のように単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用できるが、二軸押出機がセルロースナノファイバーの分散性を制御する上で好ましい。押出機のシリンダー長(L)をスクリュー径(D)で除したL/Dは、30以上が好ましく、特に好ましくは40以上である。また、混練時のスクリュー回転数は、50~800rpmの範囲が好ましく、より好ましくは100~600rpmの範囲内である。
【0179】
押出機のシリンダー内の各スクリューは、楕円形の二翼のねじ形状の搬送スクリュー、ニーディングディスクと呼ばれる混練エレメント、等を組み合わせて最適化される。
【0180】
熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度は、ポリアミド66では255~270℃、ポリアミド6では225~240℃、ポリブチレンテレフタレートでは225~240℃、ポリアセタール樹脂では170℃~190℃、ポリプロピレンでは160~180℃である。加熱設定温度は、これらの推奨最低加工温度より20℃高い温度の範囲が好ましい。混合温度をこの温度範囲とすることにより、セルロースナノファイバーと樹脂とを均一に混合することができる。
【0181】
≪樹脂組成物の形状≫
本実施形態の樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性及び運搬の容易性から好ましい。好ましい樹脂ペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、形状は押出加工時のカット方式により異なってよい。例えば、アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの好ましいペレット直径は、1mm以上3mm以下である。円柱状ペレットの好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0182】
樹脂組成物を単独で又は他の成分とともに所望の形状に成形することで、所望の成形体を製造してよい。配合成分の組合せ方法及び成形方法は特に限定されず、所望の成形体に応じて選択してよい。成形方法としては、これらに限定されないが、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、発泡成形法などが使用可能である。これらの中では射出成形法がデザイン性及びコストの観点から特に好ましい。
【0183】
≪樹脂組成物の用途≫
本実施形態の方法で得られる樹脂組成物は、鋼板、繊維強化プラスチック(例えば炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック等)、無機フィラーを含む樹脂コンポジット、等の代替品として有用である。樹脂組成物の好適な用途としては、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両・船舶・航空宇宙関連部品、電子・電気部品、建築・土木材料、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材、容器・包装部材、等を例示できる。
【0184】
≪樹脂組成物の特性≫
<引張降伏強度>
樹脂組成物の引張降伏強度は、一態様において、20MPa以上、又は50MPa以上、又は80MPa以上であってよく、300MPa以下、又は200MPa以下、又は150MPa以下であってよい。
【0185】
<引張破断伸度>
樹脂組成物の引張破断伸度は、一態様において、2%以上、又は3%以上、又は5%以上であってよく、200%以下、又は100%以下、又は20%以下であってよい。
【0186】
<曲げ弾性率>
樹脂組成物の曲げ弾性率は、一態様において、2.0GPa以上、又は2.5GPa以上、又は3.0GPa以上、又は3.5GPa以上、又は3.7GPa以上、又は3.9GPa以上であってよく、20.0GPa以下、又は10.0GPa以下、又は8.0GPa以下であってよい。
【0187】
<250℃重量減少率(T250℃)>
樹脂組成物の250℃重量減少率(T250℃)は、樹脂組成物の成形時の熱劣化を回避し、成形体の機械強度を良好にする観点から、好ましくは、1.5%以下、又は1.4%以下、又は1.3%以下である。上記250℃重量減少率は低い方が望ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、一態様において、0.01%以上、又は0.1%以上、又は0.3%以上であってよい。樹脂組成物の250℃重量減少率(T250℃)は、TG分析において、樹脂組成物を250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。樹脂組成物を窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持する。250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求める。
250℃重量変化率(%):(W1-W0)/W0×100
【0188】
<表面粗さ>
本実施形態の樹脂組成物は、低い表面粗さを有することで加飾性及び外観に優れることができる。樹脂組成物の算術平均表面粗さRaは、好ましくは、0.5μm以下、又は0.4μm以下、又は0.3μm以下である。算術平均表面粗さRaは、樹脂組成物の製造容易性の観点から、一態様において、0.001μm以上、又は0.01μm以上、又は0.1μm以上であってよい。
【実施例
【0189】
以下、実施例を挙げて本発明の例示の態様を更に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0190】
≪評価方法≫
<セルロースナノファイバー>
[多孔質シートの作製]
まず、濃縮ケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。セルロースナノファイバー固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過した。濾過物はろ紙から剥離させずに、ろ紙と共により大きなろ紙2枚の間に挟み、かつ、そのより大きなろ紙の縁をおもりで押さえつけながら、150℃のオーブンにて5分間乾燥させた。その後、ろ紙を剥離して歪みの少ない多孔質シートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0191】
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN、N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN、N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。セルロースナノファイバーを溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N,N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
なお、アセチル化セルロースナノファイバーについては、アセチル化する前の原料の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比を採用した。
【0192】
[アルカリ可溶多糖類平均含有率]
アルカリ可溶多糖類含有率は、セルロースナノファイバーについて非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求めた。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をセルロースナノファイバーのアルカリ可溶多糖類平均含有率とした。なお、アセチル化セルロースナノファイバーについては、アセチル化する前の原料のアルカリ可溶多糖類平均含有率を採用した。
【0193】
[結晶化度]
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
【0194】
[数平均繊維径]
濃縮ケーキをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、Regulus8220)で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース繊維の短径(D)を測定し、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。
【0195】
[比表面積]
比表面積・細孔分布測定装置(Nova-4200e,カンタクローム・インスツルメンツ社製)にて、多孔質シート約0.2gを真空下、120℃で5時間乾燥させた後、液体窒素の沸点における窒素ガスの吸着量を相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて5点測定した後(多点法)、同装置プログラムによりBET比表面積(m2/g)を算出した。
【0196】
[アシル置換度DS]
多孔質シートの5か所のATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000~600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
【0197】
得られたIRスペクトルより、IRインデックスを、下記式:
IRインデックス= H1730/H1030
に従って算出した。式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、各測定場所の平均置換度をIRインデックスより下記式に従って算出し、その平均値をDSとした。
DS=4.13×IRインデックス
【0198】
[DS不均一比(CV)]
上記のATR-IR測定を行った多孔質シートを凍結粉砕し、セルロースの粉末サンプルを作製した。粉末を10枚の2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、それぞれXPS測定を行った。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6に帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対するアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)の面積強度(Ixf)より各サンプルのDSsを下記式で求め、その平均をセルロース繊維のDSsとした。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
【0199】
用いたXPS測定の条件は以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
【0200】
上記のDS及びDSsに基づき、DS不均一比(CV)を下記式に従って算出した。
DS不均一比(CV)=DSs/DS
【0201】
[熱分解開始温度(TD)]
多孔質シートの熱分析を以下の測定法にて行った。
装置:Rigaku社製、Thermo plus EVO2
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、そのまま450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温した。
D算出方法:横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた。多孔質シートの150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度と2wt%重量減少時の温度とを通る直線を得た。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度を熱分解開始温度(TD)とした。
【0202】
[1wt%重量減少温度]
前記TD算出時に用いた1wt%重量減少時の温度を1wt%重量減少温度とした。
【0203】
[250℃重量変化率]
装置:Rigaku社製、Thermo plus EVO2
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持した。250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求めた。
250℃重量変化率(%):(W1-W0)/W0×100
【0204】
<熱可塑性樹脂>
[融点+20℃における溶融粘度]
ツインキャピラリーレオメーター(Malvern社製、型番RH7)を用いて、各樹脂の融点+20℃における樹脂粘度を、シェアレート500/sの条件で測定した。
【0205】
<液状ポリマー>
[分子量]
供給元の製品カタログに記載される値を表2に示す。
【0206】
[25℃における粘度]
液状ポリマーの粘度は、B型粘度計(英弘精機社製、型番DVNext)を用いて、回転数10rpmで測定した。
【0207】
[50℃における粘度]
上記B型粘度計のジャケット温度を50℃に調整して、回転数10rpmで測定した。
【0208】
[熱可塑性樹脂の融点+20℃における粘度]
上記B型粘度計のジャケット温度を各樹脂の融点+20℃に調整して、回転数10rpmで測定した。
【0209】
[ビニル量、芳香族スチレン量]
供給元の製品カタログに記載される値を表2に示す。
【0210】
[ガラス転移温度]
JIS K6240に記載の方法で測定した。
【0211】
[熱分解開始温度]
アルミ試料パンに液状ポリマー10mgを入れ、セルロースナノファイバーと同様にして測定した。
【0212】
<樹脂組成物>
【0213】
[液状ポリマーがセルロースナノファイバーと樹脂との間に存在するか否かの確認]
走査透過電子顕微鏡(STEM)を用い、以下の条件で評価した。
樹脂組成物ペレットを適当な大きさにトリミングし、クライオミクロトームを用い、設定厚み100nmにて、MD-ND断面の超薄切片を作製した。これを銅メッシュに積載後、ルテニウム染色、オスミウム染色、リンタングステン酸染色などの電子染色から適切な染色を施して、検鏡用試料を得た。STEMの観察条件は以下のとおりである。
装置 :S-5500((株)日立製作所製)
加速電圧 :30.0kV
検出器 :BF-STEM(透過像)
得られた透過像において、繊維形状を有するものをセルロースナノファイバーとして、セルロースナノファイバーと樹脂の界面に液状ポリマーが存在しているか、以下の観察を行った。画像は、任意の視野で、倍率50000倍で10枚の画像を撮影し、全ての画像において界面に液状ポリマーが存在する場合を、「有」、一部または全部の画像において、界面に液状ポリマーが観察されない場合を、「無」とした。
【0214】
[樹脂組成物の250℃重量減少率]
セルロースナノファイバーと同様の方法で測定した。
【0215】
[引張降伏強度及び引張破断伸度]
ISO527-1に準拠し、引張降伏強度及び引張破断伸度を測定した。降伏に至る前に破断した成形片については、その最大強度を代用した。
【0216】
[曲げ弾性率]
得られたペレットから、射出成形機を用いて、JIS K6920-2に準拠した条件で成形を行い、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した。射出成形の成形温度は、ポリアミド6は260℃、ポリアミド66は280℃、ポリプロピレンは200℃、ポリアセタールは210℃とした。曲げ弾性率を、ISO179に準拠して測定した。なお、ポリアミド樹脂は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
【0217】
[算術平均表面粗さRa]
ISO294-3に準拠した多目的試験片を試料とし、レーザーマイクロスコープ(レーザーテック製、OPTELICS)を用いて、JISB0031に準拠して測定した。試料の中央部位の粗さ曲線を計測し、粗さ曲線の平均線方向で基準長さ(a)だけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向をX軸、縦倍率の方向をY軸とし、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、下記式:
【数1】
で表される値として算術平均表面粗さRaを得た。得られた値を以下の基準で評価した。
A:算術平均表面粗さRaが0.5μm以下
B:算術平均表面粗さRaが0.5μm超
【0218】
≪使用材料≫
<セルロースナノファイバー>
CNF-A:アセチル化セルロースナノファイバー
NETZSCH Vakumix社製KAPPA VITA(登録商標)ホモミキサー(タンクサイズ35L)に、後述のCNF-D濃縮ケーキ(固形分率20質量%)5質量部とDMSO95質量部を加えて、ホモミキサー2500rpm(周速度12m/s)で分散させた後、DMSOスラリー(固形分率1.0質量%)100質量部を得た。つづいて、酢酸ビニル2質量部及び炭酸カリウム0.3質量部を加え、40℃で3時間攪拌した。反応を停止させるため、水100質量部を攪拌しながら加えた。つづいて、濾過により固形分を濾別した。得られた固形分に対して100質量部の水を加えてホモミキサーで分散させた後、濾過をする洗浄操作を6回実施し、CNF-A濃縮ケーキ(固形分率20質量%)5質量部を得た。
【0219】
CNF-B:ディスクリファイナー解繊された非修飾セルロースナノファイバー
コットンリンターパルプ3質量部を水27質量部に浸漬させて、パルパーで分散を行った。パルパー処理したコットンリンターパルプスラリー30質量部(内、コットンリンターパルプ3質量部)に水を170質量部入れて水中に分散させて(固形分率1.5質量%)、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして該水分散体を30分間叩解処理して、スラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。そして、脱水機により固形分率20質量%まで濃縮し、CNF-B濃縮ケーキを15質量部得た。
【0220】
CNF-C:市販セルロースナノファイバー
市販のセリッシュKY100G(ダイセルファインケム製)をCNF-Cケーキとして使用した。
【0221】
CNF-D:ディスクリファイナー及び高圧ホモジナイザーで解繊された非修飾セルロースナノファイバー
コットンリンターパルプ3質量部を水27質量部に浸漬させて、パルパーで分散を行った。パルパー処理したコットンリンターパルプスラリー30質量部(内、コットンリンターパルプ3質量部)に水を170質量部入れて水中に分散させて(固形分率1.5質量%)、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして該水分散体を30分間叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で徹底的に叩解を行い、叩解水分散体(固形分濃度:1.5質量%)を得た。得られた叩解水分散体を、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NSO15H)を用いて操作圧力100MPa下で10回微細化処理し、スラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。そして、脱水機により固形分率20質量%まで濃縮し、CNF-D濃縮ケーキを15質量部得た。
【0222】
セルロースナノファイバーの特性を表1に示す。
【0223】
【表1】
【0224】
<樹脂>
ポリアミド6(宇部興産(株)製、UBE NYLON 1013B)、融点:225℃、ηr:200Pa・s
ポリアミド66(旭化成(株)製、LEONA1300)、融点:265℃、ηr:200Pa・s
ポリプロピレン((株)プライムポリマー製、J106G)、融点:160℃、ηr:1000Pa・s
ポリアセタール(旭化成(株)製、TENAC HC450)、融点:165℃、ηr:20000Pa・s
【0225】
<液状ポリマー及び分散助剤>
下記表2に示すものを用いた。
【0226】
【表2】
【0227】
<追加の成分>
酸化防止剤:BASF社製、Irganox 245
【0228】
≪樹脂組成物の調製≫
[実施例1~23]
上記材料を表3及び4に示す配合で用い、下記手順で樹脂組成物を調製した。
【0229】
セルロースケーキと液状ポリマーを、表3及び4に示す配合で、プラネタリーミキサーを用いて減圧乾燥し、セルロース乾燥体を得た。
上記のセルロース乾燥体と、樹脂とを表3及び4に示す割合で配合し、二軸押出機で混練し、樹脂組成物としてセルロース含有樹脂ペレットを得た。
【0230】
[比較例1~5]
表5に示すように、液状ポリマー1の代わりにPEG-PPGを用いた他は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0231】
[参考例1~4]
表5に示すように、樹脂を単独で二軸押出機に投入し、実施例1と同様の条件で混練して樹脂組成物を得た。
評価結果を表3~5に示す。
【0232】
【表3】
【0233】
【表4】
【0234】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0235】
本発明に係る樹脂組成物は、種々の樹脂成形体用途に好適に適用され得る。