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特許7646857鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾル及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/141 20060101AFI20250310BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20250310BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
C01B33/141
B01J13/00 C
H01L21/304 622B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023552957
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2022037558
(87)【国際公開番号】W WO2023058745
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2021166421
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山本 悠太
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131874(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/052945(WO,A1)
【文献】特開2020-147490(JP,A)
【文献】特開2017-197693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
B01J 13/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界放出型走査電子顕微鏡観察により把握される球状の一次粒子が50個~300個の平均個数で鎖状に連なって35nm~1800nmの平均長さを有するコロイダルシリカ粒子の群が純水と有機溶媒との混合溶媒中に分散して形成された鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルであって、
前記球状の一次粒子の平均粒子径が6nm~20nmであり、前記球状の一次粒子の平均アスペクト比が1.0~1.3の範囲にあり、
前記有機溶媒が炭素数1~4のアルコール又は炭素数2~4の水溶性グリコール化合物であり、
前記コロイダルシリカ粒子当たりのK、Na又はNH3の不純物のそれぞれの含有割合が3500質量ppm以下であり、アルカリ土類金属又はアルミニウムの不純物のそれぞれの含有割合が1質量ppm未満であることを特徴とする鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾル。
【請求項2】
状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを製造する方法であって、
(a)純水と有機溶媒との混合溶媒に炭素数1~2のアルキル基を有するアルキルシリケートを混合してアルキルシリケート溶液を得る工程と、
(b)前記アルキルシリケート溶液にアルカリ触媒を添加混合して原料液を得る工程と、
(c)前記原料液を40℃~100℃で24時間~100時間加熱する工程とを含み、
前記純水が前記アルキルシリケート中のSiに対して8モル濃度~23モル濃度の割合で前記混合溶媒に含まれ、
前記有機溶媒が炭素数1~4のアルコール又は炭素数2~4の水溶性グリコール化合物であり、
前記(a)工程では、前記アルキルシリケート溶液を100質量%とするとき、前記アルキルシリケートを18質量%~44質量%の割合で混合し、
前記(b)工程では、前記アルキルシリケートをシリカに換算するとき、前記アルカリ触媒を前記シリカに対して0.02質量%~0.40質量%の割合で混合し、
前記アルカリ触媒がアルカリ金属水酸化物、アンモニア又はアルキルアミンであることを特徴とする鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの製造方法。
【請求項3】
前記(c)工程の加熱初期段階で、平均アスペクト比が1.0~1.1であって平均粒子径が5nm未満の球状の一次粒子が形成され、加熱終了時に前記加熱初期段階の球状の一次粒子が6nm~20nmの平均粒子径になってかつ4個~300個の平均個数で鎖状に連なって35nm~1800nmの平均長さを有するコロイダルシリカ粒子の群に成長する請求項2記載の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを用いて得られる膜であって、屈折率が1.10~1.25であることを特徴とする膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状の一次粒子が鎖状に連なったコロイダルシリカ粒子が分散したゾル及びその製造方法に関する。更に詳しくは、基材上に塗布したときに屈折率の低い膜を形成することができ、かつ保存安定性の良好な鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾル及びその製造方法に関するものである。また、その鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを用いて得られる膜に関する。
本願は、2021年10月8日に、日本に出願された特願2021-166421号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシリカゾルとして、動的光散乱法による測定粒子径(Dμm)と窒素ガス吸着法による測定粒子径(Dμm)の比D/Dが5以上であって、このDは40~500ミリミクロンであり、そして電子顕微鏡観察による5~40ミリミクロンの範囲内の一様な太さで一平面内のみの伸長を有する細長い形状の非晶質コロイダルシリカ粒子が液状媒体中に分散されてなるSiO濃度0.5~30重量%の安定なシリカゾルが開示されている(特許文献1(請求項1~請求項3、第4頁右上欄第5~9行)参照。)。
【0003】
特許文献1の請求項2には、以下の(a)、(b)及び(c)の工程からなるアルカリ性シリカゾルの製造方法が示される。
(a)SiOとして1~6重量%を含有し、かつpHが2~4である活性珪酸のコロイド水溶液に、水溶性のカルシウム塩、マグネシウム塩又はこれらの混合物を含有する水溶液を、上記活性珪酸のSiOに対して、CaO、MgO又はこの両者として重量比1500~8500ppmとなる量加えて混合する工程
(b)(a)工程により得られた水溶液に、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機塩基又はそれらの水溶性珪酸塩をSiO/MO(但し、SiOは上記活性珪酸に由来するシリカ分の含量を、そしてMは上記アルカリ金属原子又は有機塩基の分子を表す。)モル比として20~200となるように加えて混合する工程
(c)(b)工程によって得られた混合物を60~150℃で0.5~40時間加熱する工程。
【0004】
特許文献1の請求項3には、更に(a)工程に用いられる活性珪酸のコロイド水溶液が、SiO/NaOモル比1~4.5とSiO濃度1~6重量%を有するナトリウム水ガラスの水溶液を水素型陽イオン交換樹脂と接触させることにより得られるものであること、SiO濃度1~6重量%とpH2~4を有すること、そして3ミリミクロン以上の粒径のコロイダルシリカを含まないものであることを特徴とする請求項2に記載の安定なアルカリ性水性シリカゾルの製造方法が示される。
【0005】
特許文献1には、この発明が、コロイダルシリカ粒子の形状を改変することによって改良された性能を示す安定なシリカゾルを提供し、更に、この改良に係わるシリカゾルを効率よく製造する方法を提供する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-317115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された細長い形状のシリカゾルの製造方法では、原料である水ガラスをイオン交換樹脂を充填したカラムに通して活性珪酸水溶液を得ている。この金属イオン除去工程において多くの手間と時間を必要とするため効率が悪い課題があった。
【0008】
また、活性珪酸のコロイド水溶液に水溶性のカルシウム塩、マグネシウム塩又は、これらの混合物を有する水溶液を添加するために、不純物である金属原子が溶液中に含有され、時間の経過とともにこの不純物の金属粒子がシリカ粒子の表面から溶出して針状の不純物が析出し、保存安定性に欠けていた。このため、特許文献1の方法で得られるシリカゾルは、不純物による影響が懸念される半導体などの分野における利用には適しない課題があった。
【0009】
一方、高純度の球状のコロイダルシリカ粒子は、化学機械研磨(CMP)の用途に、研磨剤としては、粒子径の揃ったものが求められているが、球状コロイダルシリカ粒子により膜を形成した場合、膜中の粒子が最密充填になりやすく、低屈折率の膜を得ることが難しい課題があった。
【0010】
本発明の目的は、基材上に塗布したときに屈折率の低い膜を形成することができ、かつ保存安定性が良好な鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを提供することにある。本発明の別の目的は、この鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを簡便に製造する方法および屈折率の低い膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、アルキルシリケート中のSiに対して所定割合の純水を用意し、この純水と有機溶媒との混合溶媒に所定の割合でアルキルシリケートを溶解してアルキルシリケート溶液を調製した後で、この溶液に所定の割合でアルカリ触媒を添加混合した原料液を所定の温度と時間で加熱することにより、コロイダルシリカ粒子が鎖状に連なることを知見し、本発明に到達した。
【0012】
本発明の第1の観点は、電界放出型走査電子顕微鏡観察により把握される球状の一次粒子が50個~300個の平均個数で鎖状に連なって35nm~1800nmの平均長さを有するコロイダルシリカ粒子の群が純水と有機溶媒との混合溶媒中に分散して形成された鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルであって、前記球状の一次粒子の平均粒子径が6nm~20nmであり、前記球状の一次粒子の平均アスペクト比が1.0~1.3の範囲にあり、前記有機溶媒が炭素数1~4のアルコール又は炭素数2~4の水溶性グリコール化合物であり、前記コロイダルシリカ粒子当たりのK、Na又はNH3の不純物のそれぞれの含有割合が3500質量ppm以下であり、アルカリ土類金属又はアルミニウムのそれぞれの不純物の含有割合が1質量ppm未満であることを特徴とする鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルである。
【0013】
本発明の第2の観点は鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを製造する方法であって、(a)純水と有機溶媒との混合溶媒に炭素数1~2のアルキル基を有するアルキルシリケートを混合してアルキルシリケート溶液を得る工程と、(b)前記アルキルシリケート溶液にアルカリ触媒を添加混合して原料液を得る工程と、(c)前記原料液を40℃~100℃で24時間~100時間加熱する工程とを含み、前記純水が前記アルキルシリケート中のSiに対して8モル濃度~23モル濃度の割合で前記混合溶媒に含まれ、前記有機溶媒が炭素数1~4のアルコール又は炭素数2~4の水溶性グリコール化合物であり、前記(a)工程では、前記アルキルシリケート溶液を100質量%とするとき、前記アルキルシリケートを18質量%~44質量%の割合で混合し、前記(b)工程では、前記アルキルシリケートをシリカに換算するとき、前記アルカリ触媒を前記シリカに対して0.02質量%~0.40質量%の割合で混合し、前記アルカリ触媒がアルカリ金属水酸化物、アンモニア又はアルキルアミンであることを特徴とする鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの製造方法である。
【0014】
本発明の第3の観点は、第2の観点に基づく発明であって、前記(c)工程の加熱初期段階で、平均アスペクト比が1.0~1.1であって平均粒子径が5nm未満の球状の一次粒子が形成され、加熱終了時に前記加熱初期段階の球状の一次粒子が6nm~20nmの平均粒子径になってかつ4個~300個の平均個数で鎖状に連なって35nm~1800nmの平均長さを有するコロイダルシリカ粒子の群に成長する鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの製造方法である。
【0015】
本発明の第4の観点は、第1の観点の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを用いて得られる膜であって、屈折率が1.10~1.25であることを特徴とする膜である。すなわち、本発明の第4の観点の膜は、第1の観点の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを基材上に塗布した後に、乾燥させることによって得られてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の観点の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルは、電界放出型走査電子顕微鏡観察により把握される球状の一次粒子が4個~300個の平均個数で鎖状に連なって35nm~1800nmの平均長さを有するコロイダルシリカ粒子の群が混合溶媒中に分散して形成されるため、膜を形成したときに、膜に空孔ができやすく、屈折率が低い膜となる。また球状の一次粒子の平均粒子径が6nm~20nmであるため、コロイダルシリカ粒子分散ゾルの保存安定性が良い。球状の一次粒子の平均アスペクト比が1.0~1.3の範囲にあるため、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルは低い粘度となり、形成した膜の屈折率にばらつきが小さい。また、前記コロイダルシリカ粒子当たりのK、Na又はNHの不純物の各含有割合が3500質量ppm以下であるため、球状の一次粒子が鎖状になる。更に、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルにおけるアルカリ土類金属又はアルミニウムの不純物の各含有割合が1質量ppm未満であるため、保存時間が経過しても粒子が粗大化せずに、保存安定性の高い鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルとなる。
【0017】
本発明の第2の観点の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの製造方法では、先ず、アルキルシリケートを混合溶媒に溶解してアルキルシリケート溶液を得た後に、アルキルシリケートが所定の濃度であるアルキルシリケート溶液に所定の割合のアルカリ触媒を加えて、所定の温度で所定時間加熱する。アルキルシリケートが所定の濃度であるため、加熱により球状の一次粒子が鎖状になるとともに、アルキルシリケート溶液がゲル化しない。所定の割合でアルカリ触媒を添加することにより、球状の一次粒子が生成するとともに、原料液を所定時間、所定の温度で加熱することにより、球状の一次粒子が6nm~20nmの平均粒子径に増大して、4個~300個の平均個数で鎖状に連なって35nm~1800nmの平均長さを有するコロイダルシリカ粒子の群に成長する。
【0018】
本発明の第3の観点の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの製造方法では、(c)工程の加熱終了時には、球状の一次粒子が成長して、4個~300個の平均個数で鎖状に連なって35nm~1800nmの平均長さを有するコロイダルシリカ粒子の群となる。
【0019】
本発明の第4の観点の膜は、第1の観点の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを用いて得られるため、膜中の粒子が最密充填になりにくく、屈折率が1.10~1.25である低い屈折率の膜となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを製造するフロー図である。
図2A】実施例1の加熱1時間後の鎖状のコロイダルシリカ粒子群の電界放出型走査電子顕微鏡(HITACHIハイテク社製、品番:Regulus 230、以下、FE-SEMという。)写真図である。
図2B】実施例1の加熱6時間後の鎖状のコロイダルシリカ粒子群のFE-SEM写真図である。
図2C】実施例1の加熱24時間後の鎖状のコロイダルシリカ粒子群のFE-SEM写真図である。
図2D】実施例1の加熱48時間後の鎖状のコロイダルシリカ粒子群のFE-SEM写真図である。
図2E】実施例1の加熱72時間後の鎖状のコロイダルシリカ粒子群のFE-SEM写真図である。
図2F】実施例1の加熱96時間後の鎖状のコロイダルシリカ粒子群のFE-SEM写真図である。
図3】実施例2の鎖状のコロイダルシリカ粒子群のFE-SEM写真図である。
図4】比較例11の鎖状のコロイダルシリカ粒子群のFE-SEM写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0022】
〔鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの製造方法〕
本実施形態の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルは次の方法により、概略製造される。
図1に示すように、純水と有機溶媒との混合溶媒11に、炭素数1~2のアルキル基を有するアルキルシリケート12を添加混合してアルキルシリケート溶液13を得る。次いで、このアルキルシリケート溶液13に、アルカリ触媒14を添加混合して原料液15を得る。次に、この原料液15を40℃~100℃の温度で24時間~100時間加熱することにより、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾル16を製造する。
【0023】
〔純水と有機溶媒との混合溶媒の調製〕
有機溶媒は、炭素数1~4のアルコール又は炭素数2~4の水溶性グリコール化合物である。炭素数1~4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-プロパノール、ブタノールが挙げられ、炭素数2~4の水溶液グリコール化合物としては、エチレングリコール(炭素数2)、プロピレングリコール(炭素数3)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)(炭素数4)、1,3-ブチレングリコール(炭素数4)等が挙げられる。
【0024】
純水と有機溶媒との混合溶媒11は、純水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、又は純水と炭素数2~4である水溶性グリコール化合物との混合溶媒である。こうした混合溶媒は、アルキルシリケートを溶解し易いために、好適に用いられる。また、混合溶媒中の純水はアルキルシリケートの加水分解のために、有機溶媒は純水とアルキルシリケートの相溶性を高めるために、それぞれ用いられる。
有機溶媒のアルキルシリケート溶液中の含有割合は、10質量%~35質量%であることが好ましい。有機溶媒の含有割合が下限値未満では、球状の一次粒子が成長しにくくかつ鎖状の粒子に十分に成長しにくい。また上限値を超えると、球状の一次粒子が粗大化し易い。
純水の量はアルキルシリケート中のSi(ケイ素)に対して8モル濃度~23モル濃度になるように調整される。下限値未満では、加熱工程で、球状の一次粒子が粗大化する。上限値を超えると、球状の一次粒子が増大しにくく、鎖状に十分に成長しない。純水の量は、アルキルシリケート中のSiに対して8モル濃度~16モル濃度であることが好ましく、9モル濃度~15モル濃度であることがより好ましい。
【0025】
〔アルキルシリケート溶液の調製〕
混合溶媒11にアルキルシリケート12を添加混合してアルキルシリケート溶液13が調製される。アルキルシリケート12は、加水分解が容易である炭素数1~2のアルキル基を有するシリケートである。例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)又はこれらの混合物或いはアルキルシリケートのオリゴマーが挙げられる。例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)の3量体~5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51、以下単に『MS51』ということもある。)が好適に用いられる。
アルキルシリケート12は、アルキルシリケート溶液13を100質量%とするとき、18質量%~44質量%の割合で混合される。下限値未満では、加熱工程で、球状の一次粒子が増大しにくい。また上限値を超えると、一次粒子の連結個数が多くなり易く、それに伴い鎖が長大化し易くなる。またアルキルシリケート溶液がゲル化する。アルキルシリケート12は、アルキルシリケート溶液13を100質量%とするとき、21質量%~43質量%の割合で混合されることが好ましく、26質量%~38質量%の割合で混合されることがより好ましい。
好ましくは0℃~30℃の温度で1分~30分間撹拌することによりアルキルシリケート溶液を調製する。アルキルシリケート溶液中のアルキルシリケートの含有割合は、核磁気共鳴(NMR)(BRUKER社製、品番:AVANCE III 400)で測定して求められる。
【0026】
〔原料液の調製〕
アルキルシリケート溶液13に、アルキルシリケートをシリカに換算するとき、アルカリ触媒14をこのシリカに対して、0.02質量%~0.40質量%の割合で、添加混合して原料液15が調製される。アルカリ触媒14は、アルカリ金属水酸化物、アンモニア又はアルキルアミンである。これ以外のアルカリ土類金属水酸化物やアルミニウムを含むアルカリ触媒では、加熱工程で、球状の一次粒子が増大し、粒子が粗大化し、一次粒子の鎖の長さが大きくなりにくい。
こうしたアルカリ触媒14を用いるため、最終のコロイダルシリカ粒子当たりのアルカリ土類金属又はアルミニウムの不純物の含有割合が1質量ppm未満となる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム(KOH)又は水酸化ナトリウム(NaOH)が例示され、アルキルアミンとしては、メチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CH)NH)、トリメチルアミン((CH)N)等が例示される。アルカリ触媒は、純水及び有機溶媒の存在下で、アルキルシリケート溶液13中のアルキルシリケートの加水分解を促進する。このアルカリ触媒の添加割合が下限値の0.02質量%未満では、反応性に乏しく、球状の一次粒子は十分に生成せず、粒子が鎖状になりにくい。上限値の0.40質量%を超えると、加熱工程で、加水分解が過剰に促進され、反応性が高くなり過ぎ、鎖状の粒子ではなく、球状の粒子が生成する。好ましくは0℃~30℃の温度で1分~30分間撹拌することにより原料液を調製する。アルカリ触媒の添加割合は、0.02質量%~0.30質量%であることが好ましく、0.05質量%~0.25質量%であることがより好ましい。
【0027】
〔原料液の加熱と鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの製造〕
原料液15は、40℃~100℃で24時間~100時間加熱する。これにより、球状の一次粒子が6nm~20nmの平均粒子径に増大して、4個~300個の平均個数で鎖状に連なって35nm~1800nmの平均長さを有するコロイダルシリカ粒子の群に成長する。このコロイダルシリカ粒子の群が上記混合溶媒中に分散し、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルが製造される。鎖の長さはアルカリ触媒の添加割合、アルキルシリケートの添加割合、加熱温度により変動する。なお、球状の一次粒子の平均粒子径は、FE-SEM観察により把握される粒子径の平均値(把握数:50)である。またその連結個数の平均個数は、FE-SEM観察により把握される連結数の平均個数(把握数:50)である。更にその鎖状粒子の平均長さは、FE-SEM観察により把握される長さの平均値(把握数:50)である。原料液15の加熱温度は、50℃~85℃であることが好ましい。原料液15の加熱時間は、24時間~72時間であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルのSiO濃度は、10質量%~35質量%であることが好ましい。下限値未満では膜を形成したときに低い屈折率の膜にならないおそれがある。また上限値を超えると鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾル中でSiOが凝集し易くなる。より好ましいSiO濃度は、5質量%~10質量%である。
【0029】
〔鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの特性〕
本実施形態の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルは、上記製造方法で製造され、FE-SEM観察により把握される球状の一次粒子が4個~300個の平均個数で鎖状に連なって35nm~1800nmの平均長さを有するコロイダルシリカ粒子の群が純水と有機溶媒の混合溶媒中に分散して形成され、球状の一次粒子の平均粒子径が6nm~20nmであり、球状の一次粒子の平均アスペクト比が1.0~1.3の範囲にあり、コロイダルシリカ粒子当たりのK、Na又はNHの不純物の各含有割合が3500質量ppm以下であり、アルカリ土類金属又はアルミニウムの不純物の各含有割合が1質量ppm未満である。球状の一次粒子の平均アスペクト比は、構成粒子の長径を短径で除した数値の平均値であり、100個以上の任意の粒子について個別にアスペクト比を求め、その平均値として算出される。またNH以外の不純物の濃度は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光・質量分析装置(パーキエルマー社製、品番:Avio 500)で測定して求められる。NHの不純物の濃度は、アンモニアメータ((株)東興化学研究所製、型番:TiN-9001)で測定して求められる。
【0030】
コロイダルシリカ粒子の連結平均個数が4個未満では、膜を形成したときに膜の屈折率が高くなり、300個を超えると、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの保存安定性が低下する。好ましい連結平均個数は50個~200個である。またコロイダルシリカ粒子の鎖状の平均長さが35nm未満では、膜を形成したときに膜の屈折率が低くならない。また1800nmを超えると、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの保存安定性が低下し、ゲル化する。好ましい鎖状の平均長さは50nm~1000nmである。
【0031】
球状の一次粒子の平均粒子径が6nm未満では、粒子が鎖状になりにくく、20nmを超えると、膜を形成できないか、或いは膜を形成できても膜の屈折率が高くなり易い。好ましい球状の一次粒子の平均粒子径は7nm~15nmである。
球状の一次粒子の平均アスペクト比が1に近いほど、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルは低い粘度となり、膜を形成したときに膜の屈折率のばらつきが小さい。球状の一次粒子の平均アスペクト比が1.3を超えると、コロイダルシリカ粒子の鎖の太さが不均一になる。塗膜の屈折率は、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製、品番:M-2000)で測定して求められる。
【0032】
コロイダルシリカ粒子当たりのK、Na又はNHの不純物のそれぞれの含有割合が3500質量ppmを超えると、反応が過剰に促進され、加水分解速度が高まり過ぎ、球状の一次粒子が鎖状にならない。コロイダルシリカ粒子当たりのアルカリ土類金属又はアルミニウムの不純物のそれぞれの含有割合が1質量ppm以上になると、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルは保存時間が経過すると、粒子が粗大化し、保存安定性が低下する。コロイダルシリカ粒子当たりのK、Na又はNHの不純物のそれぞれの含有割合は、3000質量ppm以下であることが好ましく、2500質量ppm以下であることがより好ましい。
【0033】
〔鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの基材表面への形成方法〕
本実施形態の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを基材表面に形成する方法は、特に限定されないが、例えば、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを基材上に塗布した後に、大気中で室温乾燥させて膜にする等の方法がある。この基材としては、特に限定されないが、ガラス基板、シリコンウエハ、樹脂基板、金属箔基板等が挙げられる。上記鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの塗布方法としては、スピンコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、刷毛塗り法等が挙げられる。得られた膜の屈折率は、1.10~1.25である。本実施形態の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを用いることで、膜中の粒子が最密充填になりにくくなり、屈折率の低い膜を得ることができる。
【実施例
【0034】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0035】
<実施例1>
フラスコにエタノール63.5gと純水63.5gとを混合して混合溶媒を調製した。純水:エタノールの質量比は1:1であった。この混合溶媒にテトラエトキシシラン(TEOS)73.0gを入れてテトラエトキシシラン溶液を調製した。テトラエトキシシラン溶液中のテトラエトキシシランの濃度は34.8質量%であった。また純水は、テトラエトキシシラン中のSiに対して11.6モル濃度の割合で含まれていた。この溶液を撹拌しながらアルカリ触媒として水酸化カリウム(KOH)水溶液10gを滴下して原料液を調製した。水酸化カリウムは、テトラエトキシシランをシリカに換算するとき、このシリカに対して0.12質量%の割合で滴下した。水酸化カリウム水溶液を滴下した後、原料液を60℃で96時間加熱し、原料液を熟成した。加熱後、原料液を室温に徐冷し、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを得た。なお、加熱により蒸発又は揮発した溶媒は冷却系に移して液化し、原料液に戻した。
【0036】
以下の表1及び表2に、実施例1及び次に述べる実施例2~21及び比較例1~11のそれぞれのアルキルシリケート溶液等の調製条件及び原料液の調製条件を示す。なお、比較例11では、後述するように、アルキルシリケート溶液の代わりに珪酸ナトリウム(珪酸Na)水溶液を用いた。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
<実施例2~21及び比較例1~10>
表1に示すように、実施例2~21及び比較例1~10のアルキルシリケート溶液の調製に際して、実施例11では、アルキルシリケートとして、テトラメトキシシラン(TMOS)の3量体~5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)とテトラメトキシシラン(TMOS)を用いた。MS51とTEOSの混合比率は質量比で1:1であった。また実施例13では、アルキルシリケートとして、MS51を用いた。上記以外の実施例及び比較例1~10では、実施例1と同じテトラエトキシシラン(TEOS)を用いた。
【0040】
実施例2~21及び比較例1~10のアルキルシリケート溶液中のアルキルシリケートの混合割合は、表1に示すように、実施例1と同一又は変更した。実施例2~21及び比較例1~10の純水のアルキルシリケート中のSiに対するモル濃度の割合は、表1に示すように、実施例1と同一又は変更した。実施例2~21及び比較例1~10の有機溶媒は、表1に示すように、実施例1と同一又は変更した。有機溶媒として、実施例4及び比較例6では、プロピレングリコールモノメチルエーテルを、実施例14、21ではメタノールを、実施例15では2-プロパノールを、実施例16ではn-プロパノールを、実施例17ではエチレングリコールを、実施例18ではブタノールを、それぞれ用いた。上記以外の実施例及び比較例1~5、7~10では、実施例1と同じエタノールを用いた。
【0041】
表2に示すように、実施例2~21及び比較例1~10の原料液の調製に際して、アルカリ触媒の種類を、実施例1と同一又は変更した。いずれもアルカリ性水溶液である。アルカリ触媒として、比較例1では、水酸化マグネシウム(Mg(OH))を、比較例2では、塩化アルミニウム(AlCl)6水和物とアンモニア(NH)水を、溶液中のAlとNが1:1となるように、混合した液体を用いた。またアルカリ触媒の、アルキルシリケートをシリカに換算したときのシリカに対する添加割合は、実施例1と同一又は変更した。更に、表2に示すように、実施例2~21及び比較例1~10の原料液の加熱に際して、その温度と時間を実施例1と同一又は変更した。こうした製造条件で、実施例2~21及び比較例1~10の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルをそれぞれ得た。
【0042】
<比較例11>
比較例11では、特許文献1の実施例1に準じた方法で鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを得た。具体的には、陽イオン交換樹脂充填のカラムにSiO濃度3.6質量%の珪酸ナトリウム水溶液を通して活性珪酸のコロイド水溶液を得た。この活性珪酸のコロイド水溶液2000gをガラス容器に投入し、次いで水溶液を撹拌しながら、この水溶液に10質量%の塩化カルシウム水溶液8.0gを滴下して混合した。この混合液を撹拌しながら、30分後に、更に10質量%の水酸化ナトリウム水溶液12.0gを滴下して原料液を調製した。この原料液をステンレス製オートクレーブに入れ、130℃で6時間加熱した後、内容物を取り出し、鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを得た。
【0043】
図2A図2Fは、実施例1の加熱1時間後から加熱96時間後までの粒子成長の状況を示すFE-SEM写真図である。図2A図2Fに、実施例1の原料液を加熱したときの加熱1時間後(図2A)、加熱6時間後(図2B)、加熱24時間後(図2C)、加熱48時間後(図2D)、加熱72時間後(図2E)及び加熱96時間後(図2F)におけるそれぞれの粒子が分散している状態のFE-SEM写真図を示す。
【0044】
図3に、実施例2の原料液を24時間加熱した後のFE-SEM写真図を示す。更に、図4に、比較例11の原料液を6時間加熱した後の粒子が分散している状態のFE-SEM写真図を示す。
【0045】
<評価>
(1) 原料液の加熱後におけるコロイダルシリカ粒子の状態
前述したFE-SEMを用いて、実施例1~21及び比較例1~11の原料液の加熱1時間後(加熱初期)及び加熱終了時(最終)におけるコロイダルシリカ粒子の状態を観察した。その結果を以下の表3に示す。実施例1の加熱初期である加熱1時間後のコロイダルシリカ粒子の状態を図2Aに示す。実施例1のコロイダルシリカ粒子の一次粒子の平均粒子径は4nmであり、その平均アスペクト比は、1.0であった。まだ鎖状にはなっていなかった。加熱終了時の加熱96時間後のコロイダルシリカ粒子の状態を図2Fに示す。実施例1のコロイダルシリカ粒子の一次粒子は球状であって平均粒子径が10nmであり、平均アスペクト比が1.1であり、平均70個の一次粒子が鎖状に連なりその平均長さは700nmであった。実施例2の加熱終了時の加熱24時間後のコロイダルシリカ粒子の状態を図3に示す。比較例11の加熱終了時の加熱6時間後のコロイダルシリカ粒子の状態を図4に示す。表3に示すように、比較例11の加熱終了時の加熱6時間後のコロイダルシリカ粒子の一次粒子は球状ではなく、平均粒子径が12nmであり、平均アスペクト比が1.4であり、平均4個の一次粒子が鎖状に連なりその平均長さは50nmであった。これは溶存するカルシウムイオンがシリカ粒子の表面を溶出させるためであると推察される。
【0046】
【表3】
【0047】
(2) コロイダルシリカ粒子の不純物の含有割合
前述したICP発光分光・質量分析装置及びアンモニアメータを用いて、実施例1~21及び比較例1~11のコロイダルシリカ粒子の不純物の含有割合を測定した。その結果を以下の表4に示す。実施例1のコロイダルシリカ粒子は、アルカリ触媒にKOHを用いたため、コロイダルシリカ粒子当たりのK濃度が850質量ppmであった。Na、NH、Ca、Mg及びAlはすべて検出限界未満の1質量ppm未満であった。表4において、『<1』は不純物の含有割合が1質量ppm未満であることを示す。
【0048】
【表4】
【0049】
(3) 鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの保存安定性
実施例1~21及び比較例1~11の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルの保存安定性は、この分散ゾルを透明なガラス容器に入れ、25℃、相対湿度60%の環境下で、1ヶ月間静置することにより目視で確認した。分散ゾルに凝集物が出現せず、かつ分散ゾルがゲル化しない場合を『良好』と判定し、分散ゾルに凝集物が出現するか、又は分散ゾルがゲル化した場合を『不良』と判定した。その結果を上記表4に示す。
【0050】
(4) 塗膜の屈折率
実施例1~21及び比較例1~11の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルをガラス基板に乾燥後の厚さが0.15μmになるように、スピンコート法により塗布し、温度120℃で30分間乾燥した。ガラス基板上に形成された塗膜の屈折率を前述した分光エリプソメーターを用いて測定した。その結果を上記表4に示す。膜の屈折率のばらつきは、膜の異なる3箇所における屈折率を測定し、次の式(1)により算出した。
[(最大値-最小値)/平均値]×100% (1)
『±5%未満』の場合を膜の屈折率のばらつきが良好であると判定し、『±5%以上』の場合を膜の屈折率のばらつきが不良であると判定した。表4において、『-』は測定不能であることを示す。
【0051】
<評価結果>
表4から明らかなように、比較例1では、アルカリ触媒として、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を用いたため、溶存するマグネシウムイオンがシリカ粒子の表面から溶出し、粗大粒子の生成を促すことにより、粒子が粗大化して一次粒子の平均粒子径が30nmと大きくなり過ぎた。コロイダルシリカ粒子の鎖状の平均長さは250nmであり、平均連結個数は9個であった。このため、粗大粒子が凝集して分散せず、ガラス基板上に塗膜を形成することができず、膜の屈折率を測定できなかった。またコロイダルシリカ粒子のMg(マグネシウム)の不純物の含有割合は420質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は『不良』であった。
【0052】
比較例2では、アルカリ触媒として、塩化アルミニウム6水和物とアンモニア水の混合物を用いたため、不純物となるアルミニウムイオンがシリカ粒子の表面を溶出させ、粗大粒子の生成を促すことにより、コロイダルシリカ粒子が粗大化して一次粒子の平均粒子径が30nmとなり、コロイダルシリカ粒子の鎖状の平均長さは400nmであり、平均連結個数は14個であった。このため、粗大粒子が凝集して分散せず、ガラス基板上に塗膜を形成することができず、膜の屈折率を測定できなかった。またコロイダルシリカ粒子のNH不純物の含有割合は990質量ppmであり、かつAl(アルミニウム)の不純物の含有割合は1000質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は『不良』であった。
【0053】
比較例3では、アルカリ触媒であるNaOHの濃度が0.01質量%と低過ぎたため、反応性に乏しく、球状の一次粒子は十分に生成せず、コロイダルシリカ粒子の鎖の平均長さは20nmと短過ぎ、一次粒子の平均連結個数は2個と少な過ぎた。このため、塗膜を形成することができたが、膜の屈折率は1.30と高かった。またコロイダルシリカ粒子のNa(ナトリウム)の不純物の含有割合は12質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は『良好』であった。
【0054】
比較例4では、テトラエトキシシランの混合割合がテトラエトキシシラン溶液に対して、60.8質量%と多過ぎ、これにより純水のテトラエトキシシラン中のSiに対する割合は4.2モル濃度になったため、テトラエトキシシラン溶液がゲル化した。このため、一次粒子の平均連結個数は250個であったが、コロイダルシリカ粒子の鎖の平均長さは2500nmと長くなり過ぎ、ガラス基板上に塗膜を形成することができず、膜の屈折率を測定できなかった。またコロイダルシリカ粒子のNa(ナトリウム)の不純物の含有割合は700質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は『不良』であった。
【0055】
比較例5では、テトラエトキシシランの混合割合がテトラエトキシシラン溶液に対して、8.7質量%と少な過ぎ、これにより純水のテトラエトキシシラン中のSiに対する割合は64.0モル濃度になったため、加熱工程で、球状の一次粒子が十分に増大せず、一次粒子の平均粒子径が4nmと小さ過ぎた。一次粒子の平均連結個数は20個であり、コロイダルシリカ粒子の鎖の平均長さは80nmであって、塗膜を形成することができたが、球状粒子が凝集していたため、膜の屈折率は1.30と高かった。またコロイダルシリカ粒子のNa(ナトリウム)の不純物の含有割合は700質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は球状粒子が凝集していたが、鎖の平均長さが短かったため、『良好』であった。
【0056】
比較例6では、テトラエトキシシランの混合割合がテトラエトキシシラン溶液に対して、34.8質量%と適切であったが、純水のテトラエトキシシラン中のSiに対する割合が1.6モル濃度と少な過ぎた。このため、一次粒子が粗大化し、一次粒子の平均粒子径が35nmと大きくなり過ぎた。一次粒子の平均連結個数は15個であり、コロイダルシリカ粒子の鎖の平均長さは250nmであって、塗膜を形成することができたが、粗大な球状粒子であったため、膜の屈折率は1.37と高かった。またコロイダルシリカ粒子のNa(ナトリウム)の不純物の含有割合は700質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は『良好』であった。
【0057】
比較例7では、テトラエトキシシランの混合割合がテトラエトキシシラン溶液に対して、34.8質量%と適切であったが、純水のテトラエトキシシラン中のSiに対する割合が1.6モル濃度と少な過ぎた。このため、一次粒子が粗大化し、一次粒子の平均粒子径が40nmと大きくなり過ぎ、一次粒子の平均アスペクト比が1.4と大きくなり過ぎた。一次粒子の平均連結個数は5個であり、コロイダルシリカ粒子の鎖の平均長さは200nmであって、塗膜を形成することができたが、球状粒子が凝集していたため、膜の屈折率は1.38と高かった。またコロイダルシリカ粒子のNa(ナトリウム)の不純物の含有割合は700質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は『良好』であった。
【0058】
比較例8では、アルカリ触媒であるNH(アンモニア)の濃度が0.60質量%と高過ぎたため、テトラエトキシシランの加水分解の反応速度が著しく上昇し、球状の一次粒子が粗大化し、一次粒子の平均粒子径が30nmと大きくなり過ぎた。一次粒子の平均アスペクト比が1.2であった。コロイダルシリカ粒子の鎖の平均長さは90nmであって、一次粒子の平均連結個数は僅か3個の凝集粒子でしかなかった。このため、塗膜を形成することができたが、膜の屈折率は1.30と高かった。またコロイダルシリカ粒子のNHの不純物の含有割合は490質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は『良好』であった。
【0059】
比較例9では、テトラエトキシシランの混合割合がテトラエトキシシラン溶液に対して、69.5質量%と多過ぎ、これにより純水のテトラエトキシシラン中のSiに対する割合は2.9モル濃度になったため、テトラエトキシシラン溶液がゲル化した。一次粒子の平均連結個数は400個と極めて多くなり、コロイダルシリカ粒子の鎖の平均長さは3200nmと長くなり過ぎた。このため、ガラス基板上に塗膜を形成することができず、膜の屈折率を測定できなかった。またコロイダルシリカ粒子のNa(ナトリウム)の不純物の含有割合は700質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は『不良』であった。
【0060】
比較例10では、アルカリ触媒であるNaOHの濃度が0.70質量%と高過ぎたため、テトラエトキシシランの加水分解の反応速度が著しく上昇して、一次粒子が粗大化し、一次粒子平均粒子径が500nmと大きくなり過ぎた。コロイダルシリカ粒子の鎖の平均長さは4000nmであり、一次粒子の平均連結個数が10個の凝集粒子が得られた。一次粒子の平均アスペクト比は2.0と大きくなり過ぎた。粗大な球状粒子が凝集したため、ガラス基板上に塗膜を形成することができず、膜の屈折率を測定できなかった。またコロイダルシリカ粒子のNa(ナトリウム)の不純物の含有割合は4020質量ppmであった。分散ゾルの保存安定性は『不良』であった。
【0061】
比較例11では、アルキルシリケートの代わりに珪酸ナトリウム(珪酸Na)水溶液を用い、この珪酸ナトリウム水溶液に塩化カルシウム水溶液を添加したため、粒子合成時には不純物のNa(ナトリウム)の濃度が9691質量ppm及びCa(カルシウム)の濃度が4052質量ppmであった。また、濃縮により不純物のNaの濃度が5886質量ppm及びCaの濃度が3843質量ppmに上昇した。しかし、時間の経過とともにこの不純物のナトリウムイオン及びカルシウムイオンがシリカ粒子の表面から溶出して針状の不純物が析出したため、平均アスペクト比が1.4と非常に大きい粒子が観察された。またゾルの保存安定性は『不良』であった。分散ゾルにはゲル化や粘度の上昇がなかったため、塗膜を形成することができ、膜の屈折率は1.20であったが、鎖の太さが一様でなく、粒子の連結個数にもばらつきがあったため、膜の屈折率のばらつきが5%と非常に大きかった。
【0062】
それらに対して、実施例1~21では、上述した本発明の第2の観点の製造条件を満たす条件で鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを製造したため、本発明の第1の観点の特性を有する鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾルは、ブラウン管、液晶、有機EL等のディスプレイパネル、太陽電池、ショーケース用ガラス等において、入射光の反射を防止するために用いられる反射防止膜を形成する分野、或いはセンサーやカメラモジュール等に用いられる屈折率差を利用した中間膜等を形成する分野に用いられる。
【符号の説明】
【0064】
11 純水と有機溶媒との混合溶媒
12 アルキルシリケート
13 アルキルシリケート溶液
14 アルカリ触媒
15 原料液
16 鎖状のコロイダルシリカ粒子分散ゾル
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3
図4