IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラ株式会社の特許一覧

特許7646951液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置
<>
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図1
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図2
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図3
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図4
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図5
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図6
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図7
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図8
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図9
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図10
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図11
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図12
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図13
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図14
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図15
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図16
  • 特許-液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 607
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2024558185
(86)(22)【出願日】2024-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2024031068
【審査請求日】2024-09-30
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/031914
(32)【優先日】2023-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 光弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃史
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-134876(JP,A)
【文献】特開平11-309851(JP,A)
【文献】特開2012-158011(JP,A)
【文献】特開2004-090279(JP,A)
【文献】特開2019-111738(JP,A)
【文献】特開2020-082656(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111823714(CN,A)
【文献】特開2019-071361(JP,A)
【文献】特開2012-061704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧力室と、
前記複数の圧力室のそれぞれに繋がる複数のノズルと、
前記複数の圧力室上に位置する振動板と、
前記複数の圧力室に対応する前記振動板上に位置する複数の圧電素子と、
を備え、
前記振動板は、
第1シリコン酸化層と、
前記第1シリコン酸化層上に位置し、厚みが1.1μm~1.9μmである単層のシリコン層と、
前記単層のシリコン層上に位置する第2シリコン酸化層と、
を有し、
前記単層のシリコン層は、単結晶シリコンから構成される
液体吐出ヘッド。
【請求項2】
複数の圧力室と、
前記複数の圧力室のそれぞれに繋がる複数のノズルと、
前記複数の圧力室上に位置する振動板と、
前記複数の圧力室に対応する前記振動板上に位置する複数の圧電素子と、
を備え、
前記振動板は、
第1シリコン酸化層と、
前記第1シリコン酸化層上に位置し、厚みが1.1μm~1.35μmである単層のシリコン層と、
前記単層のシリコン層上に位置する第2シリコン酸化層と、
を有し、
前記第1シリコン酸化層の厚みおよび前記第2シリコン酸化層の厚みの合計は、0.5μm以上である
液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第1シリコン酸化層の厚みおよび前記第2シリコン酸化層の厚みの合計は、0.5μm以上であり、
前記単層のシリコン層の厚みは、1.1μm~1.35μmである
請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記単層のシリコン層は、前記第1シリコン酸化層および前記第2シリコン酸化層に直接接する
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1シリコン酸化層の厚みおよび前記第2シリコン酸化層の厚みの合計は、0.3μm以下であり、
前記単層のシリコン層の厚みは、1.3μm~1.8μmである
請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第1シリコン酸化層の厚みおよび前記第2シリコン酸化層の厚みの合計は、0.3μmより大きく、
前記単層のシリコン層の厚みは、1.1μm~1.55μmである
請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記複数のノズルの解像度は、150dpi~1200dpiである
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記単層のシリコン層は、厚みが最大となる部分と厚みが最小となる部分の差が、0.01μm以上である
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記圧電素子の厚みは、前記振動板の厚みより薄い
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第1シリコン酸化層は、前記圧力室に対応する部分において、中央部の厚みが、端部の厚みよりも厚い
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
断面視したとき、
前記圧力室は、高さ方向に一対の第1端部および第2端部を有しており、
前記第1端部は、前記振動板に接しており、
前記第2端部は、前記ノズルに接しており、
前記第1端部の幅は、前記第2端部の幅よりも大きい
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記複数の圧電素子は、前記振動板上に、前記複数の圧力室に共通した共通電極を含んでおり、
前記第2シリコン酸化層は、前記共通電極下に位置する部分の厚みが、前記共通電極下に位置していない部分の厚みより厚い
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドにおける前記複数の圧電素子に共通に印加される電圧の値が格納された格納部と、を備える
ヘッドモジュール。
【請求項14】
複数の前記液体吐出ヘッドを備え、
前記電圧の値は、複数の前記液体吐出ヘッドの間で、異なる値である
請求項13に記載のヘッドモジュール。
【請求項15】
前記単層のシリコン層の厚みの平均値は、複数の前記液体吐出ヘッドの間で、0.01μm以上異なる
請求項14に記載のヘッドモジュール。
【請求項16】
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドと記録媒体とを相対移動させる移動部と、
前記移動部を制御する制御部と、を備える
記録装置。
【請求項17】
請求項13に記載のヘッドモジュールと、
前記ヘッドモジュールと記録媒体とを相対移動させる移動部と、
前記移動部を制御する制御部と、を備える
記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出ヘッド、ヘッドモジュール、および、記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を記録媒体に向かって吐出する液体吐出ヘッドが知られている。このような液体吐出ヘッドは、複数の圧力室と、複数の圧力室のそれぞれに繋がる複数のノズルと、複数の圧力室上に位置する振動板と、複数の圧力室に対応する振動板上に位置する複数の圧電素子と、を備えている。圧電素子に電圧が印加されると、圧電素子が変位し、この圧電素子の変位に伴い、振動板が変位する。振動板の変位により、圧力室内の液体が加圧され、圧力室に繋がるノズルから液体が吐出される。
【0003】
特許文献1には、振動板の材料としてSOI(Silicon On Insulator)ウェハが用いられており、シリコン層の上面および下面に第1シリコン酸化層および第2シリコン酸化層が形成されている。特許文献1には、シリコン層の厚みが2μm~20μm、第1シリコン酸化層および第2シリコン酸化層の厚みがそれぞれ0.5μm~2.0μmであることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、振動板としてSOIウェハが用いられており、シリコン層の上面および下面に第1シリコン酸化層および第2シリコン酸化層が形成されている。特許文献2には、シリコン層の厚みが3μm以上、第1シリコン酸化層の厚みが0.5μm以上、第2シリコン酸化層の厚みが0.5μm以上であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-228458号公報
【文献】特開2019-161213号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の一態様に係る液体吐出ヘッドは、複数の圧力室と、前記複数の圧力室のそれぞれに繋がる複数のノズルと、前記複数の圧力室上に位置する振動板と、前記複数の圧力室に対応する前記振動板上に位置する複数の圧電素子と、を備え、前記振動板は、第1シリコン酸化層と、前記第1シリコン酸化層上に位置し、厚みが1.1μm~1.9μmである単層のシリコン層と、前記単層のシリコン層上に位置する第2シリコン酸化層と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態に係るプリンタを模式的に示す側面図である。
図2図2は、本実施形態に係るプリンタを模式的に示す平面図である。
図3図3は、本実施形態に係る液体吐出ヘッドを模式的に示す平面図である。
図4図4は、図3に示す液体吐出ヘッドをAから見た図である。
図5図5は、図3に示す領域Iを拡大した図である。
図6図6は、図5に示すII-II線に沿った断面図である。
図7図7は、図5に示すIII―III線に沿った断面図である。
図8図8は、第1シリコン酸化層の厚みおよび第2シリコン酸化層の厚みの合計が0.1μmのときの評価実験結果を示した図である。
図9図9は、第1シリコン酸化層の厚みおよび第2シリコン酸化層の厚みの合計が0.2μmのときの評価実験結果を示した図である。
図10図10は、第1シリコン酸化層の厚みおよび第2シリコン酸化層の厚みの合計が0.3μmのときの評価実験結果を示した図である。
図11図11は、第1シリコン酸化層の厚みおよび第2シリコン酸化層の厚みの合計が0.4μmのときの評価実験結果を示した図である。
図12図12は、第1シリコン酸化層の厚みおよび第2シリコン酸化層の厚みの合計が0.5μmのときの評価実験結果を示した図である。
図13図13は、第1シリコン酸化層の厚みおよび第2シリコン酸化層の厚みの合計が0.6μmのときの評価実験結果を示した図である。
図14図14は、振動板の変位量を示した図である。
図15図15は、図6に示す領域IVを拡大した図である。
図16図16は、図7に示す領域Vを拡大した図である。
図17図17は、ヘッドモジュールの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率などは現実のものとは必ずしも一致していない。同一の構成を示す複数の図面同士においても、形状などを誇張するために、寸法比率などは互いに一致していないことがある。
【0010】
図1および図2を参照して本実施形態に係るプリンタ10の構成について説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1を含むプリンタ10を模式的に示す側面図である。図2は、プリンタ10を模式的に示す平面図である。プリンタ10は、例えば、カラーインクジェットプリンタである。
【0012】
図1に示すように、プリンタ10は、給紙ローラ101、ガイドローラ102、搬送ローラ103、回収ローラ104、ヘッドケース105、フレーム106、液体吐出ヘッド1、乾燥機107、センサ部108、および、制御部109を備える。
【0013】
制御部109は、給紙ローラ101、ガイドローラ102、搬送ローラ103、回収ローラ104、ヘッドケース105、フレーム106、液体吐出ヘッド1、乾燥機107、および、センサ部108の動作を制御する。
【0014】
給紙ローラ101、ガイドローラ102、搬送ローラ103、および、回収ローラ104は、印刷用紙Pと液体吐出ヘッド1とを相対移動させる移動部を構成している。印刷用紙Pは記録媒体の一例である。移動部は、制御部109によって、制御されている。印刷用紙Pは給紙ローラ101から、2つのガイドローラ102Aの間を通り、複数の搬送ローラ103上に搬送される。その後、印刷用紙Pは、二つのガイドローラ102Bの間および2つのガイドローラ102Cの間を通り、回収ローラ104へと搬送される。
【0015】
ヘッドケース105は、搬送ローラ103、フレーム106、および、液体吐出ヘッド1を収容する。ヘッドケース105は、印刷用紙Pが出入りする部分などの一部において外部と繋がっているが、他は、外部と隔離された空間である。ヘッドケース105の内部空間は、必要に応じて、制御部109によって、温度、湿度、および、気圧などの制御因子が制御される。
【0016】
フレーム106は、平板状であり、搬送ローラ103で搬送される印刷用紙Pの上方に近接して位置している。フレーム106はヘッドケース105内に4つ、印刷用紙Pの搬送方向に沿って所定の間隔で位置している。プリンタ10に搭載されているフレーム106の個数は、印刷する対象または印刷条件に応じて適宜変更可能である。
【0017】
液体吐出ヘッド1は、図2の紙面上下方向に細長い長尺形状を有している。液体吐出ヘッド1は、図2に示すように、各フレーム106に5つ搭載されている。各フレーム106内において、5つの液体吐出ヘッド1で、ヘッドモジュール100を構成している。各フレーム106内において、3個の液体吐出ヘッド1は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に沿って並んでおり、他の2個の液体吐出ヘッド1は搬送方向に沿ってずれた位置で、3個の液体吐出ヘッド1の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。各フレーム106内において、各液体吐出ヘッド1が、印刷用紙Pの搬送方向において重複するように配置されている。1つのフレーム106に含まれる液体吐出ヘッド1の個数は、印刷する対象または印刷条件に応じて適宜変更可能である。移動部は、印刷用紙Pとヘッドモジュール100とを相対移動させることにより、印刷用紙Pと液体吐出ヘッド1とを相対移動させる。
【0018】
本実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、プリンタ10に対して固定されている。すなわち、プリンタ10は、ラインプリンタとなっている。なお、プリンタ10は、ラインプリンタに限られず、液体吐出ヘッド1を印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に移動させつつ液滴を吐出する動作と、印刷用紙Pの搬送とを交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタであってもよい。
【0019】
液体吐出ヘッド1は、画像または文字などのデータに基づいて、制御部109によって制御され、印刷用紙Pに向けて液体を吐出する。液体吐出ヘッド1と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば、0.5~20mm程度である。
【0020】
1つのヘッドモジュール100に属する液体吐出ヘッド1には、同じ色の液体が供給されるようになっており、4つのヘッドモジュール100で4色の液体が印刷できる。各ヘッドモジュール100は、5つの液体吐出ヘッド1上にわたって位置するリザーバ基板を設けてもよい。これにより、リザーバ基板が有する流路から5つの液体吐出ヘッド1に液体を供給することが可能である。各ヘッドモジュール100の液体吐出ヘッド1から吐出される液体の色は、例えば、マゼンタ、イエロー、シアン、および、ブラックである。このような液体を印刷用紙Pに着弾させることにより、カラー画像を印刷できる。なお、液体の色の種類は、適宜変更可能である。また、1つのヘッドモジュール100に属する液体吐出ヘッド1において、数種類の色の液体を供給し、1つのヘッドモジュール100で数種類の色の液体が印刷できる構成であってもよい。
【0021】
さらに、色のある液体を印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を、液体吐出ヘッド1で一様に、あるいはパターンニングして印刷してもよい。なお、液体吐出ヘッド1に代えて、図示しない塗布機からコーティング剤を塗布してもよい。
【0022】
乾燥機107は、印刷用紙Pを乾燥させる。2つのガイドローラ102Bを通ったあと、乾燥機107により印刷用紙Pは、乾燥される。乾燥機107で乾燥することにより、回収ローラ104において、重なって巻き取られる印刷用紙P同士が接着したり、未乾燥の液体が擦れることが起き難くなる。
【0023】
センサ部108は、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを備えている。制御部109が、各センサからの情報に基づいて、プリンタ10の各部を制御することができる。
【0024】
プリンタ10は、液体吐出ヘッド1をクリーニングするクリーニング部を備えていてもよい。クリーニング部は、たとえば、ワイピング処理またはキャッピング処理によって液体吐出ヘッド1の洗浄を行う。
【0025】
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ10は、記録媒体を搬送ベルトにおいて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙、裁断された布、木材、または、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、液体吐出ヘッド1から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド1から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤または化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
【0026】
図3および図4を参照して本実施形態に係る液体吐出ヘッド1の構成について説明する。図3は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1を模式的に示す平面図である。図4は、図3に示す液体吐出ヘッド1をAから見た側面図である。なお、図3中の紙面上下方向に図示された2本の波線は、省略線を表す。
【0027】
なお、説明を分かりやすくするために、図3には、紙面上向きを正方向とするX軸、紙面右方向を正方向とするY軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、後述の説明に用いる他の図面でも示している。また、以下の説明では、便宜的に、液体吐出ヘッド1において、Z軸正方向側を「上」と呼称する場合がある。なお、液体吐出ヘッド1において、X軸方向は、印刷用紙Pの搬送方向である。
【0028】
液体吐出ヘッド1は、ノズル部材2、アクチュエータ部材3、支持部材4、および、液体供給部材5を備える。
【0029】
ノズル部材2は、複数のノズル21を備える。ノズル部材2は、シリコンで形成されている。
【0030】
複数のノズル21は、ノズル部材2をZ軸方向に貫通する貫通孔である。複数のノズル21は、Y軸方向に沿って位置しており、ノズル群21Gを形成している。本実施形態に係るノズル群21Gは、X軸正方向側に第1ノズル群21GAを有しており、X軸負方向側に第2ノズル群21GBを有している。本実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、ノズル群21Gを2つ有しているが、1つのみ有していてもよいし、3つ以上有していてもよい。本実施形態に係る2つのノズル群21Gは、互いに平行に構成されている。また、ノズル群21GのY軸方向のノズル21間の大きさは84.6μmである。つまり、各ノズル群21Gのノズル21の解像度は、300dpiである。第1ノズル群21GAのノズル21はそれぞれ、第2ノズル群21GBの複数のノズル21のY軸方向における間に位置している。つまり、第1ノズル群21GAのノズル21と第2ノズル群21GBのノズル21とは、互いにY軸方向にずれており、2つのノズル群21Gを合わせたノズル21の解像度は600dpiとなる。なお、各ノズル群21Gのノズル21間の大きさは、適宜設定されてよい。
【0031】
アクチュエータ部材3は、複数の圧力室31および複数の第1アパチャ32が形成されたシリコン基板30、シリコン基板30上に位置する振動板33、および、振動板33上に位置する複数の圧電素子34から構成されている。シリコン基板30は、ノズル部材2上に位置している。本実施形態に係るアクチュエータ部材3は、平面視して、ノズル部材2とほぼ同じ形状を有している。
【0032】
複数の圧力室31は、シリコン基板30をZ軸方向に貫通する貫通孔であり、それぞれ、複数のノズル21に繋がるように設けられている。本実施形態に係る複数の圧力室31はそれぞれ、複数のノズル21に物理的に繋がっているがこれに限らない。例えば、複数の圧力室31はそれぞれ、ディセンダのような流路を介して、複数のノズル21に流体的に繋がっていてもよい。すなわち、「繋がる」とは物理的に繋がる場合に限らず、流体的に繋がる場合も含む概念である。複数の圧力室31は、複数のノズル21と同様に、Y軸方向に沿って位置している。また、複数の圧力室31は、平面視して、その長手方向がX軸方向に沿うように位置しており、その短手方向がY軸方向に沿うように位置している。本実施形態に係る圧力室31は、ほぼ矩形の平面形状を有するが、これに限らない。例えば、圧力室31は、ひし形または円形の平面形状を有していてもよい。圧力室31内には液体が貯蔵される。圧力室31内の液体に圧力が付与されることにより、液体がノズル21から液滴として外部へ吐出される。
【0033】
複数の第1アパチャ32は、シリコン基板30をZ軸方向に貫通する貫通孔であり、それぞれ、複数の圧力室31の長手方向の一方の端部に繋がるように設けられている。X軸正方向側に位置する圧力室31と繋がる第1アパチャ32は、圧力室31のX軸負方向側の端部に繋がるように設けられている。X軸負方向側に位置する圧力室31と繋がる第1アパチャ32は、圧力室31のX軸正方向側の端部に繋がるように設けられている。また、第1アパチャ32内には、圧力室31内と同様に、液体が貯蔵される。第1アパチャ32は、平面視したとき、圧力室31に対してY軸方向の幅、つまり、流路幅が小さいため、いわゆるしぼりとして機能する。
【0034】
振動板33は、複数の圧力室31上および複数の第1アパチャ32上に位置している。
【0035】
複数の圧電素子34は、複数の圧力室31に対応する振動板33上に位置している。複数の圧電素子34は、複数の圧力室31と1:1の関係で設けられている。圧電素子34に電圧を印加することにより、圧電素子34が変位する。圧電素子34の変位に伴い、圧力室31上に位置する振動板33も変位する。その結果、圧力室31の液体に圧力が付与される。これにより、圧力室31からノズル21を介して、液体が吐出される。
【0036】
支持部材4は、アクチュエータ部材3上に位置している。支持部材4は、アクチュエータ部材3よりもZ軸方向に厚い所定の厚みを有しており、アクチュエータ部材3を支持する機能を有する。支持部材4は、複数の第2アパチャ41を備える。支持部材4は、シリコンで形成されている。
【0037】
複数の第2アパチャ41は、支持部材4をZ軸方向に貫通する貫通孔であり、それぞれ、複数の第1アパチャ32に繋がるように設けられている。複数の第2アパチャ41はそれぞれ、複数の第1アパチャ32を介して複数の圧力室31に繋がる。第2アパチャ41は、第1アパチャ32と同様に、いわゆるしぼりとして機能する。また、複数の第2アパチャ41は、平面視したとき、支持部材4のX軸方向の中央に位置する。
【0038】
液体供給部材5は、支持部材4上に位置している。液体供給部材5は、平面視して、支持部材4とほぼ同じ形状を有している。液体供給部材5は、共通流路51を備える。液体供給部材5は、樹脂で形成されている。
【0039】
共通流路51は、平面視したとき、液体供給部材5のX軸方向の中央に位置し、Y軸方向に沿って設けられている。このため、共通流路51は、複数の第2アパチャ41上に位置しており、複数の第2アパチャ41に繋がる。そのため、共通流路51は、複数の第2アパチャ41に液体を供給することができる。
【0040】
圧力室31、第1アパチャ32、第2アパチャ41、および、共通流路51には液体が満たされている。圧電素子34により、圧力室31に圧力が付与されることにより、圧力室31からノズル21に液体が供給され、ノズル21から液滴が吐出される。また、圧力室31へは、第1アパチャ32および第2アパチャ41を介して共通流路51から液体が補充される。
【0041】
本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、各圧力室31から共通流路51までに、第1アパチャ32および第2アパチャ41の2つのアパチャが設けられている。これにより、一の圧力室31で生じた圧力波が共通流路51を介して他の圧力室31まで伝搬する、いわゆる、クロストークを軽減することができる。
【0042】
なお、図3および図4は、液体吐出ヘッド1の構成の一例を示すものであり、図3および図4に示した部材以外の部材をさらに含んでもよい。
【0043】
また、共通流路51は、圧力室31に液体を供給する共通流路51および圧力室31から液体を回収する共通流路51を有していてもよい。これにより、液体吐出ヘッド1は、ノズル21から吐出されなかった液体の一部を回収する、循環機能を有することとなる。
【0044】
図5図6、および、図7を参照して本実施形態に係る圧力室31周辺の構成について詳細に説明する。図5は、図3に示す領域Iを拡大した図である。図6は、図5に示すII―II線に沿った断面図である。図7は、図5に示すIII―III線に沿った断面図である。また、図5図6、および、図7において説明を分かり易くするために、液体供給部材5の図示は省略している。
【0045】
圧力室31の長手方向の長さ31Xは、例えば、300~500μmである。圧力室31の短手方向の長さ31Yは、例えば、60~80μmである。圧力室31の深さ方向の長さ31Zは、例えば、50~100μmである。
【0046】
振動板33は、第1シリコン酸化層331、第1シリコン酸化層331上に位置するシリコン層332、および、シリコン層332上に位置する第2シリコン酸化層333を有している。
【0047】
図6および図7に示すように、本実施形態に係るシリコン層332は、単層である。そして、シリコン層332は、第1シリコン酸化層331に接する面から、第2シリコン酸化層333に接する面までが、単体のシリコンを主成分とする単層である。ここで、単層とは、下面から上面までが、同じ材料である層をいう。また、同じ材料とは、完全に同じ材料である必要はなく、例えば、主成分が同じであればよい。なお、主成分とは、各成分のうち、最も含有率が多い成分を意味する。すなわち、単層は、主成分が同じであれば、不純物として異なる成分を含んでいてもよい。本実施形態に係るシリコン層332は、多層であるシリコン層332と比較して、積層数が少なくなる。このため、本実施形態に係るシリコン層332は、厚みのばらつきが生じる可能性を低減することができる。
【0048】
また、図6および図7に示すように、本実施形態に係る第1シリコン酸化層331および第2シリコン酸化層333も、単層である。そして、第1シリコン酸化層331および第2シリコン酸化層333は、シリコン酸化物を主成分とする単層である。
【0049】
シリコン層332は、第1シリコン酸化層331、および、第2シリコン酸化層333に直接接する。すなわち、シリコン層332と第1シリコン酸化層331の間、および、シリコン層332と第2シリコン酸化層333の間には、他の層を含まない。言い換えると、本実施形態に係る振動板33は、シリコン層332の下面332aが、第1シリコン酸化層331の上面331aと接し、かつ、シリコン層332の上面332bが、第2シリコン酸化層333の下面333aに接する。このため、本実施形態に係る振動板33は、シリコン層332と第1シリコン酸化層331の間、および、シリコン層332と第2シリコン酸化層333の間に、他の層を含む振動板と比較して、積層数が少なくなる。このため、本実施形態に係る振動板33は、厚みのばらつきが生じる可能性を低減することができる。
【0050】
詳しくは、後述するが、本実施形態のシリコン層332は、SOIウェハのシリコン層に相当する。このため、シリコン層332は、SOIウェハのシリコン層と同じく、単結晶シリコンから構成される。シリコン層332は、単結晶シリコンから構成されるため、ヤング率が150GPa以上200GPa以下である。シリコン層332は、SOIウェハのシリコン層と同じく、シリコンの純度が99%以上である。
【0051】
第1シリコン酸化層331は、保護層としての機能を有する。このため、第1シリコン酸化層331が、複数の圧力室31とシリコン層332との間に位置することにより、圧力室31内の液体からの耐食性を高めることができる。
【0052】
第2シリコン酸化層333は、絶縁体としての機能を有する。このため、第2シリコン酸化層333が、シリコン層332と複数の圧電素子34との間に位置することにより、複数の圧電素子34からシリコン層332への電流のリークを抑えることができる。そのため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、電気的クロストークを低減することができる。
【0053】
圧電素子34は、共通電極341、圧電体342、および、個別電極343で構成されている。さらに、本実施形態に係る圧電素子34は、振動板33上に共通電極341が位置しており、共通電極341上に圧電体342が位置しており、圧電体342上に個別電極343が位置しているが、これに限らない。例えば、振動板33からの共通電極341と個別電極343の並び順が逆であってもよい。具体的には、振動板33上に個別電極343、圧電体342、および、共通電極341の順に設けられていてもよい。さらに、圧電素子34は、共通電極341と振動板33との間に、Tiのような密着層を有していてもよい。また、圧電素子34は、共通電極341と圧電体342との間、および、圧電体342と個別電極343との間にLaNiOのような密着層を有していてもよい。
【0054】
本実施形態に係る共通電極341は、複数の圧力室31に共通して設けられている。本実施形態に係る共通電極341の厚さは、0.05μm以上1μm以下とされてよい。また、共通電極341の構成材料は、例えば、Ptなどの金属材料が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係る圧電体342は、各圧力室31に対応して個別に設けられているが、これに限らない。例えば、圧電体342は、共通電極341と同様に、複数の圧力室31に共通して設けられていてもよい。圧電体342において、個別電極343と共通電極341とに挟まれている部分は、Z軸方向の厚さ方向に分極されている。このため、例えば、個別電極343および共通電極341によって圧電体342の分極方向に電圧を印加すると、圧電体342は振動板33に沿う方向に収縮する。この収縮は、振動板33によって規制される。その結果、圧電体342は圧力室31側へ凸となるように変位する。圧電体342の変位に伴い、圧力室31上に位置する振動板33も変位する。その結果、圧力室31の液体に圧力が付与される。圧電体342の厚さは、0.5μm以上5μm以下とされてよい。圧電体342の構成材料は、例えば、Pb(Zr,Ti)O系、NaNbO系、BaTiO系、(BiNa)NbO系、BiNaNB15系などの強誘電性を有するセラミックス材料が挙げられる。
【0056】
個別電極343は、各圧力室31に対応して個別に設けられている。個別電極343の厚さは、0.05μm以上1μm以下とされてよい。個別電極343の構成材料は、例えば、Ptなどの金属材料が挙げられる。
【0057】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッド1の振動板33の実施態様について詳細に説明する。
【0058】
液体吐出ヘッド1は、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性を低減にするためには、シリコン層332の厚みが複数の圧力室31に対して均一であることが好ましい。ここで、液体の吐出ばらつきとは、複数の圧電素子34に一定の電圧の値を印加する場合において、シリコン層332の厚みが複数の圧力室31に対して不均一であることに起因する複数のノズル21から吐出される液体の吐出速度のばらつきまたは液体の吐出量のばらつきである。また、吐出電圧のばらつきとは、複数のノズル21から一定の吐出速度で液体を吐出するように、各圧電素子34に印加する電圧の値を調整した場合において、シリコン層332の厚みが複数の圧力室31に対して不均一であることに起因する電圧の値のばらつきである。
【0059】
シリコン層332の厚みを複数の圧力室31それぞれに対して均一にすることは、製造上困難である。このため、従来の液体吐出ヘッドでは、複数の圧力室に対してシリコン層の厚みが不均一であることに起因して、複数のノズルから吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じていた。ここで、シリコン層の厚みが不均一とは、例えば、複数の圧力室に対してシリコン層の厚みが最大となる部分とシリコン層の厚みが最小となる部分の差が、0.01μm以上であることをいう。
【0060】
本発明者にて詳細な検討を行ったところ、シリコン層332の厚みが厚すぎる場合と、シリコン層332の厚みが薄すぎる場合とで、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性が大きくなることが判った。
【0061】
そこで、本発明者は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1を用いて評価実験を実施した。評価実験の内容は以下の通りである。
【0062】
まず、様々なシリコン層332の厚みに対して、液体吐出ヘッド1が、吐出速度8m/sで液体を吐出するために圧電素子34に印加する必要のある電圧の値をシミュレーションにより算出した。また、算出した値を基に、様々なシリコン層332の厚みに対して、電圧の傾きを計算した。電圧の傾きは、シリコン層332の厚みの変化による電圧のばらつきを示す。以下、シリコン層332の厚みの変化による電圧のばらつきを「電圧ばらつき」と称して説明する。この電圧ばらつきが大きい液体吐出ヘッド1では、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性が大きくなる。
【0063】
評価の条件として、図5図7において、共通電極341の厚みを0.1μm、圧電体342の厚みを1μm、個別電極343の厚みを0.1μm、圧力室31の長手方向の長さ31Xを500μm、圧力室31の短手方向の長さ31Yを70μm、圧力室31の深さ方向の長さ31Zを70μmとした。また、液体の粘度は、4.5mPa・sとした。印加する電圧のパルス幅は、液体吐出ヘッド1の固有振動周期の半分の時間であるAL(Acoustic Length)とした。
【0064】
なお、液体を吐出する方法としては、いわゆる引き打ち方法を用いている。つまり、あらかじめ個別電極343を共通電極341より高い電位にしておき、吐出するタイミングで個別電極343を共通電極341と一旦同じ低い電位とし、ALの時間後、再び高い電位とすることで液体を吐出している。この際、高い電位と低い電位の差が圧電素子34に印加する必要のある電圧の値である。
【0065】
評価実験結果を図8図13に示す。図8は、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.1μmの場合における、評価実験結果を示している。図9は、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.2μmの場合における、評価実験結果を示している。図10は、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.3μmの場合における、評価実験結果を示している。図11は、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.4μmの場合における、評価実験結果を示している。図12は、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.5μmの場合における、評価実験結果を示している。図13は、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.6μmの場合における、評価実験結果を示している。
【0066】
評価実験結果において、電圧ばらつきが5V/μm未満で液体の吐出ばらつきの評価または吐出電圧のばらつきの評価を〇とし、5V/μm以上で液体の吐出ばらつきの評価または吐出電圧のばらつきの評価を×とした。図8図13においては、液体の吐出ばらつきの評価または吐出電圧のばらつきの評価を、単に「評価」と記載している。電圧ばらつきが5V/μm以上では、電圧ばらつきが大きく、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性が大きくなるためである。
【0067】
なお、図12および図13に示すように、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.5μmの場合および0.6μmの場合において、シリコン層332の厚みが0.5μmの際に、電圧ばらつきがそれぞれ4.39V/μmおよび2.97V/μmとなっており、5V/μm以下となっている。しかしながら、シリコン層332の厚みは、1.0μm以下であり、比較的薄い。また、一方で、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.5μm以上であり、比較的厚い。このため、第1シリコン酸化層331および第2シリコン酸化層333を安定的な成膜とするのが容易ではない。このため、製造上、第1シリコン酸化層331および第2シリコン酸化層333の厚みにばらつきが生じる可能性がある。このため、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.5μmまたは0.6μmであり、シリコン層332の厚みが0.5μmである液体吐出ヘッド1では、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性が大きい。そのため、電圧ばらつきが5V/μm未満であっても、液体の吐出ばらつきの評価または吐出電圧のばらつきの評価を×としている。
【0068】
図8図13から分かるように、電圧ばらつきは、シリコン層332の厚みが1.1μmから0.5μmにかけて急激に大きくなる。さらに、電圧ばらつきは、シリコン層332の厚みが1.9μmから3μmにかけても急激に大きくなる。
【0069】
例えば、図9に示すように、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.2μmの場合において、電圧ばらつきは、シリコン層332の厚みが1.1μmから1.9μmにかけて、3.74V/μmから3.09V/μmと大きくは変化していない。一方で、シリコン層332の厚みが1.1μmから0.5μmにかけて、電圧ばらつきは3.74V/μmから8.85V/μmと急激に大きくなる。さらに、シリコン層332の厚みが1.9μmから3μmにかけて、電圧ばらつきは3.09V/μmから12.47V/μmと急激に大きくなる。
【0070】
第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.1μm、0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.6μmの場合もこれと同様である。
【0071】
また、シリコン層332の厚みが1.1μm~1.9μmである振動板33では、ばらつき評価は〇になっている。すなわち、シリコン層332の厚みが1.1μm~1.9μmである液体吐出ヘッド1では、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性を低減することができる。また、上記の評価条件以外の条件においても、シリコン層332の厚みが1.1μm~1.9μmである液体吐出ヘッド1では、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性を低減することができる。
【0072】
以上より、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、振動板33のシリコン層332の厚みは、1.1μm~1.9μmである。
【0073】
ここで、シリコン層332の厚みとは、各圧力室31に対応する部分のみのシリコン層332の平均厚みである。また、平均厚みは、圧力室31に対応する部分のみのシリコン層332の厚みを少なくとも3点以上の複数点で測定し、これらの測定値を算術平均した値である。なお、3点以上の複数点とは、圧力室31に対応する部分のみのシリコン層332の任意の3点の測定値の算術平均であってもよいし、5点の測定値の算術平均であってもよい。すなわち、10点以上の多数の測定を求める概念ではない。また、第1シリコン酸化層331の厚み、第2シリコン酸化層333、振動板33、および、圧電素子34の厚みの考え方も、上記で説明したシリコン層332の厚みの考え方と同様である。
【0074】
ここで、シリコン層332の厚みが1.1μm~1.9μmとは、少数点第2位の値を四捨五入した際に1.1μm~1.9μmになるものを含む。例えば、シリコン層332の厚みが1.09μmであった場合、少数点第2位の値を四捨五入すれば1.1μmとなるため、1.1μm~1.9μmの範囲に含まれることとなる。また、例えば、シリコン層332の厚みが1.92μmであった場合、少数点第2位の値を四捨五入すれば1.9μmとなるため、1.1μm~1.9μmの範囲に含まれることとなる。
【0075】
また、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.6μmのそれぞれの場合において、シリコン層332の厚みが、1.3μm~1.55μmのとき、電圧ばらつきが3V/μm未満となる。このため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、シリコン層332の厚みが、1.3μm~1.55μmであることがより好ましい。
【0076】
本発明者は、さらに、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1において、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきに加えて、振動板33の変位量についても詳細に検討を行った。上記では、液体吐出ヘッド1が、吐出速度8m/sで液体を吐出するために圧電素子34に印加する必要のある電圧の値をシミュレーションにより算出した。本発明者は、この電圧の値を圧電素子34に印加した際の振動板33の変位量をシミュレーションにより同時に算出した。なお、ここでは、シリコン層332の厚みが、1.45μmである場合における振動板33の変位量を算出した。ここで、変位量とは、電圧を圧電素子34に印加した際の振動板33の最大変位量のことである。
【0077】
評価の条件は、図8図13におけるシミュレーションの評価の条件と同様である。
【0078】
算出した振動板33の変位量を図14に示す。図14では、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、0.5μm、および、0.6μmである振動板33における電圧および変位量を示している。図14においては、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計を単に「厚みの合計」と記載している。
【0079】
振動板33の変位量が大きいほど、ノズル21から吐出される液体の吐出量が大きい。第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.3μm以下では、振動板33の変位量は、280nm以上となっており、比較的変位量が大きい。
【0080】
このため、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.3μm以下である振動板33を有する液体吐出ヘッド1では、ノズル21から吐出される液体の吐出量が大きい。また、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.3μm以下で、かつ、シリコン層332の厚みが、1.3μm~1.8μmのとき、電圧ばらつきが3V/μm未満となる。
【0081】
そのため、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.3μm以下であり、かつ、シリコン層332の厚みが1.3μm~1.8μmである振動板33を有する液体吐出ヘッド1では、複数のノズル21から吐出される液体の吐出量が大きく、かつ、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性を低減することができる。このため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計は、0.3μm以下であり、かつ、シリコン層332の厚みは、1.3μm~1.8μmであることが好ましい。さらに、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.1μmより小さい振動板33では、圧力室31内の液体からの耐食性、または、電気的クロストークの低減のような効果が得られにくい。そのため、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計は、0.1μm以上が好ましい。
【0082】
一方で、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.3μmより大きい振動板33では、変位量が、0.3μm以下の振動板33と比べて小さい。これは、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.3μmより大きい振動板33では、剛性が大きいことを意味する。このため、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.3μmより大きい振動板33は、変位による劣化が生じる可能性を低減することができる。また、振動板33の第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.3μmより大きく、かつ、シリコン層332の厚みが1.1μm~1.55μmのとき、電圧ばらつきが3V/μm未満となる。
【0083】
そのため、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計は0.3μmより大きく、かつ、シリコン層332の厚みが1.1μm~1.55μmである振動板33を有する液体吐出ヘッド1では、振動板33の劣化が生じる可能性を低減することができ、かつ、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性を低減することができる。このため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計は、0.3μmより大きく、シリコン層332の厚みは、1.1μm~1.55μmであることが好ましい。
【0084】
さらに、振動板33の第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.5μm以上で、かつ、シリコン層332の厚みが1.1μm~1.35μmのとき、電圧ばらつきが2V/μm未満となる。
【0085】
このため、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.5μm以上で、かつ、シリコン層332の厚みが1.1μm~1.35μmである振動板33を有する液体吐出ヘッド1では、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性をより低減することができる。そのため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が0.5μm以上で、かつ、シリコン層332の厚みが1.1μm~1.35μmであることがより好ましい。
【0086】
さらに、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が、1.0μmより大きい振動板33では、液体を吐出できるような変位量が得られにくいため、第1シリコン酸化層331の厚みおよび第2シリコン酸化層333の厚みの合計が、1.0μm以下であることが好ましい。
【0087】
なお、図8図13に示した電圧ばらつきの評価は、圧力室31の短手方向の長さ31Yが70μmのときの評価であり、複数のノズル21の解像度が300dpiであることを想定している。複数のノズル21の解像度が1200dpiより大きい場合は、圧力室31の短手方向の長さ31Yが小さくなるため、振動板33が液体を吐出できるような変位量が得られにくい。そのため、複数のノズル21の解像度は1200dpi以下が好ましい。また、複数のノズル21の解像度が150dpiより小さい場合は、解像度が小さく、良質な画質が得られにくい。そのため、複数のノズル21の解像度は150dpi以上が好ましい。
【0088】
また、液体吐出ヘッド1において、シリコン層332の厚みが最大となる部分とシリコン層332の厚みが最小となる部分の差が0.01μm以上である振動板33では、複数の圧力室31に対してシリコン層332の厚みが不均一となるため、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性が大きくなる。そのため、シリコン層332の厚みは、1.1μm~1.9μmであることがより好ましい。
【0089】
本実施形態に係る圧電素子34の厚みは1.2μmである。本実施形態に係る振動板33の厚みは1.65μmである。すなわち、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、圧電素子34の厚みが振動板33の厚みより薄い。これにより、圧電素子34の厚みが厚いことによる、振動板33の変位量が低下する可能性を低減することができる。
【0090】
図15を参照して本実施形態に係る圧力室31および圧力室31周辺の構成について詳細に説明する。図15は、図6に示す領域IVを拡大した図である。
【0091】
第1シリコン酸化層331は、圧力室31に対応する部分において、中央部3311と、中央部3311の両側に端部3312を有している。第1シリコン酸化層331において、中央部3311が端部3312よりも変位量が大きいため、中央部3311の劣化が生じる可能性が大きい。このため、本実施形態に係る第1シリコン酸化層331では、中央部3311の厚みが、端部3312の厚みよりも厚くなるように構成されている。これにより、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、中央部3311の剛性を大きくすることができ、中央部3311、ひいては振動板33が劣化する可能性を低減することができる。
【0092】
また、断面視して、中央部3311は凸曲面を有している。中央部3311が凸曲面を有しているので、凸曲面により応力を緩和することが可能となり、振動板33が劣化する可能性をさらに低減することができる。
【0093】
振動板33の変位により、圧力室31内の液体が加圧され、圧力室31に繋がるノズル21から液体が吐出される。断面視して、本実施形態に係る圧力室31は、高さ方向に、つまり、Z軸方向に、一対の第1端部311および第2端部を有している。第1端部311は、振動板33に接しており、第2端部312は、ノズル21に接している。第1端部311の幅W1は、第2端部312の幅W2よりも大きい。第1端部311の幅W1が大きいため、振動板33の変位量を大きくすることができる。また、第2端部312の幅W2が小さいため、圧力室31と当該圧力室31と隣り合う圧力室31の間の部分の強度を大きくすることができる。そのため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、振動板33の変位を、効率的に圧力波を液滴の吐出に利用することができる。
【0094】
また、圧力室31は、第1端部に向かって徐々に幅が大きくなる部分を含む。このため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、振動板33の変位を、第1端部311に向かって段差的に幅が大きくなる場合と比べて、効率的に圧力波を液滴の吐出に利用することができる。
【0095】
さらに、断面視して、本実施形態に係るノズル21は、高さ方向、つまり、Z軸方向に、一対の第3端部211および第4端部212を有している。第3端部211は、圧力室31に接しており、第4端部212は、圧力室31から離れている。第3端部211の幅は、第4端部212の幅より大きい。このため、液体吐出ヘッド1は、振動板33の変位により、ノズル21に圧力が伝わりやすい。そのため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、振動板33の変位を、効率的に圧力波を液滴の吐出に利用することができる。
【0096】
図16を参照して本実施形態に係る圧力室31および圧力室31周辺の構成について詳細に説明する。図16は、図7に示す領域Vを拡大した図である。
【0097】
上述したように、第2シリコン酸化層333は、複数の圧電素子34からシリコン層332への電流のリークを低減することができる。本実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、第2シリコン酸化層333の共通電極341下に位置する部分3331の厚みが、第2シリコン酸化層333の共通電極341下に位置していない部分3332の厚みより厚い部分を含んでいる。このため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、複数の圧電素子34からシリコン層332への電流のリークを低減することができる。すなわち、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、電気的クロストークをより低減することができる。
【0098】
第2シリコン酸化層333の共通電極341下に位置する部分3331の厚みは、第2シリコン酸化層333の共通電極341下に位置していない部分3332の厚みに比べて1.05倍以上が好ましい。
【0099】
圧力室31上に位置する振動板33において変位量が大きいため、振動板33の劣化が生じる可能性が大きい。本実施形態に係る第2シリコン酸化層333の共通電極341下に位置する部分3331は、平面視したとき、圧力室31を覆うようにシリコン層332上に位置する。このため、第2シリコン酸化層333の共通電極341下に位置する部分3331の厚みが厚いため、圧力室31上の振動板33の剛性を大きくすることができ、ひいては振動板33が劣化する可能性を低減することができる。
【0100】
図17を参照して本実施形態に係るヘッドモジュール100の構成例について説明する。図17は、ヘッドモジュール100の構成例を示すブロック図である。
【0101】
ヘッドモジュール100は、5つの液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1E、および、格納部50を備えている。各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eの格納部50は、複数の圧電素子34に共通に印加される電圧の値が格納されている。電圧の値は、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eにおいて、複数の圧電素子34に共通である。このため、制御部109から送られてきたデータに基づいて、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eが有する複数の圧電素子34には、共通の電圧の値が印加される。また、本実施形態に係る格納部50は、複数の圧電素子34に共通に印加される電圧の値およびバルス幅が格納されており、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eが有する複数の圧電素子34に、共通のパルス状の電圧波形を送ることが可能である。
【0102】
本実施形態に係る格納部50は、ヘッドモジュール100に対して1つ有しているが、複数有していてもよい。また、格納部50は、5つの液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eのそれぞれに対して1つずつ有していてもよい。格納部50は、例えば、駆動ICのようなICに備えられている。
【0103】
格納部50は、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eに対して、1つの電圧の値を格納していてもよいし、複数の電圧の値を格納していてもよい。格納部50が、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eに対して、複数の電圧の値を格納している場合、例えば、吐出される液体の吐出量の調整が可能である。格納部50が、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eに対して複数の電圧の値を格納している場合、少なくとも1つの電圧の値が、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eにおける複数の圧電素子34に共通であればよい。
【0104】
ヘッドモジュール100において、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eが有する複数の圧電素子34は、共通した電圧の値が印加されることになる。このため、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eにおいて、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきが生じる可能性をより低減する必要がある。そのため、ヘッドモジュール100において、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eのシリコン層332の厚みが、1.1μm~1.9μmであることがより好ましい。
【0105】
さらに、格納部50に格納されている電圧の値は、複数の液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eの間で、異なる値である。本実施形態に係るヘッドモジュール100では、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1E間で吐出される液体の吐出速度が同じになるように、格納部50に格納されている電圧の値が調整されている。また、ヘッドモジュール100は、例えば、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1E間で印字濃度が同じになるように、格納部50に格納されている電圧の値が調整されていてもよい。このため、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1E間において、電圧のばらつきが生じる可能性をより低減する必要がある。そのため、ヘッドモジュール100は、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eにおけるシリコン層332の厚みが、1.1μm~1.9μmであることがより好ましい。
【0106】
また、シリコン層332の厚みの平均値は、複数の液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eの間で、0.01μm以上異なる。このようなヘッドモジュール100では、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1E間において、シリコン層332の厚みが不均一であるため、複数のノズル21から吐出される液体の吐出ばらつきまたは吐出電圧のばらつきが生じる可能性を低減する必要がある。そのため、ヘッドモジュール100は、各液体吐出ヘッド1A、1B、1C、1D、1Eのシリコン層332の厚みが、1.1μm~1.9μmであることがより好ましい。
【0107】
最後に、液体吐出ヘッド1の製造方法について説明する。
【0108】
まず、ノズル部材2、アクチュエータ部材3、支持部材4、および、液体供給部材5をそれぞれ準備する。そして、アクチュエータ部材3上に、支持部材4を接合し、アクチュエータ部材3の下にノズル部材2を接合する。そして、支持部材4に液体供給部材5を接合する。接合する順番については、限定されない。なお、ノズル部材2とアクチュエータ部材3との接合、および、アクチュエータ部材3と支持部材4との接合として、常温接合、金属接合などが挙げられる。また、支持部材4と液体供給部材5との接合として、接着剤を用いて接合する方法が挙げられる。
【0109】
アクチュエータ部材3の製造方法について説明する。
【0110】
アクチュエータ部材3は、SOIウェハに、成膜およびエッチングしていくことにより、製造することができる。SOIウェハとは、シリコン層、シリコン層上に位置するシリコン酸化層、シリコン酸化膜上に位置するシリコン層で形成された基板である。ここで、SOIウェハの下側に位置するシリコン層は、シリコン基板30に相当する。SOIウェハのシリコン酸化層は、振動板33の第1シリコン酸化層331に相当する。SOIウェハの上側に位置するシリコン層は、振動板33のシリコン層332に相当する。このため、シリコン層332は、SOIウェハのシリコン層と同じく、シリコンの純度が99%以上である。シリコン層332は、SOIウェハのシリコン層と同じく、単結晶シリコンから構成される。
【0111】
シリコン層332は、単結晶シリコンから構成されるため、ヤング率が150GPa以上200GPa以下である。ヤング率は、例えば、ナノインデンテーション法によって測定できる。ヤング率が200GPaより大きいシリコン層に比べて、ヤング率が200GPa以下のシリコン層は、小さいエネルギーで変位する。本実施形態に係る振動板33におけるシリコン層のヤング率は、200GPa以下である。このため、本実施形態に係る振動板33は、ヤング率が200GPaより大きいシリコン層を有する振動板よりも、小さいエネルギーで変位する。このため、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1では、振動板33を変位させるために必要な、圧電素子に印可する電圧を低減することができる。
【0112】
振動板33は、例えば、プラズマCVD法または熱酸化によって、SOIウェハの上側に位置するシリコン層の表面に、振動板33の第2シリコン酸化層333に相当するシリコン酸化層を成膜することにより形成される。その結果、例えば、図6図7に示されるように、振動板33は、第1シリコン酸化層331、シリコン層332、および第2シリコン酸化層333の3層構成となる。つまり、振動板33は、単層の第1シリコン酸化層331、単層のシリコン層332、および、単層の第2シリコン酸化層333から構成される。
【0113】
本実施形態に係る振動板33は、第1シリコン酸化層331の厚みが0.1μm、シリコン層332の厚みが1.45μm、第2シリコン酸化層333の厚みが0.1μmとなるように形成されている。
【0114】
本実施形態に係るシリコン層332は、SOIウェハのシリコン層に相当する。このため、シリコン層332は、SOIウェハのシリコン層と同じく、単結晶シリコンから構成される。単結晶シリコンは、原子が規則正しく配列された結晶構造を有する。このため、単結晶シリコン表面に成膜されたシリコン酸化層は、安定した結晶構造となりやすい。つまり、本実施形態に係る第2シリコン酸化層333は、単結晶シリコンから構成されるシリコン層332上に成膜されるため、安定した結晶構造となる。安定した結晶構造とは、具体的には、強度、靭性、絶縁性、または、耐湿性などに優れた結晶構造である。なお、シリコン層332は単結晶シリコンに限らず、多結晶シリコンであってもよい。
【0115】
共通電極341は、例えば、Ptをスパッタリングで成膜した後に、エッチングをして不要な部分を除去することにより、振動板33上に形成される。
【0116】
圧電体342は、例えば、Pb(Zr,Ti)Oをスパッタリングによって成膜した後に、エッチングをして不要な部分を除去することにより共通電極341上に形成される。
【0117】
個別電極343は、例えば、Ptをスパッタリングで成膜した後に、エッチングをして不要な部分を除去することにより圧電体342上に形成される。
【0118】
圧力室31および第1アパチャ32は、例えば、SOIウェハの下側に位置するシリコン層をエッチングすることにより形成される。この際、SOIウェハのシリコン酸化層が、エッチングストップ層となる。
【0119】
以上のようにしてアクチュエータ部材3が製造される。
【符号の説明】
【0120】
1、1A、1B、1C、1D、1E 液体吐出ヘッド
21 ノズル
31 圧力室
311 第1端部
312 第2端部
33 振動板
331 第1シリコン酸化層
332 シリコン層
333 第2シリコン酸化層
34 圧電素子
341 共通電極
10 プリンタ(記録装置)
50 格納部
100 ヘッドモジュール
109 制御部
【要約】
液体吐出ヘッド(1)は、複数の圧力室(31)と、複数の圧力室(31)のそれぞれに繋がる複数のノズル(21)と、複数の圧力室(31)上に位置する振動板(33)と、複数の圧力室(31)に対応する振動板(33)上に位置する複数の圧電素子(34)と、を備え、振動板(33)は、第1シリコン酸化層(331)と、第1シリコン酸化層(331)上に位置し、厚みが1.1μm~1.9μmである単層のシリコン層(332)と、単層のシリコン層(332)上に位置する第2シリコン酸化層(333)と、を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17