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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】パルス光生成装置及びパルス光生成方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/35 20060101AFI20250310BHJP
   H01S 3/06 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
G02F1/35
H01S3/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024576765
(86)(22)【出願日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2024019941
【審査請求日】2024-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2023145156
(32)【優先日】2023-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】當銘 賢人
(72)【発明者】
【氏名】瀬上 英明
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-083118(JP,A)
【文献】米国特許第6885683(US,B1)
【文献】特表2008-517460(JP,A)
【文献】特表2012-519879(JP,A)
【文献】特表2014-519205(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0281720(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/35-1/39
H01S 3/06-3/07
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス光を発振する発振部と、
前記発振部で発振した前記パルス光のスペクトルを広帯域化する増幅部と、
前記増幅部でスペクトルを広帯域化した前記パルス光の波長を、ソリトン自己周波数シフトを利用して変調する変調部と、を備える、パルス光生成装置。
【請求項2】
前記増幅部は、シミラリトン増幅により前記パルス光のスペクトルを広帯域化する、請求項1に記載のパルス光生成装置。
【請求項3】
前記増幅部は、正常分散ファイバを含む、請求項1又は2に記載のパルス光生成装置。
【請求項4】
前記増幅部は、ダブルクラッドファイバを含む、請求項1又は2に記載のパルス光生成装置。
【請求項5】
前記増幅部は、前記パルス光のスペクトル幅を100nm以上とする、請求項1又は2に記載のパルス光生成装置。
【請求項6】
前記パルス光の光路における前記増幅部と前記変調部との間に配置され、前記パルス光の強度をパルス毎に制御する光強度制御部を備える、請求項1又は2に記載のパルス光生成装置。
【請求項7】
前記パルス光の光路における前記増幅部と前記変調部との間に配置され、前記パルス光のパルスの時間幅を圧縮するパルス圧縮部を備える、請求項1又は2に記載のパルス光生成装置。
【請求項8】
パルス光を発振する発振ステップと、
前記発振ステップで発振した前記パルス光のスペクトルを広帯域化する増幅ステップと、
前記増幅ステップでスペクトルを広帯域化した前記パルス光の波長を、ソリトン自己周波数シフトを利用して変調する変調ステップと、を備える、パルス光生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パルス光生成装置及びパルス光生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス光を発振する発振部と、発振部で発振したパルス光の波長をソリトン自己周波数シフトを利用して変調する変調部と、を備えるパルス光生成装置が知られている。このようなパルス光生成装置では、変調部による変調前のパルス光の強度を高めることで、当該変調によりパルス光を波長が異なる複数のパルス光へ分裂(多色化されたソリトンを出力)することが図られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-527001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のパルス光生成装置では、前述のように、変調部による変調前のパルス光の強度を高めると、当該変調によりパルス光が分裂して複数のパルス光が形成(以下、「マルチソリトン化」ともいう)されるが、複数のパルス光全てを所望の波長に設定することは非常に困難である。また、複数のパルス光の全てが所望の波長域として同時に利用されるような用途は非常に稀であるため、不要なパルス光を除く必要がある等、実用上の観点からは、このようなマルチソリトン化は好ましくない場合が多い。そのため、波長変換を行うにあたっては、マルチソリトン化を抑制することが望まれる。
【0005】
そこで、本開示は、ソリトン自己周波数シフトを利用した変調により複数のパルス光が形成されることを抑制できるパルス光生成装置及びパルス光生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のパルス光生成装置は、[1]「パルス光を発振する発振部と、前記発振部で発振した前記パルス光のスペクトルを広帯域化する増幅部と、前記増幅部でスペクトルを広帯域化した前記パルス光の波長を、ソリトン自己周波数シフトを利用して変調する変調部と、を備える、パルス光生成装置」である。
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ソリトン自己周波数シフトを利用した変調を行う前のパルス光のスペクトルを広帯域化することで、マルチソリトン化を抑制できるという知見を得た。そこで、本開示のパルス光生成装置では、パルス光のスペクトルを広帯域化し、広帯域化したパルス光の波長をソリトン自己周波数シフトを利用して変調する。これにより、例えば変調前のパルス光の強度を高めた場合でも、マルチソリトン化を抑制することが可能となる。
【0008】
本開示のパルス光生成装置は、[2]「前記増幅部は、シミラリトン増幅により前記パルス光のスペクトルを広帯域化する、[1]に記載のパルス光生成装置」であってもよい。この場合、増幅部では、パルスのストレッチを抑制できる。これにより、ソリトン自己周波数シフトを利用した変調を効果的に実現できる。
【0009】
本開示のパルス光生成装置は、[3]「前記増幅部は、正常分散ファイバを含む、[1]又は[2]に記載のパルス光生成装置」であってもよい。この場合、増幅部によるパルス光のスペクトルの広帯域化を具体的に実現できる。
【0010】
本開示のパルス光生成装置は、[4]「前記増幅部は、ダブルクラッドファイバを含む、[1]~[3]の何れかに記載のパルス光生成装置」であってもよい。この場合、例えばエルビウム及びイッテルビウムの共添加のダブルクラッドファイバを増幅部に用いることができ、これにより、変調前のパルス光を効果的に高出力化することが可能となる。
【0011】
本開示のパルス光生成装置は、[5]「前記増幅部は、前記パルス光のスペクトル幅を100nm以上とする、[1]~[4]の何れかに記載のパルス光生成装置」であってもよい。この場合、マルチソリトン化を確実に抑制することが可能となる。
【0012】
本開示のパルス光生成装置は、[6]「前記パルス光の光路における前記増幅部と前記変調部との間に配置され、前記パルス光の強度をパルス毎に制御する光強度制御部を備える、[1]~[5]の何れかに記載のパルス光生成装置」であってもよい。この場合、光強度制御部により、生成するパルス光の波長をパルス毎に可変することが可能となる。
【0013】
本開示のパルス光生成装置は、[7]「前記パルス光の光路における前記増幅部と前記変調部との間に配置され、前記パルス光のパルスの時間幅を圧縮するパルス圧縮部を備える、[1]~[6]の何れかに記載のパルス光生成装置」であってもよい。この場合、ソリトン自己周波数シフトを利用した変調を効果的に実現できる。
【0014】
本開示のパルス光生成方法は、[8]「パルス光を発振する発振ステップと、前記発振ステップで発振した前記パルス光のスペクトルを広帯域化する増幅ステップと、前記増幅ステップでスペクトルを広帯域化した前記パルス光の波長を、ソリトン自己周波数シフトを利用して変調する変調ステップと、を備える、パルス光生成方法」である。
【0015】
本開示のパルス光生成方法においても、広帯域化した当該パルス光の波長をソリトン自己周波数シフトを利用して変調することから、例えば変調前のパルス光の出力を上げた場合でも、マルチソリトン化を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、ソリトン自己周波数シフトを利用した変調により複数のパルス光が形成されることを抑制できるパルス光生成装置及びパルス光生成方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係るパルス光生成装置を示すブロック図である。
図2図2(a)は、図1のオシレータから出力された超短パルス光の時間波形を示すグラフである。図2(b)は、図1のオシレータから出力された超短パルス光のスペクトルを示すグラフである。図2(c)は、図1のファイバ増幅器から出力された超短パルス光の時間波形を示すグラフである。図2(d)は、図1のファイバ増幅器から出力された超短パルス光のスペクトルを示すグラフである。
図3図3は、図1のファイバ増幅器から出力された超短パルス光のスペクトルの具体例を示すグラフである。
図4図4(a)は、図1の音響光学変調器から出力された超短パルス光の時間波形を示すグラフである。図4(b)は、図1の音響光学変調器から出力された超短パルス光のスペクトルを示すグラフである。
図5図5(a)は、図1のソリトンシフトファイバから出力された超短パルス光の時間波形を示すグラフである。図5(b)は、図1のソリトンシフトファイバから出力された超短パルス光のスペクトルを示すグラフである。図5(c)は、図1のフィルタから出力された超短パルス光の時間波形を示すグラフである。図5(d)は、図1のフィルタから出力された超短パルス光のスペクトルを示すグラフである。
図6図6は、実施形態に係るパルス光生成方法を示すフローチャートである。
図7図7(a)は、ソリトンシフトファイバに入力される超短パルス光の強度とソリトンの波長とソリトンの数との関係を示すグラフである。図7(b)は、ソリトンシフトファイバに入力される超短パルス光のスペクトル幅とソリトンの波長とソリトンの数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態のパルス光生成装置1は、ソリトン自己周波数シフト(ラマンソリトンシフト)を利用して、長波長の超短パルス光(パルス光)Lを生成する。パルス光生成装置1は、オシレータ2、ファイバ増幅器3、音響光学変調器4、コンプレッサ5、ソリトンシフトファイバ6及びフィルタ7を備える。
【0020】
オシレータ2は、超短パルス光Lを発振する発振部を構成する。オシレータ2は、図2(a)に示されるように、所定周期F1の超短パルス列を生成する。ここでのオシレータ2は、図2(b)に示されるように、第1スペクトル幅H1で第1強度K1のスペクトルを有する超短パルス光Lを発振する。オシレータ2としては、特に限定されず、種々の発振器を用いることができる。
【0021】
ファイバ増幅器3は、オシレータ2で発振した超短パルス光Lのスペクトルを広帯域化する増幅部を構成する。ファイバ増幅器3は、シミラリトン増幅により、超短パルス光Lのスペクトルを広帯域化すると共に、当該超短パルス光Lを高出力化する。ファイバ増幅器3は、超短パルス光Lの光路におけるオシレータ2とソリトンシフトファイバ6との間に配置されている。
【0022】
ファイバ増幅器3は、ファイバアンプを含む。ファイバ増幅器3の当該ファイバアンプは、正常分散ファイバであって、エルビウム及びイッテルビウムの共添加のダブルクラッドファイバである。すなわち、ファイバ増幅器3は、ストレッチしないように正常分散のダブルクラッドファイバにより非線形効果を起こしつつ増幅を行い、広帯域のアンプ光としての超短パルス光Lを取得する。正常分散ファイバは、分散パラメータD(ps/nm/km)が負の状態のファイバである。ファイバ増幅器3に用いられる添加物は特に限定されず、種々の添加物を採用してもよい。
【0023】
図2(c)及び図2(d)に示されるように、ファイバ増幅器3は、超短パルス光Lのスペクトル幅を、第1スペクトル幅H1よりも広い第2スペクトル幅H2へ広帯域化する。ファイバ増幅器3は、超短パルス光Lの強度を、第1強度K1よりも高い第2強度K2へ高出力化する。具体的には、図3に示されるように、ファイバ増幅器3は、超短パルス光Lのスペクトル幅を100nm以上とする。図3では、横軸は超短パルス光Lの波長を示し、縦軸は超短パルス光Lの強度についての所定強度を基準とした相対値を示す。
【0024】
音響光学変調器4は、超短パルス光Lの強度をパルス毎に制御する光強度制御部を構成する。音響光学変調器4は、音響(音波)の力を利用して超短パルス光Lを変調する装置であって、AOM(Acousto Optic Modulator)と称される。本実施形態においては、音響光学変調器4は、超短パルス光Lの光路におけるファイバ増幅器3とソリトンシフトファイバ6との間に配置される。なお、音響光学変調器4は、オシレータ2とソリトンシフトファイバ6との間であれば、どの位置に配置されていてもよい。音響光学変調器4は、図4(a)及び図4(b)に示されるように、超短パルス光Lの強度をパルス毎に変わるように制御する。例えば図4(a)に示されるように、M1及びM2という強度の変調を与えられた場合、図4(b)に示すように、M1及びM2で与えられる強度に応じた超短パルス光LM1,LM2が生成される。超短パルス光L(LM1,LM2)の強度変調範囲及び精度は、音響光学変調器4の性能に依存する。超短パルス光Lのパルス列の各パルス光の強度は、音響光学変調器4でそれぞれ任意に変調することができる。なお、光強度制御部としては、音響光学変調器4に特に限定されず、例えば電気光学変調器(Electro-optic modulator:EOM)を用いてもよい。
【0025】
コンプレッサ5は、超短パルス光Lのパルスの時間幅を圧縮するパルス圧縮部を構成する。本実施形態においては、コンプレッサ5は、超短パルス光Lの光路における音響光学変調器4とソリトンシフトファイバ6との間に配置されている。なお、コンプレッサ5は、ファイバ増幅器3とソリトンシフトファイバ6との間であれば、どの位置に配置されていてもよい。コンプレッサ5は、例えばファイバ増幅器3により超短パルス光Lがストレッチ(例えば数ピコ秒のストレッチ)した場合であっても、当該超短パルス光Lの時間幅を圧縮して、広がりが一定以下の時間幅(1ピコ秒未満)の超短パルス光Lへを出力する。コンプレッサ5としては、特に限定されず、種々のコンプレッサを用いることができる。
【0026】
ソリトンシフトファイバ6は、ファイバ増幅器3でスペクトルを広帯域化しながら出力を高出力化した超短パルス光Lの波長を、ソリトン自己周波数シフトを利用して変調する変調部を構成する。ソリトンシフトファイバ6は、超短パルス光Lの光路におけるファイバ増幅器3の後流側に配置される。ソリトンシフトファイバ6は、図5(a)及び図5(b)に示されるように、超短パルス光Lの波長を長波長化し、ソリトンS1を発生させる。ソリトンシフトファイバ6は、例えばファイバ増幅器3で生成された超短パルス光Lの波長帯で異常分散を示す、シングルモード異常分散ファイバを用いることができる。加えて、音響光学変調器4を制御することによって、ソリトンS1とは異なる波長のソリトンを発生させることも出来る。ソリトンSの波長は、例えば図5(c)に示されるようにM1及びM2という強度の変調を与えられた場合、図5(d)に示すようにM1及びM2で与えられる強度に応じた波長までソリトンSがシフトする(ソリトンS1及びS2)。ソリトンSのシフト波長範囲と精度は、音響光学変調器4の性能に依存する。超短パルス光Lのパルス列から生成されるソリトン列の各ソリトンSのシフト波長は、音響光学変調器4でパルス列に強度変調を与えることで、任意に変えることができる。なお、図示する例では、ソリトン自己周波数シフトにより変調した超短パルス光Lは、非ソリトン成分S0(ソリトンS1又はS2にならなかった成分)を含む。
【0027】
フィルタ7は、ソリトンシフトファイバ6で波長が変調された超短パルス光Lをフィルタリングする。フィルタ7は、超短パルス光Lの光路におけるソリトンシフトファイバ6の後流側に配置されている。図示する例では、フィルタ7は、図5(b)及び図5(d)に示されるように、超短パルス光Lの非ソリトン成分S0をカットする。フィルタ7は、OD値が3以上であることが望ましい。フィルタ7としては、特に限定されず、種々のフィルタを用いることができる。
【0028】
次に、パルス光生成装置1を用いて実施されるパルス光生成方法について、図6のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0029】
まず、オシレータ2において超短パルス光Lを発振し、所定周期の超短パルス列を生成する(発振ステップ:ステップS1)。ファイバ増幅器3により、超短パルス光Lを高出力化すると共に当該超短パルス光Lのスペクトルを広帯域化する(増幅ステップ:ステップS2)。音響光学変調器4により、例えばパルス光生成装置1に要求される仕様又は条件等に応じて、超短パルス光Lの強度をパルス毎に制御する(ステップS3)。
【0030】
続いて、コンプレッサ5により、超短パルス光Lの時間幅を圧縮する(ステップS4)。ソリトンシフトファイバ6により、スペクトルを広帯域化した超短パルス光Lの波長を、ソリトン自己周波数シフトを利用して変調して長波長化する(変調ステップ:ステップS5)。フィルタ7により、波長を長波長化した超短パルス光Lをフィルタリングし、その非ソリトン成分S0をカットする(ステップS6)。
【0031】
ここで、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、図7(a)に示されるように、ソリトンシフトファイバ6に入力される超短パルス光Lの強度を高めると、ソリトン自己周波数シフトにより生成されたソリトンの波長が長波長化することを見出した。この場合、パルス光生成装置1により生成する超短パルス光Lの波長可変の範囲が広がることを見出した。一方、ソリトンシフトファイバ6に入力される超短パルス光Lの強度が高すぎると、マルチソリトン化という現象が起き、ソリトンの個数が複数になることを見出した。マルチソリトン化は、例えば実用上の観点からすると、抑制されることが望ましい。
【0032】
そこで、本発明者らは鋭意検討を更に重ね、図7(b)に示されるように、ソリトンシフトファイバ6に入力される超短パルス光Lのスペクトル幅を広げること、すなわち、ソリトン自己周波数シフトを利用した変調を行う前の超短パルス光Lのスペクトルを広帯域化することで、マルチソリトン化を抑制できるという知見を得た。
【0033】
したがって、パルス光生成装置1及びパルス光生成方法では、超短パルス光Lのスペクトルをファイバ増幅器3により広帯域化し、広帯域化した超短パルス光Lの波長をソリトン自己周波数シフトを利用して変調する。これにより、ソリトンシフトファイバ6に入力される超短パルス光Lの強度を高めてソリトンの波長を効率的に長波長化し、波長可変の範囲が広げながら、マルチソリトン化を抑制することが可能となる。
【0034】
パルス光生成装置1及びパルス光生成方法では、ファイバ増幅器3は、シミラリトン増幅により超短パルス光Lのスペクトルを広帯域化する。この場合、ファイバ増幅器3では、パルスのストレッチを抑制することができ、これにより、ソリトン自己周波数シフトを利用した変調を効果的に実現できる。
【0035】
パルス光生成装置1及びパルス光生成方法では、ファイバ増幅器3は、正常分散ファイバを含む。この場合、ファイバ増幅器3による超短パルス光Lのスペクトルの広帯域化を具体的に実現できる。
【0036】
パルス光生成装置1及びパルス光生成方法では、ファイバ増幅器3は、ダブルクラッドファイバを含む。この場合、例えばエルビウム及びイッテルビウムの共添加のダブルクラッドファイバをファイバ増幅器3に用いることができ、これにより、変調前の超短パルス光Lを効果的に高出力化することが可能となる。
【0037】
パルス光生成装置1及びパルス光生成方法では、ファイバ増幅器3は、超短パルス光Lのスペクトル幅を100nm以上とする。この場合、マルチソリトン化を確実に抑制することが可能となる。
【0038】
パルス光生成装置1及びパルス光生成方法では、音響光学変調器4によりソリトンシフトファイバ6に入力される超短パルス光Lの強度をパルス毎に高速変調することで、生成する超短パルス光Lの波長をパルス毎に高速で可変できる。なお、音響光学変調器4を用いることで超短パルス光Lの強度が大きく落ちることが懸念されるが、ファイバ増幅器3で高出力化するため、そのような懸念も抑制できる。
【0039】
音響光学変調器4により、ソリトンシフトファイバ6に入力される超短パルス光Lの強度を、ソリトン自己周波数シフトを発生しない強度まで変調することが可能である。その場合、フィルタ7と組み合わせて所望の繰返し周波数のパルス列を選択的に間引くことが可能であり、繰返し周波数を変調することができる。この場合、超短パルス光Lの波長をパルス毎に高速で変調しつつ、その繰返し周波数を同時に変調することが可能である。
【0040】
パルス光生成装置1及びパルス光生成方法は、コンプレッサ5により、ソリトンシフトファイバ6に入力される超短パルス光Lのパルスの時間幅を圧縮する。この場合、ソリトン自己周波数シフトを利用した変調を効果的に実現できる。
【0041】
パルス光生成装置1及びパルス光生成方法では、ファイバレーザを使用することから、チタンサファイアレーザを使用する場合に比べて、メンテナンスフリーを実現できる。パルス光生成装置1及びパルス光生成方法では、ソリトンシフトファイバ6に入力される超短パルス光Lの強度(出力)を調整することで、長波長の超短パルス光Lを自在に生成できる。また、波長を変換する際に物理的な可動部を要する構成を用いないことから、例えばチタンサファイアレーザを使用する場合に比べて、高速に波長を切り替えることができる。
【0042】
ちなみに、超短パルス光Lの波長を変調部によりソリトン自己周波数シフトを利用して変調する技術においては、変調前の超短パルス光Lの強度を高めることで、超短パルス光Lを波長が異なる複数のパルス光へ分裂(マルチソリトン化)させて波長変換を行う場合も考えられ得る。しかしこの場合、マルチソリトン化に起因した上述の問題が生じる。さらに、変調のスピードが例えば数百kHz程度となり、一般的な超短パルス光Lの繰り返し周波数(MHz程度)よりもはるかに遅い速度で変調しているため、超短パルス光Lに対しては、パルス毎の波長変換といった高速での波長変調が困難である。
【0043】
また、超短パルス光Lの波長を変調部によりソリトン自己周波数シフトを利用して変調する技術においては、変調部におけるファイバ長を長くしてソリトン自己周波数シフトの相互作用長を伸ばすことで、より長波長の中心波長をもつソリトンを発生させる場合も考えられ得る。しかしこの場合、当該長波長化を実現したとしても、その中心波長は例えば2.03μにとどまっており、長波長化する際の中心波長の上限値が小さい。加えて、当該長波長化を実現したとしても、得られる光がマルチソリトン化してしまい、マルチソリトン化に起因した上述の問題が生じる。
【0044】
この点、本実施形態では、スペクトルを広帯域化するファイバ増幅器3からの超短パルス光Lを、ソリトンシフトファイバ6で変調する。すなわち、ソリトン自己周波数シフトを利用して変調するソリトンシフトファイバ6の前段階において、超短パルス光Lを広帯域化すると共に、広帯域化した超短パルス光Lの分散補償をすることで、マルチソリトン化を抑制することとソリトン自己周波数シフトの効果を高めることとを両立することができる。それによって、長波長(例えば2.2μm)まで中心波長が可変であるソリトンの発生を実現できる。さらに、マルチソリトン化を抑制することから、超短パルス光Lの強度の変調とソリトンの中心波長とが一対一に対応できるようになる。その結果、ソリトンシフトファイバ6の前段階において、光強度制御部(AOM又はEOM等)によって高速に超短パルス光Lの強度を変調することで、MHz~GHzのオーダで超短パルス光Lをパルス毎に波長変換することができ、高速での波長変調が可能となる。
【0045】
以上、本開示の一態様は、上記実施形態に限定されない。
【0046】
上記実施形態では、ファイバ増幅器3として、正常分散ファイバであってダブルクラッドファイバのファイバアンプを用いたが、これに代えて、正常分散ファイバであってシングルクラッドファイバ(例えばエルビウム添加)のファイバアンプを用いてもよい。この場合でも、少なくとも超短パルス光Lのスペクトルの広帯域化は可能となる。
【0047】
上記実施形態及び上記変形例における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。また、上述した実施形態及び変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…パルス光生成装置、2…オシレータ(発振部)、3…ファイバ増幅器(増幅部)、4…音響光学変調器(光強度制御部)、5…コンプレッサ(パルス圧縮部)、6…ソリトンシフトファイバ(変調部)、7…フィルタ、L,LM1,LM2…超短パルス光(パルス光)。
【要約】
パルス光生成装置は、パルス光を発振する発振部と、発振部で発振したパルス光のスペクトルを広帯域化する増幅部と、増幅部でスペクトルを広帯域化したパルス光の波長を、ソリトン自己周波数シフトを利用して変調する変調部と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7