(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】導電性基材に表面仕上げを形成するための方法、および表面仕上げを有する電気導体
(51)【国際特許分類】
C23C 24/10 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
C23C24/10 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023101299
(22)【出願日】2023-06-21
【審査請求日】2023-08-17
(32)【優先日】2022-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501090342
【氏名又は名称】ティーイー コネクティビティ ジャーマニー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツンク
【氏名又は名称原語表記】TE Connectivity Germany GmbH
(73)【特許権者】
【識別番号】518345815
【氏名又は名称】ティーイー コネクティビティ ソリューソンズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】シャル ソネジャ
(72)【発明者】
【氏名】イーリィァン ウー
(72)【発明者】
【氏名】ギョクチュ グルソイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルゲ シュミット
(72)【発明者】
【氏名】ゼンケ ザックス
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516384(JP,A)
【文献】米国特許第10470314(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2021/129181(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材(2)に表面仕上げ(20)を形成するための方法であって、前記方法は、
-導電性粒子(8)を含むインク(6)を、前記導電性基材(2)の表面(4)における所定の形状および/または大きさの領域(
10)に、グラビア印刷および/またはフレキソ印刷によって転写するステップと、
-前記導電性粒子(8)の融点よりも高い温度まで前記インク(6)を加熱して溶融物を生じさせ、前記溶融物が凝固して前記表面仕上げ(20)になるステップと
、
を含
み、
前記インク(6)は、前記導電性基材(2)を誘導加熱することによって加熱される、方法。
【請求項2】
前記導電性粒子(8)は錫を含むまたは錫から構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
導電性粒子(8)の第1のセットを含む第1のインク(6)が、グラビア印刷および/またはフレキソ印刷によって、所定の大きさおよび/または形状の第1の領域(10)に転写され、導電性粒子の第2のセットを含む第2のインクが、所定の大きさおよび/または形状の第2の領域に転写され、前記導電性粒子(8)の第1のセットの材料と前記導電性粒子の第2のセットの材料とが、互いに異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のインク(6)と前記第2のインクとは、後続のステップで溶融される、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のインク(6)は誘導加熱によって溶融され、前記第2のインクは電子ビーム溶融によって溶融される、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記導電性粒子(8)の平均粒径
が2μm
~5μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記インクの動粘度が、25℃において10s
-1で測定して10Pas未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
導電性粒子の酸素含有量が1wt%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記導電性基材(2
)は電気導体(1)
に備えられ、前記導電性基材(2)は
、前記表面仕上げ(20)が施された、所定の大きさおよび/または形状の領域(10)を含む
前記表面(4)を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記領域(10)に層状構造が形成され、前記層状構造は、金属間相と固体導電性粒子(8)の層とを含む、請求項
9に記載の
方法。
【請求項11】
前記固体導電性粒子(8)の層は、前記表面仕上げ(20)の上層を形成する、請求項
10に記載の
方法。
【請求項12】
前記表面仕上げ(20)の縁部が、1mm未満の横方向解像度を有する、請求項
9に記載の
方法。
【請求項13】
前記表面仕上げ(20)は、前記領域(10)内において所定の厚さ変動を有する、請求項
9に記載の
方法。
【請求項14】
前記表面仕上げ(20)は
、0.75
~5マイクロメートルの厚
さを有する、請求項
9に記載の
方法。
【請求項15】
前記表面仕上げ(20)は、0.01wt%~0.5wt%の有機材料を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記表面仕上げ(20)は、上面に粒子構造を有する、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基材に表面仕上げを形成する(producing a surface finish)ための方法に関する。さらに、本発明は、表面仕上げを有する導電性基材を備える電気導体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気導体は、様々な用途において、相手側導体との電気接続を形成するために使用される。電気導体は、電気を伝達するための、銅または銅合金などの導電性基材を備える。電気コンタクトの接続時の動きを容易にし、酸化および他の原因による表面損傷を防ぐために、電気コンタクトに表面仕上げが施される。従来、表面仕上げは、電気めっき、無電解めっき、物理蒸着、または溶融めっきを使用して、導電性基材に施される。これらのプロセスは、費用がかかり、かつ/または錫ベースの表面仕上げはウィスカを形成する傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、導電性基材に信頼性の高い表面仕上げを形成するための、より費用効率の高い方法を提供すること、および信頼性の高い表面仕上げを有する費用効率の高い電気導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題は、導電性基材に表面仕上げを形成するための方法であって、方法は、導電性粒子を含むインクを、導電性基材の表面における所定の形状および/または大きさの領域に、グラビア印刷および/またはフレキソ印刷によって転写するステップと、インクの融点よりも高い温度までインクを加熱して溶融物を生じさせ、溶融物が凝固して表面仕上げになるステップとを含む、方法によって解決される。
【0005】
上記の課題は、導電性基材を備える電気導体であって、導電性基材は、上記の方法により表面仕上げが施された、所定の形状および/または大きさの領域を含む表面を有する、電気導体によってさらに解決される。
【0006】
上記の解決策によれば、インクが、グラビア印刷および/またはフレキソ印刷によって領域に塗布される。グラビア印刷プロセスは、彫刻とも称する彫刻されたセルを表面に有するシリンダを使用する。これらの彫刻をインクで満たし、余剰分をドクターブレードにより除去することができる。これらの彫刻は、正方形、矩形、長円形、円形、縞などであり得るパターンを有することができ、材料の節約を助け、製品に合わせてカスタム設計することができる。次いで、セルからのインクが基材に転写される。グラビア印刷は、インクを基材に転写することに関して、他の印刷プロセスよりも重要な利点を有する。グラビア印刷は、速度、配置される可変インク膜厚、印刷機の長時間運転、およびインクを基材に転写することに関与するプロセスの簡単さに優れている。
さらに、インクの大きい領域を、歪みを抑えながら(with nominal distortion)高速で転写することができる。したがって、グラビア印刷は、導電性基材に表面仕上げを形成するための従来の方法と比較して、費用効率の高い解決策を提供する。
【0007】
フレキソグラフィック印刷(フレキソ印刷とも称する)では、グラビア印刷と同様のアニロックスロールの所望の最終印刷に基づいて、アートワークが設計される。グラビア印刷と同様にインクを基材に直接転写するアニロックスロールの代わりに、フレキソグラフィック印刷用のアニロックスロールは、インクを像担体に転写し、像担体は、像を基材に転写する。フレキソグラフィック印刷機は、像担体と像シリンダとの間で基材を引く。フレキソグラフィック印刷のローリング設計は、高い速度の実現を助け、グラビア印刷と同様の大きい印刷運転を可能にする。
【0008】
グラビア印刷は、スクリーン印刷およびインクジェットなどの他の既知の印刷プロセスと比較して、特に有利である。例えば、スクリーン印刷の解像度は、インクペーストを押し通すメッシュスクリーンにより限定される。さらに、スクリーン印刷は、5ミクロン未満の薄層を提供することはできない。これらのプロセスには、グラビア印刷の速度もない。さらに、インクジェット印刷で使用される材料は、経済的ではない。インクジェット印字ヘッドのノズルオリフィスが小さいため、小さい粒子(例えば1ミクロン未満)を使用して、インク、一般的にはナノ粒子インクを調製する必要があり、非常に費用がかかる。
【0009】
凝固して表面仕上げになるインクを溶融させることにより、一部の実施形態において、導電性基材と表面仕上げとの間の金属間層の形成を通じて、インクがリフローされ、基材に付着する。したがって、表面仕上げの完全性が保証されて、例えば拭い取りにより表面仕上げが基材から除去されることを防ぐ。さらに、インクのリフローにより、かつ/または表面仕上げに何らかの有機結合剤が存在することにより、ウィスカの形成を軽減することができる。
【0010】
上記の方法によって形成される表面仕上げは、粒子状構造を有する独特のトポグラフィを有する。したがって、このような表面仕上げを、例えば、上面および断面の両方の走査型電子顕微鏡(SEM)像によって検出することができる。
【0011】
それぞれの技術的効果に関して互いに独立し、任意に組み合わせることのできる以下の機構によって、本発明をさらに改良することができる。
【0012】
例えば、インクが所定の形状および/または大きさの領域に転写された後に、インク、特にインクの導電性粒子の固有の融点の温度よりも高い温度まで、インクを加熱することができる。
【0013】
基材は、特に銅基材であってよい。この場合、「銅」という用語は、純銅および銅合金を含む。
【0014】
特に有利な一実施形態によれば、導電性基材を誘導加熱することによって、インクを間接的に加熱することができる。赤外線加熱、熱風加熱、またはN2下でのリフロー加熱などの他の加熱方法と比較して、誘導加熱によって加熱されたときの表面仕上げの完全性は、はるかに優れている。渦電流が、導電性粒子および/または導電性基材、例えばCu基材の電気抵抗に逆らって流れ、正確かつ局所的な熱を基材内に発生させ、次いで、インクの導電性粒子を間接的に加熱し溶融させる。インクだけでなく基材も加熱することは、例えば、加熱プロセス中に金属間化合物を形成することによって、基材に対する仕上げの結合をさらに向上させる。セロハンテープおよびイソプロピルアルコールによる洗浄を使用して、基材に対するインクの付着を試験することによって、表面仕上げの完全性を判定することができる。
【0015】
インクを誘導加熱によって加熱することの主な利点は、渦電流が導電性基材に発生し、これによりインクを下方から加熱することである。したがって、インクは、下部から上部に向かって溶融を開始する。誘導加熱器の時間照射(time exposure、照射時間)および電流を調節することによって、溶融物および/または表面仕上げの特性を変化させ、これにより、方法によって形成される表面仕上げの多用途性を高めることができる。このプロセスの滞留時間は、0.5秒~5秒であってよく、コイル形状にも依存する。一部の実施形態において、導電性インクを加熱するために、定電流が誘導加熱コイルに印加される。他の実施形態において、段階的な電流、例えば高-低-高の電流プロファイルまたは高-低-低のプロファイルが、誘導加熱コイルに印加される。
さらなる実施形態において、パルス電流、例えば、計4つのパルスについて5秒間隔の5秒パルス、または計5つのパルスについて5秒間隔の3秒パルスが、誘導加熱コイルに印加される。異なる電流、パルス長、および間隔の組合せが、より均一な温度プロファイルを保証し、基材の過熱を避ける。ある場合には、コイルと基材との距離、ならびに基材がコイル間を移動する速度が、仕上げの均一性を向上させ、均一性に影響を及ぼすことができる。基材をコイルに直接、すなわち0mmの距離で、または最大15mmの距離で置くことができる。一実施形態において、基材とコイルとの距離は、0mm~15mmであってよい。移動速度は1m/min~60m/minであってよい。
【0016】
例えば、所定の大きさおよび形状の領域に、金属間相と固体(solid)導電性粒子の層とを含む、またはこれらから構成される少なくとも1つの層を有する、層状構造を形成することができる。金属間相は、導電性基材と表面仕上げとの強い接合部を示す。
【0017】
金属間相が、導電性基材の界面に形成されることが好ましい。固体導電性粒子の層が、表面仕上げの上層を形成することが好ましい。上層は、領域において導電性基材の表面から離れる方を向く層として定義される。表面仕上げの上層を形成する固体導電性粒子は、摩擦係数を増大させることができる。これは、滑りを防ぐことができるため、圧着用途に特に有利である。凝固した表面仕上げにおいて、インクの50%未満、好ましくは20~40%を金属間相に形成することができる。インクの残りは、固体導電性粒子の層を形成することができる。
【0018】
電気導体は、例えば、端子を相手側導体に取り付けるための圧着領域を有する圧着端子であってよい。この場合、表面仕上げを圧着領域に施すことができる。
【0019】
特に有利な実施形態において、インクは電子ビームによって加熱されない。電子ビームは非常に高い運動エネルギーを有し、この運動エネルギーが熱に変換されて、インクの導電性粒子を溶融させる。しかしながら、電子ビームは、特に加熱される領域が大きいときに、高い熱応力も生じさせるため、基材が変形することがある。さらに、電子ビーム溶融は、アブレーションおよび/または蒸発により、高い材料損失を受ける。
【0020】
インクの導電性粒子は、錫を含み得る、または、錫から構成され得る、ことが好ましい。「錫」という用語は、純錫および/または錫銀銅合金であるSACなどの錫合金に関連する。錫合金は、例えば、約96.5wt%の錫含有量、約3.5wt%の銀含有量、および約0.5wt%の銅含有量を有することができる。錫表面仕上げは、基材を腐食から保護し、導体と相手側導体との電気相互接続を低コストで確立するのに非常に信頼性が高い。上記の方法を錫仕上げに使用することは、溶融めっきSn仕上げのコストと比べて、最大65%のコスト節約になるため、特に有利である。
【0021】
インクの導電性粒子が錫を含むまたは錫から構成される場合、インク、特に導電性粒子が、電子ビーム溶融によって溶融されないことが有利である。錫は高い蒸気圧を有するため、電子銃で加熱されると爆発性の蒸発を生じさせる。これにより、真空チャンバが汚染され、真空が頻繁に低下する。
【0022】
インクの導電性粒子が誘導加熱によって溶融されることにより、特に導電性粒子が錫を含むまたは錫から構成される場合に、低い熱応力で高速かつ効率的な溶融が可能になることが好ましい。
【0023】
一部の適用は、電気導体の異なる領域に異なる表面仕上げを必要とし、各領域がそれぞれのタスクについて最適化されるようにすることができる。したがって、導電性粒子、すなわちインクの導電性粒子の第1のセットが、所定の形状および/または大きさの第1の領域にグラビア印刷および/またはフレキソ印刷され、導電性粒子の第2のセットが所定の形状および/または大きさの第2の領域に転写されてよい。この場合、導電性粒子の第1のセットの材料と導電性粒子の第2のセットの材料とは、互いに異なっていてもよい。さらに、第1の領域と第2の領域とは、互いに異なっていてもよく、特に、重なっていなくてもよい。
【0024】
導電性粒子の第2のセットを、任意の適切な手段によって第2の領域に転写することができる。第2の領域への導電性粒子の第2のセットの転写は、グラビア印刷によるものに限定されない。導電性粒子の第2のセットは、第2のインクに含まれていてもよく、この第2のインクは任意の既知の印刷手段によって第2の領域に印刷される。しかしながら、グラビア印刷および/またはフレキソ印刷が、最初に述べた利点に関して好ましい。
【0025】
第1のインクと第2のインクとは、単一の加工ステップでそれぞれの領域に転写されることが好ましい。最良の場合、第1のインクと第2のインクとは同時に転写され、全体的な形成時間がさらに短縮される。
【0026】
導電性粒子の第2のセットは、銀を含んでよくまたは銀から構成されてよい。銀は、優れた導電性を有する高周波用途に特に適している。したがって、第2の領域は、プラグ接続部などの解放可能な電気接続部のコンタクト領域に配置されることが好ましい。第1の領域は、電気導体の圧着領域などの取付領域に配置されてよい。このような取付領域は、相手側導体に固定されて相手側導体と電気接続を形成するために、塑性変形することが多い。
【0027】
導電性粒子の第1のセットと導電性粒子の第2のセットとは、後続の加工ステップで溶融されることが好ましい。導電性粒子の第2のセットを、導電性粒子の第1のセットの後に溶融させることができる。導電性粒子の第2のセットを、例えば、電子ビーム溶融によって溶融させることができる。
【0028】
錫は、銀よりもはるかに低い融点を有する。したがって、例えば、第1のステップで錫を誘導加熱によって溶融させることができ、このステップは、第2のインクの乾燥ステップとしても機能することができる。その後、銀を電子ビーム溶融によって溶融させることができる。誘導加熱による第1のステップは、第2のインクの付着の向上を助けることもでき、次の第2のインクの電子ビームステップ中に第2のインクのアブレーションを低減させる。第1の領域の表面積は、第2の領域よりも大きくてよい。特に、第1の領域の表面積は、第2の領域の表面積の少なくとも2倍であってよい。
【0029】
グラビア印刷およびフレキソ印刷ならびに両方の組合せにより、高い解像度を実現することができる。したがって、電気導体は、特に高い解像度を有する表面仕上げを含むことができる。例えば、表面仕上げの縁部の横方向解像度(lateral resolution)は、約1mm未満、特に約0.2mm未満であってよい。横方向解像度は、2つの点を個別に区別できる最小距離として定義される。したがって、横方向解像度が小さいと、互いに隣接する2つの別個の物体、すなわち表面仕上げと基材の表面とを判別することができる。
【0030】
さらに、上記の方法は用途が広く、用途要件に従って、高い精度で表面仕上げをカスタマイズするのに使用することができる。したがって、表面仕上げは、領域内の所定の厚さ変動(バリエーション、variation)ならびに特定の表面構造および/またはパターンを有することができる。
【0031】
インクは、複数の成分、特に結合剤、分散剤、溶媒、および導電性粒子を含むことができる。「インクを溶融させること」により、導電性粒子の少なくとも一部が溶融することが理解される。したがって、方法は、すべての粒子を溶融させる温度までインクを加熱するステップを含むことができ、または、方法は、導電性粒子の固有の融点よりも高い温度までインクを加熱するステップを含むことができる。インクの他の成分は、この融点で既に蒸発していてよい。
【0032】
グラビア印刷および/またはフレキソ印刷により、高密度の薄い表面仕上げを実現することができる。表面仕上げは、例えば、インクの導電性粒子の平均直径の10倍未満、5倍未満、または2倍未満の厚さを有することができる。表面仕上げは、約10μm未満、特に約5μm未満の材料厚さを有することができる。表面仕上げは、約2μm~約10μmまたは約2μm~約5μmの厚さを有することができると好ましい。
【0033】
そのような小さい表面仕上げ厚さについて、インクの導電性粒子の平均粒径が約25μm未満、約10μm未満、特に約5μm未満であると有利である。平均粒径は、2μm~約10μmまたは約2μm~約5μmであることが好ましい。
【0034】
均質な表面仕上げを得て、印刷品質を向上させるために、インクの動粘度が低いことが特に有利である。動粘度は、25℃において10s-1で測定して約10Pas(Pa s, PA・s)(10000cP)未満であることが好ましい。これにより、動粘度が25℃において10s-1で測定して約10~25Pas(10000~25000cP)であるはんだペーストからインクを区別することができる。インクの動粘度は、25℃において10s-1で測定して約1Pas(1000cP)未満であることが好ましい。
【0035】
通常、金属酸化物は、純金属または金属合金と比較して比較的高い融点を有する。例えば、錫酸化物の融点は約1630℃であるが、純錫の融点は約232℃である。したがって、リフロープロセスを最適化するために、導電性粒子の酸素含有量を最小限に抑えることが特に有利である。酸素含有量は、例えば、元素分析の不活性ガス融解によって決定されるように、約1wt%未満、約0.8wt%未満、約0.5wt%未満、約0.3wt%未満、約0.2wt%未満、またはさらには約0.1wt%未満であってよい。
【0036】
以下で、添付図面を参照しながら、表面仕上げを形成するための方法および電気導体の例示的な実施形態についてより詳細に説明する。
【0037】
図中、同一の参照数字は、機能および/または構造に関して互いに対応する要素に使用される。
【0038】
様々な態様および実施形態の説明によれば、図面に示す要素の技術的効果が特定の用途に必要でない場合には、その要素を省略することができる。逆に、特定の要素の技術的効果が特定の用途に有利である場合には、図示されず図を参照して説明されないが、前述した要素を追加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の例示的な実施形態による、導電性基材に表面仕上げを形成するための概略フローチャートである。
【
図2】本発明の例示的な実施形態による、表面仕上げを有する電気導体の上面図である。
【
図3】金属間層および自由Sn層を示す表面仕上げの断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、導電性基材に表面仕上げを形成する方法の概略フローチャートである。例示的な実施形態によれば、銅もしくは銅合金を含み得るまたはこれから構成され得る導電性基材2は、表面4を有する。導電性粒子8、特に錫もしくは錫合金粒子を含むインク6が、図示の例示的な実施形態においてはグラビア印刷によって、表面4の所定の形状および/または大きさの領域10に転写される。あるいは、導電性粒子8を含むインク6は、グラビア印刷の代わりにフレキソ印刷によって転写されてもよく、またはインク6は、グラビア印刷とフレキソ印刷との組合せを使用して転写されてもよい。
【0041】
グラビア印刷プロセスは、彫刻されたセル14を表面16に有するシリンダ12を使用する。これらのセル14をインク6で満たし、余剰分をドクターブレード18により除去することができる。次いで、セル14からのインク6が、毛管作用によって基材2に転写される。グラビア印刷は、インクを基材に転写することに関して、他の印刷プロセスよりも重要な利点を有する。グラビア印刷は、速度、配置される可変インク膜厚、印刷機の長時間運転、およびインクを基材に転写することに関与するプロセスの簡単さに優れている。さらに、インクの大きな領域のインクを、歪みを抑えながら高速で転写することができる。したがって、グラビア印刷は、導電性基材に表面仕上げを形成するための従来の方法と比較して、費用効率の高い解決策を提供する。
【0042】
グラビア印刷は、スクリーン印刷およびインクジェットなどの他の既知の印刷プロセスと比較して、特に有利である。例えば、スクリーン印刷の解像度は、インクペーストを押し通すメッシュスクリーンにより限定される。インクジェットの解像度は、電子システムにおける用途には低すぎる。これらのプロセスには、グラビア印刷の速度もない。インク6がフレキソ印刷によって転写される実施形態にも、同じ利点が当てはまる。
【0043】
インクが表面に転写された後、導電性基材2は誘導装置19、例えば誘導オーブンに移される。装置19では、インクが、誘導加熱によって、導電性粒子8の固有の融点よりも高い温度まで加熱される。基材が導電性であるため、誘導加熱は特に有利である。これは、渦電流が基材に形成されて、インク6を下方から加熱することができることを意味する。加熱は、コイル形状、加熱時間、および電流に依存する。例えば、パンケーキコイルを用いて約5Aで約15s~約20s加熱することによって、十分なリフロー結果が得られる。高電流を使用すると、加熱時間を短縮できることを理解されたい。さらに、基材をいかに効率的に加熱するかをコイル形状が決定するため、加熱時間および電流をコイル形状に応じてさらに調節することができる。
【0044】
導電性粒子8の溶融後、インク6の成分は、蒸発し、または溶融物と混合物を形成することができる。その後、溶融物は凝固して表面仕上げ20になる。したがって、インク6はリフローされ、基材2に付着する。その結果、表面仕上げの完全性が保証されて、例えば拭い取りにより表面仕上げを基材から除去することを防ぐ。さらに、インク6のリフローにより、ウィスカ形成を軽減することができる。
【0045】
錫を含むまたは錫から構成される導電性粒子を含むインクを塗布するのと同時に、場合により、異なる材料の導電性粒子の第2のセットを含む第2のインクを、所定の大きさおよび/または形状の第2の領域(図示せず)に転写することができる。導電性粒子の第2のセットは、特に、銀を含んでよくまたは銀から構成されてよい。銀は、純銀または銀合金を意味し得ることを理解されたい。銀は、優れた導電性を有する高周波用途に特に適している。したがって、第2の領域は、プラグ接続部などの解放可能な電気接続部のコンタクト領域に特に配置されてよい。
【0046】
第1の領域と第2の領域とは、異なっていてもよく、重なっていなくてもよい。誘導加熱中、銀を含むおよび/または銀から構成される粒子は、加熱され得るが、溶融されない。しかしながら、誘導加熱プロセスは、第2の領域に利点をもたらすことができ、例えば、第2のインクの加工時間を短縮し、基材へのインクの付着を向上させ、したがって、後続の溶融プロセス中に第2のインクのアブレーションを低減させる。導電性粒子の第1のセットを誘導加熱によって溶融させた後に、後続の加工ステップで導電性粒子の第2のセットを溶融させることが好ましい。導電性粒子の第2のセットを、例えば電子ビーム溶融によって溶融させることができる。電子ビーム溶融中、インクを含む基材は、真空下に配置され、電子ビームによる加熱を通じて溶着される。
錫を含むまたは錫から構成される導電性粒子は既にリフローされているため、導電性粒子の第2のセット、すなわち銀粒子のみを、電子ビームによって溶融させる必要がある。
【0047】
電子ビームは非常に高い運動エネルギーを有し、この運動エネルギーが熱に変換されて、第2のインクの金属粒子を溶融させる。銀粒子のみが電子ビーム溶融によって溶融されるため、基材の変形を生じさせ得る熱応力を軽減することができる。特に、電子ビームによる錫の溶融を避けることができる。錫は、銀よりもはるかに低い融点を有し、高い蒸気圧を有するため、電子銃で加熱されると爆発性の蒸発を生じさせる。これにより、真空チャンバが汚染され、真空が頻繁に低下する。
【0048】
錫表面仕上げ20の品質は、インク6の調製および加工状態に依存する。したがって、インクを改質することによって表面仕上げ20を調節することができる。
【0049】
特に、インク6を粘度およびレオロジーについて最適化して、最適な印刷品質および均質な印刷厚さを可能にすることができる。はんだペーストを用いた印刷は、25℃において10s-1で測定して10Pas超の動粘度を有し、十分な結果をもたらさないことがわかっている。インクの動粘度は、25℃において10s-1で測定して10Pas未満、特に、25℃において10s-1で測定して1Pas未満であることが好ましい。
【0050】
良好な湿潤性を保証するインクの別の成分は、インクの錫粒子の酸化レベルである。一般的に使用可能な錫粉末は、表面酸化物を有する。錫酸化物の融点は、純錫(232℃)よりも大幅に高く(1630℃)、従来の方法では溶融しない。したがって、これらの表面酸化物は、リフローおよび湿潤特性に対して悪影響を及ぼす。錫粒子の酸素含有量は、約1wt%以下、約0.8wt%以下、約0.5wt%未満、約0.3wt%未満、約0.2wt%未満、またはさらには約0.1wt%未満であり得ることが有利である。その結果、インクの湿潤能力をさらに向上させることができる。
【0051】
インクのさらに別の成分は、有機結合剤または安定剤であってよい。これを使用して、金属粒子を分散させ、インクの粘度を調節する。結合剤材料または安定剤材料は、誘導加熱ステップ中に劣化し得る。一部の実施形態において、誘導加熱ステップ後、結合剤材料および安定剤材料は、残るもしくは部分的に残り、または結合剤材料および安定剤材料の分解成分が残る。理論に限定されることなく、これらの結合剤および安定剤またはその分解成分はウィスカの形成を防ぐと考えられる。
【0052】
一部の適用は、約2μm~約10μm、またはさらには約2μm~約5μmの表面仕上げ20の厚さを必要とする。このような小さい厚さの十分に均質な表面仕上げを実現するために、錫を含むまたは錫から構成される導電性粒子の粒径が、約10μm未満であると最適であることがわかっている。
【0053】
導電性粒子の大きさが小さくなると、全表面積が増加し、これは酸化物含有量が高くなることに相当する。したがって、25μm超の平均直径を有する大きい粒径の、低酸化物含有量の錫または錫合金粉末が、より一般的に使用可能である。表面仕上げの品質を向上させるために、10μm未満の平均直径と、特に約0.1wt%未満の低酸素含有量とを有する導電性粒子を含むインクを提供することが望ましい。
【0054】
インクに使用される導電性粒子の粒径分布が狭いことが好ましい。粒径分布を狭いスペクトルに調節することによって、筋の少ないより均一な印刷が可能になる。
【0055】
窒素下でのリフロー、熱風、赤外線加熱、および誘導加熱などの、印刷されたインクを溶融させるための異なる技法を評価した。セロハンテープおよびイソプロピルアルコール(IPA)による洗浄を使用して、基材に対するインクの付着を試験することによって、仕上げの完全性を判定した。十分に付着したインクは、IPAまたはセロハンテープで処理したときに拭い取られない。印刷物を誘導加熱器で加熱したときに、最良の結果が得られた。1つのサンプルでは、錫銀銅合金(SAC)インクが、導電性基材としての銅合金に印刷されている。銅合金はリン青銅であってよい。インクを、誘導加熱器によって5Aで20秒間加熱した。
結果として得られた表面仕上げの厚さは、XRFにより測定して2.29μmであった。このサンプルのXRD分析は、Cu、SnO
2、および強力な接合部を示す導電性基材2と錫表面仕上げ20との界面におけるCu
6Sn
5の金属間ピークを含む複数の相を示した。
図3は、導電性基材2、金属間層21、および表面仕上げ20の上層を形成する固体導電性粒子8の層を示す、表面仕上げ20の断面SEM像を示す。
【0056】
図4は、本発明の方法により得られた表面仕上げ20の上面に形成された粒子構造を示す上面SEM像である。溶融めっき錫および電子ビーム錫表面仕上げは、かなり平滑な上面を有する。これらの形成された粒子構造は、表面仕上げ20に表面粗さを与える、本発明のさらなる特有の機構を提供する。これは、圧着終端に特に有用である。粒子表面は、製品に表面粗さを与え、ある量の自由Snおよび何らかの金属間化合物を示す。金属間化合物は脆性であるが、自由Snは軟質である。表面の凹凸および/または表面粗さを持つ特有の(unique)粒子表面を有することにより、接触中の塑性変形量が大きくなる。これにより、接触領域も大きくなる。
したがって、このような粒子表面は、より低い接触抵抗を低下させ、摩擦係数も低下させる。表面粗さはさらに、表面の機械的特性を変化させ、表面における微小クラックの伝搬を防ぐのを助ける。
【0057】
摩耗摩擦および接触抵抗を調べるために、さらなる試験を行った。印刷されたクーポン(切り取り試片、coupon)からキャップ(caps)を打ち抜き、20秒間誘導加熱し、摩擦係数を調べる同じ平坦部と対照して試験した。キャップとコンタクト仕上げとの間の摩擦係数を、200gの荷重で、5mmの摩耗痕跡にわたる前後ストロークの100サイクルまで測定した。その結果から、リン青銅のリフローされたSACインクが安定した摩耗/摩擦反応を示すことがわかった。摩擦係数は約0.5または0.7で安定し、これは、ニッケルめっきリン青銅の電気めっき錫仕上げの、0.7超~約0.9の摩擦係数よりも低い。
【0058】
リフローされたSAC仕上げを、溶融めっき錫仕上げと対照してさらに評価した。溶融めっきSn仕上げでは、略完全に金属間変換された熱錫が、0.15~0.3の非常に低い摩擦係数を示した。これは、グラビア印刷されリフローされたSACが、銅錫ベースの金属間化合物に完全には変換されなかったことをさらに示す。代わりに、表面仕上げ20は自由錫粒子を呈する。これは、表面仕上げ20が電気導体1の圧着領域に施される場合に特に有利である。
【0059】
接触抵抗性能測定を、半径1.5mmのAgNiプローブにおける2.5μm厚の電気めっきされた金を使用して行った。接触抵抗を、0~5Nの各増分荷重で測定した。リフローされたSAC仕上げを、溶融めっき錫および裸銅と比較した。銅の表面膜を破壊するのに高い法線力が必要であるため、裸銅の接触抵抗は、錫仕上げの接触抵抗と比較してはるかに高かった。リフローされたSAC仕上げの静接触抵抗は、溶融めっき錫の抵抗と同様である。
【0060】
全体として、試験結果から、グラビア印刷およびリフローにより、溶融めっきされた表面仕上げと同等の表面仕上げが形成されることがわかった。グラビア印刷およびリフローは、より費用効率が高く、用途が広いため、様々な異なる表面仕上げおよび/またはパターンが可能になる。
【0061】
図2に、電気導体1の例示的な実施形態の上面図が示されている。電気導体1は、所定の大きさおよび/または形状の少なくとも1つの領域10を有する導電性基材2を備え、この領域10に、グラビア印刷およびリフローにより、印刷されたインクを溶融させ、そのインクが凝固して表面仕上げになることによって、表面仕上げ20が施されている。
【0062】
一部の実施形態において、基材硬度(硬度の測定は、マイクロビッカース硬度計を使用して行われた)は、誘導加熱後も保持される。例えば、基材硬度は、元の硬度の少なくとも約90%であり、少なくとも95%を含む。他の実施形態において、基材硬度は、誘導加熱後に変更される。例えば、基材硬度は、元の硬度の約40%または50%または80%以下まで低下する。保持または変更される硬度は、異なる用途について、異なる滞留時間、温度、および温度プロファイルで実現することができる。
【0063】
以上のように、グラビア印刷、フレキソ印刷プロセス、またはグラビア印刷とフレキソ印刷との組合せによって、様々な異なるパターンを印刷することができ、これらはすべて信頼性が高く、縁部の解像度が高い。異なる表面仕上げを異なる領域に形成することができる。錫表面仕上げが第1の領域に形成され、銀表面仕上げが第2の領域に形成されることが好ましい。