(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】非水電解液蓄電素子及び非水電解液蓄電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20250311BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20250311BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20250311BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20250311BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M10/0567
H01G11/60
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2020109814
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克行
(72)【発明者】
【氏名】河本 真理子
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-020713(JP,A)
【文献】特開2016-219419(JP,A)
【文献】特開2017-004603(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039118(WO,A1)
【文献】特開平11-067232(JP,A)
【文献】特許第6260735(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0569
H01M 4/13-4/38
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、
正極と、
フッ素化溶媒を含有する非水電解液と
を備え、
上記負極がリチウム金属を含む負極活物質層を有し、
上記フッ素化溶媒がフッ素化リン酸エステル及びフッ素化カーボネートを含み、
上記フッ素化カーボネートがフッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを含み、
上記非水電解液の全溶媒における上記フッ素化溶媒の含有量が99.0体積%以上である非水電解液蓄電素子。
【請求項2】
上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有しないか、又は、上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有し、かつ上記フッ素化溶媒における上記フッ素化エーテルの含有割合が25.0体積%未満である
、請求項1に記載の非水電解液蓄電素子。
【請求項3】
上記フッ素化溶媒がパーフルオロポリエーテルを含む
場合を除く
、請求項1又は請求項2に記載の非水電解液蓄電素子。
【請求項4】
上記フッ素化溶媒における上記フッ素化リン酸エステル及び上記フッ素化カーボネートの合計含有量の体積比率が75.0体積%以上である
、請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解液蓄電素子。
【請求項5】
リチウム金属を含む負極活物質層を有する負極、及び正極を備える電極体を準備することと、
フッ素化リン酸エステル及びフッ素化カーボネートを含むフッ素化溶媒を含有する非水電解液を準備することと
を備え、
上記フッ素化カーボネートがフッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを含み、
上記非水電解液の全溶媒における上記フッ素化溶媒の含有量が99.0体積%以上である非水電解液蓄電素子の製造方法。
【請求項6】
上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有しないか、又は、上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有し、かつ上記フッ素化溶媒における上記フッ素化エーテルの含有割合が25.0体積%未満である
、請求項5に記載の非水電解液蓄電素子の製造方法。
【請求項7】
上記フッ素化溶媒がパーフルオロポリエーテルを含む
場合を除く
、請求項5又は請求項6に記載の非水電解液蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解液二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解液とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解液二次電池以外の非水電解液蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、非水電解液蓄電素子の高容量化に向けて、負極の高容量化が求められている。リチウム金属は、現在非水電解液蓄電素子の負極活物質として広く用いられている黒鉛と比較すると活物質質量あたりの放電容量が著しく大きい。このため、負極活物質としてリチウム金属を用いた非水電解液蓄電素子が提案されている(特開2011-124154号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、負極にリチウム金属を用いた非水電解液蓄電素子においては、高い還元性を有するリチウム金属と電解液との副反応が著しい傾向がある。従って、負極にリチウム金属を用いた場合、充放電サイクル後の容量維持率が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、負極活物質としてリチウム金属を用いた場合において、充放電サイクル後の容量維持率が高い非水電解液蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一側面は、負極と、正極と、フッ素化溶媒を含有する非水電解液とを備え、上記負極がリチウム金属を含む負極活物質層を有し、上記フッ素化溶媒がフッ素化リン酸エステルを含み、上記非水電解液の全溶媒における上記フッ素化溶媒の含有量が99.0体積%以上である非水電解液蓄電素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負極活物質としてリチウム金属を用いた場合において、充放電サイクル後の放電容量維持率が高い非水電解液蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解液蓄電素子を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解液蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る非水電解液蓄電素子は、負極と、正極と、フッ素化溶媒を含有する非水電解液とを備え、上記負極がリチウム金属を含む負極活物質層を有し、上記フッ素化溶媒がフッ素化リン酸エステルを含み、上記非水電解液の全溶媒における上記フッ素化溶媒の含有量が99.0体積%以上である。
【0011】
当該非水電解液蓄電素子によれば、負極活物質としてリチウム金属を用いた場合において、非水電解液がフッ素化リン酸エステルを含むフッ素化溶媒を含有し、非水電解液の全溶媒におけるフッ素化溶媒の含有量が99.0体積%以上であることで、充放電サイクル後の放電容量維持率が高い。この理由は定かでは無いが、以下のように推測される。リチウム金属を用いた非水電解液蓄電素子においては、非水電解液とリチウム金属が接触すると、非水電解液が還元分解して、リチウム金属の表面に被膜が生成することによって、リチウム金属の表面で非水電解液がさらに連続的に還元分解されることが抑制される。しかしながら、被膜の形成が不十分な場合、被膜が脆弱なため、電解液が連続的に還元分解されることを抑制する役割が不十分になると考えられる。当該非水電解液蓄電素子は、非水電解液がフッ素化リン酸エステルを含むフッ素化溶媒を含有し、非水電解液の全溶媒におけるフッ素化溶媒の含有量が99.0体積%以上であることで、非水電解液が還元分解したときに、リチウム金属の表面にLiFや下記式で表されるフッ素化リン酸エステル構造を有する化合物((LiO)l(CF3(CH2O)m)nPO、ここで、上記式中、lは、0以上3以下の整数である。nは、3-lである。mは、1以上の整数である。但し、nが2又は3の場合、複数のmは同一でも異なっていてもよい。)を含む強固な被膜が形成される。従って、当該非水電解液蓄電素子は、充放電サイクル後の放電容量維持率が高まる。
【0012】
上記フッ素化溶媒がフッ素化カーボネートを含み、全フッ素化溶媒に対する上記フッ素化リン酸エステル及び上記フッ素化カーボネートの合計含有量の体積比率が75.0体積%以上であることが好ましい。全フッ素化溶媒に対する上記フッ素化リン酸エステル及び上記フッ素化カーボネートの合計含有量の体積比率が上記範囲であることで、当該非水電解液蓄電素子の短絡抑制効果をより高めることができる。
【0013】
上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有しないか、又は、上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有し、かつ上記フッ素化溶媒における上記フッ素化エーテルの含有割合が25.0体積%未満であることが好ましい。上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有しないか、又は、上記フッ素化溶媒における上記フッ素化エーテルの含有割合が上記範囲であることで、当該非水電解液蓄電素子の短絡抑制効果を高めることができる。
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解液蓄電素子について詳説する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0015】
<非水電解液蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解液蓄電素子は、負極と、正極と、非水電解液とを備える。以下、非水電解液蓄電素子の一例として、非水電解液二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に非水電解液が充填される。上記非水電解液二次電池においては、非水電解液として、上記した非水電解液が用いられている。上記非水電解液は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解液二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0016】
[負極]
負極は、負極基材と、上記負極基材の少なくとも一方の面に直接又は間接に積層される負極活物質層とを備える。負極は、負極基材と負極活物質層との間に配される中間層を備えていてもよい。
【0017】
(負極基材)
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H0505(1975)に準拠して測定される体積抵抗率が1×107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が1×107Ω・cm超であることを意味する。
【0018】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解液二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。ここで、「平均厚さ」とは、任意の箇所の厚さを10点測定し、平均した値を意味する。
【0019】
(負極活物質層)
上記負極活物質層は、負極活物質としてリチウム金属を含む。負極活物質がリチウム金属を含むことで活物質質量あたりの放電容量を向上できる。上記リチウム金属には、リチウム単体の他、リチウム合金が含まれる。リチウム合金としては、リチウム銀合金、リチウム亜鉛合金、リチウムカルシウム合金、リチウムアルミニウム合金、リチウムマグネシウム合金、リチウムスズ合金、リチウムケイ素合金、リチウムインジウム合金等が挙げられる。リチウム合金は、リチウム以外の複数の金属元素を含有していてもよい。リチウム金属を含む負極活物質層は、箔状のリチウム金属を所定の形状に切断するか、圧延、蒸着等により所定の形状に成形することにより製造できる。
【0020】
上記負極活物質に占めるリチウム金属の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限は、100質量%であってよい。
【0021】
上記中間層は、負極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0022】
[正極]
正極は、正極基材と、正極活物質層とを有する。上記正極活物質層は、正極活物質を含有する。上記正極活物質層は、上記正極基材の少なくとも一方の面に沿って直接又は中間層を介して積層される。
【0023】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H4160(2006)又はJIS-H4000(2014)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0024】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0025】
上記正極活物質としては、例えば、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β≦1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層中の正極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。
【0026】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0027】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0028】
上記バインダーとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。正極活物質層におけるバインダーの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。
【0029】
上記増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0030】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0031】
上記中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。負極と同様、中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0032】
[非水電解液]
非水電解液は、非水溶媒、並びにこの非水溶媒に溶解している電解質塩を含有する。上記非水電解液は、フッ素化溶媒を含有する。上記フッ素化溶媒は、フッ素化リン酸エステルを含む。なお、上記非水電解液は、液体に限定されるものではない。すなわち、上記非水電解液は、液体状のものだけに限定されず、固体状やゲル状のもの等も含む。
【0033】
(フッ素化溶媒)
上記フッ素化溶媒は、フッ素化リン酸エステルを含む。なお、「フッ素化溶媒」とは、フッ素化エステル、フッ素化エーテル、フッ素化カーボネート(フッ素化鎖状カーボネート及びフッ素化環状カーボネート)等、分子内にフッ素原子を有する非水溶媒をいう。
【0034】
フッ素化リン酸エステルとしては、フルオロアルキルリン酸エステルが好ましく、トリスフルオロアルキルリン酸エステルがより好ましい。上記フッ素化リン酸エステルの具体例としては、例えばリン酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロブチル)、リン酸トリス(1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル)、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)、リン酸トリス(1H,1H-パーフルオロブチル)、リン酸トリス(1H,1H-パーフルオロペンチル)、リン酸トリス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロピル)等を挙げることができる。上記フッ素化リン酸エステルとしては、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEP)が好ましい。
【0035】
上記フッ素化溶媒に占めるフッ素化リン酸エステルの含有量の下限としては、5体積%が好ましく、10体積%がより好ましく、15体積%がさらに好ましい。一方、この上限としては、70体積%が好ましく、60体積%がより好ましく、50体積%がさらに好ましい。フッ素化リン酸エステルの含有量を上記範囲とすることにより、充放電サイクル後の放電容量維持率をより高めることができる。
【0036】
上記フッ素化溶媒は、フッ素化カーボネートを含むことが好ましい。フッ素化カーボネートとしては、フッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを挙げることができる。
【0037】
上記フッ素化環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート(trans体、cis体およびそれらの混合物を含む:DFEC)、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、テトラフルオロエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-(ジフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ビス(フルオロメチル)エチレンカーボネート(trans体、cis体およびそれらの混合物を含む)、4,5-ビス(ジフルオロメチル)エチレンカーボネート(trans体、cis体およびそれらの混合物を含む)、4,4-ビス(ジフルオロメチル)エチレンカーボネート、4,5-(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート(trans体、cis体およびそれらの混合物を含む)、4,4-(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート、(フルオロエチル)エチレンカーボネート、(ジフルオロエチル)エチレンカーボネート、(トリフルオロエチル)エチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート(trans体、cis体およびそれらの混合物を含む)、4,4-ジフルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート等を挙げることができる。上記フッ素化環状カーボネートとしては、これらの中でも、フッ素化エチレンカーボネートが好ましく、フルオロエチレンカーボネート(FEC)がより好ましい。上記フルオロエチレンカーボネートは耐酸化性が高く、非水電解液蓄電素子の充放電時に生じうる副反応(非水溶媒等の酸化分解等)の抑制効果が高い。
【0038】
上記フッ素化鎖状カーボネートとしては、(2-フルオロエチル)メチルカーボネート、(2,2-ジフルオロエチル)メチルカーボネート、(2,2,2-トリフルオロエチル)メチルカーボネート、エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート、エチル-(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、エチル-(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2,2-ジフルオロエチル-2’-フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2-トリフルオロエチル-2’-フルオロエチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチル-2’,2’-ジフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、(3,3,3-トリフルオロプロピル)メチルカーボネート、(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)メチルカーボネート、(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)メチルカーボネート、エチル-(3,3,3-トリフルオロプロピル)カーボネート、エチル-(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)カーボネート、エチル-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)カーボネート、(3,3,3-トリフルオロプロピル)n-プロピルカーボネート、(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)n-プロピルカーボネート、(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)プロピルカーボネート、ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)カーボネート、ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)カーボネート、ビス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)カーボネート等を挙げることができる。これらの中でも、(2,2,2-トリフルオロエチル)メチルカーボネート及びビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネートが好ましい。
【0039】
上記フッ素化カーボネートは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができるが、フッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを併用することが好ましい。フッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを併用する場合、フッ素化環状カーボネートとフッ素化鎖状カーボネートとの体積比(フッ素化環状カーボネート:フッ素化鎖状カーボネート)としては、5:95から90:10が好ましく、10:90から30:70がより好ましい。
【0040】
全フッ素化溶媒に対する上記フッ素化リン酸エステル及び上記フッ素化カーボネートの合計含有量の体積比率の下限としては、75.0体積%が好ましく、80.0積%がより好ましく、90.0体積%がさらに好ましく、100体積%であってもよい。全フッ素化溶媒に対する上記フッ素化リン酸エステル及び上記フッ素化カーボネートの合計含有量の体積比率が上記範囲であることで、充放電サイクル後の短絡抑制効果をより高めることができる。
【0041】
上記フッ素化溶媒は、フッ素化リン酸エステル及びフッ素化カーボネート以外の他のフッ素化溶媒を含有してもよい。他のフッ素化溶媒としては、例えばフッ素化エーテル、フッ素化エステル、フッ素化炭化水素等が挙げられる。
【0042】
上記フッ素化エーテルは、フッ素化鎖状エーテル及びフッ素化環状エーテルのいずれであってもよい。上記フッ素化エーテルとしては、ビス(2-フルオロエチル)エーテル、ビス(2,2-ジフルオロエチル)エーテル、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、エチル-2-フルオロエチルエーテル、エチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、2-フルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル等を挙げることができる。
【0043】
上記フッ素化エステルとしては、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸エチル、トリフルオロ酢酸エチル、酢酸-2,2,2-トリフルオロエチル等を挙げることができる。
【0044】
上記フッ素化炭化水素としては、フッ素化アルカン、フッ素化シクロアルカン等のフッ素化脂肪族炭化水素であってもよく、ヘキサフルオロベンゼン等のフッ素化芳香族炭化水素であってもよい。
【0045】
上記フッ素化溶媒は、フッ素化エーテルを含有しないか、又は、上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有し、かつ上記フッ素化溶媒における上記フッ素化エーテルの含有割合が25.0体積%未満であることが好ましく、20.0体積%以下であることがより好ましい。上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有しないか、又は、上記フッ素化溶媒における上記フッ素化エーテルの含有割合が上記範囲であることで、当該非水電解液蓄電素子の短絡抑制効果を高めることができる。上記フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有する場合、フッ素化溶媒に占める上記フッ素化リン酸エステルの含有量の上限としては、40.0体積%が好ましく、30.0体積%がより好ましく、20.0体積%がさらに好ましい。
【0046】
上記非水溶媒は、フッ素化溶媒以外の有機溶媒を含有してもよい。他の有機溶媒としては、フッ素化カーボネート以外のカーボネート、フッ素化エステル以外のエステル、フッ素化エーテル以外のエーテル、アミド、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。また、スルホン、サルファイト等の硫黄を含む有機溶媒を含有してもよい。
【0047】
上記フッ素化カーボネート以外のカーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジフェニルカーボネート等の鎖状カーボネートを挙げることができる。また、上記フッ素化エステル以外のエステルとしては、例えば酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)等を挙げることができる。上記スルホンとしては、スルホラン(SL)、エチルイソプロピルスルホン(EiPSO2)、エチルメチルスルホン(EMSO2)等を挙げることができる。上記サルファイトとしては、例えばジエチルサルファイト(DES)、ジメチルサルファイト(DMS)等を挙げることができる。
【0048】
上記非水電解液の全非水溶媒における上記フッ素化溶媒の含有量の下限としては、99.0体積%であり、99.5体積%が好ましく、99.9体積%がより好ましく、100体積%がさらに好ましい。上記フッ素化溶媒の含有量が上記範囲であることで、当該非水電解液蓄電素子の充放電サイクル後の放電容量維持率をより高めることができる。
【0049】
(電解質塩)
上記電解質塩としては、一般的な非水電解液の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0050】
上記リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2、LiSO3CF3等の無機リチウム塩、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)等のイミドリチウム塩、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0051】
上記非水電解液における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1mol dm-3が好ましく、0.3mol dm-3がより好ましく、0.5mol dm-3がさらに好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、3mol dm-3が好ましく、2mol dm-3がより好ましい。
【0052】
(その他の添加剤等)
上記非水電解液は、本発明の効果を阻害しない限り、その他の添加剤を含有していてもよい。上記その他の添加剤としては、一般的な非水電解液に含有される各種添加剤を挙げることができる。添加剤としては、例えばビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
[セパレータ]
上記セパレータとしては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解液の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。「セパレータの主成分」とは、セパレータの総質量に対して50質量%以上含まれる成分をいう。
【0054】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0055】
セパレータとして、ポリマーと非水電解液とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。上記ポリマーとしては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリビニルカーボネート、ポリメチルメタアクリレートまたはポリアルキルメタアクリレート類、ポリメチルアクリレートまたはポリアルキルアクリレート類、ポリビニルエチレンカーボネート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリマレイン酸およびその誘導体、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(フッ化ビニリデン―co―ヘキサフルオロプロピレン)、ポリテトラフルオロエチレン等およびそれらの共重合体および混合体が挙げられる。また、これらポリマーは無機塩やイオン液体と複合させてもよい。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0056】
[非水電解液蓄電素子の具体的構成]
本実施形態の非水電解液蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、パウチフィルム型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0057】
図1に非水電解液蓄電素子1として、角型の非水電解液二次電池を一例として示す。なお、同図は、ケース内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型のケース3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0058】
<非水電解液蓄電素子の製造方法>
本実施に係る非水電解液蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば電極体を準備する工程と、非水電解液を準備する工程と、電極体及び非水電解液をケースに収容する工程と、を備える。電極体を準備する工程は、正極及び負極を準備する工程と、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより電極体を形成する工程を備える。
【0059】
上記非水電解液をケースに収容する工程では、公知の方法から適宜選択できる。例えば、液状の非水電解液(「電解液」ともいう)を用いる場合、ケースに形成された注入口から電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。当該製造方法によって得られる非水電解液蓄電素子を構成するその他の各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0060】
[その他の実施形態]
なお、本発明に係る非水電解液蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0061】
上記実施の形態においては、非水電解液蓄電素子が非水電解液二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解液蓄電素子であってもよい。その他の非水電解液蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。非水電解液二次電池としては、リチウムイオン非水電解液二次電池が挙げられる。
【0062】
本発明は、上記の非水電解液蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。また、本発明の非水電解液蓄電素子(セル)を単数又は複数個用いることにより蓄電ユニットを構成することができ、さらにこの蓄電ユニットを用いて蓄電装置を構成することができる。上記蓄電装置は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いることができる。さらに、上記蓄電装置は、エンジン始動用電源装置、補機用電源装置、無停電電源装置(UPS)等の種々の電源装置に用いることができる。
【0063】
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解液蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合させた蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解液蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解液蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
(非水電解液の調製)
フルオロエチレンカーボネート(FEC)、トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)及びリン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEP)を10体積%:70体積%:20体積%の体積比で混合した。次に、上記混合溶媒にLiPF6を1mol dm-3の濃度で溶解させた溶液を作製し、非水電解液とした。
【0066】
(正極の作製)
正極活物質として、α―NaFeO2型結晶構造を有し、Li1+αMe1-αO2(Meは遷移金属)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。ここで、LiとMeのモル比Li/Meは1.33であり、Meは、Ni及びMnからなり、Ni:Mn=1:2のモル比で含んでいるものであった。
【0067】
N-メチルピロリドン(NMP)を分散溶媒とし、上記正極活物質、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を94.0:4.5:1.5の質量比率で含有する正極ペーストを作製した。正極基材であるアルミニウム箔の片面に、上記正極ペーストを塗布し、乾燥後プレスし正極活物質層が配置された正極を作製した。電流密度は1.0CmA時に5mAcm-2となるように、電極塗布質量を設計した。
【0068】
(負極の作製)
負極基材である銅箔の片面に、負極活物質層としてリチウム金属箔(リチウム金属100質量%)を積層後プレスし、負極を作製した。
【0069】
(非水電解液蓄電素子の作製)
次いで、ポリオレフィン製微孔膜からなるセパレータを介して、上記正極板と上記負極板とを積層することにより電極体を作製した。この電極体を金属樹脂複合フィルム製のケースに収納し、内部に上記非水電解液0.5mlを注入した後、熱溶着により封口し、単層パウチセルである実施例1の非水電解液蓄電素子(非水電解液二次電池)を得た。
【0070】
[実施例2から実施例4及び比較例1から比較例5]
用いた非水電解液の溶媒及び量を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2から実施例4及び比較例1から比較例5の非水電解液蓄電素子を得た。
用いた溶媒は以下の通りである。
FEC:フルオロエチレンカーボネート
TFEP:リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)
TFEMC:トリフルオロエチルメチルカーボネート
TFEE:1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル
EMC:エチルメチルカーボネート
EC:エチレンカーボネート
なお、以下、表中「-」は、相当する溶媒を用いていないことを示す。
【0071】
(初回充放電)
得られた各非水電解液蓄電素子について、以下の条件にて初回充放電を行った。25℃で4.60Vまで充電電流0.1Cで定電流充電したのちに、4.60Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で2.00Vまで放電電流0.1Cで定電流放電した。
【0072】
(初期容量確認試験)
初回充放電後、以下の条件にて初期容量確認試験を行った。25℃で4.60Vまで充電電流0.1Cで定電流充電したのちに、4.60Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けたのちに、25℃で2.00Vまで放電電流1.0Cで定電流放電した。この試験で得られた放電容量を「初期放電容量」とした。
【0073】
(充放電サイクル試験)
次いで、以下の充放電サイクル試験を行った。25℃において、充電電流0.2Cで定電流充電したのちに、4.60Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、2.00Vまで放電電流0.1Cで定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電を60サイクル実施した。
【0074】
その後、初期容量確認試験と同様の方法にて、充放電サイクル試験後の放電容量確認試験を行った。この試験で得られた放電容量を充放電サイクル後の放電容量とした。初期放電容量に対する充放電サイクル試験後の放電容量の百分率を「60サイクル後放電容量維持率」とした。60サイクル後放電容量維持率を表1に示す。
【0075】
(短絡発生までのサイクル数)
短絡発生までのサイクル数は、以下の手順で評価した。上記充放電サイクル試験と充放電サイクル試験後の放電容量確認試験に次いで、上記充放電サイクル試験と同様の方法にて、サイクル数に上限を設けずに充放電サイクル試験を行った。
短絡の発生の有無は、充放電サイクル中のクーロン効率の低下及び充電電気量の増大により確認した。具体的には、クーロン効率の低下及び充電電気量の増大が生じたときを短絡発生と判断した。
短絡発生までのサイクル数の評価結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
上記表1に示されるように、フッ素化リン酸エステルを含むフッ素化溶媒を含有し、非水電解液の全溶媒におけるフッ素化溶媒の含有量が99.0体積%以上である実施例1から実施例4は、負極活物質としてリチウム金属を用いた場合において、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いことが確認された。また、全フッ素化溶媒に対するフッ素化リン酸エステル及びフッ素化カーボネートの合計含有量の体積比率が75.0体積%以上であることで、短絡抑制効果をより向上できたことがわかる。
さらに、フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有しない実施例1、並びにフッ素化溶媒におけるフッ素化エーテルの含有割合が25.0体積%未満である実施例2及び実施例3は、当該非水電解液蓄電素子の短絡抑制効果が高いことがわかる。
【0078】
これに対し、フッ素化溶媒がフッ素化リン酸エステルを含まない比較例1から比較例3は、実施例1から実施例4と比較して充放電サイクル後の放電容量維持率が低いことがわかる。また、非水電解液の全溶媒におけるフッ素化溶媒の含有量が30体積%である比較例3は充放電サイクル後の放電容量維持率が特に低かった。
さらに、フッ素化溶媒がフッ素化エーテルを含有しない実施例1、比較例1及び比較例3の比較、並びにフッ素化エーテルの含有割合が10体積%である実施例2及び比較例2の比較から、フッ素化溶媒がフッ素化リン酸エステルを含む実施例1及び実施例2の方がより高い短絡抑制効果を有していることがわかる。
【0079】
以上の結果、当該非水電解液蓄電素子は、負極活物質としてリチウム金属を用いた場合において、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解液蓄電素子に適用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 非水電解液蓄電素子
2 電極体
3 ケース
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置