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特許7647035脱酸素剤、脱酸素剤包装体、および食品包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】脱酸素剤、脱酸素剤包装体、および食品包装体
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20250311BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20250311BHJP
   B65D 81/26 20060101ALI20250311BHJP
   A23B 2/717 20250101ALI20250311BHJP
【FI】
B01D53/14 311
B01J20/30
B65D81/26 R
A23B2/717
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020144419
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039415
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠也
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225952(JP,A)
【文献】特開2017-177013(JP,A)
【文献】特開2020-075207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/14-53/18
B01J20/00-20/28
B01J20/30-20/34
B65D67/00-79/02
B65D81/18-81/30
A23B 2/00- 2/796
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の担持体と、前記担持体に担持された酸素吸収組成物とを含むコア部と、
親水性シリカ粒子を含み、前記コア部の表面を被覆する層状のシェル部と、
を備え、
前記酸素吸収組成物は、グリセリンを含む液剤、水酸化カルシウム、および遷移金属化合物を含み、
前記シェル部が前記水酸化カルシウムを含有し、
平均粒子径が0.1mm以上1.0mm以下であり、
前記シェル部の平均厚みと前記コア部の最大径との比が0.03以上0.3以下である、
脱酸素剤。
【請求項2】
前記シェル部の平均厚みと前記コア部の最大径との比が0.05以上0.22以下である、
請求項1に記載の脱酸素剤。
【請求項3】
前記コア部が球状または楕円球状である、
請求項1に記載の脱酸素剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の脱酸素剤が通気性の包材に収納されている、
脱酸素剤包装体。
【請求項5】
請求項4に記載の脱酸素剤包装体と、
前記脱酸素剤包装体および食品が封入された包装容器と、
を備える、
食品包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱酸素剤および脱酸素剤包装体に関する。さらに、この脱酸素剤包装体を有する食品包装体や、脱酸素剤の製造方法についても言及する。
【背景技術】
【0002】
食品を長期保存する方法の一つとして、食品の包装容器内に脱酸素剤を封入する方法がある。この方法では、ガスバリア性の密封袋または密封容器内に食品および脱酸素剤を同封し、密封容器内の酸素を脱酸素剤に吸収させ、密封容器内の雰囲気を実質的に無酸素状態に保つことにより、酸化による品質劣化や、細菌や微生物の増殖等を抑える。
【0003】
現在よく用いられている脱酸素剤には、大きく2つの種類がある。鉄を主剤とする無機系の脱酸素剤と、アスコルビン酸系の酸素吸収性物質を主剤とする有機系の脱酸素剤である。これらは、用途や対象食品等に応じて使い分けされるが、近年商品を金属探知機にかける必要が高まっていることから、金属探知機にかけることが可能な有機系脱酸素剤の需要が増えてきている。
【0004】
有機系の脱酸素剤には、鉄系の脱酸素剤に比べて酸素吸収速度が遅いという欠点がある。食品の保存性向上を目的とする脱酸素剤の使用においては、早い場合で24時間~48時間で生育するカビの発生を抑える観点から、24時間以内に酸素濃度を0.1%未満まで低下させておくことが望ましいが、有機系脱酸素剤でこの条件を満足することは容易ではない。
そのため、有機系脱酸素剤において酸素吸収速度を高めるため、酸素吸収性物質の酸化反応を促進する反応触媒や反応促進剤を加える、最適pHにするためのアルカリ性化合物を加える等が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3541859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者は、上記先行技術を踏まえ、異なるアプローチで酸素吸収能力を高めることに成功した。
【0007】
本発明は、粒状の脱酸素剤において、酸素吸収能力をより向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、多孔質の担持体と、担持体に担持された酸素吸収組成物とを含むコア部と、親水性シリカ粒子を含み、コア部の表面を被覆する層状のシェル部とを備える脱酸素剤である。
酸素吸収組成物は、グリセリンを含む液剤、水酸化カルシウム、および遷移金属化合物を含む。
シェル部は、コア部と同一の水酸化カルシウムを含有する。
脱酸素剤の平均粒子径は0.1mm以上1.0mm以下であり、シェル部の平均厚みとコア部の最大径との比が0.03以上0.3以下である。
【0009】
本発明の第二の態様は、第一の態様に係る脱酸素剤が通気性の包材に収納された脱酸素剤包装体である。
本発明の第三の態様は、第二の態様に係る脱酸素剤包装体と、脱酸素剤包装体および食品が封入された包装容器とを備える食品包装体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒状の脱酸素剤において、酸素吸収能力をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る脱酸素剤包装体を示す図である。
図2】同実施形態に係る脱酸素剤の模式断面図である。
図3】実施例に係る同脱酸素剤の、電子顕微鏡による断面像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図1から図3を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る脱酸素剤包装体1を示す図である。脱酸素剤包装体1は、通気性を有する包材10と、包材10内に収納された脱酸素剤20とを備えている。
【0014】
図2に、脱酸素剤20の模式断面図を示す。脱酸素剤20は、コア部21と、コア部21を被覆するシェル部22とを有するコアシェル構造型の粉体である。本明細書において、「粉体」は、多数の微粒子から構成され、全体として流動性を維持している集合体を意味する。したがって、全体として微粒子同士が互いに固着して単一の固形錠剤を形成したもの自体は粉体に含まれない。
【0015】
コア部21は、多孔質の担持体と、担持体に担持された酸素吸収組成物とを含有する、
担持体は、酸素吸収組成物を担持できる多孔質粒子であればよい。通常、担持体に酸素吸収組成物が含浸することで、酸素吸収性物質が担持体に担持される。担持体としては、例えば、活性炭、ゼオライト粒子、ベントナイト粒子、活性アルミナ粒子、活性白土、ケイ酸カルシウム粒子、及び珪藻土から選ばれる1種類以上を使用できる。
【0016】
酸素吸収組成物は、酸素吸収性物質を含む液剤、アルカリ性化合物、遷移金属化合物を含有する。このような酸素吸収組成物とすることによって十分な酸素吸収速度が得られる。
【0017】
酸素吸収性物質を含む液剤は、常温(5~35℃)で液状の酸素吸収性物質であってもよいし、液状または固体の酸素吸収性物質を含む溶液であってもよい。酸素吸収性物質は、酸素吸収組成物の主剤であり、酸素を吸収する物質である。酸素吸収性物質は、例えば、それ自身が酸化することによって酸素を消費し、酸素を吸収する化合物であってもよい。本実施形態では、常温で液状、又は溶媒へ溶解した状態の酸素吸収性物質を用いることができる。このような酸素吸収性物質は、例えば、グリセリン、1,2-グリコール、及び糖アルコールからなる群から選ばれる1種以上の化合物である。1,2-グリコールの具体例としては、エチレングリコール、およびプロピレングリコールが挙げられる。糖アルコールの具体例としては、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、アドニトール、マンニトール、およびソルビトールが挙げられる。
【0018】
液剤が酸素吸収性物質の溶液であるとき、酸素吸収性物質が溶解する溶媒として、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノールおよび第3級アミルアルコール等の低級脂肪族アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコールおよびトリメチレングリコール等のグリコール;フェニール等を例示できる。
【0019】
酸素吸収性物質は、上述した化合物を単独でも、複数組み合わせても用いることができる。液剤に酸素吸収性物質を含有させる事によって、担持体やアルカリ性化合物との分散性がよくなる為、酸素吸収性能が得られやすくなる。
【0020】
酸素吸収性物質の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常80~200質量部であり、100~180質量部であってもよい。酸素吸収性物質の量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤が得られ易い傾向がある。
【0021】
酸素吸収性物質は、酸素を吸収する反応に水を必要とする場合がある。このため、酸素吸収性物質自身が常温で液体であっても、必要に応じて水を液剤に添加することができる。必要に応じて添加される水の量は、酸素吸収性物質100質量部に対して、通常0~80質量部であり、20~60質量部であってもよい。水の量は、担持体100質量部に対して、通常0~90質量部であり、20~70質量部であってもよい。
【0022】
アルカリ性化合物は、水に溶解したときにアルカリ性の水溶液を形成する化合物である。酸素吸収性物質が水酸基を持つ場合、水酸基をアルカリ性化合物がイオン化させることで、酸素吸収反応が活性化される。酸素吸収組成物の状態では、アルカリ性化合物の一部が酸素吸収性物質を含む液剤に溶解していることが多い。アルカリ性化合物は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、第三リン酸塩、第二リン酸塩等とできる。具体的なアルカリ性化合物として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ラジウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム、第三リン酸ナトリウム、第三リン酸カリウム、第二リン酸ナトリウム、および第二リン酸カリウムからなる群より選ばれる1種以上の化合物を例示できる。これらの中では、水酸化カルシウムが特に好ましい。これは、水酸化カルシウムはグリセリンと可溶性錯体を形成し、酸化反応が促進されやすくなるためである。
【0023】
アルカリ性化合物の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常90~300質量部であり、150~250質量部であってもよい。アルカリ性化合物の量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤が得られ易い傾向がある。
また、水酸化カルシウムなどのアルカリ性化合物は、水などの液体と混合すると固化する性質を持つ。多孔質担持体、アルカリ性化合物、水を適当な混合比で撹拌することにより、自足的に球状に成形され、コア部を作製することができる。
【0024】
遷移金属化合物は、遷移金属元素を含む化合物であり、酸素吸収性物質の酸素吸収反応を促進するために添加される。遷移金属化合物は、酸素吸収組成物の状態では、酸素吸収性物質を含む液剤に溶解していることが多い。遷移金属元素の具体例としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、およびマンガンが挙げられる。遷移金属化合物は、例えば、遷移金属のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、酸化物、水酸化物、またはキレート化合物であってもよい。遷移金属化合物は、遷移金属元素を含む複塩であってもよい。遷移金属化合物は、塩化銅(I)、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、水酸化銅(II)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、塩化マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、炭酸マンガン(II)、硫酸マンガン(II)および塩化ニッケル(II)からなる群より選ばれる1種以上の化合物であってもよい。
【0025】
遷移金属化合物の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常10~70質量部であり、30~50質量部であってもよい。遷移金属化合物の量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤が得られ易い傾向がある。
【0026】
酸素吸収組成物は、コア部21が容易に形成できるように、バインダーを更に含有していてもよい。バインダーは、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、セルロース等とできる。バインダーの量は、担持体の質量100質量部に対して、通常0~30質量部であり、10~20質量部であってもよい。
【0027】
酸素吸収組成物は、必要によりその他の物質を更に含有していてもよい。その他の物質としては、例えば、酸素吸収性能を向上させるカテコール系化合物が挙げられる。その他の物質の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常、30質量部以下程度である。
【0028】
コア部21は、担持体と、酸素吸収組成物を構成する成分とを含む混合物を造粒することにより得ることができる。酸素吸収組成物を構成する各成分は、一括して混合してもよいし、別々に混合してもよい。
コア部に含む酸素吸収組成物に含まれるアルカリ性化合物は、水の存在下で固化するため、酸素吸収性能向上のためのアルカリ性反応場を形成しつつ、コア部形成のための固化剤としても作用する。
混合するための混合機は、特に限定されず、例えば、円筒型、V型等の容器回転型混合機であってもよいし、リボン型、水平スクリュー型、パドル型、遊星運動型等の容器固定型混合機であってもよく、それらを2種類以上組み合わせて使用してもよい。特に、高速攪拌による攪拌造粒を行うため、容器固定型の攪拌混合機の使用が好ましい。
造粒は、前述の攪拌混合機による攪拌造粒や、所定の開孔を有するスクリーンを用いた押出し造粒法によって行うことができる。中でも、球状の造粒物が得られる攪拌混合機による攪拌造粒が好ましい。
【0029】
シェル部22は、親水性の無機微粒子を主成分とし、コア部21の周囲を層状に被覆している。
親水性無機微粒子は、親水性の無機物質を主成分として含む非水溶性の粒子である。親水性無機微粒子は、その全体質量を基準として、通常50質量%以上の親水性の無機物質を含む。親水性の無機物質としては、元素としてケイ素(Si)を含むことが好ましく、例えば、親水性二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム水和物、およびケイ酸アルミニウム等を例示できる。
【0030】
親水性無機微粒子の平均粒径は、150μm以下とできる。親水性無機微粒子の平均粒径が150μm以下であると、脱酸素剤の酸素吸収能力を高められる。
コア部21の表面には、通常、微細な凹凸が形成されており、小さい粒径の親水性無機微粒子は、コア部表面の凹部に入り込みやすい。これにより、脱酸素剤20の表面積は大幅に増加し、酸素吸収能力が向上すると考えられる。
同様の観点から、親水性無機微粒子の平均粒径は、100μm以下、あるいは50μm以下ともできる。平均粒径の下限は特に制限されないが、ナノサイズの微粒子では価格が上がることと、皮膚表面から人体へ取り込まれてしまうために取扱が難しくなるという観点からは、例えば、0.1μm以上が好ましい。本発明において、親水性無機微粒子の平均粒径は、レーザー回析法により測定される2次粒子径の値と定義する。
【0031】
親水性無機微粒子の細孔容積は、0.5mL/g以上とできる。親水性無機微粒子の細孔容積が0.5mL/gであると、脱酸素剤の酸素吸収能力を高められる。大きな細孔容積を有する親水性無機微粒子は、コア部21において、表面近傍に位置する酸素吸収組成物を吸収しやすいと考えられる。この場合、シェル部22は、コア部が含有するアルカリ性化合物と同一のアルカリ性化合物を含有する。
酸素吸収組成物(特に酸素吸収性物質)が親水性無機微粒子に吸収されると、酸素吸収性物質と環境下の酸素とが接触する面積が増え、その結果、酸素吸収能力が向上すると考えられる。親水性無機微粒子において、150μm以下の平均粒径と、0.5mL/g以上の細孔容積とを満足するものは、酸素吸収能力向上のために特に有効である。
同様の観点から、親水性無機微粒子の細孔容積は、0.8mL/g以上、または1.2mL/g以上ともできる。細孔容積の上限は、特に制限されないが、例えば、10mL/g以下とできる。本発明において、細孔容積は、窒素吸着法または水銀圧入法により測定される値と定義する。したがって、窒素吸着法又は水銀圧入法のうち少なくともいずれか一方の方法で測定される細孔容積が上記数値範囲内であればよい。
【0032】
以上例示した無機微粒子は、通常の方法によって製造することが可能であり、市販品の中から適宜選択して入手することもできる。
【0033】
攪拌造粒を用いて脱酸素剤20を製造する際は、攪拌翼やスクレーパー等を備えた公知の攪拌混合機を使用できる。
攪拌混合機の装置構成は、縦型の一軸型混合機が好ましい。具体的な装置として、スーパーミキサーSMP-2((株)カワタ製)、インテンシブミキサーEL1(日本アイリッヒ(株)製)、トリプルマスターTMG-1((株)品川工業所製)等を例示できる。
まず、コア部を構成する材料のうち、液剤を除いたものを攪拌造粒機に投入して所定時間攪拌混合する(ステップA)。ステップAの攪拌時間は5~15分、攪拌速度は3~8m/秒とできる。
次に、液剤を加えて所定時間攪拌混合する(ステップB)。ステップBの攪拌時間は0.5~3分、攪拌速度は1~5m/秒から徐々に上げていき、15~30m/秒とできる。
さらに、所定時間攪拌すると、液剤により材料が湿潤して凝集し、略球形のコア部が形成される(ステップC)。ステップCの攪拌時間は0.5~5分、攪拌速度は3~8m/秒とできる。
最後に、親水性無機微粒子を攪拌造粒機に投入して所定時間攪拌し、コア部を親水性無機微粒子で被覆すると、コア部21およびシェル部22を備えた脱酸素剤20が完成する(ステップD)。ステップDの攪拌時間は0.5~2分、攪拌速度は3~8m/秒とできる。
上述した各ステップは、同一の攪拌造粒機で行ってもよいし、一部のステップが他と異なる攪拌造粒機で行われてもよい。ステップBないしDは、一軸型混合機で行うことが好ましいが、ステップAは乾粉の混合工程であるため、容器回転式混合機を用いて行っても問題ない。
【0034】
上述した製造方法においては、ステップBおよびステップCにおいて、液剤が微小な液滴の状態でコア部21内に配置される。さらに、ステップDにおいて、コア部21に遠心力が作用し、コア部の一部が溶解した微小液滴の一部がシェル部22に移動する。したがって、押出造粒等で製造する場合に比べて、コア部21の成分がより多くシェル部22に存在する脱酸素剤となる。
【0035】
本実施形態の脱酸素剤20においては、無機微粒子に移行した酸素吸収組成物が大気と反応すると、コア部21の内部に位置する酸素吸収組成物がコア部表層に順次移行してシェル部22に吸収される。その結果、高い酸素吸収性能が長時間持続する。
【0036】
脱酸素剤20におけるコア部21とシェル部22との寸法比は適宜設定できるが、シェル部22の平均厚みとコア部21の最大径との比が0.03以上0.3以下であることが好ましい。シェル部がコア部に対して薄すぎると、コア部から移動してきた酸素吸収組成物を吸収しきれず、脱酸素剤の流動性が低下する可能性がある。シェル部がコア部に対して厚すぎると、コア部から移動してきた酸素吸収組成物と脱酸素剤表面との距離が遠くなり、コア部から移動してきた成分による酸素吸収性能の向上効果が低下する可能性がある。
コア部の最大径は、コア部が球状であるときは直径でよく、コア部が楕円球状であるときは長径でよい。コア部が不定形であるときはフェレ径を採用してもよい。
シェル部の平均厚みは、例えば断面像において無作為に選択した複数個所(例えば10か所)における厚みの値の算術平均値とできる。
【0037】
脱酸素剤20を通気性の包材10に収納して封止すると、本実施形態の脱酸素剤包装体1が完成する。
【0038】
食品が入った包装容器に脱酸素剤包装体1を封入して密封すると、本実施形態に係る食品包装体となる。脱酸素剤包装体1は、金属探知器による品質検査を行う食品等にも好適に使用できる。
本実施形態に係る食品包装体において、密封可能であれば包装容器の態様に特に制限はなく、食品包装の分野で通常用いられるものから適宜選択できる。包装容器として、袋体、深絞り包装体、トレイ包装体、ストレッチ包装体等を例示できる。
【0039】
本実施形態に係る脱酸素剤について、実施例を用いてさらに説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、これら実施例の具体的内容により限定されない。
【0040】
(実施例1)
活性炭7.2部、水酸化カルシウム15.6部、セルロース1.2部を攪拌混合機に投入し、3.0m/秒でステップAを実行し、粉剤24部を得た。粉剤について、ダマがなく、均一な灰色であることを確認した。
次に、グリセリン10.5部、硫酸銅(II)3.1部、水4.2部を混合した液剤を添加し、18.0m/秒でステップBを実行した。湿潤粉体にダマや塊がなくなったことを確認し、ステップBを終了した。
さらに、5.0m/秒でステップCを実行した。粒子の表面が濡れて黒色光沢が見られ、球状に凝集したことを目視で確認してステップCを終了した。以上により、コア部41.8部を得た。
【0041】
続いて、親水性シリカ粒子であるサイロページ720(富士シリシア化学社製)2.1部を攪拌混合機に投入し、5.0m/秒でステップDを実行した。混合機内に飛散するシリカ粒子が無くなったことを確認し、ステップDを終了した。ステップDにより、親水性シリカ粒子が表面の濡れたコア部周囲を均一に被覆してシェル部が形成された。
以上により、コアシェル構造を有する実施例1の脱酸素剤を得た。
【0042】
(実施例2)
サイロページ720の量を1.3部とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2の脱酸素剤を得た。
(実施例3)
サイロページ720の量を4.2部とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例3の脱酸素剤を得た。
【0043】
(実施例4)
シェル部の材料として、親水性シリカ粒子であるNIPSIL LP(東ソー・シリカ社製)2.1部を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例4の脱酸素剤を得た。
【0044】
(実施例5)
ステップCの時間を1.5分間とし、サイロページ720の量を0.5部とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例5の脱酸素剤を得た。
(実施例6)
ステップCの時間を7分間とし、サイロページ720の量を5.0部とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例6の脱酸素剤を得た。
【0045】
(実施例7)
活性炭7.2部、水酸化カルシウム15.6部、セルロース1.2部、グリセリン10.5部、硫酸銅(II)3.1部、水4.2部を密封状態で均一に混合して、活性炭を担持体とする酸素吸収組成物の混合物を得た。この混合物をスクリーン孔径1.0mmφ、開孔率22.6%のスクリーンを設けた押出造粒機により造粒し、略円柱状のコア部41.8部を得た。コア部41.8部およびサイロページ720 2.1部を、酸素バリア性を有する袋に入れヒートシールし、袋を1分程度振って、無機微粒子により造粒物が柔らかく被覆された実施例7の脱酸素剤を得た。
【0046】
(比較例1)
ステップDを行わなかった点をのぞき、実施例1と同様の手順で比較例1の脱酸素剤を得た。すなわち、比較例1の脱酸素剤は、コア部のみで形成され、シェル部を有さない。
(比較例2)
シェル部の材料として、疎水性シリカ粒子であるアエロジルR812S(日本アエロジル社製)2.1部を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例3の脱酸素剤を得た。
【0047】
(比較例3)
サイロページ720による被覆を行わなかった点を除き、実施例7と同様の手順で比較例3の脱酸素剤を得た。すなわち、比較例3の脱酸素剤は、コア部のみで形成され、シェル部を有さない。
【0048】
各実施例および比較例の脱酸素剤について、以下の評価を行った。
(酸素吸収能力)
各例に係る脱酸素剤2.0gを通気性包材で形成された袋(縦60mm、横60mm)に収納し、各例に係る脱酸素剤包装体を作製した。通気性包材として、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン/紙/ポリエチレンの層構成を有する積層材料を用いた。
酸素バリア性を有する袋状の包装容器に、ショ糖44%水溶液10mLを浸した脱脂綿を入れた。さらに、各例に係る脱酸素剤包装体を包装容器内に投入し、概ね真空状態で密封した。その後、シリンジで空気500mlを包装容器内に注入した後再密封して、各例に係る食品包装体を得た。これにより、包装容器内の水分活性は0.95となった。水分活性とは、系内の水分に占める自由水の割合を示しており、水分活性0.95は、チーズ、ハム、ソーセージ等の高水分食品が収納された状態を模擬している。
各例の食品包装体を25℃の雰囲気下に放置した。24時間経過後に、ニードル式酸素濃度計を用いて内部の酸素濃度を測定した。
酸素濃度が低いことは、酸素吸収能力が高いことを意味する。一般的に求められるのは室温環境下で24時間以内に酸素濃度0.1%以下である。
【0049】
(平均粒子径)
ふるい分け試験方法通則(JIS Z 8815-1994)に基づき、2.8mm、2.0mm、1.0mm、および0.5mmのJIS試験用ふるい(奥谷金網製作所製、JIS Z 8801-1:2019)を用いて各例の脱酸素剤のふるい粒度を測定した。ふるい粒度を対数プロットし、各例のメジアン径(D50)を算出した。
【0050】
(流動性)
日本粉体工業技術協会規格「粉体の仕様表示方法に関するガイドライン(SAP 05-98:2013)」に基づき、高さ約140mmの架台、径3.3mmφのシュートから構成される流動性試験機(アズワン社製)を用いて測定した。各例の脱酸素剤約171mLをシュートに配置した。その後、シュート口を開いて脱酸素剤を自由落下させ、放射状に広がって山状となった脱酸素剤の安息角(山の斜面が水平面となす角度)および広がり距離(平面視において中心を通る最大寸法)を測定した。安息角が小さいほど、また広がり距離が大きいほど、脱酸素剤の流動性が良いことを示す。
【0051】
(ゆるみかさ密度)
日本粉体工業技術協会規格「造粒物のかさ密度測定方法(SAP 01-79)」に基づいて測定した。各例の脱酸素剤約200mLを10mmφの漏斗に設置した。その後、脱酸素剤を45mm落下させて容量100ccの比重瓶290/I(エリクセン社製)に投入した。比重瓶上部の脱酸素剤をすり切った後に比重瓶内の脱酸素剤の重量を計測することにより、各例の脱酸素剤のゆるみかさ密度を測定した。
【0052】
(脱酸素剤粒子の断面観察)
一般的な断面試料作製方法として、例えば、常温下でのイオンミリング、ミクロトームでのブロック切削法等が知られているが、これらの方法では、グリセリンや水等の液性成分が揮発する可能性が高い。このため、本発明に係る脱酸素剤の実際の形態を反映した試料が得られるとは言い難く、好ましくない。そこで、クライオ条件下のクロスセクションポリッシャにより各例の脱酸素剤の観察用試料を作製した。
断面像は電界放出型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kV、試料台温度 -80℃程度、倍率80倍程度~1000倍程度で取得した。コア部21の最大フェレ径、およびシェル部22の平均厚み(10点測定の平均値)を測定した。コア部の最大フェレ径とシェル部の平均厚みの比をコア/シェル長さ比とした。
図3に、実施例1に係る脱酸素剤の断面写真を示す。略球状のコア部21の周囲にシェル部22が比較的均一に形成されていることがわかる。
【0053】
(エネルギー分散型X線分析 EDX分析)
各例の脱酸素剤の断面に対して、加速電圧10kV、試料台温度 -80℃程度の条件よりEDX分析を行った。ZAF法による元素定量分析を行い、ある観察点におけるケイ素元素の原子数%濃度と、カルシウム元素の原子数%濃度の比を取り、Ca/Siとした。
表1に各例の構成概要を、表2に各例の評価結果を、それぞれ示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示されるように、各実施例の脱酸素剤は、比較例に対し、優れた酸素吸収性能を示し、食品包装体においてカビや菌等の繁殖等を好適に防ぐ目安である、「封止後24時間で酸素濃度0.1%未満」の条件をクリアした。
また、各実施例の脱酸素剤は、比較例に比して流動性が高く、包材への充填性に優れていた。
【0057】
シェル部を有さない比較例1および3は、それぞれ実施例1および7と同一組成のコア部を有するにもかかわらず、酸素吸収性能が著しく劣っていた。また表面に存在する液剤によりべたつきが生じ、流動性も良くなかった。
疎水性シリカ粒子を用いた比較例2では、ステップDを実行したものの、疎水性シリカ粒子がコア部の周囲に十分付着せず、シェル層が形成されなかった。その結果、比較例1と同様に酸素吸収性能が著しく劣り、流動性も不良であった。
【0058】
いずれの実施例においても、シェル部においてカルシウムが検出された。カルシウムはシェル部の材料に含まれていないため、コア部に含まれるアルカリ性化合物である水酸化カルシウムが脱酸素剤の製造過程において、液剤とともにシェル部に移動したことによるものであると推測される。表2には示していないが、シェル部の元素定量分析においては、グリセリン由来と思われる炭素や、硫酸銅(II)由来と思われる銅も検出されており、上記推測を裏付けている。
【0059】
各実施例においては、酸素吸収剤を含む液剤がシェル部に吸収され、酸素吸収性物質と環境下の酸素との接触効率が増加することで、酸素吸収能力が向上したと考えられる。すなわち、コア部に含まれるアルカリ性化合物がシェル部に含まれることは、コアシェル構造を有する脱酸素剤において、高い酸素吸収性能の一つの指標となると考えられる。
【0060】
シェル部22は、コア部21から移動してきた液剤を吸収して保持するが、各実施例の脱酸素剤の表面は比較的ドライな状態であった。これは、移動してきた液剤の量が、シェル部の吸収能力に比して十分少ない量であり、シェル部の表層に達した液剤が少なかったためと考えられた。これにより、各実施例の脱酸素剤ではべたつきが生じず、ハンドリングしやすい状態が保持されていた。さらに、粒子形態をとるため、流動性およびかさ密度も良好であった。これらの特徴は、脱酸素剤の通気性包材への充填の効率化ならびに通気性包材の小袋化に有効である。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【0062】
例えば、上記実施形態では、攪拌造粒等によってコア部に含まれるアルカリ性化合物をシェル部に移動させることにより、コア部とシェル部とが同一のアルカリ性化合物を含む例を説明したが、これに代えて、シェル部を形成するための材料にコア部と同一のアルカリ性化合物をあらかじめ含有させて脱酸素剤を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、食品等の保存性を向上させる脱酸素剤包装体及び食品包装体に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 脱酸素剤包装体
10 包材
20 脱酸素剤
21 コア部
22 シェル部
図1
図2
図3